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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】熱拡散シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20250415BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250415BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20250415BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20250415BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20250415BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20250415BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20250415BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H05K7/20 F
H01L23/36 D
H01M10/613
H01M10/6555
H01M10/651
H01M10/653
H01M10/625
H01L23/36 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021140003
(22)【出願日】2021-08-30
(65)【公開番号】P2023033983
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和希
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535094(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157091(WO,A1)
【文献】特開2010-034422(JP,A)
【文献】特開2020-191274(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194972(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/36
H01M 10/613
H01M 10/6555
H01M 10/651
H01M 10/653
H01M 10/625
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有する無機フィラーとして鱗片状窒化硼素を80~95重量%と、
バインダー繊維として有機繊維を5~20重量%と、
を含む抄紙シートで構成されてなる熱拡散シート。
【請求項2】
請求項1に記載の熱拡散シートであって、さらに、
微細繊維状セルロースを1~2重量%含んでなる熱拡散シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱拡散シートであって、
前記有機繊維が、アラミド繊維である熱拡散シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
前記熱拡散シートの平均熱伝導率が、面方向において30W/m・K以上である熱拡散シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
前記熱拡散シートの平均厚さが、50~200μmである熱拡散シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
前記熱拡散シートの密度が、1.5~2.1g/cm3である熱拡散シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
前記抄紙シートが湿式抄紙シートである熱拡散シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
前記抄紙シートが熱圧処理されてなる熱拡散シート。
【請求項9】
熱拡散シートの製造方法であって、
熱伝導性を有する無機フィラーとして鱗片状窒化硼素を80~95重量%と、有機繊維を5~20重量%と、微細繊維状セルロースを1~2重量%を含んで湿式抄紙によってシート化する工程と、
前記シート化された状態で、熱圧処理する工程と、
を含む熱拡散シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱拡散シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体の放熱を促進するための熱拡散シートや放熱シートが、様々な用途で用いられている。例えば、二次電池セルを複数枚積層して高出力化、高容量化した車載用や定置用の電源装置においては、充放電によって二次電池セルが発熱することが知られている。このような二次電池セルの放熱性を向上させるために、電池セルの外装缶に熱拡散シートを密着させている。熱拡散シートで放熱性を向上させるには、熱伝導率を高めることが求められる。また二次電池セルに限らず、パワートランジスタやCPU、SoC等の電子部品、あるいはLEDやLD等の発光素子も、発熱体であることから同様に放熱性が求められている。
