(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-15
(45)【発行日】2025-04-23
(54)【発明の名称】非接触センサ装置および非接触センシング方法
(51)【国際特許分類】
G01B 17/00 20060101AFI20250416BHJP
G06F 3/043 20060101ALI20250416BHJP
【FI】
G01B17/00 B
G06F3/043
(21)【出願番号】P 2021116162
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2024-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 大介
(72)【発明者】
【氏名】中岡 夏海
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-215535(JP,A)
【文献】特開2004-53319(JP,A)
【文献】特開平3-231107(JP,A)
【文献】特開平10-213428(JP,A)
【文献】実開平6-33009(JP,U)
【文献】米国特許第4709210(US,A)
【文献】米国特許第4035762(US,A)
【文献】特開平1-193607(JP,A)
【文献】特開2010-263770(JP,A)
【文献】特開2012-155526(JP,A)
【文献】特開2002-342031(JP,A)
【文献】国際公開第2010/131509(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34,17/00-21/32
G06F 3/043
G01D 5/48
G01H 1/00-17/00
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触で物体の位置を検知する非接触センサ装置であって、
振動板と、
前記振動板にたわみ振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子に交流電圧を印加する駆動部と、
前記超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する位相情報取得部と、
前記振動板に対する前記物体の位置を検知する検知部と、
を備え、
前記検知部は、前記位相情報に基づいて、前記たわみ振動の伝搬方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする非接触センサ装置。
【請求項2】
前記交流電流の電流値情報を取得する電流値情報取得部をさらに備え、
前記検知部は、前記電流値情報に基づいて、前記たわみ振動の振動方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする請求項1に記載の非接触センサ装置。
【請求項3】
前記超音波振動子は、
前記振動板の前記伝搬方向における一方側に配置された第1超音波振動子と、
前記振動板の前記伝搬方向における他方側に配置された第2超音波振動子と、
を含み、
前記位相情報取得部は、前記位相情報として、前記第1超音波振動子に流れる第1交流電流と前記第2超音波振動子に流れる第2交流電流との位相差に関する情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の非接触センサ装置。
【請求項4】
前記超音波振動子は、単一の第3超音波振動子からなり、
前記振動板は、機械剛性が前記伝搬方向に変化しており、
前記位相情報取得部は、前記位相情報として、前記第3超音波振動子に流れる第3交流電流の位相に関する情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の非接触センサ装置。
【請求項5】
前記振動板は、厚みが前記伝搬方向に変化していることを特徴とする請求項4に記載の非接触センサ装置。
【請求項6】
非接触で物体の位置を検知する非接触センシング方法であって、
振動板に設けられた超音波振動子に交流電圧を印加し、前記超音波振動子の超音波振動により前記振動板にたわみ振動を生じさせる駆動ステップと、
前記超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する情報取得ステップと、
前記振動板に対する前記物体の位置を検知する検知ステップと、
を含み、
