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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】ファン装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/38 20060101AFI20250415BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
F04D29/38 A
F04D29/38 D
F04D29/66 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021106503
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2022085825
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020196736
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】馬場 知美
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 卓也
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1669610(EP,A1)
【文献】特開2017-110555(JP,A)
【文献】特開2001-73995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/38
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を送り出すファン装置(10)であって、
複数のブレード(200)を有するファン(20)と、
前記ファンを回転させるモータ(30)と、
前記モータを支持するための複数のステー(43)と、を備え、
前記ステーは、空気の送り出される方向に沿って前記ファンよりも上流側となる位置に配置されており、
前記ファンをその回転中心軸(AX)に沿って見た場合において、
前記ブレードのうち、前記ファンの回転方向に沿った前方側もしくは後方側のいずれか一方の縁を形状特定縁(210)とし、
前記形状特定縁の上の各位置について、当該位置に対応する点と前記回転中心軸とを結ぶ直線の傾斜角度を、当該位置についてのスキュー角度としたときに、
前記形状特定縁のうち、最も内周側にある第1領域、及び最も外周側にある第3領域のそれぞれにおいては、前記形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、前記形状特定縁の上の各位置における前記スキュー角度が、前記回転方向とは逆側へと次第に変化して行き、
前記形状特定縁のうち、前記第1領域と前記第3領域の間にある第2領域においては、前記形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、前記形状特定縁の上の各位置における前記スキュー角度が、前記回転方向側へと次第に変化して行くように、それぞれの前記ブレードが形成されており、
前記形状特定縁の上の各位置について、前記形状特定縁のうち前記回転中心軸側の端部から当該位置までの径方向に沿った距離を、前記形状特定縁の一端から他端までの径方向に沿った距離、で除して得られる値のことを、当該位置についてのスパン値としたときに、
前記第1領域と前記第2領域との境界となる位置の前記スパン値が、0.1から0.4の範囲内であり、且つ、
前記第2領域と前記第3領域との境界となる位置の前記スパン値が、0.4から0.6の範囲内であるファン装置。
【請求項2】
空気を送り出すファン装置(10)であって、
複数のブレード(200)を有するファン(20)と、
前記ファンを回転させるモータ(30)と、
前記モータを支持するための複数のステー(43)と、を備え、
前記ステーは、空気の送り出される方向に沿って前記ファンよりも上流側となる位置に配置されており、
前記ファンをその回転中心軸(AX)に沿って見た場合において、
前記ブレードのうち、前記ファンの回転方向に沿った前方側もしくは後方側のいずれか一方の縁を形状特定縁(210)とし、
前記形状特定縁の上の各位置について、当該位置に対応する点と前記回転中心軸とを結ぶ直線の傾斜角度を、当該位置についてのスキュー角度としたときに、
前記形状特定縁のうち、最も内周側にある第1領域、及び最も外周側にある第3領域のそれぞれにおいては、前記形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、前記形状特定縁の上の各位置における前記スキュー角度が、前記回転方向とは逆側へと次第に変化して行き、