【0003】
このような熱拡散シートとして、絶縁性の放熱フィラーとして窒化硼素を用いたものが提案されている(例えば特許文献1~5)。このような熱拡散シートの放熱性能を向上させるには、窒化硼素の配合を高めることが考えられる。
【0004】
しかしながら、窒化硼素は水にも溶剤にも親和性が低いことから、熱拡散シートを湿式抄紙で得ようとすると、窒化硼素を水中に均一に分散させることは容易でなく、窒化硼素が80重量%を超えるような高配合の領域では、高価な窒化硼素の配合率増加に対して熱伝導性の向上が鈍くなる、また、シートからの粉落ちが多数発生し、高配合することが困難という問題があった。
【0005】
また、窒化硼素を高配合するシートとして、絶縁性粒子、バインダー樹脂、及び溶剤を混合してスラリーを得る工程を含むシートの製造方法が提案されている(特許文献5)。しかしこの場合、バインダー樹脂を溶解する有機溶剤を使用することから、溶剤の回収や廃液の処理が煩雑となり、環境負荷も高まるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再公表WO2019/093305号
【文献】特表2019-535094号公報
【文献】特表2014-501859号公報
【文献】特開平10-130496号公報
【文献】再公表2020-194972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の一は、湿式抄紙の熱拡散シートにおいて、窒化硼素の配合率を高めて熱伝導性を高めた熱拡散シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の第1の形態に係る熱拡散シートは、熱伝導性を有する無機フィラーとして鱗片状窒化硼素を80~95重量%と、バインダー繊維として有機繊維を5~20重量%とを含む抄紙シートで構成されている。
【0009】
また、本発明の第2の形態に係る熱拡散シートは、上記構成に加えて、さらに、微細繊維状セルロースを1~2重量%含んでいる。上記構成により、比表面積の大きい微小な繊維状セルロースを骨材として用いることで、より多くの鱗片状窒化硼素を配合可能とできる。
【0010】
さらにまた、本発明の第3の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記有機繊維が、アラミド繊維である。
【0011】
さらにまた、本発明の第4の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記熱拡散シートの平均熱伝導率が、面方向において30W/m・K以上である。
【0012】
さらにまた、本発明の第5の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記熱拡散シートの平均厚さが、50~200μmである。
【0013】
さらにまた、本発明の第6の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記熱拡散シートの密度が、1.5~2.1g/cm3である。
【0014】
さらにまた、本発明の第7の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記抄紙シートが湿式抄紙シートである。
【0015】
さらにまた、本発明の第8の形態に係る熱拡散シートは、上記何れかの構成に加えて、前記抄紙シートが熱圧処理されている。
【0016】
さらにまた、本発明の第9の形態に係る熱拡散シートの製造方法は、熱伝導性を有する無機フィラーとして鱗片状窒化硼素を80~95重量%と、有機繊維を5~20重量%と、微細繊維状セルロースを1~2重量%を含んで湿式抄紙によってシート化する工程と、前記シート化された状態で、熱圧処理する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態1に係る電源装置を示す分解斜視図である。
図2】実施形態1に係る熱拡散シートの模式断面図である。
図3】実施形態2に係る熱拡散シートを示す断面図である。
図4】実施形態3に係る熱拡散シートを得る様子を示す断面図である。
図5】本発明の一実施例に係る熱放射シートを製造する製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0019】
本発明の実施形態に係る熱拡散シートは、軽量で非導電性の抄紙シートを用いつつ、鱗片状の窒化硼素を高配合とすることで、高い熱伝導性を実現している。このような熱拡散シートは、電子部品等の発熱部品と熱的に結合されて、放熱部材として好適に利用できる。従来、放熱フィンに用いられている金属製の放熱部材では、重量がある上高い導電性を有するため、軽量、絶縁性が求められる場面では使い難いという課題があった。例えば車載用の部材では、燃費向上のため軽量化が強く求められ、また安全性等の観点から非導電性が求められる。また従来、放熱部材として利用されているグラファイトシートでは、電波を遮断する特性があるため、アンテナの近傍や通信モジュールの放熱には使い難いという問題もあった。これに対して、本実施形態に係る熱拡散シートでは、電磁波シールド特性が低いため、電波を遮断することもなく、通信部材の放熱部材としても利用できる利点が得られる。
