(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】半導体装置および過電流保護装置
(51)【国際特許分類】
H03K 17/082 20060101AFI20250415BHJP
H03K 17/00 20060101ALI20250415BHJP
H03K 17/08 20060101ALI20250415BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20250415BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20250415BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H03K17/082
H03K17/00 B
H03K17/08 Z
H03K17/16 Z
H02M1/00 H
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2024514186
(86)(22)【出願日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2023007712
(87)【国際公開番号】W WO2023195275
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2022063257
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂樹
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-014103(JP,A)
【文献】特開平06-053795(JP,A)
【文献】実開平05-048434(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00 - 17/70
H02M 1/00
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する出力素子と、
前記出力素子に流れる電流をモニタする電流モニタ素子と、
一端が前記出力素子のゲートに接続され、他端が前記電流モニタ素子のゲートに接続されるキャパシタと、
前記出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を前記電流モニタ素子のゲートに印加する第1の抵抗および第2の抵抗を含む分圧回路と、を有し、
前記出力素子のゲートは、前記キャパシタの一端および前記第1の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のゲートは、前記キャパシタの他端、前記第1の抵抗の他端および前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは、前記第2の抵抗の他端に接続される、
半導体装置。
【請求項2】
前記出力素子および前記電流モニタ素子は、パワー半導体素子であり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、RC(Reverse Conducting)-IGBT、SiC(Silicon carbide)デバイスのうちの1つである、
請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号を出力する電流検出用抵抗と、前記センス電流検出信号と基準電圧との比較により、前記出力素子の過電流状態を検出する過電流検出回路とをさらに有する、
請求項1記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは
、前記電流検出用抵抗の一端および前記過電流検出回路の入力端に
さらに接続され、
前記出力素子のコレクタは、前記電流モニタ素子のコレクタおよび電源電圧に接続され、
前記出力素子のエミッタは、前記電流検出用抵抗の他端および前記負荷に接続される、
請求項
3記載の半導体装置。
【請求項5】
駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する出力素子と、
前記出力素子に流れる電流をモニタする電流モニタ素子と、
前記出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を前記電流モニタ素子のゲートに印加する分圧回路と、
一端が前記電流モニタ素子のゲートに接続され、他端が前記電流モニタ素子のセンスエミッタに接続されるキャパシタと、
を有し、
前記分圧回路は、第1の抵抗および第2の抵抗を含み、
前記出力素子のゲートは、前記第1の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のゲートは、前記キャパシタの一端、前記第1の抵抗の他端および前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは、前記キャパシタの他端および前記第2の抵抗の他端に接続される、
半導体装置。
【請求項6】