前記形状特定縁のうち、前記第1領域と前記第3領域の間にある第2領域においては、前記形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、前記形状特定縁の上の各位置における前記スキュー角度が、前記回転方向側へと次第に変化して行くように、それぞれの前記ブレードが形成されており、
前記回転中心軸に沿って見た場合において、
前記回転中心軸と、前記形状特定縁のうち前記回転中心軸側の端部と、を結ぶ直線を、前記スキュー角度が0度となる基準線としたときに、
前記第1領域と前記第2領域との境界となる位置の前記スキュー角度が、4度から12度の範囲内であり、且つ、
前記第2領域と前記第3領域との境界となる位置の前記スキュー角度が、2度から7度の範囲内であるファン装置。
【請求項3】
前記形状特定縁のうち、前記回転中心軸から遠い方の端部となる位置の前記スキュー角度が、16度から20度の範囲内である、請求項に記載のファン装置。
【請求項4】
それぞれの前記ブレードの先端を繋ぐように形成されたリング部(22)を更に備える、請求項1乃至のいずれか1項に記載のファン装置。
【請求項5】
前記ブレードのうち、前記回転方向に沿って前記形状特定縁とは反対側にある縁(220)には、複数の凹凸からなるセレーション(221)が形成されている、請求項1乃至のいずれか1項に記載のファン装置。
【請求項6】
前記ブレードの周方向に沿った幅が、外周側に行く程大きくなっている、請求項1乃至のいずれか1項に記載のファン装置。
【請求項7】
前記ブレードのうち、前記セレーションが形成されていない部分においては、前記ブレードの周方向に沿った幅が、外周側に行く程大きくなっている、請求項に記載のファン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気を送り出すファン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両には、ラジエータ等の熱交換器を通るように空気を送り出すためのファン装置が設けられる。下記特許文献1に示されるように、ファン装置は、複数のブレードを有するファンと、ファンを回転させるためのモータとを備えている。
【0003】
ブレードの形状としては、これまでに様々なものが提案されている。ブレードは、大きくは後退翼と前進翼のいずれかに分類することができる。「後退翼」とは、内周側から外周側に行くに従って、ブレードがその回転方向とは逆側に傾斜して伸びるような形状を有するブレードである。下記特許文献1には、このような後退翼のブレードを有するファン装置の一例が記載されている。
【0004】
「前進翼」とは、内周側から外周側に行くに従って、ブレードがその回転方向側に傾斜して伸びるような形状を有するブレードである。下記特許文献2には、このような前進翼のブレードを有するファン装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-180362号公報
【文献】特許第3978083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブレードを後退翼とした場合には、ファン装置から送り出される風量を十分に確保することができる一方で、一般的に、前進翼とした場合に比べて、ファン装置の動作に伴う騒音が生じやすくなる傾向があることが知られている。また、ブレードを前進翼とした場合には、一般的に、後退翼とした場合に比べて、ファン装置の動作に伴う騒音を抑えることができる一方で、ファン装置から送り出される風量が小さくなってしまう傾向があることが知られている。
【0007】
本開示は、風量を確保しながらも、騒音の発生を抑制することのできるファン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るファン装置は、空気を送り出すファン装置(10)であって、複数のブレード(200)を有するファン(20)と、ファンを回転させるモータ(30)と、を備える。ファンをその回転中心軸(AX)に沿って見た場合において、ブレードのうち、ファンの回転方向に沿った前方側もしくは後方側のいずれか一方の縁を形状特定縁(210)とし、形状特定縁の上の各位置について、当該位置に対応する点と回転中心軸とを結ぶ直線の傾斜角度を、当該位置についてのスキュー角度としたときに、形状特定縁のうち、最も内周側にある第1領域、及び最も外周側にある第3領域のそれぞれにおいては、形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、形状特定縁の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向とは逆側へと次第に変化して行き、形状特定縁のうち、第1領域と第3領域の間にある第2領域においては、形状特定縁に沿って内周側から外周側へ行くに従って、形状特定縁の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向側へと次第に変化して行くように、それぞれのブレードが形成されている。
