(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】車両のサスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 21/055 20060101AFI20250417BHJP
B60G 17/016 20060101ALI20250417BHJP
B60G 17/015 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
B60G21/055
B60G17/016
B60G17/015 Z
(21)【出願番号】P 2022056080
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】磯野 宏
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-302731(JP,A)
【文献】特開2006-076377(JP,A)
【文献】特開2005-271827(JP,A)
【文献】国際公開第97/046417(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 21/055
B60G 17/016
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に軸支された棒状の捩じりばねと、
前記車両の前後方向に延出すると共に前記捩じりばねの付勢力を利用して前記車両の車輪を揺動支持するアームと、
前記車両の側に固定されたモータと、
前記モータの回転を減速して前記捩じりばねあるいは前記アームの揺動軸を回転駆動する減速部と、
前記減速部を挟んで前記ねじりばねあるいは前記揺動軸と反対側に設けられた複数の環状の摩擦板を有する励磁式の電動ブレーキ機構と、を備え、
前記減速部が少なくとも一つのプラネタリギアを備えて構成され、前記減速部の出力軸
と、前記捩じりばねあるいは前記揺動軸と
、前記電動ブレーキ機構の回転軸心とが同軸心状に設けられている車両のサスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車輪を支持するべく車両の前後方向に延出したアームがサブフレームに揺動支持されている車両のサスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車両のサスペンションとしては例えば特許文献1に示すものがある(〔0008〕,〔0011〕,〔0026〕~〔0031〕および
図1参照)。
【0003】
この技術は、前方の車輪間に設けた前輪側スタビライザ装置および後方の車輪間に設けた後輪側スタビライザ装置において、スタビライザバーを回転駆動し、車両の姿勢を制御するものである。
【0004】
具体的には、前後夫々のスタビライザバーの中間部にハウジングを設け、スタビライザバーと一体回転する回転部材をハウジングの中に配置する。この回転部材を流体の給排により回転してスタビライザバーの姿勢を制御する。前後のハウジングは複数の切換え弁を有する複数の流体流路によって接続されている。この切換え弁の設定により、例えば、前側のスタビライザバーの回転によって生じる流体の流れにより、後側のスタビライザバーを前側と同方向に回転させることや反対方向に回転させることが可能となる。
【0005】
この従来技術によれば、切換え弁の操作によって前後の車輪の昇降方向を合わせることや異ならせることが可能となる。昇降方向を合わせる場合には、車両が直進状態にあるときのピッチ姿勢が維持される。また、昇降方向を反対にすることで車両の制動時や加速時のピッチ姿勢の維持が可能となる。
【0006】
更に、車両が悪路走行状態にあるときには、切換え弁の操作によって前後のハウジングの流体連結が解除される。これにより、前後のスタビライザバーは自由状態となって通常のスタビライザバーとして機能するから、ローリング運動などが適切に抑制される。
【0007】
このように、上記従来技術によれば、車両の姿勢が適切に制御されるとともに、流体流路の構築は配管の自由な配置によるため、車両に対する登載性が良い。また、切換え弁などは流体を用いたものであるので異音の発生を抑え、姿勢制御が円滑になるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の車両のサスペンションにあっては、前後のハウジングに設けた回転部材が流体制御されるため所定の応答時間が必要となる。つまり、切換え弁を操作し、流体配管の内部を流体が流通し、回転部材が駆動されるから回転部材の回転駆動が緩慢となる。
