(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】脳波信号処理装置、脳波信号処理システム、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/384 20210101AFI20250415BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20250415BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20250415BHJP
【FI】
A61B5/384
A61B5/256 110
A61B5/374
(21)【出願番号】P 2021155600
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】末松 和三
(72)【発明者】
【氏名】神藏 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山田 真理
(72)【発明者】
【氏名】増田 亮太
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068510(JP,A)
【文献】特開2016-221056(JP,A)
【文献】特開2010-233720(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113040788(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/16-5/18
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付けるインターフェースと、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を
複数の時点において取得し、当該値
の経時変化をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力するプロセッサと、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている、
脳波信号処理装置。
【請求項2】
前記複数の領域は、前記頭部について左右対称に設定されている、
請求項1に記載の脳波信号処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、現在により近い時点で取得された前記脳波パラメータの値がより強調されるように前記レーダチャート上にプロットするためのデータを出力する、
請求項
1に記載の脳波信号処理装置。
【請求項4】
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付けるインターフェースと、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得し、当該値をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力するプロセッサと、
前記脳波信号に対応するデータを格納するストレージ
と、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられており、
前記プロセッサは、前記レーダチャートにおける特定の領域を特定す
る情報が前記インターフェースにより受け付けられると、当該領域に含まれる前記脳波パラメータの値の取得に用いられた前記脳波信号に対応するデータを前記ストレージから読み出し、当該脳波信号を可視化するためのデータを出力する
、
脳波信号処理装置。
【請求項5】
前記特定の領域は、前記脳波パラメータの値が取得された特定の時点に対応している、請求項
4に記載の脳波信号処理装置。
【請求項6】
前記特定の領域は、前記頭部について設定された前記複数の領域の少なくとも一つに対応している、
請求項
4に記載の脳波信号処理装置。
【請求項7】
健常者の前記脳波信号に基づいて取得された前記脳波パラメータの値に対応する基準値を格納するストレージを備えており、
前記プロセッサは、前記基準値を前記レーダチャート上にプロットするためのデータを出力する、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の脳波信号処理装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前
記脳波パラメータ値が正常でないことを報知装置に報知させる制御信号を出力する、
請求項1から
7のいずれか一項に記載の脳波信号処理装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記脳波信号に周波数分析処理を行なうことにより、前記脳波パラメータの値を取得する、
請求項1から
8のいずれか一項に記載の脳波信号処理装置。
【請求項10】
脳波信号処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記脳波信号処理装置は、
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付け、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を
複数の時点において取得し、
前記脳波パラメータの値
の経時変化をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力し、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている、
コンピュータプログラム。
【請求項11】
被検者の頭部に装着される複数の電極と、
前記複数の電極の各々から出力された前記被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を
