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特許7667958基材接着性良好なポリウレタン樹脂、及びこれを用いた接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】基材接着性良好なポリウレタン樹脂、及びこれを用いた接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20250417BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20250417BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20250417BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20250417BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20250417BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20250417BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20250417BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J175/06
C09D175/06
C09D11/10
C08G18/76 057
C08G18/75 010
C08G18/73
C08G18/65 011
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021576201
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004434
(87)【国際公開番号】W WO2021157726
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2020018696
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】岡島 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】示野 勝也
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078274(JP,A)
【文献】特開2012-052103(JP,A)
【文献】特開2018-062538(JP,A)
【文献】特開2018-177861(JP,A)
【文献】特開2016-204465(JP,A)
【文献】特開2006-274258(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/30,175/06
C09D 11/102,175/06
C08G 18/65,18/73,18/75,18/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、ポリカーボネートポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖延長剤(C)を含有するポリウレタン樹脂(X)、並びに架橋剤(Y)を含み、ポリウレタン樹脂(X)のガラス転移温度が50℃以上であり、ポリカーボネートポリオール(A)中、下記一般式(1)で表される構造を60モル%以上含有し、鎖延長剤(C)がネオペンチルグリコールであり、ポリウレタン樹脂(X)100質量部に対して、架橋剤(Y)を1~30質量部含有することを特徴とするフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~20の整数を示す。)
【請求項2】
前記有機ジイソシアネート(B)がイソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートである請求項1に記載のフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の骨格を有するポリカーボネートジオールと有機ジイソシアネートを使用した各種基材への接着性が良好なポリウレタン樹脂、およびその樹脂を使用したフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムや、ポリカーボネートフィルム等の基材との接着剤として、ポリウレタン樹脂が広く用いられている。幅広い物性、形態、硬化様式を設計することが可能であり、さらに、耐薬品性などの化学的性質にも優れるためである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-245312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の接着剤は、構成成分中に直鎖脂肪族骨格を多く含むことで、途膜を柔軟にしたり、反応性を向上させているが、その柔軟性から熱負荷や熱水処理等により、流れ出しや分解による密着性の低下、表面硬度の低下が課題となっている。また、密着性を発揮する基材は限られており、基材選択性が課題となっている。
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものである。すなわち本発明は、耐熱性、表面硬度に優れ、かつ各種基材への接着性が良好なポリウレタン樹脂を使用したフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記要因について種々検討したところ、特定の骨格を有するポリカーボネートジオールを主原料とするポリウレタン樹脂を用いた組成物が、各種基材への接着性、耐熱性、および表面硬度に優れることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は以下の構成から成る。
【0007】
