(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】エレベーターの安全システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/16 20060101AFI20250415BHJP
B66B 5/02 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B66B5/16 Z
B66B5/02 U
(21)【出願番号】P 2024125955
(22)【出願日】2024-08-01
【審査請求日】2024-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 英敬
(72)【発明者】
【氏名】釘谷 琢夫
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227251(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173913(WO,A1)
【文献】特開2010-254480(JP,A)
【文献】特開2013-56750(JP,A)
【文献】特開2011-195208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/16
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールに沿って昇降するエレベーターのかごを非常停止させる非常止め装置と、
作動位置と通常位置との間で変位可能な可動案内部材と、前記可動案内部材を前記作動位置の側へ付勢する作動ばねと、電源の供給を受けて前記作動ばねに抗して前記可動案内部材を前記通常位置に保持するアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータへの前記電源の供給が遮断されて前記可動案内部材が前記作動位置に変位したときに前記非常止め装置を作動させる非常止め作動装置と、
前記かごの異常走行が検出された場合に前記アクチュエータへの前記電源の供給を遮断する安全監視装置と、を備え、
前記エレベーターの起動時において、前記非常止め作動装置は、前記かごの下降を含む起動動作によって前記ガイドレールから受ける力に基づいて、前記可動案内部材を前記作動位置から前記通常位置へ変位させるように構成され、
前記安全監視装置は、
前記起動動作によって前記可動案内部材が前記通常位置へ変位するまでの間に前記かごの下降距離が閾値を超えた場合に、異常検出信号を出力する
ように構成されるエレベーターの安全システム。
【請求項2】
前記エレベーターの起動時において、前記安全監視装置は、前記アクチュエータへ前記電源を供給するように構成される請求項1に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項3】
前記安全監視装置から出力される動作指令に従い前記かごの走行を制御する走行制御装置と、
前記可動案内部材が前記通常位置へ変位した通常状態を検出する位置検出装置と、を備え、
前記エレベーターの起動時において、前記安全監視装置は、前記位置検出装置が前記通常状態を検出するまでの期間は前記かごを下降させる動作指令を前記走行制御装置に出力し、前記位置検出装置が前記通常状態を検出した場合、前記かごを一旦上昇させた後に停止させる動作指令を前記走行制御装置に出力する
ように構成される請求項1又は請求項2に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項4】
前記走行制御装置は、前記異常検出信号を受けて前記かごを緊急停止させるように構成される請求項3に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項5】
前記安全監視装置は、前記かごの速度又は加速度が判定値に達した場合に、前記かごの前記異常走行を検出するように構成される請求項1又は請求項2に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項6】
前記非常止め作動装置は、
前記かごに対して、非上昇位置と、前記非上昇位置よりも上方の位置である引き上げ位置との間で上下方向へ変位可能であり、前記非上昇位置から前記引き上げ位置へ変位する引き上げ枠体と、
前記かごに対する前記引き上げ枠体の上下方向の変位を前記非常止め装置に伝達し、前記非常止め装置を作動させる伝達機構と、
第1水平位置と第2水平位置との間で、前記引き上げ枠体に対して水平方向へ変位可能に、前記引き上げ枠体に設けられている横移動枠体と、
前記引き上げ枠体と前記横移動枠体との間に設けられており、前記横移動枠体を前記第1水平位置に戻す力を発生する戻しばねと、を備え、
前記可動案内部材は、前記ガイドレールに対向し且つ上方へ行くに従って前記ガイドレールに近付くように前記ガイドレールに対して傾斜した案内面を有し、前記通常位置と前記作動位置との間で前記横移動枠体に対して水平方向へ変位可能に、前記横移動枠体に設けられ、
前記作動ばねは、前記横移動枠体と前記可動案内部材との間に設けられ、
前記非常止め作動装置は、
前記可動案内部材と前記ガイドレールとの間に設けられ、前記案内面に沿って前記可動案内部材に対して上下方向へ変位可能な作動楔と、
前記横移動枠体に設けられ、前記ガイドレールに対して前記可動案内部材とは反対側において前記ガイドレールに対向している制動部材と、
前記横移動枠体と前記制動部材との間に設けられている主ばねと、を備え、
前記可動案内部材が前記作動位置に変位することにより、前記作動楔が前記ガイドレールに接触して前記案内面に沿って前記可動案内部材に対して上方へ変位し、前記横移動枠体が前記引き上げ枠体に対して水平方向へ変位し、前記作動楔と前記制動部材との間に前記ガイドレールが挟み込まれて前記主ばねが圧縮されるとともに、前記引き上げ枠体が前記引き上げ位置に変位するように構成される請求項1又は請求項2に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項7】
