(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】制動制御装置及び制動制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20250415BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60T7/12 B
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2023157998
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2023-09-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 全国販売を開始した。(販売日:令和5年9月18日)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 賢志
(72)【発明者】
【氏名】徳竹 亮
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203507(JP,A)
【文献】特開2018-052160(JP,A)
【文献】特開2001-039281(JP,A)
【文献】特開2011-116289(JP,A)
【文献】特開2018-187964(JP,A)
【文献】特開2022-012210(JP,A)
【文献】特開2024-058480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0202296(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0111734(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0099683(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 8/17
B60W 10/00-10/198
B60W 30/00-30/20
B60L 7/00- 7/28
B60L 58/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、
取得したバッテリ残量に基づいて
、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報
であって特定した前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値よりも特定した前記識別情報に対応する前記回生制動力が小さくなる前記1以上の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、
を備える、制動制御装置。
【請求項2】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、
取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、
を備え
、
前記選択部は、前記バッテリ残量に基づいて、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、特定した前記可能回生力が第1閾値未満であることを条件として、第1識別情報を特定し、前記可能回生力が前記第1閾値以上であることを条件として、前記第1識別情報に対応する前記回生制動力よりも大きな前記回生制動力に対応する第2識別情報を特定する、
制動制御装置。
【請求項3】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、
取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、選択した前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力以上となる最小の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、
を備える、制動制御装置。
【請求項4】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、
取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、いずれか1つの前記識別情報を選択
し、特定した全ての前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力未満である場合、最大の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、
を備える、制動制御装置。
【請求項5】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、
取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、いずれか1つの前記識別情報を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、
を備え
、
前記選択部は、前記必要制動力が第1基準値未満から前記第1基準値以上になった場合に、前記1以上の識別情報から第1識別情報を選択し、前記第1識別情報を選択した後に、前記必要制動力が前記第1基準値よりも小さい第2基準値未満になった場合に、前記1以上の識別情報から当該第1識別情報を選択しない、
制動制御装置。
【請求項6】
前記選択部が選択した前記識別情報に対応する前記回生制動力を発生させ、前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値が前記記憶部に記憶された前記複数の識別情報に対応する前記回生制動力のうち最小の前記回生制動力未満である場合、前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値が前記記憶部に記憶された前記複数の識別情報に対応する前記回生制動力のうち最小の前記回生制動力未満である時点において発生可能な最大の前記回生制動力を発生させる回生制御部をさらに備える、
請求項
2に記載の制動制御装置。
【請求項7】
