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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/48 20060101AFI20250415BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20250415BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20250415BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H01L23/48 S
H01L23/48 G
H01L25/04 C
H01L21/60 301N
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023568838
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047393
(87)【国際公開番号】W WO2023119438
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】新開 次郎
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-64258(JP,A)
【文献】特開2017-5037(JP,A)
【文献】特開2005-19694(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025571(WO,A1)
【文献】特開2006-80153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/48
H01L 25/07
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、
緩衝板と、
前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた接合材と、
を有し、
前記主電極は、アルミニウム又はアルミニウム合金層を含み、
前記半導体基板の第1線膨張率及び前記緩衝板の第2線膨張率は、前記主電極の第3線膨張率よりも小さく、
前記第2線膨張率は、前記第1線膨張率よりも小さい半導体装置。
【請求項2】
前記緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下であり、
前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下であり、
前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.8×10-6/℃である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記緩衝板の厚さが0.10mm以上0.20mm以下であり、
前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記緩衝板の厚さは前記半導体チップの厚さよりも小さい請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記緩衝板は、積層材又は鉄-ニッケル合金材であり、
前記積層材は、
前記接合材に接する第1銅層と、
前記第1銅層の上に設けられた鉄-ニッケル合金層と、
前記鉄-ニッケル合金層の上に設けられた第2銅層と、
を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さは互いに等しく、
前記鉄-ニッケル合金層の厚さは、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さの72/14倍以上である請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記緩衝板に接合されたワイヤを有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記ワイヤは銅ワイヤである請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記ワイヤと前記緩衝板との界面には、前記ワイヤと前記緩衝板とにまたがる結晶粒が設けられている請求項8又は請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記緩衝板は、
前記接合材に接する第1銅層と、
前記第1銅層の上に設けられた鉄-ニッケル合金層と、
前記鉄-ニッケル合金層の上に設けられた第2銅層と、
を有し、
更に、前記緩衝板に接合されたワイヤを有し、
前記ワイヤは銅ワイヤであり、
前記ワイヤと前記緩衝板との界面には、前記ワイヤと前記緩衝板とにまたがる結晶粒が設けられている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記結晶粒は、前記鉄-ニッケル合金層に至る請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さは互いに等しく、
前記鉄-ニッケル合金層の厚さは、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さの72/14倍以上である請求項11又は請求項12のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記接合材は、前記半導体基板の主面に垂直な方向から見たときに、
前記緩衝板の前記ワイヤが接合された部分と重なる第1領域と、
前記第1領域の周囲の第2領域と、
を有し、
前記第1領域の線膨張率は、前記第2領域の線膨張率よりも低い請求項8から請求項13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第1領域は、炭化珪素、珪素、酸化珪素、窒化珪素、鉄-ニッケル合金、モリブデン又はタングステンから構成され、
前記第2領域は、銅、銀、ニッケル、又は銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体から構成される請求項14に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記接合材の、前記半導体基板の主面に垂直な方向から見たときに前記緩衝板の前記ワイヤが接合された部分と重なる部分に空隙が設けられている請求項8から請求項13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記主電極は、めっき層を有し、
前記めっき層は、前記アルミニウム又はアルミニウム合金層と前記緩衝板との間に設けられている請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記半導体チップの各サイクルにおける最高接合温度を200℃以上としたパワーサイクル試験において、繰り返し数が20万回から30万回の間での前記最高接合温度の増加量が5.0℃以下である請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記緩衝板を25℃から250℃まで昇温し、前記昇温に続けて前記緩衝板を250℃から25℃まで降温し、前記昇温時及び前記降温時の前記緩衝板の線膨張率を連続的に測定した場合の前記昇温時の前記緩衝板の線膨張率をρ5、前記降温時の前記緩衝板の線膨張率をρ4としたとき、25℃から250℃の間の各温度の同一温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値が1.5×10-6/℃以下である請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記半導体チップは炭化珪素チップである請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールに好適な半導体装置の例として、半導体チップのアルミニウムを含む電極に緩衝板が接合され、緩衝板にボンディングワイヤが接合された半導体装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2018-186220号公報
【文献】日本国特開2017-005037号公報
【文献】日本国特開2019-057663号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた接合材と、を有し、前記主電極は、アルミニウム又はアルミニウム合金層を含み、前記半導体基板の第1線膨張率及び前記緩衝板の第2線膨張率は、前記主電極の第3線膨張率よりも小さく、前記第2線膨張率は、前記第1線膨張率よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、第1実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図3図3は、ソース電極の一例を示す断面図である。
図4図4は、第2実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
図5図5は、第2実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図6図6は、第3実施形態におけるアノード電極と緩衝板との間の接合材を示す断面図である。
