IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-位置制御装置 図1
  • 特許-位置制御装置 図2
  • 特許-位置制御装置 図3
  • 特許-位置制御装置 図4
  • 特許-位置制御装置 図5
  • 特許-位置制御装置 図6
  • 特許-位置制御装置 図7
  • 特許-位置制御装置 図8
  • 特許-位置制御装置 図9
  • 特許-位置制御装置 図10
  • 特許-位置制御装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】位置制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20250415BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P27/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021164477
(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公開番号】P2023055279
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】惠木 快昌
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-099444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を三相交流電力に変換するPWMインバータと、
三相同期電動機の回転角を検出する位置検出器と、
前記位置検出器が検出した前記回転角を前記三相同期電動機の回転速度に変換して出力する回転角変換部と、
前記位置検出器が検出した前記回転角から前記三相同期電動機の電気角を演算して出力する電気角演算部と、を含み、
位置指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とを演算し、演算した前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値からd軸電圧指令値とq軸電圧指令値とを演算し、演算したd軸電圧指令値とq軸電圧指令値とをU、V、Wの各相の制御電圧指令値に変換し、変換したU、V、Wの各相の前記制御電圧指令値を前記PWMインバータに入力して前記三相同期電動機のU、V、Wの各相の電流値を調整することにより、前記三相同期電動機の前記回転速度と前記回転角とを制御する位置制御装置であって、
前記d軸電流指令値に付加されるd軸付加電流値を演算して出力するd軸付加電流演算部を備え、
前記d軸付加電流演算部が出力する前記d軸付加電流値は、
前記電気角演算部から出力された前記電気角に応じて正負の間で極性が変化するように振動し、U、V、Wの各相の前記電流値がゼロクロスするゼロクロス電気角において前記q軸電流指令値の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスすること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置制御装置であって、
前記位置指令値に基づいてトルク指令値を演算して出力する位置・速度制御部を含み、
記d軸付加電流演算部は、
前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の割合の逆正接により、U相の前記電流値がゼロクロスするゼロクロス電気角の内で最もゼロに近い第1ゼロクロス電気角を算出し、出力する逆正接演算部と、
前記電気角演算部から出力された前記電気角から前記第1ゼロクロス電気角を減算して修正電気角を出力する減算器と、
前記減算器から入力された前記修正電気角がn×60°の際に負の傾きでゼロクロスするように振動し、振幅が1の位相係数を計算して出力する位相係数算出部と、
前記d軸付加電流値の予め設定された振幅基準値を格納するd軸振幅基準値格納部と、
前記回転角変換部から出力された前記回転速度に応じた速度補正係数を算出して出力する速度補正係数算出部と、
前記位置・速度制御部が算出した前記トルク指令値に応じたトルク補正係数を算出して出力するトルク補正係数算出部と、
前記振幅基準値と前記速度補正係数と前記トルク補正係数と前記位相係数との積を演算して前記d軸付加電流値を算出する乗算器と、を含み、
前記nはゼロまたは自然数であること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項3】
請求項に記載の位置制御装置であって、
前記速度補正係数算出部は、前記回転角変換部から出力された前記回転速度に応じて前記速度補正係数を増減させること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項4】
請求項に記載の位置制御装置であって、
前記速度補正係数算出部は、前記回転速度の絶対値が速度第1閾値以下の場合と前記速度第1閾値よりも大きい速度第2閾値以上の場合に前記速度補正係数を1よりも小さくし、前記回転速度が前記速度第1閾値と前記速度第2閾値との間の場合に前記速度補正係数が1となるように前記速度補正係数をゼロと1との間で増減すること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項5】
請求項に記載の位置制御装置であって、