前記選択部が第1識別情報を選択した場合に、前記バッテリを充電する充電電流が第1電流値となるように回生充電し、前記選択部が前記第1識別情報に対応する前記回生制動力より大きな前記回生制動力に対応する第2識別情報を選択した場合に、前記充電電流が当該第1電流値より大きい第2電流値となるように回生充電する回生制御部をさらに備える、
請求項1
から5のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項8】
前記選択部は、車両に搭載されたモータの回転数によりそれぞれ変化する前記回生制動力に対応する前記1以上の識別情報からいずれかを選択する、
請求項1
から5のいずれか一項に記載の制動制御装置。
【請求項9】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御方法であって、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて
、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報
であって特定した前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値よりも特定した前記識別情報に対応する前記回生制動力が小さくなる前記1以上の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択するステップと、
選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、
を有する、制動制御方法。
【請求項10】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御方法であって、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択するステップと、
選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、
を有し
、
前記いずれか1つの前記識別情報を選択するステップでは、前記バッテリ残量に基づいて、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、特定した前記可能回生力が第1閾値未満であることを条件として、第1識別情報を特定し、前記可能回生力が前記第1閾値以上であることを条件として、前記第1識別情報に対応する前記回生制動力よりも大きな前記回生制動力に対応する第2識別情報を特定する、
制動制御方法。
【請求項11】
コンピュータが実行する、
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御方法であって、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する複数の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、選択した前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力以上となる最小の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択するステップと、
選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、
を有する、制動制御方法。
【請求項12】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御方法であって、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、いずれか1つの前記識別情報を選択
し、特定した全ての前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力未満である場合、最大の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択するステップと、
選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、
を備える、制動制御方法。
【請求項13】
自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御方法であって、
前記回生ブレーキが回生動作を行った場合に前記回生ブレーキから発生した電力を充電することが可能である、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、
前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、
発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、
前記必要制動力に基づいて、いずれか1つの前記識別情報を選択するステップと、
選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、
を有し
、
前記いずれか1つの前記識別情報を選択するステップでは、前記必要制動力が第1基準値未満から前記第1基準値以上になった場合に、前記1以上の識別情報から第1識別情報を選択し、前記第1識別情報を選択した後に、前記必要制動力が前記第1基準値よりも小さい第2基準値未満になった場合に、前記1以上の識別情報から当該第1識別情報を選択しない、