【0010】
また、流体を迅速に流通させようとすると、別途大型のポンプやアキュムレータが必要となり、装置構成が増えるとともに設置スペースが必要となる。
【0011】
さらに、流体は使用時間とともに劣化し、配管から漏れが生じる可能性もあって、保守整備作業が煩雑となる。
【0012】
このように、従来の技術では、種々の解決すべき課題を有しており、構成が簡便で車高制御の応答性や設置性に優れた車両のサスペンションが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(特徴構成)
本発明に係る車両のサスペンションの特徴構成は、
車両に軸支された棒状の捩じりばねと、
前記車両の前後方向に延出すると共に前記捩じりばねの付勢力を利用して前記車両の車輪を揺動支持するアームと、
前記車両の側に固定されたモータと、
前記モータの回転を減速して前記捩じりばねあるいは前記アームの揺動軸を回転駆動する減速部と、
前記減速部を挟んで前記ねじりばねあるいは前記揺動軸と反対側に設けられた複数の環状の摩擦板を有する励磁式の電動ブレーキ機構と、を備え、
前記減速部が少なくとも一つのプラネタリギアを備えて構成され、前記減速部の出力軸と、前記捩じりばねあるいは前記揺動軸と、前記電動ブレーキ機構の回転軸心とが同軸心状に設けられている点にある。
【0014】
(効果)
本構成は、モータを用いて捩じりばねあるいはアームの揺動軸を車両に対して積極的に回転駆動し、車両の車高制御やダンパ機能の調節を行うものである。その際に、モータの出力は減速部を介して捩じりばねやアームの揺動軸に伝えられるが、減速部の出力軸と捩じりばね等が同軸心状であれば、出力軸を介して捩じりばねや揺動軸を直に回転駆動することができる。この結果、モータや減速部を合わせたサスペンションの体格が小さくなる。よって、装置構成が簡便でコンパクトなものとなり、車両に対する設置性に優れた車両のサスペンションを得ることができる。
また、捩じりばねから入力される回転駆動を、複数の環状の摩擦板を有する電動ブレーキ機構で制動する際に、プラネタリギアを間に挟むことで電動ブレーキ機構に入力される回転速度が増大し、発生させる制動力の調節が容易となる。
さらに、電動ブレーキ機構の回転軸心が、減速部の出力軸と、捩じりばねあるいは揺動軸と同軸心状であれば、アームの揺動速度と電動ブレーキ機構の回転速度との関係が把握し易くなり、電動ブレーキ機構の複数の環状の摩擦板に加える制動力を設定し易くなる。また、電動ブレーキ機構と捩じりばねとを連携させる構造も構築し易くなり、構造が簡単かつコンパクトで低コストなサスペンションを得ることができる。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
減速部として少なくとも一つのプラネタリギアを備えることで、車両の走行状態においてモータに非通電であっても減速部の出力軸の回転の阻止あるいは所定回転数での動作が可能となり、車高の維持やアームのばね定数の調節が可能となる。よって、省電力効果が高まると共に、サスペンションの特性設定の範囲を広げることができる。
【0019】
【0020】
プラネタリギアを備えた減速部であれば、減速部の出力軸からモータの駆動軸に至る駆動伝達の逆効率を小さく設定し易い。よって、例えば減速部の何れかの回転体に係合する部材等を別途設ける必要がなく、単に減速部を備えるだけで非通電時に車高維持の容易な車両のサスペンションを得ることができる。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
励磁式の電動ブレーキ機構は、通電により稼働するブレーキ機構である。電気的に稼働するブレーキ機構であれば、任意のタイミングで駆動軸などをロックすることができるし、より強力な制動効果も期待できる。また、当該電動ブレーキ機構を設ける場合でも、駆動軸の両端部のうち減速部とは反対側の端部に設けることで設置が比較的容易となる。よって、様々なブレーキ機能の要求に応えることができ、拡張性に優れた車両のサスペンションを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】第1実施形態に係る車両のサスペンションの構造を示す断面図
【
図3】第2実施形態に係る車両のサスペンションの構造を示す断面図
【