前記かごに設けられ、前記引き上げ枠体の上下方向への変位を案内する固定枠体を更に備える請求項6に記載のエレベーターの安全システム。
【請求項8】
前記伝達機構は、前記横移動枠体と前記非常止め装置との間に接続されている請求項6に記載のエレベーターの安全システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非常止め装置を備えたエレベーターの安全システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗りかごに設けられる非常止め装置と、非常止め装置を作動させる電動トリガと、を備えるエレベーター装置に関する技術が開示されている。非常止め装置は、乗りかごが過速状態になると、乗りかごの上部に設けられる電動トリガによって操作されて作動し、乗りかご用ガイドレールを把持して乗りかごを制動する。
【0003】
電動トリガは、ソレノイドコアを有する固定子と、ソレノイドコアに出入り可能に挿入される可動子を備えている。可動子には、可動子がソレノイドコアから外部へ出されるような付勢力が、弾性部材によって与えられている。そして、電動トリガは、非動作状態において、付勢力よりも大きな電磁力によって、可動子が吸引された状態に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の電動トリガのように、アクチュエータへの電源の供給が遮断されたときに非常止め装置を作動させる非常止め作動装置が知られている。非常止め作動装置は、エレベーターの起動時において、付勢力よりも大きな力を付加して非常止め作動装置を待機状態へと移行させる起動動作を行う必要がある。このような起動動作において、アクチュエータの力のみに頼ると容量を大きくする必要があるため、かごとガイドレールとの相対変位により生じる力を利用することが考えられる。しかし、起動動作においてかごの移動を伴う場合、かごの走行が起動動作のための走行を逸脱しないように監視する技術が求められる。
【0006】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、非常止め作動装置を待機状態へと移行させる起動動作において、動作異常を検出して部品劣化の進行を防ぐことのできるエレベーターの安全システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のエレベーターの安全システムは、ガイドレールに沿って昇降するエレベーターのかごを非常停止させる非常止め装置と、作動位置と通常位置との間で変位可能な可動案内部材と、可動案内部材を作動位置の側へ付勢する作動ばねと、電源の供給を受けて作動ばねに抗して可動案内部材を通常位置に保持するアクチュエータと、を備え、アクチュエータへの電源の供給が遮断されて可動案内部材が作動位置に変位したときに非常止め装置を作動させる非常止め作動装置と、かごの異常走行が検出された場合にアクチュエータへの電源の供給を遮断する安全監視装置と、を備え、エレベーターの起動時において、非常止め作動装置は、かごの下降を含む起動動作によってガイドレールから受ける力に基づいて、可動案内部材を作動位置から通常位置へ変位させるように構成され、安全監視装置は、起動動作によって可動案内部材が通常位置へ変位するまでの間にかごの下降距離が閾値を超えた場合に、異常検出信号を出力するように構成されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示のエレベーターの安全システムによれば、非常止め作動装置を待機状態へと移行させる起動動作において、動作異常を検出して部品劣化の進行を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態によるエレベーターを示す概略の構成図である。
【
図3】
図2の非常止め装置の要部を示す側面図である。
【
図4】
図3の非常止め装置の作動状態を示す側面図である。
【
図5】
図2の非常止め作動装置を示す正面図である。
【
図6】
図5の非常止め作動装置の作動動作開始直後の状態を示す正面図である。
【
図7】
図6の作動楔が可動案内部材に対して上方へ変位した状態を示す正面図である。
【
図8】
図7の作動楔が可動案内部材に対してさらに上方へ変位した状態を示す正面図である。
【
図9】
図8の状態からかごが下降したときの非常止め作動装置の状態を示す正面図である。
【
図10】
図2の引き上げ棒が引き上げられた状態を示す正面図である。
【
図11】
図9の非常止め作動装置の復帰動作開始直後の状態を示す正面図である。
【
図12】
図11のかごがさらに上昇したときの非常止め作動装置の状態を示す正面図である。
【
図13】
図12の作動楔が下方向へ変位した状態を示す正面図である。
【
図14】エレベーターの起動直後の非常止め作動装置の状態を示す正面図である。
【
図15】
図14の作動楔が可動案内部材に対して上方へ変位した状態を示す正面図である。
【
図16】
図15の作動楔が下方向へ変位した状態を示す正面図である。
【
図17】実施の形態のエレベーターの安全システムの構成を示す図である。
【
図18】実施の形態に係る安全システムにおいて実行される起動動作の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図19】安全監視装置のハードウェア資源の例を示す図である。
【
図20】安全監視装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
実施の形態.
1.実施の形態のエレベーターの安全システムの全体構成
図1は、実施の形態によるエレベーターを示す概略の構成図である。図において、昇降路1の上には、機械室2が設けられている。機械室2には、巻上機3、そらせ車4、エレベーター制御装置5、及び安全監視装置6が設置されている。
【0012】
巻上機3は、駆動シーブ7、図示しない巻上機モーター、及び図示しない巻上機ブレーキを有している。巻上機モーターは、駆動シーブ7を回転させる。巻上機ブレーキは、駆動シーブ7の静止状態を保持する。また、巻上機ブレーキは、駆動シーブ7の回転を制動する。
【0013】
