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特許7667026パルスオキシメータ、パルスオキシメトリシステム、処理装置、およびパルスオキシメトリ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】パルスオキシメータ、パルスオキシメトリシステム、処理装置、およびパルスオキシメトリ方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20250415BHJP
【FI】
A61B5/1455
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021130670
(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023025429
(43)【公開日】2023-02-22
【審査請求日】2024-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 英昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 喜晴
【審査官】村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/137151(WO,A1)
【文献】特開2005-278758(JP,A)
【文献】特開2018-161512(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0310098(US,A1)
【文献】中国実用新案第210446999(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光装置と、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光装置と、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定する処理装置と、
前記毛細血管再充満時間を示す情報を出力する出力装置と、
を備えている、
パルスオキシメータ。
【請求項2】
前記時間が閾値を上回る場合、前記被検者の循環動態が変化した可能性を示唆する報知を行なう報知装置を備えている、
請求項1に記載のパルスオキシメータ。
【請求項3】
前記組織の温度を検出する温度検出装置と、
前記温度が閾値を下回る場合、前記毛細血管再充満時間の信頼性が低い可能性を示唆する報知装置と、
を備えている、
請求項1または2に記載のパルスオキシメータ。
【請求項4】
前記組織の温度を検出する温度検出装置と、
前記温度が閾値を下回り、かつ前記毛細血管再充満時間が閾値を上回る場合、前記被検者が低体温症である可能性を示唆する報知を行なう報知装置と、
を備えている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のパルスオキシメータ。
【請求項5】
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光装置と、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光装置と、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて推定された前記組織の毛細血管再充満時間を示す情報を出力するパルスオキシメータと、
を備えている、
パルスオキシメトリシステム。
【請求項6】
発光部から出射されて被検者の組織と相互作用した後の第一波長を含む第一の光の強度と当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受け付けるインターフェースと、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定するプロセッサと、
を備えている、
処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の処理装置と、
前記毛細血管再充満時間を示す情報を出力する出力装置と、
を備えている、パルスオキシメータ。
【請求項8】
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を発光部に出射させ、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受光部から受け付け、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、
前記第一信号と前記第二信号に基づいて、前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、
前記組織の圧迫に伴い変化した前記脈動率と前記経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定する、