図7図7は、第4実施形態におけるアノード電極と緩衝板との間の接合材を示す断面図である。
図8図8は、ワイヤ及び第2銅層を構成する結晶粒を示す図である。
図9図9は、パワーサイクル試験の結果の例を示す図(その1)である。
図10図10は、パワーサイクル試験の結果の例を示す図(その2)である。
図11図11は、温度変化に伴う変形量の変化を示す模式図(その1)である。
図12図12は、温度変化に伴う変形量の変化を示す模式図(その2)である。
図13図13は、温度変化に伴う変形量の変化を示す模式図(その3)である。
図14図14は、温度変化に伴う線膨張率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の半導体装置では、アルミニウムを含む主電極の内部破壊に伴う剥離等の故障が生じることがある。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、アルミニウムを含む主電極の内部破壊を抑制できる。
【0008】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一又は対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0010】
〔1〕 本開示の一態様に係る半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた接合材と、を有し、前記主電極は、アルミニウム又はアルミニウム合金層を含み、前記半導体基板の第1線膨張率及び前記緩衝板の第2線膨張率は、前記主電極の第3線膨張率よりも小さく、前記第2線膨張率は、前記第1線膨張率よりも小さい。
【0011】
第3線膨張率が第1線膨張率よりも大きいため、主電極が半導体基板よりも大きく熱変形しようとする。このため、主電極に熱応力が作用する。そのため、以下に説明するように、熱負荷の印加ありとなしを繰り返すパワーサイクル試験においては、熱変形が繰り返し起こり、熱応力がパワーモジュールに代表される半導体装置の劣化の原因となり、最終的には故障に至る。その一方で、接合材により主電極に緩衝板が接合されているため、主電極の熱変形が緩衝板により拘束することができる。このとき、以下に説明するように、第2線膨張率が第1線膨張率よりも小さいため、より効果的に主電極の熱変形を接合材によって抑制できる。従って、熱変形に伴って主電極に生じる熱応力を抑制し、主電極に含まれるアルミニウム又はアルミニウム合金層の内部破壊を抑制できる。
【0012】
〔2〕 〔1〕において、前記緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下であり、前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下であってもよい。この場合、主電極に生じる熱応力をより抑制しやすい。
【0013】
〔3〕 〔1〕において、前記緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下であり、前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.8×10-6/℃であってもよい。この場合、主電極に生じる熱応力を更に抑制しやすい。
【0014】
〔4〕 〔1〕において、前記緩衝板の厚さが0.10mm以上0.20mm以下であり、前記第1線膨張率をρ1とし、前記第2線膨張率をρ2としたとき、「ρ2-ρ1」の値が-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下であってもよい。この場合、主電極に生じる熱応力を更に抑制しやすい。
【0015】
〔5〕 〔1〕~〔4〕において、前記緩衝板の厚さは前記半導体チップの厚さよりも小さくてもよい。この場合、詳細は後述するが、半導体チップの欠け、クラック等を抑制しやすく、故障発生率を低く抑えやすく、緩衝板を通じて熱を拡散させやすい。
【0016】
〔6〕 〔1〕~〔5〕において、前記緩衝板は、積層材又は鉄-ニッケル合金材であり、前記積層材は、前記接合材に接する第1銅層と、前記第1銅層の上に設けられた鉄-ニッケル合金層と、前記鉄-ニッケル合金層の上に設けられた第2銅層と、を有してもよい。この場合、ワイヤを緩衝板に接合することで、緩衝板を介してワイヤを主電極に電気的に接続できる。このため、ワイヤの接合に超音波接合を採用しても、半導体チップへのダメージを抑制できる。緩衝板が鉄-ニッケル合金材の場合は、緩衝板が第1銅層及び第2銅層を有さず、鉄-ニッケル合金材をワイヤと接続する。
【0017】
〔7〕 〔6〕において、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さは互いに等しく、前記鉄-ニッケル合金層の厚さは、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さの72/14倍以上であってもよい。この場合、第2線膨張率を小さく抑えやすい。
【0018】
〔8〕 〔1〕~〔7〕において、前記緩衝板に接合されたワイヤを有してもよい。この場合、ワイヤを介して主電極と外部との導通を確保できる。
【0019】
〔9〕 〔8〕において、前記ワイヤは銅ワイヤであってもよい。この場合、ワイヤを緩衝板に接合しやすく、また、ワイヤに低電気抵抗を得やすい。
【0020】
〔10〕 〔8〕又は〔9〕において、前記ワイヤと前記緩衝板との界面には、前記ワイヤと前記緩衝板とにまたがる結晶粒が設けられていてもよい。この場合、ワイヤと緩衝板との間に強固な接合を得やすい。
【0021】
〔11〕 〔1〕~〔5〕において、前記緩衝板は、前記接合材に接する第1銅層と、前記第1銅層の上に設けられた鉄-ニッケル合金層と、前記鉄-ニッケル合金層の上に設けられた第2銅層と、を有し、更に、前記緩衝板に接合されたワイヤを有し、前記ワイヤは銅ワイヤであり、前記ワイヤと前記緩衝板との界面には、前記ワイヤと前記緩衝板とにまたがる結晶粒が設けられていてもよい。この場合、ワイヤと第2銅層との間に強固な接合を得やすい。
【0022】
〔12〕 〔11〕において、前記結晶粒は、前記鉄-ニッケル合金層に至ってもよい。この場合、より強固な接合を得やすい。
【0023】
〔13〕 〔11〕又は〔12〕において、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さは互いに等しく、前記鉄-ニッケル合金層の厚さは、前記第1銅層及び前記第2銅層の厚さの72/14倍以上であってもよい。この場合、第2線膨張率を小さく抑えやすい。
【0024】
〔14〕 〔8〕~〔13〕において、前記接合材は、前記半導体基板の主面に垂直な方向から見たときに、前記緩衝板の前記ワイヤが接合された部分と重なる第1領域と、前記第1領域の周囲の第2領域と、を有し、前記第1領域の線膨張率は、前記第2領域の線膨張率よりも低くてもよい。この場合、主電極に作用する応力を低減しやすい。
【0025】
〔15〕 〔14〕において、前記第1領域は、炭化珪素、珪素、酸化珪素、窒化珪素、鉄-ニッケル合金、モリブデン又はタングステンから構成され、前記第2領域は、銅、銀、ニッケル、又は銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体から構成されてもよい。この場合、優れた接合強度を確保しながら、主電極に作用する応力を低減しやすい。
【0026】
〔16〕 〔8〕~〔13〕において、前記接合材の、前記半導体基板の主面に垂直な方向から見たときに前記緩衝板の前記ワイヤが接合された部分と重なる部分に空隙が設けられていてもよい。この場合、主電極に作用する応力を低減しやすい。
【0027】
〔17〕 〔1〕~〔16〕において、前記主電極は、めっき層を有し、前記めっき層は、前記アルミニウム又はアルミニウム合金層と前記緩衝板との間に設けられていてもよい。この場合、主電極に優れた耐食性を得やすい。
【0028】
〔18〕 〔1〕~〔17〕において、前記半導体チップの各サイクルにおける最高接合温度を200℃以上としたパワーサイクル試験において、繰り返し数が20万回から30万回の間での前記最高接合温度の増加量が5.0℃以下であってもよい。この場合、寿命を延ばしやすい。
【0029】
〔19〕 〔1〕~〔18〕において、前記緩衝板を25℃から250℃まで昇温し、前記昇温に続けて前記緩衝板を250℃から25℃まで降温し、前記昇温時及び前記降温時の前記緩衝板の線膨張率を連続的に測定した場合の前記昇温時の前記緩衝板の線膨張率をρ5、前記降温時の前記緩衝板の線膨張率をρ4としたとき、25℃から250℃の間の各温度の同一温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値が1.5×10-6/℃以下であってもよい。この場合、寿命を延ばしやすい。
【0030】
