(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】真空蒸着室のための蒸着セル及び関連する蒸着方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20250415BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2020172915
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-08-22
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507354600
【氏名又は名称】リベル
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】ギュイヨー ジャン-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】スタンムラン フランク
(72)【発明者】
【氏名】ルソー ユーリ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104117(JP,A)
【文献】特開2005-054270(JP,A)
【文献】特開2007-100216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着室のための蒸着セル(1)において、昇華又は蒸発させる固体又は液体材料を受けるようになされたるつぼ(5)と、前記るつぼ内の前記材料を加熱する加熱手段(3)と、前記るつぼ(5)の開放端に設置されたノズル(6)であって、蒸発又は昇華した材料の流れを前記真空蒸着室に向かって通過させるようになされた開口(60)を有する切頭円錐部分(61)を含むノズル(6)と、前記ノズル(6)上に設置されたカバー(7)であって、前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)の周囲に配置された開口(70)を有するカバー(7)と、を含み、
前記カバー(7)は、
少なくとも1つの支持部分、少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)、および前記少なくとも1つの支持部分を前記少なくとも1つの切頭円錐部分に接続する少なくとも1つの環状部分も含み、
前記少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)は、前記少なくとも1つの環状部分において、前記カバー(7)の前記開口(70)から、前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)と同じ方向に向かってかつ同じ軸に沿って延びており、
前記少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)は、前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)の周囲に配置されており、
前記カバー(7)は前記るつぼ(5)と前記真空蒸着室との間に遮熱バリアを形成する
蒸着セル(1)において、
前記ノズル(6)は円筒壁(68)と2つの底板(62、64)を含み、前記円筒壁(68)は前記2つの底板(62、64)を前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)に接続し、
前記円筒壁と前記るつぼ(5)の間には、ギャップが形成されており、
前記円筒壁(68)は、前記円筒壁と前記るつぼの間の前記ギャップに接続された、半径方向に向けられた開口(66)を含み、
前記2つの底板(62、64)の各々は少なくとも1つの開口(63、65)を含み、前記2つの底板(62、64)の前記少なくとも1つの開口(63、65)はジグザグに配置され、
前記ノズルは、蒸発又は昇華された材料の流れが、前記2つの底板(62、64)又は前記前記円筒壁(68)の前記半径方向に向けられた開口(66)を通過するように構成されており、
