(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】超硬合金および切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20250415BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20250415BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20250415BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2024529596
(86)(22)【出願日】2023-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2023035014
【審査請求日】2024-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 好博
(72)【発明者】
【氏名】パサート アノンサック
(72)【発明者】
【氏名】荻原 寛之
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-063932(JP,A)
【文献】特開2019-063937(JP,A)
【文献】特開2022-079855(JP,A)
【文献】特開2013-111711(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0023554(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/059
C22C 29/00-29/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で89体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を1.8体積%以上20体積%以下含み、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域と、を含み、
前記第1領域の
前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1
(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1
(fcc)の合計に対する、前記面積S1
(hcp)の比R1と、前記第2領域の前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2
(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2
(fcc)の合計に対する、前記面積S2
(hcp)の比R2との比R1/R2は、
1.2以上1.8以下であり、
前記結合相は、更に、珪素、リン、ゲルマニウム、スズ、レニウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、および、白金からなる群より選択される少なくとも1種の第1元素を含み、
前記結合相において、前記第1元素の質量M1およびコバルトの質量M2の合計M1+M2に対する、前記第1元素の質量M1の百分率{M1/(M1+M2)}×100は、1%以上6%以下であり、
前記R2は、0.32以上である、超硬合金。
【請求項2】
前記比R1/R2は、1.2以上1.5以下である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超硬合金からなる刃先を備える、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で89体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を1.8体積%以上20体積%以下含み、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域と、を含み、
前記第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、前記面積S1(hcp)の比R1と、前記第2領域の前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、前記面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である、超硬合金である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る超硬合金の模式的断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態2に係る切削工具の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、切削加工において被削材の難削化が進み、切削工具の使用条件は過酷になっている。このため、切削工具の基材として用いられる超硬合金に対しても種々の特性の向上が求められている。特に高硬度材の断続加工用の切削工具の材料として用いられた場合においても、工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを備える切削工具が求められている。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、特に高硬度材の断続加工用の切削工具の材料として用いられた場合においても、工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを備える切削工具を提供することが可能である。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で89体積%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を1.8体積%以上20体積%以下含み、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域と、を含み、
