(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-15
(45)【発行日】2025-04-23
(54)【発明の名称】熱可塑性重合体組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20250416BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250416BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20250416BHJP
B29B 9/12 20060101ALI20250416BHJP
B29B 7/38 20060101ALI20250416BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/22
C08J3/215 CEW
B29B9/12
B29B7/38
(21)【出願番号】P 2024119544
(22)【出願日】2024-07-25
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023122809
(32)【優先日】2023-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 剛
(72)【発明者】
【氏名】上田 明紀
(72)【発明者】
【氏名】北川 迪子
(72)【発明者】
【氏名】入江 正樹
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023629(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057331(WO,A1)
【文献】特開平06-157032(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104087030(CN,A)
【文献】特開2016-106160(JP,A)
【文献】特開平10-048989(JP,A)
【文献】特開2021-181258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
B29B
F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)、架橋フッ素ゴム(B)および酸化マグネシウム(C)を含有する熱可塑性重合体組成物であって、
フッ素樹脂(A)が、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含有する共重合体であり、
架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものであり、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径が、
0.1~0.6μmであり、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の50%粒子径が、1.0μm以下であり、
フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))が、50/50~95/5である
熱可塑性重合体組成物。
【請求項2】
酸化マグネシウム(C)の含有量が、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.01~10質量部である請求項
1に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項3】
フッ素樹脂(A)の融点が、160~320℃である請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項4】
フッ素ゴム(b)が、部分フッ素化ゴムである請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項5】
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、および、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項6】
架橋剤(D)が、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミン化合物およびパーオキサイドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項7】
酸化マグネシウム(C)に代えて、体積基準の10%粒子径が1.99μmである酸化マグネシウムを含有する以外は、同じ成分を有する熱可塑性重合体組成物のMIT値に対して、1.2倍以上のMIT値を示す請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項8】
フッ素樹脂(A)が、エチレン単位とテトラフルオロエチレン単位とのモル比(エチレン単位/TFE単位)が、10/90~62/38であり、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、90~100モル%である共重合体であり、
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が45~85/55~15であるビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系ゴム、または、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が40~80/10~35/10~35であるビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムであり、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径が、0.1~0.4μmであり、
架橋剤(D)が、ポリヒドロキシ化合物であり、
フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))が、60/40~85/15であり、
熱可塑性重合体組成物のメルトフローレート(297℃)が、1.0~30g/10分である
請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項9】
ペレットである請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物を成形することにより得られる成形品。
【請求項11】
チューブまたはホースである請求項
10に記載の成形品。
【請求項12】
請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物の製造方法であって、
シリンダーおよびダイを備える押出機を用いて、フッ素樹脂(A)、フッ素ゴム(b)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)を含有するフッ素ゴム組成物を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、前記シリンダー中で混練し、得られる混練物を前記ダイから押し出すことにより、前記熱可塑性重合体組成物のペレットを得る製造方法。
【請求項13】
前記混練物の前記ダイからの押し出しを60分間継続した場合に、下記の式により算出する圧力の変化率が、5%以下である請求項
12に記載の製造方法。
圧力の変化率(%)=(X
60-X
0)/X
0
X
0:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始時の圧力(MPa)
X
60:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始から60分間経過した時の圧力(MPa)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性重合体組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ素樹脂(A)10~95重量%および架橋フッ素ゴム(B)90~5重量%からなる熱可塑性重合体組成物であって、フッ素樹脂(A)が、融点120~330℃の含フッ素エチレン性重合体(a)からなり、架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)および架橋剤(C)の存在下、少なくとも1種のフッ素ゴム(b-1)または含フッ素熱可塑性エラストマー(b-2)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである熱可塑性重合体組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、高い生産性で製造することができ、優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、フッ素樹脂(A)、架橋フッ素ゴム(B)および酸化マグネシウム(C)を含有する熱可塑性重合体組成物であって、フッ素樹脂(A)が、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含有する共重合体であり、架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものであり、酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径が、1.0μm以下であり、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))が、50/50~95/5である熱可塑性重合体組成物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、高い生産性で製造することができ、優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実験例1で製造した熱可塑性重合体組成物の切断面の画像である。
