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特許7667855表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置
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  • 特許-表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-15
(45)【発行日】2025-04-23
(54)【発明の名称】表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20250416BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20250416BHJP
   H10K 71/13 20230101ALI20250416BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20250416BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250416BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20250416BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K59/10
H10K71/13
C08G65/18
C09K3/10 L
C09K3/10 G
C09K3/10 E
G09F9/30 365
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023520978
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019301
(87)【国際公開番号】W WO2022239674
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021080497
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】白石 巧充
(72)【発明者】
【氏名】舘野 航太郎
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/067827(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0069757(KR,A)
【文献】特開2019-203105(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092816(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068454(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/00-33/28
C08G 65/18
C09K 3/10
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(C):
(A)カチオン重合性化合物、
(B)カチオン重合開始剤、
(C)レベリング剤
を含有する表示素子用封止剤であって、
以下の測定手順で測定される、当該表示素子用封止剤の滴径比Rが0.5以上1.1以下であり、
E型粘度計で測定された25℃、20rpmにおける粘度が5mPa・s以上80mPa・s以下である、
表示素子用封止剤(ただし、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタンと、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルと、カチオン重合開始剤と、SiNに対する接触角が1°以下である有機溶剤と、シリコーン系レベリング剤とを含む、表示素子用封止剤、および、炭素原子数7以上の直鎖の単官能エポキシ化合物を含む表示素子用封止剤を除く)。
[測定手順]
(i)当該表示素子用封止剤を23℃の状態とした後、当該表示素子用封止剤の一部を採取し、SiN基板に対して当該表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD1とする。
(ii)前記(i)の工程で23℃の状態とした前記表示素子用封止剤9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋を締める。当該表示素子用封止剤入り容器を5℃で7日間冷蔵する。
(iii)前記(ii)の工程で冷蔵した前記表示素子用封止剤を採取し、SiN基板に対して前記表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD2とする。
(iv)前記D1および前記D2から、滴径比R=D2/D1の値を算出する。
【請求項2】
請求項1に記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(C)が、シリコーン系ポリマー及びアクリレート系ポリマーからなる群から選択される1種以上である、表示素子用封止剤。
【請求項3】
請求項1に記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(C)が、分子内にポリメチルシロキサン構造またはポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系ポリマーである、表示素子用封止剤。
【請求項4】
請求項1に記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(C)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位を含むポリマーである、表示素子用封止剤。
【請求項5】
以下の成分(A)~(C):
(A)カチオン重合性化合物、
(B)カチオン重合開始剤、
(C)レベリング剤
を含有する表示素子用封止剤であって、
以下の測定手順で測定される、当該表示素子用封止剤の滴径比Rが0.5以上1.1以下であり、
E型粘度計で測定された25℃、20rpmにおける粘度が5mPa・s以上80mPa・s以下であり、
前記成分(C)が、分子内にポリメチルシロキサン構造またはポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系ポリマーである、表示素子用封止剤(ただし、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタンと、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルと、カチオン重合開始剤と、SiNに対する接触角が1°以下である有機溶剤と、シリコーン系レベリング剤とを含む、表示素子用封止剤を除く)。
[測定手順]
(i)当該表示素子用封止剤を23℃の状態とした後、当該表示素子用封止剤の一部を採取し、SiN基板に対して当該表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD1とする。
(ii)前記(i)の工程で23℃の状態とした前記表示素子用封止剤9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋を締める。当該表示素子用封止剤入り容器を5℃で7日間冷蔵する。
(iii)前記(ii)の工程で冷蔵した前記表示素子用封止剤を採取し、SiN基板に対して前記表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD2とする。
(iv)前記D1および前記D2から、滴径比R=D2/D1の値を算出する。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(A)が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物の一方または両方を含む、表示素子用封止剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(C)の含有量は、前記成分(A)100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下である、表示素子用封止剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤であって、
前記成分(B)が、光によって重合を開始させるカチオン種を発生する光カチオン重合開始剤である、表示素子用封止剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤であって、
有機EL表示素子の封止用である、表示素子用封止剤。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に配置された表示素子と、
前記表示素子を被覆する封止層と、
を含み、
前記封止層が、請求項1~5のいずれかに記載の表示素子用封止剤の硬化物により構成されている、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子用封止剤、その硬化物および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子の分野において、封止剤の特性を向上させるための検討がなされている。以下、有機EL表示装置を例に挙げて説明する。
【0003】
有機EL素子は、消費電力が少ないことから、ディスプレイや照明装置などに用いられつつある。有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化しやすいことから、各種シール部材で封止されて使用される。この封止に用いられる材料として、種々のものが検討されてきた。
【0004】