【0009】
このような構成のファン装置のブレードは、内周側の第1領域、及び、外周側の第3領域のそれぞれにおいて、スキュー角度が、外周側に行くに従って回転方向とは逆側へと次第に変化して行くような形状となっている。このようなブレードの形状は、全体では後退翼といえるものである。従って、上記ファン装置では、送り出される風量を十分に確保することができる。
【0010】
上記ファン装置のブレードのうち、第1領域と第3領域の間にある第2領域においては、スキュー角度が、外周側に行くに従って回転方向側へと次第に変化して行くような形状となっている。この第2領域は、従来のような前進翼としての特性を有している部分、ということができる。このため、第2領域の近傍では、従来の前進翼と同様に、ブレードの表面に沿って外周側へと送り出されるような空気の流れが抑制される一方で、ファンの回転中心軸に沿って送り出されるような空気の流れが増加する。その結果、騒音の原因となる空気流の乱れが低減されるので、従来に比べて騒音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、風量を確保しながらも、騒音の発生を抑制することのできるファン装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係るファン装置、及びこれが搭載された車両の構成を模式的に示す図である。
図2図2は、ファン装置が備えるファンの構成を示す図である。
図3図3は、ファン装置が備えるシュラウド部材を示す図である。
図4図4は、ファンに設けられたブレードの具体的な形状について説明するための図である。
図5図5は、ファンに設けられたブレードの具体的な形状について説明するための図である。
図6図6は、比較例に係るファン装置の近傍における空気の流れを示す図である。
図7図7は、本実施形態に係るファン装置の近傍における空気の流れを示す図である。
図8図8は、比較例に係るファンの構成を示す図である。
図9図9は、ブレードの形状と性能指標との関係を示す図である。
図10図10は、ブレードの形状と騒音指標との関係を示す図である。
図11図11は、各位置におけるブレードの幅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
本実施形態に係るファン装置10は、図1に示されるように車両MVに搭載される装置であって、熱交換器HTを通るように空気を送り出すための装置として構成されている。
【0015】
先ず車両MVの構成について説明する。車両MVは、ファン装置10の他に、エンジンEGと、熱交換器HTと、を備えている。エンジンEGは、車両MVの駆動力を生じさせるための内燃機関である。ファン装置10及び熱交換器HTは、車両MVの内部空間のうち、エンジンEGよりも前方側となる位置に配置されている。
【0016】
熱交換器HTは、エンジンEGとの間で循環する冷却水を、空気との熱交換によって冷却するための熱交換器、すなわちラジエータである。熱交換器HTにおける熱交換に供される空気は、車両MVの前方側に設けられたフロントグリルFGから、車両MVの内側へと導入された空気である。図1では、フロントグリルFGから熱交換器HTへと向かう空気の流れが矢印で示されている。
【0017】
尚、熱交換器HTは、上記とは異なる熱交換器であってもよい。例えば、熱交換器HTは、車両用空調装置の一部をなすコンデンサ等であってもよい。また、熱交換器HTが、複数の熱交換器を組み合わせたものであってもよい。
【0018】
本実施形態に係るファン装置10は、空気の流れる方向に沿って熱交換器HTよりも下流側となる位置であり、且つエンジンEGよりも上流側となる位置に配置されている。ファン装置10は、車両MVの前方側から後方側に向かって空気を送り出すことにより、熱交換器HTを通る空気の流れを作り出すものである。
【0019】
図1乃至図3を参照しながら、ファン装置10の構成について説明する。ファン装置10は、ファン20と、モータ30と、シュラウド部材40と、を備えている。
【0020】
ファン20は、回転することによって空気の流れを作り出すための部材である。図2には、ファン20を、空気の送り出される方向に沿って下流側(つまり、車両MVの後方側)から見た状態が示されている。ファン20の回転方向は、図2においては矢印AR1で示されるような反時計回り方向である。図2に示されるように、ファン20は、ハブ21と、ブレード200と、リング部22と、を有している。
【0021】
