(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】静脈圧測定装置、静脈圧測定方法および静脈圧測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20250415BHJP
【FI】
A61B5/022 100A
A61B5/022 400F
(21)【出願番号】P 2021103861
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽香
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】根木 潤
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049155(JP,A)
【文献】特開2010-088575(JP,A)
【文献】特開平05-207979(JP,A)
【文献】特開2011-240068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0077022(US,A1)
【文献】中国特許第104302332(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサにより測定された被検者の脈波に関する脈波情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定でき
るとき、前記脈波情報に含まれる候補成分に基づいて、前記被検者の静脈圧の値を推定する処理部と
を備え
、
前記処理部は、前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないとき、前記脈波情報に基づいて、前記被検者の静脈圧の値となり得る値域を算出し、
前記候補成分は、前記脈波情報に含まれる成分のうち、前記被検者の静脈波と推定され得る成分である、静脈圧測定装置。
【請求項2】
前記処理部は、さらに、外乱の影響を受けたノイズ成分と、前
記候補成分とに基づいて、前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できるかを判断する、請求項1に記載の静脈圧測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記脈波情報に所定条件の前記ノイズ成分が含まれるとき、または、前記脈波情報に前記候補成分が含まれないとき、前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないと判断する、請求項2に記載の静脈圧測定装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記脈波情報に前記候補成分が含まれるとともに所定条件の前記ノイズ成分が含まれないとき、前記脈波情報から前記被検者の静脈圧
の値を推定する、請求項2に記載の静脈圧測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、さらに、前記取得部により取得された前記脈波情報に基づいて前記被検者の静脈圧の値域を算出できるかを判断する、請求項2~4のいずれかに記載の静脈圧測定装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記脈波情報に所定条件の前記ノイズ成分および前記候補成分が含まれないとき、前記被検者の静脈圧の値域を算出する、請求項5に記載の静脈圧測定装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記脈波情報に所定条件の前記ノイズ成分が含まれるとともに、前記候補成分が含まれないとき、前記被検者の静脈圧の値域を算出する、またはエラーが生じたと判断する、請求項5に記載の静脈圧測定装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記脈波情報に所定条件の前記ノイズ成分および前記候補成分が含まれるとき、前記被検者の静脈圧の値域を算出する、またはエラーが生じたと判断する、請求項5に記載の静脈圧測定装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記ノイズ成分の位置、期間の長さ、数および大きさの少なくともいずれか一つに基づいて、前記被検者の静脈圧の値域を算出できるかを判断する、請求項5~8のいずれかに記載の静脈圧測定装置。
【請求項10】
前記センサは、前記被検者の所定の部位に装着されたカフであり、
前記取得部は、前記カフのカフ圧を変化させたときに前記カフが前記所定の部位から受ける圧力に基づいて前記脈波情報を取得する、請求項2~9のいずれかに記載の静脈圧測定装置。
【請求項11】
前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないとき、前記処理部は、前記脈波情報と、前記カフ圧に関する圧力情報とに基づいて前記被検者の静脈圧の値域を算出する、請求項10に記載の静脈圧測定装置。
【請求項12】
前記処理部は、前記カフ圧の変化に伴って前記被検者の脈波の振幅が所定の変化をするとき、前記脈波情報に前記候補成分が含まれると判断する、請求項10または11に記載の静脈圧測定装置。
【請求項13】
前記処理部により算出された前記被検者の静脈圧の値域に関する算出結果、前記脈波情報から推定された前記被検者の静脈圧
の値に関する推定結果、または前記被検者の静脈圧の推定および前記被検者の静脈圧の値域の算出ができない旨のエラー結果のいずれかを出力する出力部をさらに有する、請求項1~12のいずれかに記載の静脈圧測定装置。
【請求項14】
センサにより測定された被検者の脈波に関する脈波情報を取得することと、
取得された前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定でき