パルスオキシメトリ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細血管再充満時間(capillary refill time;CRT)を推定可能なパルスオキシメータおよびパルスオキシメトリ方法に関連する。本発明は、当該パルスオキシメータとともに使用されうる処理装置およびパルスオキシメトリシステムにも関連する。
【背景技術】
【0002】
CRTの測定は、輸液の要否やトリアージ(識別救急)における優先度などを判断するために、救急医療の分野において用いられる。具体的には、医療従事者が被検者の指先などの生体組織を圧迫し、当該圧迫を解除した後の皮膚の色の変化を目視で確認する。2秒以内に元の色に戻れば、正常な状態と判断される。しかしながら、手で生体組織の圧迫を行ない、目視で皮膚色の変化を確認する手法では定量性に欠け、測定者による誤差も生じやすい。
【0003】
そこでパルスオキシメータをCRTの推定に用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。具体的には、血液に吸収される波長の光を指先などの生体組織に入射させ、当該生体組織を透過した光の強度を測定する。圧迫により当該箇所の生体組織から血液が排除されるため、透過光の強度は増大する。圧迫を解除すると当該箇所の生体組織に血液が再充填されるため、透過光の強度は減少する。圧迫を解除してから透過光強度が元のレベルに戻るまでの時間に基づいて、CRTが推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、毛細血管再充満時間を推定可能なパルスオキシメータの利便性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために提供されうる第一の態様は、パルスオキシメータであって、
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光装置と、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光装置と、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定する処理装置と、
前記毛細血管再充満時間を示す情報を出力する出力装置と、
を備えている。
【0007】
上記の目的を達成するために提供されうる第二の態様は、パルスオキシメトリシステムであって、
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を出射する発光装置と、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を出力する受光装置と、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて推定された前記組織の毛細血管再充満時間を示す情報を出力するパルスオキシメータと、
を備えている。
【0008】
上記の目的を達成するために提供されうる第三の態様は、処理装置であって、
発光部から出射されて被検者の組織と相互作用した後の第一波長を含む第一の光の強度と当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受け付けるインターフェースと、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、前記第一信号と前記第二信号に基づいて前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、かつ前記組織の圧迫に伴い変化した当該脈動率と当該経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定するプロセッサと、
を備えている。
【0009】
上記の目的を達成するために提供されうる第四の態様は、パルスオキシメトリ方法であって、
第一波長を含む第一の光、および当該第一波長と異なる第二波長を含む第二の光を発光部に出射させ、
被検者の組織と相互作用した後の前記第一の光の強度と前記第二の光の強度にそれぞれ対応する第一信号と第二信号を受光部から受け付け、
前記第一信号と前記第二信号の少なくとも一方の脈動率を算出し、
前記第一信号と前記第二信号に基づいて、前記被検者の経皮的動脈血酸素飽和度を算出し、
前記組織の圧迫に伴い変化した前記脈動率と前記経皮的動脈血酸素飽和度の少なくとも一方が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、前記組織の毛細血管再充満時間を推定する。
【0010】
上記の各態様に係る構成によれば、パルスオキシメータ本来の機能により取得される被検者の経皮的動脈血酸素飽和度の値、および当該経皮的動脈血酸素飽和の算出に使用される第一信号と第二信号の少なくとも一方の脈動率の値の経時変化をモニタするという簡易な処理で、被検者の毛細血管再充満時間を推定できる。これにより、パルスオキシメータとともに使用される処理装置の演算負荷を大幅に軽減できる。換言すると、要求される演算能力を引き下げることができるので、毛細血管再充満時間を特定可能でありながらも処理装置の小型化や簡略化を実現できる。当該処理装置がパルスオキシメータに搭載される場合においては、パルスオキシメータの大型化や複雑化を抑制できる。したがって、毛細血管再充満時間を推定可能なパルスオキシメータの利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るパルスオキシメータの機能構成を例示している。
