(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】光計測装置、光計測方法、データ処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 1/00 20060101AFI20250415BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20250415BHJP
G01M 11/00 20060101ALI20250415BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
G01J1/00 G
G01J1/42 M
G01M11/00 T
G09F9/00 352
(21)【出願番号】P 2021122738
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】増田 敏
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038675(WO,A1)
【文献】特開2004-317450(JP,A)
【文献】Bedell HE et al.,“The temporal impulse response function in infantile nystagmus”,Vision research,2008年06月11日,Vol. 48, No. 15,PP.1575-1583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00- 1/60
G01J 11/00
G01M 11/00-11/08
G09F 9/00
H04N 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得手段と、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得手段と、
前記刺激値取得手段により取得した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得手段により取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えた光計測装置。
【請求項2】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得手段と、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換手段と、
前記刺激値取得手段により取得した刺激値強度の連続データに対して、前記変換手段により変換されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えた光計測装置。
【請求項3】
前記周波数特性には位相特性が含まれる請求項2に記載の光計測装置。
【請求項4】
前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である請求項1~3のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項5】
前記導出手段は、前記デジタルフィルタ処理手段により生成された
前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における
前記フリッカ指標を導出す
る請求項1~3のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項6】
前記刺激値取得手段が刺激値に相当する強度を取得する際の一定時間間隔は、6kHz以下の時間間隔である請求項1~5のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項7】
前記刺激値取得手段は積分方式により刺激値に相当する強度を取得する請求項1~6のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項8】
前記インパルス応答特性は複数存在する請求項1~6のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項9】
少なくともフーリエ変換手段を備え、前記フーリエ変換手段を使用したフリッカ計測も可能である請求項1~8のいずれかに記載の光計測装置。
【請求項10】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得ステップと、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得ステップと、
前記刺激値取得ステップにより取得した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得ステップにより取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
を含む光計測方法。
【請求項11】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得ステップと、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換ステップと、
前記刺激値取得ステップにより取得した刺激値強度の連続データに対して、前記変換ステップにより変換されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
を含む光計測方法。
