(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20250415BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20250415BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20250415BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B51/00 J
B23C5/16
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2024520699
(86)(22)【出願日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2024001831
【審査請求日】2025-01-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 晴子
(72)【発明者】
【氏名】小林 史佳
(72)【発明者】
【氏名】パサート アノンサック
(72)【発明者】
【氏名】冨永 皓祐
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/037796(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/170570(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208663(WO,A1)
【文献】特開2022-015073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B27/00-29/34
B23B51/00-51/14
B23C 1/00- 9/00
B23P 5/00-17/06
B23P23/00-25/00
C23C14/00-14/58
C23C16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第1層を含み、
前記第1層は、α-Al
2O
3からなり、
前記第1層の厚みは、2μm以上15μm以下であり、
前記基材と前記被膜との界面の法線に沿った断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面と、前記第1層の前記基材側の界面と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、前記第1粒界のうち、前記第1粒界と前記仮想線L1とが交差する位置における、前記仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、
前記基材と前記被膜との前記界面の前記法線に沿った前記断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面から前記基材側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、前記第3粒界のうち、前記第3粒界と前記仮想線L2とが交差する位置における、前記仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、前記割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす、切削工具。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
【請求項2】
前記数N3と、前記第3粒界のうち、前記第3粒界と前記仮想線L2とが交差する位置における、前記仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が45°以下の粒界である第5粒界の数N5とは、下記式2の関係を満たす、請求項1に記載の切削工具。
(N5/N3)>0.96 式2
【請求項3】
前記第1層の厚みは、8μm未満であり、
前記第1層の表面、または、前記第1層の前記被膜の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.03μm以上0.2μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第1層の厚みは、8μm以上であり、
前記第1層の表面、または、前記第1層の前記被膜の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.05μm以上0.2μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第1層の圧縮残留応力の絶対値は、1.5GPa以上4.0GPa以下である、請求項1
または請求項
2に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第1層の配向性指数TC(0 0 12)は、4.5超である、請求項1
または請求項
2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、第1層を含み、該第1層は、α-Al2O3からなる、切削工具が、切削加工に用いられている(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】S.Ruppi et al.,“Influence of Process Conditions on the Growth and Texture of CVD Alpha-Alumina” Coatings 2020,10,158
【発明の概要】
【0005】
本開示の切削工具は、
基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、第1層を含み、
該第1層は、α-Al2O3からなり、
該第1層の厚みは、2μm以上15μm以下であり、
該基材と該被膜との界面の法線に沿った断面において、該第1層の表面または該第1層の該被膜の表面側の界面と、該第1層の該基材側の界面と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、該第1粒界のうち、該第1粒界と該仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、
該基材と該被膜との該界面の該法線に沿った該断面において、該第1層の表面または該第1層の該被膜の表面側の界面から該基材側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、該第3粒界のうち、該第3粒界と該仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、該割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の切削工具の一態様を例示する模式断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の切削工具の製造に用いられるCVD(Chemical Vapor Deposition)装置の一例の模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の切削工具の他の一態様を例示する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、工具寿命の向上への要求が益々高まっている。工具寿命の向上に重要な要素として、「耐チッピング性」が挙げられる。被膜の「耐チッピング性」は、被膜の表面に対しブラスト処理を実行することにより向上することができる。しかしながら、優れた「耐チッピング性」を付与する目的で、ブラスト処理を実行した際に、被膜の剥離が生じる場合がある関係で、被膜に対し優れた「耐チッピング性」を付与することが困難な場合があった。また、優れた「耐チッピング性」を付与する目的で、高い圧力でブラスト処理を実行すると、α-Al2O3層を含む被膜において、該α-Al2O3層の該被膜の表面側の結晶のエッジ部に破壊が生じ易い場合がある関係で、高い圧力でブラスト処理を実行することが困難となり、被膜に対し優れた「耐チッピング性」を付与することが困難な場合があった。被膜に対し優れた「耐チッピング性」を付与することにより、切削工具に対し優れた工具寿命を付与することが求められている。
