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特許7666227情報処理装置、情報処理プログラム及び情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理プログラム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20250415BHJP
   G01F 1/00 20220101ALI20250415BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01F1/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021135607
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030459
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 悠人
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00-1/18
G01F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定期間における予測対象のダムへの流入量と、前記所定期間における所定地点の降水量とを取得する取得部と、
前記所定期間のうち第1期間において前記流入量を出力し、前記所定期間のうち前記第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力する出力部と、
を備え、
前記第1期間における前記所定地点の降水量は、前記第2期間における前記所定地点の降水量より多い、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記出力部は、
前記流入量のノイズを抑制した基準値を生成する生成部と、
前記流入量が、前記基準値を中心としつつ、前記降水量が大きくなると小さくなる変動幅の範囲内にあるか否かを判定する判定部と、
前記流入量が前記基準値を中心とした前記変動幅の範囲外にある前記第1期間において前記流入量を出力し、前記流入量が前記基準値を中心とした前記変動幅の範囲内にある前記第2期間において前記基準値となる前記補正流入量を出力する補正値出力部と、
を含む情報処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理装置であって、
前記生成部は、前記流入量に対して移動平均処理を施して前記基準値を生成する、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の情報処理装置であって、
前記出力部は、
前記流入量と、前記降水量と、に基づいて前記変動幅を設定する設定部を含む、
情報処理装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の情報処理装置であって、
前記降水量と、前記流入量と、前記補正流入量と、に基づいて、前記ダムへの流入量を予測する予測モデルを生成するモデル生成部を更に備える、
情報処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
回帰式又はニューラルネットワークを用いた前記予測モデルを生成する、
情報処理装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の情報処理装置であって、
前記ダムの水位を計測する計測器からの出力に基づいて、前記ダムへの流入量を計算する計算部を更に備える、
情報処理装置。
【請求項8】
コンピューターに、
所定期間における予測対象のダムへの流入量と、前記所定期間における所定地点の降水量とを取得する取得部と、
前記所定期間のうち第1期間において前記流入量を出力し、前記所定期間のうち前記第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力する出力部と、
を実現させ、
前記第1期間における前記所定地点の降水量は、前記第2期間における前記所定地点の降水量より多い、
情報処理プログラム。
【請求項9】
所定期間における予測対象のダムへの流入量と、前記所定期間における所定地点の降水量とを取得するステップと、
前記所定期間のうち第1期間において前記流入量を出力し、前記所定期間のうち前記第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力するステップと、
を含み、