【
図2】
図2は、比較例4で製造した熱可塑性重合体組成物の切断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本開示の熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)、架橋フッ素ゴム(B)および酸化マグネシウム(C)を含有する。
【0010】
(フッ素樹脂(A))
本開示で用いるフッ素樹脂(A)は、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン(TFE)単位を含有する共重合体である。本開示の熱可塑性重合体組成物は、エチレン単位およびTFE単位を含有するフッ素樹脂(A)を含有することから、燃料バリア性および成形性に優れている。
【0011】
上記の共重合体におけるエチレン単位とTFE単位とのモル比(エチレン単位/TFE単位)は、好ましくは10/90以上であり、より好ましくは15/85以上であり、さらに好ましくは20/80以上であり、好ましくは80/20以下であり、より好ましくは63/37以下であり、さらに好ましくは62/38以下である。
【0012】
フッ素樹脂(A)は、エチレン、TFE、並びに、エチレンおよびTFEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH2=CX5Rf3、CF2=CFRf3、CF2=CFORf3、CH2=C(Rf3)2
(式中、X5はHまたはF、Rf3はエーテル結合を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す。)で表される単量体が挙げられ、なかでも、CF2=CFRf3、CF2=CFORf3およびCH2=CX5Rf3で表される含フッ素ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、HFP、CF2=CF-ORf4(式中、Rf4は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)およびRf3が炭素数1~8のフルオロアルキル基であるCH2=CX5Rf3で表される含フッ素ビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、HFPが更に好ましい。また、エチレンおよびTFEと共重合可能な単量体としては、イタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。
【0013】
上記の共重合体におけるエチレン単位およびTFE単位の含有量は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは90~100モル%であり、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは99.9モル%以上である。
【0014】
上記の共重合体におけるエチレンおよびTFEと共重合可能な単量体単位の含有量は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~10モル%であり、より好ましくは5モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以下である。
【0015】
フッ素樹脂(A)は、HFPに基づく単量体単位(HFP単位)を含むTFE/エチレン/HFP共重合体であることも好ましい。TFE/エチレン/HFP共重合体は、TFE/エチレン/HFPがモル比で、40~65/30~60/0.5~20であることが好ましく、40~65/30~60/0.5~10であることがより好ましい。
【0016】
フッ素樹脂(A)の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0017】
フッ素樹脂(A)の融点は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、好ましくは160℃以上であり、より好ましくは170℃以上であり、さらに好ましくは180℃以上であり、特に好ましくは190℃以上であり、好ましくは324℃未満であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは300℃以下であり、特に好ましくは280℃以下であり、最も好ましくは260℃以下である。
【0018】
フッ素樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(297℃)は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、好ましくは0.5g/10分以上であり、より好ましくは2.0g/10分以上であり、さらに好ましくは5.0g/10分以上であり、特に好ましくは8.0g/10分以上であり、最も好ましくは10g/10分以上であり、好ましくは100g/10分以下であり、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、特に好ましくは35g/10分以下である。フッ素樹脂(A)のMFRの測定は、温度297℃、荷重5kgで行われる。
【0019】
(架橋フッ素ゴム(B))
本開示の熱可塑性重合体組成物に含まれる架橋フッ素ゴム(B)は、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものである。本開示の熱可塑性重合体組成物は、架橋フッ素ゴム(B)を含有することから、燃料バリア性および柔軟性に優れている。
【0020】
動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機などを使用して、未架橋のフッ素ゴム(b)を溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。架橋処理に、二軸押出機などの押出機を用いると、混練物に高剪断力を加えることができる点で好ましい。
【0021】
溶融条件下に架橋処理するとは、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で未架橋のフッ素ゴム(b)を架橋処理することを意味する。架橋処理の温度は、好ましくはフッ素樹脂(A)の融点以上であり、より好ましくは330℃以下であり、さらに好ましくは320℃以下である。架橋処理の温度は、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度であれば、150℃以上であってもよいが、好ましくは220℃以上であり、より好ましくは240℃以上である。架橋処理の温度を上記範囲とすることにより、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)とを十分に混練できると同時に、未架橋のフッ素ゴム(b)の熱劣化を抑制することができる。
【0022】
架橋フッ素ゴム(B)は、未架橋のフッ素ゴム(b)を架橋することにより得られる。
【0023】
本開示において、フッ素ゴムとは、非晶質フルオロポリマーである。「非晶質」とは、フルオロポリマーの示差走査熱量測定〔DSC〕(昇温速度10℃/分)あるいは示差熱分析〔DTA〕(昇温速度10℃/分)において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさが4.5J/g以下であることをいう。フッ素ゴムは、架橋することにより、エラストマー特性を示す。エラストマー特性とは、ポリマーを延伸することができ、ポリマーを延伸するのに必要とされる力がもはや適用されなくなったときに、その元の長さを保持できる特性を意味する。
【0024】
フッ素ゴム(b)としては、パーフルオロゴム、部分フッ素化ゴム、含フッ素熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。フッ素ゴム(b)としては、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、部分フッ素化ゴムが好ましい。
【0025】
本開示において、部分フッ素化ゴムとは、フルオロモノマー単位を含み、全単量体単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%未満のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーである。
【0026】