前記速度補正係数算出部は、前記回転速度の絶対値が前記速度第1閾値よりも小さい速度第3閾値以下の場合と、前記回転速度の絶対値が前記速度第2閾値よりも大きい速度第4閾値以上の場合に前記速度補正係数をゼロとすること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項6】
請求項からのいずれか1項に記載の位置制御装置であって、
前記トルク補正係数算出部は、前記トルク指令値に応じて前記トルク補正係数を増減させること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項7】
請求項に記載の位置制御装置であって、
前記トルク補正係数算出部は、前記トルク補正係数の極性が前記トルク指令値の極性と同一の極性で、前記トルク指令値の絶対値がトルク第1閾値以下の場合には、前記トルク補正係数の絶対値は前記トルク指令値の絶対値が増加するに従って増加し、前記トルク指令値の絶対値が前記トルク第1閾値よりも大きいトルク第2閾値以上の場合には、前記トルク補正係数の絶対値は前記トルク指令値の絶対値が増加するに従って減少し、前記トルク第1閾値と前記トルク第2閾値との間では1となるように前記トルク補正係数を-1と1との間で増減し、前記トルク指令値の絶対値が前記トルク第2閾値よりも大きいトルク第3閾値以上の場合に前記トルク補正係数をゼロとすること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の位置制御装置であって、
前記q軸電流指令値に付加されるq軸付加電流値を演算して出力するq軸付加電流演算部と、を備え、
前記q軸付加電流演算部の算出する前記q軸付加電流値は、前記d軸付加電流値により発生するトルクを打ち消す大きさであること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項9】
請求項に記載の位置制御装置であって、
前記q軸付加電流演算部の算出する前記q軸付加電流値は、
d軸電流が前記d軸電流指令値で、q軸電流が前記q軸電流指令値として算出した前記三相同期電動機の第1計算トルクと、
前記d軸電流が前記d軸電流指令値と前記d軸付加電流値との合計で、前記q軸電流が前記q軸電流指令値と前記q軸付加電流値との合計として算出した前記三相同期電動機の第2計算トルクとが等しくなる大きさであり、
前記q軸付加電流値は以下の式により算出され、
q軸付加電流値Iqc
=K・Idc・Iq* /(K+K・Idc+K・Id*)
ここで、Idcは、前記d軸付加電流値であり、
Id*は、前記d軸電流指令値であり、
Iq*は、前記q軸電流指令値であり、
=p・Φmであり、
=p・(Lq―Ld)であり、
pは、前記三相同期電動機の極対数であり、
Φmは、永久磁石の磁束であり、
Ldは、d軸インダクタンスであり、
Lqは、q軸インダクタンスであること、
を特徴とする位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相同期電動機の回転速度と回転角とを制御する位置制御装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
NC工作機械の送り軸の回転速度や回転角(位置)を制御する位置制御装置では、三相の同期電動機(以降モータとの呼称を併用する)を制御して、モータに接続されたテーブルやワークなどの負荷を駆動することが多い。この構成の場合、電力変換器としては、通常、PWMインバータが採用される。
【0003】
従来、モータ制御では、2相回転座標系(一般に、磁極方向をd軸、その電気的直交方向をq軸と呼ぶ)を用いて、モータ電流を制御する2相電圧指令値(Vd、vq)が演算され、これを3相変換して、3相制御電圧指令値(Vu、Vv、Vw)が決定される。さらに、PWMインバータで電力増幅されて、モータ駆動の電圧(Vu、Vv、Vw)となる。
【0004】
図8は、PWMインバータの1相分の電圧出力部を示した回路図である。DCバス電圧Vdcの回路から、トランジスタTr1とトランジスタTr2のON/OFFを高速にスイッチング制御することで、出力される相電圧Vは、平均的に0~Vdcの間で可変できる。制御電圧指令値Voは、2個のトランジスタのON/OFFを指令するもので、Tr1のON期間は、V=Vdc、Tr2のON期間は、V=0になる。なお、ダイオードD1とダイオードD2は還流用である。
【0005】
図9は、トランジスタTr1とトランジスタTr2を、ある制御電圧指令値Voでスイッチングした場合に出力される相電圧Vを示している。図9の上側が制御電圧指令値Voの一例になる。両トランジスタTr1,Tr2が同時にOFFとなるデッドタイムTdは、両トランジスタTr1,Tr2が同時にONして短絡破壊を招かないようにするための休止時間である。
【0006】
図9の下側は、この時のPWMインバータから出力される相電圧Vになる。電流流出時(図9中にOUTで示す)は、トランジスタTr1がOFFでダイオードD2に電流が流れ、出力電圧が0に、電流流入時(図9中にINで示す)は、トランジスタTr2がOFFでダイオードD1に電流が流れ、出力される相電圧VはDCバス電圧Vdcとなる。つまり、トランジスタTr1,Tr2に対して、同じ制御電圧指令値Voを与えても、出力される平均的な相電圧Vには、電流方向による差異が発生する。
【0007】
図10は、制御電圧指令値Voを横軸に、PWMインバータから出力される相電圧Vを縦軸にとって、PWMインバータの1相分の入出力関係を示した図である。ただし、制御電圧指令値Voと出力される相電圧Vは、ともに、ON/OFFデューティに応じた平均的な電圧として表現している。点線は電流流出時(図10中にOUTで示す)の入出力関係を、一点鎖線は、電流流入時(図10中にINで示す)の入出力関係を示している。なお、実線は理想的な線形特性を表している。
