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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】磁壁移動素子及び磁気アレイ
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20250415BHJP
   H10D 48/40 20250101ALI20250415BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20250415BHJP
【FI】
H10B61/00
H10D48/40 Z
H10N50/10 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020207649
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094645
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-07-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】米村 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 竜雄
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150113(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183574(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068509(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/001706(WO,A1)
【文献】特開2019-046976(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0109739(US,A1)
【文献】国際公開第2017/213261(WO,A1)
【文献】特開2016-178178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10D 48/40
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方にあり、前記基板に近い側から順に積層された強磁性層と非磁性層と磁壁移動層とを有する積層体と、第1導電層と、第1表面層と、前記磁壁移動層の延びる方向において前記第1導電層と離間して配置された第2導電層と、を備え、
前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁壁移動層との間に挟まれ、
前記第1導電層は、前記磁壁移動層の上面に接続され、
前記第1表面層は、前記磁壁移動層の上面のうち、平面視において前記第1導電層と前記第2導電層との間のすべての領域と接し、
前記第1表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高
前記第1導電層及び前記第2導電層は、それぞれ、前記第1表面層と前記磁壁移動層との間に挟まれている領域を有する、磁壁移動素子。
【請求項2】
基板の上方にあり、前記基板に近い側から順に積層された強磁性層と非磁性層と磁壁移動層とを有する積層体と、第1導電層と、第1表面層と、前記磁壁移動層の延びる方向において前記第1導電層と離間して配置された第2導電層と、を備え、
前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁壁移動層との間に挟まれ、
前記第1導電層は、前記磁壁移動層の上面に接続され、
前記第1表面層は、前記磁壁移動層の上面のうち、平面視において前記第1導電層と前記第2導電層との間のすべての領域と接し、
前記第1表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高
前記第1導電層の上面に接する第1の第2表面層と、前記第2導電層の上面に接する第2の第2表面層と、をさらに有し、
前記第1の第2表面層の抵抗率及び前記第2の第2表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高い、磁壁移動素子。
【請求項3】
前記第1表面層の上面と接する絶縁層をさらに備える、請求項1又は2に記載の磁壁移動素子。
【請求項4】
前記第1表面層はアモルファスまたは微結晶を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項5】
前記第1表面層は、Bi,Ni,Cr,Ti,Zr,Wからなる群から選択される少なくともいずれかの元素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項6】
前記磁壁移動層の磁化容易方向は、前記磁壁移動層が広がる面に対して交差している、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項7】
前記第1導電層の側面に接する第1の第3表面層と、前記第2導電層の側面に接する第2の第3表面層と、をさらに有し、
前記第1の第3表面層の抵抗率及び前記第2の第3表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高い、請求項1又は2に記載の磁壁移動素子。
【請求項8】
基板と、複数の請求項1~のいずれか一項に記載の磁壁移動素子と、を有し、
複数の前記磁壁移動素子は、前記基板上に集積されている、磁気アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁壁移動素子及び磁気アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
微細化に限界が見えてきたフラッシュメモリ等に代わる次世代の不揮発性メモリに注目が集まっている。例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、ReRAM(Resistance Randome Access Memory)、PCRAM(Phase Change Random Access Memory)等が次世代の不揮発性メモリとして知られている。
【0003】
MRAMは、磁化の向きの変化によって生じる抵抗値変化をデータ記録に利用している。記録メモリの大容量化を実現するために、メモリを構成する素子の小型化、メモリを構成する素子一つあたりの記録ビットの多値化が検討されている。
