(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 9/00 20060101AFI20250415BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20250415BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20250415BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H01B9/00 A
C08K5/13
C08L23/10
H01B3/44 G
(21)【出願番号】P 2022571911
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039406
(87)【国際公開番号】W WO2022137780
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020211490
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
(72)【発明者】
【氏名】伊與田 文俊
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/101753(WO,A1)
【文献】特開2015-162929(JP,A)
【文献】特開2012-119196(JP,A)
【文献】特開2017-128677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/00
C08K 5/13
C08L 23/10
H01B 3/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記樹脂成分は、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分と、を含有し、
前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下であるプロピレン単独重合体、または、融点が140℃以上155℃以下であるプロピレンランダム共重合体であり、
前記低結晶性樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であり、融点を持たない、もしくは100℃以下の融点を有し、
前記スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとしてエチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマであり、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、硫黄原子を含み、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記樹脂成分は、前記プロピレン系樹脂を60質量部以上95質量部以下、前記柔軟成分を5質量部以上40質量部以下、含み、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
電力ケーブル。
【請求項2】
導体と、
前記導体の外周に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記樹脂成分は、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分と、を含有し、
前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下であるプロピレン単独重合体、または、融点が140℃以上155℃以下であるプロピレンランダム共重合体であり、
前記低結晶性樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であり、融点を持たない、もしくは100℃以下の融点を有し、
前記スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとしてエチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマであり、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、27℃で液体状態となるような融点を有し、分子量が200以上500以下であり、
前記樹脂成分は、前記プロピレン系樹脂を60質量部以上95質量部以下、前記柔軟成分を5質量部以上40質量部以下、含み、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
電力ケーブル。
【請求項3】
前記樹脂成分は、エチレン単位およびスチレン単位の少なくとも1つを含む、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記耐性付与剤は、炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記耐性付与剤は、フェノール系酸化防止剤である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下、融解熱量が100J/g以上120J/g以下であるプロピレン単独重合体
であり、
前記樹脂組成物の融点が158℃以上168℃以下であり、融解熱量が55J/g以上110J/g以下である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
前記プロピレン系樹脂は、融点が140℃以上155℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下であるプロピレンランダム共重合体
であり、
前記樹脂組成物の融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下である、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂は、融点および融解熱量を持たない
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月21日出願の日本国出願「特願2020-211490」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【0002】
本開示は、樹脂組成物および電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0003】
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
樹脂組成物が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
電力ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、高い絶縁性を実現することができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。さらに、プロピレン系樹脂を用いることで、取り扱い性、加工性、および製造容易性を向上させることができる。
【0010】
しかし、絶縁層を構成する樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いた場合、プロピレン系樹脂が本来有する絶縁性を得られないことがあった。また、本発明者等の検討によると、プロピレン系樹脂を含む絶縁層では、例えば電力ケーブルが屈曲されて、絶縁層に屈曲にともなう応力が加わったときに、絶縁性が著しく低下することが見出された。
【0011】
本開示の目的は、プロピレン系樹脂を含む絶縁層において絶縁性を向上させるとともに、外部応力に起因する絶縁性の低下を抑制する技術を提供することである。
【0012】
[本開示の効果]
本開示によれば、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物において絶縁性を向上させるとともに、外部応力に起因する絶縁性の低下を抑制することができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0014】
