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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250415BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021123157
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018841
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】應矢 敏明
(72)【発明者】
【氏名】冷水 由信
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 正彦
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029001(JP,A)
【文献】特開2009-248885(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016109089(DE,A1)
【文献】特開2020-168893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源を操舵状態に応じて制御する操舵制御装置であって、
前記車両の始動スイッチがオフしている場合、定められた実行条件が成立するとき、ステアリングシステムが稼働するために必要とされる一連の処理である起動シーケンスを実行する制御回路と、
前記車両が使用される予兆を検出する検出回路と、を有し、
前記制御回路は、前記始動スイッチがオフしている場合、前記検出回路を通じて前記予兆が検出されるとき、前記実行条件が成立したとして前記起動シーケンスを実行するように構成され、
前記車両は、電源として主電源および前記主電源に対する補助電源を有し、
前記制御回路は、前記始動スイッチがオフされた状態において、前記検出回路を通じて前記予兆が検出される場合、前記補助電源の容量が前記起動シーケンスを実行するに足りるとき、前記補助電源の電力を使用して前記起動シーケンスを実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記予兆は、前記車両を使用しようとするユーザの行動である請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記ユーザの行動は、前記車両への接近、ドアの開錠、前記ドアの開扉、および運転席への着座のうち少なくとも1つである請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記予兆は、生体認証の成立である請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記補助電源の容量が前記起動シーケンスを実行するに不足するとき、前記主電源の電力を使用して前記起動シーケンスを実行する請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離したステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、反力モータ、転舵モータおよび制御装置を有している。反力モータは、ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する。転舵モータは、転舵輪を転舵させる転舵力を発生する。車両の走行時、制御装置は、反力モータの制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータの制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
たとえば特許文献1の制御装置は、CPU(中央処理装置)、メモリおよび電源回路を有している。電源回路は、車両の始動スイッチがオフからオンへ切り替わったとき、車載電源から操舵制御装置へ供給される電圧をCPUが適切に動作可能となる電圧に調整する。CPUは、電源回路によって調整された電圧が供給されることによって動作する。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを所定の演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-130957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の操舵装置を含め、従来の操舵装置の制御装置は、車両の始動操作が行われたとき、起動シーケンスを実行する。起動シーケンスとは、ステアリングシステムが稼働するために必要とされる一連の処理をいう。起動シーケンスの処理には、たとえばハードウェアのチェックおよびCPUの初期化などが含まれる。
【0006】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置のように、システムが複雑になるほど起動シーケンスの処理が増加する。このため、起動シーケンスを開始してから完了するまでに必要とされる時間がより長くなる。したがって、車両の運転者が車両の始動操作を行ってから車両を発進させるまでの間に起動シーケンスが完了しないことが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源を操舵状態に応じて制御する。操舵制御装置は、前記車両の始動スイッチがオフしている場合、定められた実行条件が成立するとき、ステアリングシステムが稼働するために必要とされる一連の処理である起動シーケンスを実行する制御回路を有している。
【0008】
