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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】振動減衰装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20250415BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20250415BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20250415BHJP
   F16F 3/04 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B60N2/90
F16F15/02 C
F16F1/12 F
F16F1/12 N
F16F3/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021188987
(22)【出願日】2021-11-19
(65)【公開番号】P2023075834
(43)【公開日】2023-05-31
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和樹
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-20590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0295545(US,A1)
【文献】特開平7-253140(JP,A)
【文献】特開平10-9337(JP,A)
【文献】特開2000-190842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
F16F 15/00-36
F16F 1/12
F16F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートフレームに取り付けられた軸部材と、
前記軸部材の軸方向に沿って外周面に形成され、前記軸部材が嵌合する溝部を有し、前記軸方向に沿って移動可能な錘部材と、
前記錘部材の前記軸方向の両側に設けられたコイルばねと、
を備える振動減衰装置。
【請求項2】
前記軸部材は、前記軸方向から見て、前記錘部材の重心点に対して点対称になるように、2つ設けられている
請求項1に記載の振動減衰装置。
【請求項3】
前記溝部は、前記軸方向に垂直な平面において、前記錘部材の外側に向けて拡径するように形成されている
請求項1又は請求項2に記載の振動減衰装置。
【請求項4】
前記錘部材は、前記軸方向の両側に、軸方向に沿って外側に突出した突出部を備え、
前記コイルばねは、前記突出部に嵌合するように設けられている
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の振動減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等のシートに、シートの振動を減衰する振動減衰装置を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、中央貫通孔を有する錘りと、錘りの中央貫通孔に挿通され、錘りを摺動可能とする中央案内棒と、中央案内棒の右側に配置された右側中央バネと、中央案内棒の左側に配置された左側中央バネと、を有するダンパー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-108905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、錘りに中央貫通孔を形成することから、錘りの加工に伴う費用が嵩む、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、錘部材の加工に伴う費用を削減することができる振動減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明に係る振動減衰装置は、シートフレームに取り付けられた軸部材と、前記軸部材の軸方向に沿って外周面に形成され、前記軸部材が嵌合する溝部を有し、前記軸方向に沿って移動可能な錘部材と、前記錘部材の前記軸方向の両側に設けられたコイルばねと、を備える。
【0008】
請求項1記載の本発明によれば、錘部材の外周面に、軸部材が嵌合する溝部を有することで、錘部材に貫通孔を設けることなく、錘部材が軸部材の軸方向に沿って移動可能となる。そして、軸部材が嵌合する錘部材の溝部は、錘部材に貫通孔を空ける孔加工をすることなく、錘部材の外周面を加工することで形成される。その結果、錘部材の加工に伴う費用を削減することができる。
【0009】
