(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/29 20060101AFI20250415BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H01B7/29
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2021107915
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 達也
(72)【発明者】
【氏名】四野宮 篤子
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 丈
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065809(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027651(WO,A1)
【文献】特開平03-280306(JP,A)
【文献】特開2015-089925(JP,A)
【文献】特開2020-161398(JP,A)
【文献】特開平06-076643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/29
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外表面を覆う絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は樹脂成分と、滑剤としてステアリン酸とを含有し、
前記樹脂成分はポリエチレンを主成分として含み、
前記樹脂成分は、融解温度が110℃以下であり、融解熱量が80J/g以下である絶縁電線。
【請求項2】
ISO6452に準拠して、ガラス板により蓋をした容器内に配置し、100℃で16時間加熱した後、大気雰囲気に1時間放置した場合の、前記ガラス板のヘイズ値が15%以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記樹脂成分は、メルトマスフローレートが1.0g/10minより大きい請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
自動車用ヘッドライトの配線に用いられる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)90~100質量部に対し、臭素系難燃剤(B)15~30質量部と、三酸化アンチモン(C)5~15質量部と、ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)6~12質量部と、フェノール系老化防止剤(E)2~4質量部と、チオエーテル系老化防止剤(F)2~4質量部と、銅害防止剤(G)0.5~2質量部と、架橋助剤(H)3~6質量部とを含有する、樹脂組成物を架橋させた、樹脂被覆材からなる層を有する、自動車用ワイヤーハーネスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁電線は、導体と、導体の外表面を被覆する絶縁層とを備える。
【0005】
絶縁電線は、例えば特許文献1に開示された自動車用ワイヤーハーネスのように、自動車等にも用いられている。しかし、絶縁電線を例えば自動車のライト用の配線に用い、該ライトにより絶縁電線が長時間加熱された場合に、周囲に配置されたライトの透光部材に曇りが生じる場合があった。
【0006】
そこで、本開示は、加熱された場合でも周囲の透光部材への曇りの発生を抑制できる絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の絶縁電線は、導体と、
前記導体の外表面を覆う絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は樹脂成分と、滑剤としてステアリン酸とを含有し、
前記樹脂成分はポリエチレンを主成分として含み、
前記樹脂成分は、融解温度が110℃以下であり、融解熱量が80J/g以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、加熱された場合でも周囲の透光部材への曇りの発生を抑制できる絶縁電線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る絶縁電線の長手方向と垂直な面での断面図である。
【
図2A】
図2Aは、樹脂成分の結晶性と、添加剤との関係の説明図である。
【
図2B】
図2Bは、樹脂成分の結晶性と、添加剤との関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る絶縁電線は、導体と、
前記導体の外表面を覆う絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は樹脂成分と、滑剤としてステアリン酸とを含有し、
前記樹脂成分はポリエチレンを主成分として含み、
前記樹脂成分は、融解温度が110℃以下であり、融解熱量が80J/g以下である。
