(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂組成物、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20250415BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20250415BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20250415BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
C08L83/04
C08L33/00
(21)【出願番号】P 2021567416
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047567
(87)【国際公開番号】W WO2021132109
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019236888
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 講平
(72)【発明者】
【氏名】末永 修也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 重之
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-158897(JP,A)
【文献】特許第7463964(JP,B2)
【文献】特開2011-178855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08L 79/08
C08L 83/04
C08L 33/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有するポリイミド樹脂であって、
構成単位Aが、下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含み、
構成単位Bが、下記式(b11)で表される化合物に由来する構成単位(B1)と、
下記式(b211)で表される化合物に由来する構成単位、下記式(b212)で表される化合物に由来する構成単位、及び下記式(b213)で表される化合物に由来する構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B2)とを含み、
構成単位A中における構成単位(A1)の比率が100モル%であり、
構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]が、60/40~75/25であ
り、
構成単位B中における構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計が占める比率が70~100モル%である、ポリイミド樹脂。
【化1】
(式(b11)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、メチル基又はトリフルオロメチル基を示す。)
【請求項2】
JIS K 7127に準拠して測定された破壊点伸び率が10%以上43.8%以下である、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂、並びにフッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、ポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーの合計含有量が、前記ポリイミド樹脂100質量部に対して、0.01~2質量部である、請求項3に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素含有ポリマーが、フッ素含有アクリルポリマーである、請求項3又は4に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載のポリイミド樹脂、又は請求項3~5のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
【請求項7】
請求項1若しくは2に記載のポリイミド樹脂、又は請求項3~5のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂組成物、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、電気・電子部品等の分野において様々な利用が検討されている。例えば、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置に用いられるガラス基板を、デバイスの軽量化やフレキシブル化を目的として、プラスチック基板へ代替することが望まれており、当該プラスチック基板として適するポリイミドフィルムの研究が進められている。このような用途のポリイミドフィルムには透明性が求められる。
さらに、ポリイミドフィルムの要求特性として複屈折による位相差が小さく、リタデーションが低い(光学的等方性が良好である)ことが求められる。
【0003】
特許文献1には、複屈折が低減したフィルムを与えるポリイミド樹脂として、ジアミンのアミノ基の少なくとも一方が主鎖に対してメタ位に結合しているジアミン(例えば、メタフェニレンジアミン)を用いて得られるポリイミド樹脂が開示されている。
特許文献2には、耐熱性、透過率、低線膨張係数及び低リタデーションに優れたフィルムを与えるポリイミド樹脂として、特定構造のテトラカルボン酸残基及びジアミン残基と、屈曲部位を有するテトラカルボン残基及び/又はジアミン残基とを含むポリイミド樹脂が開示され、具体的に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを用いて得られるポリイミド樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-134211号公報
【文献】国際公開第2015/125895号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ポリイミドフィルムには、透明性や光学的等方性といった良好な光学特性が求められる。一方でポリイミドは剛直で強固な分子構造を持つため、フィルムの製造時の収縮による破断や、可動部のある製品(たとえばフレキシブルディスプレイ)に用いた場合の破断が問題となっていた。破断を抑制し、延性を向上させるために、たとえば、柔軟性の高い成分を分子中に導入すると一般的に光学特性は低下する。このように、良好な光学特性を有し、延性を有するポリイミドフィルムが求められていた。
したがって、本発明の課題は、透明性と光学的等方性に優れ、延性にも優れるフィルムの形成が可能なポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂組成物、並びにポリイミドワニス及びポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の構成単位の組み合わせを含むポリイミド樹脂及び前記ポリイミド樹脂と特定のポリマーを含む樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の[1]~[8]に関する。
[1]
テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有するポリイミド樹脂であって、構成単位Aが、下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)、及び下記式(a2)で表される化合物に由来する構成単位(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含み、構成単位Bが、下記式(b11)で表される化合物に由来する構成単位、下記式(b12)で表される化合物に由来する構成単位、及び下記式(b13)で表される化合物に由来する構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B1)と、下記一般式(b21)で表される化合物に由来する構成単位、及び下記一般式(b22)で表される化合物に由来する構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B2)とを含み、構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]が、45/55~75/25である、ポリイミド樹脂。
【0008】
【化1】
(式(b11)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、メチル基又はトリフルオロメチル基を示し、式(b21)及び(b22)中、X
