(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】データセンタ用の空調システム及び空調方法
(51)【国際特許分類】
F24F 3/00 20060101AFI20250415BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20250415BHJP
F24F 3/044 20060101ALI20250415BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
F24F3/00 Z
F24F7/06 B
F24F3/044
F24F5/00 K
(21)【出願番号】P 2021128220
(22)【出願日】2021-08-04
【審査請求日】2024-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌弘
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-078056(JP,A)
【文献】特開2019-027770(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157895(WO,A1)
【文献】特開2015-161429(JP,A)
【文献】特開2015-034641(JP,A)
【文献】特開2012-017934(JP,A)
【文献】特開2011-220665(JP,A)
【文献】特表2015-531037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 3/00
F24F 7/06
F24F 3/044
F24F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の
横方向に隣接して配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムであって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられ
ることにより、前記無停電電源装置より高い箇所に位置しており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、
前記情報処理機器室内において前記情報処理機器の熱により上昇し、前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って
前記冷却コイルで冷却され、前記第1の経路から前記電気設備室
内に流入して前記電気設備室内の下部へ下降し、前記電気設備室
内の下部から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を発生させる送風ファンと、を備える、
データセンタ用の空調システム。
【請求項2】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の隣に配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムであって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、
前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って前記電気設備室を経由し、前記電気設備室から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を発生させる送風ファンと、を備え、
前記送風ファンは、前記第1の経路内において前記冷却コイルの上流側に配置されている、
データセンタ用の空調システム。
【請求項3】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の隣に配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムであって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、
前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って前記電気設備室を経由し、前記電気設備室から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を発生させる送風ファンと、を備え、
前記第1の経路は、前記情報処理機器室の上部に配置される吸込口を有し、
前記送風ファンは、前記第1の経路内において前記吸込口と前記冷却コイルとの間に配置されている、
データセンタ用の空調システム。
【請求項4】
前記第1の経路は、前記第2の経路の上方に配置されている、
請求項1
又は2に記載のデータセンタ用の空調システム。
【請求項5】
前記冷却コイルは、前記無停電電源装置の直上以外の箇所に配置されている、
請求項1から4の何れか一項に記載のデータセンタ用の空調システム。
【請求項6】
前記第2の経路は、前記情報処理機器室において前記ラックの側方に配置されており、前記ラックへ向けて開口する冷気の吹出口を有する、
請求項1
から5の何れか一項に記載のデータセンタ用の空調システム。
【請求項7】
前記吹出口は、前記ラックの吸気面が向かい合う一対のラック列の間に形成される通路の端部に向けて開口している、
請求項
6に記載のデータセンタ用の空調システム。