前記第1期間における前記所定地点の降水量は、前記第2期間における前記所定地点の降水量より多い、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理プログラム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの上流域から単位時間にダムへ流れ込む水の量(ダムへの流入量)を、機械学習によって学習された予測モデルにより予測する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ダムへの流入量を予測するためのニューラルネットワークの学習方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5234085号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、予測モデルを学習するための学習データとして、過去におけるダムへの流入量を取得する必要があるが、これを直接計測することはできない。そのため、ダムへの流入量は、ダムに設置された水位計による計測値や、放水口の開度等を考慮した計算によって取得される。
【0005】
しかしながら、特にダムの上流域における降水量が少ないほど、例えば風の影響によってダムの水位が変動しやすく、これに伴って水位計の計測値が変動しやすい。このような場合、ダムへの流入量は、風の影響を含むものとなる。
【0006】
風の影響は、ダムへの流入量の予測のために不要な情報(ノイズ)の一例である。ダムへの流入量がノイズを含むと、得られる予測モデルの精度はノイズの影響によって低下するが、特許文献1に開示された方法においては、ノイズによる精度の低下が考慮されていない。
【0007】
本発明の目的は、予測対象のダムへの流入量を精度良く予測することが可能な情報処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一の発明は、所定期間における予測対象のダムへの流入量と、前記所定期間における所定地点の降水量とを取得する取得部と、前記所定期間のうち第1期間において前記流入量を出力し、前記所定期間のうち前記第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力する出力部と、を備え、前記第1期間における前記所定地点の降水量は、前記第2期間における前記所定地点の降水量より多い、情報処理装置である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予測対象のダムへの流入量を精度良く予測することが可能な情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】情報処理システムを説明する図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】情報処理装置に実現される機能ブロックの一例を示す図である。
図4】流入量と、降水量との一例を示す図である。
図5】基準値の一例を示す図である。
図6】変動幅の一例を示す図である。
図7】変動幅を生成する方法の一例を説明する図である。
図8】変動幅を生成する方法の一例を説明する図である。
図9】変動幅を生成する方法の一例を説明する図である。
図10】変動幅を生成する方法の一例を説明する図である。
図11】基準値を中心とした変動幅を示す図である。
図12】流入量が、変動幅の範囲内にあるか否かの判定を説明する図である。
図13】ノイズが抑制された流入量の一例を示す図である。
図14】予測モデルを生成する方法の一例を説明する図である。
図15】予測モデルを生成する方法の一例を説明する図である。
図16】予測モデルを生成するまでの処理の流れを説明するフローチャートである。
図17】変動幅の他の例を示す図である。
図18】変動幅を生成する方法の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
==実施形態==
<<情報処理システム>>
図1は、本実施形態の情報処理システム1の概要を示す図である。情報処理システム1は、予測対象ダム(後述)への水の流入量を予測する予測モデルを生成するためのシステムである。情報処理システム1は、気象観測装置4と、情報処理装置5と、を備えている。図1には、更に、上流側ダム2と、下流側ダム3と、本川R1と、本川R1に合流する支川R2とを含む河川が示されている。以下、先ず、上流側ダム2と、下流側ダム3とについて説明する。
【0012】
<上流側ダム>
上流側ダム2は、この例では、本川R1と、支川R2とが合流する位置よりも上流側に設けられている。上流側ダム2には、貯留された水の水位を計測するための水位計と、貯留された水を放流するためのゲートと、ゲートの開度を計測するための開度計とが設けられている(図示せず)。
【0013】
<下流側ダム>
