IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7666742不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料
<>
  • 特許-不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/147 20120101AFI20250415BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20250415BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20250415BHJP
   D01F 8/06 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
D04H3/147
D04H3/16
D04H3/007
D01F8/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024527303
(86)(22)【出願日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2024016196
(87)【国際公開番号】W WO2024237052
(87)【国際公開日】2024-11-21
【審査請求日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2023080597
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023080599
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】勝田 大士
(72)【発明者】
【氏名】原 昇平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 茂俊
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-321019(JP,A)
【文献】特開平05-009809(JP,A)
【文献】国際公開第97/040216(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/196527(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030121(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/090199(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 3/147
D04H 3/16
D04H 3/007
D01F 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を主成分とする複合繊維によって構成されてなる不織布であって、
前記複合繊維は、
プロピレン分率が99.0%以上100.0%以下、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下、かつ、
繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が0.8以上3.5以下であり、
が5.0以上9.5以下であり、
前記不織布の融点が13℃以上155℃以下である、不織布。
【請求項2】
前記不織布の結晶融解熱量が82J/g以上120J/g以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記不織布がスパンボンド不織布である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
前記不織布は融着部と非融着部とを有し、
前記融着部の、広角X線回折における(040)面の結晶子サイズが10.0nm以上13.5nm以下であり、
前記非融着部の、広角X線回折における(110)面の結晶子サイズが5.0nm以上10.0nm以下である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項5】
メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が99.0%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Aと、前記ポリプロピレン系樹脂Aよりもメルトフローレートが6g/10分以上200g/10分以下高く、かつ、メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が99.0%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Bと、を複合紡糸口金から溶融押出し、紡出された該ポリプロピレン系樹脂Aと該ポリプロピレン系樹脂Bとを牽引、延伸して、島成分が前記ポリプロピレン系樹脂A、海成分が前記ポリプロピレン系樹脂Bである海島型複合繊維を形成する工程と、
前記海島型複合繊維を堆積させ、該海島型複合繊維で構成されてなる繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブを熱接着する工程と、を有する、請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂Aのメルトフローレートが10g/10分以上90g/10分以下である、請求項に記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
前記ポリプロピレン系樹脂A、および/または、前記ポリプロピレン系樹脂Bのアイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下である、請求項5または6に記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
前記海島型複合繊維の島数が1以上10以下である、請求項5または6に記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
前記ポリプロピレン系樹脂Aの分子量測定における多分散度(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下である、請求項5または6に記載の不織布の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の不織布を用いてなる、衛生材料。
【請求項11】
請求項1または2に記載の不織布の層と、該不織布の層とは異なる繊維層と、を有する、積層不織布。
【請求項12】
請求項11に記載の積層不織布を用いてなる、衛生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂からなるスパンボンド不織布、特に、ポリプロピレン系樹脂からなる不織布は低コストで加工性や柔軟性に優れているため、衛生材料用途を中心に幅広く用いられている。
【0003】
近年、環境配慮に伴う石化由来のポリマー使用量の削減のため、衛生材料用途に用いられるポリプロピレン系樹脂からなる不織布に対して、目付を低減することが求められており、さらには、目付を低くしたとしても現行品と同等の力学物性、柔軟性を発揮することが求められている。
【0004】
力学物性と柔軟性を両立する不織布としては、例えば、特許文献1には、エチレン含有量が特定の範囲にあり、かつ、温度上昇溶離分別により測定される40℃における溶出成分の溶出量、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合、前記溶出成分の重量平均分子量が一定以上であるエチレン-プロピレン共重合体を含む繊維形成性樹脂が、繊維表面の少なくとも一部に露出してなる熱接着性繊維を含む不織布が提案されている。そして、この発明によれば、この不織布は低温接着性に優れるとともに、触感において、べたつき感の少ない柔軟な不織布である旨が記載されている。
【0005】
特許文献2には、アイソタクチックペンタッド分率、シンジオタクチックペンタッド分率、異種結合、重量平均分子量、多分散度(Mw/Mn)が特定の範囲にあり、かつ、末端二重結合が存在しないことが確認されるポリプロピレンを含む繊維からなる不織布が提案されている。そして、この発明によれば、この不織布は柔軟性と強力に優れる旨が記載されている。
【0006】
特許文献3には、結晶性ポリプロピレンを芯成分、芯成分よりも融点の低いポリオレフィンを鞘成分に配し、かつ、芯成分の重量平均分子量と鞘成分の重量平均分子量の比(芯成分Mw/鞘成分Mw)が一定以下である熱接着性複合繊維が提案されている。そして、この発明によれば、この繊維からなる不織布は高い突き刺し強度を有する旨が記載されている。
【0007】
特許文献4には、分子量分布が広く、かつ、低分子量成分の少ない高結晶性ポリプロピレンからなる第1成分を芯成分とし、融点が前記第1成分よりも低い温度の樹脂からなる第2成分を鞘成分とする熱接着性繊維からなる繊維集合体が提案されている。そして、この発明によれば、この繊維集合体は熱接着時の熱収縮が極めて小さく、良好な地合いの不織布に容易に加工できる旨が記載されている。
【0008】
特許文献5には、鞘成分の方が低融点である、芯/鞘構造を有する熱融着性複合繊維を含む構成繊維からなり、その芯成分、鞘成分の融点が特定の範囲にあり、かつ、熱融着性複合繊維の融着点強度、含有量が一定以上である、機械的ファスナーの凹部材用の不織布が提案されている。そして、この発明によれば、この不織布は優れた融着点強度を有しており、剥離強度、毛羽立ちが優れている旨が記載されている。
【0009】
特許文献6には、ポリオレフィン系繊維の結晶子サイズ、不織布の曲げ剛軟度が一定の範囲である不織布が提案されている。そして、この発明によれば、この不織布は柔軟性が優れたまま、加工性が高い旨が記載されている。
【0010】
そして、特許文献7には、結晶化温度、分子量分布(Mw/Mn)、メルトフローレートが特定の範囲にあるポリプロピレン系樹脂を含むスパンボンド不織布が提案されている。そして、この発明によれば、耐水性および引張強度が良好なスパンボンド不織布が提供される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-171825号公報
【文献】国際公開第1998/23799号
【文献】特開2007-107143号公報
【文献】特開平5-9809号公報
【文献】特開2002-233404号公報
【文献】特開2012-21260号公報
【文献】特開2018-168509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1において提案されている技術では、低温での熱接着が可能であり、かつ、柔軟な不織布が得られるが、繊維単体の強度としては不十分であり、結果的に十分な力学物性を発揮する不織布を得ることができないという課題がある。
【0013】
特許文献2において提案されている技術では、ポリプロピレン繊維が本来有する軽量性や柔軟性を生かし、かつ耐熱特性を向上させた不織布が得られるものの、不織布の力学物性には依然として課題がある。
【0014】
特許文献3において提案されている技術では、一定の突き刺し強度を有する不織布が得られるものの、不織布の力学物性には依然として課題がある。
【0015】
特許文献4において提案されている技術では、良好な地合いの不織布が得られるものの、不織布の力学物性には依然として課題がある。
【0016】
特許文献5において提案されている技術では、構成する繊維が芯鞘型複合繊維であることにより、融着点強度が優れた不織布が得られるが、繊維単体の強度としては不十分であり、結果的に十分な力学特性を発揮する不織布を得ることができないという課題がある。
【0017】
特許文献6において提案されている技術では、結晶子サイズが大きいことで分子の動きを抑制し、柔軟性をある程度維持しつつ、加工性のある不織布が得られるものの、不織布の力学物性には依然として課題がある。
【0018】
特許文献7において提案されている技術でも、一定の引張強度を有する不織布を得ることができるものの、依然として、不織布の力学特性には課題がある。
【0019】
そこで、本発明は、優れた柔軟性と力学物性とを両立する不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らが検討を進めたところ、不織布が優れた力学物性を発現するためには構成する繊維が優れた力学物性を発揮することと、融着部において十分に繊維同士が接着されていることが重要であると見出した。しかしながら、十分に接着するために、単に不織布を構成する繊維を複合繊維としただけでは、繊維強度が不十分なため、優れた力学物性を有する不織布が得られないということが判明した。そこで、さらに鋭意検討を進めたところ、複合繊維のプロピレン分率とアイソタクチックペンタッド分率とが一定以上であり、かつ、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が特定の範囲であり、さらに、前記の不織布の融点が特定の範囲であることで、優れた力学物性と柔軟性を両立する不織布となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0022】
[1] ポリプロピレン系樹脂を主成分とする複合繊維によって構成されてなる不織布であって、
前記複合繊維は、
プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下、
アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下、かつ、
繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が0.2以上4.0以下であり、
前記不織布の融点が130℃以上155℃以下である、不織布。
【0023】
[2] 前記不織布の結晶融解熱量が82J/g以上120J/g以下である、前記[1]に記載の不織布。
【0024】
[3] 前記繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOが5.0以上10.0以下である、前記[1]または[2]に記載の不織布。
【0025】
[4] 前記不織布がスパンボンド不織布である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の不織布。
【0026】
[5] 前記不織布は融着部と非融着部とを有し、
前記融着部の、広角X線回折における(040)面の結晶子サイズが10.0nm以上13.5nm以下であり、
前記非融着部の、広角X線回折における(110)面の結晶子サイズが5.0nm以上10.0nm以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の不織布。
【0027】