請求項2記載の本発明に係る振動減衰装置では、請求項1に記載の振動減衰装置において、前記軸部材は、前記軸方向から見て、前記錘部材の重心点に対して点対称になるように、2つ設けられている。
【0010】
請求項2記載の本発明によれば、錘部材の重心点に対して、点対称になるように軸部材が2つ設けられることで、軸部材は、錘部材を挟んで配置される。そのため、錘部材は、2つの軸部材をレールとして、軸方向に移動される。その結果、錘部材は、安定して軸方向に移動される。そのため、錘部材が所望の動作をすることになり、狙いの共振周波数で錘部材を振動させることができる。
【0011】
請求項3記載の本発明に係る振動減衰装置では、請求項1又は請求項2に記載の振動減衰装置において、前記溝部は、前記軸方向に垂直な平面において、前記錘部材の外側に向けて拡径するように形成されている。
【0012】
請求項3記載の本発明によれば、軸方向に垂直な平面において、錘部材の外側に向けて拡径するように溝部が形成されることで、溝部に、一方向から見て陰になる形状であるアンダーカットが形成されない。そのため、溝部が切削加工によって容易に形成される。その結果、錘部材の加工費を削減することができる。
【0013】
請求項4記載の本発明に係る振動減衰装置では、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の振動減衰装置において、前記錘部材は、前記軸方向の両側に、軸方向に沿って外側に突出した突出部を備え、前記コイルばねは、前記突出部に嵌合するように設けられている。
【0014】
請求項4記載の本発明によれば、コイルばねが、錘部材の突出部に嵌合するように設けられることで、コイルばねの内側が突出部に支持される。そのため、コイルばねを錘部材に対して位置決めすることができる。その結果、錘部材が所望の動作をすることになり、狙いの共振周波数で錘部材を振動させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る振動減衰装置によれば、錘部材の加工に伴う費用を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る車両用シートをシート左斜め前方から見た斜視図である。
図2】第1実施形態に係る車両用シートのシートフレームをシート左斜め前方から見た斜視図である。
図3】第1実施形態に係る振動減衰装置がシートフレームに取り付けられたブラケットに取り付けられた状態を示す斜視図である。
図4】第1実施形態に係る振動減衰装置を示す分解斜視図である。
図5】第1実施形態に係る振動減衰装置を示す断面図であり、図3のA-A断面を示す。
図6】第1実施形態に係る振動減衰装置を示す断面図であり、図3のB-B断面を示す。
図7】第1実施形態に係る振動減衰装置の振動モデルを示す模式図である。
図8】第1実施形態に係る振動減衰装置の動作を説明する断面図であり、図8(A)は錘部材が一端側に移動した状態を示し、図8(B)は錘部材が他端側に移動した状態を示す。
図9】第1実施形態に係る錘部材の外周面を加工しているところを示す断面図である。
図10】第2実施形態に係る振動減衰装置を示す断面図である。
図11】別の実施形態に係る振動減衰装置がシートフレームに取り付けられたブラケットに取り付けられた状態を示す斜視図である。
図12】別の実施形態に係る振動減衰装置がシートフレームに取り付けられたブラケットに取り付けられた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係る振動減衰装置について、図面を参照して説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRはシート前後方向の前方を示し、矢印UPはシート上下方向の上方を示し、矢印RHはシート幅方向の右方を示している。また、矢印Dは、段付きボルトの軸方向を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両用シートの前後、車両用シートの上下、進行方向を向いた場合の車両用シートの左右を示すものとする。また、単に一端側及び他端側を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、段付きボルトの軸方向に対するものとする。また、図2では、シートフレームを構成するヘッドレストのヘッドレストステーの図示を省略している。
【0018】
第1実施形態の振動減衰装置は、車両に設けられた車両用シートに適用される例を説明する。
【0019】
[車両用シートの構成]
図1及び図2に示されるように、車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション12と、乗員の上体を支持するシートバック14と、シートバック14のシート上方側に設けられ乗員の頭部を支持するヘッドレスト16と、車両用シート10の骨組を形成するシートフレーム10Aと、を備えている。シートフレーム10Aは、クッションフレーム18と、シートバックフレーム28と、を備えている。