〔20〕 〔1〕~〔19〕において、前記半導体チップは炭化珪素チップであってもよい。炭化珪素チップは優れた高温耐性を有しており、高温で使用しても故障しにくい。また、炭化珪素チップは高い機械的特性を有している。また、アルミニウムを含む主電極の内部破壊が抑制されるため、半導体装置全体として高温下でも優れた寿命を得やすい。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。本明細書及び図面において、X1-X2方向、Y1-Y2方向、Z1-Z2方向を相互に直交する方向とする。X1-X2方向及びY1-Y2方向を含む面をXY平面とし、Y1-Y2方向及びZ1-Z2方向を含む面をYZ平面とし、Z1-Z2方向及びX1-X2方向を含む面をZX平面とする。便宜上、Z1方向を上方向、Z2方向を下方向とする。また、本開示において平面視とは、Z1側から対象物を視ることをいう。
【0032】
(第1実施形態)
第1実施形態は、半導体装置に関する。図1は、第1実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。図2は、第1実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。図2は、図1中のII-II線に沿った断面図に相当する。
【0033】
図1及び図2に示すように、第1実施形態に係る半導体装置1は、主として、放熱板120と、基板110と、端子102と、端子103と、ケース190と、ダイオード300と、緩衝板500とを有する。
【0034】
放熱板120は、例えば平面視で矩形状の厚さが一様の板状体である。放熱板120の材料は、熱伝導率の高い素材である金属、例えば銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム-シリコン-炭素合金(Al-Si-C合金)等である。放熱板120は、熱界面材料(thermal interface material:TIM)等を用いて冷却器等に固定される。
【0035】
ケース190は、例えば平面視において枠状に形成されており、ケース190の外形は放熱板120の外形と同等である。ケース190の材料は樹脂等の絶縁体である。ケース190は、互いに対向する一対の側壁部191及び192と、側壁部191及び192の両端をつなぐ一対の端壁部193及び194とを有する。側壁部191及び192はZX平面に平行に配置され、端壁部193及び194はYZ平面に平行に配置されている。側壁部191は側壁部192のY1側に配置され、端壁部193は端壁部194のX2側に配置されている。
【0036】
端壁部193の上面(Z1側の表面)に端子102が配置され、端壁部194の上面(Z1側の表面)に端子103が配置されている。端子102及び端子103は、それぞれ金属板から構成されている。
【0037】
ケース190の内側において、放熱板120のZ1側に基板110が配置されている。基板110は、絶縁基板119と、第2導電パターン112と、第3導電パターン113と、導電層115とを有する。第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113、第4導電パターン114及び導電層115は、Cuから構成されている。
【0038】
第2導電パターン112及び第3導電パターン113は、絶縁基板119のZ1側の面に設けられている。導電層115は、絶縁基板119のZ2側の面に設けられている。導電層115は接合材131により放熱板120に接合されている。接合材131は、はんだ材であってもよく、焼結接合材であってもよい。接合材131が焼結接合材である場合、はんだの融点の近傍、ないし、それ以上のより高温での動作が可能となる。
【0039】
図2に示すように、ダイオード300は、主として、炭化珪素基板310と、アノード電極332と、カソード電極333とを有する。
【0040】
炭化珪素基板310は、主面310Aと、主面310Aとは反対側の主面310Bとを有する。主面310Aは主面310BのZ1側にある。炭化珪素基板310の形状は、例えば直方体状である。主面310A及び310BはXY平面に平行な面である。アノード電極332は主面310Aに設けられ、カソード電極333は主面310Bに設けられている。ダイオード300は第3導電パターン113の上に設けられている。アノード電極332は、例えばアルミニウム層を含む。アノード電極332がアルミニウム層に代えて、アルミニウム-シリコン合金(Al-Si合金)、Al-Si-Cu合金等のアルミニウム合金層を含んでいてもよい。カソード電極333は、オーミック層と、オーミック層の上に設けられた接合層とを有する。オーミック層は、例えばニッケル又はニッケル合金を含む。ニッケル又はニッケル合金は炭化珪素との間に良好な接触抵抗を有する。接合層はニッケル層を含む。接合層が、ニッケル層の上に設けられた金層又は銀層を更に有していてもよい。カソード電極333が接合層を有することで、カソード電極333と第3導電パターン113との間に良好な接合性が得られる。カソード電極333が銀焼結体又は銅焼結体等の接合材133を用いて第3導電パターン113に接合されている。ダイオード300は半導体チップの一例である。炭化珪素基板310は半導体基板の一例である。アノード電極332は主電極の一例である。
【0041】
緩衝板500は、例えば、第1銅層510と、鉄-ニッケル合金層520と、第2銅層530とを有する積層材である。第1銅層510のZ1側に鉄-ニッケル合金層520が設けられ、鉄-ニッケル合金層520のZ1側に第2銅層530が設けられている。すなわち、鉄-ニッケル合金層520が第1銅層510の上に設けられ、第2銅層530が鉄-ニッケル合金層520の上に設けられている。鉄-ニッケル合金層520は、例えば、ニッケルを36質量%含有する鉄-ニッケル合金の層である。鉄-ニッケル合金層520に、0.7質量%程度のマンガンが含まれていてもよい。鉄-ニッケル合金層520に、17質量%程度のコバルトが含まれてもよい。鉄-ニッケル合金層520の材料は、インバー(登録商標)であってもよい。緩衝板500の厚さT2は、例えば0.05mm以上0.25mm以下である。例えば、緩衝板500の厚さT2はダイオード300の厚さT1よりも小さい。緩衝板500はアノード電極332の上に設けられている。第1銅層510が銀焼結体又は銅焼結体等の接合材135を用いてアノード電極332に接合されている。
【0042】
炭化珪素基板310は第1線膨張率ρ1を有し、緩衝板500は第2線膨張率ρ2を有し、アノード電極332は第3線膨張率ρ3を有する。本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、25℃での主面310Aに平行な方向の線膨張率である。また、本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、互いに接合された状態が解かれ、炭化珪素基板310、緩衝板500及びアノード電極332を単体としたときの線膨張率である。第1線膨張率ρ1及び第2線膨張率ρ2は第3線膨張率ρ3よりも小さく、第2線膨張率ρ2は第1線膨張率ρ1よりも小さい。例えば、第1線膨張率ρ1が4.0×10-6/℃であるのに対し、第2線膨張率ρ2は1.2×10-6/℃以上3.9×10-6/℃以下である。この場合、「ρ2-ρ1」の値は-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である。なお、鉄-ニッケル合金の線膨張率は1.2×10-6/℃程度であり、銅の線膨張率は16.5×10-6/℃程度であり、アルミニウムの線膨張率は23.1×10-6/℃程度である。
【0043】
半導体装置1は、更に、ワイヤ162、165及び166を有する。ワイヤ162、165及び166の各々の数は限定されず、1本でもよく、2本以上であってもよい。
【0044】
ワイヤ162は、緩衝板500の第2銅層530と第2導電パターン112とを互いに接続する。ワイヤ165は、第2導電パターン112と端子102とを互いに接続する。ワイヤ166は、第3導電パターン113と端子103とを互いに接続する。ワイヤ162、165及び166は、例えば銅ワイヤである。ワイヤ162、165及び166の各々の直径は、例えば100μm以上400μm以下である。ワイヤ162、165及び166の接合は、例えば超音波接合により行われる。
【0045】
ここで、炭化珪素基板310及びアノード電極332の熱変形に着目すると、第1線膨張率ρ1が第3線膨張率ρ3よりも小さいため、アノード電極332が炭化珪素基板310よりも大きく熱変形し得る。炭化珪素基板310とアノード電極332とは互いに強固に接合されているため、第1線膨張率ρ1と第3線膨張率ρ3との間の相違が大きいほど、アノード電極332に大きな熱応力が作用し、アノード電極332に内部破壊が生じやすい。
【0046】
その一方で、接合材135によりアノード電極332に緩衝板500が接合されており、アノード電極332の熱変形が緩衝板500により拘束される。そして、本実施形態では、緩衝板500の第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1よりも小さい。このため、アノード電極332の熱変形を接合材135によって大きく抑制できる。従って、本実施形態によれば、熱変形に伴ってアノード電極332に生じる熱応力を抑制し、アルミニウムを含むアノード電極332の内部破壊を抑制できる。
【0047】
緩衝板500の厚さT2は特に限定されず、例えば0.05mm以上0.25mm以下である。厚さT2が0.07mm以上0.23mm以下であってもよく、0.10mm以上0.20mm以下であってもよい。厚さT2が大きすぎる場合、アノード電極332とワイヤ162との間の電気抵抗が過剰に高くなったり、アノード電極332からの放熱が妨げられやすくなったりするおそれがある。また、厚さT2が小さすぎる場合、アノード電極332の熱変形を抑制しにくくなるおそれがある。
