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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】船舶推進機の冷却装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/38 20060101AFI20250415BHJP
   B63H 20/28 20060101ALI20250415BHJP
   B63H 20/00 20060101ALI20250415BHJP
   F01P 11/04 20060101ALI20250415BHJP
   F01P 11/06 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B63H21/38 A
B63H20/28 100
B63H20/00 410
F01P11/04 F
F01P11/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024220370
(22)【出願日】2024-12-16
(62)【分割の表示】P 2022003015の分割
【原出願日】2022-01-12
(65)【公開番号】P2025028248
(43)【公開日】2025-02-28
【審査請求日】2024-12-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑典
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-191652(JP,A)
【文献】特開2021-187279(JP,A)
【文献】特開2020-163872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0182949(US,A1)
【文献】スズキ、世界初の船外機用マイクロプラスチック回収装置を開発,ニュースリリース,日本,スズキ株式会社,2020年10月01日,https://www.suzuki.co.jp/release/c/2020/1001/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/38
B63H 20/28
B63H 20/00
F01P 11/04
F01P 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進機に設けられ、前記船舶推進機外の水を前記船舶推進機内に取り込み、当該取り込んだ水を冷却水として前記船舶推進機の動力源の周囲または内部に流すことにより前記動力源を冷却し、前記動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を前記船舶推進機外に排出する船舶推進機の冷却装置であって、
前記動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を前記船舶推進機外へ排出するための排水通路と、
前記排水通路の上流部と下流部との間に接続され、前記排水通路の上流部から前記排水通路の下流部に向かって流れる冷却水に含まれる微細物体を捕集する捕集器と、
前記排水通路の上流部と下流部との間に前記捕集器と並列に接続されたバイパス通路とを備え、
前記捕集器は、
前記微細物体を捕え、冷却水を通過させる捕集器本体と、
上部と下部とに分割可能に形成され、前記捕集器本体を収容し、前記上部が前記排水通路の上流部に接続されたケースと、
可撓性を有し、上端部が前記ケースの下部に接続され、下端部が前記排水通路の下流部に接続された接続管とを備え、
前記接続管の上端部と下端部との間には第1の曲がり部が設けられ、
前記接続管の前記第1の曲がり部と下端部との間には第2の曲がり部が設けられ、
前記接続管は、その上端部から前記ケースの上下方向に伸長した軸線に沿うように下方に伸長し、その後、前記第1の曲がり部において前記軸線から離れる方向に曲がり、その後、前記第2の曲がり部において前記軸線に近づく方向に曲がり、
前記接続管および前記バイパス通路を上方から見たとき、前記接続管において前記第1の曲がり部から前記第2の曲がり部にかけての部分の軸線は、前記接続管の上端部の軸心および前記バイパス通路の軸心の双方を通る直線と交わることを特徴とする船舶推進機の冷却装置。
【請求項2】
前記排水通路の上流部を前記捕集器および前記バイパス通路に並列に接続する分岐管を備え、前記分岐管は前記ケースの上部と一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶推進機の冷却装置。
【請求項3】
前記ケースの下部と前記接続管とを互いに接続する接続管部を備え、前記接続管部は前記ケースの下部と一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶推進機の冷却装置。
【請求項4】
前記捕集器および前記バイパス通路は前記動力源の後部側方に配置され、前記バイパス通路は前記捕集器の前方に配置され、前記接続管において前記第1の曲がり部から前記第2の曲がり部にかけての部分は、前記動力源の左右方向中央側に向かって伸長していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の船舶推進機の冷却装置。
【請求項5】
前記接続管は前記動力源の後端よりも後ろ側にはみ出していないことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の船舶推進機の冷却装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水、湖水等の水中に拡散した微細な物体を捕集する機能を備えた船舶推進機の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプラスチック等の微細なゴミが海水、湖水、河川水等の水中に拡散することによって起こる海、湖、河川等の汚染が問題となっている。また、養殖に用いられた餌の滓等が海水、湖水、河川水等の水中に拡散することによって海、湖、河川等が汚染されることが知られている。このような汚染を抑制すべく、マイクロプラスチック等の微細なゴミ、餌の滓等(以下、これらを「微細物体」という。)を捕集して回収することが望まれている。
【0003】
下記の特許文献1には、微細物体を捕集する機能を備えた冷却装置が搭載された船外機が記載されている。当該冷却装置は、ポンプを利用して、海水または湖水等の水を船外機内に取り込み、取り込んだ水を、冷却水として、船外機のエンジンに設けられたウォータジャケットに供給する。ウォータジャケットに供給された冷却水は、ウォータジャケット内を流通し、これによりエンジンが冷却される。また、ウォータジャケット内を流通した後の冷却水は、排水パイプ内を流れ、排水パイプの途中に設けられたろ過装置内を通過し、その後、船外機外へ排出される。冷却水がろ過装置内を通過することにより、冷却水中の微細物体がろ過装置により捕捉され、冷却水から除去される。このように、当該冷却装置によれば、海水または湖水等を船外機内に取り込み、取り込んだ海水または湖水等に含まれる微細物体をろ過装置により捕集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-163872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9(A)は、特許文献1の図3に図示された冷却装置における排水パイプおよびろ過装置を示している。図9(A)において、133は排水パイプであり、135はろ過装置である。また、図9(B)は、図9(A)中の排水パイプ133およびろ過装置135を、図9(A)中の矢印Sが示す方向から見た状態を示している。また、図9(A)および図9(B)中において、矢印Xは、排水パイプ133およびろ過装置135内における冷却水の流れる方向を示している。図9(B)に示すように、特許文献1の冷却装置においては、冷却水がろ過装置135内を大きく屈曲しながら流れるため、冷却水の流路の圧力損失が増加し、冷却水の流れが悪くなるおそれがある。
