(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】撥水吸湿性繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 15/277 20060101AFI20250417BHJP
D03D 15/527 20210101ALI20250417BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20250417BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20250417BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
D06M15/277
D03D15/527
D04B1/16
D04B21/16
D06M15/227
(21)【出願番号】P 2024570962
(86)(22)【出願日】2024-08-15
(86)【国際出願番号】 JP2024029109
【審査請求日】2024-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2023137367
(32)【優先日】2023-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丹後佑斗
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157330(JP,A)
【文献】特開2022-132133(JP,A)
【文献】特開2000-160480(JP,A)
【文献】特表2016-515169(JP,A)
【文献】特開2020-116487(JP,A)
【文献】特開2022-25356(JP,A)
【文献】特開2019-137945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/277
D03D 15/527
D04B 1/16
D04B 21/16
D06M 15/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m
2以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。
【請求項2】
撥水剤が、該撥水剤を固形分濃度0.1重量%かつpH10である水分散液としたときに、20mV以上のゼータ電位を示すものであることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項3】
撥水剤がフッ素原子を含有していないことを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項4】
撥水剤の付着量が、カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に対して0.05~5重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項5】
カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維が、2~9mmol/gのカルボキシル基を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項6】
カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維がアクリレート系繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項7】
20℃、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が10~50%であることを特徴とする、請求項1に記載の撥水吸湿性繊維。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の撥水吸湿繊維を含有する繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撥水吸湿性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の快適性に対する意識の高まりから、吸湿機能を有する素材の開発が求められており、繊維分野においても開発が盛んにおこなわれている。例えば特許文献1には、アクリル系繊維がヒドラジンで架橋され、残存するニトリル基の一部が塩型カルボキシル基又はアミド基に変換された高吸放湿性繊維が報告されている。該繊維は優れた吸湿性や吸湿発熱性を有しているが、このような繊維は吸水性も優れている場合が多く、該繊維を衣料や寝具等の繊維構造体に用いた場合、吸水による濡れ感や吸湿性能の低下が生じてしまい、著しく快適性を損なう恐れがある。
【0003】
これに対し、特許文献2に記載の疎水化高架橋ポリアクリレート系繊維は、高架橋ポリアクリレート系繊維に疎水化剤が結合しており、気相の水分を吸着(吸湿性)しつつ、液相の水分をはじく(撥水性)ことで、吸水による吸湿性能の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-132858号公報