制動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生ブレーキを制御する制動制御装置及び制動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回生ブレーキが搭載された車両では、バッテリが満充電状態である状況においては回生ブレーキにより車両を十分に減速することができないことがある。特許文献1では、バッテリが満充電状態にある状況において運転者によりアクセルオフ操作された場合に、エンジンブレーキ相当の摩擦ブレーキ力を各車輪に付与するようにブレーキモジュレータを制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前方車両との車間距離を一定に保つように車両を自動走行させている状態では、運転者によるアクセルオフ操作が行われないことがある。特許文献1に記載の発明では、このような自動走行中にバッテリが満充電状態となった場合、回生ブレーキにより車両を十分に減速することができず、車両が前方車両に接近することにより急ブレーキが作動することがあった。このため、運転者が恐怖感を感じることがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両の自動走行中に車両が前方車両に接近し過ぎることを抑制することができる制動制御装置又は制動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の制動制御装置は、自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーキを制御する制動制御装置であって、発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部と、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得する取得部と、前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択する選択部と、前記選択部が選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補う制動制御部と、を備える。
【0007】
前記選択部は、前記バッテリ残量に基づいて、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、特定した前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値よりも特定した前記識別情報に対応する前記回生制動力が小さくなるように前記1以上の識別情報を特定し、特定した前記1以上の識別情報から1つの前記識別情報を選択してもよい。
【0008】
前記選択部は、前記バッテリ残量に基づいて、出力可能な前記回生制動力を特定するための可能回生力を特定し、特定した前記可能回生力が第1閾値未満であることを条件として、第1識別情報を特定し、前記可能回生力が前記第1閾値以上であることを条件として、前記第1識別情報に対応する前記回生制動力よりも大きな前記回生制動力に対応する第2識別情報を特定してもよい。
【0009】
前記制動制御装置は、前記選択部が選択した前記識別情報に対応する前記回生制動力を発生させ、前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値が前記記憶部に記憶された前記複数の識別情報に対応する前記回生制動力のうち最小の前記回生制動力未満である場合、前記可能回生力に対応する前記回生制動力の最大値が前記記憶部に記憶された前記複数の識別情報に対応する前記回生制動力のうち最小の前記回生制動力未満である時点において発生可能な最大の前記回生制動力を発生させる回生制御部をさらに備えてもよい。
【0010】
前記選択部は、前記必要制動力に基づいて、前記1以上の識別情報から1つの前記識別情報を選択してもよい。前記選択部は、前記1以上の識別情報のうち、選択した前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力以上となる最小の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択してもよい。
【0011】
前記選択部は、特定した全ての前記識別情報に対応する前記回生制動力が前記必要制動力未満である場合、最大の前記回生制動力に対応する前記識別情報を選択してもよい。前記選択部は、前記必要制動力が第1基準値未満から前記第1基準値以上になった場合に、前記1以上の識別情報から第1識別情報を選択し、前記第1識別情報を選択した後に、前記必要制動力が前記第1基準値よりも小さい第2基準値未満になった場合に、前記1以上の識別情報から当該第1識別情報を選択しなくてもよい。
【0012】
前記制動制御装置は、前記選択部が第1識別情報を選択した場合に、前記バッテリを充電する充電電流が第1電流値となるように回生充電し、前記選択部が前記第1識別情報に対応する前記回生制動力より大きな前記回生制動力に対応する第2識別情報を選択した場合に、前記充電電流が当該第1電流値より大きい第2電流値となるように回生充電する回生制御部をさらに備えてもよい。前記選択部は、車両に搭載されたモータの回転数によりそれぞれ変化する前記回生制動力に対応する前記1以上の識別情報からいずれかを選択してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様の制動制御方法は、コンピュータが実行する、自車両と前方車両との距離に基づいて回生ブレーzキを制御する制動制御方法であって、前記自車両に搭載されたバッテリのバッテリ残量を取得するステップと、前記距離に基づいて、前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報を記憶する記憶部を参照して、取得したバッテリ残量に基づいて前記記憶部に記憶されている前記複数の識別情報から特定される、前記バッテリ残量の状態で前記回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する複数の識別情報から、いずれか1つの前記識別情報を選択するステップと、選択した前記識別情報に対応する回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を前記回生ブレーキ以外のブレーキにより補うステップと、を有する。
【0014】
本発明の第3の態様の制動制御装置は、自車両と前方車両との距離に基づいて前記自車両の減速に要する必要制動力を特定する特定部と、回生ブレーキが出力可能な複数の段階的な回生制動力のうち、前記自車両のバッテリの残量に基づいて選択される回生制動力で前記回生ブレーキを制御する回生制御部と、前記選択された回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を摩擦ブレーキが出力するように、前記摩擦ブレーキを制御する制動制御部と、を備える。
【0015】
