(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】Cu5Ca系粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20250415BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20250415BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250415BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20250415BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20250415BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20250415BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20250415BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250415BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20250415BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20250415BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20250415BHJP
C07C 1/02 20060101ALN20250415BHJP
C07C 9/04 20060101ALN20250415BHJP
C07C 9/06 20060101ALN20250415BHJP
C07C 11/04 20060101ALN20250415BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B01J23/78 M
B01J37/08
B22F1/16
C22C1/04 A
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B11/031
C25B11/054
C25B11/075
C07C1/02
C07C9/04
C07C9/06
C07C11/04
(21)【出願番号】P 2021151544
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】板原 浩
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-067336(JP,A)
【文献】特開2004-321924(JP,A)
【文献】特開2015-224164(JP,A)
【文献】特表2018-529840(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109675516(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111074294(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0141238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/00,23/78,37/00,37/08
B22F 1/00,1/16,9/24
C07C 1/02,9/04,9/06,11/04
C22C 1/04
C25B 3/03,3/26,9/00,11/031,
11/054,11/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアの表面に形成された表層と
を備えた複合粒子を含み、
前記コアは、Cu
5Ca金属間化合物からなり、
前記表層は、Cu
5Ca
1-xO
y化合物(0<x≦1、0<y≦2.5)からなり、かつ、ナノポーラス構造を有する
Cu
5Ca系粉末。
【請求項2】
XRDにおいて、Cu
5Caの主ピークの強度I
0に対する、Cuの主ピークの強度Iの比(=I/I
0)が1.2以下である請求項1に記載のCu
5Ca系粉末。
【請求項3】
前記I/I
0が0.20以下である請求項2に記載のCu
5Ca系粉末。
【請求項4】
一次粒子の平均粒径が20μm以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末。
【請求項5】
CO
2還元触媒として用いられる請求項1から4までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末。
【請求項6】
Cu、CaCl
2、及び、Naを含む原料を調製する第1工程と、
前記原料を不活性ガス雰囲気下で加熱し、Cu
5Ca粒子を含む反応生成物を得る第2工程と、
前記Cu
5Ca粒子の少なくとも表層部分からCaを引き抜き、請求項1から5までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末を得る第3工程と
を備えたCu
