(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】ガス分離膜およびガス分離膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20250415BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20250415BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20250415BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20250415BHJP
D01F 6/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D53/22
B01D69/08
B01D69/12
D01F6/00 B
(21)【出願番号】P 2021157463
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2024-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2020168234
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-527231(JP,A)
【文献】特開平04-193334(JP,A)
【文献】特開2016-047521(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158845(WO,A1)
【文献】特表2004-514546(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021963(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
D01F 6/00
D01F 9/08- 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に分離機能層を有するガス分離膜であって、
前記分離機能層は、マトリックスと添加剤粒子からなり、
前記マトリックスが高分子化合物の炭化物からなり、
前記マトリックスの炭素元素比率が70atomic%以上100atomic%以下であり、
前記マトリックスの炭素元素比率をX(atomic%)、前記添加剤粒子の炭素元素比率をY(atomic%)とした際に、(|X-Y|/X)×100が30%以下であることを特徴とするガス分離膜。
【請求項2】
マトリックスよりも添加剤粒子の方が弾性率が高いことを特徴とする請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
前記分離膜が複合膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス分離膜。
【請求項4】
前記添加剤粒子が無機材料であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項5】
前記添加剤粒子の平均アスペクト比が10以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項6】
前記分離機能層中の前記添加剤粒子の含有量が10体積%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項7】
前記ガス分離膜の形状が、中空糸状であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のガス分離膜。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のガス分離膜をケースに収めた形態を持つことを特徴とするガス分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜およびガス分離膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種混合ガスから特定の成分を選択的に分離・精製する分離法として膜分離法が知られている。膜分離法は他の分離・精製法と比較して圧力差や濃度差を利用するため、熱エネルギーの使用量が少なく省エネルギーであることから注目されている。一方でガス分離プロセスは、耐熱、耐薬品性が要求されるものの、これに答えられるガス分離膜の安定した供給には課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1には、ポリマーマトリックスとカーボンナノチューブ不織布からなる分離膜に関する記載がある。
【0004】
特許文献2には、マトリックスとして炭素、補強材として種々材料を添加したものが開示されている。
【文献】特開2014-237127号公報
【文献】特表2011-527231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された分離膜は、ポリマーマトリックスを不織布で補強することで力学的な耐久性は確保できるが、ポリマーマトリックスの耐熱性の低さに起因して、ガス分離膜としての耐熱性が不十分であった。
【0006】
特許文献2に開示された分離膜は、マトリックスと補強材は、単に組み合わせるだけでは界面で剥離が進行しやすく、長期間の運転時には破壊が起こり、ガスのリークによって安定した運転ができない課題があった。