【0004】
特許文献1には、磁壁移動層(第1強磁性層)における磁壁を移動させることで、多値又はデジタルにデータを記録することができる磁壁移動素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5445970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁壁移動素子の磁気抵抗は、磁壁の位置により変化する。磁壁移動層に不純物や欠陥がある場合、磁壁は不純物や欠陥によりトラップされやすい。すなわち、磁壁移動層に意図せぬ不純物や欠陥があると、磁壁移動素子における磁壁の動作が不安定になる。特許文献1の磁壁移動素子も、磁壁移動層に不純物や欠陥が含まれ、磁壁の動作が不安定になる場合があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、磁壁の動作を安定化できる磁壁移動素子及び磁気アレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の第1の態様に係る磁壁移動素子は、基板の上方にあり、前記基板に近い側から順に積層された強磁性層と非磁性層と磁壁移動層とを有する積層体と、第1導電層と、第1表面層と、を備え、前記非磁性層は、前記強磁性層と前記磁壁移動層との間に挟まれ、前記第1導電層は、前記磁壁移動層の上面に接続され、前記第1表面層は、前記磁壁移動層の上面の少なくとも一部と接し、前記第1表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高い。
【0009】
(2)上記態様に係る磁壁移動素子は、前記第1表面層の上面と接する絶縁層をさらに備えていてもよい。
【0010】
(3)上記態様に係る磁壁移動素子において、前記第1表面層はアモルファスまたは微結晶を含んでいてもよい。
【0011】
(4)上記態様に係る磁壁移動素子において、前記第1表面層は、Bi,Ni,Cr,Ti,Zr,Wからなる群から選択される少なくともいずれかの元素を含んでいてもよい。
【0012】
(5)上記態様に係る磁壁移動素子において、前記第1表面層の厚さは、2nm以下であってもよい。
【0013】
(6)上記態様に係る磁壁移動素子において、前記磁壁移動層の磁化容易方向は、前記磁壁移動層が広がる面に対して交差していてもよい。
【0014】
(7)上記態様に係る磁壁移動素子において、前記第1導電層の少なくとも一部は、前記第1表面層と前記磁壁移動層との間に挟まれていてもよい。
【0015】
(8)上記態様に係る磁壁移動素子は、前記第1導電層の上面に接する第2表面層をさらに有し、前記第2表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高くてもよい。
【0016】
(9)上記態様に係る磁壁移動素子は、前記第1導電層の側面に接する第3表面層をさらに有し、前記第3表面層の抵抗率は、前記磁壁移動層の抵抗率よりも高くてもよい。
【0017】
(10)本発明の第2の態様に係る磁気アレイは、基板と、複数の上記態様に係る磁壁移動素子と、を有し、複数の前記磁壁移動素子は、前記基板上に集積されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
上記態様に係る磁壁移動素子及び磁気アレイは、磁壁移動素子における磁壁の動作を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る磁気記録アレイの構成図である。
図2】第1実施形態に係る磁気記録アレイの要部の断面図である。
図3】第1実施形態に係る磁壁移動素子の断面図である。
図4】微結晶を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子線回折を行った結果である。
図5】アモルファスを、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子線回折を行った結果である。
図6】比較例に係る磁壁移動素子の断面図である。
図7】変形例1に係る磁壁移動素子の断面図である。
図8】変形例2に係る磁壁移動素子の断面図である。
図9】変形例3に係る磁壁移動素子の断面図である。
図10】変形例4に係る磁壁移動素子の断面図である。
図11】変形例5に係る磁壁移動素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、明細書中に記載の組成式は、化学量論組成で記載しているが、構造を維持できる範囲での化学量論組成からのブレは容認される。
【0021】
まず方向について定義する。+x方向、-x方向、+y方向及び-y方向は、後述する基板Sub(図2参照)の一面と略平行な方向である。+x方向は、後述する磁壁移動層30が延びる方向であり、後述する第1導電層60から第2導電層70へ向かう方向である。-x方向は、+x方向と反対の方向である。+x方向と-x方向を区別しない場合は、単に「x方向」と称する。+y方向は、x方向と直交する一方向である。-y方向は、+y方向と反対の方向である。+y方向と-y方向を区別しない場合は、単に「y方向」と称する。+z方向は、後述する基板Subから磁壁移動素子100へ向かう方向である。-z方向は、+z方向と反対の方向である。+z方向と-z方向を区別しない場合は、単に「z方向」と称する。また本明細書で「x方向に延びる」とは、例えば、x方向、y方向、及びz方向の各寸法のうち最小の寸法よりもx方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。
【0022】
次に、本実施形態で用いる用語について定義する。本明細書において「接続」とは、主体が客体(接続対象)に対して電気的な影響を及ぼすことができる状態であることを意味しており、主体が客体と直接接する状態に限られない。また本明細書において「接する」とは、主体が客体に直接接している状態を意味する。また「上方にある」とは、主体が客体の上にある状態を意味し、主体が客体の上にありかつ主体が客体と接する状態、および、主体が客体の上にありかつ主体が客体と離間している状態のいずれも含む。
【0023】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態にかかる磁気アレイの構成図である。磁気アレイ200は、複数の磁壁移動素子100と、複数の第1配線Wpと、複数の第2配線Cmと、複数の第3配線Rpと、複数の第1スイッチング素子SW1と、複数の第2スイッチング素子SW2と、複数の第3スイッチング素子SW3と、を備える。磁気アレイ200は、例えば、磁気メモリ、積和演算器、ニューロモーフィックデバイス、スピンメモリスタ、磁気光学素子に利用できる。