【0020】
シートクッション12は、例えば、ウレタンパッドなどの発泡体によって形成されており、図2に示すクッションフレーム18に固定されている。
【0021】
図2に示されるように、クッションフレーム18のシート幅方向の両端側の下側には、シート前後方向に沿って延在するスライドレール20がそれぞれ設けられている。左右一対のスライドレール20は、スライドレール20の前部にそれぞれ設けられた前側シートブラケット22、及びスライドレール20の後部にそれぞれ設けられた後側シートブラケット24を介して、車体フロア部26に固定されている。そして、左右一対のスライドレール20を介して、車両用シート10が車両前後方向に沿ってスライド可能となっている。
【0022】
図1に示されるように、シートバック14は、シートクッション12と同様に、例えば、ウレタンパッドなどの発泡体によって形成されており、図2に示すシートバックフレーム28に固定されている。
【0023】
図2に示されるように、シートバックフレーム28は、シートバックフレーム28の下側に配置されたロアフレーム25と、シートバックフレーム28の上側に配置されたアッパフレーム27と、を備えている。ロアフレーム25には、クッションフレーム18に対して車両前後方向にシートバックフレーム28を傾倒可能にするリクライニング装置29が設けられている。アッパフレーム27には、ヘッドレスト16の不図示のヘッドレストステーが連結される。ロアフレーム25とアッパフレーム27とは、複数のボルト32を介して連結されている。
【0024】
図2に示されるように、アッパフレーム27の上端を形成する上端部材27Aに不図示の取付金具等によって取り付けられた金属製のブラケット34には、振動減衰装置40が取り付けられている。振動減衰装置40は、シート幅方向の略中央に設けられている。
【0025】
図3に示されるように、ブラケット34は、L字状に形成され、シート幅方向に延在する第1片34Aと、シート前後方向に延在する第2片34Bと、を有している。
【0026】
[振動減衰装置の構成]
図4に示されるように、振動減衰装置40は、軸部材としての段付きボルト42と、カラー部材44と、錘部材46と、コイルばね48と、第1板部材52と、第2板部材54と、を備えている。
【0027】
(錘部材46)
図4及び図5に示されるように、錘部材46は、金属製で円筒状に形成されている。錘部材46は、外周面に形成された溝部としての第1溝部46Aと第2溝部46Bと、軸方向Dの両端部に形成された突出部としての第1突出部46Cと第2突出部46Dと、を備えている。
【0028】
図6に示されるように、第1溝部46Aと第2溝部46Bとは、軸方向Dから見て、錘部材46の重心点P1に対して点対称になるように形成されている。言い換えると、第1溝部46Aと第2溝部46Bとは、軸方向Dから見て、錘部材46の重心点P1を挟んで両側に設けられている。なお、第1溝部46Aと第2溝部46Bとは、形成される位置が異なる以外は略同様の構成であることから、以下では第1溝部46Aについて主に説明する。
【0029】
第1溝部46Aは、錘部材46の外周面から、錘部材46の径方向内側に凹んだ溝状に形成されている。第1溝部46Aは、軸方向Dに垂直な平面における略半円状が、軸方向Dに延在した溝状に形成されている。第1溝部46Aは、軸方向Dに垂直な平面において、錘部材46の径方向外側に向けて拡径するように形成されている。
【0030】
第1溝部46A及び第2溝部46Bには、カラー部材44を介して、段付きボルト42が嵌合している。錘部材46は、カラー部材44に沿った軸方向Dに移動可能に構成されている。
【0031】
図4及び図5に示されるように、第1突出部46Cは、軸方向Dの他端側の端面から、軸方向Dに沿って他端側に突出した円柱状に形成されている。第1突出部46Cの軸線は、錘部材46の軸線と一致するように設けられている。第1突出部46Cの外径は、コイルばね48の内径と略同じ大きさに形成されている。第2突出部46Dは、軸方向Dの一端側の端面から、軸方向Dに沿って一端側に突出した円柱状に形成されている。第2突出部46Dの外径は、コイルばね48の内径と略同じ大きさに形成されている。
【0032】
(段付きボルト42)
図4及び図5に示されるように、段付きボルト42は、金属製で形成され、軸部42Aと、軸部42Aの一端側に形成された雄ネジ部42Cと、軸部42Aの他端側に形成された頭部42Bと、を有している。
【0033】
図6に示されるように、段付きボルト42は、軸方向Dから見て、錘部材46の重心点P1に対して点対称になるように、2つ設けられている。2つの段付きボルト42は、軸方向Dから見て、錘部材46の重心点P1を挟んで両側に設けられている。図5及び図6に示されるように、一方の段付きボルト42は、カラー部材44を介して第1溝部46Aに嵌合し、他方の段付きボルト42は、カラー部材44を介して第2溝部46Bに嵌合している。