有機EL表示素子用封止剤の塗布方法として、インクジェット法が好適に用いられるところ、インクジェット用の有機EL表示素子封止剤は、高い水準の保存安定性が求められる。その理由は、以下のとおりである。
【0005】
表示素子用封止剤をインクジェット法により塗布するにあたっては、まず、当該封止剤をインクジェットカートリッジ内に導入した後、このインクジェットカートリッジをインクジェット装置にセットし、被塗布対象に対して当該表示素子用封止剤をインクジェット塗布することにより行われる。ここで、製造工程上の都合により、封止剤がカートリッジ内に貯蔵された状態で、数日から数ヶ月にわたる長期間が経過することがある。この期間において、環境温度が変化することがあり、さらに、インクジェット塗布の際にインクカートリッジが温度履歴を受けることもある。
【0006】
こうした長期間にわたる保存が行われたり、保存時に温度履歴を受けたりすることにより、封止剤の粘度特性や硬化特性が変化すると、インクジェットヘッドへの封止剤の付着が起こったり、着弾後の硬化挙動が変動し、歩留まりの低下をもたらす結果となる。こうしたことから、封止剤の保存安定性が求められている。
このような封止剤の保存安定性を改善する従来技術として、特許文献1および特許文献2に記載された技術が知られている。
【0007】
特許文献1には、光重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、常温常圧の大気雰囲気下で厚み10μmの塗膜にピーク波長395nmの光を積算光量800mJ/cm以上4000mJ/cm以下の条件で照射して得られる光硬化物のDSC曲線は、30℃から260℃の範囲内にピークトップがあるピークを有する、紫外線硬化性樹脂組成物、が記載されている(請求項1)。
【0008】
特許文献2には、厚み10μmの紫外線硬化性樹脂組成物の塗膜に、ピーク波長395nmの紫外線が、積算光量800mJ/cm以上4000mJ/cm以下の範囲内で照射されたときに、紫外線の照射強度が1W/cm以下で、塗膜中の重合性化合物の反応率が70%未満である、紫外線硬化性樹脂組成物、が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2020-105482号公報
【文献】特開2020-105483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが上記特許文献に記載の技術について検討したところ、特許文献1および特許文献2の技術では、充分に高い水準の保存安定性を得ることが困難であることが判明した。これらの技術では、その実施例に記載されているように、連続10分間吐出可能かどうかという基準で保管性を評価しており、問題なく連続10分間吐出可能であれば保管性良好と判断し、インクジェットヘッドへのインク(組成物)の付着が発生するものは保管性不良と判断している(特許文献1の段落0283、特許文献2の段落0219)。このような基準で判断する保管安定性については、上記特許文献1、2の技術でも改善可能と考えられる。しかし、近年においては、封止剤や封止剤により得られる封止膜、ひいては有機EL素子について、これまで以上の高性能化が求められるとともに、ばらつきを最小限に抑制することが求められるようになってきた。かかる要請に応えるためには、インクジェットヘッドへのインク(組成物)の付着を抑制するだけでは不足であり、さらに高い水準の封止剤の安定性が求められる。
【0011】
また、近年では、封止用樹脂組成物のさらなる高性能化のため、レベリング剤を含有させる手法がしばしば用いられる。このようなレベリング剤を含む封止用樹脂組成物とした場合、本発明者の検討によれば、従来、認識されていなかった課題を有することを見出した。すなわち、輸送時において、封止用樹脂組成物の性能が微妙に変化し、これにより、インクジェット塗布特性や、得られる硬化物の性能に変動が生じることを見出した。
【0012】
以上を踏まえ、本発明は、表示素子用封止剤、中でもレベリング剤を含有する封止用樹脂組成物において、高い水準の保存安定性を付与する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下に示す表示素子用封止剤、硬化物および表示装置が提供される。
[1] 以下の成分(A)~(C):
(A)カチオン重合性化合物、
(B)カチオン重合開始剤、
(C)レベリング剤
を含有する表示素子用封止剤であって、
以下の測定手順で測定される、当該表示素子用封止剤の滴径比Rが0.5以上1.1以下である、
表示素子用封止剤。
[測定手順]
(i)当該表示素子用封止剤を23℃の状態とした後、当該表示素子用封止剤の一部を採取し、SiN基板に対して当該表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD1とする。
(ii)上記(i)の工程で23℃の状態とした上記表示素子用封止剤9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋を締める。当該表示素子用封止剤入り容器を5℃で7日間冷蔵する。
(iii)前記(ii)の工程で冷蔵した上記表示素子用封止剤を採取し、SiN基板に対して上記表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、当該表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD2とする。
(iv)上記D1および上記D2から、滴径比R=D2/D1の値を算出する。
[2] [1]に記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(A)が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物の一方または両方を含む、表示素子用封止剤。
[3] [1]または[2]に記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(C)が、シリコーン系ポリマー及びアクリレート系ポリマーからなる群から選択される1種以上である、表示素子用封止剤。
[4] [1]~[3]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(C)が、分子内にポリメチルシロキサン構造またはポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系ポリマーである、表示素子用封止剤。
[5] [1]~[4]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(C)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位を含むポリマーである、表示素子用封止剤。
[6] [1]~[5]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(C)の含有量は、上記(A)成分100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下である、表示素子用封止剤。
[7] [1]~[6]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
上記成分(B)が、光によって重合を開始させるカチオン種を発生する光カチオン重合開始剤である、表示素子用封止剤。
[8] [1]~[7]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
E型粘度計で測定された25℃、20rpmにおける粘度が5mPa・s以上80mPa・s以下である、表示素子用封止剤。
[9] [1]~[8]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤であって、
有機EL表示素子の封止用である、表示素子用封止剤。
[10] [1]~[9]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤を硬化してなる硬化物。
[11] 基板と、
上記基板上に配置された表示素子と、
上記表示素子を被覆する封止層と、
を含み、
上記封止層が、[1]~[9]のいずれか一つに記載の表示素子用封止剤の硬化物により構成されている、表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い水準の保存安定性を有する、表示素子用封止剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本実施形態において、各成分について、それぞれ、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、数値範囲を表す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。また、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタアクリル酸を意味する。
【0017】
(表示素子用封止剤)
本実施形態において、表示素子用封止剤(以下、適宜単に「封止剤」とも呼ぶ。)は、以下の成分(A)~(C)を含有する。
(A)カチオン重合性化合物
(B)カチオン重合開始剤
(C)レベリング剤
そして、以下の測定手順で測定される、表示素子用封止剤の滴径比Rが0.5以上1.1以下である。
[測定手順]
(i)表示素子用封止剤を23℃の状態とした後、表示素子用封止剤の一部を採取し、SiN基板に対して表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD1とする。
(ii)上記(i)の工程で23℃の状態とした表示素子用封止剤9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋を締める。表示素子用封止剤入り容器を5℃で7日間冷蔵する。
(iii)上記(ii)の工程で冷蔵した表示素子用封止剤を採取し、SiN基板に対して表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。測定結果をD2とする。