ハブ21は、概ね円筒形状に形成された部材である。ハブ21は、その中心軸を車両MVの前後方向に沿わせた状態で配置されている。当該中心軸は、ファン20の回転中心軸AXとなっている。
【0022】
ブレード200は、空気を送り出すための翼として機能する部分である。ブレード200は、ファン20において複数枚設けられている。それぞれのブレード200は、その根元がハブ21の側面に接続されており、ファン20の回転方向に沿って等間隔又は不等間隔で並ぶように形成されている。それぞれのブレード200は、ハブ21の側面から外周側に向かって伸びている。それぞれのブレード200の形状は互いに同一である。ブレード200の具体的な形状については後に説明する。
【0023】
リング部22は、それぞれのブレード200の先端(つまり外周側の端部)を繋ぐように設けられた円環状の部材である。それぞれのブレード200は、ハブ21からリング部22まで伸びるように形成されている。このようなリング部22が設けられることにより、ファン20の全体の剛性が高められている。
【0024】
モータ30は、ファン20を回転中心軸AXの周りに回転させるための回転電機である。図1に示されるように、モータ30は、ファン20に対して車両MVの前方側から接続されており、後述のステー43によって支持されている。
【0025】
シュラウド部材40は、熱交換器HTとファン20との間における空気の流れを案内し、且つ、モータ30を支持するために設けられた部材である。図3には、シュラウド部材40を、空気の送り出される方向に沿って、車両MVの前方側から見た状態が示されている。シュラウド部材40は、導風板41と、ステー43と、を有している。
【0026】
導風板41は、ファン20を覆うように設けられた板状の部材である。導風板41は、空気の送り出される方向に沿って見た場合の外形が、概ね長方形となるように形成されている。ファン装置10は、導風板41の長辺を車両MVの左右方向に沿わせ、導風板41の短辺を上下方向に沿わせた状態で、車両MVに搭載されている。
【0027】
導風板41には、空気を通すための円形の開口42が形成されている。空気の送り出される方向に沿って見た場合には、開口42は、ファン20と重なる位置に形成されている。このとき、開口42の中心は、ファン20の回転中心軸AXと一致している。尚、開口42の直径は、ファン20が有するリング部22の直径と概ね同一となっているのであるが、それぞれの直径が互いに異なっている構成としてもよい。
【0028】
空気の送り出される方向に沿って見た場合には、導風板41の外形は、前方側にある熱交換器HTの外形と概ね一致している。導風板41には、突出壁45が形成されている。突出壁45は、導風板41の外周側端部から、前方側の熱交換器HTに向かって突出するように設けられた環状の壁である。ファン装置10は、突出壁45の先端を、全周に亘って熱交換器HTに当接させた状態で設置されている。このため、導風板41と熱交換器HTとの間の空間は、突出壁45によって外部から仕切られた状態となっている。
【0029】
ステー43は、開口42の縁から、内側にあるモータ保持部44に向かって伸びるように形成された棒状の部材である。ステー43は複数設けられており、これらが開口42の縁に沿って並ぶように配置されている。モータ保持部44は、その内側においてモータ30を収容し保持するための部分である。モータ保持部44は、概ね円筒状の容器となっており、図3における紙面奥側の部分が開放されている。モータ30は、このように開放された部分から、モータ保持部44の内側に挿入され保持されている。それぞれのステー43の端部はモータ保持部44の側面に繋がっている。
【0030】
このように、モータ30は、モータ保持部44の内側に保持された状態で、それぞれのステー43によって支持されている。図1に示されるように、ステー43は、空気の送り出される方向に沿って、ファン20よりも上流側となる位置に配置されている。
【0031】
ファン20が備えるブレード200の具体的な形状について、図4を参照しながら説明する。図4は、図3に示されるファン20の一部を拡大して示す図である。
【0032】
図4のように、ファン20を回転中心軸AXに沿って見た場合において、ブレード200のうち、ファン20の回転方向に沿って後方側となる縁(つまり、回転方向とは逆側の縁)のことを、以下では「縁210」とも称する。また、ブレード200のうち、ファン20の回転方向に沿って前方側となる縁(つまり、回転方向側の縁)のことを、以下では「縁220」とも称する。
【0033】
以下においては、ブレード200が有する一対の縁210、220のうち、縁210の形状について詳細に説明し、これによりブレード200の具体的な形状を特定して行くこととする。縁210は、本実施形態における「形状特定縁」に該当する。
【0034】