前記加熱手段(3)は、前記るつぼ(5)の下部分の周囲に配置された第一の加熱領域と前記ノズル(6)の周囲に配置された第二の加熱領域を含む、蒸着セル。
【請求項2】
同じ頂角(A)と同じ軸(100)を有する前記カバーの前記切頭円錐部分(71)と前記ノズルの前記切頭円錐部分(61)は、十分の数ミリメートル~数ミリメートルの相互距離に配置される、請求項1に記載の蒸着セル。
【請求項3】
前記カバーの少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)は、同じ頂角(B)及び同じ軸(100)の幾つかの切頭円錐(71、72、73)を含み、前記切頭円錐(71、72、73)は前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)の周囲に相互に嵌め込まれる、請求項1又は2に記載の蒸着セル。
【請求項4】
前記切頭円錐(71、72、73)の隣接する2つの円錐は、それぞれの表面積の5%以下の接触面積を有する、請求項3に記載の蒸着セル。
【請求項5】
前記カバー(7)は金属シートから形成される、請求項1~4の何れか1項に記載の蒸着セル。
【請求項6】
前記カバー(7)は前記るつぼ(5)の前記開放端を覆う、請求項1~5の何れか1項に記載の蒸着セル。
【請求項7】
昇華又は蒸発させる前記材料は、ハロゲン化金属、酸化金属、及びカルコゲン化金属から選択される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の蒸着セル。
【請求項8】
フッ化リチウムの蒸発方法において、この蒸発方法は、
前記るつぼ(5)の下部分の周囲に配置された第一の加熱領域をフッ化リチウムの蒸発温度より高い温度及びある圧力で加熱することにより、前記フッ化リチウムを前記るつぼ(5)内で加熱して、気体フッ化リチウムの流れを形成するステップと、
前記気体フッ化リチウムの流れをノズル(6)によってフィルタにかけ、真空蒸着室に向かって方向付けるステップであって、前記ノズル(6)は前記るつぼ(5)の口に配置されたステップと、
前記ノズル(6)の周囲に配置された第二の加熱領域を加熱するステップであって、前記ノズル(6)は切頭円錐部分(61)と開口(60)を有するステップとを含み、
ここで、前記ノズル(6)は円筒壁(68)と2つの底板(62、64)を含み、前記円筒壁(68)は前記2つの底板(62、64)を前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)に接続し、
前記円筒壁と前記るつぼ(5)の間には、ギャップが形成されており、
前記円筒壁(68)は、前記円筒壁と前記るつぼの間の前記ギャップに接続された、半径方向に向けられた開口(66)を含み、
前記2つの底板(62、64)の各々は少なくとも1つの開口(63、65)を含み、前記2つの底板(62、64)の前記少なくとも1つの開口(63、65)はジグザグに配置され、
前記ノズルは、蒸発又は昇華された材料の流れが、前記2つの底板(62、64)又は前記前記円筒壁(68)の前記半径方向に向けられた開口(66)を通過するように構成されており、
前記蒸発方法は、更に
前記ノズル(6)を前記蒸着室に対して、前記ノズル(6)の前記開口(60)の周囲に配置されたカバー(7)によって断熱するステップを備え、
前記カバー(7)は前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)の周囲に配置された少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)を有するステップを含み、
前記カバー(7)は、少なくとも1つの支持部分、少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)、および前記少なくとも1つの支持部分を前記少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)に接続する少なくとも1つの環状部分も含み、
