(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20250415BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
B23B1/00 D
B23Q11/00 A
(21)【出願番号】P 2023537804
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027845
(87)【国際公開番号】W WO2023007602
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】安田 将司
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-003802(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146946(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00
B23Q 11/00
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具とワークを相対的に振動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
振動周波数又は振動周波数倍率からなる周波数パラメータ、振動振幅又は振動振幅倍率からなる振幅パラメータ、及び振動方向のうち少なくとも一つを含む振動条件を設定する振動条件設定部と、
前記振動条件により決定される、
振動振幅、振動速度、振動加速度、及び振動加加速度のうち少なくとも一つを含む振動パラメータの上限値を、振動周波数
に応じて設定する振動上限設定部と、
前記振動パラメータの上限値に基づいて、前記振動条件設定部で設定される振動条件を制限する振動条件制限部と、
前記振動条件制限部により制限された振動条件に基づいて、制御軸を振動制御する振動制御部と、を備える、工作機械の制御装置。
【請求項2】
工具とワークを相対的に振動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
振動周波数又は振動周波数倍率からなる周波数パラメータ、振動振幅又は振動振幅倍率からなる振幅パラメータ、及び振動方向のうち少なくとも一つを含む振動条件を設定する振動条件設定部と、
前記振動条件により決定される、振動周波数、振動振幅、振動速度、振動加速度、及び振動加加速度のうち少なくとも一つを含む振動パラメータの上限値を、振動方向に応じて設定する振動上限設定部と、
前記振動パラメータの上限値に基づいて、前記振動条件設定部で設定される振動条件を制限する振動条件制限部と、
前記振動条件制限部により制限された振動条件に基づいて、制御軸を振動制御する振動制御部と、を備える、工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記振動上限設定部は、前記振動パラメータの上限値を、前記振動周波数が大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さくなるように設定する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記振動上限設定部は、前記振動パラメータの上限値を、前記振動方向が各制御軸の駆動方向と平行な場合と非平行な場合とで、それぞれ異なる値に設定する、請求項2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記振動上限設定部は、前記振動パラメータの上限値を、前記ワークの中心軸方向に対する前記振動方向の傾きが大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さく又は大きくなるように設定する、請求項2又は4に記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記振動上限設定部は、前記振動周波数が前記工作機械固有の共振周波数に相当する周波数の場合に、他の周波数の場合と比べて前記振動パラメータの上限値をより小さい値に設定する、請求項1又は3に記載の工作機械の制御装置。
【請求項7】
前記振動条件制限部は、前記振動パラメータの上限値を超えないように、前記振動条件設定部で設定される振動条件を制限する、請求項1から6いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揺動切削やクランクピン加工等のように、制御軸を振動させながら軸移動するように制御してワークを加工する工作機械の制御装置が知られている。このように制御軸を振動させると、該振動によって工作機械全体に過剰な揺れが生じ、加工精度に悪影響を及ぼす場合がある。