【請求項8】
前記第2の経路は、前記ラックの吸気面が向かい合う一対のラック列の間に形成される通路の長手方向に沿った経路である、
請求項1から
7の何れか一項に記載のデータセンタ用の空調システム。
【請求項9】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の横方向に隣接して配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムの空調方法であって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられることにより、前記無停電電源装置より高い箇所に位置しており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、を有する前記空調システムが、
前記情報処理機器室内において前記情報処理機器の熱により上昇し、前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って前記冷却コイルで冷却され、前記第1の経路から前記電気設備室内に流入して前記電気設備室内の下部へ下降し、前記電気設備室内の下部から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を送風ファンにより発生させる、
データセンタ用の空調方法。
【請求項10】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の隣に配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気
設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムの空調方法であって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、を有する前記空調システムが、
前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って前記電気設備室を経由し、前記電気設備室から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を、前記第1の経路内において前記冷却コイルの上流側に配置されている送風ファンにより発生させる、
データセンタ用の空調方法。
【請求項11】
情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、前記情報処理機器室の隣に配置されており、前記情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムの空調方法であって、
前記情報処理機器室の上部から前記電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、
前記電気設備室の下部から前記情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、
前記第1の経路の途中に設けられており、前記情報処理機器室から前記電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、を有し、
前記第1の経路は、前記情報処理機器室の上部に配置される吸込口を有する前記空調システムが、
前記情報処理機器室から前記第1の経路を通って前記電気設備室を経由し、前記電気設備室から前記第2の経路を通って前記情報処理機器室へ流れる空気の循環流を、前記第1の経路内において前記冷却コイルの上流側に配置されている送風ファンにより発生させる、
データセンタ用の空調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データセンタ用の空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術の発展に伴い、情報処理機器の発熱量は増大の一途を辿っている。これに伴い、情報処理機器を冷却する情報処理機器室の空調システムの処理量も増大しており、情報処理機器を効率的に冷却できる空調技術の開発が行われている(例えば、特許文献1-3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5541518号公報
【文献】特許第6804735号公報
【文献】特開2012-78056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
情報処理機器を多数擁するデータセンタには、外部電源の喪失や瞬時電圧低下に備えた無停電電源装置が用いられる。情報処理機器が定常的に多量の熱を発するのに対し、無停電電源装置は、主にスイッチング素子で交直変換を行うインバータやコンバータの僅かな熱量を発する程度に過ぎない。このため、データセンタに設置される空調システムでは、主に情報処理機器が発する熱の処理に主眼が置かれる傾向にあるが、無停電電源装置の蓄電池には使用温度の条件が定められているため、無停電電源装置の冷却も十分に考慮する必要がある。
【0005】