前記少なくとも1つの切頭円錐部分(71、72、73)は、前記少なくとも1つの環状部分において、前記カバー(7)の前記開口(70)から、前記ノズル(6)の前記切頭円錐部分(61)と同じ方向に向かってかつ同じ軸に沿って延びている、
蒸発方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、薄膜材料の真空蒸着のための機器の分野に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は基板上に材料を蒸着する方法と装置に関する。
【0003】
より詳しくは、本発明はハロゲン化金属、酸化金属、及び/又はカルコゲン化金属から形成される無機又は有機材料の薄膜堆積に応用される。
【背景技術】
【0004】
先行技術である(特許文献1)及び(特許文献2)は、基板上に材料を蒸着する方法と装置を開示している。一般に、材料の堆積は、加熱手段、真空ポンプ、蒸発源材料がその中に設置される、蒸着セルとも呼ばれる蒸発源セルを含む真空室内で行われる。蒸発源材料は、蒸発源セル内で150℃より高い温度まで加熱されて蒸発する。実際には、蒸発源セルは、気相材料が基板に向かって通過できるようにする少なくとも1つの開口を有する。したがって、基板と接触すると、気相材料は凝縮して固体材料の薄層を堆積させる。そのようにして、ある材料層を堆積させ、又は複数の厚さの複数の材料の薄層を連続的に積み重ねることが可能となる。
【0005】
基板上に材料膜を堆積させるための蒸着方法に係わる蒸発源セルは、るつぼ及び加熱手段等の幾つかの要素を含む。加熱手段は一般に、るつぼの周囲に配置される。るつぼは一般に、上側開放端と下側閉鎖端を有し、その中で蒸発源材料が堆積される。るつぼの上側開放端により、気相の蒸発材料が基板に向かって通過できる。多くの場合、所定の大きさの開口を有するインサートがるつぼの上側開放端に設置される。インサートは、主な機能として、蒸発源セルの出口における蒸発材料の流れの分散を制御しなければならない。このインサートはまた、例えば、基板上での蒸発源材料の蒸発中に発生する固体及び/又は液体材料の放射の通過を制限することを可能にする。このような材料の放射は、堆積された材料の膜の不均一性又は欠陥を生じさせる。インサートはまた、層の厚さの、基板上へのその形成中の再現性を改善できる。
【0006】
しかしながら、インサートに開口が存在することは、るつぼの上端における高い熱損失の原因となる。インサート上には凝縮現象が見られることがあり、これはインサート開口の閉塞につながる場合がある。インサート開口が閉塞すると、基板上への材料の堆積プロセス中に材料堆積の流れが不安定となる。インサート上への材料凝縮現象は、蒸発源材料の蒸発又は昇華の温度が低い場合、特に600℃以下の温度では、一層加速する。この現象は、蒸発させる材料の性質に依存する。
【0007】
有機発光ダイオード(OLED)表示スクリーンの製造には、異なる材料、特にハロゲン化金属、酸化金属、及び/又はカルコゲン化金属が使用される。
【0008】
例えば大型OLED表示スクリーン用のフッ化リチウムを堆積させる場合、るつぼの温度は800℃~900℃と中程度である。フッ化リチウムの蒸着速度は非常に遅く、1~50g/hの程度である。フッ化リチウムの堆積方法は非常に長く、数時間又は、さらには数十時間にわたることもある。インサートカバー上にフッ化リチウム材料の分縮が見られる。インサートの開口周囲のこの凝縮は、基板に向かう気体材料の流れの分散を時間に応じて変化させ、インサート開口の閉塞につながる場合がある。インサート開口の周囲の材料のこのような凝縮によって、堆積中に、又は1つの基板上への堆積と他の基板への堆積との間で一定の堆積速度を保持することが非常に難しくなり、堆積される層の均一性にとって有害である。この現象は、有機発光ダイオード(OLED)表示スクリーンの製造方法を非常に予測不能なものにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2007/074654号明細書