【0006】
そこで、冷却水の流路の圧力損失の増加を抑えるために、図10に示すように、ウォータジャケット内を流通した後の冷却水を船外機の排水口へ送水する排水通路を上側排水通路部201と下側排水通路部202とに分割し、ろ過装置203を、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間に、上側排水通路部201および下側排水通路部202と同軸状に配置する方法が考えられる。この方法によれば、図10中の矢印Yが示すように、冷却水が上側排水通路部201内、ろ過装置203内、および下側排水通路部202内を直線状に流れるため、冷却水の流路の圧力損失の増加を抑えることができ、冷却水の流れを良くすることができる。
【0007】
しかしながら、ろ過装置203を、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間にこれらと同軸状に配置した場合、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間からろ過装置203を取り外すことが困難となり、ろ過装置203のメンテナンス(例えばフィルタに蓄積された微細物体の除去等)がやり難くなるという問題が生じる。
【0008】
すなわち、上側排水通路部201の下端部はろ過装置203の上部に挿入され、嵌合されており、下側排水通路部202の上端部はろ過装置203の下部に挿入され、嵌合されている。そのため、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間からろ過装置203を取り外すためには、例えば、上側排水通路部201の下端部に対してろ過装置203を下方に移動させて上側排水通路部201とろ過装置203とを分離させることができるようにし、または下側排水通路部202の上端部に対してろ過装置203を上方に移動させて下側排水通路部202とろ過装置203とを分離させることができるようにするなど、ろ過装置203を上側排水通路部201または下側排水通路部202に対して上下方向に移動させることができるようにする必要がある。しかしながら、上側排水通路部201および下側排水通路部202が剛性の高いパイプまたはホース等である場合には、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間に挟まれているろ過装置203を上方にも下方にも移動させることが困難である。それゆえ、上側排水通路部201と下側排水通路部202との間からろ過装置203を取り外すことは困難である。
【0009】
この点、上側排水通路部201または下側排水通路部202として、剛性の低いゴムホース等を用いるようにすれば、そのゴムホースを手で曲げることにより、ろ過装置203を上側排水通路部201と下側排水通路部202との間から容易に取り外すことができるようになる。しかしながら、上側排水通路部201および下側排水通路部202については、振動、衝撃または熱等に対する耐久性を高める必要がある。そのため、上側排水通路部201または下側排水通路部202としてゴムホースを用いる場合でも、例えば強化繊維入りのゴムホース、または肉厚の厚いゴムホースを用いる必要があり、その結果、ゴムホースの剛性が高くなる。すなわち、上側排水通路部201および下側排水通路部202の耐久性を高める必要に応じるために、上側排水通路部201または下側排水通路部202として、手で容易に曲げることができるような剛性の低いゴムホース等を用いることは困難である。
【0010】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、冷却水の流れの悪化を抑制しつつ、微細物体を捕集する捕集器(ろ過装置)のメンテナンスの容易化を図ることができる船舶推進機の冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶推進機に設けられ、前記船舶推進機外の水を前記船舶推進機内に取り込み、当該取り込んだ水を冷却水として前記船舶推進機の動力源の周囲または内部に流すことにより前記動力源を冷却し、前記動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を前記船舶推進機外に排出する船舶推進機の冷却装置であって、前記動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を前記船舶推進機外へ排出するための排水通路と、前記排水通路の上流部と下流部との間に接続され、前記排水通路の上流部から前記排水通路の下流部に向かって流れる冷却水に含まれる微細物体を捕集する捕集器と、前記排水通路の上流部と下流部との間に前記捕集器と並列に接続されたバイパス通路とを備え、前記捕集器は、前記微細物体を捕え、冷却水を通過させる捕集器本体と、上部と下部とに分割可能に形成され、前記捕集器本体を収容し、前記上部が前記排水通路の上流部に接続されたケースと、可撓性を有し、上端部が前記ケースの下部に接続され、下端部が前記排水通路の下流部に接続された接続管とを備え、前記接続管の上端部と下端部との間には第1の曲がり部が設けられ、前記接続管の前記第1の曲がり部と下端部との間には第2の曲がり部が設けられ、前記接続管は、その上端部から前記ケースの上下方向に伸長した軸線に沿うように下方に伸長し、その後、前記第1の曲がり部において前記軸線から離れる方向に曲がり、その後、前記第2の曲がり部において前記軸線に近づく方向に曲がり、前記接続管および前記バイパス通路を上方から見たとき、前記接続管において前記第1の曲がり部から前記第2の曲がり部にかけての部分の軸線は、前記接続管の上端部の軸心および前記バイパス通路の軸心の双方を通る直線と交わることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷却水の流れの悪化を抑制しつつ、微細物体を捕集する捕集器のメンテナンスの容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例の冷却装置が設けられた船外機を示す全体図である。
図2】本発明の実施例における船外機のエンジンを左方から見た状態を示す外観図である。
図3図2中のエンジンを後方から見た状態を示す外観図である。
図4】本発明の実施例の冷却装置の構成を示す説明図である。
図5図3中の切断線V-Vに沿って切断した排水通路の上流部、捕集器、排水通路の下流部、およびバイパス通路を示す断面図である。
図6図5中のケースおよびフィルタカートリッジを拡大して示す断面図である。