【0013】
樹脂成分がポリエチレンを主成分として含み、樹脂成分の融解温度が110℃以下の場合、該樹脂成分の結晶性が十分に低く、該樹脂成分の側鎖に十分な量の枝分かれ構造を含むことができる。このため、絶縁電線が加熱され、高温に晒された場合でも、添加剤が絶縁層の外部に放出されることを防止し、ガスの発生や、発生したガスにより周囲に配置されたライト等の透光部材に曇りが生じることを防止できる。
【0014】
樹脂成分がポリエチレンを主成分として含み、樹脂成分の融解熱量が80J/g以下の場合、該樹脂成分の結晶性が十分に低く、該樹脂成分の側鎖に十分な量の枝分かれ構造を含むことができる。このため、絶縁電線が加熱され、高温に晒された場合でも、添加剤が絶縁層の外部に放出されることを防止し、ガスの発生や、発生したガスにより周囲に配置されたライト等の透光部材に曇りが生じることを防止できる。
【0015】
また、絶縁層が、滑剤としてステアリン酸を含有する場合、絶縁電線を加熱した際のガスの発生や、発生したガスによる周囲に配置された透光部材の曇りが特に生じ易くなっていた。これに対して、本開示の一態様に係る絶縁電線によれば、加熱された場合でも係るガスの発生や、周囲に配置された透光部材への曇りの発生を抑制できる。このため、絶縁層が滑剤としてステアリン酸を含有する場合に、周囲の透光部材への曇りの発生の抑制について特に高い効果を発揮できる。
【0016】
(2)ISO6452に準拠して、ガラス板により蓋をした容器内に配置し、100℃で16時間加熱した後、大気雰囲気に1時間放置した場合の、前記ガラス板のヘイズ値が15%以下であってもよい。
【0017】
上記試験を実施した場合に、ガラス板のヘイズ値が15%以下であると、該絶縁電線は、長時間加熱された場合でもガスの発生を抑制し、周囲に配置された透光部材に曇りが生じることを特に抑制できているものといえる。
【0018】
(3)前記樹脂成分は、メルトマスフローレートが1.0g/10minより大きくてもよい。
【0019】
樹脂成分のメルトマスフローレートが1.0g/10minより大きいことで、絶縁電線を形成する際の樹脂成分の流動性が高くなり、絶縁電線を形成する際の加工性を高められる。
【0020】
(4)自動車用ヘッドライトの配線に用いられてもよい。
【0021】
自動車用ヘッドライトの配線は、使用時に該ヘッドライトにより加熱される場合がある。また、ヘッドライトに用いられる透光部材には曇りの発生を防止することが特に求められる。本開示の一態様に係る絶縁電線によれば、長時間加熱された場合でもガスの発生を抑制し、周囲に配置された透光部材に曇りが生じることを抑制できる。このため、本開示の一態様に係る絶縁電線は、自動車用ヘッドライトの配線に用いた場合に特に高い効果を発揮できる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る絶縁電線の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許の請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[絶縁電線]
図1に、本実施形態の絶縁電線の長手方向と垂直な断面の構成例を示す。
図1における紙面と垂直な方向が絶縁電線の長手方向になる。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の絶縁電線10は、導体11と、導体11の外表面を被覆する絶縁層12とを有することができる。
(1)絶縁電線が含有する各部材について
本実施形態の絶縁電線が含有する各部材について説明する。
(1-1)導体
導体11は、単線の金属素線、あるいは複数本の金属素線により構成できる。導体11が、複数本の金属素線を有する場合、該複数本の金属素線を撚り合せておくこともできる。すなわち、導体11が複数本の金属素線を有する場合、導体11は、複数本の金属素線の撚線とすることもできる。
【0024】
導体11の材料は特に限定されないが、例えば銅、軟銅、銀めっき軟銅、ニッケルめっき軟銅、錫めっき軟銅等から選択された1種類以上の導体材料を用いることができる。
(1-2)絶縁層
(1-2-1)樹脂成分
絶縁層12は、
図1に示すように導体11の外表面、具体的には絶縁電線10の長手方向に沿った外表面を被覆できる。絶縁層12は、樹脂成分を含有できる。そして、樹脂成分はポリエチレンを主成分として含む。なお、上記樹脂成分は架橋されていても良く、架橋されていなくても良い。
【0025】
樹脂成分がポリエチレンを主成分として含むとは、樹脂成分のうち、質量割合で、ポリエチレンを最も多く含むことを意味する。この場合、樹脂成分は、ポリエチレンを65質量%以上含むことが好ましい。樹脂成分は、ポリエチレンのみから構成することもできるため、樹脂成分は、ポリエチレンを100質量%以下含むことができる。
(融解温度、融解熱量)