【0003】
そこで、制御軸の振動による工作機械全体の過剰な揺れを防ぐため、振動の加速度や加加速度の上限値を設定し、設定された上限値内で振動制御を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、良好な仕上げ面を確保できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、工作機械固有の共振周波数の影響や各制御軸のイナーシャの違いにより、例えば振動の加速度の上限値を設定し、振動の加速度を小さくした場合であっても、逆に工作機械全体の揺れが大きくなる場合がある。即ち、振動周波数や制御軸のイナーシャを考慮することなく単に振動の加速度や加加速度の上限値を設定するだけでは、工作機械全体の揺れを確実に抑制することはできない。
【0006】
従って、制御軸を振動制御してワークを加工する工作機械の制御装置において、工作機械全体の揺れを確実に抑制できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、工具とワークを相対的に振動させながら加工する工作機械の制御装置であって、振動周波数又は振動周波数倍率からなる周波数パラメータ、振動振幅又は振動振幅倍率からなる振幅パラメータ、及び振動方向のうち少なくとも一つを含む振動条件を設定する振動条件設定部と、前記振動条件により決定される、振動周波数、振動振幅、振動速度、振動加速度、及び振動加加速度のうち少なくとも一つを含む振動パラメータの上限値を、振動周波数及び振動方向の一方又は両方に応じて設定する振動上限設定部と、前記振動パラメータの上限値に基づいて、前記振動条件設定部で設定される振動条件を制限する振動条件制限部と、前記振動条件制限部により制限された振動条件に基づいて、制御軸を振動制御する振動制御部と、を備える、工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、制御軸を振動制御してワークを加工する工作機械の制御装置において、工作機械全体の揺れを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る工作機械の制御装置を示す図である。
【
図2】上記実施形態に係る振動制御を説明するための図である。
【
図3】上記実施形態に係る振動制御の第1の例を示す図である。
【
図4】上記実施形態に係る振動制御の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して詳しく説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る工作機械の制御装置1を示す図である。本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、切削工具(以下、工具)とワークとを相対的に回転させる少なくとも一つの主軸と、工具をワークに対して相対移動させる少なくとも一つの送り軸と、を動作させることで、工具によりワークを切削加工するものである。なお
図1では、便宜上、一つの送り軸を駆動するモータ3のみを示している。
【0012】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、主軸及び送り軸を動作させることにより揺動切削(以下、振動切削ともいう)を実行する。即ち、工作機械の制御装置1は、工具とワークとを相対的に回転させるとともに、工具とワークとを相対的に揺動(以下、振動ともいう)させながら切削加工を実行する。工具の軌跡である工具経路は、前回経路に対して今回経路が部分的に重なるように設定され、前回経路で加工済の部分が今回経路に含まれる。そのため、工具の刃先がワークの表面から離れる空振り(エアカット)が発生することにより、切削加工によって連続的に生じる切屑が確実に細断される。
【0013】
なお本実施形態は、中心軸線まわりに回転するワークに対して工具を揺動させながら送り方向に移動する構成だけでなく、工具Tがワークの中心軸線まわりに回転するとともに、ワークが工具に対して送り方向に移動する構成にも適用可能である。また本実施形態は、ワークの外径加工及び内径加工のいずれにも適用可能である。さらに本実施形態は、ワークが加工面にテーパ部や円弧状部を有することで複数の送り軸(Z軸及びX軸)が必要となる場合だけでなく、ワークが円柱状や円筒状で送り軸が特定の1軸(Z軸)で足りる場合であっても適用可能である。