図7】本発明の実施例において、下側ケース部を上側ケース部から分離させて上側ケース部からフィルタカートリッジを取り外す方法を示す説明図である。
図8図5中の切断線VIII-VIIIに沿って切断した接続ホースおよびバイパス管等を上方から見た状態を示す断面図である。
図9】従来の冷却装置における排水パイプおよびろ過装置を示す説明図である。
図10】互いに同軸状に配置されたろ過装置および排水通路部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の船舶推進器の冷却装置は、船舶推進機に設けられ、船舶推進機外の水を船舶推進機内に取り込み、当該取り込んだ水を冷却水として船舶推進機の動力源の周囲または内部に流すことにより動力源を冷却し、動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を船舶推進機外に排出する冷却装置であって、動力源の周囲または内部を流れた後の冷却水を船舶推進機外へ排出するための排水通路と、排水通路の上流部と下流部との間に介在し、排水通路の上流部から排水通路の下流部に向かって流れる冷却水に含まれる微細物体を捕集する捕集器とを備えている。
【0015】
また、捕集器は、微細物体を捕え、冷却水を通過させる捕集器本体と、上下方向に伸長した軸線を有する筒状に形成され、捕集器本体を収容するケースと、上下方向に伸長し、上端部が排水通路の上流部に接続され、下端部がケースの上部に接続され、排水通路の上流部からケース内へ冷却水を流す上側接続管と、可撓性を有し、上端部がケースの下部に接続され、下端部が排水通路の下流部に接続され、ケースから排水通路の下流部へ冷却水を流す下側接続管とを備えている。
【0016】
また、下側接続管の上端部と下端部との間には第1の曲がり部が設けられ、下側接続管の第1の曲がり部と下端部との間には第2の曲がり部が設けられている。また、下側接続管は、その上端部からケースの軸線に沿うように下方に伸長し、続いて第1の曲がり部において曲がり、続いてケースの軸線から離れるようにケースの軸線に対して傾斜しつつ下方に伸長し、続いて第2の曲がり部において曲がり、続いてケースの軸線に近づくようにケースの軸線に対して傾斜しつつ下方に伸長している。
【0017】
本実施形態の冷却装置において、ケースは上下方向に伸長した軸線を有する筒状に形成され、上側接続管は排水通路の上流部とケースとの間を上下方向に伸長している。また、下側接続管は、第1の曲がり部および第2の曲がり部を有しているものの、下側接続管の上端から第1の曲がり部にかけての部分はケースの軸線に沿うように下方に伸長し、下側接続管の第1の曲がり部から第2の曲がり部にかけての部分はケースの軸線に対して傾斜しつつ下方に伸長し、下側接続管の第2の曲がり部から下端部にかけての部分はケースの軸線に対して傾斜しつつ下方に伸長している。したがって、下側接続管は、全体的に見れば、ケースと排水通路の下流部との間を上下方向に伸長している。このように、排水通路の上流部と排水通路の下流部との間に介在する捕集器における冷却水の流路は、図9(B)に示す従来技術の流路のように大きく屈曲していない。したがって、捕集器における冷却水の流路の圧力損失の増加を抑えることができ、捕集器における冷却水の流れを良くすることができる。
【0018】
また、本実施形態の冷却装置の捕集器において、下側接続管には第1の曲がり部および第2の曲がり部が設けられ、下側接続管の第1の曲がり部から第2の曲がり部にかけての部分、および下側接続管の第2の曲がり部から下端部にかけての部分は、上下方向に伸長したケースの軸線に対して傾斜している。したがって、利用者は、下側接続管の上部を手で握って下方に力を加えることにより、下側接続管を容易に撓ませることができ、下側接続管の上端部を容易に下方に移動させることができる。例えば、下側接続管の上端部を下方に移動させて、ケースを上側接続管および下側接続管から取り外すことができるように構成し、または、下側接続管の上端部を下方に移動させて、ケースの一部をケースから分離することができるように構成することで、利用者は、ケース内に収容された捕集器本体のメンテナンス(例えば捕集器本体に蓄積された微細物体の除去)を容易に行うことができるようになる。
【実施例
【0019】
以下、図1~8を参照しながら、本発明の船舶推進機の冷却装置の実施例について説明する。なお、実施例において、前(Fd)、後(Bd)、上(Ud)、下(Dd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を述べる際には、図1~8中の左下に描いた矢印に従う。
【0020】
(船外機)
図1は、船舶推進機の一形態である船外機1の全体を左方から見た状態を示している。図1に示すように、船外機1は、動力源としてのエンジン2と、エンジン2の動力を受けて回転するドライブシャフト3と、船舶の推進力を生成するプロペラ4と、プロペラ4が取り付けられたプロペラシャフト5と、ドライブシャフト3の回転をプロペラシャフト5に伝達するギヤ機構6とを備えている。また、図示を省略しているが、ギヤ機構6には、ドライブシャフト3からプロペラシャフト5へ伝達される回転の方向を切り替えるシフト装置が設けられている。エンジン2は船外機1の上部に配置されている。ギヤ機構6、プロペラシャフト5およびプロペラ4は船外機1の下部に配置されている。ドライブシャフト3はエンジン2とギヤ機構6との間を上下方向に伸長している。
【0021】
また、エンジン2の下部はエンジンボトムカバー7により覆われ、エンジン2の上下方向中間部および上部はエンジントップカバー8により覆われている。エンジントップカバー8はエンジンボトムカバー7に着脱可能に取り付けられている。エンジントップカバー8を取り外すことにより、エンジン2において上下方向中間部から上部にかけての広範囲の部分を露出させることができる。また、ドライブシャフト3の上部はアッパーケース9により覆われ、ドライブシャフト3の上下方向中間部はミドルケース10により覆われている。また、ドライブシャフト3の下部、ギヤ機構6およびプロペラシャフト5の前部はロアケース11により覆われている。
【0022】
図2はエンジン2を左方から見た状態を示している。図3はエンジン2を後方から見た状態を示している。エンジン2は例えば4サイクル4気筒のガソリンエンジンであり、エンジン2の冷却方式は水冷式である。エンジン2はクランクシャフトの伸長方向が上下方向となるように配置されている。図2に示すように、エンジン2において、前部にクランクケース12が配置され、クランクケース12の後方にシリンダブロック13が配置され、シリンダブロック13の後方にシリンダヘッド14が配置されている。また、シリンダヘッド14の後部がシリンダヘッドカバー15により覆われている。
【0023】
また、図1に示すように、船外機1には、エンジン2から排出された排気ガスを船外機1外へ排出するための排気通路16が設けられている。排気通路16の上端側は、エンジン2のシリンダヘッド14に設けられた排気口に接続され、排気通路16の下端側は、船外機1における下部の後部に設けられた排気室17に接続されている。本実施例の船外機1においては、排気室17は、ミドルケース10内の後部からロアケース11内の後部にかけての部分に設けられている。エンジン2の排気口から排出された排気ガスは、排気通路16を介して排気室17に送られ、その後、例えばプロペラ4の軸部に設けられた排出口を介して船外機1外へ排出される。なお、図2および図3では、エンジン2の排気口および排気通路16の図示を省略している。
