(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/028 20060101AFI20250415BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20250415BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
G02B6/028
G02B6/02 376A
C03C13/04
(21)【出願番号】P 2022501983
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006199
(87)【国際公開番号】W WO2021167019
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2020028324
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-081067(JP,A)
【文献】特表2018-516386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0056549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
6/10
6/44
C03C 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の方向に延在するガラス部を含み、
前記ガラス部は、シリカ系ガラスからなり、前記中心軸を含むとともに質量分率1%以上の塩素が添加されたコアと、前記コアを取り囲むとともに前記コアの最大屈折率よりも低い屈折率を有するクラッドと、を備え、かつ、前記中心軸に直交する前記ガラス部の断面の全域において、実質的に整合した残留応力を有し、
前記ガラス部の前記断面において、前記断面の中心からの距離が半径方向に沿って50μm以上62.5μm以下である領域における残留応力の第一平均値は、前記断面の中心から距離が前記半径方向に沿って45μm以上55μm以下である領域における残留応力の第二平均値よりも低く、
前記第二平均値から前記第一平均値を引いた差分値が大きいほど伝送損失は低減する、
光ファイバ。
【請求項2】
前記残留応力の最大値と最小値との差が200MPa以下である、
請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記残留応力の最大値と最小値との差が100MPa以下である、
請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアは、フッ素をさらに含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアにおける前記フッ素の質量分率は、0.1%以上である、
請求項4に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記コアにおける前記フッ素の質量分率は、0.5%以下である、
請求項4に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コアにおける前記塩素の質量分率は、1.5%以上である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記コアにおける前記塩素の質量分率は、3%以下である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項9】
70μm
2以上150μm
2以下の実効断面積を有する、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記コアにおける屈折率プロファイルの形状を規定するα値は、150以下である、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記α値は、3以上99以下である、
請求項10に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記ガラス部の前記断面において、前記断面の中心からの距離が半径方向に沿って45μm以上55μm以下である領域における残留応力の平均値から、前記断面の中心から距離が前記半径方向に沿って55μm以上62.5μm以下である領域における残留応力の平均値を引いた値が、20MPaよりも大きい、
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項13】
波長1550nmにおいて1dB/km以下のマイクロベンドロスを有する、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項14】
分圧1.5kPa、温度25℃の水素雰囲気に720時間暴露された後の当該光ファイバにおいて、伝送損失の増加は、波長1550nmにおいて0.005dB/km以下である、