複数の時点において取得する信号処理装置と、
前記脳波パラメータの値
の経時変化がプロットされたレーダチャートを可視化する可視化装置と、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている、
脳波信号処理システム。
【請求項12】
脳波信号処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記脳波信号処理装置は、
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付け、
前記脳波信号に対応するデータをストレージに格納し、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得し、
前記脳波パラメータの値をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力し、
前記レーダチャートにおける特定の領域を特定する情報を受け付けると、当該領域に含まれる前記脳波パラメータの値の取得に用いられた前記脳波信号に対応するデータを前記ストレージから読み出し、当該脳波信号を可視化するためのデータを出力し、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている、
コンピュータプログラム。
【請求項13】
被検者の頭部に装着される複数の電極と、
前記複数の電極の各々から出力された前記被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得する信号処理装置と、
前記脳波信号に対応するデータを格納するストレージと、
前記脳波パラメータの値がプロットされたレーダチャートを可視化する可視化装置と、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられており、
前記信号処理装置は、前記レーダチャートにおける特定の領域を特定する情報を受け付けると、当該領域に含まれる前記脳波パラメータの値の取得に用いられた前記脳波信号に対応するデータを前記ストレージから読み出し、当該脳波信号を前記可視化装置に可視化させるためのデータを出力する、
脳波信号処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の脳活動状態を複数の特徴量について定量化および可視化する脳波信号処理システムに関連する。本発明は、当該システムに含まれる脳波信号処理装置、および当該装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムにも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、被検者の脳の活動状態を複数の特徴量について定量化し、当該複数の特徴量に対応する複数の座標軸を含む直交座標系を用いて可視化する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、被検者の脳活動状態の新規な可視化手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための一態様は、脳波信号処理装置であって、
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付けるインターフェースと、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得し、当該値をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力するプロセッサと、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている。
【0006】
上記の目的を達成するための一態様は、脳波信号処理装置に搭載されたプロセッサにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
実行されることにより、前記脳波信号処理装置は、
被検者の頭部に装着された複数の電極の各々から当該被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を受け付け、
前記脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得し、
前記脳波パラメータの値をレーダチャート上にプロットするためのデータを出力し、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている。
【0007】
上記の目的を達成するための一態様は、脳波信号処理システムであって、
被検者の頭部に装着される複数の電極と、
前記複数の電極の各々から出力された前記被検者の脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号を処理することにより前記複数の電極の各々について脳波パラメータの値を取得する信号処理装置と、
前記脳波パラメータの値がプロットされたレーダチャートを可視化する可視化装置と、
を備えており、
前記頭部には各々に少なくとも一つの電極が装着される複数の領域が設定されており、
前記レーダチャートに含まれる複数の座標軸の各々は、前記複数の領域の一つに対応付けられている。
【0008】
上記の各態様に係る構成によれば、被検者の頭部について設定された複数の領域の各々について取得された脳波パラメータの値の相対関係がレーダチャートに示されるという、新規な脳活動状態の可視化手法を提供できる。すなわち、ユーザは、レーダチャートから読み取ることのできる被検者の脳活動状態を、脳における位置情報と関連付けて検討することが可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る脳波信号処理システムに含まれるヘッドセットの外観を例示している。
【
図2】一実施形態に係る脳波信号処理システムの機能構成を例示している。