前記検知ステップでは、前記位相情報に基づいて、前記たわみ振動の伝搬方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする非接触センシング方法。
【請求項7】
前記情報取得ステップでは、前記交流電流の電流値情報を取得し、
前記検知ステップでは、前記電流値情報に基づいて、前記たわみ振動の振動方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする請求項6に記載の非接触センシング方法。
【請求項8】
前記超音波振動子は、
前記振動板の前記伝搬方向における一方側に配置された第1超音波振動子と、
前記振動板の前記伝搬方向における他方側に配置された第2超音波振動子と、
を含み、
前記情報取得ステップでは、前記位相情報として、前記第1超音波振動子に流れる第1交流電流と前記第2超音波振動子に流れる第2交流電流との位相差に関する情報を取得することを特徴とする請求項6または7に記載の非接触センシング方法。
【請求項9】
前記超音波振動子は、単一の第3超音波振動子からなり、
前記振動板は、機械剛性が前記伝搬方向に変化しており、
前記情報取得ステップでは、前記位相情報として、前記第3超音波振動子に流れる第3交流電流の位相に関する情報を取得することを特徴とする請求項6または7に記載の非接触センシング方法。
【請求項10】
前記振動板は、厚みが前記伝搬方向に変化していることを特徴とする請求項9に記載の非接触センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触センサ装置および非接触センシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触センサ装置および非接触センシング方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法や、特許文献2に記載の装置が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の非接触センシング方法は、データ選択部を提供するステップと、データ選択部の付近で信号を送信するステップと、送信された信号の経路を選択装置による遮断を介して変更させるステップと、変更された信号を検出するステップと、変更された信号から選択装置の位置を決定するステップと、選択装置の位置をデータ選択部と対応させるステップと、を備えてなる。
【0004】
特許文献2に記載の非接触センサ装置である入力装置は、複数の操作位置表示を行う表示部と、これら複数の操作位置表示の各々に対応して入力装置の正面の特定の空間に設定された操作位置に対する操作を非接触式で検出する検出部とを有する。検出部は、入力装置の正面の空間に向けて超音波を発振する第1圧電素子と、第1圧電素子より発振された超音波を検出する第2圧電素子と、第2圧電素子による検出結果に基づいて、何れの操作位置に対する操作が行われたかを判定する判定部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2007-525669号公報
【文献】特開2012-155526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の非接触センシング方法では、信号を送信するシグナルエミッタおよび信号を受信するシグナルレシーバが多数必要になるため、例えば、選択装置の位置をデータ選択部と対応させるステップにおいて、信号処理が複雑化するおそれがある。このように、特許文献1に記載の非接触センシング方法は、部品点数が増大し、コストの増大を招くという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の非接触センサ装置では、第1圧電素子および第2圧電素子が必須の構成であり、しかも、第2圧電素子は多数必要になる。このため、第2圧電素子による検出結果に基づいて何れの操作位置に対する操作が行われたかを判定する判定部では、信号処理が複雑化するおそれがある。このように、特許文献2に記載の非接触センサ装置では、特許文献1に記載の非接触センシング方法と同様に、部品点数が増大し、コストの増大を招くという問題がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、部品点数を削減し、低コスト化を図ることが可能な非接触センサ装置および非接触センシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る非接触センサ装置は、
非接触で物体の位置を検知する非接触センサ装置であって、