5Ca系粉末の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程は、前記反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄する工程を含む請求項6に記載のCu
5Ca系粉末の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程は、前記反応生成物を含む電極を電解液中に浸漬し、CO
2を吹き込みながら前記電極に電場を印加する工程を含む請求項6又は7に記載のCu
5Ca系粉末の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程の後、前記第3工程の前に、前記反応生成物から未反応のNaを除去する第4工程をさらに備えた請求項6から8までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末の製造方法。
【請求項10】
前記原料は、NaClをさらに含む請求項6から9までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末の製造方法。
【請求項11】
前記原料のCu/CaCl
2比(モル比)は、1.0以上5.0以下である請求項6から10までのいずれか1項に記載のCu
5Ca系粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu5Ca系粉末及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、主成分としてCu5Ca金属間化合物を含み、CO2還元触媒として有用なCu5Ca系粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「CO2還元触媒」とは、二酸化炭素(CO2)を有用物質に還元することが可能な触媒をいう。CO2還元により得られる有用物質としては、例えば、一酸化炭素(CO)、シンガス(CO+H2)、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H7OH)などがある。
【0003】
CO2還元触媒を用いると、大気中に放出されたCO2を回収し、回収されたCO2を有用物質に変換し、これを資源として再利用することが可能となる。すなわち、電気化学的CO2還元反応は、CO2排出削減と、CO2からの有用物質の生成の両面で期待されている。そのため、CO2還元反応に対して高い触媒活性(高選択性と高変換効率)を示す触媒の探索が精力的に行われている。しかしながら、従来のCO2還元触媒を用いたエチレンなどの多炭素生成物(multicarbon products)の合成は、一般に、選択性が低く、エネルギー効率も低いという問題がある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、非特許文献1には、電解研磨された多結晶Cu電極に対し、KIを含むKHCO3水溶液中において電気化学的酸化-還元サイクルを付与することにより、Cu電極表面を再構築する方法が開示されている。
同文献には、
(A)このような方法により、絡み合ったCuナノワイヤーからなり、階層的な多孔質構造を有するCu膜(Re-Cu-I)が得られる点、及び、
(B)Re-Cu-Iの-1.09V vs. RHEにおけるC2ファラデー効率は80%に達する点
が記載されている。
【0005】
非特許文献1に記載の方法を用いると、Cuを主成分とするポーラス構造体を得ることができる。同文献に記載の例では、酸化Cuから酸素を電気化学的に引き抜くことによりポーラス構造体を作製している。
一方、金属間化合物は、2種以上の金属元素を含む化合物であるが、金属間化合物から構成元素の一部を溶出させると、金属間化合物の表面にポーラス構造を形成することができると考えられる。しかしながら、Cuを含む金属間化合物を主成分とする粉末、Cuを含む金属間化合物からなるコアの表面にポーラス構造が形成された複合粒子を含む粉末、あるいは、このような粉末からなるCO2還元触媒が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jianyu Han et al., Chem Sci., 2020, 11, 10698-10704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、Cu5Ca金属間化合物を主成分とする新規なCu5Ca系粉末を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、CO2還元触媒として有用な新規なCu5Ca系粉末を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような粉末を製造することが可能な新規なCu5Ca系粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るCu5Ca系粉末は、
コアと、
前記コアの表面に形成された表層と
を備えた複合粒子を含み、
前記コアは、Cu5Ca金属間化合物からなり、
前記表層は、Cu5Ca1-xOy化合物(0<x≦1、0<y≦2.5)からなり、かつ、ナノポーラス構造を有する
ことを要旨とする。
【0009】
本発明に係るCu5Ca系粉末の製造方法は、