【0020】
本実施形態に係る熱拡散シートは、例えば絶縁性が求められる発熱体と、ヒートシンク等の放熱器との間に介在される緩衝シートや、発熱体に直接貼付して放熱させる放熱シート等に利用できる。一例として、二次電池セルを複数枚積層した電源装置に用いる例を図1の分解斜視図に示す。この図に示す電源装置100は電気自動車やハイブリッド車などにおいて、車輪を回すモータを駆動する車載用電源として用いられる。また電源装置は、自動車に限られず、電動バス、電車、電動カート等の電動車両の駆動用電源として、あるいは工場や基地局のバックアップ電源用、さらには家庭用の蓄電池としても利用できる。さらに本発明の実施形態に係る熱拡散シートは、電源装置に限られず、発熱体の放熱用として種々の用途に利用できる。例えば、コンピュータの中央演算処理装置(CPU)、画像処理用演算プロセッサ(GPU)、スマートフォンのSoC、組み込み機器のDSPやマイコン、あるいはトランジスタ等の半導体素子、発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)、液晶等の発光体といった、様々な電子部品や電子機器、車両用ヘッドライトや照明等に利用できる。特に、熱伝導性だけでなく絶縁性が求められる用途に好適に利用できる。
【0021】
図1に示す電源装置100は、複数の二次電池セル20と、二次電池セル20同士の間に介在される熱拡散シート10とを備える。二次電池セル20は、外装缶21を有底筒状の角形としており、複数枚を主面同士が対向する姿勢で積層されている。積層は、例えば二次電池セル20を積層した電池積層体25の両端面を、それぞれ端面板30で覆うと共に、端面板30同士を締結部材で締結する。また、電池積層体25は、必要に応じて基礎板40上に固定される。基礎板40は、例えば内部に冷媒を循環させて冷却板として機能させることができる。
【0022】
各二次電池セル20は、外装缶21の内部に電極体を収納し、開口端を封口板22で封止している。図1において外装缶21の上面に位置する封口板22には、一対の電極23と防爆弁24が設けられる。複数の二次電池セル20は、電極23同士をバスバーで接続することにより、互いに直列及び/又は並列に電気的に接続される。また防爆弁24は、外装缶21の内圧が高くなったことを検出して開弁され、外装缶21内部の高圧ガスを排出するための部材である。各防爆弁24は、必要に応じて高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトと連結される。
(熱拡散シート10)
【0023】
隣接する二次電池セル20同士の間には、熱拡散シート10が介在される。熱拡散シート10は、スペーサやセパレータ等と呼ばれ、隣接する二次電池セル20間で外装缶21が短絡しないように絶縁する。
【0024】
なお図1の例では、二次電池セル20を複数積層した電池積層体25を、熱拡散シート10で底面から放熱する構成について説明している。ただ本発明は、この構成に限らず、例えば電池積層体の側面や端面に熱放射シートを配置してもよい。また電池積層体を構成する二次電池セルのセル数も、3枚に限定せず、4枚以上、あるいは2枚以下としてもよい。
【0025】
熱拡散シート10の断面図を、図2に示す。この図に示す熱拡散シート10は、無機フィラーとして窒化硼素を80~95重量%と、バインダー繊維とを含む抄紙シートで構成される。窒化硼素は、高い熱伝導率を持つ六方晶系窒化硼素が好適に使用できる。またその形態によって鱗片状、球状等に分けられ、それらの凝集体としても存在することが知られている。本実施形態においては、鱗片状の窒化硼素を使用する。
【0026】
バインダー繊維は、有機繊維を5~20重量%使用する。また有機繊維の比表面積は、50~200m2/gのものを少なくとも1種含むことが好ましい。ここで、比表面積は、JIS Z 8830:2013BET法によって測定できる。比表面積が50~200m2/gの有機繊維は、繊維状バインダーとして公知の物が使用でき、具体的にはポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アラミド等のパルプ繊維又はフィブリッド繊維等が挙げられる。中でも耐熱性、電気絶縁性等の点からアラミドパルプが好ましい。
【0027】
さらに熱拡散シートは、微細な繊維状セルロースを含むことが好ましい。セルロースの微細な繊維状物の具体例としては、木材パルプ、レーヨン等のセルロース繊維を、ホモジナイザー、ディスクリファイナー等で高度に叩解したもの、水中対抗衝突法により解繊したもの、TEMPO酸化法等の化学的処理を行ったものおよびそれらの組合せによるものが挙げられ、一般的に繊維径が1μm以下のものである。本発明においては、その比表面積が、10~100m2/gであることが好ましい。このように、比表面積の大きい微小な繊維状セルロースを骨材として用いることで、より多くの鱗片状窒化硼素を配合可能とできる。比表面積が上記範囲未満であると、窒化硼素の分散が不均一となり、シートの熱伝導性が不十分となる。また上記範囲を超える場合は、繊維が微細化しすぎており、製造工程において歩留まりが低下する問題がある。微細繊維状セルロースは、1~2重量%含むことが好ましい。これにより、無機フィラーの水中への均一分散と歩留向上の効果が得られる。
【0028】
ただし抄紙シートは、黒鉛を含まない。これによって絶縁性を発揮させることができる。