【0024】
(冷却装置)
船外機1は、海水、湖水または河川水等、船外機1の周囲の水を冷却水として用いることにより、船外機1におけるエンジン2その他の発熱部分を冷却するための冷却装置21を備えている。図4は冷却装置21の構成を示している。
【0025】
冷却装置21は、図4に示すように、取水口22、取水通路23、ウォータポンプ24、給水通路25、ウォータジャケット26、排水通路27、サーモスタット28、プレッシャーバルブ29、および捕集器31を備えている。
【0026】
取水口22は、船外機1の周囲の水を船外機1内に取り込む口であり、船外機1において水面下に沈む部分、具体的にはロアケース11の一部に設けられている(図1参照)。また、取水口22には、石、藻等、微細物体よりも大きい物体が海水、湖水または河川水等と共に船外機1内に入ることを防止するためのストレーナ、または多数の小孔を有するカバーが設けられている。
【0027】
取水通路23は、取水口22から船外機1内に取り込まれた水をウォータポンプ24に吸水させるための通路であり、ロアケース11の内部に設けられている。
【0028】
ウォータポンプ24は、取水口22から船外機1内に取り込まれた水を吸水し、吸水した水を冷却水として吐出するポンプであり、例えばロアケース11またはミドルケース10の内部に設けられている。また、ウォータポンプ24はドライブシャフト3の回転を利用して作動する。
【0029】
給水通路25は、ウォータポンプ24から吐出された冷却水をウォータジャケット26に送水するための通路であり、例えば、ミドルケース10、アッパーケース9およびエンジンボトムカバー7の内部に設けられたホースまたはパイプ等により形成されている。
【0030】
ウォータジャケット26は、給水通路25を介して送水された冷却水をエンジン2の周囲または内部に流すことによりエンジン2を冷却する機構であり、エンジン2の周囲または内部に設けられている。
【0031】
排水通路27は、ウォータジャケット26内を流れた後の冷却水を船外機1外へ排出するための通路であり、例えば、エンジントップカバー8、エンジンボトムカバー7およびアッパーケース9等の内部に設けられたホースまたはパイプ等により形成されている。排水通路27の上流側の端部は、図2に示すように、シリンダヘッド14の上部に配置されたウォータジャケット26の出口26Aに接続されている。また、排水通路27は、ウォータジャケット26の出口26Aからエンジン2の後部の左上側へ伸長した後、捕集器31を経由し、その後、エンジンボトムカバー7およびアッパーケース9の内部を下方に伸長している。そして、排水通路27の下流側の端部は、図4に示すように排気室17に接続されている。
【0032】
サーモスタット28は、エンジン2の暖機を行うため、またはエンジン2の過冷却を防ぐために冷却水の流れを制限する装置であり、例えばウォータジャケット26の出口26Aの付近に設けられている。サーモスタット28は、ウォータジャケット26内を流れる冷却水の温度が所定の基準温度以上となったときに開弁し、当該冷却水の温度が上記基準温度未満となったときに閉弁する。
【0033】
プレッシャーバルブ29は、サーモスタット28により冷却水の流れが制限されているときに、ウォータポンプ24から吐出された冷却水を排気室17側へ逃がすことにより、給水通路25内またはウォータジャケット26内の水圧を下げるためのバルブである。プレッシャーバルブ29は、例えばノーマルクローズ弁であり、給水通路25内の水圧が所定の基準圧を超えたときに開弁する。
【0034】
捕集器31は、排水通路27内を流れる冷却水に含まれる微細物体を捕集する装置である。捕集器31については後に詳述する。
【0035】
このような構成を有する冷却装置21において、ウォータポンプ24が作動し、サーモスタット28が開弁し、かつプレッシャーバルブ29が閉弁しているときには、船外機1の周囲の水が取水口22から船外機1内に取り込まれ、その水が取水通路23および給水通路25を順次流れ、冷却水としてウォータジャケット26に送られる。ウォータジャケット26に送られた冷却水は、ウォータジャケット26内を流れ、これにより、エンジン2が冷却される。ウォータジャケット26内を流れた冷却水は、ウォータジャケット26の出口26Aから排水通路27内に流入し、排水通路27内を流れ、途中、捕集器31を経由し、その後、排気室17内に放出される。排気室17内に放出された冷却水は、排気ガスと共に、例えばプロペラ4の軸部に設けられた排出口を介して船外機1外へ排出される。一方、ウォータポンプ24が作動し、サーモスタット28が閉弁し、かつプレッシャーバルブ29が開弁しているときには、取水口22から船外機1内に取り込まれた水は、取水通路23および給水通路25を順次流れるも、ウォータジャケット26に到達する前に、開弁しているプレッシャーバルブ29を介して排気室17側へ送られ、排気室17内に放出される。排気室17内に放出された冷却水は、排気ガスと共に船外機1外へ排出される。
【0036】
(捕集器)
捕集器31は、上述したように、排水通路27内を流れる冷却水に含まれる微細物体を捕集する装置である。微細物体は、例えばマイクロプラスチック等の微細なゴミ、または養殖に用いられた餌の滓等である。微細物体の大きさは、例えば、約0.1mm以上かつ約5mm以下である。微細物体は、このような大きさであるため、取水口22に設けられたストレーナまたは多数の小孔を有するカバーにより除去されない。すなわち、ウォータポンプ24が作動し、サーモスタット28が開弁し、かつプレッシャーバルブ29が閉弁しているとき、微細物体は、海水、湖水または河川水等と共に取水口22から船外機1内に入り、取水通路23、給水通路25、ウォータジャケット26および排水通路27の上流部27Aを通って捕集器31に流入する。
【0037】
捕集器31は、図2および図3に示すように、エンジン2の後部の左方に配置されている。また、捕集器31は、排水通路27の上流部27Aと下流部27Bとの間に介在している。また、捕集器31は後述のバイパス通路56と共にエンジントップカバー8内に配置される。
【0038】
排水通路27の上流部27Aは、排水通路27において、エンジン2の前後方向中間部かつ左右方向中間部の上方からエンジン2の後ろ上側部分の左方に至るまでの領域内に位置する部分である。具体的には、排水通路27の上流部27Aは、排水通路27において、シリンダヘッド14の上部に配置されたウォータジャケット26の出口26Aからシリンダヘッドカバー15の上部の左方の位置まで伸長している部分である。排水通路27の上流部27Aは、耐熱性および剛性の高い樹脂製もしくは耐食性の高い金属製のパイプ、または耐熱性および剛性の高いゴム製のホース等により形成されている。また、排水通路27の上流部27Aは、ウォータジャケット26の出口26Aから左方に伸長した後に曲がり、その後、エンジン2の後ろ上側部分の左方を下方に傾斜しつつ後方に伸長した後に曲がり、その後、エンジン2の後ろ上側部分の左方を後方に水平に伸長した後に曲がり、その後、エンジン2の後ろ上側部分の左方を下方に垂直に伸長している。そして、排水通路27の上流部27Aの下端の口は下を向いている。
【0039】