1~X
4はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO
2-、-O-又は-CO-を示す。)
【0009】
[2]
JIS K 7127に準拠して測定された破壊点伸び率が10%以上である、上記[1]に記載のポリイミド樹脂。
[3]
構成単位(B2)が、下記式(b211)で表される化合物に由来する構成単位、下記式(b212)で表される化合物に由来する構成単位、及び下記式(b213)で表される化合物に由来する構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含む、上記[1]又は[2]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【0010】
【0011】
[4]
上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂、並びにフッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、ポリイミド樹脂組成物。
[5]
前記フッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーの合計含有量が、前記ポリイミド樹脂100質量部に対して、0.01~2質量部である、上記[4]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[6]
前記フッ素含有ポリマーが、フッ素含有アクリルポリマーである、上記[4]又は[5]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[7]
上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂、又は上記[4]~[6]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
[8]
上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂、又は上記[4]~[6]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性と光学的等方性に優れ、延性にも優れるフィルムの形成が可能なポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂組成物、並びにポリイミドワニス及びポリイミドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有するポリイミド樹脂であって、構成単位Aが、下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)、及び下記式(a2)で表される化合物に由来する構成単位(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含み、構成単位Bが、下記式(b11)で表される化合物に由来する構成単位(以下、構成単位(B11)ともいう。)、下記式(b12)で表される化合物に由来する構成単位(以下、構成単位(B12)ともいう。)、及び下記式(b13)で表される化合物に由来する構成単位(以下、構成単位(B13)ともいう。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B1)と、下記一般式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(以下、構成単位(B21)ともいう。)、及び下記一般式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(以下、構成単位(B22)ともいう。)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B2)とを含み、構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]が、45/55~75/25である。
【0014】
【化3】
(式(b11)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、メチル基又はトリフルオロメチル基を示し、式(b21)及び(b22)中、X
1~X
4はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO
2-、-O-又は-CO-を示す。)
【0015】
<構成単位A>
構成単位Aは、ポリイミド樹脂に占めるテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であって、構成単位Aは、下記式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)、及び下記式(a2)で表される化合物に由来する構成単位(A2)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含む。
【0016】
【0017】
式(a1)で表される化合物は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
構成単位Aが構成単位(A1)を含むことによって、フィルムの透明性と光学的等方性を向上させることができ、更に耐熱性や熱安定性も良好となる。
式(a2)で表される化合物は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物である。
構成単位Aが構成単位(A2)を含むことよって、フィルムの透明性が向上し、ポリイミドの有機溶剤に対する溶解性が向上する。
【0018】
構成単位Aは、構成単位(A1)、及び構成単位(A2)の両方を含んでいてもよいが、好ましくは構成単位(A1)、又は構成単位(A2)のいずれか一方を含み、より好ましくは構成単位(A1)を含む。
【0019】
構成単位Aが構成単位(A1)及び構成単位(A2)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A1)及び(A2)の合計の比率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。構成単位(A1)及び(A2)の合計の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。
【0020】
構成単位Aが構成単位(A1)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A1)の比率は、好ましくは45モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。その比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。同様に、構成単位A中における構成単位(A1)の比率は、好ましくは45~100モル%、より好ましくは70~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。
構成単位Aが構成単位(A2)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A2)の比率は、好ましくは45モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは99モル%以上である。その比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。同様に、構成単位A中における構成単位(A2)の比率は、好ましくは45~100モル%、より好ましくは70~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。
【0021】
構成単位Aは、さらに下記式(a3)で表される化合物に由来する構成単位(A3)を含んでいてもよい。
【0022】
【0023】
式(a3)で表される化合物は、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物である。構成単位Aが構成単位(A3)を含むことよって、フィルムの透明性が向上する。
【0024】
構成単位Aが構成単位(A3)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A3)の比率は、好ましくは55モル%以下、より好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは5モル%以上である。
構成単位Aが構成単位(A3)を含む場合、構成単位Aは、好ましくは構成単位(A1)及び構成単位(A3)を含み、より好ましくは構成単位(A1)及び構成単位(A3)からなる。
【0025】
