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特許7667583体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法
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  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図1A
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図1B
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図2
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図3
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図4
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図5
  • 特許-体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-15
(45)【発行日】2025-04-23
(54)【発明の名称】体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を誘導するための組成物、およびその利用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20250416BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250416BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250416BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20250416BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20250416BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250416BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20250416BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20250416BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20250416BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250416BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20250416BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/10
C07K14/47
C12N15/85 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
A61P25/00
A61K35/30
A61K38/17
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K31/7088
A61P17/02
A61P25/16
A61P9/00
A61P21/02
A61P9/10
A61P25/08
A61P25/28
C12N5/0793
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022575807
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 KR2020007461
(87)【国際公開番号】W WO2021251513
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515351884
【氏名又は名称】ユニスト(ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョンボム
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒョンア
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/025963(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03118306(EP,A1)
【文献】特表2013-535973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P,C12N
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および、前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択される1種以上と、
LHX3(LIM homeobox 3)、ISL1(ISL LIM homeobox 1)、NKX6.1(NK6 homeobox 1)、NGN2(neurogenin 2)およびSOX11(SRY-box 11)からなる群から選択された1種以上のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と
を含む、体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化を誘導するための組成物。
【請求項2】
前記組成物は、
OCT4タンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上
LHX3タンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と
ISL1、NKX6.1、NGN2およびSOX11からなる群から選択された1種以上のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と、
を含む、請求項1に記載の体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化を誘導するための組成物。
【請求項3】
前記体細胞は線維芽細胞(fibroblast)、上皮細胞、筋肉細胞、神経細胞、毛髪細胞、毛根細胞、毛包細胞、口腔上皮細胞、尿から抽出した体細胞、胃粘膜細胞、杯細胞、G細胞、B細胞、周皮細胞、アストロサイト(astrocyte)、血液細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、臍帯血幹細胞、および間葉系幹細胞からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化を誘導するための組成物。
【請求項4】