図4】第3実施形態に係る車両のサスペンションの構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔概要〕
本発明に係る車両1のサスペンションSは、車両1の前後方向に延出するサスペンションアーム2(以下、「アーム2」と称する)が捩じりばね3の弾性を利用して揺動するとともに、モータMが積極的に捩じりばね3に作用するものである。例えば、車高制御を行えるものやアクティブサスペンションとして機能するものが含まれる。以下、当該車両1のサスペンションSに係る実施形態を示す。
【0027】
〔第1実施形態〕
図1には車両1の車高制御を行うサスペンションSの外観を示し、
図2には、当該サスペンションSの構造を示す。本実施形態では、左右の前輪および後輪に棒状のスタビライザ4が取り付けられ、このスタビライザ4には車輪を支持するアーム2が接続される。スタビライザ4は捩じりばね3を備えており、その弾性力によって走行中の車輪の上下動を安定化させる。特に、モータMの駆動によって捩じりばね3およびアーム2が積極的に揺動操作されて車高が制御される。本実施形態のスタビライザ4は左右で独立しており、車両1のサスペンションSも夫々のスタビライザ4に設けられている。
【0028】
捩じりばね3は、アーム2の揺動軸2aに内包されており、一端が後述の減速部Gの出力軸Z2に接続されている。また、他端が揺動軸2aの内面に固定されている。揺動軸2aは、一旦がサブフレーム5に軸支され、他端においては、その内面に出力軸Z2を相対回転可能に軸支し、外面がサブフレーム5に軸支されている。サブフレーム5は車両1に固定されている。更にサブフレーム5には、モータMと、このモータMによる回転駆動を減速して捩じりばね3に伝える減速部Gが備えられている。モータMは、車両1に別途設けられた制御装置ECUからの駆動信号によって駆動される。
【0029】
より詳細には、モータMおよび減速部Gは、サブフレーム5に固定されたハウジング6に内装されている。サブフレーム5には、車両1への取り付けに用いる、例えば、ボルト孔7aを有する固定部7が設けてある。本構成であれば、アーム2およびサブフレーム5を備えるサスペンション部材を車両1に取り付けることで、モータM等の部材も一度に取り付けることができる。よって、車両1に対する組付け性に優れた車両1のサスペンションSを得ることができる。
【0030】
また、モータMおよび減速部Gがサブフレーム5に固定されていることで、モータM等のハウジング6やサブフレーム5の強度を相互に高めることが可能となる。さらに、ハウジング6やサブフレーム5の材厚を減らすことができ、全体寸法や重量の縮小化が図れるなど、より合理的な車両1のサスペンションSを得ることができる。
【0031】
(モータ)
図2に示すように、モータMは例えば12Vバッテリーで駆動する直流ブラシレスモータMなどを用いるとよい。モータMの駆動軸Maはスタビライザ4を構成する捩じりばね3と同軸心状に配置され、サブフレーム5に対してコンパクトに構成されている。モータMの種類に特に制限はないが、例えば回転数等をカウントできるものであればアーム2の揺動角度を知ることができ好都合である。このようにモータMを用いることで昇降制御の応答性が極めて高く車輪の迅速な昇降駆動が可能となる。
【0032】
(減速部)
アーム2が揺動する角度はモータMの回転量に比べて僅かである。よって、モータMによる駆動回転を適切に捩じりばね3に伝えるには減速部Gによって回転速度を下げる必要がある。ただし、減速部Gの構成は任意であり、モータMの比較的速い駆動回転を大きく減速し、アーム2の姿勢を応答性良く変更制御できるものであれば何れの構成でもよい。
【0033】
減速部Gとしては、モータMに通電しない状態で、車輪からアーム2への逆入力によってモータMの駆動軸Maが回転しないものが好ましい。これにより、モータMに通電しない状態では、アーム2は所定の基本姿勢を維持することとなり、車高維持機能が発揮される。また、モータMに通電する場合には、アーム2の角度が積極的に変更されて車高調節が可能となる。
【0034】
尚、アーム2への逆入力によって駆動軸Maが従動回転する場合には、左右の捩じりばね3どうしが相対回転しないように連結しておいてもよい。その結果、例えば車両1が旋回走行するときなど、左右のアーム2の相対角度が変化しつつスタビライザ4は全体として所定の角度だけ揺動することができ、左右の車輪の過度な昇降を防止することができる。つまり、この場合には一般的な機械式のスタビライザ4として機能する。