前記第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、前記面積S1(hcp)の比R1と、前記第2領域の前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、前記面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である、超硬合金である。
【0009】
本開示によれば、特に高硬度材の断続加工用の切削工具の材料として用いられた場合においても、工具の長寿命化を可能とする超硬合金を提供することが可能である。
【0010】
(2)上記(1)において、前記比R1/R2は、1.2以上1.5以下であってもよい。これによると、超硬合金の結合相の耐変形性と、強度とのバランスが向上し、該超硬合金を備える切削工具は、より長い工具寿命を有することができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記結合相は、更に、珪素、リン、ゲルマニウム、スズ、レニウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、および白金からなる群より選択される少なくとも1種の第1元素を含んでもよい。これによると、超硬合金の結合相の耐変形性と、強度とのバランスが向上し、該超硬合金を備える切削工具は、より長い工具寿命を有することができる。
【0012】
(4)上記(3)において、前記第1元素の質量M1およびコバルトの質量M2の合計M1+M2に対する、前記第1元素の質量M1の百分率{M1/(M1+M2)}×100は、1%以上6%以下であってもよい。これによると、結合相は、より優れた硬度とより優れた靱性とを兼備することができるため、該結合相を含む超硬合金を備える切削工具は、より長い工具寿命を有することができる。
【0013】
(5)本開示の切削工具は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の超硬合金からなる刃先を備える、切削工具である。
【0014】
本開示によれば、特に高硬度材の断続加工に用いられた場合においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金および切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0016】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0017】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0018】
本開示において、数値範囲の下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0019】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態に係る超硬合金について、
図1を用いて説明する。
本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)に係る超硬合金3は、
複数の炭化タングステン粒子1と、結合相2と、を備える超硬合金3であって、
超硬合金3は、炭化タングステン粒子1および結合相2を合計で89体積%以上含み、
超硬合金3は、結合相2を1.8体積%以上20体積%以下含み、
結合相2は、コバルトを80質量%以上含み、
超硬合金3は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域と、を含み、
第1領域の結合相2におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1
(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1
(fcc)の合計に対する、面積S1
(hcp)の比R1と、第2領域の結合相2におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2
(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2
(fcc)の合計に対する、面積S2
(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である、超硬合金3である。
【0020】
実施形態1の超硬合金は、特に高硬度材の断続加工用の切削工具の材料として用いられた場合においても、工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを備える切削工具を提供することができる。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0021】
実施形態1の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子(以下、「WC粒子」とも記す。)と、結合相と、を備え、超硬合金のWC粒子および結合相の合計含有率は89体積%以上である。これによると、超硬合金は高い硬度および強度を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0022】
実施形態1の超硬合金は、結合相を1.8体積%以上20体積%以下含み、結合相はコバルトを80質量%以上含む。これによると、超硬合金は高い硬度および強度を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0023】
実施形態1の超硬合金において、第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、面積S1(hcp)の比R1と、第2領域の前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である。超硬合金の表面側の第1領域は、超硬合金の内部側の第2領域よりも、結合相におけるhcp構造の割合が大きいため、超硬合金の表面側における結合相の耐変形性が向上する。これにより、該超硬合金を備える切削工具は、切削初期の耐塑性変形性が向上する。超硬合金の内部側の第2領域は、第1領域よりも、結合相におけるfcc構造の割合が大きいため、超硬合金の内部側の強度を向上させる。これにより、該超硬合金を備える切削工具は、切削に伴い、超硬合金の内部が露出した場合であっても、優れた疲労強度を有することができる。実施形態1の超硬合金は、結合相の耐変形性と、強度とのバランスが向上し、該超硬合金を備える切削工具は、高硬度材の断続加工などの高負荷加工での耐欠損性が向上し、長い工具寿命を有することができる。