【0014】
工作機械の制御装置1は、例えば、バスを介して互いに接続された、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)等のメモリ、CPU(control processing unit)、及び通信制御部を備えたコンピュータを用いて構成される。
図1に示されるように、工作機械の制御装置1は、振動条件設定部11と、振動条件制限部12と、振動上限設定部13と、振動制御部14と、表示部15と、を備え、それら各部の機能及び動作は、上記コンピュータに搭載されたCPU、メモリ、及び該メモリに記憶された制御プログラムが協働することにより達成されうる。
【0015】
また、工作機械の制御装置1には、CNC(Computer Numerical Controller)、PLC(Programmable Logic Controller)等の上位コンピュータ(不図示)が接続されている。これらの上位コンピュータから、加工プログラムや、回転速度及び送り速度等のワークの加工条件が工作機械の制御装置1に入力される。
【0016】
ワークの加工条件には、ワークの中心軸線まわりにおけるワーク及び工具の相対的な回転速度、工具及びワークの相対的な送り速度、及び、送り軸の位置指令等が含まれる。本実施形態では、工作機械の制御装置1内のCPUが、入力された加工プログラムから回転速度及び送り速度を加工条件として読み出して振動制御部14に出力するように構成されてもよく、振動制御部14内の位置指令作成部等が上記の上位コンピュータに設けられていてもよい。
【0017】
振動条件設定部11は、振動周波数又は振動周波数倍率からなる周波数パラメータ、振動振幅又は振動振幅倍率からなる振幅パラメータ、及び振動方向のうち少なくとも一つを含む振動条件を設定する。振動条件設定部11は、工作機械の制御装置1に入力される加工プログラムや加工条件等に基づいて、後述の振動条件制限部12による制限下で、上記振動条件を設定する。この振動条件設定部11により設定された振動条件は、後述の振動制御部14に出力される。
【0018】
ここで、振動周波数倍率は、振動周波数を主軸速度で除することにより得られる周波数パラメータである。振動振幅倍率は、振動振幅を主軸1回転あたりの送り軸の送り量の1/2で除することにより得られる振幅パラメータである。振動方向は、例えば、ワークの中心軸線(Z軸方向)に対する傾きθで表される(後述の
図4参照)。
【0019】
振動上限設定部13は、上記振動条件により決定される、振動周波数、振動振幅、振動速度、振動加速度、及び振動加加速度のうち少なくとも一つを含む振動パラメータの上限値を、振動周波数及び振動方向の一方又は両方に応じて設定する。この振動上限設定部13により設定された振動パラメータの上限値は、後述の振動条件制限部12に出力される。
【0020】
振動上限設定部13は、上記振動パラメータの上限値を振動周波数に応じて設定する場合、振動周波数が大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さくなるように振動パラメータの上限値を設定することが好ましい。振動周波数が大きくなるほど、工作機械は揺れ易くなるためである。例えば、振動上限設定部13は、振動周波数0~10Hz、10~20Hz、20~30Hz・・・のように10Hz間隔で、振動周波数が大きくなるに従って、加速度上限値等の振動パラメータの上限値が小さくなるように設定する(後述の
図3参照)。
【0021】
制御軸の振動制御に伴う工作機械全体の揺れは、振動の周波数、振幅、速度、加速度、加加速度に起因する。これら振動の振幅、速度、加速度、加加速度は、振動周波数による影響を受ける。これに対して本実施形態では、振動周波数、振動振幅、振動速度、振動加速度、振動加加速度等の振動パラメータの上限値を振動周波数に応じて設定するため、このように設定された振動パラメータの上限値に基づいて振動条件が設定されることにより、工作機械全体の揺れが効果的に抑制される。
【0022】
振動上限設定部13は、振動周波数が工作機械固有の共振周波数に相当する周波数の場合には、他の周波数の場合と比べて振動パラメータの上限値をより小さい値に設定することがより好ましい。例えば、振動上限設定部13は、工作機械固有の共振周波数が40~50Hzである場合には、他の振動周波数である40Hz未満あるいは50Hzより大きい振動周波数と比べて、より小さい振動パラメータの上限値を設定する。
【0023】