るとき、前記脈波情報に含まれる候補成分に基づいて、前記被検者の静脈圧の値を推定することと、
前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないとき、前記被検者の静脈圧の値となり得る値域を算出することと
を含
み、
前記候補成分は、前記脈波情報に含まれる成分のうち、前記被検者の静脈波と推定され得る成分である、静脈圧測定方法。
【請求項15】
請求項14に記載の静脈圧測定方法をコンピューターに実行させるための静脈圧測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈圧測定装置、静脈圧測定方法および静脈圧測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心不全を含む心疾患にかかる患者数が増加し続けており、心疾患は、死因の上位を占めている。高齢者の増加に伴い、高齢心不全患者が大幅に増加すること(いわゆる、心不全パンデミック)が予想されており、2030年には、心不全患者が130万人まで達すると予想されている。
【0003】
このような患者数の増加に加えて、心不全では再入院率の高さが社会的な問題となっており、医療費圧迫につながっている。このような問題は、日本のほか、米国などの諸外国にも生じている。
【0004】
心不全患者の再入院の原因の一つとして、うっ血の増悪が挙げられる。静脈圧は、体うっ血の状態を表す指標となり得るため、静脈圧を測定するための装置および方法の開発が進められている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような静脈圧の測定では、静脈圧の値を一意に決定することができない場合であっても、静脈圧と推定され得る値の範囲、即ち、静脈圧の値域に関する情報を得ることができれば、体うっ血等の状態を判断するための有効な情報となり得る。
【0007】
そこで本発明では、静脈圧の値域を算出することが可能な静脈圧測定装置、静脈圧測定方法および静脈圧測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0009】
本発明に係る静脈圧測定装置は、センサにより測定された被検者の脈波に関する脈波情報を取得する取得部と、前記取得部により取得された前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないとき、前記取得部により取得された前記脈波情報に基づいて前記被検者の静脈圧の値域を算出する処理部とを備えている。
【0010】
本発明に係る静脈圧測定方法は、センサにより測定された被検者の脈波に関する脈波情報を取得することと、取得された前記脈波情報から前記被検者の静脈圧を推定できないとき、取得された前記脈波情報に基づいて前記被検者の静脈圧の値域を算出することとを含んでいる。
【0011】
本発明に係る静脈圧測定プログラムは、上記本発明に係る静脈圧測定方法をコンピューターに実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る静脈圧測定装置、静脈圧測定方法および静脈圧測定プログラムでは、被検者の静脈圧が推定できないとき、脈波情報に基づいて、被検者の静脈圧の値域が算出される。よって、静脈圧の値域を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る静脈圧測定システムの全体構成の一例を表す図である。
【
図2】
図1に示した静脈圧測定装置の構成の一例を表すブロック図である。
【
図3】
図2に示したCPUの機能の一例を表すブロック図である。
【
図4】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報の一例、(B)は、脈波情報の一例を表す図である。
【
図5】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報の他の例、(B)は、脈波情報の他の例を表す図である。
【
図6】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報のその他の例、(B)は、脈波情報のその他の例を表す図である。
【
図7】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報のその他の例、(B)は、脈波情報のその他の例を表す図である。
【
図8】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報のその他の例、(B)は、脈波情報のその他の例を表す図である。
【
図9】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報のその他の例、(B)は、脈波情報のその他の例を表す図である。
【
図10】(A)は、
図1に示した静脈圧測定装置160が取得する圧力情報のその他の例、(B)は、脈波情報のその他の例を表す図である。
【
図11】
図1に示した静脈圧測定装置の処理の一例を表すフローチャートである。
【
図12】
図1に示した静脈圧測定装置の処理の他の例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る静脈圧測定装置について詳細に説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いた。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
<実施形態>
(静脈圧測定システムの構成)
図1は本実施形態に係る静脈圧検査システム100の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
図2は制御部170の概略的なハードウェア構成を示すブロック図である。