[6] メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Aと、前記ポリプロピレン系樹脂Aよりもメルトフローレートが6g/10分以上200g/10分以下高く、かつ、メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Bと、を複合紡糸口金から溶融押出し、紡出された該ポリプロピレン系樹脂Aと該ポリプロピレン系樹脂Bとを牽引、延伸して、島成分が前記ポリプロピレン系樹脂A、海成分が前記ポリプロピレン系樹脂Bである海島型複合繊維を形成する工程と、
前記海島型複合繊維を堆積させ、該海島型複合繊維で構成されてなる繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブを熱接着する工程と、を有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【0028】
[7]前記ポリプロピレン系樹脂Aのメルトフローレートが10g/10分以上90g/10分以下である、前記[6]に記載の不織布の製造方法。
【0029】
[8] 前記ポリプロピレン系樹脂A、および/または、前記ポリプロピレン系樹脂Bのアイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下である、前記[6]または[7]に記載の不織布の製造方法。
【0030】
[9] 前記海島型複合繊維の島数が1以上10以下である、前記[6]~[8]のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【0031】
[10] 前記ポリプロピレン系樹脂Aの分子量測定における多分散度(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下である、前記[6]~[9]のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【0032】
[11] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の不織布を用いてなる、衛生材料。
【0033】
[12] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の不織布の層と、該不織布の層とは異なる繊維層と、を有する、積層不織布。
【0034】
[13] 前記[12]に記載の積層不織布を用いてなる、衛生材料。
【発明の効果】
【0035】
本発明により優れた柔軟性と力学物性とを両立する不織布、および、その製造方法、ならびに、積層不織布、衛生材料を提供できるようになった。そして、本発明の不織布は、その特性から、衛生材料、とりわけ、紙おむつのバックシートに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明の不織布の融着部の広角X線回折における(040)面の結晶子サイズ、非融着部の広角X線回折における(110)面の結晶子サイズの測定箇所を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の不織布は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする複合繊維によって構成されてなる不織布であって、前記の複合繊維は、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下、かつ、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が0.2以上4.0以下であり、前記の不織布の融点が130℃以上155℃以下である。
【0038】
以下に、本発明の不織布について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0039】
[ポリプロピレン系樹脂]
本発明の不織布は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする複合繊維によって構成されてなる。ポリプロピレン系樹脂を用いることにより、低コストであり、かつ、柔軟性に優れた不織布となる。
【0040】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体、もしくはプロピレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。ここで、α-オレフィンとは、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1-ペンテンなど、二重結合がα位にある炭化水素のことをいう。
【0041】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率が好ましくは98.5%以上、より好ましくは98.8%以上、さらに好ましくは99.0%以上であることにより、複合繊維の引張強度が高くなるため、力学物性に優れた不織布となる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率の上限は、100.0%である。
【0042】
ここで言う、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率(%)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)複合繊維の原料となるポリプロピレン系樹脂を秤量し、オルトジクロロベンゼン-d(オルトジクロロベンゼンの水素が重水素に置換されたもの)を試料濃度8mass/v%となるように加え、135℃に加温する。
(2)得られた溶液について、核磁気共鳴装置(例えば、JEOL RESONANCE製「ECZ-600」など)を用いて13C-NMR測定を行い、プロピレン単位に起因するピーク面積と、エチレン単位およびα-オレフィン単位に起因するピーク面積とを、NMRスペクトルから算出する。
(3)プロピレン単位、エチレン単位、およびα-オレフィン単位に起因するピーク面積の総和AAPに対するプロピレン単位に起因するピーク面積APPの比率(APP/AAP)を百分率で求める。
(4)1水準につき3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率(%)として算出する。
【0043】
また、本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率は、例えば、原料となるモノマーの組成によって制御することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂の重合時に原料となるモノマーのプロピレン比率を多くすることで、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率を高くすることができる。
【0044】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率が好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは94.0%以上であることにより、繊維とした際に結晶融解熱量が高くなるため、複合繊維の引張強度が高くなり、力学物性に優れた不織布となる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率の上限は、100.0%である。
【0045】
ここで言う、ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率(%)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)複合繊維の原料となるポリプロピレン系樹脂を秤量し、オルトジクロロベンゼン-d(オルトジクロロベンゼンの水素が重水素に置換されたもの)を試料濃度8mass/v%となるように加え、135℃に加温する。
(2)得られた溶液について、核磁気共鳴装置(例えば、JEOL RESONANCE製「ECZ-600」など)を用いて13C-NMR測定を行う。
(3)「Zambelliら、Macromolecules、第8巻、687頁(1975)」に記載の方法に基づき、得られたNMRスペクトルのメチル基由来のスペクトルについて各ピークの帰属を行い、メチル基由来の全てのピーク強度の総和SAPに対するメソペンタッド連鎖に起因するピーク強度SMPの比(SMP/SAP)を百分率で求める。
(4)1水準につき3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率(%)として算出する。
【0046】
また、本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率は、例えば、重合触媒によって制御することができる。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率を高くするには、重合触媒として従来公知のチーグラー・ナッタ触媒や、シクロペンタジエニル骨格を有するメタロセン触媒が用いるのが通常であるが、チーグラー・ナッタ触媒で製造されたポリプロピレン系樹脂は、その融点が高くなる(160℃~170℃)ことから、シクロペンタジエニル骨格を有するメタロセン触媒を用いることが好ましい。
【0047】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレートMFRが10g/10分以上1000g/10分以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂のMFRが好ましくは10g/10分以上、より好ましくは15g/10分以上、さらに好ましくは20g/10分以上であることにより、紡糸時の安定性が向上するため、地合いが均一な不織布となる。また、ポリプロピレン系樹脂のMFRが好ましくは1000g/10分以下、より好ましくは500g/10分以下、さらに好ましくは300g/10分以下であることにより、複合繊維の引張強度が高くなり、かつ、接着部が破壊されにくくなるため、力学物性に優れた不織布となる。
【0048】
ここで言う、ポリプロピレン系樹脂のMFR(g/10分)とは、ASTM D1238(A法)に準じて、以下の手順によって測定、算出される値のことである。この規格によれば、ポリプロピレン系樹脂は荷重:2.16kg、温度:230℃にて測定することが規定されている。
(1)複合繊維の原料となるポリプロピレン系樹脂を20g採取する。
(2)採取したポリプロピレン系樹脂を、230℃に熱したメルトフローレート測定装置(例えば、株式会社東洋精機製作所製「MELT INDEXER F-F01」など)に投入し、荷重2.16kg、温度230℃の条件で測定する。
(3)1水準につき5回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第1位を四捨五入した値を、ポリプロピレン系樹脂のMFR(g/10分)として算出する。
【0049】
また、本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のMFRは、例えば、ポリプロピレン系樹脂の分子量や多分散度(Mw/Mn)によって制御することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂の分子量を高く、多分散度(Mw/Mn)を小さくすることで、ポリプロピレン系樹脂のMFRを低くすることができる。
【0050】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、多分散度(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の多分散度(Mw/Mn)が好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.0以上であることにより、分子配向が過度に高くなりすぎないため、柔軟性に優れた不織布となる。また、多分散度(Mw/Mn)が好ましくは3.5以下、より好ましくは3.2以下、さらに好ましくは3.0以下であることにより、同一紡糸速度であっても得られる複合繊維の分子配向パラメータが高くなるため、複合繊維の強度が高くなり、力学物性に優れた不織布となる。
【0051】
ここで言う、ポリプロピレン系樹脂の多分散度(Mw/Mn)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)複合繊維の原料となるポリプロピレン系樹脂を5mg採取する。
(2)採取したポリプロピレン系樹脂5mgに対して、1,2,4-トリクロロベンゼン5mLを加え、を165℃で20分間加熱してポリプロピレン系樹脂を溶解させてポリプロピレン系樹脂溶液を得る。
(3)得られたポリプロピレン系樹脂溶液を、PTFEフィルター(例えば、アドバンテック東洋株式会社製「T010A(孔径:0.45μm)」など)を用いて濾過し、試料溶液を作製する。
(4)作製した試料溶液を、高温GPC装置(例えば、Polymer Laboratories製「PL-220」など)に投入して、カラム温度145℃で測定を実施し、GPC排出曲線について解析を行うことで、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および多分散度(Mw/Mn)を算出する。
(5)1水準につき3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、ポリプロピレン系樹脂の多分散度(Mw/Mn)として算出する。
【0052】
また、本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂の多分散度(Mw/Mn)は、例えば、重合触媒によって制御することができる。具体的には、メタロセン触媒を用いることで、ポリプロピレン系樹脂の多分散度(Mw/Mn)を小さくすることができる。