【0034】
軸部42Aは、円柱状に形成されている。軸部42Aの軸方向Dの長さは、錘部材46より長い長さに形成されている。雄ネジ部42Cは、軸部42Aより小さい外径を有する円柱状で、外周面にネジ山が形成されている。頭部42Bは、軸部42Aより大きい外径を有する円柱状に形成されている。
【0035】
(カラー部材44)
図4及び図5に示されるように、カラー部材44は、段付きボルト42の軸部42Aの径方向外側に配置されている。カラー部材44は、樹脂製で、円筒状に形成されている。カラー部材44の内径は、軸部42Aの外径と略同じ大きさに形成されている。カラー部材44の軸方向Dの長さは、軸部42Aと略同じ長さに形成されている。カラー部材44に、段付きボルト42の軸部42Aが挿入されて、軸部42Aの外周面がカラー部材44に覆われている。言い換えると、錘部材46と軸部42Aとの間には、カラー部材44が介在されている。また、軸部42Aとコイルばね48との間には、カラー部材44が介在されている。
【0036】
(第1板部材52)
図4及び図5に示されるように、第1板部材52は、錘部材46の軸方向Dの他端側に、後述する第1コイルばね48Aを介して設けられている。第1板部材52は、軸方向Dから見て、錘部材46より大きい外形を有する略菱形の板状に形成されている。第1板部材52は、金属製とすることができる。第1板部材52は、凸部52Aと、貫通孔52Bと、を備えている。
【0037】
凸部52Aは、軸方向Dに沿って一端側に突出した円柱状に形成されている。凸部52Aの軸線は、錘部材46の軸線と一致するように設けられている。凸部52Aの外径は、コイルばね48の内径と略同じ大きさに形成されている。
【0038】
貫通孔52Bは、2つの段付きボルト42が設置される位置に対応して2つ設けられている。貫通孔52Bは、第1板部材52の板厚方向に貫通して形成されている。貫通孔52Bの内径は、軸部42Aの外径と略同じ大きさに形成されている。貫通孔52Bには、段付きボルトの軸部42Aが挿通されている。
【0039】
(第2板部材54)
第2板部材54は、錘部材46の軸方向Dの一端側に、後述する第2コイルばね48Bを介して設けられている。第2板部材54は、軸方向Dから見て、錘部材46より大きい外形を有する略菱形の板状に形成されている。第2板部材54は、金属製とすることができる。第2板部材54は、凸部54Aと、ネジ孔54Bと、を備えている。
【0040】
凸部54Aは、軸方向Dに沿って他端側に突出した円柱状に形成されている。凸部54Aの軸線は、錘部材46の軸線と一致するように設けられている。凸部54Aの外径は、コイルばね48の内径と略同じ大きさに形成されている。
【0041】
ネジ孔54Bは、2つの段付きボルト42が設置される位置に対応して2つ設けられている。ネジ孔54Bは、第2板部材54の板厚方向に貫通して、内周面に雌ネジが形成されている。第2板部材54のネジ孔54Bに、段付きボルト42の雄ネジ部42Cが装着されるようになっている。
【0042】
(コイルばね48)
図4及び図5に示されるように、コイルばね48は、錘部材46の軸方向Dの両側に設けられている。コイルばね48は、第1コイルばね48Aと、第2コイルばね48Bと、を備えている。
【0043】
第1コイルばね48Aは、錘部材46の他端側に配置されている。第1コイルばね48Aは、圧縮された状態で、錘部材46の他端側の端面と、第1板部材52の一端側の端面との間に配置されている。第1コイルばね48Aの軸方向Dの一端側は、第1突出部46Cに嵌合している。第1コイルばね48Aの軸方向Dの他端側は、第1板部材52の凸部52Aに嵌合している。
【0044】
第2コイルばね48Bは、錘部材46の一端側に配置されている。第2コイルばね48Bは、圧縮された状態で、錘部材46の一端側の端面と、第2板部材54の他端側の端面との間に配置されている。第2コイルばね48Bの軸方向Dの一端側は、第2板部材54の凸部54Aに嵌合している。第2コイルばね48Bの軸方向Dの他端側は、第2突出部46Dに嵌合している。
【0045】
錘部材46は、第1コイルばね48Aによって一端側に付勢され、第2コイルばね48Bによって他端側に付勢されている。第1コイルばね48A及び第2コイルばね48Bには、弾性エネルギー(付勢力)が蓄積されている。これにより、錘部材46は、段付きボルト42の軸部42Aの軸方向Dの略中央部に配置される。すなわち、錘部材46は、第1コイルばね48A及び第2コイルばね48Bによる付勢力が作用する、いわゆる強制振動となる。
【0046】