本開示において、パーフルオロモノマーとは、分子中に炭素原子-水素原子結合を含まないモノマーである。上記パーフルオロモノマーは、炭素原子及びフッ素原子の他、炭素原子に結合しているフッ素原子のいくつかが塩素原子で置換されたモノマーであってもよく、炭素原子の他、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、燐原子、硼素原子又は珪素原子を有するものであってもよい。上記パーフルオロモノマーとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたモノマーであることが好ましい。上記パーフルオロモノマーには、架橋部位を与えるモノマーは含まれない。
【0027】
フッ素ゴム(b)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム等が挙げられる。フッ素ゴム(b)としては、なかでも、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムおよびテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド45~85モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー55~15モル%とからなる共重合体が好ましく、ビニリデンフルオライド50~80モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー50~20モル%とからなる共重合体がより好ましい。
【0029】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、フルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式(100):CHX101=CX102Rf101(式中、X101およびX102は、一方がHであり、他方がFであり、Rf101は炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマー、一般式(170):CH2=CH-(CF2)n-X171(式中、X171はH又はFであり、nは3~10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋部位を与えるモノマー等のモノマー;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル等の非フッ素化モノマーが挙げられる。これらをそれぞれ単独で、又は、任意に組み合わせて用いることができる。
【0030】
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)がより好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0031】
一般式(100)で表されるフルオロモノマーとしては、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンまたは1,3,3,3-テトラフルオロプロピレンが好ましく、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンがより好ましい。
【0032】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、なかでも、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテル、CTFEおよび一般式(100)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテルおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0033】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムの具体例としては、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴム、VdF/一般式(100)で表されるフルオロモノマー系ゴム、VdF/一般式(100)で表されるフルオロモノマー/TFE系ゴム、VdF/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕系ゴム、VdF/PMVE/TFE系ゴム、VdF/PMVE/TFE/HFP系ゴム等が挙げられる。これらのなかでも、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴムおよびVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、VdF/HFP系ゴムおよびVdF/HFP/TFE系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0034】
VdF/HFP系ゴムとしては、VdF/HFPのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0035】
VdF/HFP/TFE系ゴムとしては、VdF/HFP/TFEのモル比が40~80/10~35/10~35のものが好ましい。
【0036】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン系ゴムとしては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンのモル比が45~85/55~15であるものが好ましく、より好ましくは50~80/50~20であり、さらに好ましくは60~80/40~20である。
【0037】
上記テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレン45~70モル%、プロピレン55~30モル%、及び、架橋部位を与えるフルオロモノマー0~5モル%からなる共重合体が好ましい。
【0038】
上述したフッ素ゴム(b)の各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0039】
フッ素ゴム(b)は、架橋部位を与えるモノマー由来の単量体単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5-63482号公報、特開平7-316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6-ジヒドロ-6-ヨード-3-オキサ-1-ヘキセン)やパーフルオロ(5-ヨード-3-オキサ-1-ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4-505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特表平4-505345号公報、特表平5-500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0040】
フッ素ゴム(b)は、重合時に連鎖移動剤を使用して得られたものであってもよい。上記連鎖移動剤として、臭素化合物またはヨウ素化合物を使用してもよい。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用して行う重合方法としては、たとえば、実質的に無酸素状態で、臭素化合物またはヨウ素化合物の存在下に、加圧しながら水媒体中で乳化重合を行う方法があげられる(ヨウ素移動重合法)。使用する臭素化合物またはヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
R2IxBry
(式中、xおよびyはそれぞれ0~2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R2は炭素数1~16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1~3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。臭素化合物またはヨウ素化合物を使用することによって、ヨウ素または臭素が重合体に導入され、架橋点として機能する。
【0041】
フッ素ゴム(b)のフッ素含有率は、好ましくは55~73質量%であり、より好ましくは61質量%以上であり、さらに好ましくは63質量%以上であり、尚さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは67質量%以上であり、最も好ましくは69質量%以上であり、より好ましくは71質量%未満である。フッ素ゴムのフッ素含有率は、19F-NMRにて測定されたフッ素ゴムの組成から計算によって求めることができる。
【0042】
フッ素ゴム(b)の100℃におけるムーニー粘度(ML1+10(100℃))は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。また200以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。ムーニー粘度は、ASTM-D1646-15およびJIS K6300-1:2013に準拠して測定する値である。
【0043】
(酸化マグネシウム(C))
