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特許7667416解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-15
(45)【発行日】2025-04-23
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20250416BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20250416BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20250416BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F111:10
G06F113:22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021060688
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156810
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
(72)【発明者】
【氏名】東 昌史
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106521(JP,A)
【文献】特開2012-218010(JP,A)
【文献】特開2000-301220(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析部と、
前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析部と、
前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析部と、
前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解部と、
前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定部と、
を有することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記モード選定部は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定することを特徴とする請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項4】
コンピュータシステムが、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、
コンピュータシステムが、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析工程と、
コンピュータシステムが、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析工程と、
コンピュータシステムが、前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、
コンピュータシステムが、前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定工程と、
を少なくとも行うことを特徴とする解析方法。
【請求項5】
前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用することを特徴とする請求項4に記載の解析方法。
【請求項6】
前記モード選定工程は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定することを特徴とする請求項4又は5に記載の解析方法。
【請求項7】
材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、
前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析工程と、
前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析工程と、
前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、
前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用することを特徴とする請求項7に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記モード選定工程は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定することを特徴とする請求項7又は8に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
衝突安全性と軽量化の要請から、自動車の車体等に適用されている鋼板の引張強さは、590MPa級を超え、GPaの単位にまで達しつつある。高強度鋼板は、板厚を増加させることなく、衝突時の吸収エネルギー、強度等を高めることができる。他の軽量化素材に比べれば、高強度鋼板を用いた部品加工、組み立て等は、必ずしも設備や生産技術の大きな変革を要しない。従って、高強度鋼板を用いた部品加工、組み立て等の生産コストへの負荷は、他の軽量化素材に比べれば、比較的小さいと考えられている。
【0003】
しかしながら、プレス加工の場合、鋼板の強度上昇と共に、スプリングバック、しわ等が増加し、部品の寸法精度の確保が困難となる。また、強度上昇に伴う延性の低下は、プレス成形時の破断の危険性を高める。このように、高強度鋼板による性能と生産性の両立は、従来の軟鋼板に比べれば必ずしも容易ではなく、開発工期短縮、製造コスト抑制等と相まって、量産までの加工技術開発の負荷を大きく高めている。
【0004】
