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特許7666581プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフトおよび釣り竿
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフトおよび釣り竿
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20250415BHJP
   A01K 87/00 20060101ALI20250415BHJP
   A63B 53/10 20150101ALI20250415BHJP
   C08G 59/44 20060101ALI20250415BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250415BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20250415BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
A01K87/00 630A
A63B53/10 A
C08G59/44
C08L63/00 C
A63B102:32
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023503119
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2023000271
(87)【国際公開番号】W WO2023157507
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022021921
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】恩村 康之
(72)【発明者】
【氏名】平野 公則
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181402(WO,A1)
【文献】特開2017-226745(JP,A)
【文献】特開2001-181375(JP,A)
【文献】特開2007-291227(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
A01K 87/00
A63B 53/10
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグであって、
該樹脂組成物は、下記構成要素[A]~構成要素[D]を含み、かつ、下記条件(1)~(3)を満たす、プリプレグ。
構成要素[A]:エポキシ樹脂
構成要素[B]:ジシアンジアミド
構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
構成要素[D]:フェノキシ樹脂
(1):構成要素[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む。
(2):構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~50質量部含む。
(3):構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下である。
【請求項2】
前記[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂を実質的に含まない、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記構成要素[B]の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対し、4~9質量部である、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
構成要素[A]として[A4]ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のプリプレグが硬化されてなる、繊維強化複合材料。
【請求項6】
請求項1または2に記載のプリプレグを管状に成形してなる、繊維強化複合材料製管状体。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、ゴルフクラブシャフト。
【請求項8】
請求項6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、釣り竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途などの繊維強化複合材料に好適に用いられる、プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体に関するものであり、また、該繊維強化複合材料製管状体を用いてなるゴルフクラブシャフト、釣り竿に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度、比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿、自転車、筐体などのスポーツ、一般産業用途などに広く利用されている。この繊維強化複合材料に用いられる樹脂組成物としては、耐熱性や生産性の観点から主に熱硬化性樹脂が用いられ、中でも強化繊維との接着性などの力学特性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0003】
近年、さらなる軽量化が求められるゴルフシャフト、釣り竿、自転車等の用途へ繊維強化複合材料を適用するには各種物性の向上が求められるようになってきた。例えば、ゴルフシャフトや釣り竿等の管状体に用いるプリプレグには、管状に賦形した際のプリプレグの巻き剥がれを防ぐため、優れたタック性が求められる。また、管状体において優れた曲げ強度を発現させるためには、用いる繊維強化複合材料に高い繊維方向強度および非繊維方向強度が必要となるが、それらはマトリックス樹脂として用いるエポキシ樹脂自体の強度や弾性率が大きく影響する。さらに、繊維強化複合材料表面をクリア塗装することによって強化繊維のクロス目等を意匠として用いる場合も増えている。そのため、マトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂には、硬化物が優れた機械特性を示すことに加え、硬化物の低着色性や透明性、耐候性といった外観についても重要視されるようになってきた。
【0004】
そこで上記課題を解決すべく、機械特性向上の観点から、特許文献1では、硬化剤として用いるジシアンジアミドが溶け残って欠陥となるのを低減するために添加剤を配合し、樹脂強度の向上を図る手法が検討されている。また、外観の向上の観点から、特許文献2では、成形品の外観を損ねる要因であるジシアンジアミドの含有量を減らし、エポキシ樹脂の自己重合により硬化物を得る手法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/181402号
【文献】国際公開第2018/003691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術を用いた場合、樹脂強度の向上効果が得られるが、低着色性や耐候性といった外観について何ら考慮されておらず、優れた外観が得られない場合があった。また、特許文献2の技術を用いた場合、優れた外観を持つ樹脂硬化物や成形品が得られるものの、樹脂硬化物の曲げ強度や弾性率が低く、機械特性が不足する場合があった。さらに特許文献2の技術では所望のタックが不足する場合があり、取り扱い性の点でも改善の余地があった。
【0007】