【0008】
ここで、出力される相電圧Vは、電流流入から電流流出へ電流方向が変わる時には図10中の矢印300のように、電流流出から電流流入へ電流方向が変わる時には矢印301のように遷移するため、出力される相電圧Vが不連続となって、結果的に電流応答が遅れ、位置制御装置としては位置偏差DIFが発生することになる。
【0009】
このため、理想的な線形特性を示す実線の上に、PWMインバータから出力される相電圧Vが乗るように、電流流入の時にはデッドタイム補償値-Vodを、電流流出の時にはデッドタイム補償値+Vodを、予め制御電圧指令値Voに加算して、PWMインバータの入力電圧とするデッドタイム補償処理が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
ここで、図11を参照しながら、従来技術の位置制御装置30の構成について説明する。位置制御装置30は、直流電力を三相交流電力に変換するPWMインバータ10と、三相同期電動機20(以下、モータ20という)の回転角θmを検出する位置検出器21と、位置検出器21が検出した回転角θmをモータ20の回転速度ωmに変換して出力する回転角変換部である微分器14と、位置検出器21が検出した回転角θmからモータ20のモータ電気角θを演算して出力する電気角演算部13と、を含んでいる。電気角演算部13は、位置検出器21が検出した回転角θmから、モータ20のポール数、及び、電気角オフセット量に基づきモータ20のモータ電気角θを演算する。
【0011】
位置・速度制御部2は、位置指令値Xと、位置検出器21が検出した回転角θmと、微分器14が出力した回転速度ωmを入力とし、位置制御ループ、速度制御ループによるフィードバック処理、及び、各種フィードフォワード処理を行い、トルク指令値Tcを出力する。
【0012】
dq軸電流指令演算部3は、既知である同期電動機のdq軸制御理論に基づき、トルク指令値Tc、回転速度ωmより、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を出力する。なお、表面磁石構造の同期モータ(以降、SPMSMと呼称する)の場合、及び、埋込磁石構造の同期モータ(以降、IPMSMと呼称する)でもリラクタンストルクを利用しない制御方式の場合、通常、高速回転時以外ではId*=0となり、IPMSMでリラクタンストルクを利用する場合、Id*≠0となる。
【0013】
dq軸電圧指令演算部4は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、及び、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqを入力とし、電流制御ループによるフィードバック処理、dq軸制御理論に基づくフィードフォワード処理を行い、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を出力する。d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqは、電流検出器11により検出されたU相電流検出値Ium、電流検出器12により検出されたW相電流検出値Iwmを、3相/2相変換部19がモータ電気角θに基づき座標変換して出力する。
【0014】
2相/3相変換部5は、d軸電圧指令値Vd*と、q軸電圧指令値Vq*をモータ電気角θにより座標変換し、U相制御電圧指令値Vu*、V相制御電圧指令値Vv*、W相制御電圧指令値Vw*を出力する。
【0015】
デッドタイム補償量演算部6は、d軸電流指令値Id*と、q軸電流指令値Iq*を、モータ電気角θにより座標変換し、U相、V相、W相の各層電流指令値を演算し、電流指令値に応じて、前述したデッドタイム補償値(Vud、Vvd、Vwd)を演算して出力する。
【0016】
加算器7は、U相制御電圧指令値Vu*にデッドタイム補償値Vudを加算して、デッドタイム補償後のU相制御電圧指令値Vuoを出力する。加算器8と加算器9は、同様に、V相、W相制御電圧指令値(Vv*、Vw*)にそれぞれデッドタイム補償値(Vvd、Vwd)を加算して、デッドタイム補償後のV相制御電圧指令値VvoとW相制御電圧指令値Vwoを出力する。
【0017】
前述したように、PWMインバータ10は、デッドタイム補償後の各相制御電圧指令値(Vuo、Vvo、Vwo)を入力として、これを電力増幅して、モータ駆動の相電圧(Vu、Vv、Vw)を出力する。各出力相電圧はモータ20の各相に印加され、各相電流(Iu、Iv、Iw)が発生する。
【0018】
前述したように、デッドタイムTdの各相電圧は、各相電流(Iu、Iv、Iw)の方向によって変化するため、各相電流(Iu、Iv、Iw)の絶対値が小さいゼロクロス近傍において、デッドタイム補償処理を正確に実施することが困難である。そのため、各相電流(Iu、Iv、Iw)のゼロクロス近傍において電流制御性が悪化し、トルク外乱が発生し、位置偏差DIFとなる。各相電流(Iu、Iv、Iw)のゼロクロス点は、モータ電気角の1回転に対し合計6回存在するため、極対数pのモータの場合、モータ回転数×6×p倍周期のトルク外乱、即ち、位置偏差リップルが発生する。
【0019】
一般的に、位置制御装置30の外乱抑圧性能は、低周波数ほど向上する。また、モータの回転速度ωmが高い場合、各相電流(Iu、Iv、Iw)でトルク外乱が発生するゼロクロス近傍の微小電流区間が短くなり、トルク外乱の影響が小さくなる。このため、特定のモータ回転数区間において、デッドタイムTdに起因するトルク外乱による位置偏差リップルが大きくなり、加工面品位の低下に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】特開2011-188633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