Cu、CaCl2、及び、Naを含む原料を調製する第1工程と、
前記原料を不活性ガス雰囲気下で加熱し、Cu5Ca粒子を含む反応生成物を得る第2工程と、
前記Cu5Ca粒子の少なくとも表層部分からCaを引き抜き、本発明に係るCu5Ca系粉末を得る第3工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0010】
Cu、CaCl2及びNaを含む原料を加熱すると、CaCl2がNaにより還元され、Ca及びNaClが生成する。生成したCaはさらにCuと反応し、Cu5Ca粒子が生成する。CuはNa融液への溶解度が低いため、Na融液が存在する環境下において生成したCu5Ca粒子は、大きく粒成長することがなく、微粒子となる。また、この時、原料の配合比率や加熱条件を最適化すると、Cu5Ca粒子を含み、かつ、未反応のCuの少ない反応生成物が得られる。
【0011】
次に、得られた反応生成物から必要に応じて未反応Naを除去した後、反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄し、及び/又は、電解液中において反応生成物に電場を印加すると、反応生成物に含まれる水溶性成分が除去されると同時に、Cu5Ca粒子の表面からCaの全部又は一部が除去される。その結果、コアがCu5Ca金属間化合物からなり、表層がCuを主成分とし、かつ、ナノポーラス構造を有する複合粒子を含むCu5Ca系粉末が得られる。
【0012】
このようにして得られたCu5Ca系粉末は、CO2還元触媒として機能する。また、複合粒子の表面に存在するナノポーラス構造を有する表層は、反応中間体を活性化し、エチレンなどのCO2還元物の生成を促進させる可能性があると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Cu
5Ca系粉末の合成手順のフロー図、及び、合成に使用した反応容器の模式図である。
【
図2】実施例1~2及び比較例2で得られた生成物のXRDパターンである。
【
図3】実施例3で得られた生成物のXRDパターンである。
【
図4】比較例2で得られた生成物のSEM像である。
【
図5】実施例1で得られた生成物のSEM像である。
【0014】
【
図6】実施例2で得られた生成物のSEM像である。
【
図7】実施例3で得られた生成物のSEM像である。
【
図8】実施例3で得られた生成物の断面STEM像である。
【
図9】実施例1で得られた生成物の触媒活性を評価する際の電流密度の経時変化である。
【0015】
【
図10】実施例1で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(棒グラフ)である。
【
図11】実施例3で得られた生成物の触媒活性を評価する際の電流密度の経時変化である。
【
図12】実施例3で得られた生成物の各印加電圧ので電流効率(棒グラフ)である。
【
図13】実施例3で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(折線グラフ)である。
【
図14】比較例1で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(棒グラフ)である。
【0016】
【
図15】実施例4で得られた生成物のXRDパターンである。
【
図16】実施例5で得られた生成物のXRDパターンである。
【
図17】
図17(A)は、実施例5で得られた生成物の断面STEM像である。
図17(B)は、
図17(A)の(1)の部分の拡大断面STEM像である。
図17(C)は、
図17(A)の(2)の部分の拡大断面STEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Cu5Ca系粉末]
本発明に係るCu5Ca系粉末は、
コアと、
前記コアの表面に形成された表層と
を備えた複合粒子を含む。
前記コアは、Cu5Ca金属間化合物からなる。
さらに、前記表層は、Cu5Ca1-xOy化合物(0<x≦1、0<y≦2.5)からなり、かつ、ナノポーラス構造を有する。
【0018】
[1.1. 微構造]
後述するように、本発明に係るCu5Ca系粉末は、
(a)Cu、CaCl2、及びNaを含む原料、又は、これらに加えてさらにNaClを含む原料を反応させ、
(b)反応生成物に含まれるCu5Ca粒子の表層からCaを引き抜く
ことにより得られる。
Cu-Ca二元系には、Cu5Ca、CuCa、及び、Ca2Cuの3種類の金属間化合物が存在する。上述した方法を用いると、主成分としてCu5Ca金属間化合物を含む粉末が得られる。
【0019】
具体的には、Cu、CaCl2、及びNaを含む原料を加熱すると、CaCl2がNa(融点:98℃)により還元され、Ca及びNaClが生成する。生成したCaはさらにCuと反応し、Cu5Ca粒子が生成する。原料中にさらにNaClが含まれている場合、CaCl2とNaClが共晶を形成するために原料の融点が低下し、融液が生成されやすくなる。融液が生成すると、CaとCuとの反応がさらに促進される。
【0020】