【0008】
そこで、本開示は、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することが可能である。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第1層を含み、
前記第1層は、α-Al2O3からなり、
前記第1層の厚みは、2μm以上15μm以下であり、
前記基材と前記被膜との界面の法線に沿った断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面と、前記第1層の前記基材側の界面と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、前記第1粒界のうち、前記第1粒界と前記仮想線L1とが交差する位置における、前記仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、
前記基材と前記被膜との前記界面の前記法線に沿った前記断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面から前記基材側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、前記第3粒界のうち、前記第3粒界と前記仮想線L2とが交差する位置における、前記仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、前記割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
【0011】
本開示によれば、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記数N3と、前記第3粒界のうち、前記第3粒界と前記仮想線L2とが交差する位置における、前記仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が45°以下の粒界である第5粒界の数N5とは、下記式2の関係を満たしてもよい。
(N5/N3)>0.96 式2
これによって、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1層の厚みは、8μm未満であり、
前記第1層の表面、または、前記第1層の前記被膜の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.03μm以上0.2μm以下であってもよい。これによって、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0014】
(4)上記(1)または(2)において、前記第1層の厚みは、8μm以上であり、
前記第1層の表面、または、前記第1層の前記被膜の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.05μm以上0.2μm以下であってもよい。これによって、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記第1層の圧縮残留応力の絶対値は、1.5GPa以上4.0GPa以下であってもよい。これによって、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記第1層の配向性指数TC(0 0 12)は、4.5超であってもよい。これによって、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0018】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0020】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態に係る切削工具について、
図1、
図3~
図5を用いて説明する。
図1は、本開示の切削工具の一態様を例示する模式断面図である。
図3は、
図1および
図5の領域IIIにおける拡大図である。
図4は、
図1および
図5の領域IVにおける拡大図である。
図5は、本開示の切削工具の他の一態様を例示する模式断面図である。
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、
基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える切削工具10であって、
該被膜2は、第1層3を含み、
該第1層3は、α-Al
2O
3からなり、
該第1層3の厚みは、2μm以上15μm以下であり、
該基材1と該被膜2との界面の法線に沿った断面において、該第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面と、該第1層3の該基材1側の界面I1と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、該第1粒界のうち、該第1粒界と該仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、
該基材1と該被膜2との該界面の該法線に沿った該断面において、該第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面から該基材1側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、該第3粒界のうち、該第3粒界と該仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、該割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
【0021】
本開示によれば、優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
【0022】
(a)本実施形態の切削工具10において、基材1と被膜2との界面の法線に沿った断面において、第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面と、該第1層3の該基材1側の界面I1と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、該第1粒界のうち、該第1粒界と該仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上である。これによって、第1層3において、同じ向きに結晶が並んでいることにより、ブラスト処理を均一に付与できる。その結果、切削工具10の耐チッピング性を向上することができる。
【0023】