デッドタイムに起因した位置偏差リップルにより、加工面品位が低下する問題は、従来、デッドタイム補償方法の改善によって、影響低減を図ってきた。しかしながら、電流方向を厳密に検出し、デッドタイム補償値を正確に切換えることは容易では無く、デッドタイム補償による位置偏差リップル低減には限界があった。
【0022】
そこで、本発明は、三相同期電動機の電流を制御する位置制御装置において、デッドタイムに起因する位置偏差リップルを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の位置制御装置は、直流電力を三相交流電力に変換するPWMインバータと、
三相同期電動機の回転角を検出する位置検出器と、前記位置検出器が検出した前記回転角を前記三相同期電動機の回転速度に変換して出力する回転角変換部と、前記位置検出器が検出した前記回転角から前記三相同期電動機の電気角を演算して出力する電気角演算部と、を含み、位置指令値に基づいてd軸電流指令値とq軸電流指令値とを演算し、演算した前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値からd軸電圧指令値とq軸電圧指令値とを演算し、演算したd軸電圧指令値とq軸電圧指令値とをU、V、Wの各相の制御電圧指令値に変換し、変換したU、V、Wの各相の前記制御電圧指令値を前記PWMインバータに入力して前記三相同期電動機のU、V、Wの各相の電流値を調整することにより、前記三相同期電動機の前記回転速度と前記回転角とを制御する位置制御装置であって、前記d軸電流指令値に付加されるd軸付加電流値を演算して出力するd軸付加電流演算部を備え、前記d軸付加電流演算部が出力する前記d軸付加電流値は、前記電気角演算部から出力された前記電気角に応じて正負の間で極性が変化するように振動し、U、V、Wの各相の前記電流値がゼロクロスするゼロクロス電気角において前記q軸電流指令値の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスすること、を特徴とする。
【0024】
このように、d軸電流指令に対し、各相電流がゼロクロスするモータ電気角において、q軸電流指令の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスするd軸付加電流を加算することによって、各相電流がゼロクロスする際の傾きの絶対値を大きくする。これにより、正しくデッドタイム補償できない微小電流区間が短くなり、トルク外乱の影響が小さくなるため、デッドタイムに起因した位置偏差リップルを低減できる。
【0025】
本発明の位置制御装置において、前記d軸付加電流演算部は、前記q軸電流指令値に対する前記d軸電流指令値の割合の逆正接により、U相の前記電流値がゼロクロスするゼロクロス電気角の内で最もゼロに近い第1ゼロクロス電気角を算出し、出力する逆正接演算部と、前記電気角演算部から出力された前記電気角から前記第1ゼロクロス電気角を減算して修正電気角を出力する減算器と、前記減算器から入力された前記修正電気角がn×60°の際に負の傾きでゼロクロスするように振動し、振幅が1の位相係数を計算して出力する位相係数算出部と、前記d軸付加電流値の予め設定された振幅基準値を格納するd軸振幅基準値格納部と、前記回転角変換部から出力された前記回転速度に応じた速度補正係数を算出して出力する速度補正係数算出部と、前記位置・速度制御部が算出した前記トルク指令値に応じたトルク補正係数を算出して出力するトルク補正係数算出部と、前記振幅基準値と前記速度補正係数と前記トルク補正係数と前記位相係数との積を演算して前記d軸付加電流値を算出する乗算器と、を含み、前記nはゼロまたは自然数としてもよい。
【0026】
これにより、位置指令値に基づいて演算したd軸電流指令値とq軸電流指令値と、電気角演算部から出力された電気角とに基づいて、電気角に応じて極性が変化するように振動し、U、V、Wの各相の前記電流値がゼロクロスするゼロクロス電気角において前記q軸電流指令値の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスする位相係数を算出し、三相同期電動機の回転速度またはトルク指令値に応じて速度補正係数とトルク補正係数を設定し、回転速度またはトルク指令値に応じたd軸付加電流値を設定することができる。
【0029】
本発明の位置制御装置において、前記速度補正係数算出部は、前記回転角変換部から出力された前記回転速度に応じて前記速度補正係数を増減させてもよい。
【0030】
これにより、回転速度の変化に応じてd軸付加電流値を増減させることができる。
【0031】
本発明の位置制御装置において、前記速度補正係数算出部は、前記回転速度の絶対値が速度第1閾値以下の場合と前記速度第1閾値よりも大きい速度第2閾値以上の場合に前記速度補正係数を1よりも小さくし、前記回転速度が前記速度第1閾値と前記速度第2閾値との間の場合に前記速度補正係数が1となるように前記速度補正係数をゼロと1との間で増減させてもよい。
【0032】
これにより、位置制御装置の外乱抑圧性能が高くなる回転速度の絶対値が第1速度閾値以下の場合と、デッドタイムに起因する位置偏差リップルが十分小さくなる速度第2閾値以上の場合に速度補正係数を1より小さくしてd軸付加電流値を小さくできる。また、回転速度の絶対値が速度第1閾値と速度第2閾値との間において、速度補正係数を1とできるので、この回転速度範囲におけるデッドタイムに起因するトルク外乱による位置偏差リップルが大きくなることを抑制でき、加工面品位の低下を抑制することができる。
