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  • 特許-鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250415BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20250415BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M10/06 L
H01M4/14 Q
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021548956
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035914
(87)【国際公開番号】W WO2021060323
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019178095
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和間 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】辻中 彬人
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-161606(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087680(WO,A1)
【文献】特開2019-164909(JP,A)
【文献】特開2017-160326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14 - 4/23
H01M 10/06 -10/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液とを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と、炭素質材料とを含み、
前記有機防縮剤は、第1有機防縮剤を含み、
前記第1有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットである第1ユニットと、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットである第2ユニットとを含み、
前記ビスアレーン化合物の第1ユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記第1ユニットと前記第2ユニットの総量に占める前記第2ユニットのモル比率は、10モル%以上90モル%以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記第1有機防縮剤に含まれる芳香族化合物ユニットの総量に占める前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの合計比率(モル比率)は、90モル%以上である請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極電極材料の密度は、3.3g/cm以上である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
正極板と、負極板と、電解液とを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と、炭素質材料とを含み、
前記有機防縮剤は、第1有機防縮剤を含み、
前記第1有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットである第1ユニットと、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットである第2ユニットとを含み、
前記第1ユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記負極電極材料の密度は、3.3g/cm以上である、鉛蓄電池。
【請求項5】
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.5質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.9質量%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量は、前記負極電極材料の表面積1mあたり、1.8mg以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量は、前記負極電極材料の表面積1mあたり、3.6mg以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量は、前記負極電極材料の表面積1mあたり、1.5g以上3.8mg以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記第1ユニットは、少なくともビスフェノールS化合物のユニットを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記第2ユニットは、フェノールスルホン酸化合物のユニットである、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、9000μmol/g以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、2000μmol/g未満である請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項14】
前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、3000μmol/g以上である請求項1~12のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項15】
前記第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上100,000以下である請求項1~14のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項16】
前記負極電極材料に含まれる前記有機防縮剤全体に占める前記第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上である請求項1~15のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項17】
前記炭素質材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素質材料、および32μm未満の粒子径を有する第2炭素質材料の少なくとも一方を含み、
前記炭素質材料全体に占める前記第2炭素質材料の割合は、10質量%以上100質量%以下である請求項1~16のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項18】
前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下である請求項1~17のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項19】
前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでおり、前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以3質量%以下である請求項1~18のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項20】
前記負極電極材料の密度は、3.8g/cm以下である請求項1~19のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料には、有機防縮剤が添加される。有機防縮剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウムなどの天然由来の有機防縮剤の他、合成有機防縮剤も利用される。合成有機防縮剤としては、例えば、ビスフェノールの縮合物が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、正極、負極、及び電解液を備える鉛蓄電池であって、負極が負極材と負極集電体とを有し、負極材がビスフェノール系樹脂と負極活物質とを含み、負極集電体は耳部を有し、耳部はSn、又はSn合金の表面層が形成されている、鉛蓄電池が記載されている。
【0004】