【0035】
減速部Gとしては、例えば
図2に示すように遊星歯車機構を用いることができる。ここでは、モータMの駆動軸Maの回転が、先ず、駆動軸Maに一体回転するように接続された入力軸Z1に伝達される。入力軸Z1は、モータMに近い側の端部がベアリング9を介してハウジング6に軸支されており、他方の端部が後述の出力軸Z2およびベアリング9を介してハウジング6に軸支されている。
【0036】
入力軸Z1はサンギアgsとして機能し、モータMに近い第1サンギアgs1と、出力軸Z2に近い第2サンギアgs2とを備えている。第1サンギアgs1と第2サンギアgs2との歯数は異ならせてあるが、差は僅かに設定することが多い。
【0037】
第1サンギアgs1は、第1プラネタリギアgp1に歯合している。第1プラネタリギアgp1は1段目ギアgp11と2段目ギアgp12を備えており、ハウジング6に固定された第1キャリアC1に軸支されている。1段目ギアgp11の歯数と2段目ギアgp12の歯数とは異なるものとし、ただし、歯数差は1~数歯に設定することが多い。第1サンギアgs1は1段目ギアgp11に歯合している。
【0038】
一方の2段目ギアgp12は、その外側に配置されたリング部材Rに歯合している。リング部材Rは、夫々内歯として形成された第1リングギアgr1と第2リングギアgr2を備えており、2段目ギアgp12が第1リングギアgr1に歯合している。リング部材Rは、ハウジング6に対して相対回転可能である。第1リングギアgr1の歯数と第2リングギアgr2の歯数もそれ程大きな差はない。
【0039】
第2リングギアgr2に対しては第2プラネタリギアgp2が歯合する。第2プラネタリギアgp2はハウジング6に対して相対回転する第2キャリアC2に軸支されており、減速部Gの軸心Xの周囲に複数個が設けられている。また、第2プラネタリギアgp2の更に内側には第2サンギアgs2が歯合している。第2キャリアC2は、モータMの側の端部を第1キャリアC1の端部によって軸支され、他方の端部である出力軸Z2の外周面をベアリング9を介してハウジング6に軸支されている。
【0040】
本実施形態では、第1キャリアC1と第2キャリアC2のうち第1キャリアC1がハウジング6に固定された例を示している。ただし、第1キャリアC1と第2キャリアC2は、何れか一方がハウジング6に固定されて反力受け部となり、固定されない他方は減速部Gの出力軸Z2となることができる。
【0041】
このように、共にプラネタリギアgpを支持する第1キャリアC1と第2キャリアC2とが独立に構成されるから、入力軸Z1から出力軸Z2に至るギアどうしの調整に係る因子が増える。例えば、減速比の算出に必要なギアどうしの噛み合い態様として、遊び歯車を備えるギア列や作動歯車を備えるギア列の条件選択の幅が広がる。この結果、他の構成要素である例えばリング部材Rを一つ設けると共に、ここに第1リングギアgr1と第2リングギアgr2を同時に形成することが可能となるなど、構成部材が効率化されるうえ非常に大きな減速比の設定が容易となる。
【0042】
本実施形態では、第2サンギアgs2の回転方向と、第2リングギアgr2の回転方向とが反対となり、これ等に歯合された第2プラネタリギアgp2が第2サンギアgs2と反対方向に回転する。ただし、第2プラネタリギアgp2の第2キャリアC2は、各ギアの歯数の構成によっては軸心Xを中心に何れの方向にも回転するように設定可能である。
【0043】
特に、第1サンギアgs1と第2サンギアgs2の組、および、1段目ギアgp11と2段目ギアgp12の組、および、第1リングギアgr1と第2リングギアgr2の組のうち少なくとも何れか一組において歯数差を設けることで、第2サンギアgs2と第2リングギアgr2との作動設定が容易となり、入力軸Z1から出力軸Z2に至る減速比を極めて大きな任意の値に設定することができる。
【0044】
このうち入力軸Z1の第1サンギアgs1の歯数と第2サンギアgs2の歯数の設定は、一つの入力軸Z1に対して歯数の異なる二つのギアを形成することであり、部品点数を増加することなく、減速比設定の調整因子を増やすことができる。よって、減速部Gの構成を複雑化することなく、また、組付け性を悪化させることなく、大きな減速比の減速部Gを得ることができる。
【0045】