【0033】
本発明の位置制御装置において、前記速度補正係数算出部は、前記回転速度の絶対値が前記速度第1閾値よりも小さい速度第3閾値以下の場合と、前記回転速度の絶対値が前記速度第2閾値よりも大きい速度第4閾値以上の場合に前記速度補正係数をゼロとしてもよい。
【0034】
これにより、回転速度の絶対値が更に小さい場合と回転速度の絶対値が更に大きい場合に、d軸付加電流値をゼロとすることができる。
【0035】
本発明の位置制御装置において、前記トルク補正係数算出部は、前記トルク指令値に応じて前記トルク補正係数を増減させてもよい。
【0036】
これにより、トルク指令値の変化に応じてd軸付加電流値を増減させることができる。
【0037】
本発明の位置制御装置において、前記トルク補正係数算出部は、前記トルク補正係数の極性が前記トルク指令値の極性と同一の極性で、前記トルク指令値の絶対値がトルク第1閾値以下の場合には、前記トルク補正係数の絶対値は前記トルク指令値の絶対値が増加するに従って増加し、前記トルク指令値の絶対値が前記トルク第1閾値よりも大きいトルク第2閾値以上の場合には、前記トルク補正係数の絶対値は前記トルク指令値の絶対値が増加するに従って減少し、前記トルク第1閾値と前記トルク第2閾値との間では1となるように前記トルク補正係数を-1と1との間で増減し、前記トルク指令値の絶対値が前記トルク第2閾値よりも大きいトルク第3閾値以上の場合に前記トルク補正係数をゼロとしてもよい。
【0038】
これにより、デッドタイムに起因する位置偏差リップルが小さくなるトルク指令値の絶対値がトルク第2閾値以上の場合にトルク補正係数の絶対値を1よりも小さくしてd軸付加電流値を小さくできる。更に、トルク指令値の絶対値がトルク第3閾値以上の場合にトルク補正係数をゼロとして、d軸付加電流値をゼロにできる。また、トルク指令値の絶対値がトルク第1閾値とトルク第2閾値との間においてトルク補正係数の絶対値を1とするので、このトルク指令値の範囲においてデッドタイムに起因するトルク外乱による位置偏差リップルが大きくなることを抑制でき、加工面品位の低下を抑制することができる。
【0039】
本発明の位置制御装置において、前記q軸電流指令値に付加されるq軸付加電流値を演算して出力するq軸付加電流演算部と、を備え、前記q軸付加電流演算部の算出する前記q軸付加電流値は、前記d軸付加電流値により発生するトルクを打ち消す大きさとしてもよい。
【0040】
これにより、d軸付加電流を印加した際に発生するトルク変動を抑制し、デッドタイムTdに起因した位置偏差リップルを低減できる。
【0041】
本発明の位置制御装置において、前記q軸付加電流演算部の算出する前記q軸付加電流値は、d軸電流が前記d軸電流指令値で、q軸電流が前記q軸電流指令値として算出した前記三相同期電動機の第1計算トルクと、前記d軸電流が前記d軸電流指令値と前記d軸付加電流値との合計で、前記q軸電流が前記q軸電流指令値と前記q軸付加電流値との合計として算出した前記三相同期電動機の第2計算トルクとが等しくなる大きさであり、
q軸付加電流値は以下の式により算出され、
q軸付加電流値Iqc
=K・Idc・Iq* /(K+K・Idc+K・Id*)
ここで、Idcは、前記d軸付加電流値であり、
Id*は、前記d軸電流指令値であり、
Iq*は、前記q軸電流指令値であり、
=p・Φmであり、
=p・(Lq―Ld)であり、
pは、前記三相同期電動機の極対数であり、
Φmは、永久磁石の磁束であり、
Ldは、d軸インダクタンスであり、
Lqは、q軸インダクタンスであること、
としてもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、三相同期電動機の電流を制御する位置制御装置において、デッドタイムに起因する位置偏差リップルを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施形態の位置制御装置のブロック図である。
図2】実施形態の位置制御装置におけるd軸付加電流演算部のブロック図である。
図3】実施形態の位置制御装置における位相係数を示す図である。
図4】実施形態の位置制御装置における位相係数の他の例を示す図である。
図5】実施形態の位置制御装置における回転速度の絶対値に対する速度補正係数の変化を示す図である。
図6】実施形態の位置制御装置におけるトルク指令値に対するトルク補正係数の変化を示す図である。
図7】実施形態の位置制御装置におけるモータ電気角に対するU相電流指令値の変化を示す図である。
図8】PWMインバータの1相分の電圧出力部を示した回路図である。
図9】PWMインバータの1相分の制御電圧指令値と出力される相電圧を示したタイムチャートである。
図10】PWMインバータの1相分の入出力関係(制御電圧指令値-出力相電圧)を示す図である。
図11】従来技術の位置制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図1を参照しながら実施形態の位置制御装置1について説明する。以下、図1の説明では、先に図11を参照して説明した従来技術の位置制御装置30と同一の部分には、同一の符号を付して簡単に説明する。
【0045】