本開示の熱可塑性重合体組成物は、酸化マグネシウム(C)を含有する。酸化マグネシウム(C)は、体積基準の10%粒子径が、1.0μm以下である。本開示の熱可塑性重合体組成物は、このように粒子径が小さい酸化マグネシウムを含有するものであることから、高い生産性で製造することができるとともに、優れた耐屈曲性を有している。
【0044】
後述する
図1の画像が示すように、体積基準の10%粒子径が1.0μm以下の酸化マグネシウム(C)を用いることによって、酸化マグネシウム(C)と、フッ素樹脂(A)およびフッ素ゴム(b)とを混練する際に、酸化マグネシウム(C)の粒子同士の凝集を抑制することができ、したがって、酸化マグネシウム(C)を組成物中に高度に分散させられることが判明した。この結果、最終的に得られる熱可塑性重合体組成物中にクラックの発生の起点となる凝集塊がほとんど存在せず、耐屈曲性が向上するものと推測される。
【0045】
酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径は、1.0μm以下であり、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、好ましくは0.8μm以下であり、より好ましくは0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.4μm以下であり、好ましくは0.1μm以上である。
【0046】
酸化マグネシウム(C)の体積基準の50%粒子径は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.5μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下であり、好ましくは0.1μm以上である。
【0047】
酸化マグネシウム(C)の体積基準の90%粒子径は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは2.5μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下であり、好ましくは0.1μm以上である。
【0048】
酸化マグネシウム(C)の10%粒子径は、体積基準の累積の10%粒子径であり、レーザー回析・散乱法により測定することができる。酸化マグネシウム(C)の体積基準の50%粒子径は、体積基準の累積の50%粒子径であり、レーザー回析・散乱法により測定することができる。酸化マグネシウム(C)の体積基準の90%粒子径は、体積基準の累積の90%粒子径であり、レーザー回析・散乱法により測定することができる。
【0049】
酸化マグネシウム(C)の純度は、好ましくは99.0質量%以上である。酸化マグネシウム(C)の純度が上記範囲内にあることにより、架橋フッ素ゴム(B)の架橋度が一層向上する。酸化マグネシウム(C)の純度は、たとえば、ICP発光分析法により測定することができる。
【0050】
酸化マグネシウム(C)の含有量は、一層高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、一層優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られることから、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは1.0質量部以上であり、さらに好ましくは2.0質量部以上であり、より好ましくは9.0質量部以下であり、さらに好ましくは8.0質量部以下であり、特に好ましくは7.0質量部以下である。
【0051】
(架橋剤(D))
本開示においては、架橋フッ素ゴム(B)を得る際に、架橋剤(D)を用いる。架橋剤としては、ポリオール架橋、ポリアミン架橋およびパーオキサイド架橋で通常使用される架橋剤が挙げられる。架橋剤としては、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミン化合物、およびパーオキサイドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリヒドロキシ化合物がより好ましい。
【0052】
ポリアミン化合物としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミン、4,4’-ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0053】
ポリアミン化合物の含有量は、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。
【0054】
ポリヒドロキシ化合物としては、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシスチルベン、2,6-ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’-テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’-テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのなかでも、ビスフェノールAFが好ましい。
【0055】
ポリヒドロキシ化合物の含有量は、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。
【0056】
架橋剤がポリヒドロキシ化合物である場合、架橋フッ素ゴム(B)は、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)に加えて、架橋促進剤の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものであることが好ましい。架橋促進剤は、ポリマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進する。
【0057】
架橋促進剤としては、オニウム化合物があげられ、オニウム化合物のなかでも、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、及び、1官能性アミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0058】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムアイオダイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-メチル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムメチルスルフェート、8-エチル-1,8―ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-プロピル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムブロミド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライド、8-ドデシル-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-エイコシル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライド、8-テトラコシル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライド、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライド(以下、DBU-Bとする)、8-ベンジル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムハイドロキサイド、8-フェネチル-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7―ウンデセニウムクロライド、8-(3-フェニルプロピル)-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセニウムクロライドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性及び諸物性が優れる点から、DBU-Bが好ましい。
【0059】
第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル-2-メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性及び諸物性が優れる点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0060】
架橋促進剤の含有量は特に限定されないが、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。
【0061】
また、架橋剤および架橋促進剤として、ビスフェノールAFおよびベンジルトリフェニルホスホニウムの固溶体(塩素原子を含まない)を用いることも、好ましい実施形態の一つである。固溶体中のベンジルトリフェニルホスホニウムとビスフェノールAFとの質量比は、組成物中の固溶体の分散性を考慮して、好ましくは1:2~1:4である。
【0062】