図2図1における第一検出信号の強度の経時変化を例示している。
図3図1の処理装置により実行される処理の流れを例示している。
図4】一実施形態に係るパルスオキシメトリシステムの機能構成を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。なお、以降の説明において参照される各図面では、各要素を認識可能な大きさとするために縮尺が適宜に変更されている。
【0013】
図1は、一実施形態に係るパルスオキシメータ10の機能構成を例示している。パルスオキシメータ10は、被検者の動脈血中に含まれる吸光物質の濃度に基づいて当該被検者の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を算出する装置である。
【0014】
パルスオキシメータ10は、発光装置11、受光装置12、処理装置13、および出力装置14を備えている。
【0015】
発光装置11は、第一発光素子111と第二発光素子112を備えている。第一発光素子111は、第一波長λ1を含む第一の光を出射するように構成されている。第二発光素子112は、第二波長λ2を含む第二の光を出射するように構成されている。
【0016】
第一波長λ1と第二波長λ2は、対象とする血中吸光物質の吸光度に有意な差が見られる二つの波長として選択される。本例においては、SpO2の算出に必要なヘモグロビンの吸光特性に基づいて第一波長λ1と第二波長λ2が選択される。例えば、第一波長λ1は赤外波長帯に含まれ、第二波長λ2は赤色波長帯に含まれうる。
【0017】
第一発光素子111と第二発光素子112の各々は、半導体発光素子でありうる。半導体発光素子の例としては、発光ダイオード、レーザダイオード、EL素子などが挙げられる。
【0018】
受光装置12は、受光素子を備えている。受光素子は、受光面に入射した第一の光の強度と第二の光の強度にそれぞれ対応する第一検出信号I1と第二検出信号I2を出力するように構成されている。第一検出信号I1と第二検出信号I2の各々は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。受光素子の例としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタなどが挙げられる。
【0019】
処理装置13は、入力インターフェース131を備えている。入力インターフェース131は、受光装置12から出力される第一検出信号I1と第二検出信号I2を受け付けるように構成されている。第一検出信号I1と第二検出信号I2の各々がアナログ信号である場合、入力インターフェース131は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0020】
処理装置13は、プロセッサ132を備えている。プロセッサ132は、後述する各種の機能を実現するための処理を実行するように構成されている。
【0021】
プロセッサ132は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、上記の処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたコンピュータプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。
【0022】
プロセッサ132は、マイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの上記のコンピュータプログラムを実行可能な専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該専用集積回路に含まれる記憶素子に上記のコンピュータプログラムがプリインストールされる。プロセッサ32は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0023】
処理装置13は、出力インターフェース133を備えている。出力インターフェース133は、発光装置11および出力装置14の所定の動作を実行させるための制御信号を出力するように構成されている。制御信号は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。制御信号がアナログ信号である場合、出力インターフェース133は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0024】
具体的には、プロセッサ132は、発光装置11に第一の光と第二の光を交互に出射させる発光制御信号ECを、出力インターフェース133から出力する。第一発光素子111と第二発光素子112は、発光制御信号ECにより指定されるタイミングで第一の光と第二の光を交互に出射する。
【0025】
第一の光と第二の光は、被検者の組織Tに交互に入射する。組織Tと相互作用した第一の光と第二の光は、受光素子の受光面に入射する。本明細書で用いられる「組織と相互作用した光」という表現は、組織を透過した光と組織により反射された光の双方を包括する意味である。