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関するものである。
本願は、2020年2月21日に出願された日本特許出願第2020-028324号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
例えば、コアにゲルマニウム(Ge)が添加されたシリカ系ガラスからなる光ファイバが知られている。このようなGe添加コアを有する光ファイバでは、該Geの濃度揺らぎ(平均値からの変動)に起因したレイリー散乱損失が大きく、コアへのGe添加が伝送損失の低減の障害になりつつある。その対策として、低損失化のため、コアにはGeが添加されない一方で例えばクラッドにフッ素(F)が添加された光ファイバが作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Libert et al, IWCS_Proceedings (1998) 375
【文献】M.P. Varnham et al, Electron Lett 20, 1034 (1984)
【発明の概要】
【0005】
本開示の光ファイバは、シリカ系ガラスからなるガラス部を含む。ガラス部は、中心軸を含むコアと、コアを取り囲むクラッドと、を備える。コアには、質量分率1%以上の塩素(Cl)が添加されている。クラッドは、コアの最大屈折率よりも低い屈折率を有する。さらに、中心軸に直交するガラス部の断面の全域において、残留応力が実質的に整合している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る光ファイバの断面構造を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル1からサンプル5それぞれの諸元を示す図表である。
【
図3】
図3は、サンプル1からサンプル5それぞれについて、塩素(Cl)の質量分率(%)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル6からサンプル9それぞれの諸元を示す図表である。
【
図5】
図5は、サンプル6からサンプル9それぞれについて、フッ素(F)の質量分率(%)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル10からサンプル13それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。
【
図7】
図7は、サンプル5(参考)とともにサンプル10からサンプル13それぞれについて、残留応力の最大値と最小値の差(MPa)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル14からサンプル16それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。
【
図9】
図9は、サンプル5(参考)とともにサンプル14からサンプル16それぞれについて、実効断面積A
eff(
μm
2
)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル17からサンプル23それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。
【
図11】
図11は、サンプル5(参考)とともにサンプル17からサンプル23それぞれについて、α値と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル24からサンプル26それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。
【
図13】
図13は、サンプル5(参考)とともにサンプル24からサンプル26それぞれについて、特定部位間での残留応力の差(MPa)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル27からサンプル31それぞれの諸元を、参考例としてのサンプル5の諸元とともに示す図表である。
【
図15】
図15は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル32からサンプル38それぞれの諸元を示す図表である。
【
図16】
図16は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル39からサンプル41それぞれ諸元を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