図4に示される点P0は、形状特定縁である縁210のうち、最も内周側となる位置(つまり、回転中心軸AX側の端部)を示す点である。また、同図に示される点P10は、形状特定縁である縁210のうち、最も外周側となる位置を示す点である。縁210は、点P0からP10までの範囲において曲線状に伸びている。
【0035】
説明の便宜上、図4において回転中心軸AXと点P0とを結ぶ直線のことを、以下では「基準線L0」とも称する。また、形状特定縁である縁210の上の各位置について、当該位置に対応する点と回転中心軸AXとを結ぶ直線の、基準線L0に対する傾斜角度のことを、当該位置についての「スキュー角度」と定義する。基準線L0は、スキュー角度が0度となる線、ということもできる。
【0036】
例えば図4では、縁210の上の点P1と、回転中心軸AXとを結ぶ直線が、線L1として示されている。基準線L0に対する線L1の傾斜角度であるθ1が、点P1の位置についてのスキュー角度ということになる。同様に、図4では、縁210の上の点P2と、回転中心軸AXとを結ぶ直線が、線L2として示されている。基準線L0に対する線L2の傾斜角度であるθ2が、点P2の位置についてのスキュー角度ということになる。
【0037】
本実施形態では、スキュー角度を、基準線L0に対する線L1等の傾斜角度として定義している。しかしながら、スキュー角度の基準となるのは、上記のような基準線L0とは異なる線としてもよい。例えば、縁210の上の位置に対応する点と回転中心軸AXとを結ぶ直線の、水平面に対する傾斜角度のことを、スキュー角度と定義してもよい。どのような線を基準としてスキュー角度を定義した場合であっても、以下に説明する縁210の形状は同様に表現されることとなる。
【0038】
スキュー角度は、図4に示される点P1や点P2の位置に限らず、形状特定縁である縁210の上の各位置について得ることができる。図5は、各位置におけるスキュー角度の分布をグラフとして描いたものである。当該グラフの横軸に示される「x」は、縁210の上の各位置を示す座標である。具体的には、ハブ21の側面から縁210上の各位置までの距離(径方向に沿った直線距離)が、当該各位置の座標xとして表されている。図5におけるx=0の位置は、図4の点P0に対応する位置である。図5におけるx=x3の位置は、図4の点P10に対応する位置である。
【0039】
図5の縦軸では、縁210の上の各位置に対応するスキュー角度が、基準線L0に対して回転方向とは逆側に向かって傾斜するような方向が正とされている。スキュー角度の方向をこのように定義した場合には、例えば、図4のθ1及びθ2はいずれも正値となる。
【0040】
図5に示されるように、形状特定縁である縁210のうち、x座標が0からx1までの範囲においては、縁210に沿って内周側から外周側へ行くに従って、縁210の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向とは逆側へと次第に変化して行く。当該範囲は、縁210のうち最も内周側にある領域であり、本実施形態における「第1領域」に該当する。
【0041】
また、形状特定縁である縁210のうち、x座標がx2からx3までの範囲においても上記と同様に、縁210に沿って内周側から外周側へ行くに従って、縁210の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向とは逆側へと次第に変化して行く。当該範囲は、縁210のうち最も外周側にある領域であり、本実施形態における「第3領域」に該当する。
【0042】
形状特定縁である縁210のうち、x座標がx1からx2までの範囲においては、縁210に沿って内周側から外周側へ行くに従って、縁210の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向側へと次第に変化して行く。当該範囲は、縁210のうち第1領域と第3領域との間にある領域であり、本実施形態における「第2領域」に該当する。
【0043】
このように、形状特定縁である縁210のうち、最も内周側にある第1領域、及び最も外周側にある第3領域のそれぞれにおいては、縁210に沿って内周側から外周側へ行くに従って、縁210の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向とは逆側へと次第に変化して行くように、それぞれのブレード200が形成されている。また、縁210のうち、第1領域と第3領域の間にある第2領域においては、縁210に沿って内周側から外周側へ行くに従って、縁210の上の各位置におけるスキュー角度が、回転方向側へと次第に変化して行くように、それぞれのブレード200が形成されている。
【0044】