【0048】
緩衝板500の厚さT2はダイオード300の厚さT1よりも小さいことが好ましい。これは、本願発明者の系統的な試験及びその解析により、下記の3点が確認されたためである。
【0049】
第1点目として、ダイオード300よりも厚い緩衝板500を搭載するという実装組立段階では、ダイオード300に欠け、クラック等が発生しやすくなることが確認されているためである。これは、炭化珪素基板310の第1線膨張率ρ1と緩衝板500の第2線膨張率ρ2とが互いに相違するため、炭化珪素基板310と緩衝板500との間で発生する熱応力により、緩衝板500が厚いほど、より大きく熱変形しようとすることに起因する。緩衝板500の厚さT2がダイオード300の厚さT1よりも大きい場合、この熱変形が顕著になり、ダイオード300に欠け、クラック等が発生すると考えられる(後述の表1のNo.10参照)。これは、鉄-ニッケル合金の降伏応力(Yield strength)が140GPaであるのに対し、炭化珪素の降伏応力が40GPaであり、鉄-ニッケル合金の強靭な機械的特性に炭化珪素が耐えられなくなるためと推測される。
【0050】
第2点目として、ダイオード300よりも厚い緩衝板500が搭載された半導体装置では、故障発生率が著しく高くなることが見出されている。これは、鉄-ニッケル合金の材料自体の抵抗率が、通常電子部品に用いられる導体材料である銅及びアルミニウムの抵抗率よりも10倍以上高いため、動作時の発熱がより大きくなるためと考えられる。銅の抵抗率は1.68×10-8Ωmであり、アルミニウムの抵抗率は2.65×10-8Ωmであり、鉄-ニッケル合金の抵抗率は70×10-8Ωmである。
【0051】
第3点目として、本願発明者の鋭意解析の結果、鉄-ニッケル合金の熱伝導率が炭化珪素の熱伝導率の0.1倍以下であるため、緩衝板500の厚さT2がダイオード300の厚さT1よりも大きい場合、熱が緩衝板500に実質的に拡散しなくなることが明らかになったためである。炭化珪素の熱伝導率は120W/mKであり、鉄-ニッケル合金の熱伝導率は13W/mKである。これに加え、第2点目の高い抵抗率のため、発熱量も増大し、かつ、抜熱ができないため、加速的な劣化の原因となると考えられる(後述の表1のNo.7、8、9、10参照)。
【0052】
なお、一連の検討時のダイオード300の厚さT2は350μmとし、試験温度の最高温度は200℃とした。
【0053】
本実施形態では、ワイヤ162を緩衝板500に接合することで、緩衝板500を介してワイヤ162をアノード電極332に電気的に接続できる。このため、ワイヤ162の接合に超音波接合を採用しても、ダイオード300へのダメージを抑制できる。ワイヤ162が銅ワイヤであると、ワイヤ162を緩衝板500の第2銅層530に接合しやすく、また、ワイヤ162に低電気抵抗を得やすい。
【0054】
「ρ2-ρ1」の値は特に限定されず、例えば-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である。「ρ2-ρ1」の値は-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下であってもよく、-1.8×10-6/℃以上-1.2×10-6/℃以下であってもよい。「ρ2-ρ1」の値が負であれば、熱変形の相違によってアノード電極332の内部破壊を抑制できる。一方で、「ρ2-ρ1」の値が0に近づくほど、アノード電極332の熱変形を抑制しにくくなるおそれがある。「ρ2-ρ1」の値が小さすぎる場合、緩衝板500とアノード電極332との間の熱変形の相違によってアノード電極332に内部破壊が生じるおそれがある。
【0055】
以上のことから、緩衝板500の厚さT2が0.10mm以上0.20mm以下であり、「ρ2-ρ1」の値が-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下であることが特に好ましい。
【0056】
緩衝板500の構成に関し、第1銅層510及び第2銅層530の厚さは互いに等しく、鉄-ニッケル合金層520の厚さは、第1銅層510及び第2銅層530の厚さの、好ましくは72/14倍以上であり、より好ましくは8倍以上であり、更に好ましくは18倍以上である。この場合、鉄-ニッケル合金層520の割合が高いほど、第2線膨張率ρ2を小さく抑えやすい。
【0057】
鉄-ニッケル合金層520の厚さが第1銅層510及び第2銅層530の厚さの72/14倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層510:鉄-ニッケル合金層520:第2銅層530」は「14%:72%:14%」である。この場合、緩衝板500の第2線膨張率ρ2は、例えば3.8×10-6/℃であり、「ρ2-ρ1」の値は、例えば-0.2×10-6/℃である。
【0058】
鉄-ニッケル合金層520の厚さが第1銅層510及び第2銅層530の厚さの8倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層510:鉄-ニッケル合金層520:第2銅層530」は「10%:80%:10%」である。この場合、緩衝板500の第2線膨張率ρ2は、例えば3.0×10-6/℃であり、「ρ2-ρ1」の値は、例えば-1.0×10-6/℃である。
【0059】
鉄-ニッケル合金層520の厚さが第1銅層510及び第2銅層530の厚さの18倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層510:鉄-ニッケル合金層520:第2銅層530」は「5%:90%:5%」である。この場合、緩衝板500の第2線膨張率ρ2は、例えば2.1×10-6/℃であり、「ρ2-ρ1」の値は、例えば-1.9×10-6/℃である。
【0060】
緩衝板500は、第1銅層510及び第2銅層530を含まなくてもよい。つまり、緩衝板500は、インバー等の鉄-ニッケル合金層520から構成されてもよい。この場合、緩衝板500の第2線膨張率ρ2は、例えば1.2×10-6/℃であり、「ρ2-ρ1」の値は、例えば-2.8×10-6/℃である。
【0061】
アノード電極332は、アルミニウム層に加えて、アルミニウム層の上に形成されためっき層を有することが好ましい。図3は、ソース電極の一例を示す断面図である。
【0062】
例えば、図3に示すように、アノード電極332が、アルミニウム層332Aと、めっき層332Bとを有してもよい。アルミニウム層332Aがめっき層332Bの炭化珪素基板310側(Z2側)に位置し、めっき層332Bがアルミニウム層332AのZ1側の面を覆う。めっき層332Bはアルミニウム層332Aと緩衝板500との間に設けられている。めっき層332Bは、例えばニッケルめっき層である。めっき層332Bが、例えば、ニッケルめっき層と、ニッケルめっき層の上に設けられたパラジウムめっき層と、パラジウム層の上に設けられた金めっき層とを有してもよい。アノード電極332がめっき層332Bを含むことで、アノード電極332に優れた耐食性が得られる。また、アノード電極332がめっき層332Bを含むことで、アノード電極332と接合材135との間で、低電気抵抗、高接合強度、高信頼性という優れた電気的接続及び機械的接続を形成することができる。
【0063】
なお、第3導電パターン113の上に複数のダイオード300が設けられてもよい。この場合、複数のダイオード300は互いに電気的に並列に接続される。
【0064】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、主として、トランジスタを含む点で第1実施形態と相違する。図4は、第2実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。図5は、第2実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。図5は、図4中のV-V線に沿った断面図に相当する。
【0065】
図4及び図5に示すように、第2実施形態に係る半導体装置2は、主として、放熱板120と、基板110と、端子101と、端子102と、端子103と、ケース190と、トランジスタ200と、ダイオード300と、緩衝板400と、緩衝板500とを有する。
【0066】
端壁部193の上面(Z1側の表面)に端子101及び端子102が配置され、端壁部194の上面(Z1側の表面)に端子103が配置されている。例えば、端子102が端子101のY2側に配置されている。端子101、端子102及び端子103は、それぞれ金属板から構成されている。
【0067】
基板110は、絶縁基板119と、第1導電パターン111と、第2導電パターン112と、第3導電パターン113と、第4導電パターン114と、導電層115とを有する。第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113、第4導電パターン114及び導電層115は、Cuから構成されている。
【0068】
第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113及び第4導電パターン114は、絶縁基板119のZ1側の面に設けられている。導電層115は、絶縁基板119のZ2側の面に設けられている。