【0026】
したがって、受光装置12は、第一検出信号I1と第二検出信号I2とを交互に出力する。処理装置13のプロセッサ132は、第一発光素子111と第二発光素子112の発光制御が行なわれたタイミングに基づいて、いずれの検出信号が入力インターフェース131により受け付けられたのかを識別する。
【0027】
プロセッサ132は、第一検出信号I1の強度の経時変化に基づいて、第一検出信号I1の脈動率を算出するように構成されている。脈動率は、第一検出信号I1の強度の直流成分に対する交流成分の比として算出される。
【0028】
すなわち、受光装置12における赤外光の受光強度に対応する第一検出信号I1に基づいて脈動率が算出される。赤外光は酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの吸光特性の差が小さく、SpO2の変化の影響を受けにくいからである。しかしながら、状況に応じて第二検出信号I2に基づいて脈動率が算出されてもよいし、第一検出信号I1と第二検出信号I2の双方について脈動率が算出され、条件のよい側が選択されてもよい。
【0029】
加えて、プロセッサ132は、第一検出信号I1の強度と第二検出信号I2の強度に基づいて、被検者のSpO2を算出するように構成されている。
【0030】
第一発光素子111から出射される第一の光の強度と第二発光素子112から出射される第二の光の強度は既知であるので、第一検出信号I1と第二検出信号I2に対応する受光装置12における第一の光の受光強度と第二の光の受光強度より、組織Tとの相互作用の結果としての第一の光の減光度と第二の光の減光度が算出されうる。SpO2は、第一の光の減光度と第二の光の減光度の比と相関関係にある。したがって、当該比を当該相関関係に対応する関数に入力することにより、SpO2の値が算出されうる。
【0031】
第一の光と第二の光が照射される被検者の組織Tが圧迫されると、第一の光の減光度と第二の光の減光度に変化が生じる。圧迫は、ユーザの手によって行なわれてもよいし、アクチュエータなどによって機械的に行なわれてもよい。
【0032】
図2は、第一検出信号I1に対応する第一の光の受光強度の経時変化を例示している。時点t1において圧迫が開始されると、組織Tから血液が排除されるので、受光強度が上昇する。これに伴い、脈動率とSpO2も変化する。時点t2において圧迫が解除されると、組織Tに血液が戻るので、受光強度が低下していく。これに伴い、脈動率とSpO2も圧迫開始前の値へ近づいていく。
【0033】
プロセッサ132は、圧迫が解除された時点t2から脈動率の値とSpO2の値の双方が圧迫開始前の値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間を特定するように構成されている。図2は、時点t3において、脈動率の値とSpO2の値の双方が圧迫開始前の値に対して所定の閾値範囲内に戻っている例を示している。
【0034】
プロセッサ132は、時点t2から時点t3までの時間を、組織Tの毛細血管再充満時間(CRT)として推定するように構成されている。図1に例示されるように、プロセッサ132は、推定されたCRTを示す情報を出力装置14に出力させる出力制御信号OCを、出力インターフェース133から出力する。
【0035】
出力装置14は、出力制御信号OCに基づいて、推定されたCRTを示す情報を出力するように構成されている。当該情報は、CRTに対応するテキスト、標識、および色の少なくとも一つを用いて視覚的に提供されうる。情報の視覚的提供は、ディスプレイに表示される画像として提供されてもよいし、印刷物として提供されてもよい。これに加えてあるいは代えて、当該情報は、スピーカを通じて聴覚的に提供されてもよい。
【0036】
図3は、上記のように構成された処理装置13のプロセッサ132により実行される処理の流れを例示している。
【0037】
まず、プロセッサ132は、被検者の組織Tへの圧迫が開始されたかを判断する(STEP1)。例えば、プロセッサ132は、入力インターフェース131により受け付けられた第一検出信号I1の強度の時間移動平均値を監視するように構成されうる。プロセッサ132は、この時間移動平均値の単位時間あたりの上昇量が閾値を上回る場合に、組織Tへの圧迫が開始されたと判断する。組織Tへの圧迫が開始されたと判断されるまで、当該処理が繰り返される(STEP1においてNO)。
【0038】
組織Tへの圧迫が開始されたと判断されると(STEP1においてYES)、その時点あるいはその時点から所定時間だけ前に算出された第一検出信号I1の脈動率の値と被検者のSpO2の値が、基準値として記憶される(STEP2)。
【0039】
続いて、プロセッサ132は、組織Tへの圧迫が解除されたかを判断する(STEP3)。例えば、プロセッサ132は、第一検出信号I1の強度の時間移動平均値の単位時間当たりの下降量が閾値を上回る場合に、組織Tへの圧迫が解除されたと判断する。組織Tへの圧迫が解除されたと判断されるまで、当該処理が繰り返される(STEP3においてNO)。
【0040】