上述の破断、しわ、及びスプリングバックのうち、破断及びしわは、部品形状、成形条件等によっては、従来の軟鋼板を用いる場合でも発生し得る課題であり、これまでに数多くの知見、対策技術等が蓄積されている。一方、スプリングバックは、高強度鋼板を用いる場合に特有の課題であり、未だ十分な検討がされておらず、広く普及している成形シミュレーションも、スプリングバック解析による寸法精度予測については、十分な実用信頼性を得ているとは言えない。
【0005】
スプリングバックとは、成形品を成形後に金型から取り出す作業や、不要な部分をトリミングする作業等、部品の拘束を緩和する作業をすることで残留応力が駆動力となり、新たな釣り合いを満たすように部品に生じる弾性変形である。高強度鋼板ではこのスプリングバックが大きいため、最終製品として要求されている寸法精度の確保が困難になる。
【0006】
スプリングバックは、現象に応じて、「角度変化」、「壁そり」、「ねじれ(ひねれ)」、「稜線そり(面そり)」、「パンチ底のスプリングバック」に分類される。いずれも、部品内での残留応力分布が曲げ又はねじりのモーメントとして働き、材料の弾性係数、板厚、部品形状等で決まる剛性に応じて部品が変形した結果として生じる。例えば、最も良く知られているスプリングバックの例は、曲げ角度変化、壁そり等である。これらのスプリングバックは、板厚方向の応力分布が駆動力となり、剛性は主に板厚で決定される。或いは、長手方向に湾曲したハット断面のビームをドロー成形すると、壁そり及びねじれが生じるが、湾曲の曲率が小さいと部品剛性が高まり、壁そりが小さくなる。
【0007】
このメカニズムに基づくと、寸法精度不良の対策方法の一つは、板厚、部品形状等を変更し、スプリングバックの弾性変形モードに応じた剛性を高め、スプリングバックに対する抵抗を増大させることである。
【0008】
スプリングバックに対する抵抗の増大は、確実に寸法変化を低下させる。スプリングバックに対する抵抗は、その弾性変形モードに対する部品の剛性である。部品の剛性を高めるためには、部品の形状が重要な因子である。部品の形状は、性能、レイアウト等の要件で制約されているため、ビード、エンボス等の小さな対策が有効である。
【0009】
壁そりに対するビードは、最も典型的な剛性補強対策例である。一方、複雑な部品での3次元的なスプリングバックに対して、最適な剛性補強位置を見出すのは容易でない。新たな試みとして、固有振動解析及び最適化を併用する方法が提案されている(非特許文献1を参照)。
【0010】
即ち、固有振動数が剛性の平方根に比例し、且つ、密度(質量)の平方根に反比例することに着目し、スプリングバックの弾性変形モードを特定し、そのスプリングバックの弾性変形モードに対応する固有振動モードを選定し、その固有振動モードの固有振動数が上昇するように、要素の一部を同密度の高弾性材料に置き換え、その要素の最適な配置を、最適化ツール等を用いて求める。これにより、最適な剛性補強位置を容易に見出すことができる。
【0011】
しかしながら、この方法では、固有振動モードを手動で選定しなければならないため、手間が掛かるという問題があった。また、固有振動モードを自動で選定するとしても、選定基準が明らかでないため、スプリングバックの弾性変形モードに対応する固有振動モードを選定できるとは限らず、高弾性材料の最適な配置が得られるとは限らなかった。そこで、すべての固有振動モードを選定し、それぞれについて高弾性材料の最適な配置を求めることも考えられるが、それではコストが掛かりすぎるという問題があった。このため、スプリングバックによって生じる部材の変形を低減するための解析を容易に行うことができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】樋渡俊二、外1名、「高強度鋼板の成形課題への包括的取組み」、日本鉄鋼協会創形創質工学部会板成形フォーラム特別講演会、社団法人日本鉄鋼協会、2005年1月14日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来の課題を解決すべくなされたものであり、スプリングバックの前後における部材の歪エネルギー、応力ベクトル、又は歪ベクトルの差分値に対応する固有振動モードを容易に選定し、スプリングバックによって生じる部材の変形を低減するための解析を容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解析装置は、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析部と、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析部と、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析部と、前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解部と、前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定部とを有する。
【0015】
本発明の解析装置において、前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用する。
【0016】
本発明の解析装置において、前記モード選定部は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定する。
【0017】
本発明の解析方法は、コンピュータシステムが、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、コンピュータシステムが、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析工程と、コンピュータシステムが、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析工程と、コンピュータシステムが、前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、コンピュータシステムが、前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定工程とを少なくとも行う。
【0018】
本発明の解析方法において、前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用する。
