(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】毛包幹細胞の活性化用組成物、並びに毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/201 20060101AFI20250417BHJP
A61K 31/7028 20060101ALI20250417BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20250417BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250417BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20250417BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20250417BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20250417BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20250417BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250417BHJP
【FI】
A61K31/201
A61K31/7028
A61P17/14
A61P43/00 111
A61K8/365
A61K8/60
A61Q7/00
A23L33/10
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2023167245
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀人
(72)【発明者】
【氏名】坪川 涼
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢章
(72)【発明者】
【氏名】原 貴史
(72)【発明者】
【氏名】深田 俊幸
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140953(JP,A)
【文献】特開平10-265347(JP,A)
【文献】特開2023-049333(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びそ
の酸無水物及び配糖体である誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1の有効成分と、2-デセン二酸及びそ
の酸無水物及び配糖体である誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2の有効成分を含むことを特徴とする毛包幹細胞の活性化用組成物。
【請求項2】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びそ
の酸無水物及び配糖体である誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1の有効成分と、2-デセン二酸及びそ
の酸無水物及び配糖体である誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2の有効成分を含むことを特徴とする毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物又は毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物。
【請求項3】
飲食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛包幹細胞の活性化用組成物、並びに毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Wntシグナル経路及びBmp(Bone Morphogenetic Protein)シグナル経路は、いずれも複数の因子で構成され、細胞表面の受容体を介して細胞内へシグナルを伝達する。これらのシグナル経路はどちらも発生初期に重要な役割を担い、細胞の分化及び組織の配置に関する細胞間のシグナルを調整し、細胞間の相互作用を適切に制御するように機能する。
【0003】
Wntシグナル経路におけるWnt3(Wnt Family Member 3)及びBmpシグナル経路におけるBmp4(Bone Morphogenetic Protein 4)は、毛包幹細胞の幹細胞性の維持に関連していることが知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照)。
【0004】
毛包幹細胞は休止期までは幹細胞性を維持したまま静止している。休止期から成長期へ移行する際に、毛包幹細胞は増殖及び分化する。Wnt3タンパク質及びBmp4タンパク質の発現量が減少すると、毛包幹細胞は静止している状態を解き、休止期から成長期へ移行する。すなわち、毛包幹細胞におけるWnt3タンパク質及びBmp4タンパク質の減少により、休止期にある毛包幹細胞が成長期に誘導され、毛包幹細胞の増殖が促進し、及び分化が促進するように、毛包幹細胞が活性化される。そして、毛包幹細胞の活性化の結果として、毛母細胞の割合が増加する。
【0005】
禿頭症及び男性型脱毛症の治療剤として育毛剤が知られている。育毛剤の有効成分としては種々の物質が知られており、その中に不飽和脂肪酸がある。すなわち、不飽和脂肪酸を有効成分として含む育毛剤が知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献3を参照)。
【0006】
一方、種々の不飽和脂肪酸を含む天然由来のものとして、ローヤルゼリーがある。ローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び10-ヒドロキシデカン酸が女性型脱毛症の改善に有効であることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-81962号公報
【文献】特許第6808737号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Plikus MV et al., Nature. 2008 Jan 17;451(7176):340-4.
【文献】Lim X et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Mar 15;113(11): E1498-505.