【0053】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、他成分樹脂をブレンドさせることができる。換言すれば、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明に係るポリプロピレン系樹脂が、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体、および、プロピレンと前記α-オレフィンとの共重合体の少なくとも1種から選択される樹脂と他成分樹脂とがブレンドされてなる樹脂であってもよい。他成分樹脂としては、融点がポリプロピレンに近いポリエチレンやポリ-4-メチル-1-ペンテンなどのポリオレフィン系樹脂(なお、「ポリオレフィン系樹脂」とは、前記の「ポリプロピレン系樹脂」の例と同様、繰り返し単位に占める当該ポリオレフィン単位のモル分率が80モル%以上100モル%以下である樹脂のことを指す。特記がない限り、「・・・系樹脂」との記載があるものは同様である。)の他、融点がポリプロピレンに近いポリエステル系樹脂、および、融点がポリプロピレンに近いポリアミド系樹脂が挙げられ、柔軟性付与の観点から低結晶性のポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。低結晶性のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体や、低立体規則性ポリプロピレン(アイソタクチックペンタッド分率が0.60以下であるポリプロピレン)などが好適に用いられる。この場合において、他成分樹脂の質量比率は、ポリプロピレン系樹脂の特性を十分に発現させるため、その上限が好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0054】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、本発明の効果をさらに高めるために、あるいは、他の特性を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、帯電助剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、ポリエチレンワックスを含む滑剤、結晶核剤、および、顔料等の添加物、あるいは、他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0055】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂は、滑り性や柔軟性を向上させるために、脂肪酸アミド化合物が0.01質量%以上含有されていることが好ましい。脂肪酸アミド化合物の含有量が好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であることにより、脂肪酸アミド化合物が繊維表面において滑剤として作用するため、触感に優れた不織布となる。また、本発明における脂肪酸アミド化合物の含有量の上限は特に制限されないが、コストや生産性の観点から5.0質量%以下が好ましい。
【0056】
[複合繊維]
本発明の不織布は、複合繊維のプロピレン分率が98.5%以上100.0%以下、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下、かつ、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が0.2以上4.0以下、の複合繊維によって構成されてなる。このような複合繊維によって構成されてなることで、分子配向が高く、融着部の接着強度に優れた繊維となるため、力学物性に優れた不織布となる。
【0057】
本発明に係る複合繊維は、2種類以上の樹脂を複合した繊維である。その複合形態は本発明の効果を損ねない限り特に限定されるものではなく、海成分と成分が異なる樹脂からなる海島型であってよく、海成分および/または島成分に2種以上のブレンド樹脂を使用することも可能である。なお、本発明においては、一般に芯鞘型複合繊維と称される複合繊維は、島数が1の海島型複合繊維の一態様であると考えることとする。つまり、この島成分の数が1の海島型複合繊維の中に、同心型の芯鞘型複合繊維、偏心型の芯鞘型複合繊維を含むものとする。
【0058】
本発明に係る複合繊維は、島成分の数が1以上10以下であることが好ましい。島成分の数が好ましくは10以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下であることで、複合繊維の引張強度が高くなるため、力学物性に優れた不織布となる。なお、島成分の数が2以上である場合には、少なくとも中央部には、少なくとも一つの島が配置されるようにする。また、島成分の数が好ましくは1以上であることにより、複合繊維が曲がりやすくなるため、柔軟性に優れた不織布となる。
【0059】
本発明に係る複合繊維は、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下である。プロピレン分率が98.5%以上、好ましくは98.8%以上、より好ましくは99.0%以上であることにより、複合繊維の引張強度が高くなるため、力学物性に優れた不織布となる。また、本発明で達し得る複合繊維のプロピレン分率の上限は、100.0%である。
【0060】
ここで言う、複合繊維のプロピレン分率(%)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より採取した非接着部の複合繊維を秤量し、オルトジクロロベンゼン-d(オルトジクロロベンゼンの水素が重水素に置換されたもの)を試料濃度8mass/v%となるように加え、135℃に加温する。
(2)得られた溶液について、核磁気共鳴装置(例えば、JEOL RESONANCE製「ECZ-600」など)を用いて13C-NMR測定を行い、プロピレン単位に起因するピーク面積と、エチレン単位およびα-オレフィン単位に起因するピーク面積とを、NMRスペクトルから算出する。
(3)プロピレン単位、エチレン単位、および、α-オレフィン単位に起因するピーク面積の総和AAFに対するプロピレン単位に起因するピーク面積APFの比率(APF/AAF)を百分率で求める。
(4)1水準につき、複合繊維の採取箇所を変更して3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、複合繊維のプロピレン分率(%)として算出する。
【0061】
また、本発明に係る複合繊維のプロピレン分率は、例えば、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率によって制御することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率を高くすることで、複合繊維のプロピレン分率を高くすることができる。
【0062】
本発明に係る複合繊維は、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下である。アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上、好ましくは92.0%以上、より好ましくは94.0%以上であることにより、複合繊維の引張強度が高くなるため、力学物性に優れた不織布となる。また、本発明で達し得る複合繊維のアイソタクチックペンタッド分率の上限は、100.0%である。
【0063】
ここで言う、複合繊維のアイソタクチックペンタッド分率(%)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より採取した非接着部の複合繊維を秤量し、オルトジクロロベンゼン-d(オルトジクロロベンゼンの水素が重水素に置換されたもの)を試料濃度8mass/v%となるように加え、135℃に加温する。
(2)得られた溶液について、核磁気共鳴装置(例えば、JEOL RESONANCE製「ECZ-600」など)を用いて13C-NMR測定を行う。
(3)「Zambelliら、Macromolecules、第8巻、687頁(1975)」に記載の方法に基づき、得られたNMRスペクトルのメチル基由来のスペクトルについて各ピークの帰属を行い、メチル基由来の全てのピーク強度の総和SAFに対するメソペンタッド連鎖に起因するピーク強度SMFの比(SMF/SAF)を百分率で求める。
(4)1水準につき、複合繊維の採取箇所を変更して3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、複合繊維のアイソタクチックペンタッド分率(%)として算出する。
【0064】
また、本発明に係る複合繊維のアイソタクチックペンタッド分率は、例えば、ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率によって制御することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率を高くすることで、複合繊維のアイソタクチックペンタッド分率を高くすることができる。
【0065】
本発明に係る複合繊維は、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面か部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとの差(O-O)が0.2以上4.0以下である。O-Oが0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上であることにより、熱接着時に繊維中央部は配向を維持したまま繊維表面が軟化して繊維同士が接着することで、接着部が破壊されにくくなるため、力学物性に優れた不織布となる。また、O-Oが4.0以下、好ましくは3.5以下であることにより、紡糸時の工程安定性が向上し、かつ、繊維中央部の分子配向が過度に高くなりすぎないため、地合いが均一で柔軟性に優れた不織布となる。
【0066】
ここで言う、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータO、繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータO、それらの差O-Oとは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より、非接着部の複合繊維を採取する。
(2)採取した複合繊維について、カミソリを用いて繊維軸方向に対し約4°の切削角で繊維を切断して繊維縦断面を露出させた後、ラマン分光測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製「RAMANOR T64000」など)にセットし、繊維軸垂直方向から繊維縦断面にレーザーを照射して顕微ラマン測定を行う。
(3)偏光方向が繊維軸方向と平行になる条件にて測定を実施し、繊維中央部(海島複合繊維において、複合繊維の繊維直径方向の中点に島成分が存在する場合はその中点、複合繊維の繊維直径方向の中点に島が存在しない場合はその中点に最も近い島成分の繊維直径方向の中点)および繊維表面部(繊維直径方向の繊維側面から0.5μm内側)の偏光ラマンスペクトルを得る。
(4)CH変角振動とC-C伸縮振動のカップリングモードに帰属される810cm-1付近のラマンバンド強度をI810とし、CH変角振動モードに帰属される840cm-1のラマンバンド強度をI840とし、下式を用いて分子配向パラメータを算出する。
分子配向パラメータ=I810/I840
(5)1水準につき、複合繊維の採取箇所を変更して、繊維中央部と繊維表面部の両方でそれぞれ3回測定を行い、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータの算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータO、繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータの算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOとして算出する。
(6)繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOと繊維表面部における繊維軸方向の分子配向パラメータOの値より、O-Oを算出する。
【0067】
また、本発明に係る複合繊維のO-Oは、例えば、複合繊維を海島型複合繊維とした上で、島成分と海成分のポリマー特性差、特にMFR差によって制御することができる。具体的には、島成分のポリプロピレン系樹脂のMFRよりも高いMFRを有したポリプロピレン系樹脂を海成分に用いることで、複合繊維のO-Oを大きくすることができる。
【0068】
本発明に係る複合繊維は、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOが5.0以上10.0以下であることが好ましい。繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOが好ましくは5.0以上、より好ましくは5.3以上、さらに好ましくは5.5以上であることにより、複合繊維の分子配向が高くなり引張強度が高くなるため、力学物性に優れた不織布となる。また、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOが好ましくは10.0以下、より好ましくは9.5以下であることにより、繊維中央部の分子配向が過度に高くなりすぎず複合繊維が柔らかくなるため、柔軟性に優れた不織布となる。
【0069】
本発明に係る複合繊維は、その断面形状が、丸断面であってもよいし、扁平断面、およびY型やC型などの異形断面であってもよい。中でも、扁平断面や異形断面のような構造由来の曲げにくさがなく、柔軟性に優れた不織布とすることができることから、丸断面であることが好ましい。
【0070】
本発明に係る複合繊維は、平均単繊維径が5.0μm以上20.0μm以下であることが好ましい。平均単繊維径が好ましくは5.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは10.0μm以上であることにより、紡糸時の糸切れを抑制できるため、欠点の少ない不織布となる。また、平均単繊維径が好ましくは20.0μm以下、より好ましくは17.0μm以下であることにより、肌触りに優れ、地合が均一であり、力学物性に優れた不織布となる。
【0071】
ここで言う、複合繊維の平均単繊維径(μm)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より、5mm×5mmの試験片を採取する。
(2)不織布の表面において、隣り合った接着部間の距離に対して接着部から10%以上離れた位置に存在する複合繊維をエポキシ樹脂等の包埋剤にて包埋し、カミソリを用いて繊維軸垂直方向に繊維を切断して繊維横断面を露出させた後、走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU1510」など)で10本以上の繊維が観察できる倍率にて画像を撮影する。
(3)撮影した画像を用い、画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF2015」など)を用いて、単繊維の断面輪郭が形成する面積Aを10本分計測し、この面積Aと同一の面積となる真円の直径(μm)を算出する。
(4)1水準につき、試験片の採取箇所を変更して10回測定を行い、計100本の算術平均値の小数点以下第2位を四捨五入した値を、平均単繊維径(μm)として算出する。
【0072】
また、本発明に係る複合繊維の平均単繊維径は、例えば、後述する紡糸温度や単孔吐出量、紡糸速度などによって制御することができる。具体的には、紡糸温度を高くする、単孔吐出量を低くする、紡糸速度を高くすることで、複合繊維の平均単繊維径を小さくすることができる。
【0073】
本発明に係る複合繊維の引張強度は、1.2cN/dtex以上5.0cN/dtex以下であることが好ましい。複合繊維の引張強度について、その下限が1.2cN/dtex以上であることにより、優れた力学特性を有する不織布となる。一方、複合繊維の引張強度について、その上限が5.0cN/dtex以下であることにより、優れた柔軟性を有する不織布となる。
【0074】
なお、本発明における複合繊維の引張強度は、JIS L1015:2010の「8.7 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)複合繊維の密度を以下の(1-1)~(1-3)の手順によって測定する。