構成単位Aは、本発明の効果を損なわない範囲で、構成単位(A1)~(A3)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a2)で表される化合物を除く);1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、及びジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a1)で表される化合物及び式(a3)で表される化合物を除く);並びに1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環を1つ以上含むテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂環式テトラカルボン酸二無水物とは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環も脂環も含まないテトラカルボン酸二無水物を意味する。
構成単位Aに任意に含まれる構成単位(A1)~(A3)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
構成単位Aは、前記構成単位(A1)~(A3)以外の構成単位を含まないことが好ましい。
【0026】
<構成単位B>
構成単位Bは、ポリイミド樹脂に占めるジアミンに由来する構成単位であって、下記式(b11)で表される化合物に由来する構成単位(B11)、下記式(b12)で表される化合物に由来する構成単位(B12)、及び下記式(b13)で表される化合物に由来する構成単位(B13)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B1)と、下記一般式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)、及び下記一般式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位(B2)とを含み、
構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]が、45/55~75/25である。
【0027】
【0028】
式(b11)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、メチル基又はトリフルオロメチル基を示し、式(b21)及び(b22)中、X1~X4はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。
【0029】
(構成単位(B1))
構成単位(B1)は、下記式(b11)で表される化合物に由来する構成単位(B11)、下記式(b12)で表される化合物に由来する構成単位(B12)、及び下記式(b13)で表される化合物に由来する構成単位(B13)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位である。
【0030】
【0031】
式(b11)で表される化合物は、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン又は2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンであり、
式(b12)で表される化合物は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルであり、
式(b13)で表される化合物は、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンである。
【0032】
構成単位Bは、構成単位(B11)~(B13)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含むが、これらのなかでも、フィルムの延性を高める観点から、構成単位Bが構成単位(B11)及び構成単位(B12)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含むことがより好ましく、構成単位Bが構成単位(B11)を含むことが更に好ましい。
構成単位Bは、構成単位(B11)~(B13)のうち2種以上を含んでいてもよいが、構成単位(B11)~(B13)のうち1種の構成単位を含むことが好ましい。つまり、構成単位Bが構成単位(B11)、構成単位(B12)、又は構成単位(B13)を含むことが好ましい。
【0033】
構成単位Bが構成単位(B1)を含むことによって、フィルムの透明性と光学的等方性を維持しつつ、延性を向上させることができる。また、無色性も向上させることができる。構成単位(B1)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。構成単位(B1)としては、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンに由来する構成単位が好ましい。
【0034】
(構成単位(B2))
構成単位(B2)は、下記一般式(b21)で表される化合物に由来する構成単位(B21)、及び下記一般式(b22)で表される化合物に由来する構成単位(B22)からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位である。
【0035】
【0036】
式(b21)及び(b22)中、X1~X4はそれぞれ独立に、単結合、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。
【0037】
一般式(b21)で表される化合物は、X1及びX2を介して3つのベンゼン環が連結し、中央のベンゼン環の1,3位にX1及びX2が結合した骨格を有し、一般式(b22)で表される化合物は、X3及びX4を介して3つのベンゼン環が連結し、中央のベンゼン環の1,2位にX3及びX4が結合した骨格を有している。このような構造を有することにより、延性を有しながら、透明性と光学的等方性に優れたフィルムを形成することが可能となる。
【0038】
一般式(b21)及び(b22)におけるX1~X4は、光学的等方性に優れたフィルムを形成する観点から、それぞれ独立に、好ましくは炭素数3~5のアルキリデン基、-SO2-、又は-O-を示し、より好ましくは炭素数3~5のアルキリデン基、又は-O-を示し、更に好ましくはイソプロピリデン基、又は-O-を示し、より更に好ましくはイソプロピリデン基を示す。
一般式(b21)におけるX1及びX2は、それぞれ異なる基を有していてもよいが、同一の基であることが好ましい。同様に、式(b22)におけるX3及びX4は、それぞれ異なる基を有していてもよいが、同一の基であることが好ましい。
一般式(b21)及び(b22)におけるアミノ基は、各々のアミノ基が結合するベンゼン環と結合するX1~X4のいずれかに対して、このベンゼン環のパラ位又はメタ位に結合することが好ましく、このベンゼン環のパラ位に結合することがより好ましい。
一般式(b21)及び(b22)におけるX1~X4が示す炭素数2~5のアルキリデン基としては、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基、イソペンチリデン基等が挙げられる。該アルキリデン基としては、炭素数3~5のアルキリデン基が好ましく、イソプロピリデン基がより好ましい。
【0039】
構成単位(B2)は、上記一般式(b21)で表される化合物に由来する構成単位を含むことが好ましく、下記式(b211)で表される化合物に由来する構成単位、下記式(b212)で表される化合物に由来する構成単位、及び下記式(b213)で表される化合物に由来する構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1つの構成単位を含むことがより好ましい。
【0040】
【0041】
式(b211)で表される化合物は、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンであり、
式(b212)で表される化合物は、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンであり、
式(b213)で表される化合物は、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンである。
【0042】
式(b211)~式(b213)で表される化合物の中では、好ましくは式(b211)で表される化合物、及び式(b212)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物であり、より好ましくは式(b211)で表される化合物である。
【0043】
(構成単位Bに含んでもよいその他の構成単位)