【請求項12】
前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である請求項10または11に記載の光計測方法。
【請求項13】
前記導出ステップでは、前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された
前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における
前記フリッカ指標を導出す
る請求項10~12のいずれかに記載の光計測方法。
【請求項14】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信手段と、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得手段と、
前記受信手段により受信した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得手段により取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えたデータ処理装置。
【請求項15】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信手段と、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換手段と、
前記受信手段により受信した刺激値強度の連続データに対して、前記変換手段により変換したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えたデータ処理装置。
【請求項16】
前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である請求項14または15に記載のデータ処理装置。
【請求項17】
前記導出手段は、前記デジタルフィルタ処理手段により生成された
前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における
前記フリッカ指標を導出す
る請求項14~16のいずれかに記載のデータ処理装置。
【請求項18】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信ステップと、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得ステップと、
前記受信ステップにより受信した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得ステップにより取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項19】
計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信ステップと、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した刺激値強度の連続データに対して、前記変換ステップにより変換したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項20】
前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である請求項18または19に記載のプログラム。
【請求項21】
前記導出ステップでは、前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された
前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における
前記フリッカ指標を導出する
処理を前記コンピュータ
に実行させる請求項18~20のいずれかに記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディスプレイ等の計測対象物のフリッカ等を計測するのに好適な光計測装置、光計測方法、データ処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイの機能、性能向上に伴い、発光波形が複雑化している。例えばOLED(Organic Light-Emitting Diode)ディスプレイの場合だと、忠実な色再現を実現するために階調制御に振幅変調だけでなくパルス幅変調を組み合わせた発光制御が採用されるなど、高振幅で複雑な波形をした発光が一般化している。
【0003】
また近年では、VRR(Variable Refresh Rate:可変リフレッシュレート)機能を有するディスプレイが開発されており、このディスプレイにおいてはリフレッシュレートが動的かつ非周期に切り替わるため、切替わりポイントを起点に発光波形に過渡応答が観測されるなど、発光波形がますます複雑化している。
【0004】
発光波形の複雑化に伴い、フリッカ(目に見えるチラツキ)が顕在化している。これがディスプレイの品質課題となっている。
【0005】
ディスプレイ等の被測定対象物の基本性能を計測する光計測装置として、例えば、ディスプレイカラーアナライザー(一例としてコニカミノルタ株式会社製のCA-410)が知られている。このようなディスプレイカラーアナライザーは、内部に光センサを備え、色や輝度だけでなく、光波形やフリッカを計測することができる。
【0006】