【0019】
本発明の解析方法において、前記モード選定工程は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定する。
【0020】
本発明のコンピュータプログラムは、部材の形状を示す有限要素モデルデータ、前記部材の材料物性を示す材料物性データ、及び前記部材に生じる応力分布を示す応力分布データを取得するプレス成形解析工程と、前記有限要素モデルデータ、前記材料物性データ、及び前記応力分布データに基づいて、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの少なくとも1つのパラメータについて、前記部材にスプリングバックが生じる後と前記部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する差分分布解析工程と、前記有限要素モデルデータ及び前記材料物性データに基づいて、各固有振動モードについて、前記各固有振動モードでの前記部材の前記パラメータの分布を示す第2分布データを生成する固有振動解析工程と、前記第1分布データと前記各固有振動モードでの前記第2分布データのそれぞれとの間の一致度を求めるモード分解工程と、前記一致度に基づいて、1つ又は複数の固有振動モードを選定するモード選定工程とをコンピュータに実行させる。
【0021】
本発明のコンピュータプログラムにおいて、前記パラメータとして、前記部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちの2つ又は3つを使用する。
【0022】
本発明のコンピュータプログラムにおいて、前記モード選定工程は、前記部材の板厚方向の複数の積分点で前記パラメータを評価し、前記一致度に基づいて1つの前記固有振動モードを選定する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スプリングバック変形に対応する固有振動モードを容易に選定することができる。従って、スプリングバックによって生じる部材の変形を低減するための解析を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態による解析装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
図2】要素に分割する前後の部材の一例を示す模式図である。
図3】一致度のパラメータにベクトルを用いる場合について説明する模式図である。
図4】固有振動モードの次数と分布データ間の一致度との関係を示す特性図である。
図5】本実施形態による解析装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図6】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0026】
図1は、解析装置1の動作の一例を説明するフローチャートである。なお、図1に示す処理フローは、図5に示す解析装置1の記憶部12に予め記憶されているプログラムに基づき、主に解析装置1の処理部13により、解析装置1の各要素と協働して実行される。なお、解析装置1の構成については後述する。
【0027】
最初に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「CADモデルデータ及び生成条件データ」に基づいて、部材の形状を、特定の形状及びサイズの複数の要素に分割することにより、有限要素モデルデータを生成する(ステップS101)。また、処理部13は、生成した有限要素モデルデータを、記憶部12に格納する。なお、有限要素モデルの生成処理には、市販のアプリケーションプログラムであるHyperMeshを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(ANSA等)を利用することも可能である。
【0028】
図2(a)は、要素に分割する前の部材の一例を示す模式図(斜視図)である。図2(b)は、要素に分割された後の部材の一例を示す模式図(斜視図)である。図2(a)に示される部材201が処理部13により四角形の複数の要素に分割されると、図2(b)に示される部材211のようになる。
【0029】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、材料物性データ、及びプレス成形条件データに基づいて、部材の各要素に発生する応力を有限要素法によって求めることにより、部材の応力分布データを生成する(ステップS102)。このように部材の応力分布データには、部材の各要素に発生する応力を示す情報が含まれる。また、処理部13は、生成した応力分布データを、記憶部12に格納する。なお、プレス成形の解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるHyperFormを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(LS-DYNA、PAM-STAMP等)を利用することも可能である。
【0030】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、応力分布データ、材料物性データ、及び境界条件データに基づいて、部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちのいずれか1つのパラメータについて、部材にスプリングバックが生じる後と部材にスプリングバックが生じる前との差分値の分布を示す第1分布データを生成する(ステップS103)。スプリングバックの前後における上記のパラメータの差分は、スプリングバックの駆動力と等価であると考えられることから、当該パラメータ差分値をスプリングバックの駆動力の指標とする。処理部13は、生成した第1分布データを、記憶部12に格納する。なお、スプリングバックの解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるLS-DYNAを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(PAM-STAMP等)を利用することも可能である。