構成単位Bは構成単位(B1)及び(B2)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるジアミンとしては、特に限定されないが、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン及び9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン(ただし、式(b11)~(b13)で表される化合物及び式(b21)~(b22)で表される化合物を除く);1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジアミン;並びにエチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族ジアミンとは芳香環を1つ以上含むジアミンを意味し、脂環式ジアミンとは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないジアミンを意味し、脂肪族ジアミンとは芳香環も脂環も含まないジアミンを意味する。
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(B1)及び(B2)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
(構成単位Bの構成)
構成単位Bは、構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含み、構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比が、45/55~75/25であるが、好適な構成について以下に説明する。
【0045】
構成単位B中における構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計が占める比率は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上である。構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計が占める比率の上限値は特に限定されないが、好ましくは100モル%である。構成単位Bは構成単位(B1)と構成単位(B2)のみからなることがより更に好ましい。
【0046】
構成単位(B1)と構成単位(B2)のモル比[(B1)/(B2)]は、透明性、光学的等方性、及び延性を向上させる観点から、45/55~75/25であるが、透明性、光学的等方性及び無色性の観点からは、好ましくは45/55~70/30であり、より好ましくは45/55~65/35であり、更に好ましくは45/55~60/40であり、より更に好ましくは45/55~55/45である。また、延性を向上させる観点からは、好ましくは45/55~75/25であり、より好ましくは50/50~75/25であり、更に好ましくは55/45~75/25であり、より更に好ましくは60/40~75/25であり、より更に好ましくは65/35~75/25である。
構成単位Bは、構成単位(B1)として式(b11)で表される化合物に由来する構成単位(B11)を含み、構成単位(B2)として式(b211)で表される化合物に由来する構成単位を含む組み合わせが好ましい。本発明のポリイミド樹脂は、構成単位Aとして式(a1)で表される化合物に由来する構成単位(A1)を含み、かつ構成単位Bとして前記組み合わせを有する構成単位を含むことが好ましい。
【0047】
(ポリイミド樹脂の物性等)
本発明のポリイミド樹脂の数平均分子量は、得られるポリイミドフィルムの機械的強度の観点から、好ましくは5,000~100,000である。なお、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0048】
本発明のポリイミド樹脂は、ポリイミド鎖(構成単位Aと構成単位Bとがイミド結合してなる構造)以外の構造を含んでもよい。ポリイミド樹脂中に含まれうるポリイミド鎖以外の構造としては、例えばアミド結合を含む構造等が挙げられる。
本発明のポリイミド樹脂は、ポリイミド鎖(構成単位Aと構成単位Bとがイミド結合してなる構造)を主たる構造として含むことが好ましい。したがって、本発明のポリイミド樹脂中に占めるポリイミド鎖の比率は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは99質量%以上である。
【0049】
本発明のポリイミド樹脂を用いることで、透明性と光学的等方性に優れ、延性にも優れるフィルムを形成することができ、当該フィルムの有する好適な物性値は以下の通りである。
全光線透過率は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは85%以上であり、より好ましくは87%以上であり、更に好ましくは88%以上、より更に好ましくは89%以上である。
イエローインデックス(YI)は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは4.0以下であり、更に好ましくは3.0以下であり、より更に好ましくは2.0以下、より更に好ましく1.5以下である。
ヘイズは、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.1%以下である。
厚み位相差(Rth)は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下、更に好ましくは20nm以下、より更に好ましくは18nm以下である。
また、本発明のポリイミド樹脂は、JIS K 7127に準拠して測定された破壊点伸び率が好ましくは10%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは20%以上、より更に好ましくは30%以上である。
なお、本発明における上述の物性値は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0050】
[ポリイミド樹脂の製造方法]
本発明のポリイミド樹脂は、上述の構成単位(A1)を与える化合物及び上述の構成単位(A2)を与える化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸成分と、上述の構成単位(B1)を与える化合物と上述の構成単位(B2)を与える化合物とを含むジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。
【0051】
構成単位(A1)を与える化合物としては、式(a1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A1)を与える化合物としては、式(a1)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
同様に、構成単位(A2)を与える化合物としては、式(a2)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a2)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A2)を与える化合物としては、式(a2)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0052】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物及び構成単位(A2)を与える化合物を合計で、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、特に好ましくは99モル%以上含む。構成単位(A1)を与える化合物及び構成単位(A2)を与える化合物の合計の含有量の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A1)を与える化合物と構成単位(A2)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0053】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物、又は構成単位(A2)を与える化合物を含む場合、構成単位(A1)を与える化合物、又は構成単位(A2)を与える化合物を、好ましくは45モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含む。構成単位(A1)を与える化合物、又は構成単位(A2)を与える化合物の含有量の上限値は限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A1)を与える化合物又は構成単位(A2)を与える化合物のみからなっていてもよく、構成単位(A1)を与える化合物のみからなることが好ましい。
【0054】