(b)本実施形態の切削工具10において、基材1と被膜2との界面の法線に沿った断面において、第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面から該基材1側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、該第3粒界のうち、該第3粒界と該仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
これによって、ブラスト処理を実行する際に、第1層3の表面S1または該第1層3の被膜2の表面側の界面の結晶のエッジ部の破壊が抑制され易くなる為、高い圧力でブラスト処理を実行することが可能である関係で、切削工具10に優れた耐チッピング性を付与することができる。
【0024】
以上により、本開示によれば、優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。
【0025】
≪切削工具≫
図1、
図5に示されるように、本開示の一実施の形態に係る切削工具10は、基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える。被膜2は、基材1の全面を被覆することが好ましいが、該基材1の一部が該被膜2で被覆されていなかったり、該被膜2の構成が部分的に異なっていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。基材1の一部が被膜2で被覆されていない場合においては、該被膜2は、該基材1の少なくとも切削に関与する部分の表面を覆う様に配置されていることが好ましい。本明細書において、基材1の切削に関与する部分とは、該基材1の大きさや形状にもよるが、該基材1において、その刃先稜線と、該刃先稜線から該基材1側へ、該刃先稜線の接線の垂線に沿う距離が、例えば、5mm、3mm、2mm、1mm、0.5mmのいずれかである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0026】
本実施形態の切削工具10は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等の切削工具10として好適に使用することができる。
【0027】
≪基材≫
基材1としては、この種の基材1として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、超硬合金(WC基超硬合金、WCおよびCoを含む超硬合金、更にTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金など)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0028】
これらの各種基材1の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材1は、特に高温における硬度と強度とのバランスに優れるため、切削工具10の基材1として用いた場合に、該切削工具10の長寿命化に寄与することができる。
【0029】
≪被膜≫
被膜2は、第1層3を含む。被膜2は、該第1層3のみからなっていてもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、該被膜2は、該第1層3以外の層(後述する「他の層」)を含んでもよい。被膜2の厚みは、7μm以上25μm以下であってもよく、10μm以上15μm以下であってもよい。被膜2の厚みが7μm未満であると、被膜2の厚みが薄すぎることに起因して、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。一方、被膜2の厚みが25μm超であると、切削初期において被膜2のチッピングが生じ易くなり、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。
【0030】
被膜2の厚みは、被膜2の表面の法線方向に沿った、該被膜2の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定することができる。具体的には、断面サンプルの観察倍率を5,000~10,000倍とし、観察面積を100~500μm2として、任意の1視野において任意の3箇所の厚み幅を測定し、その平均値を「厚み」とする。後述の各層の厚みについても、特に記載のない限り同様である。
【0031】
≪第1層≫
<第1層の組成>
第1層3は、α-Al2O3からなる。「α-Al2O3からなる」とは、α-Al2O3のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、α-Al2O3に加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素原子(Cl)、硫黄原子(S)等が挙げられる。第1層3における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上0.10質量%以下であってもよく、0.01質量%以上0.05質量%以下であってもよい。
【0032】
第1層3がα-Al2O3からなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により特定される。第1層3における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0033】
<第1層の厚み>
第1層3の厚みは、2μm以上15μm以下である。第1層3の厚みは、3μm以上14μm以下であってもよく、4μm以上13μm以下であってもよく、5μm以上12μm以下であってもよい。
【0034】
<面粗さRa>
第1層3の厚みは、8μm未満であり、該第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.03μm以上0.2μm以下であってもよい。これによって、ブラスト処理により、切削工具10に対し均一に圧縮残留応力を付与し易くなる関係で、より優れた耐チッピング性を付与することができる為、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。第1層3の厚みが8μm未満である場合において、該面粗さRaは、0.03μm以上0.15μm以下であってもよく、0.03μm以上0.1μm以下であってもよい。
【0035】
第1層3の厚みは、8μm以上であり、該第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaは、0.05μm以上0.2μm以下であってもよい。これによって、ブラスト処理により、切削工具10に対し均一に圧縮残留応力を付与し易くなる関係で、より優れた耐チッピング性を付与することができる為、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。第1層3の厚みが8μm以上である場合において、該面粗さRaは、0.05μm以上0.18μm以下であってもよく、0.06μm以上0.15μm以下であってもよい。
【0036】