組織Tへの圧迫が開始されたと判断されると(STEP3においてYES)、プロセッサ132は、算出された脈動率の値とSpO2の値の各々とSTEP2において記憶された各基準値との差異が閾値未満であるかを判断する(STEP4)。換言すると、圧迫に伴い変化した脈動率とSpO2が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻っているかが判断される。脈動率の値とその基準値との差異が閾値未満と判断され、かつSpO2の値とその基準値との差異が閾値未満と判断されるまで、当該処理が繰り返される(STEP4においてNO)。
【0041】
脈動率の値とその基準値との差異が閾値未満と判断され、かつSpO2の値とその基準値との差異が閾値未満と判断されると(STEP4においてYES)、プロセッサ132は、STEP3において組織Tへの圧迫が解除されたと判断された時点から、STEP4において各基準値との差異が閾値未満と判断された時点までの時間を、被検者のCRTとして推定する(STEP5)。
【0042】
続いて、プロセッサ132は、推定されたCRTを示す情報を出力装置14に出力させる出力制御信号OCを、出力インターフェース133から出力する(STEP6)。
【0043】
上記のような構成によれば、パルスオキシメータ10本来の機能により取得される被検者のSpO2の値、および当該SpO2の算出に使用される第一検出信号I1の脈動率の値の経時変化をモニタするという簡易な処理で、被検者のCRTを推定できる。これにより、パルスオキシメータ10に搭載される処理装置13の演算負荷を大幅に軽減できる。換言すると、要求される演算能力を引き下げることができるので、CRTを特定可能でありながらも処理装置13の小型化や簡略化を実現できる。結果として、パルスオキシメータ10の大型化や複雑化を抑制できる。したがって、CRTを推定可能なパルスオキシメータの利便性を高めることができる。
【0044】
図1に例示されるように、パルスオキシメータ10は、報知装置15を備えうる。報知装置15は、被検者の循環動態が変化した可能性を示唆する報知を行なうように構成されている。当該報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを通じてなされうる。
【0045】
この場合、処理装置13のプロセッサ132は、組織Tの圧迫に伴い変化した第一検出信号I1の脈動率と被検者のSpO2が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間が閾値を上回る場合、報知装置15に上記の報知を行なわせる報知制御信号NCを出力インターフェース133から出力するように構成されている。
【0046】
具体的には、図3に例示されるように、圧迫に伴い変化した脈動率とSpO2が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻っていないと判断された場合(STEP4においてNO)、プロセッサ132は、STEP3において組織Tへの圧迫が解除されたと判断された時点からの所定長さの時間が経過したかを判断する(STEP7)。
【0047】
所定長さの時間が経過していないと判断されると(STEP7においてNO)、処理はSTEP4に戻る。所定長さの時間が経過したと判断されると(STEP7においてYES)、プロセッサ132は、被検者の循環動態が変化した可能性を示唆する報知を報知装置15に行なわせる報知制御信号NCを、出力インターフェース133から出力する(STEP8)。
【0048】
組織Tへの圧迫の前後で被検者の循環動態に有意な変化がなければ、脈動率の値とSpO2の値は、圧迫解除後の妥当な時間内に圧迫前の各値に戻る。換言すると、圧迫解除後の妥当な時間内に脈動率の値とSpO2の値が圧迫前の各値に戻らない場合、被検者の循環動態に何らかの変化が生じている事態が疑われる。上記の構成によれば、簡易な処理でそのような事態が生じている可能性をユーザに報知できる。したがって、CRTを推定可能なパルスオキシメータの利便性をさらに高めることができる。
【0049】
図1に例示されるように、パルスオキシメータ10は、さらに温度検出装置16を備えてもよい。温度検出装置16は、被検者の組織Tの温度を検出する温度センサを備えている。温度検出装置16は、当該温度に対応する温度検出信号TDを出力するように構成される。温度検出信号TDは、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。
【0050】
この場合、処理装置13の入力インターフェース131は、温度検出信号TDも受け付け可能に構成される。温度検出信号TDがアナログ信号である場合、入力インターフェース131は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0051】
処理装置13のプロセッサ132は、入力インターフェース131により受け付けられた温度検出信号TDに基づいて、組織Tの温度が閾値を下回るかを判断するように構成される。プロセッサ132は、組織Tの温度が閾値を下回ると判断した場合に、推定されたCRTの信頼性が低い可能性を示唆する報知を報知装置15に行なわせる報知制御信号NCを、出力インターフェース133から出力するように構成される。
【0052】