(iv)上記D1およびD2から、滴径比R=D2/D1の値を算出する。
【0018】
上記封止剤は、上記の構成を備えることにより、高い水準の保存安定性を実現する。
以下、上記封止剤の詳細について説明する。
(滴径比R)
滴径比Rは、前述の(i)~(iv)のステップからなる[測定手順]により測定される。以下、(i)~(iv)の各ステップについて詳述する。
【0019】
・ステップ(i)
まず、準備した表示素子用封止剤を23℃の状態とした後、表示素子用封止剤の一部を採取し、インクジェット装置にセットする。たとえば封止剤をインクジェットカートリッジに導入し、このカートリッジをインクジェット装置にセットする。インクジェットカートリッジを加温し、封止剤の温度がたとえば35℃となるようにする。インクジェットカートリッジに導入した状態での保温時間には制限がないが、1分~24時間とすることが好ましい。
【0020】
次いで、表示素子用封止剤を導入したインクジェットカートリッジをインクジェット装置にセットし、SiN基板に対して表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
【0021】
インクジェットカートリッジとしては、たとえばDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)を用い、インクジェット装置としては、たとえばDMP-2831(富士フイルムDimatix社製)を用いることができる。
インクジェット塗布による着弾後、180秒経過後に、表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。直径は、たとえば、最大径と最小径の2値の平均値をとることができる。測定結果をD1とする。
【0022】
・ステップ(ii)
準備した上記表示素子用封止剤のうち、9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋を締める。この表示素子用封止剤入り容器を5℃で7日間冷蔵する。容器蓋は、シールテープを介在させて機密に締める。容器内部の上方空間は大気のままとする。
【0023】
・ステップ(iii)
冷蔵した上記表示素子用封止剤を、室温でインクジェットカートリッジに導入して23℃に保温する。保温前の表示素子用封止剤は、いったん23℃に戻すことが好ましい。インクジェットカートリッジに導入した状態での保温時間に制限はないが、1分~24時間分とすることが好ましい。
次いで、表示素子用封止剤を導入したインクジェットカートリッジをインクジェット装置にセットし、SiN基板に対してこの表示素子用封止剤を以下の条件にてインクジェット塗布する。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定する。直径は、たとえば、最大径と最小径の2値の平均値をとることができる。測定結果をD2とする。
【0024】
・ステップ(iv)
(iv)上記D1および上記D2から、滴径比R=D2/D1の値を算出する。
【0025】
滴径比Rの下限値は、0.5以上であり、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上である。また、滴径比Rの上限値は、1.1以下であり、好ましくは1.0以下である。
滴径比Rをこのような範囲とすることにより、レベリング剤を含有する封止剤において、高い水準の保存安定性を実現することができる。なお、レベリング剤を含有する従来の表示素子用封止剤においては、滴径比Rは2.6以上の値であることが一般的である。
【0026】
(製造上の留意点)
上記した範囲の滴径比Rを示す封止剤を得るためには、製造プロセスにおいて、たとえば以下の点に留意することが必要である。封止剤を得るには、(A)カチオン重合性化合物、(B)カチオン重合開始剤、(C)レベリング剤および適宜溶剤や他の添加剤を混合する工程を経て作製する。この混合に先立ち、(A)カチオン重合性化合物および溶剤について、超音波を印加して加振するとともに、窒素バブリングを行い、溶存酸素を除去する操作を行うことが好ましい。また、混合を行った後にも、窒素バブリングを行い、溶存酸素を除去する操作を行うことが好ましい。上記した範囲の滴径比Rを実現するプロセスとして、たとえば、こうした操作を行うことが有効である。
【0027】
次に、封止剤の構成成分について具体例を挙げて説明する。
(成分(A))
成分(A)はカチオン重合性化合物である。カチオン重合性化合物は、光または熱によりカチオン重合を起こし得る化合物であり、分子内に、エポキシ基、オキセタン環含有基、ビニルエーテル基およびエピスルフィド基から選択される1種又は2種以上の基を有する化合物である。
【0028】
封止剤中の成分(A)の含有量は、硬化物の強度を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上である。
【0029】
また、封止材料の耐候性を向上する観点から、封止剤中の成分(A)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは99.9質量%以下であり、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99質量%以下である。
【0030】
成分(A)は、封止材料の耐候性を向上する観点から、エポキシ化合物およびオキセタン化合物の一方または両方を含むことが好ましい。エポキシ化合物およびオキセタン化合物の含有率の合計は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、成分(A)が、エポキシ化合物およびオキセタン化合物の一方または両方を含むものとしてもよい。
【0031】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物は、一分子中に1または2以上のエポキシ基を有する化合物であり、具体的には、モノエポキシ化合物、2官能エポキシ化合物、3官能以上のエポキシ化合物が挙げられる。
エポキシ化合物の例としては、たとえば、以下のEP1~EP3を挙げることができる。
【0032】
・EP1
EP1は、脂環式エポキシ化合物であって、エポキシシクロアルキル基またはエポキシシクロアルケニル基を分子内に少なくとも1個有する化合物、または、少なくとも1個のエポキシ基が脂環に単結合で結合した基を分子内に少なくとも1個有する化合物である。
【0033】
・EP2
EP2は、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、ビスフェノールS型エポキシ、2,2'-ジアリルビスフェノールA型エポキシ、水添ビスフェノール型エポキシ、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ等のビスフェノール型エポキシ化合物である。
【0034】
・EP3
EP3は上記EP1、EP2以外のエポキシ化合物であって、レゾルシノール型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、スルフィド型エポキシ、ジフェニルエーテル型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシ、ナフタレン型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、オルトクレゾールノボラック型エポキシ、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ、ビフェニルノボラック型エポキシ、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ、グリシジルアミン型エポキシ、アルキルポリオール型エポキシ、ゴム変性型エポキシ、グリシジルエステル化合物等が挙げられる。
封止材料の耐候性を向上する観点から、エポキシ化合物は、好ましくは脂環式エポキシ化合物(上記EP1)を含む。
【0035】
脂環式エポキシ化合物は、分子中に脂環式炭化水素構造およびエポキシ基をそれぞれ1つ以上有する化合物であればよい。脂環式エポキシ化合物は、分子内に1つのエポキシ基を有しても2以上のエポキシ基を有してもよいが、封止剤の硬化性を高める観点から、好ましくは2以上のエポキシ基を有する。
【0036】
脂環式エポキシ化合物として、たとえば、エポキシシクロヘキサン構造等のシクロアルケンオキサイド構造を含む化合物、環状脂肪族炭化水素に直接または炭化水素基等を介してエポキシ基が結合した化合物が挙げられる。封止剤の硬化性を高める観点から、脂環式エポキシ化合物は、好ましくはシクロアルケンオキサイド構造を有する化合物である。
【0037】
ここで、シクロアルケンオキサイド構造とは、シクロアルケンを過酸化物などの酸化剤でエポキシ化して得られる構造であり、脂肪族環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基である。シクロアルケンオキサイドは、たとえばシクロヘキセンオキサイド、シクロペンテンオキサイドであり、好ましくはシクロヘキセンオキサイドである。
【0038】
シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物の1分子中のシクロアルケンオキサイド構造の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。硬化物の透明性や耐熱性、耐光性等を高めるとの観点から、1分子中のシクロアルケンオキサイド構造の数は、好ましくは2つ以上である。
シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物として、たとえば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】
【0040】
