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特許7668013ALK2/ACVR1の細胞外領域を認識する抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】ALK2/ACVR1の細胞外領域を認識する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20250417BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250417BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20250417BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250417BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250417BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250417BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250417BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250417BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250417BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20250417BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12Q1/02
A61K39/395 D
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P25/00
A61P43/00 111
A61K39/395 N
C12N15/63 Z
G01N33/53 D
C12P21/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021537000
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028465
(87)【国際公開番号】W WO2021020282
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2019138312
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療研究開発革新基盤創成事業」「進行性骨化性線維異形成症(FOP)に対する革新的治療薬の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 岳信
(72)【発明者】
【氏名】塚本 翔
(72)【発明者】
【氏名】倉谷 麻衣
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121908(WO,A1)
【文献】Journal of neuroendocrinology,1997年,Vol. 9, No. 2,pp. 105-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-1/70
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、免疫染色への使用。
【請求項4】
免疫染色が、組織の凍結切片又はパラフィン切片を用いることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALK2/ACVR1(以下、特に断らない限り「ALK2」と称する。)の細胞外領域を認識する抗体、具体的にはさらにALK2キナーゼ活性を阻害する抗体、又はBMPシグナル伝達を阻害する抗体に関する。
【0002】
本発明はまた、上記抗体を用いて、ALK2を発現する細胞においてALK2キナーゼ活性を阻害する方法、又はBMPシグナル伝達を阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ALK2は、Activin Like Kinase 2(アクチビン様キナーゼ2)の略称であり、別称Activin A type I Receptor 1(ACVR1)とも呼ばれるタンパク質であり、骨形成蛋白質(Bone morphogenetic protein(BMP))の受容体の一種である。
【0004】
ヒト及びマウスALK2は、509アミノ酸からなるシグナルペプチドを持つ1回膜貫通型タンパク質で、BMPと結合する膜貫通型のセリン・スレオニン・キナーゼ受容体として機能する(非特許文献1~3)。N末端側の細胞外領域でBMPを結合し、細胞内のセリン・スレオニン・キナーゼによって下流の細胞内情報伝達系を活性化する。
【0005】
異所性に軟骨組織や骨組織が形成される遺伝性疾患である家族性及び孤発性FOP(進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia ossificans progressiva))症例から、アミノ酸置換を伴った活性化型ALK2が見出されており、FOPの責任因子として注目されている(非特許文献4)。
【0006】
ALK2に特異的に結合しBMPシグナル伝達を阻害する抗体に関して、例えば特許文献1には、抗ALK2抗体、並びに異所性骨化及び/又は骨形成異常の治療への使用などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2016/121908号
【非特許文献】
【0008】
【文献】T.Katagiri,J.Oral Biosci.,52,33-41(2010)
【文献】T.Katagiri,J.Oral Biosci.,54,119-123(2012)
【文献】T.Katagiri and S.Tsukamoto,Biol.Chem.,394,703-714(2013)
【文献】E.M.Shore et al.,Nat.Genet.,38,525-527(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、これまで抗ALK2抗体を開発してきた。それらはヒト及びマウスALK2を認識し、リガンド依存的な細胞内シグナルを用量依存的に阻害するが、組織切片を用いた免疫組織学的な解析、還元した変性ALK2を用いたウェスタンブロット解析ではALK2を認識できないことが分かった。
【0010】
したがって本発明の目的は、治療薬としてのみならず、免疫学的かつ免疫組織学的な解析ツールとして有用である抗ALK2抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、ヒトALK2に対する多数のラットモノクローナル抗体産生クローンを作製し、そのなかから免疫学的かつ免疫組織学的な解析ツールとして有用である抗ALK2抗体を見出した。これらの抗体のなかには、ヒト、マウス及びラットALK2を認識する抗体も含まれていた。さらに、このような抗体はまた、BMP受容体(ALK2及びTypeII受容体からなる四量体)に対して不完全な又は緩い(loose)立体的構造変化をもたらすことによりALK2/ACVR1(TypeI受容体)とTypeII受容体の相互作用が阻害され、それにより受容体の活性化抑制効果を発揮することも今回見出された。
【0012】
したがって、本発明は、以下の特徴を包含する。
[1]以下の(a)乃至(c)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識し、BMPシグナル伝達を抑制する抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列の21乃至123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の21乃至123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列の21乃至123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列。
[2]配列番号3に示されるアミノ酸配列中の64番目のアルギニンを含むエピトープに結合することを特徴とする、上記[1]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[3]重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[4]配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含むことを特徴とする上記[3]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[5]上記[3]又は[4]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[6]モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ラット抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、Fab、F(ab’)、Fab’、Fv、又はscFvである、上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[7]重鎖定常領域のアイソタイプがIgG2bであることを特徴とする、上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[8]上記[1]乃至[7]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする、医薬組成物。
[9]異所性骨化及び/又はびまん性橋膠腫(DIPG)の治療及び/又は予防剤であることを特徴とする、上記[8]に記載の医薬組成物。
[10]異所性骨化が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である、上記[9]に記載の医薬組成物。
[11]ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記ALK2タンパク質への結合に対し前記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[12]ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)及び配列番号25(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)及び配列番号28(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記ALK2タンパク質への結合に対し前記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[13]配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記ALK2タンパク質への結合に対し前記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[14]配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記ALK2タンパク質への結合に対し前記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[15]上記[1]乃至[7]、[11]、[13]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、免疫染色への使用。
[16]免疫染色が、組織の凍結切片又はパラフィン切片を用いることを特徴とする、上記[15]に記載の使用。
[17]上記[12]又は[14]に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、免疫染色又はウェスタンブロッティングへの使用。
[18]上記[1]乃至[7]、[11]、[13]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、異所性骨化及び/又はびまん性橋膠腫(DIPG)の治療及び/又は予防剤としての使用。
[19]上記[1]乃至[7]、[11]、[13]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、SMAD1、SMAD5及び/又はSMAD8のリン酸化阻害剤としての使用。
[20]上記[1]乃至[7]、[11]乃至[14]のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド。
[21]上記[20]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[22]細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、及びALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を作用してALK2キナーゼの活性化を阻害することを特徴とする、ALK2キナーゼの活性化を阻害する方法。
[23]細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、及びALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を作用してBMPシグナル伝達を阻害することを特徴とする、BMPシグナル伝達を阻害する方法。
[24]ALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンである、上記[22]又は[23]に記載の方法。
[25]ALK2が活性化型変異を有する、上記[22]又は[23]に記載の方法。
[26]ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、R375P、及びK400Eから選択される少なくとも一つである、上記[25]に記載の方法。
[27]ALK2の活性化型変異が、R206H変異である、上記[25]に記載の方法。
[28]抗体が、モノクローナル抗体又は該抗体の抗原結合断片である、上記[22]乃至[27]のいずれかに記載の方法。
[29]モノクローナル抗体又は該抗体の抗原結合断片が、下記の(1)乃至(5)に記載の少なくとも1つの抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(1)配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(2)配列番号29(CDRH1)、配列番号30(CDRH2)及び配列番号31(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号32(CDRL1)、配列番号33(CDRL2)及び配列番号34(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(3)配列番号35(CDRH1)、配列番号36(CDRH2)及び配列番号37(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号38(CDRL1)、配列番号39(CDRL2)及び配列番号40(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(4)配列番号41(CDRH1)、配列番号42(CDRH2)及び配列番号43(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号44(CDRL1)、配列番号45(CDRL2)及び配列番号46(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;或いは
(5)配列番号47(CDRH1)、配列番号48(CDRH2)及び配列番号49(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号50(CDRL1)、配列番号51(CDRL2)及び配列番号52(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、前記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片、
であることを特徴とする、上記[22]乃至[28]のいずれかに記載の方法。
或いは、本発明は、以下の特徴を有する。
【0013】
[1']以下の(a)~(c)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識し、BMPシグナル伝達を抑制する抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列。
[2']配列番号3に示されるアミノ酸配列中の64番目のアルギニンを含むエピトープに結合することを特徴とする、上記[1']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[3']重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする、上記[1']又は[2']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[4']配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含むことを特徴とする上記[3']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[5']上記[3']又は[4']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合することを特徴とする、上記[1']又は[2']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[6']モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ラット抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、Fab、F(ab’)、Fab’、Fv、又はscFvである、上記[1']~[5']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[7']重鎖定常領域のアイソタイプがIgG2bであることを特徴とする、上記[1']~[5']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[8']上記[1']~[7']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする、医薬組成物。
[9']異所性骨化及び/又はびまん性橋膠腫(DIPG)の治療及び/又は予防剤であることを特徴とする、上記[8']に記載の医薬組成物。
[10']異所性骨化が、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である、上記[9']に記載の医薬組成物。
[11']ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[12']ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)及び配列番号25(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)及び配列番号28(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含むことを特徴とする抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[13']配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[14']配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