【0007】
本発明は、耐熱、耐薬品性を有し、長期間安定して優れた分離性能を発揮できるガス分離膜およびガス分離膜モジュールの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明のガス分離膜は、次の構成を有する。
【0009】
少なくとも一部に分離機能層を有するガス分離膜であって、
前記分離機能層は、マトリックスと添加剤粒子からなり、
前記マトリックスが高分子化合物の炭化物からなり、
前記マトリックスの炭素元素比率が70atomic%以上であり、
前記マトリックスの炭素元素比率をX(atomic%)、前記添加剤粒子の炭素元素比率をY(atomic%)とした際に、(|X-Y|/X)×100が30%以下であることを特徴とするガス分離膜、である。
【0010】
本発明のガス分離膜は、マトリックスよりも添加剤粒子の方が弾性率が高いことが好ましい。
【0011】
本発明のガス分離膜は、前記分離膜が複合膜であることが好ましい。
【0012】
本発明のガス分離膜は、前記添加剤粒子が無機材料であることが好ましい。
【0013】
本発明のガス分離膜は、前記添加剤粒子の平均アスペクト比が10以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のガス分離膜は、前記分離機能層中の前記添加剤粒子の含有量が10体積%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のガス分離膜は、前記ガス分離膜の形状が、中空糸状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ガス分離膜の破損を抑制し、耐熱、耐薬品性を持つ長期間安定して優れた分離性能を発揮できるガス分離膜及びガス分離膜モジュールを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも一部に分離機能層を有するガス分離膜であって、前記分離機能層は、マトリックスと添加剤粒子からなり、前記マトリックスの炭素元素比率が70atomic%以上であり、前記マトリックスの炭素元素比率をX(atomic%)、前記添加剤粒子の炭素元素比率をY(atomic%)とした際に、(|X-Y|/X)×100が30%以下であることを特徴とするガス分離膜、である。
【0018】
<ガス分離膜>
本発明のガス分離膜は、少なくとも一部に分離機能層を有する。ガス分離膜が少なくとも一部に分離機能層を有するとは、分離機能を有する層状の部分(分離機能層)が、材料の少なくとも一部を形成している状態を言い、分離機能層が形成されていない部分は、分離機能を持たない部分としてガスの流れを制御できる状態にあればよい。ガスの流れを制御できる状態とは、ガスを実質的に通さない状態であることを言い、窒素ガスを基準として、その透過度が0.01nmol/(m2sPa)未満であることをいう。
【0019】
本発明のガス分離膜を構成する分離機能層は、マトリックスと添加剤粒子とから構成される。分離機能層中のマトリックスとは、いわゆる海島構造の海部分であって、炭素元素比率Xが70atomic%以上100atomic%以下の部分を意味する。そして分離機能層中の添加剤粒子とは、いわゆる海島構造の島部分であって、炭素元素比率Yが60atomic%以上100atomic%以下であり、炭素元素比率Yが炭素元素比率Xとは異なる値の部分を意味する。
【0020】
ここで分離機能層が海島構造を有し、それらの炭素元素比率がどのように分布しているか、つまり分離機能層がマトリックス及び添加剤粒子を有するかは、分離機能層の炭素元素マッピング像を判別分析法によって2値化像に変換し、2値化されたデータと炭素元素マッピング像とを対比することで判断できる。つまり、炭素元素比率が70%以上100atomic%以下であり、海を形成している部分をマトリックスと定義する。そして、炭素元素マッピング像におけるマトリックス部分の炭素元素比率の平均値をXとした場合に、マトリックス以外の部分、すなわち島における炭素元素比率をY(atomic%)とした際に、Yが60atomic%以上100atomic%以下の部分を添加剤粒子と定義する。なお、炭素元素比率Xと炭素元素比率Yが同じ場合、2値化によっても区別されないため、2値化によって海部分と島部分が認識できれば、炭素元素比率Xと炭素元素比率Yとは異なる値であることが判断できる。
【0021】
マトリックスの炭素元素比率Xが大きいほど膜性能や耐薬品性、耐熱性に優れることから好ましく、80atomic%以上であるとより好ましい。
【0022】
一方、炭素量が少なくなるほど柔軟で破損に対する耐性が増すことから長期耐久性が向上するため、マトリックスの炭素元素比率Xは99atomic%以下が好ましく、92atomic%以下がより好ましい。
【0023】
マトリックスの炭素以外の構成元素は特に限定されないが、水素、酸素、窒素、ホウ素、硫黄、珪素などを含有しても良く、またアルカリ金属、アルカリ土類金属などを含有しても良い。上記元素比率は、様々な分析手法で決定されるが、エネルギー分散型X線分光分析などを利用して分析することができる。
【0024】
更にマトリックスに用いられる炭素材料としては、先述のマトリックスの炭素元素比率Xの制御が容易である観点から、高分子化合物の炭化物とするものであり、例えば、前記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のうち、少なくとも1種を含む高分子材料を焼成して得られるものが挙げられる。特にフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミドなどを選択することが好ましい。