このようなブレード200の形状は、第1領域及び第3領域においては後退翼としての特性を有しており、その間の第2領域においては前進翼としての特性を有している形状、とも表現することができる。尚、図5の例においては、x座標がx2となる部分の近傍において、スキュー角度が負値となっている。つまり、形状特定縁である縁210の一部が、図4の基準線L0を超えて回転方向側へと入り込んでいる。このような態様に替えて、形状特定縁である縁210の全体が、基準線L0よりも回転方向とは反対側に収まっているような形状としてもよい。
【0045】
ブレード200をこのような形状としたことの利点について説明する。図6には、比較例に係るファン装置10Aの、動作中における空気の流れが模式的に表されている。この比較例では、ファン20Aに設けられたブレード200Aの形状においてのみ本実施形態と異なっている。図8には、ファン20Aの形状が、図2と同様の視点で描かれている。図8に示されるように、ブレード200Aのうち回転方向に沿って後方側となる縁210A、及び回転方向に沿って前方側となる縁220Aは、いずれも、内周側から外周側に行くに従って、回転方向とは逆側に傾斜して伸びている。つまり、この比較例では、それぞれのブレード200Aが従来と同様の後退翼として形成されている。換言すれば、この比較例のブレード200Aには、本実施形態における第2領域に対応する部分が設けられていない。
【0046】
図6に示される面S1及び面S2は、いずれも、ファン装置10Aの近傍における空気の流れを図示するための仮想的な平面である。面S1及び面S2は、いずれも回転中心軸AXを含む平面となっており、回転中心軸AXにおいて互いに垂直に交差している。図6の矢印AR21及び矢印AR22は、面S1及び面S2における空気の流れを模式的に表している。
【0047】
図6に示される矢印AR10は、回転するブレード200Aから、回転中心軸AXに沿う方向に送り出される空気の流れを表している。当該流れのことを、以下では「主流」とも称する。よく知られているように、ブレード200Aが後退翼として形成されている場合には、矢印AR10で示されるような主流の流量が大きくなるので、ファン装置10Aから送り出される風量を十分に確保することができる。
【0048】
図6に示される矢印AR11は、ブレード200Aの表面に沿って外周側へと送り出されるような空気の流れを表している。当該流れのことを、以下では「斜流」とも称する。ブレード200Aが後退翼として形成されている場合には、矢印AR11で示されるような斜流の流量も大きくなる。
【0049】
回転しているブレード200Aの近傍においては、矢印AR21で示されるように、回転中心軸AXに沿ってハブ21に向かうような空気の逆流が生じる。このような状況の下で、矢印AR11で示されるような上記の斜流が生じると、矢印AR22で示されるような渦が生じたり、一部における空気の滞留が生じたりすることにより、空気の流れに乱れが生じやすくなる。その結果として、後退翼として形成されたブレード200Aからは、ファン装置10Aの動作に伴って比較的大きな騒音が生じてしまう傾向がある。
【0050】
この比較例のように、従来と同様の後退翼としてブレード200Aを形成した場合には、風量を十分に確保することができる一方で、騒音が大きくなるという問題が生じやすくなる。そこで、本実施形態に係るファン装置10では、このような騒音を低減するために、ブレード200の形状を、先に述べた第1領域、第2領域、及び第3領域を有する形状としている。
【0051】
図7には、本実施形態に係るファン装置10の動作中における空気の流れが、図6と同様の方法により模式的に表されている。
【0052】
先に述べたように、ファン装置10が有するブレード200の形状は、内周側の第1領域、及び、外周側の第3領域においては、いずれも後退翼としての特性を有している。このため、ブレード200は、全体としては概ね後退翼といえるものである。従って、ファン装置10の動作中においては、図7の矢印AR10で示されるように、比較例の場合と同程度に主流が大きくなる。このため、本実施形態でも、ファン装置10から送り出される風量を十分に確保することができる。
【0053】
図7において点線DL1で囲まれている部分は、ブレード200のうち、第2領域に対応する部分である。先に述べたように、当該部分の形状は、前進翼としての特性を有している形状となっている。このため、当該部分では、図6の矢印AR11で示されるような斜流が生じにくくなっており、図7の矢印AR12で示されるような主流が生じやすくなっている。
【0054】
図7の例においても、矢印AR31で示されるように、回転中心軸AXに沿ってハブ21に向かうような空気の逆流が生じる。しかしながら、本実施形態では、第2領域を設けることによって斜流が抑制されているので、斜流に起因した渦や空気の滞留が生じにくい。矢印AR31で示されるように逆流する空気は、矢印AR12で示される主流と合流しながら、矢印AR32で示されるようにスムーズにその流れ方向を変化させる。その結果、本実施形態に係るファン装置10では、従来における前進翼の場合と同様に風量を確保しながらも、騒音の発生を抑制することが可能となっている。