[15']上記[1']~[7']、[11']、[13']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、免疫染色への使用。
[16']上記[12']又は[14']に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、免疫染色又はウェスタンブロッティングへの使用。
[17']免疫染色が、組織の凍結切片又はパラフィン切片を用いることを特徴とする、上記[15']又は[16']に記載の使用。
[18']上記[1']~[7']、[11']、[13']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、異所性骨化及び/又はびまん性橋膠腫(DIPG)の治療及び/又は予防剤としての使用。
[19']上記[1']~[7']、[11']、[13']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片の、SMAD1、SMAD5及び/又はSMAD8のリン酸化阻害剤としての使用。
[20']上記[1']~[7']、[11']~[14']のいずれかに記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド。
[21']上記[20']に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[22']細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、及びALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を作用してALK2キナーゼの活性化を阻害することを特徴とする、ALK2キナーゼの活性化を阻害する方法。
[23']細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、及びALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を作用してBMPシグナル伝達を阻害することを特徴とする、BMPシグナル伝達を阻害する方法。
[24']ALK2の330番目のアミノ酸残基がプロリンである、上記[22']又は[23']に記載の方法。
[25']ALK2が活性化型変異を有する、上記[22']又は[23']に記載の方法。
[26']ALK2の活性化型変異が、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、R375P、及びK400Eから選択される少なくとも一つである、上記[25']に記載の方法。
[27']ALK2の活性化型変異が、R206H変異である、上記[25']に記載の方法。
[28']抗体が、モノクローナル抗体又は該抗体の抗原結合断片である、上記[22']~[27']のいずれかに記載の方法。
[29']抗体又は該抗体の抗原結合断片が、下記の(1)~(5)に記載の少なくとも1つの抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(1)配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(2)配列番号29(CDRH1)、配列番号30(CDRH2)及び配列番号31(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号32(CDRL1)、配列番号33(CDRL2)及び配列番号34(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(3)配列番号35(CDRH1)、配列番号36(CDRH2)及び配列番号37(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号38(CDRL1)、配列番号39(CDRL2)及び配列番号40(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;
(4)配列番号41(CDRH1)、配列番号42(CDRH2)及び配列番号43(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号44(CDRL1)、配列番号45(CDRL2)及び配列番号46(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片;或いは
(5)配列番号47(CDRH1)、配列番号48(CDRH2)及び配列番号49(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号50(CDRL1)、配列番号51(CDRL2)及び配列番号52(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片、
であることを特徴とする、上記[22']~[28']のいずれかに記載の方法。
[30']以下の工程を含む、ALK2キナーゼの活性化を阻害する抗体を取得する方法:
(a)細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞を用いて該ALK2タンパク質の細胞外領域に特異的に結合する抗体を取得する工程;
(b)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、上記ALK2タンパク質がホモ二量体を形成する能力を測定する工程;
(c)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成を阻害する能力を測定する工程;及び
(d)ALK2ホモ二量体が形成され、かつ、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成が阻害される場合に、上記抗ALK2抗体がALK2キナーゼの活性化を阻害する性質を有すると決定し、該抗体を選抜する工程。
[31']以下の工程を含む、ALK2を介したBMPシグナル伝達を阻害する抗体を取得する方法:
(a)細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞を用いて該ALK2タンパク質の細胞外領域に特異的に結合する抗体を取得する工程;
(b)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、上記ALK2タンパク質がホモ二量体を形成する能力を測定する工程;
(c)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成を阻害する能力を測定する工程;及び
(d)ALK2ホモ二量体が形成され、かつ、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成が阻害される場合に、上記抗ALK2抗体がALK2を介したBMPシグナル伝達を阻害する性質を有すると決定し、該抗体を選抜する工程。
【0014】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-138312号の開示内容を包含する。
【0015】
本発明の抗ALK2抗体は、ヒト、マウス及びラットALK2を認識する抗体を含み、治療薬としてのみならず、免疫学的かつ免疫組織学的な解析ツールとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この図は、各種ラット抗ヒトALK2抗体のBMPシグナル阻害活性を示す。ALK2は、ヒト、マウス及びラットのALK2である。抗体は、IgG1、IgG2a、A2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、及び#200であり、PBS(リン酸緩衝塩水)はコントロールである。BMPシグナル活性は、BMP特異的なルシフエラーゼ・レポーターを用いて測定された。各ALK2のルシフェラーゼ活性は、BMP7非存在下での活性(白色カラム)、BMP7存在下での活性(黒色カラム)として示す。
図2】この図は、ヒト、サル、イヌ、ラット及びマウスのALK2のアミノ酸番号1-140の配列比較(それぞれ配列番号4~8;(A))、並びに、ALK2の64番目アミノ酸置換が抗体A2-27DによるBMPシグナル阻害活性に及ぼす影響(B)を示す。コントロール抗体は、IgG2aである。BMPシグナル活性は、BMP特異的なルシフェラーゼ・レポーターを用いて測定された。
図3】この図は、抗体A2-27Dのエピトープに対する、各種ラット抗ヒトALK2抗体のエピトープの重複解析結果を示す。抗体は、IgG1、IgG2a、A2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、及び#200である。図は、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25Cの産生する抗体のALK2細胞外領域に結合する部位が、ハイブリドーマA2-27Dの結合部位と重複していることを示すが、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、A2-27Dとは異なるALK2の細胞外領域に結合することを示している。
図4】この図は、各種ラット抗ALK2抗体によるALK2のウェスタンブロット解析結果を示す。抗体は、A2-15A、A2-25C、A2-27D、A2-11E、及び#109である。ハイブリドーマ#109の産生する抗ALK2モノクローナル抗体は、約65kDaのヒトALK2とマウスALK2を検出するが、その他の抗体はいずれのALK2も検出しなかった。
図5】この図は、各種ラット抗ヒトALK2抗体によるマウス新生児臓器凍結切片を用いた免疫組織染色の結果を示す。抗体は、IgG、A2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、及び#200である。ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、コントロールIgGと同様に、凍結切片のマウス新生児のいずれの臓器にも免疫染色陰性であったが、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、マウス新生児の複数の臓器に免疫染色陽性像を示した。
図6】この図は、各種ラット抗ヒトALK2抗体によるマウス新生児臓器パラフィン切片を用いた免疫組織染色の結果を示す。抗体は、IgG、A2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、及び#200である。ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、コントロールIgGと同様に、パラフィン切片のマウス新生児のいずれの臓器にも免疫染色陰性であったが、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、マウス新生児の複数の臓器に免疫染色陽性像を示した。
図7】この図は、各種ラット抗ヒトALK2抗体によるALK2ホモ二量体の形成を調べた結果を示す。ハイブリドーマ#109、#200、およびA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼの活性を促進したことから、ヒトALK2のホモ二量体形成を誘導することが示された(A,B)。コントロール抗体は、IgG1である。A2-SmはALK2とSmBiTとの融合体を、A2-LgはALK2とLgBiTとの融合体を示している。
図8】この図は、BMP7の存在下で各種ラット抗ヒトALK2抗体によるALK2-typeII受容体ヘテロ二量体の形成阻害を調べた結果を示す。ハイブリドーマ#200、並びにA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、BMP7によって誘導されるALK2とActR-IIB受容体のヘテロ二量体形成を抑制することが示された(A,B)。コントロール抗体は、IgG1である。A2-SmはALK2とSmBiTとの融合体を、II-LgはtypeII受容体とLgBiTとの融合体を、2a.a.は2アミノ酸を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.定義
本明細書中において、「遺伝子」という語には、DNAのみならずmRNA、cDNA及びcRNAも含まれるものとする。
【0018】
本明細書中において、「ポリヌクレオチド」という語は核酸と同じ意味で用いており、例えばDNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーなども含まれている。
【0019】
本明細書中において、「ポリペプチド」と「蛋白質」(「タンパク質」とも称する)は区別せずに用いている。
【0020】
本明細書中において、「RNA画分」とは、RNAを含んでいる画分をいう。
【0021】
本明細書中において、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
【0022】
本明細書中において、「ALK2」は、ALK2タンパク質と同じ意味で用いており、野生型及び変異体(「変異型」ともいう。)を含む。
【0023】
本明細書中における「抗体の抗原結合断片」とは、「抗体の機能性断片」とも呼ばれ、抗原との結合性を有する抗体の部分断片を意味しており、例えばFab、F(ab’)、Fab’、Fv、scFv、ダイアボディ(diabody)、線状抗体もしくは一本鎖抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を含む。但し、抗ALK2抗体と同様に、ALK2との結合能(もしくは、ALK2と結合する性質)を有している限りこれらの分子に限定されない。また、好ましくは、上記抗体の抗原結合断片はさらに、抗ALK2抗体と同様に、BMPシグナル伝達抑制能(もしくは、BMPシグナル伝達を抑制(「阻害」ともいう。)する性質)を有する。さらにまた、これらの抗原結合断片には、抗体蛋白質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0024】
本明細書における、「エピトープ」とは、抗体の「抗原結合部位」とも呼ばれ、一般に抗原の少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、又は少なくとも10アミノ酸からなる、抗体が結合する抗原部位を指し、本明細書では特定の抗ALK2抗体が結合するALK2の部分ペプチド又は部分立体構造を意味する。上記のALK2の部分ペプチドであるエピトープは、例えば免疫アッセイ法等の当業者によく知られている方法によって決定することができるが、例えば以下の方法によって行うことができる。ALK2の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリゴペプチド合成技術を用いることができる。例えば、ALK2のC末端或いはN末端から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組み換え技術を用いて作製した後、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定した後に、さらに短いペプチドを合成してそれらのペプチドとの反応性を検討することによって、エピトープを決定することができる。又、特定のALK2抗体が結合するALK2の部分立体構造であるエピトープは、X線結晶構造解析によって上記の抗体と隣接するALK2のアミノ酸残基を特定することによって決定することができる。第一の抗ALK2抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に第二の抗ALK2抗体が結合すれば、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。また、第一の抗ALK2抗体のALK2に対する結合に対して第二の抗ALK2抗体が競合する(すなわち、第二の抗体が第一の抗体とALK2との結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープを有すると判定することができる。さらに、第一の抗体と第二の抗体が共通のエピトープに結合し、かつ第一の抗体がALK2を介するBMPシグナル伝達の阻害活性等の活性を有する場合、第二の抗体も同様な活性を有することが期待できる。
【0025】
本明細書における、「競合する」又は「交差競合する」とは、標準的な結合アッセイにおいて、ALK2タンパク質の細胞外領域と結合性を有する特定の抗体又はその抗原結合断片と、他の抗体とが、ALK2タンパク質との結合に対し互いに干渉し合うことを指し、このアッセイによってこれら2つの抗体のエピトープの類似性を決定することができる。
【0026】
本明細書における、「認識する」とは、例えば特定の抗体が、それが結合する抗原部位を識別して相互作用する又は結合することを指す。
【0027】
抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所の相補性決定領域(CDR:Complementarity Determining Region)があることが知られている。相補性決定領域は、超可変領域(hypervariable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、それぞれ3箇所に分離している。本明細書中においては、抗体の相補性決定領域について、重鎖の相補性決定領域を重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽鎖の相補性決定領域を軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。
【0028】
本明細書において、「1もしくは数個」なる記載がある場合の「数個」とは、2~10個を示している。好ましくは、10個以下、より好ましくは、5もしくは6個以下、さらにより好ましくは、2もしくは3個である。
【0029】
本発明において「クロスリンク能」とは、1つの抗体又は抗原結合断片が2分子のALK2タンパク質のそれぞれの細胞外領域に結合して架橋(すなわち、クロスリンク)する能力をいう。通常、BMPリガンド存在下でALK2(I型受容体)は複合体(ホモ二量体)を形成し、さらにはII型受容体(ホモ二量体)との四量体の形成を介して下流のSMAD1/5/8を活性化するが、抗ALK2抗体により2分子のALK2のクロスリンクが誘導され、リガンド非存在下においても複合体様の形成が生じる可能性がある。
【0030】
「BMPシグナル伝達の促進」とは、ALK2受容体分子を介して下流の細胞内情報伝達系を活性化することをいう。
【0031】
本発明において「患者」とは、疾患に罹患しているヒトのみならず、疾患に罹患している疑いのあるヒトであってもよいし、或いはヒトを除く哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラットなど)であってもよい。
【0032】
本発明において用いられる「試料」としては、ALK2を発現する細胞、該細胞を含む、例えば体液(例、血液、血清、血漿、尿、リンパ液、滲出液、脳脊髄液)、組織(正常組織、疾患組織(例、腫瘍、器官))などが挙げられる。或いは、これらの試料から得られるタンパク質抽出物や核酸抽出物(例えばmRNA抽出物、mRNA抽出物から調製されたcDNA調製物やcRNA調製物等)であってもよい。
【0033】
本発明において「免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)」とは、組織標本中の抗原を検出する組織学的(組織化学的)手法を意味し、「免疫抗体法」と同義であり、「免疫染色(immunostaining)」も同じ意味に用いられる。