共重合成分として、ポリカーボネートポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖延長剤(C)を含有するポリウレタン樹脂(X)、並びに架橋剤(Y)を含み、ポリウレタン樹脂(X)のガラス転移温度が50℃以上であり、ポリカーボネートポリオール(A)中、下記一般式(1)で表される構造を60モル%以上含有し、ポリウレタン樹脂(X)100質量部に対して、架橋剤(Y)を1~30質量部含有することを特徴とするフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~20の整数を示す。)
【0008】
前記有機ジイソシアネート(B)はイソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましく、前記鎖延長剤(C)は炭素数7以下のグリコール化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリウレタン樹脂(X)を含有する組成物は各種基材への接着性に優れ、耐熱性や流れ出し性、表面硬度にも優れる。そのため、フィルム接着剤、スクリーンインキや加飾成形用のインキバインダー、表面保護用のコーティング剤等の用途に適する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリウレタン樹脂(X)は、共重合成分として、ポリカーボネートポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖延長剤(C)を含有する。
【0011】
<ポリカーボネートポリオール(A)>
本発明に用いるポリカーボネートポリオール(A)は、下記一般式(1)で表される構造を含むことが必要である。含有量はポリカーボネートポリオール(A)全体を100モル%としたとき、一般式(1)で表される構造を60モル%以上含有することが必要であり、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、100モル%でも差し支えない。一般式(1)で表される構造を含有することでポリウレタン樹脂(X)に柔軟性を付与し、優れた接着性、耐熱性、および表面硬度を発現することができる。
【0012】
【化1】
一般式(1)において、nは1~20の整数を表す。好ましくはnは2以上であり、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上である。また、18以下であることが好ましく、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは10以下である。前記範囲内であると、得られるポリウレタン樹脂(X)の凝集力が向上し、優れた接着性および耐熱性を発現することができる。
【0013】
一般式(1)で表される構造を有するポリカーボネートポリオール以外のポリカーボネートポリオール(A)としては、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂環族ポリカーボネートまたは芳香族ポリカーボネートポリオールを使用することができる。これらポリカーボネートポリオールはポリカーボネートポリオール(A)全体を100モル%としたとき、40モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下であり、よりさらに好ましくは10モル%以下であり、特に好ましくは5モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。
【0014】
脂肪族ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されず、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリカプロラクトン、ポリテトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの直鎖または分岐の脂肪族グリコールと炭酸ジエステル等の反応により得られるポリカーボネートジオールを使用することができる。脂環族ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されず、イソソルビドなどの脂環族グリコールと炭酸ジエステル等の反応により得られるポリカーボネートジオールを使用することができる。芳香族ポリカーボネートジオールとしては、特に限定されず、ベンゼンジメタノール、ナフタレンジメタノールなどの芳香族グリコールと炭酸ジエステル等の反応により得られるポリカーボネートジオールを使用することができる。前記グリコールのうち一種またはこれらを組み合わせた原料からなるポリカーボネートジオールを使用することができる。
【0015】
ポリカーボネートポリオール(A)の数平均分子量は300~2,500であることが好ましく、より好ましくは500~1,500である。数平均分子量を前記下限値以上にすることで、得られるポリウレタン樹脂(X)の凝集力が向上し、優れた接着性や耐熱性を発現することができる。また、前記上限値以下とすることで、ウレタン結合数を適度に確保することができ優れた接着性や耐熱性を発現することができる。
ポリカーボネートジオール(A)の数平均分子量は下記式により算出した。
数平均分子量=(56.1×1000×価数)/水酸基価[mgKOH/g]
前記式中において、価数は1分子中の水酸基の数であり、[mgKOH/g]は水酸基価の単位である。
【0016】
<有機ジイソシアネート(B)>
本発明で用いられる有機ジイソシアネート(B)は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,4-ナフチレンジイソシアネート、o-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、o-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。また、前記有機ジイソシアネートを2種類以上含む混合物、これらの有機ジイソシアネートのウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。本発明で好ましい有機ジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、さらには、得られるポリウレタン樹脂(X)の溶剤溶解性が良く、また製造時のゲル化のおそれが小さく耐候性及び樹脂の機械的強度に優れるイソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