前記電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号を出力する電流検出用抵抗と、前記センス電流検出信号と基準電圧との比較により、前記出力素子の過電流状態を検出する過電流検出回路とをさらに有する、
請求項
5記載の半導体装置。
【請求項7】
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは
、前記電流検出用抵抗の一端および前記過電流検出回路の入力端に
さらに接続され、
前記出力素子のコレクタは、前記電流モニタ素子のコレクタおよび電源電圧に接続され、
前記出力素子のエミッタは、前記電流検出用抵抗の他端および前記負荷に接続される、
請求項
6記載の半導体装置。
【請求項8】
電源端子を介して電源電圧に接続し、出力端子を介して負荷に接続して、駆動信号にもとづきスイッチングして前記負荷を作動する出力素子と、
前記出力素子に流れる電流をモニタする電流モニタ素子と、
一端が前記出力素子のゲートに接続され、他端が前記電流モニタ素子のゲートに接続されるキャパシタと、
前記駆動信号を出力して前記出力素子のスイッチングを制御する制御回路と、
前記電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換された
センス電流検出信号を出力する電流検出用抵抗と、
前記センス電流検出信号と基準電圧との比較により、前記出力素子の過電流状態を検出する過電流検出回路と、
前記出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を前記電流モニタ素子のゲートに印加する第1の抵抗および第2の抵抗を含む分圧回路と、を有し、
前記出力素子のゲートは、前記キャパシタの一端および前記第1の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のゲートは、前記キャパシタの他端、前記第1の抵抗の他端および前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは、前記第2の抵抗の他端に接続される、
過電流保護装置。
【請求項9】
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは
、前記電流検出用抵抗の一端および前記過電流検出回路の入力端に
さらに接続され、
前記出力素子のコレクタは、前記電流モニタ素子のコレクタおよび前記電源電圧に接続され、
前記出力素子のエミッタは、前記電流検出用抵抗の他端および前記負荷に接続される、
請求項
8記載の過電流保護装置。
【請求項10】
電源端子を介して電源電圧に接続し、出力端子を介して負荷に接続して、駆動信号にもとづきスイッチングして前記負荷を作動する出力素子と、
前記出力素子に流れる電流をモニタする電流モニタ素子と、
一端が前記電流モニタ素子のゲートに接続され、他端が前記電流モニタ素子のセンスエミッタに接続されるキャパシタと、
前記出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を前記電流モニタ素子のゲートに印加する分圧回路と、
前記駆動信号を出力して前記出力素子のスイッチングを制御する制御回路と、
前記電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号を出力する電流検出用抵抗と、
前記センス電流検出信号と基準電圧との比較により、前記出力素子の過電流状態を検出する過電流検出回路と、
を有し、
前記分圧回路は、第1の抵抗および第2の抵抗を含み、
前記出力素子のゲートは、前記第1の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のゲートは、前記キャパシタの一端、前記第1の抵抗の他端および前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは、前記キャパシタの他端および前記第2の抵抗の他端に接続される、
過電流保護装置。
【請求項11】
前記電流モニタ素子のセンスエミッタは
、前記電流検出用抵抗の一端および前記過電流検出回路の入力端に
さらに接続され、
前記出力素子のコレクタは、前記電流モニタ素子のコレクタおよび前記電源電圧に接続され、
前記出力素子のエミッタは、前記電流検出用抵抗の他端および前記負荷に接続される、
請求項
10記載の過電流保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および過電流保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の次世代技術として、シリコンカーバイド(SiC:Silicon carbide)化合物半導体素子、窒化ガリウム化合物半導体(GaN)素子等の次世代半導体素子の開発が進められている。
【0003】