【文献】米国特許第5104695号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、特にハロゲン化金属、酸化金属、及び/又はカルコゲン化金属堆積物を堆積させるための、及び特にフッ化リチウムを堆積させるための、インサート開口の閉塞の問題を回避できるようにする蒸発装置及び方法を開発することが必要である。
【0011】
本発明の目的の1つは、蒸気圧が10-3mbar~1mbarのハロゲン化金属、酸化金属、及び/又はカルコゲン化金属から選択された材料の薄層を700℃~1000℃の温度で堆積させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために、本発明は真空蒸着室のための蒸着セルを提案し、この蒸着セルは、るつぼであって、昇華又は蒸発させることになる固体又は液体材料を受けるようになされたるつぼと、るつぼ内の材料を加熱する加熱手段と、るつぼの開放端に設置されたノズルであって、蒸発又は昇華した材料の流れを真空蒸着室に向かって通過させるようになされた開口を有する切頭円錐部分を含むノズルと、ノズル上に設置されたカバーであって、ノズルの切頭円錐部分の周囲に配置された開口を有するカバーと、を含む。
【0013】
本発明によれば、カバーは、ノズルの切頭円錐部分の周囲に配置された少なくとも1つの切頭円錐部分を有し、カバーはるつぼと真空蒸着室との間に遮熱バリアを形成する。
【0014】
特定の有利な態様によれば、同じ頂角と同じ軸を有するカバーの切頭円錐部分とノズルの切頭円錐部分は、十分の数ミリメートル~数ミリメートルの相互距離に配置される。
【0015】
1つの実施形態によれば、カバーの少なくとも1つの切頭円錐部分は、同じ頂角及び同じ軸の幾つかの切頭円錐を含み、前記切頭円錐はノズルの切頭円錐部分の周囲に相互に嵌め込まれる。
【0016】
有利な態様として、前記切頭円錐の隣接する2つの円錐は、それぞれの表面積の5%より小さいかそれと等しい接触面積を有する。
【0017】
1つの実施形態によれば、カバーは金属シートから形成される。
【0018】
有利な態様として、カバーはるつぼの開放端を覆う。
【0019】
特定の有利な実施形態によれば、ノズルは円筒壁と2つの底板を含み、円筒壁は2つの底板をノズルの切頭円錐部分に接続し、円筒壁は半径方向に向けられた開口を含み、2つの底板の各々は少なくとも1つの開口を含み、2つの底板の前記少なくとも1つの開口はジグザグに配置される。
【0020】
特定の有利な態様によれば、加熱手段は、るつぼの下部分の周囲に配置された第一の加熱領域とノズルの周囲に配置された第二の加熱領域を含む。
【0021】
例示的実施形態によれば、昇華又は蒸発させる材料は、ハロゲン化金属、酸化金属、及びカルコゲン化金属から選択される。
【0022】
本発明はまた、フッ化リチウムの蒸発方法にも関し、これは以下のステップ、すなわち、るつぼの中でフッ化リチウムをフッ化リチウムの蒸発温度より高い温度及びある圧力で加熱して、気体フッ化リチウムの流れを形成するステップと、気体フッ化リチウムの流れをノズルによってフィルタにかけ、真空蒸着室に向かって方向付けるステップであって、ノズルはるつぼの口に配置され、ノズルは切頭円錐部分と開口を有するステップと、ノズルを蒸着室に対して、ノズル開口の周囲に配置されたカバーによって断熱するステップであって、カバーはノズルの切頭円錐部分の周囲に配置された少なくとも1つの切頭円錐部分を有するステップと、を含む。
【0023】
もちろん、本発明の異なる特徴、変形型、及び実施形態は、それらが相互に矛盾しない、又は排他的でないかぎり、様々な組合せにより相互に関連付けることもできる。
【0024】
さらに、本発明の他の様々な特徴は、本発明の非限定的な実施形態を図解する下記のような図面に関して行われる付属の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】1つの実施形態による蒸着セルの分解図である。
【
図2】特定の実施形態によるフィルタリングノズルの断面図である。
【
図3】1つの実施形態によるカバーの断面図である。
【
図4】1つの実施形態による蒸着セルの概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