反応直後の反応生成物中には、Cu5Ca粒子が含まれている。この反応生成物から必要に応じて未反応Naを除去した後、反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄し、及び/又は、電解液中において反応生成物に電場を印加すると、反応生成物に含まれる水溶性成分が除去されると同時に、Cu5Ca粒子の表面からCaの全部又は一部が溶出する。その結果、コアと、コアの表面に形成された表層とを備えた複合粒子が生成する。
【0021】
この場合、コアは、Cu5Ca金属間化合物からなる。コア中において、Cu/Ca比は5(整数比)を維持していると考えられる。
一方、表層は、Cu5Ca1-xOy化合物(0<x≦1、0<y≦2.5)からなる。表層は、粒子の表面近傍に存在するCu5CaからCaの全部又は一部が溶出することにより形成されるため、Cu/Ca比は5を超える。また、溶媒洗浄後に複合粒子中の酸素濃度が増加する場合があることから、Caが溶出される際に粒子表面が部分的に酸化している場合があると考えられる。さらに、表層は、Cu5CaからCaの全部又は一部が溶出することにより形成されるため、Cuを主成分とするナノポーラス構造を有している。
【0022】
表層の厚さは、Caの引き抜き方法、引き抜き条件等により異なる。例えば、Caの引き抜き方法として、後述する洗浄法を用いた場合、表層の厚さは、20nm~100nm程度となる。
一方、Caの引き抜き方法として、後述する電場印加法を用いた場合、表層の厚さは、500nm~2μm程度となる。
いずれの場合も、Caが引き抜かれた箇所のCuが遊離、再析出して、別の純Cu粒子を形成する場合がある。
【0023】
[1.2. 異相]
反応生成物には、Cu5Ca粒子以外に、未反応原料(例えば、Cuなど)や副生成物(例えば、Cu2O、炭酸カルシウムなど)が含まれる場合がある。これらのうち、Cuは溶媒に対して不溶又は難溶である。そのため、原料中に相対的に過剰のCuを添加した場合、あるいは、原料間の反応が十分に進まない条件下において反応させた場合、溶媒洗浄後もCuが残留することがある。
不純物として残留するCuの量は、XRDにおいて、Cu5Caの主ピークの強度I0に対する、Cuの主ピークの強度Iの比(=I/I0)で表すことができる。
後述する方法を用いる場合において、製造条件を最適化すると、I/I0比が1.2以下であるCu5Ca系粉末が得られる。製造条件をさらに最適化すると、I/I0比が1.0以下、0.50以下、0.20以下、あるいは、0.05未満であるCu5Ca系粉末が得られる。
【0024】
[1.3. 平均粒径]
原料を所定の温度に加熱すると、Na融液が生成する。Cuは、Na融液への溶解度が低いため、Na融液が存在する環境下においては、生成したCu5Ca粒子は、大きく粒成長することはなく、微粒子となる。
上述した方法を用いる場合において、製造条件を最適化すると、一次粒子の平均粒径が20μm以下であるCu5Ca系粉末が得られる。製造条件をさらに最適化すると、一次粒子の平均粒径は、5μm以下となる。
ここで、「一次粒子の平均粒径」とは、顕微鏡観察下において無作為に選択された20個以上の一次粒子(粒界で囲まれた領域)の長手方向のサイズの平均値をいう。
【0025】
[1.4. 用途]
本発明に係るCu5Ca系粉末は、コアと、コアの表面に形成された表層とを備えた複合粒子を含んでいる。表層は、Cuを主成分とするナノポーラス構造を有している。そのため、本発明に係るCu5Ca系粉末は、CO2還元触媒として好適である。
本発明に係るCu5Ca系粉末をCO2還元触媒として使用した場合、Cuを主成分とするナノポーラス構造は、反応中間体を活性化し、エチレンなどのCO2還元物の生成を促進させる可能性があると考えられる。
【0026】
[2. Cu5Ca系粉末の製造方法]
本発明に係るCu5Ca系粉末の製造方法は、
Cu、CaCl2、及び、Naを含む原料を調製する第1工程と、
前記原料を不活性ガス雰囲気下で加熱し、Cu5Ca粒子を含む反応生成物を得る第2工程と、
前記Cu5Ca粒子の少なくとも表層部分からCaを引き抜き、本発明に係るCu5Ca系粉末を得る第3工程と
を備えている。
本発明に係るCu5Ca系粉末の製造方法は、前記第2工程の後、前記第3工程の前に、前記反応生成物から未反応のNaを除去する第4工程をさらに備えていても良い。
【0027】
[2.1. 第1工程]
まず、Cu、CaCl2、及び、Naを含む原料を調製する(第1工程)。前記原料は、NaClをさらに含むものでも良い。
これらの内、Cu及びCaCl2は、Cu5Caを合成するための主原料である。Naは、CaCl2を還元し、Caを生成させるための還元剤である。
NaClは、CaCl2と共晶を生成し、原料の融点を低下させる作用がある。NaClは必ずしも必要ではないが、原料にNaClを添加すると、反応時により多くの融液が生成しやすくなる。その結果、より低い温度において反応が進行する場合がある。
【0028】
原料の配合比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な配合比率を選択することができる。
一般に、原料のCu/CaCl2比(モル比)が小さくなりすぎると、未反応のCaCl2が多量に残留する場合がある。従って、Cu/CaCl2比は、1.0以上が好ましい。Cu/CaCl2比は、さらに好ましくは、3.0以上である。
一方、Cu/CaCl2比が過剰になると、未反応のCuが多量に残留する場合がある。従って、Cu/CaCl2比は、5.0以下が好ましい。