また、排水通路27の下流部27Bは、排水通路27において、エンジン2の後部の左下部から排気室17に至るまでの領域内に位置する部分である。排水通路27の下流部27Bの上端部は、エンジン2の筐体の後部の左下部に形成された排水穴30により形成されている。また、排水通路27の下流部27Bにおいて、その上端部よりも下の部分は、エンジンボトムカバー7およびアッパーケース9等の内部に設けられたホースまたはパイプ等により形成されている。また、排水通路27の下流部27Bの上端部、すなわち排水穴30は、若干右方に傾斜しているものの下方に伸長しており、排水穴30の上端の口は上を向いている。
【0040】
図5は、図3中の切断線V-Vに沿って切断した排水通路27の上流部27A、捕集器31、排水通路27の下流部27Bの上端部、およびバイパス通路56の断面を左方から見た状態を示している。捕集器31は、図5に示すように、フィルタカートリッジ32、ケース41、分岐管53、接続ホース54、および合流管55を有している。なお、フィルタカートリッジ32は「捕集器本体」の具体例であり、接続ホース54は「接続管」の具体例である。
【0041】
図6は、図5中のフィルタカートリッジ32およびケース41を拡大して示している。図6に示すように、フィルタカートリッジ32は、微細物体を捕え、冷却水を通過させるフィルタ33、およびフィルタ33を保持するホルダ34を有している。フィルタ33は、例えば不織布または樹脂メッシュ等により形成され、上側が開き、下側が閉じた袋状に形成されている。ホルダ34は、耐熱性および剛性の高い樹脂、または耐食性の高い金属等により、上下方向に伸長した軸線を有する筒状に形成されている。また、ホルダ34の周壁部には複数の通水穴37が設けられている。フィルタ33は、各通水穴37およびホルダ34の下側の開口部36を覆うようにホルダ34の内部に配置されている。また、フィルタ33の上部は、例えば接着剤等によりホルダ34の上部の内周面に貼り付けられ、固定されている。
【0042】
また、ホルダ34の上部の外周面に形成された環状の凹部内には、Oリング38が設けられている。Oリング38は、上側ケース部42の内面を押圧しつつ当該内面に接触している。Oリング38は、上側ケース部42から下側ケース部45が分離されたときに、ホルダ34が上側ケース部42から容易に脱落しないように、ホルダ34を上側ケース部42に抜け止めする機能を有している。
【0043】
ケース41は、フィルタカートリッジ32を収容する部材である。ケース41は、耐熱性および剛性の高い樹脂、または耐食性の高い金属等により、上下方向に伸長した軸線を有する筒状に形成されている。また、ケース41は、当該ケース41の上部を形成する上側ケース部42と、当該ケース41の下部を形成する下側ケース部45とに分割されている。
【0044】
上側ケース部42の上側の開口部43には分岐管53の第1の流出管部53Bの下端部が接続されている。本実施例においては、上側ケース部42が分岐管53の第1の流出管部53Bと一体形成されている。また、上側ケース部42の下部には、上側ケース部42の上部の外径および内径と比較して大きい外径および内径を有する大径部44が形成され、大径部44の外周面にはねじが形成されている。
【0045】
一方、下側ケース部45の下方には接続管部46が設けられ、下側ケース部45と接続管部46とは一体化している。また、接続管部46の下端部には接続ホース54の上端部が接続されている。また、下側ケース部45の上部には、下側ケース部45の下部の外径と比較して大きい外径を有する鍔部47が形成され、鍔部47は上側ケース部42の大径部44内に挿入されている。
【0046】
また、下側ケース部45は結合部材51により上側ケース部42に分離可能に結合されている。すなわち、下側ケース部45の外周側には、下側ケース部45を上側ケース部42に分離可能に結合する結合部材51が設けられている。結合部材51は例えば樹脂または金属により筒状に形成されている。結合部材51の上部の内径は、上側ケース部42の大径部44の外径と略等しく、結合部材51の上部の内面には、上側ケース部42の大径部44に形成されたねじと螺合するねじが形成されている。また、結合部材51の下部の内径は、下側ケース部45の鍔部47の外径よりも小さく、かつ下側ケース部45の下部の外径よりも大きい。結合部材51は下側ケース部45の周囲を回転することができる。結合部材51を上側ケース部42の大径部44に螺着することにより、下側ケース部45を上側ケース部42に結合し、固定することができる。また、結合部材51を上側ケース部42の大径部44から取り外すことにより、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させることができる。また、下側ケース部45の下端部の外周面には、結合部材51が上側ケース部42の大径部44から取り外されたときに、結合部材51が下側ケース部45から脱落することを防止するための突出部48が形成されている。
【0047】
また、下側ケース部45の上面には、下側ケース部45が上側ケース部42に結合されたときに、上側ケース部42と下側ケース部45との間をシールするためのOリング50が設けられている。
【0048】
フィルタカートリッジ32の上部は上側ケース部42内に装着され、ホルダ34の上部に設けられたOリング38により上側ケース部42内に抜け止めされている。また、上側ケース部42に下側ケース部45が結合された状態では、フィルタカートリッジ32の下部は下側ケース部45により覆われ、フィルタカートリッジ32は上側ケース部42と下側ケース部45との間に保持されている。また、フィルタカートリッジ32はケース41と同軸に配置され、フィルタカートリッジ32のホルダ34の上側の開口部35の位置と上側ケース部42の上側の開口部43の位置とは互いに一致し、また、ホルダ34の下側の開口部36の位置と下側ケース部45の下側の開口部49の位置とは互いに一致している。
【0049】
また、図6中の二点鎖線Pは、上側ケース部42に下側ケース部45が結合された状態において、下側ケース部45の上端の上下方向における位置を示している。また、図6中の二点鎖線Qは、互いに結合された上側ケース部42と下側ケース部45との間にフィルタカートリッジ32が保持された状態において、フィルタカートリッジ32の上下方向における中央の位置を示している。二点鎖線P、Qを見るとわかる通り、上側ケース部42に下側ケース部45が結合され、上側ケース部42と下側ケース部45との間にフィルタカートリッジ32が保持された状態において、下側ケース部45の上端は、フィルタカートリッジ32の上下方向における中央よりも下側に位置している。
【0050】
冷却水は、分岐管53の第1の流出管部53Bから、上側ケース部42の上側の開口部43、およびホルダ34の上側の開口部35を順次通って、フィルタカートリッジ32のホルダ34内に配置された袋状のフィルタ33内に流入する。フィルタ33内に流入した冷却水は、フィルタ33を通り抜け、ホルダ34の下側の開口部36、下側ケース部45の下側の開口部49、および接続管部46内を順次通って、接続ホース54内に流入する。冷却水がフィルタ33を通るときに、冷却水中の微細物体がフィルタ33により捕捉され、微細物体が冷却水中から除去される。
【0051】
分岐管53は、図5に示すように、排水通路27の上流部27Aとケース41とを接続し、かつ排水通路27の上流部27Aとバイパス通路56とを接続する管である。分岐管53は、耐熱性および剛性の高い樹脂、または耐食性の高い金属等により形成されている。分岐管53は流入管部53A、第1の流出管部53B、および第2の流出管部53Cを有している。