テトラカルボン酸成分は、光学的等方性及び延性を損なわない範囲で上述の構成単位(A3)を与える化合物を含んでもよい。
構成単位(A3)を与える化合物としては、式(a3)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a3)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A3)を与える化合物としては、式(a3)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0055】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A3)を与える化合物を含む場合、構成単位(A3)を与える化合物を、好ましくは55モル%以下、より好ましくは30モル%以下含む。また、好ましくは5モル%以上含む。テトラカルボン酸成分は、構成単位(A3)を与える化合物を含む場合、構成単位(A1)を与える化合物及び構成単位(A3)を与える化合物のみからなることが好ましい。
【0056】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A1)を与える化合物、構成単位(A2)を与える化合物、及び構成単位(A3)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物、並びにそれらの誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸のアルキルエステル等)が挙げられる。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる構成単位(A1)~(A3)を与える化合物以外の化合物は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0057】
構成単位(B1)を与える化合物としては、構成単位(B11)を与える化合物である一般式(b11)で表される化合物、構成単位(B12)を与える化合物である一般式(b12)で表される化合物、及び構成単位(B13)を与える化合物である一般式(b13)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、一般式(b11)で表される化合物、一般式(b12)で表される化合物、及び一般式(b13)で表される化合物に対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B1)を与える化合物としては、一般式(b11)で表される化合物、一般式(b12)で表される化合物、及び一般式(b13)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0058】
ジアミン成分は、構成単位(B11)~(B13)のうち2種以上の構成単位を与える化合物を含んでいてもよいが、構成単位(B11)~(B13)のうち1種の構成単位を与える化合物含むことが好ましい。つまり、構成単位Bが構成単位(B11)を与える化合物、構成単位(B12)を与える化合物、又は構成単位(B13)を与える化合物を含むことが好ましい。
【0059】
構成単位(B2)を与える化合物としては、一般式(b21)で表される化合物、及び一般式(b22)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、一般式(b21)で表される化合物、及び一般式(b22)で表される化合物に対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B2)を与える化合物としては、一般式(b21)で表される化合物、及び一般式(b22)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0060】
構成単位(B2)を与える化合物としては、一般式(b21)で表される化合物を含むことが好ましく、式(b211)で表される化合物、式(b212)で表される化合物、及び式(b213)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことがより好ましく、式(b211)で表される化合物、及び式(b212)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含むことが更に好ましく、式(b211)で表される化合物が特に好ましい。
【0061】
構成単位B中における構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物を合計で、好ましくは70モル%以上含み、より好ましくは80モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、より更に好ましくは95モル%以上含む。構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物の合計の含有量の上限値は特に限定されないが、好ましくは100モル%である。ジアミン成分は構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物のみからなることがより更に好ましい。
【0062】
構成単位(B1)を与える化合物と構成単位(B2)を与える化合物の含有量のモル比[(B1)/(B2)]は、透明性、光学的等方性及び延性を向上させる観点から、好ましくは45/55~75/25であり、透明性、光学的等方性及び無色性の観点からは、好ましくは45/55~70/30であり、より好ましくは45/55~65/35であり、更に好ましくは45/55~60/40であり、より更に好ましくは45/55~55/45である。また、延性を向上させる観点からは、好ましくは45/55~75/25であり、より好ましくは50/50~75/25であり、更に好ましくは55/45~75/25であり、より更に好ましくは60/40~75/25であり、より更に好ましくは65/35~75/25である。
【0063】
ジアミン成分は構成単位(B1)を与える化合物及び構成単位(B2)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミン、並びにそれらの誘導体(ジイソシアネート等)が挙げられる。
ジアミン成分に任意に含まれる構成単位(B1)を与える化合物及び構成単位(B2)を与える化合物以外の化合物は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0064】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造に用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0065】
また、本発明において、ポリイミド樹脂の製造には、前述のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の他に、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.06モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0066】
前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、(1)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、0~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(2)ジアミン成分及び反応溶剤を反応器に仕込んで溶解させた後、テトラカルボン酸成分を仕込み、必要に応じて0~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(3)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、直ちに昇温してイミド化反応を行う方法等が挙げられる。
【0067】
ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤は、イミド化反応を阻害せず、生成するポリイミドを溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0068】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0069】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記反応溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。上記の反応溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0070】