本発明の第4の態様の制動制御方法は、コンピュータが実行する、自車両と前方車両との距離に基づいて前記自車両の減速に要する必要制動力を特定するステップと、回生ブレーキが出力可能な複数の段階的な回生制動力のうち、前記自車両のバッテリの残量に基づいて選択される回生制動力で前記回生ブレーキを制御するステップと、前記選択された回生制動力が前記必要制動力に対して不足する制動力を摩擦ブレーキが出力するように、前記摩擦ブレーキを制御するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の自動走行中に車両が前方車両に接近し過ぎることを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態の制動制御装置が搭載された自車両の概要を示す。
【
図3】モータがある回転速度で動作している場合における、バッテリ残量と、可能回生力との関係を示す模式図である。
【
図4】特定部が特定する必要制動力の時間変化と、回生ブレーキの段階的なオンオフの変化との例を示す。
【
図5】特定部が特定する必要制動力の時間変化と、回生ブレーキの段階的なオンオフの変化との例を示す。
【
図6】特定部が特定する必要制動力の時間変化と、回生ブレーキの段階的なオンオフの変化との例を示す。
【
図7】制動制御装置による回生ブレーキの作動の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図7の制動処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[車両の概要]
図1は、本実施形態の制動制御装置1が搭載された自車両100の概要を示す。自車両100は、例えば、トラック等の商用車である。自車両100は、ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)により前方車両200との距離を一定に維持するように走行する。
【0019】
制動制御装置1は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)である。制動制御装置1は、自車両100と前方車両200との距離に基づいて回生ブレーキを制御する。まず、制動制御装置1は、前方車両200との距離に基づいて、自車両の減速に要する必要制動力を特定する。制動制御装置1は、自車両100に搭載されたバッテリのバッテリ残量を示す情報を特定する。バッテリ残量を示す情報は、例えばSOC(State Of Charge、充電率)である。
【0020】
制動制御装置1の記憶部には、それぞれ異なる回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報が記憶されている。識別情報は、例えば「回生1段目」、「回生2段目」、「回生3段目」のように、回生制動力の大きさに対応する数値を含む情報であるとする。識別情報の各々は、発生する回生制動力が段階的に異なる複数の回生制動力のうちいずれかを示す情報であるとする。なお、識別情報は、他の形式の情報であってもよい。
【0021】
制動制御装置1は、記憶部に記憶された複数の識別情報のうち、現在のバッテリ残量において回生ブレーキにより出力可能な回生制動力に対応する1以上の識別情報を特定する。制動制御装置1は、特定した必要制動力に基づいて、特定した1以上の識別情報のうち、いずれか1つの識別情報を選択する。
【0022】
制動制御装置1は、回生制動力を発生させる回生制御部に選択した識別情報を通知することで、回生制動力を発生させる。制動制御装置1は、発生される回生制動力が必要制動力に対して不足する場合、不足する制動力を回生ブレーキ以外のブレーキにより補う。
【0023】
このようにして、制動制御装置1は、バッテリに充電可能な電気容量が不足していることに起因して回生ブレーキが十分に働かない場合に、必要制動力に対して回生ブレーキによる回生制動力が不足する制動力を回生ブレーキ以外のブレーキにより補うことができる。このため、制動制御装置1は、自車両100が前方車両200に接近し過ぎることを抑制することができるので、運転者に恐怖感を与えることを抑制することができる。また、制動制御装置1は、複数の識別情報に対応する複数の回生制動力を発生させることができるので、自車両100の状況に適した大きさの回生制動力を発生させやすい。
【0024】
[自車両100の構成]
図2は、自車両100の構成を示す。自車両100は、制動制御装置1、車速センサ2、距離センサ3、電圧センサ4、バッテリ5、モータ6及び摩擦ブレーキ7を備える。制動制御装置1は、記憶部11及び制御部12を備える。制御部12は、取得部121、特定部122、選択部123、回生制御部124及び制動制御部125を備える。
【0025】
車速センサ2は、前方車両200に対する自車両100の相対車速Vmを検出する。相対車速Vmは、既知の各種の方法により検出可能である。車速センサ2は、測定した相対車速Vmを取得部121へ入力する。距離センサ3は、例えば、ミリ波レーダである。距離センサ3は、自車両100と前方車両200との間の距離Lを測定する。距離センサ3は、測定した距離Lを取得部121へ入力する。
【0026】
電圧センサ4は、自車両100に搭載されたバッテリ5の出力電圧を測定する。電圧センサ4は、出力電圧を示す情報を取得部121へ入力する。
【0027】
バッテリ5は、モータ6が駆動するための駆動電力をモータ6に供給する蓄電装置である。また、バッテリ5は、モータ6が回生動作を行った場合にモータ6から発生した回生電力を充電することが可能である。バッテリ5は、自車両100に固定して設けられていてもよいし、自車両100から着脱可能に搭載されていてもよい。
【0028】
モータ6は、自車両100に搭載されている。モータ6は、自車両100を走行させるための推進力を発生する。モータ6は、回生ブレーキとしても動作し、発電することにより回生制動力を発生させる。摩擦ブレーキ7は、自車両100を摩擦力により減速する制動力を発生させる。
【0029】
記憶部11は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成される。記憶部11には、制御部12が実行するためのプログラムが記憶されている。記憶部11には、発生する回生制動力の大きさに対応する複数の識別情報が記憶されている。例えば、複数の識別情報は、回生制動力のいずれかの値と関連付けて記憶部11に記憶されている。この識別情報は、回生ブレーキによる制動力を段階的に制御することを目的として選択部123により参照される。記憶部11には、回生制動力を特定するための可能回生力Pと、回生制動力の最大値MAXとを関連付けたテーブルが記憶されている。このテーブルは、選択部123がその時点のバッテリ残量V及びモータ回転数Mにおいて回生制動力として出力可能な最大値MAXを特定する際に参照される。