【0025】
ここで分離機能を有するとは、ガスに対して透過速度差を生む機能を持つことを指し、CO2とCH4との透過速度比(CO2/CH4)を基準として分離係数が1.2以上であるものをいう。
【0026】
本発明のガス分離膜に用いる添加剤粒子は、マトリックスと組み合わされることで、分離機能層の破損を抑制する効果が得られる。また添加剤粒子は、前記分離機能層の破損を抑制する効果を発揮することができれば、ガスを透過する機能やガスを分離する機能を更に有していることも好ましい態様である。
【0027】
また本発明のガス分離膜を構成する分離機能層においては、マトリックスよりも、添加剤粒子は弾性率が高いことが好ましい。マトリックスよりも添加剤粒子の弾性率が高いことにより、複合された際に分離機能層の破壊を防止する効果が発現するため、ガス分離膜としての運転中の破損を防止して、長期間安定した使用を可能にする効果が得られる。
【0028】
ここでマトリックスよりも添加剤粒子の弾性率が高いとは、マトリックスの弾性率を1.0とした際に、弾性率の比(添加剤粒子の弾性率/マトリックスの弾性率)が10以上であることをいう。添加剤粒子の弾性率は、高いほど強化効果が得られやすく、破損を防止できるため、100以上であると好ましく、250以上であるとより好ましく、400以上であるとさらに好ましい。弾性率比の上限は特に設ける必要は無いが、弾性率比が低いほど柔軟に変形するため瞬間的な衝撃力を緩和できることから、弾性率の比(添加剤粒子の弾性率/マトリックスの弾性率)は5,000以下であることがより好ましい。
【0029】
弾性率の比は、分離機能層の断面について原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析を行い、1μm×1μmの範囲を観察した弾性率マッピング像のうち、最も高い弾性率を示した点と、最も低い弾性率を示した点との弾性率の比から定義され、最も低い弾性率を示し、かつ海を形成した点をマトリックスの弾性率とする。10点以上のサンプルについて場所を変更して、それぞれの観察箇所で解析した弾性率の比の平均値を以て本発明でいう弾性率の比とする。
【0030】
本発明のガス分離膜に用いる添加剤粒子の材質は、前記効果を発揮できれば特に限定されない。添加剤粒子の炭素元素比率Yがマトリックスの炭素元素比率Xと近いほど、マトリックスとの接着性が良く、強度が向上する傾向が見られる。この観点からマトリックスと添加剤粒子との炭素元素比率の近さの指標である(|X-Y|/X)×100が30%以下である。(|X-Y|/X)×100は20%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましい。ここで炭素以外の構成元素は前記効果の発揮を前提に特に限定されないが、酸素、窒素、ホウ素、硫黄、珪素などを含有しても良く、またアルカリ金属、アルカリ土類金属などを含有していても良い。上記元素量は、マトリックスと添加剤のそれぞれを微小部位が観測可能な透過型電子顕微鏡にエネルギー分散型X線分光分析などを適用して、水素元素を除くすべての元素を対象として、元素比率が算出できるようシグナルが検出されるように適宜調整して元素分析する。
【0031】
本発明のガス分離膜に用いる添加剤粒子は、前述の通りその炭素元素比率Yが60atomic%以上100atomic%以下である。炭素元素比率Yが大きいほど膜性能や耐薬品性、耐熱性に優れることから、70atomic%以上であると好ましく、80atomic%以上がより好ましい。一方、炭素元素比率が小さくなるほど柔軟で破損に対する耐性が増す傾向にあることから、長期耐久性を担保する膜の破損が防止される効果が向上するため、添加剤粒子の炭素元素比率Yは99atomic%以下がより好ましく、90atomic%以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明のガス分離膜に用いる添加剤は、高分子材料や生物由来の材料、無機材料など、種々の材質から選択することができ、単独でも複数を組み合わせて使用することもできる。本発明の添加剤が高分子材料である場合は、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンやこれらを主体とした共重合体などを例示することができる。
【0033】
本発明のガス分離膜に用いる添加剤粒子は、無機材料であることが好ましい。無機材料であると、弾性率が高い傾向にあることから、マトリックスと組み合わせた際の強化効果を発現しやすく、また耐熱性、耐薬品性も高い傾向にある。無機材料は、前記炭素元素比率を満たすものであれば特に限定されないが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化炭素などの炭素化合物や、炭素元素を主体とする材料などを例示することができる。これら材料は前記炭素元素比率を満たす目的から材料の表面に炭素がコーティングされている状態など、複合して使用されていてもよい。
【0034】