一般に、プロピレン系樹脂は結晶量が多く、粗大結晶を形成しやすい。そのため、プロピレン系樹脂のみで絶縁層を形成する場合、絶縁層が硬くなる傾向がある。そのため、絶縁層を構成する樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いる場合、低結晶性樹脂などを混合し、プロピレン系樹脂の結晶性を制御する必要がある。
【0015】
しかし、プロピレン系樹脂に低結晶性樹脂などを混合して絶縁層を形成すると、絶縁層に極微細なボイドが形成されることがあり、本来の絶縁性を得られないことがある。また、絶縁層において、ボイドが見かけ上なく、特性の上で問題がない場合であっても、例えば屈曲により大きな外部応力が加わった後では絶縁性が著しく低下することがあった。この点について本発明者等が検討したところ、外部応力によりボイドが新たに形成されることが見出された。
【0016】
このようにプロピレン系樹脂を含む絶縁層では、微細なボイドのために高い絶縁性を得られなかったり、屈曲によりボイドが発生することで絶縁性が著しく低下したりすることがあった。
【0017】
本発明者等は上記課題について検討したところ、特定の添加剤を使用したときに、微細なボイドや屈曲により発生するボイドに起因する絶縁性の低下を抑制できることを見出した。この添加剤は、酸化防止剤として使用されるものであり、フェノール骨格を有し、フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されて構成され、分子量が200以上500以下、融点がプロピレン系樹脂よりも低いモノマである。
【0018】
上記モノマは、これまで酸化防止剤として一般的に使用されていたが、本発明者等の検討によると、所定の化学構造、分子量および融点を有することで、絶縁層において、微細なボイド、または屈曲により形成されるボイドを充填することができる。そして、ボイドを充填することで、絶縁層とボイドとの間の急激な抵抗変化を緩和するように作用し、その結果、ボイドによる絶縁性の低下を抑制することができる。つまり、上記モノマは、酸化防止剤としてだけでなく、ボイドによる絶縁性の低下に対する耐性を絶縁層に付与する耐性付与剤としても作用する。
【0019】
そして、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物に上記化合物を所定量配合することにより、絶縁層に存在する微細なボイドや外部応力が加わって形成されるボイドに耐性付与剤を埋め込むことで、絶縁性を向上させるとともに、屈曲による絶縁性の低下を抑制できることを見出した。
【0020】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0021】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0022】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物において絶縁性を向上させるとともに、屈曲による絶縁性の低下を抑制することができる。
【0023】
[2]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む絶縁層において絶縁性を向上させるとともに、屈曲による絶縁性の低下を抑制することができる。
【0024】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂成分は、エチレン単位およびスチレン単位の少なくとも1つを含む。
この構成によれば、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができ、絶縁層におけるボイドの形成を抑制することができる。
【0025】
[4]上記[2]又は[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記耐性付与剤は、炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有する。
この構成によれば、絶縁層に電気的な安定性を付与することができる。
【0026】
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記耐性付与剤は、硫黄原子を含む。
この構成によれば、絶縁層に電気的な安定性を付与することができる。
【0027】
[6]上記[2]から[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記耐性付与剤は、27℃で液体状態となるような融点を有する。
この構成によれば、絶縁層において割れやボイドの起点となる箇所に耐性付与剤を留めやすく、新たに形成されるボイドなどに耐性付与剤をより確実に充填することができる。
【0028】
[7]上記[2]から[6]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記耐性付与剤は、フェノール系酸化防止剤である。
この構成によれば、酸化防止剤による効果を絶縁層に付与することができる。
【0029】
[8]上記[2]から[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂として、融点が160℃以上175℃以下、融解熱量が100J/g以上120J/g以下であるプロピレン単独重合体を含み、
前記樹脂組成物の融点が158℃以上168℃以下であり、融解熱量が55J/g以上110J/g以下である。
この構成によれば、絶縁層において、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制し、絶縁層においてより高い絶縁性を得ることができる。
【0030】
[9]上記[2]から[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂として、融点が140℃以上155℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下であるプロピレンランダム共重合体を含み、
前記樹脂組成物の融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下である。
この構成によれば、絶縁層において、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制し、絶縁層においてより高い絶縁性を得ることができる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、後述する電力ケーブル10における絶縁層130を構成する材料であり、例えば、プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、必要に応じて、その他の添加剤と、を含んでいる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分として少なくともプロピレン系樹脂を含んでおり、樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置により分析すると、少なくともプロピレン単位が検出される。例えばプロピレン系樹脂がランダムポリプロピレンである場合は、プロピレン単位とエチレン単位が検出され、プロピレン単独重合体である場合は、プロピレン単位が検出される。
【0034】
樹脂成分は、好ましくは、プロピレン系樹脂の結晶性を低下させて絶縁層の柔軟性を高める柔軟成分として低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む。樹脂成分が低結晶性樹脂やスチレン系樹脂を含む場合、樹脂組成物をNMRで分析すると、これらの樹脂に由来するモノマ単位が検出される。例えば、低結晶性樹脂として、後述するエチレンプロピレンゴム(EPR)を含む場合は、これに由来するプロピレン単位とエチレン単位が検出される。また例えば、スチレン系樹脂を含む場合は、これに由来するスチレン単位が検出される。
【0035】
以下、各成分について説明する。
【0036】
(プロピレン系樹脂)