下流側ダム3は、情報処理システム1における予測対象のダムであり、下流側ダム3への水の流入量を予測する予測モデルが、情報処理システム1によって生成される。つまり、下流側ダム3は、「予測対象のダム」に相当する。
【0014】
下流側ダム3は、本川R1と、支川R2とが合流する位置よりも下流側に設けられている。本川R1又は支川R2を流下した水は、下流側ダム3へ流入する。ここで、本川R1を流下する水は、降水等の気象に起因する水に加え、上流側ダム2から放流された水を更に含む。
【0015】
下流側ダム3には、上流側ダム2と同様に、水位計と、ゲートと、開度計とが設けられている(図示せず)。
【0016】
<気象観測装置>
気象観測装置4は、下流側ダム3への流入量に影響を及ぼす地点の気象を観測するための装置である。気象観測装置4は、下流側ダム3よりも上流側の所定の地点(以下、「観測地点」と呼ぶ)に設けられている。本実施形態の気象観測装置4は、少なくとも雨量計を含み、観測地点における単位時間当たりの降水量を計測することができる。なお、気象観測装置4は、複数備えられてもよい。この場合、複数の観測地点の夫々に、気象観測装置4が備えられる。
【0017】
<情報処理装置>
情報処理装置5は、上流側ダム2、下流側ダム3及び気象観測装置4から取得した各種実績値のデータに基づいて、下流側ダム3への水の流入量を予測する予測モデルを生成するための装置である。以下、情報処理装置5のハードウェア構成、実現される機能ブロックの順に説明する。
【0018】
・ハードウェア構成
図2は、情報処理装置5のハードウェア構成の一例を示す図である。例示する情報処理装置5は、プロセッサ500、主記憶装置501、補助記憶装置502、入力装置503、出力装置504、及び通信装置505を備える。なお、例示する情報処理装置5は、その全部または一部が、例えば、クラウドシステムによって提供される仮想サーバのように、仮想化技術やプロセス空間分離技術等を用いて提供される仮想的な情報処理資源を用いて実現されるものであってもよい。また、情報処理装置5によって提供される機能の全部または一部は、例えば、クラウドシステムがAPI(Application Programming Interface)等を介して提供するサービスによって実現してもよい。
【0019】
プロセッサ500は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を用いて構成されている。
【0020】
主記憶装置501は、プログラムやデータを記憶する装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等である。
【0021】
補助記憶装置502は、例えば、ハードディスクドライブ、クラウドサーバの記憶領域等である。補助記憶装置502には、記録媒体の読取装置や通信装置505を介してプログラムやデータを読み込むことができる。補助記憶装置502に格納(記憶)されているプログラムやデータは主記憶装置501に随時読み込まれる。
【0022】
入力装置503は、外部からの入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等である。
【0023】
出力装置504は、処理経過や処理結果等の各種情報を出力するインタフェースである。出力装置504は、例えば、上記の各種情報を可視化する表示装置(液晶モニタ等)、上記の各種情報を音声化する装置(音声出力装置(スピーカ等))、上記の各種情報を文字化する装置(印字装置等)である。
【0024】
入力装置503及び出力装置504は、ユーザとの間で情報の受け付けや情報の提示を行うユーザインタフェースを構成する。
【0025】
通信装置505は、他の装置との間の通信を実現する装置である。通信装置505は、インターネット等の通信ネットワークNWを介して他の装置との間の通信を実現する、有線方式または無線方式の通信インタフェースである。
【0026】
情報処理装置5には、例えば、オペレーティングシステム、ファイルシステム等が導入されていてもよい。
【0027】
情報処理システム1が備える各機能は、情報処理装置5のプロセッサ500が、主記憶装置501に格納されているプログラムを読み出して実行することにより、もしくは、情報処理システム1を構成するハードウェアによって実現される。情報処理システム1は、各種の情報(データ)を、例えば、データベースのテーブルやファイルシステムが管理するファイルとして記憶する。
【0028】
・機能ブロック
図3は、情報処理装置5に実現される機能ブロックの一例を示す図である。情報処理装置5のプロセッサ500が、所定のプログラムを実行することにより、情報処理装置5には、計算部510と、取得部511と、出力部512と、モデル生成部513とが実現される。以下、夫々について説明する。
【0029】