【0069】
図5に示すように、トランジスタ200は、主として、炭化珪素基板210と、ゲート電極231と、ソース電極232と、ドレイン電極233とを有する。
【0070】
炭化珪素基板210は、主面210Aと、主面210Aとは反対側の主面210Bとを有する。主面210Aは主面210BのZ1側にある。炭化珪素基板210の形状は、例えば直方体状である。主面210A及び210BはXY平面に平行な面である。ゲート電極231及びソース電極232は主面210Aに設けられ、ドレイン電極233は主面210Bに設けられている。トランジスタ200は第4導電パターン114の上に設けられている。ゲート電極231及びソース電極232は、例えばアルミニウム層を含む。ゲート電極231及びソース電極232がアルミニウム層に代えて、Al-Si合金、Al-Si-Cu合金等のアルミニウム合金層を含んでいてもよい。ドレイン電極233は、オーミック層と、オーミック層の上に設けられた接合層とを有する。オーミック層は、例えばニッケル又はニッケル合金を含む。ニッケル又はニッケル合金は炭化珪素との間に良好な接触抵抗を有する。接合層はニッケル層を含む。接合層が、ニッケル層の上に設けられた金層又は銀層を更に有していてもよい。ドレイン電極233が接合層を有することで、ドレイン電極233と第4導電パターン114との間に良好な接合性が得られる。トランジスタ200の厚さT1は、例えば0.35mm程度である。平面視で、トランジスタ200の各辺の長さは、例えば3mm程度である。ドレイン電極233が銀焼結体又は銅焼結体等の接合材132を用いて第4導電パターン114に接合されている。トランジスタ200は半導体チップの一例である。炭化珪素基板210は半導体基板の一例である。ソース電極232は主電極の一例である。
【0071】
緩衝板400は、例えば、第1銅層410と、鉄-ニッケル合金層420と、第2銅層430とを有する積層材である。第1銅層410のZ1側に鉄-ニッケル合金層420が設けられ、鉄-ニッケル合金層420のZ1側に第2銅層430が設けられている。すなわち、鉄-ニッケル合金層420が第1銅層410の上に設けられ、第2銅層430が鉄-ニッケル合金層420の上に設けられている。鉄-ニッケル合金層420は、例えば、ニッケルを36質量%含有する鉄-ニッケル合金の層である。鉄-ニッケル合金層420に、0.7質量%程度のマンガンが含まれていてもよい。鉄-ニッケル合金層420に、17質量%程度のコバルトが含まれてもよい。鉄-ニッケル合金層420の材料は、インバーであってもよい。緩衝板400の厚さT4は、例えば0.05mm以上0.25mm以下である。例えば、緩衝板400の厚さT4はトランジスタ200の厚さT3よりも小さい。緩衝板400はソース電極232の上に設けられている。第1銅層410が銀焼結体又は銅焼結体等の接合材134を用いてソース電極232に接合されている。
【0072】
炭化珪素基板210は第1線膨張率ρ1´を有し、緩衝板400は第2線膨張率ρ2´を有し、ソース電極232は第3線膨張率ρ3´を有する。本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、25℃での主面210Aに平行な方向の線膨張率である。また、本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、互いに接合された状態が解かれ、炭化珪素基板210、緩衝板400及びソース電極232を単体としたときの線膨張率である。第1線膨張率ρ1´及び第2線膨張率ρ2´は第3線膨張率ρ3´よりも小さく、第2線膨張率ρ2´は第1線膨張率ρ1´よりも小さい。例えば、第1線膨張率ρ1´が4.0×10-6/℃であるのに対し、第2線膨張率ρ2´は1.2×10-6/℃以上3.9×10-6/℃以下である。この場合、「ρ2´-ρ1´」の値は-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である。
【0073】
半導体装置2は、更に、ワイヤ161、162、163、164、165及び166を有する。ワイヤ161~166の各々の数は限定されず、1本でもよく、2本以上であってもよい。
【0074】
ワイヤ161は、トランジスタ200のゲート電極231と第1導電パターン111とを互いに接続する。ワイヤ162は、緩衝板400の第2銅層430と第2導電パターン112とを互いに接続する。ワイヤ163は、第3導電パターン113と第4導電パターン114とを互いに接続する。ワイヤ164は、第1導電パターン111と端子101とを互いに接続する。ワイヤ165は、第2導電パターン112と端子102とを互いに接続する。ワイヤ166は、ダイオード300のアノード電極332と端子103とを互いに接続する。ワイヤ161~166は、例えば銅ワイヤである。ワイヤ161~166の各々の直径は、例えば100μm以上400μm以下である。ワイヤ161~166の接合は、例えば超音波接合により行われる。
【0075】
他の構成、例えばダイオード300及び緩衝板500の構成は第1実施形態と同様である。
【0076】
ここで、炭化珪素基板210及びソース電極232の熱変形に着目すると、第1線膨張率ρ1´が第3線膨張率ρ3´よりも小さいため、ソース電極232が炭化珪素基板210よりも大きく熱変形し得る。炭化珪素基板210とソース電極232とは互いに強固に接合されているため、第1線膨張率ρ1´と第3線膨張率ρ3´との間の相違が大きいほど、ソース電極232に大きな熱応力が作用し、ソース電極232に内部破壊が生じやすい。
【0077】
その一方で、接合材134によりソース電極232に緩衝板400が接合されており、ソース電極232の熱変形が緩衝板400により拘束される。そして、本実施形態では、緩衝板400の第2線膨張率ρ2´が第1線膨張率ρ1´よりも小さい。このため、ソース電極232の熱変形を接合材134によって大きく抑制できる。従って、本実施形態によれば、熱変形に伴ってソース電極232に生じる熱応力を抑制し、アルミニウムを含むソース電極232の内部破壊を抑制できる。
【0078】
緩衝板400の厚さT4は特に限定されず、例えば0.05mm以上0.25mm以下である。厚さT4が0.07mm以上0.23mm以下であってもよく、0.10mm以上0.20mm以下であってもよい。厚さT4が大きすぎる場合、ソース電極232とワイヤ162との間の電気抵抗が過剰に高くなったり、ソース電極232からの放熱が妨げられやすくなったりするおそれがある。また、厚さT4が小さすぎる場合、ソース電極232の熱変形を抑制しにくくなるおそれがある。
【0079】
特に、緩衝板400の厚さT4がトランジスタ200の厚さT3よりも小さいことで、ダイオード300の厚さT1と緩衝板500の厚さT2との関係と同様に、トランジスタ200の欠け、クラック等を抑制しやすく、故障発生率を低く抑えやすく、緩衝板400を通じて熱を拡散させやすい。
【0080】
本実施形態では、ワイヤ162を緩衝板400に接合することで、緩衝板400を介してワイヤ162をソース電極232に電気的に接続できる。このため、ワイヤ162の接合に超音波接合を採用しても、トランジスタ200へのダメージを抑制できる。ワイヤ162が銅ワイヤであると、ワイヤ162を緩衝板400の第2銅層430に接合しやすく、また、ワイヤ162に低電気抵抗を得やすい。
【0081】
「ρ2´-ρ1´」の値は特に限定されず、例えば-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である。「ρ2´-ρ1´」の値は-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下であってもよく、-1.8×10-6/℃以上-1.2×10-6/℃以下であってもよい。「ρ2´-ρ1´」が負であれば、熱変形の相違によってソース電極232の内部破壊を抑制できる。一方で、「ρ2´-ρ1´」の値が0に近づくほど、ソース電極232の熱変形を抑制しにくくなるおそれがある。「ρ2´-ρ1´」の値が小さすぎる場合、緩衝板400とソース電極232との間の熱変形の相違によってソース電極232に内部破壊が生じるおそれがある。
【0082】
以上のことから、緩衝板400の厚さT4が0.10mm以上0.20mm以下であり、「ρ2´-ρ1´」の値が-2.0×10-6/℃以上-1.0×10-6/℃以下であることが特に好ましい。
【0083】
緩衝板400の構成に関し、第1銅層410及び第2銅層430の厚さは互いに等しく、鉄-ニッケル合金層420の厚さは、第1銅層410及び第2銅層430の厚さの、好ましくは72/14倍以上であり、より好ましくは8倍以上であり、更に好ましくは18倍以上である。この場合、鉄-ニッケル合金層420の割合が高いほど、第2線膨張率ρ2´を小さく抑えやすい。
【0084】
鉄-ニッケル合金層420の厚さが第1銅層410及び第2銅層430の厚さの72/14倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層410:鉄-ニッケル合金層420:第2銅層430」は「14%:72%:14%」である。この場合、緩衝板400の第2線膨張率ρ2´は、例えば3.8×10-6/℃であり、「ρ2´-ρ1´」の値は、例えば-0.2×10-6/℃である。
【0085】