この構成によれば、車両の始動スイッチがオフしている場合、定められた実行条件が成立するとき、車両の始動スイッチがオン操作される前であれ、起動シーケンスが実行される。このため、車両のユーザが車両の始動操作として始動スイッチをオンしてから車両の発進操作が行われるまでの期間に起動シーケンスが実行完了する蓋然性が高められる。
【0009】
上記の操舵制御装置において、前記車両が使用される予兆を検出する検出回路を有していてもよい。前記制御回路は、前記始動スイッチがオフしている場合、前記検出回路を通じて前記予兆が検出されるとき、前記実行条件が成立したとして前記起動シーケンスを実行するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、車両の始動スイッチがオフしている場合、車両使用の予兆が検出されるとき、始動スイッチがオン操作される前であれ、起動シーケンスが実行される。このため、車両のユーザが車両の始動操作として始動スイッチをオンしてから車両の発進操作が行われるまでの期間に起動シーケンスが実行完了する蓋然性が高められる。
【0011】
上記の操舵制御装置において、前記予兆は、前記車両を使用しようとするユーザの行動であってもよい。
この構成によれば、ユーザの行動に基づき、ユーザの車両を使用する予兆を検出することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記ユーザの行動は、前記車両への接近、ドアの開錠、前記ドアの開扉、および運転席への着座のうち少なくとも1つであってもよい。
【0013】
この構成によれば、車両を使用するときにユーザが必ず行うべきであろう行動に基づき、車両使用の予兆を適切に検出することができる。
上記の操舵制御装置において、前記車両は、電源として主電源および前記主電源に対する補助電源を有していてもよい。前記制御回路は、前記始動スイッチがオフされた状態において、前記検出回路を通じて前記予兆が検出される場合、前記補助電源の容量が前記起動シーケンスを実行するに足りるとき、前記補助電源の電力を使用して前記起動シーケンスを実行するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、起動シーケンスを実行する際の電源に補助電源が使用されることにより、主電源の消耗が抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記制御回路は、前記補助電源の容量が前記起動シーケンスを実行するに不足するとき、前記主電源の電力を使用して前記起動シーケンスを実行するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、補助電源の容量が不足する場合であれ、起動シーケンスを適切なタイミングで実行することができる
【発明の効果】
【0025】
本発明の操舵制御装置によれば、車両の始動操作が行われてから車両の発進操作が行われるまでの間に起動シーケンスが完了する蓋然性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図である。
図2】第1の実施の形態の操舵制御装置および電源装置のブロック図である。
図3】第1の実施の形態の操舵制御装置による予備的な起動処理の手順を示すフローチャートである。
図4】第2の実施の形態の操舵制御装置による予備的な起動処理の手順を示すフローチャートである。
図5】第3の実施の形態の操舵制御装置による予備的な起動処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施の形態>
操舵制御装置の第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
【0028】
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0029】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31の回転軸は、減速機構32を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。反力モータ31のトルクは、ステアリングシャフト12に付与される駆動力である。
【0030】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、操舵角θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを求めることができる。
【0031】
トルクセンサ34は、操舵トルクTを検出する。操舵トルクTは、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクである。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12の途中に設けられるトーションバーの捻じれ量に基づきステアリングシャフト12に印加される操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。
【0032】
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0033】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41のトルクは、転舵シャフト14に付与される駆動力である。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0034】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0035】
<操舵制御装置>