[計算部]
計算部510は、下流側ダム3への流入量(F1(t))を計算する。ここで、tは時間であり、F1(t)は、時間tにおける下流側ダム3への流入量の流入量の計算値である。下流側ダム3への流入量は、本川R1からの流入量と、支川R2からの流入量との寄与を含む。下流側ダム3への流入量は、下流側ダム3の水位を計測する水位計等の計測器からの出力に基づいて計算される。
【0030】
なお、本実施形態では、上流側ダム2が設けられている。そのため、計算部510は、下流側ダム3への流入量の総計(Ft(t))から、例えば上流側ダム2からの放流量(Fa(t))、上流側ダム2の発電使用水量(Fb(t))といった人為的な制御による寄与を除いた流入量を、下流側ダム3への流入量(F1(t))として計算する。
【0031】
上流側ダム2からの放流量の寄与は、上流側ダム2の開度計等の計測器からの出力と、上流側ダム2から下流側ダム3への流下時間(Δt)に基づいて計算される。
【0032】
つまり、時刻tにおける下流側ダム3への流入量(F1(t))は、以下の式で表わされる。
F1(t)=Ft(t)-(Fa(t-Δt)+Fb(t-Δt))
【0033】
[取得部]
取得部511は、所定の観測期間(所定期間に相当)における予測対象のダムへの流入量と、観測期間における観測地点(所定地点に相当)の降水量とを取得する。なお、取得部511は、流入量を計算部510から取得し、降水量を気象観測装置4から取得する。
【0034】
図4は、取得部511によって取得された、流入量F1と、降水量Wとの一例を示す図である。この例での観測期間は、観測開始日の午前2時から翌日の午前7時までの29時間である。また、この例では、流入量F1と、降水量Wとについて、1時間毎のデータが取得されている。
【0035】
ここで、下流側ダム3の上流域における降水量Wが少ないほど、流入量F1はノイズを含みやすい。ここで、「ノイズ」とは、ダムへの流入量を予測するために不要な情報である。流入量F1がノイズを含むこととなる要因の一つに、下流側ダム3の水面近傍における風の影響が挙げられる。
【0036】
下流側ダム3の上流域における降水量Wが少ないほど、風の影響によってダムの水位が変動しやすく、これに伴って水位計の計測値が変動しやすい。図4において、降水量Wが少ない時間帯ほど、流入量F1において、比較的低振幅であって比較的高周波の振動が現れている。このような振動は、ノイズであると推定される。
【0037】
このようなノイズが流入量F1に含まれると、流入量F1は下流側ダム3への本来の流入量から離れたものとなり、精度が低下する。従って、流入量F1からノイズを抑制した値を出力することが好ましい。
【0038】
[出力部]
出力部512は、補正後の流入量(補正流入量に相当)を出力する(詳細は後述)。なお、計算部510が計算し、取得部511が取得した流入量F1と、補正後の流入量との区別を明確にするために、流入量F1を、「補正前の流入量F1」と呼ぶことがある。また、単に「流入量F1」と呼ぶ場合、「補正前の流入量F1」を意味する。
【0039】
なお、詳細は後述するが、補正後の流入量は、観測期間のうち一部期間(第1期間に相当)において補正前の流入量となり、観測期間のうち補正前の流入量となる一部期間を除く期間(第2期間に相当)においてノイズが抑制された値となる。
【0040】
ここで、上述の一部期間における観測地点の降水量Wは、一部期間を除く期間における観測地点の降水量Wより多い。
【0041】
以下、出力部512について詳細に説明する。出力部512は、生成部512aと、設定部512bと、判定部512cと、補正値出力部512dと、を含む。
【0042】
<生成部512a>
生成部512aは、下流側ダム3への流入量F1のノイズを抑制した基準値を生成する。このとき、生成部512aは、流入量F1の全期間に亘ってノイズを抑制した基準値を生成する。
【0043】
図5は、生成部512aによって生成された、基準値Sの一例を示す図である。図5では、図4に対して、基準値S(破線)が更に示されている。
【0044】
本実施形態では、生成部512aは、流入量F1に対して移動平均処理を施して基準値Sを生成する。具体的には、基準値Sは、夫々の時刻における、以前2時間の流入量F1の平均値としている。図5に示した基準値Sは、流入量F1において現れていた比較的低振幅であって比較的高周波の上述の振動が平滑化された値となっている。
【0045】
なお、基準値Sを生成する方法はこれに限られるものではない。移動平均処理を施す期間や移動平均処理を施すデータ数は適宜設定されればよい。また、移動平均処理を施す期間において単純に平均値とするのではなく、所定の重みを用いた重み付き平均値としてもよい。
【0046】
<設定部512b>