【0029】
Naは、CaCl2の還元剤である。原料中のCaCl2のすべてを還元するには、理想的にはCaCl2のモル数の2倍に相当するNaが必要となる。そのため、原料中のNa/CaCl2比(モル比)が小さくなりすぎると、未反応のCaCl2が多量に残留する場合がある。従って、Na/CaCl2比は、2.0以上が好ましい。Na/CaCl2比は、さらに好ましくは、4.0以上である。
一方、Na/CaCl2比が大きくなりすぎると、未反応のNaが多量に残留する場合がある。従って、Na/CaCl2比は、5.0以下が好ましい。
【0030】
NaCl及びCaCl2は、いずれも単独では融点が800℃程度である。一方、NaClとCaCl2がモル比で1:1となる組成は、共晶組成であり、融点が500℃程度まで低下する。そのため、原料中にNaClが含まれる場合において、原料中のNaCl/CaCl2比(モル比)が小さくなりすぎると、原料の融点が上昇する。従って、NaCl/CaCl2比は、0.5以上が好ましい。NaCl/CaCl2比は、さらに好ましくは、1.0以上である。
同様に、NaCl/CaCl2比が大きくなりすぎると、原料の融点が上昇する。従って、NaCl/CaCl2比は、2.0以下が好ましい。
【0031】
[2.2. 第2工程]
次に、前記原料を不活性ガス雰囲気下で加熱し、Cu5Ca粒子を含む反応生成物を得る(第2工程)。
原料の加熱温度は、原料組成に応じて、最適な温度を選択するのが好ましい。一般に、加熱温度が低すぎると、実用的な時間内に反応が十分に進行しなくなる場合がある。従って、加熱温度は、600℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、金属間化合物が分解し、Cuに戻る場合がある。従って、加熱温度は、900℃以下が好ましい。
【0032】
加熱時間は、原料間の反応が十分に進行する時間である限りにおいて、特に限定されない。加熱時間は、加熱温度に応じて最適な時間を選択するのが好ましい。
また、加熱は、原料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0033】
[2.3. 第3工程]
次に、前記Cu5Ca粒子の少なくとも表層部分からCaを引き抜く(第3工程)。これにより、本発明に係るCu5Ca系粉末が得られる。
Cu5Ca粒子の表層部分からCaを引き抜く方法は、Caの引き抜きが可能な限りにおいて、特に限定されない。このような方法としては、例えば、
(a)反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄する方法(洗浄法)、
(b)電解液中において反応生成物に電場を印加する方法(電場印加法)
などがある。
【0034】
[2.3.1. 洗浄法]
Cu5Ca粒子を含む反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄すると、Cu5Ca粒子の少なくとも表層からCaを引き抜くことができる。また、原料及び反応生成物中には、Ca、CaCl2、NaClなどの水溶性成分が含まれる。反応生成物の洗浄溶媒として、水を含む溶媒を用いると、Caの引き抜きと同時に、これらの水溶性成分を取り除くことができる。
【0035】
水を含む溶媒は、Cu5Ca粒子の表層からのCaの引き抜きが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。水を含む溶媒としては、例えば、
(a)水、
(b)NaOH水溶液などのアルカリ性水溶液、
(c)HCl水溶液などの酸性水溶液、
(d)水と有機溶媒との混合溶媒、
などがある。
洗浄条件は、特に限定されるものではなく、Caの引き抜きが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。洗浄は、1種類の溶媒を用いて1回だけ行っても良く、あるいは、組成の異なる複数種類の溶媒を用いて複数回行っても良い。
【0036】
[2.3.2. 電場印加法]
まず、Cu5Ca粒子を含む反応生成物を用いて電極を作製する。この電極を電解液中に浸漬し、CO2を吹き込みながら電極に電場を印加すると、Cu5Ca粒子の少なくとも表層からCaを引き抜くことができる。電解液には水が含まれているので、電解液に電極を浸漬すると、Caの引き抜きと同時に、水溶性成分も除去される。電場印加法は、洗浄法と比べて工程が煩雑となるが、粒子の表層からより深いところまでナノポーラス構造を形成できるという利点がある。
電場印加法は、単独で用いても良く、あるいは、洗浄法と組み合わせて用いても良い。洗浄法と電場印加法を組み合わせる場合、洗浄法の前に電場印加法を行っても良く、あるいは、洗浄法の後に電場印加法を行っても良い。
【0037】
電解液は、Cu5Ca粒子の表層からのCaの引き抜きが可能である限りにおいて、特に限定されない。電解液としては、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、塩化水素水溶液、硫酸水溶液などがある。
電場の印加は、電解液にCO2を吹き込みながら行うことが好ましい。これは、Cu5Ca粒子の表面でCO2とプロトンとの反応が起こり、プロトンが消費されて局所的にpHが上昇し、Caが脱離しやすくなるためである。