一般式(1)中、Xは、単結合または2価の連結基である。連結基は、たとえば、2価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル基(エーテル結合)、チオエーテル基(チオエーテル結合)、エステル基(エステル結合)、カーボネート基(カーボネート結合)およびアミド基(アミド結合)ならびに、これらが複数連結した基やこれらを含有する基から選択することができる。
2価の炭化水素基として、たとえば、炭素数が1~18のアルキレン基や2価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。
【0041】
このうち、炭素数が1~18のアルキレン基の具体例として、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基が挙げられる。
【0042】
また、2価の脂環式炭化水素基の具体例として、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の2価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)が挙げられる。
Xは、硬化性を向上する観点から、好ましくは単結合または酸素原子を有する連結基であり、より好ましくは単結合である。
【0043】
同様の観点から、酸素原子を有する連結基は、好ましくは、-CO-(カルボニル基)、-O-CO-O-(カーボネート基)、-COO-(エステル基)、-O-(エーテル基)、-CONH-(アミド基)、これらの基が複数連結した基、またはこれらの基の1以上と2価の炭化水素基の1以上とが連結した基である。
以下、一般式(1)で表される脂環式エポキシ化合物の具体例を示す。
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
上記式中、lは、1~10の整数を表し、mは、1~30の整数を表す。Rは、炭素数1~8のアルキレン基を表し、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3のアルキレン基である。また、n1およびn2は、それぞれ独立して1~30の整数を表す。
【0047】
シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ化合物の市販品の具体例として、セロキサイド(CEL)2021P、セロキサイド2000、セロキサイド2081、セロキサイド3000、セロキサイド8000、セロキサイド8010(以上、ダイセル社製)が挙げられる。
【0048】
また、他のエポキシ化合物の好ましい例として、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(たとえば、エポゴーセーHD(D)、四日市合成社製)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(たとえば、SR-NPG、阪本薬品工業社製)等の2官能脂肪族エポキシ化合物をはじめとする脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
封止材料の硬化性を向上する観点から、エポキシ樹脂は、好ましくは脂環式エポキシ化合物および脂肪族エポキシ化合物を含む。
【0049】
封止剤中のエポキシ化合物の含有量は、硬化性を向上する観点から、封止剤の全組成に対して好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
【0050】
また、硬化物の柔軟性や密着性を向上する観点から、封止剤中のエポキシ化合物の含有量は、封止剤の全組成に対して好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらにより好ましくは50質量%以下である。
【0051】
(オキセタン化合物)
オキセタン化合物は、一分子中に1または2以上のオキセタニル基を有する化合物であり、具体的には、モノオキセタン化合物、2官能オキセタン化合物、3官能以上のオキセタン化合物が挙げられる。
【0052】
封止材料の硬化性を向上する観点から、オキセタン化合物は、下記一般式(2)および一般式(3)からなる群から選択される1または2以上の化合物とすることができる。
【0053】
【化4】
【0054】
【化5】
【0055】
一般式(2)および(3)中、Yは、酸素原子、硫黄原子または単結合を表す。封止材料の耐候性を向上する観点から、Yは好ましくは酸素原子である。
【0056】
一般式(2)におけるR1aおよび一般式(3)におけるR1bは、それぞれ、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフルオロアルキル基、アリル基、炭素数6~18のアリール基、フリル基またはエチニル基を表す。
【0057】
また、一般式(2)におけるsおよび一般式(3)におけるtは、それぞれ1以上5以下の整数を表す。R1aまたはR1bが一分子中に複数含まれる場合、これらは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、隣り合うR1aどうし、もしくは隣り合うR1bどうしが環構造を形成していてもよい。
【0058】
また、一般式(2)中、R2aは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数7~18のアラルキル基、炭素数2~6のアルキルカルボニル基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、炭素数2~6のN-アルキルカルバモイル基または(メタ)アクリロイル基を表す。
【0059】
一方、一般式(3)中、R2bは、p価の連結基を表す。一般式(3)中、pは2、3または4を表し、好ましくは2である。R2bは、具体的には、酸素、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、直鎖状もしくは分岐鎖状のポリ(アルキレンオキシ)基、アリーレン基、シロキサン結合、またはこれらの組み合わせを表す。
【0060】
(2官能オキセタン化合物)
封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、オキセタン化合物は、以下の一般式(5)または(6)で表される2官能オキセタン化合物とすることも好ましい。
【0061】
【化6】
【0062】
一般式(5)および(6)のR5は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、フリル基またはチエニル基である。R6は、それぞれ2価の有機残基である。
【0063】
炭素原子数1~6のアルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が含まれる。アリール基の例には、フェニル、ナフチル、トリル、キシリル基が含まれる。アラルキル基の例には、ベンジル、フェネチル基が含まれる。
2価の有機残基の例には、アルキレン基、ポリオキシアルキレン基、フェニレン基、キシリレン基、下記式で示される構造が含まれる。
【0064】
【化7】
【0065】
式中のR3は、酸素原子、硫黄原子、-CH2-、-NH-、-SO-、-SO2-、-C(CF32-または-C(CH32-である。
4は、炭素原子数1~6のアルキレン基またはアリーレン基である。アルキレン基の例には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基などの炭素原子数1~15のアルキレン基が含まれる。ポリオキシアルキレン基は、炭素原子数が4~30、好ましくは4~8のポリオキシアルキレン基であることが好ましく、その例には、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基が含まれる。
【0066】
封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、オキセタン化合物は、好ましくは一般式(6)に示したオキセタン化合物である。一般式(6)で表される化合物の例には、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン等が含まれ、その市販品の例には、アロンオキセタンOXT-221(東亞合成社製)等が含まれる。
【0067】
(単官能オキセタン化合物)
封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、オキセタン化合物は、以下の一般式(4)で表される化合物であることも好ましい。
【0068】
【化8】
【0069】
一般式(4)中、Yは、酸素原子または硫黄原子である。封止材料の耐候性を向上する観点から、Yは好ましくは酸素原子である。R1cは、水素原子、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフルオロアルキル基、炭素数6~18のアリール基、フリル基またはチエニル基を表す。R1cは、封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、好ましくは炭素数1~6のアルキル基である。
【0070】
2cは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数7~18のアラルキル基、炭素数2~6のアルキルカルボニル基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、炭素数2~6のN-アルキルカルバモイル基または(メタ)アクリロイル基である。R2cは、封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。
【0071】