操舵装置10は、操舵制御装置50および電源装置51を有している。操舵制御装置50は、電源装置51を介して車載の主電源52に接続されている。主電源52としては、たとえばバッテリが採用される。操舵制御装置50は、電源装置51を介して供給される主電源52の電力を消費して動作する。
【0036】
操舵制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501が挙げられる。車速センサ501は、車速Vを検出する。
【0037】
操舵制御装置50は、反力モータ31の制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。操舵制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。操舵制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0038】
操舵制御装置50は、転舵モータ41の制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。操舵制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。また、操舵制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを演算し、この演算される操舵角θに基づきピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。そして操舵制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0039】
<電源装置の詳細構成>
つぎに、電源装置の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、電源装置51は2つの電源線L1,L2を介して主電源52と接続されている。電源装置51は、充電回路51A、補助電源51B、切替回路51Cおよび電圧センサ51Dを有している。
【0040】
充電回路51Aおよび補助電源51Bは、電源装置51の内部において電源線L1上に位置している。切替回路51Cには、充電回路51Aおよび補助電源51Bを介して電源線L1が接続されている。また、切替回路51Cは、電源線L2を介して主電源52に接続されている。電源線L2は、電源線L1における接続点P1と切替回路51Cとの間に接続されている。接続点P1は、電源線L1の主電源52と充電回路51Aとの間に設定されている。また、切替回路51Cは、電源線L3を介して操舵制御装置50に接続されている。
【0041】
充電回路51Aは、補助電源51Bの充電を行うための回路である。充電回路51Aは、たとえば主電源52の出力電圧を昇圧する昇圧回路を有している。充電回路51Aは、操舵制御装置50からの指令に基づき動作する。
【0042】
補助電源51Bは、電荷を充放電可能とされた蓄電装置であって、たとえばリチウムイオンキャパシタが採用される。補助電源51Bの電圧は、たとえば操舵制御装置50を適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値よりも高く、かつ主電源52の電圧よりも低い値に設定される。
【0043】
電圧センサ51Dは、補助電源51Bの電圧を検出する。補助電源51Bとしてリチウムイオンキャパシタが採用される場合、補助電源51Bの電圧はリチウムイオンキャパシタの端子間電圧である。
【0044】
切替回路51Cは、操舵制御装置50からの指令に基づき、電源を主電源52と補助電源51Bとの間で切り替える。切替回路51Cにより切り替えられる主電源52の電力または補助電源51Bの電力は、電源線L3を介して操舵制御装置50に供給される。また、切替回路51Cにより切り替えられる主電源52の電力または補助電源51Bの電力は、図示しない電源線を介して車両の各部に供給される。
【0045】
<操舵制御装置の詳細構成>
つぎに、操舵制御装置の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、操舵制御装置50は、マイクロコンピュータ50A、駆動回路50Bおよび検出回路50Cを有している。
【0046】
駆動回路50Bは、2つのインバータ50B1,50B2を有している。これらインバータ50B1,50B2は、電源線L3を介して供給される主電源52の直流電力または補助電源51Bの直流電力を交流電力に変換する。各インバータ50B1,50B2の動作は、マイクロコンピュータ50Aにより制御される。
【0047】
マイクロコンピュータ50Aは、記憶装置(図示略)に記憶されるプログラムに従って各種の処理を実行する。マイクロコンピュータ50Aは、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有している。プロセッサは、記憶装置の作業領域に展開されるコンピュータプログラムの実行を通じて操舵装置10の全体を統括的に制御する。マイクロコンピュータ50Aは制御回路である。
【0048】
マイクロコンピュータ50Aは、充電回路51Aの制御を通じて補助電源51Bの充電を制御する。マイクロコンピュータ50Aは、電圧センサ51Dにより検出される補助電源51Bの電圧に基づき補助電源51Bの容量を検出する。マイクロコンピュータ50Aは、切替回路51Cの制御を通じて、電源を主電源52と補助電源51Bとの間で切り替える。
【0049】
マイクロコンピュータ50Aは、車両の始動スイッチ53により生成される電気信号Sstを取り込む。始動スイッチ53は、たとえばイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。始動スイッチ53は、エンジンなどの車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。始動スイッチ53は、車両の電源ポジションを切り替える際にも操作される。電気信号Sstは、始動スイッチ53がオンしている状態かオフしている状態か、すなわち車両の電源がオンしている状態かオフしている状態かを示すものである。電気信号Sstは、走行用駆動源を始動させるために始動スイッチ53が操作されたかどうかを示すものでもある。