【0052】
分岐管53において、流入管部53Aは上側に位置し、第1の流出管部53Bは下側に位置している。流入管部53Aと第1の流出管部53Bとは同軸に配置され、分岐管53において流入管部53Aから第1の流出管部53Bにかけての部分は上下方向に直線状に伸長している。また、流入管部53Aの上端部は排水通路27の上流部27Aの下端部に接続され、第1の流出管部53Bの下端部は上側ケース部42の上側の開口部43に接続されている(本実施例においては、上述したように、第1の流出管部53Bと上側ケース部42とが一体形成されている)。また、流入管部53Aは排水通路27の上流部27Aの下端部と同軸に配置され、第1の流出管部53Bはケース41と同軸に配置されている。
【0053】
第2の流出管部53Cは、分岐管53において流入管部53Aから第1の流出管部53Bにかけての部分の上下方向略中間部から下方に傾斜しつつ前方に伸長している。第2の流出管部53Cの下端部には、バイパス通路56の上部を形成するバイパス管57の上端部が接続されている。
【0054】
接続ホース54は、ケース41と合流管55の第1の流入管部55Aとを接続する管である。接続ホース54は、耐熱性および剛性の高いゴムホースにより形成されている。例えば、排気量が2000cm程度であり、最大出力が103kW(140PS)程度のエンジン2を搭載した船外機1の場合、接続ホース54として、外径34mm、ホース肉厚3.5mm、ゴム硬度65~75(デュロメータA硬さ)の強化繊維入りのゴムホースが用いられる。接続ホース54は可撓性を有するが、剛性が高いため、撓み難い。接続ホース54の上端部は、下側ケース部45に一体形成された接続管部46の下端部に接続されている。接続ホース54の下端部は、合流管55の第1の流入管部55Aの上端部に接続されている。また、接続ホース54の上端部はケース41と同軸に配置されている。
【0055】
また、接続ホース54において、上端部と下端部との間には上側曲がり部54Aが設けられ、上側曲がり部54Aと下端部との間には、下側曲がり部54Bが設けられている。後に詳述するように、上側曲がり部54Aおよび下側曲がり部54Bは、下側ケース部45を下方に移動させて上側ケース部42から分離させるときに、接続ホース54を撓み易くする機能を有している。本実施例においては、接続ホース54の上端部と下端部と間の略中央に下側曲がり部54Bが配置され、接続ホース54の上端部と下側曲がり部54Bとの間の略中央に上側曲がり部54Aが配置されている。
【0056】
接続ホース54は、その上端部からケース41の軸線Jに沿うように下方に伸長し、続いて上側曲がり部54Aにおいて曲がり、続いて軸線Jから離れるように軸線Jに対して傾斜しつつ下方に伸長し、続いて下側曲がり部54Bにおいて曲がり、続いて軸線Jに近づくように軸線Jに対して傾斜しつつ下方に伸長している。また、接続ホース54において、上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分は、図2および図3に示すように、エンジン2の後方かつエンジン2の左右方向中央側(右方)に向かって傾斜しつつ下方に伸長している。また、接続ホース54において、下側曲がり部54Bから下端部にかけての部分は左前方に傾斜しつつ下方に伸長している。
【0057】
接続ホース54は、このように上側曲がり部54Aおよび下側曲がり部54Bを有しているものの、接続ホース54の上端から上側曲がり部54Aにかけての部分はケース41の軸線Jに沿うように下方に伸長し、接続ホース54の上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分は軸線Jに対して傾斜してはいるものの下方に伸長し、接続ホース54の下側曲がり部54Bから下端部にかけての部分は軸線Jに対して傾斜してはいるものの下方に伸長している。したがって、接続ホース54は、全体的に見れば、ケース41と合流管55との間を上下方向に伸長している。なお、上側曲がり部54Aは「第1の曲がり部」の具体例であり、下側曲がり部54Bは「第2の曲がり部」の具体例である。
【0058】
合流管55は、接続ホース54と排水通路27の下流部27Bとを接続し、かつバイパス通路56と排水通路27の下流部27Bとを接続する管である。合流管55は、耐熱性および剛性の高い樹脂、または耐食性の高い金属等により形成されている。合流管55は第1の流入管部55A、第2の流入管部55B、および流出管部55Cを有している。
【0059】
合流管55において、第2の流入管部55Bは上側に位置し、流出管部55Cは下側に位置している。第2の流入管部55Bと流出管部55Cとは同軸に配置され、合流管55において第2の流入管部55Bから流出管部55Cにかけての部分は上下方向に直線状に伸長している。また、第2の流入管部55Bの上端部には、バイパス通路56の下部を形成する連結管58の下端部が接続され、流出管部55Cの下端部は排水通路27の下流部27B(排水穴30)の上端部に接続されている。
【0060】
第1の流入管部55Aは、合流管55において第2の流入管部55Bから流出管部55Cにかけての部分の上下方向略中間部から右上方に傾斜しつつ後方に伸長している。第1の流入管部55Aの上端部には接続ホース54の下端部が接続されている。また、分岐管53の流入管部53A、分岐管53の第1の流出管部53B、接続ホース54、および合流管55の第1の流入管部55Aの内径はそれぞれ略等しい。
【0061】
(バイパス通路)
冷却装置21において、排水通路27の上流部27Aと下流部27Bとの間にはバイパス通路56が設けられている。バイパス通路56は、排水通路27の上流部27Aと下流部27Bとの間において、フィルタカートリッジ32、ケース41および接続ホース54により形成された通路と並列に接続されている。バイパス通路56は、微細物体がフィルタ33に多量に蓄積してフィルタ33が目詰まりした場合等に、冷却水を排水通路27の上流部27Aから下流部27Bへ円滑に流すための通路である。すなわち、フィルタ33が目詰まりした場合等には、冷却水がフィルタ33を通過し難くなるため、排水通路27の上流部27Aから流出した冷却水が、フィルタカートリッジ32、ケース41および接続ホース54により形成された通路を流れることが困難になる。この場合、排水通路27の上流部27Aから流出した冷却水はバイパス通路56を流れる。
【0062】
バイパス通路56はバイパス管57および連結管58により形成されている。バイパス管57は、耐熱性および剛性の高いゴム製のホース、または耐熱性および剛性の高い樹脂製もしくは耐食性の高い金属製のパイプ等により形成されている。バイパス管57の上端部は分岐管53の第2の流出管部53Cの下端部に接続され、バイパス管57の下端部は連結管58の上端部に接続されている。バイパス管57は、その上端から、ケース41の軸線Jに対して前方に傾斜しつつ下方に伸長した後に曲がり、その後、ケース41の軸線Jと平行となるように上下方向に伸長している。連結管58は、耐熱性および剛性の高い樹脂、または耐食性の高い金属等により形成されている。連結管58の下端部は合流管55の第2の流入管部55Bの上端部に接続されている。連結管58は、上下方向に伸長し、バイパス管57と同軸に配置されている。また、分岐管53の第2の流出管部53C、バイパス管57、連結管58、および合流管55の第2の流入管部55Bの内径はそれぞれ略等しい。また、分岐管53の第2の流出管部53C、バイパス管57、連結管58、および合流管55の第2の流入管部55Bの内径は、分岐管53の流入管部53A、分岐管53の第1の流出管部53B、接続ホース54、および合流管55の第1の流入管部55Aの内径と略等しい。