イミド化反応では、ディーンスターク装置などを用いて、製造時に生成する水を除去しながら反応を行うことが好ましい。このような操作を行うことで、重合度及びイミド化率をより上昇させることができる。
【0071】
上記のイミド化反応においては、公知のイミド化触媒を用いることができる。イミド化触媒としては、塩基触媒又は酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の有機塩基触媒、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基触媒が挙げられる。
また、酸触媒としては、クロトン酸、アクリル酸、トランス-3-ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記のイミド化触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、取り扱い性の観点から、塩基触媒を用いることが好ましく、有機塩基触媒を用いることがより好ましく、トリエチルアミン及びトリエチレンジアミンから選ばれる1種以上を用いることが更に好ましく、トリエチルアミンを用いること、又はトリエチルアミンとトリエチレンジアミンを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0072】
イミド化反応の温度は、反応率及びゲル化等の抑制の観点から、好ましくは120~250℃、より好ましくは160~200℃である。また、反応時間は、生成水の留出開始後、好ましくは0.5~10時間である。
【0073】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物は、前記本発明のポリイミド樹脂、並びにフッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。フッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことによって、高い透明性と光学的等方性を維持しつつ、延性を著しく向上させることができる。フッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーの中でも、フッ素含有ポリマーが好ましい。
【0074】
<フッ素含有ポリマー>
本発明のポリイミド樹脂組成物におけるフッ素含有ポリマーは、フッ素を含むモノマー由来の構成単位を有するポリマーであることが好ましく、フッ化アルキル基を含むモノマー由来の構成単位を有するポリマーであることがより好ましい。
本発明におけるフッ素含有ポリマーは、フッ素含有アクリルポリマーであることが好ましい。
【0075】
前記フッ素含有アクリルポリマーは、フッ素を含むアクリルモノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、フッ素を含むアクリルモノマー由来の構成単位と親水性基を有するアクリルモノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。
【0076】
フッ素を含むアクリルモノマーとしては、パーフルオロアルキル基を有するモノマーが好ましい。
親水性基を有するアクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
フッ素含有アクリルポリマーは、疎水性基を有するアクリルモノマーを含有していてもよい。疎水性基を有するアクリルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
フッ素を含むアクリルモノマーには、その他のビニル基を有するモノマーが共重合されていてもよい。
【0077】
フッ素含有ポリマーの市販品としては、共栄社化学株式会社製の「LE-605」、「LE-607」、「LE-605DM」、「LE-607DM」等が挙げられる。
【0078】
<シリコーン含有ポリマー>
本発明のポリイミド樹脂組成物におけるシリコーン含有ポリマーは、シリコーン骨格の主鎖に各種有機変性基の側鎖又は各種有機変性基の末端を導入した変性シリコーン、アクリルポリマーの主鎖にシリコーン側鎖を導入したシリコーン含有アクリルポリマーが挙げられ、シリコーン含有アクリルポリマーであることが好ましい。
【0079】
変性シリコーンとしては、側鎖又は末端にポリエーテル基を導入したポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル基を導入したポリエステル変性シリコーン等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル基としては、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基が挙げられ、ポリエチレングリコール基が好ましい。
変性シリコーンのシリコーン骨格の主鎖としてはポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0080】
前記シリコーン含有アクリルポリマーは、シリコーンを含むアクリルモノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、シリコーンを含むアクリルモノマー由来の構成単位と親水性基を有するアクリルモノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。
【0081】
シリコーンを含むアクリルモノマーとしては、ポリジメチルシロキサン基を有するモノマーが好ましい。
親水性基を有するアクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
シリコーン含有アクリルポリマーは、疎水性基を有するアクリルモノマーを含有していてもよい。疎水性基を有するアクリルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
シリコーンを含むアクリルモノマーには、その他のビニル基を有するモノマーが共重合されていてもよい。
【0082】
シリコーン含有ポリマーの市販品としては、共栄社化学株式会社製の「LE-302」、「LE-304」、「KL-700」、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK-378」等が挙げられる。
【0083】
本発明のポリイミド樹脂組成物において、フッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーの合計含有量は、ポリイミド樹脂100質量部に対して、0.01~2質量部であることが好ましく、0.1~1.5質量部であることがより好ましく、0.2~1.2質量部であることが更に好ましく、0.5~1.0質量部であることがより更に好ましい。なお、前記合計含有量は、フッ素含有ポリマーのみが含まれる場合には、フッ素含有ポリマーの含有量であり、シリコーン含有ポリマーのみが含まれる場合には、シリコーン含有ポリマーの含有量である。
【0084】
[ポリイミドワニス]
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂又は本発明のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂又は本発明のポリイミド樹脂組成物と、有機溶媒を含み、当該ポリイミド樹脂又はポリイミド樹脂組成物は当該有機溶媒に溶解している。
有機溶媒はポリイミド樹脂及びポリイミド樹脂組成物に含まれるフッ素含有ポリマー及びシリコーン含有ポリマーが溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
本発明のポリイミドワニスは、重合法により得られるポリイミド樹脂が反応溶剤に溶解したポリイミド溶液そのものであってもよいし、又は当該ポリイミド溶液に対して更に希釈溶剤を追加したものであってもよい。また、重合法により得られるポリイミド樹脂が反応溶剤に溶解したポリイミド溶液に前記フッ素含有ポリマー、前記シリコーン含有ポリマー、又はこれらの混合物を溶解させたものでもよいし、更に希釈溶剤を追加したものであってもよい。
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂が沸点130℃以下の低沸点溶媒に溶解してなるものであってもよい。有機溶媒として当該低沸点溶媒を用いることで、後述するポリイミドフィルムを製造する際の加熱温度を低くすることができる。当該低沸点溶媒としては、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、アセトン等が挙げられ、中でもジクロロメタンが好ましい。
【0085】