【0024】
<超硬合金の組成>
実施形態1の超硬合金は、炭化タングステン粒子および結合相を合計で89体積%以上含む。これにより、超硬合金の硬度を高めることができる。超硬合金は、炭化タングステン粒子および結合相を合計で89体積%以上100体積%以下含んでもよく、90体積%以上100体積%以下含んでもよく、91体積%以上100体積%以下含んでもよく、または、92体積%以上100体積%以下含んでもよい。
【0025】
実施形態1の超硬合金は、結合相を1.8体積%以上20体積%以下含む。これにより、超硬合金の硬度および靱性を高めることができる。超硬合金の結合相の含有率は2.0体積%以上19.0体積%以下でもよく、3.0体積%以上18.0体積%以下でもよく、または、4.0体積%以上17.0体積%以下でもよい。
【0026】
実施形態1の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子と、結合相とからなることができる。この場合、本開示の効果を損なわない範囲において、超硬合金は不純物を含むことができる。
【0027】
超硬合金は、炭化タングステン粒子および結合相に加えて、他の相(図示なし)を含むことができる。他の相としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む炭化物、窒化物または炭窒化物が挙げられる。他の相の組成は、例えば、TiCN、TaC、NbC、ZrC、HfC、Cr3C2および、Mo2Cからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0028】
実施形態1の超硬合金は、炭化タングステン粒子と、結合相と、他の相とからなることができる。この場合、本開示の効果を損なわない範囲において、超硬合金は不純物を含むことができる。
【0029】
超硬合金の他の相の含有率は、本開示の効果を損なわない範囲において許容される。例えば、超硬合金の他の相の含有率は、0体積%以上11体積%以下でもよく、0体積%超11体積%以下でもよく、0体積%超7体積%以下でもよく、または、0体積%超4体積%以下でもよい。
【0030】
実施形態1の超硬合金は、不純物を含むことができる。不純物としては、例えば、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率は、本開示の効果を損なわない範囲において許容される。例えば、超硬合金の不純物の含有率は、0質量%以上0.1質量%未満でもよい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Emission Spectroscopy)により測定される。測定装置は島津製作所製の「ICPS-8100」(商標)を用いることができる。
【0031】
実施形態1の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率は、67体積%以上98.2体積%以下でもよく、70体積%以上97体積%以下でもよく、または、75体積%以上96体積%以下でもよい。
【0032】
超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および超硬合金の結合相の含有率(体積%)の測定方法は以下の通りである。
【0033】
(A1)超硬合金の任意の位置を切り出して断面を露出させる。該断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子社製)により鏡面加工する。
【0034】
(B1)超硬合金の鏡面加工面に対して、走査電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分光装置(SEM-EDX)を用いて分析を行い(装置:Carl Zeiss社製「Gemini450」(商標))、超硬合金に含まれる元素を特定する。
【0035】
(C1)超硬合金の鏡面加工面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影して反射電子像を得る。撮影領域は、超硬合金の断面の中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。観察倍率は5000倍である。測定条件は、加速電圧3kV、電流値2nA、ワーキングディスタンス(WD)5mmである。
【0036】
(D1)上記(C1)の撮影領域に対して、SEM-EDXを用いて分析を行い、該撮影領域における上記(B1)で特定された元素の分布を特定し、元素マッピング像を得る。
【0037】
(E1)上記(C1)で得られた反射電子像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェア(OpenCV、SciPy)を用いて二値化処理を行う。二値化処理後の画像において、炭化タングステン粒子は白色で示され、結合相は灰色~黒色で示される。なお、二値化の閾値はコントラストにより変化するため、画像ごとに設定する。
【0038】
(F1)上記(D1)で得られた元素マッピング像と上記(E1)で得られた二値化処理後の画像とを重ねることにより、該二値化処理後の画像上で炭化タングステン粒子および結合相のそれぞれの存在領域を特定する。具体的には、二値化処理後の画像において白色で示され、元素マッピング像においてタングステン(W)および炭素(C)の存在する領域が、炭化タングステン粒子の存在領域に該当する。二値化処理後の画像において灰色~黒色で示され、元素マッピング像においてコバルト(Co)の存在する領域が、結合相の存在領域に該当する。
【0039】
(G1)上記二値化処理後の画像中に、24.9μm×18.8μmの矩形の測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、該測定視野全体の面積を分母として炭化タングステン粒子および結合相のそれぞれの面積百分率を測定する。
【0040】