また本発明のガス分離膜を構成する分離機能層中の添加剤粒子の中で、炭素元素を主体とする材料としては、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛、カーボンナノホーン、カーボンナノリボン、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、フラーレンよりなる群から選ばれる一以上であることが好ましい。これら材料は、炭素元素比率をマトリックスと近づけることが容易であることから、マトリックスと組み合わせた際の強化効果を発現させやすい。またこれら材料のうち、比表面積が大きく、添加剤粒子による分離機能層を構成するマトリックスの強化効果を発現する接着界面を増加させやすい観点から、特にカーボンブラック、カーボンナノホーン、カーボンナノリボン、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、フラーレンよりなる群から選ばれる一以上であることがより好ましく、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェンやフラーレンよりなる群から選ばれる一以上であることが、コスト面からさらに好ましい。
【0035】
また本発明のガス分離膜を構成する分離機能層中に含まれる添加剤粒子のうち、平均アスペクト比が10以上である添加剤を含むことが好ましい。平均アスペクト比が大きいと、マトリックスと添加剤粒子との複合効果が得られやすいことから、添加剤粒子の平均アスペクト比は300以上であることがより好ましく、800以上であることがさらに好ましく、1,500以上であることが特に好ましい。また添加剤粒子の平均アスペクト比の上限は特に設ける必要は無いが、分離機能層中で添加剤粒子を微分散させやすく、特に液体を用いて分離機能層を形成する場合には液体の流動性を確保しつつ均一な分離機能層を形成できる観点から、分離機能層中の添加剤粒子の平均アスペクト比は2,000以下であることが好ましい。ここで平均アスペクト比とは、マトリックス中に分散した添加剤粒子の1粒子を3次元顕微鏡撮影によって取り出して、その粒子の3次元データから、最も短い部分の長さLsと、最も長い部分の長さLlとの比(Ll/Ls)を取って計算される値の平均値をいう。最も短い部分の長さLsは、例えばグラフェンの場合は一般的には最も薄い部分の厚みを、カーボンナノチューブでは最も細い部分の直径が該当する。また最も長い部分の長さLlは、グラフェンでは平板状の形状においてエッジを基準として最も長い距離が計測できる部分を抽出して測定し、カーボンナノチューブは折れ曲がったカーボンナノチューブ1本の端から端までの長さが該当する。3次元顕微鏡撮影は、マトリックスと添加剤粒子とを分離、観察可能であれば特に限定されないが、イオンビームで断面を切り出しつつ連続的に走査型電子顕微鏡で観察するスライス&ビューや、透過型電子顕微鏡を用いてコンピューター断層撮影を適用する方法など、マトリックスと添加剤粒子とを電子情報として分離、観察および解析可能な分析手法を適宜選択することが好ましい。
【0036】
また本発明のガス分離膜に用いる添加剤粒子の表面は、カルボキシル基、アミド基などによる化学修飾がされていてもよく、化学結合によりマトリックスとの接着性がさらに向上することから好ましい。一方、添加剤粒子の表面官能基が少ないほど、耐薬品性が向上する。そのため、炭素元素の全結合成分に対する、カルボキシル基に由来するO=C-O成分及びアミド結合に由来するO=C-N成分の比率が0.1%~30%であることが好ましい。
【0037】
また本発明の分離機能層中の添加剤粒子は、1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、他の添加剤粒子を含有してもよいが、炭素元素比率が60atomic%未満の材料は、本発明の添加剤粒子の50体積%未満の添加量にすることが好ましく、20体積%未満であるとより好ましい。
【0038】
分離機能層中の添加剤粒子の大きさは特に限定されないが、前記最も短い部分の長さLsが0.3nm以上10μm以下であることが好ましい。Lsが0.3nm以上であると、十分な比表面積を確保しつつ取り扱いが容易になる。一方、Lsが10μm以下であると、比表面積が大きくマトリックスとの接着性が向上するため、分離膜の強度が向上する。添加剤粒子のLsは、上記観点から0.3nm以上1μm以下であることが好ましく、1nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明のガス分離膜を構成する分離機能層中の添加剤粒子の含有量は特に限定されないが、分離機能層100体積%中に10体積%以下であるとマトリックスの強化効果を十分に得られるために好ましい。添加剤粒子の含有量は、少ないとマトリックス中の添加剤粒子の分散性が向上するため、膜厚均一性に優れる分離機能層が得られる。一方、含有量が多いと分離機能層の単位体積あたりの添加剤粒子含有量が増加するため、強化効果が発現しやすく分離機能層の強度が向上する。これらの観点から分離機能層中の添加剤粒子の含有量は、0.3~9体積%がより好ましく、0.5~5体積%がさらに好ましい。
【0040】
ここで本発明のガス分離膜を構成する分離機能層中の添加剤粒子の含有量は、先に記載した分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取り出した添加剤粒子の3次元データから、体積を求めることで算出される。なお、ばらつきを考慮して添加剤粒子10個以上の添加剤粒子がデータ内に存在するものを使用し、分離機能層の3次元データを取得する際は、観察視野内に10個以上の添加剤粒子を含むように観察視野をとり、観察視野内の分離機能層の体積に占める添加剤粒子の体積割合を、分離機能層中の添加剤粒子の含有量(体積%)とする。