図3に示されるように、このように形成された振動減衰装置40は、段付きボルト42の雄ネジ部42Cに、第2片34Bを介して、ナット43を装着することで、ブラケット34に取り付けられている。振動減衰装置40は、段付きボルト42の軸方向Dが、シート幅方向に沿うよう、ブラケット34に取り付けられている。振動減衰装置40は、ブラケット34を介して、シートフレーム10Aの上端側に配置された上端部材27Aに取り付けられている。
【0047】
なお、振動減衰装置40は、着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト16の不図示のヘッドレストステーに設けることもできる。
【0048】
[錘部材の固有振動数]
錘部材46の固有振動数は、車両用シート10の共振周波数と同じになるように設定されている。図7に示されるように、第1コイルばね48Aのバネ定数k及び第2コイルばね48Bのバネ定数kが、車両用シート10の共振周波数と錘部材46の固有振動数が同じになるように設定されている。例えば、自由振動において、錘部材46の質量をMとし、ばね定数をkとすると、錘部材46の周波数(固有振動数)fは、式(1)で求められる。第1実施形態では、強制振動であるため、錘部材46の固有振動数fは、式(2)で求められる。つまり、車両用シート10の共振周波数に錘部材46の固有振動数fが設定されるように、第1コイルばね48Aのバネ定数k及び第2コイルばね48Bのバネ定数kを設定する。
【0049】
[振動減衰装置の動作]
アイドリング時や走行時に車両に振動が発生すると、車体フロア部26を介して、車両用シート10が振動する。車両用シート10が共振周波数で振動すると、図8(A)に示されるように、錘部材46がカラー部材44に沿って軸方向Dの一端側に移動する。この際、第2コイルばね48Bは圧縮され、第1コイルばね48Aは伸長するものの圧縮された状態が維持される。次いで、図8(B)に示されるように、錘部材46がカラー部材44に沿って軸方向Dの他端側に移動する。この際、第1コイルばね48Aは圧縮され、第2コイルばね48Bは伸長するものの圧縮された状態が維持される。
【0050】
このようにして、第1コイルばね48A及び第2コイルばね48Bによって、錘部材46は、カラー部材44に沿って軸方向Dに往復移動して共振する。すなわち、車両用シート10の共振周波数の振動による振動エネルギーは、錘部材46が移動する運動エネルギーに変換される。その結果、車両用シート10の共振周波数の振動による振動エネルギーは吸収され、車両用シート10の振動は減衰される。
【0051】
[第1実施形態の作用及び効果]
次に、第1実施形態の振動減衰装置40の作用及び効果について説明する。
【0052】
第1実施形態の振動減衰装置40は、シートフレーム10Aに取り付けられた段付きボルト42と、段付きボルト42の軸方向Dに沿って外周面に形成され、段付きボルト42が嵌合する第1溝部46Aと第2溝部46Bを有し、軸方向Dに沿って移動可能な錘部材46と、錘部材46の軸方向Dの両側に設けられた第1コイルばね48Aと第2コイルばね48Bと、を備えている。
【0053】
段付きボルト42の軸方向Dに沿って形成され、段付きボルト42が嵌合する第1溝部46Aと第2溝部46Bを錘部材46が有することで、錘部材46が段付きボルト42の軸方向Dに移動可能とされる。そして、錘部材46の固有振動数を、車両用シート10の共振周波数に対応するように設定することで、車両用シート10の共振に錘部材46が共振する。これにより、車両用シート10の振動エネルギーが、錘部材46の振動エネルギーに変換される。その結果、車両用シート10の振動エネルギーが吸収され、車両用シート10の振動が効果的に減衰される。
【0054】
しかも、錘部材46の外周面に、段付きボルト42が嵌合する第1溝部46Aと第2溝部46Bを有することで、錘部材46に貫通孔を設けることなく、錘部材46が段付きボルト42の軸方向Dに沿って移動可能となる。そのため、段付きボルト42が嵌合する錘部材46の第1溝部46Aと第2溝部46Bは、錘部材46に貫通孔を空ける孔加工をすることなく、錘部材46の外周面を加工することで形成される。その結果、錘部材46の加工費を削減することができ、振動減衰装置40のコスト削減を図ることができる。
【0055】
ところで、錘部材46に貫通孔を形成する場合、加工用具(例えば、エンドミル)の長さが長くなることから、加工中に加工用具が変形する可能性がある。その場合、孔加工で形成された貫通孔は、所望の形状とならない可能性がある。
【0056】
第1実施形態では、図7に示されるように、錘部材46の外周面を加工用具60によって加工することで、第1溝部46Aと第2溝部46Bが形成される。そのため、孔加工をする場合より、短い長さの加工用具60を使用することができる。その結果、加工用具60の変形が抑制され、加工精度を向上させることができる。
【0057】
