IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社メルビルの特許一覧

<>
  • 特許-試料ホルダー 図1
  • 特許-試料ホルダー 図2
  • 特許-試料ホルダー 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20250417BHJP
【FI】
H01J37/20 E
H01J37/20 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022533910
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2021023735
(87)【国際公開番号】W WO2022004514
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2020115844
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512024336
【氏名又は名称】株式会社メルビル
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕也
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-500265(JP,A)
【文献】特開2007-299753(JP,A)
【文献】特表2008-508684(JP,A)
【文献】特開2012-033335(JP,A)
【文献】特開2016-085066(JP,A)
【文献】特開2018-129163(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0108067(US,A1)
【文献】北野精機械株式会社,「ペルチェ式加熱・冷却TEM試料ホルダー」,イプロスものづくり,日本,2020年01月31日,https://www.ipros.jp/product/detail/2000489684/,[online], 2021/08/30アクセス時に表示されたウェブサイトの最終更新日が2020/01/31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、冷却部と、前記冷却部に近接して設置された熱電素子とを有する試料ホルダーであって、前記冷却部は着脱可能であり、試料ホルダー本体及び前記冷却部には、前記試料ホルダー本体と前記冷却部とを接続する冷媒切替用のアタッチメント接続部を有することを特徴とする試料ホルダー。
【請求項2】
前記熱電素子は、ペルチェ効果、又はトムソン効果の少なくとも1種から選択される効果を利用した熱電素子である請求項1記載の試料ホルダー。
【請求項3】
前記熱電素子の放熱側と、前記冷却部とが接触する請求項1又は2項に記載の試料ホルダー。
【請求項4】
前記冷却部の冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒からなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
前記熱電素子からの熱を、前記試料ホルダー軸に伝達することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項6】
クランプ機構を介して前記熱の伝達を行うことを特徴とする請求項5記載の試料ホルダー。
【請求項7】
前記試料ホルダー軸部は、回転可能である請求項1~5のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項8】
前記試料ホルダー軸部は、前後に可動可能である請求項1~5のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項9】
前記冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒であることを特徴とする請求項1記載の試料ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダー、及び当該試料ホルダーを有する電子顕微鏡に関し、特に、試料を冷却可能な試料ホルダー、及び当該試料ホルダーを有する電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)等の電子顕微鏡における高分解能解析が進んでおり、例えば、ナノオーダーからピコオーダーへと高分解能解析が要望されてきている。昨今、電子顕微鏡内で試料を観察しながら冷却(や加熱、電場印加、磁場印加、回転)などを行う“その場観察”が注目を浴びている。例えば、既存の冷却ホルダーは、その多くが液体窒素や液体ヘリウムを冷媒としたものが中心で、TEM筐体の外部から試料までを熱伝導で冷却する方法が主流である。また、その冷却温度はそれらの沸点(液体窒素;約-196度、液体ヘリウム;約-269度)であることがほとんどである。熱伝導路の途中にヒーターを組み込むことで沸点以上の温度に制御することも可能だが、一定以上の加熱は、ヒーターの熱で液体窒素にバブリングを発生させ、その振動が顕微鏡像の分解能を著しく低下させるため利用は困難である。そのため、市販の冷却ホルダーでは安定的に運用・観察できる温度制御範囲はおおよそ-269度~-100度程度までが一般的である。