【0041】
本発明のガス分離膜を構成する分離機能層において、全ての添加剤粒子の合計体積のうち、他の添加剤粒子から離れて存在する添加剤粒子の体積割合が1体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であるとより好ましい。他の添加剤粒子と接触せず独立して存在する添加剤粒子の体積割合が、上記好ましい範囲であると、マトリックスと添加剤粒子との複合効果が得られやすい。
【0042】
ここで本発明のガス分離膜において、他の添加剤粒子と接触せず独立して存在する添加剤粒子の体積割合は、先に記載した分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取り出した添加剤粒子の3次元データから、他の添加剤粒子と接触せず独立して存在する添加剤粒子を判別し、その体積%を求める。なお、ばらつきを考慮して添加剤粒子100以上がデータ内に存在するものを使用し、1データ内に100以上の添加剤粒子が存在しない場合は、別の観察視野から得られたデータを加え、合計して100以上の添加剤粒子が入った分離機能層を観察して体積%を求める。
【0043】
他の添加剤粒子と接触せず独立して存在する添加剤粒子のうち、アスペクト比が10以上の添加剤粒子が含まれると、添加剤粒子による分離機能層を構成するマトリックスの強化効果を発現する接着界面を増加させやすい観点から好ましい。
【0044】
本発明の分離機能層は、その厚みは特に限定されないが、厚みが厚いほど外力による破損に強く、長期間安定して分離膜を使用することが可能になるため好ましく、薄いほど流体の透過抵抗を低減でき、単位面積当たりの処理量を増大させることができるため好ましい。これら観点から分離機能層の厚みは100nm~1000μmの範囲であることが好ましく、200nm~10μmの範囲であることがより好ましい。ここで分離機能層の厚みは、分離機能層を構成する最も薄い部分の厚みを顕微鏡などで計測することで定義され、ガス分離膜の断面10カ所を解析した厚みの平均値として算出される。
【0045】
本発明のガス分離膜は、分離機能層以外に分離機能層を支える支持体を有する、いわゆる複合膜であってもよい。複合膜であると、分離機能層を支える支持体が力学的強度と耐久性を担保して、実使用中の破損を防止し、長期間安定した運転が可能になるほか、高圧がかかった際にも、支持体が圧力を受け持つ効果が発揮され、高圧環境での運転が可能なガス分離膜を提供できる。
【0046】
ここで支持体とは、ガスの透過を妨げず、分離機能層を支える機能を併せ持つ材料であれば特に限定されず、従来公知の多孔質材料を適宜選択できる。支持体として好適な多孔質材料の例としては、海島構造に由来する独立気泡を持つ材料、複数の粒子が連結された構造を持つ材料、繊維状の材料が折り重なり、必要に応じて適度に接着された不織布、空隙と支持体を構成する物質とが互いに連続している連続多孔構造を持つ材料などが例示される。これら材料は流体の透過を妨げず、分離機能層を支える機能を発揮する観点から適宜選択されることが好ましい。中でも連続多孔構造を持つ材料は、空隙と支持体を構成する物質とが互いに連続していることから、ガスの透過を妨げず、かつ支持体を構成する物質が分離機能層にかかる圧力に由来する応力を分散させる効果が高く、結果としてガス分離膜の耐圧性が高まるためより好ましい。
【0047】
本発明のガス分離膜の形状は特に制限されず、繊維状やフィルム状など任意の形状とすることが可能である。繊維状である場合には、フィルム状形状と比較して単位体積当りの膜面積を大きく取ることができるなどの利点がある。また、断面方向にかかる力に対する耐性が高くなることから、高圧での運転も可能となり、高効率でのガス膜分離が可能となるため好ましい。
【0048】
本発明のガス分離膜は、繊維状の形状を持つ場合、繊維断面の形状は、何ら制限されるものではなく、丸断面、三角断面等の多葉断面、扁平断面や中空断面など任意の形状とすることが可能である。特にガス分離膜の断面が、中空断面である場合、すなわちガス分離膜の形状が中空糸状であると、供給されるガスと分離後のガスの流れを制御しつつ耐圧性を持たせることが可能になるため好ましい。ガス分離膜の形状が中空糸である場合の中空率は、高いほど圧力損失が低減されガスの流れを妨げず、また低いほど耐圧性が高くなることから好ましい。これら観点から中空率は10~90%の範囲であることが好ましく、20~60%の範囲であるとより好ましい。中空糸の中空部は、単独でも複数形成されていても良い。
【0049】
また本発明のガス分離膜モジュールは、本発明のガス分離膜をケースに収納した形態である。ガス分離膜モジュールは、混合ガスの流れを制御し、ガス分離膜を透過したガスを導く流路が形成されている。またこれらガスの流れを制御する目的でケースやシール材を用いることが好ましい。ケースの材質は特に限定されないが、耐圧性や耐熱性など使用環境に合わせて適宜選択されることが好ましく、金属、樹脂、炭素やこれらの複合体が例示される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、以下の方法により行った。
(ガス分離膜モジュール)
長さ10cmのガス分離膜を20本束ねて、ケースであるアクリルパイプ(内径12mm、肉厚3mm)へ収納し、束ねた流体分離膜の端をエポキシ樹脂系接着剤でケース内面に固定するとともにケースの両端を封止して、ガス分離膜モジュールを作製した。