電場の印加条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。一般に、電極に印加する電場が大きくなるほど、及び/又は、電場の印加時間が長くなるほど、より多くのCaを引き抜くことができる。
【0038】
[2.4. 第4工程]
原料中に相対的に多量のNaを添加した場合、反応生成物中に未反応のNaが残存している場合がある。このような場合において、反応生成物をそのまま水を含む溶媒で洗浄し、あるいは、反応生成物と電解液とを接触させると、Naが水と激しく反応し、発火する場合がある。このような場合、Caの引き抜きを行う前に、反応生成物から未反応のNaを除去するのが好ましい(第4工程)。
【0039】
Naの除去方法は、反応生成物から未反応のNaを安全に除去可能なものである限りにおいて、特に限定されない。Naの除去方法は、特に、反応生成物をアルコールで洗浄する方法が好ましい。Naを含む反応生成物をアルコールで洗浄すると、Naとアルコールとが反応し、アルコールに可溶なナトリウムアルコキシドが生成する。その結果、反応生成物からNaを安全に除去することができる。
【0040】
洗浄条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。一般に、より長鎖のアルコールの方が、Naとの反応がより穏やかに進行する。そのため、アルコール洗浄は、鎖長が順次短くなるように、複数種類のアルコールを用いて複数回洗浄するのが好ましい。例えば、反応生成物をプロパノールで洗浄した後、エタノールで洗浄し、さらにメタノールで洗浄するのが好ましい。
【0041】
[3. 作用]
Cu、CaCl2及びNaを含む原料を加熱すると、CaCl2がNaにより還元され、Ca及びNaClが生成する。生成したCaはさらにCuと反応し、Cu5Ca粒子が生成する。CuはNa融液への溶解度が低いため、Na融液が存在する環境下において生成したCu5Ca粒子は、大きく粒成長することがなく、微粒子となる。また、この時、原料の配合比率や加熱条件を最適化すると、Cu5Ca粒子を含み、かつ、未反応のCuの少ない反応生成物が得られる。
【0042】
次に、得られた反応生成物から必要に応じて未反応Naを除去した後、反応生成物を、水を含む溶媒で洗浄し、及び/又は、電解液中において反応生成物に電場を印加すると、反応生成物に含まれる水溶性成分が除去されると同時に、Cu5Ca粒子の表面からCaの全部又は一部が除去される。その結果、コアがCu5Ca金属間化合物からなり、表層がCuを主成分とし、かつ、ナノポーラス構造を有する複合粒子を含むCu5Ca系粉末が得られる。
【0043】
このようにして得られたCu5Ca系粉末は、CO2還元触媒として機能する。また、複合粒子の表面に存在するナノポーラス構造を有する表層は、反応中間体を活性化し、エチレンなどのCO2還元物の生成を促進させる可能性があると考えられる。
【実施例】
【0044】
(実施例1~3、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1~3、比較例2]
図1に、Cu
5Ca系粉末の合成手順のフロー図、及び、合成に使用した反応容器の模式図を示す。まず、所定の比率でCu、CaCl
2、及びNaClを配合し、混合粉末を得た。この混合粉末に所定量の金属Naをさらに加え、原料混合物を得た。混合粉末と金属Naの総量が約200mgとなるように、各原料の配合量を調整した。
【0045】
反応容器10は、ステンレス鋼製のセル12と、セル内に挿入されたBNルツボ14と、セル12の開口部を密閉するための蓋16とを備えている。Ar雰囲気下において、BNルツボ14に原料混合物20を入れ、これをセル12内に挿入した。さらに、セル12の開口部を蓋16で密閉した。この状態で、反応容器10を400~750℃に加熱した。
反応終了後、反応容器10を室温まで冷却し、大気中において反応容器10から試料を取り出した。次いで、反応生成物をプロパノールで洗浄した。その後、エタノール、メタノール、水の順に溶媒を変えてさらに洗浄した。さらに、回収された固形分を80℃、2hの条件下で真空乾燥させた。
【0046】
[1.2. 比較例1]
市販のCu粉末をそのまま試験に供した。
【0047】
【0048】
なお、本発明においては、加熱時に金属NaとCaCl2からNaClとCaを生成させると同時に、CaとCuとを融液を介して接触させ、反応させることを意図している。
また、CaCl2とNaClは、それぞれ、単独では融点が800℃程度である。一方、両者を混合する場合において、混合物の組成を共晶組成(モル比で約1:1)にすると、融点が500℃程度に低下する。系内に予めNaClを添加するのは、より低い温度で融液を発生させ、CaとCuとの反応を促進させることを意図している。
【0049】
[2. 試験方法]
[2.1. X線回折(XRD)測定]
XRDを用いて、反応生成物の同定を行った。
[2.2. 電子顕微鏡観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、反応生成物の観察、及び、一次粒子の平均粒径の測定を行った。また、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、反応生成物の断面の観察、及び、組成分析を行った。
【0050】