一般式(4)で表される化合物の具体例として、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-(メタ)アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン、(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4-フルオロ-〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4-メトキシ-〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-エチルヘキシル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、3-メタクリロキシメチル-3-エチロキセタン、3-エチル-3-〔(2-エチルヘキシルオキシ)メチル〕オキセタンが挙げられる。封止材料の耐候性を向上する観点から、一般式(4)で表される化合物は、好ましくは3-エチル-3-〔(2-エチルヘキシルオキシ)メチル〕オキセタンである。
【0072】
封止剤中のオキセタン化合物の含有量は、封止剤の硬化物の硬化性を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上である。また、封止剤の粘度を好ましいものとする観点から、封止剤中のオキセタン化合物の含有量は、封止剤の全組成に対して好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0073】
(成分(B))
成分(B)は、カチオン重合開始剤である。カチオン重合開始剤の具体例として、光ラジカル開始剤および熱重合開始剤からなる群から選択される1種以上が挙げられる。低温で安定的に硬化物を形成する観点から、成分(B)は、紫外線等の光が照射されることでラジカルまたはイオンを生成する光カチオン重合開始剤(UVラジカル開始剤、UVカチオン開始剤)を含むことが好ましい。
光カチオン重合開始剤は、光照射等の光によってカチオン種を発生し、成分(A)の重合を開始させることが可能な化合物であればよい。
【0074】
光カチオン重合開始剤の具体例として、下記一般式(7)で表されるオニウムイオンの塩(オニウム塩)が挙げられる。かかるオニウム塩は、光反応によってルイス酸を放出する。
[R12 a13 b14 c15 dW]v+[MXv+uu- (7)
【0075】
一般式(7)中、Wは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、またはN≡Nを示す。R12、R13、R14およびR15は、それぞれ独立に有機基を示し、a、b、cおよびdは、それぞれ独立に0~3の整数を示す。なお、「a+b+c+d」はWの価数に等しい。
【0076】
また、一般式(7)中、Mは、ハロゲン化錯体[MXv+u]の中心原子を構成する金属、またはメタロイドを示す。Mの具体例として、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coが挙げられる。一般式(7)中、XはF、Cl、Br等のハロゲン原子を示し、uはハロゲン化錯体イオンの正味の電荷を示し、vはMの原子価を示す。
【0077】
一般式(7)におけるオニウムイオンの具体例として、ジフェニルヨードニウム、ビス(4-メトキシフェニル)ヨードニウム、4-メチルフェニル-4'-イソプロピルフェニルヨードニウム、ビス(4-メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリルクミルヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル-4-チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス〔4-(ジフェニルスルフォニオ)-フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(ジ(4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)-フェニル〕スルフィド、η5-2,4-(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6-η-(メチルエチル)ベンゼン〕-鉄(1+)が挙げられる。
【0078】
また、一般式(7)における陰イオンの具体例として、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロロアンチモネートが挙げられる。
【0079】
生体に対する安全性に優れるという点で、一般式(7)における陰イオンは、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートおよびヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択されるものが好ましい。
【0080】
一般式(7)で表される光カチオン重合開始剤の市販品の例として、Irgacure250、Irgacure270、Irgacure290(BASF社製)、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-400PG(サンアプロ社製)、SP-150、SP-170、SP-171、SP-056、SP-066、SP-130、SP-140、SP-601、SP-606、SP-701(ADEKA社製)、PI-2074(商品名、ローディア社製)などが挙げられる。中でも、硬化性を向上する観点から、一般式(7)で表される光カチオン開始剤は、好ましくはIrgacure270、Irgacure290、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-400PG、SP-150、SP-170、SP-171、SP-056、SP-066、SP-601、SP-606、SP-701およびPI-2074からなる群から選択される1種または2種以上である。
【0081】
封止剤中の成分(B)の含有量は、硬化性を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。
【0082】
また、封止剤の着色を抑制する観点から、封止剤中の成分(B)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、さらにより好ましくは2質量%以下である。
【0083】
(成分(C))
成分(C)はレベリング剤である。レベリング剤は、インクジェットにより塗布された封止剤を被塗布対象の表面に濡れ広がりやすくするための添加剤である。レベリング剤は、封止剤の流動性および消泡性を良好にするとともに、形成される封止剤塗膜面の平滑性を改善する役割を果たす。レベリング剤としては、フッ素系、アクリル系、シロキサン系のポリマーを挙げることができる。このうち、表面改質作用が小さいという点から、成分(C)は、好ましくはシリコーン系ポリマーおよびアクリレート系(アクリル系)ポリマーがからなる群から選択される1種以上である。
【0084】
シリコーン系ポリマーは、分子内にポリメチルシロキサン構造またはポリジメチルシロキサン構造を有するポリマーであることが好ましい。ジメチルシロキサンの繰り返し数は、たとえば、2以上150以下であることがより好ましい。シリコーン系ポリマーとしては、たとえば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。
【0085】
アクリル系ポリマーは、具体的には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位を含むポリマー、すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むモノマーの重合体である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル鎖の炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。アクリル酸アルキルエステルのアルキル鎖の炭素数の上限は、例えば12とする。アクリル酸アルキルエステルの例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートの共重合体等挙げられる。アクリレート系ポリマーは、フッ素原子を含有しないことが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、一種類であっても、二種類以上であってもよい。
【0086】
レベリング剤としては、たとえば、
ビッグケミー・ジャパン社製のBYK-310、BYK-310N、BYK-323、BYK-340、BYK-350;
共栄社化学社製のポリフローKL-100、ポリフローKL-700、ポリフローKL-850、ポリフローNo.90;
DIC社製のF-552、F-553、F-554、F-556、F-557、F-559;
大阪有機化学社製のビスコート13Fなどが挙げられる。
【0087】
レベリング剤を構成するポリマーの重量平均分子量Mwは、たとえば、1,000~20,000程度、好ましくは2,000~10,000とする。分子量を上記上限値以下とすることにより、封止剤硬化体からレベリング剤がブリードすることを抑制できる。分子量を上記下限値以上とすることにより、封止剤の流動性および消泡性を良好にするとともに、形成される封止剤塗膜面の平滑性を充分に改善することができる。
ここで、レベリング剤を構成するポリマーの重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により、ポリスチレン標準物質に基づき測定される。
【0088】
(C)レベリング剤の含有量は、(A)成分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、(C)レベリング剤の含有量は、(A)成分100質量%に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。含有量を上記下限値以下とすることにより、封止剤の流動性および消泡性を良好にするとともに、形成される封止剤塗膜面の平滑性を充分に改善することができる。含有量を上記上限値以上とすることにより、封止剤の硬化物からレベリング剤がブリードすることを抑制できる。
【0089】