発明者らは、従来の光ファイバ母材の製造方法について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、特許文献1には、母材(preform)のコア領域(線引き後に光ファイバのコアとなるべき領域)の粘度が、クラッド領域(線引き後の光ファイバのクラッドとなるべき領域)の粘度と等しいかそれ以下に設定すること、さらには、コア領域とクラッド領域との間の熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion: CTE)を一致させることにより、伝送損失の低減が可能になる旨、記載されている。しかしながら、上記特許文献1に記載されたように、母材におけるコア領域とクラッド領域と間で粘性や熱膨張係数の値を互いに近づけることだけでは、伝送損失の低減は不十分であった。これは、ガラス領域内に残留する応力が、粘性や熱膨張係数などの母材(preform)としての特性だけでなく、線引き時の張力、線速、徐冷の仕方による影響を受けるためである。
【0008】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、伝送ロス増を低減することが可能な構造を備えた光ファイバを提供することを目的としている。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の光ファイバによれば、伝送ロスの低減が可能になる。
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0011】
(1) 本開示の実施形態に係る光ファイバは、その一態様として、シリカ系ガラスからなるガラス部を含む。ガラス部は、中心軸を含むコアと、コアと取り囲むクラッドと、を備える。コアには、質量分率1%以上の塩素(Cl)が添加されている。クラッドは、コアの最大屈折率よりも低い屈折率を有する。さらに、中心軸に直交するガラス部の断面の全域において、残留応力が実質的に整合している。具体的に、「残留応力が実質的に整合した状態」とは、残留応力の最大値と最小値との差が、230MPa以下、または200MPa以下である状態を意味し、さらに本開示の一態様として、残留応力の最大値と最小値との差は、100MPa以下であるのがより好ましい。本出願において「残留応力」は、非特許文献2に記載されているaxial stress σzのことである。これは
図1のAX方向に対して垂直な断面に働くAX方向と平行な応力の成分であり、正の値を持つ場合には引っ張り応力であり、負の値を持つ場合には圧縮応力である。
【0012】
上述のように、コアに質量分率1%以上のClが添加された光ファイバにおいて、ガラス部における残留応力の最大値と最小値の差(絶対値)が230MPa以下、または200MPa以下の場合、従来技術と比較してより低損失の光ファイバが得られる。残留応力の最大値と最小値の差(絶対値)が100MPa以下の場合には、低損失化の効果がより顕著になる。これは、Cl濃度が高いとガラス粘性が低下するため、線引き炉内で一旦加熱された後の光ファイバ(線引き後の光ファイバ)を冷却する際の徐冷効果によりレイリー散乱損失が低減し易くなるためと考えられる。
【0013】
(2)本開示の一態様として、コアは、フッ素(F)をさらに含んでもよい。すなわち、適正量のF添加によりガラス粘性がさらに低下するため、レイリー散乱損失の低減効果が得られる。
【0014】
(3)コアに添加された塩素の質量分率は、1.5%以上であってもよい。この場合、レイリー散乱損失の更なる低減が得られる。ただし、本開示の一態様として、コアに添加された塩素の質量分率は、5%以下であるのが好ましく、3%以下であればさらに好ましい。なお、塩素の質量分率が5%を超えると(場合によっては3%以上でも)、塩素添加の際に気泡が発生し、光ファイバ母材の製造が困難になる可能性がある。
【0015】
(4)本実施形態の一態様として、当該光ファイバは、70μm2以上150μm2以下の実効断面積Aeffを有するのが好ましい。この場合、十分な伝送損失の低下が期待できる。
【0016】
(5) 本開示の一態様として、コアにおける屈折率プロファイルは、α乗プロファイルに従い、その形状を規定するα値は、150以下であるのが好ましい。α値が150を超えると伝送損失の増加が顕著になるためである。ただし、本開示の一態様として、α値は、3以上99以下であるのが好ましい。α値の範囲は60以上80以下の範囲で伝送損失の低減効果は顕著になるが、3以上99以下のα値が実用的である。
【0017】
(6) 本開示の一態様として、ガラス部の断面において、該断面の中心からの距離が半径方向に沿って50μm以上62.5μm以下である領域における残留応力の平均値は、該断面の中心から距離が半径方向に沿って45μm以上55μm以下である領域における残留応力の平均値よりも低いのが好ましい。このような異なる領域間で上記関係が満たされることにより、十分なレイリー散乱損失の低減効果が得られる。
【0018】