前記ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルス(Retrovirus)ベクター、HIV(Human immunodeficiency virus)ベクター、MLV(Murineleukemia virus)ベクター、ASLV(Avian sarcoma/leukosis)ベクター、SNV(Spleen necrosis virus)ベクター、RSV(Rous sarcoma virus)ベクター、MMTV(Mouse mammary tumor virus)ベクター、アデノウイルス(Adenovirus)ベクター、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)ベクター、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)ベクター、およびエピソーマル(episomal)ベクターからなる群から選択される1種以上のベクターであることを特徴とする、請求項1に記載の体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化を誘導するための組成物。
【請求項5】
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および、前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と、
LHX3(LIM homeobox 3)、ISL1(ISL LIM homeobox 1)、NKX6.1(NK6 homeobox 1)、NGN2(neurogenin 2)およびSOX11(SRY-box 11)からなる群から選択された1種以上のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と
を含む組成物をインビトロ(In Vitro)で体細胞に接触または挿入させるステップを含む、体細胞を運動ニューロンに直接交差分化する方法。
【請求項6】
OCT4タンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および、前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と、
LHX3(LIM homeobox 3)、ISL1(ISL LIM homeobox 1)、NKX6.1(NK6 homeobox 1)、NGN2(neurogenin 2)およびSOX11(SRY-box 11)からなる群から選択された1種以上のタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸分子、および前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上と
を体細胞に導入して直接交差分化が誘導された運動ニューロン。
【請求項7】
請求項1の組成物または請求項6の前記直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷の予防、または治療用医薬組成物。
【請求項8】
前記神経系疾患および損傷は、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患および外傷性脳損傷(traumatic brain injury)からなる群から選択された疾患および損傷である、請求項7に記載の神経系疾患および損傷の予防または治療用医薬組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷の予防または治療用細胞治療剤。
【請求項10】
HB9タンパク質をさらに含む、請求項7に記載の神経系疾患および損傷の予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
請求項6に記載の前記直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む、神経系疾患および損傷の予防または治療薬スクリーニング用組成物。
【請求項12】
請求項6に記載の直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷治療用の人工組織の作製に向けた3Dプリンタ技術の生体材料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化を誘導するための組成物、前記組成物を体細胞に導入して直接交差分化が誘導された運動ニューロン、神経系疾患および損傷の予防または治療用医薬組成物、細胞治療剤、神経系疾患および損傷の予防または治療薬スクリーニング用組成物および人工組織の作製に向けた3Dプリンタ技術の生体材料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の胚幹細胞および逆分化幹細胞を用いた運動ニューロンの分化方法は、胚を破壊して胚性幹細胞を確立するか、体細胞から逆分化幹細胞に逆分化(Reprogramming)した後、再び運動ニューロンへの分化(Differentiation)段階を経てこそ細胞を作製することができた。また、従来の方法は胚性幹細胞を利用するという点で倫理的問題が発生する可能性があり、逆分化幹細胞を用いる場合、分化を行う段階において時間的、金銭的費用と労力がかかるが、収率(efficiency)が低く、人為的な分化能の調節が容易でないため、非効率的という問題点があった。また、インビトロレベルで薬物代謝と毒性検証に求められる十分な数の細胞を確保することが難しく、運動ニューロンの機能の再生に向けた細胞治療を適用する段階で未分化細胞由来のテラトーマ(teratoma)が形成する可能性が高く、安全性の問題点もあった。
【0003】
上記のようなテラトーマ形成の危険性を排除するために、多能性幹細胞を介さずに体細胞を他の系統の体細胞、または多分化能幹細胞に直接交差分化するための研究が進んでいるが、このようなリプログラミング過程の機序は、誘導に使用された遺伝子の数が多すぎて詳細な機序を解明することが難しいため、現在までに明らかになったレベルが微小な状態である。また、逆分化技術が確立されたにもかかわらず、実際の治療に適用するためには技術的に簡単で効率の高い方法を継続的に開発しなければならず、このように開発された技術はいずれも効率と安全性の観点から評価されなければならないので制限的である。さらに、体細胞から数個の遺伝子のみを発現させて運動ニューロンを作製する方法はまだ知られていない。
【0004】
そこで、本発明者らは、体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化方法に関する研究を行っていた中、特定遺伝子の転写因子を体細胞に導入して異所性発現を誘導すれば、効果的に体細胞をニューロン細胞に誘導できることを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする核酸分子と、(3)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を含む、体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化誘導用組成物に関する。