駆動シーブ7及びそらせ車4には、懸架体8が巻き掛けられている。懸架体8としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体8の第1端部には、かご9が接続されている。懸架体8の第2端部には、釣合おもり10が接続されている。
【0014】
かご9及び釣合おもり10は、懸架体8によって吊り下げられており、駆動シーブ7を回転させることによって昇降路1内を昇降する。駆動シーブ7には、かご9の移動に応じた信号を発生するかご移動量検出装置13が設けられている。かご移動量検出装置13としては、例えば、駆動シーブ7の回転に応じた信号を発生するエンコーダ又はレゾルバ等が用いられている。かご移動量検出装置は、調速機シーブに設けられたガバナエンコーダ、かご9の上に搭載されたリニアエンコーダ、かご9の上からかごガイドレール11に押し当てられたローラのローラ軸に設けられたローラエンコーダ、等として構成されていてもよい。かご移動量検出装置13から出力された検出信号は、安全監視装置6及びエレベーター制御装置5に送られる。
【0015】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール11と、一対の釣合おもりガイドレール12とが設置されている。かご9は、一対のかごガイドレール11に沿って、昇降路1内を昇降する。釣合おもり10は、一対の釣合おもりガイドレール12に沿って、昇降路1内を昇降する。
図1には、1本のかごガイドレール11及び1本の釣合おもりガイドレール12のみが示されている。
【0016】
エレベーター制御装置5は、かご移動量検出装置13から出力される検出信号に基づいて巻上機3を制御することによって、かご9の運行を制御する走行制御装置として機能する。
【0017】
安全監視装置6は、かご9の走行異常を監視する。典型的には、安全監視装置6は、かご移動量検出装置13から出力される検出信号に基づいて、かご9の速度が過大速度に達していないかどうかを監視する。また、安全監視装置6は、当該検出信号に基づいて、かご9の加速度が過大加速度に達していないかどうかを監視する。過大速度及び過大加速度は、エレベーターのかご9の異常走行を検出するための判定値である。安全監視装置6には、判定値としての過大速度及び過大加速度が予め設定されている。
【0018】
エレベーター制御装置5の機能及び安全監視装置6の機能は、それぞれコンピュータによって実現することができる。エレベーター制御装置5の機能及び安全監視装置6の機能については詳細を後述する。
【0019】
かご9の下部には、非常止め装置20が設けられている。非常止め装置20は、一対のかごガイドレール11を把持してかご9を非常停止させる。非常止め装置20の要部については後述する。
【0020】
安全監視装置6は、かご9の速度が過大速度に達した場合、及びかご9の加速度が過大加速度に達した場合、作動指令信号を発生する。作動指令信号は、非常止め装置20を作動させる信号である。
【0021】
かご9には、非常止め作動装置30が搭載されている。非常止め作動装置30は、作動装置本体31と、引き上げ棒32とを有している。
【0022】
作動装置本体31は、かご9の上部に設置されている。引き上げ棒32は、作動装置本体31と非常止め装置20との間に接続されている。実施の形態の伝達機構は、引き上げ棒32により構成されている。作動装置本体31は、安全監視装置6からの作動指令信号に応じて、引き上げ棒32を引き上げ、非常止め装置20を作動させる。非常止め作動装置30の要部については後述する。
【0023】
2.非常止め装置20の構成
図2は、
図1のかご9を示す正面図である。非常止め装置20は、作動レバー21、連動レバー22、連結棒23、及び作動状態検出装置50と、を有している。
【0024】
作動レバー21は、水平な作動レバー軸21aを中心として、かご9に対して、作動レバー軸21aとともに回転可能である。連動レバー22は、水平な連動レバー軸22aを中心として、かご9に対して、連動レバー軸22aとともに回転可能である。
【0025】
連結棒23は、作動レバー21及び連動レバー22にそれぞれ回転可能に連結されている。また、連結棒23は、作動レバー21の回転を連動レバー22に伝達し、連動レバー22を作動レバー21に連動して回転させる。このとき、連動レバー軸22aを中心とする連動レバー22の回転方向は、作動レバー軸21aを中心する作動レバー21の回転方向とは反対である。
【0026】
引き上げ棒32の上端は、作動装置本体31に接続されている。引き上げ棒32の下端は、作動レバー21に回転可能に接続されている。引き上げ棒32が引き上げられることにより、作動レバー21は
図2の反時計方向へ回転し、連動レバー22は
図2の時計方向へ回転する。
【0027】
図3は、
図2の非常止め装置20の要部を示す側面図である。
図4は、
図3の非常止め装置20の作動状態を示す側面図である。
【0028】
非常止め装置20は、
図2に示した構成に加えて、非常止め枠24、一対の楔ガイド25、一対の楔ガイドばね26、一対の楔部材27、及び一対の楔連結リンク28を有している。
図3では、一対の楔連結リンク28は省略されている。
【0029】
非常止め枠24は、かご9の下部に固定されている。各楔ガイドばね26は、対応する楔ガイド25と非常止め枠24との間に設けられている。各楔部材27は、対応する楔連結リンク28を介して作動レバー軸21aに連結されている。
【0030】
非常止め装置20の非作動時には、各楔部材27は、かごガイドレール11に対して間隔をおいて対向している。非常止め装置20の作動時には、作動レバー軸21aの回転によって、一対の楔部材27が非常止め枠24に対して上方へ動かされる。このとき、各楔部材27は、対応する楔ガイド25に案内されて、かごガイドレール11に近付き、かごガイドレール11に接触する。
【0031】
各楔部材27がかごガイドレール11に接触すると、かご9の落下方向とは逆向きに制動力が発生し、かご9が停止される。制動力の大きさは、一対の楔ガイドばね26によるかごガイドレール11への一対の楔部材27の押付力と、各楔部材27とかごガイドレール11との間の摩擦係数との積となる。