本発明のポリイミド樹脂は溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂を5~40質量%含むことが好ましく、10~30質量%含むことがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は1~200Pa・sが好ましく、5~150Pa・sがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される値である。
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0086】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド樹脂又は本発明のポリイミド樹脂組成物を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、透明性と光学的等方性に優れ、更に延性にも優れる。本発明のポリイミドフィルムが有する好適な物性値は上述の通りである。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のポリイミドワニスを、ガラス板、金属板、プラスチックなどの平滑な支持体上に塗布、又はフィルム状に成形した後、該ワニス中に含まれる反応溶剤や希釈溶剤等の有機溶媒を加熱により除去する方法等が挙げられる。前記支持体の表面には、必要に応じて、予め離形剤を塗布しておいてもよい。
ワニス中に含まれる有機溶媒を加熱により除去する方法としては、以下の方法が好ましい。即ち、120℃以下の温度で有機溶媒を蒸発させて自己支持性フィルムとした後、該自己支持性フィルムを支持体より剥離し、該自己支持性フィルムの端部を固定し、用いた有機溶媒の沸点以上の温度で乾燥してポリイミドフィルムを製造することが好ましい。また、窒素雰囲気下で乾燥することが好ましい。乾燥雰囲気の圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。自己支持性フィルムを乾燥してポリイミドフィルムを製造する際の加熱温度は、特に限定されないが、200~400℃が好ましい。
本発明のポリイミドワニスに含まれる有機溶媒が沸点130℃以下の低沸点溶媒である場合には、自己支持性フィルムの加熱温度は、100~180℃が好ましい。さらに、低沸点溶媒を除去して得られたポリイミドフィルムをさらにガラス転移温度以上の温度で加熱するアニール処理を行うことが好ましい。
【0087】
また、本発明のポリイミドフィルムは、ポリアミド酸が有機溶媒に溶解してなるポリアミド酸ワニスを用いて製造することもできる。
前記ポリアミド酸ワニスに含まれるポリアミド酸は、本発明のポリイミド樹脂の前駆体であって、上述の構成単位(A1)を与える化合物及び上述の構成単位(A2)を与える化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸成分と上述の構成単位(B1)を与える化合物及び上述の構成単位(B2)を与える化合物を含むジアミン成分との重付加反応の生成物である。このポリアミド酸をイミド化(脱水閉環)することで、最終生成物である本発明のポリイミド樹脂が得られる。
前記ポリアミド酸ワニスに含まれる有機溶媒としては、本発明のポリイミドワニスに含まれる有機溶媒を用いることができる。
本発明において、ポリアミド酸ワニスは、上述の構成単位(A1)を与える化合物及び上述の構成単位(A2)を与える化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むテトラカルボン酸成分と上述の構成単位(B1)を与える化合物及び上述の構成単位(B2)を与える化合物を含むジアミン成分とを反応溶剤中で重付加反応させて得られるポリアミド酸溶液そのものであってもよいし、又は当該ポリアミド酸溶液に対して更に希釈溶剤を追加したものであってもよい。
【0088】
ポリアミド酸ワニスを用いてポリイミドフィルムを製造する方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミド酸ワニスを、ガラス板、金属板、プラスチックなどの平滑な支持体上に塗布、又はフィルム状に成形し、該ワニス中に含まれる反応溶剤や希釈溶剤等の有機溶媒を加熱により除去してポリアミド酸フィルムを得て、該ポリアミド酸フィルム中のポリアミド酸を加熱によりイミド化することで、ポリイミドフィルムを製造することができる。
ポリアミド酸ワニスを乾燥させてポリアミド酸フィルムを得る際の加熱温度としては、好ましくは50~120℃である。ポリアミド酸を加熱によりイミド化する際の加熱温度としては好ましくは200~400℃である。
なお、イミド化の方法は熱イミド化に限定されず、化学イミド化を適用することもできる。
【0089】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは用途等に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1~250μm、より好ましくは5~100μm、更に好ましくは10~80μmの範囲である。厚さが前記の範囲であることで、自立膜としての実用的な使用が可能となる。
ポリイミドフィルムの厚さは、ポリイミドワニスの固形分濃度や粘度を調整することにより、容易に制御することができる。
【0090】
本発明のポリイミドフィルムは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例及び比較例で得たワニスの固形分濃度及びフィルムの各物性は以下に示す方法によって測定した。
【0092】
(1)固形分濃度
ワニスの固形分濃度の測定は、アズワン株式会社製の小型電気炉「MMF-1」で試料を280℃×120minで加熱し、加熱前後の試料の質量差から算出した。
(2)フィルム厚さ
フィルム厚さは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
【0093】
(3)全光線透過率、ヘイズ(透明性の評価)及びイエローインデックス(YI)
全光線透過率、ヘイズ及びYIは、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH7700」を用いて測定した。全光線透過率及びYIの測定はJIS K7361-1:1997に準拠し、ヘイズの測定はJIS K7136:2000に準拠した
(4)厚み位相差(Rth)(光学的等方性の評価)
厚み位相差(Rth)は、日本分光株式会社製のエリプソメーター「M-220」を用いて測定した。測定波長550nmにおける、厚み位相差の値を測定した。なおRthは、ポリイミドフィルムの面内の屈折率のうち最大のものをnx、最小のものをnyとし、厚み方向の屈折率をnzとし、フィルムの厚さをdとしたとき、下記式によって表されるものである。
Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d
【0094】
(5)破壊点伸び率(延性の評価)
破壊点伸び率は、JIS K 7127に準拠した引張試験(伸び率の測定)によって行った。試験片は幅10mm、厚さ10~60μmのものを用いた。
(6)延性(延性の評価)
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムを幅10mm、厚さ10~60μmの試験片とし、JIS K 7127に準拠した引張試験(試験速度50mm/min)で行い、延性の評価を行った。製造時や製品での破断抑制の点から、延性が有ることが好ましい。前記試験の結果、降伏点を超え塑性変形が生じたものは、延性有りとし、弾性領域でフィルムが破断したものは、延性無しとした。
(7)外観
実施例及び比較例で得られたポリイミドフィルムの表面の欠陥(ムラ及び空隙(ボイド))の有無を以下の基準で評価した。
A:フィルム表面に欠陥が見られない。
B:フィルム表面にわずかに欠陥が見られる(実使用上問題がない。)。
C:フィルム表面に明らかに欠陥が見られる(実使用上問題がある。)。
【0095】
実施例及び比較例にて使用したテトラカルボン酸成分及びジアミン成分、並びにその略号等は下記の通りである。
<テトラカルボン酸成分>
HPMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(三菱ガス化学株式会社製;式(a1)で表される化合物)
<ジアミン成分>
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(和歌山精化工業株式会社製、式(b11)で表される化合物)
BisAM:1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(三井化学ファイン株式会社製、式(b211)で表される化合物)
【0096】
実施例及び比較例において使用した、溶媒及び触媒の詳細は下記の通りである。
γ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)