[2.3. CO2還元触媒活性の評価]
試料粉末(約4mg)をミクロスパーテルを用いてカーボンペーパー(CP)表面上に擦り付けて担持した。これを作用極(WE)として、電解槽に設置した。対極(CE)には白金箔(Pt foil)を用い、参照極(RE)には、Ag/AgCl電極を用いた。WEとCEは、陽イオン交換膜を用いて隔離した。電解液には、0.5M炭酸水素カリウム(KHCO3)水溶液を用いた。
CO2をWE裏面(CP側)から供給しながら(流速:10sccm)、REを基準として、-1.2~-2.4Vの電位をWEに印加した。この時にWEに流れる電流をポテンショスタットで計測した。また、WE側から生成されたガスの濃度をガスクロマトグラフで計測した。
【0051】
ここで、触媒活性の指標である電流効率(%)は、次のようにして算出した。
測定中のあるタイミングで採取した生成ガスの成分の濃度(ppm)が、測定時間(t分)の間、一定に保たれているものと仮定し、次式から、t分間で発生したガスの生成量(mL)を算出した。
生成量(mL)=生成物の濃度(ppm)×流速(10sccm)×時間(tmin)
【0052】
次に、各ガスの生成量(mL)と分子量からモル数を算出した。各ガスの生成に必要な電子数は、H2で2個、COで2個、CH4で8個、C2H4で12個、C2H6で16個、エタノール(EtOH)で12個、1-プロパノール(PrOH)で16個である。
また、t分間に流れた電気量は、計測された電流値を時間で積分することで算出した。これらの値を使って、次式から電流効率を算出した。
電流効率(%)=(モル数×電子数)/(電気量/ファラデー定数)×100
【0053】
[3. 結果]
[3.1. XRD測定]
図2に、実施例1~2及び比較例2で得られた生成物のXRDパターンを示す。
図3に、実施例3で得られた生成物のXRDパターンを示す。さらに、表2に、XRD最強線のピーク強度比を示す。
図2、
図3、及び表2より、以下のことが分かる。
【0054】
(1)仕込み組成と加熱温度により、Cu、Cu+Cu5Ca、又は、Cu5Caの粉末が得られた。実施例1~3においては、Cu5Caの主ピークの強度(I0)に対する異相(Cu)の主ピークの強度(I)の比(=I/I0)が0以上1.2以下であった。
【0055】
(2)本実施例においては、Cu及びCaCl2を金属源として用い、Naを還元剤として用いている。加熱した際に、CaCl2がNa(融点:98℃)によって還元されてCaとNaClを生成すると同時に、そのCaがCuと反応してCu5Caが生成すると考えられる。
【0056】
ここで、CaCl2やNaClは単独では融点が800℃程度であるが、両者の混合物になると融点が下がる。共晶組成の場合、融点は500℃程度である。系内に融液が存在しない場合、固相反応となり、CuとCaとが物理的に接触した場所でしかCuとCaとの化合が進まず、未反応のCuが残る。
他方、予めNaClを添加して、CaCl2+NaClの混合塩を予め存在させておくことにより、より低い温度で反応が進行すると考えられる。そのため、仕込み量や合成温度によって、Cu5CaとCuの量比が変わると考えられる。
【0057】
【0058】
[3.2. 電子顕微鏡観察]
[3.2.1. 一次粒子の平均粒径]
[A. 比較例2]
図4に、比較例2で得られた生成物のSEM像を示す。表3に、比較例2で得られた生成物の一次粒子のサイズの計測結果を示す。表3中の粒子番号は、それぞれ、
図4中の番号に対応している。また、
図4において、粒界で囲まれた部分を一次粒子と見なした。
図4及び表3より、多くの粒子は、長手方向のサイズが0.7~3.8μmの範囲にあることがわかった。
【0059】
【0060】
[B. 実施例1]
図5に、実施例1で得られた生成物のSEM像を示す。表4に、実施例1で得られた生成物の一次粒子のサイズの計測結果を示す。表4中の粒子番号は、それぞれ、
図5中の番号に対応している。また、
図5において、粒界で囲まれた部分を一次粒子と見なした。
図5及び表4より、多くの粒子は、長手方向のサイズが0.7~9.0μmの範囲にあることがわかった。
【0061】
【0062】
[C. 実施例2]
図6に、実施例2で得られた生成物のSEM像を示す。表5に、実施例2で得られた生成物の一次粒子のサイズの計測結果を示す。表5中の粒子番号は、それぞれ、
図6中の番号に対応している。また、
図6において、粒界で囲まれた部分を一次粒子と見なした。
図6及び表5より、多くの粒子は、長手方向のサイズが4.0~19.3μmの範囲にあることがわかった。
【0063】
【0064】
[D. 実施例3]
図7に、実施例3で得られた生成物のSEM像を示す。表6に、実施例3で得られた生成物の一次粒子のサイズの計測結果を示す。表6中の粒子番号は、それぞれ、
図7中の番号に対応している。また、
図7において、粒界で囲まれた部分を一次粒子と見なした。
図7及び表6より、多くの粒子は、長手方向のサイズが3.5~8.6μmの範囲にあることがわかった。
【0065】
【0066】
[3.2.2. ナノポーラス構造]
図8に、実施例3で得られた生成物の断面STEM像を示す。表7に、実施例3で得られた生成物の表層部分(
図8(A)に示される四角の領域)、表層とバルク内部との界面(
図8(B)に示される四角の領域)、及びバルク内部(
図8(C)に示される四角の領域)のEDS分析結果を示す。