【0050】
マイクロコンピュータ50Aは、反力制御部50A1を有している。反力制御部50A1は、反力制御を実行する。反力制御部50A1は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき操舵反力指令値を演算する。反力制御部50A1は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きい絶対値の操舵反力指令値を演算する。反力制御部50A1は、インバータ50B1の制御を通じて操舵反力指令値に応じた電力を反力モータ31へ供給する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値に応じたトルクを発生する。また、反力制御部50A1は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算する。
【0051】
マイクロコンピュータ50Aは、転舵制御部50A2を有している。転舵制御部50A2は、転舵制御を実行する。転舵制御部50A2は、反力制御部50A1により演算される操舵角θおよび車速センサ501を通じて検出される車速Vに基づき目標ピニオン角を演算する。転舵制御部50A2は、車速Vに応じて操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角を演算する。転舵制御部50A2は、車速Vが遅くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより小さくなるように、目標ピニオン角を演算する。また、転舵制御部50A2は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵制御部50A2は、ピニオン角θを目標ピニオン角に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値を演算する。転舵制御部50A2は、インバータ50B2の制御を通じてピニオン角指令値に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値に応じた角度だけ回転する。
【0052】
検出回路50Cは、車両が使用される予兆を検出する。検出回路50Cは、つぎの5つの事象(A1)~(A5)のうち少なくとも1つを検出する。これらの事象(A1)~(A5)は車両が使用される予兆を示す事象であって、後述するステアリングシステムの予備的な起動処理の実行開始の契機となる。検出回路50Cは、車両使用の予兆が検出されるとき、トリガ信号(trigger signal)Sを生成する。トリガ信号Sは、ステアリングシステムの予備的な起動処理の実行開始の契機となる電気信号である。
【0053】
(A1)ユーザの車両への接近
車両が電子キーシステムを搭載している場合、車両はユーザに所持される携帯端末との間で無線通信を行う。車両の制御装置は、車両の室内外に応答要求を無線送信することにより車室内外に通信エリアを形成する。車両の制御装置は、応答要求に対する応答を受信することにより携帯端末の位置を判定する。車両の制御装置は、携帯端末からの応答の正当性が認証されるとき、ドアの開錠を許可する。検出回路50Cは、車両の制御装置による携帯端末の位置の判定結果に基づき、車両に対するユーザの接近を検出することが可能である。
【0054】
(A2)ドアの開錠
車両が電子キーシステムを搭載している場合、車両の制御装置は、ドアの開錠が許可された状態でドアハンドルあるいはドアスイッチの操作が検出されるとき、ドアを開錠する。また、携帯端末は、開錠操作を通じて開錠要求を無線送信する。車両の制御装置は、携帯端末からの開錠要求の正当性が認証されるとき、ドアを開錠する。検出回路50Cは、車両の制御装置によるドアの開錠制御の実行結果に基づき、ドアの開錠を検出することが可能である。
【0055】
(A3)ドアの開扉
ドアの開閉状態は、車載のドアカーテシスイッチにより検出される。検出回路50Cは、カーテシスイッチの検出結果に基づき、ドアの開閉状態を検出することが可能である。
【0056】
(A4)運転席への着座
ユーザが運転席に着座しているかどうかは、運転席に設けられる着座センサにより検出される。検出回路50Cは、着座センサの検出結果に基づき、ユーザが運転席に着座していることを検出可能である。
【0057】
(A5)生体認証の成立
車両に生体認証システムが搭載されることが考えられる。車両の防犯性能をより高めるためである。生体認証とは、ユーザの身体的特徴をデータ化して本人確認に使用する認証方式をいう。ユーザの身体的特徴としては、たとえば指紋、顔の特徴、虹彩、声、あるいは手のひらが使用される。車両の制御装置は、車室内または車室外において認証装置を介した生体認証が成立するとき、ドアの開錠あるいは車両の走行用駆動源の始動を許可する。検出回路50Cは、認証装置を通じて生体認証の成否を検出可能である。
【0058】
<ステアリングシステムの予備的な始動処理>
マイクロコンピュータ50Aは、始動スイッチ53がオフしているとき、ステアリングシステムの予備的な起動処理を実行する。マイクロコンピュータ50Aは、車両の始動スイッチ53がオフしているとき、たとえば主電源52の電力を消費してステアリングシステムの予備的な起動処理を実行する。マイクロコンピュータ50Aは、電源として主電源52を使用するとき、すなわち電源として補助電源51Bを使用しないとき、フラグの値を「L」にセットする。マイクロコンピュータ50Aは、電源として補助電源51Bを使用するとき、フラグの値を「H」にセットする。