本実施形態において、封止剤は、成分(A)~(C)以外の成分を含んでもよい。以下、成分(A)~(C)以外の成分の例を挙げる。
(成分(D))
成分(D)は、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、モノフェノール化合物、ビスフェノール化合物、トリスフェノール化合物、ホスファイト化合物およびオキサホスファフェナントレンオキサイド化合物からなる群から選択される1種または2種以上の化合物である。封止剤が成分(D)をさらに含むことにより、封止材料の耐候性をよりいっそう優れたものとすることができる。
【0090】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例として、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。また、ベンゾトリアゾール化合物の市販品の具体例として、TinuvinP、Tinuvin234、Tinuvin234FF、Tinuvin326、Tinuvin326FL、Tinuvin329、Tinuvin329FL、Tinuvin360、Chimassorb81、Chimassorb81FL(BASF社製)、KEMISORB71、KEMISORB73、KEMISORB74、KEMISORB79、KEMISORB279(ケミプロ化成社製)、JF-77、JF-79、JF-80、JF-83、JF-832(城北化学工業社製)が挙げられる。
【0091】
トリアジン化合物の具体例として、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンが挙げられる。また、トリアジン化合物の市販品の具体例として、Tinuvin 460、Tinuvin1577ED、Tinuvin1600(BASF社製)、KEMISORB102(ケミプロ化成社製)が挙げられる。
【0092】
モノフェノール化合物の具体例として、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-C7-C9側鎖アルキルエステル、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールが挙げられる。また、モノフェノール化合物の市販品の具体例として、Irganox 1135(BASF社製)、KEMISORB112、KEMISORB113、KEMISORB114、KEMINOX76(ケミプロ化成社製)が挙げられる。
【0093】
ビスフェノール化合物の具体例として、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)が挙げられる。また、ビスフェノール化合物の市販品の具体例として、KEMINOX9425(ケミプロ化成社製)が挙げられる。
トリスフェノール化合物の具体例として、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタンが挙げられる。
【0094】
封止材料の耐候性をより好ましいものとする観点から、成分(D)は、好ましくはベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物およびモノフェノール化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含み、より好ましくはこれらの1種または2種を含む。
【0095】
封止剤中の成分(D)の含有量は、封止材料の耐候性を向上する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。
【0096】
また、封止材料の硬化性向上の観点から、封止剤中の成分(D)の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0097】
(その他の成分)
本実施形態において、封止剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、粘着付与剤、充填剤、硬化促進剤、可塑剤、界面活性剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、シランカップリング剤および紫外線吸収剤等が含まれる。
【0098】
封止剤が光増感剤を含むことにより、封止剤の硬化性をさらに向上することができる。増感剤として、たとえば光カチオン増感剤が挙げられる。
光増感剤は、UV-LED等の波長選択的な光源に対応する観点から、好ましくは波長350nm~450nmの光によって励起状態となる化合物である。このような増感剤の具体例として、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン等の多核芳香族類;フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル等のキサンテン類;キサントン、チオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン等のキサントン類;チアカルボシアニン、オキサカルボシアニン等のシアニン類;メロシアニン、カルボメロシアニン等のメロシアニン類;ローダシアニン類;オキソノール類;チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー等のチアジン類;アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン等のアクリジン類;アクリドン、10-ブチル-2-クロロアクリドン等のアクリドン類;アントラキノン類;、スクアリウム類;スチリル類;ベーススチリル類;7-ジエチルアミノ4-メチルクマリン等のクマリン類が挙げられる。これらの中でも、光増感剤は、封止材料の硬化性向上の観点から、好ましくは多環芳香族類、アクリドン類、クマリン類またはベーススチリル類であり、より好ましくはアントラセン化合物である。
【0099】
封止剤中の光増感剤の含有量は、封止剤の硬化性をより好ましいものとする観点から、成分(A)100質量部に対し、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0100】
また、封止剤がカップリング剤を含むことにより、封止材料と被封止材料との密着性をさらに高めることができる。
カップリング剤として、たとえばシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリングは、封止材料と被封止材料との密着性を向上する観点から、好ましくは成分(A)中の重合性官能基と共通の官能基を有するシランカップリング剤、または、成分(A)中の重合性官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤である。たとえば、成分(A)がエポキシ化合物を含むとき、カップリング剤が、エポキシ基を有するシランカップリング剤およびエポキシ基と反応(たとえば、付加反応)する官能基を有するシランカップリング剤からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0101】
エポキシ基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。
【0102】
エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤の具体例として、1級アミノ基や2級アミノ基等のアミノ基;カルボキシル基等;メタクリロイル基;イソシアネート基等を含むシランカップリング剤が挙げられる。
【0103】
これらのシランカップリング剤の具体例として、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン又は3-(4-メチルピペラジノ)プロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリル安息香酸、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0104】
また、カップリング剤は、上述のもの以外のもの、たとえば他のシランカップリング剤を含んでもよい。他のシランカップリング剤として、たとえば、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。
なお、カップリング剤の分子量は、封止材料と被封止材料との密着性を向上する観点から、好ましくは80~800である。
【0105】
封止剤中のカップリング剤の含有量は、封止材料と被封止材料との密着性を向上する観点から、成分(A)100質量部に対し、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、また、3質量%以下であることも好ましい。
【0106】
封止剤は、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤の具体例として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-パータミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-カルボキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)が挙げられる。
【0107】
封止剤中の重合禁止剤の含有量は、耐プラズマ性を向上させる観点、および、封止剤が適用される素子のダメージを抑制する観点から、封止剤の全組成に対し、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上である。
【0108】
また、封止材料の硬化性向上の観点から、封止剤中の重合禁止剤の含有量は、封止剤の全組成に対し、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.75質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0109】