図8及び表7より、以下のことが分かる。
(1)表層(厚み:数十nm)に見られる暗いコントラストは、空隙と考えられる。表層部は、Caに対してCuリッチであった。表層部からCaが抜けることで、ナノポーラス構造が形成されたと考えられる。
(2)成分分析の結果、Cu等以外にもC及びOが検出された。これらは、粉末を保持する際に用いた樹脂に由来する成分であると考えられる。但し、表層部の酸素濃度が増加していることから、表層の一部は酸化していると考えられる。
【0067】
【0068】
[3.3. CO
2還元触媒活性]
[3.3.1. 実施例1]
図9に、実施例1で得られた生成物の触媒活性を評価する際の電流密度の経時変化を示す。
図10に、実施例1で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(棒グラフ)を示す。
図9及び
図10より以下のことが分かる。
(1)実施例1において、エチレン(C
2H
4)、エタン(C
2H
6)、メタン(CH
4)などのCO
2還元生成物が確認された。
(2)印加電圧を変えると、CO
2還元生成物の比率が変化することが分かった。
【0069】
[3.3.2. 実施例3]
図11に、実施例3で得られた生成物の触媒活性を評価する際の電流密度の経時変化を示す。
図12に、実施例3で得られた生成物の各印加電圧ので電流効率(棒グラフ)を示す。さらに、
図13に、実施例3で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(折線グラフ)を示す。
図11~
図13より、以下のことが分かる。
(1)実施例3において、エチレン(C
2H
4)、エタン(C
2H
6)、メタン(CH
4)、エタノール(EtOH)、プロパノール(PrOH)などのCO
2還元生成物が確認された。
(2)印加電圧を変えると、CO
2還元生成物の比率が変化することが分かった。
【0070】
[3.3.3. 比較例1]
図14に、比較例1で得られた生成物の各印加電圧での電流効率(棒グラフ)を示す。
図14より、以下のことが分かる。
(1)比較例1(Cu粉末)においても、エチレン(C
2H
4)、エタノール(EtOH)、プロパノール(PrOH)などのCO
2還元生成物が得られた。しかし、比較例1では、CO
2還元生成物の生成効率が実施例1又は実施例3に比べて有為に低くなった。
(2)比較例1は、CO
2還元生成物の生成に、より負に大きな電位を印加する必要がある点でも、実施例1~3に比べて電流効率が低かった。これは、Cu粉末の表層部分にナノポーラス構造がないためと考えられる。
【0071】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
実施例3と同様にして、Cu5Ca系粉末(水洗浄によりCaの引き抜きを行った粉末)を作製した。次に、得られたCu5Ca系粉末を、0.5M NaOH水溶液に2時間浸漬した。その後、水洗浄し、真空乾燥させた。
【0072】
[2. 試験方法及び結果]
XRDを用いて、反応生成物の同定を行った。
図15に、実施例4で得られた生成物のXRDパターンを示す。
図15より、実施例4で得られた生成物は、Cu
5Caを主成分とし、微量のCu、Cu
2O、及び、炭酸カルシウムを含む粉末であることがわかった。実施例4の場合、I/I
0比は、0.09であった。
【0073】
(実施例5)
[1. 試料の作製]
実施例3と同様にして、Cu5Ca系粉末(水洗浄によりCaの引き抜きを行った粉末)を作製した。
次に、得られた粉末(約4mg)をミクロスパーテルを用いてカーボンペーパー(CP)表面上に擦り付けて担持した。これを作用極(WE)として、電解槽に設置した。対極(CE)には白金箔(Pt foil)を用い、参照極(RE)には、Ag/AgCl電極を用いた。WEとCEは、陽イオン交換膜を用いて隔離した。電解液には、0.5M炭酸水素カリウム(KHCO3)水溶液を用いた。
CO2をWE裏面(CP側)から供給しながら(流速:10sccm)、REを基準として、-2.0Vの電位をWEに8時間印加した。
【0074】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. XRD測定]
XRDを用いて、反応生成物の同定を行った。
図16に、実施例5で得られた生成物のXRDパターンを示す。
図16より、得られた生成物は、Cu
5Caを主成分とし、微量のCu、Cu
2O、及び、炭酸カルシウムを含む粉末であることがわかった。実施例5の場合、I/I
0比は、0.13であった。
【0075】
[2.2. 電子顕微鏡観察]
STEMを用いて、反応生成物の断面の観察を行った。
図17(A)に、実施例5で得られた生成物の断面STEM像を示す。
図17(B)に、
図17(A)の(1)の部分の拡大断面STEM像を示す。
図17(C)に、
図17(A)の(2)の部分の拡大断面STEM像を示す。
図17より、実施例5で得られた複合粒子は、水洗浄直後の粉末(実施例3)に含まれる複合粒子に比べて、粒子の表層からさらに深い領域までナノポーラス構造が広がっていることが分かった。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るCu5Ca系粉末は、CO2還元触媒として用いることができる。