(加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率)
作製時におけるガス分離膜の破断が無いことを確認したガス分離膜モジュールを、各実施例及び比較例についてそれぞれ5個ずつ用意した。ここでガス分離膜の破断の有無は次のように評価した。ケースであるアクリルパイプ越しに目視でガス分離膜の破断が認められた場合は、破断有りと判定した。目視により破断が認められなかった場合、ガス分離膜モジュールの分離対象ガスの流出入口を1箇所以外封止し、封止しなかった分離対象ガスの流出入口から0.2MPaGの圧空を供給した状態でガス分離膜モジュール全体を水中に浸漬した。ガス分離膜の開口部より気泡が発生した場合は破断有り、気泡の発生が認められなかった場合は破断無しと判定した。
【0051】
破断無しの各ガス分離膜モジュールに対して、供給側に2.0MPaGの圧空を供給した状態で1分間保持した後に大気圧開放する操作を1セットとして、10セット繰り返す加圧減圧試験を行った。加圧減圧試験後に再びガス分離膜の破断有無を判定し、ガス分離膜モジュール5個のうちの、破断有りのモジュール個数の割合をガス分離膜の破断率とした。
(加圧減圧試験後での分離係数の低下率)
上記加圧減圧試験前のガス分離膜モジュールのガス透過速度を測定し、CO2とCH4との透過速度比(CO2/CH4)を基準として分離係数を算出した。続いて加圧減圧試験を行い、加圧減圧試験による破断無しであったガス分離膜モジュールの中から任意の1個を選択して再びガス透過速度を測定し分離係数を算出した。加圧減圧試験前後での分離係数の低下率は、1-(加圧減圧試験後の分離係数/加圧減圧試験前の分離係数)と算出して、分離係数の低下率が0.1未満である場合は「優」、低下率が0.1以上0.3未満である場合は「良」、低下率が0.3以上である場合は「不可」と判定した。
【0052】
ガス透過速度は、JIS K 7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して測定温度25℃で外圧式にて、CO2及びCH4の単位時間当たりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側と透過側の圧力差を0.11MPa(82.5cmHg)に設定した。続いて、透過したガスの透過速度Qを下記式により算出し、各成分のガスの透過速度の比として分離係数αを算出した。なお、STPは標準条件を意味する。また、膜面積はガスの透過に寄与する領域において流体分離膜の外径および長さから算出した。
【0053】
透過速度Q=[ガス透過流量(cm3・STP)]/[膜面積(cm2)×時間(s)×圧力差(cmHg)
CO2及びCH4のガス透過速度Qの比、(CO2の透過速度)/(CH4の透過速度)を分離係数αとして算出した。
[調製例1]10.0重量%芳香族ポリイミド(PI)溶液及びスラリーの調製
芳香族ポリイミド(以下、芳香族PI)“Matrimid(登録商標)”5218をN-メチルピロリドン(以下、NMP)に溶解させて、10.0重量%の芳香族ポリイミド溶液(以下、芳香族PI溶液)を調整した。
【0054】
ここで、“Matrimid(登録商標)”5218は、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、5(6)-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3’-トリメチルインダン)の縮合生成物である。
【0055】
調製した芳香族PI溶液にカーボンナノチューブ粉末(CNano社製FT7000シリーズ)を0.30体積%となるように加え、更に分散剤を加えて、自転・公転方式ミキサーを用いて攪拌・分散させることで、スラリーを調整した。
[調製例2]10.0重量%ポリアクリロニトリル(PAN)溶液及びスラリーの調製
ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)をジメチルスルホキシド(以下、DMSO)に溶解させて、10.0重量%のPAN溶液を調整した。
【0056】
調製したPAN溶液にカーボンナノチューブ粉末(CNano社製FT7000シリーズ)を0.35体積%となるように加え、更に分散剤を加えて、自転・公転方式ミキサーを用いて攪拌・分散させることで、スラリーを調整した。
[調製例3]10.0重量%酢酸セルロース溶液及びスラリーの調製
酢酸セルロース(酢化度55%)をNMPに溶解させて、10.0重量%の酢酸セルロース溶液を調整した。
調製した酢酸セルロース溶液にポリエチレンテレフタレート(PET)のチョップドファイバーを0.40体積%となるように加え、更に分散剤を加えて、自転・公転方式ミキサーを用いて攪拌・分散させることで、スラリーを調整した。
[調製例4]8.0重量%芳香族PI溶液及びスラリーの調製
芳香族PI “Matrimid(登録商標)”5218をNMPに溶解させて、8.0重量%の芳香族PI溶液を調整した。
【0057】
調製した芳香族PI溶液にカーボンナノチューブ粉末(CNano社製FT7000シリーズ)を0.03体積%となるように加え、更に分散剤を加えて、自転・公転方式ミキサーを用いて攪拌・分散させることで、スラリーを調整した。
[実施例1]
ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)10重量部と、ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)10重量部と、DMSO80重量部を混合し、100℃で撹拌して紡糸原液を調製した。