(1-1)15℃に温調された室内にて、水とエタノールを混合する。なお、エタノールの質量分率は40%~70%とし、1%の間隔で濃度の異なる31水準のエタノール水溶液を調製する。
(1-2)超音波洗浄を施して不純物を取り除いた不織布のうち、幅方向の端部を除いた部分から、5mm×5mmの試験片をランダムに93枚切り出す。
(1-3)切り出した試験片に気泡がつかないようにしてエタノール水溶液に浸漬させ、6時間以上放置する。
(1-4)試験片が底まで沈まなかったエタノール水溶液のうち、最もエタノール質量分率が低いエタノール水溶液の質量分率X(単位なし)を得る操作を3回実施し、得られたエタノール水溶液の質量分率の算術平均値より、下式を用いて密度を算出する。
複合繊維の密度(g/cm)=-0.000005×X -0.0017×X+1.0153
(2)不織布を構成し、隣り合った融着部間の距離に対して当該融着部から10%以上離れた位置に存在する複合繊維を、無作為に6本取り出す。このとき、各複合繊維の繊維長が50mm以上となるように取り出し、取り出した複合繊維の繊維長が50mmを下回る場合には、再度複合繊維を無作為に取り出して、6本の複合繊維が全て50mm以上となるように取り出す。
(3)取り出した複合繊維の繊維径が半分となるように切断し、12本の複合繊維とする。そして、得られた12本の複合繊維のうち6本を下記の(4)、(5)用の試料とし、残りの6本を(6)~(8)用の試料として用いる。
(4)複合繊維を、エポキシ樹脂等の包埋剤にて包埋し、繊維軸に垂直方向の繊維横断面を顕微鏡(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡「SU1510」など)で10本以上の複合繊維が観察できる倍率にて画像を撮影する。
(5)撮影された各画像から同一画像内で無作為に抽出した複合繊維を、画像解析ソフトを用いて解析することで繊維断面の面積を測定し、真円換算で求められる複合繊維の単繊維径(円相当径、μm)を求め、(1)で算出した密度とともに、次の式に基づいて正味繊度(dtex)を算出して、小数点以下第3位を四捨五入する。
正味繊度(dtex)=π×(複合繊維の単繊維径(cm)/2)×密度(g/cm)×1000000(cm)
(6)空間距離20mmとした複合繊維を1本ずつ区分線に緩く張った状態で両端を接着剤で紙片にはり付けて固着し、区分ごとを1試料として、6本作製する。
(7)(6)の試料を引張試験機(例えば、株式会社エー・アンド・デイ製「RTC1210A」など)のつかみに取り付け、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の速度で引っ張り、試料が切断したときの荷重(cN)を測定する。
(8)(7)で得られた荷重を(5)で得られた正味繊度(dtex)で除して引張強度(cN/dtex)を算出し、各試料で算出した引張強度の平均値(cN/dtex)を求め、小数点以下第2位を四捨五入する。
【0075】
また、本発明に係る複合繊維の引張強度を上記の範囲とするためには、例えば、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂を用いる、などの手段が挙げられる。
【0076】
[不織布]
本発明の不織布は、前記の複合繊維が含まれてなり、融点が130℃以上155℃以下である。このような不織布とすることにより、優れた柔軟性と力学物性とを両立する不織布となる。
【0077】
本発明の不織布は、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布などの長繊維不織布であっても良く、ニードルパンチ不織布や抄紙不織布などの短繊維不織布であってもよい。中でも、低目付化が容易であり、優れた柔軟性と力学物性とを両立しやすいことから、スパンボンド不織布であることが好ましい。
【0078】
本発明の不織布は、後述する不織布の層のみの、すなわち、単層の不織布であってもよく、複数の同種の不織布の層からなる不織布であってもよい。ただし、本発明の不織布の層とは異なる種類の繊維層、例えば、本発明の不織布がスパンボンド不織布である場合、メルトブロー不織布の層や抄紙不織布の層、あるいは、織物の層や編物の層など、を有する場合は、後述する積層不織布であるものとする。
【0079】
本発明の不織布は、その融点が130℃以上155℃以下である。融点が130℃以上、好ましくは135℃以上、より好ましくは138℃以上であることにより、実用に耐え得る耐熱性が得られ、かつ、不織布の寸法安定性が向上するため、柔軟性に優れた不織布となる。また、融点が155℃以下、好ましくは150℃以下であることにより、熱接着時に接着が容易となるため、力学物性に優れた不織布となる。
【0080】
ここで言う、不織布の融点(℃)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より試験片を2.0mg採取し、示差走査熱量計(例えば、TA Instruments製「DSC Q2000」)にセットする。
(2)窒素下、昇温速度16℃/分、測定温度範囲50℃~230℃の条件で示差走査熱量測定(1stDSC)を実施した後、降温速度100℃/分にて急冷後、再度窒素下、昇温速度16℃/分、測定温度範囲50℃~230℃の条件で示差走査熱量測定(2ndDSC)を実施する。
(3)2ndDSCのDSC曲線において、最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度(℃)を算出する。
(4)1水準につき、試験片の採取箇所を変更して3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第1位を四捨五入した値を、融点(℃)として算出する。
【0081】
また、本発明の不織布の融点は、例えば、重合触媒や複合繊維のプロピレン分率によって制御することができる。具体的には、重合触媒としてメタロセン触媒を用いることや、複合繊維のプロピレン分率を低くすることで、不織布の融点を低くすることができる。
【0082】
本発明の不織布は、その結晶融解熱量が82J/g以上120J/g以下であることが好ましい。結晶融解熱量が82J/g以上、好ましくは85J/g以上、より好ましくは88J/g以上であることにより、不織布の結晶化度を適度に高くすることができるため、力学物性に優れた不織布となる。また、結晶融解熱量が好ましくは120J/g以下、より好ましくは110J/g以下であることにより、不織布の結晶化度が過度に高くなりすぎず、柔軟性に優れた不織布となる。
【0083】
ここで言う、不織布の結晶融解熱量(J/g)とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より試験片を2.0mg採取し、示差走査熱量計(例えば、TA Instruments製「Q2000」)にセットする。
(2)窒素下、昇温速度16℃/分、測定温度範囲50℃~230℃の条件で示差走査熱量測定(1stDSC)を実施した後、降温速度100℃/分にて急冷後、再度窒素下、昇温速度16℃/分、測定温度範囲50℃~230℃の条件で示差走査熱量測定(2ndDSC)を実施する。
(3)2ndDSCのDSC曲線において、最も大きい吸熱ピークの吸熱量(J/g)を算出する。
(4)1水準につき、試験片の採取箇所を変更して3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第1位を四捨五入した値を、結晶融解熱量(J/g)として算出する。
【0084】
また、本発明の不織布の結晶融解熱量は、例えば、複合繊維のプロピレン分率によって制御することができる。具体的には、複合繊維のプロピレン分率を高くすることで、不織布の結晶融解熱量を高くすることができる。
【0085】
本発明の不織布は、融着部と非融着部とを有する。なお、本発明において、融着部とは不織布の断面方向に圧着されるなどして、複合繊維の断面形状がその他の部分の形状と異なる程度に変形して、さらには、その箇所が塊状となったり、フィルム状となったりするまで複合繊維が溶融して、その複合繊維同士が融着している場所を指す。具体的には、凹凸を有するロール(エンボスロール)とフラットロールにより熱接着する場合であれば、そのエンボスロールの凸部が不織布に当接する部分を指す。一方、非融着部とは前記の融着部以外の部分のことを指すものとする。
【0086】
本発明の不織布は、その融着部の広角X線回折における(040)面の結晶子サイズが、10.0nm以上13.5nm以下であることが好ましく、その非融着部の広角X線回折における(110)面の結晶子サイズは、5.0nm以上10.0nm以下であることが好ましい。この2つの要件を同時に満たすことによって、高い繊維強度と融着部での高い接着強度による優れた力学物性を有する不織布となる。
【0087】
上記のとおり、本発明の不織布は、その融着部の広角X線回折における(040)面の結晶子サイズが、10.0nm以上13.5nm以下であることが好ましい。この融着部の(040)面の結晶子サイズについて、その下限が好ましくは10.0nm以上、より好ましくは11.0nm以上であることにより、結晶子サイズが十分な大きさを有するため、より優れた力学物性を有する不織布となる。一方、融着部の(040)面の結晶子サイズについて、その上限が好ましくは13.5nm以下、より好ましくは13.0nm以下であることにより、より柔軟性に優れた不織布となる。
【0088】
次に、本発明の不織布は、その非融着部の広角X線回折における(110)面の結晶子サイズは、5.0nm以上10.0nm以下である。この非融着部の(110)面の結晶子サイズについて、その下限が5.0nm以上、好ましくは6.0nm以上、より好ましくは8.0nm以上であることにより、十分な大きさの結晶子サイズであるため、より優れた力学物性を有する不織布となる。一方、非融着部の(110)面の結晶子サイズについて、その上限が10.0nm以下、好ましくは9.5nm以下であることにより、結晶子サイズが均一化されているため、力学物性に優れた不織布となる。すなわち、非融着部の(110)面の結晶子サイズが、5.0nm以上10.0nm以下であることにより、十分な結晶子サイズであり、結晶子サイズが均一であるため、力学物性に優れた不織布となる。
【0089】
なお、本発明において、不織布の融着部の(040)面および不織布の非融着部の(110)面の結晶子サイズは、ポリプロピレン系樹脂を重合する際の触媒やメルトフローレートにより制御することができる。メルトフローレートの値が大きいほど不織布の融着部の(040)面および不織布の非融着部の(110)面の結晶子サイズは小さくなる。
【0090】
本発明において、融着部の広角X線回折における(040)面の結晶子サイズ、非融着部の広角X線回折における(110)面の結晶子サイズは、それぞれ以下の方法で測定、算出された値を指すこととする。
(1)不織布の幅方向の端から10cmを除いた部分であって、かつ、融着部と非融着部とをそれぞれ有する箇所から、5cm×5cmの試験片をランダムに1枚採取する。そして、融着部、非融着部の測定に用いる箇所を以下の(1-1)、(1-2)によって決定する。
(1-1)不織布の融着部の測定には、上記試験片の中心付近に存在する融着部であって、かつ、図1に示すように、試験片(1)の融着部(11)の内接円(12)の中心から内接円の半径の50%以下の距離の箇所(13)を用いる。
(1-2)不織布の非融着部の測定には、上記試験片の中心付近に存在する非融着部の中の、隣り合った融着部間の距離に対して融着部から10%以上離れた箇所を用いる。
(2)非融着部の測定については、(1-2)で決定した箇所に存在する繊維20本を、繊維軸が同一方向になるようにまとめる。
(3)(1-1)で決定した箇所の試料(融着部の試料)、および、(2)でまとめた試料(非融着部の試料)について、X線回折装置(例えば、Bruker AXS社製「D8 DISCOVER μHR Hybrid」など)を用いて広角X線回折測定を行う。ここで、前記の融着部の試料は不織布の厚み方向からX線を照射し、前記の非融着部の試料は繊維径方向からX線を照射する。
(4)前記の融着部の試料を測定し得られた(040)面に対応するピークの全周を円環平均および、前記の非融着部の試料を測定し得られた(110)面に対応するピークの赤道線方向の扇形平均からX線回折プロファイルを得る。
(5)それぞれの結晶子サイズを、ピークの半値幅β(°)より下式(Scherrerの式)を用いて算出する。
結晶子サイズL(nm)=0.9λ/((β -β 0.5×cosθ)
ここで、式中、λは入射X線波長、βは半値幅の補正値、θはピークトップのブラッグ角(°)を表す。
【0091】
また、融着部の広角X線回折における(040)面の結晶子サイズ、非融着部の広角X線回折における(110)面の結晶子サイズを上記の範囲とするためには、例えば、メタロセン触媒を重合触媒として用いたポリプロピレン系樹脂を用いるなどの手段が挙げられる。
【0092】
本発明の不織布のメルトフローレートは、20g/10分以上100g/10分以下であることが好ましい。不織布のメルトフローレートをこの範囲とすることで、不織布の融着部の(040)面および不織布の非融着部の(110)面の結晶子サイズを上記範囲に制御しやすくなる。不織布のメルトフローレートについて、その下限が好ましくは20g/10分以上、より好ましくは30g/10分以上であることにより、優れた柔軟性を有する不織布となる。また、不織布のメルトフローレートについて、その上限が好ましくは100g/10分以下、より好ましくは60g/10分以下であることにより、実用に供しうる十分な強度を有する不織布となる。
【0093】
なお、本発明における不織布のメルトフローレートは、ASTM D1238(A法)に準じて、不織布の幅方向の端から10cmを除いた部分から5gの試験片を5枚採取し、採取した試験片について、荷重が2160gで、温度が230℃の条件で測定して得られた値の算術平均値を指すこととする。測定には、例えば、株式会社東洋精機製作所製メルトインデックサ「F-F01」などを用いることができる。
【0094】
また、不織布のメルトフローレートは、ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量により制御することができる。ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量が高いほど、メルトフローレートの値は小さくなる。
【0095】
本発明の不織布は、その目付が5g/m以上100g/m以下であることが好ましい。目付が好ましくは5g/m以上、より好ましくは7g/m以上であることにより、地合が均一であり、力学物性に優れた不織布となる。また、目付が好ましくは100g/m以下、より好ましくは50g/m以下であることにより、柔軟性に優れた不織布となる。
【0096】
ここで言う、不織布の目付(g/m)とは、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準じて、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より、20cm×25cmの試験片を採取する。ただし、20cm×25cmの試験片が採取できない場合には、試験片の合計面積が500cmとなるように不織布から試験片を複数枚採取する。