プロピレン系樹脂は、樹脂組成物のベースポリマであって、樹脂成分において最も含有量が多い成分である。プロピレン系樹脂としては、例えばプロピレン単独重合体(以下、ホモPPともいう)またはプロピレンランダム共重合体(以下、ランダムPPともいう)を用いることができる。プロピレン系樹脂としては、ランダムPPを用いることが好ましい。ホモPPとランダムPPとを比較した場合、ランダムPPはエチレン単位を含むことで結晶量が低くなる傾向があるが、絶縁層において、粗大結晶化に伴う割れやボイドの形成を抑制できる。そのため、ランダムPPによれば、ホモPPよりも高い絶縁性を得ることができる。また、絶縁層に屈曲などの外部応力が加わったときに、ボイドの形成を抑制し、屈曲前後での絶縁性の変動をより小さくすることができる。
【0037】
また、プロピレン系樹脂の立体規則性は特に限定されないが、アイソタクチックであることが好ましい。アイソタクチックプロピレン系樹脂によれば、低結晶性樹脂と混合したとき、シンジオタクチックやアタクチックと比較してより低結晶化できるので、絶縁層の低温度での脆性を改善し、絶縁性を向上させることができる。
【0038】
プロピレン系樹脂の融点や融解熱量は特に限定されない。例えばホモPPの場合であれば、融点は160℃以上175℃以下、融解熱量は100J/g以上120J/g以下であることが好ましい。また例えばランダムPPの場合であれば、融点は140℃以上155℃以下、融解熱量は90J/g以上105J/g以下であることが好ましい。
【0039】
(低結晶性樹脂)
低結晶性樹脂は、プロピレン系樹脂の結晶成長(結晶量)を制御して絶縁層に柔軟性を付与する成分である。ここで、低結晶性樹脂とは、結晶性が低い、もしくは非晶性であって、融点を持たない、融点を持つとしても融点が100℃以下である成分を示す。低結晶性樹脂の融解熱量は、例えば、50J/g以下、好ましくは30J/g以下である。
【0040】
低結晶性樹脂としては、結晶成長の制御性や絶縁層の柔軟性を高める観点から、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であることが好ましい。なお、低結晶性樹脂を構成するモノマ単位における炭素-炭素二重結合は、例えば、α位にあることが好ましい。
【0041】
低結晶性樹脂としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)、超低密度ポリエチレン(VLDPE:Very Low Density Poly Ethylene)などが挙げられる。超低密度ポリエチレンは、例えば密度が0.91g/cm3以下、好ましくは0.855g/cm3~0.890g/cm3のポリエチレンである。
【0042】
低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレンを含む共重合体が好ましい。プロピレンを含む共重合体としては、上記の中で、EPRが挙げられる。
【0043】
EPRのエチレン含有量は、例えば、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上であることが好ましい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなる。このため、絶縁層中のEPRの含有量を少なくしても、絶縁層を柔軟化することができる。しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御できず、絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによるプロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御することができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、エチレン含有量を好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上とすることで、結晶化をより安定して制御することができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。なお、エチレン含有量は、EPRを構成するエチレン単位およびプロピレン単位に占めるエチレン単位の質量比率を示す。
【0044】
一方で、低結晶性樹脂は、例えば、プロピレンを含まない共重合体であってもよい。プロピレンを含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、VLDPEが好ましい。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。
【0045】
低結晶性樹脂として、プロピレンを含まない共重合体によれば、プロピレン系樹脂に対して低結晶性樹脂を所定量混合させつつ、完全相溶を抑制することができる。そのため、このような共重合体の含有量を所定量以上とすることで、プロピレン系樹脂の結晶化を安定して制御することができる。
【0046】
(スチレン系樹脂)
スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンなどの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマである。スチレン系樹脂は、低結晶性樹脂と同様、樹脂組成物に分散してプロピレン系樹脂の結晶成長を制御することができる。特に、スチレン系樹脂は、低結晶性樹脂とともにプロピレン系樹脂に混合したときに、プロピレン系樹脂中に低結晶性樹脂を起点として微細に分散させて特異な相構造を形成すると考えられ、この相構造により、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができる。また、スチレン系樹脂は、芳香環により電子をトラップして安定的な共鳴構造を形成できるので、絶縁層の絶縁性をより向上させることができる。なお、スチレン系樹脂は、融点および融解熱量を持たない。
【0047】
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
なお、ここでいう「水素化」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0049】
スチレン系樹脂としては、ベンゼン環を除く化学構造中に二重結合を含まない物が好ましい。二重結合を有する物を用いた場合、樹脂組成物の成形時などで樹脂成分が熱劣化することがあり、得られる成形体の特性を低下させることがある。この点、二重結合を含まない物によれば、熱劣化の耐性が高いので、成形体の特性をより高く維持することができる。
【0050】
スチレン系樹脂のスチレン含量は、特に限定されないが、プロピレン系樹脂の結晶成長の制御、および成形体の柔軟化という観点からは、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。なお、スチレン含量は、スチレン系樹脂を構成する成分単位に占めるスチレン単位の質量比率を示す。
【0051】
(耐性付与剤)
耐性付与剤は、絶縁層に存在するボイドを埋め込み、ボイドによる絶縁性の低下を抑制する成分である。また、耐性付与剤は、酸化防止剤としても機能し、樹脂組成物の加熱混合時の劣化を抑制することができる。具体的には、耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されて構成され、融点が前記樹脂成分よりも低く、分子量が200以上500以下のモノマである。好ましくは、耐性付与剤は、上記化学構造、融点および分子量を有するフェノール系酸化防止剤である。
【0052】
耐性付与剤がボイドを埋め込み、ボイドによる絶縁性の低下を抑制するメカニズムは以下のように推測される。
【0053】
耐性付与剤は、融点が145℃以下であり、樹脂成分よりも低い融点を有する傾向があるので、樹脂成分と加熱混合する際に溶融して液体状態となる。加熱混合により得られる樹脂組成物を絶縁層に成形して冷却すると、まず樹脂成分が固化し始める。このとき、プロピレン系樹脂の結晶成長が進み、微細なボイドが生成することがある。耐性付与剤は、樹脂成分よりも融点が低く、樹脂成分が固化し始める段階では液体状態で存在するため、ボイドに移動してボイドを埋めることができる。
【0054】
しかも、耐性付与剤の分子量が200以上であるため、樹脂組成物を加熱混合する際に耐性付与剤の揮発を抑制でき、ボイドに安定して耐性付与剤を埋め込むことが可能となる。また、分子量が500以下であるため、耐性付与剤を樹脂成分中で好適に移動させることが可能となり、耐性付与剤の凝集を抑制することができる。この結果、耐性付与剤を樹脂組成物に均一に分散させ、ボイドへ耐性付与剤を安定して埋め込むことが可能となる。