振動板と、
前記振動板にたわみ振動を生じさせる超音波振動子と、
前記超音波振動子に交流電圧を印加する駆動部と、
前記超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する位相情報取得部と、
前記振動板に対する前記物体の位置を検知する検知部と、
を備え、
前記検知部は、前記位相情報に基づいて、前記たわみ振動の伝搬方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする。
【0010】
前記非接触センサ装置は、
前記交流電流の電流値情報を取得する電流値情報取得部をさらに備え、
前記検知部は、前記電流値情報に基づいて、前記たわみ振動の振動方向における前記物体の位置を検知することが好ましい。
【0011】
前記非接触センサ装置において、
前記超音波振動子は、
前記振動板の前記伝搬方向における一方側に配置された第1超音波振動子と、
前記振動板の前記伝搬方向における他方側に配置された第2超音波振動子と、
を含み、
前記位相情報取得部は、前記位相情報として、前記第1超音波振動子に流れる第1交流電流と前記第2超音波振動子に流れる第2交流電流との位相差に関する情報を取得するよう構成できる。
【0012】
前記非接触センサ装置において、
前記超音波振動子は、単一の第3超音波振動子からなり、
前記振動板は、機械剛性が前記伝搬方向に変化しており、
前記位相情報取得部は、前記位相情報として、前記第3超音波振動子に流れる第3交流電流の位相に関する情報を取得するよう構成できる。
【0013】
前記非接触センサ装置において、
前記振動板は、厚みが前記伝搬方向に変化しているよう構成できる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る非接触センシング方法は、
非接触で物体の位置を検知する非接触センシング方法であって、
振動板に設けられた超音波振動子に交流電圧を印加し、前記超音波振動子の超音波振動により前記振動板にたわみ振動を生じさせる駆動ステップと、
前記超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する情報取得ステップと、
前記振動板に対する前記物体の位置を検知する検知ステップと、
を含み、
前記検知ステップでは、前記位相情報に基づいて、前記たわみ振動の伝搬方向における前記物体の位置を検知することを特徴とする。
【0015】
前記非接触センシング方法は、
前記情報取得ステップでは、前記交流電流の電流値情報を取得し、
前記検知ステップでは、前記電流値情報に基づいて、前記たわみ振動の振動方向における前記物体の位置を検知することが好ましい。
【0016】
前記非接触センシング方法において、
前記超音波振動子は、
前記振動板の前記伝搬方向における一方側に配置された第1超音波振動子と、
前記振動板の前記伝搬方向における他方側に配置された第2超音波振動子と、
を含み、
前記情報取得ステップでは、前記位相情報として、前記第1超音波振動子に流れる第1交流電流と前記第2超音波振動子に流れる第2交流電流との位相差に関する情報を取得するよう構成できる。
【0017】
前記非接触センシング方法において、
前記超音波振動子は、単一の第3超音波振動子からなり、
前記振動板は、機械剛性が前記伝搬方向に変化しており、
前記情報取得ステップでは、前記位相情報として、前記第3超音波振動子に流れる第3交流電流の位相に関する情報を取得するよう構成できる。
【0018】
前記非接触センシング方法において、
前記振動板は、厚みが前記伝搬方向に変化しているよう構成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、部品点数を削減し、低コスト化を図ることが可能な非接触センサ装置および非接触センシング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る非接触センサ装置のブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る振動板、第1超音波振動子および第2超音波振動子を示す図である。
【
図3】(A)y方向に物体を動かしたときの振動板との位置関係を示す図である。(B)y方向に物体を動かしたときの第1超音波振動子に流れる電流と第2超音波振動子に流れる電流との位相差の変化を示す図である。
【
図4】(A)z方向に物体を動かしたときの振動板との位置関係を示す図である。(B)z方向に物体を動かしたときの第1超音波振動子に流れる電流と第2超音波振動子に流れる電流との合計電流値の変化を示す図である。