この点は、一つのリング部材Rにおいて、第1リングギアgr1の歯数と第2リングギアgr2の歯数を設定する場合にも、減速部Gの部品点数を増やさず減速比の設定が容易となる。特に、入力軸Z1とリング部材Rの双方で二つの歯数を設定する場合には、各ギアの歯数どうしの組み合わせが増え全体の減速比の設定がより容易となる。
【0046】
このような遊星歯車機構を用い、各構成歯車の歯数を適宜調節することで、駆動軸Maの回転速度が大幅に減速されて出力軸Z2である第2キャリアC2が回転される。つまり、モータMを比較的速い所定の速度で回転させ、アーム2を車高調節に求められる少ない揺動角度分だけ正確に揺動させることができる。
【0047】
本構成の減速部Gであれば、アーム2からの逆入力が出力軸Z2に作用した時、減速部Gの各ギアやモータMの駆動軸Maは殆ど従動回転しない。よって、この減速部Gは捩じりばね3の端部のロック機構Lとしても機能し、モータMに通電しない状態でも良好な車高維持機能が発揮される。この場合、当該ロック機構Lは無励磁式ブレーキ機構となる。この減速部Gを設けることで、車両1のサスペンションSの省電力化が可能となり、モータMおよび減速部Gの逆効率が高まるうえモータMの容量低減も可能となる。
【0048】
一方、車高を変更する場合には、モータMを駆動し、アーム2を所定の角度だけ揺動させる。アーム2の揺動角度は、モータMの回転速度と駆動時間により、あるいは、モータMの回転角度等に基づいて制御部ECUが算出する。
【0049】
尚、遊星歯車機構の各歯車の構成によっては、アーム2からの逆入力によって減速部Gの出力軸Z2を有する第2キャリアC2が回転する場合がある。その場合に車高を維持するには、モータMに通電し、逆入力に対抗できる所定の駆動力を発生させておくとよい。
【0050】
(スタビライザ)
図2に示す構成では、モータMの駆動軸Maおよび減速部Gの出力軸Z2の回転軸心Xが捩じりばね3の軸心と一致している。本構成であれば、モータMから捩じりばね3に至る回転駆動力の伝達経路が効率的に構成さ、出力軸Z2を介して捩じりばね3を直に駆動することが可能となる。よって、部品点数が少なく全体の構成がコンパクトな車両1のサスペンションSを得ることができる。
【0051】
また、ハウジング6がサブフレーム5に固定され、これ等が一体で車両1に取り付く構成であるから、スタビライザ4およびモータM、減速部Gが一体に且つコンパクトに構成され、車両1への組付け性も向上する。
【0052】
本実施形態では、このようなモータMおよび減速部Gが、前輪および後輪の夫々のスタビライザ4に設けられている。これら前後のモータMは制御部ECUによって駆動制御される。例えば、前後の一方のモータMだけを駆動制御することで、車両1のピッチ姿勢を容易に調節することができる。勿論、前後のモータMを逆方向に駆動制御することで、車両1のピッチ姿勢をより迅速に調節することができる。また、前後のモータMを同方向に制御することで車両1の車高を調節することができる。
【0053】
モータMを駆動制御する場合、モータMの回転数や入力電力をモニタすることでモータMの仕事量が特定でき、スタビライザ4の昇降状態が把握できる。ただし、モータMから得られる駆動情報のみでは、あくまでも車両1の姿勢を推測するに過ぎず、現実の姿勢を把握できない可能性がある。そこで、車両1の少なくとも一箇所に車高センサ8を備え、モータMの制御量と、車高センサ8の検出値とを比較することで、車両1の姿勢をより正確に制御することができる。
【0054】
図1に示すように、車高センサ8として例えば車両1の上下動の加速度を検出するGセンサを用い、車両1のうち前側左右輪の近傍と、後側左右輪の何れか一方の近傍やリアサスペンションSの何れかの位置の近傍との合計三箇所に備えておくと良い。モータMによっては車両1に対する車輪の上下位置を調節するから、車両1の部位のうち車輪の近傍の上下動を検出することで車輪の昇降調節がより正確なものとなる。
【0055】
車高センサ8を用いることで、車両1のピッチレートやピッチ角を演算して、車両1の加速時、減速時、悪路走行時など様々な走行状態において車両1を水平に制御すること等が可能となる。
【0056】
〔第2実施形態〕
図3には、車両1のサスペンションSの第2実施形態であって、アクティブサスペンションとして機能するものを示す。ここでは、モータMおよび減速部Gに加え、モータMの駆動軸Maと同軸心状に減衰部Bを設けてある。この減衰部Bは、アーム2への逆入力によって駆動軸Maが従動回転することに対処するものであり、駆動軸Maおよび減速部Gの出力軸Z2の回転を適宜制御するものである。
【0057】