本発明の発明者は、絶縁電線を自動車のライト用の配線に用い、該ライトにより長時間加熱された場合に、ライトの透光部材に曇りが生じる原因について検討を行った。なお、透光部材とは、ライト等の光源を保護し、ライトからの光が通過する光路上に配置され、係る光を透過する部材を意味する。その結果、絶縁電線が加熱されることで、該絶縁電線が有する絶縁層に含まれる滑剤等の添加剤が揮発してガスとなり、透光部材に凝縮もしくは凝固して付着することで透光部材に曇りが生じていることを見出した。
【0026】
上記知見を基に、本発明の発明者はさらなる検討を行った。そして、絶縁層が含有する樹脂成分の結晶性により、滑剤等の添加剤の揮発のし易さを制御でき、絶縁電線がライト等により長時間加熱された場合でもガスが発生や、ガスの発生に伴う透光部材への曇りの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
図2A、
図2Bを用いながら、絶縁層が有する樹脂成分の結晶性と、添加剤との関係を示す。
図2A、
図2Bでは、滑剤等の添加剤21と、樹脂成分22とを模式的に示している。
図2A、
図2Bに示すように、樹脂成分22は、主鎖221と、側鎖222とを有している。なお、樹脂成分は架橋されていても良いため、架橋した場合には、主鎖221間等にも結合を含むことになる。
【0028】
図2Aに示した絶縁層201と、
図2Bに示した絶縁層202とでは、含有する樹脂成分22の結晶性が異なっており、絶縁層201の方が、絶縁層202よりも含有する樹脂成分の結晶性が低くなっている。
【0029】
上述のように、
図2Bに示した絶縁層202では、含有する樹脂成分の結晶性が高くなっているため、側鎖222において枝分かれ構造が少なくなっている。このため、絶縁層202が加熱され高温に晒されると添加剤21の分子運動が活発になり、樹脂成分の隙間を抜けて外部に放出し易くなる。
【0030】
これに対して、
図2Aに示した絶縁層201では含有する樹脂成分の結晶性が低くなっているため、樹脂成分22の側鎖222において、
図2Aに示すように分岐した枝分かれ構造を含むようになる。このため、絶縁層201が加熱され、高温に晒されて添加剤21の分子運動が活発になったとしても、枝分かれ構造を有する側鎖222によって該分子運動が阻害される。その結果、絶縁層201が加熱された場合でも添加剤21が外部に放出されにくくなる。
【0031】
そこで、絶縁層12が含有する樹脂成分は結晶性が低いことが好ましい。絶縁層が含有する樹脂成分の結晶性は、融解温度、および融解熱量により評価することができる。樹脂成分の融解温度、および融解熱量は、絶縁層について、DSC(Differential scanning calorimetry:示差走査熱量測定)測定を行うことで求められる。
【0032】
樹脂成分の融解温度は110℃以下であることが好ましく、107℃以下であることがより好ましい。
【0033】
樹脂成分がポリエチレンを主成分として含み、樹脂成分の融解温度が110℃以下の場合、該樹脂成分の結晶性が十分に低く、該樹脂成分の側鎖に十分な量の枝分かれ構造を含むことができる。このため、絶縁電線が加熱され、高温に晒された場合でも、添加剤が絶縁層の外部に放出されることを防止し、ガスの発生や、発生したガスにより周囲に配置されたライト等の透光部材に曇りが生じることを防止できる。
【0034】
樹脂成分の融解温度の下限側は特に限定されないが、例えば55℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
【0035】
樹脂成分の融解熱量は、80J/g以下であることが好ましく、75J/g以下であることがより好ましい。
【0036】
樹脂成分がポリエチレンを主成分として含み、樹脂成分の融解熱量が80J/g以下の場合、該樹脂成分の結晶性が十分に低く、該樹脂成分の側鎖に十分な量の枝分かれ構造を含むことができる。このため、絶縁電線が加熱され、高温に晒された場合でも、添加剤が絶縁層の外部に放出されることを防止し、ガスの発生や、発生したガスにより周囲に配置されたライト等の透光部材に曇りが生じることを防止できる。
【0037】
樹脂成分の融解熱量の下限側は特に限定されないが、例えば30J/g以上であることが好ましく、32J/g以上であることがより好ましい。
(メルトマスフローレート)
樹脂成分は、メルトマスフローレート(MFR)が1.0g/10minより大きいことが好ましく、1.1g/10min以上であることがより好ましい。樹脂成分のメルトマスフローレートが1.0g/10minより大きいことで、絶縁電線を形成する際の樹脂成分の流動性が高くなり、絶縁電線を形成する際の加工性を高められる。
【0038】
樹脂成分のメルトマスフローレートの上限側の値も特に限定されないが、例えば5.0g/10min以下であることが好ましく、2.0g/10min以下であることがより好ましい。上記範囲とすることで、絶縁電線を形成する際に、樹脂成分の流動性が過度に高くなることを防止し、絶縁電線を形成する際の加工性を特に高められる。
(1-2-2)添加剤
絶縁層12は上記樹脂成分以外に、各種添加剤を含有することもできる。絶縁層12は、添加剤として、例えば難燃剤や、酸化防止剤、滑剤、受酸剤等から選択された1種類以上を含有できる。
(滑剤)