(H1)上記(G1)の測定を、5つの互いに重複しない異なる測定視野において行う。本開示において、5つの測定視野における炭化タングステン粒子の面積百分率の平均が、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)に該当し、5つの測定視野における結合相の面積百分率の平均が、超硬合金の結合相の含有率(体積%)に該当する。
【0041】
超硬合金がWC粒子および結合相に加えて、他の相を含む場合は、超硬合金の他の相の含有率は、超硬合金全体(100体積%)から、上記の手順で測定された炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)を減ずることにより得ることができる。
【0042】
同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域、上記(G1)に記載される測定視野を任意に設定し、上記の手順に従い、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0043】
実施形態1の超硬合金は、コバルトを1質量%以上含んでもよい。超硬合金のコバルト含有率は、1.0質量%以上20質量%以下でもよく、2.0質量%以上15質量%以下でもよく、または、3.0質量%以上12質量%以下でもよい。
【0044】
超硬合金のコバルトの含有率の測定方法は、以下の通りである。上記の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(D1)と同一の方法で、SEM-EDXを用いて分析を行いて元素マッピング像を得る。元素マッピング像に基づき、超硬合金におけるコバルトの領域を特定し、コバルトの含有率を測定する。該測定を、5つの互いに重複しない異なる撮影領域において行う。本開示において、5つの撮影領域におけるコバルトの含有率の平均が、超硬合金のコバルトの含有率に該当する。
【0045】
同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記の手順に従い、超硬合金のコバルトの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0046】
<炭化タングステン粒子>
実施形態1の超硬合金において、炭化タングステン粒子は、「純粋なWC粒子(不純物元素が一切含有されないWC、不純物元素の含有量が検出限界未満であるWCも含む。)」および「本開示の効果を損なわない限りにおいて、その内部に不純物元素が意図的あるいは不可避的に含有されるWC粒子」の少なくともいずれかを含む。炭化タングステン粒子の不純物の含有率(不純物を構成する元素が2種類以上の場合は、それらの合計濃度。)は、0.1質量%未満である。炭化タングステン粒子の不純物元素の含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0047】
実施形態1において、炭化タングステン粒子の平均粒径は特に制限されない。炭化タングステン粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm以上3.5μm以下とすることができる。実施形態1の超硬合金は、炭化タングステン粒子の平均粒径によらず、切削工具の材料として用いられた場合において、工具の長寿命化を可能とすることが確認されている。
【0048】
<結合相>
実施形態1の超硬合金において、結合相は、コバルトを80質量%以上含む。これにより、超硬合金は優れた靱性を有することができる。結合相のコバルト含有率は、80質量%以上100質量%以下でもよく、80質量%以上100質量%未満でもよく、90質量%以上100質量%未満でもよい。
【0049】
結合相のコバルトの含有率の測定方法は、以下の通りである。上記の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同一の方法で、元素マッピング像および二値化処理後の画像を得る。元素マッピング像と、二値化処理後の画像とを重ねることにより、元素マッピング像において、結合相の存在領域を特定する。元素マッピング像の画像中に、24.9μm×18.8μmの矩形の1つの測定視野を設定する。測定視野中の結合相の存在領域において、コバルト含有率を測定する。上記の測定を、5つの互いに重複しない異なる測定視野において行う。本開示において、5つの測定視野における結合相の存在領域におけるコバルト含有率の平均が、結合相のコバルト含有率に該当する。
【0050】
同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域、および上記の測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、結合相のコバルト含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0051】
実施形態1の超硬合金において、結合相は、更に、珪素、リン、ゲルマニウム、スズ、レニウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、および、白金からなる群より選択される少なくとも1種の第1元素を含んでもよい。これによると、結合相の耐変形性が向上する。
【0052】
結合相が第1元素を含むことは、以下の手順で確認される。上記の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同一の方法で、元素マッピング像および二値化処理後の画像を得る。元素マッピング像と、二値化処理後の画像とを重ねることにより、元素マッピング像において、結合相の存在領域を特定する。元素マッピング像において、結合相の存在領域に第1元素が存在する場合、結合相が第1元素を含むことが確認される。
【0053】
実施形態1の超硬合金の結合相において、第1元素の質量M1およびコバルトの質量M2の合計M1+M2に対する、第1元素の質量M1の百分率{M1/(M1+M2)}×100は、1%以上6%以下でもよい。ここで、M1およびM2の単位は同一である。これにより、結合相は、より優れた硬度とより優れた靱性とを兼備することができるため、該結合相を含む超硬合金を備える切削工具は、より長い工具寿命を有することができる。ここで、第1元素の質量M1は、結合相が2種類以上の第1元素を含む場合は、全ての種類の第1元素の合計質量を意味する。百分率{M1/(M1+M2)}×100は、2%以上5%以下でもよく、3%以上4%以下でもよい。