【文献】Brotzu G et al., Dermatol Ther. 2019 Jan;32(1):e12778.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2並びに非特許文献3に記載のものは、禿頭症、男性型脱毛症及び女性型脱毛症の治療又は改善に有用である。しかし、これらの文献に記載の有効成分が毛包幹細胞を活性化し得ることについては、これらの文献には記載がない。
【0010】
また、天然由来であり、安全性が認められながら、毛包幹細胞を活性化し得る成分については、これまでにほとんど知られていない。
【0011】
そこで、本発明は、天然由来であり、安全性が認められ、かつ毛包幹細胞を活性化し得る成分を有効成分として含有する毛包幹細胞の活性化用組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。さらに、本発明は、毛包幹細胞を活性化し得る、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、数多くの成分を単独又は適宜組み合せて、毛包幹細胞を活性化する有効成分を得ようと試行錯誤した。
【0013】
そして、数々の検討を重ねた結果、遂に、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸の組み合わせが、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を通じて、毛包幹細胞を活性化できることを見出した。そして、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、ローヤルゼリーに含まれる成分であり、安全性が認められている。
【0014】
このような知見の下で、本発明者らは、本発明の課題を解決するものとして、天然由来であり、かつ安全性が認められる有効成分を含有する毛包幹細胞の活性化用組成物などを創作することに成功した。本発明はこのような本発明者らによって初めて見出された知見及び初めて為された成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0015】
したがって、本発明の各側面から、以下の態様が提供される:
[1]10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1の有効成分と、2-デセン二酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2の有効成分を含むことを特徴とする毛包幹細胞の活性化用組成物。
[2]10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第1の有効成分と、2-デセン二酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2の有効成分を含むことを特徴とする毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物又は毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物。
[3]飲食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品である、[1]又は[2]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を通じて、毛包幹細胞を活性化することができる。また、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、有効成分が天然由来のローヤルゼリーに含まれる成分及びその代謝物に関連するものであることから、安全性が高い。そこで、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品などの様々な形態で毛包幹細胞の活性化の用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、Wnt3遺伝子の発現抑制作用の評価結果を示す図である。
【
図2】
図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、Bmp4遺伝子の発現抑制作用の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0019】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、飲食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品の分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0020】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物が挙げられる。「成分」は、組成物を製造する際に使用(添加)される物を意味し、物質及び(原)材料と同意義である。成分は、組成物においては使用前と比べて質的及び/若しくは量的に維持又は変化した状態で存在し得る。
「含有量」は、濃度及び添加量(使用量)と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。なお、成分の含有量は、市販品を用いる場合は、市販品に含まれる成分の量であることが好ましいが、市販品自体の量であってもよい。
「飲食品」は、食料品、飲料品又はその両方を意味する包括的な用語である。
「含む」(comprise、contain、include)は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」(consist of)及び「から本質的になる」(essentially consist of)を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、それらの含まれる限界値の一方を除いた範囲もまた含まれる。例えば、「0%~100%」は、0%以上、100%以下、及び0%以上100%以下のいずれであってもよい。「約」は、その用語に続く数量の±10%以内の量を意味する。例えば、「約100」は、100±10%、すなわち、90~110を意味する。
【0021】
「毛包幹細胞」(hair follicle stem cell)は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、主に毛包のバルジ領域に存在する、毛母細胞に分化する機能を有する上皮系幹細胞をいう。
「毛包幹細胞の活性化」は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を通じて、毛包幹細胞の分化を促進すること、毛包幹細胞の増殖を促進すること、及び休止期にある毛包幹細胞を成長期に誘導することのいずれか1種、2種又は3種すべての事象を意味する。したがって、本発明の一態様の組成物は、毛包幹細胞の分化促進用組成物、毛包幹細胞の増殖促進用組成物及び/又は休止期にある毛包幹細胞の成長期誘導用組成物としても為し得る。
「遺伝子の発現抑制作用」は、遺伝子の発現量(すなわち、mRNAの量)を低減すること、遺伝子産物(タンパク質)の翻訳量(すなわち、タンパク質の量)を低減すること、及び遺伝子産物の産生を阻害することからなる群から選ばれる少なくとも1種の作用をいう。
【0022】
[本発明の概要]
本発明の一側面は、毛包幹細胞を活性化するために使用される、毛包幹細胞の活性化用組成物である。本発明の別の一側面は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現を抑制するために用いられる、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物である。本発明の別の一側面は、毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現を抑制するために用いられる、毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物である。本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、2種の有効成分を含むことに特徴がある。第1の有効成分は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である。第2の有効成分は、2-デセン二酸及びその誘導体並びにそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である。本明細書では、第1の有効成分及び第2の有効成分を、有効成分として総称する場合がある。