また、錘部材46を付勢する付勢部材としてコイルばねが用いられている。そのため、付勢部材としてゴム部材が用いられた場合と比較して、錘部材46のストロークを長くすることができる。その結果、錘部材46の運動エネルギーを大きくすることができる。このため、振動減衰装置40では、簡単な構成で、コンパクトかつ軽量化を図ることができる。
【0058】
第1実施形態の振動減衰装置40では、段付きボルト42は、軸方向Dから見て、錘部材46の重心点P1に対して点対称になるように、2つ設けられている。
【0059】
錘部材46の重心点P1に対して、点対称になるように段付きボルト42が2つ設けられることで、段付きボルト42は、錘部材46を挟んで配置される。そのため、錘部材46は、2つの段付きボルト42をレールとして、軸方向Dに移動される。その結果、錘部材46は、安定して軸方向に移動される。そのため、錘部材46が所望の動作をすることになり、狙いの共振周波数で錘部材46を振動させることができる。
【0060】
第1実施形態の振動減衰装置40では、段付きボルト42は、軸方向Dに垂直な平面において、錘部材46の外側に向けて拡径するように形成されている。
【0061】
軸方向Dに垂直な平面において、錘部材46の外側に向けて拡径するように第1溝部46Aと第2溝部46Bが形成されることで、第1溝部46Aと第2溝部46Bに、一方向から見て陰になる形状であるアンダーカットが形成されない。そのため、図7に示されるように、加工用具60によって、第1溝部46Aと第2溝部46Bが容易に形成される。その結果、錘部材46の加工費を削減することができる。
【0062】
第1実施形態の振動減衰装置40では、錘部材46は、軸方向Dの両側に、軸方向Dに沿って外側に突出した第1突出部46Cと第2突出部46Dを備え、第1コイルばね48Aは、第1突出部46Cに嵌合し、第2コイルばね48Bは、第2突出部46Dに嵌合するように設けられている。
【0063】
第1コイルばね48Aは、錘部材46の第1突出部46Cに嵌合し、第2コイルばね48Bは、錘部材46の第2突出部46Dに嵌合するように設けられることで、第1コイルばね48A及び第2コイルばね48Bの内側が突出部に支持される。そのため、第1コイルばね48A及び第2コイルばね48Bを錘部材46に対して位置決めすることができる。その結果、錘部材46が所望の動作をすることになり、狙いの共振周波数で錘部材46を振動させることができる。
【0064】
第1実施形態の振動減衰装置40では、コイルばね48は、圧縮された状態で配置されている。
【0065】
コイルばね48が圧縮された状態で配置されることで、錘部材46が段付きボルト42に沿って移動した際に、一方のコイルばね48はさらに圧縮され、他方のコイルばね48は伸長されつつも圧縮された状態が維持される。そのため、錘部材46が振動した際に、コイルばね48が常に錘部材46に当接される。その結果、錘部材46とコイルばね48との間で発生する異音を抑制することができる。
【0066】
第1実施形態の振動減衰装置40は、着座した乗員の上体を支持するシートバック14、又は着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト16に設けられている。
【0067】
ところで、車両用シート10は、車体フロア部26に対し、スライドレール20及びシートブラケットを介して、車両前後方向に沿ってスライド可能に取り付けられている。つまり、車両用シート10の下端は、スライドレール20によって支持されているため、車両用シート10において、シートクッション12の振動と比較して、シートバック14やヘッドレスト16は自由端となり、振動が大きくなる。このため、シートクッション12よりも振動が大きいシートバック14又はヘッドレスト16に、振動減衰装置40を設けることで、車両用シート10の振動エネルギーを効果的に吸収し、車両用シート10の振動を減衰させる減衰効率を向上させることができる。
【0068】
第1実施形態の車両用シート10では、錘部材46の固有振動数は、車両用シート10の共振周波数と同じになるように設定されている。
【0069】
錘部材46の固有振動数が、車両用シート10の共振周波数と同じになるように設定されることで、車両用シート10の共振に錘部材46が共振する。これにより、車両用シート10の振動エネルギーが、錘部材46の振動エネルギーに変換される。その結果、車両用シート10の振動エネルギーが吸収され、車両用シート10の振動が効果的に減衰される。
【0070】
第1実施形態の車両用シート10では、振動減衰装置40は、シートバック14の骨格を構成するシートバックフレーム28の上端側に設けられている。
【0071】
ところで、シートバック14は、ヘッドレスト16よりも外形が大きい分、振動減衰装置40を設置するためのスペースを確保しやすい。シートバック14の骨格を構成するシートバックフレーム28の上端側に振動減衰装置40を設けることで、振動減衰装置40を設置するためのスペースを十分に確保することができる。