【文献】特許第5721746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撥水剤を吸湿性繊維に付着させて撥水吸湿性繊維を製造する場合、繊維に付着しなかった撥水剤が製造設備に固着し、設備が汚染されることを防止するため、通常、撥水処理の後には、水洗によって該繊維に付着しなかった撥水剤を除去する工程が設けられる。ところが、この水洗によって繊維に付着していた撥水剤が脱落してしまう問題があった。
本発明は、上記のような問題点を解決するために創案されたものであり、その目的は十分な吸湿性能を維持しつつ、撥水処理後の水洗による撥水剤の脱落が抑制された撥水吸湿性繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の問題点を改善する方法につき、鋭意検討を重ねた結果、吸湿性繊維に付着させる撥水剤について、水の付着エネルギーが特定の範囲にある撥水剤を使用することによって、撥水処理後の水洗による撥水剤の脱落が抑制されることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)~(8)の構成を有するものである。
(1)カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m2以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。
(2)撥水剤が、該撥水剤を固形分濃度0.1重量%かつpH10である水分散液としたときに、20mV以上のゼータ電位を示すものであることを特徴とする、(1)に記載の撥水吸湿性繊維。
(3)撥水剤がフッ素原子を含有していないことを特徴とする、(1)または(2)に記載の撥水吸湿性繊維。
(4)撥水剤の付着量が、カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に対して0.05~5重量%であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の撥水吸湿性繊維。
(5)カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維が、2~9mmol/gのカルボキシル基を含有していることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の撥水吸湿性繊維。
(6)カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維がアクリレート系繊維であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の撥水吸湿性繊維。
(7)20℃、相対湿度65%雰囲気下における飽和吸湿率が10~50%であることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載の撥水吸湿性繊維。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の撥水吸湿繊維を含有する繊維構造物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の撥水吸湿性繊維は、液相の水分をはじく撥水性と気相の水分を吸着する吸湿性を兼ね備えており、さらに撥水処理後の水洗による撥水剤の脱落が抑制されている。また、該繊維を衣料や布団などの繊維構造物に含有させることで、上記のような撥水性や吸湿性を該繊維構造物に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明の撥水吸湿性繊維は、カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維(以降、単に「吸湿性繊維」とも呼ぶ)に撥水剤が付着してなるものである。
【0010】
本発明における撥水剤は、該撥水剤を前記吸湿性繊維に付着させる処理(以降、単に「撥水処理」とも呼ぶ)を行った後の水洗において、該撥水剤が前記撥水吸湿性繊維から脱落することを抑止するため、水の付着エネルギーが10mJ/m2以下であり、好ましくは8mJ/m2以下である。水の付着エネルギーとは、ある固体の表面上における水滴の離れにくさを示す指標であり、この値が大きいほど、その固体表面から水が離れにくいといえる。本発明における撥水剤の水の付着エネルギーとは、該撥水剤からなる層の表面上における水の付着エネルギーを指し、後述の実施例に記載されている水の付着エネルギーの測定方法から得られる結果をもとに、下記の式1から算出される。
(式1)水の付着エネルギーE=mg(sinα)/2πr
m:水滴の質量
g:重力加速度
α:滑落角
r:固体表面と水滴の接触面の半径