【
図5】z方向の各位置においてy方向に物体を動かしたときの、第1超音波振動子に流れる電流と第2超音波振動子に流れる電流との位相差の変化を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る非接触センサ装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る非接触センサ装置および非接触センシング方法の実施形態について説明する。
【0022】
[第1実施形態]
(非接触センサ装置)
図1に、本発明の第1実施形態に係る非接触センサ装置10Aを示す。非接触センサ装置10Aは、振動板11と、第1超音波振動子12aと、第2超音波振動子12bと、駆動部13と、情報取得部14(位相情報取得部15および電流値情報取得部16)と、検知部17とを備える。
【0023】
振動板11は、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bの超音波振動によって、たわみ振動が生じるように構成されている。本実施形態では、振動板11として、y方向(たわみ振動の伝搬方向)における長さが200[mm]で、z方向(たわみ振動の振動方向)における厚みが均一な金属板を用いている。
【0024】
第1超音波振動子12aは、交流電圧が印加されると超音波振動を行い、振動板11にたわみ振動を生じさせるよう構成されている。第1超音波振動子12aは、振動板11のy方向の一方側の下部に設けられている。本実施形態では、第1超音波振動子12aとして、ランジュバン型振動子を用いている。なお、本発明における「交流」は、正弦波だけでなく矩形波や三角波等も含む。
【0025】
第2超音波振動子12bは、交流電圧が印加されると超音波振動を行い、振動板11にたわみ振動を生じさせるよう構成されている。第2超音波振動子12bは、振動板11のy方向の他方側の下部に設けられている。本実施形態では、第2超音波振動子12bとして、第1超音波振動子12aと同様のランジュバン型振動子を用いている。
【0026】
駆動部13は、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bに交流電圧を印加するよう構成されている。本実施形態では、第1超音波振動子12aと振動板11とが共振し、かつ第2超音波振動子12bと振動板11とが共振するように、駆動部13は、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bに同じ周波数および同じ位相の交流電圧を印加する。駆動部13は、例えば、ファンクションジェネレータと、ファンクションジェネレータの出力(交流電圧信号)を増幅させるアンプとを含む。
【0027】
情報取得部14は、電流センサ(図示略)を含み、超音波振動時に第1超音波振動子12aに流れる第1交流電流に関する情報と、超音波振動時に第2超音波振動子12bに流れる第2交流電流に関する情報とを取得するよう構成されている。本実施形態では、情報取得部14は、位相情報取得部15および電流値情報取得部16を含む。
【0028】
位相情報取得部15は、第1交流電流および第2交流電流の位相情報を取得する。具体的には、位相情報取得部15は、第1交流電流および第2交流電流の各位相に関する位相情報を取得し、位相情報に含まれる第1交流電流の位相と第2交流電流の位相との差分を演算することで、第1交流電流と第2交流電流との位相差に関する情報を取得する。位相情報取得部15は、取得した位相情報(位相差に関する情報)を検知部17に出力する。
【0029】
電流値情報取得部16は、第1交流電流および第2交流電流の電流値(例えば、実効値)に関する電流値情報を取得する。具体的には、電流値情報取得部16は、第1交流電流および第2交流電流の各電流値に関する電流値情報を取得し、電流値情報に含まれる第1交流電流の電流値と第2交流電流の電流値との和を演算することで、第1交流電流と第2交流電流との合計電流値に関する情報を取得する。電流値情報取得部16は、取得した電流値情報(合計電流値に関する情報)を検知部17に出力する。なお、本発明における「電流値」は、瞬間的な電流値のことではなく、電流波形から導かれる振幅値(例えば、実効値)のことである。
【0030】
検知部17は、
図2に示すように、振動板11に対する物体F(例えば、人の指)の位置を検知するよう構成されている。検知部17は、例えば、マイコンで構成される。検知部17は、位相情報に基づいてy方向における物体Fの位置を検知するとともに、電流値情報に基づいてz方向における物体Fの位置を検知する。