(7) 本開示時の一態様として、当該光ファイバは、波長1550nmにおいて1dB/km以下のマイクロベンドロスを有するのが好ましい。ガラス部の外周面上に設けられる被覆のヤング率を調整することにより、マイクロベンドロスの制御が容易になる。
【0019】
(8) 本開示の一態様として、分圧1.5kPa、温度25℃の水素雰囲気に720時間暴露された後の当該光ファイバにおいて、伝送損失の増加が、波長1550nmにおいて0.005dB/km以下であるのが好ましい。仮想温度(fictive temperature)を低く制御することにより(例えば2000℃以下)、水素雰囲気処理後の伝送損失増は小さくなる(ガラス構造内の結晶欠陥が少なくなる)。
【0020】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る光ファイバの具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、本開示に係る光ファイバの構造の一例を示す断面図である。
図1において、光ファイバ100は、シリカ系ガラスからなるガラスファイバ(ガラス部)100aと、該ガラスファイバ100aの外周面上に設けられたプライマリ被覆210と、プライマリ被覆210の外周面上に設けられたセカンダリ被覆220と、を備える。ガラスファイバ100aは、中心軸(光軸)AXを含むコア10と、該コアの外周面上に設けられたクラッド20と、を備える。コア10には、質量分率1%以上の塩素(Cl)が添加されている。また、クラッド20は、F等の適当な屈折率低下剤(refractive index reducer)が添加されてもよく、該クラッド20の屈折率は、コア10の最大屈折率よりも低く設定される。
【0023】
プライマリ被覆210は、18μm以上33μm以下の厚み(中心軸AXに直交する半径方向に沿って規定されるプライマリ被覆210の幅)を有する。また、プライマリ被覆210は、0.05MPa以上0.6MPa以下のヤング率を有する。一方、セカンダリ被覆220は、20μm以上30μm以下の厚みを有する。また、セカンダリ被覆220は、1200MPa以上1500MPa以下のヤング率を有する。なお、セカンダリ被覆220の厚みに対するプライマリ被覆210の厚みの比(「プライマリ厚」/「セカンダリ厚」)は、0.3以上1.8以下、好ましくは0.9以上1.8以下である。この場合、プライマリ被覆210およびセカンダリ被覆220が設けられた状態での光ファイバ100のマイクロベンドロス(dB/km)を適正範囲内に制御できる。
【0024】
以下、
図2から
図16を用いて、本開示の光ファイバ100のサンプル1からサンプル41それぞれについての評価結果を説明するが、その前提として、まず、
図2、
図4、
図6、
図8、
図10、
図12、
図14から
図16それぞれにおいて示された諸元について説明する。なお、各サンプルに係る光ファイバのクラッドにはFが添加されている。
(1)「コアΔ(%)」:
項目(1)は、各サンプルにおけるコアの最大比屈折率差(%)であって、純シリカガラスの屈折率n
0を基準とする。例えば屈折率nを有する部分の比屈折率差Δは、(n/n
0)-1なる式で与えられる。
(2)「コアのα値」:
項目(2)は、上記特許文献1に記載された「α乗プロファイル」の定義式の指数に相当し、このα値によってコアのプロファイル形状が表現される。すなわち、各サンプルにおけるコアの屈折率プロファイル(中心軸AXに直交する半径方向に沿った比屈折率差の変化)は、以下の「α乗プロファイル」の定義式:
【数1】
ここで、
r0: Δ(r)が最大となる位置
r1: コアとクラッドの境界に当てはめられ、指数α値は最小二乗法により決定される。
(3)「コアのドーパント」:
項目(3)は、Clの他、各サンプルにおけるコア内にさらに添加される元素である。
(4)「コア内Clの質量分率(%)」:
項目(4)は、各サンプルにおけるコア内に添加された塩素(Cl)の質量分率(%)である。なお、元素の質量分率の測定に際しては、光ファイバの研磨した断面に対して、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、光ファイバの中心軸から半径方向に沿って測定を行う。測定条件は、例えば、加速電圧を20kVとし、プローブビーム径を1μm以下とし、測定間隔を100nm以下とし、測定値とあらかじめ求めておいた検量線とを利用して質量分率を求める。
(5)「コア内Fの質量分率(%)」:
項目(5)は、各サンプルにおけるコア内に添加されたフッ素(F)の質量分率(%)であり、質量分率(%)の測定は、上記項目(4)の場合と同様である。
(6)「コア外径(μm)」:
項目(6)は、各サンプルにおけるコアの外径(μm)である。
(7)「ガラス部外径(μm)」:
項目(7)は、各サンプルにおけるガラス部であって、
図1に示されたガラスファイバ100a(コア10およびクラッド20により構成された部分)に相当する部分の外径(μm)である。