設定部512bは、流入量F1と、降水量Wと、に基づいて変動幅を設定する。ここで、「変動幅」とは、流入量F1と、基準値Sとの差(以下、「ばらつき」と呼ぶ)の絶対値が、どの程度の範囲内であれば流入量F1がノイズを含むと推定するかを判定するための指標である。変動幅は、降水量Wに依存する関数であり、降水量Wが大きくなると小さくなるように設定される。
【0047】
図6は、設定部512bによって設定される変動幅V1の一例を示す図である。この例では、変動幅V1は、降水量Wが0(ゼロ)から所定の閾値T1までの領域では降水量Wの増加に伴って減少する一次関数であり、降水量Wが所定の閾値T1より多い領域では0となる。ここで、変動幅V1は、降水量Wが0のときに最大値M1となり、降水量Wが閾値T1のときに0となる。
【0048】
つまり、本実施形態の変動幅V1を設定することは、最大値M1及び降水量Wの閾値T1を設定することに相当する。
【0049】
前述のように、流入量F1は、特に降水量Wが少ない場合にノイズの影響を含みやすい。従って、降水量Wが、例えば使用者が予め設定した所定の値W1よりも小さいときに、流入量F1がノイズを含むと判定しやすくなるように最大値M1を設定することが好ましい。
【0050】
一方、図5からわかるように、例えば8時から15時のように、降水量Wが比較的多い期間においてもばらつきが存在する。しかしながら、このようなばらつきは、ノイズに起因するものではないと推定される。従って、降水量Wの閾値T1を、流入量F1がノイズを含むと推定されるときの降水量Wと、流入量F1がノイズを含まないと推定されるときの降水量Wとの閾値として設定することが好ましい。
【0051】
以下、図7~10を用いて、変動幅V1の最大値M1及び降水量Wの閾値T1を設定する方法の一例について説明する。先ず、変動幅V1の最大値M1を設定する方法について、図7及び8を用いて説明する。
【0052】
図7は、図4に示した各時刻における降水量Wと、流入量F1とのデータの組を、横軸を降水量Wとし、縦軸を流入量F1とした2次元空間で表現した図である。
【0053】
図7において、所定の降水量W1を境界値とした境界が破線で示されている。降水量W1は情報処理システム1の使用者が任意に設定することができる。後述するように、最大値M1の設定において、図4に示した各時刻における降水量Wと、流入量F1とのデータの組のうち、降水量がW1よりも小さいデータが用いられる。従って、ノイズを比較的含まないデータ、つまり降水量Wが比較的多いデータが排除されるように、W1が設定されればよい。
【0054】
図8は、図7における降水量Wと、流入量F1とのデータの組のうち、降水量WがW1より小さいデータの組を抽出し、これらのばらつきについてヒストグラムとしたものである。図8には、ばらつきについての標準偏差σ1が示されている。
【0055】
最大値M1は、標準偏差σ1に基づいて設定することができる。例えば、最大値M1をσ1、2×σ1、3×σ1等のいずれかに設定することができる。最大値M1をσ1に設定した場合は、特に、降水量WがW1より小さいデータのうち、68.3%のデータがノイズを含むと推定されることになる。
【0056】
他の例として、最大値M1を、図8に示した全てのばらつきを包含する値に設定してもよい。つまり、最大値M1を、ばらつきの最大値と平均値との差、又は、ばらつきの最小値と平均値との差のうち、大きい方の値としてもよい。この場合、特に、降水量WがW1より小さいデータのうち、全てのデータがノイズを含むと推定されることになる。
【0057】
次いで、降水量Wの閾値T1を設定する方法について、図9及び10を用いて説明する。
【0058】
図9は、図7と同様のデータが示された図である。図9において、所定の流入量F3を境界値とし、破線で境界が示されている。F3は、この例では、降水量WがW1より小さい期間の基準値Sの平均値Aに上述変動幅V1の最大値M1を加えたものとする。
【0059】
図10は、図9における降水量Wと、流入量F1とのデータの組のうち、流入量F1がF3より小さいデータの組を抽出し、これらの降水量Wについてヒストグラムとしたものである。図10には、降水量Wについての標準偏差相当量σ2(図9の全データのうち、降水量Wが少ない側の68.3%に含まれる降水量Wの範囲)が示されている。
【0060】
降水量Wの閾値T1は、標準偏差相当量σ2に基づいて設定することができる。例えば、降水量Wの閾値T1をσ2、2×σ2、3×σ2等に設定することができる。
【0061】
判定部512cは、流入量F1が、基準値Sを中心としつつ、変動幅V1の範囲内にあるか否かを判定する。
【0062】
図11は、基準値Sを中心とした変動幅V1を示す図である。図11では、上限値U(点一点鎖線)と、下限値L(二点鎖線)とが示されている。上限値Uは、基準値S(破線)に対して降水量Wに応じた変動幅V1を加算した値である。下限値Lは、基準値Sに対して降水量Wに応じた変動幅V1を減算した値である。