封止材料の耐候性を向上する観点、および、インクジェット法等の塗布法による硬化材料の形成に好適であるという観点から、本実施形態において、封止剤は、好ましくは溶剤を含有しないものであり、または、封止剤が溶剤を含むときの溶剤の含有量は0質量%超であり、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下である。封止剤が溶剤を含有しないものである具体的な態様として、封止剤の調製時に溶剤が意図的に配合されないものが挙げられる。
【0110】
次に、封止剤の特性を説明する。
封止剤の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、封止材料の耐熱性向上の観点から、40℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。
また、屈曲性向上の観点から、封止剤の硬化物のTgは、200℃未満であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下である。
ここで、ガラス転移温度(Tg)は以下の手順で測定される。
【0111】
封止剤の硬化物は、100μm厚のテフロン(登録商標)シートを型枠として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム間に未硬化の封止剤を挟みこみ、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化させ、得られる。
得られた硬化物をカッターで幅10mm×長さ40mmの大きさに切りだす。
【0112】
そして、動的粘弾性測定装置「DMS6100」(セイコーインスツルメンツ社製)により、大気中にて切りだした硬化物に1Hzの周波数をかけながら、室温から250℃まで5℃/分で昇温しながら、tanδを測定して、tanδのピークトップの温度を硬化物のTgとする。
【0113】
本実施形態において、Tgが特定の範囲にある封止剤は、たとえば、封止剤に含まれる成分および配合割合を適切に選択するとともに、製造条件を調整することにより得ることができる。
【0114】
封止剤の性状は限定されず、封止材料のフレキシブル性および耐プラズマ性を向上させる観点、および、インクジェット法等の塗布法による硬化材料の形成に好適であるという観点から、封止剤は好ましくは液状である。
【0115】
また、封止材料を安定的に形成する観点から、封止剤は、好ましくは塗布に用いられるものであり、より好ましくはインクジェット法による塗布に用いられるものである。
【0116】
E型粘度計を用いて25℃、20rpmにて測定される封止剤の粘度は、インクジェット吐出性向上の観点から、好ましくは5mPa・s以上であり、より好ましくは8mPa・s以上、さらに好ましくは10mPa・s以上である。
また、インクジェット吐出性向上の観点から、上記封止剤の粘度は、好ましくは80mPa・s以下であり、より好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下である。
【0117】
封止剤のチクソトロピックインデックス(TI値)は、インクジェット吐出性向上の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、また、好ましくは1.1以下であり、より好ましくは1.0以下である。
ここで、TI値は、E型粘度計を用いて25℃にて回転数5rpmおよび50rpmにおける粘度を測定し、下記式により求められる。
TI値=(回転数5rpmのときの粘度)÷(回転数50rpmのときの粘度)
【0118】
封止剤の硬化物の誘電率は、封止剤の封止特性を向上させる観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.8以下、さらに好ましくは3.6以下である。
また、封止剤の硬化物の誘電率は、たとえば1.0以上とすることができる。
【0119】
ここで、封止剤の硬化物の誘電率は、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2の条件で硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物について、周波数100kHzにて測定される誘電率である。
【0120】
次に、封止剤の製造方法を説明する。
封止剤の製造方法は限定されず、たとえば、成分(A)~(C)、および、適宜その他の成分、たとえば必要に応じて添加する各種添加剤を混合することを含む。各成分を混合する方法として、たとえば、遊星式撹拌装置、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を単独または併用して、常温下または加熱下で、常圧下、減圧下、加圧下または不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練する方法が挙げられる。
【0121】
また、得られた封止剤を用いて封止材料を形成することもできる。たとえば、封止剤を基材上に塗布し、乾燥してもよい。塗布には、インクジェット法、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布等の公知の手法を用いることができる。また、乾燥は、たとえば成分(A)が重合しない温度に加熱すること等により行うことができる。得られる封止材料の形状に制限はなく、たとえば膜状または層状とすることができる。
【0122】
なお、(製造上の留意点)の項で述べたとおり、特定の滴径比Rを示す封止剤を得るためには、製造プロセスにおいて、たとえば(A)カチオン重合性化合物および溶剤について、超音波を印加して加振するとともに、窒素バブリングを行い、溶存酸素を除去する操作を行うことが好ましい。また、混合を行った後にも、窒素バブリングを行い、溶存酸素を除去する操作を行うことが好ましい。
封止材料は、たとえば本実施形態における封止剤を硬化してなる硬化物であり、さらに具体的には封止剤の光硬化物である。
【0123】
封止剤を光硬化する方法としては、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、LEDランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等の光源を使用して光照射して硬化する方法が挙げられる。
【0124】
本実施形態において、封止剤が成分(A)~(C)を組み合わせて含むとともに、滴径比Rが特定の範囲にあるため、かかる封止剤を用いることにより、高い水準の保存安定性を実現することができる。
【0125】
また、本実施形態において得られる封止剤は、たとえば表示素子、好ましくは有機EL表示素子の封止用に好適に用いられる。本実施形態によれば、高い水準の保存安定性を実現する封止剤を得ることができるため、かかる封止剤から得られる封止膜および表示装置の信頼性を向上させることができる。表示装置の製造工程における表示素子のダメージを効果的に抑制することができ、表示装置の製造安定性を向上させることも可能となる。
【0126】
本実施形態に得られる封止剤の硬化物をたとえば表示素子、好ましくは有機EL表示素子の封止材料として用いることにより、耐候性に優れる表示装置を得ることができる。
以下、有機EL表示装置を例に、表示装置の構成例を挙げる。
【0127】
(有機EL表示装置)
本実施形態において、有機EL表示装置は、封止剤の硬化物に構成された層を有する。
図1は、本実施形態における有機EL表示装置の構成例を示す断面図である。図1に示した表示装置100は、有機EL表示装置であって、基板(基材層50)と、基材層50上に配置された有機EL素子(発光素子10)と、発光素子10を被覆する封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)と、を含む。そして、たとえば封止層22が、本実施形態における封止剤の硬化物により構成されている。
【0128】
また、図1においては、表示装置100が、発光素子10よりも観察側に位置する層として、バリア性層21(タッチパネル層21または表面保護層21であってもよい)、封止層22(オーバーコート層22またはバリア性層22であってもよい)、平坦化層23(封止層23であってもよい)、バリア性層24を有している。平坦化層23は、発光素子10を覆うように基材層50上に設けられており、バリア性層24は、平坦化層23の表面に設けられている。封止層22は、平坦化層23およびバリア性層24を覆うように基材層50上に設けられている。また、封止層22上にバリア性層21が設けられている。
【0129】
各層の具体的な構成は限定されず、一般的に公知の情報に基づいて、適切な構成をそれぞれ採用することができる。また、このような表示装置100は、一般的に公知の情報に基づいて、製造することが可能である。
有機EL素子を、本実施形態の封止剤を硬化させて得られる樹脂層で保護することにより、有機EL素子内への水分の浸入を充分に防止して有機EL素子の性能および耐久性を高く維持することができる。
有機EL表示装置は、トップエミッション構造であっても、ボトムエミッション構造であってもよい。
有機EL素子は、基板上に配置され、本実施形態における封止剤を硬化させて得られる樹脂層により保護される前に、上記有機EL素子を含む領域を覆うように予め無機材料膜で被覆されていることが好ましい。
【0130】
基材層50の材料は限定されず、たとえば、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等種々のものを用いることができる。基板上に複数のTFT(薄膜トランジスタ)および平坦化層を備えたTFT基板を用いることもできる。
【0131】
バリア性層24すなわち無機材料膜を構成する無機材料としては、たとえば、窒化珪素(SiNx)、酸化珪素(SiOx)、酸化アルミニウム(Al23)等が挙げられる。無機材料膜は、1層でもよく、複数種の層の積層体でもよい。
【0132】