既述のように、絶縁電線が加熱された場合に発生し、透光部材の曇りが生じる原因となるガスの原料としては、主にステアリン酸等の滑剤が挙げられる。このため、絶縁層12は滑剤としてステアリン酸を含有することが好ましい。絶縁層12が、滑剤としてステアリン酸を含有する場合、絶縁電線を加熱した際のガスの発生や、それに伴う透光部材の曇りが生じ易くなっていた。これに対して、本実施形態の絶縁電線によれば、加熱された場合でも係るガスの発生や、周囲に配置された透光部材への曇りの発生を抑制できる。このため、絶縁層が滑剤としてステアリン酸を含有する場合に、周囲の透光部材への曇りの発生の抑制について特に高い効果を発揮できる。
【0039】
なお、本明細書において、ステアリン酸とは、塩基と反応して形成されたステアリン酸亜鉛や、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸塩を含まない。
【0040】
絶縁層12のステアリン酸の含有量は特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、ステアリン酸を0質量部より多く、2.0質量部以下の割合で含有することが好ましく、0.1質量部以上1.5質量部以下の割合で含有することがより好ましい。
【0041】
絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、ステアリン酸の含有量を0質量部より多くすることで、導体11から絶縁層12を剥離し易くでき、絶縁電線の加工性を高められる。また、絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、ステアリン酸の含有量を2.0質量部以下とすることで絶縁層12の表面等にステアリン酸が析出することを防止できる。
(難燃剤)
難燃剤としては特に限定されず、例えばハロゲン系難燃剤を用いることができる。
【0042】
ハロゲン系難燃剤は、当該絶縁電線の絶縁層に難燃性を付与するものである。ハロゲン系難燃剤としては、例えば臭素系難燃剤、塩素系難燃剤等が挙げられる。
【0043】
臭素系難燃剤としては、例えばエチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、テトラブロモエタン、テトラボロモビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル、テトラブロモ無水フタル酸、ポリジブロモフェニレンオキサイド、ヘキサブロモシクロデカン、臭化アンモニウム等が挙げられる。
【0044】
塩素系難燃剤としては、例えば塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリフェノール、パークロルペンタシクロデカン等が挙げられる。
【0045】
ハロゲン系難燃剤としては、これらの中で臭素系難燃剤が好ましく、エチレンビステトラブロモフタルイミド(例えばアルベマール社の「サイテックスBT93」)、およびエチレンビス(ペンタブロモフェニル)(例えばアルベマール社の「サイテックス8010」)がより好ましい。ハロゲン系難燃剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
絶縁層12のハロゲン系難燃剤の含有量の下限は特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、ハロゲン系難燃剤の含有量が1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、ハロゲン系難燃剤を1質量部以上含有することで、絶縁層12に十分な難燃性を付与できる。
【0047】
絶縁層12のハロゲン系難燃剤の含有量の上限も特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、ハロゲン系難燃剤の含有量が、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましい。絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、ハロゲン系難燃剤を30質量部以下含有することで、絶縁層と導体との接着性を高められる。
【0048】
絶縁層12は、上記ハロゲン系難燃剤以外にも、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン等のノンハロゲン系難燃剤を含有してもよい。ノンハロゲン系難燃剤についても含有量は特に限定されないが、樹脂成分を100質量部とした場合に、ノンハロゲン系難燃剤の含有量は10質量部以下であることが好ましい。
(酸化防止剤)
酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,C7-C9側鎖アルキルエステル、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3',3",5,5'5"-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a"-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピノキ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても2種類以上併用してもよい。