【0059】
図3のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ50Aはトリガセンシングを実行する(ステップS101)。すなわち、マイクロコンピュータ50Aは、検出回路50Cを通じてステアリングシステムの予備的な起動処理の実行開始の契機となる事象であるトリガ事象の検出処理を実行する。検出対象のトリガ事象は、先の5つの事象(A1)~(A5)のうち少なくとも1つである。検出対象のトリガ事象は、製品仕様に応じて単数または複数の事象が設定される。
【0060】
つぎに、マイクロコンピュータ50Aは、ステアリングシステムの起動が必要であるかどうかを判定する(ステップS102)。マイクロコンピュータ50Aは、定められた実行条件が成立するかどうかに基づき、ステアリングシステムの起動の要否を判定する。実行条件は、検出回路50Cにより検出対象のトリガ事象が検出されること、すなわち検出回路50Cにより生成されるトリガ信号Sが取り込まれることである。
【0061】
マイクロコンピュータ50Aは、トリガ信号Sが取り込まれないとき、ステアリングシステムの起動は必要ない旨判定し(ステップS102でNO)、処理をステップS101へ移行する。マイクロコンピュータ50Aは、トリガ信号Sが取り込まれるとき、ステアリングシステムの起動が必要である旨判定し、処理をステップS103へ移行する(ステップS102でYES)。
【0062】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS103において、補助電源51Bが使用可能な状態であるかどうかを判定する。マイクロコンピュータ50Aは、補助電源51Bの容量がステアリングシステムの起動処理を実行するに足りるとき、補助電源51Bが使用可能な状態である旨判定する(ステップS103でYES)。マイクロコンピュータ50Aは、補助電源51Bの容量がステアリングシステムの起動処理を実行するに不足するとき、補助電源51Bが使用可能な状態ではない旨判定する(ステップS103でNO)。マイクロコンピュータ50Aは、たとえば電圧センサ51Dを通じて検出される補助電源51Bの電圧としきい値電圧との比較を通じて、補助電源51Bの容量が必要とされる容量以上であるかどうかを判定する。
【0063】
マイクロコンピュータ50Aは、補助電源51Bが使用可能であるとき(ステップS103でYES)、フラグの値を「H」にセットし(ステップS104)、ステップS105へ処理を移行する。
【0064】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS105において、起動シーケンスを実行開始する。起動シーケンスとは、ステアリングシステムが稼働するために必要とされる一連の処理をいう。起動シーケンスで行われる処理の順序は、あらかじめ設定される。
【0065】
起動シーケンスで行われる処理には、たとえばハードウェアのチェックおよびCPUの初期化などが含まれる。これらの処理は、反力モータ31および転舵モータ41に対する給電を開始する前の検査である初期検査(イニシャルチェック)を含む。検査対象のハードウェアは、たとえばインバータ50B1,50B2である。
【0066】
また、起動シーケンスで行われる処理には、ステアリングホイール11と転舵輪16との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係となるように、ステアリングホイール11の回転位置を補正する処理も含まれる。舵角比とは、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角との比をいう。
【0067】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置10では、ステアリングホイール11が転舵機構からの制約を受けない。このため、車両の電源がオフしている状態でステアリングホイール11に何らかの外力が加わった際、ステアリングホイール11が回転するおそれがある。このとき、転舵輪16は動作しないため、ステアリングホイール11と転舵輪16との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じる。このため、操舵制御装置50は、ステアリングホイール11の回転位置の補正処理を実行する。操舵制御装置50は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイール11の回転位置を記憶する。操舵制御装置50は、車両の電源がオフされたときのステアリングホイール11の回転位置と起動シーケンスが実行開始されるときの現在のステアリングホイール11の回転位置との比較を通じてステアリングホイール11の回転位置のずれ量を演算する。操舵制御装置50は、ステアリングホイール11の回転位置のずれ量が「0」になるように反力モータ31の駆動を制御する。
【0068】
マイクロコンピュータ50Aは、起動シーケンスの実行を完了した後、ユーザによる車両の始動操作が行われたかどうかを判定する(ステップS106)。車両の始動操作とは、車両の走行用駆動源を始動させるために行われる始動スイッチ53の操作をいう。マイクロコンピュータ50Aは、始動スイッチ53により生成される電気信号Sstに基づき、車両の始動操作が行われたかどうかを判定する。マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われた旨判定されるとき(ステップS106でYES)、フラグの値が「H」であるかどうかを判定する(ステップS107)。
【0069】