関連技術としては、例えば、半導体素子のターンオンに応じてセンス電流の検出信号の過渡センス期間を検出し、過渡センス期間におけるセンス電流の検出信号にもとづいて、半導体素子の制御を行う技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IPS(Intelligent Power Switch)と呼ばれる半導体装置は、負荷作動用のパワー半導体素子であるメインIGBTと、メインIGBTを流れる電流に比例するセンス電流を流す電流モニタ用パワー半導体素子であるセンスIGBTとを備えている。また、IPSは、センス電流の検出信号(センス電流検出信号)により、メインIGBTの過電流検出を行う過電流検出回路を備えている。
【0006】
しかし、従来のIPSの構成では、センス電流検出信号の過渡的な立上りから立下りまでの期間(過渡センス期間)において、センス電流検出信号にオーバーシュートを伴ったオシレーション(oscillation)が生じる。この場合、例えば、定格を超えるような電圧値のオシレーションが生じると、過電流検出回路の誤動作やIGBT等のデバイスの破壊等を引き起こす可能性があり、装置動作の信頼性が低下するという問題がある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、電流モニタ用パワー半導体素子から出力されるセンス電流の検出信号に生じるオシレーションの抑制を図った半導体装置および過電流保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、半導体装置が提供される。半導体装置は、出力素子、電流モニタ素子およびキャパシタを有する。出力素子は、駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する。電流モニタ素子は、出力素子に流れる電流をモニタする。キャパシタは、一端が出力素子のゲートに接続され、他端が電流モニタ素子のゲートに接続される。また、半導体装置は、出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を電流モニタ素子のゲートに印加する第1の抵抗および第2の抵抗を含む分圧回路とを有し、出力素子のゲートは、キャパシタの一端および第1の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のゲートは、キャパシタの他端、第1の抵抗の他端および第2の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のセンスエミッタは、第2の抵抗の他端に接続される。
【0009】
また、上記課題を解決するために、半導体装置が提供される。半導体装置は、出力素子、電流モニタ素子、分圧回路およびキャパシタを有する。出力素子は、駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する。電流モニタ素子は、出力素子に流れる電流をモニタする。分圧回路は、出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を電流モニタ素子のゲートに印加する。キャパシタは、一端が電流モニタ素子のゲートに接続され、他端が電流モニタ素子のセンスエミッタに接続される。また、分圧回路は、第1の抵抗および第2の抵抗を含み、出力素子のゲートは、第1の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のゲートは、キャパシタの一端、第1の抵抗の他端および第2の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のセンスエミッタは、キャパシタの他端および第2の抵抗の他端に接続される。
【0010】
さらに、上記課題を解決するために、過電流保護装置が提供される。過電流保護装置は、出力素子、電流モニタ素子、キャパシタ、制御回路、電流検出用抵抗および過電流検出回路を有する。出力素子は、電源端子を介して電源電圧に接続し、出力端子を介して負荷に接続して、駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する。電流モニタ素子は、出力素子に流れる電流をモニタする。キャパシタは、一端が出力素子のゲートに接続され、他端が電流モニタ素子のゲートに接続される。制御回路は、駆動信号を出力して出力素子のスイッチングを制御する。電流検出用抵抗は、電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号を出力する。過電流検出回路は、センス電流検出信号と基準電圧との比較により、出力素子の過電流状態を検出する。また、過電流保護装置は、出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を電流モニタ素子のゲートに印加する第1の抵抗および第2の抵抗を含む分圧回路と、を有し、出力素子のゲートは、キャパシタの一端および第1の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のゲートは、キャパシタの他端、第1の抵抗の他端および第2の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のセンスエミッタは、第2の抵抗の他端に接続される。
【0011】