【0049】
絶縁層12の酸化防止剤の含有量の下限は特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、酸化防止剤の含有量が0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、酸化防止剤を0.5質量部以上含有することで、絶縁層12に十分な酸化防止特性を付与できる。
【0050】
絶縁層12の酸化防止剤の含有量の上限も特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、酸化防止剤の含有量が、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。絶縁層12が、樹脂成分を100質量部とした場合に、酸化防止剤を10質量部以下含有することで、ブルーム等を抑制できる。
(受酸剤)
受酸剤としては、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化亜鉛から選択された1種類以上を用いることができる。
【0051】
絶縁層12の受酸剤の含有量の下限は特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、受酸剤の含有量が0.1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。
【0052】
絶縁層12の受酸剤の含有量の上限についても特に限定されない。絶縁層12は、例えば樹脂成分を100質量部とした場合に、受酸剤の含有量が10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
(2)絶縁電線の特性、好適な用途について
(2-1)ヘイズ
本実施形態の絶縁電線によれば、加熱された場合でも、ガスの発生を抑制し、周囲に配置された透光部材への曇りの発生を抑制できる。
【0053】
係るガスの発生を抑制し、透光部材への曇りの発生を抑制する程度は特に限定されない。例えばISO6542に準拠して、絶縁電線をガラス板により蓋をした容器内に配置し、100℃で16時間加熱した後、大気雰囲気に1時間放置した場合の、ガラス板のヘイズ値が15%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましい。
【0054】
上記試験を実施した場合に、ガラス板のヘイズ値が15%以下であると、長時間加熱された場合でもガスの発生を抑制し、周囲に配置された透光部材に曇りが生じることを十分に抑制できているものといえる。
【0055】
なお、上記試験を実施した場合のガラス板のヘイズ値の下限値は特に限定されないが、0以上であればよい。ただし、ヘイズ値を0にすることは困難な場合があるため、上記ヘイズ値は1%以上であることが好ましい。
【0056】
上記試験は、ISO6542規格に基づいて実施でき、例えば
図3に示したヘイズ試験用装置を用いて実施できる。
図3はヘイズ試験用装置の中心軸を通る面での断面図を模式的に示している。
【0057】
ヘイズ試験用装置は、内径がφ83mm、高さ190mmのビーカー31と、シリコン製のパッキン32と、100mm×100mmのガラス板33と、ろ紙34と、冷却板35とを積層した構造を有する。そして、以下の手順でヘイズ値を測定できる。
【0058】
予めオイルバスにシリコンオイルを130mmの高さまで充填し、100℃まで加熱しておく。
【0059】
次いで、上記ヘイズ試験用装置のビーカー31内に、評価を行う絶縁電線10を入れ、上記パッキン32、ガラス板33、ろ紙34、冷却板35を、ビーカー31の上方の開口部に積層し、蓋をする。なお、冷却板35は、内部に21℃の水が流れ、ガラス板33等を冷却するように構成できる。
【0060】
そして、上記ヘイズ試験用装置をオイルバスに入れ、16時間加熱する。
【0061】
次に、オイルバスからヘイズ試験用装置を取出し、大気雰囲気、例えば温度が23℃、相対湿度が50%RHの環境に1時間放置する。
【0062】
そして、ガラス板33を取り外し、ヘイズの測定を行うことができる。
(2-2)好適な用途について
本実施形態の絶縁電線の用途は特に限定されないが、自動車用ヘッドライトの配線に用いられることが好ましい。
【0063】
自動車用ヘッドライトの配線は、使用時に該ヘッドライトにより加熱される場合がある。また、ヘッドライトに用いられる透光部材には曇りの発生を防止することが特に求められる。本実施形態の絶縁電線によれば、長時間加熱された場合でもガスの発生を抑制し、周囲に配置された透光部材に曇りが生じることを抑制できる。このため、本実施形態の絶縁電線は、自動車用ヘッドライトの配線に用いた場合に特に高い効果を発揮できる。
【実施例】
【0064】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製した絶縁電線の評価方法について説明する。
(1)融解温度、融解熱量