【0024】
<第1配線、第2配線、第3配線>
第1配線Wpのそれぞれは、書き込み配線である。第1配線Wpはそれぞれ、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気アレイ200の一端に接続される。
【0025】
第2配線Cmのそれぞれは、共通配線である。共通配線は、データの書き込み時及び読み出し時の両方に用いることができる配線である。第2配線Cmのそれぞれは、基準電位と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。基準電位は、例えば、グラウンドである。第2配線Cmは、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに設けられてもよいし、複数の磁壁移動素子100に亘って設けられてもよい。
【0026】
第3配線Rpのそれぞれは、読み出し配線である。第3配線Rpはそれぞれ、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気アレイ200の一端に接続される。
【0027】
<第1スイッチング素子、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子>
図1において、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに、第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2、第3スイッチング素子SW3が接続されている。第1スイッチング素子SW1は、磁壁移動素子100と第1配線Wpとの間に接続されている。第2スイッチング素子SW2は、磁壁移動素子100と第2配線Cmとの間に接続されている。第3スイッチング素子SW3は、磁壁移動素子100と第3配線Rpとの間に接続されている。
【0028】
第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第1配線Wpと第2配線Cmとの間に書き込み電流が流れる。第2スイッチング素子SW2及び第3スイッチング素子SW3をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第2配線Cmと第3配線Rpとの間に読み出し電流が流れる。
【0029】
第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2及び第3スイッチング素子SW3は、電流の流れを制御する素子である。第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2及び第3スイッチング素子SW3は、例えば、トランジスタ、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子である。
【0030】
第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2、第3スイッチング素子SW3のいずれかは、同じ配線に接続された磁壁移動素子100で、共用してもよい。例えば、第1スイッチング素子SW1を共有する場合は、第1配線Wpの上流(一端)に一つの第1スイッチング素子SW1を設ける。例えば、第2スイッチング素子SW2を共有する場合は、第2配線Cmの上流(一端)に一つの第2スイッチング素子SW2を設ける。例えば、第3スイッチング素子SW3を共有する場合は、第3配線Rpの上流(一端)に一つの第3スイッチング素子SW3を設ける。
【0031】
図2は、第1実施形態に係る磁気アレイ200の要部の断面図である。図2は、図1における一つの磁壁移動素子100を磁壁移動層30のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。
【0032】
図2に示す第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2は、トランジスタTrである。トランジスタTrは、ゲート電極Gと、ゲート絶縁膜GIと、基板Subに形成されたソース領域S及びドレイン領域Dと、を有する。基板Subは、例えば、半導体基板である。第3スイッチング素子SW3は、第3配線Rpと電気的に接続され、例えば、図2においてy方向にずれた位置にある。
【0033】
トランジスタTrのそれぞれと磁壁移動素子100とは、配線w1、w2を介して、電気的に接続されている。配線w1、w2は、導電性を有する材料を含む。配線w1は、z方向に延びるビア配線である。配線w2は、xy面内のいずれかの方向に延びる面内配線である。配線w1、w2は、絶縁層Inの開口内に形成される。
【0034】
絶縁層Inは、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁層である。磁壁移動素子100とトランジスタTrとは、配線w1、w2を除いて、絶縁層Inによって電気的に分離されている。絶縁層Inは、例えば、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸窒化アルミニウム(AlON)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ジルコニウム(ZrO)等である。
【0035】
図2では、磁壁移動素子100が絶縁層Inを挟んで基板Subの上方にある例を示したが、磁壁移動素子100は基板Sub上にあってもよい。
【0036】
[磁壁移動素子]
図3は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100の断面図である。磁壁移動素子100は、基板Subの上方に積層された積層体1と第1表面層50と第1導電層60と第2導電層70とを有する。第1表面層50は、積層体1の上面の少なくとも一部に積層される。第1導電層60および第2導電層70は、積層体1の上面の少なくとも一部に積層される。積層体1は、強磁性層10と非磁性層20と磁壁移動層30とを有する。図3は、磁壁移動素子100を磁壁移動層30のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。磁壁移動素子100の一例は、記憶素子である。
【0037】
「強磁性層」
強磁性層10は、非磁性層20に面する。強磁性層10は、一方向に配向した磁化M10を有する。強磁性層10の磁化M10は、所定の外力が印加された際に磁壁移動層30の磁化M33A、M33Bよりも配向方向が変化しにくい。所定の外力は、例えば外部磁場により磁化に印加される外力や、スピン偏極電流により磁化に印加される外力である。強磁性層10は、磁化固定層、磁化参照層と呼ばれることがある。磁化M10は、例えば、+z方向に配向する。本実施形態において、強磁性層10は、第1強磁性層という場合がある。