【0016】
静脈圧検査システム100は、被検者の静脈圧を一意的に推定、または静脈圧の値域を算出するシステムである。静脈圧は、右心房で測定された圧(右房圧)を反映する指標であり、心臓に戻る血液量および右房の前負荷を反映する。
【0017】
図1に示すように、静脈圧検査システム100は、カフ111、および静脈圧測定装置160を有している。カフ111は、静脈圧測定装置160に接続可能に構成される。静脈圧測定装置160は、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、カフ圧検出部115、ADコンバーター(ADC)116、入力装置120、出力装置130、ネットワークインターフェース140、および制御部150を有している。この静脈圧検査システム100では、オシロメトリック法の原理が利用されている。具体的には、カフ111によって被験者の上腕等に加えられる圧力が被検者の静脈圧と同じであるとき、圧力センサ114で検出される脈波の波形の振幅が最大となることが利用される。
【0018】
カフ111、加圧ポンプ112、排気弁113、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116は、被検者の静脈波を測定するセンシング処理を行う構成の一例であり、センサを構成する。
【0019】
カフ111は、被検者の上腕に巻回される空気袋である。加圧ポンプ112は、制御部150の指示に応じて、カフ111に空気を送り込み、空気袋内の圧力(以下、「カフ内圧」という)を増加させる。これにより、カフ111による被検者の上腕への圧迫圧力(以下、「カフ圧」という)を増加させうる。排気弁113は、空気袋内の空気を大気に開放することにより、カフ111から徐々に空気を排気し、カフ内圧を減少させる。これにより、カフ圧が減少し得る。
【0020】
圧力センサ114はカフ内圧を検出する。カフ内圧には、カフ圧が増加および減少される過程における被検者の脈波(以下、「カフ脈波」という)が重畳する。カフ脈波は、被検者の静脈波および動脈波が重畳した波形であり得る。カフ圧検出部115は、検出されたカフ内圧からカフ内圧に重畳したカフ脈波を抽出し、カフ内圧および抽出したカフ脈波をそれぞれアナログ信号としてADC116に出力する。ADC116は、カフ内圧およびカフ脈波のアナログ信号をディジタル信号に変換して制御部150へ送信する。なお、圧力センサ114、カフ圧検出部115、およびADC116がカフ111と一体化された構造であってもよい。また、圧力センサ114およびカフ圧検出部115がカフ111と一体化され、ADC116が静脈圧測定装置160内にある構成であってもよい。
【0021】
入力装置120は、静脈圧測定装置160を操作するユーザの入力操作を受け付け、当該入力操作に対応する入力信号を生成する。入力装置120は、例えば、出力装置130のディスプレイ131上に重ねて配置されたタッチパネル、静脈圧測定装置160の筐体に取り付けられた操作ボタン、マウス、またはキーボード等を含む。入力装置120によって生成された入力信号は、制御部150に送信される。制御部150は、入力信号に応じて所定の処理を実行する。
【0022】
出力装置130は、被検者の静脈圧の推定結果または静脈圧の値域の算出結果を出力する。出力装置130は、ディスプレイ131およびスピーカ132を含む。ディスプレイ131は、静脈圧測定装置160の筐体に取り付けられた液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等であり得る。ディスプレイ131は、ユーザの頭部に装着される透過型、または非透過型のヘッドマウントディスプレイ等の表示装置であってもよい。
【0023】
スピーカ132は、静脈圧測定装置160の筐体に取り付けられ、静脈圧の推定結果または静脈圧の値域の算出結果を音声で出力し得る。
【0024】
なお、出力装置130は、ディスプレイ131およびスピーカ132に限らず、例えば、静脈圧の推定結果または静脈圧の値域の算出結果を印刷して出力するためのプリンタであってもよい。
【0025】
ネットワークインターフェース140は、制御部150を通信ネットワークに接続するように構成されている。具体的には、ネットワークインターフェース140は、通信ネットワークを介して外部装置と通信するための各種インターフェース用の処理回路を含んでおり、通信ネットワークを介して通信するための通信規格に適合するように構成されている。通信ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等である。ネットワークインターフェース140は、ブルートゥース(Bluetooth、登録商標)およびNFC(Near Field Communication)等の無線通信インターフェースであってもよい。
【0026】
制御部150は、被検者の静脈圧を推定、あるいは被検者の静脈圧の値域を算出する。制御部150は、静脈圧測定装置160の主たる制御を司るソフトウェアおよびハードウェアであってもよく、制御部150が独立した装置であってもよい。例えば制御部150は、静脈圧の検査を行う専用の医療装置であってもよいし、静脈圧の検査を行うためのプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であってもよい。さらに、制御部150は、被検者の身体(例えば、上腕等)に装着されるウェアラブルデバイス等であってもよい。
【0027】
制御部150の機能の詳細については後述する。
【0028】
図2に示すように、制御部150は、CPU(Central Processing Unit)151、メモリ152、補助記憶部153、および入出力インターフェース154を有している。
【0029】