被検者の組織Tの温度が低い状況では血液の循環性が低下するので、圧迫解除後に血液が組織Tに戻るまでの時間が長くなる傾向が現れる。この場合、推定されたCRTの値は、当該被検者について本来取得されるべきCRTの値よりも長くなる可能性が生じる。上記のような構成によれば、このような状況をユーザに報知して推定されたCRTの値について確認の機会を提供できる。したがって、CRTを推定可能なパルスオキシメータの利便性をさらに高めることができる。
【0053】
加えて、プロセッサ132は、推定されたCRTの値が閾値を上回るかを判断するように構成されうる。推定されたCRTの信頼性に係る上記の報知に加えてあるいは代えて、プロセッサ132は、組織Tの温度が閾値を下回り、かつCRTの推定値が閾値を上回ると判断した場合、被検者が低体温症である可能性を示唆する報知を報知装置15に行なわせる報知制御信号NCを、出力インターフェース133から出力するように構成される。
【0054】
被検者が低体温症である場合、やはり圧迫解除後に血液が組織Tに戻るまでの時間が長くなる傾向がより顕著となる。したがって、推定されたCRTが長すぎる場合、当該被検者について低体温症が疑われる。上記のような構成によれば、このような状況をユーザーに報知して被検者の容態について確認の機会を提供できる。したがって、CRTを推定可能なパルスオキシメータの利便性をさらに高めることができる。
【0055】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0056】
上記の実施形態においては、処理装置13は、第一検出信号I1と第二検出信号I2の少なくとも一方について算出された脈動率と被検者について算出されたSpO2が圧迫前の各値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて、組織TのCRTを推定している。しかしながら、処理装置13は、当該脈動率と当該SpO2の少なくとも一方が圧迫前の値に対して所定の閾値範囲内に戻るまでの時間に基づいて組織TのCRTを推定してもよい。
【0057】
上記の各実施形態においては、パルスオキシメータ10に発光装置11、受光装置12、および温度検出装置16が内蔵されている。このような構成によれば、CRTを推定可能なパルスオキシメータの携帯性を高めることができる。前述した処理装置13の演算負荷を抑制できるという効果もまた、携帯性の向上に寄与しうる。
【0058】
しかしながら、図4に例示されるようにパルスオキシメトリシステム20が構成されうる。パルスオキシメトリシステム20は、プローブ21とパルスオキシメータ22を含んでいる。プローブ21とパルスオキシメータ22は、通信可能に接続される。
【0059】
プローブ21は、被検者の組織Tへ装着可能に構成される。プローブ21は、図1を参照して説明した発光装置11と受光装置12を備えている。プローブ21は、必要に応じて、図1を参照して説明した温度検出装置16を備えてもよい。
【0060】
パルスオキシメータ22は、図1を参照して説明した処理装置13と出力装置14を備えている。パルスオキシメータ22は、必要に応じて、図1を参照して説明した報知装置15を備えてもよい。
【0061】
これまで説明した各例においては、処理装置13がパルスオキシメータに搭載されている。しかしながら、処理装置13は、パルスオキシメータとデータ通信可能な装置に搭載されてもよい。この場合、当該パルスオキシメータは、処理装置13とデータ通信するための通信装置を備える。受光装置12から出力された第一検出信号I1と第二検出信号I2は、当該通信装置により処理装置13へ送信される。処理装置13は、前述した各種の処理を実行し、出力制御信号OCをパルスオキシメータへ送信する。出力制御信号OCを受信したパルスオキシメータは、算出されたSpO2や推定されたCRTを示す情報を、出力装置14から出力する。
【0062】
AおよびBという二つの主体について本明細書で用いられる「AとBの少なくとも一方」という表現は、Aのみが特定される場合、Bのみが特定される場合、およびAとBの双方が特定される場合を含む意味である。AとBの各主体は、特に断りのない限り単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0063】
A、B、およびCという三つの主体について本明細書で用いられる「A、B、およびCの少なくとも一つ」という表現は、Aのみが特定される場合、Bのみが特定される場合、Cのみが特定される場合、AとBが特定される場合、BとCが特定される場合、AとCが特定される場合、およびA、B、Cの全てが特定される場合を含む意味である。A、B、およびCの各主体は、特に断りのない限り単数であってもよいし、複数であってもよい。記述の対象となる主体が四つ以上の場合についても同様である。
【符号の説明】
【0064】
10:パルスオキシメータ、11:発光装置、12:受光装置、13:処理装置、131:入力インターフェース、132:プロセッサ、133:出力インターフェース、14:出力装置、15:報知装置、16:温度検出装置、20:パルスオキシメトリシステム、22:パルスオキシメータ、I1:第一検出信号、I2:第二検出信号、T:組織、λ1:第一波長、λ2:第二波長
図1
図2
図3
図4