【0032】
また、連動レバー軸22a側にも、
図3及び
図4に示した構成と同様の構成が設けられている。そして、非常止め装置20の作動時には、非常止め装置20によって一対のかごガイドレール11が同時に把持される。
【0033】
作動状態検出装置50は、非常止め装置20の作動状態を検出するための装置である。非常止め装置20は、作動レバー21が
図2の反時計方向へ回転して引き上げ棒32が引き上げられたときに非作動状態から作動状態へと切り替わる。作動状態検出装置50は、例えば、作動レバー21が
図2の反時計方向へ回転移動したことを検出可能な位置に設置された機械スイッチである。このような構成によれば、作動状態検出装置50は、非常止め装置20が作動状態となった場合にON信号を出力し、非常止め装置20が非作動状態となった場合にOFF信号を出力する。作動状態検出装置50から出力された信号は、安全監視装置6に送られる。
【0034】
3.非常止め作動装置30の構成
図5は、
図2の非常止め作動装置30を示す正面図である。作動装置本体31は、固定枠体40と、引き上げ枠体41と、横移動枠体42と、複数の戻しばね43と、可動案内部材44と、複数の作動ばね45と、アクチュエータ46と、作動楔47と、制動部材48と、複数の主ばね49と、位置検出装置52と、を有している。
【0035】
固定枠体40は、かご9の上部に固定されている。引き上げ枠体41は、固定枠体40の内側に設けられている。また、引き上げ枠体41は、非上昇位置と引き上げ位置との間で、かご9に対して上下方向へ変位可能である。
【0036】
非上昇位置は、
図5に示すように、引き上げ枠体41が固定枠体40内の底面上に載せられている位置である。引き上げ位置は、後述する
図10に示すように、引き上げ枠体41が固定枠体40内の底面から浮き上がった位置である。即ち、引き上げ位置は、非上昇位置よりも上方の位置である。
【0037】
固定枠体40は、引き上げ枠体41の水平方向への変位を規制しつつ、引き上げ枠体41の上下方向への変位を案内する。
【0038】
引き上げ枠体41は、非上昇位置から引き上げ位置へ変位することによって、引き上げ棒32を引き上げて、非常止め装置20を作動させる。このとき、引き上げ棒32は、引き上げ枠体41の上方への変位を非常止め装置20に伝達する。
【0039】
横移動枠体42は、引き上げ枠体41の内側に設けられている。また、横移動枠体42は、第1水平位置と第2水平位置との間で、引き上げ枠体41に対して水平方向、即ちかご9の前後方向へ変位可能である。かご9の前後方向は、かご9を真上から見て、一対のかごガイドレール11の中心を結ぶ直線に直交する方向であり、
図5のY軸に平行な方向である。
【0040】
第1水平位置は、
図5に示す位置である。第2水平位置は、後述する
図8に示すように、第1水平位置よりもアクチュエータ46がかごガイドレール11から離れた位置である。引き上げ枠体41は、横移動枠体42の水平方向への変位を案内する。
【0041】
複数の戻しばね43は、引き上げ枠体41と横移動枠体42との間に設けられている。また、複数の戻しばね43は、横移動枠体42が第2水平位置に変位することにより、それぞれ圧縮される。これにより、複数の戻しばね43は、横移動枠体42を第1水平位置に戻す力を発生する。
【0042】
可動案内部材44は、横移動枠体42の内側に設けられている。また、可動案内部材44は、通常位置と作動位置との間で、横移動枠体42に対して水平方向、即ちかご9の前後方向へ変位可能である。
【0043】
通常位置は、
図5に示す位置である。作動位置は、後述する
図6に示すように、通常位置よりも可動案内部材44がかごガイドレール11に近付いた位置である。以下の説明では、可動案内部材44が通常位置に変位している状態を「通常状態」と呼ぶ。
【0044】
また、可動案内部材44は、案内面44aを有している。案内面44aは、かごガイドレール11の側面に対向している。また、案内面44aは、上方へ行くに従ってかごガイドレール11に近付くように、かごガイドレール11に対して傾斜している。
【0045】
複数の作動ばね45は、横移動枠体42と可動案内部材44との間に設けられている。また、複数の作動ばね45は、可動案内部材44が通常位置に位置するときに圧縮されている。
【0046】
アクチュエータ46は、横移動枠体42と可動案内部材44との間に設けられている。アクチュエータ46としては、例えばソレノイドが用いられている。
【0047】
アクチュエータ46は、かご9の通常運転時には、複数の作動ばね45に抗して、可動案内部材44を通常位置に保持する力を発生している。複数の作動ばね45は、アクチュエータ46への通電が遮断されると、可動案内部材44を作動位置に変位させる。
【0048】
作動楔47は、可動案内部材44とかごガイドレール11との間に設けられている。また、作動楔47は、案内面44aに沿って可動案内部材44に対して上下方向へ変位可能である。
【0049】
制動部材48は、横移動枠体42の内側に設けられている。また、制動部材48は、かごガイドレール11に対して可動案内部材44とは反対側において、かごガイドレール11に対向している。かご9の通常運転時には、かご9の走行を妨げないように、作動楔47及び制動部材48とかごガイドレール11との間にそれぞれ間隔が設けられている。
【0050】
複数の主ばね49は、横移動枠体42と制動部材48との間に設けられている。
【0051】
位置検出装置52は、可動案内部材44が通常位置に変位していることを検出する装置である。位置検出装置52は、例えば可動案内部材44の位置が通常位置であるときにON信号を出力し、通常位置から作動位置に向かって変位したときにOFF信号を出力する機械スイッチである。位置検出装置52から出力された検出信号は、安全監視装置6に送られる。
【0052】
4.非常止め装置20及び非常止め作動装置30において実現される動作
上述した非常止め装置20及び非常止め作動装置30は、かごガイドレール11に対するかご9の相対変位を利用することによって、作動動作、復帰動作、及び起動動作を実現する。以下、これらの動作について詳細に説明する。