【
図3】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの一例を示している。
【
図4】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの別例を示している。
【
図5】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの別例を示している。
【
図6】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの別例を示している。
【
図7】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの別例を示している。
【
図8】
図2の可視化装置により可視化されたレーダチャートの別例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る脳波信号処理システム10(以下、信号処理システム10と略称する)に含まれるヘッドセット11の外観を例示している。ヘッドセット11は、第一電極111、第二電極112、第三電極113、第四電極114、第五電極115、第六電極116、および第七電極117を備えている。以降の説明においては、第一電極111、第二電極112、第三電極113、第四電極114、第五電極115、第六電極116、および第七電極117を、必要に応じて「複数の電極110」と総称する。
【0012】
ヘッドセット11は、被検者の頭部に装着されるように構成されている。第一電極111、第二電極112、および第三電極113は、ヘッドセット11の装着時において被検者の左側頭部に配置されるように支持されている。第四電極114、第五電極115、および第六電極116は、ヘッドセット11の装着時において被検者の右側頭部に配置されるように支持されている。第七電極117は、ヘッドセット11の装着時において被検者の頭頂部に配置されるように支持されている。
【0013】
図2に例示されるように、第一電極111、第二電極112、および第三電極113の位置は、10-20法におけるF3電極位置、T3電極位置、およびC3電極位置にそれぞれ配置されるように定められている。第四電極114、第五電極115、および第六電極116の位置は、10-20法におけるF4電極位置、T4電極位置、およびC4電極位置にそれぞれ配置されるように定められている。第七電極117の位置は、10-20法におけるCz電極位置に配置されるように定められている。
【0014】
複数の電極110の各々は、対向する頭皮、頭蓋骨、髄液、硬膜などを通じて被検者の脳の対応箇所における活動電位を検出するように構成されている。脳活動電位の検出が時間連続的に行なわれることにより、各電極は、脳活動電位の経時変化に対応する脳波信号ESを出力するように構成される。脳波信号ESは、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。
【0015】
信号処理システム10は、脳波信号処理装置12(以下、信号処理装置12と略称する)を含んでいる。信号処理装置12は、
図1に例示されるヘッドセット11に内蔵されてもよいし、ヘッドセット11とは独立した装置として提供されてもよい。後者の場合、脳波信号ESは、有線通信または無線通信を介してヘッドセット11から信号処理装置12へ送信される。
【0016】
信号処理装置12は、入力インターフェース121を備えている。入力インターフェース121は、複数の電極110の各々から出力された脳波信号ESを受け付けるように構成されている。脳波信号ESがアナログ信号である場合、入力インターフェース121は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0017】
信号処理装置12は、プロセッサ122を備えている。プロセッサ122は、脳波信号ESを処理することにより、複数の電極110の各々について脳波パラメータの値を取得するように構成されている。
【0018】
本実施形態においては、プロセッサ122は、複数の電極110の各々から出力された脳波信号ESに対して高速フーリエ変換を行ない、脳波パラメータの一例としてトータルパワーを取得するように構成されている。高速フーリエ変換は、周波数分析処理の一例である。周波数分析処理を通じて取得されうる他の脳波パラメータの例としては、αδ比、エッジ周波数、特定の脳波周波数帯におけるパワーなどが挙げられる。特定の脳波の例としては、δ波、θ波、α波、β波、γ波が挙げられる。
【0019】
信号処理システム10は、可視化装置13を含んでいる。可視化装置13は、信号処理装置12により取得された複数の脳波パラメータの値がプロットされたレーダチャートを可視化するように構成されている。可視化は、ディスプレイなどの表示装置にレーダチャートを表示することによりされてもよいし、プリンタなどを通じてレーダチャートを印刷することによりなされてもよい。
【0020】
図3は、可視化装置13により提示されるレーダチャートRCを例示している。レーダチャートRCは、F3座標軸、T3座標軸、C3座標軸、F4座標軸、T4座標軸、およびC4座標軸を含んでいる。F3座標軸、T3座標軸、C3座標軸、F4座標軸、T4座標軸、およびC4座標軸は、前述したF3電極位置、T3電極位置、C3電極位置、F4電極位置、T4電極位置、およびC4電極位置にそれぞれ対応付けられている。F3電極位置、T3電極位置、C3電極位置、F4電極位置、T4電極位置、およびC4電極位置は、被検者の頭部について設定された複数の領域の一例である。
【0021】