【0055】
尚、図6を参照しながら説明したような、斜流に起因した渦や空気の滞留は、本実施形態のように、ステー43がファン20よりも上流側となる位置に配置された構成において特に生じやすい。従って、ステー43が、空気の送り出される方向に沿ってファン20よりも上流側となる位置に配置されている構成のファン装置10においては、本実施形態のようなブレード200の形状を採用することの効果が特に大きくなる。ただし、ステー43が、空気の送り出される方向に沿ってファン20よりも下流側となる位置に配置されている構成のファン装置においても、本実施形態のようなブレード200の形状を採用し得ることは言うまでもない。
【0056】
本実施形態では、ブレード200が有する一対の縁210、220のうち、回転方向に沿った後方側の縁210を形状特定縁としており、当該形状特定縁の形状を、第1領域、第2領域、及び第3領域を有する形状としている。
【0057】
ブレード200のうち、回転方向に沿って形状特定縁とは反対側にある縁220の形状は、図4等に示されるように、縁210と概ね同様の形状となっている。ただし、縁220のうち外周側の端部近傍となる部分には、複数の凹凸からなるセレーション221が形成されている。これにより、ファン20の回転中における騒音が更に抑制されている。仮に、縁220にセレーション221が形成されていない場合には、縁220の形状も、縁210と同様に第1領域、第2領域、及び第3領域を有する形状となる。このように、縁210及び縁220の両方が形状特定縁となるような、ブレード200の形状としてもよい。
【0058】
セレーションが、縁220ではなく縁210に形成されている構成としてもよい。この場合、縁220が、第1領域、第2領域、及び第3領域を有する形状特定縁ということになる。このように、形状特定縁は、回転方向に沿った後方側の縁210、及び、前方側の縁220のうち、少なくともいずれか一方の縁であればよい。
【0059】
ブレード200の更なる具体的な形状について説明する。説明の便宜上、以下では、回転中心軸AXに沿って見た場合における形状特定縁の上の各位置について、形状特定縁のうち回転中心軸AX側の端部から当該位置までの径方向に沿った距離を、形状特定縁の一端から他端までの径方向に沿った距離、で除して得られる値のことを、当該位置についての「スパン値」と定義する。
【0060】
上記における「形状特定縁のうち回転中心軸AX側の端部」とは、図4の例では、点P0のことである。「形状特定縁の一端から他端までの径方向に沿った距離」とは、図4の例では、点P0から点P10までの径方向に沿った距離のことである。つまり、回転中心軸AXから点P10までの距離から、回転中心軸AXから点P0までの距離を差し引いた距離である。
【0061】
上記のスパン値は、ハブ21の側面から縁210の上の各位置までの径方向に沿った距離を、0から1までの範囲の値となるように無次元化して表した座標、ということもできる。図4の例では、点P0のスパン値は0であり、点P10のスパン値は1である。
【0062】
本発明者らは、第1領域と第2領域との境界となる位置(図5のx1)のスパン値、第2領域と第3領域との境界となる位置(図5のx2)のスパン値、及び、各位置におけるスキュー角、のそれぞれを個別に変化させながら、様々な形状のブレード200についてその性能の検証を行った。その結果、ファン装置10の騒音を従来よりも抑制し、且つ、ファン装置10の風量を従来よりも多く確保するためには、各パラメータを以下の範囲に抑えることが望ましい、という知見を得ている。尚、以下の説明における「スキュー角度」の数値は、スキュー角度を、図4の基準線L0に対する角度とした場合における数値である。
【0063】
(1)第1領域と第2領域との境界となる位置(図5のx1)のスパン値:0.1から0.4の範囲内。
(2)第2領域と第3領域との境界となる位置(図5のx2)のスパン値:0.4から0.6の範囲内。
(3)第1領域と第2領域との境界となる位置(図5のx1)のスキュー角:4度から12度の範囲内。
(4)第2領域と第3領域との境界となる位置(図5のx2)のスキュー角:2度から7度の範囲内。
(5)形状特定縁のうち、回転中心軸AXから遠い方の端部となる位置(図5のx3)のスキュー角度:16度から20度の範囲内。
【0064】
以下においては、「第1領域と第2領域との境界となる位置(図5のx1)」のことを「位置X1」とも表記し、「第2領域と第3領域との境界となる位置(図5のx2)」のことを「位置X2」とも表記し、「形状特定縁のうち、回転中心軸AXから遠い方の端部となる位置(図5のx3)」のことを「位置X3」とも表記する。
【0065】