【0030】
記憶部11には、自車両100から前方車両200までの距離Lと、相対車速Vmと、必要制動力Pwとを関連付けた制動力データが記憶されている。制動力データは、特定部122が必要制動力Pwを特定する際に参照される。この制動力データでは、距離Lが同じであれば、相対車速Vmが大きいほど、必要制動力Pwは大きくなる。また、相対車速Vmが同じであれば、距離Lが短いほど、必要制動力は大きくなる。
【0031】
制御部12は、例えば、ECUに搭載されたプロセッサである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部121、特定部122、選択部123、回生制御部124及び制動制御部125として機能する。
【0032】
取得部121は、各種の情報を取得する。取得部121は、自車両100と前方車両200との間の距離Lを示す情報を距離センサ3から取得する。取得部121は、前方車両200に対する自車両100の相対車速Vmを車速センサ2から取得する。
【0033】
取得部121は、自車両100に搭載されたバッテリ5のバッテリ残量Vを取得する。
図2の例では、取得部121は、電圧センサ4が測定したバッテリ5の出力電圧を取得する。取得部121は、取得した出力電圧に基づいて、バッテリ5のバッテリ残量Vを特定する。取得部121は、モータ回転数Mをモータ6から取得する。取得部121は取得した回転数Mを選択部123へ出力する。
【0034】
さらに、取得部121は、自車両100と前方車両200との間の距離Lを示す情報を特定部122及び選択部123へ出力する。取得部121は、自車両100に搭載されたバッテリ5のバッテリ残量Vを示す情報と、取得した相対車速Vmを示す情報とを選択部123へ出力する。
【0035】
特定部122は、自車両100と前方車両200との間の距離Lに基づいて、自車両100の減速に要する必要制動力を特定する。例えば、特定部122は、距離L及び相対車速Vmに基づいて、自車両100と前方車両200との距離を所定距離以上に維持するための必要制動力Pwを特定する。所定距離は、例えば、運転者が予め指示した距離である。
【0036】
まず、特定部122は、距離Lと、相対車速Vmと、必要制動力Pwとを関連付けた制動力データを記憶部11から読み出す。特定部122は、読み出した制動力データを参照して、取得部121が取得した距離L及び相対車速Vmに制動力データにおいて関連付けられた必要制動力Pwを特定する。特定部122は、特定した必要制動力Pwを選択部123へ出力する。
【0037】
[識別情報の選択]
選択部123は、回生ブレーキを段階的に制御するために、記憶部11に記憶されている複数の識別情報のうち、選択可能な1以上の回生制動力に対応する1以上の識別情報を特定する。1以上の識別情報に対応する回生制動力は、例えば、モータ回転数Mに応じてそれぞれ変化する。選択部123は、識別情報を特定する前に、取得部121が取得したモータ回転数Mに基づいて、それぞれの識別情報に対応する回生制動力の値を予め算出し、算出後に1以上の識別情報を特定する。選択部123は、バッテリ残量Vに基づいて、このバッテリ残量の状態で回生ブレーキにより出力可能な回生制動力として選択可能な1以上の識別情報を特定する。
【0038】
選択部123は、出力可能な回生制動力に対応する識別情報を選択することができるように、バッテリ残量に基づいて、回生ブレーキにより出力可能な回生制動力を特定するための可能回生力Pを特定する。例えば、可能回生力Pは、回生ブレーキにより発生する最大の制動力に対する回生ブレーキにより発生可能な現在の制動力の割合である。バッテリ残量Vが比較的大きい状態では、バッテリへさらに充電するための空き容量が十分に確保されていないため、可能回生力Pが比較的小さくなる。識別情報は、回生ブレーキが出力する回生制動力にそれぞれ対応することから、選択部123は、回生ブレーキが出力可能な1又は2以上の段階的な回生制動力から、バッテリ残量Vに基づいて特定の回生制動力を選択するともいえる。
【0039】
図3は、モータ6がある回転数で動作している場合における、バッテリ残量Vと、可能回生力Pとの関係を示す模式図である。横軸は、バッテリ残量Vを示す。縦軸は可能回生力Pを示す。バッテリ残量Vが所定の値(Vth0)以下である場合、回生ブレーキが最大の回生制動力で動作した状態であっても発生する電力をバッテリ5に充電可能である。したがって、最大の回生制動力で回生ブレーキを動作可能であることから、可能回生力Pは、最大値Pmax(例えば100%)である。
【0040】
また、バッテリ残量Vが所定の値Vth0より大きい場合、回生ブレーキが最大の回生制動力で動作した場合に発生する電力をバッテリ5に充電することができない。したがって、回生ブレーキが発生可能な回生制動力は、最大の回生制動力よりも小さくなる。このとき、可能回生力は、最大値Pmaxより小さくなる。
【0041】
なお、
図3において説明の簡略化のため、バッテリ残量Vと、可能回生力Pとの関係を線形で示したが、これに限らない。
【0042】
また、後述するようにモータ回転数Mが大きいほど、回生ブレーキにより発生する可能回生力Pが大きくなるため、
図3に示したバッテリ残量Vと可能回生力Pとの関係は、モータ回転数Mに応じて変化する。このため、選択部123は、バッテリ残量Vに加えて、モータ回転数Mに基づいて、可能回生力Pを特定してもよい。
【0043】
選択部123は、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXを特定する。回生制動力の最大値MAXは、その時点のバッテリ残量V及びモータ回転数Mの条件下において回生ブレーキを最大限に作動させた場合に発生する回生制動力である。例えば、選択部123は、可能回生力Pと、回生制動力の最大値MAXとを関連付けたテーブルを記憶部11から読み出す。選択部123は、読み出したテーブルを参照して、特定した可能回生力Pに関連付けられている回生制動力の最大値MAXを特定する。選択部123は、特定した回生制動力の最大値MAXよりも特定した識別情報に対応する回生制動力が小さくなるように、1以上の識別情報を特定する。