【0034】
2.ALK2
ALK2は、Transforming growth factor-β(TGF-β)ファミリーのリガンドを結合し、細胞内シグナルを活性化する膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼ受容体の一種である。ALK2は、N末端側の細胞外領域で骨形成蛋白質(BMP)を結合し、細胞内のセリン・スレオニン・キナーゼによって下流の細胞内情報伝達系を活性化する。このとき、II型受容体が、ALK2(I型受容体)のGS(グリシンとセリンに富む)ドメインをリン酸化することによってALK2を活性化することが知られている(T.Katagiri,J. Oral Biosciences 54(2012):119-123)。
【0035】
BMPは、TGF-βスーパーファミリーに属する多機能成長因子であり、約20のBMPファミリーメンバーが同定されている。BMPは骨格筋組織を含む軟組織において異所性骨形成を誘導することが確認されていることから、異常な骨形成を促進する疾患に関与していると考えられている。BMP2やBMP4は、ALK2に比べてALK3に親和性が高いと考えられている。ALK3は、ALK2に比べてユビキタスに発現していることから、さまざまな部位で異所性骨化を誘導する実験ではBMP2やBMP4が一般的によく用いられていると考えられる。一方、BMP7は比較的ALK2に対する親和性が高く、またBMP9は一般的にALK1に親和性が高いとが考えられているが、ALK2に対しても比較的高い親和性をもっていることが分かっている。FOPではALK2を介した異所性骨化が起こっていることから、BMP7及びBMP9によるALK2を介したシグナルの活性化による異所性骨誘導に対する薬効を検証することで、FOPに対する治療及び/又は予防効果の有無を確認することができると考えられる。
【0036】
近年、ALK2遺伝子のアミノ酸置換を伴う変異により細胞内シグナルが充進する遺伝性疾患として、骨格筋などの軟組織の中に異所性骨化を生じる進行性骨化性線維異形成症(FOP)、腱靭帯付着部の骨化を伴う広汎性特発性骨増殖症(DISH)、及び小児脳幹部グリオーマ(DIPG)が明らかとなっている。従来、生体内のALK2を特異的に認識できる抗体が樹立されていなかったために、これらの発症に関与する細胞群や生化学的シグナルは依然として不明な点が残されおり、また有効な治療法は確立されていない。
【0037】
ALK2遺伝子は、骨格筋組織を含む軟組織において異所性骨形成を誘導するBMPの受容体の一種をコードするFOPの責任遺伝子である。家族性、及び孤発性FOP症例からは、アミノ酸置換を伴った変異型ALK2が見出されている。ヒトALK2の活性化型変異としては、配列番号1のアミノ酸配列中、L196P(196番目のロイシンがプロリンに置換された変異)、delP197_F198insL(「PF197-8L」とも称する)(197番目のプロリン及び198番目のフェニルアラニンが欠失し、ロイシンが挿入された変異)、R202I(202番目のアルギニンがイソロイシンに置換された変異)、R206H(206番目のアルギニンがヒスチジンに置換された変異)、Q207E(207番目のグルタミンがグルタミン酸に置換された変異)、R258S(258番目のアルギニンがセリンに置換された変異)、R258G(258番目のアルギニンがグリシンに置換された変異)、G325A(325番目のグリシンがアラニンに置換された変異)、G328E(328番目のグリシンがグルタミン酸に置換された変異)、G328R(328番目のグリシンがアルギニンに置換された変異)、G328W(328番目のグリシンがトリプトファンに置換された変異)、G356D(356番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異)、R375P(375番目のアルギニンがプロリンに置換された変異)等が知られている。DISH症例からは、K400E(400番目のリシンがグルタミン酸に置換された変異)が知られている。
【0038】
また、DIPG症例からもアミノ酸置換を伴った変異型ALK2が見出されている。ヒトALK2の活性化型変異としては、配列番号1のアミノ酸配列中、R206H、R258G、G328E、G328V(328番目のグリシンがバリンに置換された変異)、G328W、G356D等が知られている。
【0039】
ALK2は、in vitroにて合成する、或いは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、ALK2 cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、或いは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってALK2を発現させることにより、該蛋白質を得ることができる。
【0040】
本明細書で用いるALK2はヒト、マウスを含む哺乳動物由来のALK2であり、例えばヒトALK2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号NM-001105を参照することにより入手可能であり、アミノ酸配列は配列番号1として本明細書中にも開示されている。マウスALK2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankアクセッション番号NP-001103674を参照することにより入手可能であり、アミノ酸配列は配列番号2として本明細書中にも開示されている。さらにまた、サル、ラット及びイヌのALK2のアミノ酸配列は、それぞれGenBankアクセッション番号NM-001260761、NP_077812(配列番号3)、XM_549615.5を参照することにより入手可能である。なお、ALK2は、前述のとおり、ACVR1(Activin A type I Receptor 1)又はACTR1(Activin Receptor Type 1)と呼ばれることがあり、これらは全て同じ分子を示している。
【0041】
ALK2のcDNAは、例えば、ALK2のcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、ALK2のcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いて、例えばポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki,R.K.,et al.,Science,(1988)239,487-49)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0042】
3.抗ALK2抗体及びその製造
本発明の抗ALK2抗体は、ALK2の細胞外領域を認識するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを樹立し、多数のハイブリドーマクローンの中から、従来得られたことがなかった特徴のあるクローン、例えば、ヒトやマウスに加えてラットALK2の活性を強力に阻害するクローン、マウスの組織を用いた凍結切片やパラフィン切片などを用いる免疫染色法でALK2の局在等について陽性像を示すクローン、ウェスタンブロット法でALK2を認識できるクローンなどを選択することによって得ることができる。
【0043】
また、本発明の抗ALK2抗体は、例えば、WO2009/091048、WO2011/027808、又はWO2012/133572に記載の方法で得ることができる。すなわち、非ヒト動物を目的抗原で免疫し、免疫成立後の動物からリンパ液、リンパ組織、血球試料又は骨髄由来の細胞を採取し、目的抗原に特異的に結合する非ヒト動物の形質細胞及び/又は形質芽細胞を選択する。得られた形質細胞及び/又は形質芽細胞から目的抗原に対する抗体遺伝子を採取し、その塩基配列を同定し、同定した遺伝子の塩基配列に基づいて上記抗体又は抗体の断片を得ることができる。また、ヒト感染患者の血液から同様に形質細胞及び/又は形質芽細胞を得ることにより、抗体又は抗体断片を得ることができる。
【0044】
本発明の抗ALK2抗体は、例えば以下の抗体又はその抗原結合断片を包含する。
【0045】
以下の(a)~(c)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識し、BMPシグナル伝達を抑制する抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列。
【0046】
配列番号1、2、3のアミノ酸配列はそれぞれヒトALK2、マウスALK2、ラットALK2を表し、それらの21~123番目のアミノ酸配列は、ALK2の細胞外領域に相当する。図2Aに示される当該領域のアミノ酸配列を比較すると、マウスとヒトでは非常に高い配列同一性(約98%)を有するが、ヒトとラットでは、約94%の配列同一性を有する。
【0047】
従来、上記(a)と(b)のアミノ酸配列を認識する抗体は得られていたが、上記(c)のアミノ酸配列をも認識することができる抗体は得られていなかった。また、従来の抗体は、免疫染色法による組織染色や、ALK2の存在や量を測定するためのウェスタンブロット法での使用が難しかった。一方、上記の性質をもつ抗ALK2抗体は、ヒト、マウス及びラットのALK2を認識できるうえに、免疫染色法での使用を可能にする。
【0048】
図2Bの結果が示すように、ALK2のアミノ酸配列中の64番目のアミノ酸残基が、抗体のBMPシグナル伝達阻害活性に影響する。図2Bでは、抗体としてA2-27Dが使用されたため、それが認識する、ALK2のアミノ酸配列中の64番目のアミノ酸残基はヒスチジンであるが、本発明の上記抗体は、配列番号3に示されるアミノ酸配列中の64番目のアルギニンを含むエピトープに結合することが可能であり、かつBMPシグナル伝達阻害活性を有している。
【0049】
本発明の抗体は、例えば以下の少なくとも1つを包含する。
(1)重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(2)配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(3)上記(1)又は(2)に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(4)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(5)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(6)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0050】
本発明において免疫染色法やウェスタンブロット法で利用可能な他の抗ALK2抗体は、例えば以下の抗体又はその抗原結合断片の少なくとも1つを包含する。
(7)ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)及び配列番号25(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)及び配列番号28(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(8)配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(9)上記(7)又は(8)のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(10)上記(7)又は(8)のアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(11)上記(7)又は(8)のアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0051】
本発明の実施形態において、上記抗体及びその抗原結合断片は、例えば、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体、或いは、ラット抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、Fab、F(ab’)、Fab’、Fv、又はscFv(一本鎖抗体)であることができる。
【0052】
さらに、本発明の別の実施形態において、重鎖定常領域のアイソタイプが、例えばIgG2bであることができる。
【0053】
本発明において利用可能な他の抗ALK2抗体は、以下の性質を有する。
【0054】
ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質、並びに、ALK2キナーゼの活性化を阻害する性質を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0055】
或いは、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質、並びに、BMPシグナル伝達を阻害する性質を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0056】
これらの性質を有する抗体は、以下の工程(a)~(d)を含む方法によって取得してもよい(例えば、後述の実施例9及び10):
(a)細胞表面にALK2タンパク質を発現する細胞を用いて該ALK2タンパク質の細胞外領域に特異的に結合する抗体を取得する工程;
(b)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、上記ALK2タンパク質がホモ二量体を形成する能力を測定する工程;
(c)上記工程(a)で選択された抗ALK2抗体について、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成を阻害する能力を測定する工程;及び
(d)ALK2ホモ二量体が形成され、かつ、ALK2-TypeII受容体へテロ二量体の形成が阻害される場合に、上記抗ALK2抗体がALK2キナーゼの活性化を阻害する性質を有する、又はALK2を介したBMPシグナル伝達を阻害する性質を有すると決定し、該抗体を選抜する工程。
【0057】
具体的には、以下の抗体が例示される。
【0058】
a1)上述の、ALK2タンパク質の細胞外領域に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0059】
a2)上述の、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0060】
a3)ALK2タンパク質の細胞外領域に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号29(CDRH1)、配列番号30(CDRH2)及び配列番号31(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号32(CDRL1)、配列番号33(CDRL2)及び配列番号34(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0061】
a4)ALK2タンパク質の細胞外領域に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号35(CDRH1)、配列番号36(CDRH2)及び配列番号37(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号38(CDRL1)、配列番号39(CDRL2)及び配列番号40(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0062】
a5)ALK2タンパク質の細胞外領域に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号41(CDRH1)、配列番号42(CDRH2)及び配列番号43(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号44(CDRL1)、配列番号45(CDRL2)及び配列番号46(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0063】
a6)ALK2タンパク質の細胞外領域に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号47(CDRH1)、配列番号48(CDRH2)及び配列番号49(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号50(CDRL1)、配列番号51(CDRL2)及び配列番号52(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0064】
a7)上記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0065】
a8)上記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0066】
a9)上記a1)からa6)のアミノ酸配列から選択されるいずれか一つのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0067】
本発明において用いられるALK2の細胞外領域に対する抗体は、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature(1975)256,p.495-497、Kennet,R.ed.,Monoclonal Antibodies,p.365-367,Plenum Press,N.Y.(1980))に従って得ることができる。すなわち、ALK2の細胞外領域に対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることができる。取得された抗体はALK2に対する結合性及び/又はクロスリンク能などを試験することによって、好適な抗体を選別できる。
【0068】
なお、CDR配列の決定には、数種の方法が知られており、例えば、Abmの定義、Chothiaの定義、Kabatの定義、及びImgt(登録商標)(The international ImMunoGeneTics information system(登録商標))の定義を挙げることができる。本発明の抗体のCDR配列はいずれの方法によって定義されたものでもよい。
【0069】
本発明に用いられる抗体には、上記ALK2の細胞外領域に対するモノクローナル抗体に加え、例えばポリクローナル抗体や、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト抗体なども含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0070】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域(Fc)が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851-6855(1984)参照)。
【0071】
ヒト化抗体としては、CDRのみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986)321,p.522-525参照)、CDR移植法によって、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開第WO90/07861号)を挙げることができる。
【0072】
また、さらに各CDR中の1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したCDR改変ヒト化抗体も、ALK2に対する結合性を有する限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。