(2)採取した試験片について、標準状態における質量(g)を測定し、面積1m当たりの質量(g/m)に換算する。
(3)1水準につき、試験片の採取箇所を変更して3回測定を行い、その算術平均値の小数点以下第1位を四捨五入した値を、目付(g/m)として算出する。
【0097】
また、本発明の不織布の目付は、例えば、後述する紡糸時の単孔吐出量や搬送速度などによって制御することができる。具体的には、単孔吐出量を低くする、搬送速度を高くすることで、不織布の目付を小さくすることができる。
【0098】
本発明の不織布は、その目付当たりの引張強度が1.40(N/25mm)/(g/m)以上3.00(N/25mm)/(g/m)以下であることが好ましい。目付当たりの引張強度が好ましくは1.40(N/25mm)/(g/m)以上、より好ましくは1.50(N/25mm)/(g/m)以上、さらに好ましくは1.55(N/25mm)/(g/m)以上であることにより、力学物性に優れた不織布となる。また、目付当たりの引張強度が好ましくは3.00(N/25mm)/(g/m)以下、より好ましくは2.80(N/25mm)/(g/m)以下であることにより、柔軟性に優れた不織布となる。
【0099】
ここで言う、不織布の目付当たりの引張強度((N/25mm)/(g/m))とは、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じて、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)不織布より、不織布の縦方向(長手方向)と横方向(幅方向)それぞれの向きで、25mm×40mmの試験片を採取する。
(2)採取した試験片の長辺方向(40mm)を引張方向とし、つかみ間隔20mmで引張試験機(例えば、株式会社エー・アンド・デイ製「RTC-1210A」など)にセットする。
(3)引張速度20mm/分で引張試験を実施し、最大点荷重(N/25mm)を測定する。
(4)1水準につき、試験片の採取箇所を変更して縦方向と横方向の両方でそれぞれ5回測定を行い、計10回の算術平均値の小数点第3位を四捨五入した値を、平均最大点荷重(N/25mm)とし、下式を用いて目付当たりの引張強度((N/25mm)/(g/m))を算出する。
目付当たりの引張強度((N/25mm)/(g/m))=最大点荷重(N/25mm)/目付(g/m) 。
【0100】
また、本発明の不織布の目付当たりの引張強度は、例えば、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率やアイソタクチックペンタッド分率、MFR、複合繊維の分子配向パラメータ差(O-O)や繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータO、不織布の融点や結晶融解熱量、および/または、後述する紡糸時の紡糸速度や熱接着条件(接着率、温度、線圧など)によって制御することができる。具体的には、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン分率やアイソタクチックペンタッド分率を高くする、MFRを低くする、複合繊維の分子配向パラメータ差(O-O)や繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOを大きくする、不織布の融点や結晶融解熱量を高くする、紡糸時の紡糸速度を速くする、熱接着時の接着率、温度、線圧を高くすることで、不織布の目付当たりの引張強度を高くすることができる。
【0101】
本発明の不織布は、その剛軟度が10mm以上50mm以下であることが好ましい。剛軟度が好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上であることにより、適度な剛性が発現するため、取り扱い性に優れた不織布となる。また、剛軟度が好ましくは50mm以下、より好ましくは45mm以下であることにより、柔軟性に優れた不織布となる。
【0102】
ここで言う、不織布の剛軟度(mm)とは、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度(JIS法及びISO法)」の「6.7.3 41.5°カンチレバー法」に準じて、不織布の縦方向(不織布の長手方向)と横方向(不織布の幅方向)それぞれについて3回測定を行い、さらに縦方向、横方向の全ての値の算術平均値(mm)について、小数点以下第1位で四捨五入した値のことである。
【0103】
また、本発明の不織布の剛軟度は、例えば、複合繊維の断面形状や繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータO、不織布の結晶融解熱量や目付、および/または、後述する熱接着条件(接着率、温度、線圧など)によって制御することができる。具体的には、複合繊維の断面形状を丸断面とする、繊維中央部における繊維軸方向の分子配向パラメータOを小さくする、不織布の結晶融解熱量を小さくする、目付を低くする、熱接着時の接着率、温度、線圧を低くすることで、不織布の剛軟度を低くすることができる。
【0104】
[不織布の製造方法]
次に、本発明の不織布の製造方法について、説明する。本発明の不織布の製造方法は、好ましくは、
メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Aと、前記ポリプロピレン系樹脂Aよりもメルトフローレートが6g/10分以上200g/10分以下高く、かつ、メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Bと、を複合紡糸口金から溶融押出し、紡出された該ポリプロピレン系樹脂Aと該ポリプロピレン系樹脂Bとを牽引、延伸して、島成分が前記ポリプロピレン系樹脂A、海成分が前記ポリプロピレン系樹脂Bである海島型複合繊維を形成する工程と、
前記海島型複合繊維を堆積させ、該海島型複合繊維で構成されてなる繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブを熱接着する工程と、を有する。このような製造方法とすることにより、優れた柔軟性と力学物性とを両立する不織布を、安定して得ることができる。以下に、上記の好ましい態様の各工程について、さらに詳細を説明する。
【0105】
(a)海島型複合繊維を形成する工程
まず、この工程では、
・メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Aと、
・前記ポリプロピレン系樹脂Aよりもメルトフローレートが6g/10分以上200g/10分以下高く、かつ、メタロセン触媒によって重合された、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下のポリプロピレン系樹脂Bと、
を複合紡糸口金から溶融押出する。このようにすることで、力学物性に優れた不織布を得ることができる。
【0106】
(a-1)ポリプロピレン系樹脂A
本発明の不織布の製造方法において、島成分に配されるポリプロピレン系樹脂Aは、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて作られたポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Aがメタロセン触媒を用いて作られたポリプロピレン系樹脂であることで、チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたポリプロピレン系樹脂と比較して、紡糸時の工程安定性が向上するとともに、ポリプロピレン系樹脂Aを配した島成分の分子配向パラメータOを高くすることができ、かつ、融点を低くすることが可能となるため、地合いの均一性が高く、力学物性と柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【0107】
ここで、メタロセン触媒の具体例としては、例えば、エチレンビスインデニルジルコニウムジクロリド、エチレンビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2-メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-イソプロピルインデニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、シクロヘキシリデン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、メチルフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(2,7-ジt-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、シクロヘキシリデン(シクロペンタジエニル)(2,7-ジt-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7-ジt-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、メチルフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7-ジt-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。中でも、ポリプロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率を高くできることから、本発明においてはシクロペンタジエニル骨格を有するメタロセン触媒を用いることが好ましい。
【0108】
また、助触媒としては、アルミノキサンの他に、例えばジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられ、そして、その他にトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートや、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、塩化マグネシウム、アルミナ、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロンなどを使用することができる。
【0109】
本発明の不織布の製造方法において、島成分に配されるポリプロピレン系樹脂Aは、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Aのプロピレン分率が好ましくは98.5%以上、より好ましくは98.8%以上、さらに好ましくは99.0%以上であることにより、紡糸時の工程安定性が向上するとともに、得られる不織布の結晶融解熱量が高くなるため、地合いの均一性が高く、かつ、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂Aのプロピレン分率の上限は、100.0%である。
【0110】
本発明の不織布の製造方法において、島成分に配されるポリプロピレン系樹脂Aは、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Aのアイソタクチックペンタッド分率が好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは94.0%以上であることにより、得られる不織布の結晶融解熱量が高くなるため、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂Aのアイソタクチックペンタッド分率の上限は、100.0%である。
【0111】
本発明の不織布の製造方法において、島成分に配されるポリプロピレン系樹脂Aは、多分散度(Mw/Mn)が1.5以上3.5以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Aの多分散度(Mw/Mn)が好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.0以上であることにより、島成分の紡糸応力が過度に高くなりすぎないため糸切れを抑制でき、欠点の少ない不織布を得ることができる。また、多分散度(Mw/Mn)が好ましくは3.5以下、より好ましくは3.2以下、さらに好ましくは3.0以下であることにより、同一紡糸速度であっても得られる海島型複合繊維の島成分の分子配向パラメータが高くなるため、複合繊維の強度が高くなり、力学物性に優れた不織布が得られる。
【0112】
本発明の不織布の製造方法において、前記のポリプロピレン系樹脂Aに関し、メルトフローレートが10g/10分以上90g/10分以下であることが好ましい。そのメルトフローレートの範囲について、その下限が好ましくは10g/10分以上、より好ましくは25g/10分以上であることで、細い繊維径でも安定して紡糸することができ、肌触りに優れ、地合いが均一である不織布を得ることができる。一方、前記のメルトフローレートの範囲について、その上限を好ましくは90g/10分以下、より好ましくは80g/10分以下、さらに好ましくは60g/10分以下であることで、海島型複合繊維の単糸強度の低下を抑制し、不織布の力学特性を優れたものとすることができる。
【0113】
なお、本発明におけるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、不織布のメルトフローレートの測定方法と同様に、ASTM D1238(A法)に準じて、荷重が2160gで、温度が230℃の条件で測定された値を指すこととする。測定には、例えば、株式会社東洋精機製作所製メルトインデックサ「F-F01」などを用いることができる。
【0114】
なお、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量により制御することができる。ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量が高いほど、メルトフローレートの値は小さくなる。
【0115】
(a-2)ポリプロピレン系樹脂B
本発明の不織布の製造方法において、海成分に配されるポリプロピレン系樹脂Bは、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて作られたポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Bがメタロセン触媒を用いて作られたポリプロピレン系樹脂であることで、チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたポリプロピレン系樹脂と比較して、紡糸時の工程安定性が向上するとともに、融点を低くすることが可能となるため、地合いの均一性が高く、かつ、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【0116】
本発明の不織布の製造方法において、海成分に配されるポリプロピレン系樹脂Bは、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Bのプロピレン分率が好ましくは98.5%以上、より好ましくは98.8%以上、さらに好ましくは99.0%以上であることにより、紡糸時の工程安定性が向上するとともに、得られる不織布の結晶融解熱量が高くなるため、地合いの均一性が高く、かつ、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂Bのプロピレン分率の上限は、100.0%である。