DSC(島津製作所社製;熱流束示差走査熱量計DSC-50)を用い、以下に示す方法により絶縁層が含有する樹脂成分の融解温度、融解熱量を測定、算出した。
【0065】
以下の各実験例で作製した絶縁電線から絶縁層を剥がした。そして、DSCにおいて、窒素気流下で、該絶縁層5mgを、室温から200℃まで10℃/分で昇温、加熱した。
【0066】
この際得られたDSC曲線から融解温度、および融解熱量を求めた。具体的には、上記DSC曲線のうち、最大強度が最も大きい吸熱ピークが立ち上がる点の温度を融解温度とし、該ピークの面積を、評価した試料1g当たりに換算し、融解熱量とした。
【0067】
なお、上記ピークが立ち上がる点とは、ベースラインと、変曲点での接線との交点を意味する。
(3)メルトマスフローレート
株式会社東洋精機製作所製のメルトインデクサー(メルトフローレート測定装置)を用い、温度190℃、試験荷重2.16kgの条件下で、絶縁層が含有する樹脂成分のメルトマスフローレートを測定した。なお、試験片としては、融解温度等の場合と同様に絶縁電線から剥がした絶縁層を用いた。評価結果を表2の「MFR(g/10min)」の欄に示す。
(4)比重
JIS K 7112(1999)に基づき、絶縁層を製造する際に用いた樹脂成分について、水中置換法によって比重(密度)を測定した。
(5)ヘイズ値、ヘイズ評価
ヘイズ値の評価は、ISO6542規格に基づいて実施した。具体的には、
図3に示したヘイズ試験用装置を用いてヘイズ値を測定するガラス板を作製した。
【0068】
ヘイズ試験用装置は、内径がφ83mm、高さ190mmのビーカー31と、シリコン製のパッキン32と、100mm×100mmのガラス板33と、ろ紙34と、冷却板35とを積層した構造を有する。
【0069】
予めオイルバスにシリコンオイルを130mmの高さまで充填し、100℃まで加熱しておいた。
【0070】
次いで、上記ヘイズ試験用装置のビーカー31内に、評価を行う絶縁電線10を入れ、上記パッキン32、ガラス板33、ろ紙34、冷却板35をビーカー31の上方の開口部に積層し、蓋をした。なお、絶縁電線は、同じ試料について長さが230mm、225mm、220mmとなるように3本用意した。そして、円環状にして、ビーカー31の底部に3本の絶縁電線が重ならないように配置した。冷却板35は、内部に21℃の水が流れ、ガラス板33等を冷却するように構成した。
【0071】
そして、上記ヘイズ試験用装置をオイルバスに入れ、16時間加熱した。
【0072】
次に、オイルバスからヘイズ試験用装置を取出し、大気雰囲気、具体的には温度が23℃、相対湿度が50%RHの環境に1時間放置した。
【0073】
そして、ガラス板を取り外し、ヘイズの測定を行った。ヘイズの測定は、ヘイズ測定装置( 村上色彩技術研究所製、型式:ヘーズメーター HM-150L2 )を用いて実施した。
【0074】
同じ実験例の試料について、上記ヘイズ試験用装置による加熱と、ガラス板についてのヘイズの測定とを同じ条件で2回実施し、2回の測定結果の平均値を該実験例におけるヘイズ値とした。
【0075】
得られたヘイズ値が15%以下の場合にヘイズ評価をA、15%より大きい場合にヘイズ評価をBとした。ヘイズ評価がAの場合には、加熱された場合でも周囲の透光部材への曇りの発生を抑制できる絶縁電線であることを意味する。
【0076】
以下に各実験例における絶縁電線を説明する。
【0077】
以下の実験例では、実験例1~実験例8の絶縁電線を作製した。実験例1~実験例4が実施例、実験例5~実験例8が比較例になる。
[実験例1]
実験例1では、長手方向と垂直な断面において、
図1に示すように、導体11と、導体11の外表面を覆う絶縁層12とを備える絶縁電線を作製した。
【0078】
具体的には、表1に示す配合量比(質量割合)で各成分を押出成形機のホッパーで混合し、押出成形機の温度を180℃に設定して押出加工を行った。なお、実験例1~実験例8ではいずれも樹脂成分はポリエチレンの含有割合が100質量%となっている。押出加工は外径0.75mmの導体上に、絶縁層を押出被覆して実施した。押出加工後に電子線を用いて架橋処理した。なお、導体としては錫めっき軟銅の単線を用い、得られた絶縁電線の外径は1.4mmであった。
【0079】
得られた絶縁電線について、既述の評価を行った。評価結果を表2に示す。
[実験例2~実験例8]
押出成形機に供給する各材料の配合量比(質量割合)を表1に示した値に変更した点以外は実験例1と同様にして絶縁電線を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
【表2】
上記結果によれば、絶縁層に用いた樹脂成分の融解温度が110℃以下、融解熱量が80J/g以下であり、滑剤としてステアリン酸を含有する実験例1~実験例4の絶縁電線では、ヘイズ値が15%以下となり、ヘイズ評価がAになることを確認できた。すなわち、加熱された場合でも周囲の透光部材への曇りの発生を抑制できる絶縁電線であることを確認できた。
【符号の説明】
【0082】
10 絶縁電線
11 導体
12、201、202 絶縁層
21 添加剤
22 樹脂成分
221 主鎖
222 側鎖
31 ビーカー
32 パッキン
33 ガラス板
34 ろ紙
35 冷却板