これらの図面中、異なる変形型に共通する構造的及び/又は機能的要素は同じ参照番号を有することもある点に留意されたい。
【0027】
蒸発源セル(又は蒸着セル、さらに本文書の中では蒸発源とも呼ばれる)は、真空室内での薄膜堆積のための材料源として使用される。
【0028】
図1は、本開示の1つの実施形態による蒸発源1の分解図を概略的に示している。蒸発源1は、炉2であって、少なくとも1つの加熱素子3を含む炉2と、るつぼ5と、ノズル6と、カバー7と、おそらくワッシャ4と、を含む。
【0029】
炉は、るつぼ中に導入される材料の蒸発に必要なエネルギーを熱として提供する。炉2は概して円筒形状である。炉2は、タンタル、モリブデン、タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、アルミナ、及び/又はステンレススチールから選択される材料で製造されてよい。図の例では、炉2はその下端において、電気ワイヤを通過させるように開放し、その上端においては、るつぼ5を挿入し、またそこから取り出すために開放している。
【0030】
ワッシャ4は、炉2内の中心にるつぼ5を保持する役割を果たす任意選択による要素である。
【0031】
るつぼ5は概して円筒形状である。るつぼ5は、開放端と閉鎖底部を含む。動作中、るつぼ5の開放端は上向きにされ、底部は蒸発源1の底部に設置される。蒸発源材料は、フィラと呼ばれ、るつぼ5の底部に設置される。フィラは一般に、固体又は液体の形態でるつぼ5の中に投入される。加熱後、材料及び加熱温度に応じて、フィラは気相へと昇華又は蒸発させる。一般に、フィラの初期高さはるつぼ5の全長の約3分の1に対応する。
【0032】
蒸発させる材料は、るつぼ5の中に設置される。次に、るつぼ5は炉内に挿入される。有利な点として、るつぼ5は、充填及び/又はフィラ交換ができるように取外し可能である。フィラは例えば、蒸発温度が150℃~1500℃又は昇華温度が150℃~1500℃の材料から選択される。フッ化リチウムの場合、加熱温度は800℃~900℃である。
【0033】
ある例示的実施形態において、加熱手段3はるつぼ5をその全長にわたり加熱する。他の例示的実施形態において、加熱手段3は2つの部分、すなわち第一の加熱領域と第二の加熱領域に分割される。第一の加熱領域は、蒸着セルの下部分の中に設置され、これは例えば底部から蒸発源の高さの3分の2までに及ぶ。有利な態様として、第二の加熱領域は蒸発源セルの上部分、例えばるつぼの開放端までの蒸発源セル1の上3分の1内に設置される。このような加熱手段により、るつぼの底部とノズル6の周囲の加熱温度を別々に調節できる。
【0034】
加熱手段は例えば、1つ又は複数の発熱抵抗素子を含み、これはフィラメント又は加熱素子とも呼ばれる。一般に、加熱手段はるつぼ5の外側部分の周囲に配置される。
図1では、加熱手段は炉2内及びるつぼの側壁の周囲に配置される。るつぼの加熱温度範囲は、使用されるフィラの材料に応じて150℃~1500℃である。
【0035】
ノズル6は、インサートとも呼ばれ、るつぼ5の開放端に、蒸発材料の流れを方向付けるように設置される。有利な態様として、ノズル6は切頭円錐部分61を含み、これは例えば円形の断面を有する。切頭円錐部分61はしたがって、下向きに配置された、るつぼ5の内径よりわずかに小さい直径の第一の開放端と、上向きに配置された、第一の端の直径より小さい直径の開口60を形成する第二の端を有する。切頭円錐部分61と開口60により、蒸着室内で基板上に堆積される材料の流れを制御できる。ノズル6の切頭円錐部分61は、円錐の軸100に関する開口角度A、全長H1、及び開口60の直径D1等の幾何学的パラメータにより定義される。反転された切頭円錐ノズルは、るつぼの上部分の端に配置され、それによってフィラから発せられる材料の蒸気は円錐の最も広い部分から入り、最も狭い口から出る。一般に、開口角度Aは0度~60度であり、高さE1は5mm~80mmであり、開口直径D1は2mm~100mmである。非限定的な例として、