【0044】
選択部123は、特定した1以上の識別情報から、いずれか1つの識別情報を選択する。このとき、選択部123は、特定部122が特定した必要制動力Pwに基づいて、1つの識別情報を選択する。
【0045】
例えば、選択部123は、特定した1以上の識別情報のうち、選択した識別情報に対応する回生制動力が必要制動力Pw以上となる最小の回生制動力に対応する識別情報を選択する。選択部123は、例えば、必要制動力Pwが第1基準値未満から第1基準値以上になった場合に、識別情報「回生1段目」(第1識別情報に相当)を選択する。このとき、回生ブレーキによる回生1段目の段階がオフからオンに切り替わる。このようにして、選択部123は、必要最小限の回生制動力を発生させるように識別情報を選択することができる。一方、選択部123は、特定した全ての識別情報に対応する回生制動力が必要制動力Pw未満である場合、特定した最大の回生制動力に対応する識別情報を選択する。
【0046】
回生制御部124は、選択部123が選択した識別情報に対応する回生制動力をモータ6に発生させる。例えば、回生制御部124は、選択部123が第1識別情報を選択した場合に、バッテリ5を充電する充電電流が第1電流値となるように回生充電する。回生制御部124は、選択部123が第1識別情報に対応する回生制動力より大きな回生制動力に対応する第2識別情報を選択した場合に、バッテリ5を充電する充電電流が第2電流値となるように回生充電する。第2電流値は、第1電流値より大きい。このようにして、回生制御部124は、バッテリ5を充電する充電電流を増減させることにより、モータ6により発生させる回生電力を変化させる。このため、回生制御部124は、モータ6が回生ブレーキとして動作する際の回生制動力を調整することができる。
【0047】
回生制御部124は、可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが記憶部11に記憶された複数の識別情報に対応する回生制動力のうち最小の回生制動力未満である場合、その時点において発生可能な最大の回生制動力を発生させる。このようにして、回生制御部124は、適切な回生制動力を発生させることにより、燃費の増大を抑制することができる。また、回生制御部124は、可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが記憶部11に記憶された複数の識別情報に対応する回生制動力のうち最小の回生制動力未満である場合、回生ブレーキを作動させなくてもよい。このようにして、回生制御部124は、バッテリ5の過充電を抑制することができる。
【0048】
制動制御部125は、回生ブレーキ以外のブレーキにより自車両100を減速させる。
図2の例では、回生ブレーキ以外のブレーキは、摩擦ブレーキ7である。回生ブレーキ以外のブレーキは、リタードブレーキであってもよく、摩擦ブレーキ7とリタードブレーキとを併用してもよい。制動制御部125は、選択部123が選択した識別情報に対応する回生制動力が必要制動力Pwに対して不足する不足制動力を特定する。制動制御部125は、不足制動力を回生ブレーキ以外のブレーキにより補う。制動制御部125は、回生ブレーキ以外のブレーキにより不足制動力以上の制動力を発生させてもよく、不足制動力よりも小さな制動力を発生させてもよい。
【0049】
[回生ブレーキと摩擦ブレーキ7との制御の例]
図4乃至
図6は、特定部122が特定する必要制動力Pwの時間変化と、回生ブレーキの段階的なオンオフの変化との例を示す。
図4の横軸は、時間を示す。
図4の上から1番目のグラフは、特定部122が特定する必要制動力Pwの時間変化を示す。このグラフの縦軸は、必要制動力Pwを示す。制動力は、自車両100の進行方向とは逆方向に作用するため、
図4の上から1番目のグラフでは、必要制動力Pwは0より低い値を示し、必要制動力Pwの絶対値が大きいほど必要制動力Pwがより低い値を示す。
図4の上から2番目乃至4番目のグラフは、回生ブレーキによる回生制動力の出力状態を3つの識別情報「回生1段目」、「回生2段目」及び「回生3段目」に対応する3つの段階に分けて示す。
図4の上から5番目のグラフは、摩擦ブレーキ7による制動力の出力状態を示す。
【0050】
図4の上から1番目のグラフでは、必要制動力Pwが増加した後、減少する。選択部123が特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXを
図4中の横向きの実線で示す。
図4の例では、可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXは、3つの識別情報「回生1段目」、「回生2段目」及び「回生3段目」に対応するいずれの回生制動力よりも大きく、選択部123は、この3つの識別情報を選択可能な識別情報として特定する。
【0051】
選択部123は、特定した3つの識別情報に対応する閾値と、必要制動力Pwとを比較することにより識別情報を選択する。選択部123は、
図4の左側において示すように、必要制動力Pwが回生1段目~回生3段目に対応するどの閾値よりも小さい状態では、どの識別情報も選択しない。このとき、回生1段目~回生3段目は、いずれもオフの状態である。
【0052】
選択部123は、必要制動力Pwが回生2段目に対応する閾値(
図4中の第1基準値)よりも大きくなったときに、識別情報「回生1段目」を選択する。このとき、
図4の上から2番目の回生1段目のグラフに示すように、回生ブレーキの回生1段目がオフからオンに切り替わり、識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1が回生制御部124により出力される。
【0053】
選択部123は、必要制動力Pwが回生2段目に対応する閾値よりも大きくなったときに、識別情報「回生2段目」を選択する。このとき、
図4の上から3番目の回生2段目のグラフに示すように、回生ブレーキの回生2段目がオフからオンに切り替わり、回生2段目に対応する回生制動力T2が回生制御部124により出力される。同様に、選択部123は、必要制動力Pwが回生3段目に対応する閾値よりも大きくなったときに、識別情報「回生3段目」を選択する。
【0054】