【0006】
他の態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする核酸分子と、(3)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を含む組成物を体細胞に接触または挿入するステップを含む、体細胞を運動ニューロンに直接交差分化する方法に関する。
【0007】
他の態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY―box11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質をコードする核酸分子と、(2)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を体細胞に導入して直接交差分化が誘導された運動ニューロンに関する。
【0008】
他の態様は、直接交差分化によって誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷の予防または治療用医薬組成物および細胞治療剤に関する。
【0009】
他の態様は、直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷の予防または治療薬スクリーニング用組成物に関する。
【0010】
他の態様は、神経系疾患および損傷を治療するための人工組織の作製に向けた3Dプリンタ技術の生体材料組成物に関する。
【0011】
他の態様は、前記直接交差分化誘導用組成物または直接交差分化によって誘導された運動ニューロンを、それを必要とする個体に投与するステップを含む、神経系疾患および損傷の予防または治療方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、一態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする核酸分子と、(3)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を含む、体細胞から運動ニューロン(motor neuron)への直接交差分化誘導用組成物を提供する。
【0013】
他の態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする核酸分子と、(3)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を含む組成物を体細胞に接触または挿入するステップを含む、体細胞を運動ニューロンに直接交差分化する方法を提供する。
【0014】
他の態様は、(1)OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY―box11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質をコードする核酸分子と、(2)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を体細胞に導入して直接交差分化が誘導された運動ニューロンを提供する。
【0015】
他の態様は、直接交差分化によって誘導された運動ニューロンを有効成分として含む、神経系疾患および損傷の予防または治療のための医薬組成物および細胞治療剤を提供することである。
【0016】
他の態様は、直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含む神経系疾患および損傷の予防または治療薬スクリーニング用組成物を提供する。
【0017】
他の態様は、神経系疾患および損傷を治療するための人工組織の作製に向けた3Dプリンタ技術の生体材料組成物を提供する。
【0018】
他の態様は、前記直接交差分化を誘導するための組成物または直接交差分化によって誘導された運動ニューロンを、それを必要とする個体に投与するステップを含む、神経系疾患および損傷の予防または治療方法を提供する。
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
「直接交差分化(Direct Conversion)」という用語は、高等生物において全く異なる細胞型を有する成熟した(分化が終わった)細胞間の変換を誘導する過程を指す。(Kim, J. et al, Neurobiol. 22, 778-784, 2012) これは人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells, iPSCs)にリプログラミングし、これを再分化して目的の細胞にする必要がある従来技術とは異なり、人工多能性幹細胞の段階を経ずにすぐ目的の細胞への転換を誘導するという点で違いがあり、現在、直接交差分化は疾患モデリングや新薬開発などに利用される可能性が認められており、遺伝子治療や再生医学などにも応用できる技術として知られている。
【0021】
一態様で提供される直接交差分化誘導用組成物は、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする核酸分子と、(3)前記核酸分子が導入されたベクターからなる群から選択された1種以上を含むことができる。
【0022】
一態様の前記組成物は、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質のうち、ある一種以上のタンパク質、および/またはこれらのタンパク質のうち、ある一種以上をコードする核酸分子を含み得る。例えば、前記組成物は、OCT4、LHX3、ISL1、NKX6.1、NGN2またはSOX11を含むことができ、OCT4およびLHX3と、OCT4およびISL1と、OCT4およびNKX6.1と、OCT4およびNGN2と、OCT4およびSOX11と、OCT4、LHX3およびISL1と、OCT4、LHX3およびNKX6.1と、OCT4、LHX3、およびNGN2と、OCT4、LHX3、およびSOX11の組み合わせを含めることができる。
【0023】
一態様のOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードする核酸分子は、前記タンパク質をコードする核酸分子を含むOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質を発現するベクターに挿入された状態で使用することができる。
【0024】
本発明において「ベクター」とは、適切な宿主細胞において目的タンパク質を発現することができる発現ベクターであり、遺伝子挿入物が発現するよう作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子伝達体を意味することができる。
【0025】
本発明のベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーなどの発現調節要素に加えて、膜標的化、分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造されることができる。ベクターのプロモーターは構成的または誘導性であり得る。また、発現ベクターは、ベクターを含む宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターである場合は複製起点を含む。ベクターは自己複製または宿主DNAに組み込むことができる。