図4では、開口角度Aは35度、高さE1は21mm、開口直径D1は27mmである。例示的実施形態において、ノズル6はシートから製作される。他の例示的実施形態において、ノズル6は中実材料から機械加工される。ノズル6は例えば、タンタル、モリブデン、チタン、ニオビウム、タングステン、グラファイト、アルミナ、又は窒化ホウ素から選択される材料で製造されてよい。ノズル6の円錐形状によって、気相材料の流れを制御し、ひいては基板上の材料堆積物の均一性を制御することが可能となる。ノズル6は、るつぼ5の開放端上に設置又は固定されるようになされる。
【0036】
図2に示される変形型によれば、ノズル6は、切頭円錐部分61、側面グリッド68、コリメータ又は絞り機構とも呼ばれる第一のプレート64、インパクタとも呼ばれる第二のプレート62をさらに含む。第一のプレート64は、例えば中央の開口65又は幾つかの開口を含む。第二のプレート62は、有利な点として、周辺に配置された幾つかの開口63を含む。第二のプレート62の開口63は、中央の開口65又は第一のプレート64の開口に関してジグザグに配置される。第一のプレート64の開口の大きさは、それらの総表面積がインパクタ62の開口63の表面積より大きいか、それと等しくなるような大きさである。
【0037】
側面グリッド68は、例えばシート及び、おそらく穿孔穴66のネットワークから形成される。変形型として、グリッド68は、例えば有孔若しくはエキスパンドシートから、又は例えば織若しくは溶接金網から製造されてよい。グリッド68を製造するために使用される材料は好ましくは、タンタル(Ta)、パイロリティックボロンナイトライド(pBN)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ニオビウム(Nb)、タングステン(W)、アルミナ(Al2O3)、及びグラファイトから選択される。
【0038】
一方で、ノズル6の切頭円錐部分61は側面グリッド68に溶接される。他方で、第一のプレート64と第二のプレート62もまた、側面グリッド68に溶接される。そのようにして、るつぼから出た蒸発材料の流れは、強制的にインパクタ62を通過し、その後、コリメータ64を通るか、側面グリッドを通る。切頭円錐部分61、側面グリッド68、コリメータ64、及びインパクタ62の組立体はしたがって、フィルタリングノズルを形成する。フィルタリングノズルは、
図4に示されるようにるつぼの開放端の中に組み込まれる。フィルタリングノズルの全長H1は例えば80mmである。ノズルの切頭円錐部分61の高さE1は例えば21mmである。フィルタリングノズルは、インサートの流体コンダクタンスを低下させる。しかしながら、ノズルは、より高温へと加熱されて、蒸発材料のフロー値を保持してもよい。
【0039】
加熱手段が2つの加熱領域を含む場合、第二の加熱領域は、有利な態様として、フィルタリングノズルの周囲に高さH1にわたって延びる。そのようにして、一方で蒸発材料の流れを形成するためのフィラの加熱と、他方で開口60における材料のあらゆる凝縮を回避するためのノズルの加熱を熱的に分離することが可能となる。
【0040】
本開示によれば、蒸着セルはカバー7をさらに含む。カバー7は、セルの炉2の口の上に乗る支持部分75を含む(
図4参照)。カバー7は切頭円錐形状71の少なくとも一部を含む。特に有利な態様として、カバー7は、
図3に示されるように、幾つかの切頭円錐部分71、72、73を含む。カバー7はまた、円錐の軸100を横切るように配置された環状部分74も含み、これは支持部分75を切頭円錐部分71、72、73に接続する。カバーの環状部分74は、蒸着室に対してノズル6を断熱することに貢献する。しかしながら、環状部分74は炉2からの熱の流れを受けて、それは蒸着室からカバー7へと後方散乱した種を再び蒸発させるのに十分に高い温度に環状部分74を保持するようになされる。
【0041】