鉄-ニッケル合金層420の厚さが第1銅層410及び第2銅層430の厚さの8倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層410:鉄-ニッケル合金層420:第2銅層430」は「10%:80%:10%」である。この場合、緩衝板400の第2線膨張率ρ2´は、例えば3.0×10-6/℃であり、「ρ2´-ρ1´」の値は、例えば-1.0×10-6/℃である。
【0086】
鉄-ニッケル合金層420の厚さが第1銅層410及び第2銅層430の厚さの18倍である場合、厚さについての百分率において、「第1銅層410:鉄-ニッケル合金層420:第2銅層430」は「5%:90%:5%」である。この場合、緩衝板400の第2線膨張率ρ2´は、例えば2.1×10-6/℃であり、「ρ2´-ρ1´」の値は、例えば-1.9×10-6/℃である。
【0087】
緩衝板400は、第1銅層410及び第2銅層430を含まなくてもよい。つまり、緩衝板400は、インバー等の鉄-ニッケル合金層420から構成されてもよい。この場合、緩衝板400の第2線膨張率ρ2´は、例えば1.2×10-6/℃であり、「ρ2´-ρ1´」の値は、例えば-2.8×10-6/℃である。
【0088】
ソース電極232は、アノード電極332と同様に、アルミニウム層に加えて、アルミニウム層の上に形成されためっき層を有することが好ましい。ソース電極232がめっき層を含むことで、ソース電極232に優れた耐食性が得られる。また、ソース電極232がめっき層を含むことで、ソース電極232と接合材134との間で、低電気抵抗、高接合強度、高信頼性という優れた電気的接続及び機械的接続を形成することができる。
【0089】
なお、第4導電パターン114の上に複数のトランジスタ200が設けられてもよい。この場合、複数のトランジスタ200は互いに電気的に並列に接続される。
【0090】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、主として、アノード電極332と緩衝板500との間の接合材の構成の点で第1実施形態と相違する。図6は、第3実施形態におけるアノード電極332と緩衝板500との間の接合材を示す断面図である。
【0091】
図6に示すように、第3実施形態では、接合材135に代えて、接合材630が設けられている。接合材630は、平面視で、緩衝板500のワイヤ162が接合された部分と重なる第1領域631と、第1領域631の周囲の第2領域632とを有する。第1領域631の線膨張率は第2領域632の線膨張率よりも低い。例えば、第2領域632は、接合材135と同様に、銀焼結体又は銅焼結体等の接合材である。一方、第1領域631は、例えば、炭化珪素、珪素、酸化珪素又は窒化珪素から構成されていてもよい。酸化珪素がボロンを含有していてもよく、リンドープ酸化珪素が用いられてもよい。第1領域631が、鉄-ニッケル合金、モリブデン、タングステン等の金属から構成されていてもよい。第1領域631が、アルミナ、ジルコン等のセラミクスから構成されていてもよい。
【0092】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0093】
第3実施形態によっても第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0094】
また、第3実施形態では、第1領域631の線膨張率が第2領域632の線膨張率よりも低いため、下記のように、アノード電極332に作用する応力を低減し、アノード電極332の内部破壊をより抑制できる。
【0095】
すなわち、第2銅層530にワイヤ162が接続されるため、第2銅層530のワイヤ162が接続された部分の熱変形量が周囲よりも大きくなる。このため、X1-X2方向に垂直な断面(YZ平面に平行な断面)では、第1銅層510の厚さと第2銅層530の厚さとが等しいものの、局所的に、緩衝板500の第2線膨張率ρ2に大きな部分が生じ、「ρ2-ρ1」の値が大きくなるおそれがある。第3実施形態では、第1領域631の線膨張率が第2領域632の線膨張率よりも低いため、局所的な「ρ2-ρ1」の値の上昇を抑制し、アノード電極332の内部破壊をより抑制できる。
【0096】
なお、局所的にでも「ρ2-ρ1」の値が過剰となると、その箇所が脆弱となり、その箇所を起点として全体の破壊につながる可能性が高くなる。このような場合、パワーサイクル試験等において脆弱な箇所の寿命が全体の寿命を決めることになる。
【0097】
第2領域632が銀焼結体又は銅焼結体等の接合材であり、第1領域631が、炭化珪素、酸化珪素又は鉄-ニッケル合金から構成されていることで、優れた接合強度を確保しながら、アノード電極332に作用する応力を低減しやすい。
【0098】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、主として、アノード電極332と緩衝板500との間の接合材の構成の点で第1実施形態と相違する。図7は、第4実施形態におけるアノード電極332と緩衝板500との間の接合材を示す断面図である。
【0099】
図7に示すように、第4実施形態では、接合材135に代えて、接合材730が設けられている。接合材730は、接合材135と同様に、銀焼結体又は銅焼結体等の接合材である。ただし、接合材730の、平面視で、緩衝板500のワイヤ162が接合された部分と重なる部分に空隙731が設けられている。空隙731の内部には、大気、水素、窒素、酸素等の気体が存在していてもよく、空隙731の内部が低圧の真空状態となっていてもよい。
【0100】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0101】
第4実施形態によっても第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0102】
また、第4実施形態では、接合材730に空隙731が設けられているため、アノード電極332に作用する応力を低減し、第3実施形態と同様に、アノード電極332の内部破壊をより抑制できる。
【0103】
なお、第3実施形態での第1領域631、第4実施形態での空隙731のY1-Y2方向の幅は、ワイヤ162と同等であってもよい。有限要素法を用いた応力解析から、第1領域631又は空隙731の幅がワイヤ162の幅の1/4以上であると、アノード電極332内の応力発生を抑制できることが確認できている。一方、第1領域631又は空隙731の幅が過剰であると、ワイヤ162からダイオード300への電流経路が減少する。このため、第1領域631又は空隙731の幅は、ワイヤ162の幅の、好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下、更に好ましくは1倍以下である。
【0104】
第2実施形態において、接合材134に代えて、接合材630又は730と同様の接合材が用いられてもよい。この場合、ソース電極232に作用する応力を低減しやすい。
【0105】
なお、ワイヤ162は第2銅層530に接合されているが、ワイヤ162と第2銅層530との界面には、ワイヤ162及び第2銅層530の界面をまたがる結晶粒が存在することが好ましい。また、当該ワイヤ162及び第2銅層530の界面をまたがった結晶粒は、より好ましくは鉄-ニッケル合金層520との界面に至ることが好ましい。
【0106】
図8は、ワイヤ162及び第2銅層530を構成する結晶粒の一例を示す図である。図7に示すように、ワイヤ162及び第2銅層530を構成する複数の結晶粒531の一部が、ワイヤ162及び第2銅層530の界面にまたがっていてもよい。ワイヤ162及び第2銅層530の界面にまたがる結晶粒531が存在することで、ワイヤ162と第2銅層530との間に強固な接合を得やすい。さらに、ワイヤ162及び第2銅層530の界面にまたがる結晶粒531が鉄-ニッケル合金層420との界面に至ることで、より強固な接合を得やすい。
【0107】
(特性試験)
次に、本開示の実施形態に係る半導体装置についてパワーサイクル試験を行った場合に得られる温度変化に関する好ましい特性について説明する。ここでいうパワーサイクル試験は、IEC60749に準拠して、次のように行われる。
【0108】
パワーサイクル試験では、試料の温度を室温(25℃)から65℃に昇温した後に、125Aの電流の通電及び遮断を繰り返す。通電時間(ton)は1秒間とし、遮断時間(toff)は13秒間とする。また、各サイクルにおける接合温度(Tj)の最大値である最高接合温度(Tjmax)は200℃以上とし、各サイクルにおける最高接合温度と最低接合温度(65℃)との差(ΔTj)は135℃以上とする。
【0109】
100mA程度の低電流を試料に流したときの通電開始電圧は、試料の接合温度(Tj)に対応する。従って、通電及び遮断のサイクル毎に、通電直後に通電する電流よりも十分小さい100mAの低電流を試料に流し、このときの通電開始電圧を測定すれば、各サイクルにおける通電開始温度を最高接合温度(Tjmax)に換算できる。パワーサイクル試験を進めていくと、試料が徐々に劣化し、最高接合温度(Tjmax)が徐々に上昇するため、通電開始からΔTjが20%増加した状態をもって、本試験での寿命と定義している。前出のように、最低接合温度が65℃、最高接合温度が200℃である場合、ΔTjが135℃であるため、ΔTjが20%増加した温度は162℃であり、最高接合温度(Tjmax)が227℃に達した状態をもって寿命とする。本試験は国際標準化機関が定めた検査規格IEC60749に準拠して行っているため、構造、製造方法が異なるパワーモジュール試料間においても、得られる寿命については、同一の基準での比較が可能となる。本開示におけるの接合温度は、上記手法によって求めている。