【0031】
図3(A)に示すように、物体Fを振動板11のY1からY4の位置まで動かした場合、第1交流電流に対する第2交流電流の位相差は、
図3(B)に示すように変化する。
図3(A)では、物体Fとして直方体形状の反射板を用いるとともに、振動板11のy方向の一方端の位置をY0とし、Y0からy方向に50[mm]離れた位置をY1とし、Y0からy方向に150[mm]離れた位置をY4とする。そして、物体Fの下面を振動板11の上面からz方向に3[mm]離した状態で、物体Fの中心をY1からY4の位置まで移動させる。
【0032】
第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bは、物体Fが存在しない場合、振動板11との共振状態を維持しながら超音波振動を行う。共振状態が維持されている場合、第1超音波振動子12aでは、印加された交流電圧と第1交流電流とが特定の位相差(例えば、位相差ゼロ)を有し、第2超音波振動子12bでも、印加された交流電圧と第2交流電流とが特定の位相差(例えば、位相差ゼロ)を有する。しかしながら、物体Fが近くに存在すると、物体Fの抵抗成分により振動板11からみた放射インピーダンスが変化する。すなわち、第1超音波振動子12aおよび/または第2超音波振動子12bは、振動板11との共振状態を維持できなくなり、上記特定の位相差を維持できなくなる。
【0033】
例えば、物体FがY1の位置に存在する場合、物体Fから遠い側の第2超音波振動子12bは、放射インピーダンスの変化の影響が小さいので共振状態を維持するが、物体Fに近い側の第1超音波振動子12aは、放射インピーダンスの変化の影響が大きくなり共振状態を維持できなくなる。このため、第1超音波振動子12aに流れる第1交流電流の位相は、印加された交流電圧の位相に対してわずかに遅れる(または進む)。
【0034】
一方で、物体FがY4の位置に存在する場合、物体Fから遠い側の第1超音波振動子12aは、放射インピーダンスの変化の影響が小さいので共振状態を維持するが、物体Fに近い側の第2超音波振動子12bは、放射インピーダンスの変化の影響が大きくなり共振状態を維持できなくなる。このため、第2超音波振動子12bに流れる第2交流電流の位相は、印加された交流電圧の位相に対してわずかに遅れる(または進む)。
【0035】
物体Fを振動板11のy方向にのみ動かした場合、第1交流電流と第2交流電流との位相差は、所定の傾きで変化する。本実施形態では、物体Fを振動板11のY1からY4の位置まで動かした場合における第1交流電流に対する第2交流電流の位相差は、
図3(B)に示すように、物体FがY4に近づくにつれて大きくなる。検知部17は、例えば、物体Fのy方向における位置と上記位相差との関係を示すデータを予め記憶しておくことで、位相情報取得部15から取得した位相情報に基づいて、物体Fのy方向における位置を算出できる。
【0036】
本実施形態では、第1交流電流と第2交流電流との位相差に関する位相情報に基づいて物体Fのy方向における位置を算出するので、単に第1交流電流の位相または第2交流電流の位相に基づいて物体Fのy方向における位置を算出する場合と比較すると、より広範囲に亘って正確に、物体Fのy方向における位置を算出できる。
【0037】
図4(A)に示すように、物体Fを振動板11のZ1からZ5の位置まで動かした場合、第1交流電流と第2交流電流との合計電流値は、
図4(B)のように変化する。
図4(A)において、物体Fとして直方体形状の反射板を用いるとともに、物体Fの下面が振動板11の上面からz方向に1[mm]離れた位置をZ1とし、物体Fの上面が振動板11の上面からz方向に24[mm]離れた位置をZ5とする。Z1とZ5の間に、Z2,Z3,Z4が存在する。
【0038】
図4(B)は、Y2からY3までの範囲において、Z1からZ5の位置まで物体Fを動かしたときの第1交流電流と第2交流電流との合計電流値の変化を示す図である。なお、振動板11のy方向の一方端から100[mm]離れた位置をY2とし、115[mm]離れた位置をY3とする。
【0039】
図4(B)では、物体Fを振動板11のZ1からZ5の位置まで動かした場合、Z2,Z3,Z4の位置およびその近傍(例えば、図中の黒枠で囲んだ領域)において、第1交流電流および第2交流電流の合計電流値が大きくなる。一方、それ以外の領域では、上記合計電流値が小さくなる。これは、Z2,Z3,Z4の位置およびその近傍においては、振動板11と物体Fとの間に定在波が発生するが、それ以外の領域では、振動板11と物体Fとの間に定在波が発生しないためである。なお、上記定在波は、たわみ振動のときに振動板11からz方向に放射される超音波の定在波である。