捩じりばね3が、アーム2の揺動軸2aに内包されており、一端がサブフレーム5に固設されている。また、他端は、揺動軸2aに固設されている。揺動軸2aは、一旦がベアリング9を介してサブフレーム5に軸支され、他端は、出力軸Z2に外嵌している。
【0058】
(減速部)
第2実施形態での減速部は、例えば以下の構成のものを用いることができる。ここでは、モータMの駆動軸Maがサンギアgsとなり、サンギアgsにプラネタリギアgpが歯合する。プラネタリギアgpは1段目ギアgp1と2段目ギアgp2とを備えた二段構成となっている。このうち1段目ギアgp1がハウジング6の内面に固定された第1リングギアgr1の内歯にしており、サンギアgsの回転に伴ってキャリアCをサンギアgsの回転方向と同方向に減速回転させる。遊星歯車機構であれば、減速部Gの出力軸Z2からモータMの駆動軸Maに至る駆動伝達の逆効率を小さく設定し易くなる。
【0059】
次に、キャリアCの回転とプラネタリギアgpの回転に基づき、プラネタリギアgpの2段目ギアgp2を介して内歯を有する第2リングギアgr2を回転させる。第2リングギアgr2は駆動軸Maと同方向に回転する。第2リングギアgr2は内歯と異なる部位で小径のボス部を備えており、このボス部が出力軸Z2となる。出力軸Z2の外面がベアリング9を介してハウジング6に支持される。また、出力軸Z2の内面は、ベアリング9を介してキャリアCの端部を軸支すると共に、アーム2の揺動軸2aと係合している。
【0060】
(減衰部)
図3に示すように、減衰部BはモータMを挟んで減速部Gと反対側に設けてある。この減衰部Bは、モータMの駆動軸Maを制動する制動部B1と、この制動部B1を制動状態と解除状態とに切り替える制動駆動部B2と、を備えている。モータMを内装するハウジング6が減速部Gと反対側に延出しており、この中に制動部B1と制動駆動部B2が設けられている。
【0061】
制動部B1は、モータMの駆動軸Maと一体回転するカップ状の本体b11を備えている。本体b11の一方側の端部には、駆動軸Maに向けて延出するボス部b12が形成されている。このボス部b12の内面には駆動軸Maが嵌合し、ボス部b12の外面がベアリング9を介してハウジング6に軸支されている。
【0062】
本体b11の筒状壁部の内側には、複数の環状の摩擦板b13が駆動軸Maの延出方向に沿って並べて配置されている。この複数の摩擦板b13は二種類が設けられており、例えば、外周縁に少なくとも一つの切欠きを有し、この切欠きが本体b11の筒状壁部の内面において駆動軸Maの延出方向に沿って形成された外側凸部b14に係合している。これにより、当該摩擦板b13は本体b11と連動回転し、且つ、本体b11に対して駆動軸Maの延出方向に沿って移動可能である。
【0063】
もう一方の摩擦板b13は、内周縁に少なくとも一つの切欠きを有し、この切欠きが、ハウジング6の底部61から突出するボス部62の表面にある内側凸部63に係合している。これにより、もう一方の摩擦板b13はハウジング6に対して回転せず、駆動軸Maの延出方向に沿って移動可能となる。
【0064】
(制動駆動部)
これら摩擦板b13は、制動駆動部B2によって制動操作される。摩擦板b13のうちモータMに最も近いものには円盤状の押圧板b21が当接する。押圧板b21は、環状の加圧部を備え、複数の摩擦板b13どうしを圧着して摩擦力を発生させる。押圧板b21の中心部に設けたボス部b21aの内面には、駆動軸Maの延出方向に沿って設けた雌ねじ部b21bが形成されている。一方、ボス部b21aの外面には、駆動軸Maの延出方向に沿う少なくとも一つの凸部b21cが形成されている。この凸部b21cが、ハウジング6のボス部62の内面に形成された溝部64に係合することで、押圧板b21は回転することなく駆動軸Maの延出方向に沿って移動可能となる。
【0065】
押圧板b21の雌ねじ部b21bには棒状の引張部材b22が螺合する。引張部材b22は、一方の端部に押圧板b21の雌ねじ部b21bに螺合する雄ねじ部を備え、他方の端部が後述の第2モータM2の第2駆動軸M2aに係合している。また、当該他方の端部には例えばフランジ部b22aが設けられており、このフランジ部b22aがボス部62の内面に形成された段部65と第2モータM2の端面とで挟まれることで駆動軸Maに沿った移動が規制される。
【0066】