さらにまた、上記課題を解決するために、過電流保護装置が提供される。過電流保護装置は、出力素子、電流モニタ素子、キャパシタ、分圧回路、制御回路、電流検出用抵抗および過電流検出回路を有する。出力素子は、電源端子を介して電源電圧に接続し、出力端子を介して負荷に接続して、駆動信号にもとづきスイッチングして負荷を作動する。電流モニタ素子は、出力素子に流れる電流をモニタする。キャパシタは、一端が電流モニタ素子のゲートに接続され、他端が電流モニタ素子のセンスエミッタに接続される。分圧回路は、出力素子のゲート電圧を分圧して、分圧した電圧を電流モニタ素子のゲートに印加する。制御回路は、駆動信号を出力して出力素子のスイッチングを制御する。電流検出用抵抗は、電流モニタ素子から出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号を出力する。過電流検出回路は、センス電流検出信号と基準電圧との比較により、出力素子の過電流状態を検出する。また、分圧回路は、第1の抵抗および第2の抵抗を含み、出力素子のゲートは、第1の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のゲートは、キャパシタの一端、第1の抵抗の他端および第2の抵抗の一端に接続され、電流モニタ素子のセンスエミッタは、キャパシタの他端および第2の抵抗の他端に接続される。
【発明の効果】
【0012】
1側面によれば、電流モニタ用パワー半導体素子から出力されるセンス電流の検出信号に生じるオシレーションを抑制することが可能になる。
本発明の上記および他の目的、特徴および利点は本発明の例として好ましい実施の形態を表す添付の図面と関連した以下の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】半導体装置の一例を説明するための図である。
【
図2】過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】センスIGBTのセルフチャージを説明するための図である。
【
図4】シミュレーション波形の一例を示す図である。
【
図6】過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。
【
図8】過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】過電流保護装置の構成の一例を示す図である。
【
図10】過電流保護装置の構成の一例を示す図である。
【
図11】過電流保護装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において実質的に同一の機能を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0015】
図1は半導体装置の一例を説明するための図である。半導体装置1は、出力素子1a、電流モニタ素子1bおよび
キャパシタC0を備える。
出力素子1aおよび電流モニタ素子1bは、例えば、IGBT、IGBTとFWD(Free Wheeling Diode)を1チップ化したRC(Reverse Conducting)-IGBTである。または、SiCデバイスを使用してもよい。SiCデバイスには、SiC-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等がある。なお、以降の説明では、出力素子をメインIGBT、電流モニタ素子をセンスIGBTと呼ぶ。
【0016】
メインIGBT1aのコレクタおよびセンスIGBT1bのコレクタは、端子Cを介して電源電圧Vccに接続される。メインIGBT1aのエミッタは、端子Eを介して負荷2に接続される。
【0017】
センスIGBT1bのセンスエミッタは、端子SEに接続される。メインIGBT1aのゲートは、キャパシタC0の一端および端子Gに接続され、キャパシタC0の他端は、センスIGBT1bのゲートに接続される。
【0018】
ここで、メインIGBT1aは、駆動信号s0にもとづきスイッチングして負荷2を作動する。この場合、駆動信号s0によるメインIGBT1aのターンオンの指示があった場合、メインIGBT1aはターンオンして、メインIGBT1aは、コレクタからエミッタに向けて電流を流す。また、センスIGBT1bは、メインIGBT1aの電流モニタを行う素子であり、駆動信号s0によるメインIGBT1aのターンオンの指示があった場合、メインIGBT1aを流れる電流に比例するセンス電流をコレクタからセンスエミッタに向けて流す。
【0019】
図2は過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。半導体装置1-1は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC0および過電流保護回路10を備える。過電流保護回路10は、抵抗Rs(電流検出用抵抗)および過電流検出回路11を含む。抵抗Rsの一端は、センスIGBT1bのセンスエミッタおよび過電流検出回路11の入力端に接続され、抵抗Rsの他端は、メインIGBT1aのエミッタおよび負荷2に接続される。
【0020】
抵抗Rsの一端からは、センスIGBT1bから出力されるセンス電流が電圧に変換されたセンス電流検出信号Vsenseが出力される。また、過電流検出回路11は、センス電流検出信号Vsenseと基準電圧との比較により、メインIGBT1aの過電流状態を検出する。