メモリ152は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含んでいてもよい。ROMには、各種プログラムや各種パラメータ等が記憶されている。また、RAMは、CPU151により実行される各種プログラム等が格納されるワークエリアを備える。CPU151は、ROMや補助記憶部153に記憶されている各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMと協働することにより各種処理を実行するように構成されている。
【0030】
補助記憶部153は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはUSBフラッシュメモリ等の記憶装置(ストレージ)を含んでいてもよい。補助記憶部153は、各種プログラムや各種データを格納する。また、補助記憶部153は、静脈圧の推定結果または静脈圧の値域の算出結果を保存する。
【0031】
入出力インターフェース154は、CPU151と、入力装置120および出力装置130とのインターフェースとして機能する。入出力インターフェース154は、マウスやキーボード等の入力デバイスとの通信を行う各種の通信モジュールや、ディスプレイ131およびスピーカ132を駆動する駆動モジュール等を有している。
【0032】
CPU151がプログラムを実行することにより、制御部150は、静脈圧検査システム100の各部を制御し、様々な機能を実現する。
【0033】
図3は、制御部150の機能を示すブロック図である。制御部150は、たとえば、取得部511、第1判断部512、推定部513、第2判断部514、算出部515および出力部516として機能する。ここでは、第1判断部512、推定部513、第2判断部514および算出部515が、本願発明の「処理部」の一具体例に対応する。
【0034】
取得部511は、被検者のカフ脈波に関する脈波情報を取得する。脈波情報は、たとえば、カフ圧検出部115からADC116を介して取得されるカフ脈波の波形である。取得部511は、さらに、カフ圧に関する圧力情報を取得する。圧力情報は、たとえば、各時間におけるカフ圧の値である。
【0035】
第1判断部512は、取得部511により取得された脈波情報から被検者の静脈圧を推定できるかを判断する。たとえば、第1判断部512は、脈波情報に被検者の静脈波と推定し得る候補成分(たとえば、後述の
図4(B)の候補成分C)が含まれていないと判断したときに、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。脈波情報に候補成分が含まれているか否かは、たとえば、カフ脈波の波形の振幅の変化に基づいて判断される。
【0036】
図4(A)は、取得部511により取得される圧力情報の一例を表し、
図4(B)は、
図4(A)に示した圧力情報に対応する脈波情報を表している。具体的には、
図4(A)はカフ圧の値の時間変化、
図4(B)は、
図4(A)のカフ圧に対応するカフ脈波の波形を各々表している。
【0037】
ここで、静脈圧検査システム100が被検者の静脈圧を一意に推定する方法について説明する。
【0038】
カフ圧が段階的(ステップ状)に降下していくと、それに伴ってカフ圧に重畳する動脈の脈波成分が減少していくとともに、静脈の脈波成分が徐々に増加していく。さらにカフ圧が降下すると静脈の脈波成分がさらに増加していく。そして、カフ圧と、患者の上腕の静脈の血管壁にかかる血液の圧力とが等しくなった時、カフ脈波の波形の振幅が最大となる。したがって、静脈圧検査システム100は、カフ脈波の波形の振幅が所定の変化をした時点、例えば、カフ脈波の波形の振幅が最大となった時点におけるカフ圧(たとえば、
図4(A)のPv)を被検者の静脈圧であると推定する。
【0039】
図4(A)および
図4(B)に示した例では、カフ圧が、被検者の動脈血圧拡張期圧から徐々に減圧されていくのに連れて(
図4(A))、カフ脈波の波形の振幅は徐々に減少した後に再び徐々に大きくなり、期間T
Vで最大となった後、徐々に小さくなる(
図4(B))。即ち、期間T
Vの前後で振幅変化の傾向が切り替わっている。このとき、たとえば、第1判断部512は、脈波情報に被検者の静脈波と推定し得る期間T
Vの候補成分Cが含まれており、かつ、外乱の影響を受けたノイズ成分が含まれていないので、被検者の静脈圧を一意に推定できると判断する。
【0040】
図5(A)は、取得部511により取得される圧力情報の他の例を表し、
図5(B)は、
図5(A)に示した圧力情報に対応する脈波情報を表している。このとき、カフ圧が、被検者の動脈血圧拡張期圧から徐々に減圧されていくのに連れて(
図5(A))、カフ脈波の波形の振幅は小さくなり続ける。即ち、このカフ脈波の波形では、振幅変化の傾向が切り替わっていない。このとき、たとえば、第1判断部512は、脈波情報に被検者の静脈波と推定し得る候補成分が含まれておらず、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。
【0041】
第1判断部512は、脈波情報に外乱の影響を受けたノイズ成分が所定条件で含まれているとき、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。ノイズ成分が含まれていると、ノイズ成分と被検者の脈波に由来する成分とが重なり、被検者の脈波に関する正確な情報を取得することができないためである。脈波情報にノイズ成分が含まれていても、静脈圧測定における影響が小さいときには、第1判断部512が被検者の静脈圧を推定できると判断してもよい。第1判断部512は、たとえば、脈波情報に所定の大きさ以上、所定の数以上または所定の期間以上のノイズ成分が含まれるとき、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。第1判断部512は、脈波情報に含まれるノイズ成分の位置(たとえば、当該ノイズ成分が出現するカフ圧)、期間の長さ、数および大きさ等に応じて、被検者の静脈圧を推定できると判断してもよい。