【0063】
図11からわかるように、降水量Wの比較的多い期間では、上限値Uと下限値Lとの間の領域(変動幅V1の範囲)が比較的狭い、又は0である。一方、降水量Wの比較的少ない期間では変動幅V1の範囲が比較的広い。
【0064】
図12は、流入量F1が、変動幅V1の範囲内にあるか否かの判定を説明する図である。この例では、観測開始日の2時から7時及び16時から翌日の7時までの期間は、流入量F1が、変動幅V1の範囲内にあると判定される。一方、8時から15時までの期間は、流入量F1が、変動幅V1の範囲内にないと判定される。
【0065】
補正値出力部512dは、補正後の流入量(補正流入量に相当)を出力する。補正後の流入量F2は、補正前の流入量F1が基準値Sを中心とした変動幅V1の範囲外にある期間(第1期間に相当)において補正前の流入量F1となり、補正前の流入量F1が基準値Sを中心とした変動幅V1の範囲内にある期間(第2期間に相当)において基準値Sとなるデータである。
【0066】
図13は、補正後の流入量F2の一例を示す図である。図13において、補正後の流入量F2(太線)と、補正前の流入量F1(点線)とが示されている。この例では、補正後の流入量F2は、観測開始日の8時から15時までの期間において補正前F1となり、観測開始日の2時から7時及び16時から翌日の7時までの期間において基準値Sとなる。
【0067】
つまり、補正後の流入量F2は、観測開始日の8時から15時までの降水量Wの比較的多い期間において、補正前の流入量F1となる。また、補正後の流入量F2は、観測開始日の2時から7時及び16時から翌日の7時までの降水量Wの比較的少ない期間において、ノイズが抑制された基準値Sとなる。
【0068】
また、補正後の流入量F2は、補正前F1の全期間に亘って補正が施されたものではなく、降水量Wが所定値よりも小さい一部期間において補正が施されたものである。
【0069】
以上のことから、補正値出力部512dは、ノイズを除去した上で、下流側ダム3への本来の流入量に近く、精度が向上した補正後の流入量F2を出力することができる。補正後の流入量F2は、特に降水量Wが少ない期間において、精度が向上したものである。
【0070】
[モデル生成部]
モデル生成部513は、下流側ダム3への流入量を予測する予測モデルを生成する。予測モデルは、降水量Wと、補正前の流入量F1と、補正後の流入量F2と、に基づいて、生成される。
【0071】
本実施形態では、モデル生成部513は、回帰式を用いた予測モデルを生成する。以下、図14及び15を用いて、モデル生成部513が予測モデルを生成する手順について説明する。
【0072】
図14は、図13に示した各時刻における降水量Wと、補正後の流入量F2とのデータの組を、2次元空間で表現する手順を説明する図である。図14の下図は、横軸を降水量Wとし、縦軸を補正後の流入量F2とした2次元空間で、図13のデータの組を示した図である。
【0073】
図15は、回帰式によって生成された予測モデルを説明する図である。本実施形態では、2次の回帰式が用いられる。図15には、流入量の予測値が、降水量Wの2次関数となる予測モデルMが実線で示されている。
【0074】
ここで、降水量Wと、補正後の流入量F2とのデータの組を用いて予測モデルを生成することの利点について説明する。図14の下図は、横軸を降水量Wとし、縦軸を補正後の流入量F2とした2次元空間であるのに対し、図7は、横軸を降水量Wとし、縦軸を補正前の流入量F1とした2次元空間である。
【0075】
これらの比較からわかるように、図7は、図14に比べ、降水量Wの少ない領域においてデータが広く分散している。このような分散は、降水量Wの少ない領域におけるデータの夫々がノイズを含むことに起因している。
【0076】
これに対し、図14では、降水量Wの少ない領域においてデータの分散が抑えられている。このことは、ノイズが抑制された補正後の流入量F2を用いていることによる。これによって、特に降水量Wの少ない領域において、回帰式を用いた予測モデルの精度は向上したものとなる。
【0077】
なお、本実施形態では、回帰式を用いた予測モデルを生成することとしたが、これに限られず、他の例としてニューラルネットワーク、リカレントニューラルネットワーク、ディープラーニング、貯留関数法等を用いてもよい。
【0078】
以上説明した情報処理装置5によって生成された予測モデルMを用いることにより、予測対象のダムへの流入量を精度良く予測することが可能となる。
【0079】
<予測モデルを生成するまでの処理>
図16は、情報処理装置5が予測モデルを生成するまでの処理の流れを説明するフローチャートである。予測モデルを生成するまでの処理は、ステップS101~ステップS107を含んでいる。