【0021】
上記のような半導体装置1-1では、メインIGBT1aのゲートと、センスIGBT1bのゲートとがキャパシタC0を介して接続される構成を有している。これにより、センス電流検出信号Vsenseの過渡センス期間において、センス電流検出信号Vsenseに生じるオシレーションを抑制することが可能になる。
【0022】
<センスIGBTのセルフチャージ>
図3はセンスIGBTのセルフチャージを説明するための図である。IGBTのようなパワー半導体素子では、IGBTのオン時にセルフチャージと呼ばれる現象が生じる。
【0023】
セルフチャージは、IGBTのコレクタから注入されるホールがトレンチ部の周りにあるゲート酸化膜をチャージして、ゲート電圧を持ち上げるという現象である。
セルフチャージが発生すると、ゲートドライバから出力される駆動信号s0の充電chg0によるゲート電圧の上昇だけでなく、セルフチャージの充電chg1によるゲート電圧の上昇も生じることになる。
【0024】
また、通常は、メインIGBT1aのチップ面積よりもセンスIGBT1bのチップ面積の方が小さい。このように、メインIGBT1aのチップ面積とセンスIGBT1bのチップ面積とには大小関係があるため、メインIGBT1aの寄生GE(ゲート-エミッタ)間容量と、センスIGBT1bの寄生GE間容量とが異なる。
【0025】
このため、駆動信号s0によるメインIGBT1aのターンオンの指示があった場合、センスIGBT1bの方がメインIGBT1aよりも早く充電を完了してオンを開始するので、センスIGBT1bの方がメインIGBT1aよりもオンする順番が先になる。これにより、センスIGBT1bは、IGBT周辺の配線経路上の物理的な差異による起電力の影響をメインIGBT1aよりも第一番に受けてしまう。
【0026】
このように、センスIGBT1bでは、セルフチャージの充電chg1によるゲート電圧の上昇が、メインIGBT1aのセルフチャージの充電chg1によるゲート電圧の上昇よりも先に現れることになる。このため、センスIGBT1bのセンスエミッタから流れるセンス電流にもとづいて出力されるセンス電流検出信号Vsenseには、過渡センス期間において、セルフチャージの充電chg1によって波形が持ち上がるオシレーションが生じることになる。
【0027】
また、オシレーションの電圧レベルが高く、オシレーションの発生期間が長いと、上述のように、過電流検出回路の誤動作やIGBT等のデバイスの破壊等を引き起こす可能性がある。本発明では、このような点に鑑みて、センスIGBTのゲートにキャパシタを接続する構成にしてオシレーションの抑制を図るものである。
【0028】
<シミュレーション波形>
図4はシミュレーション波形の一例を示す図である。左縦軸はセンス電流検出信号Vsenseの電圧(V)、右縦軸はコレクタ電流Ic(A)および横軸は時間(s)である。
【0029】
〔波形k1〕メインIGBT1aのコレクタとセンスIGBT1bのコレクタを流れるコレクタ電流Icである。メインIGBT1aとセンスIGBT1bがオンした場合、時刻T1においてコレクタ電流Icが流れる。
【0030】
上述のように、駆動信号s0によるゲート電圧の上昇に対して、セルフチャージによるゲート電圧の上昇も加わるので、コレクタ電流Icは、上昇してピークに達する。また、その後はセルフチャージによるゲート電圧の上昇は減少していくために、コレクタ電流Icも低下して一定値が維持される。
【0031】
〔波形k2〕キャパシタC0を有していない半導体装置(従来装置)のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション波形である。コレクタ電流Icの上昇に伴って、センス電流検出信号Vsenseにオシレーションが生じている。
【0032】
〔波形k3〕メインIGBT1aのゲートとセンスIGBT1bのゲートとがキャパシタC0を介して接続される本発明の半導体装置1-1のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション波形である。
【0033】
半導体装置1-1では、メインIGBT1aのゲートとセンスIGBT1bのゲートとを、ローパスフィルタとして機能するキャパシタC0を介して接続する構成を有しているため、キャパシタC0によってセンスIGBT1bのゲート電圧の充電を所定時間遅延させることができる。このため、コレクタ電流Icの上昇に伴うセンス電流検出信号Vsenseのオシレーションが抑制されている。
【0034】
すなわち、波形k3のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション電圧は、波形k2のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション電圧よりも低減している(オシレーション電圧低減A)。さらに、波形k3のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション期間は、波形k2のセンス電流検出信号Vsenseのオシレーション期間よりも短縮している(オシレーション期間短縮B)。