【0038】
以下、磁化がz軸方向に配向した例を用いて説明するが、磁壁移動層30及び強磁性層10の磁化は、xy面内のいずれかの方向に配向していてもよい。磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より磁壁移動素子100の消費電力、動作時の発熱が抑制される。また磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より同じ強度のパルス電流を印加した際における磁壁DWの移動幅が小さくなる。一方で、磁化がxy面内のいずれかに配向する場合は、磁化がz方向に配向する場合より磁壁移動素子100の磁気抵抗変化幅(MR比)が大きくなる。
【0039】
強磁性層10は、強磁性体を含む。強磁性層10を構成する強磁性材料としては、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。強磁性層10は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feである。
【0040】
強磁性層10を構成する材料は、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はXYZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、CoFeSi、CoFeGe、CoFeGa、CoMnSi、CoMn1-aFeAlSi1-b、CoFeGe1-cGa等が挙げられる。
【0041】
強磁性層10の膜厚は、強磁性層10の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、1.5nm以下や、1.0nm以下としてもよい。強磁性層10の膜厚を薄くすると、強磁性層10と他の層(非磁性層20)との界面で、強磁性層10に垂直磁気異方性(界面垂直磁気異方性)が付加され、強磁性層10の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0042】
強磁性層10の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、強磁性層10をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体としてもよく、Ir、Ruからなる群から選択された中間層を積層体のいずれかの位置に挿入してもよい。強磁性体と非磁性体を積層すると垂直磁気異方性を付加することができ、中間層を挿入することによって強磁性層10の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0043】
「磁壁移動層」
磁壁移動層30は、例えば、z方向からの平面視で、x方向が長軸、y方向が短軸の矩形である。磁壁移動層30は、非磁性層20を挟んで、強磁性層10と対向する磁性層である。磁壁移動層30は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。
【0044】
磁壁移動層30は、磁化固定領域31、32と磁壁移動領域33とを有する。磁壁移動領域33は、二つの磁化固定領域31、32に挟まれる。
【0045】
磁化固定領域31は、磁壁移動層30のうち、z方向から見て第1導電層60と重なる領域である。磁化固定領域32は、磁壁移動層30のうち、z方向から見て第2導電層70と重なる領域である。磁化固定領域31、32の磁化M31、M32は、後述する磁壁移動領域33第1磁区33A、第2磁区33Bの磁化M33A、M33Bより磁化反転しにくく、磁壁移動領域33の磁化M33A、M33Bが反転する閾値の外力を印加しても磁化反転しない。そのため、磁化固定領域31、32の磁化M31、M32は、磁壁移動領域33の磁化M33A、M33Bに対して固定されていると言われる。
【0046】
磁化固定領域31の磁化M31と、磁化固定領域32の磁化M32とは異なる方向に配向している。磁化固定領域31の磁化M31と、磁化固定領域32の磁化M32とは、例えば、反対方向に配向している。磁化固定領域31の磁化M31は例えば+z方向に配向し、磁化固定領域32の磁化M32は例えば-z方向に配向している。
【0047】
磁壁移動領域33は、第1磁区33Aと第2磁区33Bとからなる。第1磁区33Aは、磁化固定領域31に隣接する。第1磁区33Aの磁化M33Aは、磁化固定領域31の磁化M31の影響を受けて、例えば、磁化固定領域31の磁化M31と同じ方向(平行)に配向する。第2磁区33Bは、磁化固定領域32に隣接する。第2磁区33Bの磁化M33Bは、磁化固定領域32の磁化M32の影響を受けて、例えば、磁化固定領域32の磁化M32と同じ方向に配向する。そのため、第1磁区33Aの磁化M33Aと第2磁区33Bの磁化M33Bとは、反対方向(反平行)に配向する。
【0048】
第1磁区33Aと第2磁区33Bとの境界が磁壁DWである。磁壁DWは、磁壁移動領域33内を移動する。磁壁DWは、原則、磁化固定領域31、32には侵入しない。
【0049】
磁壁移動素子100は、磁壁移動層30の磁壁DWの位置によって、データを多値又は連続的に記録できる。磁壁移動層30に記録されたデータは、読み出し電流を印加した際に、磁壁移動素子100の抵抗値変化として読み出される。
【0050】
磁壁移動領域33における第1磁区33Aと第2磁区33Bとの比率は、磁壁DWが移動すると変化する。磁壁DWが+x方向に移動し、z方向からの平面視で第1磁区33Aの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は低くなる。反対に、磁壁DWが-x方向に移動し、z方向からの平面視で第2磁区33Bの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は高くなる。
【0051】
磁壁DWは、磁壁移動領域33のx方向に書き込み電流を流すことによって移動する。例えば、磁壁移動領域33に+x方向の書き込み電流(例えば、電流パルス)を印加すると、電子は電流と逆の-x方向に流れるため、磁壁DWは-x方向に移動する。第1磁区33Aから第2磁区33Bに向って電流が流れる場合、第2磁区33Bでスピン偏極した電子は、第1磁区33Aの磁化M33Aを磁化反転させる。第1磁区33Aの磁化M33Aが磁化反転することで、磁壁DWは-x方向に移動する。
【0052】