制御軸の振動制御における振動周波数が、工作機械固有の共振周波数に相当する周波数である場合には、制御軸の振動と同期して工作機械がより大きく振動する。これに対して本実施形態では、振動周波数が共振周波数に相当する場合には振動パラメータの上限値をより小さく設定するため、このように設定された振動パラメータの上限値に基づいて振動条件が設定されることにより、工作機械全体の揺れがより効果的に抑制される。
【0024】
なお、振動周波数が共振周波数に相当する場合には、一定の幅、例えば10Hzの幅を持った振動周波数帯に、工作機械固有の共振周波数が含まれる場合が含まれる。このとき、振動周波数帯の幅は適宜設定される。
【0025】
また、振動上限設定部13は、上記振動パラメータの上限値を、ワークの中心軸方向に対する振動方向の傾きが大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さくなるように設定することが好ましい場合がある。この場合、例えば、ワークの中心軸線(Z軸方向)に対する揺動方向(以下、振動方向ともいう)の傾きθが、0°~10°、10°~20°、20~30°のように10°間隔で、Z軸方向に対する振動方向の傾きθが大きくなるに従って、加速度上限値等の振動パラメータの上限値が小さくなるように設定される(後述の
図4参照)。
【0026】
例えば、サーボモータ等の重量物は、Z軸方向(ワークの中心軸線方向)に直交するX軸方向(ワークの径方向)に多く配置されるため、Z軸に比べてX軸の方が制御軸の振動量が大きく、イナーシャが大きい。制御軸のイナーシャは工作機械により異なるため、制御軸を振動させたときに生じる工作機械全体の揺れは、制御軸の振動量の比を表す振動方向による影響を受ける。これに対して本実施形態では、振動方向に応じて、具体的にはZ軸に対する振動方向の傾きθに基づいて、振動加速度や振動加加速度等の振動パラメータの上限値を設定するため、このように設定された振動パラメータの上限値に基づいて振動条件が設定されることにより、工作機械全体の揺れがより効果的に抑制される。
【0027】
もちろん、Z軸とX軸のイナーシャの大小は機械構成によって異なるため、X軸に比べてZ軸の方が、イナーシャが大きい場合もある。この場合は、振動方向の傾きθが、0°~10°、10°~20°、20~30°のように10°間隔で、Z軸方向に対する振動方向の傾きθが大きくなるに従って、加速度上限値等の振動パラメータの上限値が大きくなるように設定されることで工作機械全体の揺れがより効果的に抑制される。
【0028】
また、振動上限設定部13は、上記振動パラメータの上限値を、振動方向が各制御軸の駆動方向と平行な場合と非平行な場合とで、それぞれ異なる値に設定することが好ましい。振動方向が各制御軸の駆動方向と平行な場合というのは、各制御軸を1軸のみ振動させたときであり、非平行な場合というのは、複数の駆動軸を協調して振動させる場合である。即ち、制御軸ごとの振動パラメータの上限値とは別に、複数の駆動軸を協調して振動させる場合の振動パラメータの上限値を設定することが好ましい。これにより、工作機械全体の揺れがより効果的に抑制される場合がある。
【0029】
また、振動上限設定部13は、上記振動パラメータの上限値を振動方向に応じて設定する場合、振動パラメータの上限値として振動周波数を設定してもよい。この場合、振動周波数が大きくなれば工作機械の揺れも大きくなるため、ワークの中心軸方向に対する振動方向の傾きが大きくなるほど振動周波数の上限値も小さく設定することが好ましい。
【0030】
なお、振動上限設定部13は、予め制御軸の振動制御を実際に実行したときの工作機械の揺れを、ユーザによる目視の他、各種センサ等により測定し、これらの結果に基づいて振動パラメータの上限値を決定することができる。
【0031】
振動条件制限部12は、振動上限設定部13により設定された振動パラメータの上限値に基づいて、振動条件設定部11で設定される振動条件を制限する。具体的に振動条件制限部12は、振動条件設定部11から周波数パラメータや振動方向を取得し、取得した周波数パラメータや振動方向に対応する振動パラメータの上限値を用いて、振動条件を制限する。
【0032】
振動条件制限部12は、取得した周波数パラメータや振動方向に対応する振動パラメータの上限値を超えないように、振動条件設定部11で設定される振動条件を制限することが好ましい。例えば、振動条件制限部12は、振動パラメータの上限値を超えない範囲で、振動周波数や振動振幅等をクランプする。あるいは、振動条件制限部12は、振動パラメータの上限値を超えた場合に、アラーム(警告)を発する等して加工プログラムを停止する。
【0033】