【0040】
物体Fを振動板11のz方向にのみ動かした場合、第1交流電流および第2交流電流の合計電流値は、所定の傾きで(例えば、正弦波状に)変化する。本実施形態では、物体Fを振動板11のZ1からZ5の位置まで動かした場合における合計電流値は、Z2,Z3,Z4の位置およびその近傍において大きくなる。検知部17は、例えば、物体Fのz方向における位置と上記合計電流値との関係を示すデータを予め記憶しておくことで、電流値情報取得部16から取得した電流値情報に基づいて、物体Fのz方向における位置を算出できる。
【0041】
図5に、z方向の任意の位置Z(Z2’,Z3’,Z4’)において、y方向に物体Fを動かしたときの、第1超音波振動子12aに流れる電流と第2超音波振動子12bに流れる電流との位相差の変化を示す。なお、Z2’は、
図4(B)のZ2近傍の黒枠内に位置し、Z3’は、Z3近傍の黒枠内に位置し、Z4’は、Z4近傍の黒枠内に位置する。
【0042】
検知部17は、物体Fのz方向における位置と上記合計電流値との関係を示すデータ(第1データ)と、z方向の任意の位置Zごとの、物体Fのy方向における位置と上記位相差との関係を示すデータ(第2データ)とを予め記憶しておくことで、物体Fのy-z面における位置を正確に算出できる。
【0043】
合計電流値が正弦波状に変化する場合、1つの合計電流値に対して複数の位置Zが存在する。例えば、Z=Z2’,Z3’,Z4’のときの各合計電流値が、いずれもα[A]となることがある。一方で、Y1からY4の範囲では、Z=Z2’,Z3’,Z4’のときの各位相差は異なる範囲に存在する。すなわち、
図5に示すように、Z=Z2’のY4における位相差<Z=Z3’のY1における位相差であり、かつZ=Z3’のY4における位相差<Z=Z4’のY1における位相差である。
【0044】
上記の場合、電流値情報取得部16が電流値情報として合計電流値α[A]を取得し、位相情報取得部15が位相情報として位相差β[°]を取得すると、検知部17は、まず、第1データに基づいてz方向における位置をZ=Z2’,Z3’,Z4’と特定(推定)する。
【0045】
次いで、検知部17は、第2データに基づいて、Z=Z2’,Z3’,Z4’の中から位相差β[°]に最も近い位相差を有するZを特定し、特定したZからy方向における位置を特定する。
図5では、位相差β[°]に最も近い位相差を有するZがZ=Z3’であるから、Z=Z3’に関するデータに基づいてy方向における位置をγ[mm]と特定することができる。
【0046】
なお、
図5では、Y1からY4の範囲において位相差と位置Z(合計電流値から推定した位置Z)とが1対1で対応するものとしたが、位相差に対して複数の位置Zが存在する場合は、位相差と位置Zとが1対1で対応するように、特定するy方向の範囲を限定するか、または、合計電流値と位置Zとが1対1で対応するように、特定するz方向の範囲を限定することが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る非接触センサ装置10Aによれば、振動板11にたわみ振動を生じさせる超音波振動子を、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bの2つで構成しているので、部品点数を削減し、低コスト化を図ることができる。
【0048】
(非接触センシング方法)
次に、本発明の第1実施形態に係る非接触センシング方法について説明する。
【0049】
本実施形態に係る非接触センシング方法は、非接触センサ装置10Aを用いて非接触で物体Fの位置を検知する方法であり、駆動ステップと、情報取得ステップと、検知ステップとを含む。
【0050】
駆動ステップでは、駆動部13により第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bに同じ周波数および同じ位相の交流電圧を印加し、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bに超音波振動を生じさせて、振動板11にたわみ振動を生じさせる。
【0051】