磁壁移動層30は、磁性体により構成される。磁壁移動層30は、Co、Ni、Fe、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。磁壁移動層30に用いられる材料として、例えば、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁DWを移動するために必要な閾値電流が小さくなる。またCoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁DWの移動速度が遅くなる。
【0053】
磁壁移動層30の磁化容易方向は、磁壁移動層30が広がる面に対して交差させることが好ましい。すなわち、磁壁移動層30の磁化容易軸はz方向とする(垂直磁化膜にする)ことが好ましい。磁壁移動層30が垂直磁化膜であると、磁壁DWの駆動を低電流ですることができる。
【0054】
「非磁性層」
非磁性層20は、強磁性層10と磁壁移動層30との間に位置する。非磁性層20は、磁壁移動層30の一面に積層される。
【0055】
非磁性層20は、例えば、非磁性の絶縁体、半導体又は金属からなる。非磁性の絶縁体は、例えば、Al、SiO、MgO、MgAl、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be、Ga等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層20が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層20はトンネルバリア層である。非磁性の金属は、例えば、Cu、Au、Ag等である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)Se等である。
【0056】
非磁性層20の厚みは、例えば20Å以上であり、30Å以上であってもよい。非磁性層20の厚みが厚いと、磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)が大きくなる。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、例えば1×10Ωμm以上であり、1×10Ωμm以上であってもよい。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、一つの磁壁移動素子100の素子抵抗と磁壁移動素子100の素子断面積(非磁性層20をxy平面で切断した切断面の面積)の積で表される。
【0057】
「第1表面層」
第1表面層50は、磁壁移動層30の上面30aの少なくとも一部と接する。第1表面層50は、例えば、上面30aのうち、第1部分30a1の少なくとも一部と接する。また第1表面層50は、第1部分30a1の全体と接していてもよい。図3においては、第1部分の全体と接する状態を示す。上面30aとは、磁壁移動層30のz方向における上面であり、第1部分30a1とは、上面30aのうち後述する第1導電層60と第2導電層70との間の部分である。
第1表面層50は、例えばz方向において磁壁移動層30と絶縁層Inとに挟まれる。
【0058】
第1表面層50は、第1導電層60と隣接する。第1表面層50は、例えばx方向において第1導電層60と第2導電層70とに挟まれる。
【0059】
第1表面層50の抵抗率は、磁壁移動層30の抵抗率よりも高い。第1表面層50の抵抗率は、例えば磁壁移動層30の抵抗率の2倍以上や、3倍以上であってもよい。また、第1表面層50aの抵抗値は、磁壁移動層30の抵抗値よりも高くてもよい。第1表面層50aの抵抗値は、磁壁移動層30の抵抗値の例えば、2倍以上や3倍以上であってもよい。
【0060】
第1表面層50は、金属元素又は合金を含む層であり、例えばBi,Ni,Cr,Ti,Zr,Wからなる群から選択される金属、これらの金属元素を1種以上含む合金等を含む。第1表面層50は、金属元素又は合金からなる層であってもよい。これらの金属元素又は合金を含むことで、第1表面層50に電流が流れることを一層抑制できる。また、磁壁移動層30に流す電流を低電流にし、安定して磁壁DWを駆動できる。
【0061】
Bi,Ni,Cr,Ti,Zr,Wからなる群から選択される金属元素を1種以上含む合金としては、例えばマンガニン、ニクロムなどが用いられる。第1表面層50としては、合金よりも金属を用いる方が製造しやすさの観点から好ましい。また、合金は複数元素の組成比によって抵抗率が変動するため、合金よりも金属を用いる方が抵抗率の制御の容易性という観点から好ましい。
【0062】
第1表面層50は、微結晶又はアモルファスを含んでいてもよい。第1表面層50は、内部に微結晶又はアモルファスを含んでいてもよく、その表面に微結晶又はアモルファスを含んでいてもよい。第1表面層50は、微結晶又はアモルファスであってもよい。第1表面層50が微結晶又はアモルファスを含んでいると、第1表面層50が結晶化することが抑制される。すなわち、第1表面層50が微結晶又はアモルファスを含むことで、第1表面層50の抵抗率を高くすることができる。
【0063】
微結晶は、粒径が微小な結晶である。本実施形態において、微結晶は、XRD(X線回折法)で回折パターンを得られないが、ED(電子線回折法)で回折パターンを得られるものをいう。またアモルファスとは、XRD及びEDのいずれでも回折パターンを得られないものをいう。本実施形態において、微結晶及びアモルファスは、いずれもXRDで回折パターンを得られず、例えば連続的でブロードなピークを得られるX線アモルファスである。
【0064】
図4は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて微結晶に対して、電子線回折を行った結果である。また、図5は、TEMを用いてアモルファスに対して電子線回折を行った結果である。図4及び図5に示す白い部分は、回折光が検出された回折スポットである。
【0065】
微結晶は、結晶構造を有する。そのため、微結晶は図4に示されるように、電子線回折において結晶構造に伴う回折スポットを得られる。一方、アモルファスは特定の結晶構造を持たない。そのため、アモルファスは図5に示されるように、電子線回折において、円環状のハローパターンが確認され、結晶構造に伴う回折スポットが確認されない。尚、単結晶に対して電子線回折を行った回折スポットでは、結晶構造による回折スポットが確認される。単結晶の回折スポットは円環状にはならない。
【0066】
第1表面層50のy方向に対し垂直な断面の面積を小さくすると、第1表面層50の抵抗値を低くすることができる。例えば、第1表面層50のz方向における高さ(厚さ)を薄くすることで、第1表面層50の抵抗値を低くすることができる。第1表面層50の厚さは、例えば2nm以下や、1nm以下であってもよい。また、第1表面層50の厚さを当該範囲にすることで、第1表面層50がアモルファス又は微結晶を含みやすくなる。