【0026】
具体的な一実施形態として、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質をコードする核酸分子、または前記核酸分子が導入されたベクターを体細胞に導入して運動ニューロンへの直接交差分化を確認した。
【0027】
また、本発明の組成物は、運動ニューロンを直接交差分化の誘導ができる転写因子をベクターを介して導入することができるが、本発明で用いることができるベクターは、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルス(Retrovirus)ベクター、HIV(Human immunodeficiency virus)ベクター、MLV(Murineleukemia virus)ベクター、ASLV(Avian sarcoma/leukosis)ベクター、SNV(Spleen necrosis virus)ベクター、RSV(Rous sarcoma virus)ベクター、MMTV(Mouse mammary tumor virus)ベクター、アデノウイルス(Adenovirus)ベクター、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)ベクター、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)ベクター、およびエピソーマル(episomal)ベクターからなる群から選択された1種以上のベクターであってもよい。
【0028】
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質は、そのタンパク質をコードする核酸分子、または前記核酸分子が導入されたベクターの形態で提供され得る。OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質は、ヒト、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、レイヨウ、イヌなどの哺乳動物由来のすべてのOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質を含み得る。さらに、本発明で使用できるOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードする核酸分子は、前記タンパク質をコードする核酸分子を含むOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox) 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質は、これらの野生型(wild type)のアミノ酸配列を有するタンパク質だけでなく、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードするする核酸分子は、前記タンパク質をコードする核酸分子を含むOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質からなる群から選択された1種以上のタンパク質の変異体(例えば、各タンパク質の亜型(subtype))を含み得る。
【0029】
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質の変異体とは、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質の天然アミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸残基が、欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、またはそれらの組み合わせによって天然アミノ酸配列と異なる配列を有し、天然(wild-type)タンパク質の固有の生物学的機能を維持するタンパク質を意味する。前記変異体は、天然タンパク質と同じ生物学的活性を示す機能的等価物であるか、必要に応じてタンパク質の物理化学的性質が変形された変異体であり得、物理、化学的環境に対する構造的安定性が増大したり、生理学的活性が増大した変異体であり得る。
【0030】
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質またはその変異体は、天然から分離されてもよく、組換えまたは合成的に製造(non-naturally occurring)されていてもよい。
【0031】
また、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードする核酸は、野生型または上記のような変異体形態の前記タンパク質をコードする塩基配列であり、1つ以上の塩基が置換、欠失、挿入、またはそれらの組み合わせによって変異されてもよく、天然から分離または化学的合成法を用いて製造されてもよい。OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードする塩基配列を有する核酸は、単鎖または二重鎖であってもよく、DNA分子(ゲノム、cDNA)またはRNA(mRNA)分子であってもよい。
【0032】
具体的な一実施形態では、レンチウイルスを介したOCT4またはOCT4、およびLHX3の直接交差分化因子を体細胞の代表例として選択された線維芽細胞に導入し、前記因子を異所性発現させて線維芽細胞を運動ニューロンに直接交差分化させた。また、前記誘導された運動ニューロンに逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR、Reverse transcription PCR)を行い、直接交差分化因子を導入する前の線維芽細胞とは異なる運動ニューロンマーカーが誘導された運動ニューロンに示されることを確認した。
【0033】
「体細胞」という用語は、生殖細胞を除くすべての細胞を意味することができ、例えば、ヒト、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、レイヨウ、イヌなどの哺乳動物由来のもの、または分離されたものであり得る。また、本発明の組成物は、体細胞の運動ニューロンへの直接交差分化を誘導することができるが、前記体細胞は線維芽細胞(fibroblast)、上皮細胞、筋肉細胞、神経細胞、毛髪細胞、毛根細胞、毛包細胞、口腔上皮細胞、尿から抽出した体細胞、胃粘膜細胞、杯細胞、G細胞、B細胞、周皮細胞、アストロサイト(astrocyte)、血液細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、臍帯血幹細胞、および間葉系幹細胞からなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。ただし、本発明の具体的な一実施例では、前記体細胞を線維芽細胞として使用した。