特許文献2には、海綿状鉛を主成分とする負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えた液式鉛蓄電池において、負極活物質は、カーボンと、セルロースエーテル、ポリカルボン酸及びそれらの塩から成る群の少なくとも一つの物質と、スルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物から成る水溶性高分子とを含有し、正極活物質はアンチモンを含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池が記載されている。
【0005】
特許文献3には、海綿状鉛を主成分とする負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えた液式鉛蓄電池において、負極活物質は、化成済みの状態において海綿状鉛100mass%当たりで、カーボンブラックを0.5mass%以上2.5mass%以下と、置換基としてスルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物からなる水溶性高分子と、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びポリマレイン酸及びそれらの塩から成る群の少なくとも一種のポリカルボン酸化合物、とを含有し、かつ電解液は、化成済みの状態において、カーボンブラック濃度が3massppm以下であることを特徴とする、液式鉛蓄電池が記載されている。
【0006】
特許文献4には、海綿状鉛を主成分とする負極活物質と集電体とから成る、鉛蓄電池用負極板において、負極活物質は化成済みの段階において、海綿状鉛100mass%当たりで、カーボンブラックを1.0mass%以上2.5mass%以下とビスフェノール縮合物を0.1mass%以上0.9mass%以下含有し、容積基準での細孔径の中央値が0.5μm以下で、かつ多孔度が0.22mL/g以上0.4mL/g以下である鉛蓄電池用負極板が記載されている。
【0007】
特許文献5には、正極板と負極板と電解液とを備えた制御弁式鉛蓄電池であって、負極板は、負極集電体と負極電極材料とを有し、負極電極材料の密度が2.6g/cmよりも大きく、負極電極材料が有機防縮剤を含有し、有機防縮剤中の硫黄元素の含有量が600μmol/gより大きい制御弁式鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-79166号公報
【文献】国際公開第2013/150754号
【文献】特開2013-161606号公報
【文献】特開2014-123525号公報
【文献】特開2018-18742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
負極電極材料中に炭素質材料が含まれると、電解液への炭素質材料の流出が起こる。炭素質材料の流出は、負極電極材料中の炭素質材料の含有量が多くなると顕著になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液とを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤と、炭素質材料とを含み、
前記有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットとを含み、
前記ビスアレーン化合物のユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
鉛蓄電池において、負極電極材料からの炭素質材料の流出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液とを備える。負極板は、負極電極材料を含む。負極電極材料は、有機防縮剤と、炭素質材料とを含む。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットとを含む。ビスアレーン化合物のユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種である。以下、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物を、ヒドロキシモノアレーン化合物と称することがある。
【0014】
上記のような構成により、負極電極材料から電解液への炭素質材料の流出が抑制される。有機防縮剤が、ヒドロキシモノアレーン化合物のユニットと上記のビスアレーン化合物のユニットを含むことで、有機防縮剤の高い防縮効果を維持できる。ヒドロキシモノアレーン化合物のユニットにより、平面構造が形成され易くなるとともに、有機防縮剤分子の柔軟性が高まる。有機防縮剤には、通常、負の極性を有する官能基が多く含まれるが、分子の柔軟性が高まることで負の極性を有する官能基が分子の表面に偏在し易くなると考えられる。平面構造および表面に偏在した負の極性を有する官能基の存在により、有機防縮剤が負極電極材料に含まれる成分(鉛、硫酸鉛、炭素質材料など)に吸着し易くなる。負極電極材料中の成分に吸着された上記の有機防縮剤は、電解液中で変性して結着材のような機能を発揮する。このような有機防縮剤の結着作用により、炭素質材料の流出が抑制されると考えられる。それに対し、リグニンは、三次元的に発達した高分子構造を有する。そのため、リグニンは、上記の有機防縮剤に比べると負極電極材料中に含まれる成分に対する結着作用が小さく、リグニンの含有量を多くしても、炭素質材料の流出を抑制する効果が得られ難い場合がある。
【0015】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池でもよいが、特に、炭素質材料の流出が問題となり易い液式(ベント式)鉛蓄電池として有用である。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板のうち負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれる。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板のうち負極集電体および貼付部材を除いた部分である。ただし、セパレータに貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0018】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0019】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0020】
負極電極材料は、上記のビスアレーン化合物のユニットと、ヒドロキシモノアレーン化合物のユニットとを含む有機防縮剤(以下、第1有機防縮剤と称することがある)と、炭素質材料とを含む。負極電極材料は、通常、さらに酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、他の有機防縮剤(以下、第2有機防縮剤と称することがある)、および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であり、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0021】
(有機防縮剤)
負極電極材料は、有機防縮剤を含む。有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。負極電極材料は、既に述べたように、有機防縮剤のうち、第1有機防縮剤を必須成分として含み、必要に応じて、さらに第2有機防縮剤を含んでいてもよい。第1有機防縮剤とは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種のビスアレーン化合物のユニットと、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物(ヒドロキシモノアレーン化合物)のユニットとを含む有機防縮剤である。第2有機防縮剤とは、第1有機防縮剤以外の有機防縮剤である。有機防縮剤は、例えば公知の方法で合成した有機防縮剤を用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0022】
各有機防縮剤としては、例えば、合成有機防縮剤が挙げられる。鉛蓄電池に使用される合成有機防縮剤は、通常、有機縮合物(以下、単に縮合物と称する。)である。縮合物とは、縮合反応を利用して得られ得る合成物である。なお、リグニンは、天然素材であるから合成物である縮合物(合成有機防縮剤)からは除外される。縮合物は、芳香族化合物のユニット(以下、芳香族化合物ユニットとも称する。)を含んでもよい。芳香族化合物ユニットは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットをいう。すなわち、芳香族化合物ユニットは、芳香族化合物の残基である。縮合物は、芳香族化合物のユニットを一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0023】