【0029】
この抄紙シートは、好ましくは湿式抄紙シートとする。また抄紙シートを熱圧処理することが好ましい。熱圧処理により、シートが高密化され、熱伝導性の向上と粉落ちの抑制効果が実現される。
【0030】
さらにシートの平均厚さは、50~200μmとすることが好ましい。
【0031】
また、熱拡散シートの平均熱伝導率が、面方向において30W/m・K以上であることが好ましい。
【0032】
熱拡散シートの密度は、1.5~2.1g/cm3であることが好ましい。
[実施形態2、3]
【0033】
なお図2の例では、熱拡散シートを単層のシートで構成する例を示したが、本発明はこの構成に限らず、複数層のシートで熱拡散シートを構成してもよい。例えば、図3に示す実施形態2に係る熱拡散シート20のように、複数枚のシートを積層した積層シートで熱拡散シート20を構成してもよい。あるいは図4に示す実施形態3に係る熱拡散シート30のように、複数枚のシートを積層した積層体SSに対し、積層方向と交差する方向にスライスして熱拡散シート30を得てもよい。図4の例では、一点鎖線で示すようにシートの積層方向と直交する方向に切断して熱拡散シート30を得ているが、直交方向から傾斜させて切断してもよい。
(熱拡散シートの製造方法)
【0034】
熱拡散シートは、鱗片状窒化硼素を80~95重量%、有機繊維5~20%、微細繊維状セルロース1~2%を含んで湿式抄紙によってシート化し、シート化された状態で熱圧処理することにより製造される。ここで熱拡散シートの製造方法を、図5に基づいて説明する。図5は、熱拡散シート10を製造する製造装置1000の概略構成図を示している。図5に示す製造装置1000は、抄紙用スラリーをシート状に抄造する抄紙機1と、この抄紙機1で抄造された抄紙シート9を乾燥させる乾燥機3と、乾燥された抄紙シート9を加熱プレスして所定の厚さとするプレス機2とを備えている。この図に示すように、熱拡散シートは、窒化硼素の粉末と繊維とを分散液に懸濁した抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の抄紙シート9とする抄紙工程と、この抄紙工程で得られる抄紙シート9を熱プレスして所定の厚さとするプレス工程とで製造される。
(抄紙工程)
【0035】
抄紙工程は、窒化硼素を含有した抄紙用スラリーを用意する原料調整工程と、原料調整工程で調整された抄紙用スラリーをメッシュコンベア4の抄紙面4Aに分散させるスラリー供給工程とで抄紙シート9を抄造する。原料調整工程では、窒化硼素含有率を調整した抄紙用スラリーを調整する。この抄紙用スラリーを抄紙槽5内においてメッシュコンベア4上に順に分散させて、抄紙する。スラリー供給工程は、移動するメッシュコンベア4上に抄紙用スラリーを分散させて層を形成し、抄紙シート9を形成する。これにより、抄紙シート9が抄造される。以上の抄紙工程において、湿式法による抄紙シート9の製造には、湿式の抄紙機として公知の物が使用できるが、、繊維の分散が良いこと、配向性の調整が容易であること等の点から、好ましくは傾斜姿勢で配置されるメッシュコンベアを使用する。
(乾燥工程)
【0036】
抄紙工程で抄造された抄紙シート9は、図5に示すように乾燥機3に移動されて乾燥される。図に示す乾燥機3は、ドラム型乾燥機で、ドラム7の外周に沿って移送される抄紙シート9を熱風により乾燥する。図に示す乾燥機3は、複数のドラム7を備えており、各ドラム7の外周面から放出される120~130℃の熱風を抄紙シート9に供給して、乾燥機3を通過する抄紙シート9を乾燥する構造としている。ただ、乾燥機は、ドラム型乾燥機には限定せず、紙シートを乾燥できる他の乾燥機も使用できる。
(プレス工程)
【0037】
乾燥工程で乾燥された抄紙シート9は、プレス機2に移送されて熱プレスされる。図5に示すプレス機2は、水平姿勢で上下に配置された一対のローラー8を備えており、抄紙シート9を一対のローラー8の間に通過させて熱プレスする。一対のローラー8の間を通過する抄紙シート9は、所定の温度に加熱された状態で加圧されて、所定の厚さにプレスされる。図5に示すプレス機2は、直径を30~100cmとする一対のローラー8を平行な姿勢で対向して配置しており、ローラー8間を通過する抄紙シート9を100~250℃の温度に加温しながら、100~700kg/cmの圧力でプレスする構造としている。このプレス工程において、抄紙シート9は、50μm~500μm、好ましくは50μm~300μm、さらに好ましくは70μm~230μmの厚さにプレスされて熱拡散シート10となる。連続する長いシート状に製造された熱拡散シート10は、ロール状に巻き取られて出荷される。
【0038】
図5に示す製造装置は、抄紙機1と乾燥機3とプレス機2とを直線状に配置しており、一つのラインで熱拡散シート10を製造するようにしている。ただ、製造装置は、乾燥機で乾燥された紙シートをロール状に巻き取った後、別ラインに設けたプレス機で熱プレスすることもできる。この方法は、抄紙工程と乾燥工程で製造される紙シートの製造ラインの移動速度と、別ラインのプレス機で熱プレスして製造される熱放射シートの製造ラインの移動速度とを異なる速さにできる。
【0039】
またプレス装置は、図5に示すようなローラープレスの他、ダブルベルトプレス、平板プレスなどの公知の装置が使用できる。これらのプレス工程は単独で実施してもよいし、同種あるいは別種の装置を組合わせて複数回実施してもよい。