固溶体(たとえばベンジルトリフェニルホスホニウムとビスフェノールAFと質量比が1:4の固溶体の場合)の含有量は、架橋性および分散性を考慮して、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、好ましくは0.1~2.0質量部である。
【0063】
パーオキサイドとしては、通常パーオキサイド架橋に用いられている架橋剤であればとくに限定されるものではなく、一般には、熱や酸化還元系の存在で容易にパーオキシラジカルを発生するものがよい。具体的には、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイトなどをあげることができる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3が好ましい。
【0064】
パーオキサイドの含有量は、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、1.0~5質量部がより好ましい。
【0065】
架橋剤がパーオキサイドである場合、架橋フッ素ゴム(B)は、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)に加えて、多官能架橋助剤の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものであることが好ましい。
【0066】
多官能架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどが挙げられる。これらの中でも、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。フッ素ゴムと多官能架橋助剤とを混練りする際には、多官能架橋助剤を不活性無機粉体などに含浸させたものを用いてもよい。
【0067】
多官能架橋助剤の含有量は、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。
【0068】
(受酸剤(ただし、酸化マグネシウムを除く))
本開示の熱可塑性重合体組成物は、酸化マグネシウム以外の受酸剤を含有してもよい。受酸剤(ただし、酸化マグネシウムを除く)としては、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、酸化錫、塩基性亜リン酸錫を挙げることができる。
【0069】
受酸剤の配合量としては、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.1~8質量部であり、さらに好ましくは0.5~6質量部である。
【0070】
(熱可塑性重合体組成物)
本開示の熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)、架橋フッ素ゴム(B)および酸化マグネシウム(C)を含有する。
【0071】
フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))は、50/50~95/5であり、好ましくは55/45以上であり、より好ましくは60/40以上であり、好ましくは90/10以下であり、より好ましくは85/15以下である。フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比を上記の範囲内とすることによって、高い生産性で熱可塑性重合体組成物を製造することができ、優れた耐屈曲性を有する熱可塑性重合体組成物が得られる。
【0072】
本開示の熱可塑性重合体組成物において、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成していてもよいし、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)が共連続相構造を形成していてもよいが、フッ素樹脂(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成していることが好ましい。また、フッ素樹脂(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との共連続相構造を含んでいてもよい。
【0073】
未架橋のフッ素ゴム(b)が分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応により未架橋のフッ素ゴム(b)が架橋フッ素ゴム(B)に変化すると、架橋フッ素ゴム(B)の方が未架橋のフッ素ゴム(b)よりも溶融粘度が高いので、架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成するか、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)が共連続相構造を形成することになる。
【0074】
本開示の熱可塑性重合体組成物のMFR(297℃)は、好ましくは0.5g/10分以上であり、より好ましくは1.0g/10分以上であり、さらに好ましくは5.0g/10分以上であり、特に好ましくは8g/10分以上であり、最も好ましくは10g/10分以上であり、好ましくは100g/10分以下であり、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、特に好ましくは30g/10分以下である。熱可塑性重合体組成物のMFRの測定は、温度297℃、荷重5kgで行われる。
【0075】
本開示の熱可塑性重合体組成物は、高いMIT値を示す点に1つの特徴がある。一実施形態において、本開示の熱可塑性重合体組成物は、酸化マグネシウム(C)に代えて、体積基準の10%粒子径が1.99μmである酸化マグネシウムを含有する以外は、同じ成分を有する熱可塑性重合体組成物のMIT値に対して、1.2倍以上のMIT値を示す。MIT値は、実施例に記載の測定方法で測定することができる。MIT値の倍率を算出する際には、酸化マグネシウムの10%粒子径以外の熱可塑性重合体組成物の組成を同じとするだけでなく、熱可塑性重合体組成物から試験片を作製する作製方法も同じとする。たとえば、押出成形法を用いて、所定の条件で、任意の熱可塑性重合体組成物を成形することにより試験片を作製する場合には、押出成形法を用いて、同じ条件で、体積基準の10%粒子径が1.99μmである酸化マグネシウムを含有する熱可塑性重合体組成物を成形することにより試験片を作製する。
【0076】
本開示の熱可塑性重合体組成物の形状は、特に限定されず、粉体、ペレット、クラムなどの形状であってよいが、高い生産性で製造できることから、ペレットであることが好ましい。
【0077】
本開示の熱可塑性重合体組成物は、静電荷が蓄積して引火することを防止するために、導電性を有することも好ましい。この観点から、本開示の熱可塑性重合体組成物は、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性材料を含むことが好ましい。導電性材料は、本開示の熱可塑性重合体組成物に対して、好ましくは0.01~20質量%であり、より好ましくは1~18質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0078】
また、本開示の熱可塑性重合体組成物には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、所期の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0079】
(製造方法)
本開示の熱可塑性重合体組成物は、フッ素樹脂(A)、フッ素ゴム(b)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)を含有するフッ素ゴム組成物を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、混練することにより、製造することができる。
【0080】
本開示の熱可塑性重合体組成物は、シリンダーおよびダイを備える押出機を用いて、フッ素樹脂(A)、フッ素ゴム(b)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)を含有するフッ素ゴム組成物を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、シリンダー中で混練し、得られる混練物をダイから押し出すことにより、熱可塑性重合体組成物のペレットを得る製造方法により好適に製造することができる。本開示の熱可塑性重合体組成物は、このような製造方法で製造することができ、また、後述するとおり、このような製造方法で製造する際に押出圧力が上昇しにくいことから、高い生産性で製造することができる。
【0081】
上記の製造方法においては、フッ素ゴム組成物を混練する際に、フッ素ゴム(b)が動的に架橋され、フッ素樹脂(A)および架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0082】
上記の製造方法においては、フッ素ゴム(b)、架橋剤(D)および架橋促進剤を混練して、フッ素ゴムのコンパウンドを調製した後、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、該コンパウンド、フッ素樹脂(A)および酸化マグネシウム(C)を含有するフッ素ゴム組成物を混練し、得られる混練物をダイから押し出してもよい。
【0083】
混練には、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機などを用いることができる。