かかる観点から、ペルチェ素子高温側で発生する熱を大気中へ効率よく放散し、冷却効率を改善した電子顕微鏡の試料冷却装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-260125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1を含め従来技術においては、ペルチェ式の冷却ホルダーではペルチェ素子の吸熱面と熱伝導路を固定した構造が主流のため、二軸傾斜のための回転軸を配することが困難であった。また、ペルチェ式の冷却はペルチェ素子の放熱面の熱を大気(空気)や流水を用いて冷却処理する必要がある。自然対流でも強制対流でも良いが自然対流の場合、放熱側をカバーなどで覆ってしまうと放熱が不十分なので、なるべく放熱側を大気に露出するようにしなくてはいけない。または、十分な吸熱を得るためには流水などによる強制対流が望ましいが強制対流の場合、装置によっては、対流や脈流によって顕微鏡像がゆれて分解能を著しく低下させる原因になっていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、試料を冷却しながら、回転させることをも可能とする試料ホルダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、試料ホルダーの冷却機構について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0007】
すなわち、本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、冷却部と、前記冷却部に近接して設置された熱電素子とを有する試料ホルダーであって、前記冷却部は着脱可能であり、試料ホルダー本体及び前記冷却部には、前記試料ホルダー本体と前記冷却部とを接続する冷媒切替用のアタッチメント接続部を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子は、ペルチェ効果、又はトムソン効果の少なくとも1種から選択される効果を利用した熱電素子であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子の放熱側と、前記冷却部とが接触することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記冷却部の冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子からの熱を、前記試料ホルダー軸に伝達することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、クランプ機構を介して前記熱の伝達を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料ホルダー軸部は、回転可能であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料ホルダー軸部は、前後に可動可能であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の試料ホルダーによれば、試料を観察しながら、冷却及び回転を行うことができるという有利な効果を奏する。
【0019】
本発明の試料ホルダーによれば、冷却・加熱のレスポンスが良く熱ドリフトの影響を極力抑えることができるという有利な効果を奏する。また、本発明の試料ホルダーによれば、冷却・加熱のレスポンスが良くなるために、精密な温度コントロールを可能であるという有利な効果を奏する。
【0020】
また、本発明の試料ホルダーによれば、ペルチェなどの熱電素子を有することから、長時間にわたって冷却下で観察可能であり、ひいては、長時間のEDS分析やEELS分析が可能であるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーを示す図である。図1(a)は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの上面図を示す。図1(b)は、図1(a)のB-B断面図を示し、図1(c)は、図1(a)のA-A断面図を示す。
図2図2は、本発明に適用可能な熱電素子の一実施態様を示す。図2(a)は、ペルチェ素子の断面図を示し、図2(b)は、ペルチェ素子の原理の模式図を示す。
図3図3は、本発明の一実施態様における試料ホルダーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、冷却部と、前記冷却部に近接して設置された熱電素子とを有することを特徴とする。試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部については、特に限定されず、試料を設置する試料設置部のみを有してもよい。
【0023】
また、本発明において、冷却部の配置位置については特に限定されないが、例えば、試料ホルダーの取っ手側に配置することができる。冷却部においては、具体的には、液体窒素、液体ヘリウム、又は固体の冷媒等を利用して、試料ホルダー軸、遮蔽部(有る場合)、ひいては、試料を冷却することが可能となる。
【0024】
本発明においては、前記冷却部に近接して設置された熱電素子を有する。本発明において、熱電素子の配置位置についても、冷却部に近接して設置されていれば、特に限定されない。熱電素子によって、効率的に、試料に要求される温度を設定する、すなわち、温度制御することが可能となる。
【0025】