選択部123は、
図4の上から5番目のグラフでは、選択部123が選択した識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力よりも必要制動力が大きくなったタイミングにおいて摩擦ブレーキ7をオフからオンに切り替えるように制動制御部125に指示する。このとき、制動制御部125は、識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力が必要制動力Pwに対して不足する不足制動力を摩擦ブレーキ7により補う。
【0055】
続いて、回生ブレーキをオフにする場合の動作について説明する。選択部123は、選識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力よりも必要制動力が所定値以上小さくなったタイミングにおいて、摩擦ブレーキ7をオンからオフに切り替えるように制動制御部125に指示する。所定値は、摩擦ブレーキ7のオンオフの切り替えが頻繁に繰り返させることを抑制するために設定される。
【0056】
選択部123は、それぞれの識別情報を選択した時点の必要制動力Pwよりも必要制動力が小さくなってから、選択した識別情報を非選択状態にして、回生制動力の発生を停止する。一例として、選択部123は、識別情報「回生1段目」を選択した後に、必要制動力Pwが第2基準値未満になった場合に、識別情報「回生1段目」を選択した状態から選択しない状態に変化させる。第2基準値は、第1基準値よりも小さい。このとき、回生ブレーキによる回生1段目がオンからオフに切り替わる。
【0057】
このようにして、回生ブレーキの回生1段目がオフからオンに切り替わる第1基準値と、回生ブレーキの回生1段目がオンからオフに切り替わる第2基準値とが異なるので、必要制動力が変動する場合に、識別情報が頻繁に切り替わって回生制動力が頻繁に増減されることを抑制することができる。このため、選択部123は、自車両100の乗り心地の良さが損なわれることを抑制することができる。
【0058】
図5中の横向きの実線で示すように、選択部123が特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが、識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2以上であるが、識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3未満である。
【0059】
図5の例では、選択部123は、2つの識別情報「回生1段目」及び「回生2段目」を選択可能な識別情報として特定し、識別情報「回生3段目」を選択可能な識別情報として特定しない。選択部123は、
図4と同様に、必要制動力Pwが回生2段目に対応する第1基準値よりも大きくなったタイミングにおいて識別情報「回生1段目」を選択する。このとき、回生ブレーキの回生1段目がオフからオンに切り替わる。
【0060】
選択部123は、
図4と同様のタイミングにおいて識別情報「回生2段目」を選択するが、識別情報「回生3段目」を選択しない。このため、
図5の上から4番目の回生3段目のグラフに示すように、回生ブレーキの回生3段目がオフのまま維持され、識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3が回生制御部124により出力されない。
【0061】
選択部123は、
図5の上から5番目のグラフでは、選択部123が選択した識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2よりも必要制動力が大きくなったタイミングにおいて、摩擦ブレーキ7をオフからオンに切り替えるように制動制御部125に指示する。識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2は、識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3よりも小さいため、制動制御部125は、
図4よりも早いタイミングにおいて摩擦ブレーキ7を作動させる。
【0062】
図6中の横向きの実線で示すように、選択部123が特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが、識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1以上であるが、識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2未満である。
図6の例では、選択部123は、識別情報「回生1段目」を選択可能な識別情報として特定し、識別情報「回生2段目」及び「回生3段目」を選択可能な識別情報として特定しない。選択部123は、
図4と同様のタイミングにおいて識別情報「回生1段目」を選択するが、識別情報「回生2段目」及び「回生3段目」を選択しない。
【0063】
このため、
図6の上から3番目の回生2段目のグラフに示すように、回生ブレーキの回生2段目がオフのまま維持され、回生2段目に対応する回生制動力T2が回生制御部124により出力されない。同様に、
図6の上から4番目の回生3段目のグラフに示すように、回生ブレーキの回生3段目がオフのまま維持され、回生3段目に対応する回生制動力が回生制御部124により出力されない。
【0064】
以上のとおり、選択部123は、可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXを特定し、識別情報に対応する回生制動力が特定した回生制動力の最大値MAXよりも小さくなるように1以上の識別情報を特定する例について説明した。しかしながら、本発明は、選択部123が可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXを特定する例に限定されない。選択部123は、可能回生力Pと、識別情報に対応する閾値とを比較することにより、選択可能な識別情報を特定してもよい。
【0065】
例えば、選択部123は、特定した可能回生力Pが第1閾値未満であることを条件として、識別情報「回生1段目」(第1識別情報に相当)を特定する。第1閾値は、例えば、モータ回転数Mに応じて変化する。選択部123は、特定した可能回生力Pが第1閾値以上であることを条件として、識別情報「回生2段目」(第2識別情報に相当)を特定する。識別情報「回生2段目」は、識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1よりも大きな回生制動力T2に対応する識別情報である。