上述の撥水処理後の繊維においては、まだ乾燥工程を経ていないため、撥水剤の固着が不十分な状態であると考えられる。従って、撥水剤の水の付着エネルギーが大きいほど、すなわち撥水剤と水との親和性が高いほど、撥水処理後の水洗によって、固着不十分の撥水剤が繊維から水洗水に脱落しやすくなる。このため、本発明においては、撥水剤の水の付着エネルギーが上述した範囲である撥水剤を採用する。
なお、本発明において水の付着エネルギーは低い値であるほど好ましいため、下限については特に限定されない。
【0011】
前記撥水剤は、前記吸湿性繊維への付着のしやすさの観点から、該撥水剤を固形分濃度0.1重量%かつpH10である水分散液としたときに、20mV以上のゼータ電位を示すものであることが好ましく、30mV以上のゼータ電位を示すものであることがより好ましい。上述のゼータ電位が20mV以上である場合、前記撥水剤が前記吸湿性繊維のカルボキシル基に吸着され、該繊維に付着しやすくなる。
【0012】
かかる撥水剤の前記吸湿性繊維の重量に対する付着量は、下限として0.05重量%が好ましく、0.1重量%がより好ましい。付着量が0.05重量%を下回る場合、十分な撥水性が得られない恐れがある。また上限としては、5重量%が好ましく、3重量%がより好ましく、2重量%がさらに好ましい。付着量が5重量%を上回る場合、製造コストが高くなるほか、製造設備を汚染するおそれがある。
【0013】
本発明に採用される撥水剤は、水の付着エネルギーが前述の範囲内である限り特に制限はなく、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、パラフィン系撥水剤など、公知のものを採用することができる。中でもアミノ変性シリコーン系撥水剤、アミノ変性フッ素系撥水剤、カチオン性のパラフィン系撥水剤などといったカチオン系撥水剤は、前記吸湿性繊維中のカルボキシル基とイオン結合することで付着をより強固にできるため、好適に採用できる。また、環境負荷の観点から、撥水剤はフッ素原子を含まないことが好ましい。
【0014】
次に、本発明に採用するカルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維について述べる。
【0015】
本発明における吸湿性繊維は、カルボキシル基を含有する重合体を含んでおり、このカルボキシル基によって、前記吸湿性繊維は吸湿性を発現する。ここで、前記吸湿性繊維が含有するカルボキシル基量は、下限としては2mmol/gが好ましく、3mmol/gがより好ましい。カルボキシル基量が2mmol/gを下回る場合、十分な吸湿性や吸湿発熱性が得られないおそれがある。また、上限としては9mmol/gであることが好ましく、7.5mmol/gであることがより好ましい。カルボキシル基量が9mmol/gを上回る場合、繊維物性が悪くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0016】
カルボキシル基のカウンターイオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の陽イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の陽イオン、アンモニウムイオン、水素イオン等から1種あるいは複数種を必要な特性に応じて選択することができる。水素イオン以外のカウンターイオンを有するカルボキシル基(以下、塩型カルボキシル基という)が存在する場合、飽和吸湿量、吸湿速度がより大きくなるため、中綿として使用する場合の快適性が向上する。
【0017】
次に、前記吸湿性繊維の製造方法について述べる。
【0018】
前記吸湿性繊維を得る方法については特に制限はなく、カルボキシル基を含有するモノマーを重合してポリマーとし、該ポリマーを紡糸することで前記吸湿性繊維を得る方法や、カルボキシル基に変換可能な官能基を有するモノマーを重合してポリマーとし、紡糸して繊維としたのち、化学変成してカルボキシル基を発現させる方法など、公知の方法を採用してもよく、市販品を採用してもよい。また、前記吸湿性繊維がアクリレート系繊維である場合、吸湿性能が優れているため好ましい。
【0019】
かかるアクリレート系繊維は、例えば特開2000-314082号公報に記載されている、アクリル系繊維の架橋、加水分解処理によるアクリレート系繊維の製造方法のように、公知の方法で製造してもよく、市販品を採用してもよい。かかる市販品としては、例えば東洋紡(株)製のアクリレート系繊維であるエクス(登録商標)、ディスメル(登録商標)、モイスファイン(登録商標)、モイスケア(登録商標)や、帝人フロンティア(株)製のアクリレート系繊維であるサンバーナー(登録商標)などが例として挙げられる。
【0020】