有利な態様として、切頭円錐部分71、72、73は円形の断面を有する。有利な態様として、切頭円錐形状71、72、73の部分は同じ頂角B及び同じ軸100を有する。切頭円錐形状71、72、73の部分は、同じ軸100に沿って配置され、軸方向のずれは0.1mm~5mmで、2つの隣接する切頭円錐部分間に空隙が提供される。特に有利な態様として、切頭円錐部分71の頂角はノズル6の切頭円錐部分61の頂角Aと同じである。蒸着セルが動作中、カバー7の切頭円錐部分71はノズル6の切頭円錐部分61から0.1mm~10mmの距離だけ離れている。したがって、カバーの切頭円錐部分71はノズル6の切頭円錐部分61の一部を取り囲む。カバーの切頭円錐部分71は、真空蒸着室とノズル6との間に遮熱シールドを形成する。さらに有利な態様として、切頭円錐部分71、72、73は、真空蒸着室とノズル6との間に、はるかにより効率的な遮熱シールドを形成する。一般に、カバー7はタンタルで製作される。例示的実施形態において、切頭円錐部分71、72、73のシートの各々には、隣接する切頭円錐部分間にある距離を保持しながら、これらの隣接する円錐部分間の接触が最小になるのを保証できるようにする機械的装置が設けられる。機械的装置は、切頭円錐部分71、72、73のシートに作り込まれる突起部又は凹部からなっていてよい。変形型として、切頭円錐部分71、72、73は、リベットによって相互に離間された状態に保持される。切頭円錐部分71、72、73は例えば、開口70の周囲の環状部分74に溶接される。有利な態様として、開口70は円形で、直径D2を有する。切頭円錐部分71、72、73の高さH2は、ノズル6の切頭円錐部分61の高さE1より低いか、それと等しい。
【0042】
図4に示されるように、カバー7の支持部分75は炉2の口の上に乗る。カバー7の切頭円錐部分71、72、73は、ノズル6の切頭円錐部分61と同じ方向に、同じ軸100に沿って向けられる。カバーの開口70はしたがって、ノズル6の切頭円錐部分61の周囲に配置される。有利な態様として、カバーの開口70は、最高でも、開口60と同じ高さに配置される。最適な結果として、開口70は開口60のすぐ下、例えば1mm~8mm下に位置付けられる。カバー7とフィルタリングインサート6は、組み立てた後に、カバー7がフィルタリングインサート6と物理的に接触しないような大きさとされる。より正確には、カバー7の支持部分75と環状部分74は、カバー7とフィルタリングインサート6との間に、十分の数ミリメートル~数ミリメートルの最小距離、又は相互距離が設けられるような大きさとされる。換言すれば、カバー7とフィルタリングインサート6は相互に機械的に分離されるか、絶縁される。
【0043】
カバー7は、支持部分75、環状部分74、及び切頭円錐形状71、72、73の部分からなり、ノズル6の切頭円錐部分61と真空蒸着室との間に遮熱シールドを形成する。このようなカバー7は、蒸発源から真空蒸着室への熱損失を回避し、切頭円錐部分61を高温に保つことを可能にする。それと同時に、カバー7は、炉2から環状部分74への熱損失の制御に有利に設計される。実際に、環状部分74は真空蒸着室に面する。この環状部分は熱の流れを受けて、この環状部分74を、蒸着室側での凝縮により堆積する可能性のある材料を再蒸発させるのに十分に高い温度に保つようにする。
【0044】
ノズル6とカバー7との組立体によって、蒸発源の使用期間中にカバー7上及び/又はノズル6上への材料の凝縮を回避できる。このカバー7によって、特に、真空蒸着室からカバー7への後方散乱による材料の凝縮を回避することが可能である。さらに、カバー7の環状部分74は、ノズル6の口の出口で後方散乱する可能性のある種を再蒸発させるのに十分に高い温度に保持される。最後に、カバー7により、ノズル6の切頭円錐部分61の内面を、ノズルの上での材料の凝縮を回避するのに十分な温度に保つことができる。
【0045】
蒸発源によって、るつぼ内の材料の加熱中に発生する分子噴流の強度をよりよく制御することができる。蒸着室内の堆積速度を測定するために、石英スケールを使用できる。石英スケールは、蒸発源と、材料の薄膜堆積を受けることになる基板との間に介在しないように位置付けられる。石英スケールは、分子噴流の一部を検出し、その強度を測定するように位置付けられる。石英スケールは信号を提供し、これはフィラメントに印加される電力を通じてセルの加熱強度を調節し、分子噴流を所定の設定点にできるだけ近く保持するために使用されてよい。製造段階で、このようなフィードバックシステムにより、基板間で一定の膜厚を所定のプロセス限度内に保持することができる。