測定対象物からの光量の取得には、大きくは2種類の方式、つまり瞬時値を取得する逐次取得方式と、決められた時間の積分値を取得する積分取得方式がある。逐次取得方式は高速性に優れる一方、積分方式は低輝度計測性能に優れる、といった特徴を有する。
【0007】
ディスプレイ等で生じるフリッカ計測手法としてはJEITA方式が一般的である。しかしながらこの手法は、液晶(LCD)の様な単純な発光波形に対しては有効に計測できるが、複雑な波形に対しては計測値が目視と一致せず、適さない。
【0008】
そこで複雑化した発光波形に対する計測手法として、非特許文献1のIEC規格「62341-6-3」に規定された手法がある。
【0009】
この規格は、取得した連続刺激値に対して、発光周波数に対する目の感度特性を示すTCSF(temporal contrast sensitivity function:時間コントラスト感度関数)の畳込みを行うことで、目の時間応答を考慮した刺激値を導出し、その刺激値からフリッカ指標を導出するというものである。
【0010】
具体的な処理手順は以下の通りである。
(1)発光しているディスプレイの刺激値を連続取得する。
(2)取得データに対して離散フーリエ変換(DFT)処理を行い、周波数スペクトルに変換する。
(3)得られた周波数スペクトルをTCSFと畳込み演算し、目の特性を重畳させる。
(4)逆フーリエ変換(iDFT)処理を行い、TCSF重畳した刺激値を生成する。
(5)TCSFが重畳された刺激値データの(最大値(Max)-最小値(Min)/平均値(Ave)を計算し、フリッカ量を指標化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、デジタルフーリエ変換(DFT, iDFT)は、入力波形が周期性を有し、かつ同期していることを前提とした演算である。このデジタルフーリエ変換をフリッカ計測手法に取り入れているため、以下の問題がある。
【0013】
即ち、例えば、測定時間が発光波形の周期(例えばVsync期間)に整合していない(整数倍でない)場合、取得した波形の先端部と後端部の光量値が不一致となる。
【0014】
この様な波形の周波数スペクトルは、本来存在しない偽の周波数成分(=1/測定時間×n、つまり、測定時間を1周期とする周波数とその高調波)が多数発生する。
【0015】
この周波数スペクトルの重畳波形は、先端部と後端部が大きく歪むという課題があり、その結果、フリッカ値に大きな誤差を生じさせ、かつ再現性を欠く計測となる。
【0016】
この対策として、同期を確保するために取得データの先端および後端を削除する方法が提案されている。しかしながらこの方法では、手間が掛かるだけでなく、データ削除により所望計測時間長のデータを取得できない可能性があり、フリッカ計測の利便性が良くない。また、前述のVRR機能を有するディスプレイの発光波形など、非周期性の発光波形に対しては対応できない。
【0017】
さらに、同期とは異なる別の対策として、データ端部を同一値に変換する窓関数を用いる方法が開示されている。この方式では、まず取得波形に窓関数を乗算し、その波形に対して同様の手法でTCSFの重畳を行い、最後に窓関数を除算する事で所望波形を作成する。しかしながら、この方法においても、窓関数を除算した際に波形取得時の誤差が拡張されるといった課題があり、その結果、波形が大きく歪むことでフリッカ値に大きな誤差を生じさせる。
【0018】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、目の時間応答を考慮した刺激値のデータでありながらも波形歪みを抑制したデータを生成でき、ひいては良好なフリッカ計測を可能とし、非周期性の発光波形を有する計測対象物にも対応できる光計測装置、光計測方法、データ処理装置及びプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得手段と、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得手段と、
前記刺激値取得手段により取得した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得手段により取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えた光計測装置。
(2)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得手段と、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換手段と、
前記刺激値取得手段により取得した刺激値強度の連続データに対して、前記変換手段により変換されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えた光計測装置。
(3)前記周波数特性には位相特性が含まれる前項2に記載の光計測装置。
(4)前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である前項1~3のいずれかに記載の光計測装置。
(5)前記導出手段は、前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における前記フリッカ指標を導出する前項1~3のいずれかに記載の光計測装置。
(6)前記刺激値取得手段が刺激値に相当する強度を取得する際の一定時間間隔は、6kHz以下の時間間隔である前項1~5のいずれかに記載の光計測装置。
(7)前記刺激値取得手段は積分方式により刺激値に相当する強度を取得する前項1~6のいずれかに記載の光計測装置。