【0054】
上記百分率{M1/(M1+M2)}×100の測定方法は、以下の通りである。上記の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同一の方法で、元素マッピング像および二値化処理後の画像を得る。元素マッピング像と、二値化処理後の画像とを重ねることにより、元素マッピング像において、結合相の存在領域を特定する。元素マッピング像の画像中に、24.9μm×18.8μmの矩形の1つの測定視野を設定する。測定視野中の結合相の存在領域において、第1元素の質量m1およびコバルトの質量m2の合計m1+m2に対する第1元素の質量m1の百分率{m1/(m1+m2)}×100を算出する。上記の測定を、5つの互いに重複しない異なる測定視野において行う。本開示において、5つの測定視野における百分率{m1/(m1+m2)}×100の平均が、超硬合金の結合相における「百分率{M1/(M1+M2)}×100」に該当する。
【0055】
同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(C1)に記載される撮影領域、および上記の測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、百分率{M1/(M1+M2)}×100の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0056】
実施形態1の超硬合金において、結合相は、コバルトおよび第1元素に加えて、鉄、ニッケル、および、クロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2元素を含むことができる。該結合相は、コバルトと、第1元素と、第2元素と、からなることができる。該結合相は、コバルトと、第1元素と、第2元素と、不可避不純物と、からなることができる。該不可避不純物としては、例えば、鉄、ニッケル、硫黄などが挙げられる。
【0057】
<比R1/R2>
実施形態1の超硬合金は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域とを含み、第1領域の結合相におけるhcp(六方最密)構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc(面心立方)構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、面積S1(hcp)の比R1と、第2領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である。比R1は、S1(hcp)/(S1(hcp)+S1(fcc))で示され、比R2は、S2(hcp)/(S2(hcp)+S2(fcc))で示される。面積S1(hcp)、面積S1(fcc)、面積S2(hcp)および面積S2(fcc)の単位は同一である。
【0058】
R1/R2は、1.2以上1.8以下でもよく、1.2以上1.7以下でもよく、1.2以上1.6以下でもよく、1.2以上1.5以下でもよく、1.2以上1.4以下でもよく、または、1.2以上1.3以下でもよい。
【0059】
R1は、0.5以上1.0以下でもよく、0.6以上0.9以下でもよく、または、0.7以上0.8以下でもよい。比R1が0.5以上1.0以下であると、切削工具において、切削初期の耐塑性変形性が向上する。
【0060】
R2は、0.3以上0.6以下でもよく、0.35以上0.55以下でもよく、または、0.4以上0.5以下でもよい。比R2が0.3以上0.6以下であると、切削工具において、疲労強度が向上する。
【0061】
本開示において、R1/R2は、以下の手順で測定される。
【0062】
(A2)超硬合金をその主面の法線に沿って切り出して、断面を露出させる。超硬合金の表面が平面領域を有しない場合は、表面上の任意の点から、超硬合金の重心に向かう方向に沿って切り出して、断面を露出させる。該断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子社製)により鏡面加工する。
【0063】
(B2)超硬合金の鏡面加工面を電子線後方散乱回折装置(EBSD装置:Oxford社製「Symmetry」(商標))を備えた走査電子顕微鏡(SEM装置:Carl Zeiss社製「Gemini450」(商標))を用いて観察する。得られた観察像に対してEBSD解析を行う。観察像は、超硬合金の表面と、表面から超硬合金の内部側への距離が50μmの仮想面とに挟まれる領域を含むように取得される。観察像において、表面からの距離が15μm以内の第1領域中に、11.5μm×8.5μmの矩形の第1測定視野を設定する。観察像において、表面からの距離が15μm超の第2領域中に、11.5μm×8.5μmの矩形の第2測定視野を設定する。観察倍率は10,000倍とする。測定条件は、加速電圧15kV、電流値20nA、0.02μm/ステップ、露光時間1.5~3ms、測定時間10~20分時間とする。
【0064】
(C2)上記EBSD解析結果を、市販のソフトウェア(Oxford社製「AZtecCrystal」(商標))を用いて分析し、第1測定視野および第2測定視野のそれぞれにおいて、結合相に含まれるコバルトの結晶構造を特定し、カラーマップを得る。ここで特定されるコバルトの結晶構造は、超硬合金の鏡面加工面に現れるコバルトを、該鏡面加工面の法線方向から平面視したときに観察される結晶構造である。
【0065】
(D2)上記のソフトウェアを用いて、第1測定視野および第2測定視野のそれぞれの結合相における、hcp構造を有するコバルトの面積S(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S(fcc)の合計に対する、面積S(hcp)の比Rを測定する。例えば、カラーマップに基づき、炭化タングステン粒子を白色、および、hcp構造を有するコバルトを黒色で示す画像A、ならびに、炭化タングステン粒子を白色、および、fcc構造を有するコバルトを黒色で示す画像Bを出力し、画像Aおよび画像Bに基づき、比Rを測定することができる。
【0066】