縮合物としては、例えば、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。このような縮合物は、芳香族化合物とアルデヒド化合物とを反応させることで合成し得る。ここで、芳香族化合物とアルデヒド化合物との反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、芳香族化合物として硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールS)を用いたりすることで、硫黄元素を含む縮合物を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および硫黄元素を含む芳香族化合物の量の少なくとも一方を調節することで、縮合物中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じてよい。縮合物を得るために縮合させる芳香族化合物は一種でもよく、二種以上でもよい。なお、アルデヒド化合物は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)でもよく、アルデヒドの縮合物(または重合物)などでもよい。アルデヒド縮合物(または重合物)としては、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、テトラオキシメチレンなどが挙げられる。アルデヒド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。芳香族化合物との反応性が高い観点からは、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0024】
芳香族化合物は、硫黄含有基を有してもよい。すなわち、縮合物は、分子内に複数の芳香環を含むとともに硫黄含有基として硫黄元素を含む有機高分子であってもよい。硫黄含有基は、芳香族化合物が有する芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0025】
硫黄含有基は、負の極性が強い官能基である。このような官能基は電解液中では、水分子や水素イオン、硫酸水素イオンと安定な結合を形成するため、縮合物の表面に官能基が偏在する傾向がある。表面に偏在するこのような官能基は、負の電荷を持つため、縮合物の会合体間で静電的な反発が起こる。これにより、縮合物のコロイド粒子の会合または凝集が制限され、コロイド粒子径が小さくなりやすい。その結果、負極電極材料の細孔径が小さく、かつ負極電極材料の比抵抗が減少しやすくなると考えられる。そのため、硫黄含有基を有する縮合物を用いる場合、さらに高い防縮効果を確保することができ、優れた低温HR放電性能および充電受入性が得られ易い。
【0026】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合または連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。
【0027】
芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、官能基(ヒドロキシ基、アミノ基など)とを有する化合物が挙げられる。官能基は、芳香環に直接結合していてもよく、官能基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。芳香族化合物は、芳香環に、硫黄含有基および上記の官能基以外の置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基)を有していてもよい。
【0028】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物は、ビスアレーン化合物および単環式芳香族化合物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0029】
ビスアレーン化合物としては、ヒドロキシ基を有するビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物など)、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)が挙げられる。中でもヒドロキシ基を有するビスアレーン化合物(特に、ビスフェノール化合物)が好ましい。
【0030】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。例えば、ビスフェノール化合物は、ビスフェノールAおよびビスフェノールSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。ビスフェノールAまたはビスフェノールSを用いることで、負極電極材料に対する優れた防縮効果が得られる。
【0031】
ビスフェノール化合物は、ビスフェノール骨格を有すればよく、ビスフェノール骨格が置換基を有してもよい。すなわち、ビスフェノールAは、ビスフェノールA骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。ビスフェノールSは、ビスフェノールS骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。
【0032】
単環式芳香族化合物としては、ヒドロキシモノアレーン化合物、アミノ基を有する単環式芳香族化合物(アミノモノアレーン化合物)などが好ましい。中でもヒドロキシモノアレーン化合物が好ましい。
【0033】
ヒドロキシモノアレーン化合物としては、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが挙げられる。例えば、フェノール化合物であるフェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)を用いることが好ましい。フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、フェノール性ヒドロキシ基とスルホン酸基とを有する。フェノール性ヒドロキシ基およびスルホン酸基は、いずれも酸性を呈する極性の強い親水性基であり、官能基がマイナス電荷を帯びている。よって、フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、負極電極材料中の鉛および硫酸鉛への吸着力が高い。このことに加え、フェノールスルホン酸により縮合物が平面構造を取り易いことから、縮合物が炭素質材料の近傍に存在し易くなる。そのため、このような縮合物を用いると、高い結着性が得られ易くなり、炭素質材料の流出抑制効果をさらに高めることができる。なお、既に述べたように、フェノール性ヒドロキシ基には、フェノール性ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。
【0034】
アミノモノアレーン化合物としては、アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)が挙げられる。
【0035】
有機防縮剤には、リグニン化合物も包含される。本明細書中、リグニン化合物には、リグニンおよびリグニン誘導体が包含される。リグニン誘導体には、リグニン様の三次元構造を有するものが含まれる。リグニン誘導体としては、例えば、変性リグニン、リグニンスルホン酸、変性リグニンスルホン酸、およびこれらの塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)、マグネシウム塩、カルシウム塩など)から選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0036】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g以上であってもよく、3000μmol/g以上であってもよい。このような硫黄元素含有量を有する有機防縮剤を用いると、有機防縮剤のコロイド粒子径が小さくなり易く、負極電極材料の構造を微細に保てることから、高い低温ハイレート(HR)放電性能を確保し易い。また、後述の第1有機防縮剤の硫黄元素含有量がこのような範囲である場合、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットにより柔軟性が付与された有機防縮剤において、硫黄元素を含む官能基が有機防縮剤の表面に偏在し易くなる。そのため、炭素質材料の流出抑制効果をさらに高めることができる。
【0037】
有機防縮剤中の硫黄元素含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0038】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は、特に制限されないが、例えば9000μmol/g以下であればよく、8000μmol/g以下でもよく、7000μmol/g以下でもよい。
【0039】