N,N-ジメチルアセトアミド(三菱ガス化学株式会社製)
トリエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)
トリエチルアミン(関東化学株式会社製)
【0097】
<実施例1>
反応装置としてステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク装置、温度計、及びガラス製エンドキャップを備えた0.3Lの5ツ口ガラス製丸底フラスコを使用し、該丸底フラスコ中で、BAPPを28.858g(0.070モル)、BisAMを10.373g(0.030モル)、γ-ブチロラクトンを52.2g、及び触媒として、トリエチレンジアミンを0.056g、トリエチルアミンを5.060g入れ、窒素雰囲気下、150rpmで撹拌しながら80℃まで昇温し溶液を得た。この溶液に、HPMDAを22.439g(0.100モル)とγ-ブチロラクトンを23.0g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を190℃に1時間45分維持した。N,N-ジメチルアセトアミドを156.4g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度20質量%の均一なポリイミドワニス(1)を得た。
【0098】
続いて、得られたポリイミドワニス(1)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0099】
<実施例2>
実施例1と同じ反応装置を使用し、丸底フラスコ中で、BAPPを24.641g(0.060モル)、BisAMを13.831g(0.040モル)γ-ブチロラクトンを49.4g、及び触媒として、トリエチルアミンを10.12g入れ、窒素雰囲気下、150rpmで撹拌しながら80℃まで昇温し溶液を得た。この溶液に、HPMDAを22.439g(0.100モル)とγ-ブチロラクトンを11.4g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を190℃に4.5時間維持した。N,N-ジメチルアセトアミドを168.1g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度20質量%の均一なポリイミドワニス(2)を得た。
【0100】
続いて、得られたポリイミドワニス(2)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
<実施例3>
実施例1と同じ反応装置を使用し、丸底フラスコ中で、BAPPを20.534g(0.050モル)、BisAMを17.289g(0.050モル)、γ-ブチロラクトンを49.1g、及び触媒として、トリエチルアミンを10.13g入れ、窒素雰囲気下、150rpmで撹拌しながら80℃まで昇温し溶液を得た。この溶液に、HPMDAを22.439g(0.100モル)とγ-ブチロラクトンを11.1g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を190℃に7時間維持した。N,N-ジメチルアセトアミドを166.1g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度20質量%の均一なポリイミドワニス(3)を得た。
【0102】
続いて、得られたポリイミドワニス(3)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
<実施例4>
実施例3で得られたポリイミドワニス(3)に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.1質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニス(4)を得た。
【0104】
続いて、得られたポリイミドワニス(4)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
<実施例5>
実施例3で得られたポリイミドワニス(3)に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.5質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニス(5)を得た。
【0106】
続いて、得られたポリイミドワニス(5)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
<比較例1>
実施例1と同じ反応装置を使用し、丸底フラスコ中で、BAPPを16.427g(0.040モル)、BisAMを20.747g(0.060モル)、γ-ブチロラクトンを48.5g、及び触媒として、トリエチルアミンを10.10g入れ、窒素雰囲気下、150rpmで撹拌しながら80℃まで昇温し溶液を得た。この溶液に、HPMDAを22.439g(0.100モル)とγ-ブチロラクトンを11.0g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を190℃に7.5時間維持した。N,N-ジメチルアセトアミドを164.2g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度20質量%の均一なポリイミドワニス(6)を得た。
【0108】
続いて、得られたポリイミドワニス(6)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0109】
<比較例2>
比較例1で得られたポリイミドワニス(6)に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.1質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニス(7)を得た。
【0110】
続いて、得られたポリイミドワニス(7)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0111】
<比較例3>
比較例1で得られたポリイミドワニス(6)に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.5質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニス(8)を得た。
【0112】
続いて、得られたポリイミドワニス(8)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0113】
<比較例4>
比較例1で得られたポリイミドワニス(6)に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して1.0質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニス(9)を得た。
【0114】
続いて、得られたポリイミドワニス(9)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、260℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0115】
<比較例5>
実施例1と同じ反応装置を使用し、丸底フラスコ中で、BAPPを43.745g(0.107モル)、γ-ブチロラクトンを81.4g、及び触媒として、トリエチルアミンを0.54g入れ、窒素雰囲気下、150rpmで撹拌しながら70℃まで昇温し溶液を得た。この溶液に、HPMDAを23.887g(0.107モル)とγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を20.3g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を190℃に4.0時間維持した。γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を154.2g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度20質量%の均一なポリイミドワニス(10)を得た。
続いて、得られたポリイミドワニス(10)をPET基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する透明な一次乾燥フィルムを得た。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、210℃で空気雰囲気下、20分間乾燥することにより溶媒を除去し、フィルムを得た。このポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
表1に示すように、実施例のポリイミドフィルムは、透明性と光学的等方性に優れ、延性にも優れることがわかる。