情報取得ステップでは、振動板11がたわみ振動を行っている状態で、情報取得部14により、第1超音波振動子12aに流れる第1交流電流に関する情報と、第2超音波振動子12bに流れる第2交流電流に関する情報とを取得する。具体的には、位相情報取得部15により、第1交流電流と第2交流電流との位相差に関する情報(位相情報)を取得し、電流値情報取得部16により、第1交流電流と第2交流電流との合計電流値に関する情報(電流値情報)を取得する。
【0052】
検知ステップでは、検知部17により、振動板11に対する物体Fの位置を検知する。具体的には、位相情報に基づいてy方向における物体Fの位置を検知するとともに、電流値情報に基づいてz方向における物体Fの位置を検知する。
【0053】
例えば、検知部17が、物体Fのz方向における位置と合計電流値との関係を示すデータ(第1データ)と、
図5に示すような、z方向の任意の位置Zごとの、物体Fのy方向における位置と位相差との関係を示すデータ(第2データ)とを予め記憶している場合、次のようにして物体Fの位置を検知できる。すなわち、検知部17により、第1データに基づいてz方向における位置(位置Z)を特定し、次いで、第2データに基づいて物体Fのy方向における位置を特定する。これにより、y-z面における物体Fの位置を正確に検知できる。
【0054】
本実施形態に係る非接触センシング方法によれば、振動板11にたわみ振動を生じさせる超音波振動子を、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bの2つで構成した非接触センサ装置10Aを用いるので、部品点数の増大およびコストの増大を招くことなく、非接触で物体Fの位置を検知することができる。
【0055】
[第2実施形態]
(非接触センサ装置)
図6に、本発明の第2実施形態に係る非接触センサ装置10Bを示す。非接触センサ装置10Bは、振動板11の代わりに振動板11’を備える点と、第1超音波振動子12aおよび第2超音波振動子12bの代わりに超音波振動子12(本発明の「第3超音波振動子」に相当)を備える点とを除いて、第1実施形態と共通の構成である。
【0056】
振動板11’は、超音波振動子12の超音波振動によって、たわみ振動が生じるように構成されている。振動板11’は、z方向における厚みがy方向に連続的に変化している。本実施形態では、y方向の一方側の端部(一方端)の厚みが最も大きく、y方向の他方側の端部(他方端)に向かうにつれて厚みが連続的に減少している。
【0057】
超音波振動子12は、交流電圧が印加されると超音波振動を行い、振動板11’にたわみ振動を生じさせるよう構成されている。超音波振動子12は、振動板11’の一方端側の下部に設けられている。本実施形態では、超音波振動子12として、ランジュバン型振動子を用いている。なお、超音波振動子12の位置は、振動板11’の下部であれば適宜変更できる。
【0058】
駆動部13は、振動板11’および超音波振動子12が共振するように、超音波振動子12に交流電圧を印加するよう構成されている。
【0059】
情報取得部14は、超音波振動時に超音波振動子12に流れる交流電流に関する情報を取得するよう構成されている。情報取得部14は、位相情報取得部15および電流値情報取得部16を含む。位相情報取得部15は、超音波振動子12に流れる交流電流の位相情報を取得し、電流値情報取得部16は、上記交流電流の電流値に関する電流値情報を取得する。
【0060】
検知部17は、位相情報に基づいてy方向における物体Fの位置を検知するとともに、電流値情報に基づいてz方向における物体Fの位置を検知する。
【0061】
本実施形態では、振動板11’のz方向における厚みがy方向に連続的に変化しているので、たわみ振動のときに振動板11’からz方向に放射される超音波は、y方向において強度が異なる。このため、物体Fを振動板11’のy方向に動かした場合、超音波振動子12に流れる交流電流の位相は、所定の傾きで変化する。
【0062】
検知部17は、例えば、物体Fのy方向における位置と上記位相との関係を示すデータを予め記憶しておくことで、位相情報取得部15から取得した位相情報に基づいて、物体Fのy方向における位置を算出できる。
【0063】
また、物体Fを振動板11のz方向に動かした場合、超音波振動子12に流れる交流電流の電流値は、第1実施形態と同様に所定の傾きで(例えば、正弦波状に)変化する。検知部17は、例えば、物体Fのz方向における位置と上記電流値との関係を示すデータを予め記憶しておくことで、電流値情報取得部16から取得した電流値情報に基づいて、物体Fのz方向における位置を算出できる。
【0064】