これらを用い、第2モータM2の回転方向を切り替えることにより、引張部材b22を回転軸心Xに沿って移動させ、摩擦板b13どうしの押圧力を増減させる。これにより、モータMの駆動軸Maおよび減速部Gの出力軸Z2を制動状態或いは解除状態に設定することができる。また、引張部材b22を用いることで座屈の懸念がなく、部品サイズの縮小と軽量化を図りながら大きな駆動力を発生し得る制動駆動部B2を得ることができる。
【0067】
このように制動駆動部B2に電動式の第2モータM2を備えることで、抑制すべきアーム2の揺動を適宜のタイミングで素早く確実に抑え、車両1の走行状態に応じてサスペンションSの姿勢を適切な状態に制御することができる。
【0068】
上記構成の摩擦板b13等を設ける構成は比較的簡便である。よって、摩擦板b13に付与する押圧力の設定が容易となり、摩擦板b13のサイズや材質も適宜設定することができる。
【0069】
また、このような減衰部Bを、駆動軸Maの両端部のうち減速部Gとは反対側の端部に設けることは比較的容易である。よって、モータMと減速部Gを備えた車両1のサスペンションSを使用する車両1の機能拡張性を高めることができる。
【0070】
さらに、制動部B1の回転軸心が捩じりばね3の捩じり軸心や駆動軸Maの回転軸心と同軸心状であれば、アーム2の揺動速度と制動部B1の回転速度との関係が把握し易くなり、制動部B1に加える制動力を設定し易くなる。また、制動部B1と捩じりばね3とを連携させる構造も構築し易くなり、構造が簡単でコンパクトな減衰部Bを得ることができる。よって、本構成の制動部B1を備えることで合理的で低コストな減衰部Bを得ることができる。
【0071】
制動駆動部B2による引張部材b22の操作は、例えば、アーム2の揺動速度と、制動駆動部B2が摩擦板b13に付与する操作力との間に設けられた相関関係に基づいて行われる。このうちアーム2の揺動速度は、例えば車両1に取り付けた車高センサ8の検出値や、アーム2に従動回転する減速部Gの何れかの回転部材あるいはモータMの駆動軸Maの回転速度等を検出して知ることができる。
【0072】
一方の摩擦板b13に付与する操作力は、例えば第2モータM2の第2駆動軸M2aの回転角度や回転負荷あるいは車高制御用のモータMの駆動軸Maの回転角度等を検出して押圧板b21と摩擦板b13との押圧状態を知ることができる。これらアーム2の揺動速度と、制動駆動部B2が摩擦板b13に付与する操作力とは、予め相関関係を整理しておき、制御部ECUに記憶させておくと良い。
【0073】
本構成であれば、例えば車両1が凹凸の多い路面を走行してアーム2の揺動速度が速くなる場合、摩擦板b13が強く押圧されアーム2の回転抑制効果が高められ、サスペンションSのバタつきが抑えられる。また、車両1が高速で旋回走行する際には車両1の旋回外側前部が大きく沈み込む場合があるが、この動作も抑制され、車両1の旋回姿勢が安定する。このように制動駆動部B2を設けることで車両1の走行特性の改善が容易となる。
【0074】
尚、アーム2の揺動角度を最適に制御し、あるいはアーム2の過度な揺動を確実に止めるためには、制動部B1において発生する制動力の大きさが容易に調節できる必要がある。本実施形態では、揺動軸2aと制動部B1との間に減速部Gが設けてあり、アーム2の揺動が制動部B1に伝達される際には減速部Gの各ギアが回転する。その場合に、アーム2の揺動角度は減速部Gによって増幅されたのち制動部B1に伝えられる。つまり、本実施形態における減速部Gは、アーム2の揺動に基づく捩じりばね3の回転角度を増やす増幅機構としても機能する。
【0075】
これにより、制動部B1の摩擦板b13の回転速度が適度に大きくなり、制動駆動部B2によって発生させる制動力の調節が容易となる。また、アーム2の揺動回転が減速部Gによって増幅され、モータMの駆動軸Maを回転させる場合には、モータMを回生装置として用いることができる。よって、付加価値の高い減衰部Bを得ることができる。
【0076】
〔第3実施形態〕
図4には、車両1のサスペンションSの第3実施形態を示す。この実施形態もアクティブサスペンションである。ここでは、
図3に示した装置のうち制動部B1および制動駆動部B2に代えて、ロック機構Lを備えている。ロック機構Lも減衰部Bの一形態である。具体的には、モータMの駆動軸Maの端部に回転部材としての板状の被係止板10が一体回転するように接続され、この被係止板10に対しては、ロック部材としての板状の係止板11が回転軸心Xに沿って係脱するよう構成される。係止板11の動作はソレノイド15により行う。
【0077】