【0017】
有機ジイソシアネート(B)の共重合量は、ポリカーボネートポリオール(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは2質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、特に好ましくは10質量部以上である。また、60質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下であり、さらに好ましくは45質量部以下であり、特に好ましくは40質量部以下である。前記範囲内にすることにより、接着性、耐熱性、および表面硬度に優れるポリウレタン樹脂(X)を得ることができる。
【0018】
<鎖延長剤(C)>
本発明で用いられる鎖延長剤(C)は、ポリウレタン樹脂(X)の分子鎖を延ばすものであれば特に限定されず、有機ジイソシアネート(B)と反応する基を有するものであることが好ましい。鎖延長剤(C)としては、特に限定されないが、製造時のゲル化や反応性の観点から、ポリオール化合物であることが好ましく、より好ましくはグリコール化合物である。グリコール化合物としては、脂肪族グリコール化合物、芳香族グリコール化合物または脂環族グリコール化合物のいずれでも構わないが、脂肪族グリコール化合物であることが好ましい。なかでも炭素数が10以下の直鎖または分岐の脂肪族グリコール化合物であることが好ましく、炭素数が7以下の直鎖または分岐の脂肪族グリコール化合物であることがより好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-4-ブチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。本発明においては、反応性、耐熱性の観点からネオペンチルグリコールまたは1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0019】
鎖延長剤(C)の共重合量は、ポリカーボネートポリオール(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは2質量部以上であり、さらに好ましくは3質量部以上であり、特に好ましくは4質量部以上である。また、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは15質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以下であり、特に好ましくは8質量部以下である。前記範囲内にすることにより、接着性、耐熱性、および表面硬度に優れるポリウレタン樹脂(X)を得ることができる。
【0020】
<ポリウレタン樹脂(X)>
本発明のポリウレタン樹脂(X)のガラス転移温度は50℃以上であることが必要である。好ましくは55℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。前記下限値以上にすることにより、熱負荷による基材との接着性低下を抑え、流れ出しの発生を抑制することができる。また、120℃以下であることが好ましい。より好ましくは110℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは95℃以下である。前記上限値以下にすることにより、基材に対する接着性の低下を抑えることができる。
【0021】
本発明のポリウレタン樹脂(X)の数平均分子量は5,000~50,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~30,000であり、さらに好ましくは12,000~22,000である。数平均分子量を前記下限値以上にすることでポリウレタン樹脂(X)の凝集力の低下による接着性の低下や、熱負荷による基材との接着性の低下を抑制することができる。また、数平均分子量を前記上限値以下にすることでポリウレタン樹脂(X)の溶液(ワニス)粘度の上昇を抑え、取り扱いが容易となる。
【0022】
ポリウレタン樹脂(X)を100質量%としたとき、ポリカーボネートポリオール(A)、有機ジイソシアネート(B)および鎖延長剤(C)の合計量が80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%であり、特に好ましくは99質量%以上であり、100質量%であっても差し支えない。上記範囲にすることで優れた接着性、耐熱性、および表面硬度を発現することができる。
【0023】
本発明に用いるポリウレタン樹脂(X)の合成方法としては、特定の骨格を有するポリカーボネートジオール(A)と有機ジイソシアネート(B)、鎖延長剤(C)を一括して反応容器に仕込んでも良いし、分割して仕込んでも良い。系内のポリカーボネートジオール(A)および鎖延長剤(C)の水酸基価の合計と、有機ジイソシアネート(B)のイソシアネート基の合計について、イソシアネート基/水酸基の官能基の比率が1以下で反応させることが好ましい。より好ましくは0.99以下であり、さらに好ましくは0.98以下である。またこの反応は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下または非存在下に反応させることで、安定して製造することができる。その溶媒としては、特に限定されないが、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチルなど)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなど)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。反応装置としては、撹拌装置の具備した反応缶だけでなく、ニーダー、二軸押出機のような混合混練装置も使用できる。