【0031】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータ、材料物性データ、及び境界条件データに基づいて、各固有振動モードについて、各固有振動モードでの部材の上記のパラメータの分布を示す第2分布データを生成する(ステップS104)。また、処理部13は、生成した第2分布データのそれぞれを、記憶部12に格納する。なお、固有振動の解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるOptiStructを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(Nastran等)を利用することも可能である。
【0032】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている第1分布データと、各固有振動モードでの第2分布データのそれぞれとの各組み合わせについて、分布データ間の一致度を求める(ステップS105)。即ち処理部13は、部材の各要素について、各固有振動モードでのパラメータと、スプリングバックに基づくスプリングバック前後のパラメータ差分値とに、どの程度の関連性があるのかを求めることにより、分布データ間の一致度を求める。
【0033】
本実施形態では、パラメータとして、部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちのいずれか1つを用いる。以下、パラメータがスカラーである場合(歪エネルギーの場合)と、ベクトルである場合(応力ベクトル又は歪ベクトルの場合)とに分けて、分布データ間の一致度の求め方について説明する。
【0034】
[パラメータがスカラー(歪エネルギー)である場合]
具体的には、処理部13は、次の(1)式に示す連立一次方程式を解くことにより、分布データ間の一致度を求める。ここで、uijはi次の固有振動モードでの要素jの歪エネルギー値を示し、uSBjはスプリングバック変形の前後における要素jの歪エネルギー差分値を示し、aiはi次の固有振動モードと歪エネルギー差分値との一致度を示す。aiの大きさが大きいほど分布データ間の一致度が高いことを示す。
【0035】
【数1】
【0036】
或いは、処理部13は、各固有振動モードにおけるパラメータ値とスプリングバック変形の前後におけるパラメータ差分値との差分を求めることにより、分布データ間の一致度を求めることも可能である。具体的には、処理部13は、次の(2)式又は(3)式に示す数式を計算することにより、分布データ間の一致度を求めることも可能である。ここで、uijはi次の固有振動モードでの要素jの歪エネルギー値を示し、uSBjはスプリングバック変形の前後における要素jの歪エネルギー差分値を示す。bi,ciは、i次の固有振動モードと歪エネルギー差分値との一致度を示す。なお、bi,ciの大きさが大きいほど分布データ間の一致度が高いことを示す。
【0037】
【数2】
【0038】
処理部13は、求めた分布データ間の一致度のそれぞれを、記憶部12に格納する。本実施形態では、i次の固有振動モードと歪エネルギー差分値との一致度ai,bi,ciのうち、aiを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0039】
[パラメータがベクトル(応力ベクトル又は歪ベクトル)である場合]
(1)第1の方法
具体的には、処理部13は、次の(4)式により、分布データ間の一致度を求める。ここで、AMijは、モード解析におけるi次の固有振動モードでの要素jの最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトルである。APjは、プレス成形解析における要素jの最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトルの差分値(スプリングバック後の最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトル-スプリングバック前の最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトル)である。BMijは、モード解析におけるi次の固有振動モードでの要素jの最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトルである。BPjは、プレス成形解析における要素jの最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトルの差分値(スプリングバック後の最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトル-スプリングバック前の最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトル)である。diは、i次の固有振動モードとスプリングバック変形との一致度を示す。diの大きさが大きいほど、分布データ間の一致度が高いことを示す。(4)式において、モード解析とプレス成形解析では応力が反転しているため、負符号(-)が付されている。
【0040】
【数3】
【0041】
(2)第2の方法
具体的には、処理部13は、次の(5)式により、分布データ間の一致度を求める。ここで、AMijは、モード解析におけるi次の固有振動モードでの要素jの最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトルである。APjは、プレス成形解析における要素jの最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトルの差分値(スプリングバック後の最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトル-スプリングバック前の最大主応力ベクトル又は最大主歪ベクトル)である。BMijは、モード解析におけるi次の固有振動モードでの要素jの最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトルである。BPjは、プレス成形解析における要素jの最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトルの差分値(スプリングバック後の最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトル-スプリングバック前の最小主応力ベクトル又は最小主歪ベクトル)である。diは、i次の固有振動モードとスプリングバック変形との一致度を示す。diの大きさが大きいほど、分布データ間の一致度が高いことを示す。(5)式において、モード解析とプレス成形解析では応力が反転しているため、負符号(-)が付されている。