無機材料膜によって発光素子10を被覆する方法は、たとえば上記無機材料膜が窒化珪素や酸化珪素からなる場合には、スパッタリング法や電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法等が挙げられる。
【0133】
このうち、スパッタリング法は、たとえば、キャリアガスとしてアルゴンや窒素等の単独または混合ガスを用い、室温、電力50~1000W、圧力0.001~0.1Torrの条件で行うことができる。
【0134】
また、ECRプラズマCVD法は、たとえば、SiH4とO2との混合ガス又はSiH4とN2との混合ガスを用い、温度30℃~100℃、圧力10mTorr~1Torr、周波数2.45GHz、電力10~1000Wの条件で行うことができる。
【0135】
発光素子10を、本実施形態の封止剤を硬化させて得られる樹脂層、たとえば封止層22により保護する方法としては、たとえば、発光素子10上に封止剤を塗工し硬化する方法等が挙げられる。塗工する方法としては、インクジェット法を用いることが好ましい。
樹脂層の厚さは限定されないが、封止性能とフレキシブル性能を向上させる観点から、たとえば0.1~50μmであり、好ましくは1~20μmである。
【0136】
また、表示装置100においては、発光素子10を大気中の水分や酸素から保護する効果を高くするため、上述の樹脂層上にさらに無機材料膜(バリア性層24)を積層することが好ましい。樹脂層上に積層される無機材料膜を構成する無機材料や形成方法としては、上述した発光素子10を被覆する無機材料膜と同様である。
【0137】
上記樹脂層上に形成される無機材料膜の厚さは限定されないが、封止性能を向上させる観点から、たとえば0.01~10μmであり、好ましくは0.1~5μmである。
【0138】
表示装置100において、発光素子10上に、バリア性層24、封止層22およびバリア性層24がこの順に設けられている。ここで、封止層22が、高い水準の保存を有する本実施形態における封止剤を硬化させて得られる樹脂層により構成されているため、信頼性に優れた表示装置100を得ることができる。具体的には、封止層22の上部にバリア性層24を形成する際にプラズマ処理工程を行う際にも、バリア性層24へのダメージを抑制することができる。また、封止層22を構成する樹脂層自体がプラズマ処理で劣化しにくいため、発光素子10へのダメージを抑制することができる。
【実施例
【0139】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
はじめに、以下の例において用いた材料を示す。
((A)カチオン重合性化合物)
重合性化合物1:脂環式エポキシ化合物(4,4'-ビス(1,2-エポキシシクロヘキサン))、CEL8010、ダイセル社製(下記式の化合物(推定))
【0140】
【化9】
【0141】
重合性化合物2:オキセタン化合物、(3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、OXT-221、東亞合成社製
重合性化合物3:エポキシ化合物(グリシジルエーテル化合物)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エポゴーセーHD(D)、四日市合成社製
【0142】
((B)カチオン重合開始剤)
重合開始剤1:光カチオン開始剤、CPI-210S、サンアプロ社製
【0143】
((C)レベリング剤)
レベリング剤1:ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、BYK-310N(ビックケミー社製)
レベリング剤2:アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、BYK-323(ビックケミー社製)
レベリング剤3:反応性フッ素レベリング剤、ビスコート13F(大阪有機化学社製)
レベリング剤4:アクリル系共重合物、BYK-350(ビックケミー社製)
レベリング剤5:アクリル系共重合物、ポリフローNo.90(共栄社製)
レベリング剤6:シリコーン含有ポリマー、ポリフローKL-700(共栄社製)
レベリング剤7:含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、F552(DIC社製)
(増感剤)
増感剤1:光カチオン増感剤(アントラセン化合物)、UVS-1331(川崎化成工業社製)
【0144】
(実施例1~10、比較例1および2)
表1に示した配合組成となるように各成分を配合し、液状で溶剤を含まない組成物である封止剤を得た。具体的には、表1に記載の成分のうち、重合開始剤以外の成分を19mLガラス容器に入れて混合した。ガラス容器に超音波を10分間印加した後、0.1mL/分で窒素バブリングを行った。得られた混合物に、表1に示される量の重合開始剤を加えてさらに混合した。その後、粉状物が見えなくなるまで攪拌し、封止剤を得た。
【0145】
各例で得られた封止剤またはその硬化物の物性を以下の方法で測定した。測定結果を表1にあわせて示す。
【0146】
(滴径比R)
滴径比Rは、以下(i)~(iv)の各ステップにより測定した。各例で得られた封止剤を製造して3時間以内に測定を開始した。
・ステップ(i)
各例で得られた封止剤を23℃の状態とした後、当該表示素子用封止剤の一部を採取し、インクジェットカートリッジ(DMC-11610、富士フイルムDimatix社製)に導入した。導入後、カートリッジの加熱により封止剤の温度を35℃とした。この温度で10分間保温した。
次いで、封止剤を導入したインクジェットカートリッジをインクジェット装置(DMP-2831、富士フイルムDimatix社製)にセットし、SiN基板に対して以下の条件にて封止剤をインクジェット塗布した。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
インクジェット塗布による着弾後、180秒経過後に、封止剤の着弾滴の直径を測定した。直径の最大径と最小径の2値の平均値をとり、測定結果をD1とした。
【0147】
・ステップ(ii)
前記(i)の工程で23℃の状態とした前記表示素子用封止剤9~11gを、容積19mLのガラス製容器に導入した後、容器蓋をシールテープを介在させて機密に締め、5℃で7日間冷蔵した。容器内部の上方空間は大気のままとした。
【0148】
・ステップ(iii)
ステップ(ii)で冷蔵した封止剤を、いったん23℃に戻し、インクジェットカートリッジに導入して35℃で10分間保温した。
次いで、封止剤を導入したインクジェットカートリッジをインクジェット装置にセットし、SiN基板に対して以下の条件にて封止剤をインクジェット塗布した。
(a)吐出量:7ピコリットル
(b)SiN基板の温度および雰囲気温度:23℃
着弾後、180秒経過後に、表示素子用封止剤の着弾滴の直径を測定した。直径の最大径と最小径の2値の平均値をとり、測定結果をD2とした。
・ステップ(iv)
(iv)上記D1および上記D2から、滴径比R=D2/D1の値を算出した。
【0149】
(粘度測定)
各例で得られた硬化性組成物の粘度を、E型粘度計(LV DV-II+ Pro、BROOKFIELD社製)を用いて25℃、20rpmにて測定した。
【0150】
(チクソ性)
チクソ性(TI値)は、粘度測定と同じ測定器を用い、25℃で回転数5rpmおよび50rpmにおける粘度を測定し、下記式により求めた。
TI値=(回転数5rpmのときの粘度)÷(回転数50rpmのときの粘度)
【0151】
(評価方法)
(インクジェット塗布特性)
滴径比Rの測定方法で示したステップ(i)およびステップ(iii)におけるインクジェット塗布特性として、インクジェット吐出性を評価した。インクジェット吐出装置としてDMP-2831、富士フイルムDimatix社製を用い、ヘッド温度35℃、印加電圧35Vでインクジェット塗布を行った。評価基準を以下に示す。
OK:インクジェットヘッドを35℃に加熱して、吐出した際にインクジェット装置から安定して塗布することができた。
NG:インクジェットヘッドを35℃に加熱して吐出した際にインクジェットの吐出時にミストが発生した、または不吐出となった。
【0152】
(端部保持性)
(評価用試料の製造)
端部保持性の評価用試料については、以下の手順で評価用試料として用いる積層体を形成した。すなわち、各例で得られた封止剤を、インクジェットカートリッジDMC-11610(富士フイルムDimatix社製)に導入した。そのインクジェットカートリッジをインクジェット装置DMP-2831(富士フイルムDimatix社製)にセットし、吐出状態の調整を行った後、無アルカリガラス上に硬化後の厚みが10μmとなるように、幅20mm×長さ20mmのサイズで塗布した。得られた塗膜を3分間、窒素パージしながら室温(25℃)で放置した後、波長395nmのUV-LEDで照度1000mW/cm2、積算光量1500mJ/cm2で硬化させた。
【0153】
(試料の観察)
触針式プロファイラAlpha-Step D-600(アルバック社製)で得られた塗膜の塗布幅を縦横各3点測定し平均値を求め、以下の基準で評価した。
NG:塗布幅が20.50mm以上
OK:塗布幅が20.50mm未満
【0154】
【表1】
【0155】
*表1中の粘度の単位は、mPa・sec(ミリパスカル秒)である。
*表1中のDrop径の単位はμm(ミクロン)である。
【0156】
表1より、各実施例で得られた封止剤は、レベリング剤を含有し、滴径比Rが特定の範囲にあるため、高い水準の保存安定性を有するものであるとともに、高い端部保持性であった。したがって、各実施例における封止剤を有機EL表示素子の封止に用いることにより、信頼性に優れる有機EL表示装置を得ることができる。
【0157】
この出願は、2021年5月11日に出願された日本出願特願2021-080497号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0158】
10 発光素子
21 バリア性層、タッチパネル層または表面保護層
22 封止層、オーバーコート層、またはバリア性層
23 平坦化層または封止層
24 バリア性層
100 表示装置
図1