(8)前記インパルス応答特性は複数存在する前項1~6のいずれかに記載の光計測装置。
(9)少なくともフーリエ変換手段を備え、前記フーリエ変換手段を使用したフリッカ計測も可能である前項1~8のいずれかに記載の光計測装置。
(10)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得ステップと、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得ステップと、
前記刺激値取得ステップにより取得した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得ステップにより取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
を含む光計測方法。
(11)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得する刺激値取得ステップと、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換ステップと、
前記刺激値取得ステップにより取得した刺激値強度の連続データに対して、前記変換ステップにより変換されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
を含む光計測方法。
(12)前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である前項10または11に記載の光計測方法。
(13)前記導出ステップでは、前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における前記フリッカ指標を導出する前項10~12のいずれかに記載の光計測方法。
(14)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信手段と、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得手段と、
前記受信手段により受信した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得手段により取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えたデータ処理装置。
(15)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信手段と、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換手段と、
前記受信手段により受信した刺激値強度の連続データに対して、前記変換手段により変換したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理手段と、
前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出手段と、
を備えたデータ処理装置。
(16)前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である前項14または15に記載のデータ処理装置。
(17)前記導出手段は、前記デジタルフィルタ処理手段により生成された前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における前記フリッカ指標を導出する前項14~16のいずれかに記載のデータ処理装置。
(18)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信ステップと、
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、前記インパルス応答特性を取得する応答特性取得ステップと、
前記受信ステップにより受信した刺激値強度の連続データに対して、前記応答特性取得ステップにより取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(19)計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信する受信ステップと、
記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する変換受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した刺激値強度の連続データに対して、前記変換ステップにより変換したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、前記視感刺激応答が重畳されたデータを生成するデジタルフィルタ処理ステップと、
前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データからフリッカ指標を導出する導出ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
(20)前記インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下である前項18または19に記載のプログラム。
(21)前記導出ステップでは、前記デジタルフィルタ処理ステップにより生成された前記データの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間における前記フリッカ指標を導出する処理を前記コンピュータに実行させる前項18~20のいずれかに記載のプログラム。