そこで、空気の温度変化に伴う比重の増減を考慮し、無停電電源装置を情報処理機器よりも低い階に設置することが考えられるが、複数階に跨る内部空間や設備の設計は建物の施工を複雑化し、また、建物の汎用性を低下させる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、情報処理機器と無停電電源装置を効率的に冷却可能なデータセンタ用の空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室を、情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室の隣に配置すると共に、情報処理機器室の上部から電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路とを設け、第1の経路の途中に冷却コイルを設けることにした。
【0008】
詳細には、本発明は、情報処理機器を収容したラックが整列する情報処理機器室と、情報処理機器室の隣に配置されており、情報処理機器へ電力を供給する無停電電源装置が設置される電気設備室と、を有するデータセンタ用の空調システムであって、情報処理機器室の上部から電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路と、第1の経路の途中に設けられており、情報処理機器室から電気設備室へ流れる空気を冷却する冷却コイルと、情報処理機器室から第1の経路を通って電気設備室を経由し、電気設備室から第2の経路を通って情報処理機器室へ流れる空気の循環流を発生させる送風ファンと、を備える。
【0009】
情報処理機器から排気される空気は、機器内の排熱によって温度上昇しているため、比重の関係で上昇しやすい。また、冷却コイルで冷却される空気は、冷却によって温度降下しているため、比重の関係で下降しやすい。また、無停電電源装置が発する熱量は、情報処理機器室で情報処理機器が発する熱量に比べれば、僅かである。そこで、上記の空調システムでは、情報処理機器室の上部から電気設備室の上部へ繋がる第1の経路と、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ繋がる第2の経路とを設け、この経路に沿って送風ファンで空気の循環流を発生させる。また、空気を冷却する冷却コイルを第1の経路の途中に設ける。これにより、空気の温度変化による比重の増減を利用した自然な空気の循環力を生かしつつ、送風ファンによる効率的な空気の循環を行うことが可能となる。したがって、上記の空調システムであれば、情報処理機器と無停電電源装置を効率的に冷却化能である。
【0010】
なお、第1の経路は、第2の経路の上方に配置されていてもよい。これによれば、経路を効率的に配置することが可能である。
【0011】
また、第2の経路は、情報処理機器室においてラックの側方に配置されており、ラックへ向けて開口する冷気の吹出口を有していてもよい。これによれば、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ流れる冷気が、情報処理機器を収容しているラックへ流れるので、情報処理機器を効率的に冷却可能である。
【0012】
また、吹出口は、ラックの吸気面が向かい合う一対のラック列の間に形成される通路の端部に向けて開口していてもよい。これによれば、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ流れる冷気が、ラック列の間の通路に流れるため、各ラックの情報処理機器を効率的に冷却可能である。
【0013】
また、第2の経路は、ラックの吸気面が向かい合う一対のラック列の間に形成される通路の長手方向に沿った経路であってもよい。これによれば、電気設備室の下部から情報処理機器室の下部へ流れる冷気が、ラック列の間の通路に沿って流れるため、各ラックの情報処理機器を効率的に冷却可能である。
【0014】
また、第1の経路は、情報処理機器室の上部に配置される吸込口を有し、送風ファンは、第1の経路内において吸込口と冷却コイルとの間に配置されていてもよい。これによれば、情報処理機器から排気されて上昇する空気を、情報処理機器室の上部で吸込口から送付ファンで取り込むことができるため、情報処理機器内の排熱によって温度上昇した空気を冷却コイルで効率的に冷却することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上記のデータセンタ用の空調システムであれば、情報処理機器と無停電電源装置を効率的に冷却可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係るデータセンタ用の空調システムを示した図である。
【
図3】
図3は、データセンタを上面から見た図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態
の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0018】
図1は、実施形態に係るデータセンタ用の空調システムを示した図である。空調システム1は、サーバールーム2に配置されるサーバーラック4や、電気設備室3に配置される無停電電源装置5を擁するデータセンタ内に設置されるシステムであり、サーバーラック4や無停電電源装置5の冷却を司る。なお、
図1では、サーバーラック4や無停電電源装置5が例示されているが、空調システム1が適用されるデータセンタは、サーバーラック4と無停電電源装置5を擁するものに限定されるものでなく、その他の電気設備を擁するものであってもよい。
【0019】