【0080】
先ず、ステップ101において、計算部510は、下流側ダム3への流入量を計算する。
【0081】
次いで、ステップ102において、取得部511は、予測対象のダムへの流入量と、観測期間における観測地点の降水量とを取得する。流入量は、ステップ101において計算部510によって計算されたものを取得する。降水量は、気象観測装置4から取得する。図4は、取得部511が取得した流入量と、降水量との一例である。
【0082】
次いで、ステップ103において、生成部512aは、下流側ダム3への流入量のノイズを抑制した基準値を生成する。図5に示された基準値Sは、ステップ103において、生成部512aによって生成された基準値の一例である。
【0083】
次いで、ステップ104において、設定部512bは、流入量と、降水量と、に基づいて変動幅を設定する。図6に示された変動幅V1は、ステップ104において、設定部512bによって生成された変動幅の一例である。
【0084】
次いで、ステップ105において、判定部512cは、流入量が、基準値を中心としつつ、変動幅の範囲内にあるか否かを判定する。
【0085】
次いで、ステップ106において、補正値出力部512dは、補正後の流入量を出力する。補正後の流入量は、流入量が基準値を中心とした変動幅の範囲外にある期間において補正前の流入量となり、補正前の流入量が基準値を中心とした変動幅の範囲内にある期間において基準値となる値である。
【0086】
次いで、ステップ107において、モデル生成部513は、下流側ダム3への流入量を予測する予測モデルを生成する。図15に示された予測モデルMは、ステップ107において、モデル生成部513によって回帰式を用いて生成された予測モデルの一例である。
【0087】
以上説明した方法によって生成された予測モデルを用いることにより、予測対象のダムへの流入量を精度良く予測することが可能となる。
【0088】
==変形例1==
設定部512bによって設定される変動幅は、上記実施形態において図6に例示された変動幅V1に限られない。図17は、変動幅の他の例を示す図である。図17には、図6の例(変動幅V1)に加え、他の2つの例(変動幅V2及びV3)が示されている。
【0089】
変動幅V2及びV3のいずれも、降水量Wが0のときに最大値M1であり、降水量が閾値T1よりも大きい領域において0である。
【0090】
変動幅V2は、階段関数である。具体的には、変動幅V2は、降水量Wが閾値T1よりも小さい領域において最大値M1であり、一定値である。
【0091】
変動幅V3は、降水量Wが閾値T1よりも小さい領域において下に凸の関数である。具体的には、変動幅V3は、降水量Wが閾値T1よりも小さい領域において、下に凸の2次関数である。
【0092】
==変形例2==
上記実施形態における変動幅V1において、降水量Wの閾値T1を設定する方法は、図9及び10に例示されたものに限られない。図18は、降水量Wの閾値T1を設定する方法の他の例を示す図である。
【0093】
図18では、横軸を降水量Wとし、縦軸を補正前の流入量F1とした2次元空間において、図4のデータの組を示している。更に、図18では、これらのデータの組に基づいて生成された流入量の回帰式Rが実線で示されている。
【0094】
変形例の降水量Wの閾値T2として、回帰式Rにおいて、流入量が、基準値Sの降水量WがW1より小さい期間の平均値Aに変動幅V1の最大値M1を加えたものに対応する降水量を設定してもよい。
【0095】
これらのような変形例であっても、予測モデルを用いることにより、予測対象のダムへの流入量を精度良く予測することが可能となる。
【0096】
==変形例3==
上記実施形態においては、流入量F1の全期間について基準値が生成された。その後、降水量Wに応じて補正する期間と、補正しない期間とが特定され、補正する期間については基準値として補正後の流入量F2が出力された。
【0097】
しかし、この例に限らず、先ず、降水量Wに応じて補正する期間と、補正しない期間とが特定されてもよい。その後、流入量F1の全期間のうち、補正する期間についてのみ基準値が生成され、補正する期間については基準値として補正後の流入量F2が出力されることとしてもよい。
==まとめ==
以上、実施形態の情報処理装置5は、所定期間における予測対象のダムへの流入量F1と、所定期間における所定地点の降水量Wとを取得する取得部511と、所定期間のうち第1期間において流入量F1を出力し、所定期間のうち第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力する出力部512と、を備え、第1期間における所定地点の降水量Wは、第2期間における所定地点の降水量Wより多い。
【0098】