【0024】
上記のようなウレタン化反応を促進させる為、通常のウレタン化反応において用いられる触媒を用いることができる。触媒としては、例えば錫系触媒(トリメチルチンラウレート、ジメチルチンジラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジメチルチンジヒドロキサイド、スタナスオクトエートなど)、ビスマス系触媒、鉛系触媒(レッドオレート、レッド-2-エチルヘキソエートなど)アミン系触媒(トリエチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、ジアザビシクロオクタンなど)等を使用することができる。これら触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<架橋剤(Y)>
本発明で用いる架橋剤(Y)は、前記ポリウレタン樹脂(X)と反応して架橋するものであれば特に限定されない。好ましくは1分子中に2個以上の官能基を有する化合物であり、官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、メチロール基、アルコキシメチル基、イミノ基、金属キレート基、アジリジニル基等が挙げられる。具体的な化合物としては、多官能イソシアネート化合物、多官能エポキシ化合物、多官能メラミン化合物、金属架橋剤、多官能アジリジン化合物等が挙げられる。
【0026】
多官能イソシアネート化合物は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物である。具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、オルトキシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、パラキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-ナフタレンジイソシアネート、1,8-ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、これらよりなるポリイソシアネート化合物が挙げられ、有機ジイソシアネートのウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用しても構わない。
【0027】
多官能エポキシ化合物は、1分子当たりエポキシ基を2個以上有する化合物である。具体例としては、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールのような脂肪族のジオールのジグリシジルエーテル、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセロール、トリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ポリオールのポリグリシジルエーテル、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族または芳香族の多価カルボン酸のジグリシジルエステルまたはポリグリシジルエステルが挙げられる。また、レゾルシノール、ビス-(p-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス-(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、トリス-(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(p-ヒドロキシフェニル)エタンなどの多価フェノールのジグリシジルエーテルもしくはポリグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-ビス-(p-アミノフェニル)メタンのようにアミンのN-グリシジル誘導体、アミノフェールのトリグリシジル誘導体、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、オルソクレゾール型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビスフェノール型多官能エポキシ化合物が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用しても構わない。
【0028】
金属架橋剤としては、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、錫等の金属に、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用しても構わない。
【0029】
多官能アジリジン化合物は、1分子当たりアジリジン基を2個以上有する化合物である。具体例としては、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフォンオキサイド、N,N’-ジフェニルエタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用しても構わない。
【0030】
前記架橋剤(Y)としては、多官能イソシアネート化合物であることが好ましい。より好ましくはキシリレンジイソシアネートまたはその変性体であることが好ましい。
【0031】
架橋剤(Y)の含有量は、ポリウレタン樹脂(X)100質量部に対して、1質量部以上であることが必要であり、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上である。また、30質量部以下であることが必要であり、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。前記範囲内にすることで、優れた接着性、耐熱性、および表面硬度を発現することができる。
【0032】
<フィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物>