【発明の効果】
【0020】
前項(1)、(10)及び(14)に記載の発明によれば、計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度が一定時間間隔で連続的に取得され、この取得された刺激値強度の連続データに対して、記憶手段から取得されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理が施され、視感刺激応答が重畳されたデータが生成される。従って、生成されたデータは目の時間応答を考慮した刺激値のデータでありながらも、デジタルフーリエ変換されていないから、波形の歪みも発生せず、このためこのデータを基に良好なフリッカ計測を行うことができる。しかも、歪み除去のために波形の一部を削除する必要はないから、非周期性の発光波形を有する計測対象物にも対応できる。
【0021】
前項(2)、(11)及び(15)に記載の発明によれば、計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度が一定時間間隔で連続的に取得され、この取得された刺激値強度の連続データに対して、記憶手段に記憶された目の周波数特性から変換された視感刺激応答に相当するインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理が施され、視感刺激応答が重畳されたデータが生成される。従って、生成されたデータは目の時間応答を考慮した刺激値のデータでありながらも、デジタルフーリエ変換されていないから、波形の歪みも発生せず、このためこのデータを基に良好なフリッカ計測を行うことができる。しかも、歪み除去のために波形の一部を削除する必要はないから、非周期性の発光波形を有する計測対象物にも対応できる。
【0022】
前項(3)に記載の発明によれば、周波数特性には位相特性が含まれるから、インパルス応答の誤差を低減することができる。
【0023】
前項(4)、(12)及び(16)に記載の発明によれば、インパルス応答特性におけるインパルス応答は0.5秒以下であるから、デジタルフィルタ処理する際のデータの無効期間を少なくでき、計測時間を短縮できる。
【0024】
前項(5)、(13)及び(17)に記載の発明によれば、デジタルフィルタ処理により生成されたデータの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間におけるフリッカ指標が導出されるから、フリッカ強度の時間変化を計測できる。
【0025】
前項(6)に記載の発明によれば、刺激値に相当する強度を取得する際の一定時間間隔が6kHz以下の時間間隔であるから、低速制御により波形歪みのない高精度な計測を行うことができる。
【0026】
前項(7)に記載の発明によれば、積分方式により刺激値に相当する強度が取得され、取得処理は高速度で行われないから、S/Nを向上でき高精度な計測を行うことができる。
【0027】
前項(8)に記載の発明によれば、インパルス応答特性は複数存在するから、官能特性に合致したデータを取得することができる。
【0028】
前項(9)に記載の発明によれば、フーリエ変換手段を使用した従来のフリッカ計測も可能となる。
【0029】
前項(18)に記載の発明によれば、計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信し、視感刺激応答に相当するインパルス応答特性を記憶する記憶手段から、インパルス応答特性を取得し、受信した刺激値強度の連続データに対して、取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、視感刺激応答が重畳されたデータを生成する処理、をコンピュータに実行させることができる。
【0030】
前項(19)に記載の発明によれば、計測対象物からの光を受光し、刺激値に相当する強度を一定時間間隔で連続的に取得することにより得られた刺激値強度の連続データを受信し、記憶手段に記憶された目の周波数特性を視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換し、受信した刺激値強度の連続データに対して、変換したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、視感刺激応答が重畳されたデータを生成する処理をコンピュータに実行させることができる。
【0031】
前項(20)に記載の発明によれば、インパルス応答が0.5秒以下のインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施す処理をコンピュータに実行させることができる。
【0032】
前項(21)に記載の発明によれば、デジタルフィルタ処理ステップにより生成されたデータの複数の時刻において、計測時間長よりも短い時間におけるフリッカ指標を導出する処理を、コンピュータに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】この発明の一実施形態に係る光計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】視感刺激応答に相当するインパルス応答特性の一例を示す波形図である。
【
図3】(A)~(D)は測定対象物としてVRRディスプレイをモデル化した発光波形の計測結果を説明するための図である。
【
図4】(A)はデジタルフィルタ処理により得られた、刺激値が重畳されたデータの波形図、(B)はフリッカ強度の変動を示すグラフである。