被係止板10および係止板11には、互いに係合する爪部12と孔部13が各別に形成されている。これらの係止・解除は、係止板11の中心に設けられた操作軸14をソレノイド15が押し引きすることで行う。ソレノイド15は車両1の走行状態に応じて制御部ECUからの指示により稼働する。
【0078】
係止板11の外周部には少なくとも一つの切欠き11aを設けておき、ハウジング6の内面において回転軸心Xに沿って形成された凸部66に係合させる。これにより、係止板11は、ハウジング6に対して回転することなく往復移動する。尚、
図4には示していないが、例えば、ソレノイド15に通電しない状態で爪部12と孔部13を係止させ、あるいは互いを離間させる付勢部材を設けておいても良い。
【0079】
爪部12と孔部13の形状は任意である。例えば、直方体形状や、三角柱形状、あるいは半円筒形状など各種の形状を採ることができる。直方体形状であれば、両者が係止した状態で、被係止板10に回転力が作用しても両者の係止状態は解除され難くなる。また、三角柱形状等、両者の係止に係る面が、被係止板の回転方向に対して角度を有する場合には被係止板10に作用する逆入力によっては両者の係止状態が解除されやすくなる。つまりは、アーム2からの逆入力によって被係止板10が回転しようとする力と、ソレノイド15による爪部12と孔部13との押し付け力とを勘案し、両者が不意に係止解除されない様な形状を任意に選択可能である。
【0080】
爪部12と孔部13は、車両1の走行時に常に係止しているものでも良いし、常時は係止解除されているものでも良い。例えば、減速部Gの効率により、通常走行時にはアーム2からの逆入力によってモータMの駆動軸Maが従動回転しない場合には、非係止状態としておいてよい。ただし、車両1が悪路を走行する場合などには、車高センサ8からの入力信号により、爪部12と孔部13を係止状態とする。これにより、捩じりばね3の端部の回転位相が変わらず、車高が確実に維持される。
【0081】
また、減速部Gの特性により、駆動軸Maがアーム2からの逆入力によって容易に回転する場合には、爪部12と孔部13を係止状態としておくことで車高維持機能が発揮される。
【0082】
本構成の如く被係止板10および係止板11を設けることは比較的簡単であり、強度的にも不都合はなく装置構成をコンパクトにすることができる。よって、捩じりばね3とアーム2を備えたサスペンションSに対して信頼性の高い車高維持機能を容易に追加することができる。
【0083】
〔その他の実施形態〕
車両1のサスペンションSの減速部Gは、
図1に示す遊星歯車機構を用いたものの他に、回転速度の減速比が大きな波動歯車機構(図示省略)を用いることもできる。波動歯車機構であっても、捩じりばね3と同軸心状にサブフレーム5に配置することができ、コンパクトな車両1のサスペンションSあるいは減衰部Bを得ることができる。
【0084】
図3に示す例では、摩擦板b13を第2モータM2の駆動によって制動したが、これに代えて、常時は各種の付勢部材を用いて摩擦板b13どうしを互いに押し付けておき、常に一定の摩擦力を発生させるものであっても良い。
【0085】
本構成では、付勢力の設定によっては通常走行におけるアーム2の上下動に対して摩擦板b13どうしが緩やかに相対回転する場合があり、アーム2の上下動を抑制する効果が少なくなる。ただし、凹凸の大きな路面を走行する際には、アーム2が所定以上の加速度をもって揺動する際には摩擦板b13どうしの摩擦の効果が表れてアーム2の激しい上下動が所定範囲に抑制される。よって、本構成であっても衝撃吸収に優れた走行特性を持つ車両1のサスペンションSを得ることができる。
【0086】
モータMおよび減速部Gは、揺動軸2aや捩じりばね3と同軸心状に配置されていなくても良く、揺動軸2aとモータMの駆動軸Maとが平歯車などで歯合するものであっても良い。また、モータMや減速部Gを内装するハウジング6は、サブフレーム5にではなく車両1に取り付けるものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の車両のサスペンションは、車輪を支持するアームが捩じりばねと併設されたサスペンションをモータにより駆動可能な車両に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 車両
2 アーム
2a 揺動軸
3 捩じりばね
10 回転部材
11 ロック部材
G 減速部
gp プラネタリギア
L ロック機構
M モータ
Ma 駆動軸
S サスペンション
Z2 出力軸