【0110】
このようなパワーサイクル試験において、繰り返し数が20万回から30万回の間での最高接合温度(Tjmax)の増加量は、好ましくは5.0℃以下であり、より好ましくは4.5℃以下であり、更に好ましくは4.0℃以下である。この増加量が小さいほど、アノード電極又はソース電極に含まれるアルミニウム層の内部破壊の進行を抑制しやすい。
【0111】
図9及び図10に、パワーサイクル試験の結果の例を示す。図9及び図10には、合計で11種類の試料(試料No.1~No.11)のパワーサイクル試験の結果を示す。このパワーサイクル試験では、試料としてダイオードを用いた。図9及び図10の横軸は通電及び遮断の繰り返し数(回)を示し、縦軸は、最高接合温度Tjmax(℃)を示す。試料No.1~No.11の間で緩衝板の構成を相違させ、他の条件は共通とした。半導体基板としては、第1線膨張率ρ1が4.0×10-6/℃の炭化珪素基板を用いた。表1に試料No.1~No.11の緩衝板の概要を示す。表1には、試験開始時の最高接合温度Tjmax(初期温度)、繰り返し数が20万回になった時点での最高接合温度Tjmax(20万回時点温度)、及び、繰り返し数が20万回から30万回の間での最高接合温度Tjmaxの増加量も示す。表1には、更に、ΔTjが20%増加した時点(寿命)での繰り返し数、寿命に到る前にΔTjが5%増加した時点での繰り返し数、及び、寿命に到った時点での繰り返し数に対するΔTjが5%増加した時点での繰り返し数の比率Rも示す。
【0112】
【表1】
【0113】
図9図10及び表1に示すように、試料No.1では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1(4.0×10-6/℃)よりも大きく、「ρ2-ρ1」の値が+1.2×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は8.4℃であった。試料No.1の試験開始時の初期温度は203.9℃であり、寿命は33.4万回であった。
【0114】
試料No.2では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.0×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は3.7℃であった。試料No.2の試験開始時の初期温度は207.1℃であり、寿命は84.5万回であった。
【0115】
試料No.3では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.9×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は1.2℃であった。試料No.3の試験開始時の初期温度は202.9℃であり、寿命は90.7万回であった。
【0116】
試料No.4では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値がー1.9×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は1.2℃であった。試料No.4の試験開始時の初期温度は212.6℃であり、寿命は47.2万回であった。
【0117】
試料No.5では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.0×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は3.1℃であった。試料No.5の試験開始時の初期温度は229.3℃であり、寿命は42.5万回であった。
【0118】
試料No.5では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、緩衝板の厚さが好ましい範囲(0.05mm以上0.25mm以下)内にある。このため、試料No.5の初期温度(229.3℃)は他の試料よりも高いが、20万回から30万回の間での温度増加量を小さくでき、良好な寿命を得ることができている。
【0119】
試料No.6では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-2.8×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は2.7℃であった。試料No.6の試験開始時の初期温度は205.1℃であり、寿命は55.8万回であった。
【0120】
試料No.7では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.0×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は6.5℃であった。試料No.7の試験開始時の初期温度は208.3℃であり、寿命は33.0万回であった。
【0121】
試料No.7では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さいが、緩衝板の厚さが好ましい範囲(0.05mm以上0.25mm以下)の上限よりも大きい。このため、試料No.1と比較して、電気抵抗の増加に伴う発熱の増加及び熱伝導の低下により抜熱性が低下し、寿命が短くなったと考えられる。
【0122】
試料No.8では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.9×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は7.5℃であった。試料No.8の試験開始時の初期温度は202.8℃であり、寿命は32.5万回であった。試料No.7と同じ理由で、試料No.1よりも寿命が短くなったと考えられる。
【0123】
試料No.9では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.0×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は8.8℃であった。試料No.9の試験開始時の初期温度は201.2℃であり、寿命は30.9万回であった。試料No.7及びNo.8と同じ理由で、試料No.1よりも寿命が短くなったと考えられる。
【0124】
試料No.10では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.9×10-6/℃であった。試料No.10の試験開始時の初期温度は210.3℃であった。なお、試料No.10では、繰り返し数が20万回に達する前に寿命に到った。試料No.10の内部を観察したところ、ダイオード内にクラックが発生していた。
【0125】
試料No.10では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さいが、緩衝板の厚さが好ましい範囲(0.05mm以上0.25mm以下)の上限よりも大きく、更に他の試料よりも大きい。特に、緩衝板の厚さがダイオードの厚さ(0.35mm)よりも大きい。このため、ダイオードの炭化珪素基板が緩衝板からの応力に耐えられなかったものと推定される。
【0126】
試料No.11では、緩衝板の第2線膨張率ρ2が半導体基板の第1線膨張率ρ1よりも小さく、「ρ2-ρ1」の値が-1.9×10-6/℃であった。そして、最高接合温度(Tjmax)の増加量は2.3℃であった。試料No.11の試験開始時の初期温度は206.8℃であった。また、寿命は40万回以上であった。
【0127】
このように、緩衝板の第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1よりも小さく、かつ、緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下の範囲にある試料No.2~No.6において、繰り返し数が20万回から30万回の間の最高接合温度(Tjmax)の増加量が小さかった。このことは、アノード電極に含まれるアルミニウム層の劣化が抑制されていることを示唆する。これは、緩衝板の厚さが0.05mm以上0.25mm以下の範囲にあることで、抵抗増加と抜熱低下を抑制できた効果であると推定できる。
【0128】
表1にまとめるように、本願発明者の系統的な検討及び解析から、繰り返し数が20万回から30万回の間での最高接合温度(Tjmax)の増加量が小さい半導体装置により、最終的に到達できる寿命(ΔTjが20%増加した時点の試験寿命)が伸長できるだけでなく、試験開始直後からの劣化を小さくでき、劣化の進行が非常に緩やかな期間が長く確保できることを見出している。
【0129】
表1からも、試料No.1~No.11では、すべて200℃以上の温度で動作試験を開始していることがわかる。繰り返し数が20万回から30万回の間での最高接合温度(Tjmax)の増加量が小さい試料No.2~No.6及びNo.11では、40万回以上と、30万回を大きく超える長い寿命が得られていることがわかる。一方、緩衝板の第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1よりも大きい試料No.1では、寿命に到る繰り返し数が40万回未満であった。