【0067】
「第1導電層及び第2導電層」
第1導電層60及び第2導電層70は、磁壁移動層30の上面30aの少なくとも一部に接続される。第2導電層70は、第1導電層60と離間して磁壁移動層30に接続される。第2導電層70は、例えば、磁壁移動層30の上面30aに接続される。第2導電層70は、磁壁移動層30の側面など、上面30a以外の面に接続されてもよい。第1導電層60及び第2導電層70は、例えば磁壁移動層30の第1端部及び第2端部に接続される。第1導電層60、第2導電層70と磁壁移動層30とは、直接接していてもよく、間にほかの層を介していてもよい。
【0068】
第1導電層60の少なくとも一部が第1表面層50と磁壁移動層30との間に挟まれる。図3においては、第1導電層60の挟持部61が、第1表面層50の重畳部51と磁壁移動層30との間に挟まれる。第2導電層70の少なくとも一部は、例えば、第1表面層50と磁壁移動層30との間に挟まれる。図3においては、第2導電層70の挟持部71が、重畳部52と磁壁移動層30との間に挟まれる。すなわち、重畳部51及び挟持部61並びに重畳部52及び挟持部71は、それぞれz方向に重なる。
【0069】
重畳部51のx方向における長さは、例えば第1導電層60のx方向における長さの1/10倍未満である。重畳部52のx方向における長さは、例えば第2導電層70のx方向における長さの1/10倍未満である。
【0070】
第1導電層60及び第2導電層70は、導電性を有する材料からなる。第1導電層60及び第2導電層70は、例えば、磁性体を含む。第1導電層60及び第2導電層70は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属と、B、C、およびNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。第1導電層60及び第2導電層70は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Fe等である。
【0071】
また第1導電層60及び第2導電層70の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、第1導電層60及び第2導電層70をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体としてもよい。また第1導電層60は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)でもよい。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。二つの磁性層はそれぞれ磁化が固定されており、固定された磁化の向きは反対である。
【0072】
第1導電層60が磁性体を含む場合、第1導電層60の磁化M60は、一方向に配向する。磁化M60は、例えば、+z方向に配向する。第1導電層60は、磁化固定領域31の磁化M31を固定する。第1導電層60の磁化M60と磁化固定領域31の磁化M31とは、例えば同じ方向に配向する。
【0073】
第2導電層70が磁性体を含む場合、第2導電層70の磁化M70は、第1導電層60の磁化M60と異なる方向に配向する。磁化M70は、例えば、-z方向に配向する。この場合、第2導電層70は、磁化固定領域32の磁化M32を固定し、第2導電層70の磁化M70と磁化固定領域32の磁化M32とは、例えば、同じ方向に配向する。第2導電層70が磁性体を含まない場合は、磁化固定領域32の磁化M32は、例えば、外部磁場等によって固定される。
【0074】
ここでは、第1導電層60、第2導電層70がいずれも磁性体の例を提示している。第1導電層60、第2導電層70のそれぞれは磁性体でなくてもよい。第1導電層60及び第2導電層70が磁性体でない場合は、電流密度第1導電層60及び第2導電層70と接する部分で磁壁移動層30の電流密度が急激に減少することで、磁壁DWの移動範囲が磁壁移動領域33内に制限される。
【0075】
第1導電層60、第2導電層70及び磁壁移動層30の磁化容易方向がz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、磁化固定領域31,32の磁化M31及びM32の方向をz方向に固定できる。
【0076】
磁壁移動素子100の各層の磁化の向きは、例えば磁化曲線を測定することにより確認できる。磁化曲線は、例えば、MOKE(Mangeto Optical Kerr Effect)を用いて測定できる。MOKEによる測定は、直接偏光を測定対象物に入射させ、その偏光方向の回転等が起こる磁気光学効果(磁気Kerr効果)を用いることにより行う測定方法である。
【0077】
次いで、磁壁移動素子100の製造方法について説明する。磁壁移動素子100は、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー、イオンミリング等を用いて行うことができる。
【0078】
まず基板Subの上方に、強磁性層、非磁性層、磁壁移動層、導電層を順に積層する。次いで、例えば、フォトリソグラフィーによりこれらの層のx方向及びy方向の不要部を除去すると、各層は所定の形状に加工され、強磁性層は強磁性層10、非磁性層は非磁性層20、磁壁移動層は磁壁移動層30となる。次いで、導電層のうち、磁壁移動層30の端部と重なる2つの部分を除く部分を、例えばイオンミリングにより除去する。すなわち、磁壁移動層30の上面30aのうち、第1部分30a1に対応する部分は露出する。当該処理により導電層は、第1導電層60及び第2導電層70となる。次いで、第1部分30a1上に第1表面層50を積層する。その後、第1表面層、第1導電層60及び第2導電層70の上面は絶縁層Inで覆ってもよい。すなわち、磁壁移動素子100は、第1表面層50の上面と接する絶縁層Inを備えていてもよい。このようにして、図3に示す磁壁移動素子100は得られる。図1及び図2に示す磁気アレイ200は、本実施形態に係る磁壁移動素子100の製造方法、及び公知の磁気アレイの製造方法を用いて製造される。
【0079】
第1実施形態に係る磁壁移動素子100によれば、磁壁DWの動作を安定化させることができる。磁壁DWの動作とは、例えば磁壁DWの移動しやすさ等の磁壁DWの制御性である。磁壁DWの制御性が高まると、誤書き込み等の誤動作を防ぐことができ、磁壁移動素子100の信頼性が向上する。本実施形態に係る磁壁移動素子100が上述の効果を得られる理由について、比較例を用いて説明する。
【0080】