【0117】
本発明の不織布の製造方法において、海成分に配されるポリプロピレン系樹脂Bは、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂Bのアイソタクチックペンタッド分率が好ましくは90.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは94.0%以上であることにより、得られる不織布の結晶融解熱量が高くなるため、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、本発明で達し得るポリプロピレン系樹脂Bのアイソタクチックペンタッド分率の上限は、100.0%である。
【0118】
本発明の不織布の製造方法において、上記ポリプロピレン系樹脂BのメルトフローレートMFRと上記ポリプロピレン系樹脂AのメルトフローレートMFRとのメルトフローレート差(MFR-MFR)が6g/10分以上200g/10分以下であることが好ましい。メルトフローレート差(MFR-MFR)が好ましくは6g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは15g/10分以上であることにより、ポリプロピレン系樹脂Aを配した島成分に紡糸応力が集中し、前記の複合繊維の分子配向パラメータ差(O-O)が大きくなるため、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、メルトフローレート差(MFR-MFR)が好ましくは200g/10分以下、より好ましくは150g/10分以下、さらに好ましくは100g/10分以下であることにより、ポリプロピレン系樹脂Aを配した島成分に紡糸応力が過度に集中することなく、紡糸時の工程安定性が向上するため、地合いが均一な不織布を得ることができる。
【0119】
本発明の不織布の製造方法において、ポリプロピレン系樹脂Bとしては、上記の関係を満たしながら、メルトフローレートが30g/10分以上290g/10分以下であることが好ましい。そのメルトフローレートの範囲について、その下限が好ましくは30g/10分以上、より好ましくは45g/10分以上であることで、細い繊維径でも安定して紡糸することができ、肌触りに優れ、地合いが均一である不織布を得ることができる。一方、前記のメルトフローレートの範囲について、その上限が好ましくは290g/10分以下、より好ましくは280g/10分以下、さらに好ましくは250g/10分以下であることで、海島型複合繊維の単糸強度の低下を抑制し、不織布の力学特性を優れたものとすることができる。
【0120】
(a-3)複合紡糸口金からの溶融押出
本発明の不織布の製造方法において、海島型複合繊維を得る方法としては、プレッシャーメルタ型、単軸や2軸エクストルーダー型などの押出機を用いた溶融紡糸法を適用することができる。別々に溶融され押し出されたポリプロピレン系樹脂Aおよびポリプロピレン系樹脂Bは、配管を経由し、ギアーポンプなどの計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、それぞれ紡糸口金へと導かれる。このとき、樹脂配管から紡糸口金までの温度(紡糸温度)は、180℃以上280℃以下であることが好ましい。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0121】
紡糸口金にそれぞれ導かれたポリプロピレン系樹脂Aおよびポリプロピレン系樹脂Bは、紡糸口金上部で合流して、ポリプロピレン系樹脂Aを島成分、ポリプロピレン系樹脂Bを海成分に配した海島型複合繊維の断面を形成することが好ましい。
【0122】
吐出に使用される紡糸口金は、口金孔の孔径Dを0.1mm以上0.6mm以下とすることが好ましく、さらに、口金孔のランド長L(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を孔径Dで除した商で定義されるL/Dは、1以上10以下であることが好ましい。
【0123】
本発明における島成分であるポリプロピレン系樹脂Aと海成分であるポリプロピレン系樹脂Bの質量比率は、両者合計に対するポリプロピレン系樹脂Bの質量比率を10質量%以上70質量%以下とすることが好ましい。前記のポリプロピレン系樹脂Bの質量比率について、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上とすることで、熱接着性に優れるため、優れた力学特性を有する不織布を得ることができる。一方、前記のポリプロピレン系樹脂Bの質量比率について、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下とすることで、海島型複合繊維が優れた単糸強度を有することとなるため、優れた力学特性を有する不織布を得ることができる。
【0124】
また、本発明において、前記の海島型複合繊維の島数は1以上10以下であることが好ましい。前記の島数について、その下限が好ましくは1以上であることにより、複合繊維の単糸強度が優れた不織布を得ることができる。一方、前記の島数について、その上限が好ましくは10以下であることにより、優れた熱接着性を有する不織布を得ることができる。
【0125】
(a-4)ポリプロピレン系樹脂の牽引、延伸
口金孔から吐出された(紡出された)前記のポリプロピレン系樹脂Aと前記のポリプロピレン系樹脂Bとを牽引、延伸して、島成分が前記ポリプロピレン系樹脂A、海成分が前記ポリプロピレン系樹脂Bである海島型複合繊維を形成することが好ましい。
【0126】
上記の口金から紡出された海島型複合繊維は、次に冷却される。紡出された海島型複合繊維を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法などが挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。
【0127】
冷却風(空気)を吹き付けられることにより冷却固化する。冷却風の温度は、冷却効率の観点から冷却風速とのバランスで決定することができるが、30℃以下とすることが好ましい。冷却風の温度の上限を、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下、さらに好ましくは15℃以下とすることにより、海島型複合繊維の冷却効率が高くなり、紡糸性を向上することができる。また、冷却風の温度の下限は、空気の冷却コストの観点、および、冷却による水分の繊維への付着を防ぐ観点から0℃以上とすることが好ましい。
【0128】
冷却風は、口金から吐出された海島型複合繊維に対し、ほぼ垂直方向(上下に繊維が走行しているときは、地面と平行方向のことを指す)に流すことが好ましい。その際、冷却風の速度は、冷却効率および繊度の均一性の観点から、10m/分以上とすることが好ましく、製糸安定性の点から100m/分以下とすることが好ましい。
【0129】
また、紡糸口金の口金孔から下流に向かって0mm以上300mm以内で冷却を開始することが好ましい。紡糸口金から冷却開始までの距離について、その下限を好ましくは0mm以上、より好ましくは5mmとすることにより、口金表面温度の低下を引き起こさずに吐出を安定させることができる。また、紡糸口金から冷却開始までの距離について、その上限を好ましくは300mm以内、より好ましくは100mm以内とすることにより、海島型複合繊維の細化挙動が安定させることができ、紡糸性を向上させることができる。
【0130】
次に、冷却固化された糸条は延伸される。ここで、スパンボンド法を採用した場合、冷却固化された糸状は巻き取られることなく、紡糸口金下部に設置されたエジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。エジェクターに入った海島型複合繊維は加速空気流によって加速され、海島型複合繊維の走行速度である紡糸速度も空気流速と近い速度に到達する。
【0131】
なお、加速空気流は、冷却風を吹かせる領域を密閉とし、紡糸線下流に向かうにしたがって、徐々に密閉領域の断面積を小さくすることにより空気流速を加速させるようにすることができるが、高い冷却効率や空気流速を得るためには、冷却風を吹かせる領域を密閉せず、エジェクターを用いることが好ましい態様である。
【0132】
スパンボンド法において、用いられる紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。中でも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくいという観点から、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせを用いることが好ましい。
【0133】
この際、紡糸口金からエジェクター入口までの距離を400mm以上3000mm以下とすることが好ましい。紡糸口金からエジェクター入口までの距離が好ましくは400mm以上であることにより、海島型複合繊維が冷却固化した後にエジェクターに入るため、優れた紡糸安定性を得ることができる。また、紡糸口金からエジェクター入口までの距離が好ましくは3000mm以下であることにより、紡糸応力が過度に高くなりすぎないため糸切れを抑制でき、欠点の少ない不織布を得ることができる。
【0134】
紡糸速度は、2.0km/分以上6.0km/分以下とすることが好ましい。紡糸速度を好ましくは2.0km/分以上、より好ましくは2.3km/分以上とすることにより、繊維中央部における繊維軸報告の分子配向パラメータOが高くなり、かつ、平均単繊維径が細くなるため、力学物性と柔軟性に優れた不織布を得ることができる。また、紡糸速度が好ましくは6.0km/分以下とすることにより、紡糸時の糸切れを抑制でき、紡糸安定性を高めることが可能となる。
【0135】
ここで言う、紡糸速度とは、以下の手順によって測定、算出される値のことである。
(1)海島型複合繊維の平均単繊維径W(μm)、および、海島型複合繊維の密度ρ(g/cm)は、前記の手順によって測定される値を採用するものとする。
(2)口金から吐出された前記のポリプロピレン系樹脂を1分間採取して秤量をし、これにより得られた値を吐出量(g/分)とする。この操作を3回実施し、算術平均値を口金孔数で除した値を、単孔吐出量Q(g/分)として採用する。
(3)次の式により、小数点以下第2位を四捨五入した値を、紡糸速度として算出する。
紡糸速度(km/分)=Q×1000/((W/2)×π×ρ)
(式中、Qは単孔吐出量(g/分)を表し、Wは平均単繊維径(μm)を表し、ρは密度(g/cm)を表す。)。
【0136】
(b)繊維ウェブを形成する工程
前記工程にて得られた海島型複合繊維を堆積させ、該海島型複合繊維で構成されてなる繊維ウェブを形成する。具体的には、前記の海島型複合繊維は、周囲の空気流速が減じられるような開繊部を通過することにより開繊され、その後、裏面から空気吸引されるネットコンベアー上に着地させ、繊維ウェブとして捕集される。
【0137】
捕集された繊維ウェブは、好ましくは5m/分以上1200m/分以下の搬送速度で搬送される。また、捕集された繊維ウェブに対して、ネット上でその片面から熱フラットロールを当接して仮接着させることも好ましい態様である。このようにすることにより、ネット上を搬送中に繊維ウェブの表層がめくれたり吹き流れたりして地合が悪化することを防いだり、糸条を捕集してから熱接着するまでの搬送性を改善することができる。
【0138】
本発明の不織布の製造方法において、繊維ウェブを形成する方法は、ここまで説明してきたスパンボンド法以外にも、メルトブロー法、短繊維カード法などの公知の製造方法から選ぶことができるが、生産性に優れることから、スパンボンド法を用いることが好ましい。スパンボンド法は、生産性や機械的強度に優れている他、短繊維不織布で起こりやすい毛羽立ちや繊維の脱落を抑制することができる。さらに、捕集したスパンボンド不織繊維ウェブあるいは熱接着したスパンボンド不織布(どちらもSと表記する)を、SS、SSSおよびSSSSと複数層積層することにより、生産性や地合いの均一性が向上する。
【0139】
(c)繊維ウェブを熱接着する工程
この工程では、前記(b)で得られた繊維ウェブを熱接着する。熱接着の方法は特に制限されないが、例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど、各種ロールにより熱融着させる方法、ホーンの超音波振動により熱融着させる方法、および不織繊維ウェブに熱風を貫通させて海島型複合繊維の表面を軟化または融解させ、繊維交点同士を熱融着させるなどの方法が挙げられる。中でも、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、または片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロールを用いることが好ましい。このようにすることで、生産性を高めることができるだけでなく、不織布の強度を向上させる接着部と、風合いや肌触りを向上させる非接着部と、を設けることができる。
【0140】
熱接着時における接着率は、5%以上30%以下であることが好ましい。接着率が好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であることにより、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、接着率が好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下であることにより、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【0141】
ここで言う、接着率とは、接着部が不織布全体に占める面積割合のことを言う。具体的には、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織繊維ウェブに当接する部分(接着部)の不織布全体に占める面積割合のことを言う。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織繊維ウェブに当接する部分(接着部)の不織布全体に占める面積割合のことを言う。また、超音波接着する場合は、超音波加工により熱接着させる部分(接着部)の不織布全体に占める面積割合のことを言う。
【0142】
熱エンボスロールや超音波接着による接着部の形状は特に制限されないが、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。また接着部は、不織布の長手方向(搬送方向)と幅方向にそれぞれ一定の間隔で均一に存在していることが好ましい。このようにすることにより、不織布の強度のばらつきを低減することができる。
【0143】