第一電極111から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのF3座標軸上にプロットされる。第二電極112から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのT3座標軸上にプロットされる。第三電極113から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのC3座標軸上にプロットされる。第四電極114から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのF4座標軸上にプロットされる。第五電極115から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのT4座標軸上にプロットされる。第六電極116から出力された脳波信号ESに基づいて取得されたトータルパワーの値は、レーダチャートRCのC4座標軸上にプロットされる。
【0022】
図2に例示されるように、信号処理装置12は、出力インターフェース123を備えている。プロセッサ122は、上記のようなレーダチャートRCを可視化装置13に提供させるための可視化データVDを出力インターフェース123から出力するように構成されている。可視化データVDは、アナログデータの形態で提供されてもよいし、デジタルデータの形態で提供されてもよい。可視化データVDがアナログデータの形態で提供される場合、出力インターフェース123は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。可視化装置13は、可視化データVDに基づいてレーダチャートRCの可視化を行なうように構成される。
【0023】
上記のような構成によれば、被検者の頭部について設定された複数の領域の各々について取得された脳波パラメータの値の相対関係がレーダチャートに示されるという、新規な脳活動状態の可視化手法を提供できる。すなわち、ユーザは、レーダチャートから読み取ることのできる被検者の脳活動状態を、脳における位置情報と関連付けて検討することが可能とされる。
【0024】
本実施形態においては、レーダチャートRCに含まれる複数の座標軸に対応付けられている複数の領域は、被検者の頭部について左右対称に設定されている。したがって、可視化装置13により可視化されるレーダチャートRCは、取得された脳波パラメータ値の分布の左右対称性についての情報を含みうる。
【0025】
被検者の脳活動状態が正常である場合、取得される脳波パラメータ値の分布は、左側頭部と右側頭部とで対称性を示すことが一般的である。換言すると、
図3に例示されるようにトータルパワー値の分布が左側頭部と右側頭部とで非対称である場合、被検者の脳活動状態の異常が疑われる。例えば脳卒中などに起因する虚血状態が脳に生じている場合、
図3に例示されるような非対称分布が得られる。ユーザは、レーダチャートRC上にプロットされた複数の点同士を線で結ぶことにより得られる図形の形状を通じて、このような対称性に係る情報を直感的に得ることができる。したがって、被検者の脳活動状態についての判断を支援できる。
【0026】
信号処理装置12のプロセッサ122は、複数の時点において脳波パラメータ値を取得するように構成されうる。脳波パラメータ値の取得は、所定の時間が経過した時点で脳波信号ESに基づいて断続的に行なわれてもよいし、当該所定の時間の経過中に連続的に取得された脳波信号ESに基づいて脳波パラメータの統計値が当該所定の時間の経過ごとに取得されてもよい。統計値の例としては、平均値、中間値、最頻値などが挙げられる。所定の時間の長さは、判断される脳活動状態に応じて適宜に設定される。所定の時間の長さの単位の例としては、分、時間、日が挙げられる。
【0027】
この場合、プロセッサ122は、脳波パラメータ値が取得される度に、可視化装置13にレーダチャートRCを可視化させる可視化データVDを、出力インターフェース123から出力するように構成される。
【0028】
図4は、複数の時点において取得された脳波パラメータ値に基づいて可視化されたレーダチャートRCを例示している。黒丸は、最新の取得処理を通じてプロットされた脳波パラメータ値を表している。ハッチングされた丸は、前回の取得処理を通じてプロットされた脳波パラメータ値を表している。白丸は、前々回の取得処理を通じてプロットされた脳波パラメータ値を表している。
【0029】
このような構成によれば、脳波パラメータ値の経時変化をレーダチャートRC上に可視化できる。ユーザは、当該経時変化に基づいて被検者の脳活動状態についての所見を得ることができる場合がある。
【0030】
例えば
図5のレーダチャートRCにおいては、トータルパワー値が概ね左右対称性の分布を保ちつつ減少していく経時変化が示されている。このような変化は、脳活動が全体的に悪化している予兆(例えば脳死状態)と考えることができる。したがって、脳波パラメータ値の経時変化を参照することにより、脳波パラメータ値の分布が左側頭部と右側頭部とで対称であるかという情報のみでは判断できない脳活動状態の異常についての判断を支援できる。
【0031】
逆に
図6のレーダチャートRCにおいては、トータルパワー値が概ね左右対称性の分布を保ちつつ増加していく経時変化が示されている。このような変化からは、被検者の脳機能の回復傾向を読み取ることができる。
【0032】
図4から
図6に示された例においては、現在により近い時点で取得された脳波パラメータ値がより強調されるように表示がなされている。強調は、色、線の太さ、線の種別、濃淡などを相違させることによりなされうる。
【0033】
このような構成によれば、脳波パラメータ値の経時変化をより直感的にユーザに把握させることができ、脳活動状態の異常についての判断支援性を高めることができる。
【0034】
図7に例示されるように、可視化装置13においては、レーダチャートRCにおける特定の時点で取得された脳波パラメータ値に係るプロットが特定可能とされうる。この場合、可視化装置13は、特定された時点で取得された脳波信号ESを可視化するように構成されうる。レーダチャートRCにおいて特定の時点で取得された脳波パラメータ値を含む領域は、レーダチャートにおける特定の領域の一例である。
【0035】
具体的には、