【0084】
本開示の製造方法は、混練物のダイからの押し出しを60分間継続した場合に、下記の式により算出する圧力の変化率が、5%以下であることによって、特徴づけることができる。
圧力の変化率(%)=(X60-X0)/X0
X0:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始時の圧力(MPa)
X60:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始から60分間経過した時の圧力(MPa)
【0085】
本開示の製造方法は、上記の範囲内の粒子径を有する酸化マグネシウム(C)を用いるものであることから、混練物のダイからの押し出しを長時間継続しても、押出圧力が上昇しにくく、したがって、熱可塑性重合体組成物(ペレット)を、高い生産性で製造することができる。
【0086】
(成形品)
本開示の成形品は、上述した熱可塑性重合体組成物を成形することにより得られる。上記成形品の形状としては、特に限定されず、チューブ、ホース、シート、フィルムなどがあげられる。
【0087】
上記成形品は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて、製造することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができる。
【0088】
また、本開示の成形品は、たとえば、積層体の層を形成することができる。積層体としては、本開示の成形品からなる層および他の材料からなる層を備える積層体が挙げられる。他の材料としては、フッ素樹脂、非フッ素樹脂、フッ素ゴム、非フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0089】
フッ素樹脂としては、たとえば、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/エチレン共重合体〔ECTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などがあげられる。
【0090】
非フッ素樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂〔ABS〕、セルロース系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂〔PEEK〕、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕、ポリエーテルイミド樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフタルアミド〔PPA〕などがあげられる。
【0091】
フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴムなどがあげられる。
【0092】
非フッ素ゴムとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとアクリルゴムとのブレンドゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、α,β-不飽和ニトリル-共役ジエン共重合体ゴム、α,β-不飽和ニトリル-共役ジエン共重合体ゴムの水素化物などがあげられる。
【0093】
本開示の熱可塑性重合体組成物、成形品および積層体は、燃料バリア性および耐屈曲性に優れていることから、各種の用途に使用可能である。
【0094】
たとえば、自動車用エンジンのエンジン本体、主運動系、動弁系、潤滑・冷却系、燃料系、吸気・排気系など、駆動系のトランスミッション系など、シャーシのステアリング系、ブレーキ系など、電装品の基本電装部品、制御系電装部品、装備電装部品などの、耐熱性・耐油性・耐燃料油性・耐LLC性・耐スチーム性が要求されるガスケットや非接触型および接触型のパッキン類(セルフシールパッキン、ピストンリング、割リング形パッキン、メカニカルシール、オイルシールなど)などのシール、ベローズ、ダイヤフラム、ホース、チューブ、電線などとして好適な特性を備えている。
【0095】
具体的には、以下に列記する用途に使用可能である。
【0096】
エンジン本体の、シリンダーヘッドガスケット、シリンダーヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン、一般ガスケットなどのガスケット、O-リング、パッキン、タイミングベルトカバーガスケットなどのシール、コントロールホースなどのホース、エンジンマウントの防振ゴム、水素貯蔵システム内の高圧弁用シール材など。
【0097】
主運動系の、クランクシャフトシール、カムシャフトシールなどのシャフトシールなど。
【0098】
動弁系の、エンジンバルブのバルブステムシールなど。
【0099】
潤滑・冷却系の、エンジンオイルクーラーのエンジンオイルクーラーホース、オイルリターンホース、シールガスケットなどや、ラジエータ周辺のウォーターホース、バキュームポンプのバキュームポンプオイルホースなど。
【0100】
燃料系の、燃料用ホース、燃料用チューブ、燃料用シール材、その他燃料系部材など。燃料用ホースまたは燃料用チューブとしては、フィラー(ネック)ホース、燃料供給ホース、燃料リターンホース、ベーパー(エバポ)ホースなどの燃料ホース、燃料タンクのインタンクホース、燃料配管チューブ、キャブレターのコントロールホースなど。燃料用シール材としては、燃料ポンプのオイルシールなど、燃料タンクのフューエルセンダーシール、フィラーシール、タンクパッキンなど、燃料配管チューブのコネクターO-リングなど、燃料噴射装置のインジェクタークッションリング、インジェクターシールリング、インジェクターO-リングなど、キャブレターのフランジガスケットなど。その他燃料系部材としては、燃料ポンプのダイヤフラム、バルブなど、燃料タンクのインタンクフューエルポンプマウントなど、燃料噴射装置のプレッシャーレギュレーターダイヤフラム、チェックバルブ類など、キャブレターのニードルバルブ花弁、加速ポンプピストンなど、複合空気制御装置(CAC)のバルブシート、ダイヤフラムなど。これらの中でも、燃料用ホースまたは燃料用チューブとして好適であり、特にフィラーネックホースまたは燃料供給ホースとして好適である。また、燃料用シール材としても好適であり、特にフューエルセンダーシールとして好適である。
【0101】
吸気・排気系の、マニホールドの吸気マニホールドパッキン、排気マニホールドパッキンなど、EGR(排気際循環)のダイヤフラム、コントロールホース、エミッションコントロールホースなど、BPTのダイヤフラムなど、ABバルブのアフターバーン防止バルブシートなど、スロットルのスロットルボディパッキン、ターボチャージャーのターボオイルホース(供給)、ターボオイルホース(リターン)、ターボエアホース、インタークーラーホース、タービンシャフトシールなど。
【0102】
トランスミッション系の、トランスミッション関連のベアリングシール、オイルシール、O-リング、パッキン、トルコンホースなど、ATのミッションオイルホース、ATFホース、O-リング、パッキン類など。
【0103】
ステアリング系の、パワーステアリングオイルホースなど。
【0104】
ブレーキ系の、オイルシール、O-リング、パッキン、ブレーキオイルホースなど、マスターバックの大気弁、真空弁、ダイヤフラムなど、マスターシリンダーのピストンカップ(ゴムカップ)など、キャリパーシール、ブーツ類など。
【0105】
基本電装部品の、電線(ハーネス)の絶縁体やシースなど、ハーネス外装部品のチューブなど。
【0106】
制御系電装部品の、各種センサー線の被覆材料など。
【0107】
装備電装部品の、カーエアコンのO-リング、パッキン、クーラーホース、外装品のワイパーブレードなど。
【0108】
また自動車用以外では、たとえば、船舶、航空機などの輸送機関における耐油、耐薬品、耐熱、耐スチーム、あるいは耐候用のパッキン、O-リング、ホース、その他のシール材、ダイヤフラム、バルブに、また化学プラントにおける同様のパッキン、O-リング、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ホース、ロール、チューブ、耐薬品用コーティング、ライニングに、食品プラント機器および食品機器(家庭用品を含む)における同様のパッキン、O-リング、ホース、シール材、ベルト、ダイヤフラム、バルブ、ロール、チューブに、原子力プラント機器における同様のパッキン、O-リング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、チューブに、一般工業部品における同様のパッキン、O-リング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ロール、チューブ、ライニング、マンドレル、電線、フレキシブルジョイント、ベルト、ゴム板、ウエザーストリップ、PPC複写機のロールブレードなどへの用途に好適である。
【0109】