【0034】
「運動ニューロン(motor neuron)」という用語は、神経系を構成するニューロンの一種であり、脊髄などの中枢神経系からのシグナルを筋肉や腺などのエフェクター(effector)に伝達して機能させるニューロンを指す。さらに、「誘導された運動ニューロン」は、例えば、一態様による直接交差分化によって体細胞から誘導された運動ニューロンを意味することができる。
【0035】
一実施形態では、前記直接交差分化方法は、体細胞を培地で培養するステップ、前記培養した体細胞にOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質遺伝子を挿入したベクターをトランスフェクション(transfection)させるステップ、および前記感染した体細胞を直接交差分化を誘導できる培養条件で培養するステップを含めることができる。また、前記直接交差分化法では、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox) 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質遺伝子を体細胞にトランスフェクション(transfection)させるステップをさらに含み得る。
【0036】
前記体細胞の培養に使用される培地は、当該分野で体細胞の培養に通常使用される培地をすべて含む。培養に使用される培地は、一般に炭素源、窒素源および微量元素成分を含む。本発明の具体的な実施例では、プロタミン硫酸塩(protamine sulphate)を含有する培地を使用したが、これに限定されない。
【0037】
また、前記体細胞を直接交差分化を誘導することができる培養条件は、当該分野において体細胞に対して直接交差分化を誘導するために通常用いられる培地および/または従来の培養条件を含むことができる。
【0038】
前記直接交差分化誘導用組成物を体細胞に導入するステップを通じて、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)、LHX3(LIM homeobox 3)、ISL1(ISL LIM homeobox 1)、NKX6.1(NK6 homeobox 1)、NGN2(neurogenin 2)、およびSOX11(SRY-box 11)などの直接交差分化因子の異所性発現(Ectopic expression)を誘導することができる。異所性発現とは、ある遺伝子が元々発現する組織や細胞外で発現するもの、または元々発現する時期とは異なる時期に発現することを意味する。本発明の方法によれば、体細胞から運動ニューロンを効果的に作製することができる。
【0039】
一態様において開示された方法および組成物によって誘導された運動ニューロンは、元の細胞由来のマーカーを発現することなく、単に運動ニューロンで発現されるマーカーが現れることを特徴とする。一態様では、直接交差分化が誘導された運動ニューロンを得るために、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質を含む組成物を活用して直接交差分化を誘導することができる。OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質をコードする核酸分子、または前記核酸分子が導入されたベクターを含む組成物で、運動ニューロンへの直接交差分化を確認した。また、具体的な一実施形態として、OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質をコードする核酸分子または前記核酸分子が導入されたベクターを含む組成物にLHX3(LIM homeobox protein 3)をコードする核酸分子または前記核酸分子が導入されたベクターをさらに含み、前記組成物による体細胞から運動ニューロンへの直接交差分化を確認した。また、直接交差分化が誘導された運動ニューロンは、前記組成物に含まれるOCT4(Octamer-binding transcription factor 4)タンパク質、LHX3(LIM homeobox 3)タンパク質、ISL1(ISL LIM homeobox 1)タンパク質、NKX6.1(NK6 homeobox 1)タンパク質、NGN2(neurogenin 2)タンパク質、およびSOX11(SRY-box 11)タンパク質のうち、ある一種以上のタンパク質、および/またはこれらのタンパク質のうち、ある一種以上をコードする核酸分子によって提供することができる。
【0040】
「予防」という用語は、神経系疾患および損傷の病因を排除または早期発見することによって、その疾患を防止するあらゆる行為を意味する。
【0041】
「治療」という用語は、本発明の組成物によって神経系疾患および損傷による症状が改善または有利に変化するあらゆる行為を意味する。
【0042】
予防または治療が可能な前記神経系疾患および損傷は、例えば、脊髄損傷、パーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症、運動神経損傷、外傷による末梢神経損傷、虚血性脳損傷、新生児低酸素性虚血性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、難治性てんかん、アルツハイマー病、先天性代謝性神経系疾患および外傷性脳損傷(traumatic brain injury)からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されず、神経系の機能低下、消失、および/または、異常な機能によって引き起こされるすべての疾患および/または病的症状を含み得る。
【0043】
前記組成物は、誘導された運動ニューロンと共に神経系疾患および損傷の予防または治療効果を有する公知の有効成分を1種以上、さらに含むことができる。
【0044】
前記組成物は、薬学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができ、この場合、薬学的に許容可能な添加剤としては、例えば、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアガム、アルファ化デンプン、コーンスターチ、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、百糖などを使用することができる。本発明による薬学的に許容可能な添加剤は、前記組成物に対して0.1~90重量部含まれることが好ましいが、これらに限定されない。
【0045】
前記組成物は、実際の臨床投与時に経口または非経口の様々な製剤で投与することができるが、製剤化する場合には通常使用する、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製することができ、当技術分野において公知の適切な製剤は、文献(Remington's Pharmaceutical Science, 最近, Mack Publishing Company, Easton PA)に開示されているものを使用することが好ましい。前記組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、オリゴ糖、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などがある。