面粗さRaは、基材1と被膜2との界面の法線方向に沿った刃先Rにおける断面において、JISB0601:2001に準拠して測定される。より具体的には、先ず、基材1と被膜2との界面の法線方向に沿った刃先Rにおける断面において、SEMを用いて1000倍の倍率で撮像することにより、第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面が含まれる画像を得る。次に、該画像において、10000倍の倍率で、10μm×10μmの矩形の任意の1つの観察視野を特定する。該観察視野において、「第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面」が、何れかの1組の向かい合う2辺を通るものとする。次に、該観察視野に対し、画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて界面の輪郭情報を抽出することにより、該観察視野における「第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面」の「算術平均粗さ」を特定する。次に、上記画像において、他の任意の4つの観察視野に対し、「第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面」の「算術平均粗さ」を特定する。次に、計5つの観察視野における「第1層3の表面S1、または、該第1層3の被膜2の表面側の界面に位置する面」の「算術平均粗さ」の平均値を算出することにより、上記面粗さRaを特定する。なお、同一の第1層3に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0037】
<割合N2/N1>
基材1と被膜2との界面の法線に沿った断面において、第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面と、該第1層3の該基材1側の界面I1と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、該第1粒界のうち、該第1粒界と該仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上である。これによって、切削工具10に優れた耐チッピング性を付与することができる。該割合N2/N1は、0.60以上1.0以下であってもよく、0.7以上1.0以下であってもよく、0.8以上1.0以下であってもよい。なお、
図1、
図5において、「第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面と、仮想線L1との距離」をD1と記す。また、
図1、
図5において、「仮想線L1と、第1層3の該基材1側の界面I1との距離」をD2と記す。「第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面と、該第1層3の該基材1側の界面I1と、からの距離が等しい」とは、D1とD2とが等しいと言い換えることができる。
【0038】
また、「第1粒界と・・・仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界」とは、該「交差する位置」において、該直線を基準にして右下がりの粒界GB(
図3)と、該直線を基準にして右上がりの粒界GB(
図4)と、を包含する概念である。「第1粒界と・・・仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界」とは、
図3の角度αが15°以下である粒界および
図4の角度αが15°以下である粒界を意味する。後述する「第3粒界と・・・仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界」についても、「第1粒界」が「第3粒界」に読み替えられ、「仮想線L1」が「仮想線L2」に読み替えられる点を除いては、同様である。
【0039】
<割合N4/N3>
基材1と被膜2との界面の法線に沿った断面において、第1層3の表面S1または該第1層3の該被膜2の表面側の界面から該基材1側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、該第3粒界のうち、該第3粒界と該仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3は、0.4以上0.9以下であってもよい。これによって、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。該割合N4/N3は、0.45以上0.80以下であってもよく、0.50以上0.75以下であってもよく、0.55以上0.70以下であってもよい。なお、「第3粒界と・・・仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界」とは、該「交差する位置」において、該直線を基準にして右下がりの粒界と、該直線を基準にして右上がりの粒界と、を包含する概念である。
【0040】
割合N2/N1および割合N4/N3は、以下の方法により特定することができる。
(A1)被膜2と基材1との界面の法線方向に沿った第1層3の断面に対し、電界放射型走査顕微鏡を用いて電子後方散乱回折像解析を実行することによって、結晶粒のそれぞれの結晶方位に基づいて、カラーマップを作成する。
(B1)(A1)で作成したカラーマップに基づいて、α-Al2O3が存在する箇所を白色とし、且つ、それ以外の箇所を黒色として画像出力することによって、第1画像を得る。次に、ノイズを除去する観点で、該第1画像において、第1層3の基材1側の界面I1と、第1層3の表面S1または第1層3の被膜2の表面側の界面と、のそれぞれに対し、15×15ピクセル(すなわち、0.3μm×0.3μm)のサイズの移動平均フィルタを施すことにより、平滑化を行った後に大津の二値化を行う。次に、大津の二値化を行った第1画像中のピクセルの各列を基材1側から順に観察し、黒色から白色に変わる箇所を第1層3の基材1側の界面I1として特定する。次に、該界面を一次式でフィッティングすることにより、直線L3を得る。次に、大津の二値化を行った第1画像中のピクセルの各列を被膜2の表面側から順に観察し、黒色から白色に変わる箇所を、第1層3の表面S1または第1層3の被膜2の表面側の界面として特定する。次に、直線L3と平行であり、且つ、該「第1層3の表面S1または第1層3の被膜2の表面側の界面」において誤差の二乗和が最小である、直線L4を得る。次に、直線L3および直線L4からの距離が等しい直線を仮想線L1として得る。また、直線L4から基材1側への距離が0.5μmである直線を仮想線L2として得る。
(C1)(A1)で作成したカラーマップに基づいて、粒界を黒色とし、且つ、それ以外の箇所を白色として画像出力することによって、第2画像を得る。
(D1)第2画像と第1画像とを重ね合わせることによって、第2画像において、(B1)で得られた仮想線L1に相当する箇所と、(B1)で得られた仮想線L2に相当する箇所と、のそれぞれを特定する。
(E1)(B1)で得られた仮想線L1に相当する箇所と、(B1)で得られた仮想線L2に相当する箇所と、のそれぞれを特定した第2画像において、任意の1つの矩形の視野(視野の大きさ:40μm×25μm)に関し、第1層3の基材1側の界面I1に平行な直線を基準として、粒界の座標を画像処理によって算出する。該座標に基づいて、粒界の傾き(言い換えれば、粒界の角度)を求める。
(F1)(E1)の矩形の視野において、仮想線L1が横切る第1粒界の数N1と、第1粒界のうち、第1粒界と仮想線L1とが交差する位置における、仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2と、を特定する。次に、N2をN1で除することにより、割合N2/N1を求める。また、(E1)の矩形の視野において、仮想線L2が横切る第3粒界の数N3と、第3粒界のうち、第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4と、を特定する。次に、N4をN3で除することにより、割合N4/N3を求める。