【0130】
さらに、初期温度から繰り返し数が20万回となった時点での最高接合温度(Tjmax)までの温度上昇量ΔT1、及び初期温度からΔTjが5%増加した時点での繰り返し数を指標にとると、本開示により寿命の伸長ができるのみならず、初期からの劣化が長い期間で抑制できていることがわかる。
【0131】
ここで、寿命に到った時点での繰り返し数に対するΔTjが5%増加した時点での繰り返し数の比率Rに基づいてパワーサイクル試験の結果を解析する。
【0132】
ΔTjが20%増加した時点での繰り返し数と、ΔTjが5%増加した時点での繰り返し数とが近い場合、すなわち比率Rが大きい場合、初期から劣化が小さい状態が長く保持され、寿命に近くなった時点でようやく温度上昇が起きることがわかる。これは、初期から寿命の直前まで、特性が安定していることを示している。これに対し、比率Rが小さい場合、初期から劣化が進みやすく、劣化の進行に伴って特性の変動が発生する。
【0133】
例えば、試料No.1及びNo.7~No.9では、初期からの温度上昇量ΔT1が大きく、最終的に故障につながる劣化が早い段階で開始していることが確認できる。一方、試料No.2~No.6及びNo.11では、20万回から30万回の間での温度増加量が小さく、初期の劣化が低く抑えられた期間を長く保持できている。つまり、試料No.2~No.6及びNo.11では、従来にはなかった信頼性を維持及び確保できることがわかる。このことは、温度上昇量ΔT1とも対応していることが確認できる。
【0134】
以上のように、(1)寿命、(2)温度上昇量ΔT1及び(3)初期温度からΔTjが5%増加した時点での繰り返し数を指標にとると、試料No.1及びNo.7~No.9では、初期からの温度上昇量ΔT1が大きく、最終的に故障につながる劣化が早い段階で開始し、最終的には短い寿命となっていることがわかる。一方で、試料No.2~No.6及びNo.11では、20万回から30万回の間での温度増加量が小さく、初期から一定の期間、劣化を十分に小さく抑制し、故障に到る直前まで初期に非常に近い特性を維持でき、かつ、最終的な寿命も長くできることがわかる。従って、試料No.2~No.6及びNo.11を用いた半導体装置を用いることで、車載用途、産業用用途等のより信頼性が高いシステムが構築でき、最終製品とすることができる。
【0135】
次に、本開示の実施形態に係る半導体装置について1回の昇温及び降温を行った場合の緩衝板の線膨張率の好ましい変化について説明する。
【0136】
この試験では、緩衝板を25℃に30分間保持し、その後に25℃から250℃まで昇温し、その後に250℃に30分間保持し、その後に250℃から25℃まで降温する。25℃に30分間保持した後で昇温とそれに続く降温のサイクルを繰り返し、緩衝板の線膨張率を上記の温度範囲で連続的に測定する。昇温時の線膨張率(第5線膨張率ρ5)と降温時の線膨張率(第4線膨張率ρ4)の25℃から250℃までの間の同一温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値を算出する。
【0137】
ここで、「ρ5-ρ4」の値の意義について説明する。図11図13は、温度変化に伴う変形量の変化を示す模式図である。図14は、温度変化に伴う線膨張率の変化を示す図である。
【0138】
図11に示すように、昇温時と降温時との間では線膨張率が等しいとも考えられる。しかしながら、図12に示すように、室温(25℃)から温度が上昇していくと、昇温時の第5線膨張率ρ5と降温時の第4線膨張率ρ4との間に相違が現れてくる。このような場合、半導体装置の動作温度の範囲内、例えば25℃~250℃の温度範囲内で半導体装置の劣化が進行するおそれがある。また、図13に示すように、昇温及び降温の1サイクル後には、半導体装置全体で形状に元に戻らず、次のサイクルでは、変形した状態を起点として、さらに変形が蓄積される場合もある。これは、「進行性変形(progressive deformation)」という劣化加速の原因である。
【0139】
従って、図14に示すように、25℃~250℃のいずれかの温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値Δρmaxが小さい温度特性11を示す半導体装置と、25℃~250℃のいずれかの温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値Δρmaxが大きい温度特性12を示す半導体装置とを比較すると、温度特性11を示す半導体装置において劣化が生じにくい。
【0140】
本開示の実施形態に係る半導体装置では、25℃~250℃のいずれかの温度での「ρ5-ρ4」の値の最大値Δρmaxが、好ましくは1.5×10-6/℃以下であり、より好ましくは1.3×10-6/℃以下であり、更に好ましくは1.1×10-6/℃以下である。「ρ5-ρ4」の値の最大値Δρmaxが小さいほど、昇温及び降温の温度履歴が付与された場合でも、緩衝板の線膨張率が安定しやすく、ソース電極に含まれるアルミニウム層の内部破壊を抑制しやすい。
【0141】
なお、厚さについての百分率において、「第1銅層:鉄-ニッケル合金層:第2銅層」が「33%:33%:33%」の場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は3.8×10-6/℃である。厚さについての百分率において、「第1銅層:鉄-ニッケル合金層:第2銅層」が「20%:60%:20%」の場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は1.9×10-6/℃である。
【0142】
これに対し、厚さについての百分率において、「第1銅層:鉄-ニッケル合金層:第2銅層」が「14%:72%:14%」の場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は1.5×10-6/℃である。厚さについての百分率において、「第1銅層:鉄-ニッケル合金層:第2銅層」が「10%:80%:10%」の場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は1.3×10-6/℃である。厚さについての百分率において、「第1銅層:鉄-ニッケル合金層:第2銅層」が「5%:90%:5%」の場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は1.1×10-6/℃である。また、緩衝板がインバーから構成される場合、「ρ5-ρ4」の値の最大値は0.7×10-6/℃である。
【0143】
なお、緩衝板の変形は、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いたデジタル画像相関(digital image correlation:DIC)法により高精度で観察できる。
【0144】
本開示において、アルミニウム層に代えてアルミニウム合金層が用いられてもよい。また、接合材に用いられる材料は限定されない。例えば、接合材が、銅、銀、ニッケル、又は銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体から構成されていてもよい。銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体は、例えば遷移的液相焼結法により得られる。
【0145】
また、本開示において、半導体チップは炭化珪素チップであることが好ましい。炭化珪素チップは優れた高温耐性を有しており、高温で使用しても故障しにくい。また、炭化珪素チップは高い機械的特性を有している。また、アルミニウムを含む主電極の内部破壊が抑制されるため、半導体装置全体として高温下でも優れた寿命を得やすい。
【0146】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0147】
1、2:半導体装置
11、12:温度特性
101、102、103:端子
110:基板
111:第1導電パターン
112:第2導電パターン
113:第3導電パターン
114:第4導電パターン
115:導電層
119:絶縁基板
120:放熱板
131、132、133、134、135:接合材
161、162、163、164、165、166:ワイヤ
190:ケース
191、192:側壁部
193、194:端壁部
200:トランジスタ(半導体チップ)
210:炭化珪素基板(半導体基板)
210A、210B:主面
231:ゲート電極
232:ソース電極(主電極)
233:ドレイン電極
300:ダイオード(半導体チップ)
310:炭化珪素基板(半導体基板)
310A、310B:主面
332:アノード電極(主電極)
332A:アルミニウム層
332B:めっき層
333:カソード電極
400:緩衝板
410:第1銅層
420:鉄-ニッケル合金層
430:第2銅層
500:緩衝板
510:第1銅層
520:鉄-ニッケル合金層
530:第2銅層
531:結晶粒
630:接合材
631:第1領域
632:第2領域
730:接合材
731:空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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