なお、リグニン化合物以外の有機防縮剤には、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満のものも包含される。このような有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上であってもよい。
【0040】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)7000μmol/g以下、300μmol/g以上9000μmol/g以下(または8000μmol/g以下)、あるいは300μmol/g以上7000μmol/g以下(または2000μmol/g未満)であってもよい。
【0041】
リグニン化合物以外の有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、7000以上であることが好ましい。有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0042】
リグニン化合物の硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g未満であり、1000μmol/g以下または800μmol/g以下であってもよい。リグニン化合物の硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。
【0043】
リグニン化合物のMwは、例えば、7000未満である。リグニン化合物のMwは、例えば、3000以上である。
【0044】
なお、本明細書中、有機防縮剤のMwは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
Mwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0045】
有機防縮剤のうち、第1有機防縮剤としては、例えば、ビスアレーン化合物のユニット(以下、第1ユニットと称することがある)と上記のヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニット(以下、第2ユニットと称することがある)とを含むもの(例えば、縮合物)が挙げられる。ここで、第1ユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種である。第1有機防縮剤は、必要に応じて、さらに他の芳香族化合物のユニット(第3ユニット)を含んでいてもよい。
【0046】
第1有機防縮剤が第1ユニットを含むことで、負極電極材料の高い防縮効果を確保することができる。また、第1ユニットは、第2ユニットに比べて、2つの芳香環を連結する連結基が芳香環平面から飛び出した構造を取るため、第1ユニットを含む第1有機防縮剤は、鉛または硫酸鉛に対して吸着しにくい。しかし、第1有機防縮剤が第1ユニットを含む場合でも、第2ユニットを含むことで、平面構造を取り易くなる。第1ユニットを含む有機防縮剤では、一般に、芳香環がπ電子間で相互作用してリジッドになり易い。しかし、第1有機防縮剤では、第2ユニットにより、第1ユニットのπ電子間相互作用が阻害されるため、分子の柔軟性を高めることができる。これにより、第1有機防縮剤に含まれる負の極性を有する官能基が分子表面に偏在し易くなると考えられる。よって、第1有機防縮剤の鉛および硫酸鉛に対する高い吸着性を確保することができ、炭素質材料の流出を抑制できる。
【0047】
第1ユニットは、少なくともビスフェノールS化合物のユニットを含むことが好ましい。第1有機防縮剤は、第1ユニットとして、ビスフェノールS化合物のユニットとビスフェノールA化合物のユニットを含んでもよい。ビスフェノールS骨格は、2つのベンゼン環をスルホニル基で連結した構造を有する。ビスフェノールA骨格は、2つのベンゼン環をジメチレン基で連結した構造を有する。スルホニル基は、ジメチレン基に比べてベンゼン環平面からの飛び出しが小さい。そのため、ビスフェノールA化合物のユニットの場合に比べると、ビスフェノールS化合物のユニットの方が、第1有機防縮剤がより平面構造を取り易くなる。また、スルホニル基の存在により、ビスフェノールS化合物のユニットの方が、ビスフェノールA化合物のユニットの場合に比べて第1有機防縮剤がマイナスに帯電され易い。よって、第1ユニットとして少なくともビスフェノールS化合物のユニットを有する第1有機防縮剤を用いると、鉛および硫酸鉛への第1有機防縮剤の吸着性がさらに高まるため、炭素質材料の流出抑制効果をさらに向上できると考えられる。
【0048】
第2ユニットとしては、フェノール性ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニットが好ましい。フェノール性ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物では、主にフェノール性ヒドロキシ基に対してオルト位およびパラ位の少なくとも一方(特にオルト位)で縮合した状態となる。一方、アミノ基を有する単環式芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物では、アミノ基を介して縮合した状態となる。そのため、フェノール性ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物を用いる場合、アミノ基を有する単環式芳香族化合物を用いる場合に比べて、有機防縮剤分子における芳香環同士のねじれが少なく、より平面構造を取り易くなることで、鉛および硫酸鉛に作用させ易くなると考えられる。
【0049】
上記の単環式芳香族化合物のユニットのうち、フェノールスルホン酸化合物のユニットを第2ユニットとして含む第1有機防縮剤を用いることが好ましい。このような第1有機防縮剤は、フェノール性ヒドロキシ基とスルホン酸基とを有する。フェノール性ヒドロキシ基およびスルホン酸基は、いずれも負の極性が強く、金属との親和性も高い。よって、フェノールスルホン酸化合物のユニットを第2ユニットとして含む縮合物は、鉛および硫酸鉛に対してより高い吸着性を有する。これにより、第1有機防縮剤を、負極電極材料中の炭素質材料の近傍に存在させ易くなるため、炭素質材料の流出抑制効果をさらに高めることができる。
【0050】
第1ユニットと第2ユニットの総量に占める第2ユニットのモル比率は、例えば、10モル%以上であり、20モル%以上であってもよい。モル比率がこのような範囲である場合、第1有機防縮剤がより平面構造を取り易くなる。第2ユニットのモル比率は、例えば、90モル%以下であり、80モル%以下であってもよい。
【0051】
第2ユニットのモル比率は、10モル%以上(または20モル%以上)90モル%以下、あるいは10モル%以上(または20モル%以上)80モル%以下であってもよい。
【0052】
第1有機防縮剤において、芳香族化合物ユニットの総量に占める第1ユニットおよび第2ユニットの合計比率(モル比率)は、例えば、90モル%以上であり、95モル%以上であってもよい。また、芳香族化合物ユニットは第1ユニットおよび第2ユニットのみで構成されてもよい。
【0053】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量およびMwは、それぞれ上記の範囲から選択できる。
【0054】
第1有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
上記の有機防縮剤のうち、第2有機防縮剤としては、例えば、リグニン化合物、ビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物など)のユニットを含む縮合物(例えば、ビスフェノールS化合物のユニットとビスフェノールA化合物のユニットとを含む縮合物など)などが挙げられる。
【0056】
第2有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、リグニン化合物以外の第2有機防縮剤と、リグニン化合物とを併用してもよい。
【0057】
第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。第2有機防縮剤を併用する場合であっても、第1有機防縮剤の質量比に応じて炭素質材料の流出抑制効果を得ることができる。炭素質材料の流出においてより高い抑制効果を確保する観点からは、有機防縮剤全体(つまり、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との総量)に占める第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。
【0058】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、負極電極材料の表面積1mあたり、例えば、1.5mg以上であり、1.7mg以上であってもよい。より高い炭素質材料の流出抑制効果が得られるとともに、高い低温HR放電性能を確保し易い観点からは、有機防縮剤の含有量は、1.7mgより多いことが好ましく、1.8mg以上または2mg以上がより好ましい。有機防縮剤の含有量は、例えば、3.8mg以下であり、3.7mg以下であってもよい。高い充電受入性を確保し易い観点からは、有機防縮剤の含有量は、3.7mg未満が好ましく、3.6mg以下であってもよく、3.5mg以下または3.4mg以下であってもよい。負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量をこのような範囲としてもよい。