【0042】
第1判断部512は、たとえば、周波数解析を行うことにより、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるか否かを判断する。あるいは、第1判断部512は、カフ脈波の波形の振幅の変化割合または大きさ等に基づいて、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるか否かを判断してもよい。たとえば、第1判断部512は、直前の拍の波形と比較した急激な振幅変化を有するときに、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれていると判断してもよく、所定の振幅の大きさ以上の振幅が含まれるとき、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれていると判断してもよい。第1判断部512は、外部のセンサから取得した情報に基づいて、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるか否かを判断してもよい。たとえば、外部のセンサには加速度センサ等を用いることができる。第1判断部512は、機械学習モデルを用いて、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるか否かを判断してもよい。
【0043】
【0044】
取得部511が、
図6(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、第1判断部512は、たとえば、脈波情報に候補成分Cとともに、ノイズ成分N1,N2が含まれているため、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。
【0045】
取得部511が、
図7(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、第1判断部512は、脈波情報に期間Tnのノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧が推定できないと判断する。
【0046】
取得部511が、
図8(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、第1判断部512は、たとえば、脈波情報にノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。
【0047】
取得部511が、
図9(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、第1判断部512は、たとえば、脈波情報にノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。
【0048】
取得部511が、
図10(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、第1判断部512は、たとえば、脈波情報に候補成分Cとともに、ノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。
【0049】
推定部513は、第1判断部512により被検者の静脈圧を推定できると判断されたとき、取得部511により取得された脈波情報に基づいて被検者の静脈圧を推定する。具体的には、カフ脈波の波形の振幅が最大となるときのカフ圧を被検者の静脈圧と推定する。
【0050】
たとえば、取得部511により
図4(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報が取得されたとき、推定部513は、期間Tvのカフ圧Pvを、被検者の静脈圧と推定する。
【0051】
第2判断部514は、第1判断部512により被検者の静脈圧を推定できないと判断されたとき、取得部511により取得された脈波情報に基づいて被検者の静脈圧の値域を算出できるかを判断する。第2判断部514は、たとえば、脈波情報に含まれるノイズ成分の位置(たとえば、当該ノイズ成分が出現するカフ圧)、期間の長さ、数および大きさの少なくとも一つに応じて、被検者の静脈圧の値域を算出できるかを判断する。たとえば、ノイズ成分の数または大きさ等が所定の値を超えるとき、第2判断部514は、静脈圧の値域を算出できないと判断し、ノイズ成分の数または大きさ等が所定の値以下であるとき、静脈圧の値域を算出できると判断する。第2判断部514は、ノイズ成分の位置、期間の長さ、数または大きさ以外の要件に基づいて判断を行ってもよく、ノイズ成分以外の成分に基づいて判断を行ってもよい。
【0052】
算出部515は、第1判断部512により被検者の静脈圧を推定できないと判断され、かつ、第2判断部514により被検者の静脈圧の値域を算出できると判断されたとき、取得部511により取得された脈波情報に基づいて被検者の静脈圧の値域を算出する。算出部515は、第1判断部512により被検者の静脈圧を推定できないと判断され、かつ、第2判断部514により被検者の静脈圧の値域を算出できないと判断されたとき、被検者の静脈圧の値域を算出しない。
【0053】
たとえば、取得部511が、
図5(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、上記のように、第1判断部512は、脈波情報に候補成分が含まれておらず、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。一方、第2判断部514は、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれていないので、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断する。このとき、算出部515は、たとえば、測定されたカフ圧の範囲外を、被検者の静脈圧の値域として算出する。具体的には、