【0046】
前記組成物の好ましい投与量は、個体の状態および体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適切に選択され得る。好ましい効果のために、一態様による直接交差分化が誘導された運動ニューロンは、体重が70kgの成人患者を基準にした場合、例えば、約1,000~10,000細胞/回、1,000~100,000細胞/回、1,000~1、000、000細胞/回、1,000~10,000,000細胞/回、1,000~100,000,000細胞/回、1,000~1,000,000,000細胞/回、1,000~10,000,000,000細胞/回と、一定時間の間隔を置いて1日1回~1日数回に分割して投与することもでき、一定時間の間隔を置いて複数回投与することができる。
【0047】
前記組成物は個体に様々な経路で投与することができる。投与のすべての方法は予想され得るが、例えば、経口、直腸または静脈、筋肉または皮下注射によって投与されることができ、肌に塗る方式などあらゆる経路で投与され得る。
【0048】
「個体」という用語は、神経系疾患および損傷の治療を必要とする対象を意味し、より具体的にはヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマおよびウシなどの哺乳類を意味する。
【0049】
一態様では、前記組成物は、神経系疾患および損傷の予防、または治療のために単独で、または手術、放射線治療、ホルモン療法、化学療法および生物学的反応調節剤を用いる方法と併用して使うことができる。前記直接交差分化が誘導された運動ニューロンを含む医薬組成物にHB9タンパク質をさらに含み得る。
【0050】
「細胞治療剤」という用語は、組織の機能を回復するために自家(autologous)細胞、同種(allogenic)細胞、異種(xenogenic)細胞を用いた治療剤であり、癌の抑制に使用される治療剤を意味する。前記直接交差分化が誘導された運動ニューロンを有効成分として含めると、神経系疾患および損傷の治療または予防のための細胞治療剤として活用することができる。
【0051】
前記細胞治療剤は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。前記薬学的に許容可能な担体は、例えば、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、HSA(Human serum albumin)及びこれらの成分中1種以上を混合して使用することができ、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液および静菌薬などの他の通常の添加剤を加えることができる。
【0052】
前記細胞治療剤は、例えば、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を追加的に添加することができ、例えば、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用製剤に製剤化することができる。
【0053】
前記神経系疾患および損傷の予防または治療薬スクリーニング用組成物は、神経系疾患および損傷の治療候補物質の存在および不在下で、本発明において分化が誘導された運動ニューロンの反応性を確認する方法で神経系疾患および損傷の治療剤をスクリーニングする上で有用に使用することができる。例えば、一態様の分化が誘導された運動ニューロンは、神経系疾患および損傷疾患の回復または治療に重要な細胞として候補物質に対する毒性または薬効を評価するために使用することができる。
【0054】
前記毒性の評価は、一態様の治療候補物質の存在および不在下で、または本発明において分化が誘導された運動ニューロンのIC50など、通常、当業界で毒性を判定する方法に従って評価することができる。さらに、前記薬効の評価は、一態様の治療候補物質の存在および不在下で本発明において分化が誘導された運動ニューロンが損傷した神経の再生を促進するなど、当業界で神経系疾患および損傷疾患の治療に効果があることを確認できる方法に従って評価することができる。
【0055】
前記3Dプリンティング技術は3次元(3D)の立体的な固体物質をプリントする技術に関するものであり、前記3Dプリンタ技術の生体材料組成物は生体模倣、小型組織および自律的な自己組織化といった特徴を有する生体適合性高分子、天然高分子、バイオ分子、生体活性物質、細胞を意味する。
【0056】
一態様によれば、直接交差分化によって誘導された運動ニューロンを所望の形状またはパターンに積層造形することにより、神経系疾患および損傷治療用の人工組織の製作が可能であり、再生治療分野で広く活用できる。
【0057】
重複する内容は、本明細書の複雑さを考慮して省略し、本明細書で特に定義されていない用語は、本発明が属する技術分野で通常使用される意味を有するものである。
【発明の効果】
【0058】
一態様の組成物を用いると、直接交差分化誘導因子の発現を通じて逆分化幹細胞の多分化能(Pluripotency)段階を経ずに体細胞から運動ニューロンへ効率的に分化を誘導することができ、これを利用すると神経系疾患および損傷に対する効果的な予防および治療が可能である。また、一態様の誘導された運動ニューロンを用いると、従来の難治性疾患として知られている神経系疾患および損傷を治療できる治療用医薬組成物および人工組織の作製に向けた3Dプリンタ技術の生体材料組成物として使用することができ、再生医療分野で広く活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1A図1Aは、線維芽細胞から運動ニューロンを直接交差分化して誘導する過程を模式化した図である。
図1B図1Bは、3次元培養によって調製した誘導された運動ニューロンの組織学的形態を同定した結果に関する。
図2図2は、単一または組み合わせの直接交差分化因子の遺伝子に誘導された運動ニューロンにおけるHB9遺伝子の発現を確認した結果(図2A)、および前記因子に誘導された運動ニューロンの直接交差分化の効率を確認した結果(図2B)を示す図である。
図3図3は、誘導された運動ニューロンに対する免疫蛍光染色を行った結果を示す図である。
図4図4は、誘導された運動ニューロン(誘導した運動ニューロンの中間細胞、OCT4感染で作製した誘導した運動ニューロン細胞、OCT4感染後LHX3を処理した誘導した運動ニューロン細胞)で発現される運動ニューロンマーカーを確認した結果を示す図である。
図5図5は、由来細胞である線維芽細胞に対して誘導された運動ニューロンに現れる相対的な遺伝子発現量の差を確認した結果を示す図である。
図6図6は、脊髄損傷モデルマウスの神経損傷に対する治療効果を対照群のマウスと対比した結果を運動回復機能の回復精度を確認できる指数であるBBBスコア(BBBscore)を確認した結果(図6A)に、脊髄部分にH&E染色を行って示した結果(図6B)を確認した図である。
【発明を実施のための形態】
【0060】