【0059】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、負極電極材料の表面積1mあたり、1.5mg以上(1.7mg以上)3.8mg以下、1.5mg以上(1.7mg以上)3.7mg以下、1.5mg以上(1.7mg以上)3.7mg未満、1.5mg以上(1.7mg以上)3.6mg以下、1.5mg以上(1.7mg以上)3.5mg以下、1.5mg以上(1.7mg以上)3.4mg以下、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.8mg以下、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.7mg以下、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.7mg未満、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.6mg以下、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.5mg以下、1.7mgより多く(または1.8mg以上)3.4mg以下、2mg以上3.8mg以下(または3.7mg以下)、2mg以上3.7mg未満(または3.6mg以下)、あるいは2mg以上3.5mg以下(または3.4mg以下)であってもよい。負極電極材料中の第1有機防縮剤の含有量をこのような範囲としてもよい。
【0060】
なお、負極電極材料の表面積は、負極電極材料について窒素ガスを利用するガス吸着法により求められるBET比表面積(m・g-1)に、負極電極材料の質量(g)を乗じて得られる。
【0061】
負極電極材料の表面積、負極電極材料の質量、および負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池の負極板について求める。
【0062】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0063】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0064】
(炭素質材料)
炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0065】
なお、炭素質材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I/Iが、0以上0.9以下である炭素質材料を、黒鉛と呼ぶものとする。黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0066】
炭素質材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素質材料を含んでもよく、32μm未満の粒子径を有する第2炭素質材料を含んでもよい。炭素質材料は、第1炭素質材料および第2炭素質材料の双方を含んでもよい。第1炭素質材料と第2炭素質材料とは、後述する手順で分離され、区別される。
【0067】
第1炭素質材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボンおよびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。中でも、第1炭素質材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。黒鉛を用いることで、さらに高いPSOC寿命性能を確保することができる。第2炭素質材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0068】
炭素質材料が、第2炭素質材料を含む場合、炭素質材料全体に占める第2炭素質材料の割合は、例えば、10質量%以上であり、40質量%以上であってもよく、50質量%以上または60質量%以上であってもよい。第2炭素質材料の割合がこのような範囲である場合、より高い充電受入性を確保する上で有利である。炭素質材料全体に占める第2炭素質材料の割合は、例えば、100質量%以下である。より高い低温HR放電性能を確保し易い観点から、第2炭素質材料の割合を、90質量%以下としてもよい。
【0069】
炭素質材料全体に占める第2炭素質材料の割合は、10質量%以上(または40質量%以上)100質量%以下、10質量%以上(または40質量%以上)90質量%以下、50質量%以上(または60質量%以上)100質量%以下、あるいは50質量%以上(または60質量%以上)90質量%以下であってもよい。
【0070】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.1質量%以上であり、0.3質量%以上であってもよい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、0.5質量%以上または0.9質量%以上が好ましい。一方で、炭素質材料の含有量が0.5質量%以上または0.9質量%以上になると、炭素質材料の流出は顕著になる。本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料中の炭素質材料の含有量が0.5質量%以上または0.9質量%以上と高い場合でも、第1有機防縮剤の作用により、炭素質材料の流出を効果的に抑制できる。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3.5質量%以下であってもよい。
【0071】
炭素質材料の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下(または3.5質量%以下)、0.3質量%以上5質量%以下(または3.5質量%以下)、0.5質量%以上5質量%以下(または3.5質量%以下)、あるいは0.9質量%以上5質量%以下(または3.5質量%以下)であってもよい。
【0072】
(硫酸バリウム)
負極電極材料は、硫酸バリウムを含むことができる。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0073】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0074】
負極電極材料の密度は、例えば、3.0g/cm以上であり、3.2g/cm以上であってもよい。炭素質材料の流出抑制効果がさらに高まる観点からは、負極電極材料の密度は、3.3g/cm以上が好ましい。負極電極材料の密度は、例えば、3.8g/cm以下であり、3.7g/cm以下であってもよい。
なお、負極電極材料の密度は、満充電状態の負極電極材料のかさ密度の値を意味する。
【0075】
負極電極材料の密度は、例えば、3.0g/cm以上3.8g/cm以下(または3.7g/cm以下)、3.2g/cm以上3.8g/cm以下(または3.7g/cm以下)、あるいは3.3g/cm以上3.8g/cm以下(または3.7g/cm以下)であってもよい。
【0076】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を得るとともに、試料Aの質量(M)を測定する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0077】
(1)有機防縮剤の分析
(1-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出物に複数の有機防縮剤が含まれていれば、次に、抽出物から、各有機防縮剤を分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
【0078】
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、または試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0079】
なお、上記抽出物が複数の有機防縮剤を含む場合、それらの分離は、次のようにして行なう。
【0080】
まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、およびGC-MSの少なくとも1つで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。
【0081】