【0055】
また、耐性付与剤は、フェノール骨格に由来する芳香環を有するので、ボイドを埋め込み、絶縁層に電気的な安定性を付与することができる。さらに、耐性付与剤は、フェノール骨格により極性を有するため、ボイドに充填されたときに、絶縁層との間での急激な抵抗変化を緩和し、絶縁性を維持することができる。
しかも、耐性付与剤は、フェノール骨格を構成する水酸基のオルト位の少なくとも1つに水素もしくは炭素数1~3のアルキル基を有しており、水酸基のオルト位の少なくとも片側にはかさ高い置換基が配置されていない。そのため、耐性付与剤は水酸基の周辺での立体障害が少ない。これに対して、水酸基の両側のオルト位にかさ高い置換基(t-ブチル基など)が配置されるモノマの場合、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤では、水酸基の周辺での立体障害が大きくなる。このようなモノマでは、立体障害により水酸基の反応性が阻害され、本来得られる特性を発現できないことがある。この点、本実施形態の耐性付与剤によれば、立体障害が小さく、水酸基の反応性が高いので、絶縁性を維持する特性を安定して発現することができる。
【0056】
このように、耐性付与剤は、絶縁層におけるボイドを埋め込むとともに、絶縁層に電気的な安定性を付与することができる。そのため、絶縁層において微細なボイドが存在したり、絶縁層の屈曲によりボイドが形成されたりするような場合であっても、ボイドによる絶縁性の低下を緩和して高く維持することができる。
【0057】
耐性付与剤の分子量は、200以上500以下である。耐性付与剤の揮発を抑制するとともに、耐性付与剤の凝集を抑制して樹脂組成物へ分散させる観点からは、耐性付与剤の分子量は300以上450以下であることが好ましい。
【0058】
耐性付与剤の融点は、145℃以下であればよいが、130℃以下であることが好ましい。融点が130℃以下であることにより、絶縁層に発生するボイドに耐性付与剤をより確実に充填することができる。さらに、融点は、耐性付与剤が常温(27℃)で液体状態となるような温度であるとよく、具体的には27℃以下であることがさらに好ましい。27℃で液体状態となるような耐性付与剤は、絶縁層において割れやボイドの起点となる分子鎖が疎らな箇所に溜まりやすい。そのため、絶縁層に外部応力が加わり、新たに形成されるボイドに耐性付与剤をより確実に充填することができる。なお、下限値は特に限定されないが、-30℃以上であることが好ましい。
【0059】
耐性付与剤において、フェノール骨格の数は、耐性付与剤の分子量が200以上500以下の範囲内となれば特に限定されないが、例えば1または2であるとよい。
【0060】
また、耐性付与剤は、樹脂成分との相溶性を高める観点から、フェノール骨格に炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有することが好ましい。耐性付与剤の相溶性を高めることにより、ボイドが生じやすい箇所に安定して存在させることができ、ボイドが生じたときに、耐性付与剤をボイドにより確実に充填することができる。直鎖炭素鎖構造の数は、耐性付与剤の分子量が上記範囲内となれば特に限定されないが、例えば1つ又は2つであるとよい。分子量範囲を満たしつつ相溶性を向上させる観点からは直鎖炭素鎖構造の数は2つであることが好ましい。また、直鎖炭素鎖構造は、水酸基のオルト位の他方にあってもよい。水酸基のオルト位において、少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基があれば、立体障害による反応性の低下を抑制できるためである。また、直鎖炭素鎖構造は、芳香環に直接結合してもよく、硫黄原子や窒素原子などの他の原子を介して結合してもよい。
【0061】
耐性付与剤は、炭素原子、水素原子および酸素原子を含むモノマであり、この原子以外に硫黄原子や窒素原子を含んでもよい。好ましくは硫黄原子を含む。
【0062】
耐性付与剤としては、上述した化学構造、分子量および融点を満たすものであれば特に限定されない。例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノールなどを用いることができる。この中でも、化学構造中に硫黄原子と炭素数5以上の10以下の直鎖炭素鎖構造とを有し、樹脂成分との相溶性が高いことから、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノールが好ましい。
【0063】
耐性付与剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して0.4質量部以上10質量部以下である。好ましくは、0.5質量部以上8質量部以下である。0.4質量部以上とすることにより、耐性付与剤をボイドへ埋め込みやすくなるため、ボイドによる絶縁性の低下を緩和することができる。また、耐性付与剤の添加量が過度に多くなると、樹脂組成物を絶縁層に成形しにくくなるが、10質量部以下とすることにより、樹脂組成物の成形性を担保することができる。
【0064】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、上述した耐性付与剤を除く酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0065】
ただし、樹脂組成物は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤の含有量が少ないことが好ましく、このような添加剤を実質的に含まないことがより好ましい。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、樹脂成分の合計の含有量を100質量部としたときに、1質量部未満であることが好ましく、0質量部であることがより好ましい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
【0066】
また、樹脂組成物は、リサイクルの観点から、架橋せずに非架橋であることが好ましいが、架橋させるために架橋剤を含んでもよい。ただし、架橋させるとしても、ゲル分率(架橋度)が低くなるように架橋させることが好ましい。具体的には、樹脂組成物における架橋剤の残渣が質量比で300ppm未満となるような架橋度で架橋させることが好ましい。なお、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを使用した場合には、残渣は、例えば、クミルアルコール、α-メチルスチレンなどである。
【0067】
(樹脂組成物の融点および融解熱量)
樹脂組成物の融点および融解熱量は、樹脂成分として使用するプロピレン系樹脂や低結晶性樹脂の各含有量に応じて変化し、樹脂組成の指標となる。樹脂組成物の融点および融解熱量は特に限定されないが、プロピレン系樹脂としてランダムPPを含む場合、融点は140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下となることが好ましい。より好ましくは、融点は140℃以上148℃以下、融解熱量が55J/g以上95J/g以下である。一方、プロピレン系樹脂としてホモPPを含む場合、融点は158℃以上168℃以下であり、融解熱量が55J/g以上110J/g以下となることが好ましい。より好ましくは、融点は158℃以上165℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下である。このような融点および融解熱量となるようにプロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも一方とを配合することにより、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制して、各樹脂による特性を得ることができる。
【0068】
なお、ここでいう「融点」および「融解熱量」は、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により測定される。「示差走査熱量測定」は、例えば、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行われる。具体的には、DSC装置において、測定試料を、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。