【0053】
4-1.作動動作
先ず、非常止め装置20及び非常止め作動装置30の作動動作について説明する。作動動作は、非常止め作動装置30及び非常止め装置20を作動させてかご9を非常停止させるための動作である。
図6は、
図5の非常止め作動装置30の作動動作開始直後の状態を示す正面図である。かご9の下降中に安全監視装置6が作動指令信号を発生すると、巻上機3への通電が遮断される。また、アクチュエータ46への通電が遮断され、可動案内部材44が作動位置に変位し、作動楔47がかごガイドレール11に接触する。
【0054】
図7は、
図6の作動楔47が可動案内部材44に対して上方へ変位した状態を示す正面図である。作動楔47がかごガイドレール11に接触すると、作動楔47とかごガイドレール11との間に働く摩擦力によって、作動楔47が案内面44aに沿って可動案内部材44に対して上方へ変位する。これにより、可動案内部材44が複数の作動ばね45に抗して通常位置側へ押し戻される。
【0055】
図8は、
図7の作動楔47が可動案内部材44に対してさらに上方へ変位した状態を示す正面図である。可動案内部材44が通常位置まで戻った後、作動楔47が可動案内部材44に対してさらに上方へ変位すると、制動部材48がかごガイドレール11に接触する方向へ横移動枠体42が変位する。
【0056】
制動部材48がかごガイドレール11に接触した後、作動楔47が案内面44aの上端まで変位すると、横移動枠体42が第2水平位置まで変位し、複数の戻しばね43及び複数の主ばね49がそれぞれ圧縮される。これにより、作動楔47と制動部材48との間にかごガイドレール11が挟み込まれる。
【0057】
図9は、
図8の状態からかご9が下降したときの非常止め作動装置30の状態を示す正面図である。
図8の状態からかご9が下降すると、引き上げ枠体41が非上昇位置から引き上げ位置まで上方へ変位する。これにより、横移動枠体42も上方へ変位し、引き上げ棒32が引き上げられる。
【0058】
このように、可動案内部材44が作動位置に変位することにより、作動楔47がかごガイドレール11に接触して、案内面44aに沿って可動案内部材44に対して上方へ変位し、横移動枠体42が引き上げ枠体41に対して水平方向へ変位する。これにより、作動楔47と制動部材48との間にかごガイドレール11が挟み込まれて複数の主ばね49が圧縮されるとともに、引き上げ枠体41が引き上げ位置に変位する。
【0059】
図10は、
図2の引き上げ棒32が引き上げられた状態を示す正面図である。引き上げ棒32が引き上げられると、作動レバー21及び連動レバー22がそれぞれ回転し、非常止め装置20が作動する。これにより、かご9が非常停止する。
【0060】
4-2.復帰動作
次に、かご9の非常停止後の非常止め装置20及び非常止め作動装置30の復帰動作について説明する。復帰動作は、非常停止後の非常止め装置20及び非常止め作動装置30を、非常停止前の待機状態に復帰させるための動作である。非常止め装置20及び非常止め作動装置30に復帰動作をさせる場合、アクチュエータ46に対して通電が行われて、可動案内部材44が通常位置に保持される。続いて、巻上機3によって、かご9を
図10の状態から上昇させる。
【0061】
図11は、
図9の非常止め作動装置30の復帰動作開始直後の状態を示す正面図である。作動楔47及び制動部材48はかごガイドレール11を挟み込んでいるため、かご9の上昇により固定枠体40が上昇すると、横移動枠体42は、固定枠体40及びかご9に対して相対的に下降する。
【0062】
これにより、引き上げ棒32がかご9に対して相対的に下降し、作動レバー21が
図10の時計方向へ回転するとともに、連動レバー22が
図10の反時計方向へ回転する。
【0063】
図12は、
図11のかご9がさらに上昇したときの非常止め作動装置30の状態を示す正面図である。かご9がさらに上昇すると、引き上げ枠体41が非上昇位置に戻り、作動レバー21及び連動レバー22が
図2に示す位置に戻り、一対の楔部材27が
図4の状態から
図3の状態に戻る。
【0064】
図13は、
図12の作動楔47が下方向へ変位した状態を示す正面図である。
図12の状態からかご9がさらに上昇すると、作動楔47とかごガイドレール11との間に隙間が生じ、作動楔47が案内面44aに沿って落下する。
【0065】
これにより、各戻しばね43が復元し、横移動枠体42が第1水平位置に戻され、制動部材48がかごガイドレール11から離れる。
【0066】
4-3.起動動作
次に、非常止め装置20及び非常止め作動装置30の起動動作について説明する。起動動作は、エレベーターの起動時において、非常止め装置20及び非常止め作動装置30を待機状態に設定するための動作である。
【0067】
図14は、エレベーターの起動直後の非常止め作動装置30の状態を示す正面図である。エレベーターの起動時は、引き上げ枠体41の位置が非上昇位置であるため、作動レバー21及び連動レバー22の位置が
図2に示す位置となり、一対の楔部材27の状態が
図3の状態になっている。また、可動案内部材44は、複数の作動ばね45の付勢力によって作動位置に変位し、作動楔47がかごガイドレール11に接触している。起動動作において、アクチュエータ46への通電が開始されるが、アクチュエータ46は作動位置の可動案内部材44に対して通常位置に変位させる力を生じさせることはできないため、可動案内部材44及び作動楔47の位置は変化しない。
【0068】
図15は、
図14の作動楔47が可動案内部材44に対して上方へ変位した状態を示す正面図である。
図14の状態においてかご9を下降させると、作動楔47とかごガイドレール11との間に働く摩擦力によって、作動楔47が案内面44aに沿って可動案内部材44に対して上方へ変位する。これにより、可動案内部材44が複数の作動ばね45に抗して通常位置側へ押し戻され、アクチュエータ46によって通常位置に保持される。
【0069】
図16は、
図15の作動楔47が下方向へ変位した状態を示す正面図である。
図15の状態からかご9を上昇させると、作動楔47とかごガイドレール11との間に隙間が生じ、作動楔47が案内面44aに沿って落下する。これにより、非常止め装置20及び非常止め作動装置30が待機状態に設定される。