振動制御部14は、振動条件制限部12による制限下で、振動条件設定部11により設定された振動条件に基づいて、制御軸を振動制御する。振動制御部14は、制御軸の振動制御を実行するために、例えば、位置指令生成部、振動指令生成部、重畳指令生成部、学習制御部、及び位置速度制御部等の各種機能部(いずれも不図示)を備える。
【0034】
位置指令生成部は、工作機械の制御装置1に入力された加工プログラムや加工条件に基づいて、モータ3に対する移動指令としての位置指令を生成する。具体的に、位置指令作成部は、ワークの中心軸線まわりにおけるワーク及び工具の相対的な回転速度並びに工具及びワークの相対的な送り速度に基づいて、各送り軸の位置指令(移動指令)を生成する。
【0035】
振動指令生成部は、振動指令を生成する。振動指令生成部は、上述の振動条件設定部11で設定された振動条件から振動指令を生成する。
【0036】
重畳指令生成部は、送り軸のモータ3のエンコーダによる位置検出に基づいた位置フィードバックと位置指令との差分である位置偏差を算出し、算出された位置偏差に対して、振動指令生成部で生成された振動指令を重畳することにより、重畳指令を生成する。あるいは、位置偏差に代えて位置指令に振動指令を重畳してもよい。
【0037】
学習制御部は、重畳指令に基づいて重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を重畳指令に加算することにより、重畳指令を補正する。学習制御部は、メモリを有し、振動の1周期もしくは複数周期内において振動位相及び補正量を関係付けてメモリに記憶し、モータ3の応答性に応じた振動動作の位相遅れを補償できるタイミングにメモリに記憶された重畳指令を読み出して補正量として出力する。補正量を出力する振動位相がメモリに記憶された振動位相に存在しない場合、振動位相の近い補正量から出力する補正量を算出しても良い。一般的に、振動周波数が高くなるほど振動指令に対する位置偏差は大きくなるため、この学習制御部による補正を行うことで、周期的な振動指令に対する追従性を向上させることが可能である。
【0038】
位置速度制御部は、補正量加算後の重畳指令に基づいて、送り軸を駆動するモータ3に対するトルク指令を生成し、生成したトルク指令によりモータ3を制御する。これにより、工具TとワークWとを相対的に振動させながら加工が行われる。
【0039】
表示部15は、振動上限設定部13で設定される振動パラメータの上限値や、該上限値に基づいて振動条件制限部12により制限されて振動条件設定部11により設定される振動条件を、表示画面に表示する。また、表示部15は、各種設定パラメータの他、工作機械の制御装置1に入力された加工プログラムを表示する。これにより、ユーザは、表示画面を確認しながら、不図示の入力部によって振動パラメータの上限値や振動条件の設定が可能である。
【0040】
次に、本実施形態に係る工作機械の制御装置1により実行される制御軸の振動制御について説明する。
【0041】
図2は、本実施形態に係る振動制御を説明するための図である。
図2に示されるように、例えば、振動加速度1800000[mm/分
2]を満たす振動周波数及び振動振幅の組み合わせは、複数存在する。
図2では、パターン1~3の3つを例示しており、パターン1~3の振動条件により決定される振動加速度は、いずれも1800000[mm/分
2]である。この振動加速度は、以下の数式(1)により算出される。
[数1]
振動加速度=α×(振動振幅)×(振動周波数)
2 ・・・式(1)
【0042】
ここで、
図2中の表示部15に示されるように、振動上限設定部13により加速度上限値が1800000[mm/分
2]に設定され、加工プログラムにより指定された振動周波数が40Hz、振動振幅が0.2mmであった場合を考える。この場合、振動周波数40Hz、振動振幅0.015mmであるパターン1と比較しても明らかであるように、上記数式(1)による算出される振動加速度は上限値の1800000[mm/分
2]を超える。そのため、工作機械全体に大きな揺れが発生する。
【0043】
そこで本実施形態では、振動条件制限部12により、振動加速度が上限値の1800000[mm/分2]を超えないように、例えば振動周波数は40Hzのままで振動振幅を0.015mmでクランプする。そして、振動条件設定部11は、振動周波数40Hzと、クランプされた振動振幅0.015mmを振動条件として設定する。これにより、振動加速度が上限値1800000[mm/分2]となり、工作機械全体に生じる揺れが確実に抑制される。
【0044】
なお、クランプするのは振動振幅に限られず、振動周波数をクランプしてもよく、振動振幅及び振動周波数の両者をクランプしてもよい。振動条件の制限方法としては、クランプに限定されず、例えば振動加速度等の振動パラメータがその上限値を超えたら、アラーム等を発して加工プログラムを停止する構成としてもよい。