このような構成によれば、降水量Wが少ない場合に発現しやすいノイズを、流入量F1から抑制した補正後の流入量F2を生成することができる。これによって、降水量Wと、補正後の流入量F2とに基づいて、生成された予測モデルは、ノイズの影響が抑制され、予測精度が向上したものとなる。
【0099】
情報処理装置5において、出力部512は、流入量F1のノイズを抑制した基準値Sを生成する生成部512aと、流入量F1が、基準値Sを中心としつつ、降水量Wが大きくなると小さくなる変動幅V1の範囲内にあるか否かを判定する判定部512cと、流入量F1が基準値Sを中心とした変動幅V1の範囲外にある第1期間において流入量F1となり、流入量F1が基準値Sを中心とした変動幅V1の範囲内にある第2期間において基準値Sとなる補正流入量を出力する補正値出力部512dと、を含む。このような構成によれば、流入量F1においてノイズを含む期間と、ノイズを含まない期間とを容易に推定することができる。
【0100】
情報処理装置5において、生成部512aは、流入量F1に対して移動平均処理を施して基準値Sを生成する。このような構成によれば、容易な手順でノイズを抑制することができる。
【0101】
情報処理装置5において、出力部512は、流入量F1と、降水量Wと、に基づいて変動幅V1を設定する設定部512bを含む。このような構成によれば、流入量F1においてノイズを含む期間と、ノイズを含まない期間とを精度良く推定することができる。
【0102】
情報処理装置5において、降水量Wと、流入量と、補正流入量と、に基づいて、ダムへの流入量を予測する予測モデルを生成するモデル生成部513を更に備える。このような構成によれば、ノイズの影響が抑制され、予測精度が向上した予測モデルを生成することができる。
【0103】
情報処理装置5において、回帰式又はニューラルネットワークを用いた予測モデルを生成する。このような構成によれば、予測モデルの予測精度が更に向上する。
【0104】
情報処理装置5において、ダムの水位を計測する計測器からの出力に基づいて、ダムへの流入量F1を計算する計算部510を更に備える。このような構成によれば、例えば上流側ダム2からの放流量といった人為的な制御による寄与を除いた流入量を計算することができる。
【0105】
実施形態の情報処理プログラムは、コンピューターに、所定期間における予測対象のダムへの流入量と、所定期間における所定地点の降水量Wとを取得する取得部511と、所定期間のうち第1期間において流入量F1を出力し、所定期間のうち第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力する出力部512と、を実現させ、第1期間における所定地点の降水量Wは、第2期間における所定地点の降水量Wより多い。
【0106】
このようなプログラムによれば、降水量Wが少ない場合に発現しやすいノイズを、流入量F1から抑制した補正後の流入量F2を生成することができる。これによって、降水量Wと、補正後の流入量F2とに基づいて、生成された予測モデルは、ノイズの影響が抑制され、予測精度が向上したものとなる。
【0107】
実施形態の情報処理方法は、所定期間における予測対象のダムへの流入量F1と、所定期間における所定地点の降水量Wとを取得するステップと、所定期間のうち第1期間において流入量F1を出力し、所定期間のうち第1期間を除く第2期間においてノイズが抑制された補正流入量を出力するステップと、を含み、第1期間における所定地点の降水量Wは、第2期間における所定地点の降水量Wより多い。
【0108】
このような方法によれば、降水量Wが少ない場合に発現しやすいノイズを、流入量F1から抑制した補正後の流入量F2を生成することができる。これによって、降水量Wと、補正後の流入量F2とに基づいて、生成された予測モデルは、ノイズの影響が抑制され、予測精度が向上したものとなる。
【0109】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【0110】
例えば、上記実施形態において、情報処理装置5は、生成された予測モデルを用いて将来の時点の流入量を予測する手段を備えない態様を示したが、これを実行するための予測部や、予測結果を出力する出力部等を更に備えてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1:情報処理システム
2:上流側ダム
3:下流側ダム
4:気象観測装置
5:情報処理装置
500:プロセッサ
501:主記憶装置
502:補助記憶装置
503:入力装置
504:出力装置
505:通信装置
510:計算部
511:取得部
512:出力部
512a:生成部
512b:設定部
512c:判定部
512d:補正値出力部
513:モデル生成部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18