【0023】
wnt3遺伝子は、通常知られているとおりのWntシグナル経路を構成するタンパク質の一種であるWnt3タンパク質をコードする遺伝子である。bmp4遺伝子は、通常知られているとおりのBmpシグナル経路を構成するタンパク質の一種であるBmp4タンパク質をコードする遺伝子である。wnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の具体例として、ヒトのwnt3遺伝子はアクセッション番号NM_030753.5として登録されており、ヒトのbmp4遺伝子はアクセッション番号NM_001202.6として登録されている。
【0024】
休止期にある毛包幹細胞は、増殖及び分化をほとんどせずに、比較的多量のwnt3遺伝子及びbmp4遺伝子を発現している。それに対して、成長期にある毛包幹細胞は、増殖及び分化が活発であり、比較的少量のwnt3遺伝子及びbmp4遺伝子を発現している。このように、wnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の発現量が減少すると、毛包幹細胞は休止期から成長期へ移行し、増殖し、及び分化するようになる(例えば、Maksim V. Plikus el al, Nature. 2008 January 17; 451(7176): 340‐344. doi:10.1038/nature06457;Krzysztof Kobielak et al., PNAS June 12, 2007, vol. 104, no. 24, 10063‐10068を参照)。後述する実施例に記載があるとおり、有効成分は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の発現を抑制する。これにより、毛包幹細胞は、休止期にあったものが成長期に誘導され、増殖し、及び分化する。したがって、有効成分が有する毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用は、毛包幹細胞が休止期から成長期へ誘導され、増殖し、及び分化するように、毛包幹細胞を活性化する。このような事象を通じて、本発明は、有効成分を含むことにより、毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物という態様をとり得る。
【0025】
[有効成分]
10-ヒドロキシ-2-デセン酸は、通常知られているとおりの、下記式(I)
【化1】
(I)
で示される構造からなる化合物である。
【0026】
2-デセン二酸は、通常知られているとおりの、下記式(II)
【化2】
(II)
で示される構造からなる化合物である。
【0027】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸は、人体内で代謝されて、2-デセン二酸へ変換される。10-ヒドロキシ-2-デセン酸は、10-ヒドロキシ-2-デセン酸自体を使用してもよいし、10-ヒドロキシ-2-デセン酸を含む10-ヒドロキシ-2-デセン酸含有物を用いてもよい。同様に、2-デセン二酸は、2-デセン二酸自体を使用してもよいし、2-デセン二酸を含む2-デセン二酸含有物を用いてもよい。10-ヒドロキシ-2-デセン酸自体及び/又は2-デセン二酸自体を使用する場合は、市販されているものを使用してもよいし、これまでに知られている方法で化学的に合成し、又は天然物から抽出したものを使用してもよい。
【0028】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸含有物及び2-デセン二酸含有物は、それぞれ10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸を含む限り特に限定されないが、例えば、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸の両方を含むローヤルゼリーなどが挙げられる。
【0029】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3日~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸などの有機酸類をはじめ、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸などのビタミン類、各種ミネラル類などが挙げられる。
【0030】
ローヤルゼリーには、生ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリー粉末、酵素処理ローヤルゼリー、ローヤルゼリー抽出物、ローヤルゼリー発酵物などが含まれる。また、ローヤルゼリーの産地は、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ、ブラジル、日本、中国、その他のアジア諸国などのいずれであってもよい。
【0031】
乾燥ローヤルゼリー粉末は、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したものである。
乾燥方法としては、通風乾燥や天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥など、一般食品加工で採用される公知のいずれの方法を使用することができる。好ましくは、凍結乾燥である。
【0032】
酵素処理ローヤルゼリーは、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で処理したものである。好ましくは、プロテアーゼ処理によってローヤルゼリーに含まれるタンパク質に起因するアレルギー反応が抑制されてなる、低アレルゲン化酵素処理ローヤルゼリーである。したがって、酵素処理ローヤルゼリーには、ローヤルゼリー中に含まれるタンパク質のプロテアーゼ分解物の他に、前述する飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸などの有機酸類、脂質、糖類、ビタミン類、及び各種ミネラル類が含まれ得る。
【0033】
酵素処理ローヤルゼリーの製造に用いられるローヤルゼリーとしては、特に限定されず、例えば、生ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、又は生ローヤルゼリーを水若しくは含水エタノールなどにより抽出したものが挙げられる。
【0034】
酵素処理ローヤルゼリーの製造は、ローヤルゼリー原料を少なくともエンドペプチダーゼ作用を有する酵素、少なくともエキソペプチダーゼ作用を有する酵素、及び/又はエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有する酵素で処理することにより行うことができる。
【0035】
少なくともエンドペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシンなど)、植物由来(例えば、パパインなど)、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌など)のエンドペプチダーゼなどが挙げられる。
【0036】
少なくともエキソペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌など)のエキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシンなどが挙げられる。
【0037】