そこで本発明は、強度や弾性率といった機械特性と、低着色性や透明性、耐候性といった外観が共に優れ、さらにタック性にも優れるプリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフト、釣り竿を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のプリプレグは、強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグであって、
該樹脂組成物は、下記構成要素[A]~構成要素[D]を含み、かつ、下記条件(1)~(3)を満たす、プリプレグ。
構成要素[A]:エポキシ樹脂
構成要素[B]:ジシアンジアミド
構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
構成要素[D]:フェノキシ樹脂
(1):構成要素[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む。
(2):構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~50質量部含む。
(3):構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下である。
【0009】
本発明の繊維強化複合材料は、上記プリプレグが硬化されてなる繊維強化複合材料である。
【0010】
本発明の繊維強化複合材料製管状体は、上記プリプレグを管状に成形してなる繊維強化複合材料製管状体である。
【0011】
本発明のゴルフクラブシャフトは、上記繊維強化複合材料製管状体を用いてなるゴルフクラブシャフトである。
【0012】
本発明の釣り竿は、上記繊維強化複合材料製管状体を用いてなる釣り竿である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた機械特性と外観を両立し、さらに優れたタック性も有するプリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフト、釣り竿が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のプリプレグは、樹脂組成物と強化繊維とを含む。樹脂組成物と強化繊維とからなることが好ましい。樹脂組成物としてエポキシ樹脂の組成物が用いられ、構成要素[A]~構成要素[D]を必須成分として含む。なお本発明において「構成要素」とは樹脂組成物に含まれる樹脂または化合物を意味する。
【0016】
本発明における構成要素[A]は、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂である。構成要素[A]が1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂である場合、樹脂組成物を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が高くなるため好ましい。エポキシ樹脂組成物や繊維強化複合材料の耐熱性や力学特性に著しい悪影響を及ぼさない範囲で、1分子中にエポキシ基を1個有するエポキシ樹脂を配合してもよい。
【0017】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、イソシアヌル酸型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、ヒダントイン型、ソルビトール型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0018】
本発明において条件(1)を満たすためには、構成要素[A]として[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂(以下単に、[A1]と表すことがある)を含む必要がある。[A1]を含むことにより、樹脂硬化物の曲げ弾性率が高くなり、樹脂硬化物の着色の低減や耐候性が向上し、優れた機械特性と外観を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0019】
樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A1]を10~40質量部含むことが必要であり、下限については15質量部以上であることが、上限については30質量部以下であることが好ましい。[A1]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の着色と白濁が少なく、弾性率と外観(色味、透明度)のバランスが良好となる。
【0020】
[A1]の市販品としては、“TEPIC(登録商標)”-G、-S、-L、-VL、-PAS B22(以上、日産化学工業(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”PT9810(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)等を使用することができる。
【0021】
また、本発明において条件(2)を満たすためには、構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂(以下単に、[A2]と表すことがある)を含む必要がある。[A2]を含むことにより、樹脂硬化物の着色が少なく、プリプレグのタック性が向上し、優れたタック性を有するプリプレグ、および優れた外観を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0022】
樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A2]を10~50質量部含むことが必要であり、下限については15質量部以上であることが、上限については40質量部以下であることが好ましい。[A2]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の着色と白濁が少なく、プリプレグのタック性と外観(色味、透明度)のバランスが良好となる。
【0023】
[A2]としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。中でも、プリプレグとしたときのタック性などの物性のバランスが良いことから、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、軟化点が60~110℃のものを用いることが好ましく、軟化点が70~100℃であるものを用いることがさらに好ましい。
【0024】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱ケミカル(株)製)、EPPN-201(日本化薬(株)製)、“EPICLON(登録商標)”N-740、N-770(軟化点:65~75℃)、N-775(軟化点:70~80℃、以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0025】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”N-660(軟化点:62~70℃)、N-665(軟化点:65~74℃)、N-670(軟化点:69~77℃)、N-673(軟化点:73~82℃)、N-680(軟化点:82~92℃)、N-690(軟化点:88~98℃)、N-695(軟化点:90~100℃、以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0026】
本発明において条件(3)を満たすためには、構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂(以下単に、[A3]と表すことがある)の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下であることが必要であり、5質量部以下であることがより好ましく、[A3]を実質的に含まないことがさらに好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂とは、グリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂をいい、[A3]の含有量を10質量部以下にすることにより、樹脂硬化物の着色が少なく、耐候性が向上し、優れた外観(色味、耐候性)を有する繊維強化複合材料が得られる。ここで、「[A3]を実質的に含まない」とは、全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A3]の含有量がゼロである場合を含んで1質量部より少ないことをいう。
【0027】
[A3]としては、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0028】
ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721、MY9512、MY9663(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“エポトート(登録商標)”YH-434(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0029】
ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂の市販品としては、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0030】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120、ELM100(以上、住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0031】
メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、“TETRAD(登録商標)” -X(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0032】
1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂の市販品としては、“TETRAD(登録商標)” -C(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0033】
構成要素[A]について、[A4]ビスフェノール型エポキシ樹脂(以下単に、[A4]と表すことがある)を含むことが好ましい。[A4]を含むことで、樹脂硬化物の色味や透明度、耐候性を損なうことなく、樹脂組成物の粘度を調整することができるため、プリプレグのタックを向上させることができ、取り扱い性に優れたプリプレグを作製する上で含有することが好ましい。
【0034】
[A4]としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A4]を10~60質量部含むことが好ましく、下限については15質量部以上であることが、上限については50質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)、およびDER-331、332(以上、ダウケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0036】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”806、807、4005P、4007P、4010P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0037】
また、構成要素[A]について、[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂、[A2]ノボラック型エポキシ樹脂、[A4]ビスフェノール型エポキシ樹脂の総量が全エポキシ樹脂の好ましく96質量%以上、より好ましく99質量%以上、さらに好ましく100質量%、を占めることで、樹脂硬化物の機械特性(強度、弾性率)と外観(色味、透明度、耐候性)、およびプリプレグのタック性が優れるため、好ましい。また、本発明は、構成要素[A]について、上に述べた[A1]ないし[A4]以外のエポキシ樹脂を含むことを妨げないが、その量としては、全エポキシ樹脂の量を100質量%としたとき、4質量%未満とすることが好ましい。
【0038】
本発明における構成要素[B]は、樹脂組成物に含まれるジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂の硬化物に高い機械特性や耐熱性を与える点で優れており、種々のエポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられている。また、エポキシ樹脂組成物の保存安定性に優れることから、好適に使用できる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0039】
また本発明では、樹脂硬化物の機械特性と透明性のバランスが優れることから、構成要素[B]の含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し、4~9質量部であることが好ましく、5~7質量部であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明における構成要素[C]は、樹脂組成物に含まれる沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物である。ここで、エポキシ樹脂と付加反応しうるアミンやフェノール、エポキシ樹脂と共重合しうる酸無水物、エポキシ樹脂の自己重合反応開始剤となり得るイミダゾール、芳香族ウレア化合物、三級アミン化合物などの化合物は、エポキシ樹脂の硬化能を有する化合物である。そして、「実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない」とは、エポキシ樹脂と化学反応せず、かつエポキシ樹脂の自己重合にも関与しないことをいう。
【0041】
構成要素[C]は、エポキシ樹脂とジシアンジアミドとが反応して形成される架橋構造において、架橋構造に取り込まれることなく、その空隙部に存在し、すなわち架橋構造に包摂され、エポキシ樹脂の硬化後も、化学的な変化や物理的な変化を伴わず、エポキシ樹脂の硬化前からの状態を保っていると考えられ、これにより、得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率が高くなると考えられる。また、驚くべきことに、構成要素[C]を配合することで、高弾性率のみならず、高伸度で高強度なエポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0042】
また、構成要素[C]の沸点が130℃以上、より好ましくは180℃以上であることで、エポキシ樹脂組成物が硬化する際の構成要素[C]の揮発を抑制でき、機械特性に優れた樹脂硬化物や繊維強化複合材料が得られる。また、構成要素[C]の沸点をかかる範囲とすることで、得られる繊維強化複合材料におけるボイドの発生や機械特性の低下を抑制できるため好ましい。また、構成要素[C]の沸点の上限は特にはないが、本発明に通常用いられる化合物の沸点は、400℃以下のものを用いることが好適である。
【0043】
構成要素[C]は、構成要素[A]100質量部に対し、1~15質量部含むことが好ましく、2~10質量部含むことがより好ましく、3~6質量部含むことがさらに好ましい。
【0044】
構成要素[C]の分子量mは50以上250以下であり、より好ましくは70以上120以下である。構成要素[C]の分子量をかかる範囲とすることで、構成要素[C]は、エポキシ樹脂とジシアンジアミドとが反応して形成される架橋構造の空隙部に適切に保持され、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。
【0045】
本発明において、構成要素[C]は、分子内にアミド基、ケトン基、水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物であることが好ましい。構成要素[C]が分子内に上記のような高極性の官能基を有する場合、構成要素[A]と構成要素[B]から形成される架橋構造中の水酸基と構成要素[C]との間に強い分子間相互作用が働き、構成要素[C]が架橋構造の空隙部に適切に保持されやすくなるため、特に優れた伸度や強度の向上効果が得られる。
【0046】
かかる構成要素[C]としては、例えば、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルプロピオンアミド、N-エチルアセトアミド、N-メチルアセトアニリド、N,N’-ジフェニルアセトアミド等のアミド類、およびエタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール等のジオール類等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0047】
本発明における構成要素[D]は、樹脂組成物に含まれるフェノキシ樹脂である。フェノキシ樹脂は樹脂硬化物の色味や透明度、耐候性を損なうことなく、樹脂組成物の粘度や、プリプレグのタックを向上させることができる。そのため、構成要素[D]を含有することにより、優れたタック性を有するプリプレグ、および優れた外観を有する繊維強化複合材料が得られる。構成要素[D]は、構成要素[A]100質量部に対し、3~20質量部含むことが好ましく、5~15質量部含むことがより好ましい。
【0048】
本発明のプリプレグに用いる樹脂組成物には、硬化速度をコントロールするという観点から硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、ウレア化合物、イミダゾール化合物などが挙げられ、エポキシ樹脂組成物の保管安定性の観点から特にウレア化合物を好ましく用いることができる。
【0049】
ウレア化合物としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレアなどが挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)などを使用することができる。
【0050】
本発明のプリプレグ及び繊維強化複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができるが、炭素繊維を用いることが特に好ましい。強化繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。強化繊維として、2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いても構わない。
【0051】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0052】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0053】
炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。この範囲であると炭素繊維強化複合材料の剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230~400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは260~370GPaの範囲内である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0054】
本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、有機溶媒を用いず、樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法により、プリプレグを製造することができる。
【0055】
ホットメルト法では、加熱により低粘度化した樹脂組成物を、直接、強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法などを用いることができる。
【0056】
プリプレグ中の強化繊維の含有率は、プリプレグの質量を100質量%としたとき、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは65~85質量%である。強化繊維の含有率が小さいと、樹脂の量が多すぎて、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が得られにくい。また、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が高くなりすぎることがある。一方、強化繊維の含有率が大きすぎると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料はボイドの多いものとなる恐れがある。またプリプレグのタック性を損ねる恐れがある。
【0057】
本発明の繊維強化複合材料、または繊維強化複合材料製管状体は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0058】
繊維強化複合材料製管状体の成形方法には、ラッピングテープ法が特に好ましく用いられる。ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを巻いて、円筒状成形体を得る方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻着し、プリプレグの固定及び圧力付与のため、その外周に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻着し、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去ることにより円筒状成形体を得る方法であり、ゴルフクラブシャフト、釣り竿等の棒状体を作製する際に好適である。
【0059】
本発明の繊維強化複合材料製管状体は、上述した優れたタック性を有するプリプレグを成形してなることから、管状に賦形した際の巻き剥がれが減少し、ボイド等の欠陥の少ないものが得られる。また、本発明に係るプリプレグを用いると、その硬化物は優れた機械特性を有することから、本発明の繊維強化複合材料製管状体は優れた曲げ強度を発現する。
【0060】
本発明の繊維強化複合材料、または繊維強化複合材料製管状体は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途に広く用いることができる。より具体的には、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両などの構造体等に好適に用いられる。スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途に好適に用いられる。中でも、本発明の繊維強化複合材料製管状体は、ゴルフクラブシャフトや釣り竿に好適に用いることができる。
【0061】
以上に記した数値範囲の上限及び下限は、特に断りのない限り、任意に組み合わせることができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0063】
<実施例および比較例で用いられた材料>
(1)構成要素[A]:エポキシ樹脂
・[A1]イソシアヌル酸型エポキシ樹脂
[A1]-1 “TEPIC(登録商標)”-S(エポキシ当量:100、日産化学工業(株)製)
・[A2]ノボラック型エポキシ樹脂
[A2]-1 “EPICLON(登録商標)”N-775(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189、DIC(株)製)
[A2]-2 “EPICLON(登録商標)”N-695(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:214、DIC(株)製)
・[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂
[A3]-1 “アラルダイト(登録商標)”MY0600(アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:118、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)
[A3]-2 “スミエポキシ(登録商標)”ELM434(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:120、住友化学工業(株)製)
・[A4]ビスフェノール型エポキシ樹脂
[A4]-1 “EPICLON(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:172、DIC(株)製)
[A4]-2 “jER(登録商標)”4005P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:1075、三菱ケミカル(株)製)
(2)構成要素[B]:ジシアンジアミド
[B]-1 DICY7(ジシアンジアミド、三菱ケミカル(株)製)
(3)構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
[C]-1 1,2-プロパンジオール(沸点:188℃、分子量m:76、東京化成工業(株)製)
[C]-2 2-ピロリドン(沸点:245℃、分子量m:85、東京化成工業(株)製)
(4)構成要素[D]:フェノキシ樹脂
[D]-1 “フェノトート(登録商標)”YP-70(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)
(5)その他の熱可塑性樹脂(以下、構成要素[E])
[E]-1 “ビニレック(登録商標)”K(ポリビニルホルマール、JNK(株)製)
[E]-2 “スミカエクセル(登録商標)”PES 5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製)
(6)硬化促進剤(以下、構成要素[F])
[F]-1 DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ケ谷化学工業(株)製)
(7)炭素繊維
・“トレカ(登録商標)”T1100G―24K(繊維数24000本、引張弾性率:324GPa、東レ(株)製)
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
(1)硬化剤マスターの調製
[A4]-1をエポキシ樹脂の全量100質量部に対して10質量部となる量用意した。これに構成要素[B]:ジシアンジアミドを表に示す量添加し、室温で混練した。混合物を三本ロールミルに2回通すことで、硬化剤マスターを調製した。
【0064】
(2)エポキシ樹脂組成物の調製
表に示す成分と量のうち、上記(1)で使用した[A4]-1の分を除いたエポキシ樹脂の全量、すなわちエポキシ樹脂の全量を100質量部としたときの90質量部分、をビーカーに投入した。混練しながら、150℃まで昇温した後、表に示す成分と量の構成要素[D]または構成要素[E]を投入し、150℃の温度で1時間加熱混練を行い、溶解させた。次いで、混練を続けたまま55~65℃の温度まで降温した後、前記(1)で調製した硬化剤マスター、ならびに、表に示す成分と量の構成要素[C]、および、構成要素[F]を投入し、同温度で30分間混練することで、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0065】
<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、30℃から速度1.7℃/分で昇温して、90℃の温度に到達してから1時間保持した後、速度2.0℃/分で昇温して、135℃の温度に到達してから2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0066】
また、外観評価用には、1mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み1mmになるように設定したモールド中で、上記硬化反応を行い、厚さ1mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0067】
<プリプレグの作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、樹脂目付が31g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、繊維目付が125g/mのシート状となるように一方向に配列させた炭素繊維の両面のそれぞれに、上記樹脂フィルムを重ねて、温度110℃、最大圧力2MPaの条件で加熱加圧してエポキシ樹脂組成物を含浸させ、プリプレグを得た。
【0068】
<各種評価方法>
(1)エポキシ樹脂硬化物の3点曲げ測定
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ2mmの樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分、サンプル数n=6とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施した時の、強度および弾性率の算術平均値をそれぞれ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率とした。
【0069】
(2)エポキシ樹脂硬化物の黄色度評価
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ1mmの樹脂硬化物から、幅37mm、長さ68mmの試験片を切り出した。この試験片について、多光源分光測色計MSC―P(スガ試験機(株)製)を用い、D65光源、10°視野、正反射光を除くd/8の光学条件による反射法によって三刺激値を求めた。得られた三刺激値を基に、JIS K7373(2006)に従って黄色度を計算した。
【0070】
(3)エポキシ樹脂硬化物の透明度評価
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ1mmの樹脂硬化物を、文字が書かれた紙の上に置き、樹脂硬化物の透明度を確認した。樹脂硬化物を置く前と同様に文字が明確に読める場合をA、朧気ではあるが読むことができる場合をB、文字が読めない場合をCと表記した。
【0071】
(4)エポキシ樹脂硬化物の耐候性試験
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ1mmの樹脂硬化物から、幅37mm、長さ68mmの試験片を切り出した。この試験片を促進耐候性試験(スーパーキセノンウェザーメーターSX―75、スガ試験機(株)製)を用い、強度180W/m、ブラックパネル温度63℃、湿度50%RHの条件で、水噴射なしの照射102分間と、強度180W/m、槽内温度28℃、湿度99%RHの条件で、水噴射しながらの照射18分間とを1サイクルとし、これを12回(すなわち24時間)繰り返す耐候性試験を行った。
【0072】
耐候性の評価は、耐候性試験前後での硬化物の色差(ΔE)を多光源分光測色計MSC―P(スガ試験機(株)製)を用いて測定することで行った。上記(2)エポキシ樹脂硬化物の黄色度評価と同じ条件で三刺激値(L、a、b)を求め、耐候性試験前後での三刺激値の差分(ΔL、Δa、Δb)を用いて、下記の式(I)により色差(ΔE)を算出した。
【0073】
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2 ・・・(I)
(5)プリプレグのタック性測定
プリプレグのタック性を、タックテスタ(PICMAタックテスタII、東洋精機(株)製)を用いて測定した。18mm×18mm角のカバーガラスを0.4kgf(3.9N)の力で5秒間プリプレグに圧着し、30mm/分の速度にて垂直に引張り、カバーガラスが剥がれる際の抵抗力をタック値とした。
【0074】
<実施例1>
構成要素[A]:エポキシ樹脂の内、成分[A1]として“TEPIC(登録商標)”-S 25質量部、成分[A2]として“EPICLON(登録商標)”N-775 35質量部、成分[A4]として“EPICLON(登録商標)”830 25質量部、“jER(登録商標)”4005P 15質量部、構成要素[B]:ジシアンジアミドとしてDICY7 5.4質量部、構成要素[C]として1,2-プロパンジオール 5質量部、構成要素[D]:フェノキシ樹脂として“フェノトート(登録商標)”YP-70 12質量部、硬化促進剤としてDCMU99 3質量部を用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0075】
得られた樹脂組成物から、<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従って、エポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物について曲げ強度、曲げ弾性率、黄色度、透明度、耐候性(色差ΔE)を測定したところ、曲げ強度は193MPa、曲げ弾性率は4.7GPa、黄色度は12、透明度はA、ΔEは6.8であり、樹脂硬化物の物性と外観は良好であった。
【0076】
また、得られた樹脂組成物から<プリプレグの作製方法>に従ってプリプレグを作製し、プリプレグのタック性測定を行ったところ、プリプレグタックは1.7kgfであり、優れたタック性を示した。
【0077】
<実施例2~12>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。各実施例について、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、黄色度、透明度、耐候性(色差ΔE)、プリプレグタックは表1に記載の通りであり、いずれも良好であった。
【0078】
<比較例1>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。物性評価結果は表1に併せて示した(以降の比較例において同様)。エポキシ樹脂硬化物の黄色度、透明度、耐候性、プリプレグタックは良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が10質量部に満たず、条件(1)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率が実施例7に比べて低かった。
【0079】
<比較例2>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率、黄色度、耐候性、プリプレグタックは良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が40質量部を超え、条件(1)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、透明度が実施例6に比べて不良であった。
【0080】
<比較例3>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率、黄色度、透明度、耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が10質量部に満たず、条件(2)を満たさないため、曲げ強度、プリプレグタックが実施例7に比べて低かった。
【0081】
<比較例4>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率、黄色度、耐候性、プリプレグタックは良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が50質量部を超え、条件(2)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、透明度が実施例4に比べて不良であった。
【0082】
<比較例5>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の黄色度、透明度、耐候性、プリプレグタックは良好であった。しかし、構成要素[B]が配合されていないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率が実施例5や実施例9に比べて低かった。
【0083】
<比較例6>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の黄色度、透明度、耐候性、プリプレグタックは良好であった。しかし、構成要素[C]が配合されていないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率が実施例5に比べて低かった。
【0084】
<比較例7>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、プリプレグタックは良好であった。しかし、構成要素[D]が配合されておらず、代わりの熱可塑性樹脂として“ビニレック(登録商標)”Kが用いられているため、樹脂硬化物の黄色度、透明度、耐候性が実施例1に比べて不良であった。
【0085】
<比較例8>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、透明度、プリプレグタックは良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A3]の含有量が10質量部を超え、条件(3)を満たさないため、樹脂硬化物の黄色度、耐候性が実施例1や実施例8に比べて不良であった。
【0086】
<比較例9>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、透明度、プリプレグタックは良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A3]の含有量が10質量部を超え、条件(3)を満たさないため、樹脂硬化物の黄色度、耐候性が実施例1や実施例8に比べて不良であった。
【0087】
<比較例10>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、黄色度、透明度、プリプレグタックは良好であった。しかし、構成要素[D]が配合されておらず、代わりの熱可塑性樹脂として“スミカエクセル(登録商標)”PES 5003Pが用いられているため、樹脂硬化物の耐候性が実施例1に比べて不良であった。
【0088】
【表1-1】
【0089】
【表1-2】