【0041】
なお、同一の第1層3に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0042】
<割合N2/N1および割合N4/N3の関係>
割合N4/N3と、割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たす。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
これによって、切削工具10に優れた耐チッピング性を付与することができる。「(N2/N1)-(N4/N3)」は、0.1以上0.35以下であってもよく、0.1以上0.30以下であってもよく、0.1以上0.20以下であってもよい。
【0043】
<割合N5/N3>
数N3と、第3粒界のうち、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が45°以下の粒界である第5粒界の数N5とは、下記式2の関係を満たしてもよい。
(N5/N3)>0.96 式2
これによって、第1層の被膜の表面側の領域で、第3粒界のうち、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が45°超の粒界(すなわち、該角度の絶対値が大きい粒界)を少なく抑えることができる関係で、強いブラスト処理を施した際の被膜の破壊の発生および被膜の剥離の発生を抑制できる為、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。「N5/N3」は、0.96超1.00以下であってもよく、0.97以上1.00以下であってもよく、0.98以上1.00以下であってもよい。
【0044】
「N5/N3」は、以下の方法により特定することができる。仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が45°以下の粒界である第5粒界の数N5を特定する点と、N5をN3で除することにより、割合N5/N3を求める点とを除いては、N4/N3と同様の方法で特定することができる。なお、同一の第1層3に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0045】
第3粒界の全ては、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、仮想線L2に垂直な直線に対する角度が45°未満であってもよい。これによって、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。第3粒界は、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、仮想線L2に垂直な直線に対する角度が45°以上である粒界を含まなくてもよい。これによって、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。
【0046】
<第1層の圧縮残留応力>
第1層3の圧縮残留応力の絶対値は、1.5GPa以上4.0GPa以下であってもよい。これによって、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。第1層3の圧縮残留応力とは、第1層3全体に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「-」(マイナス)の数値(単位:本実施形態では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、数値の絶対値が小さくなることを示す。すなわち、圧縮残留応力の絶対値が1.5GPa以上4.0GPa以下であるとは、第1層3に関する圧縮残留応力が-4.0GPa以上-1.5GPa以下であることを意味する。第1層3の圧縮残留応力の絶対値は、1.8GPa以上3.5GPa以下であってもよく、2.0GPa以上3.0GPa以下であってもよい。
【0047】
第1層3の圧縮残留応力は、X線残留応力装置を用いてsin2ψ法(「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54~66頁参照)によって測定することができる。
【0048】
<第1層の配向性指数TC(0 0 12)>
第1層3の配向性指数TC(0 0 12)は、4.5超であってもよい。これによって、α-Al2O3の結晶粒の強度がより向上することにより、耐摩耗性をより向上することができる為、切削工具10に対し、より優れた工具寿命を付与することができる。第1層3の配向性指数TC(0 0 12)は、4.5超8.0以下であってもよく、5.0以上7.9以下であってもよく、6.0以上7.9以下であってもよい。
【0049】
なお、本明細書において「第1層3の配向性指数TC(0 0 12)」は、以下の式3で定義される配向性指数TC(hkl)のうち、第1層3における(0 0 12)面の配向性指数TC(0 0 12)を意味する。
【0050】
【0051】
式3中、I(hkl)は、(hkl)反射面のX線回折強度を示し、I0(hkl)は、ICDDのPDFカード番号00-010-0173による標準強度を示す。また式3中のnは、計算に用いた反射数を示し、本実施形態では8である。反射に用いた(hkl)面は、(012)、(104)、(110)、(0 0 12)、(113)、(214)、(116)および(300)である。
【0052】
ICDD(登録商標)とは、International Centre for Diffraction Data(国際回折データセンター)の略称である。また、PDF(登録商標)とは、Powder Diffraction Fileの略称である。
【0053】
なお、本実施形態の第1層3の配向性指数TC(0 0 12)は、下記式4で示すことができる。
【0054】
【0055】
したがって、「第1層3の配向性指数TC(0 0 12)は、4.5超である」とは、上記式3にTC(0 0 12)を代入してなる上記式4により求まる数値が4.5超であることを意味する。
【0056】
以上のようなTC(hkl)の測定は、X線回折装置を用いた分析により可能となる。TC(hkl)は、たとえば、リガク株式会社製SmartLab(登録商標)(スキャンスピード:21.7°/分、ステップ:0.01°、スキャン範囲:15~140°)を用いて以下のような条件で測定することができる。なお、本実施形態において、X線回折装置を用いたTC(hkl)の測定の結果を「XRD結果」と称する。
(条件)
特性X線: Cu-Kα
管電圧: 45kV
管電流: 200mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法
X線回折装置を用いるに際して、切削工具のすくい面にX線を照射する。通常、すくい面には凹凸が形成され、これに対して逃げ面は平坦になっていることから、外乱因子を排除するため、X線を逃げ面に照射することが好ましい。特に、刃先稜線部から2~4mm程度の範囲に広がる逃げ面上の箇所にX線を照射する。これによると、結果の再現性が高くなる。なお、本実施形態では、基材の逃げ面上の第1層3の配向性指数TC(hkl)の値は、基材のすくい面上の第1層3のTC(hkl)の値と同一である。
【0057】
なお、同一の試料において、複数の測定箇所を任意に選択し、各測定箇所について上記の測定を行っても、同様の結果が得られることが確認された。
【0058】
≪他の層≫
他の層としては、例えば、下地層(