【0045】
図3は、本実施形態に係る振動制御の第1の例を示す図である。
図3に示される第1の例は、振動加速度の上限値を振動周波数に応じて設定した例である。具体的には、
図3中の表示部15に示されるように、振動周波数0Hz~10Hz(0以上10未満を意味する。以下、同じ。)のときの振動加速度上限値を2000000[mm/分
2]、10~20Hzのときは1900000[mm/分
2]、20~30Hzのときは1800000[mm/分
2]、30~40Hzのときは1600000[mm/分
2]、40~50Hzのときは1000000[mm/分
2]、50~60Hzのときは1500000[mm/分
2]のように、10Hz間隔の振動周波数帯ごとに振動加速度の上限値が設定されている。また、この第1の例では、振動周波数が大きくなるに従って小さい加速度上限値が設定されており、加えて、工作機械の共振周波数に相当する40~50Hzのときに最も小さい加速度上限値が設定されている。
【0046】
この第1の例では、
図3中の表示部15に示されるように、工作機械の制御装置1に入力された加工プログラムにより指定される振動切削の振動周波数は25Hz、振動振幅は0.1mmである。振動周波数25Hz、振動振幅0.1mmのときの振動加速度を上述の数式(1)により算出すると、振動周波数25Hzのときの振動加速度上限値1800000[mm/分
2]を超える。そのため、この第1の例では、振動周波数25Hzのままで振動振幅をより小さい値に変更していき、算出される振動加速度が振動加速度上限値を超えないようになったところで、そのときの振動振幅である0.00384mmに振動振幅をクランプする。このようにして、振動加速度上限値を超えない振動条件とすることで、工作機械全体に生じる揺れが確実に抑制される。
【0047】
図4は、本実施形態に係る振動制御の第2の例を示す図である。
図4に示される第2の例は、振動加速度の上限値を振動方向に応じて設定した例である。具体的には、
図4中の表示部15に示されるように、Z軸に対する振動方向の傾きθが0°~10°(未満。以下同じ。)のときの振動加速度上限値を2000000[mm/分
2]、10~20°のときは1900000[mm/分
2]、20~30°のときは1800000[mm/分
2]、30~40°のときは1600000[mm/分
2]、40~50°のときは1400000[mm/分
2]、50~60°のときは1100000[mm/分
2]のように、10°間隔の傾き角度帯ごとに振動加速度の上限値が設定されている。また、この第2の例では、Z軸に対する振動方向の傾きが大きくなるに従って小さい加速度上限値が設定されている。
【0048】
この第2の例では、
図4中の表示部15に示されるように、工作機械の制御装置1に入力された加工プログラムにより指定される振動切削の振動周波数は25Hz、振動振幅は0.04mmである。また、該加工プログラムにより指定される移動指令の移動方向は、G00、G01により指定されるX座標位置及びZ座標位置から45°と求められる。ここで、本例における振動切削では、振動方向は移動指令の移動方向と同じであるため、Z軸に対する振動方向の傾きθは45°である。振動周波数25Hz、振動振幅0.04mmのときの振動加速度を上述の数式(1)により算出すると、Z軸に対する振動方向の傾きθが45°のときの振動加速度上限値1400000[mm/分
2]を超える。そのため、この第2の例では、振動周波数25Hzのままで振動振幅をより小さい値に変更していき、算出される振動加速度が振動加速度上限値を超えないようになったところで、そのときの振動振幅である0.0299mmに振動振幅をクランプする。このようにして、振動加速度上限値を超えない振動条件とすることで、工作機械全体に生じる揺れが確実に抑制される。
【0049】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
【0050】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、振動周波数又は振動周波数倍率からなる周波数パラメータ、振動振幅又は振動振幅倍率からなる振幅パラメータ、及び振動方向のうち少なくとも一つを含む振動条件を設定する振動条件設定部11と、振動条件により決定される、振動周波数、振動振幅、振動速度、振動加速度、及び振動加加速度のうち少なくとも一つを含む振動パラメータの上限値を、振動周波数及び振動方向の一方又は両方に応じて設定する振動上限設定部13を備える。また、本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、振動パラメータの上限値に基づいて、振動条件設定部11で設定される振動条件を制限する振動条件制限部12と、振動条件制限部12により制限された振動条件に基づいて、制御軸を振動制御する振動制御部14と、を備える。