(E2)上記の比Rの測定を、3つの互いに重複しない第1測定視野および3つの互いに重複しない第2測定視野において行う。本開示において、3つの第1測定視野における比Rの平均が、超硬合金の第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、面積S1(hcp)の比R1に該当する。本開示において、3つの第2測定視野における比Rの平均が、超硬合金の第2領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、面積S2(hcp)の比R2に該当する。
【0067】
(F2)上記(E2)で得られた比R1および比R2に基づき、R1/R2を算出する。
【0068】
同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所、上記(B2)に記載される観察像の取得領域および測定視野を任意に設定し、上記の手順に従い、R1/R2の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0069】
<超硬合金の製造方法>
実施形態1の超硬合金は、原料粉末の準備工程、混合工程、成型工程、および、焼結工程を前記の順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0070】
<準備工程>
準備工程は、超硬合金を構成する材料の原料粉末を準備する工程である。原料粉末としては、例えば、炭化タングステン粉末(以下、「WC粉末」とも記す)、コバルト(Co)粉末、第1元素粉末、第1元素とコバルトとの合金粉末が挙げられる。第1元素粉末としては、珪素(Si)粉末、リン(P)粉末、ゲルマニウム(Ge)粉末、スズ(Sn)粉末、レニウム(Re)粉末、ルテニウム(Ru)粉末、オスミウム(Os)粉末、イリジウム(Ir)粉末、および白金(Pt)粉末が挙げられる。原料粉末として、更に、ニッケル(Ni)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末、炭化タンタル(TaC)粉末、炭窒化チタン(TiCN)粉末、炭化クロム(Cr3C2)粉末などを準備することができる。これらの原料粉末は、市販のものを用いることができる。これらの原料粉末の平均粒径は特に制限されず、例えば、0.5~2μmとすることができる。原料粉末の平均粒径とは、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。
【0071】
<混合工程>
混合工程は、準備工程で準備した各原料粉末を所定の割合で混合する工程である。混合工程により、各原料粉末が混合された混合粉末が得られる。各原料粉末の混合割合は、狙いとする超硬合金の組成に応じて適宜調整する。
【0072】
各原料粉末の混合には、アトライター、ボールミル、およびビーズミル等の従来公知の混合方法を用いることができる。混合条件も従来公知の条件を用いることができる。混合時間は、例えば、2時間以上20時間以下とすることができる。
【0073】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイまたは金型へ混合粉末を充填し易い。造粒には、公知の造粒方法が適用でき、例えば、スプレードライヤー等の市販の造粒機を用いることができる。
【0074】
<成形工程>
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を切削工具用の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に制限されない。
【0075】
<焼結工程>
焼結工程は、成形工程で得られた成形体を焼結して、超硬合金中間体を得る工程である。焼結条件は、以下の通りである。成形体を焼結炉内に配置し、7MPaおよび1360℃の条件で2時間保持する。
【0076】
<冷却工程>
冷却工程は、焼結工程後の超硬合金中間体を冷却する工程である。具体的には、超硬合金中間体を、焼結炉から大気中に開放して、降温速度-100℃/分で室温まで急冷して、実施形態1の超硬合金を得ることができる。
【0077】
<実施形態1の超硬合金の製造方法の特徴>
実施形態1の超硬合金の製造方法において、焼結工程は、超硬合金中間体を、7MPaおよび1360℃の条件で2時間保持して行われる。また、冷却工程では、降温速度-100℃/分での急冷が行われる。この冷却速度は、従来の冷却速度よりも大きい。これらの条件によって、超硬合金の第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、面積S1(hcp)の比R1と、第2領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2が1.8以下である実施形態1の超硬合金を製造することができる。このような焼結工程、および、冷却工程を採用することによって、本開示の超硬合金を実現できることは、本発明者らが鋭意検討の結果、見いだしたものである。
【0078】
[実施形態2:切削工具]
本開示の一実施形態(以下「実施形態2」とも記す。)の切削工具は、実施形態1の超硬合金からなる刃先を含む。本開示において、刃先とは、切削に関与する部分を意味する。より具体的には、刃先とは、刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側への距離が0.5mm、または、2mmである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0079】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。
図2に示されるように、実施形態2の切削工具10は、特に、エンドミルの場合に、優れた効果を発揮することができる。
図2に示される切削工具10の刃先11は、実施形態1の超硬合金からなる。
【0080】
実施形態2の切削工具において、実施形態1の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に実施形態1の超硬合金をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
【0081】
実施形態2の切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えてもよい。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドを用いることができる。