図5)、中間層(図示なし)、および表面層(図示なし)等を挙げることができる。下地層は、基材1に接している層である。表面層は、被膜2の表面に位置する層である。中間層は、下地層と第1層3との間に配置される層または第1層3と表面層との間に配置される層である。
【0059】
<下地層>
下地層は、TiNまたはTiCNからなってもよい。「TiNまたはTiCNからなる」とは、TiNまたはTiCNのみからなってもよく、TiNまたはTiCNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。下地層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上0.6質量%以下であってもよい。
【0060】
下地層がTiNまたはTiCNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。下地層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の下地層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0061】
下地層の厚みは、0.1μm以上2.0μm以下であってもよく、0.5μm以上1.5μm以下であってもよく、0.8μm以上1.3μm以下であってもよい。
【0062】
<中間層>
中間層は、TiCNからなってもよい。「TiCNからなる」とは、TiCNのみからなってもよく、TiCNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。中間層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上0.6質量%以下であってもよい。
【0063】
中間層がTiCNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。中間層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の中間層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0064】
中間層の厚みは、2.0μm以上10μm以下であってもよく、4.0μm以上8.0μm以下であってもよい。
【0065】
<表面層>
表面層は、TiNからなってもよい。「TiNからなる」とは、TiNのみからなってもよく、TiNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。表面層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以上0.4質量%以下であってもよい。
【0066】
表面層がTiNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。表面層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の表面層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0067】
表面層の厚みは、0.5μm以上3.0μm以下であってもよく、1.0μm以上2.5μm以下であってもよい。
【0068】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
本実施形態の切削工具の製造方法について
図2を用いて説明する。
図2は、本開示の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図である。
【0069】
本実施形態の切削工具の製造方法は、実施形態1に記載の切削工具の製造方法であって、基材1を準備する第1工程と、該基材1上に被膜を形成する第2工程と、を備え、該第2工程は、CVD法により第1層を形成する第2a工程を含む。各工程の詳細について、以下に説明する。
【0070】
≪第1工程≫
第1工程では、基材1を準備する。基材1は、実施形態1に記載の基材1を用いることができる。
【0071】
例えば、基材1として超硬合金を用いる場合は、市販の基材1を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次に、該焼結体に対して、ホーニングに処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材1を製造することができる。上記以外の基材1であっても、この種の基材1として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
【0072】
≪第2工程≫
第2工程では、上記基材1上に被膜を形成して切削工具を得る。被膜の形成は、例えば
図2に示されるCVD装置50を用いて行う。CVD装置50は、基材1を保持するための基材セット治具52の複数と、基材セット治具52を覆う耐熱合金鋼製の反応容器53とを備えている。また、反応容器53の周囲には、反応容器53内の温度を制御するための調温装置54が設けられている。反応容器53にはガス導入口を有するガス導入管が設けられている。ガス導入管は、基材セット治具52が配置される反応容器53の内部空間において、鉛直方向に延在し該鉛直方向を軸に回転可能に配置されており、またガスを反応容器53内に噴出するための複数の噴出孔(貫通孔)が設けられている。このCVD装置50を用いて、次のようにして上記被膜を構成する、第1層を形成することができる。
【0073】
第2工程は、CVD法により第1層を形成する第2a工程を含む。被膜が、実施形態1に記載の「他の層」を含む場合は、該第2工程は、該「他の層」を形成する工程を更に含むことができる。該「他の層」は従来公知の方法で形成することができる。
【0074】
<第2a工程:CVD法により第1層を形成する工程>
第2a工程では、CVD法により第1層を形成する。より具体的には、まず、基材1を基材セット治具52に配置し、反応容器53内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、第1層用の原料ガスをガス導入管から反応容器53内に導入させる。これにより、基材1上に第1層が形成される。
【0075】
CVD装置50には、2つの導入口55,57を有するノズル56が配置されている。ノズル56は、基材セット治具52が配置される領域を貫通するように配置されている。ノズル56の基材セット治具52近傍の部分には複数の噴射孔(第1噴射孔61、第2噴射孔62、第3噴射孔(図示せず)、および第4噴射孔(図示せず))が形成されている。
【0076】
導入口55,57からノズル56内に導入された各ガスは、ノズル56内においても混合されることなく、それぞれ異なる噴射孔を経て、反応容器53内に導入される。このノズル56は、その軸を中心軸として回転することができる。また、CVD装置50には排気管59が配置されており、排気ガスは排気管59の排気口60から外部へ排出することができる。なお、反応容器53内の治具類等は、通常黒鉛により構成される。
【0077】
原料ガスとして、AlCl3、HCl、CO2、H2S、およびH2の混合ガスを用いる。先ず、第1噴射孔61および第2噴射孔62において、混合ガスの組成、混合ガスの流量(すなわち、全ガス流量)、混合ガスの温度、および混合ガスの圧力の条件(条件1)を以下の通りとして、成膜を実行する。
(条件1)
AlCl3:2.0体積%以上4.0体積%以下
HCl:2.0体積%以上4.0体積%以下
CO2:3.0体積%以上5.0体積%以下