前述の吸湿性繊維に撥水剤を付着させることで、本発明の撥水吸湿性繊維は得られる。前記吸湿性繊維に撥水剤を付着させる方法については特に制限はなく、撥水剤を含有する液体を調製し、該調製液を吸湿性繊維または該繊維を含有する繊維構造物にスプレー塗布する方法(スプレー法)や、前記調製液に吸湿性繊維又は該繊維を含有する繊維構造物を浸漬する方法(浸漬法)など、公知の方法を適用することができる。ここで、浸漬法を採用する場合、前記調製液における撥水剤の濃度は、固形分濃度が0.1~5.0重量%であることが好ましく、調製液の温度は10~70℃であることが好ましく、浸漬させる時間は30~120分であることが好ましい。また、撥水剤は水などの溶媒に分散したエマルジョン状態のものを使用してもよい。かかる撥水剤としては、例えば日華化学(株)製のカチオン性のパラフィン系撥水剤エマルジョンである「ネオシード(登録商標)NR-7080」、カチオン性のフッ素系撥水剤エマルジョンである「NKガード(登録商標)S-0671」などが挙げられる。
【0021】
本発明の撥水吸湿性繊維は、撥水剤の水の付着エネルギーが上述の範囲であることで、上記撥水処理の後に行われる水洗において、撥水剤の脱落を抑制することができる。ここで、水洗する時間としては5~120分が好ましく、水洗温度は10~70℃が好ましい。
【0022】
本発明の撥水吸湿性繊維の20℃×65%RH条件における飽和吸湿率は、下限として10%が好ましく、25%がより好ましい。飽和吸湿率が10%を下回る場合、湿気を十分に吸湿できず、該繊維を含有する衣料や布団などに快適性を付与することが困難となるおそれがある。また、上限としては50%が好ましく、40%がより好ましい。飽和吸湿率が50%を上回る場合、物性や繊維形状の保形性が低下する恐れがある。なお、「20℃×65%RH」とは、温度が20℃かつ相対湿度が65%である雰囲気のことを意味する。
【0023】
本発明の繊維構造物は、上述の撥水吸湿性繊維を単独で用いるほか、他の繊維を併用したものであってもよい。ここで、他の繊維としては、羊毛、獣毛、絹、コットンなどの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、再生セルロース系繊維などの化学繊維を挙げることができる。繊維構造物の種類としては特に限定されず、カード綿、各種不織布、粒綿、吹込み綿、紡績糸、編物、織物、パイル生地などを挙げることができる。
【0024】
本発明の繊維構造物において、他の繊維を併用する場合の本発明の撥水吸湿性繊維の混率としては、該繊維構造物の使用される用途に応じて所望の特性が得られるように設定すればよい。例えば、布団用中綿や衣料用中綿として使用する場合、中綿の全重量に対する本発明の撥水吸湿性繊維の混率は、下限として10重量%が好ましく、20重量%がより好ましい。また上限としては、90重量%とすることが好ましく、80重量%とすることがより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0026】
<飽和吸湿率の測定方法>
試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量(a)を測定する。次に該試料を温度20℃、65%RHに設定した恒温恒湿器に24時間入れて吸湿させた後、試料の重量(b)を測定する。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]={(b-a)/a}×100
【0027】
<カルボキシル基量の測定方法>
試料約1gを、50mLの1mol/L塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、十分に乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、かかる乾燥させた後の試料約0.2gを精秤し(W[g])、100mLの水を加え、さらに、15mLの0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して攪拌する。15分後、濾過によって試料と濾液に分離し、引き続き濾液を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/L塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V[mL])を求める。下式よりカルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V)/W
【0028】
<水の付着エネルギーの測定方法>
ビーカーに水5.0g、撥水剤100μL、エタノール5mLを加えて撹拌し、これをスリーエムジャパン(株)製のOHPフィルムである「3M(登録商標)OHPフィルムPP2300」に適量滴下したあと、バーコーターで溶液を延ばし、これを80℃で10分間乾燥した。その後流水で3分間水洗し、再度80℃で10分間乾燥して、測定用フィルムを作成した。前記測定フィルムに40μLの水滴を滴下し、該水滴とフィルムとの接触面の半径を測定した。その後該フィルムを傾けていき、水が滑落した角度(滑落角)を測定した。該測定を同じ測定用フィルムの別の1箇所でも行い、得られた滑落角の平均値を測定値(α度)とした。その後、下記の式1に従い、水の付着エネルギーEを算出した。
(式1)水の付着エネルギーE=mg(sinα)/2πr
m:水滴の質量(単位:g)
g:重力加速度(単位:m/s2)
α:滑落角(単位:度)
r:固体表面における水滴の接触面の半径(単位:m)
【0029】
<保水率差(脱落のしやすさ)の測定方法>