【0069】
このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。また、このとき、試料の吸熱が全て樹脂成分によって行われると仮定し、室温から220℃までの試料の吸熱量(J)を試料中の樹脂成分全体の質量(g)で除した値(J/g)を「融解熱量」とする。なお、試料の融解熱量と完全結晶体の融解熱量の理論値とに基づいて、試料の結晶化度(%)を求めることができる。
【0070】
(樹脂組成)
樹脂組成物に含まれる各成分の含有量は、樹脂組成物の融点や融解熱量が上述した範囲となるように適宜変更することが好ましい。例えば、樹脂組成物は、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分との合計を100質量部としたときに、プロピレン系樹脂を55質量部以上95質量部以下、柔軟成分を5質量部以上45質量部以下、含むことが好ましい。より好ましくは、プロピレン系樹脂を60質量部以上95質量部以下、柔軟成分を5質量部以上40質量部以下、含む。このような添加量とすることにより、樹脂組成物において結晶量を適切な範囲に調整することができる。この結果、樹脂組成物で絶縁層を形成したときに、絶縁層においてボイドの形成を抑制することができる。なお、低結晶性樹脂とスチレン系樹脂の添加比率は特に限定されず、これらを合計した添加量が上記範囲を満たせばよい。
【0071】
(2)電力ケーブル
次に、
図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。
図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0072】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0073】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0074】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0075】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、上述の低結晶性樹脂などのうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0076】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物成形体として構成されている。絶縁層130は、例えば、上述のように、樹脂組成物により押出成形されている。
【0077】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0078】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0079】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0080】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。
【0081】
一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、遮蔽層150よりも外側に遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0082】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0083】
(3)ケーブル特性
本実施形態では、絶縁層130(樹脂組成物成形体)を上述した耐性付与剤を含むように構成することで、以下のような絶縁性を得ることができる。
【0084】
本実施形態の絶縁層130は、屈曲により外部応力が加わった場合であっても、高い絶縁性を維持することができる。具体的には、上述した樹脂組成物から形成される0.4mm厚のシートに後述する180°曲げ試験を行い、外部応力を加えたシートに対して、常温において、商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加したときの、交流破壊電界強度は、ボイドが確認された場合でも45kV/mm以上となり、ボイドが確認されない場合では70kV/mm以上となる。
【0085】
また、絶縁層130は、屈曲などの外部応力によりボイドが形成された場合であっても、交流破壊電界強度を高く維持することができる。つまり、絶縁層130の交流破壊電界強度は、屈曲などの外部応力が加わる前の状態と、屈曲などの外部応力が加わった後の状態との差が小さい。具体的には、屈曲による交流破壊電界強度の変動率が30%以下である。ここで、交流破壊電界強度の変動率とは、屈曲前の通常状態での交流破壊電界強度に対する、屈曲前後での交流破壊電界強度の差を示す比率である。
【0086】
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0087】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、絶縁層130を形成するための樹脂組成物を準備する。
【0088】
本実施形態では、樹脂成分として、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分と、耐性付与剤と、必要に応じて、その他の添加剤と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0089】
このとき、各樹脂の添加量を、例えば、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分との合計の含有量を100質量部としたときに、プロピレン系樹脂を55質量部以上95質量部以下、柔軟成分を5質量部以上45質量部以下とするとよい。また、耐性付与剤の含有量を、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂との合計の含有量を100質量部としたときに、0.4質量部以上10質量部以下とする。
【0090】
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0091】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0092】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の樹脂組成物を用い、導体110の外周を3mm以上の厚さで被覆するように絶縁層130を形成する。
【0093】
このとき、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0094】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。
【0095】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節することが好ましい。
【0096】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0097】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0098】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0099】
この冷却の際、絶縁層130を構成する樹脂組成物において、まず、プロピレン系樹脂を含む樹脂成分が固化し始める。このとき、樹脂成分よりも融点の低い耐性付与剤は、溶融した液体状態で存在するため、固化の際に形成される微細なボイドに移動し、埋め込まれることになる。
【0100】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0101】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0102】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0103】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0104】