サーバールーム2には、各種の演算処理やデータベースの管理を行なうサーバや通信機等の情報処理機器が収容されたサーバーラック4が多数並んでいる。各サーバーラック4には、情報処理機器を冷却する冷却ファンが設けられており、ラックの正面あるいは背面の何れかが吸気面となり、他方が排気面となるように構成されている。各サーバーラック4の中の情報処理機器の冷却ファンは、ラック内に収容されている情報処理機器の負荷状態や吸込み温度に応じて時々刻々と変化するように回転数が制御されるものであってもよいし、一定の回転数で動くものであってもよい。情報処理機器が据え付けられていない等の理由により、サーバーラック4内やサーバーラック4間に隙間があるような箇所については、暖気の回り込みを防ぐパネル等で隙間を防ぐことが好ましい。
【0020】
サーバールーム2に配列されるサーバーラック4は、冷気が効率的に供給されるよう、一つのラック列を構成する各サーバーラック4の吸気面と排気面の向きが揃えられている。そして、対峙する2つのラック列が、共に吸気面あるいは排気面で向かい合うように配置される。各サーバーラック4がこのように設置されていることにより、各ラック列の間には、冷気が流れる通路と暖気が流れる通路とが交互に形成されることになる。以下、吸気面が向かい合う一対のラック列に囲まれた、冷気が流れる通路をコールドアイルCといい、排気面が向かい合う一対のラック列によって囲まれた、暖気が流れる通路をホットアイルHという。
【0021】
一つのホットアイルHを挟む2つのラック列の両端間や、ラック列と天井ボード15との間には、ホットアイルHとコールドアイルCとを隔離する仕切板7が設けられている。この仕切板7は、空気の流れを遮蔽する。なお、各サーバーラック4の高さが天井ボード15と同じ高さである場合、ラック列と天井ボード15との間に配置される仕切板7は不要である。天井ボード15のうちホットアイルHの上側の部分は開口しているため、仕切板7によって囲まれたホットアイルH内の暖気は、コールドアイルC側へ回り込むことなく、天井ボード15の上側である天井裏の空間へ流れることになる。
【0022】
なお、一つのコールドアイルCを挟む2つのラック列の両端には、冷気の流速を調整する整流材が設けられていてもよい。整流材としては、網状のネットやパンチング板、金網、布等が適用できる。
【0023】
サーバールーム2の隣には、無停電電源装置5が配置される電気設備室3が配置されている。無停電電源装置5は、外部電源の喪失や瞬時電圧低下が生じてもサーバーラック4へ電力を安定供給する装置であり、例えば、スイッチング素子等で直交変換を行うインバータや、整流器等で交直変換を行うコンバータ、電気を蓄える蓄電池、その他各種の電気部品が組み込まれている。無停電電源装置5は、外部の送電線とサーバーラック4とを繋ぐ電力線の途中に、外部電源側から順にコンバータ、インバータを割り込ませ、コンバータとインバータとの間に蓄電池を並列接続することにより、交流の外部電源を一時的に直流へ変換してから再び交流へ変換し、サーバーラック4に電力を供給する。また、無停電電源装置5は、外部電源の喪失や瞬時電圧低下が生じることにより、コンバータからイン
バータへの電力供給が途絶えても、コンバータとインバータの間に並列接続される蓄電池からインバータへの電力供給を行うことで、サーバーラック4への電力供給を無停電で継続する。よって、無停電電源装置5では、コンバータやインバータの素子が常時作動し続けることに伴う熱や、蓄電池を浮動充電し続けることに伴う僅かな熱を発生し続ける。無停電電源装置5が発する熱量は、サーバーラック4が発する熱量に比べれば僅かであるが、無停電電源装置5の蓄電池には使用温度の条件が定められているため(例えば、25℃以下)、無停電電源装置5が設置されている電気設備室3についても適切に冷却する必要がある。また、無停電電源装置5が発する熱量自体はサーバーラック4に比べて僅かであっても、無停電電源装置5の蓄電池に定められている使用温度の条件は、サーバーラック4に定められている使用温度の条件より厳しい(低い)ことが一般的である。よって、温度条件について比較すると、サーバールーム2よりも電気設備室3の方を低温にする必要があると言える。また、データセンタの建物の設計条件にもよるが、蓄電池が大量に設置される部屋については、防災上の観点から防火ダンパや防火壁で区画することが求められる場合もある。
【0024】
そこで、本実施形態の空調システム1では、以下のような設備構成を採用している。すなわち、空調システム1では、基本的に外気導入を採用しておらず、サーバールーム2と電気設備室3との間で空気を循環させる経路を有している。そして、電気設備室3をサーバールーム2より低温にする必要があり、且つ、電気設備室3に設置されている無停電電源装置5の発熱量がサーバーラック4に比べて僅かであることを考慮し、サーバールーム2から電気設備室3へ繋がる経路(本願でいう「第1の経路」に相当する)に、空気を冷却する冷却コイル11を設置する。また、加熱された空気は膨張による比重の低下で上昇し、冷却された空気は収縮による比重の増加で下降することを考慮し、サーバールーム2から電気設備室3へ繋がる経路をサーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ繋がる形態とし、電気設備室3からサーバールーム2へ繋がる経路(本願でいう「第2の経路」に相当する)を電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ繋がる形態とする。よって、
図1に示されるように、冷却コイル11は、サーバールーム2や電気設備室3が設けられているフロア内において比較的高い位置に配置される形態となっている。