また、熱接着時の熱エンボスロールの表面温度を、100℃以上150℃以下とすることが好ましい。熱エンボスロールの表面温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、適度に熱接着させることができるため、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、熱エンボスロールの表面温度を好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下とすることにより、過度な熱接着を抑制できるため、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【0144】
そして、熱接着時の熱エンボスロールの線圧を、50N/cm以上500N/cm以下とすることが好ましい。熱エンボスロールの線圧を好ましくは50N/cm以上、より好ましくは100N/cm以上、さらに好ましくは150N/cm以上とすることにより、十分に熱接着させることができるため、力学物性に優れた不織布を得ることができる。また、熱エンボスロールの線圧を好ましくは500N/cm以下、より好ましくは400N/cm以下、さらに好ましくは300N/cm以下とすることにより、過度な熱接着を抑制できるため、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【0145】
また、不織布の厚みを調整することを目的に、上記の熱エンボスロールによる熱接着の後に、さらに上下一対のフラットロールからなる熱カレンダーロールにより、熱圧着を施すことができる。上下一対のフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。
【0146】
ここで、弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、例えば、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパーなどからなるいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム、およびこれらの混合物からなる樹脂製のロールなどが挙げられる。
【0147】
(d)その他後加工する工程
本発明の不織布は、本発明の効果を損なわない範囲で、後加工することができる。もちろん、本発明においては、この後加工工程を行って得られる不織布も、本発明の不織布であるものとする。後加工としては、穴あけ加工やラビング加工といった物理的な加工や、親水化処理や帯電処理といった化学的な加工などが挙げられる。
【0148】
[積層不織布]
本発明の不織布は、そのままの状態で用いることもできるが、該不織布の層と、該不織布の層とは異なる種類の繊維層やフィルム層と、を有する、積層不織布とすることも好ましい。
【0149】
ここで、本発明で言う「該不織布の層とは異なる種類の繊維層」とは、例えば、該不織布がスパンボンド不織布である場合、メルトブロー法によって形成されるメルトブロー不織布層、抄造法によって形成される短繊維不織布層、あるいは、長繊維や紡績糸からなる織物層や編物層のことを言う。
【0150】
そして、本発明に係る積層不織布の積層構成は、本発明の不織布が少なくとも1層積層されてなる。該不織布を少なくとも1層積層することにより、該不織布が補強材として作用するため、力学物性に優れた積層不織布となる。
【0151】
また、本発明に係る積層不織布の製造方法は特に制限されないが、本発明の不織布と、該不織布の層とは異なる種類の繊維層やフィルム層とを、接着せずに重ねる方法や、層間の一部、もしくは全体を接着剤や熱接着加工により一体化する方法が挙げられる。
【0152】
もちろん、本発明の積層不織布についても、本発明の効果を損なわない範囲で、前記不織布と同様の後加工することができる。そして、本発明においては、この後加工工程を行って得られる積層不織布も、本発明の積層不織布であるものとする。
【0153】
また、本発明の不織布以外の構造体を構成する樹脂は特に制限されないが、接着が容易であることから、ポリプロピレン系樹脂で構成されていることが好ましい。
【0154】
[衛生材料]
本発明の衛生材料は、上記不織布、または、上記積層不織布を用いてなるものであるが、より具体的には、前記の不織布、または、前記の積層不織布を少なくとも一部に具備してなる。前記の不織布、または、前記の積層不織布は、柔軟性や肌触りに優れ、地合が均一であり、実用に供しうる十分な強度を有していることから、着用時の快適性に優れた衛生材料が得られる。なお、ここで言う衛生材料とは、例えば、医療・介護など健康に関わる目的で使用される、主に使い捨ての物品である。本発明の衛生材料は、紙おむつ、生理用ナプキン、ガーゼ、包帯、マスク、手袋、絆創膏等が挙げられ、その構成部材、例えば、紙おむつにおいては、そのトップシート、バックシート、サイドギャザー等も含まれる。中でも、高い強度と柔軟性を必要とする紙おむつのバックシートに好適に用いられる。
【実施例
【0155】
次に、実施例に基づき、本発明の不織布について、より具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0156】
[測定・評価方法]
実施例中の各特性値は、次の方法で求めた。なお、特段の記載がない事項については、前記の方法に従って測定を実施したものである。
【0157】
A.プロピレン分率、アイソタクチックペンタッド分率
核磁気共鳴装置としてJEOL RESONANCE製「ECZ-600」を用い、以下の条件にて、前述の通り測定を行った。
・測定方法:single 13C pulse with inverse gated H decoupling
・観測核:13
・観測周波数:150.9MHz
・化学シフト基準:オルトジクロロベンゼン-d(133.0ppm)
・測定温度:135℃ 。
【0158】
B.メルトフローレート(MFR、MFRB、MFR-MFR
メルトフローレート測定装置として株式会社東洋精機製作所製「MELT INDEXER F-F01」を用い、前述の通り測定を行った。
【0159】
C.重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)
高温GPC装置としてPolymer Laboratories製「PL-220」を用い、以下の条件にて、前述の通り測定を行った。
・標準試料:東ソー株式会社製単分散ポリスチレン、東京化成工業株式会社製ジベンジル
・注入量:0.200mL
・流速:1.0mL/分
・ガードカラム:昭和電工株式会社製Shodex HT-G
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex HT-806M(2本)
・検出器:示差屈折率検出器RI 。
【0160】
D.平均単繊維径および紡糸速度
走査型電子顕微鏡として株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡「SU1510」、画像解析ソフトとして三谷商事株式会社製「WinROOF2015」を用い、前述の通り測定を行った。また、得られた平均単繊維径、前記の方法によって測定された密度、単孔吐出量から、前記の式により紡糸速度(km/分)を求めた。
【0161】
E.分子配向パラメータ(O、O、O-O
ラマン分光測定装置として株式会社堀場製作所製「RAMANOR T64000」を用い、以下の条件にて、前述の通り測定を行った。
・測定モード:顕微ラマン
・ビーム径:1μm
・光源:Arレーザー/514.4nm
・レーザーパワー:100mW
・回折格子:Single 1800gr/mm
・スリット:100μm
・検出器:CCD(1024×256) 。
【0162】
F.複合繊維の引張強度
複合繊維の引張強度(cN/dtex)は、引張試験機として株式会社エー・アンド・デイ製「RTC1210A」を使用し、前記の方法で測定、算出した。
【0163】
G.融点、結晶融解熱量
示差走査熱量計としてTA Instruments製「DSC Q2000」を用い、前述の通り測定を行った。
【0164】
H.不織布の融着部の(040)面、不織布の非融着部の(110)面の結晶子サイズ
不織布の融着部の(040)面、不織布の非融着部の(110)面の結晶子サイズ(nm)は、広角X線回折測定装置としてBruker AXS社製「D8 DISCOVER μHR Hybrid」を使用し、前記の方法で測定、算出した。
【0165】
I.目付
JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準じて、前述の通り測定を行った。
【0166】
J.目付当たりの引張強度
引張試験機として株式会社エー・アンド・デイ製「RTC-1210A」を用い、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じて、前述の通り測定を行った。
【0167】
K.剛軟度
JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度(JIS法及びISO法)」の「6.7.3 41.5°カンチレバー法」に準じて、前述の通り測定を行った。
【0168】
[ポリプロピレン系樹脂]
本発明の実施例にて使用したポリプロピレン系樹脂は、以下の通りである。
【0169】
[ポリプロピレン系樹脂A1]
メタロセン触媒(表1~4では、「M」と表記した)を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A1のプロピレン分率は100.0%、MFRは30g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.4である。
【0170】
[ポリプロピレン系樹脂A2]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A2のプロピレン分率は100.0%、MFRは36g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は91.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.9である。
【0171】
[ポリプロピレン系樹脂A3]
チーグラー・ナッタ触媒(表1~4では、「ZN」と表記した)を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A3のプロピレン分率は100.0%、MFRは35g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は95.0%、多分散度(Mw/Mn)は3.7である。
【0172】
[ポリプロピレン系樹脂A4]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A4のプロピレン分率は100.0%、MFRは36g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は93.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.6である。
【0173】
[ポリプロピレン系樹脂A5]
チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A5のプロピレン分率は100.0%、MFRは36g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は95.0%、多分散度(Mw/Mn)は3.4である。
【0174】
[ポリプロピレン系樹脂A6]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂A6のプロピレン分率は100.0%、MFRは150g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.1である。
【0175】
[ポリプロピレン系樹脂A7]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂Aのプロピレン分率は100.0%、MFRは9g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.8である。
【0176】
[ポリプロピレン系樹脂B1]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B1のプロピレン分率は100.0%、MFRは60g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.0である。
【0177】
[ポリプロピレン系樹脂B2]
メタロセン触媒を用いて得られたエチレン-プロピレン共重合体である。このポリプロピレン系樹脂B2のプロピレン分率は98.5%、MFRは60g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.6である。
【0178】
[ポリプロピレン系樹脂B3]
メタロセン触媒を用いて得られたエチレン-プロピレン共重合体である。このポリプロピレン系樹脂B3のプロピレン分率は90.0%、MFRは60g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.0である。
【0179】
[ポリプロピレン系樹脂B4]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B4のプロピレン分率は100.0%、MFRは50g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は60.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.0である。
【0180】
[ポリプロピレン系樹脂B5]
チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B5のプロピレン分率は100.0%、MFRは60g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は3.5である。
【0181】
[ポリプロピレン系樹脂B6]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B6のプロピレン分率は100.0%、MFRは230g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.1である。
【0182】
[ポリプロピレン系樹脂B7]
メタロセン触媒を用いて得られたエチレン-プロピレン共重合体である。このポリプロピレン系樹脂B7のプロピレン分率は93.0%、MFRは50g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は45.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.1である。
【0183】
[ポリプロピレン系樹脂B8]
チーグラー・ナッタ触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B8のプロピレン分率は100.0%、MFRは60g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は95.0%、多分散度(Mw/Mn)は4.0である。
【0184】
[ポリプロピレン系樹脂B9]