【0042】
【数4】
【0043】
第1の方法の(4)式及び第2の方法の(5)式において、一致度のパラメータにベクトルを用いる場合について、図3を用いて説明する。ここでは、パラメータとして応力ベクトルを例示する。本実施形態では、プレス成形解析の応力ベクトルとモード解析の応力ベクトルとについて、「角度のずれ」と「ベクトルの大きさ」の両方を包含した、固有振動モードとスプリングバック変形との一致度を表現する。そのため、内積を用いている。
【0044】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている分布データ間の一致度のそれぞれに基づいて、1つ又は複数(少数)、ここでは1つの固有振動モードを選定する(ステップS106)。本実施形態と異なり、分布データ間の一致度を部材の形状(変位)を用いて評価する場合には、固有振動モードの次数と分布データ間の一致度との関係について、1つの関係(特性図)しか作成することができない。これに対して本実施形態では、分布データ間の一致度を部材の歪エネルギー、応力ベクトル、又は歪ベクトルのパラメータを用いて評価する。この場合、部材の板厚方向の各積分点でパラメータを評価することができ、固有振動モードの次数と分布データ間の一致度との関係について積分点の数だけ特性図を作成することができる。これにより、本実施形態では後述するように、処理部13は、分布データ間の一致度に基づいて、スプリングバックによって生じる部材の変形に対応する固有振動モードとして、例えば8次モードのみを選定することができる。
【0045】
次に、処理部13は、生成した固有振動モードについて、その固有振動数が上昇するように、記憶部12に記憶されている材料物性データ、境界条件データ、及び配置条件データに基づいて、記憶部12に記憶されている有限要素モデルデータにビードを配置する(ステップS107)。
【0046】
ここで、有限要素モデルデータにビードを配置することは、有限要素モデルデータに含まれる要素に属する部材の表面に凹凸を付けることを意味する。このように本発明におけるビードは、部材の表面に凹凸を付けることを意味し、エンボス等も含む概念である。
【0047】
そして、処理部13は、ビードが配置された後の有限要素モデルデータを、記憶部12に格納する。なお、ビードの配置処理には、市販のアプリケーションプログラムであるOptiStructを利用する。また、ビードの配置処理に際し、部材面積に対するビード配置面積の割合を指定することができる。ここで、部材面積とは、部材の面のうち、ビードを配置することが可能な面の面積である。ビード配置面積とは、部材の面のうち、ビードが配置される部分の面積である。この割合を大きくしすぎると、部材の大部分の領域にビードを配置することになる。しかしながら、部材の形状、部材の取り付け箇所、及び他の部材との関係等によって、ビードを配置する領域に制限が課せられる場合がある。また、スプリングバックによって生じる部材の変形を抑制するのに大きく寄与する領域のみを、ビードを配置する領域とし、部材の設計を行い易くしたい場合がある。このような観点から、ユーザは、操作部14を操作することによって、部材面積に対するビード配置面積の割合を適宜指定する。
【0048】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「ビードが配置された後の各有限要素モデルデータ、材料物性データ、及びプレス成形条件データ」に基づいて、部材の各要素に発生する応力を有限要素法によって求めることにより、部材の応力分布データを更新する(ステップS108)。また、処理部13は、このようにして生成された「ビードが配置された後の応力分布データ」を、記憶部12に格納する。なお、プレス成形の解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるHyperFormを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(LS-DYNA、PAM-STAMP等)を利用することも可能である。
【0049】
次に、処理部13は、記憶部12に記憶されている「ビードが配置された後の各有限要素モデルデータ」について、当該有限要素モデルデータに、記憶部12に記憶されている「更新後の応力分布データ」をマッピングする(ステップS109)。そして、処理部13は、当該更新後の応力分布データがマッピングされた有限要素モデルデータと、記憶部12に記憶されている「材料物性データ及び境界条件データ」と、に基づいて、部材の歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちのいずれか1つのパラメータについて、部材にスプリングバックが生じる後と部材にスプリングバックが生じる前との差分の分布を示す第1分布データを生成する(ステップS109)。また、処理部13は、このようにして生成した「ビードが配置された後の第1分布データ」を、記憶部12に格納する。なお、スプリングバックの解析処理には、市販のアプリケーションプログラムであるLS-DYNAを利用する。しかしながら、他のアプリケーションプログラム(PAM-STAMP等)を利用することも可能である。
【0050】
次に、処理部13は、ビードが配置された後の第1分布データに基づいて定まる部材のパラメータ値と、当該部材の目標のパラメータ値との差が所定の範囲内であるか否かを判定する(ステップS110)。この判定は、例えば、ビードが配置された部材の各要素のパラメータ値と、当該各要素の目標のパラメータ値との差の全てが所定の範囲内であるか否かを判定することにより実現できる。
【0051】