図2に例示されるように、信号処理システム10は、ユーザインターフェース14を含みうる。ユーザインターフェース14は、可視化装置13において可視化されたレーダチャートRCにおける特定の時点で取得された脳波パラメータ値に係るプロットの特定を支援するための適宜の構成を備えうる。ユーザインターフェース14は、マウス、ポインタ、可視化装置13の一部を構成するタッチパネルなどにより実現されうる。
【0036】
レーダチャートRCにおける特定の時点で取得された脳波パラメータ値に係るプロットが特定されると、いずれの時点で取得された脳波パラメータ値に係るプロットが特定されたのかを示す特定情報SPが、ユーザインターフェース14から信号処理装置12へ送信される。
【0037】
信号処理装置12は、脳波パラメータ値の取得処理がなされる度に、当該処理に用いられた脳波信号ESに対応するデータをストレージ124に格納するように構成される。プロセッサ122は、入力インターフェース121により受け付けられた特定情報SPにより特定された時点で行なわれた脳波パラメータ値の取得処理に用いられた脳波信号ESに対応するデータをストレージ124から読み出し、脳波信号ESを可視化装置13に可視化させる可視化データVDを出力インターフェース123から出力する。可視化装置13は、可視化データVDに基づいて、
図7に例示されるように脳波信号ESの可視化を実行する。
【0038】
このような構成によれば、レーダチャートRCとして可視化された情報に対してユーザが疑問や興味を抱いた場合、当該情報のソースである脳波を直ちに確認できる。これにより、脳活動状態の異常についての判断支援性を高めることができる。
【0039】
なお、上記の構成は、単一時点に係る脳波パラメータ値のみが可視化されている
図3のレーダチャートRCに対しても適用可能である。
【0040】
図8に例示されるように、可視化装置13においては、レーダチャートRCにおける特定の座標軸が特定可能とされうる。この場合、可視化装置13は、特定された座標軸に対応する電極を通じて取得された脳波信号ESを可視化するように構成されうる。レーダチャートRCにおける特定の座標軸は、レーダチャートにおける特定の領域の一例である。特定される座標軸は、複数であってもよい。
【0041】
この場合、レーダチャートRCにおける特定の座標軸が特定されると、いずれの座標軸が特定されたのかを示す特定情報SPが、ユーザインターフェース14から信号処理装置12へ送信される。
【0042】
プロセッサ122は、入力インターフェース121により受け付けられた特定情報SPにより特定された座標軸に対応する電極を通じて取得された脳波信号ESに対応するデータをストレージ124から読み出し、脳波信号ESを可視化装置13に可視化させる可視化データVDを出力インターフェース123から出力する。可視化装置13は、可視化データVDに基づいて、
図8に例示されるように脳波信号ESの可視化を実行する。
【0043】
このような構成によっても、レーダチャートRCとして可視化された情報に対してユーザが疑問や興味を抱いた場合、当該情報のソースである脳波を直ちに確認できる。これにより、脳活動状態の異常についての判断支援性を高めることができる。
【0044】
なお、
図8に示される例においては、取得された時点が異なる複数の脳波信号ESが上下方向に並ぶように配列されている。しかしながら、左右方向に延びる時間軸を共有するように複数の脳波信号ESを重畳表示し、表示態様(線種、線の濃淡、線の色、線の太さなど)を脳波信号ES間で相違させることにより、取得された時点が異なる複数の脳波信号ESが区別可能とされてもよい。
【0045】
なお、ユーザインターフェース14は、レーダチャートRCにおける任意の領域を特定できるように構成されうる。例えば、レーダチャートRCにおける任意の領域を囲む操作が、マウスによるカーソルの操作やタッチパネルに対するタッチ操作を通じて行なわれうる。
【0046】
この場合、特定情報SPは、レーダチャートRCにおけるいずれの領域が特定されたのかを示す情報を含む。プロセッサ122は、特定情報SPにより特定された領域に含まれる脳波パラメータの値のソースである脳波信号ESに対応するデータをストレージ124から読み出し、脳波信号ESを可視化装置13に可視化させる可視化データVDを出力インターフェース123から出力する。可視化装置13は、可視化データVDに基づいて、脳波信号ESの可視化を実行する。
【0047】
健常者の脳波信号ESに基づいて取得された脳波パラメータ値に対応する基準値が、ストレージ124に格納されうる。基準値の例としては、比較に供される被検者の脳活動の正常時に予め取得された脳波パラメータ値、複数の健常者について予め取得された脳波パラメータ値の平均値、文献等で一般に知られている健常者から取得されうる脳波パラメータ値などが挙げられる。
【0048】
この場合、
図3に破線で例示されるように、当該基準値がレーダチャートRC上にプロットされうる。具体的には、プロセッサ122は、基準値をストレージ124から読み出し、これらを可視化装置13に可視化させる可視化データVDを出力インターフェース123から出力する。
【0049】
このような構成によれば、取得された被検者の脳波パラメータ値を、当該被検者の脳活動状態が正常であるときに取得されるであろう脳波パラメータ値と比較できる。これにより、当該被検者の脳活動状態の異常についての判断支援性を高めることができる。
【0050】
図2に例示されるように、信号処理システム10は、報知装置15を含みうる。報知装置15は、レーダチャートRC上に可視化される複数の脳波パラメータ値の少なくとも一つが正常でないことをユーザに報知するように構成されうる。報知は、視覚的報知、聴覚的報知、および触覚的報知の少なくとも一つを通じてなされうる。
【0051】
一例として、複数の脳波パラメータ値の少なくとも一つが所定の閾値範囲から外れた場合に報知がなされうる。別例として、複数の脳波パラメータ値の少なくとも一つの経時変化に伴う変化量が閾値を上回る場合に報知がなされうる。
【0052】