【0070】
このようなエレベーターの非常止め作動装置30では、可動案内部材44、複数の作動ばね45、アクチュエータ46、作動楔47、制動部材48、及び主ばね49が横移動枠体42に設けられている。そして、横移動枠体42が水平方向へ変位可能になっている。
【0071】
このため、復帰動作時には、かご9を上昇させることにより、作動楔47を落下させ、横移動枠体42を第1水平位置に戻し、制動部材48をかごガイドレール11から離すことができる。これにより、アクチュエータ46に要求される駆動力及び可動域を小さくすることができ、アクチュエータ46を小容量化することができる。
【0072】
また、横移動枠体42が水平方向へ変位可能であるため、通常位置と作動位置との間の距離がばらつく場合でも、非常止め装置20を安定して作動させることができる。
【0073】
また、かご9には、固定枠体40が設けられている。そして、固定枠体40は、引き上げ枠体41の上下方向への変位を案内する。このため、非上昇位置と引き上げ位置との間で引き上げ枠体41を安定して変位させることができ、非常止め装置20を安定して作動させることができる。
【0074】
さらに、起動動作時には、かご9を下降させることにより、作動楔47とかごガイドレール11との間に働く摩擦力によって、作動楔47を案内面44aに沿って可動案内部材44に対して上方へ変位させて、可動案内部材44を通常位置側へ押し戻すことができる。これにより、アクチュエータ46に要求される駆動力及び可動域を小さくすることが可能となる。
【0075】
5.実施の形態の安全システムの特徴
非常止め作動装置30は、部品の劣化或いはかごガイドレール11への油の付着等の要因によって作動楔47とかごガイドレール11との間の摩擦力が低下することがある。この場合、起動動作に必要なかご9の下降距離が延びる或いは起動できずに失敗する事態が発生するおそれがある。このような状態を放置すると装置劣化が進行するおそれがあるため、早期に検出して対策することが求められる。
【0076】
本実施の形態の安全システムは、起動動作における異常動作を検出する動作に特徴を有している。以下、安全システムの構成及び動作について説明する。
【0077】
図17は、実施の形態のエレベーターの安全システムの構成を示す図である。安全システムは、主要な構成として、位置検出装置52と、作動状態検出装置50と、かご移動量検出装置13と、安全監視装置6と、エレベーター制御装置5と、非常止め作動装置30と、非常止め装置20と、を備えている。安全監視装置6は、各種機能を実現するための処理を行う機能ブロックとして、電源制御部61と、移動距離演算部62と、位置検出部63と、異常判定部64と、信号出力部65を備える。
【0078】
電源制御部61は、非常止め作動装置30のアクチュエータ46へ供給する電源を制御するための機能ブロックである。
【0079】
移動距離演算部62は、かご移動量検出装置13から出力された検出信号に基づいて、かご9の移動距離を演算するための機能ブロックである。この処理は、以下「移動距離演算処理」と呼ばれる。
【0080】
位置検出部63は、位置検出装置52から出力された検出信号に基づいて、可動案内部材44が通常位置に変位したことを検出するための機能ブロックである。この処理は、以下「位置検出処理」と呼ばれる。
【0081】
異常判定部64は、起動動作時の動作異常有無を判定するための機能ブロックである。典型的には、異常判定部64は、起動動作中のかご9の下方向への移動距離が閾値を超えた場合に動作異常が有ると判定する。この処理は、以下「異常判定処理」と呼ばれる。ここでの閾値は、起動動作において許容されるかご9の下方向への移動距離の限界値であり、予め定められた値が用いられる。
【0082】
信号出力部65は、各種信号を出力するための機能ブロックである。信号出力部65から出力される信号は、例えば、起動動作時の動作異常を示す異常検出信号、かご9の走行を指令するための信号、アクチュエータ46へ電源を供給するための信号、等が例示される。
【0083】
安全監視装置6は、以下のフローチャートに従い起動動作を実行することにより、起動動作中の動作異常の有無を判定する。
図18は、実施の形態に係る安全システムにおいて実行される起動動作の制御ルーチンを示すフローチャートである。
図18に示すルーチンは、エレベーターの起動時において安全監視装置6によって実行される。
【0084】
ステップS100において、非常止め装置20の非作動状態が検出されたかどうかが判定される。ここでは、作動状態検出装置50から非常止め装置20の非作動状態を示すOFF信号が送信されたかどうかが判定される。その結果、非常止め装置20が非作動状態である場合、エレベーターが起動中であると判断されて、処理はステップS102に進む。一方、非常止め装置20が作動状態である場合、起動時の正常な状態ではないと判断されて、処理はステップS116に進む。
【0085】
ステップS102において、電源制御部61においてアクチュエータ46への電源の供給が行われ、処理はステップS104に進む。ステップS104では、移動距離演算部62において、移動距離演算処理が開始され、現時点からのかご9の移動距離の演算が開始される。ステップS104の処理が行われると、処理はステップS106に進む。
【0086】
ステップS106において、エレベーター制御装置5に対して、微速でかご9を規定距離だけ下降させる微速ダウン走行の指令が出力される。エレベーター制御装置5は、微速ダウン走行の指令を受けて、巻上機3を制御してかご9を下降させる。ステップS106の処理が行われると、処理はステップS108に進む。
【0087】
ステップS108では、位置検出部63において位置検出処理が実行されて、可動案内部材44が通常位置に変位したかどうかが判定される。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS112に進み、判定が不成立の場合、処理はステップS110に進む。
【0088】