【0073】
本発明に用いられる抗体としては、さらに、ヒト抗体を挙げることができる。抗ALK2ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗ALK2ヒト抗体は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133-143,;Kuroiwa,Y.et.al.,Nucl.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-73(Kitagawa,Y.,Matsuda,T.and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999.;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722-727等を参照。)によって取得することができる。
【0074】
このようなヒト抗体産生マウスは、具体的には、内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに例えばヒト人工染色体(Human Artificial Chromosome,HAC)ベクターやマウス人工染色体(Mouse Artificial Chromosome,MAC)ベクターなどのベクターを介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物及びトランスジェニック動物の作製、及びこれらの動物同士を掛け合わせることにより作り出すことができる。
【0075】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、この抗体を培養上清中から得ることもできる。ここで、宿主としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
【0076】
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology&Visual Science.(2002)43(7),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,Ophthalmology(2002)109(3),p.427-431等参照。)も知られている。
【0077】
例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いることができる。抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる(WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388、Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0078】
抗体が抗原の部分高次構造に結合又は認識している場合、かかる抗体のエピトープは、X線構造解析を用いて、当該抗体に隣接する抗原上のアミノ酸残基を特定することにより決定することができる。例えば、抗体又はその断片及び抗原又はその断片を結合させて結晶化し、構造解析を行うことにより、抗体と相互作用距離を有する抗原上のアミノ酸残基を特定することができる。相互作用距離は8オングストローム(Å)以下であり、好適には6オングストローム以下であり、より好適には4オングストローム以下である。そのような抗体との相互作用距離を有するアミノ酸残基は1つ又はそれ以上で抗体のエピトープ(抗原結合部位)を構成し得る。かかるアミノ酸残基が2つ以上の場合、各アミノ酸は一次配列上で互いに隣接していなくてもよい。
【0079】
上記の抗体は、WO2016/121908の実施例2、実施例6、実施例9又は実施例10に示された方法等によって抗原に対する結合性を評価し、好適な抗体を選抜することができる。抗体の解離定数(K)は、例えば1×10-6~1×10-12M、又はそれ以下であるが、目的の治療又は予防効果が得られる限り、この範囲に限定されない。抗体と抗原(ALK2)との解離定数は表面プラズモン共鳴(SPR)を検出原理とするビアコアT200(GE Healthcare Bioscience社)を使用して測定することができる。例えば、リガンドとして固相化した抗原に対し、適当な濃度に設定した抗体をアナライトと反応させ、その結合及び解離を測定することにより、結合速度定数ka1、解離速度定数kd1及び解離定数(K;K=kd1/ka1)を得ることができる。ALK2に対する結合性評価は、ビアコアT200の使用に限定されず、表面プラズモン共鳴(SPR)を検出原理とする機器、結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay)を検出原理とするKinExA(Sapidyne Instruments社)、バイオレイヤー干渉法(Bio-Layer Interferometry)を検出原理とするBLItzシステム(Pall社)或いはELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法等によっても可能である。
【0080】
上記の抗体は、例えば、NanoLuc(登録商標) Binary Technology:NanoBiT(登録商標)(Promega社)を用いて、ALK2とLgBiT又はSmBiTとの融合体をin vitro細胞内で発現させ、抗体によるALK2タンパク質の相互作用を、LgBiT及びSmBiTの構造的相補性による発光により検出することが可能である(例えば、ACS Chem. Biol. 2012, 7, 1848-1857、ACS Chem. Biol. 2016, 11, 400-408)。
【0081】
抗体の性質を比較する際の別の指標の一例としては、抗体の安定性を挙げることができる。示差走査カロリメトリー(DSC)は、蛋白の相対的構造安定性の良い指標となる熱変性中点(Tm)を素早く、また正確に測定することができる方法である。DSCを用いてTm値を測定し、その値を比較することによって、熱安定性の違いを比較することができる。抗体の保存安定性は、抗体の熱安定性とある程度の相関を示すことが知られており(Lori Burton,et.al.,Pharmaceutical Development and Technology(2007)12,p.265-273)、熱安定性を指標に、好適な抗体を選抜することができる。抗体を選抜するための他の指標としては、適切な宿主細胞における収量が高いこと、及び水溶液中での凝集性が低いことを挙げることができる。例えば収量の最も高い抗体が最も高い熱安定性を示すとは限らないので、以上に述べた指標に基づいて総合的に判断して、ヒトへの投与に最も適した抗体を選抜する必要がある。
【0082】
また、抗体の重鎖及び軽鎖の全長配列を適切なリンカーを用いて連結し、一本鎖イムノグロブリン(single chain immunoglobulin)を取得する方法も知られている(Lee,H-S,et.al.,Molecular Immunology(1999)36,p.61-71;Shirrmann,T.et.al.,mAbs(2010),2,(1)p.1-4)。このような一本鎖イムノグロブリンは二量体化することによって、本来は四量体である抗体と類似した構造と活性を保持することが可能である。また、本発明に用いられる抗体は、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さない抗体であっても良い。このような抗体は、単一ドメイン抗体(single domain antibody:sdAb)又はナノボディ(nanobody)又はラクダ科抗体(重鎖抗体)と呼ばれており、実際にラクダ又はラマで観察され、抗原結合能が保持されていることが報告されている(Muyldemans S.et.al.,Protein Eng.(1994)7(9),1129-35,Hamers-Casterman C.et.al.,Nature(1993)363(6428)446-8)。上記の抗体は、本発明における抗体の抗原結合断片の一種と解釈することも可能である。
【0083】
また、本発明に用いられる抗体は、結合している糖鎖修飾を調節することによって、抗体依存性細胞障害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、WO99/54342、WO2000/61739、WO2002/31140等が知られているが、これらに限定されるものではない。
【0084】
抗体遺伝子の具体例としては、上に記載された抗体の重鎖配列をコードする遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)、軽鎖配列をコードする遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)、或いは、それら遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)を組み合わせたものを挙げることができる。
【0085】
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と上記遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)を含む発現ベクターを使用することができる。
【0086】
宿主細胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)と軽鎖配列遺伝子(もしくはポリヌクレオチド)は、同一の発現ベクターに挿入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能である。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)などを挙げることができる。また、原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌などを挙げることができる。これらの細胞に目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。以上の培養法においては抗体の配列によって収量が異なる場合があり、同等な結合性を持つ抗体の中から収量を指標に医薬としての生産が容易なものを選別することが可能である。
【0087】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしては、ALK2に対する結合能を有するものであればよく、例えばIgG(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4)、IgM、IgA(IgA1,IgA2)、IgD或いはIgE等を挙げることができるが、好ましくはIgG又はIgM、さらに好ましくはIgG1、IgG2又はIgG4を挙げることができる。
【0088】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしてIgG1を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、エフェクター機能を調整することが可能である(WO88/07089、WO94/28027、WO94/29351参照)。IgG1の変異体としては、IgG1 LALA(IgG1-L234A,L235A)、IgG1 LAGA(IgG1-L235A,G237A)等が挙げられ、好ましくはIgG1 LALAである。
【0089】
本発明に用いられる抗体のアイソタイプとしてIgG4を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、IgG4特有の分割が抑制され、半減期を延長することが可能である(Molecular Immunology,30(1):105-108(1993)参照)。IgG4の変異体としては、IgG4 pro(IgG4-S241P)等が挙げられる。
【0090】
また本発明に用いられる抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の抗原結合断片又はその修飾物であってもよい。抗体をパパイン、ペプシン等の蛋白質分解酵素で処理するか、或いは抗体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し適当な培養細胞において発現させることによって、該抗体の断片を得ることができる。このような抗体断片のうちで、抗体全長分子の持つ機能の全て又は一部を保持している断片を抗体の抗原結合断片と呼ぶことができる。抗体の機能としては、一般的には抗原結合性、抗原の活性を阻害する活性、抗原の活性を増強する活性、抗体依存性細胞障害活性、補体依存性細胞障害活性、及び補体依存性細胞性細胞障害活性を挙げることができる。本発明における抗体の抗原結合断片が保持する機能は、ALK2に対する結合性、ALK2ホモ二量体を形成する性質(例、クロスリンク能)、及び/又はALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質である。ALK2に対する結合性とは、抗体又は抗原結合断片がALK2分子に(好ましくは、特異的に)結合する性質であり、好ましくはALK2のキナーゼ活性を阻害する、より好ましくはALK2を介したBMPシグナル伝達を抑制する活性である。
【0091】
本発明に用いられる抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFvとの結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックス-ターン-へリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
【0092】
本発明に用いられる抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗ALK2抗体の混合物である、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体としては、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、該培養物から精製された抗体を用いることができる(WO2004/061104参照)。
【0093】
本発明に用いられる抗体は、上記の抗体の重鎖及び/又は軽鎖と比較して80%~99%又はそれ以上の同一性を有する抗体であってもよい。ここで「同一性」なる用語は、当分野で使用される一般的な定義を有するものとする。同一性の%は、2つのアミノ酸配列をアミノ酸の一致度が最大となるように整列(アラインメント)させたとき総アミノ酸数(ギャップを含む。)あたりの同一アミノ酸数のパーセンテージを指す。上記の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列と高い同一性を示す配列を組み合わせることによって、上記の各抗体と同等の抗原結合能、ALK2ホモ二量体を形成する性質(例、クロスリンク能)、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質、ALK2キナーゼの活性化阻害作用及び/又はBMPシグナル伝達の抑制作用を有する抗体を選択することが可能である。このような同一性は、一般的には80%以上もしくは85%以上の同一性であり、好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上もしくは94%以上の同一性であり、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上もしくは98%以上の同一性であり、最も好ましくは99%以上の同一性である。また、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の各種作用を有する抗体を選択することが可能である。置換、欠失及び/又は付加されるアミノ酸残基数は、一般的には10アミノ酸残基以下であり、好ましくは5~6アミノ酸残基以下であり、より好ましくは2~3アミノ酸残基以下であり、最も好ましくは1アミノ酸残基である。
【0094】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リジンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。
【0095】
さらにまた、抗体の作製時に、抗体の重鎖又は軽鎖のN末端のグルタミン又はグルタミン酸残基がピログルタミル化修飾されることが知られており、本発明に用いられる抗体はそのような修飾を有していてもよい(WO2013/147153)。
【0096】
しかし、これらの重鎖配列の欠失、或いは、重鎖又は軽鎖配列の修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用など)には影響を及ぼさない。
【0097】
従って、本発明に用いられる抗体には当該欠失又は修飾を受けた抗体も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)、重鎖又は軽鎖のN末端アミノ酸残基がピログルタミル化された抗体、等を挙げることができる。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に用いられる抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に用いられる抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であっても良いし、いずれか二種を組み合わせたものであっても良い。各欠失体の量比は本発明に用いられる抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0098】
二種類のアミノ酸配列間の同一性は、Blast algorithm version 2.2.2(Altschul,Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman(1997),「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs」,Nucleic Acids Res.25:3389-3402)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast algorithmは、インターネットでwww.ncbi.nlm.nih.gov/blastにアクセスすることによっても使用することができる。なお、上記のBlast algorithmによってIdentity(又はIdentities)及びPositivity(又はPositivities)の2種類のパーセンテージの値が計算される。前者は同一性を求めるべき二種類のアミノ酸配列の間でアミノ酸残基が一致した場合の値であり、後者は化学構造の類似したアミノ酸残基も考慮した数値である。本明細書においては、アミノ酸残基が一致している場合のIdentity(同一性)の値を持って同一性の値とする。
【0099】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0100】
本発明に用いられる抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができる(Nature Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)。
【0101】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばカラムクロマトグラフィー、フィルター濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
【0102】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【0103】