本発明においては、熱電素子の配置位置について、冷却部に近接して設置されていればよく、例えば、固体の冷媒等の冷却部を放熱面側に押し付けるような構造でも良いし、隙間を空けて冷気を当てるような構造でも良い。冷気を当てる場合は、自然対流でもファンなどを用いた強制対流でもいいが、強制対流が振動を発生する場合は、強制対流の程度にもよるが、自然対流が望ましい。自然対流の場合でも、固体の冷媒が十分に低い温度を有しているので、放熱面側と固体冷媒等の冷却部の冷気の間に大きな温度勾配があるので、十分な熱の移動が発生し放熱面を適切に冷却できるものと考えられる。なお、自然対流よりも強制対流で、空冷よりも水冷による放熱の処理が有効である。
【0026】
すなわち、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記冷却部の冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒からなることを特徴とする。上述及び後述するように、冷媒は、固体であっても、液体であっても、気体であってもよい。
【0027】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子は、ペルティエ効果、又はトムソン効果の少なくとも1種から選択される効果を利用した熱電素子であることを特徴とする。ペルティエ効果(ペルチェ効果ともいう)は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する効果であり、2種類の異種金属(または半導体)の両端を接続し電流を流すと、両端に温度差が生じる現象である。特にペルティエ素子と呼ばれ、精密機器やワインセラーなどの冷却に利用されているものである。また、トムソン効果は、温度勾配を持たせた一様金属(または異種金属)に電流を流したときに発生する、ジュール熱以外の熱の発生(電流を反転させると熱の吸収)する効果のことを言う。いずれも、熱を発生させたり、熱を吸収したりすることができる。
【0028】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子は、冷却・加熱のレスポンスが良く熱ドリフトの影響を極力抑えるという観点から、ペルティエ素子であることを特徴とする。ペルティエ素子は、ペルチェ素子(サーモ・モジュール)とも呼ばれており、これは、ペルチェ効果を利用した素子の総称である。現在主流で最も性能が良いとされている構造は“π形”と呼ばれるもので、図2のような構造を持っている。P型半導体とN型半導体を用いたPN接合部に電流を流すことで、P-N間で放熱、N-P間で吸熱を起こすことができる。
【0029】
原理は、以下の通りである。図2は、本発明に適用可能な熱電素子の一実施態様を示す。図2(a)は、ペルチェ素子の断面図を示し、図2(b)は、ペルチェ素子の原理の模式図を示す。図2(a)において、21はホットサイドの金属(主にCu)、22はセラミックス基板(主にアルミナ)、23は放熱面、24はN型半導体、25はP型半導体、26は電線、27は電源、28は吸熱、29はN型半導体の伝導帯、30は放熱、31はプラス側、32は吸熱側、33は価電子帯、34は放熱側、35はマイナス側、36はコールドサイドの金属(主にCu)、37はコールドサイドの金属(主にCu)、38は電子、39は正孔、40はP型半導体の伝導帯をそれぞれ示す。
【0030】
図2(a)において、N型半導体24側の金属36にマイナス極が接続されている。したがって、電圧によって電子はこの金属36の伝導帯からN型半導体24の伝導帯29に押し上げられる。この時、金属36の伝導帯とN型半導体24の伝導帯29にエネルギーギャップがあるため、電子は金属36から熱エネルギーを奪いその結果この金属36を冷却する。引き続いて電子は流れ、N型半導体24の伝導帯29から金属21の伝導帯に落ちる。両バンドのエネルギーギャップによって電子は熱エネルギーを放出する。このようにしてホットサイドの金属21を加熱する。さらに流れてきた電子は金属21の伝導帯から、P型半導体25の中を流れてきた正孔39に落ち込み熱エネルギーを放出し、ホットサイドの金属21を加熱する。P型半導体25の中では電圧によって正孔39が生産されコールドサイド37からホットサイド21に流れる。その時に生じた電子が電圧によってコールドサイドの金属の伝導帯に押し上げられ、それらのエネルギーギャップに応じた熱エネルギーを奪いコールドサイドの金属37を冷却する。このように電流が流れることによってペルチェモジュールのコールドサイドからホットサイドに熱が運ばれることになる。電流によって運ばれる熱エネルギーの他に熱伝導によって運ばれる熱エネルギーがあるが、熱伝導によって運ばれる熱エネルギーは流れの方向が逆のため少なくするほどペルチェモジュールの性能が良くなる。つまりホットサイドの熱エネルギーをヒートシンク等でできるだけ早く取ってやることがペルチェモジュールに良い性能を発揮させることになる。簡単に言えば、電子が熱を運ぶ(奪う)ということになる。
【0031】
半導体の材料としては、特に限定されず、いずれも適用することが可能であるが、Bi-Te系半導体が最も性能が良いとされ主流となっている。
【0032】