(8)「分散@1550nm(ps/nm/km)」:
項目(8)は、波長1550nmにおける各サンプルの波長分散(chromatic dispersion、単位:ps/nm/km)である。
(9)「MFD(μm)」:
項目(9)は、波長1550nmにおける各サンプルのモードフィールド径(mode field diameter、単位:μm)である。
(10)「A
eff(μm
2)」:
項目(10)は、波長1550nmにおける各サンプルの実効断面積(effective area、単位:μm
2)である。
【0025】
さらに、
(11)「22mケーブルカットオフ波長λ
cc(μm)」:
項目(11)は、ITU-T G650.1で定義されたケーブルカットオフ波長(μm)である。
(12)「MFD/λ
cc」
項目(12)は、「22mケーブルカットオフ波長λ
cc」に対する「MFD」の比である。
(13)「曲げロス@1550nm(dB/巻)(曲げ直径30mm)」:
項目(13)は、直径30mmのマンドレルに巻き付けられた各サンプルに対して波長1550nmの光を入力したときに測定された、1巻(1ターン)当たりのロス増(dB/巻)である。
(14)「曲げロス@1550nm(dB/巻)(曲げ直径60mm)」:
項目(14)は、直径60mmのマンドレルに巻き付けられた各サンプルに対して波長1550nmの光を入力したときに測定された、1巻(1ターン)当たりのロス増(dB/巻)である。
(15)「伝送損失@1550nm(dB/km)」:
項目(15)は、波長1550nmにおける各サンプルの伝送損失(dB/km)である。(16)「残留応力の最大と最小の差分(MPa)」:
項目(16)は、各サンプルのガラス部(
図1に示されたガラスファイバ100aに相当)の断面全域において、残留応力の変動状態を示す数値(MPa)である。
(17)「マイクロベンドロス(dB/km)」:
項目(17)は、各サンプルのマイクロベンドロス(dB/km)である。なお、マイクロベンドロスは、非特許文献1を参考に評価された。具体的には、胴径405mmで、断面直径50μmの金属ワイヤーが100μmの間隔で編まれたメッシュ状の胴面が形成されたドラムに対し、張力80gfで巻き付けられた500mの各サンプルに、波長1550nmの光を入力したときのロスの増加分から求められる。
(18)「プライマリ厚(μm)」:
項目(18)は、各サンプルのプライマリ被覆(
図1に示されたプライマリ被覆210に相当)の厚み(μm)、すなわち、半径方向に沿ったプライマリ被覆の断面幅である。
(19)「セカンダリ厚(μm)」:
項目(19)は、各サンプルのセカンダリ被覆(
図1に示されたセカンダリ被覆220に相当)の厚み(μm)、すなわち、半径方向に沿ったセカンダリ被覆の断面幅である。
【0026】
さらに、
(20)「プライマリヤング率(MPa)」:
項目(20)は、各サンプルにおけるプライマリ被覆のヤング率(MPa)である。
(21)「セカンダリヤング率(MPa)」:
項目(21)は、各サンプルにおけるセカンダリ被覆のヤング率(MPa)である。
(22)「被覆厚の比」:
項目(22)は、各サンプルにおいて、セカンダリ被覆の厚みに対するプライマリ被覆の厚みの比(「プライマリ厚(μm)」/「セカンダリ厚(μm)」)である。
(23)「水素ロス増(dB/km)」:
項目(23)は、各サンプルを分圧1.5kPa、温度25℃の水素雰囲気に720時間暴露された光ファイバについて測定された、波長1550nmにおける伝送損失の増加分(dB/km)である。
(24)「55-62.5残留応力の平均値(55-62.5平均値)」:
項目(24)は、各サンプルの断面(
図1に示された中心軸AXに相当する軸に対して直交する断面)において、半径55μmの内周部と半径62.5μmの外周部で挟まれた円環領域における残留応力の平均値(MPa)である。
(25)「45-55残留応力の平均値(45-55平均値)」:
項目(25)は、各サンプルの断面において、半径45μmの内周部と半径55μmの外周部で挟まれた円環領域における残留応力の平均値(MPa)である。
(26)「コア平均仮想温度(℃)」:
項目(26)は、各サンプルにおけるコアの仮想温度(℃)の平均値である。
【0027】
続いて、
図2は、本開示の一実施形態に係る光ファイバとして用意されたサンプル1からサンプル5それぞれの諸元を示す図表である。また、
図3は、サンプル1からサンプル5それぞれについて、塩素(Cl)の質量分率(%)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【0028】
図3に示されたサンプル1からサンプル5の測定結果から分かるように、塩素濃度(塩素の質量分率)が高いほど伝送損失は低減する。これは、塩素濃度が高いほどガラス粘性が低下するためと考えられる。すなわち、線引き炉での加熱直後から冷却されるまでの、線引きされた光ファイバへの徐冷効果でレイリー散乱損失が低減し易くなるからと考えられる。なお、質量分率が3%よりも高い濃度のClをコアに添加する場合、気泡の発生により光ファイバ母材の製造が難しくなる傾向がある。したがって、コアに添加されるClの質量分率は5%以下が妥当である。