図9には、位置X2のスパン値(横軸)と、ファン装置10の性能指標(縦軸)との関係が示されている。「性能指標」とは、ファン装置10から送り出される風量を示す指標であって、風量が大きいほど性能指標も大きくなる。
【0066】
図9の線L1は、位置X1におけるスキュー角度が4度である場合の性能指標を示している。図9の線L2は、位置X1におけるスキュー角度が12度である場合の性能指標を示している。図9に示されるように、位置X1におけるスキュー角度が大きくなる程、ファン装置10の性能指標は大きくなっている。
【0067】
図9の「Th1」は、図8の比較例のような従来品における性能指標を表している。位置X1におけるスキュー角度が4度である場合(線L1)であっても、位置X2のスパン値が0.4から0.6の範囲であれば、従来よりも性能指標が向上することがわかる。このため、上記の(2)に示されるように、位置X2のスパン値は0.4から0.6の範囲内であることが好ましく、且つ、上記の(3)に示されるように、位置X1のスキュー角度は4度以上とすることが好ましい。
【0068】
図10には、位置X1におけるスキュー角度(横軸)と、ファン装置10の騒音指標(縦軸)との関係が示されている。「騒音指標」とは、ファン装置10の静音性能を示す指標であって、ファン装置10の動作中における音が小さいほど騒音指標は大きくなる。
【0069】
図10の線L3は、位置X1のスパン値が0.4である場合の騒音指標を示している。図10の線L4は、位置X1のスパン値が0.1である場合の騒音指標を示している。図10に示されるように、位置X1のスパン値が小さくなる程、ファン装置10の騒音指標は大きくなっている。
【0070】
図10の「Th2」は、図8の比較例のような従来品における騒音指標を表している。位置X1のスパン値が0.4である場合(線L3)であっても、位置X1におけるスキュー角度が12度以下の範囲であれば、従来よりも騒音指標が向上することがわかる。このため、上記の(1)に示されるように、位置X1のスパン値は0.4以下とすることが好ましく、且つ、上記の(3)に示されるように、位置X1のスキュー角度は12度以下とすることが好ましい。
【0071】
以上においては、上記の(1)乃至(5)で示される各パラメータの数値範囲のうち、一部の値についてのみその根拠を説明している。尚、上記各パラメータは複雑に絡み合っており、一部のパラメータの数値が、他のパラメータの適正範囲に影響を及ぼす。例えば図9の例において、位置X1におけるスキュー角度が4度よりも小さい場合には、性能指標を示すグラフは線L1よりも下方側となるので、位置X2のスパン値の適正範囲は、上記の(2)で示される範囲よりも狭くなってしまう。
【0072】
上記の(1)乃至(5)で示される各パラメータの根拠を全て示そうとすると、本発明者らが行った全通りの形状の組み合わせによるデータの全てを列挙する必要があり現実的ではないため、上記で説明された以外のパラメータについてはデータの提示を割愛する。いずれにしても、本発明者らは、上記の(1)乃至(5)で示される数値範囲に収まっているのであれば、各パラメータの値をどのように選択したとしても、性能指標及び騒音指標の両方が従来以上となることを確認している。
【0073】
尚、位置X1のスパン値及び位置X2のスパン値のうち、一方を0.4とした場合には、他方を0.4とは異なる値とすることで、第2領域を確保しておくことが好ましい。
【0074】
図11には、形状特定縁である縁210の各位置(横軸)と、当該位置におけるブレード200の周方向に沿った幅(縦軸)との関係が示されている。ただし、図11に示されるのは、縁210にセレーション221が形成されていない場合におけるブレード200の形状である。
【0075】
図11に示されるブレード200の形状においては、上記位置のスパン値が大きくなるに従って、ブレード200の周方向に沿った幅も大きくなっている。つまり、ブレード200の周方向に沿った幅が、外周側に行く程大きくなっている。このような構成とすることで、ファン装置10の性能指標を更に向上させることができる。
【0076】
本実施形態のように、ブレード200にセレーション221が形成されている構成においては、セレーション221が形成されている部分を除く範囲(セレーション221よりも内周側の範囲)において、ブレード200の周方向に沿った幅が、外周側に行く程大きくなっている構成とすればよい。
【0077】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:ファン装置
20:ファン
200:ブレード
210,220:縁
30:モータ
AX:回転中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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図11