図5(A)(B)では、カフ圧が、動脈血圧拡張期圧から3mmHgまで減少しており、算出部515は、被検者の静脈圧の値域は3mmHg以下であると算出する。
【0054】
たとえば、取得部511が、
図6(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、上記のように、第1判断部512は、脈波情報に候補成分Cとともに、ノイズ成分N1,N2が含まれているため、被検者の静脈圧を推定できないと判断する。候補成分Cはカフ圧がP1のときに検出され、ノイズ成分N1,N2はカフ圧がP1よりも小さいときに検出されている。一方、第2判断部514は、ノイズ成分N1,N2の位置、期間の長さ、数および大きさ等に基づいて、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断する。このとき、算出部515は、たとえば、候補成分Cおよびノイズ成分N1,N2を含む範囲の脈波情報および圧力情報を用いて、被検者の静脈圧の値域を算出する。具体的には、算出部515は、被検者の静脈圧の値域はP1以下であると算出する。
【0055】
取得部511が、
図7(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、上記のように、第1判断部512は、脈波情報に期間Tnのノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧が推定できないと判断する。ノイズ成分Nはカフ圧がP3のときに検出されている。一方、第2判断部514は、ノイズ成分Nの位置、期間の長さ、数および大きさ等に基づいて、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断する。
図7(B)では、期間Tnの直前の波形の振幅に比べて、期間Tnの直後の波形の振幅が大きくなっている。このとき、算出部515は、たとえば、この期間Tnの前後の振幅の変化に基づいて、期間Tnのカフ脈波の波形は、ノイズ成分Nとともに候補成分Cを含んでいると推測し、被検者の静脈圧の値域を算出する。具体的には、算出部515は、被検者の静脈圧の値域はP3以上であると算出する。あるいは、算出部515は、期間Tnの直前のカフ圧P2を用いて、被検者の静脈圧の値域はP3以上P2以下であると算出してもよい。
【0056】
取得部511が、
図8(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、上記のように、第1判断部512は、脈波情報にノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧が推定できないと判断する。一方、第2判断部514は、ノイズ成分Nの位置、期間の長さ、数および大きさ等に基づいて、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断する。このとき、算出部515は、たとえば、測定されたカフ圧の範囲外を、被検者の静脈圧の値域として算出する。
【0057】
取得部511が、
図9(A)(B)および
図10(A)(B)に示した圧力情報および脈波情報を取得したとき、上記のように、第1判断部512は、脈波情報にノイズ成分Nが含まれているため、被検者の静脈圧が推定できないと判断する。また、第2判断部514は、ノイズ成分Nの位置、期間の長さ、数および大きさ等に基づいて、被検者の静脈圧の値域を算出できないと判断する(
図9(A)(B))。
図10(A)(B)では、脈波情報にノイズ成分Nとともに候補成分Cを含んでいるが、波形が安定していないので、第2判断部514は、被検者の静脈圧の値域を算出できないと判断する。
【0058】
出力部516は、たとえば、推定部513による推定結果に関する情報、算出部515による算出結果に関する情報および被検者の静脈圧の推定およびその値域の算出ができない旨のエラー結果に関する情報のいずれかを、出力装置60に送出すること等によって出力する。出力装置60には、たとえば、推定部513により推定された被検者の静脈圧、または、算出部515により算出された被検者の静脈圧の値域が表示される。出力装置60には、所定の値に対する被検者の静脈圧等の高低等が表示されてもよい。所定の値よりも、推定された被検者の静脈圧等が高い場合または低い場合にアラーム表示、あるいは、アラーム音が出力されてもよい。出力装置60には、被検者の静脈圧の推定およびその値域の算出ができない旨のエラー結果の表示がなされてもよく、たとえば、エラー表示、あるいは、エラー音が出力されてもよい。
【0059】
(静脈圧測定装置の処理(測定)方法)
図11は、静脈圧測定装置160による処理、換言すれば、静脈圧測定装置160による静脈圧測定方法の一例を表すフローチャートである。
【0060】
まず、静脈圧測定装置160は、脈波情報および圧力情報を取得する(ステップS101)。脈波情報は、たとえば、以下のようにして取得される。
【0061】
まず、カフ111を被検者の上腕に装着させ、加圧ポンプ112によりカフ圧を上昇させる。次いで、排気弁113を用いて、カフ圧を被検者の拡張期血圧以下の圧力(たとえば、40mmHg~50mmHg程度)まで降下させた後、一定時間毎に所定の減圧幅(例えば、5mmHg)で段階的に降下させる。このとき、カフ圧検出部115で検出されるカフ脈波に関する情報が、脈波情報として、静脈圧測定装置160に取得される。
【0062】
静脈圧測定装置160は、圧力情報および脈波情報を取得した後、被検者の静脈圧を推定できるかどうかを判断する(ステップS102)。具体的には、脈波情報におけるノイズ成分(たとえば、
図6(B)のノイズ成分N1,N2)および候補成分(たとえば、
図6(B)の候補成分C)の有無に基づいて判断する。
【0063】