【
図5】この発明の他の実施形態に係る光計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】(A)は目の周波数特性における感度特性を示すグラフ、(B)は位相特性を含む目の周波数特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1の実施形態}
<光計測装置の構成>
図1は、この発明の一実施形態に係る光計測装置1の機能構成を示すブロック図である。
図1に示すように、光計測装置1は計測ヘッド2とデータ処理装置3を備えている。計測ヘッド2は、刺激値取得部20を形成する光センサ21と出力部22を備え、データ処理装置3はパーソナルコンピュータ(PC)によって構成され、応答記憶部31と、デジタルフィルタ処理部32と、フリッカ指標導出部33を備えている。なお、
図1に示す符号 41はデータ処理装置3を操作する操作部、符号42はデジタルフィルタ処理部32によるデジタルフィルタ処理結果やフリッカ指標導出部33で導出されたフリッカ指標等を表示する表示部である。
【0035】
光センサ21は、ディスプレイ等の計測対象物100から発光された光を受光する受光センサであり、刺激値取得部20は、光センサ21の出力を出力部22で一定時間間隔にて連続的に取得し、それを刺激値強度の連続データに変換する機能を有する。
【0036】
光センサ21は、三刺激値直読型でも良いし分光型でも良い。変換される刺激値は、例えば、輝度、色度(xy)、XYZで示される三刺激値などがある。刺激値の連続データ変換において、ノイズを除去するためにフィルタ処理を実施しても良い。例えば、前後データを活用した移動平均処理を適用しても良い。
【0037】
本実施形態では、出力部22は積分方式により光センサ21のデータを取得する。積分方式はS/Nが優れるので計測精度を向上させる事ができる。一方で積分方式は逐次方式のようにデータ取得速度を大きくできないという欠点があるが、下記理由により、本実施形態においては全く問題とならない。従って、総合的に逐次方式よりも積分方式の方が好適となる。
【0038】
なお、この実施形態では、光計測装置1が計測ヘッド2とデータ処理装置3から構成される場合を示したが、計測ヘッド2とデータ処理装置3が同一機器内に備えられたスタンドアロン構成の光計測装置1であっても良い。
<高速サンプリングの要否>
目の周波数応答(TCSF)は、高周波域において感度がほとんど無い。このため測定対象物100の発光波形が高速・高周波であったとしても、フリッカ計測においては、発光波形(形状)を忠実に取得出来るほどの高速性が不要である。
【0039】
データ取得速度は、後述する演算工程での負荷を勘案するとデータ数が少ない方が好適であり、必要以上に速くする必要は無い。また不要な高速化は、入射光量の低下や回路ノイズの増加を招くため、S/Nの悪化を生じさせ計測精度を損なわせることに繋がる。
【0040】
以下にデータ取得速度の一例を示す。近年、Vsync240Hzなどの高速制御ディスプレイが発売されている。これがPWM駆動である場合、波形取得(形状取得)のためには少なくとも24kHz(1周期あたり100データ)程の高速なデータ取得が必要となる。また、従来のVsync60Hzのディスプレイであれば、少なくとも6kHzの高速データ取得が必要となる。しかしながらフリッカ計測においては、上記の観点から、6kHz以下であっても全く支障が無く、むしろ好適となる。
【0041】
本実施形態では、上記に鑑み1.5kHzでデータを取得している。なおデータ取得速度は、測定対象物100や駆動条件などに合わせて変更しても良い。例えば駆動条件が振幅変調駆動の場合は低速、PWM変調駆動の場合は高速にする、といった具合である。
【0042】
逐次方式によるデータ取得方式において、6kHzを超える速度で高速にデータを取得した場合は、そのまま演算処理をしても良いし、取り扱いデータ数を削減させるために間引きや平均化をしても良い。
<インパルス応答特性を記憶する応答記憶部について>
データ処理装置3は応答記憶部31を備え、この応答記憶部31には視感刺激応答に相当するインパルス応答特性が記憶されている。
【0043】
視感刺激応答に相当するインパルス応答特性の一例を
図2に示す。記憶する応答期間は、目の応答(反応)が収束するまでの時間があれば十分である。目の応答は、一般的に0.5秒経過すれば収束する。
【0044】
官能特性である視感刺激応答は、個体(個人)、環境、計測対象物100に大きく依存する。このため、応答記憶部31にインパルス応答特性を複数記憶しておき、条件に合わせてインパルス応答特性を使い分けても良い。また、ユーザーがインパルス応答特性を応答記憶部31に記憶(登録)できるように構成しても良い。
【0045】
視感刺激応答が依存するパラメータの例としては、刺激値取得部20の計測面積、輝度、色、性別、年齢、周囲輝度、個人等がある。インパルス応答特性の選択は、ユーザーによる手動設定により行われても良いし、光計測装置1による自動選択であっても良い。例えば色をパラメータとして使い分ける場合、フリッカ計測用に取得した刺激値を活用することにより自動選択が実現できる。また別の例としては、光計測装置1にセンサを設け、自動的に切り替えても良い。
【0046】
なお、応答記憶部31はデータ処理装置3に内蔵されていなくても良く、外部に存在していても良い。この場合は、外部の応答記憶部31からインパルス応答データを取得して処理すれば良い。
<デジタルフィルタ処理について>