ステップS110では、異常判定部64において異常判定処理が実行されて、移動距離演算処理によって演算された移動距離が閾値を超えたかどうかが判定される。その結果、判定が成立した場合、異常動作が有ると判断されて、処理はステップS116に進む。ステップS116では、信号出力部65からエレベーター制御装置5に対して異常検出信号が出力される。エレベーター制御装置5は、異常検出信号を受けて、巻上機3のブレーキを制御してかご9を緊急停止させる。ステップS116の処理が行われると、本ルーチンの処理は終了される。一方、ステップS110の判定が不成立の場合、処理は再びステップS106の処理に戻る。
【0089】
ステップS112では、エレベーター制御装置5に対して、微速でかご9を規定距離だけ上昇させる微速アップ走行の指令が出力される。エレベーター制御装置5は、微速アップ走行の指令を受けて、巻上機3を制御してかご9を上昇させる。これにより、作動楔47とかごガイドレール11との間に隙間が生じ、作動楔47が案内面44aに沿って落下する。これにより、非常止め装置20及び非常止め作動装置30が待機状態に設定される。ステップS112の処理が行われると、処理はステップS114に進む。ステップS114では、起動動作の完了を示す起動動作完了信号がエレベーター制御装置5に出力される。エレベーター制御装置5は、起動動作完了信号を受けて、通常走行を開始する。ステップS114の処理が行われると本ルーチンの処理は終了される。
【0090】
以上の起動動作によれば、起動動作中の動作異常を検出してかご9を緊急停止させることができる。これにより、非常止め作動装置30の劣化を防ぐことができ、また、作業員の立ち合いを行うことなく起動動作を完了させることができる。
【0091】
6.実施の形態の変形例
実施の形態のエレベーターの安全システムは、以下のように変形した態様を適用してもよい。
【0092】
6-1.安全監視装置6のハードウェア資源
図19は、安全監視装置のハードウェア資源の例を示す図である。安全監視装置6は、ハードウェア資源として、プロセッサ70とメモリ72とを含む処理回路74を備える。処理回路74に複数のプロセッサ70が含まれても良い。処理回路74に複数のメモリ72が含まれても良い。
【0093】
本実施の形態において、安全監視装置6が備える機能は、プログラムとして記述されたソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現できる。当該プログラムは、メモリ72に記憶される。安全監視装置6は、メモリ72に記憶されたプログラムをプロセッサ70(コンピュータ)によって実行することにより、各機能を実現する。
【0094】
プロセッサ70は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、或いはDSPともいわれる。メモリ72として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、及びEEPROM等が含まれる。
【0095】
図20は、安全監視装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
図20に示す例では、安全監視装置6は、例えばプロセッサ70、メモリ72、及び専用ハードウェア76を含む処理回路78を備える。
図20は、安全監視装置6が有する機能の一部を専用ハードウェア76によって実現する例を示す。安全監視装置6が有する機能の全部を専用ハードウェア76によって実現しても良い。専用ハードウェア76として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。
【0096】
6-2.位置検出装置52
位置検出装置52は、可動案内部材44が通常位置に変位していることを検出することが可能に構成されていれば、その配置及び検出手段の構成に限定はない。
【0097】
6-3.作動状態検出装置50
作動状態検出装置50は、非常止め装置20の状態が作動状態であるか非作動状態であるかを検出することが可能に構成されていれば、その配置及び検出手段の構成に限定はない。
【0098】
6-4.安全監視装置6
また、安全監視装置6は、かご9の過大速度及びかご9の過大加速度のいずれか一方のみを監視してもよい。
【0099】
安全監視装置6において行われる処理の一部又は全部がエレベーター制御装置5において行われてもよい。
【0100】
図18に示すルーチンのステップS106において出力される微速ダウン指令は、走行距離を規定距離に定めずに継続して走行する指令でもよい。この場合、ステップS110の異常判定処理において判定の成立が認められない場合に、ステップS108に移行すればよい。
【0101】
6-5.非常止め作動装置30
作動装置本体31に対する引き上げ棒32の接続箇所は、横移動枠体42に限らない。例えば、引き上げ棒32の上端は、可動案内部材44に回転可能に接続されてもよい。或いは、引き上げ棒32の上端は、制動部材48に回転可能に接続されてもよい。
【0102】
6-6.エレベーター
エレベーター全体のレイアウトは、
図1のレイアウトに限定されるものではない。例えば、ローピング方式は、2:1ローピング方式であってもよい。
【0103】
また、エレベーターは、機械室レスエレベーター、ダブルデッキエレベーター、ワンシャフトマルチカー方式のエレベーター等であってもよい。ワンシャフトマルチカー方式は、上かごと、上かごの真下に配置された下かごとが、それぞれ独立して共通の昇降路を昇降する方式である。
【0104】
7.その他
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、本開示は上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0105】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0106】
(付記1)
ガイドレールに沿って昇降するエレベーターのかごを非常停止させる非常止め装置と、