ペルチェの性能について、一般的に、ペルチェの性能は放熱側の温度を一定にしたときの温度Thに対して、どれだけの温度差ΔTをつけることができるかで考えることができる。例えば、Th=75、 50、 25 (℃)に対して、ΔT= 93、 85、 75のようになっている。単純に放熱面を、例えば液体窒素温度(-196℃)で冷却し続ければ、吸熱面では、マイナス二百数十度を超えると考えられるが、実際には、材料の特性上液体窒素付近ではΔT=10℃と想定される。低温にすればするほど、電子を励起するための熱がなくなっていくので、ペルチェ冷却能力が低下することと、低温であればあるほど、半導体部分の電気抵抗が大きくなってくるので電流で自己発熱する結果、全体としての冷却能力が低下するからであると考えられる。
【0033】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、熱電素子の放熱側を冷却することにより、より低い温度まで設定することが可能であるという観点から、前記熱電素子の放熱側と、前記冷却部とが接触することを特徴とする。下記の実施例においては、冷却する場合を主として記載しているが、本発明においては、熱電素子により、加熱することも可能である。
【0034】
加熱の場合は、冷却に場合と比較して、現象としては単純に逆転することになるが、ペルチェ素子など熱電素子の形状(多段式かどうか)によっても実用性は変わってくる。基本的に限りなく低い温度を目指す場合、多段式の熱電素子、例えばペルチェ素子を用いることができる。この場合、吸熱面(上段)の面積が小さく放熱面に向かって大きくなるピラミッドのような構造とすることができる。このような構造とするのは、基本的に面積が大きい方が吸熱量は大きいので、面積の小さな上段で吸収した熱をより大きな面積の下段の素子で排熱するためである。電流の極性を反転して加熱を目的で使用する場合は、単純ではなく、面積の小さな上段に面積の大きな下段からの熱が一気に流れ込んでくる傾向にある。上段がその熱を受け止めきれない場合は、中段に熱が溜まり、上段よりも温度が高くなる傾向になる。そのため多くのペルチェ素子では加熱側で使うとしても+100℃前後(接合部の半田が劣化しない温度)となると考えられる。
【0035】
液体窒素では液体窒素が無くなった段階でつぎ足す必要があるが、本発明においては、強制対流チラーによって、ペルチェなどの熱電素子を有することから、長時間にわたって冷却下で観察可能であり、ひいては、長時間のEDS分析やEELS分析が可能である。なお、強制対流チラーとは、例えば、冷媒を強制的に放熱面を循環させるものを意味することができる。例えば、強制対流チラーとして、低脈動でかつ低温-20度の冷媒を適用することが可能である。
【0036】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、低脈動チラーと、重心バランスや、重さなど複合的要素によって振動は入らないという観点から、前記冷却部の冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒からなることを特徴とする。すなわち、本発明において、ペルチェ素子等の放熱面をドライアイスなどの固体の冷媒、水などの液体冷媒、各種ガスによる気体冷媒により冷やすことが可能である。これによって、振動の影響を限りなくゼロにすることが可能である。なお、重心バランスについて補足説明すると、ハンドルすなわちペルチェの放熱面(ヒートシンク)を重く設計することで、対流による振動をヒートシンクで受けることが可能となり、振動を抑制することができる。また、チラーなどの強制対流の場合、空気層が出来ない構造にすることで気泡が入らず、泡による振動を抑制させることで強制対流にも適応させることができる。
【0037】
一方で、冷却ガスを微小流量を含め通常の流量にて流す場合も、振動の影響が少ないため、本発明においては、これらを利用可能である。冷却ガスは、例えば、液体窒素をガス化して取り出したものなどを挙げることができる。本発明において、冷却ガスは液体窒素に限定されない。ガスを放熱面に通すだけであれば振動の影響はほぼなく実用できると考えられる。したがって、本発明においては、上述のように、実際に冷却部として、固体冷媒を使う場合であっても、放熱面に押し当てるのではなく、隙間を空けて冷気を当てれば足り、また、同様に、液体窒素ガスを使う場合には、冷却ガスを放熱面に通して振動の影響を受けることなしに、観察可能となる。
【0038】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記熱電素子からの熱を、前記試料ホルダー軸に伝達することを特徴とする。熱電素子からの熱を、試料ホルダー軸に伝達できれば足り、例えば熱電素子からの熱を部材を介して、試料ホルダーに接触させることができる。好ましい実施態様において、前記熱電素子からの熱を熱伝導部を介して、前記試料ホルダー軸に伝達することが可能である。このような熱伝導部の存在によって、前記熱電素子と、試料ホルダー軸とを熱伝導性部材からなる熱伝導部でつないでおけば、冷却部からの熱を試料ホルダー軸、ひいては試料へ伝えることが可能とする。なお、熱伝導部は、試料ホルダー軸の二軸傾斜機構を害さないように、試料ホルダー軸と接触できれば足り、特に限定されない。
【0039】
本発明において、熱伝導部は熱を効率よく伝導可能であれば、特に限定されず、例えば、純銅、銅合金、アルミ合金等を挙げることができる。その他、(STC)カーボンを混ぜた銅、熱伝導率の良い材料で、機械加工が可能なものであれば何でも良い。
【0040】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、クランプ機構を介して前記熱の伝達を行うことを特徴とする。本発明において、好ましくは、熱伝導部がクランプ機構を有することができる。これによって、より高性能に試料の二軸傾斜機構を害することがなく、かつ冷却も可能とする。