有機防縮剤は、官能基の種類および官能基の量の少なくとも一方が異なれば、溶解度が異なる。分子量の違いによる有機防縮剤の分離が難しい場合には、このような溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。例えば、2種の有機防縮剤を含む場合、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。凝集による分離が難しい場合には、官能基の種類および量の少なくとも一方の違いを利用して、イオン交換クロマトグラフィまたはアフィニティクロマトグラフィにより、第1有機防縮剤を分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0082】
(1-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0083】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定する。
【0084】
(1-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤の試料Bを得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で試料Bを燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C0)を求める。次に、C0を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0085】
(2)炭素質材料の分析
(2-1)炭素質材料の分離および定量
粉砕された試料Aを所定量採取し、質量を測定する。この試料Aに、試料A5gあたり、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃±5℃で加熱する。得られる混合物に、試料A5gあたり、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mL、および水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして試料Aに前処理を施す。前処理により得られる分散液を、メンブレンフィルタ(目開き0.1μm)を用いてろ過することにより固形分を回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、サイズが大きな成分(補強材など)を除去して、ふるいを通過した成分を炭素質材料として回収する。
【0086】
なお、負極電極材料中の炭素質材料の含有量(Cc)は、上記の手順で分離した各炭素質材料の質量を測り、この質量の合計が測定した試料Aの質量に占める比率(質量%)を算出することにより求める。
【0087】
第1炭素質材料と第2炭素質材料とを分離する場合には、下記の手順で分離を行う。
回収した炭素質材料を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素質材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素質材料とする。つまり、各炭素質材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とするものである。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。
【0088】
具体的には、炭素質材料を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素質材料は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素質材料は、ニトロセルロース製のメンブレンフィルタ(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素質材料および第2炭素質材料は、それぞれ、100℃±5℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用する。
【0089】
炭素質材料全体に占める第2炭素質材料の割合は、測定した第2炭素質材料の質量が、炭素質材料の質量(各炭素質材料の質量の合計)に占める比率(質量%)を算出することにより求める。
【0090】
(3)負極電極材料の表面積
負極電極材料の表面積は、負極電極材料のBET比表面積に炭素質材料の含有量Ccを求める際に用いられる負極電極材料の質量(つまり、上記(2-1)で測定した粉砕された試料Aの質量(g))を乗ずることにより求められる。
負極電極材料のBET比表面積は、試料Aを用いて、ガス吸着法により、BET式を用いて求められる。試料Aは、窒素フロー中、150℃±5℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した試料Aを用いて、下記の装置にて、下記の条件により、BET比表面積を求め、負極電極材料のBET比表面積とする。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0091】
(4)硫酸バリウムの定量
粉砕された試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0092】
得られた固形分を水中に分散させて分散液を調製した後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、試料Cと称する)である。乾燥後の試料Cとメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Cの質量を測定する。その後、乾燥後の試料Cをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量を求める。
【0093】
(負極電極材料の密度の測定)
なお、負極電極材料の密度は、以下のようにして測定される。
所定量の試料Aを採取し、質量を測定する。この試料Aを測定容器に投入し、減圧下で排気した後、0.5psia以上0.55psia以下(≒3.45kPa以上3.79kPa以下)の圧力で水銀を満たして、試料Aのかさ容積を測定し、測定した試料Aの質量をかさ容積で除すことにより、負極電極材料のかさ密度を求める。なお、測定容器の容積から、水銀の注入容積を差し引いた容積をかさ容積とする。
【0094】
上記の負極電極材料の密度の測定には、島津製作所(株)製の自動ポロシメータ(オートポアIV9505)が用いられる。
【0095】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0096】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0097】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、通常、正極集電体と正極電極材料とを含む。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。
【0098】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0099】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0100】
ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板のうち正極集電体を除いた部分である。正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板のうち正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0101】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0102】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。
【0103】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0104】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、例えば、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも1つが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0105】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分(例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマー)を含んでもよい。
【0106】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末およびオイルの少なくとも一方など)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成されることが好ましく、ポリマー成分を主体で構成されることが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。