また、食品ゴムシール材用途においては、従来ゴムシール材において着香性やゴムの欠片などが食品中に混入するトラブルがあるが、本開示の成形品を用いることにより、この問題を改善でき、好適に使用できる。耐薬品性、低溶出性および低着香性を有するため、医療・ケミカル分野においては、耐油、耐薬品、耐熱、耐スチームあるいは耐候用のシール材、蓋材、ベルト、ロール、ホース、チューブ、フィルム、コーティング、ライニング、ジョイント、容器等に適用できる。一般工業分野では、ゴム材料の強度、すべり性、耐薬品性、透過性を改善する目的において、たとえば、ゴムロール、O-リング、パッキン、シール材等に好適に用いることができる。特に、リチウムイオン電池のパッキン用途には耐薬品性とシールの両方を同時に維持できることから好適に使用できる。その他、低摩擦による摺動性が要求される用途においては、好適に使用できる。
【0110】
これらの中でも、本開示の熱可塑性重合体組成物、成形品および積層体は、流体輸送用ホースとして好適に用いることができる。流体としては、水素、エアコンディショナー用冷媒、不活性ガス、燃料、油、水などを挙げることができる。
【0111】
また、本開示の熱可塑性重合体組成物、成形品および積層体は、燃料用ホースまたは燃料用チューブとして好適に用いられ、フィラーネックホースまたは燃料供給ホースとして特に好適に用いられる。すなわち、上記成形品および積層体は、燃料用ホースまたは燃料用チューブであることが好ましく、フィラーネックホースまたは燃料供給ホースであることが特に好ましい。
【0112】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0113】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
フッ素樹脂(A)、架橋フッ素ゴム(B)および酸化マグネシウム(C)を含有する熱可塑性重合体組成物であって、
フッ素樹脂(A)が、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位を含有する共重合体であり、
架橋フッ素ゴム(B)が、フッ素樹脂(A)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)の存在下、フッ素樹脂(A)の溶融条件下にて、フッ素ゴム(b)を動的に架橋処理したものであり、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径が、1.0μm以下であり、
フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))が、50/50~95/5である
熱可塑性重合体組成物が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の50%粒子径が、1.0μm以下である第1の観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
酸化マグネシウム(C)の含有量が、フッ素ゴム(b)100質量部に対して、0.01~10質量部である第1または第2の観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
フッ素樹脂(A)の融点が、160~320℃である第1~第3のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
フッ素ゴム(b)が、部分フッ素化ゴムである第1~第4のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、および、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種である第1~第5のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
架橋剤(D)が、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミン化合物およびパーオキサイドからなる群より選択される少なくとも1種である第1~第6のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
酸化マグネシウム(C)に代えて、体積基準の10%粒子径が1.99μmである酸化マグネシウムを含有する以外は、同じ成分を有する熱可塑性重合体組成物のMIT値に対して、1.2倍以上のMIT値を示す第1~第7のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
フッ素樹脂(A)が、エチレン単位とテトラフルオロエチレン単位とのモル比(エチレン単位/TFE単位)が、10/90~62/38であり、エチレン単位およびテトラフルオロエチレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、90~100モル%である共重合体であり、
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が45~85/55~15であるビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系ゴム、または、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が40~80/10~35/10~35であるビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムであり、
酸化マグネシウム(C)の体積基準の10%粒子径が、0.1~0.4μmであり、
架橋剤(D)が、ポリヒドロキシ化合物であり、
フッ素樹脂(A)と架橋フッ素ゴム(B)との質量比((A)/(B))が、60/40~85/15であり、
熱可塑性重合体組成物のメルトフローレート(297℃)が、1.0~30g/10分である
第1~第8のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
ペレットである第1~第9のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物が提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
第1~第10のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物を成形することにより得られる成形品が提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
チューブまたはホースである第11の観点による成形品が提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
第1~第10のいずれかの観点による熱可塑性重合体組成物の製造方法であって、
シリンダーおよびダイを備える押出機を用いて、フッ素樹脂(A)、フッ素ゴム(b)、酸化マグネシウム(C)および架橋剤(D)を含有するフッ素ゴム組成物を、フッ素樹脂(A)の融点以上の温度で、前記シリンダー中で混練し、得られる混練物を前記ダイから押し出すことにより、前記熱可塑性重合体組成物のペレットを得る製造方法が提供される。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
前記混練物の前記ダイからの押し出しを60分間継続した場合に、下記の式により算出する圧力の変化率が、5%以下である第13の観点による製造方法が提供される。
圧力の変化率(%)=(X60-X0)/X0
X0:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始時の圧力(MPa)
X60:前記ダイにおける前記混練物に負荷される押出開始から60分間経過した時の圧力(MPa)
【実施例】
【0114】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0115】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0116】
モノマー組成
19F-NMR分析により測定した。
【0117】
融点
示差走査熱量計[DSC]を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点とした。
【0118】
メルトフローレート(MFR)
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、297℃において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定した。
【0119】
ムーニー粘度
ASTM D1646-15およびJIS K6300-1:2013に準拠して測定した。測定温度は100℃である。
【0120】
酸化マグネシウムの粒子径
レーザー回析・散乱法(超音波処理法)により、酸化マグネシウムの10%粒子径(体積基準での累計10%の粒子径)、50%粒子径(体積基準での累計50%の粒子径)、90%粒子径(体積基準での累計90%の粒子径)を測定する。0.700gの酸化マグネシウムに、70mlのエタノールを加え、超音波処理を3分間行い、試料溶液を調製する。レーザー回折式粒度分布測定装置の試料供給器にメタノールを加え、試料供給器内でメタノールを循環させて、試料溶液を添加する。1分間後に測定(30秒×2回)を行い、2回の測定の測定値の平均値を粒子径とする。
【0121】
引張弾性率