【0035】
このように、本発明の構成により、センス電流検出信号Vsenseの過渡センス期間において、センス電流検出信号Vsenseに生じるオシレーションを抑制することが可能になる。なお、キャパシタC0は、IGBTのゲートとエミッタ間に存在する寄生容量ではなく、IGBTの動作時の空乏層の広がりやゲート電圧によるチャネルの開閉とは無関係のものである。
【0036】
<半導体装置の変形例>
図5は半導体装置の変形例を示す図である。半導体装置1-2は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC0および分圧回路1cを備える。分圧回路1cは、抵抗R1(第1の抵抗)および抵抗R2(第2の抵抗)を含む。
【0037】
メインIGBT1aのコレクタおよびセンスIGBT1bのコレクタは、端子Cを介して電源電圧Vccに接続される。メインIGBT1aのエミッタは、端子Eを介して負荷2に接続される。
【0038】
メインIGBT1aのゲートは、端子G、キャパシタC0の一端および抵抗R1の一端に接続される。センスIGBT1bのゲートは、キャパシタC0の他端、抵抗R1の他端および抵抗R2の一端に接続される。抵抗R2の他端は、センスIGBT1bのセンスエミッタおよび端子SEに接続される。
【0039】
図6は過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。半導体装置1-2aは、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC0、抵抗R1、R2および過電流保護回路10を備える。
【0040】
過電流保護回路10は、抵抗Rs(電流検出用抵抗)および過電流検出回路11を含む。抵抗Rsの一端は、センスIGBT1bのセンスエミッタ、抵抗R2の他端および過電流検出回路11の入力端に接続され、抵抗Rsの他端は、メインIGBT1aのエミッタおよび負荷2に接続される。
【0041】
上記のような半導体装置1-2aでは、メインIGBT1aのゲートと、センスIGBT1bのゲートとがキャパシタC0を介して接続され、さらにメインIGBT1aのゲート電圧を分圧して、分圧した電圧をセンスIGBT1bのゲートに印加する抵抗R1、R2を有している。
【0042】
これにより、センス電流検出信号Vsenseの過渡センス期間において、センス電流検出信号Vsenseに生じるオシレーションを抑制することが可能になる。また、分圧抵抗によってセンスIGBT1bのゲート電圧を調整できるため、オシレーションの抑制制御として、さらに自由度の高い設計が可能になる。
【0043】
図7は半導体装置の変形例を示す図である。半導体装置1-3は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC1および分圧回路1cを備える。分圧回路1cは、抵抗R1および抵抗R2を含む。
【0044】
メインIGBT1aのコレクタおよびセンスIGBT1bのコレクタは、端子Cを介して電源電圧Vccに接続される。メインIGBT1aのエミッタは、端子Eを介して負荷2に接続される。
【0045】
メインIGBT1aのゲートは、端子Gおよび抵抗R1の一端に接続される。センスIGBT1bのゲートは、キャパシタC1の一端、抵抗R1の他端および抵抗R2の一端に接続される。センスIGBT1bのセンスエミッタは、キャパシタC1の他端および抵抗R2の他端に接続される。
【0046】
図8は過電流保護回路を含む半導体装置の構成の一例を示す図である。半導体装置1-3aは、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC1、抵抗R1、R2および過電流保護回路10を備える。過電流保護回路10は、抵抗Rs(電流検出用抵抗)および過電流検出回路11を含む。抵抗Rsの一端は、センスIGBT1bのセンスエミッタ、抵抗R2の他端、
キャパシタC1の他端および過電流検出回路11の入力端に接続され、抵抗Rsの他端は、メインIGBT1aのエミッタおよび負荷2に接続される。
【0047】
上記のような半導体装置1-3aでは、センスIGBT1bのゲートと、センスIGBT1bのセンスエミッタとがキャパシタC1を介して接続され、さらにメインIGBT1aのゲート電圧を分圧して、分圧した電圧をセンスIGBT1bのゲートに印加する抵抗R1、R2を有している。このような構成においても、センス電流検出信号Vsenseの過渡センス期間において、センス電流検出信号Vsenseに生じるオシレーションを抑制することが可能になる。
【0048】
<
キャパシタの容量>
図1、
図2、
図5、
図6に示した半導体装置の
キャパシタC0の容量(F)において、オシレーションを効果的に抑制する範囲としては、例えば、1E-12から1E-07の範囲である。また、この範囲のうちでは
キャパシタC0の容量(F)は、1E-10が好ましい。
【0049】
また、
図7、
図8に示した半導体装置の
キャパシタC1の容量(F)において、オシレーションを効果的に抑制する範囲としては、例えば、1E-11から1E-04の範囲である。また、この範囲のうちでは