【0072】
第1実施形態の車両用シート10では、段付きボルト42は、シート幅方向に沿って設置されている。
【0073】
段付きボルト42がシート幅方向に沿って設置されることで、車両用シート10のシート幅方向に沿った振動に対して減衰させることができる。
【0074】
〔第2実施形態〕
第2実施形態の振動減衰装置は、軸部材の構成が異なる点で第1実施形態の振動減衰装置と相違する。
【0075】
[振動減衰装置の構成]
以下、第2実施形態の振動減衰装置の構成を説明する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は符号を用いて説明する。
【0076】
図10に示されるように、振動減衰装置140は、軸部材としての3つの段付きボルト42を備えている。錘部材146は、外周面に形成された溝部としての第1溝部146Aと第2溝部146Bと第3溝部146Cとを備えている。
【0077】
第1溝部146Aと第2溝部146Bと第3溝部146Cとは、軸方向Dから見て、錘部材146の重心点P1に対して、錘部材146の周方向に均等に配置されている。
【0078】
第1溝部146A、第2溝部146B及び第3溝部146Cには、カラー部材44を介して、段付きボルト42が嵌合している。錘部材146は、カラー部材44に沿った軸方向Dに移動可能に構成されている。
【0079】
このような構成の振動減衰装置140では、錘部材146が3つの段付きボルト42で支持される。そのため、錘部材146は、より安定して軸方向Dに移動される。その結果、錘部材146が所望の動作をすることになり、狙いの共振周波数で錘部材146を振動させることができる。なお、他の構成及び作用効果については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0080】
以上、本発明の振動減衰装置を、上記実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これら実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。
【0081】
上記実施形態では、振動減衰装置40,140は、段付きボルト42の軸方向Dが、シート幅方向に沿うよう、ブラケット34に取り付けられている例を示した。しかし、図11に示されるように、振動減衰装置40は、段付きボルト42の軸方向Dが、シートバック14が起立した起立姿勢において、シート前後方向に沿うように、ブラケット34の第1片34Aに取り付けられていてもよい。この場合、車両用シート10のシート前後方向に沿った振動に対して減衰させることができる。
【0082】
図12に示されるように、振動減衰装置40は、段付きボルト42の軸方向Dが、シート幅方向、シート前後方向及びシート上下方向の成分を含む方向に沿うように、ブラケット134に取り付けられていてもよい。この場合、車両用シート10では、車両用シート10のシート幅方向、シート前後方向及びシート上下方向の成分を含む振動に対して減衰させることができる。
【0083】
上記実施形態では、車両用シート10に振動減衰装置40を1つ設ける例を示した。しかし、振動減衰装置は、車両用シート10に複数設けることもできる。
【0084】
上記実施形態では、振動減衰装置40は、シート幅方向の略中央であって、アッパフレーム27の上端に設けられる例を示した。しかし、振動減衰装置40は、シート幅方向の右側又は左側に設けられても良いし、ヘッドレストステー、ロアフレーム25又はクッションフレーム18に設けられてもよい。
【0085】
第1実施形態では、振動減衰装置40は、段付きボルト42を2つ備え、第2実施形態では、振動減衰装置140は、段付きボルト42を3つ備える例を示した。しかし、振動減衰装置は、段付きボルト42を1つ備えてもよいし、4つ以上備えてもよい。
【0086】
上記実施形態では、錘部材46を円柱状に形成する例を示した。しかし、錘部材は、この態様に限定されず、例えば、直方体状、球状、多角柱状その他の形状とすることができる。
【0087】
上記実施形態では、本発明の振動減衰装置を車両用シートに適用する例を示した。しかし、本発明の振動減衰装置は、列車、航空機、船舶その他の乗り物のシートに適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 車両用シート
10A シートフレーム
40 振動減衰装置
42 段付きボルト(軸部材の一例)
46 錘部材
46A 第1溝部(溝部の一例)
46B 第2溝部(溝部の一例)
46C 第1突出部(突出部の一例)
46D 第2突出部(突出部の一例)
48A 第1コイルばね(コイルばねの一例)
48B 第2コイルばね(コイルばねの一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12