本実施形態に係る非接触センサ装置10Bによれば、振動板11’にたわみ振動を生じさせる超音波振動子を単一の超音波振動子12で構成しているので、部品点数を削減し、低コスト化を図ることができる。
【0065】
(非接触センシング方法)
次に、本発明の第2実施形態に係る非接触センシング方法について説明する。
【0066】
本実施形態に係る非接触センシング方法は、非接触センサ装置10Bを用いて非接触で物体Fの位置を検知する方法であり、第1実施形態と同様に、駆動ステップと、情報取得ステップと、検知ステップとを含む。
【0067】
駆動ステップでは、駆動部13により超音波振動子12に交流電圧を印加し、超音波振動子12に超音波振動を生じさせて、振動板11’にたわみ振動を生じさせる。
【0068】
情報取得ステップでは、振動板11’がたわみ振動を行っている状態で、情報取得部14により、超音波振動子12に流れる交流電流に関する情報を取得する。具体的には、位相情報取得部15により、上記交流電流の位相に関する位相情報を取得し、電流値情報取得部16により、上記交流電流の電流値に関する電流値情報を取得する。
【0069】
検知ステップでは、検知部17により、振動板11’に対する物体Fの位置を検知する。具体的には、位相情報に基づいてy方向における物体Fの位置を検知するとともに、電流値情報に基づいてz方向における物体Fの位置を検知する。
【0070】
本実施形態に係る非接触センシング方法によれば、振動板11’にたわみ振動を生じさせる超音波振動子を単一の超音波振動子12で構成した非接触センサ装置10Bを用いるので、部品点数の増大およびコストの増大を招くことなく、非接触で物体Fの位置を検知することができる。
【0071】
[変形例]
以上、本発明に係る非接触センサ装置および非接触センシング方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0072】
本発明に係る非接触センサ装置は、振動板と、振動板にたわみ振動を生じさせる超音波振動子と、超音波振動子に交流電圧を印加する駆動部と、超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する位相情報取得部と、振動板に対する物体の位置を検知する検知部と、を備え、検知部は、位相情報に基づいて、たわみ振動の伝搬方向における物体の位置を検知するのであれば、適宜構成を変更できる。
【0073】
本発明に係る非接触センシング方法は、振動板に設けられた超音波振動子に交流電圧を印加し、超音波振動子の超音波振動により振動板にたわみ振動を生じさせる駆動ステップと、超音波振動子に流れる交流電流の位相情報を取得する情報取得ステップと、振動板に対する物体の位置を検知する検知ステップとを含み、検知ステップにおいて、位相情報に基づいて、たわみ振動の伝搬方向における物体の位置を検知するのであれば、適宜構成を変更できる。
【0074】
振動板は、超音波振動子の超音波振動によって、たわみ振動が生じるように構成されているのであれば、材質および/または寸法等は適宜変更できる。振動板は、例えば、ガラス板で構成してもよい。また、振動板には、たわみ振動が生じるのであれば、任意の加工を施してもよい。
【0075】
第2実施形態では、振動板11’の厚みをy方向に連続的に変化させているが、振動板の厚み以外の構成を追加・変更することで、振動板の機械剛性(曲げ剛性)をy方向に連続的に変化させてもよい。例えば、振動板に複数の溝を形成し、溝幅比をy方向に変化させてもよいし、振動板に複数の穴を形成し、穴のピッチをy方向に変化させてもよいし、振動板を複合材料(例えば、金属とガラス)で構成し、その材料比をy方向に変化させてもよい。
【0076】
超音波振動子は、ランジュバン型振動子以外のものを用いることができる。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成された超音波振動子を、振動板の下面に貼り付けてもよい。超音波振動子の数は、振動板の寸法等に応じて適宜変更できる。
【0077】
第1実施形態において、検知部17は、電流値情報取得部16から取得した第1交流電流と第2交流電流との合計電流値に関する電流値情報に基づいて、物体Fのz方向における位置を算出しているが、第1交流電流または第2交流電流の電流値に関する電流値情報に基づいて、物体Fのz方向における位置を算出してもよい。
【符号の説明】
【0078】
10A,10B 非接触センサ装置
11 振動板
12 超音波振動子
12a 第1超音波振動子
12b 第2超音波振動子
13 駆動部
14 情報取得部
15 位相情報取得部
16 電流値情報取得部
17 検知部