【0029】
図4は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル6からサンプル9それぞれの諸元を示す図表である。また、
図5は、サンプル6からサンプル9それぞれについて、フッ素(F)の質量分率(%)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。なお、サンプル6からサンプル9は、いずれも、同程度の濃度のClとともにFがコアに共添加された光ファイバである。
【0030】
図5に示されたサンプル6からサンプル9の測定結果から分かるように、Fの質量分率が0.5%以下であれば、伝送損失はほぼ同程度であるが、Fの質量分率が0.5%以上になると伝送損失は増加する。Fの質量分率が0.5%以下の場合(サンプル6からサンプル8)に伝送損失が各サンプル間でほぼ変化しないことは、F添加によるガラス粘度の低下によるレイリー散乱損失の低減分と、Fの濃度揺らぎ(設計濃度分布からのズレ)に起因したレイリー散乱損失の増加分と、が同程度であるためと考えられる。一方、Fの質量分率が0.5%以上の場合(サンプル9)、ガラス粘度の低下によるレイリー散乱損失の低減効果が飽和し始めるため、Fの濃度揺らぎに起因したレイリー散乱損失の増大が、ガラス粘度低下に起因したレイリー散乱損失の低減分を上回るようになると推測される。また、サンプル5から8を比較したときに、無添加よりもコアにFが添加された場合の方が、伝送損失が低減する場合がある。そのFの質量分率は0.1%以上必要である。
【0031】
図6は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル10からサンプル13それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。また、
図7は、サンプル5(参考)とともにサンプル10からサンプル13それぞれについて、残留応力の最大値と最小値の差(MPa)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【0032】
図7に示されたサンプル5の測定結果とサンプル10からサンプル13の測定結果から分かるように、各サンプルの断面全域に残留する応力のうち最大残留応力と最小残留応力との差が小さいほど伝送損失が低減する。これは、各サンプル(光ファイバ)の内部、特にガラス部内での歪に起因した屈折率差によってレイリー散乱損失が変化するためと考えられる。
【0033】
図8は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル14からサンプル16それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。また、
図9は、サンプル5(参考)とともにサンプル14からサンプル16それぞれについて、実効断面積A
eff(
μm
2
)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【0034】
図9に示されたサンプル5の測定結果とサンプル14からサンプル16の測定結果から分かるように、実効断面積A
effが大きいほど伝送損失は低減する。これは、実効断面積A
effの拡大のために各サンプルのクラッドにおけるF濃度が低くなると、クラッドモード光に与えられる、Fの濃度揺らぎ由来のレイリー散乱に起因した損失分が低減されるためと考えられる。
【0035】
図10は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル17からサンプル23それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。また、
図11は、サンプル5(参考)とともにサンプル17からサンプル23それぞれについて、α値と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。
【0036】
図11に示されたサンプル5の測定結果とサンプル17からサンプル23の測定結果から分かるように、α値が60以上80以下の範囲で伝送損失が最も低減することが分かる。この範囲よりもα値が小さくなる場合およびα値が大きくなる場合のいずれにおいても、伝送損失は増大する傾向になる。α値が小さくなる場合の伝送損失の増加は、コア外周部におけるCl濃度が低下するため、該コア外周部でのガラス粘性が増加することが要因として考えられる。すなわち、コア外周部におけるガラス粘性の増加により、レイリー散乱損失が増大するためと考えられる。一方、α値が大きくなる場合の伝送損失の増加は、明確な理由は不明だが、例えばコアとクラッドの界面におけるCl濃度の増大に起因して係る界面付近に微小気泡が発生することが要因として推測され得る。すなわち、界面不整合によるレイリー散乱損失が増大する現象が伝送損失増大の要因として推測される。なお、各サンプルの線引きでは、線引き炉から引き出された各サンプルが、保温炉を用いて徐冷された。その保温炉の温度は各サンプルで異なっている。