H2S:0.20体積%以上0.60体積%以下
H2:残り
温度:950℃以上1020℃以下
圧力:5kPa以上100kPa以下
【0078】
次に、第1噴射孔61および第2噴射孔62において、混合ガスの組成、混合ガスの温度、および混合ガスの圧力の条件を以下の「条件2A」の通りとし、且つ、第3噴射孔および第4噴射孔において、混合ガスの組成、混合ガスの温度、および混合ガスの圧力の条件を以下の「条件2B」の通りとして成膜を実行する。
(条件2A)
AlCl3:1.9体積%以上4.0体積%以下
HCl:2.0体積%以上4.0体積%以下
CO2:4.0体積%以上6.5体積%以下
H2S:0.03体積%以上0.12体積%以下
H2:残り
温度:950℃以上1020℃以下
圧力:10kPa以上220kPa以下
(条件2B)
AlCl3:1.5体積%以上4.0体積%以下
HCl:2.0体積%以上5.0体積%以下
CO2:3.0体積%以上5.0体積%以下
H2S:0.01体積%以上0.50体積%以下
H2:残り
温度:950℃以上1020℃以下
圧力:10kPa以上220kPa以下
【0079】
噴射孔の孔径Φは、例えば1.5mm/2.5mmとすることができる。なお、ここで、「噴射孔の孔径Φが1.5mm/2.5mmである」とは、ノズル56の長手方向に垂直な断面に位置する噴射孔に関し、該噴射孔の短径が1.5mmであり、且つ、該噴射孔の長径が2.5mmであると言い換えることができる。
【0080】
ノズル56の回転速度は、1.0rpm以上8.0rpm以下とすることができる。第1層の成膜時間は、適宜調整することができる。第1層の成膜時間を適宜調整することによって、第1層の厚みを制御することができる。
【0081】
<その他の工程>
第2工程は、上記の工程に加えて、表面研削、ブラスト処理などの表面処理工程を含むことができる。
【0082】
≪本実施形態の切削工具の製造方法の特徴≫
本実施形態の切削工具の製造方法では、第2a工程において、上記「条件1」の条件で成膜を実行した後、上記「条件2A」および「条件2B」の条件の組合せで成膜を実行する。これによって、異なる結晶の成長方向の条件を組み合わせることで、結晶の成長する向きを自在に制御することができる為、基材1と被膜との界面の法線に沿った断面において、第1層の表面または該第1層の該被膜の表面側の界面と、該第1層の該基材1側の界面と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、該第1粒界のうち、該第1粒界と該仮想線L1とが交差する位置における、該仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、該基材1と該被膜との該界面の該法線に沿った該断面において、該第1層の表面または該第1層の該被膜の表面側の界面から該基材1側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、該第3粒界のうち、該第3粒界と該仮想線L2とが交差する位置における、該仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、該割合N2/N1とは、下記式1の関係を満たすことができる。
0.1≦(N2/N1)-(N4/N3)≦0.40 式1
このような製造方法を採用することによって、本開示の切削工具を実現できることは、本発明者らが鋭意検討の結果、見いだしたものである。
【0083】
[付記1]
本開示の切削工具において、第3粒界の全ては、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、仮想線L2に垂直な直線に対する角度が45°未満であってもよい。
【0084】
[付記2]
本開示の切削工具において、第3粒界は、該第3粒界と仮想線L2とが交差する位置における、仮想線L2に垂直な直線に対する角度が45°以上である粒界を含まなくてもよい。
【実施例】
【0085】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0086】
≪切削工具の作製≫
以下の様にして、試料1~20、101~112に係る切削工具を作製した。
【0087】
<第1工程>
基材として、表11および表12に記載の組成の旋削チップ(形状:住友電工ハードメタル株式会社製、CNMG120408N-GZ)を準備した。
【0088】
<第2工程>
基材の表面に、表1および表2に記載の条件でCVD法を実行することにより下地層を形成した。成膜時間は、下地層の厚みが表11および表12に記載の通りとなる様に調整した。次に、下地層の表面に、表1および表2に記載の条件でCVD法を実行することにより中間層を形成した。成膜時間は、中間層の厚みが表11および表12に記載の通りとなる様に調整した。
【0089】
CVD法を実行することにより、中間層の表面に対し第1層を形成した(第2a工程)。第1層の形成において、先ず、表3および表4に記載の条件でCVD法を実行した(ステップI)。次に、第1噴射孔および第2噴射孔において、表5および表6に記載の条件でCVD法を実行し、且つ、第3噴射孔および第4噴射孔において、表7および表8に記載の条件でCVD法を実行することにより、第1層を形成した(ステップII)。表5~表8の全ての欄に「-」と記載されている場合は、第1層がステップIのみを実行することにより形成されたことを意味する。表5および表6の全ての欄に「-」と記載されておらず、表7および表8の全ての欄に「-」と記載されている場合は、ステップIIにおいて、第1噴射孔および第2噴射孔を用いる一方で、第3噴射孔および第4噴射孔が用いられなかったことを意味する。なお、ステップIおよびステップIIの合計の時間は、第1層の厚みが表13および表14に記載の通りとなる様に調整した。また、ステップIとステップIIとの両方が実行された場合においては、ステップIの時間と、ステップIIの時間との比を、10:1とした。
【0090】
次に、第1層の表面に、表9および表10に記載の条件でCVD法を実行することにより表面層を形成した。成膜時間は、表面層の厚みが表15および表16に記載の通りとなる様に調整した。表9および表10の「表面層の成膜条件」欄の全ての欄に「-」と記載されている場合は、表面層が形成されなかったことを意味する。
【0091】
次に、第1層の表面に表面層が形成された場合においては、表面層の表面に対し以下の条件でブラスト処理を実行した。また、第1層の表面に表面層が形成されなかった場合においては、第1層の表面に対し以下の条件でブラスト処理を実行した。
(条件)
メディアの種類:セラミックス
メディアの平均粒径:150μm
メディアの濃度:300g/分
投射角度:75°
投射距離:35mm
投射圧:表9および表10に記載の通り
時間:25秒
切削工具の回転速度:60rpm
【0092】
次に、ブラスト処理後の切削工具を目視で観察することにより、被膜の剥離の有無を特定した。得られた結果を、表9および表10の「ブラスト後の剥離の有無」欄に記す。
【0093】
以上により、試料1~20、101~112に係る切削工具を作製した。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
≪切削工具の特性評価≫
<下地層の組成>
各試料に係る切削工具について、下地層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表11および表12の「下地層」欄の「組成」欄に記す。なお、表11および表12の「下地層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、下地層は、表11および表12の「下地層」欄の「組成」欄に記載された成分からなることを意味する。