静脈圧測定装置160は、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれておらず、かつ、候補成分が含まれているとき、被検者の静脈圧を推定できると判断する(ステップS102:YES)。このとき、静脈圧測定装置160は、被検者の静脈圧を推定し(ステップS103)、推定結果に関する情報を出力して(ステップS104)処理を終了する。なお、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれているか否かは、たとえば、ノイズ成分の大きさが閾値を超えているか、ノイズ成分の期間が所定秒数を超えているか、あるいは、所定時間内でのノイズ成分の検出回数が多いか等を判断することにより、脈波情報においてノイズ成分の影響が大きいか否かを判断する。
【0064】
一方、静脈圧測定装置160が脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれる、または、脈波情報に候補成分が含まれていないとき、被検者の静脈圧を推定できないと判断する(ステップS102:NO)。このとき、静脈圧測定装置160は、被検者の静脈圧の値域を算出可能かどうか判断する(ステップS105)。静脈圧測定装置160は、たとえば、ノイズ成分の位置、期間の長さ、数および大きさ等に基づいて判断する。
【0065】
静脈圧測定装置160は、たとえば、脈波情報に所定条件のノイズ成分および候補成分が含まれていないとき(たとえば、
図5(A)(B))、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断する(ステップS105:YES)。静脈圧測定装置160は、たとえば、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるとともに、前記候補成分が含まれていないとき(たとえば、
図8(A)(B))、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断してもよい。また、静脈圧測定装置160は、脈波情報に所定条件のノイズ成分および候補成分が含まれるとき(たとえば、
図5(A)(B))、被検者の静脈圧の値域を算出できると判断してもよい。脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれているか否かは、ステップS102と同様に、脈波情報においてノイズ成分の影響が大きいか否かを判断する。
【0066】
ステップS105において、静脈圧の値域を算出可能であると判断したとき、静脈圧測定装置160は、静脈圧の値域を算出し(ステップS106)、算出結果に関する情報を出力して(ステップS107)処理を終了する。
【0067】
一方、ステップS105において、静脈圧の値域を算出できないと判断したとき(ステップS105:NO)、静脈圧測定装置160は、エラー結果に関する情報を出力して(ステップS108)処理を終了する。静脈圧測定装置160は、たとえば、脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれるとともに、前記候補成分が含まれていないとき(たとえば、
図9(A)(B))、被検者の静脈圧の値域を算出できないと判断してもよい。脈波情報に所定条件のノイズ成分が含まれているか否かは、ステップS102と同様に、脈波情報においてノイズ成分の影響が大きいか否かを判断する。また、静脈圧測定装置160は、脈波情報に所定条件のノイズ成分および候補成分が含まれていても、波形が安定していないとき(たとえば、
図10(A)(B))、被検者の静脈圧の値域を算出できないと判断してもよい。
【0068】
なお、
図11に示した静脈圧測定方法の各ステップは、順序が異なっていてもよく、複数のステップが同時になされてもよい。たとえば、ステップS102およびステップS105が同時になされてもよい。また、ノイズの大きさ等を考慮し、まずエラー結果を出力すべきであるか否かを最初に判断することも可能である。
【0069】
図12は、静脈圧測定装置160による静脈圧測定方法の他の例を表すフローチャートである。このとき、静脈圧測定装置160は、たとえば、第1判断部512および第2判断部514に代えて、出力する形態を判断する第3判断部を有している。
【0070】
静脈圧測定装置160は、まず、上記
図11のステップS101で説明したのと同様にして、脈波情報および圧力情報を取得した後(ステップS201)、出力する形態を判断する(ステップS202)。具体的には、静脈圧測定装置160は、ステップS202において、ステップS201で取得した脈波情報のノイズ成分および候補成分を解析することにより、一意の値である推定結果、静脈圧の値域の算出結果、またはエラー結果のいずれを出力するのかを判断する。静脈圧測定装置160は、たとえば、上記
図11のステップS102およびS105で説明したのと同様にして、出力する形態を判断する。
【0071】
ステップS202において推定結果を出力すると判断したとき(ステップS202:推定結果)、静脈圧測定装置160は、ステップ201で取得した脈波情報および圧力情報に基づいて、静脈圧の一意の値を推定する(ステップS203)。この後、静脈圧測定装置160は、推定結果に関する情報を出力して(ステップS204)処理を終了する。
【0072】
一方、ステップS202において算出結果を出力すると判断したとき(ステップS202:算出結果)、静脈圧測定装置160は、ステップ201で取得した脈波情報および圧力情報に基づいて、静脈圧の値域を算出する(ステップS205)。この後、静脈圧測定装置160は、推定結果に関する情報を出力して(ステップS206)処理を終了する。
【0073】
また、ステップS202においてエラー結果を出力すると判断したとき(ステップS202:エラー結果)、静脈圧測定装置160は、エラー結果に関する情報を出力して(ステップS207)処理を終了する。