【0041】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料ホルダー軸部は、回転可能であることを特徴とする。本発明において、前記試料ホルダー軸部は、回転可能とする機構については、常法により、特に限定されない。例えば、本発明において、回転については、試料ホルダー軸部をモーターなどに連結し、当該試料ホルダー軸を回転させることで先端部の二軸傾斜機構に連動させることができ、試料を傾斜可能にすることができる。このように試料の二軸傾斜機構を含む態様においても、本発明を適用可能である。
【0042】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料ホルダー軸部は、前後に可動可能であることを特徴とする。本発明において、前記試料ホルダー軸部は、前後に可動可能、すなわち、試料ホルダー軸部を、電子顕微鏡の中心方向と、試料ホルダーのいわゆる取っ手方向との間で、可動可能とする機構については、常法により、特に限定されない。このような態様によれば、本発明の試料ホルダーは、大気非暴露機構に対応可能となる。例えば、前後に可動として、ホルダーハンドル(取っ手)部と試料ホルダー軸部を連結したうえで、ハンドル部を後方に引張ることで試料ホルダー軸部が軸方向に駆動し、ホルダー先端部を外筒部に格納できる。外筒部に格納することで、大気とホルダー内部を隔離することが可能となる。
【0043】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記冷却部は着脱可能であることを特徴とする。着脱可能とすることにより、いかなる冷媒にも簡便に対応可能となる。放熱面のカバーを変更することで、いかなる冷媒にも簡便に対応可能となる。着脱可能とする方法については、特に限定されず、常法による。
【0044】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、試料ホルダー本体及び前記冷却部には、前記試料ホルダー本体と前記冷却部とを接続する冷媒切替用のアタッチメント接続部を有することを特徴とする。これによっても、より簡便に、いかなる冷媒にも対応可能となる。すなわち、冷却部を交換することによって、水冷や液体窒素気化ガスの強制対流を行うことも可能で、強制対流のメリットは継続的に放熱面を冷やすことができ、長時間の観察と分析に好都合な装置を提供することができる。接続部は、前記試料ホルダー本体と前記冷却部とを接続することが可能であれば、特に限定されない。接続方法についても、常法を用いることが可能である。
【0045】
このように、冷却水による強制対流でも振動は乗らないため、個体冷媒でなくても振動が乗らない構造であれば、冷却水の強制対流でも振動の影響を受けることが無い。振動が乗らない場合は、冷却水による強制対流が一番効率よく長時間の観察に適するということができる。冷却水は一例であり、強制対流であれば水に限定されない。例えば、冷媒の代表例としては、フロリナートやガルデンを用いることができる。本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、冷却部が着脱可能であっても、前記冷媒は、固体冷媒、液体冷媒、又は気体冷媒であることができる。
【0046】
次に、図1を用いて、本発明の一実施態様における一例の試料ホルダーについて説明するが、本発明は下記一例に限定して解釈されることを意図するものではない。
【0047】
図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーを示す図である。図1(a)は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの上面図を示す。図1(b)は、図1(a)のB-B断面図を示し、図1(c)は、図1(a)のA-A断面図を示す。図1において、1は弾性部材、2は熱伝導部、3は二軸駆動用モーター、4はヒートシンク、5は冷却部、6は断熱部(断熱材)、7は熱電素子(ペルチェ素子)、8は試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)、9は試料及び/又は試料メッシュ設置部、10は外筒部を、それぞれ示す。
【0048】
図1(b)において、2は、熱伝導部であり、この例では、クランプ機構を有する。1は、ばね等の弾性部材を示し、試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)8の回転を妨げることなく、かつ適切な熱接触を与えるように適宜調製することができる。
【0049】