図1に示すように、位置制御装置1は、直流電力を三相交流電力に変換するPWMインバータ10と、三相同期電動機20(以下、モータ20という)の回転角θmを検出する位置検出器21と、位置検出器21が検出した回転角θmをモータ20の回転速度ωmに変換して出力する回転角変換部である微分器14と、位置検出器21が検出した回転角θmからモータ20のモータ電気角θを演算して出力する電気角演算部13と、を含んでいる。電気角演算部13は、位置検出器21が検出した回転角θmから、モータ20のポール数、及び、電気角オフセット量に基づきモータ20のモータ電気角θを演算する。
【0046】
また、位置制御装置1は、先に図11を参照して説明したと同一の構成の位置・速度制御部2と、dq軸電流指令演算部3と、dq軸電圧指令演算部4と、2相/3相変換部5と、デッドタイム補償量演算部6と、加算器7~9と、電流検出器11、12と、3相/2相変換部19と、を備えている。位置・速度制御部2は、位置指令値Xに基づいてトルク指令値Tcを演算、出力する。また、モータ20は、テーブルやワークなどの負荷22を駆動する。
【0047】
図1の位置制御装置1は、d軸付加電流値Idcを算出して出力するd軸付加電流演算部15と、q軸付加電流値Iqcを算出して出力するq軸付加電流演算部16とを備えている。d軸付加電流演算部15が出力したd軸付加電流値Idcは、加算器17でdq軸電流指令演算部3が出力するd軸電流指令値Id*に加算されてd軸電流指令値Id*となる。また、q軸付加電流演算部16が出力したq軸付加電流値Iqcは、加算器18でdq軸電流指令演算部3が出力するq軸電流指令値Iq*に加算されてq軸電流指令値Iq*となる。d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*はdq軸電圧指令演算部4、デッドタイム補償量演算部6に入力される。d軸付加電流値Idcは、各相電流(Iu、Iv、Iw)のゼロクロス点の傾き(dI/dt)の絶対値を増加させるための入力で、後述するd軸付加電流演算部15の出力である。また、q軸付加電流値Iqcは、d軸付加電流値Idcによるトルク変化を補償するための入力で、後述するq軸付加電流演算部16の演算出力である。
【0048】
d軸付加電流演算部15は、各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするモータ電気角θにおいて、q軸電流指令値Iq*の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスするd軸付加電流値Idcを演算し出力する。
【0049】
図2に示すように、d軸付加電流演算部15は、d軸振幅基準値格納部151と、速度補正係数算出部152と、トルク補正係数算出部153と、位相係数算出部155と、逆正接演算部154と、減算器156と、乗算器157~159とを含んでいる。
【0050】
d軸振幅基準値格納部151には、予め設定されたIdcの振幅基準値Idc’が格納されている。d軸付加電流演算部15は、乗算器157、158、159によってd軸振幅基準値格納部151に格納された振幅基準値Idc’と、速度補正係数算出部152の出力する速度補正係数kωと、トルク補正係数算出部153の出力するトルク補正係数ktと、位相係数算出部155の出力する位相係数kΦとの積を順次とり、d軸付加電流値Idcとして出力する。
【0051】
最初に位相係数算出部155の位相係数kΦの算出について説明する。図2に示すように、位相係数算出部155は、モータ電気角θから逆正接演算部154が出力した第1ゼロクロス電気角φを減算した修正電気角θ’=θ-φが入力され、位相係数kΦを出力する。
【0052】
まず、各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするモータ電気角θは、d軸とU相が一致する角度をθ=0とすると、式(1)、式(2)で与えられる。
θ=(n×60°+φ)mod 360° ・・・(1)
tanφ=Id1*/Iq1* ・・・(2)
式(1)において、nは0を含む自然数である。
【0053】
逆正接演算部154は、式(1)で計算される各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするゼロクロス電気角(n×60°+Φ)の内で、n=0でU相相電流Iuがゼロクロスする電気角の内で最もゼロに近い第1ゼロクロス電気角φを、式(2)より、φ=atan(Id*/Iq*)で演算し、出力する。ここで、atanは、逆正接関数であり、(Id*/Iq*)は、q軸電流指令値Iq*に対するd軸電流指令値Id*の割合である。
【0054】
逆正接演算部154から出力された第1ゼロクロス電気角φは、減算器156にてモータ電気角θから減算され、修正電気角θ’=θ-φとして、位相係数算出部155に入力される。従って、モータ電気角θが各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスする第1ゼロクロス電気角φのとき、修正電気角θ’は、θ’=θ-φ=φ-φ=0となる。
【0055】
位相係数算出部155は、減算器156から入力された修正電気角θ’に対し、修正電気角θ’がn×60°の際に負の傾きでゼロクロスするように振動し、振幅が1となるような位相係数kΦを出力する。ここで、nはゼロを含む自然数である。位相係数kΦは、例えば、図3のグラフに示す正弦波や、図4のグラフに示す三角波である。なお、図3、及び、図4に示す修正電気角θ’と位相係数kΦの関係はあくまでも一例であり、他の波形を用いてもよい。
【0056】
速度補正係数算出部152は、モータ20の回転速度ωmに応じて、速度補正係数kω(0≦kω≦1)を出力する。
【0057】