図6は、比較例に係る磁壁移動素子300の断面図である。比較例に係る磁壁移動素子300は、ボトムピン型の磁壁移動素子である。比較例に係る磁壁移動素子300は、第1表面層50を有しておらず、第1部分30a1´に絶縁層In´が接している点が第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子300において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0081】
磁壁移動素子300は、その製造工程において、磁壁移動層30´を形成した後に絶縁層In´が形成される。絶縁層In´としては、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)等が用いられるため、絶縁層In´を形成する工程では、磁壁移動層30´の上面30a´が酸化或いは窒化する場合がある。また、絶縁層In´を形成する工程では、磁壁移動層30´の上面30a´に欠陥が生じる場合がある。すなわち、上面30a´の第1部分30a1´には酸化物や窒化物等の不純物や、欠陥が含まれている場合がある。
【0082】
磁壁移動層30´中の不純物や欠陥は、磁壁DWのトラップ要因である。磁壁移動層30´中にトラップ要因が存在すると、トラップ要因の近傍で磁壁DWが強くトラップされる場合がある。磁壁DWが強くトラップされると、所定の電流密度の電流を磁壁移動層30´に印加しても磁壁DWがスムーズに動作しなくなる。すなわち、磁壁移動素子300は、欠陥等により磁壁DWがトラップされた場合にも磁壁DWを動かすのに十分なエネルギーが必要であり、反転電流密度以上の電流を印加しないと安定動作しない。
【0083】
これに対し、第1実施形態に係る磁壁移動素子100において第1表面層50は、磁壁移動層30の上面30aの少なくとも一部が接する。そのため、磁壁移動素子100では、第1表面層50を形成した後に絶縁層Inが形成される。従って、磁壁移動素子100の製造過程では、上面30aに酸化物や窒化物等の不純物及び欠陥の発生が抑制される。従って、第1実施形態に係る磁壁移動素子100では、磁壁移動層30にトラップ要因が形成されることを抑制できる。
【0084】
従って、第1実施形態に係る磁壁移動素子100では、磁壁DWの動作を安定化することができる。
【0085】
また、第1実施形態に係る磁壁移動素子100では、磁壁移動層と第1導電層及び第2導電層を一括で積層できるため、磁壁移動層30と第1導電層60及び第2導電層70との磁気結合が安定化する。また、第1実施形態に係る磁壁移動素子100においては、挟持部61及び71が絶縁層Inにより酸化または窒化されることを抑制できる。
【0086】
第1表面層50の抵抗率は、磁壁移動層30の抵抗率よりも高い。そのため、磁壁移動素子100において、磁壁移動層30のx方向に書き込み電流を印加した書き込み電流を印加したときに電流が第1表面層50に分流することを抑制できる。
【0087】
[第1変形例]
図7は、第1変形例に係る磁壁移動素子101の断面図である。磁壁移動素子101は、第1表面層50a、第1導電層60a及び第2導電層70aの形状が第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子101において、磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0088】
図7に示す磁壁移動素子101においては、第1表面層50aの少なくとも一部が第1導電層60aと磁壁移動層30とに挟まれる。また、第1表面層50aの少なくとも一部が第2導電層70aと磁壁移動層30とに挟まれる。
【0089】
磁壁移動素子101を製造するためには、例えば、先ず基板Sub及び絶縁層In上に、強磁性層、非磁性層、磁壁移動層、表面層を順に積層する。次いで、フォトリソグラフィーによりこれらの層のx方向及びy方向の不要部を除去する。次いで、表面層のうち、磁壁移動層30の端部と重なる2つの部分を例えば、イオンミリングにより除去する。すなわち、磁壁移動層30の上面30aのうち、端部に対応する部分は露出する。当該処理により、表面層は、第1表面層50aとなる。次いで、露出した磁壁移動層30の端部に導電体を充填し、第1導電層60a及び第2導電層70aを形成する。次いで、第1表面層50a、第1導電層60a及び第2導電層70aを絶縁層Inで覆ってもよい。磁壁移動素子100の第1導電層60及び第2導電層70と磁壁移動層101の第1導電層60a及び第2導電層70aの形状の違いは、その製造工程の順序の違いに伴う。
【0090】
第1変形例に係る磁壁移動素子101であっても、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様な効果を得られる。特に、磁壁移動素子101においては、第1表面層50aを第1導電層60a及び第2導電層70aよりも先に形成するため、磁壁移動層30の上面30aのうち第1部分30a1がイオンミリングにより粗くなることを抑制できる。そのため、変形例1では、磁壁移動層30の上面30aの表面を滑らかにできる。従って、磁壁DWの動作をより安定化させることができる。
【0091】
また、磁壁移動素子101においては、表面層を積層後、表面層のうち第1導電層60a及び第2導電層70aに対応する部分をイオンミリング等により除去してから第1導電層60a及び第2導電層70aを形成する。そのため、磁壁移動層30aのうち第1導電層60aと接する面及び第2導電層70aと接する面が、第1部分30a1と比べ粗くなる。磁壁移動層30aのうち第1導電層60aと接する面及び第2導電層70aと接する面が粗くなると、磁化固定領域31,32において、磁壁DWを固定しやすい。すなわち、磁壁DWが磁化固定領域31,32に侵入することを一層抑制できる。
【0092】
なお、図7においては、第1導電層60a及び第1表面層50aの少なくとも一部並びに第2導電層70a及び第1表面層50aの少なくとも一部がz方向に重なる例を示したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、第1表面層50aが、第1導電層60aおよび第2導電層70aとz方向で重ならない構成であってもよい。
【0093】
[第2変形例]
図8は、第2変形例に係る磁壁移動素子102の断面図である。磁壁移動素子102は、第2表面層53及び54を有する点で、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。第2表面層53及び54は、第1導電層60の上面62及び第2導電層70の上面72に接する。磁壁移動素子102において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0094】