【0082】
実施形態2の切削工具は、実施形態1の超硬合金を所望の形状に成形して得ることができる。
【実施例】
【0083】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0084】
[超硬合金の作製]
以下の手順で、各試料の超硬合金を作製した。
<準備工程>
原料粉末として、WC粉末(平均粒径:1μm)、Co粉末(平均粒径:1μm)、第1元素粉末、TiCN粉末(平均粒径:1μm)、Ni粉末(平均粒径:1μm)を準備した。第1元素粉末としては、珪素(Si)粉末(平均粒径:1μm)、リン(P)粉末(平均粒径:1μm)、ゲルマニウム(Ge)粉末(平均粒径:1μm)、スズ(Sn)粉末(平均粒径:1μm)、レニウム(Re)粉末(平均粒径:1μm)、ルテニウム(Ru)粉末(平均粒径:1μm)、オスミウム(Os)粉末(平均粒径:1μm)、イリジウム(Ir)粉末(平均粒径:1μm)、および白金(Pt)粉末(平均粒径:1μm)を準備した。
【0085】
<混合工程>
各原料粉末を表1に記載の割合で、アトライターを用いて10時間混合することにより、混合粉末を得た。表1に記載の各原料粉末の割合(質量%)は、混合粉末全体を100質量%とした場合の割合である。
【0086】
【0087】
<成形工程>
混合粉末をプレスすることにより、丸棒形状の成形体を得た。
【0088】
<焼結工程>
成形体を焼結炉内に配置し、表2の「焼結工程」の「保持圧力」欄に記載の圧力および「保持温度」欄に記載の温度で、「保持時間」欄に記載の時間保持した。これにより、超硬合金中間体を得た。「保持圧力」欄の「vac」との記載は、真空中を意味する。
【0089】
<冷却工程>
焼結工程後の超硬合金中間体を、焼結炉から大気中に開放して、表2の「冷却工程」の「降温速度」欄に記載の降温速度で冷却して、各試料の超硬合金を得た。
【0090】
【0091】
[超硬合金の評価]
<超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)>
各試料の超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「WC粒子含有率」および「結合相含有率」欄に示す。更に、超硬合金の炭化タングステン粒子の含有率および結合相の含有率の合計を表3の「超硬合金」の「WC粒子+結合相含有率」欄に示す。表3において、「WC粒子+結合相含有率」欄が100体積%未満の超硬合金は、TiCNをさらに含むことが確認された。
【0092】
【0093】
<結合相のコバルト含有率>
各試料の超硬合金において、結合相のコバルト含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表4の「結合相」の「Co含有率」欄に示す。
【0094】
<{M1/(M1+M2)}×100>
各試料の超硬合金の結合相において、第1元素の種類、および、第1元素の質量M1およびコバルトの質量M2の合計M1+M2に対する、第1元素の質量M1の百分率{M1/(M1+M2)}×100を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表4の「結合相」の「第1元素」欄および「{M1/(M1+M2)}×100」欄に示す。「第1元素」欄に「-」と記載されている試料は、第1元素を含まないことを示す。
【0095】
<比R1/R2>
各試料の超硬合金において、表面からの距離が15μm以内の第1領域の結合相におけるhcp(六方最密)構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc(面心立方)構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、面積S1(hcp)の比R1と、表面からの距離が15μm超の第2領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。R1、R2および比R1/R2を表4の「結合相」の「R1」、「R2」および「R1/R2」欄に示す。
【0096】
[切削試験]
各試料の超硬合金からなる丸棒を加工し、刃径φ3mmのボールエンドミルを作製した。ボールエンドミルを用いて、SDK61からなる被削材(φ2mmの穴が等間隔で開いている)の側面断続加工を行った。加工条件は、切削速度Vc100m/min、一刃送りfz0.05mm/刃、切込み量(軸方向)ap0.05mm、切込み量(半径方向)ae0.05mm、乾式とした。切削工具にチッピングが発生するまでの切削長を測定した。切削長が長いほど、工具寿命が長いことを示す。結果を表4の「切削試験」の「切削長」欄に示す。なお、上記の加工条件は、高硬度材の断続加工に該当する。
【0097】
【0098】
[考察]
試料1~試料19の超硬合金および切削工具は、実施例に該当する。試料101~試料106の超硬合金および切削工具は、比較例に該当する。試料1~試料19の切削工具は、試料101~試料106の切削工具よりも、工具寿命が長いことが確認された。
【0099】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 炭化タングステン粒子、2 結合相、3 超硬合金、10 切削工具、11 刃先。
【要約】
複数の炭化タングステン粒子と、結合相と、を備える超硬合金であって、前記超硬合金は、前記炭化タングステン粒子および前記結合相を合計で89体積%以上含み、前記超硬合金は、前記結合相を1.8体積%以上20体積%以下含み、前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、前記超硬合金は、表面からの距離が15μm以内の第1領域と、表面からの距離が15μm超の第2領域と、を含み、前記第1領域の結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S1(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S1(fcc)の合計に対する、前記面積S1(hcp)の比R1と、前記第2領域の前記結合相におけるhcp構造を有するコバルトの面積S2(hcp)およびfcc構造を有するコバルトの面積S2(fcc)の合計に対する、前記面積S2(hcp)の比R2との比R1/R2は、1.8以下である、超硬合金である。