【0058】
得られた紡糸原液を25℃まで冷却した後、同心円状の三重口金の口金を用いて、内管からDMSO80重量%水溶液を、中管から前記紡糸原液を、外管からDMSO90重量%水溶液をそれぞれ同時に吐出した後、凝固浴へ導き、ローラーに巻き取ることにより原糸を得て、循環式熱風乾燥機により乾燥して中空糸状の多孔質炭素支持体前駆体を作製した。
【0059】
続いて多孔質炭素支持体前駆体を電気炉中に通し、空気雰囲気下で加熱して不融化処理を行った。続いて不融化糸を炭化処理して中空糸状の多孔質炭素支持体を作製した。作製した多孔質炭素支持体の外表面および内表面(中空部表面)はともに開孔しており、また中空糸断面を観察したところ、共連続多孔構造が観察された。
【0060】
多孔質炭素支持体を調製例1で調製したスラリーに浸漬した後、ディップコート法により引き上げ、続いて、水中に浸漬して溶媒を除去し、循環式熱風乾燥機により乾燥させることで、多孔質炭素支持体表面にカーボンナノチューブを含有する芳香族PIを積層したコーティング糸を得た。さらにコーティング糸を700℃で炭化処理することで、多孔質炭素支持体表面にカーボンナノチューブを含有する芳香族PIを前駆体とした炭素膜が積層されたガス分離膜を作製した。
【0061】
このとき、ガス分離膜の分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.1体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1,725であった。ここで、平均アスペクト比は、他の添加剤粒子と接触せず独立して存在する添加剤粒子を任意に10個選択してアスペクト比をそれぞれ求め、平均値として算出した。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは90.3%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは98.6%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は9.2%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は443であった。
【0062】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「優」であった。評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
[実施例2]
調製例1のスラリー調製において、添加するカーボンナノチューブ粉末を0.02体積%となるように調製した以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0065】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は0.2体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1,648であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは90.3%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは98.5%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は9.1%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は478であった。
【0066】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0.2、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「良」であった。評価結果を表1に併せて示す。
[実施例3]
コーティング糸の炭化処理温度を600℃に変更したこと以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0067】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.5体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1,754であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは86.4%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは98.7%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は14.2%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は467であった。
【0068】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「良」であった。評価結果を表1に併せて示す。
[実施例4]