メタロセン触媒を用いて得られたプロピレン単独重合体である。このポリプロピレン系樹脂B9のプロピレン分率は100.0%、MFRは30g/10分、アイソタクチックペンタッド分率は94.0%、多分散度(Mw/Mn)は2.4である。
【0185】
[実施例1]
(a)繊維を形成する工程
ポリプロピレン系樹脂について、以下のものを用いた。
・ポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂A1
・ポリプロピレン系樹脂B:ポリプロピレン系樹脂B1
そして、このポリプロピレン系樹脂Aおよびポリプロピレン系樹脂Bをそれぞれ単軸エクストルーダーによって溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ、ポリプロピレン系樹脂Aが島成分、ポリプロピレン系樹脂Bが海成分となるように紡糸口金に供給した。このとき、ポリプロピレン系樹脂Aとポリプロピレン系樹脂Bの質量割合が、ポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=70:30となるようにした。また、紡糸口金の温度は230℃とし、孔径Dが0.3mmで、孔深度Lが0.6mmの口金孔から、単孔吐出量0.40g/分の条件でポリプロピレン系樹脂を吐出させた。なお、口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とし、導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとした紡糸口金を用いた。また、ポリプロピレン系樹脂A1の島成分(複合繊維となった時の島数)は1であった。
【0186】
さらに、吐出された繊維状樹脂に外側から温度10℃、速度60m/分の冷却風を当てて冷却固化した後、矩形エジェクターを用い、空気流によって牽引して繊維を得た。この際、複合紡糸口金の口金孔から下流に向かって20mmのところから冷却を開始し、紡糸口金からエジェクター入口までの距離は550mmとした。
【0187】
(b)繊維ウェブを形成する工程
続いて、前記で得られた繊維を、周囲の空気流速が減じられるような開繊部を通過することにより開繊され、その後、裏面から空気吸引されるネットコンベアー上に着地させ、複合繊維からなる繊維ウェブを得た。この後、捕集された繊維ウェブは、8m/分の速度で搬送した。
【0188】
(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程
引き続き、上記のようにして得られた複合繊維からなる繊維ウェブを、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率11%のエンボスロールを用い、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、125℃の温度で熱接着し、不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0189】
[実施例2、3]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Aとポリプロピレン系樹脂Bの質量割合がポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=70:30であったところを、実施例2はポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=80:20、実施例3はポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=50:50とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0190】
[実施例4、5]
(a)繊維を形成する工程において、紡糸速度が2.5km/分であったところ、実施例4は4.4km/分、実施例5は3.8km/分とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0191】
[比較例1]
(a)繊維を形成する工程
ポリプロピレン系樹脂について、前記のポリプロピレン系樹脂A1を単軸エクストルーダーによって溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ、紡糸口金に供給した。このとき、紡糸口金の温度は230℃とし、孔径Dが0.3mmで、孔深度Lが0.6mmの口金孔から、単孔吐出量0.40g/分の条件でポリプロピレン系樹脂を吐出させた。なお、口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とし、導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとした紡糸口金を用いた。
【0192】
そして、吐出された繊維状樹脂に外側から温度10℃、速度60m/分の冷却風を当てて冷却固化した後、矩形エジェクターを用い、空気流によって牽引して繊維を得た。この際、複合紡糸口金の口金孔から下流に向かって20mmのところから冷却を開始し、紡糸口金からエジェクター入口までの距離は550mmとした。
【0193】
(b)繊維ウェブを形成する工程
続いて、前記で得られた繊維を、周囲の空気流速が減じられるような開繊部を通過することにより開繊され、その後、裏面から空気吸引されるネットコンベアー上に着地させ、単成分繊維からなる繊維ウェブを得た。この後、捕集された繊維ウェブは、8m/分の速度で搬送した。
【0194】
(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程
引き続き、上記のようにして得られた単成分繊維からなる繊維ウェブを、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率11%のエンボスロールを用い、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、125℃の温度で熱接着し、不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0195】
【表1】
【0196】
[実施例6、比較例2]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Bがポリプロピレン系樹脂B1であったところを、実施例6はポリプロピレン系樹脂B2、比較例2はポリプロピレン系樹脂B3とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表2に示す。
【0197】
[実施例7]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Aがポリプロピレン系樹脂A1であったところをポリプロピレン系樹脂A2とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表2に示す。
【0198】
[比較例3]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Bがポリプロピレン系樹脂B1であったところをポリプロピレン系樹脂B4とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表2に示す。
【0199】
[比較例4]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Aがポリプロピレン系樹脂A1であったところをポリプロピレン系樹脂A3、ポリプロピレン系樹脂Bがポリプロピレン系樹脂B1であったところをポリプロピレン系樹脂B5とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表2に示す。
【0200】
[実施例8]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Bがポリプロピレン系樹脂B1であったところをポリプロピレン系樹脂B6とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表2に示す。
【0201】
【表2】
【0202】
[実施例9]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂Aとポリプロピレン系樹脂Bの質量割合がポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=70:30であったところを、ポリプロピレン系樹脂A:ポリプロピレン系樹脂B=60:40とした以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0203】
[実施例10]
(a)繊維を形成する工程において、紡糸速度が2.5km/分であったところ、3.0km/分と変更し、さらに、(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程において、エンボスロールの温度が125℃であったところ、120℃と変更したこと以外は、実施例8と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0204】
[実施例11]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂A1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂A4を用いることとし、紡糸速度が2.5km/分であったところ、2.0km/分と変更し、さらに、(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程において、エンボスロールの温度が125℃であったところ、135℃と変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0205】
[実施例12]
(a)繊維を形成する工程において、単孔吐出量が0.40g/分であったところ、0.80g/分と変更し、紡糸速度が3.0km/分であったところ、2.5km/分と変更したこと以外は、実施例10と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0206】
[比較例5]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂B1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂B7を用いることとし、さらに、(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程において、エンボスロールの温度が125℃であったところ、110℃と変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0207】
[比較例6]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂A1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂A5を用いることとし、紡糸速度が2.5km/分であったところ、2.1km/分と変更し、さらに、(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程において、エンボスロールの温度が125℃であったところ、140℃と変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表3に示す。
【0208】
【表3】
【0209】
[比較例7]
(a)繊維を形成する工程において、紡糸速度が2.5km/分であったところ、3.1km/分と変更し、さらに、(c)得られた繊維ウェブを接着加工する工程において、エンボスロールの温度が125℃であったところ、135℃と変更したこと以外は、比較例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表4に示す。
【0210】
[比較例8]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂A1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂A6を用いることとし、ポリプロピレン系樹脂B1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂B6を用いることとし、さらに、紡糸速度が2.5km/分であったところ、3.0km/分と変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表4に示す。
【0211】
[比較例9]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂A1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂A5を用いることとし、ポリプロピレン系樹脂B1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂B8を用いることとし、さらに、紡糸速度が2.5km/分であったところ、2.0km/分と変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得た。得られた不織布の評価結果を表4に示す。
【0212】
[比較例10]
(a)繊維を形成する工程において、ポリプロピレン系樹脂A1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂A7を用いることとし、ポリプロピレン系樹脂B1を用いていたところ、ポリプロピレン系樹脂B9を用いることとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で不織布を得ようと試みた。しかしながら、用いたポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが低かったため、複合繊維、そして、不織布を得ることはできなかった。
【0213】
【表4】
【0214】
実施例1~12の不織布は、プロピレン分率が98.5%以上100.0%以下、アイソタクチックペンタッド分率が90.0%以上100.0%以下、かつ、O-Oが0.2以上4.0以下の複合繊維からなり、不織布の融点が130℃以上155℃以下であることから、柔軟性や力学物性に優れた不織布であったことが分かる。
【0215】
一方、比較例1、比較例7、および比較例8の不織布はO-Oが小さく、比較例2、および比較例5の不織布はプロピレン分率が低いため、ともに目付当たりの引張強度に劣るものであった。また、比較例3の不織布はアイソタクチックペンタッド分率が低く、比較例4、比較例6、および比較例9の不織布は融点が高いため、これらも目付当たりの引張強度に劣るものであった。さらに、比較例10では不織布を得ることはできなかった。
【符号の説明】
【0216】
1:試験片
11:融着部
12:融着部の内接円
13:融着部の内接円の中心から内接円の半径50%以下の距離の箇所
図1