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0104】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムを挙げることができる。
【0105】
例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(GEヘルスケア)等を挙げることができる。
【0106】
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
【0107】
本発明における抗ALK2抗体のALK2との結合親和性を示すK値は、好ましくは10-6M以下、例えば10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、10-12M以下などである。
【0108】
4.医薬組成物
本発明は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の少なくともいずれか1つを含有することを特徴とする、医薬組成物を提供する。
【0109】
本発明の抗ALK2抗体は、例えば以下の抗体又はその抗原結合断片を包含する。
以下の(a)~(c)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識し、BMPシグナル伝達を抑制する抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列。
【0110】
上記抗ALK2抗体は、例えば以下の(1)~(7)の少なくとも1つである。
(1)重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(2)配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(3)上記(1)又は(2)に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(4)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(5)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(6)上記(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(7)修飾を含む、上記(1)~(6)のいずれかの抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0111】
上記(7)における「修飾」は、上記3.の「抗ALK2抗体及びその製造」の項に例示されている。
【0112】
ALK2の活性化型変異に起因する疾患としては、例えば、進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、進行性骨異形成(POH)、広汎性特発性骨増殖症(DISH)、外傷性の異所性骨化、人工関節置換術後の異所性骨化、びまん性橋膠腫(DIPG)、脊椎関節炎(SpA)、強直性脊椎炎(AS)、貧血、薄毛等を挙げることができ、好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)、進行性骨異形成(POH)、外傷性の異所性骨化、又は人工関節置換術後の異所性骨化であり、より好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)であるが、ALK2の活性化型変異に起因する疾患であれば、これらに限定されない。FOPの患者には手足の指の癒合又は変形、頚椎の癒合又は変形なども見られ、難聴も認められるが、これらもALK2の活性化型変異に起因する疾患に含まれる。
【0113】
このような疾患では、ALK2を介したBMPシグナル伝達により、異所性骨化及び/又は腱靭帯の骨化及び/又は脳腫瘍が惹起される。
【0114】
本発明の医薬組成物は、例えば、異所性骨化及び/又は腱靭帯の骨化及び/又は脳腫瘍(例、びまん性橋膠腫(DIPG))の治療及び/又は予防剤である。
【0115】
「異所性骨化」とは、本来骨がない部位に骨ができることを意味する。異所性骨化は、好ましくは進行性骨化性線維形成異常症(FOP)である。
【0116】
FOPの患者ではALK2に活性化型変異が認められており、これまでに10種類以上の変異の種類が報告されている。それら変異は全てALK2タンパク質の細胞内領域に存在するアミノ酸変異(ミスセンス変異)であることが分かっており、細胞外領域のアミノ酸配列には変化がない。したがって、ALK2の細胞外領域に結合する抗ALK2抗体を用いることにより、変異の種類に寄らず、FOPに対する治療及び/又は予防効果が得られる。
【0117】
FOPの治療とは、FOPの症状の治癒、症状の改善、症状の軽減、又は症状の進行の抑制を意味する。
【0118】
FOPの予防とは、フレアアップ又は異所性骨化が発症することを回避又は抑制することを意味する。
【0119】
本明細書における「脳腫瘍」としては、例えば、びまん性橋膠腫(DIPG)、脳幹グリオーマ、膠芽腫、多形性膠芽腫(GBM)、非膠芽腫脳腫瘍、髄膜腫、中枢神経系リンパ腫、神経膠腫、星細胞腫、未分化星細胞腫、乏突起膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、上衣腫等を挙げることができ、好ましくはびまん性橋膠腫(DIPG)である。
【0120】
DIPGの患者でもALK2に活性化型変異が認められている。ヒトALK2の変異型としては、R206H、R258G、G328E、G328V、G328W、及びG356Dが知られており、G328V変異以外はFOPの患者で認められている変異と共通している。G328V変異が存在する場合を除き、抗ALK2抗体はALK2阻害活性を示すことから、本発明に用いられる抗ALK2抗体は、G328V変異以外のALK2活性化型変異を有する患者おいて、DIPGに対する治療及び/又は予防効果を有する。
【0121】
本発明はまた、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片の、異所性骨化及び/又はびまん性橋膠腫(DIPG)の治療及び/又は予防剤としての使用を提供する。
【0122】
In vitroでの抗ALK2抗体によるALK2の生物活性(BMPシグナル阻害活性)は、例えば、BMP応答配列を挿入したレポータープラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイ、SMAD1/5/8のリン酸化、BMP標的遺伝子の発現解析、又はBMPリガンドによる刺激によって骨芽細胞への分化を誘導させたマウス筋芽細胞C2C12におけるアルカリフォスファターゼ活性を測定することで確認できる。
【0123】
筋芽細胞(C2C12細胞)をBMP存在下で培養すると、BMPに特異的な細胞内シグナル伝達機構により成熟筋細胞への分化が抑制され、代わりに骨芽細胞への分化が誘導される。したがって、C2C12細胞を用いたBMPによる骨芽細胞への分化誘導モデルにより、ALK2を介したBMPシグナル伝達を解析することができる。
【0124】
In vivoでの実験動物を利用した抗ALK2抗体の異所性骨化に対する治療又は予防効果は、例えば、マウスの筋肉にBMPリガンド含有ペレットを移植した異所性骨化誘導モデル、又は変異ALK2を導入したFOPモデルマウスに対して抗ALK2抗体を皮下又は静脈投与し、異所性骨の形成を解析することで確認することができる。或いは、脳腫瘍に対する治療又は予防効果は、例えば、免疫不全マウスに患者由来の腫瘍細胞を脳又は皮下等に移植したモデルに対して抗ALK2抗体を皮下又は静脈投与し、腫瘍の増殖やマウスの生存日数を解析することで確認することができる。
【0125】
本発明において用いられる抗ALK2抗体は、異所性骨化の治療又は予防に対しては該抗体単独で、或いは少なくとも一つの他の異所性骨化治療剤と併用して投与することができ、脳腫瘍の治療又は予防に対しては該抗体単独で、或いは少なくとも一つの他の脳腫瘍治療剤、放射線治療、免疫療法、又は化学療法などと併用して投与することができる。
【0126】
抗ALK2抗体と併用して投与できる他の異所性骨化治療剤としては、抗炎症剤、ステロイド剤、ビスフォスフォネート、筋弛緩剤、レチノイン酸受容体(RAR)γアゴニスト等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0127】
抗炎症剤としては、アスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ、アザチオプリン、ペニシラミン、メトトレキセート、スルファサラジン、レフルノミド、インフリキシマブ、エタネルセプト等を挙げることができ、好ましくはインドメタシン、イブプロフェン、ピロキシカム、又はセレコキシブである。
【0128】
ステロイド剤としては、プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン等を挙げることができ、好ましくはプレドニゾロンである。
【0129】
ビスフォスフォネートとしては、アレンドロネート、シマドロネート、クロドロネート、エチドロネート、イバンドロネート、インカドロネート、ミノドロネート、ネリドロネート、オルパドロネート、パミドロネート、ピリドロネート、リセドロネート、チルドロネート、ゾレドロネート等を挙げることができ、好ましくはパミドロネート、又はゾレドロネートである。
【0130】
筋弛緩剤としては、シクロベンザプリン、メタキサロン、バクロフェン等を挙げることができ、好ましくはバクロフェンである。
【0131】
レチノイン酸受容体γアゴニストとしては、Palovarotene等を挙げることができる。
【0132】
抗ALK2抗体と併用して投与できる他の脳腫瘍治療剤としては、例えば、テモゾロミド、ベバシズマブ、カルムスチン、ロムスチン、塩酸プロカルバジン、ビンクリスチン等を挙げることができる。
【0133】
異所性骨化又は脳腫瘍の状態やどの程度の治療及び/又は予防を目指すかによって、2、3或いはそれ以上の他の治療剤を投与することもできるし、それらの他の治療剤は同じ製剤の中に封入することによって同時に投与することができる。他の治療剤と抗ALK2抗体は同じ製剤の中に封入することによって同時に投与することもできる。また、抗ALK2抗体と他の治療剤を別々の製剤に封入して同時に投与することもできる。さらに、他の薬剤と抗ALK2抗体を相前後して別々に投与することもできる。すなわち、他の治療剤を投与した後に抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を投与するか、或いは抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を有効成分として含有する治療剤を投与した後に他の治療剤を投与しても良い。遺伝子治療において投与する場合には、蛋白質性の異所性骨化又は脳腫瘍治療剤の遺伝子と抗ALK2抗体の遺伝子は、別々の或いは同じプロモーター領域の下流に挿入することができ、別々の或いは、同じベクターに導入することができる。
【0134】
抗ALK2抗体、或いはそのフラグメントに対し異所性骨化又は脳腫瘍治療剤を結合させることにより、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates:principles and progress」,Advanced Drug Delivery Reviews,(2001)53,171-216記載の標的型薬物複合体を製造することができる。この目的には、抗体分子のほか、ALK2との結合能(もしくは、認識性)を完全消失していない限り、いずれの抗体フラグメントも適用可能であるが、例えば、Fab、F(ab’)等のフラグメントを例として挙げることができる。抗ALK2抗体又は該抗体のフラグメントとFOP治療剤との結合様式は、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates:principles and progress」,Advanced Drug Delivery Reviews,(2001)53,171-216、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press,California(1996)、Putnam and J.Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123等に記載される種々の形態があり得る。すなわち、抗ALK2抗体と異所性骨化又は脳腫瘍治療剤が化学的に直接或いはオリゴペプチド等のスペーサーを介在して結合される様式や、適当な薬物担体を介在して結合される様式を挙げることができる。薬物担体の例としては、リポソーム、ナノ粒子、ナノミセル、水溶性高分子等のドラッグデリバリーシステム(例えばX.Yu et al.,J Nanomater.2016;2016:doi:10.1155/2016/1087250、J. Wang et al.,Drug Delivery,25:1,1319-1327,DOI:10.1080/10717544.2018.1477857)を挙げることができる。これら薬物担体が介在される様式としては、より具体的には、異所性骨化又は脳腫瘍治療剤がリポソームに包含され、該リポソームと抗体とが結合した様式、及び、異所性骨化又は脳腫瘍治療剤が水溶性高分子(分子量1000~10万程度の化合物)に化学的に直接或いはオリゴペプチド等のスペーサーを介在させて結合され、該水溶性高分子に抗体が結合した様式、を例として挙げることができる。抗体(又は該フラグメント)と異所性骨化又は脳腫瘍治療剤、リポソーム及び水溶性高分子等の薬物担体との結合は、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press,California(1996)、Putnam and J.Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。異所性骨化又は脳腫瘍治療剤のリポソームへの包含は、D.D.Lasic「Liposomes:From Physics to Applications」,Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam(1993)等に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。異所性骨化又は脳腫瘍治療剤の水溶性高分子への結合は、D.Putnam and J Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science(1995)122,55-123記載の方法等の当業者周知の方法により、実施することができる。抗体(又はそのフラグメント)と蛋白質性の異所性骨化又は脳腫瘍治療剤(例えば抗体又はそのフラグメント)との複合体は、上記の方法のほか、遺伝子工学的に、当業者周知の方法により作製することができる。
【0135】
本発明に用いられる抗ALK2抗体の投与量は、ヒト型抗ALK2抗体を患者に対して投与する際には、例えば約0.1~100mg/kg体重を1~180日間に1回又は複数回投与すればよい。しかし、投与量や投与回数は、一般に、患者の性別、体重、年齢、症状、重篤度、副作用などを考慮して決定されるべきものであるので、上記の用量や用法には限定されないものとする。
【0136】
本発明に用いられる抗ALK2抗体は、非限定的に、例えば点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などを挙げることができる。投与経路は、経口経路又は非経口経路であり、非経口経路には、非限定的に、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、直腸内、経粘膜内、皮内、腹腔内、脳室内などの経路が挙げられる。
【0137】
5.ALK2キナーゼの活性化又はBMPシグナル伝達を阻害する方法
本発明の抗体は、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質、並びに、ALK2キナーゼの活性化を阻害する性質を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質、並びに、BMPシグナル伝達を阻害する性質を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片、を含む。
【0138】
このような抗体は、BMP受容体(ALK2及びTypeII受容体からなる四量体)に対して構造的な変化をもたらすことによりALK2/ACVR1(TypeI受容体)とTypeII受容体の相互作用が阻害され、それにより受容体の活性化抑制効果が発揮されるという、新しい知見に基づく。上記相互作用とは、TypeII受容体がTypeI受容体のGSドメインをリン酸化してTypeI受容体を活性化することを指す。したがって、上記構造的な変化は、上記GSドメインのリン酸化を起こすことができない程度の不完全な(緩めの(loose))上記四量体の立体的な構造変化である。
【0139】
したがって、本発明は、細胞表面にALK2を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を用いてALK2キナーゼの活性化を阻害することを特徴とする、ALK2キナーゼの活性化を阻害する方法を提供する。
【0140】
本発明はまた、細胞表面にALK2を発現する細胞において、ALK2の細胞外領域に特異的に結合し、ALK2ホモ二量体を形成する性質、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質を有する抗体を用いてBMPシグナル伝達を阻害することを特徴とする、BMPシグナル伝達を阻害する方法を提供する。
【0141】
ALK2の330番目のアミノ酸残基は、ヒトの場合の天然型のプロリンであることが望ましい。また、ALK2が活性化型変異を有していてもよい。ALK2の活性化型変異としては、L196P、delP197_F198insL、R202I、R206H、Q207E、R258S、R258G、G325A、G328E、G328R、G328W、G356D、及びR375Pから選択される少なくとも一つを挙げることができ、好ましくは、R206H、R258G、G328E、G328W、G356D、及びK400Eから選択される少なくとも一つであり、より好ましくは、R206Hである。言い換えれば、ALK2は天然型又は活性型変異のいずれであったとしても、本発明の抗体は、ALK2キナーゼの活性化を阻害する、或いはBMPシグナル伝達を阻害することができる。
【0142】
抗体は、構造的にも生物学的にも特性化し易いという点で、好ましくは、モノクローナル抗体又は該抗体の抗原結合断片である。
【0143】
上記の方法で使用しうるモノクローナル抗体又は該抗体の抗原結合断片は、例えば下記の(1)~(8)に記載の少なくとも1つの抗体又は該抗体の抗原結合断片である。
(1)配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(2)配列番号29(CDRH1)、配列番号30(CDRH2)及び配列番号31(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号32(CDRL1)、配列番号33(CDRL2)及び配列番号34(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(3)配列番号35(CDRH1)、配列番号36(CDRH2)及び配列番号37(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号38(CDRL1)、配列番号39(CDRL2)及び配列番号40(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(4)配列番号41(CDRH1)、配列番号42(CDRH2)及び配列番号43(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号44(CDRL1)、配列番号45(CDRL2)及び配列番号46(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(5)配列番号47(CDRH1)、配列番号48(CDRH2)及び配列番号49(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号50(CDRL1)、配列番号51(CDRL2)及び配列番号52(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(6)上記(1)~(5)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(7)上記(1)~(5)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(8)上記(1)~(5)のいずれかのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0144】