複数の脳波パラメータ値に基づいて取得される統計値が所定の閾値範囲から外れた場合に報知がなされてもよい。統計値の例としては、複数のパラメータ値の合計値、平均値、最大値、最小値などが挙げられる。左側頭部について得られた複数のパラメータ値の統計値と右側頭部について得られた複数のパラメータ値の統計値との差異が閾値を上回る場合に報知がなされてもよい。
【0053】
具体的には、信号処理装置12のプロセッサ122が、脳波パラメータ値が取得される度に、所定の異常条件を満足しているかの判断を行なう。少なくとも一つの脳波パラメータ値または複数の脳パラメータ値に基づく統計値が所定の異常条件を満足したと判断されると、プロセッサ122は、報知装置15に所定の報知を実行させる制御信号CTを出力インターフェース123から出力する。報知装置15は、制御信号CTに基づいて報知を実行する。
【0054】
このような構成によれば、被検者の脳活動が正常状態から逸脱した場合あるいは逸脱しつつある場合において、ユーザに対して迅速な対応を促すことができる。
【0055】
これまで説明した各種の機能を有する信号処理装置12のプロセッサ122は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、上述した処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。ROMは、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。当該コンピュータプログラムは、汎用メモリにプリインストールされてもよいし、通信ネットワークを介して外部サーバからダウンロードされてから汎用メモリにインストールされてもよい。この場合、外部サーバは、コンピュータプログラムを記憶している非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。なお、ストレージ124は、当該汎用メモリにより実現されてもよい。
【0056】
これまで説明した各種の機能を有する信号処理装置12のプロセッサ122は、マイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの上記のコンピュータプログラムを実行可能な専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該専用集積回路に含まれる記憶素子に上記のコンピュータプログラムがプリインストールされる。当該記憶素子は、コンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ可読媒体の一例である。なお、ストレージ124は、当該記憶素子により実現されてもよい。
【0057】
これまで説明した各種の機能を有する信号処理装置12のプロセッサ122は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによっても実現されうる。
【0058】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0059】
上記の実施形態においては、被検者の頭部について六つの領域が設定されており、レーダチャートRCが六本の座標軸を含んでいる。しかしながら、レーダチャートRCを作成可能であれば、領域の数は適宜に変更されうる。例えば、
図2に例示される10-20法に係る複数の電極位置から少なくとも二つが適宜に選択されうる。
【0060】
上記の実施形態においては、被検者の頭部について設定された複数の領域の各々に一つの電極が対応付けられている。しかしながら、各領域に対応付けられる電極の数は、二つ以上であってもよい。この場合、各領域においてレーダチャートRC上の可視化に供される脳波パラメータ値は、複数の電極を通じて取得される複数の脳波パラメータ値に基づく統計値とされうる。統計値の例としては、平均値、最大値、最小値、中間値、最頻値などが挙げられる。
【0061】
上記の実施形態においては、信号処理装置12のプロセッサ122は、周波数分析処理に基づいて脳波パラメータ値を取得している。しかしながら、周波数分析処理によらずに取得可能な脳波パラメータ値がレーダチャートRC上の可視化に供されてもよい。そのような脳波パラメータの例としては、脳波振幅、バーストサプレッション、麻酔深度、鎮静度、アーチファクトなどが挙げられる。
【0062】
信号処理装置12と可視化装置13は、単一の装置として構成されてもよい。例えば他のバイタルパラメータ(血圧、体温、呼吸、等)を取得及び表示する生体情報モニタが信号処理装置12の機能と可視化装置13の機能を備えることによって上述の可視化手法を実現してもよい。同様に、信号処理装置12、可視化装置13、および報知装置15は、単一の装置として構成されてもよい。
【0063】
AおよびBという二つの主体について本明細書で用いられる「AとBの少なくとも一方」という表現は、Aのみが特定される場合、Bのみが特定される場合、およびAとBの双方が特定される場合を含む意味である。AとBの各主体は、特に断りのない限り単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0064】
A、B、およびCという三つの主体について本明細書で用いられる「A、B、およびCの少なくとも一つ」という表現は、Aのみが特定される場合、Bのみが特定される場合、Cのみが特定される場合、AとBが特定される場合、BとCが特定される場合、AとCが特定される場合、およびA、B、Cの全てが特定される場合を含む意味である。A、B、およびCの各主体は、特に断りのない限り単数であってもよいし、複数であってもよい。記述の対象となる主体が四つ以上の場合についても同様である。
【符号の説明】
【0065】
10:脳波信号処理システム、110:複数の電極、12:脳波信号処理装置、121:入力インターフェース、122:プロセッサ、124:ストレージ、13:可視化装置、15:報知装置、ES:脳波信号、RC:レーダチャート、VD:可視化データ