デジタルフィルタ処理部32によるデジタルフィルタ処理は、データ処理装置3に備えられたCPU等のプロセッサが、ROM等に格納されRAMにロードされた動作プログラムに従って動作することにより実行される。
【0047】
デジタルフィルタ処理部32は、刺激値取得部20により取得した刺激値強度の連続データを受信するとともに、応答特性記憶部31からインパルス応答特性を取得し、受信した刺激値強度の連続データに対し、取得したインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、視感刺激応答が重畳されたデータ(以下の説明では重畳刺激値データともいう)を生成する。
【0048】
デジタルフィルタ処理を行うためには、インパルス応答期間分の刺激値データが少なくとも必要である。また、生成される重畳刺激値データの先頭は応答期間後からとなり、それ以前の期間はデータ欠落により無効期間となる。この欠落データ期間を縮小化するために、本実施形態では、インパルス応答期間を目の応答が収束する0.5秒以下とした。この0.5秒以下の応答分だけを使い、デジタルフィルタ処理を実施する。
【0049】
デジタルフィルタ処理の実施タイミングは限定されることはなく、連続した刺激値の取得が完了した後でも良いし、全データの取得が未完了であっても取得した刺激値を順次処理しても良い。
<重畳刺激値データの生成とフリッカ指標導出>
上述したように、デジタルフィルタ処理部32により、視感刺激応答が重畳されたデータを生成し出力する。この重畳刺激値データを用いてフリッカ指標導出部33がフリッカの指標を導出する。フリッカ指標導出部33によるフリッカの指標導出処理も、データ処理装置3のプロセッサが動作プログラムに従って動作することにより実行される。
【0050】
フリッカの指標導出について以下に例示する。
【0051】
発光波形が周期波形である場合などフリッカ強度が静的である場合には、重畳刺激値データの時間全域に対して(最大値(Max)-最小値(Min)/平均値(Ave)を導出し、指標値とする事が好適である。より好適には、指標値を導出する時間範囲を同期が取れた条件、つまり発光周期の整数倍に設定できるようにすると、計測誤差が低減する。なお、同期の取り方としては、外部同期信号を使用する方法、ユーザーが同期周波数を入力する方法などがあるが、限定されない。
【0052】
一方、VRRディスプレイにおいてVsync周波数がランダムに切り替わる様な場合がある。例えば、モバイルデバイスには、省電力化のために、静止画表示には低速駆動とし、動画表示や画面タッチ時に60Hz駆動するデバイスがある。このように、フリッカ強度が変動する様な場合には、フリッカ強度の時間変化を生成する事が好適である。
【0053】
具体的には、重畳刺激値データに対して、時刻毎に一定の時間幅で(Max-Min)/Aveを導出し、指標値の時間変化を生成する。この時間変化データを用いれば、どの様な状況時にフリッカ強度がどの程度変動するかを容易に観測する事ができるようになる。なお、時間幅はVynsc周期の整数倍である事が望ましい。
【0054】
図3に、測定対象物100としてVRRディスプレイをモデル化した発光波形の計測結果を示す。
図3(A)は、ディスプレイについて取得した刺激値強度の連続データである。このディスプレイは、駆動周波数が60Hz→24Hz→60Hzと変化している。階調変更はない。駆動周波数の変化に応じて、刺激値強度の連続データの周波数が変化している。
【0055】
図3(B)は、駆動周波数が60Hzから24Hzに変化したタイミング付近の時間を拡大して示す図、
図3(C)は、駆動周波数が24Hzから60Hzに変化したタイミング付近の時間を拡大して示す図である。
【0056】
図3(D)は、デジタルフィルタ処理に使用したインパルス応答の波形図である。インパルス応答期間は0.5秒以下となっている。
【0057】
図4は(A)は、デジタルフィルタ処理により得られた重畳刺激値データである。波形歪みは生じていないことが明らかである。
【0058】
図4(B)は、フリッカ強度の変動を示すグラフである。フリッカ指標値の導出時間は12Hzに設定されている。
【0059】
なお、フリッカの指標導出は上記方式に限定されることは無く、他方式の指標、例えば面積比率で導出する方法(IES法によるFlicker Index)などであっても良い。
【0060】
このように、この実施形態では、刺激値に相当する強度が一定時間間隔で連続的に取得され、この取得された刺激値強度の連続データに対して、応答記憶部31から取得されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理が施され、視感刺激応答が重畳されたデータが生成される。従って、生成された重畳刺激値データは目の時間応答を考慮した刺激値のデータでありながらも、デジタルフーリエ変換されていないから、波形の歪みも発生せず、このためこの重畳刺激値データを基に良好なフリッカの計測を行うことができる。しかも、歪み除去のために波形の一部を削除する必要はないから、非周期性の発光波形を有する計測対象物100にも対応できる。
[第2の実施形態]
この実施形態では、TCSFを活用してインパルス応答を求める方法である。
<光計測装置の構成>
図5は、この発明の第2の実施形態に係る光計測装置1の機能構成を示すブロック図である。
図5に示すように、光計測装置1は刺激値取得部20と、周波数特性記憶部34と、変換部35と、デジタルフィルタ処理部32と、フリッカ指標導出部33を備えている。
【0061】