【0113】
<中間層の組成>
各試料に係る切削工具について、中間層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表11および表12の「中間層」欄の「組成」欄に記す。なお、表11および表12の「中間層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、中間層は、表11および表12の「中間層」欄の「組成」欄に記載された成分からなることを意味する。
【0114】
<第1層の組成>
各試料に係る切削工具について、第1層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「第1層」欄の「組成」欄に記す。なお、表13および表14の「第1層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、第1層は、表13および表14の「第1層」欄の「組成」欄に記載された成分からなることを意味する。
【0115】
<第1層の表面または第1層の被膜の表面側の界面に位置する面における面粗さRa>
第1層の表面、または、該第1層の被膜の表面側の界面に位置する面において、面粗さRaを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「Ra[μm]」欄に記す。
【0116】
<割合N2/N1、割合N4/N3、および割合N5/N3>
各試料に係る切削工具について、割合N2/N1を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「N2/N1」欄に記す。各試料に係る切削工具について、割合N4/N3を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「N4/N3」欄に記す。各試料に係る切削工具について、割合N5/N3を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「N5/N3」欄に記す。
【0117】
<第1層の圧縮残留応力>
試料17~20、109~112に係る切削工具について、第1層の圧縮残留応力の絶対値を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表17の「第1層」欄の「圧縮残留応力[GPa]」欄に記す。なお、表17の「第1層」欄の「圧縮残留応力[GPa]」欄に、「亀裂あり」と記載されている場合には、第1層に亀裂が発生していた関係で、圧縮残留応力が測定不可であったことを意味する。
【0118】
<第1層の配向性指数TC(0 0 12)>
各試料に係る切削工具について、第1層の配向性指数TC(0 0 12)を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表13および表14の「第1層」欄の「TC(0012)」欄に記す。
【0119】
<表面層の組成>
各試料に係る切削工具について、表面層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表15および表16の「表面層」欄の「組成」欄に記す。なお、表15および表16の「表面層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、表面層は、表15および表16の「表面層」欄の「組成」欄に記載された成分からなることを意味する。
【0120】
<被膜の厚み>
各試料に係る切削工具について、被膜の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表15および表16の「被膜」欄の「厚み[μm]」欄に記す。
【0121】
≪切削試験1≫
各試料に係る切削工具を用いて、以下の切削条件により、切削試験を実行した。チッピングが生じるまでの切削時間を測定した。得られた結果を、表18の「切削試験1[秒]」の欄に記す。
(切削条件)
被削材:FCD450
加工:断続旋削
切削速度:450m/分
送り量:0.3mm/rev
切り込み量:1.5mm
切削液:wet
【0122】
≪切削試験2≫
各試料に係る切削工具を用いて、以下の切削条件により、切削試験を実行した。逃げ面摩耗が0.2mmとなるまでの切削距離を測定した。得られた結果を、表18の「切削試験2[km]」の欄に記す。
(切削条件)
被削材:FCD700
加工:連続旋削
切削速度:140m/分
送り量:0.3mm/rev
切り込み量:1.5mm
切削液:wet
【0123】
切削試験1において切削時間が210秒以上であり、且つ、切削試験2において切削距離が2.5km以上である場合において、切削工具は、優れた工具寿命を有することを意味する。
【0124】
なお、表18には示されていないが、試料17~20に関し、切削試験1において切削時間が210秒以上であり、且つ、切削試験2において切削距離が2.5kmであることが確認された。また、表18には示されていないが、試料109~112に関し、切削試験1において切削時間が210秒以上であることと、切削試験2において切削距離が2.5kmであることとのうち少なくともいずれか達成されないことが確認された。
【0125】
試料1~20に係る切削工具は実施例に該当する。試料101~112に係る切削工具は比較例に該当する。表18における切削試験1の結果および切削試験2の結果から、試料1~20に係る切削工具は、試料101~112に係る切削工具に比して、優れた工具寿命を有することが分かった。
【0126】
以上により、試料1~20に係る切削工具は、優れた工具寿命を有することが分かった。
【0127】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0128】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0129】
1 基材、2 被膜、3 第1層、4 下地層、10 切削工具、50 CVD装置、52 基材セット治具、53 反応容器、54 調温装置、55,57 導入口、56 ノズル、59 排気管、60 排気口、61 第1噴射孔、62 第2噴射孔。
【要約】
切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、第1層を含み、前記第1層は、α-Al2O3からなり、前記第1層の厚みは、2μm以上15μm以下であり、前記基材と前記被膜との界面の法線に沿った断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面と、前記第1層の前記基材側の界面と、からの距離が等しい仮想線L1が横切る第1粒界の数N1に対し、前記第1粒界のうち、前記第1粒界と前記仮想線L1とが交差する位置における、前記仮想線L1に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第2粒界の数N2が占める割合N2/N1は、0.60以上であり、前記基材と前記被膜との前記界面の前記法線に沿った前記断面において、前記第1層の表面または前記第1層の前記被膜の表面側の界面から前記基材側への距離が0.5μmである仮想線L2が横切る第3粒界の数N3に対し、前記第3粒界のうち、前記第3粒界と前記仮想線L2とが交差する位置における、前記仮想線L2に垂直な直線に対する角度の絶対値が15°以下の粒界である第4粒界の数N4が占める割合N4/N3と、前記割合N2/N1とは、式1の関係を満たす、切削工具。