【0051】
制御軸の振動制御に伴う工作機械全体の揺れは、主として振動の加速度や加加速度等の振動パラメータに起因し、これら振動パラメータは振動周波数や振動方向の影響を受ける。これに対して本実施形態によれば、振動周波数及び振動方向の一方又は両方に応じて振動上限設定部13により設定される振動パラメータの上限値に基づいて、振動条件設定部11で設定される振動条件が振動条件制限部12によって制限される。そのため、制御軸の振動制御において、振動周波数や振動方向に応じて設定された振動パラメータの上限値を超えない振動条件とすることができ、工作機械全体に生じる揺れを確実に抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の振動上限設定部13は、振動パラメータの上限値を、振動周波数が大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さくなるように設定する。振動周波数が大きくなるほど工作機械は揺れ易くなるところ、本実施形態によれば、振動周波数に応じてより適切な振動パラメータの上限値を設定することができるため、工作機械全体に生じる揺れをより確実に抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態の振動上限設定部13は、振動パラメータの上限値を、振動方向が各制御軸の駆動方向と平行な場合と非平行な場合とで、それぞれ異なる値に設定する。これにより、工作機械全体の揺れがより効果的に抑制される場合がある。
【0054】
また、本実施形態の振動上限設定部13は、振動パラメータの上限値を、ワークの中心軸方向(Z軸)に対する振動方向の傾きθが大きくなるに従い段階的に又は連続的に小さく又は大きくなるように設定する。機械構成により、ワークの中心軸方向(Z軸)に対する振動方向の傾きθが大きくなるほど工作機械は揺れ易くなる又は揺れ難くなるところ、本実施形態によれば、振動方向に応じてより適切な振動パラメータの上限値を設定することができるため、工作機械全体に生じる揺れをより確実に抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の振動上限設定部13は、振動周波数が工作機械固有の共振周波数に相当する周波数の場合に、他の周波数の場合と比べて振動パラメータの上限値をより小さい値に設定する。振動周波数が工作機械の共振周波数に相当する場合には工作機械が揺れ易くなるところ、本実施形態によれば、共振周波数に応じてより適切な振動パラメータの上限値を設定することができるため、工作機械全体に生じる揺れをより確実に抑制することができる。
【0056】
また本実施形態では、振動条件制限部12は、振動パラメータの上限値を超えないように、振動条件設定部11で設定される振動条件を制限する。これにより、本実施形態によれば、振動パラメータの上限値を超えることを確実に回避できるため、工作機械全体に生じる揺れをより確実に抑制することができる。
【0057】
なお、本開示は上記態様に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良は本開示に含まれる。
【0058】
例えば上記実施形態では、本発明を振動切削に適用したが、これに限定されない。クランクピン加工等のように制御軸を振動させながら軸移動するように制御してワークを加工する工作機械の制御装置に適用することもでき、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
また上記実施形態では、振動パラメータの上限値を、振動周波数に応じて設定する例と、振動方向に応じて設定する例について説明したが、これに限定されない。振動パラメータの上限値を、振動周波数及び振動方向の両者に応じて設定してもよい。
【0060】
また上記実施形態では、工作機械の制御装置1が表示部15を備える構成としたが、これに限定されない。工作機械の制御装置1が表示部15を備えていなくてもよく、上述の上位コンピュータ等に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 工作機械の制御装置
3 モータ
11 振動条件設定部
12 振動条件制限部
13 振動上限設定部
14 振動制御部
15 表示部