刺激値取得部20は、第1の実施形態の刺激値取得部20と同じ構成のものであり、光センサ21の出力を出力部22にて一定時間間隔で連続的に取得し、それを刺激値強度の連続データに変換する機能を有する。
【0062】
目の特性は広く研究され、時間応答についてはTCSFが多数報告されている。 例えば、文献「De Lange, H. Journal of the Optical Society of America, 1958 48, 777-785」では明るさ毎の違いを説明している。
【0063】
この様な研究成果を活用するために、本実施形態では、周波数特性記憶部34にTCSFなど目の周波数特性を記憶させておく。変換部35は、この周波数特性を逆フーリエ変換処理することにより、視感刺激応答に相当するインパルス応答特性に変換する。
【0064】
従来技術で説明したIEC規格などで使用されるTCSFは、目の周波数特性のうち、
図6(A)に示すような感度データのみが表現されている。しかし、インパルス応答特性への変換を正確なものにするためには、周波数特性に位相データが含まれることが望ましい。このため本実施形態では、位相特性を含む周波数特性を周波数特性記憶部34に記憶しておく。
【0065】
図6(B)に位相特性を含む目の周波数特性の一例を示す。第1の実施形態と同様に、周波数特性記憶部34に目の周波数特性を複数記憶しておき、条件に合わせて周波数特性を使い分けても良い。また、ユーザーが目の周波数特性を周波数特性記憶部34に記憶(登録)できるように構成しても良いし、任意の周波数特性が自動的に選択されても良い。
【0066】
デジタルフィルタ処理部32は、刺激値取得部20により取得した刺激値強度の連続データに対して、変換部35によって目の周波数特性から変換されたインパルス応答特性によりデジタルフィルタ処理を施し、重畳刺激値データを生成するものである。インパルス応答特性が変換部35により生成されたものである点を除いて、第1の実施形態におけるデジタルフィルタ処理部33と同じ動作を行う。
【0067】
なお、変換部35により生成されたインパルス応答特性の時間データは、目の応答期間(0.5秒程度)に比べ、十分に長くなることが多い。例えば、周波数特性が0.1Hz刻みでデータ記憶されている場合、逆フーリエ変換により生成されるインパルス応答特性のデータは10秒になる。
【0068】
デジタルフィルタ処理においては、第1の実施形態で説明した通り、インパルス応答期間が重畳刺激値データの無効期間の長さに直結する。このため、この実施形態においても、無効期間の抑制のため、変換生成されたインパルス応答特性の先頭部0.5秒以下だけをデジタルフィルタ処理に使用するのが望ましい。
【0069】
フリッカ指標導出部33は、第1の実施形態と同様に、重畳刺激値データからフリッカ指標値を導出する。
【0070】
図5に示した光計測装置1は、パーソナルコンピュータ(PC)5から計測命令を受信し、計測結果をPCに送信する。計測結果は、重畳刺激値データとフリッカ指標値である。
【0071】
なお、
図5に示した第2の実施形態の光計測装置1の構成のうち、周波数特性記憶部34と、変換部35と、デジタルフィルタ処理部32と、フリッカ指標導出部33が、第1の実施形態と同様にデータ処理装置としてのPC5内に備えられ、PC5内のプロセッサが動作プログラムに従って動作することにより、目の周波数特性のインパルス応答への変換処理、デジタルフィルタ処理による重畳刺激値データの生成、フリッカ指標値の導出等を行う構成であっても良い。
【0072】
あるいは、
図5に示した光計測装置1の構成はそのままで、周波数特性記憶部34と、変換部35と、デジタルフィルタ処理部32と、フリッカ指標導出部33を、PC5内に備えていてもよい。
【0073】
また、周波数特性記憶部34は光計測装置1に内蔵されていなくても良く、外部に存在していても良い。この場合は、外部の周波数特性記憶部34から周波数特性を取得して処理すれば良い。
[第3の実施形態]
図1に示した第1の実施形態に係る光計測装置1、
図5に示した第2の実施形態に係る光計測装置1に、IEC規格「62341-6-3」に規定された従来方式に基づくTCSFの畳込みを行うことができる機能を搭載しても良い。
この従来の計測方式の場合、TCSFの畳込み演算を周波数空間上で実施するため、離散フーリエ変換(DFT)処理や逆フーリエ変換(iDFT)処理が必要となる。このため、従来手法の機能も併有するためには、第1の実施形態の光計測装置1の場合、離散フーリエ変換(DFT)手段及び逆フーリエ変換(iDFT)手段が必要となる。第2の実施形態の場合は、逆フーリエ変換(iDFT)は変換部35で可能であることから、離散フーリエ変換(DFT)手段が必要となる。
【0074】
なお、従来の計測方式は、本実施形態の計測方式との切り替えで実施される必要はなく、刺激値取得部20で取得したデータを共用して同時計測を可能としても良い。
【0075】
ただし、従来の計測方式は無効期間が生じない優位点があるため、周期性を有する発光波形に対して同期計測する場合においては、計測精度を確保した上で測定時間を短縮できるので有益となる。一方で、本実施形態の計測方式は、前述の通り、計測条件や発光波形に対して自由度の高いフリッカ計測が実現できる。両方の計測方式を搭載することにより、目的に応じて使い分けられるようになり、利便性が増す。
【符号の説明】
【0076】
1 光計測装置
2 計測ヘッド
3 データ処理装置
20 刺激値取得部
21 光センサ
22 出力部
31 応答記憶部
32 デジタルフィルタ処理部
33 フリッカ指標導出部
34 周波数特性記憶部
35 変換部
100 計測対象物