【0066】
[回生ブレーキの作動の処理手順]
図7は、制動制御装置1による回生ブレーキの作動の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、例えば、自車両100のACCによる自動走行中に開始する。まず、取得部121は、自車両100と前方車両200との間の距離Lを示す情報を距離センサ3から取得し、前方車両200に対する自車両100の相対車速Vmを示す情報を車速センサ2から取得する(S101)。
【0067】
特定部122は、自車両100と前方車両200との間の距離Lと、相対車速Vmに基づいて、自車両100と前方車両200との距離を所定距離以上に維持するための必要制動力Pwを特定する(S102)。取得部121は、特定部122が特定した必要制動力Pwが0より大きいか否かを判定する(S103)。取得部121は、特定した必要制動力Pwが0より大きいと判定した場合に(S103のYES)、バッテリ残量Vを取得する(S104)。取得部121は、モータ回転数Mを取得する(S105)。
【0068】
選択部123は、特定したバッテリ残量V及びモータ回転数Mに基づいて、可能回生力Pを特定する(S106)。回生制御部124及び制動制御部125は、制動処理を実行する(S107)。
【0069】
制動制御部125は、自車両100が自動走行を終了したか否かを判定する(S108)。制動制御部125は、自車両100が自動走行を終了したと判定した場合に(S108のYes)、処理を終了する。
【0070】
取得部121は、S103の判定において特定した必要制動力Pwが0であると判定した場合に(S103のNo)、S108の判定に移る。制動制御部125は、S108の判定において自車両100が自動走行を終了していないと判定した場合に(S108のNo)、S101の処理に戻る。
【0071】
図8は、
図7の制動処理(S107)の詳細を示すフローチャートである。まず、選択部123は、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXを特定する。選択部123は、特定した回生制動力の最大値MAXが回生ブレーキの識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2以上であるか否かを判定する(S201)。選択部123は、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが回生制動力T2以上であると判定した場合に(S201のYes)、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3未満であるか否かを判定する(S202)。
【0072】
選択部123は、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3未満であると判定した場合に(S202のYes)、識別情報「回生1段目」及び「回生2段目」を特定する(S203)。選択部123は、特定した識別情報のうち、対応する回生制動力が特定部122が特定した必要制動力Pw以上となる最小の回生制動力に対応する識別情報を選択する(S204)。回生制御部124は、選択した識別情報に対応する回生制動力を回生ブレーキにより出力する(S205)。
【0073】
制動制御部125は、選択した識別情報に対応する回生制動力が必要制動力Pw未満であるか否かを判定する(S206)。制動制御部125は、選択した識別情報に対応する回生制動力が必要制動力Pw未満である場合に(S206のYes)、必要制動力Pwから選択した識別情報に対応する回生制動力を差し引いた制動力を摩擦ブレーキ7により発生させ(S207)、処理を終了する。
【0074】
選択部123は、S201の判定において特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生2段目」に対応する回生制動力T2未満であると判定した場合に(S201のNo)、特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1以上であるか否かを判定する(S208)。選択部123は、可能回生力に対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1以上である場合に(S208のYes)、識別情報「回生1段目」を特定し(S209)、S204の処理に移る。
【0075】
選択部123は、S208の判定において特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生1段目」に対応する回生制動力T1未満である場合に(S208のNo)、出力可能な最大の回生制動力をモータ6に出力させ(S210)、S206の判定に移る。選択部123は、S202の判定において特定した可能回生力Pに対応する回生制動力の最大値MAXが識別情報「回生3段目」に対応する回生制動力T3以上であると判定した場合に(S202のNo)、識別情報「回生1段目」、「回生2段目」及び「回生3段目」を特定し(S211)、S204の処理に移る。
【0076】
[本開示の制動制御装置1による効果]
本開示の制動制御装置1によれば、制動制御部125は、バッテリ5に充電可能な電気容量が小さいこと等に起因して回生ブレーキが十分に働かない場合に、必要制動力Pwに対して回生ブレーキによる回生制動力が不足する制動力を回生ブレーキ以外のブレーキにより補う。このため、制動制御部125は、自車両100が前方車両に接近し過ぎることを抑制することができるので、運転者に恐怖感を与えることを抑制することができる。
【0077】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0078】
1 制動制御装置
2 車速センサ
3 距離センサ
4 電圧センサ
5 バッテリ
6 モータ
7 摩擦ブレーキ
11 記憶部
12 制御部
100 自車両
121 取得部
122 特定部
123 選択部
124 回生制御部
125 制動制御部
200 前方車両