【0046】
第一の例において、したがって、13時間の持続時間で8.05g/hの程度の平均蒸着速度が得られる。第二の例では、50時間の持続時間で6.8g/hの程度の平均蒸着速度が得られる。これら2つの例では、カバー7にも、インパクタ62にも、ノズル6の内壁にも材料の凝縮は見られない。石英スケールを通じた測定は、蒸着50時間の蒸着の間、分子噴流の非常に高い安定性(変動は±5%未満)を示す。
【0047】
本開示はまた、ハロゲン化金属、酸化金属、又はカルコゲン化金属の蒸着方法にも関する。ハロゲン化金属は、MBrx、MIx、MClx、MFx型の化学式を有し、Mは金属、Br、I、Cl、Fはそれぞれ臭素、塩素、ヨウ素、及びフッ素原子である。酸化金属は、MOx型の化学式を有し、Mは金属、Oは酸素原子である。カルコゲン化金属は、MSex、MSx、MTex型の化学式を有し、Mは金属、Se、S、Teはそれぞれセレニウム、硫黄、及びテルル原子である。これらの材料は一般に、熱伝導率が低く、したがって、断熱材である。
【0048】
材料は、半導体業界の様々な技術分野で使用される。特に、フッ化リチウム(LiF)はOLED型のフラット表示スクリーンの製造に使用される。フッ化リチウムは薄膜の形態で透明である。フッ化リチウムは一般に、電子機器を不動態化するため、及び/又は例えば光の抽出等の光学的機能のために使用される。
【0049】
しかしながら、蒸着によるフッ化リチウムの堆積には技術的な困難が伴う。フッ化リチウムは、その蒸気圧が中程度の材料であり、典型的に蒸発温度は800~900℃である。フッ化リチウムは電気絶縁性及び断熱性材料である。フッ化リチウムは、コングルエント蒸発により分子の形態で気化する。蒸発速度は一般に、1~50g/hである。基板上への堆積速度は0.1nm/s~0.5nm/sの程度である。ここで、フッ化リチウム蒸着方法の持続時間は、数時間又は、さらには数十時間に達することもある。これらの条件で、先行技術の方法では一般に、フッ化リチウムが先行技術の蒸着セルのノズル上に凝縮し、雪を形成することが観察され、それが一定の堆積速度を保持するのを妨害し、時間の経過によりノズル開口を閉塞させる原因となる。フッ化リチウムの凝縮は、分子噴流の強度が高いとさらに速くなる。
【0050】
非限定的な例として、フッ化リチウム堆積方法を説明する。方法は以下のステップ、すなわち固体の形態のフッ化リチウムを、フッ素化リチウムの蒸発温度より高い、一般に900℃~1200℃の温度及び、一般に0.06mbar~6mbarの所与の圧力で加熱して、気体フッ化リチウムの流れを形成するステップと、気体フッ化リチウムの流れを、切頭円錐部分61と開口60を有するノズル6によってフィルタにかけ、真空蒸着室へと方向付けるステップと、を含み、ノズル7は、ノズル6の切頭円錐部分61の周囲に配置された少なくとも1つの切頭円錐部分71を有し、ノズル6を蒸着室に対して断熱する。特に有利な態様として、方法は、ノズル6とカバー7を、ノズル6上及びカバー7上への材料の凝縮を回避するのに十分な温度(一般に、900℃~1200℃)まで加熱するステップを含む。
【0051】
この蒸着方法により、フッ化リチウムを真空蒸着室内に設置された基板上に、0.1nm/s~0.5nm/sの堆積速度で、1分~50時間の持続時間にわたって蒸着させ、0.1nm~100nmの蒸着膜厚を得ることができる。
【0052】
もちろん、付属の特許請求の範囲の中で、本発明に他の様々な改良を加えてよい。
【符号の説明】
【0053】
1 蒸着セル
2 炉
3 加熱手段
4 ワッシャ
5 るつぼ
6 ノズル
7 カバー
60 ノズルの開口
61 ノズルの切頭円錐部分
62、64 ノズルの底板
63、65 底板の開口
66 穿孔穴
68 ノズルの側面グリッド
70 カバーの開口
71、72、73 カバーの切頭円錐部分
74 環状部分
75 支持部分
100 軸
A ノズルの切頭円錐部分の頂角
B カバーの切頭円錐部分の頂角
D1、D2 直径
E1、H2 高さ
H1 全長