第2表面層53,54としては、第1表面層50と同様の材料を用いることができる。第2表面層53,54の抵抗率は、例えば磁壁移動層30の抵抗率よりも高い。第2表面層53,54の抵抗率は、磁壁移動層30の抵抗率の2倍以上や3倍以上であってもよい。また第2表面層53,54は、それぞれ上面62,72の少なくとも一部に形成されていてもよく、上面62,72の全体に形成されていてもよい。
【0095】
磁壁移動素子102は、例えば磁壁移動素子101を形成した後に絶縁層Inのうち、第1導電層60又は第2導電層70と重なる位置にホールを形成し、ホール内に第1表面層50a同様に充填することで製造される。また、第2表面層53,54を積層してから絶縁層Inで覆ってもよい。
【0096】
第2変形例に係る磁壁移動素子102であっても、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様な効果を得られる。また、磁壁移動素子102においては、第1導電層60,第2導電層70の上面62,72が酸化または窒化することを抑制できる。従って、第1導電層60,第2導電層70により、磁化固定領域31,32の磁化M31,M32の磁化を強く固定できる。すなわち、磁壁DWが磁化固定領域31,32に侵入することを一層抑制できる。
【0097】
[第3変形例]
図9は、第3変形例に係る磁壁移動素子103の断面図である。磁壁移動素子103は、第1導電層60及び第2導電層70の側面に接する第3表面層56,57を有する点で磁壁移動素子102と異なる。磁壁移動素子103において、磁壁移動素子102と同様の構成は、同様の符号を付し、説明を省略する。図9においては、第1導電層60及び第2導電層70の両側の側面に第3表面層56,57が形成される例を図示したが、第1導電層60及び第2導電層70の少なくとも片側の側面に第3表面層56,57が形成されていればよい。尚、図9においては第1表面層50、第2表面層53,54及び第3表面層56,57が一体の場合を例示したが、それぞれが離間するような独立した構成であってもよい。
【0098】
第3表面層56,57としては、第1表面層50と同様の材料を用いることができる。第3表面層56,57の抵抗率は、磁壁移動層30の抵抗率よりも高い。第3表面層56,57の抵抗率は、磁壁移動層30の抵抗率の2倍以上や3倍以上であってもよい。第3表面層56,57は、それぞれ第1導電層60、第2導電層70のx方向における両側の側面に形成されていてもよく、片側の側面に形成されていてもよい。
【0099】
第3変形例に係る磁壁移動素子103は、例えば第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様の方法を用いて製造される。すなわち、磁壁移動素子103は、第1導電層60及び第2導電層70を形成した後、第1導電層60、第2導電層70及び磁壁移動層30の第1部分30a1上に表面層を形成し、次いで絶縁層Inで覆うことにより製造される。
【0100】
第3変形例に係る磁壁移動素子103であっても、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様な効果を得られる。また、磁壁移動素子103においては、絶縁層Inにより、第1導電層60、第2導電層70の側面が酸化又は窒化することを抑制できる。従って、第1導電層60,第2導電層70により、磁化固定領域31,32の磁化M31,M32の磁化を強く固定できる。すなわち、磁壁DWが磁化固定領域31,32に侵入することを一層抑制できる。
【0101】
[第4変形例]
図10は、第4変形例に係る磁壁移動素子104の断面図である。磁壁移動素子104は、第1表面層50bの少なくとも一部が第1導電層60b及び第2導電層70bと磁壁移動層30との間に挟まれる点が磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子104において、磁壁移動素子100と同様の構成は同様の符号を付し説明を省略する。
【0102】
第1表面層50bは、z方向からの平面視で、第1導電層60b及び第2導電層70bと重なる全ての領域に亘って形成されていてもよく、第1導電層60b及び第2導電層70bと重なる領域の一部を含むように形成されていてもよい。
【0103】
第1表面層50bは、第1表面層50と同様の材料を用いることができる。第1導電層60b及び第2導電層70bは、それぞれ磁壁移動層30と接続する。
【0104】
第1導電層60b及び第2導電層70bは、z方向における厚さが、それぞれ第1導電層60及び第2導電層70よりも小さい。
【0105】
第4変形例に係る磁壁移動素子104であっても、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様な効果を得られる。
【0106】
[変形例5]
図11は、変形例5に係る磁壁移動素子105の断面図である。磁壁移動素子105は、第2導電層70を有さない点で磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子105において、磁壁移動素子100と同様の構成は同様の符号を付し、説明を省略する。
【0107】
磁壁移動素子105は、ただ1つの第1導電層60を有する。磁壁移動素子105の磁化固定領域32は、例えば外部磁場によって固定される。
【0108】
また磁壁移動素子105は、磁化固定領域32を有さなくてもよい。磁化固定領域32を有さない磁壁移動素子105では、印加する電流パルスの大きさを制御することで、磁壁DWの動作を制御できる。
【0109】
本実施形態に係る磁壁移動素子105であっても、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様な効果を得られる。すなわち、磁壁移動素子105のように、少なくとも1つの導電層を有していれば磁壁DWの動作を安定化することができる。
【0110】
尚、図11において、磁壁移動素子105は第1導電層60のみを有する例を示したが、第2導電層70のみを有していてもよい。
【0111】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0112】
例えば、第1実施形態、変形例1~5における特徴的な構成をそれぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1:積層体、10:強磁性層、20:非磁性層、30:磁壁移動層、30a:上面、31,32:磁化固定領域、33:磁壁移動領域、33A:第1磁区、33B:第2磁区、50:第1表面層、60:第1導電層、70:第2導電層、DW:磁壁、In:絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11