【0037】
図12は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル24からサンプル26それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。また、
図13は、サンプル5(参考)とともにサンプル24からサンプル26それぞれについて、特定部位間での残留応力の差(MPa)と伝送損失(dB/km)の関係を示すグラフである。なお、「特定部位間での残留応力の差」は、断面中心からの距離が半径方向に沿って45μm以上55μm以下の領域における残留応力の平均値(45-55平均値)から、断面中心からの距離が半径方向に沿って55μm以上62.5μm以下の領域における残留応力の平均値(55-62.5平均値)を引いた差分値である。
【0038】
図13示されたサンプル5の測定結果とサンプル24からサンプル26測定結果から分かるように、この差分値が大きいほど伝送損失は低減する。具体的には、「(45-55平均値)-(55-62.5平均値)」で定義される差分値は、20MPa以上であるのが好ましい。「ガラス部外径」が110μm以上130μm以下(55μm以上62.5μm以下の半径)の最外周部に圧縮方向の応力が付与された場合、クラッドに引っ張り応力が残留し、結果として光パワーが集中するコアに圧縮応力が残留することになる。このような状況により、レイリー散乱損失が低減するためと推測され得る。
【0039】
続いて、分圧1.5kPa、温度25℃の水素雰囲気に720時間暴露された後の各サンプルについて、波長1550nmにおける伝送損失の増加分(水素ロス増)を評価した。
図14は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル27からサンプル31それぞれの諸元を、サンプル5(参考)の諸元とともに示す図表である。
【0040】
図14に示されたサンプル5、およびサンプル27からサンプル31の場合、仮想温度(fictive temperature)が小さいほど水素ロス増(水素特性評価での伝送損失増)は小さくなる。これは、仮想温度が低い方が、ガラス構造内に欠陥が少なくなるためと考えられる。また、サンプル5、サンプル30、およびサンプル31を比較すると、コアのCl濃度が高い方が水素ロス増は小さくなる。これは、Cl濃度が少ないとガラス構造内に欠陥が多くなるためと考えられる。そのため、水素ロス増を0.008dB/km以下にする場合、仮想温度が2000℃以下かつCLの質量分率が1%以上であればよいと考えられる。
【0041】
図15は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル32からサンプル38それぞれの諸元を示す図表である。
図15では、サンプル32からサンプル38のマイクロベンドロス(プライマリ被覆およびセカンダリ被覆の双方が設けられた状態で測定されたマイクロベンドロス)が追加表示されている。
【0042】
図15の図表から、サンプル32からサンプル38を比較すると、プライマリ被覆の厚み「プライマリ厚」とセカンダリ被覆の厚み「セカンダリ厚」が同程度で、それらのヤング率とマイクロベンドロスの関係が得られる。プライマリ被覆のヤング率「プライマリヤング率」が0.5MPaより大きく、かつ、セカンダリ被覆のヤング率「セカンダリヤング率」が500MPaより大きい場合、マイクロベンドロスは1dB/km以下に抑制され得る。
【0043】
図16は、本開示の一実施形態に係る光ファイバのサンプル39からサンプル41それぞれ諸元を示す図表である。
図16に示された、プライマリ被覆のヤング率とセカンダリ被覆のヤング率を固定し、これら被覆の厚みを変えたサンプル39からサンプル41を比較すると、プライマリ被覆の外径が160μmよりも小さくなると(サンプル39:161μm、サンプル40:161μm、サンプル41:141μm)、マイクロベンドロスが1dB/kmよりも大きくなる。また、セカンダリ被覆の外径が200μmよりも大きくなると(サンプル39:201μm、サンプル40:181μm、サンプル41:201μm)、マイクロベンドロスが1dB/kmよりも大きくなる。サンプル39からサンプル41を比較すると、「被覆厚の比」が0.3よりも大きい場合にマイクロベンドロスは低減できる。
【符号の説明】
【0044】
10…コア、20…クラッド、100…光ファイバ、100a…ガラスファイバ(ガラス部)、210…プライマリ被覆、220…セカンダリ被覆。