【0107】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成されてもよく、微多孔膜のみで構成されてもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0108】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板および負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0109】
なお、本明細書中、極板においては、耳部が設けられている側を上側、耳部とは反対側を下側として上下方向を定める。極板の上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向と同じであってもよく、異なっていてもよい。つまり、鉛蓄電池は、縦置きおよび横置きのいずれであってもよい。
【0110】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0111】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0112】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0113】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0114】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0115】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0116】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式またはバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0117】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有してもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えてもよい。
【0118】
なお、鉛蓄電池における炭素質材料の電解液への流出は次のようにして評価される。
満充電後の鉛蓄電池の1つのセルについて電解液を全て取り出し、電解液中に含まれる炭素質材料を濾過により回収する。このとき、セパレータに付着した炭素材料も水洗し、電解液に含まれる炭素質材料とともに、濾過することにより回収する。回収した炭素質材料を水洗および乾燥し、乾燥後の炭素質材料の質量(m)を測定する。上述の手順で求められる炭素質材料の含有量Cc(質量%)に上記試料Aの質量Mを乗じ、100で除することにより、負極電極材料中の炭素質材料の質量mを求める。電解液中の炭素質材料の質量mを、炭素質材料の質量mで除することにより、比:m/mを求める。m/m比に基づいて、炭素質材料の電解液への流出を評価する。m/m比が小さいほど、炭素質材料の流出が少ないことを意味する。
【0119】
/m比は、例えば、5.0×10-2以下であり、3.0×10-2以下または2.0×10-2以下であってもよい。第1有機防縮剤を用いることで、このようなm/m比にまで炭素質材料の電解液への流出を抑制することができる。
【0120】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池用負極板および鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0121】
(1)正極板と、負極板と、電解液とを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、有機防縮剤(第1有機防縮剤)と、炭素質材料とを含み、
前記有機防縮剤(第1有機防縮剤)は、ビスアレーン化合物のユニット(第1ユニット)と、ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニット(第2ユニット)とを含み、
前記ビスアレーン化合物のユニットは、ビスフェノールS化合物のユニットおよびビスフェノールA化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種である、鉛蓄電池。
【0122】
(2)上記(1)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上、2000μmol/g以上、または3000μmol/g以上であってもよい。
【0123】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下、8000μmol/g以下、または7000μmol/g以下であってもよい。
【0124】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であってもよい。
【0125】
(5)上記(1)または(2)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g未満であってもよい。
【0126】
(6)上記(5)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、300μmol/g以上であってもよい。
【0127】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、100,000以下、または20,000以下であってもよい。
【0128】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記ビスアレーン化合物のユニット(第1ユニット)は、少なくともビスフェノールS化合物のユニットを含んでもよい。
【0129】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記ヒドロキシ基を有する単環式芳香族化合物のユニット(第2ユニット)は、フェノールスルホン酸化合物のユニットであってもよい。
【0130】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記第1ユニットと前記第2ユニットの総量に占める前記第2ユニットのモル比率は、10モル%以上、または20モル%以上であってもよい。
【0131】
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記第1ユニットと前記第2ユニットの総量に占める前記第2ユニットのモル比率は、90モル%以下、または80モル%以下であってもよい。
【0132】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤に含まれる芳香族化合物ユニットの総量に占める前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの合計比率(モル比率)は、90モル%以上、または95モル%以上であってもよい。
【0133】
(13)上記(1)~(12)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤全体に占める前記第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上、50質量%以上、または80質量%以上であってもよい。
【0134】
(14)上記(1)~(13)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤(または前記第1有機防縮剤)の含有量は、前記負極電極材料の表面積1mあたり、1.5mg以上または1.7mg以上であってもよく、1.7mgより多くてもよく、1.8mg以上または2mg以上であってもよい。
【0135】
(15)上記(1)~(14)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に含まれる有機防縮剤(または前記第1有機防縮剤)の含有量は、前記負極電極材料の表面積1mあたり、3.8mg以下、3.7mg以下、3.7mg未満、3.6mg以下、3.5mg以下、または3.4mg以下であってもよい。
【0136】
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、前記炭素質材料は、32μm以上の粒子径を有する第1炭素質材料、および32μm未満の粒子径を有する第2炭素質材料の少なくとも一方を含んでもよい。
【0137】
(17)上記(16)において、前記炭素質材料全体に占める前記第2炭素質材料の割合は、10質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、または60質量%以上であってもよい。
【0138】
(18)上記(16)または(17)において、前記炭素質材料全体に占める前記第2炭素質材料の割合は、100質量%以下、または90質量%以下であってもよい。