上記(2)~(5)の特定の抗体は、WO2016/121908で本発明者らが記載したA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dである。これらの抗体は、上記(1)の抗体と同様に、ALK2ホモ二量体を形成する性質(図7B)、並びに、ALK2-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成を阻害する性質(図8B)を有する。
【0145】
A2-15A抗体由来のヒト化抗体としては、A2-15Aの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能、並びにALK2及び-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成阻害能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-15A抗体の重鎖可変領域は、配列番号29に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSHYYMA)、配列番号30に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SITNSGGSINYRDSVKG)、及び配列番号31に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(EGGENYGGYPPFAY)を含む。また、A2-15A抗体の軽鎖可変領域は、配列番号32に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(RANQGVSLSRYNLMH)、配列番号33に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(RSSNLAS)、及び配列番号34に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(QQSRESPFT)を含む。CDRL2は、配列番号33に示されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸を置換した配列番号55に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(RSSNLAQ)を含む。さらにまた、上記ALK2への結合に対して上記A2-15A抗体と競合する抗体を含む。
【0146】
A2-15A抗体由来のヒト化抗体の実例としては、配列番号56に示されるアミノ酸配列の20~468番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号57に示されるアミノ酸配列の21~238番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0147】
A2-27D抗体由来のヒト化抗体としては、A2-27Dの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能、並びにALK2及び-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成阻害能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-27D抗体の重鎖可変領域は、配列番号35に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GSTFSNYGMK)、配列番号36に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SISRSSTYIYYADTVKG)、及び配列番号37に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(AISTPFYWYFDF)を含む。また、A2-27D抗体の軽鎖可変領域は、配列番号38に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(LASSSVSYMT)、配列番号39に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(GTSNLAS)、及び配列番号40に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(LHLTSYPPYT)を含む。さらにまた、上記ALK2への結合に対して上記A2-27D抗体と競合する抗体を含む。
【0148】
A2-27D抗体由来のヒト化抗体の実例としては、配列番号58に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号59に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体、又は配列番号60に示されるアミノ酸配列の20~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号61に示されるアミノ酸配列の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0149】
A2-11E抗体由来のヒト化抗体としては、A2-11Eの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能、並びにALK2及び-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成阻害能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-11E抗体の重鎖可変領域は、配列番号41に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSNYYMY)、配列番号42に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SINTDGGSTYYPDSVKG)、及び配列番号43に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(STPNIPLAY)を含む。また、A2-11E抗体の軽鎖可変領域は、配列番号44に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(KASQNIYKYLN)、配列番号45に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(YSNSLQT)、及び配列番号46に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(FQYSSGPT)を含む。さらにまた、上記ALK2への結合に対して上記A2-11E抗体と競合する抗体を含む。
【0150】
A2-25C抗体由来のヒト化抗体としては、A2-25Cの6種全てのCDR配列を含み、ALK2に対する結合性及びクロスリンク能、並びにALK2及び-TypeII受容体ヘテロ二量体の形成阻害能を持つ限り、本発明に用いられる抗体に含まれる。なお、A2-25C抗体の重鎖可変領域は、配列番号47に示されるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSYYAMS)、配列番号48に示されるアミノ酸配列からなるCDRH2(SISRGGDNTYYRDTVKG)、及び配列番号49に示されるアミノ酸配列からなるCDRH3(LNYNNYFDY)を含む。また、A2-25C抗体の軽鎖可変領域は、配列番号50に示されるアミノ酸配列からなるCDRL1(QASQDIGNWLS)、配列番号51に示されるアミノ酸配列からなるCDRL2(GATSLAD)、及び配列番号52に示されるアミノ酸配列からなるCDRL3(LQAYSAPFT)を含む。さらにまた、上記ALK2への結合に対して上記A2-25C抗体と競合する抗体を含む。
【0151】
6.診断用組成物
本発明は、抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片を含む検査用又は診断用組成物(以下、まとめて「診断用組成物」という)を提供する。
【0152】
本発明の診断用組成物は、FOPなどALK2に関わる疾患、ALK2発現の検査又は診断に有用である。本発明において検査又は診断には、例えば、罹患リスクの判定又は測定、罹患の有無の判定、進行や増悪化の程度の測定、抗ALK2抗体等の医薬組成物による薬物治療の効果の測定又は判定、薬物治療以外の治療の効果の測定又は判定、再発リスクの測定、再発の有無の判定等が含まれるが、検査又は診断であればそれらに限定されるものではない。
【0153】
本発明の診断用組成物は、本発明の抗体又は該抗体の抗原結合断片、それらを含む組成物、それらを含む医薬組成物を投与する個体の同定に有用である。
【0154】
かかる診断用組成物には、pH緩衝剤、浸透圧調節剤、塩類、安定化剤、防腐剤、顕色剤、増感剤、凝集防止剤等を含有せしめることができる。
【0155】
本発明はFOPなどALK2に関わる疾患の検査方法又は診断方法、該疾患の診断用組成物を調製するための本発明の抗体の使用、該疾患の検査又は診断のための本発明の抗体の使用、をも提供する。本発明の抗体を含む検査又は診断用キットも本発明に含まれる。
【0156】
本発明の抗体を含む検査又は診断の方法としてはサンドウィッチELISAが望ましいが、通常のELISA法やRIA法、ELISPOT(Enzyme-Linked ImmunoSpot)法、ドットブロット法、オクタロニー法、CIE(Counterimmunoelectrophoresis)法、CLIA(Chemiluminescentimmunoassay)、FCM(Flow Cytometry)などの抗体を利用した検出方法が利用可能である。抗体の標識法としてはビオチンのほか、HRP、アルカリフォスファターゼ、FITCやALEXAなどの発蛍光団、放射性同位元素などのラベルなど生化学的解析に実施可能な標識法が利用できる。酵素標識を利用した検出にはTMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)、BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphate)、ρ-N PP(ρ-nitrophenylphosphate)、OPD(o-Phenylenediamine)、ABTS(3-Ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)、Super Signal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)などの発色基質やQuantaBluTMFluorogenic Perox idase Substrate(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)蛍光基質のほか、化学発光基質を用いることができる。本測定には、ヒト又は非ヒト動物由来の試料に加え、組換え蛋白質等の人工的な処理を加えた試料をも供することができる。生物個体由来の被検試料としては、例えば、血液、関節液、腹水、リンパ液、脳脊髄液、組織ホモジネート上清、組織切片等をあげることができるが、それらに限定されるものではない。
【0157】
本発明の抗体を含む検査又は診断用のサンドウィッチELISAキットには、ALK2蛋白質標準液、発色試薬、希釈用緩衝液、固相用抗体、検出用抗体、ならびに洗浄液等が含まれてよい。抗原に結合した抗体量を測定する方法としては、吸光法、蛍光法、発光法、RI(Radioisotope)法等が好適に適用され、測定には、吸光プレートリーダー、蛍光プレートリーダー、発光プレートリーダー、RI液体シンチレーションカウンター等が好適に使用される。
【0158】
上記の免疫組織学的試験だけでなく、試料中の細胞、組織又は臓器もしくはその一部から、常法に従って可溶性蛋白を調製し、当該可溶性蛋白に標識化抗体を反応させることにより可溶性蛋白中のALK2の存否を確認するウェスタンブロッティング法やドットブロット法においても用いることができる。
【0159】
本発明は免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)の分析に有用な抗体、該抗体の抗原結合断片、ならびにそれらを含む組成物を提供する。かかる組成物も本発明の「診断用組成物」に包含される。
【0160】
免疫組織化学は、組織切片を抗原に結合する抗体(一次抗体)を反応させ、抗原に結合した一次抗体を検出する手法であれば特に限定されない。
【0161】
組織切片は、好適にはホルマリン固定後にパラフィン包埋処理する。パラフィン包埋後、薄切した組織切片を脱パラフィン処理した後、抗原賦活処理および非特異的反応抑制処理を行う。抗原賦活処理の方法としては、加熱処理、プロテアーゼ等による酵素処理を例示することができ、好適には加熱処理である。加熱処理の条件としては、通常、温度90~110℃、pH8~10、処理時間20~60分の範囲が好適である。pHの調整にはTris-EDTA緩衝液(例えば、1mMのEDTAを含有する10mMトリス緩衝液)等を使用することができる。非特異的反応抑制処理としては、発色に使用する酵素と同様又は類似の触媒活性を有する内因性の酵素を不活性化する方法が通常用いられる。ペルオキシダーゼ反応により発色させる場合、予め組織中に存在する内因性のペルオキシダーゼをH等で阻害することが好ましい。Hの溶媒は水、メタノール等を使用することができ、Hの濃度は0.1~3%、好適には0.3~3%である。H溶液にはアジ化ナトリウムを添加することができる。また、血清やカゼインによりブロッキングする方法も非特異的反応抑制処理として使用することができる。血清やカゼインは、一次抗体反応の前に組織を処理することができるが、1次抗体を希釈する溶媒に含有せしめることもできる。
【0162】
一次抗体の反応条件は特に限定されないが、温度4~50℃、好適には20~37℃、より好適には24℃である。反応時間は5分~一昼夜、好適には10分~4時間、より好適には30分~1時間である。
【0163】
一次抗体の検出には、好適には、可視化することができ且つ一次抗体に結合する抗体(二次抗体)を用いることができる。二次抗体自体に結合する抗体(三次抗体)を用いて3回以上の反応を行う場合もある。二次抗体又は三次抗体の可視化法としては、ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素をそれらの抗体に結合させるか、又はそれらの抗体にビオチン等を付加して上記酵素を結合させたストレプトアビジン等と結合させ、それらの酵素に対応する発色基質を反応させる方法を好適に使用することができる。酵素を二次抗体又は三次抗体に結合させる方法としては、デキストリンポリマーやアミノ酸ポリマーに上記酵素と二次抗体を多数結合させた試薬を用いる方法(ポリマー法)を例示することができる。ビオチン化二次抗体およびペルオキシダーゼ標識したストレプトアビジンを反応させる方法(LSAB法)では、発色基質としてDAB等を用いることができる。また、蛍光色素などで標識された二次抗体を使用することもできる。蛍光標識二次抗体で処理した場合、処理後に蛍光顕微鏡を用いて陽性細胞を検出する。
【0164】
スメア法では、摘出細胞をガラスに塗布又は遠心分離機で分離し、細胞成分と液性成分に分け、細胞成分について免疫染色を行う。すなわち、細胞成分をスライドガラス上に塗布し、エタノール液又は10%ホルマリン液などで固定した後、組織切片と同様の免疫染色を行うことができる。
【0165】
凍結包埋法では、摘出組織をOCTコンパウンド等での包埋後に液体窒素等で急速凍結し、クリオスタットで薄切することでスライド標本を作製する。この標本を10%ホルマリンやエタノール液などで固定した後、組織切片と同様の免疫染色を行うことができる。
【0166】
免疫組織化学に係る操作は、反応液、反応条件、洗浄回数等をプログラムして免疫装置に組み込み、自動化して行なうことができる。
【0167】
画像診断の場合は、薬学的に許容可能な放射性核種や発光体を抗体にラベルし、被験者に該抗体を投与し、PET/CTなどの画像診断技術を使用して画像を取り、ALK2の存在を判定又は検査することができる。
【0168】
本発明の診断用組成物に含まれる抗体又は該抗体の抗原結合断片は、好適にはALK2に結合又は認識する抗体、すなわちALK2選択性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片である。
【0169】
ALK2選択性を有する抗体は、例えば以下の少なくとも1つである。
(1)重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(2)配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(3)上記(1)又は(2)に記載の抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(4)ALK2タンパク質に対する結合活性を有する抗体又は該抗体の抗原結合断片であって、重鎖配列が、配列番号23(CDRH1)、配列番号24(CDRH2)及び配列番号25(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号26(CDRL1)、配列番号27(CDRL2)及び配列番号28(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(5)配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列を含む重鎖及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む軽鎖からなる抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し上記抗体又は抗原結合断片と交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(6)上記(1)~(5)のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(7)上記(1)~(5)のアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(8)上記(1)~(5)のアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【0170】
本発明の一つの好適な態様において、診断用組成物は、ALK2検出用または測定用である。
【0171】
7.抗体のその他の用途
本発明におけるその他の用途は、本発明の抗ALK2抗体又は該抗体の抗原結合断片の、SMAD1、SMAD5及び/又はSMAD8のリン酸化阻害剤としての使用である。
【0172】