キャパシタC1の容量(F)は、1E-9、1E-8、1E-7が好ましい。
【0050】
なお、上記は一例であり、キャパシタ容量の有効性範囲は、オシレーションの周波数(過渡センス期間内のオーバシュート周波数)とIGBTの入力容量(Cies)とのマッチングによって決定される。
【0051】
<過電流保護装置>
以下、本発明の半導体装置が適用される過電流保護装置について説明する。
図9は過電流保護装置の構成の一例を示す図である。過電流保護装置10-1は、入力端子IN、出力端子OUT、電源端子VTおよび接地端子GNDを備える。
【0052】
入力端子INには、マイコン等から出力されるパルス状の制御信号が入力される。出力端子OUTには負荷2が接続される。電源端子VTには電源電圧Vccが接続され、接地端子GNDにはグランド(GND)が接続される。
【0053】
また、過電流保護装置10-1は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、キャパシタC0、抵抗Rs、過電流検出回路11および制御回路12を備える。制御回路12は、論理回路12aおよびゲートドライバ12bを含む。
【0054】
論理回路12aは、入力端子INを通じて入力された制御信号を受信してメインIGBT1aをオンまたはオフさせる論理信号を生成する。ゲートドライバ12bは、論理回路12aから出力された論理信号にもとづいて、メインIGBT1aをオンまたはオフする駆動信号s0を生成してメインIGBT1aのゲートに印加する。
【0055】
抵抗Rsは、センスIGBT1bのセンスエミッタおよびメインIGBT1aのエミッタの間に接続され、センスエミッタから流れ出るセンス電流が抵抗Rsを流れることで生じる電位を検出する。それにより、センス電流がセンス電流検出信号Vsenseとして検出される。
【0056】
過電流検出回路11は、センス電流検出信号Vsenseと基準電圧との比較によりメインIGBT1aが過電流状態であるか否かを検出し、過電流状態を検出した場合には過電流検出信号s1を出力する。論理回路12aは、過電流検出信号s1を検出すると、メインIGBT1aをオフさせる。
【0057】
このように、
図1の半導体装置1の構成を有する過電流保護装置10-1は、センス電流検出信号Vsenseのオシレーションを抑制することができるので、オシレーションによる過電流検出回路11の誤動作を防止して高精度の過電流検出・保護を行うことが可能になる。
【0058】
図10は過電流保護装置の構成の一例を示す図である。過電流保護装置10-2は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC0、抵抗R1、R2、Rs、過電流検出回路11および制御回路12を備える。過電流保護装置10-2は、
図5の半導体装置1-2を適用したものである。過電流保護装置10-2においても、センス電流検出信号Vsenseのオシレーションを抑制することができ、オシレーションによる過電流検出回路11の誤動作を防止して高精度の過電流検出・保護を行うことが可能になる。
【0059】
図11は過電流保護装置の構成の一例を示す図である。過電流保護装置10-3は、メインIGBT1a、センスIGBT1b、
キャパシタC1、抵抗R1、R2、Rs、過電流検出回路11および制御回路12を備える。過電流保護装置10-3は、
図7の半導体装置1-3を適用したものである。過電流保護装置10-3においてもセンス電流検出信号Vsenseのオシレーションを抑制することができ、オシレーションによる過電流検出回路11の誤動作を防止して高精度の過電流検出・保護を行うことが可能になる。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、電流モニタ用パワー半導体素子から出力されるセンス電流検出信号に生じるオシレーションに対して、オシレーション電圧の低減およびオシレーション期間の短縮化を行うことができ、オシレーションを抑制することが可能になる。また、素子数の少ない受動部品によって効果的にオシレーションを抑制することができるので、オシレーションを検出制御するための複雑な回路が不要であり、回路規模の増大を抑制するという効果も奏する。
【0061】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。さらに、前述した実施の形態のうちの任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0062】
上記については単に本発明の原理を示すものである。さらに、多数の変形、変更が当業者にとって可能であり、本発明は上記に示し、説明した正確な構成および応用例に限定されるものではなく、対応するすべての変形例および均等物は、添付の請求項およびその均等物による本発明の範囲とみなされる。
【符号の説明】
【0063】
1 半導体装置
1a 出力素子(メインIGBT)
1b 電流モニタ素子(センスIGBT)
2 負荷
s0 駆動信号
C0 キャパシタ
G 出力素子のゲートに接続される端子
C 出力素子および電流モニタ素子のコレクタに接続される端子
E 出力素子のエミッタに接続される端子
SE 電流モニタ素子のセンスエミッタに接続される端子