図1(c)において、2は熱伝導部であり、この例では、クランプ機構を有する。クランプ機構は、試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)8の回転を妨げることなく、かつ適切な熱接触を与えるように適宜調製することができる。3は二軸駆動用モーターであり、二軸駆動を要求される観察において必要とされる。4はヒートシンク、5は冷却部である。冷却部においては、具体的には、液体窒素、液体ヘリウム、又は固体の冷媒等を利用することができ、特に限定されない。より高精度な観察が必要とされる場合等、冷却部としてドライアイス等の固体冷媒を冷却部に用いることができる。また、上述のように、冷却部に冷却ガスを利用することも可能である。冷却ガス(液体窒素ガスなど)で冷却する場合も水冷に比べて脈動の影響なく高い分解能の観察が可能である。6は断熱部(断熱材)、7は熱電素子であり、この例ではペルチェ素子である。ペルチェ素子の放熱側を空冷や水冷(冷媒)で冷やすことで、より低い温度まで冷やすことが可能になる。ペルチェ素子によりコントロールされた熱(冷却又は加熱)は、試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)8へ、熱伝導部2を介して、伝導することが可能である。熱伝導部を介して伝えられた熱は、試料及び/又は試料メッシュ設置部9を冷却又は加熱することができる。本発明において、固体の冷媒(ドライアイスなど;-78.5度)を用いる態様においては、水冷式のペルチェ冷却に比べて振動が限りなくゼロになり安定して高い分解能を持った観察が可能になる。また、熱伝導クランプなどの熱伝導部を用いることで二軸傾斜による観察をより安定的に可能であることが判明した。また、ペルチェ素子の放熱面をドライアイスなどの固体の冷媒を用いることで、より低温領域、例えば、-100℃の場合には好適であることが判明した。
【0050】
また、図3は、別の態様における本発明の一実施態様における試料ホルダーを示す図である。図3において、2は熱伝導部、3は二軸駆動用モーター、4はヒートシンク、7は熱電素子(ペルチェ素子)、8は試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)、9は試料及び/又は試料メッシュ設置部、10は外筒部、50は冷媒用ヒートシンクアタッチメント、51は冷媒又は強制冷却用等カバー、52は冷媒OUT、53は冷媒INを、それぞれ示す。
【0051】
図3において、2は熱伝導部であり、この例では、クランプ機構を有する。クランプ機構は、試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)8の回転を妨げることなく、かつ適切な熱接触を与えるように適宜調製することができる。3は二軸駆動用モーターであり、二軸駆動を要求される観察において必要とされる。4はヒートシンク、冷却部はこの態様において、着脱可能となっている。冷却に用いる冷媒としては、固体冷媒、液体冷媒、気体冷媒を用いることができる。具体的には、水、液体窒素、液体ヘリウムなどの液体の冷媒、各種ガスによる気体の冷媒、又は固体の冷媒等を利用することができ、特に限定されない。7は熱電素子であり、この例ではペルチェ素子である。ペルチェ素子の放熱側を空冷や水冷(冷媒)で冷やすことで、より低い温度まで冷やすことが可能になる。ペルチェ素子によりコントロールされた熱(冷却又は加熱)は、試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)8へ、熱伝導部2を介して、伝導することが可能である。熱伝導部を介して伝えられた熱は、試料及び/又は試料メッシュ設置部9を冷却又は加熱することができる。このように、本発明においては、放熱面のカバーを変更することで、いかなる冷媒にも対応可能となる。水冷や液体窒素気化ガスの強制対流を行うことも可能で、強制対流のメリットは継続的に放熱面を冷やすことができ、長時間の観察と分析に向いていることが判明した。本発明においては、冷却水による強制対流でも振動は乗らないため、個体冷媒でなくても振動が乗らない構造であれば、冷却水の強制対流でも振動の影響を受けることが無いことも判明した。振動が乗らない場合は、冷却水による強制対流が一番効率よく長時間の観察に適していることも判明した。冷却水は一例であり、強制対流であれば水に限定されない。冷媒の代表例としては、フロリナートやガルデンを挙げることができる。
【0052】
このように、本発明によれば、低温側の中間温度(-100度~0度付近)を作るためには、液体窒素式の冷却ホルダーなどと同様にペルチェ素子を筐体の外側(試料ホルダーのハンドル部付近)に配し、熱伝導によって試料先端部を冷却することが可能であることが判明した。ペルチェ素子は電子の移動によって吸熱面と放熱面を作り、ペルチェ素子に通電する電流量を制御することで、室温付近からマイナス領域の温度を精密に制御することが原理的には可能である。これらの効果によって、二軸傾斜が可能かつ安定して高分解能観察、及び冷媒によっては、長時間の安定した観察が可能な熱電素子式試料ホルダーを製作可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
二軸傾斜を阻害することなく、冷却も可能な試料ホルダー(Holder)は、その場観察に寄与し、広範な技術分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 弾性部材
2 熱伝導部
3 二軸駆動用モーター
4 ヒートシンク
5 冷却部
6 断熱部(断熱材)
7 熱電素子(ペルチェ素子)
8 試料ホルダー軸(二軸傾斜軸、熱伝導軸)
9 試料及び/又は試料メッシュ設置部
10 外筒部
21 ホットサイドの金属(主にCu)
22 セラミックス基板(主にアルミナ)
23 放熱面
24 N型半導体
25 P型半導体
26 電線
27 電源
28 吸熱
29 N型半導体の伝導帯
30 放熱
31 プラス側
32 吸熱側
33 価電子帯
34 放熱側
35 マイナス側
36 コールドサイドの金属(主にCu)
37 コールドサイドの金属(主にCu)
38 電子
39 正孔
40 P型半導体の伝導帯
50 冷媒用ヒートシンクアタッチメント
51 冷媒、強制冷却用等カバー
52 冷媒OUT
53 冷媒IN
図1
図2
図3