以下、本発明の理解を助けるために実験例、および実施例を挙げて詳細に説明する。ただし、下記の実験例および実施例は、本発明の内容を例示するものであり、本発明の範囲が下記の実施例および実験例に範囲が限定されるものではない。本発明の実施例および実験例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【実験例および実施例】
【0061】
(実験例1)<クローニングおよびレンチウイルスプラスミドのパッケージング>
【0062】
転写因子(OCT4およびLHX3)をHepG2のcDNAを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅させた。その後、前記転写因子をレンチウイルスベクターに導入し、塩基配列分析でこれを確認した。レンチウイルスのパッケージングをXtremeGENE 9 DNAトランスフェクション試薬 (Roche, 06365787001)を用いて、レンチウイルストランスファープラスミド(lentiviral transfer plasmid)、パッケージングプラスミド(packaging plasmid, psPAX2)、およびエンベローププラスミド(envelope plasmid, VSV-G)をそれぞれ3:2:1の比で添加して行った。DMEMを添加して総容量を200μlにした混合物を50%コンフルエント(confluent)状態の293T細胞に処理して48時間形質転換した。細胞培養培地を超遠心分離機で1時間30分間80,000gで遠心分離し、その後遠心分離した上清液で得られたレンチウイルスペレットを1mlのDMEM(Gibco、10313―021)に希釈し、形質転換に使用した。
【0063】
(実験例2)<細胞培養培地および誘導した運動ニューロン(induced motor neurons, iMN)の作製>
【0064】
皮膚線維芽細胞を、10%FBS培養培地中のゼラチン被覆の6wellプレート上に3×104細胞で分注した。1日後、線維芽細胞を、6μg/mlのプロタミン硫酸塩を含有する培地中で、OCT4、LHX3、ISL1、NKX6.1、NGN2、およびSOX11をそれぞれ発現するpMXレトロウイルスベクターと、OCT4およびLHX3と、OCT4およびISL1と、OCT4およびNKX6.1と、OCT4およびNGN2と、OCT4およびSOX11と、OCT4、LHX3およびISL1と、OCT4、LHX3およびNKX6.1と、OCT4、LHX3およびNGN2と、OCT4、LHX3およびSOX11の組み合わせを発現するpMXレトロウイルスベクターに感染させて誘導した運動ニューロンを作製した。その後、ウイルス上清を除去し、新しい培地に置き換えた。ベクターで線維芽細胞を感染させた後、作製したiMNを運動ニューロン分化培地であるPDL/laminin-coated 4-wellプレートにプレーティングした。プレーティング後、細胞を培養し、ニューロン細胞群を機械的に分離し、ゼラチン被覆プレートから成熟したiMNを選別(picking)するか、トリップシン処理して継代培養(subculture)した。
【0065】
(実験例3)<RNA抽出およびcDNA合成>
【0066】
細胞溶解物のtotal RNAをRiboEX(Geneall,301-001)で抽出した。RNA抽出は製造業者のプロトコルに従って行った。合計20μlの反応混合物に500ngのRNAおよびオリゴdTプライマーを添加し、M-MuLV逆転写酵素(NEB、M0253L)でcDNAを合成した。
【0067】
(実験例4)<RT-PCR分析>
【0068】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、Taqポリメラーゼ(Invitrogen,10342-020)とプライマー対を用いて58℃で35サイクルで行った。PCR産物を1%アガロースゲルで100Vでゲル電気泳動を25分間行い、これを運動ニューロンマーカー遺伝子と運動ニューロン前駆体及び神経外胚葉マーカーに対して実験を3回繰り返して行い、ハウスキーピング遺伝子(housekeeping gene)Gapdhで正常化した。遺伝子発現はCt値計算方法で測定して分析し、全ての実験は製造業者のプロトコルに従って行った。
【0069】
(実験例5)<免疫蛍光染色>
【0070】
細胞を室温で10分間、4%パラホルムアルデヒド(Tech&Innovation,BPP-9004)で固定した。固定した細胞をDulbecco′s Phosphate-Buffered Saline (DPBS, Corning, 21-031-CV)で3回洗浄した。その後、室温で10分間、0.1%Triton X-100(Sigma,T9284)を含むDBPSで細胞を浸透させた。DPBSで3回洗浄した後、4%FBSを含むDPBSで室温で1時間反応させて非特異的結合を遮断した。次いで、細胞を室温で一次抗体と共に1時間インキュベートした後、0.05%のTween 20(Sigma、P7949)を含むDPBSで3回洗浄した。その後、二次蛍光抗体をサンプルで処理し、暗所で1時間インキュベートした。二重染色が必要な場合、上記の手順に従って一次抗体を処理する前に30分間追加の遮断段階を行った。
【0071】
(実験例6)<マイクロアレイ分析>
【0072】
マイクロアレイ分析を用いて線維芽細胞、OCT4感染後の線維芽細胞で誘導した運動ニューロンの中間細胞(iMN intermediate cell)、OCT4感染のみで製造した誘導した運動ニューロン(Mock_iMN)および、OCT4感染後LHX3を処理して製造した誘導した運動ニューロン細胞(LHX3_iMN)の全遺伝子発現をプロファイル分析し、それらをそれぞれ比較した。全RNAは、製造業者の指示に従ってRNeasy mini kit(Qiagen)を用いて単離した。サンプルはAffymetrix arrayとハイブリダイズした。RMA(Robust Multi-array Analysis)アルゴリズムで計算して正常化した。データ処理およびグラフィックは、内部で開発されたMatlabで行った。遺伝子およびサンプルの階層クラスタリングは、one minus correlation metric and the unweighted average distance(UPGMA)linkage法により行った。
【0073】
(実験例7)<脊髄損傷モデルの製造および誘導した運動ニューロンの移植>
【0074】
脊髄損傷モデルは、6週齢の雄ラットに脊髄の胸椎レベル9(T9)に損傷を与えるための空気供給装置を用いて製作した。損傷の1週間後、収得したiMNをDiIで標識し、1×105iMNs/rat濃度で定位固定法(stereotaxic)で脊髄の胸椎レベル8(T8)および胸椎レベル10(T10)にそれぞれ注入した。ラットに定期的に水と食物を与え、排尿作用のために膀胱をマッサージした。動物実験のプロセスは、動物施設(animal facility)と蔚山科学技術大学のIBR委員会から承認された。動物実験のプロセスは、動物研究に関する米国国立衛生院の指針に基づく。
【0075】
実施例1 直接交差分化因子による誘導した運動ニューロン(induced motor neurons, iMN)への誘導
【0076】