マイクロコンピュータ50Aは、フラグの値が「H」であるとき(ステップS107でYES)、切替回路51Cを通じて電源を補助電源51Bから主電源52へ切り替える(ステップS108)。この後、マイクロコンピュータ50Aは、充電回路51Aを通じて補助電源51Bの充電を開始し(ステップS109)、処理を終了する。また、マイクロコンピュータ50Aは、フラグの値が「H」ではないときにも(ステップS107でNO)、処理を終了する。
【0070】
マイクロコンピュータ50Aは、先のステップS106でユーザによる車両の始動操作が行われていない旨判定されるとき(ステップS106でNO)、設定時間だけ経過したかどうかを判定する(ステップS110)。設定時間の計測開始の基準は、たとえば先のステップS105の起動シーケンスの実行が完了した時点、あるいはステップS106で最初に車両の始動操作が行われていない旨判定された時点である。
【0071】
マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過していないとき(ステップS110でNO)、先のステップS106へ処理を移行する。マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過したとき(ステップS110でYES)、フラグの値を「L」にセットし(ステップS111)、ステップS112へ処理を移行する。
【0072】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS112において、終了シーケンスを実行開始する。終了シーケンスとは、ステアリングシステムの機能を正常に終了するために必要とされる一連の処理をいう。終了シーケンスで行われる処理の順序は、あらかじめ設定される。終了シーケンスで行われる処理には、たとえばマイクロコンピュータ50Aが実行中である処理を停止させる処理が含まれる。また、終了シーケンスで行われる処理には、たとえばマイクロコンピュータ50Aが実行中の処理が完了するまで待機して記憶装置の作業領域に一時的に格納されたデータを記憶装置の不揮発性記憶領域に格納する処理が含まれる。マイクロコンピュータ50Aは、終了シーケンスの実行が完了した後、先のステップS101へ処理を移行する。
【0073】
なお、マイクロコンピュータ50Aは、先のステップS103において、補助電源51Bが使用可能な状態ではない旨判定されるとき(ステップS103でNO)、ユーザによる車両の始動操作が行われたかどうかを判定する(ステップS113)。
【0074】
マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われていない旨判定されるとき(ステップS113でNO)、設定時間だけ経過したかどうかを判定する(ステップS114)。マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過していないとき(ステップS114でNO)、先のステップS113へ処理を移行する。マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過したとき(ステップS114でYES)、先のステップS101へ処理を移行する。
【0075】
設定時間の計測開始の基準は、たとえばステップS113で最初に車両の始動操作が行われていない旨判定された時点である。ステップS113の設定時間は、たとえば先のステップS110の設定時間と同じ時間である。
【0076】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS113において、ユーザによる車両の始動操作が行われた旨判定されるとき(ステップS113でYES)、先のステップS105へ処理を移行し、起動シーケンスを実行開始する。このとき、電源として主電源52が使用される。
【0077】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1-1)始動スイッチ53がオフしている状態で車両使用の予兆が検出されるとき、ユーザによって車両の始動操作が行われる前にステアリングシステムの起動シーケンスが実行開始される。このため、車両の始動操作が行われてから車両の発進操作が行われるまでの期間に起動シーケンスが実行完了する蓋然性が高められる。すなわち、ユーザが車両を発進させようとするときに起動シーケンスが完了していない状況が発生しにくい。したがって、ユーザの利便性を向上させることが可能である。
【0078】
(1-2)始動スイッチ53がオフしている状態で車両使用の予兆が検出される場合、補助電源51Bの容量が起動シーケンスを実行するに足りるとき、起動シーケンスで行われる処理の電源に補助電源51Bが使用される。ユーザによる車両の始動操作が行われたとき、電源が補助電源51Bから主電源52へ切り替えられる。起動シーケンスで行われる処理の電源に補助電源51Bが使用されることにより、主電源52の消耗が抑えられる。
【0079】
(1-3)始動スイッチ53がオフしている状態で車両使用の予兆が検出される場合、補助電源51Bの容量が起動シーケンスの実行に不足するとき、起動シーケンス動作の電源に主電源52が使用される。このため、補助電源51Bの容量が不足する場合であれ、起動シーケンスを適切なタイミングで実行することができる。
【0080】
(1-4)ユーザによる車両の始動操作が行われたとき、電源が補助電源51Bから主電源52へ切り替えられる。また、補助電源51Bの充電が開始される。これにより、補助電源51Bを使用する次回の起動シーケンスの実行に備えることができる。
【0081】
(1-5)車両使用の予兆として、車両に対するユーザの接近、ドアの開錠、ドアの開扉、運転者の着座、および生体認証の成立のうち少なくとも1つが検出される。これらの事象は、車両を使用するときにユーザが必ず行うべきであろう行動である。このため、車両使用の予兆を適切に検出することができる。
【0082】