この判定の結果、ビードが配置された後の第1分布データに基づいて定まる部材のパラメータ値と、当該部材の目標のパラメータ値との差が所定の範囲内でない場合には、ステップS104に戻る。そして、ビードが配置された後の第1分布データに基づいて定まる部材のパラメータ値と、当該部材の目標のパラメータ値との差が所定の範囲内になるまで、記憶部12に記憶されている「ビードが配置された後の(最新の)各有限要素モデルデータ」を用いて、ステップS104~S110の処理を繰り返し行う。そして、ビードが配置された後の第1分布データに基づいて定まる部材のパラメータ値と、当該部材の目標のパラメータ値との差が所定の範囲内になると、処理部13は、スプリングバック後の部材のパラメータ値と目標のパラメータ値との差が所定の範囲内になるビードの配置(ステップS107で得られた最新のビードの配置)を特定する情報等を表示部15に表示させる。そして、図1のフローチャートによる処理を終了する。ビードの配置を特定する情報としては、例えば画像の他に、ビードの位置、形状、高さ(深さ)等の情報を含めることができる。また、スプリングバック後の部材のパラメータ値と目標のパラメータ値が所定の範囲内になるときに選定された固有振動モード(ステップS106で得られた最新の固有振動モード)を示す情報を表示部15に表示させても良い。
【0052】
ステップS111の処理で、例えば、ビードの配置を特定する情報が表示される。しかしながら、ビードの形状は複雑である。従って、当該情報通りにビードを部材に配置することは容易ではない。そこで、ユーザは、当該情報におけるビードの配置と、部材の形状・取り付け位置及び他の部材との関係等とに基づいて、部材に対する実際のビードの配置(即ち、部材の形状)を決定する。
【0053】
このように、解析装置1の処理部13は、有限要素モデルデータに対して、プレス成形解析、スプリングバック解析、固有振動解析等を実行する。また、処理部13は、パラメータ差分値との一致度に基づいて1つの固有振動モードを選定し、この固有振動モードの固有振動数が上昇するように、有限要素モデルデータにビードを配置する。そして、処理部13は、ビードが配置された後の有限要素モデルデータに対して、プレス成形解析及びスプリングバック解析を再度実行する。そして、スプリングバック解析後の部材のパラメータ値と目標のパラメータ値との差が所定の範囲内になるまで、ビードの配置と、プレス成形解析と、スプリングバック解析とを繰り返し行う。これにより、ユーザは、スプリングバック変形に対応する固有振動モードを容易に選定することが可能となる。
【0054】
なお、図1のフローチャートにおいて、ステップS108、S110の処理を行わないようにしても良い。このようにした場合、ステップS109においては、記憶部12に記憶されている「ビードが配置された後の各有限要素モデルデータ」について、ステップS102で生成されて記憶部12に記憶された「部材の応力分布データ」をマッピングする。
【0055】
次に、本実施形態の一実施例について説明する。
本実施例では、図2に示される形状、即ちハット型の部材を解析の対象とした。部材の寸法として、長さを300mmとし、断面を58×36~46×26mmとし、フランジ幅を26mmとした。部材の板厚を1.2mmとした。また、部材を構成する材料を鋼板とした。鋼板の物性として、ヤング率を206GPaとし、ポワソン比を0.3とし、比重を7.8とした。また、鋼板の摩擦係数を、0.12とした。
【0056】
以上の条件で、プレス成形解析、スプリングバック解析、固有振動解析、及びモード分解を実行したところ、図4に示すように、固有振動モードの次数と分布データ間の一致度との関係が得られた。ここで、横軸は、固有振動モードの次数を示す。縦軸は、分布データ間(スプリングバック変形に基づく第1分布データと、各固有振動モードでの第2分布データとの間)の一致度を示す。図4では、縦軸の一致度の値を1に近づけるため、当該一致度を、降伏点をYPとしてYPnで割っている。なお、nは要素数である。
【0057】
本実施例では、分布データ間の一致度を部材の歪エネルギー、応力ベクトル、又は歪ベクトルのパラメータを用いて評価するため、部材の板厚方向の複数の積分点でパラメータを評価する。図4では、複数の積分点として、部材の板厚中心部と板厚上面表層部の2点で評価しており、各積分点に対応して得られた2種類の特性図を示している。板厚中心部の応力はねじれ変形の要因、板厚上面表層部の応力は曲げ変形の要因となり、双方で高い一致度を示す次数のモードが正確性に優れていると言える。2種類の特性図より、各積分点の双方について一致度が高いのは8次モードのみである。一方の積分点のみが高い1次、2次、12次モード等は排除される。本実施例では、スプリングバックによって生じる部材の変形に対応する固有振動モードとして、8次モードのみを選定することができ、スプリングバックによって生じる部材の変形を確実に低減することが可能となる。
【0058】
最後に、本実施形態における解析装置1のハードウェア構成について説明する。図5は、解析装置1の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0059】
解析装置1は、すでにインストールされているプログラムを実行し、記憶部12に記憶されているデータ及び/又は他の装置に記憶されているデータを参照し、各種の処理を実行する。また、解析装置1は、ユーザから操作部14を介して入力された指示に従って各種の処理を実行し、その結果を、表示部15を介してユーザに提示する。そのために、解析装置1は、通信部11と、記憶部12と、処理部13と、操作部14と、表示部15とを有する。
【0060】
通信部11は、解析装置1を不図示のネットワークに接続するための通信インターフェース回路を有する。通信部11は、不図示の他の装置からネットワークを介して受信したデータを、処理部13に渡す。また、通信部11は、処理部13から受け取ったデータを、ネットワークを介して他の装置に送信する。
【0061】
記憶部12は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置のうちの少なくとも何れか1つを有する。記憶部12は、処理部13での処理に用いられるアプリケーションプログラム、データ等を記憶する。記憶部12は、例えば、アプリケーションプログラムとして、有限要素モデル生成プログラム、プレス成形解析プログラム、スプリングバック解析プログラム、固有振動解析プログラム、モード分解プログラム、モード選定プログラム、ビード配置プログラム等を記憶する。