【0139】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、または0.9質量%以上であってもよい。
【0140】
(20)上記(1)~(19)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3.5質量%以下であってもよい。
【0141】
(21)上記(1)~(20)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでもよい。
【0142】
(22)上記(21)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0143】
(23)上記(21)または(22)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0144】
(24)上記(1)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の密度は、3.0g/cm以上、3.2g/cm以上、または3.3g/cm以上であってもよい。
【0145】
(25)上記(1)~(24)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料の密度は、3.8g/cm以下、または3.7g/cm以下であってもよい。
【0146】
(26)上記(1)~(25)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上、または1.25以上であってもよい。
【0147】
(27)上記(1)~(26)のいずれか1つにおいて、満充電状態の前記鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.35以下、または1.32以下であってもよい。
【0148】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0149】
《鉛蓄電池E1~E10およびR1~R6》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、第2炭素質材料(アセチレンブラック)と、有機防縮剤と、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる負極電極材料中の有機防縮剤の含有量および炭素質材料の含有量が表1に示す値となるように各成分を混合する。また、化成後に満充電した鉛蓄電池について、既述の手順で求められる負極電極材料の密度が表1に示す値となるように、硫酸水溶液の濃度および量を調節する。
負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0150】
有機防縮剤としては、表1に示すものが用いられる。表1に示す有機防縮剤は下記の通りである。
e1(第1有機防縮剤):ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=2:8(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw:8000)
e2(第1有機防縮剤):ビスフェノールSとフェノールスルホン酸(=8:2(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw:8000)
e3(第1有機防縮剤):ビスフェノールAとフェノールスルホン酸(=8:2(モル比))のホルムアルデヒド縮合物(硫黄元素含有量:900μmol/g、Mw:8000)
e4(第2有機防縮剤):リグニンスルホン酸ナトリウム(硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw:5500)
e5(第2有機防縮剤):亜硫酸ナトリウムの存在下でビスフェノールSとホルムアルデヒドとを縮合させた縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw:8000)
【0151】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0152】
(c)試験電池の作製
負極板をポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容する。負極板1枚を正極板2枚で挟持して極板群を形成する。
【0153】
極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、鉛蓄電池を組み立てる。組み立て後の電池に化成を施し、液式の鉛蓄電池を完成させる。鉛蓄電池の出力は2Vで、定格5時間率容量は5Ahである。化成後の電解液の比重は1.28である。化成後の負極電極材料には、0.5質量%の硫酸バリウムが含まれる。
【0154】
(2)評価
(a)炭素質材料の電解液への流出
満充電後の鉛蓄電池について、既述の手順で炭素材料の電解液への流出をm/m比により評価する。
【0155】
(b)低温HR放電性能
満充電後の鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の5倍の値とした放電電流(A)にて、-15℃±0.3℃で端子電圧が1V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(放電持続時間)(s)を求める。鉛蓄電池R1の放電持続時間を100としたときの放電持続時間の比率で低温HR放電性能を評価する。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。
【0156】
(c)充電受入性
下記の条件で、満充電後の鉛蓄電池を、放電深度(DOD)10%まで放電するとともに、放電後の鉛蓄電池の充電を行う。充電受入性は充電開始後の10秒間の電気量を求める。鉛蓄電池R1の上記電気量を100としたときの比率で充電受入性を評価する。
放電(DOD調整):定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流値(A)、30分
休止:24時間
充電(充電受入性):定電圧(2.4V/セル、最大電流16.67A)、10秒
温度:25℃±0.3℃
【0157】
結果を表1に示す。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示されるように、有機防縮剤として、第2有機防縮剤のみを用いる場合に比べて、第1有機防縮剤を用いる場合には、炭素質材料の流出が抑制される(鉛蓄電池E1~E3とR1~R3との比較、鉛蓄電池E4~E10とR4およびR6との比較)。第2有機防縮剤の場合には、負極電極材料中の含有量を多くしても炭素質材料の流出を抑制する効果は低い(鉛蓄電池E4~E10とR6との比較)。
【0160】
また、負極電極材料中の炭素質材料の含有量が0.5質量%以上(特に、0.9質量%以上)の場合には、0.5質量%未満(または0.9質量%未満)の場合に比べて、第1有機防縮剤を用いることによる炭素質材料の流出抑制効果が顕著に発揮される。
【0161】
より高い低温HR放電性能を確保する観点からは、有機防縮剤の含有量は、負極電極材料の表面積1mあたり1.7mgより多いこと(例えば、1.8mg以上)が好ましく、2.0mg以上がより好ましい。より高い充電受入性を確保する観点からは、有機防縮剤の含有量は、負極電極材料の表面積1mあたり3.7mg未満(例えば、3.5mg以下)が好ましく、3.4mg以下がより好ましい。
【0162】
炭素質材料の流出を抑制する効果がさらに高まる観点からは、負極電極材料の密度は、3.3g/cm以下が好ましい。
【0163】
《鉛蓄電池E11およびE12》
アセチレンブラック(CB)に変えて、表2に示す炭素質材料を用いる。既述の手順で求められる炭素質材料の含有量および有機防縮剤の含有量が表2に示す値となるように各成分を混合して負極ペーストを調製する。また、化成後に満充電した鉛蓄電池について、既述の手順で求められる負極電極材料の密度が表2に示す値となるように、硫酸水溶液の濃度および量を調節する。これら以外は、鉛蓄電池E4と同様にして、鉛蓄電池E11およびE12を作製し、評価を行う。
【0164】
表2中、FGは、人造黒鉛である。結果を表2に示す。表2には、鉛蓄電池E4の結果も合わせて示す。
【0165】
【表2】
【0166】
表2に示されるように、炭素質材料として人造黒鉛(第1炭素質材料)を用いる場合にも、炭素質材料の流出量を抑制できる。より高い低温HR放電性能を確保する観点からは、第1炭素質材料を用いることが好ましい。また、より高い充電受入性を確保する観点からは、カーボンブラック(第2炭素質材料)を用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、および産業用蓄電装置(電動車両(フォークリフトなど)など)の電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0168】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1