(1-6)製品仕様によっては、ステアリングシステムを起動させる実行条件として複数のトリガ事象が設定される。複数のトリガ事象が発生する状況は、ユーザが車両を使用する蓋然性がより高い状況であるといえる。たとえばユーザの車両への接近(事象A1)のみがトリガ事象として設定される場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、ユーザは使用以外の目的で車両に接近することもある。この場合、ユーザが車両を使用する意思がないにもかかわらず、起動シーケンスが実行開始されるおそれがある。これに対し、たとえばユーザの車両への接近(事象A1)およびドアの開錠(事象A2)がトリガ事象として設定される場合、ドアが開錠されなければ起動シーケンスは実行されない。このように、複数のトリガ事象を設定することによって、起動シーケンスが無駄に実行されることを抑制することができる。
【0083】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、ステアリングシステムの予備的な起動処理の一部分が第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0084】
マイクロコンピュータ50Aは、第1の実施の形態と同様に、車両の始動スイッチ53がオフしている状態において、ステアリングシステムの予備的な起動処理を実行する。
図4のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ50Aは、ステップS101~ステップS111の各処理を経て終了シーケンスを実行する(ステップS112)。マイクロコンピュータ50Aは、終了シーケンスの実行完了後、ステップS113へ処理を移行する。マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われた旨判定されるとき(ステップS113でYES)、先のステップS105へ処理を移行し、起動シーケンスを実行開始する。このとき、電源として主電源52が使用される。
【0085】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、先の(1-1)~(1-6)の第1の実施の形態の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0086】
(2-1)マイクロコンピュータ50Aは、終了シーケンスの実行完了後、ユーザによる車両の始動操作が行われた場合、電源として主電源52を使用して起動シーケンスを実行開始する。終了シーケンスの実行完了後であっても、ユーザによる車両の始動操作が行われる場合には、即時に起動シーケンスを実行開始することができる。
【0087】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。
製品仕様によっては、操舵装置10として電源装置51が割愛された構成が採用される。始動スイッチ53がオフしている状態において、主電源52の電力は図示しない引込線などの電源線を介して操舵制御装置50に供給される。この構成が採用される場合であれ、マイクロコンピュータ50Aは、第1の実施の形態と同様に、始動スイッチ53がオフしている状態において、ステアリングシステムの予備的な起動処理を実行する。
【0088】
図5のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ50Aは、トリガ事象を検出するためのトリガセンシングを実行し(ステップS101)、ステアリングシステムの起動が必要であるかどうかを判定する(ステップS102)。マイクロコンピュータ50Aは、検出回路50Cにより生成されるトリガ信号Sが取り込まれないとき、ステアリングシステムの起動は必要ない旨判定し(ステップS102でNO)、処理をステップS101へ移行する。マイクロコンピュータ50Aは、検出回路50Cにより生成されるトリガ信号Sが取り込まれるとき、ステアリングシステムの起動が必要である旨判定し(ステップS102でYES)、処理をステップS105へ移行する。
【0089】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS105において、起動シーケンスを実行開始する。この後、マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われたかどうかを判定する(ステップS106)。マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われた旨判定されるとき(ステップS106でYES)、処理を終了する。
【0090】
マイクロコンピュータ50Aは、先のステップS106でユーザによる車両の始動操作が行われていない旨判定されるとき(ステップS106でNO)、設定時間だけ経過したかどうかを判定する(ステップS110)。設定時間の計測開始の基準は、たとえば先のステップS105の起動シーケンスの実行が完了した時点である。
【0091】
マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過していないとき(ステップS110でNO)、先のステップS106へ処理を移行する。マイクロコンピュータ50Aは、設定時間だけ経過したとき(ステップS110でYES)、ステップS112へ処理を移行する。
【0092】
マイクロコンピュータ50Aは、ステップS112において、終了シーケンスを実行開始する。マイクロコンピュータ50Aは、終了シーケンスの実行が完了した後、先のステップS101へ処理を移行する。
【0093】
なお、この第3の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