転写因子である上記SMAD1、SMAD5及び/又はSMAD8のリン酸化は、細胞内へのBMPシグナル伝達を活性化する。SMAD1、SMAD5及び/又はSMAD8のリン酸化阻害剤は、例えば、多能性細胞からの再生医療に有用な分化誘導細胞(例、網膜色素上皮細胞)を作製するために使用することができる(WO2015/087231)。
【0173】
(1)上記抗体又はその抗原結合断片は、例えば以下の少なくとも1つである。
以下の(a)~(c)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを特異的に認識し、BMPシグナル伝達を抑制する抗体又は該抗体の抗原結合断片:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列;
(c)配列番号3に示されるアミノ酸配列の21~123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列。
(2)重鎖配列が、配列番号13(CDRH1)、配列番号14(CDRH2)及び配列番号15(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含み、並びに、軽鎖配列が、配列番号16(CDRL1)、配列番号17(CDRL2)及び配列番号18(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDR配列を含む可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(3)配列番号9に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域配列及び配列番号11に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(4)配列番号29(CDRH1)、配列番号30(CDRH2)及び配列番号31(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号32(CDRL1)、配列番号33(CDRL2)及び配列番号34(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(5)配列番号35(CDRH1)、配列番号36(CDRH2)及び配列番号37(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号38(CDRL1)、配列番号39(CDRL2)及び配列番号40(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(6)配列番号41(CDRH1)、配列番号42(CDRH2)及び配列番号43(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号44(CDRL1)、配列番号45(CDRL2)及び配列番号46(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(7)配列番号47(CDRH1)、配列番号48(CDRH2)及び配列番号49(CDRH3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む重鎖可変領域、並びに、配列番号50(CDRL1)、配列番号51(CDRL2)及び配列番号52(CDRL3)に示されるアミノ酸配列からなるCDRを含む軽鎖可変領域を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片、或いは、上記抗体又は該抗体の抗原結合断片と、ALK2タンパク質の細胞外領域への結合に対し交差競合する抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(8)上記(1)~(7)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(9)上記(1)~(7)のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
(10)上記(1)~(7)のいずれかのアミノ酸配列に1もしくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を含む抗体又は該抗体の抗原結合断片。
【実施例
【0174】
以下に実施例を参照しながら、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、それらの実施例によって制限されないものとする。
【0175】
[実施例1]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200)の作製
1)-1 抗原の調製
抗原となるヒトALK2-Hisは、Sino Biological Inc社製のヒトALK2-His(Cat.#10227-H088)を用いた。
【0176】
1)-2 動物の免疫
1mg/mLのヒトALK2-HisとTiterMaxGold(TiterMax、USA)を等量混合しエマルジョンを作製した。6週齢のWister雌ラット、2匹に、1匹あたり100μgの抗原をアジュバントと共に、2回に分けて皮下投与した。1-2週間後に抗原溶液のみを40μg皮下投与し、3日後に抗体産生細胞として牌臓細胞と各種リンパ節を無菌的に摘出し、以下の細胞融合に供した。
【0177】
1)-3 骨髄腫細胞との細胞融合
上記の抗体産生細胞を、BALB/cマウスから得られた株化骨髄腫細胞(P3U1細胞)と5:1~10:1の割合に調整し、50%ポリエチレングリコール1500を用いて3分間融合させ、その後、6分間かけて希釈した。融合した細胞は、ラット1匹あたり10枚の96穴プレートを用いて、フィーダー細胞(胸腺細胞)と共に播種した。培地として、HATサプリメントを含む15%FBS含有RPMI1640培地(グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン含有)で培養した。
【0178】
1)-4 ハイブリドーマの選択
細胞融合から1週間後、それぞれの培養上清を用いて、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で、抗原として用いたヒトALK2-Hisを認識するクローンを選択し、さらに、ヒ卜ALK1-His(Sino Biological Inc.社製)を認識するクローンを除外した。ELISAは以下のように行った。
【0179】
まず、96ウェルのELISA用プレート(NUNC社製、Cat.#4 42404)に、1μg/mlとなるようにPBSで希釈した抗原を、室温で2時間または4℃で一晩、固相化した。固相化液を取り除き、PBSに溶解した0.5%スキムミルク液で、室温で30分間のブロッキングを行った。次に、上記ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温で1時間静置した。プレートを洗浄後、0.5%スキムミルク液で1:2500に希釈したALP標識抗ラットIgG抗体(SAB社製)を加え、さらに、室温で1時間静置した。プレートを洗浄後、フェニルリン酸系基質を室温で反応させた後、波長492nmの吸光度を測定した。
【0180】
選択したハイブリドーマについて、限界希釈法で2回以上のクローニングを行った。以上の操作により、モノクローナル抗体#109と#200を産生するハイブリドーマ株を単離した。
【0181】
[実施例2]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200)の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
1)-1 クローン#109、#200の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列の決定
1)-1-1 クローン#109、#200産生ハイブリドーマからのTotal RNAの調製
クローン#109、#200の可変領域を含むcDNAを増幅するため、クローン#109、#200抗体産生ハイブリドーマよりDirect-zol RNA Miniprep kit(ZYMO RESEARCH社)を用いてtotal RNAを調製した。
【0182】
1)-1-2 5’-RACE PCRによるクローン#109、#200の軽鎖の可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
以下の反応はSMARTer RACE 5’/3’ Kit(CLONETECH社)を用いて実施した。
total RNAからSMARTer法を用いて1st strand cDNAを合成した後、以下のプライマーの組み合わせと合成したcDNAを鋳型とした5’-RACE PCRによりクローン#109、#200の軽鎖の可変領域を含むPCR産物を取得した。プライマーとして、UPM(10X Universal Primer A Mix、SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属)及び5’-GATTACGCCAAGCTTTCAGTAACACTGTCCAGGACACCATCTC-3’(Inf-RKR5)(配列番号53)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。Inf-RKR5はデータベースのラット軽鎖の定常領域の配列から設計した。得られた各PCR産物のシークエンス解析を実施した。シークエンスプライマーとして、Inf-RKR5を用いた。
【0183】
5'RACE PCRによって得られたPCR産物を用いて、In-Fusionクローニング(SMARTer RACE 5’/3’ Kit付属)を実施した。クローニングした軽鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。シークエンスプライマーとして、M13-ForwardとInf-RKR5を用いた。その結果、5´RACE PCRによって得られた可変領域と同一の配列を確認することができた。
【0184】
決定された#109、#200の軽鎖の可変領域のヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号22、12、アミノ酸配列を配列表の配列番号21、11に示した。
【0185】
1)-1-3 5’-RACE PCRによるクローン#109、#200の重鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
以下の反応はSMARTer RACE 5’/3’ Kit(CLONETECH社)を用いて実施した。
【0186】
total RNAからSMARTer法を用いて1st strand cDNAを合成した後、以下のプライマーの組み合わせと合成したcDNAを鋳型とした5’-RACE PCRによりクローン#109、#200の重鎖の可変領域を含むPCR産物を取得した。プライマーとして、UPM(10X Universal Primer A Mix、SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属)及び5’-GATTACGCCAAGCTTCTCCAGAGTTCCAGGTCACGGTGACTGGC-3’(Inf-RG2AR3)(配列番号54)の配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた。Inf-RKR5はデータベースのラット重鎖の定常領域の配列から設計した。得られた各PCR産物のシークエンス解析を実施した。シークエンスプライマーとして、Inf-RG2AR3を用いた。
【0187】
5'RACE PCRによって得られたPCR産物を用いて、In-Fusionクローニング(SMARTer RACE 5’/3’ Kit付属)を実施した。クローニングした軽鎖の可変領域を含むcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。シークエンスプライマーとして、M13-ForwardとInf-RG2AR3を用いた。その結果、5'RACE PCRによって得られた可変領域と同一の配列を確認することができた。
【0188】
決定された#109、#200の重鎖の可変領域のヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号20、10、アミノ酸配列を配列表の配列番号19、9に示した。
【0189】
ラット抗ヒトALK2抗体#109、#200の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は以下のとおりである。下線部は、各配列においてN末端側から順番にCDR1、CDR2、CDR3を表している。CDR配列の決定には、Abmの定義を用いた。
【0190】
クローン#109重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号19):
【化1】
【0191】
クローン#109軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号21):
【化2】
【0192】
クローン#109重鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号20):
【化3】
【0193】
クローン#109軽鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号22):
【化4】
【0194】
クローン#200重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号9):
【化5】
【0195】
クローン#200軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号11):
【化6】
【0196】
クローン#200重鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号10):
【化7】
【0197】
クローン#200軽鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号12):
【化8】
【0198】
[実施例3]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200)のBMPシグナルの阻害活性(Human,Mouse,RatのALK2)
モノク口一ナル抗体の、ALK2を介した細胞内シグナルの阻害活性は、BMP特異的なルシフエラーゼ・レポーターを用いて解析した。HEK293A細胞を、1×10細胞/穴となるように、ルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナ一社製)に播種し、10%FBSを含むDMEM培地中で、37℃、5%COの条件下で一晩培養した。翌日、pcDEF3/ヒ卜ALK2(WT)-V5-His、pcDEF3/マウスALK2(WT)-V5-His、またはpcDEF3/ラットALK2(WT)-V5-His、pGL4.26/1dlWT4F-1uc(Genes Cells,7,949(2002);Biochem Biophys Res Commun,407,213(2011))、phRL-SV40(Promega社製)を、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて導入した。2.5時間後、培地をモノクローナル抗体と10ng/mLのBMP7 (Mi1tenyi Biotec社製)を含むOPTI-MEM I(Thermo Fisher Scientific社製)に交換し、さらに一晩培養した。翌日、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、Firefly、およびRenillaのルシフェラーゼ活性をプレートリーダーGENios(TECAN社製)で測定した。
【0199】
結果を図1に記載する。各抗体は、BMP7非存在下のルシフェラーゼ活性(白色カラム)にはほぼ影響せず、10ng/mlのBMP7依存的に誘導されるルシフェラーゼ活性(黒色カラム)を以下のように抑制した。ハイブリドーマ#200の産生するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマA2-11E,A2-15A,A2-25C,A2-27Dの産生するモノクローナル抗体と同様に、ヒトALK2とマウスALK2を過剰発現させたHEK293A細胞のBMP特異的ルシフェラーゼ活性を抑制した。さらに、ハイブリドーマ#200の産生するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマA2-11E,A2-15A,A2-25C,A2-27Dの産生するモノクローナル抗体とは異なり、ラットALK2のBMP特異的ルシフェラーゼ活性も抑制した。一方、ハイブリドーマ#109の産生するモノクローナル抗体は、ヒト、マウス、およびラットALK2をほとんど阻害しなかった。これらの結果より、ハイブリドーマ#200の産生するモノクローナル抗体は、ヒト、マウス、およびラットALK2に結合して、BMPによる細胞内シグナルを阻害する抗体であることが示された。
【0200】
[実施例4]64番目のアミノ酸置換が与える影響の検証(ヒト、サル、イヌ、ラット、マウスの配列比較)
ハイブリドーマA2-27Dの産生するモノクローナル抗体がBMPシグナルを阻害するのに重要なアミノ酸残基を解析した。ヒトALK2(GenBank NM_001104537)、サルALK2(GenBank XP_014965630)、イヌALK2(GenBank XM_549615)、ラットALK2(GenBank NP_077812)、およびマウスALK2(GenBank NP_001103674)の細胞外領域を含むアミノ酸配列(アミノ酸残基1番から140番まで)を図3に示す。シグナルペプチド(アミノ酸残基1番から20番まで)切断後のこれらのALK2において、ラットALK2に特異的なアミノ酸残基として、E25、V59、R64、V103、R106、およびS117が同定された。ラットALK2に特異的なK25E、I59V、H64R、I103V、Q106R、およびT117Sのアミノ酸置換を、それぞれpcDEF3/ヒ卜ALK2-V5-Hisを鋳型として、1残基ずつ導入した発現ベクターと、pcDEF3/ラットALK2-V5-Hisを鋳型として、ヒト、サル、イヌ、マウスのALK2に相当するR64H変異を導入した発現ベクターを構築した。実施例3と同様に、これらのALK2発現ベクターとルシフェラーゼレポータープラスミドを、Lipofectamine 2000を用いて前日に播種したHEK293A細胞に遺伝子導入し、BMP7が誘導するBMP特異的ルシフェラーゼ活性に対する各抗体の作用を測定した。
【0201】
結果を図2に示す。各ALK2のルシフェラーゼ活性は、コントロールIgG2a添加時の活性(白色カラム)に対するハイブリドーマA2-D27の産生するモノクローナル抗体添加時の相対的活性(黒色カラム)として示す。ハイブリドーマA2-D27の産生するモノクローナル抗体は、K25E、I59V、I103V、Q106R、およびT117S変異を導入した各ヒトALK2が活性化するBMP細胞内シグナルを抑制した。一方、ラット野生型ALK2とH64R変異を導入したヒトALK2が活性化するBMPシグナルは、抗体によって抑制されなかった。しかし、ラットALK2にR64H変異を導入すると、抗体によってBMPシグナルが抑制された。これらの結果より、ハイブリドーマA2-27Dの産生するモノクローナル抗体がALK2の細胞内シグナルを抑制するためには、細胞外領域の64番目のヒスチジン残基(H64)が重要なことが示された。
【0202】
[実施例5]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200)のエピトープの重複解析