(4)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0105】
(a)本実施形態の絶縁層は、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つとを含む樹脂成分と、所定の分子量、融点および化学構造を有する耐性付与剤とを、耐性付与剤の含有量が樹脂成分100質量部に対して0.4質量部~10質量部となるように含有する樹脂組成物から形成されている。低結晶性樹脂やスチレン系樹脂によれば、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができる。耐性付与剤によれば、樹脂組成物中に存在するボイド、例えば観察できないような微細なボイドに入り込むことで、樹脂成分とボイドとの間で生じる急激な抵抗変化を抑制することができる。そのため、絶縁層において高い絶縁性を得ることができる。しかも、絶縁層が屈曲されてボイドが形成されることもあるが、耐性付与剤がボイドを埋め込むことにより、ボイド形成による絶縁性の低下を抑制することができる。このように、本実施形態の絶縁層によれば、外部応力が加わる前の状態での絶縁性を向上できるとともに、屈曲による外部応力が加わる前後での交流破壊電界強度の差を小さく維持することができ、屈曲前後で絶縁性の変動を抑制することができる。
【0106】
(b)耐性付与剤の融点が130℃以下であることが好ましく、27℃で液体状態となるような融点であることがより好ましい。このような融点を有する耐性付与剤によれば、プロピレン系樹脂で形成されるボイドにより確実に埋め込むことが可能であり、絶縁層において屈曲前後での絶縁性の変動をより抑制することができる。
【0107】
(c)耐性付与剤は、炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有することが好ましい。また、耐性付与剤は、硫黄原子を含むことが好ましい。このような耐性付与剤によれば、樹脂成分との相溶性に優れるので、絶縁層におけるボイドにより安定して埋め込みが可能となるとともに、絶縁層に電気的な安定性を付与することができる。この結果、絶縁層において初期状態での絶縁性を向上させるとともに、屈曲前後での絶縁性の変動をより抑制することができる。
【0108】
(d)プロピレン系樹脂としてホモPPを用いる場合、ホモPPは結晶量が多いので、絶縁層で結晶中や結晶間に割れやボイドが生じやすい。そのため、絶縁層の絶縁性がそもそも低くなる傾向があるだけでなく、絶縁層が屈曲したときに絶縁性が低下しやすい。この点、耐性付与剤によれば、絶縁層において初期に存在するボイドだけでなく、屈曲により形成されるボイドを充填することができる。これにより、絶縁層の絶縁性を底上げすることができ、また屈曲による絶縁性の低下を抑制し、高い絶縁性を維持することができる。
【0109】
一方、ランダムPPはホモPPと比べて結晶量が少ないので、絶縁層において割れやボイドが生じにくく、また絶縁層が屈曲したときにボイドが新たに形成されにくい。ただし、ランダムPPの場合でも、観察できないような微細なボイドが存在することで、ランダムPPが本来有する絶縁性を得られない傾向がある。この点、耐性付与剤によれば、微細なボイドを充填し、ボイドによる絶縁性の低下を抑制することができる。
【0110】
このように、耐性付与剤によれば、プロピレン系樹脂としてホモPPやランダムPPの種類によらず、絶縁層において高い絶縁性を実現するとともに、絶縁層の屈曲による絶縁性の低下を抑制し、屈曲前後での絶縁性の変動を小さく抑制することができる。
【0111】
(e)樹脂組成物は、ランダムPPおよびスチレン系樹脂、もしくは、ランダムPP、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含むことが好ましい。少なくともランダムPPおよびスチレン系樹脂を用いることにより、絶縁層の形成の際に大きなボイドの発生を抑制できるとともに、得られた絶縁層を屈曲させたときに新たなボイドの発生を抑制することができる。これにより、絶縁層において、外部応力が加わる前の状態での絶縁性をより高くできるとともに、屈曲させた後でもより高い絶縁性を維持することができる。
【0112】
(f)樹脂組成物は、プロピレン系樹脂としてランダムPPと、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂である柔軟成分とを、樹脂組成物の融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下となるような比率で含むことが好ましい。また、樹脂組成物は、プロピレン系樹脂としてホモPPと、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂である柔軟成分とを、樹脂組成物の融点が158℃以上168℃以下、融解熱量が55J/g以上110J/g以下となるような比率で含むことが好ましい。樹脂組成物の融解熱量および融点が上記範囲となるような比率で各成分を含むことにより、絶縁層において、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制し、絶縁層においてより高い絶縁性を得ることができる。
【0113】
(g)樹脂組成物は、樹脂成分として、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含むことが好ましい。これにより、低結晶性樹脂もしくはスチレン系樹脂のみを添加する場合と比較して、プロピレン系樹脂の結晶成長をより制御することが可能となり、ボイドの数を低減したりボイドのサイズを縮小したりすることができる。また、絶縁層の屈曲によるボイドの形成をより抑制することができる。しかも、樹脂組成物に耐性付与剤を添加することで、微細なボイドに耐性付与剤を埋め込み、絶縁性を向上させることができる。また、絶縁層の屈曲により微細なボイドが形成されるような場合であっても、絶縁性の低下を緩和して、屈曲前後での絶縁性の変動を抑制することができる。また、耐性付与剤によれば、ボイドの形成による絶縁性の低下を緩和できるので、ボイドの形成を抑制するスチレン系樹脂の添加量を少なくすることができる。
【0114】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0115】
上述の実施形態では、絶縁層としての樹脂組成物成形体は、メカニカル的に混合され押出成形されたものである場合について説明したが、樹脂組成物成形体は、重合され押出成形されたものであってもよい。
【0116】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミニウムまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0117】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【0118】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出てもよい。
【実施例】
【0119】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0120】
(1)評価サンプルの作製
本実施例では、以下の手順により、電力ケーブルの絶縁層を模した評価サンプルを作製した。
【0121】
(1-1)材料
評価サンプルを形成するための樹脂組成物の材料として、以下の成分を準備した。
【0122】
プロピレン系樹脂(A)として、以下を用いた。
・アイソタクチックプロピレン単独重合体(ホモPP):メルトフローレート:0.5g/10min、密度:0.9g/ml、融点:165℃、融解熱量:115J/g
・ランダムポリプロピレン(ランダムPP):メルトフローレート:1.3g/10min、密度:0.9g/ml、融点:145℃、融解熱量:100J/g
【0123】
低結晶性樹脂(B)として、以下を用いた。
・エチレンプロピレンゴム(EPR):エチレン含有量:52質量%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40、融点:なし、融解熱量:なし