【0062】
また、記憶部12は、予め設定される初期設定データとして、以下のデータ等を記憶する。
第1の初期設定データとして、記憶部12は、部材の位置・大きさ・形状を示すCAD(Computer Aided Design)モデルデータを記憶する。第2の初期設定データとして、記憶部12は、部材の材料物性(寸法、板厚、材料、ヤング率、ポワソン比、質量密度、応力とひずみとの関係等)を示す材料物性データを記憶する。第3の初期設定データとして、記憶部12は、有限要素モデルの生成条件(要素の形状・大きさ等)を示す生成条件データを記憶する。第4の初期設定データとして、記憶部12は、プレス成形条件(摩擦係数、部材フランジ押さえ力等)を示すプレス成形条件データを記憶する。第5の初期設定データとして、記憶部12は、境界条件(部材上の固定点等)を示す境界条件データを記憶する。第6の初期設定データとして、記憶部12は、ビードの配置条件(高さ、配置面積等)を示す配置条件データ等を記憶する。
【0063】
また、記憶部12は、処理部13により生成される中間データとして、以下のデータ等を記憶する。
すなわち、第1の中間データとして、記憶部12は、CADモデルデータに対応する有限要素モデルデータ(各要素の位置・形状・大きさ等)を記憶する。第2の中間データとして、記憶部12は、部材の応力分布を示す応力分布データを記憶する。第3の中間データとして、記憶部12は、スプリングバック前後における部材のパラメータ(歪エネルギー、応力ベクトル、又は歪ベクトル)の差分値の分布を示す第1分布データを記憶する。第4の中間データとして、記憶部12は、各固有振動モードでの部材のパラメータ値の分布を示す第2分布データを記憶する。第5の中間データとして、記憶部12は、分布データ間の一致度を記憶する。第6の中間データとして、記憶部12は、固有振動モードの選定次数を記憶する。第7の中間データとして、記憶部12は、ビードが配置された後の有限要素モデルデータを記憶する。第8の中間データとして、記憶部12は、ビードが配置された後のパラメータ値の分布を示す分布データを記憶する。
更に、記憶部12は、所定の処理に係る一時的なデータを、一時的に記憶しても良い。
【0064】
処理部13は、1個または複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部13は、解析装置1の全体的な動作を統括的に制御する処理部、例えばCPU(Central Processing Unit)である。即ち、処理部13は、解析装置1の各種の処理が操作部14の操作、記憶部12に記憶されているプログラム等に基づいて適切な手順で実行されるように、通信部11、表示部15等の動作を制御する。処理部13は、記憶部12に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、処理部13は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行することができる。
【0065】
処理部13は、図1におけるステップS101の処理を実行する有限要素モデル生成部131と、ステップS102及びS108の処理を実行するプレス成形解析部132と、ステップS103及びS109の処理を実行するスプリングバック解析部133と、ステップS104の処理を実行する固有振動解析部134と、ステップS105の処理を実行するモード分解部135と、ステップS106の処理を実行するモード選定部136と、ステップS107の処理を実行するビード配置部137と、ステップS110の処理を実行するパラメータ判定部138と、ステップS111の処理を実行するデータ描画部139と、を有する。処理部13が有するこれらの各部は、処理部13が有するプロセッサ上で実行されるプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、処理部13が有するこれらの各部は、ファームウェアとして解析装置1に実装されてもよい。
【0066】
データ描画部139は、データの描画処理を実行する。即ち、有限要素モデル生成部131、プレス成形解析部132、スプリングバック解析部133、固有振動解析部134、モード分解部135、モード選定部136、及びビード配置部137から与えられたデータを解析し、そのデータを所定の形式(例えば、コンター図)でレンダリングし、その描画データを生成する。そして、データ描画部139は、生成した描画データを表示部15等に出力する。このようにした場合、表示部15が、出力部として機能する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、通信部11が、有限要素モデル生成部131、プレス成形解析部132、スプリングバック解析部133、固有振動解析部134、モード分解部135、モード選定部136、及びビード配置部137から与えられたデータを外部装置に送信する場合には、通信部11が出力部として機能する。
【0067】
操作部14は、解析装置1の操作が可能であればどのようなデバイスでも良く、例えば、キーボード、タッチパネル等である。ユーザは、このデバイスを用いて、選択等の指示を入力することが可能となる。操作部14は、ユーザにより操作されると、その操作に対応する信号を発生する。そして、発生した信号は、ユーザの指示として、処理部13に入力される。
【0068】
表示部15も、映像、画像等の表示が可能であればどのようなデバイスでも良く、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等である。表示部15は、処理部13から供給される描画データに応じた映像、画像等を表示する。
【0069】
以上説明してきたように、本実施形態では、スプリングバックの前後における部材の歪エネルギー、応力ベクトル、又は歪ベクトルの差分値に対応する固有振動モードを容易に選定し、スプリングバックによって生じる部材の変形を低減するための解析を容易に行うことが可能になる。
【0070】