HEK293A細胞に、実施例3と同様にLipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて一過性にpcDEF3/ヒ卜ALK2-EGFPを遺伝子導入し、2.5時間後に新鮮な10%FBSを含むDMEM培地に交換して一晩培養した。翌日、1×10細胞/mLとなるように調整した細胞懸濁液を、100μLずつ1.5mL微量遠心管に分注し、500gで5分間遠心した後に上清を除去した。細胞に、1μg/mLに希釈したAlexa fluor 647でラベルしたA2-27Dと10μg/mLの精製IgGの混合液100μLを加え、4℃で30分間静置した。細胞をPBSで3回洗浄後、フローサイトメータ-(BD Accuri C6:BD Biosciences社製)で蛍光を検出した。細胞の発現するEGFPの強度と、染色されたAlexa fluor 647の蛍光強度をプロットした。
【0203】
結果を図3に記載する。コントロールの精製IgG1、IgG2aは、蛍光ラベルしたA2-27DのALK2への結合を阻害しないが、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、それぞれ、蛍光ラベルしたA2-27DのALK2への結合を阻害した。一方、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、蛍光ラベルしたA2-27DのALK2への結合を阻害しなかった。これらの結果は、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25Cの産生する抗体のALK2細胞外領域に結合する部位が、ハイブリドーマA2-27Dの結合部位と重複していることを示す。一方、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、A2-27Dとは異なるALK2の細胞外領域に結合することが示された。
【0204】
[実施例6]ラット抗ヒトALK2抗体(#109)によるウェスタンブロット解析
HEK293A細胞に、実施例3と同様にLipofectamine 2000を用いて一過性にpcDEF3、pcDEF3/ヒトALK2(WT)-V5-His、pcDEF3/マウスALK2(WT)-V5-His、およびpcDEF3/ラットALK2(WT)-V5-Hisを遺伝子導入し、2.5時間後に新鮮な10%FBSを含むDMEM培地に交換して一晩培養した。翌日、細胞抽出液を調整し、還元・変性させた後に7%ポリアクリルアミドゲルを用いて分画した後、PVDF膜に転写してウェスタンブロットを行った(J Biol Chem,285,15577(2010);Sci Rep,4,7596(2014))。一次抗体として、抗V5タグ抗体(Cell signaling社製、Cat.#13202)、抗Tubulin抗体(Cell signaling社製、Cat.#2144)、およびハイブリドーマ#109、A2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体(10μg/ml)を用いた。二次抗体として、抗V5タグ抗体及び抗Tubulin抗体に対しては、HRP結合抗ラビットIgG抗体(Cell signaling社製、Cat. #7074)、ラット抗ALK2抗体に対しては、HRP結合抗ラットIgG抗体(Cell signaling社製、Cat.#7077)を用いた。
【0205】
結果を図4に示す。ヒト、マウス、ラットALK2は、抗V5抗体で約65kDaに検出された。しかし、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、ヒト、マウス、ラットALK2のいずれも検出しなかった。一方、ハイブリドーマ#109の産生する抗ALK2モノクローナル抗体は、約65kDaのヒトALK2とマウスALK2を検出し、ラットALK2は検出しなかったことから、還元・変性状態のヒトALK2とマウスALK2を認識することが示された。
【0206】
[実施例7]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200など)による凍結切片を用いた免疫組織染色
C57BL/6マウスの新生児を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で2日間固定後、O.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン社製)で凍結包埋し、クリオスタット(Leica社製、Cat.#CM3050S)を用いて、5μmの厚みで凍結切片を作製した。切片をPBSで3回洗浄し、内在性酵素活性ブロッキング溶液(VECTOR社製、Cat.#SP-6000)を10分間反応させた。その後、PBS-T(0.2%tween20含有PBS)で3回洗浄し、Blocking One Histo(ナカライテスク社製、Cat.#06349-64)を5分間反応させ、一次抗体として、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、#200の産生するラット抗ALK2抗体(10μg/ml)を4℃で一晩反応させた。翌日、PBS-Tで3回洗浄し、二次抗体として、HRP結合抗ラットIgG抗体のImmPRESS Reagent(VECTOR社製、Cat.#MP-7444)を37℃で30分間反応させた。その後、PBS-Tで3回洗浄し、DAB発色(VECTOR社製、Cat.#SK-4100)を行い、蒸留水で洗浄した後、ヘマトキシリンでカウンター染色を行い、定法に従い、カバーガラスで封入し、BZ-9000(Keyence社製)により観察した。
【0207】
結果を図5に示す。ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、コントロールIgGと同様に、凍結切片のマウス新生児のいずれの臓器にも免疫染色陰性であった。一方、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、マウス新生児の複数の臓器に免疫染色陽性像を示したことから、マウスが発現するALK2を凍結切片上で認識する抗体で発現することが示された。
【0208】
[実施例8]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200など)によるパラフィン切片を用いた免疫組織染色
C57BL/6マウスの新生児を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で2日間固定後、定法に従い、脱水及び置換を行い、パラフィンで包埋した。回転式ミクロトーム(Leica社製、Cat.#RM2125RT)を用いて、4μmの厚みでパラフィン切片を作製した後、37℃で一晩乾燥させた。切片をPBSで3回洗浄し、内在性酵素活性ブロッキング溶液(VECTOR社製、Cat.# SP-6000)を10分間反応させた。その後、PBS-T(0.2%Tween20含有PBS)で3回洗浄し、Blocking One Histo(ナカライテスク社製、Cat.#06349-64)を5分間反応させ、一次抗体として、ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27D、#109、#200の産生するラット抗ALK2抗体(10μg/ml)を4℃で一晩反応させた。翌日、PBS-Tで3回洗浄し、二次抗体として、HRP結合抗ラットIgG抗体であるImmPRESS Reagent(VECTOR社製、Cat.#MP-7444)を37℃で30分間反応させた。その後、PBS-Tで3回洗浄し、DAB発色(VECTOR社製、Cat.#SK-4100)を行い、蒸留水で洗浄した後、ヘマトキシリンでカウンター染色を行い、定法に従い、カバーガラスで封入し、BZ-9000(Keyence社製)により観察した。
【0209】
結果を図6に示す。ハイブリドーマA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、コントロールIgGと同様に、パラフィン切片のマウス新生児のいずれの臓器にも免疫染色陰性であった。一方、ハイブリドーマ#109と#200の産生する抗体は、マウス新生児の複数の臓器に免疫染色陽性像を示したことから、マウスが発現するALK2をパラフィン切片上で認識する抗体で発現することが示された。
【0210】
[実施例9]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200など)によるALK2ホモ二量体の形成
モノクローナル抗体によるヒトALK2のホモ二量体形成は、NanoBIT(登録商標)Protein:Protein Interaction System(Promega社製)を用いて測定した。ヒトALK2 cDNAをpBIT1.1-C[TK/LgBIT]vector、および、pBIT2.1-C[TK/SmBIT]vectorにそれぞれクローニングした。実施例3と同様に、前日にルシフェラーゼ・アッセイ用96穴白色プレート(グライナ一社製)に播種したHEK293A細胞に、ヒトALK2を発現するpBIT1.1-C[TK/LgBIT]とpBIT2.1-C[TK/SmBIT]を、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific)を用いて導入した。2.5時間後に培地を新鮮なOPTI-MEM Iに交換し、さらに一晩培養した。翌日、Nano-GLO(登録商標) Live Cell Assay System(Promega社製)を用いて、100ng/ml BMP7 (Mi1tenyi Biotec社製)、または10μg/mlモノクローナル抗体の添加後14分に誘導されるNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ活性を、プレートリーダー FLUOstar Omega(BMG Labtech社製)で測定した。
【0211】
結果を図7に示す。ハイブリドーマ#109、#200、およびA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼの活性を促進したことから、ヒトALK2のホモ二量体形成を誘導することが示された。
【0212】
[実施例10]ラット抗ヒトALK2抗体(#109、#200など)によるALK2-type II受容体ヘテロ二量体の形成阻害
モノクローナル抗体によるヒトALK2とマウスActR-IIBのヘテロ二量体形成は、NanoBIT(登録商標) Protein:Protein Interaction System(Promega社製)を用いて測定した。マウスActR-IIB cDNAをpBIT1.1-C[TK/LgBIT] vector、および、ヒトALK2 cDNAをpBIT2.1-C[TK/SmBIT]vectorにそれぞれクローニングした。実施例9と同様に、HEK293A細胞に、ヒトALK2とマウスActR-IIBを発現するベクターを、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製)を用いて遺伝子導入した。2.5時間後に培地を新鮮なOPTI-MEM Iに交換し、さらに一晩培養した。翌日、Nano-GLO(登録商標) Live Cell Assay System(Promega社製)を用いて、100ng/ml BMP7(Mi1tenyi Biotec社製)によって誘導されるNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ活性に対する、モノクローナル抗体の作用をプレートリーダー FLUOstar Omega(BMG Labtech社製)で測定した。
【0213】
結果を図8に示す。ハイブリドーマ#200、およびA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、BMP7が誘導するALK2とマウスActR-IIBヘテロ二量体のNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ活性を抑制した。一方、ハイブリドーマ#109の産生するモノクローナル抗体は、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ活性を阻害しなかった。これらの結果より、ハイブリドーマ#200、およびA2-11E、A2-15A、A2-25C、A2-27Dの産生するラット抗ALK2抗体は、BMP7によって誘導されるALK2とActR-IIB受容体のヘテロ二量体形成を抑制することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の抗体は、BMP関連疾患であるFOP、DISH、DIPGの疾患の治療剤や予防剤としての利用だけでなく、組織等の生物材料の免疫染色やウェスタンブロットなどの免疫学的かつ免疫組織学的な解析ツールとして利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0215】
配列番号1:ヒトALK2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号2:マウスALK2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:ラットALK2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号4:ヒトALK2のアミノ酸番号1-140のアミノ酸配列
配列番号5:サルALK2のアミノ酸番号1-140のアミノ酸配列
配列番号6:イヌALK2のアミノ酸番号1-140のアミノ酸配列
配列番号7:ラットALK2のアミノ酸番号1-140のアミノ酸配列
配列番号8:マウスALK2のアミノ酸番号1-140のアミノ酸配列
配列番号9:ALK2_#200_VHのアミノ酸配列
配列番号10:ALK2_#200_VHのcDNA配列
配列番号11:ALL2_#200_VLのアミノ酸配列
配列番号12:ALK2_#200_VLのcDNA配列
配列番号13:ALK2_#200_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号14:ALK2_#200_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号15:ALK2_#200_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号16:ALK2_#200_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号17:ALK2_#200_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号18:ALK2_#200_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号19:ALK2_#109_VHのアミノ酸配列
配列番号20:ALK2_#109_VHのcDNA配列
配列番号21:ALK2_#109_VLのアミノ酸配列
配列番号22:ALK2_#109_VLのcDNA配列
配列番号23:ALK2_#109_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号24:ALK2_#109_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号25:ALK2_#109_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号26:ALK2_#109_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号27:ALK2_#109_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号28:ALK2_#109_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号29:ALK2_A2-15A_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号30:ALK2_A2-15A_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号31:ALK2_A2-15A_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号32:ALK2_A2-15A_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号33:ALK2_A2-15A_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号34:ALK2_A2-15A_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号35:ALK2_A2-27D_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号36:ALK2_A2-27D_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号37:ALK2_A2-27D_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号38:ALK2_A2-27D_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号39:ALK2_A2-27D_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号40:ALK2_A2-27D_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号41:ALK2_A2-11E_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号42:ALK2_A2-11E_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号43:ALK2_A2-11E_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号44:ALK2_A2-11E_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号45:ALK2_A2-11E_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号46:ALK2_A2-11E_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号47:ALK2_A2-25C_VH_CDRH1のアミノ酸配列
配列番号48:ALK2_A2-25C_VH_CDRH2のアミノ酸配列
配列番号49:ALK2_A2-25C_VH_CDRH3のアミノ酸配列
配列番号50:ALK2_A2-25C_VL_CDRL1のアミノ酸配列
配列番号51:ALK2_A2-25C_VL_CDRL2のアミノ酸配列
配列番号52:ALK2_A2-25C_VL_CDRL3のアミノ酸配列
配列番号53:プライマー(Inf-RKR5)のヌクレオチド配列
配列番号54:プライマー(Inf-RG2AR3)のヌクレオチド配列
配列番号55:A2-15A抗体の改変CDRL2のアミノ酸配列
配列番号56:ヒト化hA2-15A-H4(IgG2)のアミノ酸配列
配列番号57:ヒト化hA2-15A-L6のアミノ酸配列
配列番号58:ヒト化hA2-27D-H2-LALA(IgG1)のアミノ酸配列
配列番号59:ヒト化hA2-27D-L2のアミノ酸配列
配列番号60:ヒト化hA2-27D-H3-LALA(IgG1)のアミノ酸配列
配列番号61:ヒト化hA2-27D-L4のアミノ酸配列
【0216】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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