作動位置と通常位置との間で変位可能な可動案内部材と、前記可動案内部材を前記作動位置の側へ付勢する作動ばねと、電源の供給を受けて前記作動ばねに抗して前記可動案内部材を前記通常位置に保持するアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータへの前記電源の供給が遮断されて前記可動案内部材が前記作動位置に変位したときに前記非常止め装置を作動させる非常止め作動装置と、
前記かごの異常走行が検出された場合に前記アクチュエータへの前記電源の供給を遮断する安全監視装置と、を備え、
前記エレベーターの起動時において、前記非常止め作動装置は、前記かごの下降を含む起動動作によって前記ガイドレールから受ける力に基づいて、前記可動案内部材を前記作動位置から前記通常位置へ変位させるように構成され、
前記安全監視装置は、
前記起動動作によって前記可動案内部材が前記通常位置へ変位するまでの間に前記かごの下降距離が閾値を超えた場合に、異常検出信号を出力する
ように構成されるエレベーターの安全システム。
(付記2)
前記エレベーターの起動時において、前記安全監視装置は、前記アクチュエータへ前記電源を供給するように構成される付記1に記載のエレベーターの安全システム。
(付記3)
前記安全監視装置から出力される動作指令に従い前記かごの走行を制御する走行制御装置と、
前記可動案内部材が前記通常位置へ変位した通常状態を検出する位置検出装置と、を備え、
前記エレベーターの起動時において、前記安全監視装置は、前記位置検出装置が前記通常状態を検出するまでの期間は前記かごを下降させる動作指令を前記走行制御装置に出力し、前記位置検出装置が前記通常状態を検出した場合、前記かごを一旦上昇させた後に停止させる動作指令を前記走行制御装置に出力する
ように構成される付記1又は付記2に記載のエレベーターの安全システム。
(付記4)
前記走行制御装置は、前記異常検出信号を受けて前記かごを緊急停止させるように構成される付記3に記載のエレベーターの安全システム。
(付記5)
前記安全監視装置は、前記かごの速度又は加速度が判定値に達した場合に、前記かごの前記異常走行を検出するように構成される付記1から付記3の何れか1項に記載のエレベーターの安全システム。
(付記6)
前記非常止め作動装置は、
前記かごに対して、非上昇位置と、前記非上昇位置よりも上方の位置である引き上げ位置との間で上下方向へ変位可能であり、前記非上昇位置から前記引き上げ位置へ変位する引き上げ枠体と、
前記かごに対する前記引き上げ枠体の上下方向の変位を前記非常止め装置に伝達し、前記非常止め装置を作動させる伝達機構と、
第1水平位置と第2水平位置との間で、前記引き上げ枠体に対して水平方向へ変位可能に、前記引き上げ枠体に設けられている横移動枠体と、
前記引き上げ枠体と前記横移動枠体との間に設けられており、前記横移動枠体を前記第1水平位置に戻す力を発生する戻しばねと、を備え、
前記可動案内部材は、前記ガイドレールに対向し且つ上方へ行くに従って前記ガイドレールに近付くように前記ガイドレールに対して傾斜した案内面を有し、前記通常位置と前記作動位置との間で前記横移動枠体に対して水平方向へ変位可能に、前記横移動枠体に設けられ、
前記作動ばねは、前記横移動枠体と前記可動案内部材との間に設けられ、
前記非常止め作動装置は、
前記可動案内部材と前記ガイドレールとの間に設けられ、前記案内面に沿って前記可動案内部材に対して上下方向へ変位可能な作動楔と、
前記横移動枠体に設けられ、前記ガイドレールに対して前記可動案内部材とは反対側において前記ガイドレールに対向している制動部材と、
前記横移動枠体と前記制動部材との間に設けられている主ばねと、を備え、
前記可動案内部材が前記作動位置に変位することにより、前記作動楔が前記ガイドレールに接触して前記案内面に沿って前記可動案内部材に対して上方へ変位し、前記横移動枠体が前記引き上げ枠体に対して水平方向へ変位し、前記作動楔と前記制動部材との間に前記ガイドレールが挟み込まれて前記主ばねが圧縮されるとともに、前記引き上げ枠体が前記引き上げ位置に変位するように構成される付記1から付記5の何れか1項に記載のエレベーターの安全システム。
(付記7)
前記かごに設けられ、前記引き上げ枠体の上下方向への変位を案内する固定枠体を更に備える付記6に記載のエレベーターの安全システム。
(付記8)
前記伝達機構は、前記横移動枠体と前記非常止め装置との間に接続されている付記6又は付記7に記載のエレベーターの安全システム。
【符号の説明】
【0107】
1 昇降路、 2 機械室、 3 巻上機、 4 そらせ車、 5 エレベーター制御装置、 6 安全監視装置、 7 駆動シーブ、 8 懸架体、 11 かごガイドレール、 12 釣合おもりガイドレール、 13 かご移動量検出装置、 20 非常止め装置、 21 作動レバー、 21a 作動レバー軸、 22 連動レバー、 22a 連動レバー軸、 23 連結棒、 24 非常止め枠、 25 楔ガイド、 27 楔部材、 28 楔連結リンク、 30 非常止め作動装置、 31 作動装置本体、 32 引き上げ棒、 40 固定枠体、 41 引き上げ枠体、 42 横移動枠体、 44 可動案内部材、 44a 案内面、 46 アクチュエータ、 47 作動楔、 48 制動部材、 50 作動状態検出装置、 52 位置検出装置、 61 電源制御部、 62 移動距離演算部、 63 位置検出部、 64 異常判定部、 65 信号出力部、 70 プロセッサ、 72 メモリ、 74 処理回路、 76 専用ハードウェア、 78 処理回路
【要約】
【課題】非常止め作動装置を待機状態へと移行させる起動動作において、動作異常を検出して部品劣化の進行を防ぐ。
【解決手段】非常止め作動装置は、作動位置と通常位置との間で変位可能な可動案内部材と、作動位置の側へ付勢された可動案内部材を通常位置に保持するアクチュエータと、を備える。安全監視装置は、かごの異常走行が検出された場合にアクチュエータへの電源の供給を遮断し、これにより、非常止め作動装置は非常止め装置を作動させる。エレベーターの起動時において、非常止め作動装置は、かごの下降を含む起動動作によって可動案内部材を作動位置から通常位置へ変位させて待機状態に設定される。安全監視装置は、起動動作によって可動案内部材が通常位置へ変位するまでの間にかごの下降距離が閾値を超えた場合に、異常検出信号を出力する。
【選択図】
図18