前述したように、モータ20の回転速度ωmの絶対値が小さい場合、位置・速度制御部2の外乱抑圧性能が高く、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルを抑制できる。また、モータ20の回転速度ωmの絶対値が大きい場合、各相電流(Iu、Iv、Iw)のゼロクロス点の傾きが大きく、ゼロクロス点近傍の微小電流区間が短くなるので、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが小さくなる。このため、d軸付加電流演算部15は、モータ20の回転速度ωmの絶対値に応じて、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが十分小さいモータ回転数範囲では、d軸付加電流値Idcを小さくするように速度補正係数kωをゼロと1との間で増減させる。
【0058】
例えば、図5に示すように、モータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第1閾値ωm1以下の場合と速度第2閾値ωm2以上の場合に速度補正係数kωを1よりも小さくし、モータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第1閾値ωm1と速度第2閾値ωm2との間の場合に速度補正係数kωを1としてもよい。
【0059】
そして、モータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第1閾値ωm1よりも小さい速度第3閾値ωm3以下の場合と、モータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第2閾値ωm2よりも大きい速度第4閾値ωm4以上の場合に速度補正係数kωをゼロとしてもよい。尚、速度第1閾値ωm1と速度第3閾値ωm3の間及び、速度第2閾値ωm2と速度第4閾値ωm4との間では速度補正係数kωが0と1の間で変化するようにしてもよい。ここで、速度第3閾値ωm3<速度第1閾値ωm1<速度第2閾値ωm2<速度第4閾値ωm4である。
【0060】
これにより、位置・速度制御部2の外乱抑圧性能が高くなるモータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第1閾値ωm1以下の場合と、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが十分小さくなる速度第2閾値ωm2以上の場合に速度補正係数kωを1より小さくしてd軸付加電流値Idcを小さくできる。また、モータ20の回転速度ωmの絶対値が速度第1閾値ωm1と速度第2閾値ωm2との間において、速度補正係数kωを1とできるので、この回転速度範囲におけるデッドタイムTdに起因するトルク外乱による位置偏差リップルが大きくなることを抑制でき、加工面品位の低下を抑制することができる。なお、図5に示す回転速度ωmの絶対値と速度補正係数kωの関係はあくまでも一例であり、他の関数を用いてもよい。
【0061】
トルク補正係数算出部153は、トルク指令値Tcに応じて、トルク補正係数kt(-1≦kt≦1)を出力する。トルク補正係数ktは、Tc>0の場合、0≦kt≦1の範囲、Tc<0の場合、-1≦kt≦0の範囲、また、トルク指令値Tcの絶対値が一定値より大きい場合、kt=0となるように出力する。
【0062】
トルク指令値Tcの絶対値が大きい場合、各相電流(Iu、Iv、Iw)の振幅が大きくなりゼロクロス点の傾きも増加するため、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが小さくなる。そこで、前記d軸付加電流演算部15は、トルク指令値Tcの絶対値に応じて、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが十分小さいトルク範囲では、前記d軸付加電流値Idcを小さくしても良い。
【0063】
例えば、図6に示すように、トルク補正係数算出部153は、トルク補正係数ktの極性がトルク指令値Tcの極性と同一の極性で、トルク指令値Tcの絶対値がトルク第1閾値Tc1以下の場合には、トルク補正係数ktの絶対値はトルク指令値Tcの絶対値が増加するに従って増加し、トルク指令値Tcの絶対値がトルク第2閾値Tc2以上の場合には、トルク補正係数ktの絶対値はトルク指令値Tcの絶対値が増加するに従って減少し、トルク第1閾値Tc1とトルク第2閾値Tc2との間では1となるように、トルク補正係数ktを-1と1との間で増減し、トルク指令値Tcの絶対値がトルク第3閾値Tc3以上の場合にトルク補正係数ktをゼロとしてもよい。ここで、トルク第1閾値Tc1<トルク第2閾値Tc2<トルク第3閾値Tc3である。
【0064】
これにより、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルが小さくなるトルク指令値Tcの絶対値がトルク第2閾値Tc2以上の場合にトルク補正係数ktの絶対値を1よりも小さくしてd軸付加電流値Idcを小さくできる。更に、トルク指令値Tcの絶対値がトルク第3閾値Tc3以上の場合にトルク補正係数ktをゼロとして、d軸付加電流値Idcをゼロにできる。また、トルク指令値Tcの絶対値がトルク第1閾値Tc1とトルク第2閾値Tc2との間においてトルク補正係数ktの絶対値を1とするので、このトルク指令値Tcの範囲においてデッドタイムTdに起因するトルク外乱による位置偏差リップルが大きくなることを抑制でき、加工面品位の低下を抑制することができる。なお、図6に示すトルク指令値Tcとトルク補正係数ktの関係はあくまでも一例であり、他の関数を用いてもよい。
【0065】
以下、位相係数kΦが図3に示す正弦波の場合のd軸付加電流値Idcの波形の例を示す。位相係数kΦが図3に示す正弦波の場合、