【0025】
冷却コイル11は、冷水が流れるクーリングコイルであり、通過する空気を冷やす。冷却コイル11を流れる冷水は、空調システム1が設置されている建物の適宜の箇所に設置された冷凍機や冷水循環設備によって供給される。よって、サーバーラック4の排気面から排気された高温の空気は、ホットアイルHから天井ボード15の上側の天井裏空間へ上昇し、天井裏空間の側壁を形成する仕切板14に設けられた送風ファン8で冷却コイル11の方へ送り込まれることにより、冷却コイル11で冷却される。そして、冷却コイル11で冷却された空気は、冷却コイル11が設置されている空間と電気設備室3との間を仕切る仕切板6に設けられた防火ダンパ10を通って電気設備室3内へ流れる。電気設備室3内に流れ込んだ冷気は、電気設備室3内を下降して無停電電源装置5等を冷却し、電気設備室3とサーバールーム2との間を仕切る仕切板13に設けられた送風ファン12によって電気設備室3からサーバールーム2へ送り込まれる。サーバールーム2へ送り込まれた冷気は、コールドアイルCから各サーバーラック4の吸気面に吸い込まれ、サーバーラック4で再び高温になる。
【0026】
図2は、空気の循環流を解説した図である。
図2では、空調システム1で発生する空気の循環を理解しやすいように、データセンタを側方から見た図を示している。
図2を見ると判るように、電気設備室3は、サーバールーム2を挟んで概ね左右対称に配置されている。そして、
図2に示されるように、冷却コイル11は、サーバールーム2や電気設備室3が設けられているフロア内において比較的高い位置に配置される形態となっている。このため、サーバーラック4の排気面から排気された高温の空気は、ホットアイルHから天井ボード15の上側の天井裏空間へ上昇し、天井裏空間の側壁を形成する仕切板14に設
けられた送風ファン8で冷却コイル11へ送り込まれることにより、冷却される。そして、冷却コイル11で冷却された空気は、冷却コイル11が設置されている空間と電気設備室3との間を仕切る仕切板6に設けられた防火ダンパ10を通って電気設備室3内へ流れる。電気設備室3内に流れ込んだ冷気は、電気設備室3内を下降して無停電電源装置5等を冷却し、電気設備室3とサーバールーム2との間を仕切る仕切板13に設けられた送風ファン12によって電気設備室3からサーバールーム2へ送り込まれる。サーバールーム2へ送り込まれた冷気は、コールドアイルCから各サーバーラック4の吸気面に吸い込まれ、サーバーラック4で再び高温になる。無停電電源装置5が発する熱量は、サーバーラック4に比べれば僅かであるため、サーバーラック4の冷却を主眼に設計された空調システム1においては、冷却コイル11で冷却された空気が電気設備室3を通過する際の温度上昇は僅かであり、電気設備室3からサーバールーム2へ送り込まれた空気はサーバーラック4を十分に冷却することができる。
【0027】
本実施形態の空調システム1では、このような空気の循環経路を形成するので、空気の温度変化による比重の増減を利用した自然な空気の循環力を生かしつつ、送風ファン8と送風ファン12による効率的な空気の循環を行うことができる。このため、送風ファン8と送風ファン12に必要な動力を低減可能であり、送風に必要な消費電力やファンの台数を抑制することができる。また、本実施形態の空調システム1では、空気の循環経路が複数階に跨らないため、建物の施工を複雑化させたり、建物の汎用性を低下させたりする可能性が極めて低い。このため、例えば、空調システム1を設置するデータセンタの建物を、オフィスや物流倉庫といった各種目的に転用することも可能である。
【0028】
図3は、データセンタを上面から見た図の一例である。本実施形態の空調システム1では、このような空気の循環流が形成されるので、データセンタを上面から見た場合の各機器のレイアウトとしては、例えば、
図3に示すように、サーバールーム2の両側沿いに電気設備室3を延在させるような形態を採ることができる。通常、無停電電源装置5を設置するために必要なスペースは、サーバーラック4を設置するために必要なスペースよりも小さい。このため、無停電電源装置5をサーバーラック4よりも下層の階に設置するような形態を採ると、無停電電源装置5を設置するスペースとしては過大となり、有効活用されない無駄なスペースが不可避的に生じる可能性がある。この点、本実施形態のように、サーバールーム2の隣や両側に電気設備室3を配置する形態であれば、電気設備室3を無停電電源装置5の設置に必要な最小限の大きさにすることができるため、建物内のスペースを有効活用可能である。なお、本実施形態の空調システム1は、
図3に示すようなレイアウトへの適用に限定されるものでなく、例えば、電気設備室3をサーバールーム2の片側のみに配置した形態や、サーバールーム2や電気設備室3が非矩形の形態であってもよい。
【0029】
また、上記実施形態の空調システム1では、送風ファン8と送風ファン12が備わっていたが、送風ファン8と送風ファン12のうち何れか一方は省略されていてもよい。また、送風ファン8や送風ファン12は、上述した位置に設ける形態に限定されるものではない。例えば、送風ファン8は、仕切板14ではなく仕切板6に設けられていてもよい。この場合、防火ダンパ10は、送風ファン8と一体的に設けるか、仕切板14に設けるか、或いは、省略されることになる。
【0030】