本発明のフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用組成物(以下、単に組成物ともいう。)は、前記ポリウレタン樹脂(X)および前記架橋剤(Y)を含有する組成物であり、特にフィルム接着剤、インキバインダーまたはコーティング剤用途に適している。組成物の固形分中、ポリウレタン樹脂(X)の含有量は60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。また、98質量%以下であることが好ましく、より好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは93質量%以下である。前記範囲内で含有することにより、優れた接着性、耐熱性、および表面硬度を発現することができる。
【0033】
本発明の組成物は、有機溶媒で希釈し、ワニスにすることができる。有機溶媒としては、特に限定されないが、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチルなど)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなど)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。有機溶媒はポリウレタン樹脂(X)100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは100質量部以上であり、さらに好ましくは200質量部以上である。また、2000質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1000質量部以下であり、さらに好ましくは500質量部以下である。前記範囲内であると、組成物の保存安定性が良好であり、基材への塗工性が向上する。またコスト面でも有利である。
【0034】
組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知の添加剤を含有することができる。
【0035】
<フィルム接着剤>
本発明の組成物はポリエステルやポリカーボネートを含めたあらゆる種類の基材への接着性に優れ、また、耐熱性にも優れることから、鋼板などにおけるプレコーティング方式のフィルム接着剤用途に有用である。フィルムとしては、特に限定されないが、樹脂フィルムまたは金属フィルムが挙げられる。すなわち、本発明の組成物は、樹脂フィルムと樹脂フィルム、樹脂フィルムと金属フィルム、または樹脂フィルムと金属フィルムとの接着剤に好適である。前記一方のフィルムに本発明の組成物を塗布、乾燥し、接着剤層を形成した後、他方のフィルムを貼り合わせることができる。
【0036】
樹脂フィルムとしては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂等の各フィルムが挙げられる。中でもポリカーボネート樹脂フィルムであることが好ましい。樹脂フィルムの厚みとしては、特に限定されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは、3μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。また、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下ある。
【0037】
金属フィルムとしては、SUS、銅、アルミニウム、鉄、スチール、亜鉛、ニッケル等の各種金属、及びそれぞれの合金、めっき品、亜鉛やクロム化合物など他の金属で処理した金属等の各フィルムが挙げられる。金属フィルムの厚みとしては、特に限定されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは、3μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。また、50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下ある。
【0038】
乾燥後の接着剤層の厚みとしては、特に限定されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは、2μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上である。また、20μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下ある。前記範囲内とすることで、接着性および耐熱性が良好となる。
【0039】
<インキバインダー>
本発明の組成物は、ポリエステルやポリカーボネートを含めたあらゆる種類の基材への接着性に優れ、また、耐熱性にも優れることから、塗膜の流れ出しを抑えることができ、インキバインダー用途に有用である。特にスクリーンインキや加飾成形用のインキバインダーに有用である。
【0040】
<コーティング剤>
本発明の組成物は、アルミなどの金属基材への接着性にも優れ、また、優れた表面硬度を有していることから、コーティング剤用途に有用である。特にインキや自動車内外部品の表面保護用のコーティング剤に有用である。
【実施例
【0041】
以下本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。特に断らない限り、実施例中、単に部とあるのは質量部、%とあるのは質量%を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0042】
<ポリウレタン樹脂(X)の組成>
400MHzのH-核磁気共鳴スペクトル装置(NMR)を用い、ポリウレタン樹脂(X)を構成するモノマー成分のモル比定量を行った。溶媒には重クロロホルムを使用した。
【0043】
<数平均分子量Mn>