【0124】
スチレン系樹脂(C)として、以下を用いた。
・水素化スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS):スチレン含有量:12質量%、硬度:A42、メルトフローレート:4.5g/10min(230℃、2.16kg)、融点:なし、融解熱量:なし
【0125】
耐性付与剤(D)、成分(D)の比較形態となる比較成分(D´)として以下を用いた。
【0126】
【0127】
なお、表1中、フェノール数は、化合物におけるフェノール骨格の数を示し、0の場合を「‐」で表記する。水酸基周辺は、水酸基での立体障害の有無を示し、立体障害が小さい場合を「‐」、かさ高い置換基が水酸基のオルト位の片側にある場合を「片ヒンダード」、オルト位の両側にある場合を「ヒンダード」と表記する。また、耐性付与剤(d6)および耐性付与剤(d´9)については、常温(27℃)で液体であるため、沸点(bp)を表示している。
【0128】
(1-2)樹脂組成物の調製
上述した材料を下記表2~表7に示す配合で加熱混合し、樹脂組成物を調製した。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
(サンプル1~6)
サンプル1では、表2に示すように、ポリプロピレン系樹脂(A)としてアイソタクチックプロピレン単独重合体(ホモPP)を75質量部、低結晶性樹脂(B)としてエチレンプロピレンゴム(EPR)を25質量部、そして、耐性付与剤(D)として表1に示す(d1)成分を6質量部、を混合し、ニーダを用いて220℃で加熱混合することで、樹脂組成物を調製した。また、サンプル2では、耐性付与剤(D)を添加しない以外は、サンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。サンプル3~6では、(d1)成分の添加量を0.3質量部、0.5質量部、9質量部、12質量部にそれぞれ変更した以外は、サンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
【0136】
(サンプル7~14)
サンプル7~14では、表3、4に示すように、耐性付与剤(D)の種類を(d2)~(d7)に変更するとともに、各耐性付与剤の添加量を適宜変更した以外は、サンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
【0137】
(サンプル15~17)
サンプル15、16では、表5に示すように、プロピレン系樹脂(A)の種類をホモPPからランダムポリプロピレン(ランダムPP)に変更するとともに、各成分の添加量を変更した以外は、サンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。サンプル17では、耐性付与剤(D)を添加しない以外は、サンプル15、16と同様に樹脂組成物を調製した。
【0138】
(サンプル18~20)
サンプル18、19では、表5に示すように、樹脂成分としてスチレン系樹脂(C)をさらに添加するとともに、各成分の添加量を適宜変更した以外は、サンプル15と同様に樹脂組成物を調製した。サンプル20では、耐性付与剤(D)を添加しない以外は、サンプル18、19と同様に樹脂組成物を調製した。
【0139】
(サンプル21~30)
サンプル21~30では、表6、7に示すように、耐性付与剤(D)の代わりに比較成分(D´)として(d´1)成分~(d´10)成分を使用するとともに、その添加量を適宜変更した以外は、サンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
【0140】
(1-3)評価サンプルの作製
次に、調製したサンプル1~30の樹脂組成物をそれぞれ、220℃でプレス成形し、加圧下で水冷により徐冷することによって、厚さ0.4mmのシート状の評価サンプルを作製した。
【0141】
(2)評価
作製した評価サンプルについて、以下の項目を評価した。
【0142】
(融点と融解熱量)
作製した評価サンプルについて、樹脂組成物の融点と融解熱量を測定した。
【0143】
各評価サンプルの融点は、DSC測定により求めた。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。評価サンプルの質量は、8~10gとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。
【0144】
このとき、各評価サンプルにおける単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。また、このとき、DSC曲線において、融解ピークとベースラインとで囲まれた領域の面積を求めることにより、「融解熱量」を求めた。
【0145】
(交流破壊電界強度)
作製した評価サンプルの絶縁性について、交流破壊電界強度を測定した。交流破壊電界強度は、交流破壊試験により求めた。具体的には、常温(27℃)において、評価サンプルに対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加した。評価サンプルが絶縁破壊したときの電界強度を測定した。本実施例では、評価サンプルについて、後述する曲げ試験前と曲げ試験後のそれぞれの交流破壊電界強度を測定した。本実施例では、屈曲試験後の評価サンプルについて、10μmよりも大きなボイドが確認された場合は45kV/mm以上であれば良好、10μmよりも大きなボイドが確認されなかった場合は70kV/mm以上で良好と評価した。
【0146】
(曲げ試験)
評価サンプルにおけるボイドの生成を確認すべく、評価サンプルに180°曲げ試験を行った。具体的には、評価サンプルを500mmの直径で180°に折り曲げた後、折り曲げ箇所を切り出し、その表面をSEMにより観察した。表2~4においては、10μmよりも大きなボイドが確認された場合をA、確認されなかった場合をBと表記した。
【0147】
(3)評価結果
各評価サンプルについて、上記各評価の結果を表2~7に示す。
【0148】
サンプル1~6によれば、耐性付与剤(D)の添加量を0.4質量部~10質量部としたサンプル1、4、5は、耐性付与剤(D)を添加しないサンプル2や添加量が0.3質量部であるサンプル3と比較して、曲げ試験前の交流破壊電界強度が高く、絶縁性に優れていることが確認された。また、各サンプルに曲げ試験を行ったところ、いずれも10μmを超えるサイズのボイドが形成されることが確認された。また、サンプル2、3では、曲げ試験前の交流破壊電界強度が低く、曲げ試験前後で交流破壊電界強度が著しく低下した。これに対して、サンプル1、4、5では、曲げ試験前の交流破壊電界強度が高く、曲げによりボイドが形成されたにもかかわらず、交流破壊電界強度の変動が小さく、屈曲による絶縁性の低下を緩和できることが確認された。これは、サンプル1、4、5では、耐性付与剤(D)をサンプル中に存在するボイドに十分に埋め込むことができたためと考えられる。なお、サンプル6では、耐性付与剤(D)の添加量が12質量部と過剰であったため、評価サンプルをシート状に成形することができなかった。
【0149】
また、サンプル1、7~10、13、14では、耐性付与剤(D)の種類を適宜変更したが、いずれも、初期状態での絶縁性が高く、また屈曲によりボイドが形成されるものの、ボイドによる絶縁性の低下を緩和して絶縁性を高く維持できることが確認された。また、サンプル10によると、他のサンプルと比べて、初期状態での交流破壊電界強度が高く、また屈曲による交流破壊電界強度の変動が小さいことが確認された。このことから、耐性付与剤(D)としては、化学構造中に硫黄原子や炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有するものが好ましいことが確認された。
【0150】
また、サンプル10~12によれば、サンプル1~6と同様に、耐性付与剤(D)を適切な添加量とすることにより、高い絶縁性を得るとともに、屈曲による絶縁性の低下を緩和できることが確認された。
【0151】