【0063】
(捕集器およびバイパス通路における冷却水の流れ)
図5において、冷却水は、矢印Aが示すように、排水通路27の上流部27Aから分岐管53の流入管部53A内に流入する。ここで、分岐管53の流入管部53A、分岐管53の第1の流出管部53Bおよびケース41はそれぞれ同軸に配置されており、分岐管53の流入管部53Aからケース41に至るまでの流路は上下方向に直線状に伸長している。これに対し、分岐管53の第2の流出管部53Cは、分岐管53の流入管部53Aに対して傾斜しており、分岐管53の流入管部53Aからバイパス管57に至るまでの流路は屈曲している。したがって、フィルタ33の目詰まり等が生じていない場合には、分岐管53の流入管部53A内に流入した冷却水の大部分は、矢印Bが示すように、分岐管53の第1の流出管部53Bを通ってケース41内に流入する。ケース41内に流入した冷却水は、フィルタ33を通り抜け、ケース41から流出し、接続ホース54内に流入する。冷却水がフィルタ33を通るときに、冷却水中の微細物体が除去される。接続ホース54内に流入した冷却水は、接続ホース54内を流れ、矢印Cが示すように、合流管55の第1の流入管部55A内に流入し、続いて、矢印Dが示すように、合流管55の流出管部55Cから排水通路27の下流部27B内に流入する。
【0064】
また、排水通路27の上流部27Aから、分岐管53の流入管部53A、分岐管53の第1の流出管部53B、ケース41、接続ホース54、合流管55の第1の流入管部55A、および合流管55の流出管部55Cを介して排水通路27の下流部27Bに至る流路には、大きく屈曲した部分が存在しない。したがって、フィルタ33の目詰まり等が生じていない場合には、冷却水は、排水通路27の上流部27Aから、分岐管53の流入管部53A、分岐管53の第1の流出管部53B、ケース41、接続ホース54、合流管55の第1の流入管部55A、および合流管55の流出管部55Cを通って排水通路27の下流部27Bへ円滑に流れる。
【0065】
一方、フィルタ33の目詰まり等が生じている場合には、冷却水がフィルタ33を通り抜けることが困難になり、ケース41内および分岐管53の第1の流出管部53B内において冷却水の流れが滞る。それゆえ、フィルタ33の目詰まり等が生じている場合には、排水通路27の上流部27Aから分岐管53の流入管部53A内に流入した冷却水の大部分は、矢印Eが示すように、分岐管53の第2の流出管部53Cを通ってバイパス管57内に流入する。バイパス管57内に流入した冷却水は、矢印Fが示すように、バイパス管57および連結管58を順次通って合流管55の第2の流入管部55B内に流入し、続いて、矢印Dが示すように、合流管55の流出管部55Cから排水通路27の下流部27B内に流入する。
【0066】
(下側ケース部の脱着)
船外機1を使用して船舶の航行を行うことにより、捕集器31のフィルタ33により微細物体が捕捉され、捕捉された微細物体がフィルタ33に蓄積される。そのため、利用者は、船外機1の使用後に、フィルタ33に蓄積された微細物体を除去する。また、船外機1を長期間使用した後には、利用者はフィルタカートリッジ32を交換する。このような捕集器31のメンテナンスを行うとき、利用者は、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させ、上側ケース部42からフィルタカートリッジ32を取り外す。
【0067】
図7は、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させて、上側ケース部42からフィルタカートリッジ32を取り外す方法を示している。利用者は、まず、ケース41の結合部材51をねじが外れる方向に回転させて、結合部材51を上側ケース部42の大径部44から取り外す。次に、利用者は、図7(A)に示すように、接続ホース54の上部を手で握り、図7(A)中の矢印Kが示すように押し下げる。接続ホース54の上部を押し下げることにより、下側ケース部45が下方に移動し、図7(B)に示すように、下側ケース部45が上側ケース部42から分離する。次に、利用者は、接続ホース54の上部を、図7(B)中の矢印Lが示すように、エンジン2から離れる方向(概ね左方)に押し動かし、下側ケース部45を上側ケース部42の真下から外れた位置に移動させる。図7(C)に示すように、下側ケース部45を上側ケース部42の真下から外れた位置に移動させた後、利用者は、上側ケース部42に装着されているフィルタカートリッジ32を、図7(C)中の矢印Mが示すように引き下げて、上側ケース部42から取り外す。
【0068】
その後、利用者は、フィルタ33に蓄積された微細物体を除去し、微細物体が除去されたフィルタカートリッジ32を上側ケース部42に装着し、または新品のフィルタカートリッジ32を上側ケース部42に装着し、続いて、下側ケース部45を上側ケース部42に取り付けて、両者を結合させる。
【0069】
上述したように、接続ホース54は可撓性を有するが、剛性が高いため、撓み難い。しかしながら、本実施例の船外機1において、利用者は、図7に示すように、接続ホース54の上部を手で握って押し下げて、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させることができる。以下、この点について説明する。
【0070】
仮に、接続ホースがケース41から合流管55の第1の流入管部55Aにかけて上下方向に直線状に伸長している場合には、利用者が接続ホースの上部を手で握って下方に力を加えても、接続ホースを押し下げることは困難であり、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させることは難しい。その理由の1つは、接続ホースに加わる力の方向が接続ホースの伸長方向と一致しているために、接続ホースが極めて撓み難いからである。
【0071】
しかしながら、本実施例の船外機1においては、接続ホース54に上側曲がり部54Aおよび下側曲がり部54Bが設けられており、接続ホース54の上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分、および接続ホース54の下側曲がり部54Bから下端部にかけての部分が、上下方向に伸長したケース41の軸線Jに対して交わる方向に伸長している。したがって、利用者が接続ホース54の上部を手で握って下方に力を加えたとき、当該力の方向と、接続ホース54の上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分の伸長方向とが互いに異なり、また、当該力の方向と、接続ホース54の下側曲がり部54Bから下端部にかけての部分の伸長方向とが互いに異なる。それゆえ、接続ホース54は、上述したように接続ホース54が上下方向に直線状に伸長している場合と比較して撓み易くなる。よって、利用者は、接続ホース54の上部を手で握って下方に力を加えることにより、接続ホース54を容易に押し下げることができ、下側ケース部45を上側ケース部42から容易に分離させることができる。