4mlのテトラヒドロフラン(テトラブチルアンモニウムクロライド5mM添加)に試料(ポリカーボネートポリオール(A)またはポリウレタン樹脂(X))4mgを溶解した後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過して試料溶液とした。試料溶液をゲル浸透クロマトグラフィーで分析を行った。装置はTOSOH HLC-8220、検出器は示差屈折率検出器を用い、流速1mL/分、カラム温度40℃で測定した。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用し、数平均分子量は標準ポリスチレン換算値とし、分子量1000未満に相当する部分を省いて算出した。
【0044】
<ガラス転移温度Tg>
ガラス転移温度は動的粘弾性の温度依存性測定結果より、保存弾性率(E’)の屈折点における温度をガラス転移温度とした。得られたポリウレタン樹脂(X)溶液をポリプロピレンフィルム(東洋紡社製P2161、厚み50μm)にウェット膜厚(乾燥前の厚み)200μmで塗布し、120℃で1時間加熱を行い、溶媒を揮発(乾燥)させた。次いで、ポリプロピレンフィルムからポリウレタン樹脂(X)溶液の乾燥後フィルムを剥がし、ポリウレタン樹脂(X)の試料フィルムとした。該試料フィルムのガラス転移温度を測定した。装置は、アイティー計測制御株式会社製の動的粘弾性測定装置DVA-220を使用し、0℃~150℃(4℃/min、10HHz)の温度依存性を測定した。
【0045】
ポリウレタン樹脂(U1)の製造例
温度計、攪拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に、UC-100(宇部興産製ポリカーボネートジオール)を100部、ネオペンチルグリコールを5部、メチルエチルケトン(MEK)を204部仕込み、溶解後、イソホロンジイソシアネート31部を投入し、撹拌して均一溶液とした。その後、触媒としてBiCAT8210(The Shepherd Chemical Company製)を0.5部加え75℃で5時間反応させた。充分に反応させて、メチルエチルケトン(MEK)を113部投入し攪拌後、目的とする固形分濃度(NV)30質量%のポリウレタン樹脂(U1)の溶液を得た。この様にして得られたポリウレタン樹脂(U1)の特性を表1に示す。
【0046】
ポリウレタン樹脂(U2)~(U11)の製造例
ポリウレタン樹脂(U1)の製造例と同様にして、但し、原料の種類と配合比率を変更して、ポリウレタン樹脂(U2)~(U11)を得た。それらの特性を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1~11、比較例1~4
前記ポリウレタン樹脂(U1)~(U11)を用いて積層体を作製し、初期接着力(接着性)、耐熱性、および鉛筆硬度の評価を行った。なお、実施例1~10については、架橋剤としてD-110N(三井化学製、固形分濃度75質量%)をポリウレタン樹脂100質量部(固形分換算)に対し、1~30質量部(固形分換算)添加して評価した。
【0049】
積層体の作製
ポリカーボネートフィルム(住友ベークライト製、EC105、0.5mm)にポリウレタン樹脂(P1)の溶液をドライ膜厚(乾燥後の膜厚)が5μmになるようにバーコーターで塗布し、120℃で3分間加熱を行い、溶媒を揮発(乾燥)させた。次いで、前記フィルムのポリウレタン樹脂面にポリカーボネートフィルム(住友ベークライト製、EC105、0.5mm)をドライラミネーターを用いて圧着(ドライラミネーション)させた。ドライラミネーションは、ロール温度120℃、ロール荷重3kg/cm、被圧着物速度1m/分で行った。次いで、80℃、1時間のエージングを行ない、積層体を得た。
【0050】
初期接着力(接着性)試験
前記積層体を幅15mmの短冊状に切り取り、テンシロン(登録商標)(東洋測器(株)製、UTM-IV)での剥離(T型ピール剥離、引っ張り速度100mm/分)を行い、剥離の様子を観察して接着性を評価した。評価結果を表2に示す。
(評価)
○:接着剤凝集破壊または材料破壊となった。
△:界面剥離で、かつ接着強度が10N/15mmであった。
×:接着強度が10N/15mm未満であった。
【0051】
耐熱性試験
前記積層体を105℃で300時間処理(静置)を行い、初期接着力試験と同様に接着性を評価した。
(評価)
◎:浮きは発生せず、接着剤凝集破壊または材料破壊となった。
○:浮きは発生せず、主に凝集剥離であるが、一部界面剥離となった。
△:浮きは発生せず、界面剥離となった。
×:浮きが発生した。
【0052】
鉛筆硬度試験
ブリキ板(JIS G3303(2017))上に前記積層体を同様の方法で作製し、JIS規格(K5600-5-4(1999))にのっとった鉛筆硬度試験法により評価した。
(評価)
◎:2H以上
○:2H未満、H以上
△:H未満、F以上
×:F未満
【0053】
【表2】
【0054】
表1、表2で使用した化合物は以下のとおりである。
UC-100:宇部興産製ポリカーボネートジオール、数平均分子量=1000、ポリカーボネートポリオール(A)における、一般式(1)で示される構造の含有比率100モル%
UH-100:宇部興産製ポリカーボネートジオール、数平均分子量=1000、ポリカーボネートポリオール(A)における、一般式(1)で示される構造の含有比率0モル%
PH-100:宇部興産製ポリカーボネートジオール、数平均分子量=1000、ポリカーボネートポリオール(A)における、一般式(1)で示される構造の含有比率0モル%
UM-90(3/1):1,4-シクロヘキサンジメタノールと1,6-ヘキサンジオールをベースとした宇部興産製のポリカーボネートジオール、数平均分子量=900、ポリカーボネートポリオール(A)における、一般式(1)で示される構造の含有比率75モル%
UM-90(1/1):1,4-シクロヘキサンジメタノールと1,6-ヘキサンジオールをベースとした宇部興産製のポリカーボネートジオール、数平均分子量=900、ポリカーボネートポリオール(A)における、一般式(1)で示される構造の含有比率50モル%
D-110N:三井化学製、メタキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、固形分比率75質量%
IPDI:イソホロンジイソシアネート
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
NPG:ネオペンチルグリコール
HD:1,6-ヘキサンジオール