なお、本実施形態では、スプリングバック解析における部材のパラメータとして、歪エネルギー、応力ベクトル、及び歪ベクトルのうちのいずれか1つを用いる場合を例示したが、これらのうちのいずれか2つ又は3つ全部を用いても良い。複数のパラメータを用いることにより、これらの差分値に対応する固有振動モードをより正確に選定し、スプリングバックによって生じる部材の変形を確実に低減することができる。また、これら3つのパラメータに部材の形状(スプリングバック後の形状が相当する固有振動変形モードを選定する)を加えても良い。
【0071】
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、解析装置1は、図5に示す各部を有するとしたが、その一部については、不図示のサーバ装置が有するとしてもよい。サーバ装置は、例えば、解析装置1の記憶部12に相当する記憶部を有し、記憶部に記憶されているプログラム、データ等を解析装置1に提供し、解析装置1に解析処理を実行させるようにしてもよい。このようにした場合、解析装置1の処理部13は、サーバ装置から通信部11を介してプログラム、データ等を取得する。一方、解析装置1の記憶部12にプログラム、データ等を記憶する場合には、処理部13が記憶部12からプログラム、データ等を取得することになる。
【0072】
また、サーバ装置は、解析装置1の記憶部12及び処理部13に相当する記憶部及び処理部を有し、記憶部に記憶されているプログラム、データ等を用いて解析処理を実行し、その結果のみを解析装置1に提供するようにしても良い。
【0073】
即ち、上記した本実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。本実施形態による解析装置の各構成要素(図5の処理部13の各部131~139等)の機能は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。同様に、本実施形態による解析方法の各ステップ(図1のステップS101~S111等)は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。本実施形態による解析装置の各構成要素(図5の処理部13の各部131~139等)の機能を実現するためのプログラムや、本実施形態による解析方法の各ステップ(図1のステップS101~S111等)のプログラムを、メモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであっても良い。
【0074】
図5に示した解析装置1の記憶部12は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリや、CD-ROM等の読み出しのみが可能な記憶媒体、RAMのような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成されるものであっても良い。
【0075】
また、本実施形態による解析装置の各構成要素(図5の処理部13の各部131~139等)の諸機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、各構成要素の処理を実行しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0076】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものでも良い。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含むものでも良い。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、更に前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0077】
一具体例として、本実施形態に示した解析装置は、図6に示すようなコンピュータ機能100を有し、そのCPU101により本実施形態における動作が実施される。
コンピュータ機能100は、図6に示すように、CPU101と、ROM102と、RAM103とを備える。また、操作部(CONS)109のコントローラ(CONSC)105と、CRTやLCD等の表示部としてのディスプレイ(DISP)110のディスプレイコントローラ(DISPC)106とを備える。更に、ハードディスク(HD)111、及びフレキシブルディスク等の記憶デバイス(STD)112のコントローラ(DCONT)107と、ネットワークインタフェースカード(NIC)108とを備える。それら機能部101,102,103,105,106,107,108は、システムバス104を介して互いに通信可能に接続された構成としている。
【0078】
CPU101は、ROM102又はHD111に記憶されたソフトウェア、又はSTD112より供給されるソフトウェアを実行することで、システムバス104に接続された各構成部を総括的に制御する。即ち、CPU101は、上述したような動作を行うための処理プログラム(解析プログラム)を、ROM102、HD111、又はSTD112から読み出して実行することで、本実施形態における動作を実現するための制御を行う。RAM103は、CPU101の主メモリ又はワークエリア等として機能する。
【0079】
CONSC105は、CONS109からの指示入力を制御する。DISPC105は、DISP110の表示を制御する。DCONT107は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施形態における上記の処理プログラム等を記憶するHD111及びSTD112とのアクセスを制御する。NIC108はネットワーク113上の他の装置と双方向にデータをやりとりする。
なお、パーソナルユーザ端末装置を用いる代わりに、本実施形態の解析装置に特化された所定の計算機等を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば、自動車の車体等に適用される部材の成形に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
11 通信部
12 記憶部
13 処理部
14 操作部
15 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6