また、上記実施形態の空調システム1では、サーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路は、電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ通じる経路の上方に配置されていたが、電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ通じる経路の直上に配置する形態に限定されるものではない。サーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路は、電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ通じる経路の上方ではない位置に設けられていてもよい。
【0031】
また、上記実施形態の空調システム1では、無停電電源装置5が電気設備室3の壁から離れた位置に配置されていたが、無停電電源装置5は、例えば、電気設備室3においてサーバールーム2から遠位側の壁面に沿って配置されていてもよい。無停電電源装置5がこのような位置に配置されていれば、冷却コイル11を通過した冷気の流れが電気設備室3内で無停電電源装置5に妨げられにくいため、空調システム1全体で空気をスムーズに循環させることが可能である。
【0032】
また、上記実施形態の空調システム1は、冷却コイル11を様々な形態で設置可能である。
図4は、変形例を示した第1の図である。また、
図5は、変形例を示した第2の図である。
【0033】
上記実施形態では、冷却コイル11が水平方向に対して垂直に設置されていたが、冷却コイル11は、例えば、
図4(A1)や
図4(A2)に示すように、水平方向に対して斜めに設置してもよい。サーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路は、その下側に電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ通じる経路を確保する都合上、高さを十分に確保することが容易でない。よって、冷却コイル11を垂直に設置すると、冷却コイル11の有効面積を十分に確保することが難しい場合がある。しかし、冷却コイル11を、
図4(A1)や
図4(A2)に示すように斜めに設置すれば、冷却コイル11の有効面積をより大きくすることが可能である。
【0034】
また、上記実施形態では、冷却コイル11が経路の上側から下側まで一体品になっていたが、冷却コイル11は、例えば、
図4(B1)や
図4(B2)に示すように、経路の上側と下側で2分割される形態であってもよい。このような形態であれば、冷却コイル11を斜めに設置しても、経路の方向沿いの長さを小さくすることができるため、例えば、送風ファン8と防火ダンパ10との間が狭い場合であっても、冷却コイル11の有効面積をより大きくすることが可能である。
【0035】
また、上記実施形態の空調システム1は、冷却コイル11を設置する空間の高さを、冷却コイル11の大きさに応じて適宜変更可能である。例えば、冷却コイル11が比較的大型である場合には、
図4(C1)に示すように、大型の冷却コイル11が収まる高さをサーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路に確保する。また、例えば、冷却コイル11が比較的小型である場合には、
図4(C2)に示すように、サーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路の高さを、冷却コイル11が収まる最小限の高さにすることで、電気設備室3の下部からサーバールーム2の下部へ通じる経路の高さを比較的大きくすることが可能となる。
【0036】
また、上記実施形態の空調システム1は、冷却コイル11を電気設備室3における上部のうち、サーバールーム2から遠位側へ配置してもよい。例えば、
図5(A)~(C)に示されるように、冷却コイル11が、電気設備室3における上部のうち、サーバールーム2から遠位側へ配置されていれば、各フロアの冷却コイル11に通水する冷水の竪管を建物の外壁といった電気設備室3の外側部分に配置することにより、当該竪管と冷却コイル11とを繋ぐ分岐管及び冷却コイル11を無停電電源装置5の直上に配置しないようにすることが可能である。また、当該分岐管の長さや、無停電電源装置5とサーバーラック4とを繋ぐ電線の長さを、
図2,4等に示した形態の場合に比べて短くすることが可能であるため、配管や電線を施工する際の工数やコストを低減可能である。
【0037】
また、上記実施形態や変形例では、建物に冷却コイル11や仕切板6等を設置する現場工事中心の形態を採っていたが、空調システム1は、例えば、サーバールーム2の上部から電気設備室3の上部へ通じる経路を形成するための吸排気口と、電気設備室3の下部か
らサーバールーム2の下部へ通じる経路を形成するための吸排気口を有しており、送風ファン8、送風ファン12、冷却コイル11等を内蔵した一体型の空調機を用いたものであってもよい。このような空調機であれば、建物内に据え付けて仕切板を設けるだけでよいため、現場工事を容易にすることができる。
【0038】
その他、空調システム1は、本願発明の要旨を変更しない範囲で適宜変形可能である。
【符号の説明】
【0039】
C・・コールドアイル
H・・ホットアイル
1・・空調システム
2・・サーバールーム
3・・電気設備室
4・・サーバーラック
5・・無停電電源装置
6,7,13,14・・仕切板
7・・仕切板
8,12・・送風ファン
9・・仕切板
10・・防火ダンパ
11・・冷却コイル
15・・天井ボード