撥水処理を行った吸湿性繊維について、循環流水洗を1時間実施したのち、105℃で3時間乾燥させた。乾燥後、試料をカード機で開繊させ、約0.3gはかりとり、精秤した(W1[g])。精秤した試料をビーカーに入った水に10秒間沈め、その後試料を引き上げ、10秒間制止させた。その後、該試料の重量を測定(W2[g])し、下記の式より保水率(水洗あり)を算出した。
保水率[g/g]={(W2-W1)/W1}-1
次に、循環流水洗を実施しないほかは上記測定方法と同様にし、上記の式より保水率(水洗なし)を算出した。
ここで、水洗により撥水剤の脱落が起こると、繊維の親水性が高まり、保水率が高くなる傾向となる。従って、保水率(水洗あり)と保水率(水洗なし)の差(以降、単に保水率差とも呼ぶ)が大きいほど、より多くの撥水剤が水洗によって脱落していることを示すことになる。かかる保水率差は、0.6以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。前記保水率差が0.6以下である場合、水洗による撥水性の低下、すなわち撥水剤の脱落が抑制されているといえる。
【0030】
<ゼータ電位の測定方法>
撥水剤を固形分濃度が0.1重量%となるように水に分散させ、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した水分散液について、大塚電子(株)製のゼータ電位・粒径・分子量測定システムである「ELSZ-2000ZS」を用いて測定した。
【0031】
<撥水剤の付着量の測定方法>
撥水吸湿性繊維の試料を105℃で3時間乾燥させた後、該繊維試料を約5gはかりとり、精秤した(W3[g])。続いて、前記繊維試料について、エタノール中で3時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行った。その後、抽出液を90℃で1時間蒸発・乾燥させ、得られた固形分の重量を測定し(W4[g])、下記の式から前記繊維試料に付着していた撥水剤の付着量を算出した。
撥水剤の付着量(重量%)=W4/W3×100
【0032】
(実施例1)
アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体を48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調整した。湿式アクリル繊維製造方法の常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理、カットをして、単繊維繊度1.7dtex、繊維長76mmのアクリル繊維を得た。該アクリル繊維に、水加ヒドラジン1.0重量%および水酸化ナトリウム0.55重量%を含有する水溶液中で、115℃×2時間、架橋構造導入処理および加水分解処理を同時に行い、8重量%硝酸水溶液で、120℃×3時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整し、水洗、乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有する吸湿性架橋アクリレート系繊維を得た(カルボキシル基量:3.3mmol/g)。続いて、前記吸湿性架橋アクリレート系繊維を、撥水剤である日華化学(株)製のカチオン性のパラフィン系撥水剤エマルジョン「ネオシード(登録商標)NR-7080」(ゼータ電位:34.7mV)の固形分濃度が0.1重量%である水溶液に、浴比1:11として50℃×30分浸漬して処理した後、脱水、乾燥処理することにより、実施例1の撥水吸湿性繊維を得た(20℃×65RHにおける飽和吸湿率:38.2%、撥水剤の付着量:0.18重量%)。
【0033】
(実施例2)
撥水剤を日華化学(株)製のカチオン性のフッ素系撥水剤エマルジョンである「NKガード(登録商標)S-0671」(ゼータ電位:36.3mV)に変更するほかは実施例1と同様にして、実施例2の撥水吸湿性繊維を得た(20℃×65RHにおける飽和吸湿率:36.9%、撥水剤の付着量:0.20重量%)。
【0034】
(比較例1)
撥水剤を日華化学(株)製のフッ素系撥水剤エマルジョンである「NKガード(登録商標)S-09」(ゼータ電位:38.3mV)に変更するほかは実施例1と同様にして、比較例1の撥水吸湿性繊維を得た(20℃×65RHにおける飽和吸湿率:37.2%、撥水剤の付着量:0.21重量%)。
【0035】
以上の実施例および比較例で使用した撥水剤および得られた撥水吸湿性繊維について、各種測定を行った。測定結果を表1にて示す。
【0036】
【要約】
【課題】吸湿性繊維の繊維表面に撥水剤を付着させることで、吸湿性繊維の課題である吸水による濡れ感や吸湿性能の低下を抑える試みが報告されている。しかし、前記繊維に撥水剤を付着させたのち行われる水洗工程にて、繊維に付着していた撥水剤が脱落する問題があった。
【解決手段】カルボキシル基を含有する重合体からなる吸湿性繊維に撥水剤が付着してなる撥水吸湿性繊維であって、前記撥水剤の水の付着エネルギーが10mJ/m2以下であることを特徴とする、撥水吸湿性繊維。
【選択図】なし