【0040】
鱗片状窒化硼素の連続シート化には、
(1)樹脂バインダーを溶融させフィラーと混合する方法
(2)樹脂バインダーを溶媒に溶解させフィラーと混合する方法
がある。この内、(1)は高粘度になりやすくフィラーを高配合できないため、熱伝導が低い。また(2)は一般的に有機溶媒を使用するため溶媒の回収や廃液の処理が煩雑という欠点がある。これに対し抄紙法は材料を全て水に分散させ、脱水、乾燥させるだけでシート化可能であり環境負荷が極めて低く、尚且、フィラーを高充填できる特徴がある。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例1に係る熱拡散シート10を、以下に示す工程で製造した。
[抄紙工程]
(原料調整工程)
【0042】
平均粒径が40μmである鱗片状窒化硼素粉末と、比表面積が153m2/gであるパルプ状のパラアラミド繊維と、比表面積が0.3m2/gであるPET繊維(繊維径2μm、繊維長3mm)と、比表面積が45m2/gである微細繊維状セルロースを下記の混合比率となるよう準備した。混合タンク内に水を供給し、原料を投入した後でプロペラにより撹拌して所定の濃度の抄紙用スラリーを調製した。
抄紙用スラリー混合比率:
鱗片状窒化硼素粉末…93質量%
アラミド繊維…1.5質量%
PET繊維…4質量%
微細繊維状セルロース…1.5質量%
(スラリー供給工程、乾燥工程)
【0043】
抄紙用スラリーを、メッシュコンベア4上に分散させてシート状に成形し、ドラム型乾燥機により乾燥することで全体の厚さを400μmとする抄紙シート9を形成した。
[プレス工程]
【0044】
得られた抄紙シート9を、直径50cm、温度250℃に設定した1対の金属製熱プレスロール間に、線圧400kgf/cm、速度20m/分で通過させて熱プレス処理を行い、実施例1に係る熱拡散シートを得た。
【実施例2】
【0045】
また実施例2に係る熱拡散シートを、同様に製造した。実施例2では、抄紙用スラリーの組成を、窒化硼素粉末を90重量%、パルプ状のパラアラミド繊維を2重量%、PET繊維を6重量%、微細繊維状セルロースを2重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で熱拡散シートを作製した。
[比較例1]
【0046】
一方、比較例1として、抄紙用スラリーの組成を、鱗片状窒化硼素粉末を45重量%、窒化硼素凝集粉末を45重量%、アラミドパルプを4重量%、PPS繊維を3重量%、PET繊維を3重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で熱拡散シートを作製した。
[比較例2]
【0047】
また比較例2として、抄紙用スラリーの組成を、鱗片状窒化硼素粉末を40重量%、窒化硼素凝集粉末を40重量%、、アラミドパルプを8重量%、PPS繊維を8重量%、PET繊維を4重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で熱拡散シートを作製した。
(熱伝導性)
【0048】
放熱性を実施例1~2及び比較例1~2のサンプルについて、それぞれ測定した。ここでは、各サンプルを2つ用意して、それぞれの厚さ、密度、垂直方向(シート厚さ方向)の熱伝導率、面内方向の熱伝導率を測定した。測定方法は、JIS R 1611:2010に従い、レーザーフラッシュ法にて測定した。測定装置にはXeフラッシュアナライザー LFA-447 Nanoflashを用いた。
(粉落ち耐性)
【0049】
実施例1~2及び比較例1~2のサンプルについて、JIS H 8504:1999テープ試験方法に準拠して試験を実施した。サンプルから引きはがしたテープの粘着面を観察し、サンプルから脱落した粉体、繊維等の付着物がある場合は×、無い場合を〇として結果を記録した。
これらの結果を、表1に示す。
【0050】
【表1】
(放熱性)
【0051】
表1に示すとおり、実施例1~2ではいずれも面方向において45W/m・K以上の熱伝導率を達成した。一方、比較例1~2では、何れも25W/m・K以下しか得られない。比較例では微細繊維状セルロースを配合しておらず、窒化硼素の歩留まりを上げるには粒径の大きい凝集粉を配合せざるを得ない。窒化硼素凝集粉はその形状から面内方向に配向しないため、面方向の熱伝導率を上げることはできない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱拡散シート及びその製造方法は、繰り返し膨張収縮する対象物同士の間に挟まれて使用される熱拡散シートとして利用できる。例えば二次電池セル同士、又は二次電池セルモジュール同士の間に介在される断熱用のスペーサや、防爆弁とガスダクトの間に介在される緩衝シート、あるいはECU等の駆動回路を保護する断熱材等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1000…熱放射シート製造装置
100…電源装置
1…抄紙機
2…プレス機
3…乾燥機
4…メッシュコンベア
4A…抄紙面
5…抄紙槽
7…ドラム
8…ローラー
9…紙シート
10…熱拡散シート
12…表面シート
20…二次電池セル
21…外装缶
22…封口板
23…電極
24…防爆弁
25…電池積層体
30…端面板
40…基礎板
SS…積層体
図1
図2
図3
図4
図5