kΦ=-sin(6×θ’)
=-sin(6×(θ-φ)) ・・・ (6)
となる。
この場合、d軸付加電流値Idcは、先に説明した振幅基準値Idc’、速度補正係数kω、トルク補正係数ktを用いて以下の式のようになる。
Idc=Idc’×kω×kt×kΦ
=-Idc’×kω×kt×sin(6×θ’)
=-Idc’×kω×kt×sin(6×(θ-φ)) ・・・ (7)
各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするモータ電気角θにおいてIdc(θ0)は、式(7)と式(2)とから下記の式(8)のようにゼロとなる。
Idc(θ)=-Idc’×kω×kt×sin(6×(θ-φ))
=-Idc’×kω×kt×sin(6×(n×60°+φ-φ))
=-Idc’×kω×kt×sin(n×360°)
=0 ・・・・・・・・・ (8)
また、各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするモータ電気角θにおいてIdc(θ0)の傾きは、式(7)を修正電気角θ’で微分した式にθを代入すると、下記の式(9)のようになる。
dIdc/dθ(θ)=-6×Idc’×kω×kt×cos(n×360°)
=-6×Idc’×kω×kt ・・・ (9)
ここで、同期電動機のdq軸制御理論では、トルク指令値Tcとq軸電流指令値Iq1*の極性が一致し、図6に示すようにトルク指令値Tcとトルク補正係数ktの極性が一致する。つまり、
トルク指令値Tcの極性=q軸電流指令値Iq1*の極性 ・・・ (10)
トルク指令値Tcの極性=トルク補正係数ktの極性 ・・・ (11)
従って、
q軸電流指令値Iq1*の極性=トルク補正係数ktの極性 ・・・ (12)
となる。
また、d軸付加電流値Idcに関係する残りの係数の振幅基準値Idc’、速度補正係数kωは正の係数である。
従って、d軸付加電流値Idcは、各相電流(Iu、Iv、Iw)がゼロクロスするモータ電気角θにおいて、q軸電流指令値Iq*の極性と逆極性の傾きをもってゼロクロスする。
【0066】
図7は、SPMSMを想定したId*=0、Iqc=0の場合におけるd軸付加電流値IdcによるU相相電流Iuの変化の一例を示す図である。U相相電流Iuは、dq軸制御理論に基づく3相変換により下記の式(13)のようになる。
U相相電流=-Iq*×sinθ+Id*×cosθ ・・・ (13)
これに、Iq*にq軸電流指令値Iq*、Id*に=d軸付加電流値Idcを代入すると、
U相相電流=-Iq*×sinθ+Idc×cosθ
=-Iq*×sinθ-Idc’×kω×kt×sin(6×θ)×cosθ
・・・ (14)
ここで、Idc’×kω×kt=0.15×Iq*の条件を代入すると、
U相相電流=-Iq*×sinθ
-[0.15×Iq1*×sin(6×θ)]×cosθ
・・・ (15)
となる。
【0067】
図7では、実線がIdc=0、破線がIdc=-0.15×Iq*×sin(6×θ)の場合のU相相電流Iuを示している。d軸付加電流値Idcにより、U相相電流Iuのゼロクロス時の|dIu/dt|が増加することで、相電流ゼロクロス近傍のデッドタイムTdの補償不一致によるトルク外乱を小さくすることができる。
【0068】
次にq軸付加電流演算部16について説明する。q軸付加電流演算部16は、前記d軸付加電流値Idcで発生するトルクを打ち消すq軸付加電流値Iqcを演算し出力する。同期電動機のトルクTは、モータ20の極対数p、永久磁石の磁束Φm、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、d軸電流Id、q軸電流Iqを用いて、式(3)で与えられる。
T=p・Φm・Iq+p・(Lq―Ld)・Id・Iq
=K1・Iq+K・Id・Iq ・・・(3)
ここで、K=p・Φm、K=p・(Lq―Ld)である。
前記d軸付加電流値Idcと前記q軸付加電流値Iqcについて、式(3)にIq=Iq*、Id=Id1*を代入した第1計算トルクT1と、Iq=Iq*+Iqc、Id*+Idcを代入した第2計算トルクT2が等しいため、式(4)が得られる。
1・(Iq*+Iqc)+K・(Id*+Idc)・(Iq*+Iqc)
=K1・Iq* +K・Id*・Iq* ・・・(4)
式(4)を解いて、q軸付加電流値Iqcは式(5)となる。
Iqc=K・Idc・Iq* /(K+K・Idc+K・Id*)・・(5)
なお、d軸電流でトルクが発生しないSPMSMの場合、前記q軸付加電流演算部16は無くても良い。
【0069】
以上、説明したように、実施形態の位置制御装置1は、デッドタイムTdに起因する位置偏差リップルを抑制することができ、加工面品位を向上させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1,30 位置制御装置、2 位置・速度制御部、3 dq軸電流指令演算部、4 dq軸電圧指令演算部、5 2相/3相変換部、6 デッドタイム補償量演算部、7,8,9,17,18 加算器、10 PWMインバータ、11,12 電流検出器、13 電気角演算部、14 微分器、15 d軸付加電流演算部、16 q軸付加電流演算部、19 3相/2相変換部、20 モータ、21 位置検出器、22 負荷、151 d軸振幅基準値格納部、152 速度補正係数算出部、153 トルク補正係数算出部、154 逆正接演算部、155 位相係数算出部、156 減算器、157,158,159 乗算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11