実施例、比較例で製造した熱可塑性重合体組成物を、熱プレス機により260℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ0.5mmのシート状試験片を作製し、それからASTM D638 TypeV型ダンベルを用いて標線間距離3.18mmのダンベル状試験片を打ち抜いた。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS-J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、25℃において50mm/minの引張速度で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。
【0122】
引張破断強度および引張破断伸び
実施例、比較例で製造した熱可塑性重合体組成物を、熱プレス機により260℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、それから厚み2mm、幅5mmのダンベル状試験片を打ち抜いた。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS-J 5kN)を使用して、JIS-K6301に準じて、50mm/分の条件下で引張試験を行い、25℃における引張破断強度および引張破断伸びを測定した。
【0123】
MIT値
実施例1~2および比較例1~3で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを、幅150mmのTダイを備える混練押出ペレット作成装置(型式:IMC-9413型、井元製作所社製、Φ14、L/D20)を用いて、ダイ温度250℃、60rpmの条件下にて、成形することにより、押出シートを作製した。押出シートを切断することにより、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.5mmの試験片を作製した。試験片の長さ方向は、押出方向に対して直角方向である。
また、実施例3および比較例4で製造した熱可塑性重合体組成物を、熱プレス機により260℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.5mmの試験片を作製した。
試験片をMIT試験機(型番12176、(安田精機製作所社製))に装着し、荷重1.5kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を5回測定した。5回の測定の測定値の平均値をMIT値とした。
【0124】
圧力の変化率
押出機のダイとヘッドの間にメッシュ(80/325/80)を挿入したブレーカープレートを設置し、ヘッドの上流部に圧力計を設置し、ダイにおける熱可塑性重合体組成物(混練物)の圧力を測定した。
【0125】
下記の式により圧力の変化率を算出した。
圧力の変化率(%)=(Xt-X0)/X0
X0:ダイにおける混練物に負荷される押出開始時の圧力(MPa)
Xt:ダイにおける混練物に負荷される押出開始からt分間経過した時の圧力(MPa)
【0126】
実施例および比較例では、次の材料を用いた。
【0127】
酸化マグネシウム(C1)
「キョーワマグ(登録商標)MF-150」(協和化学工業社製)
MgO含有量(純度):99.6質量%
10%粒子径:0.35μm
50%粒子径:0.72μm
90%粒子径:1.36μm
【0128】
酸化マグネシウム(C2)
「キョーワマグ(登録商標)150」(協和化学工業社製)
MgO含有量(純度):98.0質量%
10%粒子径:1.99μm
50%粒子径:4.46μm
90%粒子径:11.9μm
【0129】
酸化マグネシウム(C3)
「マグサラット(登録商標)ST」(協和化学工業社製)
MgO含有量(純度):98.0質量%
10%粒子径:2.03μm
50%粒子径: 4.92μm
90%粒子径: 12.2μm
【0130】
酸化マグネシウム(C4)
「スターマグPSF-150」(神島化学工業社製)
MgO含有量(純度):99.4質量%
10%粒子径:0.31μm
50%粒子径:0.58μm
【0131】
実施例1
VdF系ゴム(VdF/TFE/HFP=50/20/30モル比、100℃でのムーニー粘度87)100質量部、架橋剤ビスフェノールAF(ダイキン工業社製)0.3質量部、ビスフェノールAFと塩素原子を含まない架橋促進剤(ベンジルトリフェニルホスホニウム(BTP))との固溶体(BIS-AF-BTP 4:1塩(ビスフェノールAF:BTP=4:1(質量比))、セントラル硝子社製)1.45質量部、酸化マグネシウム(C1)4質量部を、8インチオープンロールを用いて混練し、VdF系ゴムのフルコンパウンドを得た。
【0132】
ETFE(エチレン/TFE=35/65モル比、融点220℃、MFR(297℃)15.0g/10分)70質量部に、上記VdF系ゴムのフルコンパウンド30質量部を、二軸押出機(テクノベル社製、装置名:KZW15TW-60MG-NH(-700)、口径15mm、L/D60)に供給して、シリンダー温度280℃およびスクリュー回転数400rpmの条件下に溶融混練し、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。得られたペレットを用いて、上記した方法で各種物性を測定した。結果を表1に示す。
【0133】
比較例1
酸化マグネシウム(C1)を酸化マグネシウム(C2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。結果を表1に示す。
【0134】
比較例2
酸化マグネシウム(C1)を酸化マグネシウム(C3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。結果を表1に示す。
【0135】
【0136】
比較例1の熱可塑性重合体組成物は、酸化マグネシウム(C1)に代えて、体積基準の10%粒子径が1.99μmである酸化マグネシウム(C2)を含有する以外は、実施例1の熱可塑性重合体組成物と同じ成分を有している。表1に示すとおり、実施例1の熱可塑性重合体組成物のMIT値は、比較例1の熱可塑性重合体組成物のMIT値に対して、1.20倍であり、優れた耐屈曲性を有していることが分かった。
【0137】
また、表1に示すとおり、実施例1の熱可塑性重合体組成物の製造方法は、混練物のダイからの押し出しを60分間継続した時の圧力の変化率が、5%未満であり、高い生産性で製造できることが分かった。
【0138】
実施例2
80質量部のETFE(エチレン/TFE=35/65モル比、融点220℃、MFR(297℃)28.9g/10min)と、20質量部のVdF系ゴムのフルコンパウンドとを、スクリュー回転数300rpmで溶融混練した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。結果を表2に示す。
【0139】
比較例3
酸化マグネシウム(C1)を酸化マグネシウム(C2)に変更した以外は、実施例2と同様にして、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。結果を表2に示す。
【0140】
【0141】
実施例3
酸化マグネシウム(C1)を酸化マグネシウム(C4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、VdF系ゴムのフルコンパウンドを得た。
【0142】
ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)に、ETFE(エチレン/TFE=35/65モル比、融点220℃、MFR(297℃)15.0g/10min)59.9gを投入し、充分に溶融していることを目視で確認後、上記VdFゴムのフルコンパウンドを25.7g投入し、スクリュー回転数を100。rpmまで上げた。分散と反応が十分進行してトルクが安定するまで撹拌し、熱可塑性重合体組成物を製造した。結果を表3に示す。
【0143】
比較例4
酸化マグネシウム(C4)を酸化マグネシウム(C2)に変更した以外は、実施例3と同様にして、熱可塑性重合体組成物を製造した。結果を表3に示す。
【0144】
【0145】
実験例1
酸化マグネシウム(C4)を酸化マグネシウム(C1)に変更した以外は、実施例3と同様にして、塊状の熱可塑性重合体組成物を製造した。得られた熱可塑性重合体組成物をミクロートームで切断し、走査電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク社製SU-8020、加速電圧 5KV)を用いて、切断面を観察した。切断面の画像を
図1に示す。
【0146】
実験例2
比較例4で得られた塊状の熱可塑性重合体組成物をミクロートームで切断し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、切断面を観察した。切断面の画像を
図2に示す。
【0147】
図2の画像が示すように、体積基準の10%粒子径が1.0μmを超える酸化マグネシウムを含有する熱可塑性重合体組成物(比較例4)には、凝集塊が観られることが分かる。また、同時に取得したマグネシウム元素の元素マッピング画像(図示せず)から、この凝集塊がマグネシウム元素を含んでいることが分かった。したがって、この凝集塊が酸化マグネシウムにより形成されていると推定される。一方、
図1の画像が示すように、体積基準の10%粒子径が1.0μm以下の酸化マグネシウムを含有する熱可塑性重合体組成物(実験例1)には、凝集塊が観られず、各成分が十分に分散していることが分かる。