運動ニューロンに誘導するために、皮膚線維芽細胞を培養培地に植え、24時間レンチウイルス発現系を介して運動ニューロンへの誘導を引き起こす転写因子であるOCT4を線維芽細胞に形質転換させて誘導した運動ニューロン中間細胞(iMN intermediate cell)を作製した。その後、レンチウイルス発現系を介してLHX3をさらに前記細胞に導入して誘導運動ニューロンを作製したり、LHX3を導入しなかった誘導運動ニューロンを作製した。その後、これをゼラチン被覆の培養皿に皮膚組織を付着させ、これを培養して使用した。前記実験のプロセスを図式化して図1Aに示しており、前記誘導された運動ニューロンを3次元培養した細胞の組織学的形態を図1Bに示した。
【0077】
図1Bに示したように、レンチウイルスで形質転換後20日程度に集合体が形成され、これを3次元培養させた後5日目になると典型的な運動ニューロンの形態が現れることを確認した。上記のような結果から、OCT4およびLHX3を体細胞である線維芽細胞に処理して前記因子の異所性発現(ectopic expression)を誘導すれば、効果的に運動ニューロンを作製できることを確認した。特に、上記のような過程によって誘導された運動ニューロンは、実際の運動ニューロンに現れる特徴的な形態が現れることが確認できた。
【0078】
実施例2 直接交差分化因子による誘導した運動ニューロン(induced motor neurons, iMN)への誘導
【0079】
直接交差分化因子の単一遺伝子および2つ以上の遺伝子の組み合わせを体細胞に導入して運動ニューロンに直接交差分化を誘導させる場合に接交差効率が効果的に現れるかどうかと前記直接交差分化因子の組み合わせとの間の直接交差効率を確認する実験を行った。実験例2と同じ条件で直接交差分化因子の単一遺伝子とその組み合わせを用いて誘導した運動ニューロンを作製し、作製した運動ニューロンで直接交差分化の運動ニューロンマーカーであるHB9の発現を確認した結果を図2Aに示し、単一遺伝子とその組み合わせとの間の直接交差分化の効率を測定した結果を図2Bに示す。
【0080】
図2Aで確認したように、運動ニューロンマーカーであるHB9は、単一直接交差分化因子では、OCT4、LHX3、ISL1、NKX6.1、NGN2および、SOX11順にHB9マーカーの発現が低くなるのを確認しており、組み合わせ因子では、OCT4およびLHX3と、OCT4、LHX3およびISL1と、OCT4、LHX3およびNKX6.1と、OCT4、LHX3およびNGN2と、OCT4、LHX3およびSOX11の組み合わせにおいて、線維芽細胞と比較して500倍以上の運動ニューロンマーカーであるHB9の発現量が高くなることを確認した。また、図2Bで確認したように、単一直接交差分化因子の遺伝子では、OCT4が運動ニューロンマーカーであるHB9タンパク質を発現する細胞が最も直接交差分化効率が高いことが確認できた。また、組み合わせ直接交差分化因子においては、全ての組み合わせの効率が60%以上を示すことを確認し、単一因子よりは直接交差分化の効率が高くなることを確認した。
【0081】
実施例3 直接交差分化が誘導された運動ニューロンの特徴の確認
【0082】
前記実施例1および2で誘導された運動ニューロン(iMN)が形態だけでなく実際の運動ニューロンの特徴を示すかを確認するために、ウェスタンブロッティング、RT-PCR分析を行い、同時に免疫蛍光染色を行った。実験例4~6に開示された方法により実験を行っており、免疫蛍光染色を行った結果を図3に、ウェスタンブロッティングを通じて発現される遺伝子マーカーを確認した結果を図4に、由来細胞である線維芽細胞と比較して誘導された運動ニューロンに現れる相対的な遺伝子発現量の差を確認した結果を図5に示す。
【0083】
図3で確認したように、作製したiMNは線維芽細胞では発現しなかった運動ニューロンマーカーであるHB9、ISLT1、NKX6.1、MAP2、TUJ1マーカーの発現が強く現れることを確認した。また、図4で確認したように、誘導した運動ニューロンの中間細胞(iMN intermediate cell)はISLT1およびMAP2マーカーの発現が現れることを確認しており、OCT4のみで運動ニューロンを誘導した群(+Mock_iMN)はISLT1およびMAP2を発現しながらLIM1をさらに発現することを確認した。LHX3をさらに導入して誘導した運動ニューロン群(+LHX3_iMN)は、LIM1、HB9、ISLT1、NKX6.1およびMAP2の全てを発現することを確認した。
【0084】
また、図5で確認したように、誘導した運動ニューロンの中間細胞はISLT1の発現が著しく増加したことが確認され、さらにOCT4のみで運動ニューロンを誘導した群であるMock_iMNではISLT1、MAP2およびLIM1の発現が10倍以上上昇したことが確認できた。LHX3をさらに導入して誘導した運動ニューロン群であるLHX3_iMNは、LIM1、HB9、ISLT1、NKX6.1、SCSL1およびMAP2の発現量が全て約10倍以上上昇することを確認した。
【0085】
上記のような結果から、作製されたiMNは、形態だけでなく、運動ニューロンマーカーが明確に現れる実際の運動ニューロンと同じであることが確認された。ただし、図3および図4で確認したように、使用した直接交差反応の転写因子の組み合わせによって確認できる運動ニューロンマーカーの発現態様は多少異なる可能性があることが確認できた。
【0086】
したがって、上記のような結果を総合してみると、線維芽細胞から誘導された運動ニューロンは実際の運動ニューロンと同一であることを確認し、前記実施例に開示された方法によると効率的に運動ニューロンを誘導できることを確認した。
【0087】
実施例4 脊髄損傷動物モデルへのiMN投与による神経損傷治療効果の同定
【0088】
前記実施例によって作製された運動ニューロンが脊髄損傷動物モデルに投与された場合に治療効果が現れることを確認するために実験を行った。実験方法は実験例7と同様であり、iMNを投与した群と追加的に誘導されたiMNにHB9をさらに併用して投与したマウス脊髄損傷モデルの神経損傷治療効果を、対照群マウスと対比した結果を運動回復機能の回復程度を確認できる指数であるBBBスコア(BBB score)で確認した結果を図6Aに、脊髄部分にH&E染色を行って確認した結果を図6Bに示した。
【0089】
前記図6Aに示すように、iMNが注入された群は、対照群と比較して時間が経つにつれて、運動機能回復の程度が注入して5週目になってから著しく上昇することを確認した。また、HB9を併用して一緒に投与した群は、注入して1週目から着実に運動機能の回復が増加し、特に3週間後からは顕著に運動機能が回復することを確認した。また、図6Bで確認したように、誘導されたiMNにHB9をさらに併用して投与した場合には、対照群と比べて脊髄の損傷した部分の損傷した組織が著しく減少したことを確認した。
【0090】
上記のような結果を通じて誘導された運動ニューロンを投与すると、神経系疾患及び損傷を効果的に治療することができ、前記疾患等を予防または治療できる治療剤組成物として活用できる可能性を確認した。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6