サンプル15、16によれば、プロピレン系樹脂としてランダムPPを使用することにより、ホモPPを使用するサンプル1と比べて、曲げ試験前の交流破壊電界強度を高くできることが確認された。また、ランダムPPを使用することにより、サンプルを屈曲させても、サイズが10μmを超えるような大きなボイドが形成されないことが確認された。また、屈曲による交流破壊電界強度の変動を小さくできることが確認された。また、耐性付与剤(D)を添加しないサンプル17は、耐性付与剤(D)を添加したサンプル15、16と比較して、初期状態での交流破壊電界強度が小さいことが確認された。これは、サンプル17では微細なボイドが存在している一方、サンプル15、16では微細なボイドに対して耐性付与剤(D)を埋め込み、絶縁性の低下を抑制できたため、と考えられる。
【0152】
サンプル18、19によれば、プロピレン系樹脂に低結晶性樹脂とともにスチレン系樹脂を添加することにより、サンプル1と比べて、初期状態での交流破壊電界強度を高くできることが確認された。また、サンプルを屈曲させても、サイズが10μmを超えるような大きなボイドが形成されず、屈曲前後で交流破壊電界強度が大きく変動しないことが確認された。耐性付与剤(D)を添加しないサンプル20は、耐性付与剤(D)を添加したサンプル18、19と比較して、初期状態での交流破壊電界強度が小さいことが確認された。これは、サンプル20では微細なボイドが存在している一方、サンプル18、19では微細なボイドに対して耐性付与剤(D)を埋め込み、絶縁性の低下を抑制できたため、と考えられる。
【0153】
サンプル21~30では、表4に示すように、分子量が200~500の範囲外、フェノール骨格を持たない、水酸基の周囲で立体障害が生じる、もしくは、融点が樹脂成分よりも高い比較成分(D´)を用いたため、曲げ試験前の絶縁性が低く、また屈曲前後で絶縁性が著しく低下することが確認された。これは、比較成分(D´)をボイドに十分に埋め込めない、もしくは、ボイドに埋め込めたとしても、比較成分(D´)が絶縁層との間で急激な抵抗変化を十分に緩和できなかったためと考えられる。比較成分(D´)がボイドに十分に埋め込まれなかった要因としては、比較成分(D´)が、分子量が過度に小さいことで加熱混合の際に揮発した、分子量が過度に大きいことで加熱混合の際に樹脂組成物中に分散できなかった、もしくは、融点が樹脂成分よりも高いことで加熱混合の際に十分に溶融できなかったことが推測される。また、比較成分(D´)が絶縁層との間で急激な抵抗変化を緩和できない要因としては、比較成分(D´)が、電気安定性に寄与するフェノール骨格を持たない、または、立体障害を有することで水酸基の反応性が低いことが推測される。
【0154】
以上のように、プロピレン単位を含む樹脂成分に対して、所定の化学構造、分子量および融点を有する耐性付与剤を所定量、添加することにより、絶縁層において初期状態の絶縁性を向上できるとともに、屈曲前後での絶縁性の低下を抑制できることが確認された。
【0155】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0156】
(付記1)
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
樹脂組成物。
【0157】
(付記2)
導体と、
前記導体の外周に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、樹脂組成物から形成され、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を含む樹脂成分と、耐性付与剤と、を含有し、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記耐性付与剤の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して、0.4質量部以上10質量部以下である、
電力ケーブル。
【0158】
(付記3)
前記樹脂成分は、エチレン単位およびスチレン単位の少なくとも1つをさらに含む、付記2に記載の電力ケーブル。
【0159】
(付記4)
前記耐性付与剤は、27℃で液体状態となるような融点を有する、
付記2又は付記3に記載の電力ケーブル。
【0160】
(付記5)
前記耐性付与剤は、炭素数5以上10以下の直鎖炭素鎖構造を有する、
付記2から付記4のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0161】
(付記6)
前記耐性付与剤は、硫黄原子を含む、
付記2から付記5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0162】
(付記7)
前記耐性付与剤は、フェノール系酸化防止剤である、
付記2から付記6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0163】
(付記8)
前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂として、融点が160℃以上175℃以下、融解熱量が100J/g以上120J/g以下であるプロピレン単独重合体を含み、
前記樹脂組成物の融点が158℃以上168℃以下であり、融解熱量が55J/g以上110J/g以下である、
付記2から付記7のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0164】
(付記9)
前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂として、融点が140℃以上155℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下であるプロピレンランダム共重合体を含み、
前記樹脂組成物の融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下である、
付記2から付記7のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0165】
(付記10)
プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の少なくとも1つを含む柔軟成分と、耐性付与剤と、を混合して樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、を備え、
前記耐性付与剤は、フェノール骨格を有し、前記フェノール骨格における水酸基のオルト位の少なくとも一方に水素もしくは炭素数1~3のアルキル基が結合されたモノマであって、融点が145℃以下、分子量が200以上500以下であり、
前記樹脂組成物を準備する工程では、前記プロピレン系樹脂および前記柔軟成分を含む樹脂成分100質量部に対して、前記耐性付与剤を0.4質量部以上10質量部以下、添加する、
電力ケーブルの製造方法。
【0166】
(付記11)
前記樹脂組成物を準備する工程では、前記プロピレン系樹脂と前記柔軟成分との合計を100質量部としたとき、前記プロピレン系樹脂を55質量部以上95質量部以下、前記柔軟成分を5質量部以上45質量部以下、混合する、
付記10に記載の電力ケーブルの製造方法。
【0167】
(付記12)
前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下、融解熱量が100J/g以上120J/g以下であるプロピレン単独重合体であって、
前記樹脂組成物を準備する工程では、前記樹脂組成物の融点が158℃以上168℃以下、融解熱量が55J/g以上110J/g以下となるように、前記プロピレン系樹脂と前記柔軟成分とを混合する、
付記10又は付記11に記載の電力ケーブルの製造方法。
【0168】
(付記13)
前記プロピレン系樹脂は、融点が140℃以上155℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下であるプロピレンランダム共重合体であって、
前記樹脂組成物を準備する工程では、前記樹脂組成物の融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下となるように、前記プロピレン系樹脂と前記柔軟成分とを混合する、
付記10又は付記11に記載の電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0169】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース