(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】異常診断装置、異常診断方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20250415BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K10/00 502Z
(21)【出願番号】P 2023565727
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2021044902
(87)【国際公開番号】W WO2023105623
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】多賀戸 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】榮 純明
(72)【発明者】
【氏名】小梨 貴史
(72)【発明者】
【氏名】西岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑嗣
(72)【発明者】
【氏名】児玉 純
(72)【発明者】
【氏名】市原 悦子
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144069(JP,A)
【文献】特開平10-235490(JP,A)
【文献】特開2010-253538(JP,A)
【文献】特開2020-110818(JP,A)
【文献】特開2008-296227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、
を備え
、
前記第1の溶接時の時系列データには、溶接機が備える複数の電極のそれぞれに対応して取得される第1の時系列データと第2の時系列データとを含む複数の時系列データが含まれており、
前記取得手段は、
前記第1の溶接時の時系列データにおける前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせることによって、前記第1の溶接時のシフト後の時系列データを生成し、
前記異常判定手段は、
前記シフト後の時系列データに基づいて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する
異常診断装置。
【請求項2】
前記異常判定手段が用いる異常判定モデルは、
時系列データを特徴量に変換し、
予め蓄積された複数の特徴量の中から、前記時系列データを変換して得られた前記特徴量に類似する特徴量を検索し、
前記検索された特徴量に付されたラベルを参照して、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かに関する情報を生成する
請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記異常があるか否かに関する情報には、
溶接ビードの端部がへこむアンダーカット、
溶接ビードの端部が前記溶接部分の外に形成されるオーバーラップ、
溶接ビードが前記溶接部分の底部に形成されない溶け込み不良
の少なくとも何れかを表す情報が含まれる
請求項2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記取得手段は、
前記第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと、ラベルとを含む学習用データを取得し、
当該異常診断装置は、
前記学習用データを用いて前記異常判定モデルを学習させる学習手段を備えている
請求項1~3のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記出力手段は、さらに、前記溶接部分の異常を解消するための対処方法に対応する制御情報を、前記第1の溶接時に出力する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項6】
前記取得手段は、
前記第1の溶接時の速度を示す速度情報を更に取得し、
当該速度情報が示す速度に応じて、前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせる
請求項
1に記載の異常診断装置。
【請求項7】
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得すること、
前記取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定すること、
前記異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力すること、とを含
み、
前記第1の溶接時の時系列データには、溶接機が備える複数の電極のそれぞれに対応して取得される第1の時系列データと第2の時系列データとを含む複数の時系列データが含まれており、
前記取得することにおいて、
前記第1の溶接時の時系列データにおける前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせることによって、前記第1の溶接時のシフト後の時系列データを生成し、
前記判定することにおいて、
前記シフト後の時系列データに基づいて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項8】
コンピュータを、
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、を備える異常診断装置として機能させ
、
前記第1の溶接時の時系列データには、溶接機が備える複数の電極のそれぞれに対応して取得される第1の時系列データと第2の時系列データとを含む複数の時系列データが含まれており、
前記取得手段は、
前記第1の溶接時の時系列データにおける前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせることによって、前記第1の溶接時のシフト後の時系列データを生成し、
前記異常判定手段は、
前記シフト後の時系列データに基づいて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部分における異常が検知された場合に、検知された異常の要因を知らせることができる異常診断装置、異常診断方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を接合する方法として溶接が知られている。例えば、接合された鋼板の強度を確認するため、溶接された接合部の非破壊検査が行われる。この非破壊検査として、放射線(X線)透過試験、超音波探傷試験などが広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、溶接電源から検出した溶接電圧又は溶接電流の時系列波形を周波数解析して周波数スペクトルデータを生成し、周波数スペクトルデータに基づいて溶接状態を判定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、溶接工程における電流波形Xpが正常な電流波形W1~Wnに対して局所的に離間する場合であっても、溶接加工の異常を精度よく判定できるようにする手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許出願 2018-144069号公報
【文献】日本国特許出願 2019-118954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献1では、仮に異常を正確に発見できたとしても、溶接の異常が発生した要因について知ることが困難であった。
【0007】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、溶接部分における異常が検知された場合に、検知された異常の要因を知らせる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る異常診断装置は、第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、を備える。
【0009】
本発明の一側面に係る異常診断方法は、第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得すること、前記取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定すること、前記異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力すること、とを含む。
【0010】
本発明の一側面に係るプログラムは、コンピュータを、第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、を備える異常診断装置として機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、溶接部分における異常が検知された場合に、検知された異常の要因を知らせる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の例示的実施形態1に係る異常診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の例示的実施形態1に係る異常診断方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の例示的実施形態2に係る溶接状態診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】電極ユニット101に組み込まれているセンサの例を示す図である。
【
図7】溶接部に形成される溶接ビードの異常を説明する図である。
【
図8】溶接状態診断処理の例について説明するフローチャートである。
【
図9】前処理の詳細な例について説明するフローチャートである。
【
図10】出力部23が出力する異常情報の例を説明する図である。
【
図11】本発明の例示的実施形態4に係る電極ユニット101に組み込まれているセンサの別の例を示す図である。
【
図12】本発明の例示的実施形態5に係る溶接状態診断・学習装置10Aの構成例を示すブロック図である。
【
図13】学習処理の例を説明するフローチャートである。
【
図14】各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータの例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔例示的実施形態1〕
本発明の第1の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本例示的実施形態は、後述する例示的実施形態の基本となる形態である。
【0014】
<異常診断装置20の概要>
本例示的実施形態に係る異常診断装置20は、概略的に言えば、被溶接物の溶接部の異常を診断する装置である。
【0015】
より具体的に言えば、異常診断装置20は、一例として、
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、
取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、
異常判定手段により異常があると判定された場合に、判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段とを備える。
【0016】
<異常診断装置20の構成>
本例示的実施形態に係る異常診断装置20の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、異常診断装置20の構成例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、異常診断装置20は、取得部21、異常判定部22および出力部23を備える。取得部21は、本例示的実施形態において取得手段を実現する構成である。出力部23は、本例示的実施形態において出力手段を実現する構成である。
【0018】
取得部21は、第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する。
【0019】
第1の溶接時は、例えば、現在実行されている被溶接物の溶接である。一例として被溶接物は、溶接機の大きさより充分に大きい2枚の鋼板である。溶接機は、鋼板の接合部分を移動しながら、鋼板を溶接する。
【0020】
溶接機は、例えば、位置センサ、速度センサ、電流センサ、電圧センサなどの複数のセンサを備えており、それぞれのセンサからセンサ値が出力される。取得部21は、例えば、所定の時間間隔で複数のセンサから出力されるセンサ値を、時系列データとして取得する。
【0021】
異常判定部22は、取得部21により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する。
【0022】
異常判定モデルは、過去に実行された被溶接物の溶接である第2の溶接時における時系列データと、溶接部分の異常の有無とを対応付けて、予め機械学習を実行することで得られるモデルである。一例として、溶接部分の異常は、鋼板の溶接部に形成された溶接ビードの異常である。
【0023】
異常判定モデルは、第1の溶接時に得られる時系列データに基づいて溶接部分の異常の有無を判定する。
【0024】
出力部23は、異常判定手段により異常があると判定された場合に、判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する。
【0025】
一例として、異常判定部22は、異常判定モデルが、異常があると判定した場合に、当該判定結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくとも何れかとが関連付けられた対応情報を参照する。そして、出力部23は、当該判定結果と、当該判定結果に関連付けられた異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくとも何れかとを出力する。
【0026】
ここで、異常の要因は、一例として、溶接機が移動する速度の過多/過少、溶接部に印可される電流の過少などである。また、異常を解消するための対処方法は、一例として、溶接機の移動速度の調整、溶接部に印可される電流の調整などである。
【0027】
一例として、対応情報は、異常判定モデルによる判定結果と、異常の要因および/または異常を解消するための対処方法とを対応付けたテーブルである。
【0028】
<異常診断装置20の効果>
本例示的実施形態に係る異常診断装置によれば、第1の溶接時の時系列データに基づいて、第2の溶接時の時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かが判定される。異常があると判定された場合に、判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方とが出力される。従って、従来行われていた非破壊検査などを実施しなくても、溶接部の異常を診断することができ、リアルタイムで低コストの異常診断が可能となる。
【0029】
また、出力される情報には、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれかが含まれるので、異常の要因の解析と対処方法の検討に要する時間を削減できる。その結果、溶接処理を素早く完了させることができる。
【0030】
<異常診断装置20による異常診断方法の流れ>
以上のように構成された異常診断装置20が実行する異常診断方法の流れについて、
図2を参照して説明する。
図2は、異常診断方法の流れを示すフローチャートである。同図に示されるように、異常診断方法は、ステップS11とステップS12を含んでいる。
【0031】
ステップS11において、取得部21は、第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する。
【0032】
ステップS12において、異常判定部22は、取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する。
【0033】
ステップS13において、出力部23は、前記異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する。
【0034】
このようにして、異常診断処理が実行される。
【0035】
<情報処理方法の効果>
本例示的実施形態に係る異常診断方法によれば、第1の溶接時の時系列データに基づいて、第2の溶接時の時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かが判定される。異常があると判定された場合に、判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方とが出力される。従って、従来行われていた非破壊検査などを実施しなくても、溶接部の異常を診断することができ、リアルタイムで低コストの異常診断が可能となる。
【0036】
従来の非破壊検査を実施するためには、検査のための機器が必要となり、結果としてコストが増大する。
【0037】
また、このような非破壊検査は、鋼板の大きさや長さに係らず、溶接された接合部の始端側および終端側のそれぞれ1mの範囲のみが検査されるので、それ以外の位置における溶接の異常は発見できなかった。
【0038】
さらに、非破壊検査は、溶接が完了した後、接合された鋼板を検査場に移動させて実施される。非破壊検査により、溶接の異常が発見されると、鋼板を再度溶接場に戻して溶接をやり直す必要があるため、鋼板の移動に要する時間とエネルギーの削減が求められていた。
【0039】
また、出力される情報には、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれかが含まれるので、異常の要因の解析と対処方法の検討に要する時間を削減できる。その結果、溶接処理を素早く完了させることができる。
【0040】
〔例示的実施形態2〕
本発明の第2の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態1にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0041】
<溶接状態診断装置10の構成>
本例示的実施形態に係る溶接状態診断装置10の構成について、
図3を参照して説明する。
【0042】
図3は、溶接状態診断装置10の構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、溶接状態診断装置10は、制御部50、記憶部30、通信部41、入力部42、および出力部23を含んでいる。
【0043】
記憶部30は、例えば、半導体メモリデバイスなどにより構成され、データを記憶する。記憶部30には、例えば、後述する特徴量DBが記憶される。また、記憶部30には、異常判定モデル81のモデルパラメータが記憶される。
【0044】
通信部41は、溶接状態診断装置10を、ネットワークに接続するためのインタフェースである。ネットワークの具体的構成は本例示的実施形態を限定するものではないが、一例として、無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、WAN(Wide Area Network)、公衆回線網、モバイルデータ通信網、又は、これらのネットワークの組み合わせを用いることができる。
【0045】
入力部42は、溶接状態診断装置10に対する各種の入力を受け付ける。入力部42の具体的構成は本例示的実施形態を限定するものではないが、一例として、キーボード及びタッチパッド等の入力デバイスを備える構成とすることができる。また、入力部42は、赤外線や電波等の電磁波を介してデータの読み取りを行うデータスキャナ、及び、環境の状態をセンシングするセンサ等を備える構成としてもよい。
【0046】
出力部23は、例示的実施形態1において説明したものと同様の機能を有し、溶接状態診断装置10による処理結果を出力する機能ブロックである。出力部23の具体的構成は本例示的実施形態を限定するものではないが、一例として、ディスプレイ、スピーカ、プリンタなどにより構成され、溶接状態診断装置10による各種処理結果などを画面上に表示したり、音声や図として出力したりする。
【0047】
また、出力部23は、必要に応じて出力すべき情報を通信部41に供給し、ネットワークを介して他の装置に提供する。
【0048】
溶接状態診断装置10は、後述する溶接機100に有線または無線により接続される。
【0049】
制御部50は、取得部21と、異常判定部22とを備える。
図3の例では、取得部21が前処理部61を有している。
【0050】
前処理部61は、溶接機100に設けられた複数の電極に対応して設けられたセンサから取得された時系列データを時間方向にシフトさせ、シフト後時系列データを生成する。なお、前処理部によるシフト後時系列データの生成の詳細については後述する。
【0051】
また、
図3の例では、異常判定部22は、異常判定モデル81を有している。異常判定モデル81は、過去に行われた第2の溶接時の時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習したモデルである。例えば、過去に実行された溶接時の時系列データが蓄積され、蓄積された時系列データを特徴量に変換する処理が実行される。そして、特徴量と溶接部分の異常の有無を示すラベルとが対応付けられて記憶される。
【0052】
一例として特徴量は、時系列データの時間的な変化に係る特徴と、各センサ値の関係性に係る特徴を抽出し、抽出されたそれぞれの特徴を合成したバイナリデータである。そして蓄積された特徴量と、新たに得られた特徴量との類似性が機械学習によって学習される。
【0053】
このような機械学習により、異常判定モデル81は、入力された特徴量に近い特徴量を、予め蓄積された特徴量から検索することができる。また、異常判定モデル81は、検索された特徴量に付加されたラベルを参照することで、入力された特徴量が溶接部分の異常を表すものなのかを判定することができる。
【0054】
すなわち、異常判定モデル81に現在実行中の第1の溶接時のシフト後時系列データを入力することにより、溶接部分に異常があるか否かに関する異常情報が生成される。
【0055】
異常判定モデル81は、前処理部61によって生成されたシフト後時系列データを、特徴量に変換する。このとき、異常判定モデル81は、例えば、シフト後時系列データから、同一の時刻における複数のセンサ値を抽出し、部分時系列データを生成する。
【0056】
そして、異常判定モデル81は、部分時系列データの時間的な変化と、センサ値の関係性のそれぞれの特徴を抽出し、これらの特徴を合成するとともに、合成した特徴をバイナリデータに変換する。このように、異常判定モデル81は、シフト後時系列データを特徴量に変換する。
【0057】
なお、シフト後時系列データが生成されないようにしてもよい。この場合、異常判定モデル81は、時系列データを特徴量に変換する。
【0058】
また、異常判定モデル81は、変換により得られた特徴量を、記憶部30に格納される特徴量DBに記憶された特徴量と比較する。特徴量DBには、例えば、溶接機100により過去に実行された溶接処理において得られた特徴量が記憶されている。
【0059】
なお、特徴量DBに記憶されている特徴量には、その特徴量が得られた溶接処理において、被溶接物の溶接部に形成された溶接ビードの異常に係るラベルが付されている。例えば、溶接ビードが正常に形成されていることを表すラベル、溶接ビードの形成が異常であることを表すラベルが付される。
【0060】
溶接ビードの形成が異常である場合、異常の種類もラベルによって表される。なお、異常の種類の詳細については後述する。
【0061】
異常判定モデル81は、特徴量DBに記憶されている特徴量の中から、第1の溶接時に得られた特徴量であって、シフト後の時系列データを変換して得られた特徴量に類似する特徴量を検索する。
【0062】
なお、シフト後時系列データが生成されない場合、異常判定モデル81は、変換して得られた特徴量に類似する特徴量を検索する。
【0063】
そして、異常判定モデル81は、検索された特徴量に付されたラベルを参照し、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かに関する情報を生成する。
【0064】
<溶接機による溶接の例>
図4は、溶接機100による溶接の例を説明する図である。ここでは、アーク溶接を行う溶接機100を用いて鋼板の溶接を行う例について説明する。
【0065】
同図に示されるように溶接機100は、鋼板131と鋼板132とを溶接する。溶接前の鋼板131と鋼板132とはタブ板133およびタブ板134により、互いに接するように固定されている。
【0066】
鋼板131および鋼板132は、長さLの鋼板とされる。この例では、鋼板131および鋼板132が、長手方向の端面が接触するように配置されており、それぞれの鋼板の長手方向が溶接部として溶接される。
【0067】
溶接機100には、電極ユニット101が設けられており、電極ユニット101には、電極101A、電極101B、および電極101Cの3つの電極が設けられている。
【0068】
鋼板の長さLは、電極ユニット101と比較して十分に長いため、電極ユニット101は、図中の矢印に従って左から右に移動し、鋼板131と鋼板132とを溶接していく。この例では、電極ユニット101が、鋼板131と鋼板132の長手方向に沿って移動しながら溶接を行うことになる。
【0069】
各電極に高圧の電圧が印加されることにより、鋼板131および鋼板132の溶接部と各電極との間に高温のアークが発生し、電極、鋼板131および鋼板132が融溶して溶接ビードが形成される。
【0070】
鋼板上を移動する電極ユニット101には、電極101A、電極101B、および電極101Cが設けられているので、溶接部の所定の位置には、最初に電極101Cが到達し、次に、電極101Aが到達し、最後に電極101Aが到達する。このように、溶接機100は、3つの電極によって、同一の位置で3回アークを発生させて溶接ビードを形成するように構成されている。
【0071】
また、溶接機100による溶接は、図示せぬ制御部により制御されて行われる。例えば、予め制御部に設定された制御手順に従って電極ユニット101の移動、各電極に印加される電圧の強度などが制御される。このように、溶接機100によって溶接処理は自動化される。
【0072】
制御部が溶接機100による制御を行うにあたり、電極ユニット101および各電極の状態を検知するセンサが必要とされる。例えば、移動中の電極ユニット101の位置を検知する位置センサなどのセンサが必要とされる。このようなセンサは、溶接機100の製造時に組み込まれている。
【0073】
溶接状態診断装置10は、例えば、制御部との通信が可能となるように、溶接機100と有線または無線により接続され、溶接機100に組み込まれているセンサから出力されるセンサ値を取得する。
【0074】
このように、溶接機100は、被溶接物上を移動する電極ユニット101であって、溶接部に溶接電流を供給する複数の異なる電極を有する電極ユニット101を備え、取得部21は、電極ユニットの移動に伴って複数のセンサのそれぞれが出力するセンサ値を、時系列データとして取得する。
【0075】
図5は、電極ユニット101に組み込まれているセンサの例を示す図である。この例では、センサユニット111、センサユニット121A、センサユニット121B、およびセンサユニット121Cが設けられている。
【0076】
センサユニット111は、電極ユニット101に対応して設けられる。一方、センサユニット121Aは、電極101Aに対応して設けられ、センサユニット121Aは、電極101Bに対応して設けられ、センサユニット121Cは、電極101Cに対応して設けられる。なお、特に区別する必要がない場合、センサユニット121A、センサユニット121B、およびセンサユニット121Cをまとめてセンサユニット121と称することにする。
【0077】
各センサユニットには、それぞれ2つのセンサが含まれており、取得部21は、これらのセンサユニットのセンサがそれぞれ出力するセンサ値を時系列データとして取得する。すなわち、第1の溶接時の時系列データには、溶接機が備える複数の電極のそれぞれに対応して取得される第1の時系列データと第2の時系列データとを含む複数の時系列データが含まれる。
【0078】
また、上述したように、前処理部61が、複数の異なる電極の中の少なくとも1つの電極に対応して設けられるセンサユニットから取得された時系列データを、時間方向にシフトさせる。すなわち、センサユニット121A乃至121Cの中の少なくとも1つのセンサユニットから出力される時系列データが、センサユニット111から出力される時系列データに対して時間方向にシフトされる。
【0079】
このように、前処理部61は、第1の溶接時の時系列データにおける第1の時系列データと第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせることによって、第1の溶接時のシフト後時系列データを生成する。
【0080】
そして、異常判定モデル81は、シフト後時系列データを入力とし、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する。
【0081】
上述したように、溶接機100は、3つの電極によって、同一の位置で3回アークを発生させて溶接ビードを形成するように構成されている。
【0082】
例えば、電極ユニット101の移動に伴い、鋼板131および鋼板132の長さL/2に対応する位置(中央位置と称することにする)には、電極ユニット101が移動を開始してから所定の時間が経過した時刻tにおいて電極101Cが到達する。その後、時間bが経過し、時刻t+bになると、電極101Bが中央位置に到達する。さらに、時刻tから時間aが経過し、時刻t+a(a>b)になると、電極101Aが中央位置に到達する。
【0083】
このように、中央位置の溶接ビードは、時刻tに電極101Cが発生させたアーク、時刻t+bに電極101Bが発生させたアーク、時刻t+aに電極101Aが発生させたアークによって形成される。このため、中央位置の溶接ビードの異常を診断するためには、電極101Bおよび電極101Aに係るセンサ値の時系列データを、時間方向にシフトさせる必要がある。
【0084】
すなわち、電極101Bに対応するセンサユニット121Bに含まれるセンサから得られた時系列データを時間bだけシフトさせ、電極101Aに対応するセンサユニット121Aに含まれるセンサから得られた時系列データを時間aだけシフトさせる必要がある。ここで、時間bおよび時間aは、それぞれの電極の間の距離および電極ユニット101が移動する速度に応じて定まることになる。
【0085】
なお、電極ユニット101が移動する速度は、例えば、後述する速度センサ113が出力するセンサ値によって特定することができる。
【0086】
そこで、前処理部61は、センサユニット111およびセンサユニット121のセンサ値の時系列データのうち、センサユニット121Bのセンサ値の時系列データとセンサユニット121Aのセンサ値の時系列データをシフトさせたシフト後時系列データを生成する。
【0087】
すなわち、取得部21は、第1の溶接時の速度を示す速度情報を更に取得し、当該速度情報が示す速度に応じて、第1の時系列データと第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせる。
【0088】
図6は、シフト後時系列データの例を説明する図である。同図は、横軸が時間、縦軸がセンサ値とされ、時間の経過に伴うセンサ値の変化であって、各センサ値の時系列データが波形によって示されている。
【0089】
この例では、センサユニット111のセンサ値の時系列データの波形TS111、センサユニット121Cのセンサ値の時系列データの波形TS121C、センサユニット121Bのセンサ値の時系列データの波形TS121B、およびセンサユニット121Aのセンサ値の時系列データの波形TS121Aが示されている。
【0090】
なお、実際には、センサユニット111、センサユニット121A、センサユニット121B、およびセンサユニット121Cに、それぞれ複数のセンサが含まれ得るので、各センサユニットは、複数のセンサ値の時系列データを出力し得る。しかし、ここでは、説明を簡単にするため、各センサユニットがそれぞれ1つの時系列データを出力するものとして説明する。
【0091】
同図に示されるように、時系列データの波形TS121Bは、その開始位置が、時系列データの波形TS111および時系列データの波形TS121Cの開始位置より時間bだけ遅延させられている。また、時系列データの波形TS121Aは、その開始位置が、時系列データの波形TS111および時系列データの波形TS121Cの開始位置より時間aだけ遅延させられている。
【0092】
このようにすることで、あたかも3つの電極が時刻tにおいて中央位置に到達していた場合の時系列データを得ることができる。
【0093】
この例では、センサユニット121Cから出力される時系列データを基準にして、センサユニット121Aから出力される時系列データと、センサユニット121Bから出力される時系列データを遅延させるようにした。しかし、例えば、センサユニット121Bから出力される時系列データを基準として、センサユニット121Cから出力される時系列データを時間方向に進め、センサユニット121Aから出力される時系列データを遅延させるようにしてもよい。あるいは、センサユニット121Aから出力される時系列データを基準として、センサユニット121Bから出力される時系列データおよびセンサユニット121Cから出力される時系列データを時間方向に進めるようにしてもよい。
【0094】
ここでは、電極ユニット101に、センサユニット121A、センサユニット121B、およびセンサユニット121C設けられる例について説明した。しかし、例えば、電極ユニット101に、センサユニット121A、センサユニット121B、およびセンサユニット121Cのうちの1つのみが設けられていてもよい。この場合、時系列データをシフトさせる必要はない。
【0095】
図5に戻って、電極ユニット101に組み込まれているセンサの例についてさらに説明する。
【0096】
センサユニット111は、電極ユニット101に1つ設けられるセンサユニットであり、位置センサ112および速度センサ113を有している。位置センサ112は、電極ユニット101の位置を検知するセンサである。速度センサ113は、電極ユニット101が移動する速度を検知するセンサである。
【0097】
位置センサ112は、例えば、電極ユニット101のデフォルト位置を起点として、電極ユニット101がX軸、Y軸、およびZ軸方向にどれだけ移動したかを検知し、センサ値として出力する。デフォルト位置は、例えば、溶接処理の実行が開始される前の電極ユニット101の位置とされる。
【0098】
速度センサ113は、電極ユニット101が移動する速度を検知する。一例として、速度センサ113は、電極ユニット101を鋼板131と鋼板132の長手方向に沿って移動させる移動機構を駆動するモータの回転数から、電極ユニットの移動速度を検知する。速度センサ113は、検知した速度をセンサ値として出力する。
【0099】
センサユニット121は、各電極に対応して設けられるセンサユニットである。センサユニット121Aは、アークを発生させる際に電極101Aが出力する電流値を検知する電流センサ122Aと、電極101Aに印加される電圧値を検知する電圧センサ123Aとを有している。
【0100】
同様に、センサユニット121Bおよびセンサユニット121Cもそれぞれ、電流センサ122Bおよび電圧センサ123B、並びに、電流センサ122Cおよび電圧センサ123Cを有している。
【0101】
なお、電流センサ122A乃至電流センサ122Cおよび電圧センサ123A乃至電圧センサ123Cをそれぞれ区別する必要がない場合、単に電流センサ122および電圧センサ123と称することにする。
【0102】
ここでは、各センサユニットが電極ユニット101に組み込まれている例について説明したが、例えば、各センサユニットの一部または全部が、溶接機100の制御部に組み込まれるようにしてもよい。要は、溶接機100の中に
図5に示される各センサユニットが組み込まれていればよい。
【0103】
なお、
図5は、センサユニットに含まれるセンサの一例を示したものであり、これ以外のセンサが含まれるようにしてもよい。
【0104】
図7は、溶接部に形成される溶接ビードの異常を説明する図である。上述したように、溶接ビードは、鋼板131および鋼板132が融溶することで、鋼板131と鋼板132との間に形成される。
図7には、3通りの溶接ビードの異常の例が示されている。
【0105】
同図の最も上に示される溶接ビードは、その上側の端部B11が凹んでいる。このように上端部が凹んだ溶接ビードは、アンダーカットと称され、溶接速度が速すぎるときに形成されることが多い。溶接速度が速すぎると、溶着金属量が不足しやすいからである。
【0106】
また、同図の中央に示される溶接ビードは、その上端部B12が、鋼板131と鋼板132との間にある溶接部からあふれ出している。このように、上端部が溶接部からあふれ出した溶接ビードは、オーバーラップと称され、溶接速度が遅すぎるときに形成されることが多い。溶接速度が遅すぎると、溶着金属量が過剰になるからである。
【0107】
さらに、同図の最も下に示される溶接ビードは、その下端部B13が鋼板131と鋼板132の間にある溶接部の下端である底部に届いていない。このように、下端部が溶接部の底部に届かない溶接ビードは、溶け込み不良と称され、電極が出力する電流値が小さすぎるときに形成されることが多い。電極が出力する電流値が小さすぎると、アークが弱くなり、溶着金属が充分に溶け込まなくなるからである。
【0108】
特徴量DBに予め蓄積された複数の特徴量には、溶接ビードの端部がへこむアンダーカット、溶接ビードの端部が溶接部の外に形成されるオーバーラップ、または、溶接ビードが溶接部の底部に形成されない溶け込み不良を表すラベルが付されている。
【0109】
次に、
図8のフローチャートを参照して、本例示的実施形態の溶接状態診断装置10による溶接状態診断処理の例について説明する。
【0110】
ステップS31において、前処理部61は、前処理を実行する。これにより、上述したように、センサユニットから取得された時系列データを、電極ユニット101が移動する速度に応じて時間方向にシフトさせたシフト後時系列データが生成される。
【0111】
ここで、
図9のフローチャートを参照して、ステップS31の前処理の詳細について説明する。
【0112】
ステップS51において、前処理部61は、センサユニット111の速度センサ113のセンサ値を取得し、電極ユニットが移動する速度を特定する。
【0113】
ステップS52において、前処理部61は、各電極が溶接部の同一位置に到達する時刻の差を計算する。このとき、例えば、上述したように、電極101Bおよび電極101Aのそれぞれが、電極101Cからどれだけ遅れて中央尾位置に到達するかが計算される。なお、各電極間の距離は、予め前処理部61に通知されているものとする。
【0114】
ステップS53において、前処理部61は、電流センサ122および電圧センサ123から出力されるセンサ値の時系列データを時間方向にシフトさせる。
【0115】
このとき、例えば、
図6を参照して上述したように、センサユニット121Bに含まれる電流センサ122Bおよび電圧センサ123Bから出力されるセンサ値の時系列データが時間bだけシフトされる。また、センサユニット121Aに含まれる電流センサ122Aおよび電圧センサ123Aから出力されるセンサ値の時系列データが時間aだけシフトされる。
【0116】
ステップS54において、前処理部61は、シフト後時系列データを生成する。
【0117】
このようにして、前処理が実行される。
【0118】
図8に戻って説明を続ける。ステップS31の処理の後、ステップS32において、異常判定モデル81は、前処理部61によって生成されたシフト後時系列データを、特徴量に変換する。
【0119】
ステップS33において、異常判定モデル81は、特徴量DBに記憶されている特徴量のうち、ステップS32の処理により得られた特徴量と類似する特徴量を検索する。
【0120】
ステップS34において、異常判定モデル81は、ステップS33の処理での検索結果として特徴量DBに記憶されている特徴量のうち、ステップS32の処理により得られた特徴量と類似する特徴量を特定する。
【0121】
ステップS35において、異常判定モデル81は、ステップS34の処理で特定された特徴量に付されたラベルを参照して異常情報を生成する。すなわち、現在実行されている溶接処理において得られた特徴量から、溶接部に形成された溶接ビードの異常と異常の種類が検知される。
【0122】
上述したように、特徴量DBに記憶されている特徴量には、その特徴量が得られた溶接処理において、被溶接物の溶接部に形成された溶接ビードの異常に係るラベルが付されている。例えば、異常情報には、溶接ビードが異常であるか否かを示す情報とともに、異常の要因を示す情報を含めることが可能となる。
【0123】
例えば、ステップS34の処理で特定された特徴量であって、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルがアンダーカットを示すものであった場合、異常の要因は、「溶接速度が速すぎる」ということになる。
【0124】
また、例えば、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルがオーバーラップを示すものであった場合、異常の要因は、「溶接速度が遅すぎる」ということになる。
【0125】
あるいはまた、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルが溶け込み不良を示すものであった場合、異常の要因は、「電極が出力する電流値が小さすぎる」ということになる。
【0126】
このように、特徴量に付されたラベルに基づいて異常の要因を特定することが可能であるから、異常情報には、溶接ビードの異常を示す情報とともに、その異常の要因を示す情報を含めることができる。
【0127】
さらに、異常情報には、異常の要因に基づく対処方法が含まれるようにしてもよい。
【0128】
例えば、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルがアンダーカットを示すものであった場合、対処方法は、「電極ユニット101の移動速度を低下させる」ということになる。
【0129】
また、例えば、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルがオーバーラップを示すものであった場合、対処方法は、「電極ユニット101の移動速度を増加させる」ということになる。
【0130】
あるいはまた、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルが溶け込み不良を示すものであった場合、対処方法は、「電極ユニット101の電極に印加する電流を増加させる」ということになる。
【0131】
このように、異常情報には、溶接ビードの異常を解消するための対処方法が含まれるようにすることができる。
【0132】
出力部23は、ステップS35の処理で生成された異常情報を、異常があるか否かに関する情報として出力する。すなわち、溶接状態診断装置10は、鋼板の溶接部に形成される溶接ビードが異常であるか否かを示す情報とともに、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれかを含む異常情報を出力する。
【0133】
一例として、異常情報は、予め記憶部30に記憶されたテーブルであって、異常判定モデルによる判定結果と、異常要因および/または対処方法とを対応付けたテーブルを参照することで生成される。
【0134】
一例として、記憶部30には、下記のようなテーブルが記憶される。
判定結果
0:正常
1:異常、要因「アンダーカット」、対処方法「溶接速度を下げて下さい。」
2:異常、要因「オーバーラップ」、対処方法「溶接速度を上げて下さい。」
2:異常、要因「溶け込み不良」、対処方法「電流値を大きくして下さい。」
このようなテーブルを参照することで、溶接ビードが異常であるか否かを示す情報とともに、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれかを含む異常情報が生成され、出力される。
【0135】
図10は、出力部23が出力する異常情報の例を説明する図である。この例では、異常情報が、出力部23のディスプレイ201に表示されている。
【0136】
図10において、ディスプレイ201上で異常の有無を表示する異常有無表示領域211には、「溶接部異常」と表示されており、溶接部に異常があることを示している。また、ディスプレイ201上で異常の要因を表示する異常要因表示領域212には、異常の要因として「アンダーカット:溶接速度が速すぎる」と表示されている。また、ディスプレイ201上で異常を解消するための対処方法を表示する対処方法表示領域213には、「溶接速度を下げて下さい。」と表示されている。
【0137】
なお、異常要因表示領域212には、「溶接速度が速すぎる」と表示されるようにしてもよいし、「アンダーカット」と表示されるようにしてもよい。
図7を参照して上述したように、溶接部に形成される溶接ビードの異常の種類が特定されれば、異常の要因を特定することができる。このため、溶接ビードの異常の種類が異常の要因として表示されるようにしてもよい。
【0138】
すなわち、異常があるか否かに関する情報には、アンダーカット、オーバーラップ、溶け込み不良の少なくともいずれかを表す情報が含まれるようにしてもよい。
【0139】
また、ディスプレイ201には、異常有無表示領域211と異常要因表示領域212とが表示され、対処方法表示領域213は表示されないようにしてもよい。あるいは、ディスプレイ201には、異常有無表示領域211と対処方法表示領域213とが表示され、異常要因表示領域212は表示されないようにしてもよい。
【0140】
このようにすることで、異常の要因の解析と対処方法の検討に要する時間を削減できる。その結果、溶接処理を素早く完了させることができる。また、従来行われていた非破壊検査などを実施しなくても、溶接部の異常を診断することができ、リアルタイムで低コストの異常診断が可能となる。
【0141】
〔例示的実施形態3〕
本発明の第3の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態2にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0142】
出力部23は、異常情報に含まれる異常の要因に基づく対処方法を溶接機100に実行させるための制御情報を、さらに出力するようにしてもよい。制御情報は、例えば、通信部41を介して溶接機100の制御部に供給される。
【0143】
例えば、異常の要因が、「アンダーカット」であった場合、溶接速度を低下させる制御情報が出力される。
【0144】
また、例えば、異常の要因が、「オーバーラップ」であった場合、溶接速度を上げる制御情報が出力される。
【0145】
また、例えば、異常の要因が、「溶け込み不良」であった場合、電極が出力する電流値を上げる制御情報が出力される。
【0146】
このようにすることで、溶接状態診断装置10が溶接ビードの異常を検知すると、その異常を解消するための対処方法を含む制御情報が溶接機100に自動的に供給されるようにすることができる。例えば、実行中の溶接処理における時系列データの特徴量と類似する特徴量に付されたラベルがアンダーカットを示すものであった場合、電極ユニット101の移動速度を低下させる制御情報が生成されて溶接機100の制御部に供給されるようにすることができる。
【0147】
これにより、溶接状態診断装置10が溶接ビードの異常を検知すると、溶接機100が実行中の溶接処理において、検知された異常を解消するための対処方法が反映されるようにすることができる。従って、異常の対処に要する時間をさらに削減することができる。
【0148】
〔例示的実施形態4〕
本発明の第4の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態2にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0149】
図11は、電極ユニット101に組み込まれているセンサの別の例を示す図である。この例では、
図5を参照して上述した例に加えて、音センサ115、振動センサ116、および画像センサ117が設けられている。その他のセンサは、
図5を参照して上述した例と同様である。
【0150】
音センサ115は、実行中の溶接処理の音を検知してセンサ値を出力する。振動センサ116は、実行中の溶接処理による振動を検知してセンサ値を出力する。画像センサ117は、溶接部のX線画像を撮像する。画像センサ117は、例えば、撮像された画像の画素に対応するセンサ値を出力する。
【0151】
なお、音センサ115、振動センサ116、および画像センサ117が全て設けられている必要はなく、これらのセンサの少なくともいずれかが設けられるようにしてもよい。
【0152】
すなわち、本例示的実施形態では、実行中の溶接処理の音を検知する音センサ115、実行中の溶接処理による振動を検知する振動センサ116、および、溶接部のX線画像を撮像する画像センサ117の少なくともいずれかがさらに含まれる。
【0153】
このようなセンサから出力されるセンサ値の時系列データを特徴量に含めることにより、溶接ビードの異常をより正確に検知することが可能となる。
【0154】
ここでは、各センサユニットが電極ユニット101に組み込まれている例について説明したが、例えば、各センサユニットの一部または全部が、溶接機100の制御部に組み込まれるようにしてもよい。要は、溶接機100の中に
図10に示される各センサユニットが組み込まれていればよい。
【0155】
〔例示的実施形態5〕
本発明の第5の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、例示的実施形態2、例示的実施形態3、または例示的実施形態4にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0156】
図12は、本例示的実施形態における溶接状態診断・学習装置10Aの構成例を示すブロック図である。本例示的実施形態における溶接状態診断・学習装置10Aは、溶接状態診断処理に加えて、異常判定モデル81の学習を実行する。
【0157】
本例示的実施形態における溶接状態診断・学習装置10Aは、異常診断装置20に学習部24が設けられている点で、
図3を参照して上述した溶接状態診断装置10と異なっている。溶接状態診断・学習装置10Aの学習部24以外の構成は、
図3を参照して上述した構成と同様である。
【0158】
学習部24は、第2の溶接時の溶接処理から得られた時系列データを、特徴量に変換するとともに、溶接ビードの異常に係るラベルを付して記憶部30に記憶することで特徴量DBを生成する。
【0159】
例えば、溶接機100が鋼板の溶接を行ったとき、溶接機100に取り付けられた各センサから出力されるセンサ値の時系列データが取得部21によって取得される。取得部21は、例えば、
図9を参照して説明したように、シフト後時系列データを生成する。
【0160】
すなわち、取得部21によって、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データが取得される。
【0161】
取得部21から出力される時系列データは、異常判定部22に供給される。異常判定部22は、上述したように、異常判定モデル81を用いてシフト後時系列データを特徴量に変換する。変換された特徴量は、学習部24に供給される。
【0162】
例えば、溶接機100による鋼板の溶接が完了した後、溶接機の操作者、溶接の検査を行う検査者などによって、鋼板の溶接部に形成された溶接ビードの異常が検査される。検査によって、溶接ビードの異常が発見された場合、操作者、検査者などによって溶接ビードの異常と、異常の種類(例えば、アンダーカット、オーバーラップ、溶け込み不良など)とを示す情報が入力部42を介して入力される。
【0163】
溶接機100によって鋼板を溶接する溶接処理は、複数回実行され、実行される溶接処理のそれぞれにおいて、溶接ビードの異常が検査される。
【0164】
学習部24は、溶接ビードの異常と、異常の種類とを示す情報が入力された溶接処理に対応する特徴量に、溶接ビードの異常に係るラベルを付す。例えば、溶接ビードの形成が異常であることを表すラベルが付され、溶接ビードの形成が異常である場合、異常の種類もラベルによって表される。
【0165】
また、学習部24は、溶接ビードの異常と、異常の種類とを示す情報が入力されなかった溶接処理に対応する特徴量に、溶接ビードが正常に形成されていることを表すラベルを付す。
【0166】
このように、学習部24は、溶接機100により実行される溶接処理からえられた特徴量にラベルを付して記憶することで特徴量DBを生成する。なお、第2の溶接時の溶接処理から得られたシフト後時系列データ、特徴量、及びラベルを含むデータを学習用データと呼ぶこともある。
【0167】
(学習部24による学習処理例)
以下では、学習部24による特徴量DBを用いた学習処理例について説明する。
【0168】
まず、学習部24は、はじめに、学習用データからシフト後時系列データをランダムに1つを選択する。ここで選択されたデータのことを以下の説明における便宜上、シフト後時系列データD1と呼ぶことがある。
【0169】
次に、学習部24は、検証用データとして、他のシフト後時系列データを選択する。ここで選択されたデータのことを便宜的にシフト後時系列データD2,D3,D4などと呼ぶことがある。学習部24は、それぞれのデータを、異常判定部22の異常判定モデル81を用いることによって特徴量(バイナリデータ)へと変換する。
【0170】
そして、学習部24は、シフト後時系列データD1に付されたラベルと、シフト後時系列データD2,D3,D4のそれぞれに付されたラベルとを参照し、シフト後時系列データD2,D3,D4のうち、シフト後時系列データD1に付されたラベル同じラベルを付されたシフト後時系列データの特徴量が、シフト後時系列データD1の特徴量により近くなるように、異常判定モデル81のパラメータを更新する。
【0171】
ここで、学習部24による学習の指標として、特徴量の類似度を用いることができる。より具体的には、類似度に関する指標として、特徴量に関する順位を用いてもよい。順位を用いる場合、一例として、シグモイド関数等を用いることによって順位を指標化してもよい。
【0172】
このように、取得部21は、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと、ラベルとを含む学習用データを取得し、学習部24は、学習用データを用いて異常判定モデル81を学習させる。
【0173】
十分に多くの特徴量が記憶された特徴量DBが生成された後、上述のように学習された異常判定モデル81を用い、溶接状態診断・学習装置10Aによる溶接診断処理を実行することができる。すなわち、溶接診断処理において、異常判定モデル81が、特徴量DBに記憶された複数の特徴量の中から類似する特徴量を検索する。
【0174】
次に、
図13のフローチャートを参照して、
図12の溶接状態診断・学習装置10Aにより実行される学習処理の例について説明する。
【0175】
ステップS101において、時系列データ取得部21の前処理部61は、前処理を実行する。この処理は、
図9を参照して説明した処理と同様の処理なので詳細な説明は省略する。これにより、シフト後時系列データが生成される。
【0176】
ステップS102において、異常判定部22は、ステップS101の処理で生成されたシフト後時系列データを特徴量に変換する。
【0177】
ステップS103において、学習部24は、ステップS102の処理で変換された特徴量にラベルを付加する。上述したように、ラベルは、入力部42を介して入力された溶接ビードの異常と、異常の種類とを示す情報に基づいて付加される。
【0178】
ステップS104において、学習部24は、ステップS103の処理でラベルが付加された特徴量を、記憶部30に記憶する。
【0179】
なお、溶接処理は複数回実行され、溶接処理が実行される都度、データベース生成処理が実行される。これにより、複数の特徴量にラベルが付加されて記憶され、特徴量DBが生成されることになる。
【0180】
ステップS105において、学習部24は、機械学習を実行する。このとき、上述したように、学習部24は、異常判定モデル81のパラメータを更新する。すなわち、学習部24は、シフト後時系列データD2,D3,D4のうち、シフト後時系列データD1に付されたラベル同じラベルを付されたシフト後時系列データの特徴量が、シフト後時系列データD1の特徴量により近くなるように、異常判定モデル81のパラメータを更新する。
【0181】
このようにして、学習処理が実行される。
【0182】
このように、溶接状態診断・学習装置10Aによれば、異常判定モデル81を好適に学習させることができる。
【0183】
〔ソフトウェアによる実現例〕
異常診断装置20、溶接状態診断装置10、および溶接状態診断・学習装置10Aの一部又は全部の機能は、集積回路(ICチップ)等のハードウェアによって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0184】
後者の場合、異常診断装置20、溶接状態診断装置10、および溶接状態診断・学習装置10Aは、例えば、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータによって実現される。このようなコンピュータの一例(以下、コンピュータCと記載する)を
図14に示す。
【0185】
コンピュータCは、少なくとも1つのプロセッサC1と、少なくとも1つのメモリC2と、を備えている。メモリC2には、コンピュータCを異常診断装置20、溶接状態診断装置10、または溶接状態診断・学習装置10Aとして動作させるためのプログラムPが記録されている。コンピュータCにおいて、プロセッサC1は、プログラムPをメモリC2から読み取って実行することにより、異常診断装置20、溶接状態診断装置10、または溶接状態診断・学習装置10Aの各機能が実現される。
【0186】
プロセッサC1としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、MPU(Micro Processing Unit)、FPU(Floating point number Processing Unit)、PPU(Physics Processing Unit)、マイクロコントローラ、又は、これらの組み合わせなどを用いることができる。メモリC2としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又は、これらの組み合わせなどを用いることができる。
【0187】
なお、コンピュータCは、プログラムPを実行時に展開したり、各種データを一時的に記憶したりするためのRAM(Random Access Memory)を更に備えていてもよい。また、コンピュータCは、他の装置との間でデータを送受信するための通信インタフェースを更に備えていてもよい。また、コンピュータCは、キーボードやマウス、ディスプレイやプリンタなどの入出力機器を接続するための入出力インタフェースを更に備えていてもよい。
【0188】
また、プログラムPは、コンピュータCが読み取り可能な、一時的でない有形の記録媒体Mに記録することができる。このような記録媒体Mとしては、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、又はプログラマブルな論理回路などを用いることができる。コンピュータCは、このような記録媒体Mを介してプログラムPを取得することができる。また、プログラムPは、伝送媒体を介して伝送することができる。このような伝送媒体としては、例えば、通信ネットワーク、又は放送波などを用いることができる。コンピュータCは、このような伝送媒体を介してプログラムPを取得することもできる。
【0189】
〔付記事項1〕
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述した実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0190】
〔付記事項2〕
上述した実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載され得る。ただし、本発明は、以下の記載する態様に限定されるものではない。
【0191】
(付記1)
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、
を備える異常診断装置。
【0192】
(付記2)
前記異常判定手段が用いる異常判定モデルは、
時系列データを特徴量に変換し、
予め蓄積された複数の特徴量の中から、前記時系列データを変換して得られた前記特徴量に類似する特徴量を検索し、
前記検索された特徴量に付されたラベルを参照して、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かに関する情報を生成する
付記1に記載の異常診断装置。
【0193】
(付記3)
前記異常があるか否かに関する情報には、
溶接ビードの端部がへこむアンダーカット、
溶接ビードの端部が前記溶接部分の外に形成されるオーバーラップ、
溶接ビードが前記溶接部分の底部に形成されない溶け込み不良
の少なくとも何れかを表す情報が含まれる
付記2に記載の異常診断装置。
【0194】
(付記4)
前記取得手段は、
前記第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと、ラベルとを含む学習用データを取得し、
当該異常診断装置は、
前記学習用データを用いて前記異常判定モデルを学習させる学習手段を備えている
付記1~3のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【0195】
(付記5)
前記出力手段は、さらに、前記溶接部分の異常を解消するための対処方法に対応する制御情報を、前記第1の溶接時に出力する
ことを特徴とする付記1~4のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【0196】
(付記6)
前記第1の溶接時の時系列データには、溶接機が備える複数の電極のそれぞれに対応して取得される第1の時系列データと第2の時系列データとを含む複数の時系列データが含まれる
(付記7)
前記取得手段は、
前記第1の溶接時の時系列データにおける前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせることによって、前記第1の溶接時のシフト後の時系列データを生成し、
前記異常判定手段は、
前記シフト後の時系列データに基づいて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する
付記6に記載の異常診断装置。
【0197】
(付記8)
前記取得手段は、
前記第1の溶接時の速度を示す速度情報を更に取得し、
当該速度情報が示す速度に応じて、前記第1の時系列データと前記第2の時系列データとを時間方向に相対的にシフトさせる
付記7に記載の異常診断装置。
【0198】
(付記9)
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得すること、
前記取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定すること、
前記異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力すること、とを含む
ことを特徴とする異常診断方法。
【0199】
(付記10)
コンピュータを、
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力手段と、を備える異常診断装置として機能させる
ことを特徴とするプログラム。
【0200】
〔付記事項3〕
上述した実施形態の一部又は全部は、更に、以下のように表現することもできる。
【0201】
少なくとも1つのプロセッサを備え、前記プロセッサは、
第1の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データを取得する取得処理と、
前記取得処理により取得される時系列データに基づいて、第2の溶接時の電流値又は電圧値の少なくとも一方を含む時系列データと溶接部分の異常の有無との関係を学習した異常判定モデルを用いて、第1の溶接時における溶接部分に異常があるか否かを判定する異常判定処理と、
前記異常判定処理により異常があると判定された場合に、前記判定の結果と、異常の要因及び異常を解消するための対処方法の少なくともいずれか一方と、を出力する出力処理とを実行する
ことを特徴とする異常診断装置。
【0202】
なお、この異常診断装置は、更にメモリを備えていてもよく、このメモリには、前記時系列値取得処理と、前記異常方法出力処理とを前記プロセッサに実行させるためのプログラムが記憶されていてもよい。また、このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録されていてもよい。
【符号の説明】
【0203】
10 溶接状態診断装置
20 異常診断装置
21 取得部
22 異常判定部
23 出力部
30 記憶部
41 通信部
42 入力部
61 前処理部
81 異常判定モデル