調製例1の代わりに調製例2で調整したスラリーを用いたこと、及び、コーティング糸の炭化処理温度を600℃に変更したこと以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0069】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.4体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1,580であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは78.2%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは98.5%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は26.0%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は491であった。
【0070】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0.2、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「良」であった。評価結果を表1に併せて示す。
[実施例5]
調製例1のスラリー調製において、カーボンナノチューブ粉末の代わりに、グラフェン粉末を添加したこと以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0071】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.2体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は592であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは90.3%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは98.1%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は8.6%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は341であった。
【0072】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「良」であった。評価結果を表1に併せて示す。
[比較例1]
調製例1の代わりに調製例3で調製したスラリーを用いたこと、及び、コーティング糸の炭化処理を行わずにそのままガス分離膜としたこと以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0073】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.5体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1,607であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは61.4%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは71.6%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は16.6%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は5であった。
【0074】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0.2、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「不可」であった。評価結果を表1に併せて示す。
[比較例2]
調製例1のスラリー調製において、カーボンナノチューブ粉末の代わりに、炭化ケイ素粒子を添加したこと以外は実施例1と同様の手法でガス分離膜モジュールを作製した。
【0075】
このとき、分離機能層の3次元顕微鏡撮影によって取得した3次元データから、添加剤粒子の含有量は3.1体積%、添加剤粒子の平均アスペクト比は1であった。また、透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光分析装置による元素分析から、マトリックスの炭素元素比率Xは90.3%、添加剤粒子の炭素元素比率Yは49.2%であり、このとき(|X-Y|/X)×100は45.5%であった。原子間力顕微鏡による弾性率マッピング解析から算出した弾性率比は186であった。
【0076】
加圧減圧試験によるガス分離膜の破断率は0.6、加圧減圧試験後の分離係数の低下率は「不可」であった。評価結果を表1に併せて示す。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のガス分離膜モジュールは、ガス分離機能を損なうこと無く、ガス分離膜モジュールの運転時における、ガス分離膜の破損を抑制することが可能であり、本発明のモジュールの用途は特に限定されるものではないが、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、石炭ガス化複合発電におけるガス化した燃料ガス中からの硫黄成分除去、バイオガスや天然ガスの精製、有機ハイドライドからの水素精製等の用途に好ましく用いることができる。