【0074】
(静脈圧測定装置および静脈圧検査システムの作用効果)
本実施形態の静脈圧測定装置160および静脈圧検査システム100では、たとえば、ノイズ等の影響により、被検者の静脈圧が推定できないとき、脈波情報に基づいて、被検者の静脈圧の値域が算出される。これにより、たとえば、臨床上有用な情報が増え、医師の診療等に役立てることが可能となる。以下、この作用効果について説明する。
【0075】
中心静脈圧等の静脈圧に関する情報は、体うっ血の状態を表す指標となり得り、カフ等を用いることにより非侵襲かつ定量的に測定される。しかし、カフ等を用いてうっ血状態の患者の静脈圧を測定すると、静脈の脈波に由来する信号が正確に取得できないおそれがある。これは、うっ血状態の患者の呼吸状態は不安定になりやすく、静脈の脈波に由来する信号が、この呼吸の影響を受けることに起因する。また、心不全患者は不整脈を併発している可能性が高いが、カフ等を用いた方法では、心不全患者に不整脈が生じた場合にも、静脈の脈波に由来する信号を正確に取得できないおそれがある。さらに、呼吸が苦しいなどの状態にある患者にとっては、一定期間身体を静止状態に維持することが困難であり、体動に起因するノイズが生じやすい。
【0076】
静脈圧測定装置160および静脈圧測定システム10では、このように、被検者の呼吸および不整脈等に起因してノイズ等が生じた場合にも、静脈圧の値域が算出される。たとえば、静脈圧測定装置160が、脈波情報に基づいて被検者の静脈圧を10mmHg以上または、10mmHg以下と算出し、この静脈圧の値域に関する情報が出力されると、医師等は、被検者のうっ血状態の診断に有効に利用することができる。
【0077】
また、静脈圧測定装置160および静脈圧測定システム10では、静脈圧の値域が算出できるかどうかについての判断がなされるので、静脈圧の値域の信頼性を維持することができる。
【0078】
以上のように、本実施形態の静脈圧測定装置160および静脈圧測定システム10では、被検者の静脈圧が推定できないとき、脈波情報に基づいて、被検者の静脈圧の値域が算出される。よって、静脈圧の値域を算出することが可能となる。
【0079】
また、静脈圧測定システム10では、カフ111を用いて被検者の脈波に関する脈波情報を取得するので、非侵襲的に被検者の静脈圧を測定することが可能となる。
【0080】
以上のとおり、実施形態において、本発明の静脈圧測定装置、静脈圧測定方法、および静脈圧測定プログラムを説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略できることはいうまでもない。
【0081】
たとえば、上記実施形態においては、カフ圧を減圧させて脈波を測定しているが、加圧させて脈波を測定してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、カフ111を用いて脈波情報を取得する例を説明したが、他のセンサを用いて脈波情報を取得してもよい。たとえば、光電容積脈波センサ等を用いて脈波情報を取得してもよい。
【0083】
また、他のシステムで非侵襲的に測定され、通信ネットワーク上に配置されたサーバ(コンピュータ)からネットワークインターフェースを介して取得された脈波情報に基づいて静脈圧を算出してもよい。また、被検者の頸部に光源とフォトデテクターを内蔵するセンサを配置し、当該センサが取得した光学的信号に対してNIRS(近赤外線分光法)を用いた演算を行うことによって静脈圧を推定してもよい。
【0084】
また、脈波の測定の精度を向上させるため、複数のセンサを用いて脈波を測定するようにしてもよい。たとえば、2つのカフ111を用いてもよく、あるいは、カフ111と光電脈波センサ70とを併用するようにしてもよい。また、電極および心電図測定装置をさらに有し、心電図による脈波を加味するように構成してもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、主に、ノイズ成分および候補成分の有無に基づいて、被検者の静脈圧が推定できるかどうかを判断する例について説明したが、被検者の静脈圧が推定できるかどうかは、他の方法を用いて判断してもよい。たとえば、機械学習モデルを用いて、被検者の静脈圧が推定できるかどうかを判断してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、制御部150の機能を、取得部511、第1判断部512、推定部513、第2判断部514、算出部515および出力部516に分けて説明したが、これらの一部または全部が一体化していてもよい。たとえば、第1判断部512、推定部513、第2判断部514および算出部515が一体化してもよく、第1判断部512および第2判断部514が一体化してもよい。
【0087】
また、上述した実施形態に係る静脈圧測定装置160における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、静脈圧測定装置160の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【0088】
また、上記実施形態におけるフローチャートの処理単位は、各処理の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。処理ステップの分類の仕方によって、本願発明が制限されることはない。各処理は、さらに多くの処理ステップに分割することもできる。また、1つの処理ステップが、さらに多くの処理を実行してもよい。
【符号の説明】
【0089】
100 静脈圧検査システム、
111 カフ、
112 加圧ポンプ、
113 排気弁、
114 圧力センサ、
115 カフ圧検出部、
116 ADC、
120 入力装置、
130 出力装置、
131 ディスプレイ、
150 制御部、
160 静脈圧検査装置。