【0072】
(接続ホースとバイパスホースとの位置関係)
図8は、図5中の切断線VIII-VIIIに沿って切断した接続ホース54およびバイパス管57の断面等を上方から見た状態を示している。図8に示すように、接続ホース54およびバイパス管57を上方から見たとき、接続ホース54において上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分の軸線Nは、接続ホース54の上端部の軸心U、およびバイパス管57において傾斜している上端側部分を除く部分の軸心Vの双方を通る直線Tと交わる。
【0073】
接続ホース54とバイパス管57とがこのように配置されているので、接続ホース54の下側曲がり部54B等がバイパス管57に接触することがない。また、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させて、フィルタカートリッジ32を上側ケース部42から取り外すときに、図8中に二点鎖線で示したように、上側ケース部42から分離させた下側ケース部45がバイパス管57に接触することがない。なお、図8中の二点鎖線は、図7(C)に示す位置に押し動かされた状態の下側ケース部45を示している。
【0074】
以上説明した通り、本発明の実施例の冷却装置21が有する捕集器31において、フィルタカートリッジ32を収容するケース41は上下方向に伸長した軸線を有する筒状に形成され、排水通路27の上流部27Aとケース41との間は、上下方向に伸長した分岐管53の流入管部53Aおよび第1の流出管部53Bにより接続され、ケース41と排水通路27の下流部27Bとの間は、曲がり部54A、54Bを有するものの全体的に見て上下方向に伸長した接続ホース54により接続されている。このように、排水通路27の上流部27Aと排水通路27の下流部27Bとの間に介在する捕集器31における冷却水の流路は、図9(B)に示す従来技術の流路のように大きく屈曲していない。したがって、捕集器31における冷却水の流路の圧力損失の増加を抑えることができ、捕集器31における冷却水の流れを良くすることができる。
【0075】
また、本実施例の冷却装置21の捕集器31において、接続ホース54には上側曲がり部54Aおよび下側曲がり部54Bが設けられ、接続ホース54の上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分、および接続ホース54の下側曲がり部54Bから下端部にかけての部分は、上下方向に伸長したケース41の軸線Jに対して傾斜している。したがって、利用者は、接続ホース54の上部を手で握って下方に力を加えることにより、接続ホース54を容易に撓ませることができ、接続ホース54の上端部に接続された下側ケース部45を下方に移動させて下側ケース部45を上側ケース部42から容易に分離させることができる。これにより、利用者は捕集器31のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0076】
また、接続ホース54において、上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分は、エンジン2の後方かつエンジン2の左右方向中央側に向かって傾斜しつつ下方に伸長している。これにより、接続ホース54の一部、例えば下側曲がり部54Bが、エンジン2の側方の外側へ張り出すことを抑制することができる。したがって、捕集器31が配置されたエンジン2を覆うエンジントップカバー8を小さくすることができ、船外機1の小型化を図ることができる。
【0077】
また、上側ケース部42に下側ケース部45が結合された状態において、下側ケース部45の上端は、フィルタカートリッジ32の上下方向における中央よりも下側に位置している。これにより、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させるときに、下側ケース部45の下方への移動量を小さくすることができる。したがって、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させて、フィルタカートリッジ32を上側ケース部42から取り外す作業を一層容易にすることができる。
【0078】
また、図8に示すように、接続ホース54およびバイパス管57を上方から見たとき、接続ホース54において上側曲がり部54Aから下側曲がり部54Bにかけての部分の軸線Nは、接続ホース54の上端部の軸心U、およびバイパス管57において傾斜している上端側部分を除く部分の軸心Vの双方を通る直線Tと交わる。この構成により、接続ホース54の下側曲がり部54B等がバイパス管57に接触すること防ぐことができる。また、下側ケース部45を上側ケース部42から分離させて、フィルタカートリッジ32を上側ケース部42から取り外すときに、上側ケース部42から分離させた下側ケース部45がバイパス管57に接触することを防ぐことができる。
【0079】
また、マイクロプラスチックを捕集することができる捕集器31を有する冷却装置21を船外機1に設けることにより、船舶の航行と同時に、海水、湖水または河川水等に拡散したマイクロプロスチックを回収することができ、海、湖または河川を清浄化することができる。
【0080】
なお、上記実施例では、接続ホース54の上端部と、接続ホース54の上端部に分離不能に接続された下側ケース41とをいっしょに下方に移動させることにより、フィルタカートリッジ32をケース41から取外可能な状態にする場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、ケース41と分岐管53とを分離可能に接続し、かつケース41と接続ホース54とを分離可能に接続し、接続ホース54の上端部のみを下方に押し下げることにより、ケース41を分岐管53および接続ホース54の双方から分離させることができるようにしてもよい。これにより、ケース41全体を船外機1から取り外して、フィルタ33に蓄積された微細物体の除去等を行うことができる。
【0081】
また、上記実施例では、捕集器31をエンジン2の後部の左方に配置したが、捕集器31をエンジン2の後部の右方等、エンジン2の周囲の他の位置に配置してもよい。
【0082】
また、船外機1の動力源はエンジンに限らず、電動モータでもよい。また、本発明の冷却装置は、船外機に限らず、船内外機または船内機等、他の種類の船舶推進機にも設けることができる。
【0083】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶推進機の冷却装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 船外機(船舶推進機)
2 エンジン(動力源)
21 冷却装置
27 排水通路
27A 上流部
27B 下流部
31 捕集器
32 フィルタカートリッジ(捕集器本体)
41 ケース
42 上側ケース部
45 下側ケース部
53 分岐管
54 接続ホース(接続管)
54A 上側曲がり部(第1の曲がり部)
54B 下側曲がり部(第2の曲がり部)
56 バイパス通路

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10