すなわち、マイクロコンピュータ50Aは、先のステップS112における終了シーケンスの実行完了後、ステップS113へ処理を移行する。マイクロコンピュータ50Aは、ユーザによる車両の始動操作が行われた旨判定されるとき(ステップS113でYES)、先のステップS105へ処理を移行し、起動シーケンスを実行開始する。
【0094】
<第3の実施の形態の効果>
したがって、第3の実施の形態によれば、先の(1-1)、(1-5)および(1-6)の第1の実施の形態の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0095】
(3-1)操舵装置10が補助的な電源装置51を持たない場合であれ、マイクロコンピュータ50Aは、始動スイッチ53がオフしている状態において、ステアリングシステムの予備的な起動処理を実行することができる。
【0096】
(3-2)マイクロコンピュータ50Aは、終了シーケンスの実行完了後、ユーザによる車両の始動操作が行われた場合、電源に主電源52を使用して起動シーケンスを実行開始するようにした場合、つぎの効果が得られる。すなわち、終了シーケンスが実行完了した後であっても、ユーザによる車両の始動操作が行われる場合には、即時に起動シーケンスを実行開始することができる。
【0097】
<他の実施の形態>
なお、第1~第3の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・各実施の形態では、始動スイッチ53がオフしている状態においてトリガ事象を検出するための処理(ステップS101,ステップS103)を実行する際の電源に主電源52を使用したが、補助電源51Bを使用してもよい。
【0098】
・ユーザが車両を使用しようとするとき、少なくとも事象A1、事象A2、事象A3、事象A4の順に事象が発生する。すなわち、ユーザは車両を運転しようとするとき、駐車してある車両に接近し(事象A1)、ドアを開錠する(事象A2)。この後、ユーザは車両のドアを開けて(事象A3)、運転席に着座する(事象A4)。事象A5の生体認証は、製品仕様に応じて、ユーザが車両を運転開始するまでの一連の行動の中に組み込まれる。このことを踏まえ、たとえば5つの事象(A1)~(A5)のうちのいずれか1つが検出対象のトリガ事象として設定される場合、先のステップS106の処理の内容を、つぎのように変更してもよい。
【0099】
すなわち、マイクロコンピュータ50Aは、先のステップS105の起動シーケンスの実行が完了した後、設定時間だけ経過しても、次に発生するべきトリガ事象が発生しなかったとき、終了シーケンスを実行開始する(ステップ112)。たとえば先のステップS102においてユーザが車両に接近すること(事象A1)がステアリングシステムの起動の実行条件として設定されている場合、次に発生するトリガ事象はドアの開錠(事象A2)である。また、先のステップS102においてドアの開錠(事象A2)がステアリングシステムの起動の実行条件として設定されている場合、次に発生するトリガ事象はドアの開扉(事象A3)である。
【0100】
・各実施の形態では、車両を使用しようとするユーザの行動に伴うトリガ事象が検出されることを契機として起動シーケンスを実行開始したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、車両を使用する予定が決まっている場合、車両の使用予定を車両に予約登録するようにしてもよい。使用予定は、たとえば車両を使用する日時である。予約登録は、たとえばユーザが所持する携帯端末を使用した無線通信を通じて行ってもよいし、車室内の入力デバイスを通じて行ってもよい。マイクロコンピュータ50Aは、予約登録された日時にステアリングシステムの起動シーケンスを実行開始する。このようにしても、ユーザが車両を発進させようとするとき、すでにステアリングシステムの起動シーケンスが完了している蓋然性が高められる。
【0101】
・各実施の形態では、車両を運転しようとするユーザの行動に伴うトリガ事象が検出されることを契機として起動シーケンスを実行開始したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、マイクロコンピュータ50Aは、定められた周期でステアリングシステムの起動シーケンスを実行開始する。このようにしても、ユーザが車両を発進させようとするとき、すでにステアリングシステムの起動シーケンスが完了している蓋然性が高められる。
【0102】
・反力制御部50A1および転舵制御部50A2は、互いに独立した別個の制御装置であってもよい。
・操舵装置10は、クラッチを有していてもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。操舵制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0103】
・操舵装置10は、電動パワーステアリング装置であってもよい。この場合、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とは互いに連結された状態に維持される。ステアリングシャフト12または転舵シャフト14には、アシストモータが発生するアシスト力が付与される。アシスト力は、ステアリングホイール11の操舵を補助するための力である。電動パワーステアリング装置においても起動シーケンスが実行される。
【符号の説明】
【0104】
12…操舵機構を構成するステアリングシャフト
14…操舵機構を構成する転舵シャフト
31…反力モータ(駆動力の発生源)
41…転舵モータ(駆動力の発生源)
50…操舵制御装置
50A…マイクロコンピュータ(制御回路)
50C…検出回路
51B…補助電源
52…主電源
53…始動スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5