このような各種酵素の内、エキソペプチダーゼ活性及びエンドペプチダーゼ活性の両方を有する酵素の好ましい例としては、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム、プロテアックス)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)が、またエキソプロテアーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)を挙げることができる。更にエンドプロテアーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)を挙げることができる。
【0038】
ローヤルゼリーのアレルギー性を低減するための酵素処理は、例えば、特開2007-295919号公報及び特開2007-295920号公報の記載に従い行うことができる。
【0039】
ローヤルゼリー抽出物は、ローヤルゼリー(生、乾燥物及び粉砕物を含む)を水又は含水エタノールなどにより抽出したものである。
【0040】
ローヤルゼリー発酵物は、酵母、乳酸菌などの微生物を使用して常法により製造することができる。
【0041】
ローヤルゼリーは、市販されているものを用いてもよい。市販されているローヤルゼリーとしては、例えば、酵素分解ローヤルゼリーキング(山田養蜂場社製)、ローヤルゼリーFD末(中原社製)、ローヤルゼリーエキスSF(松浦薬業社製)、脱蛋白ローヤルゼリー粉末F(丸善製薬社製)、脱蛋白ローヤルゼリーエキス(アピ社製)などが挙げられる。
【0042】
上述したように、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、いずれもローヤルゼリーに含まれる脂肪酸の1種である。10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、合成品であってよく、ローヤルゼリーなどの天然物由来であってもよい。ローヤルゼリー由来の10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、例えば、ローヤルゼリーから有機溶媒などにより抽出精製して得ることができる。10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、cisであってもよく、transであってもよい。
【0043】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸の誘導体及び2-デセン二酸の誘導体は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、これらの塩化物、エステル、アミド、酸無水物及び配糖体などが挙げられる。10-ヒドロキシ-2-デセン酸の誘導体及び2-デセン二酸の誘導体は10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸からこれまでに知られている方法で合成してもよいし、ローヤルゼリーなどの天然物から有機溶媒などにより抽出精製して得てもよい。
【0044】
10-ヒドロキシ-2-デセン酸及びその誘導体、並びに2-デセン二酸及びその誘導体は、塩の形態をとってもよい。これらの塩は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩などの脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミンなどのアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩などの複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩、アルギニン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩などの無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩などの有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩などが挙げられる。
【0045】
[毛包幹細胞の活性化用組成物]
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、有効成分を含むことにより、毛包幹細胞を活性化することができる。
【0046】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物における有効成分の含有量は、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物が毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を有する限り特に限定されないが、毛包幹細胞の活性化用組成物の全量に対して固形分で、例えば、下限は、0.1質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、93質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってよく;及び、上限は、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、93質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0047】
有効成分の含有量は、第1の有効成分及び第2の有効成分の合計量である。第1の有効成分及び第2の有効成分ともに毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を有するものであることから、有効成分の含有量における第1の有効成分の含有量及び第2の有効成分の含有量の割合は特に限定されず、適宜設定すればよいが、例えば、10-ヒドロキシ-2-デセン酸が有する毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用は2-デセン二酸が有するものと比べて同程度又はそれ以上であることから、第1の有効成分の含有量は第2の有効成分の含有量と同程度又はそれ以上であることが好ましく、第1の有効成分の含有量は第2の有効成分の含有量よりも多いことがより好ましい。
【0048】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の適用対象は特に限定されず、例えば、動物、中でも哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。適用対象は、健常な対象であってもよいが、毛包幹細胞の活性化が望まれる対象であることが好ましい。哺乳類の毛包は性別に関係なく加齢に伴って小型化する(例えば、Hiroyuki Matsumura et al., Science,Vol.351, ISSUE 6273, p.575参照)。また、毛包幹細胞は男性型脱毛症の発症時には維持されている。このような観点から、適用対象の年齢及び性別は特に限定されないが、例えば、成人、好ましくは中年~老年の、男性及び女性、好ましくは男性、より好ましくは男性型脱毛症の発症初期の男性である。
【0049】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の投与経路は特に限定されず、経口投与でもよく、非経口投与でもよい。経口投与は経腸投与を含み、非経口投与は局所投与、例えば、経皮投与を含む。
【0050】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物が経口投与される場合の投与量は、有効成分、組成物の形態及び適用方法・適用量によって適宜設定できるが、例えば、有効成分が10-ヒドロキシ-2-デセン酸含有物及び2-デセン二酸含有物としてローヤルゼリーの形態である場合は、体重60kgの成人に一日当たり、乾燥固形分換算で有効成分の量として10mg~30,000mgであることが好ましく、100mg~20,000mg、150mg~15,000mg、600mg~12,000mg、1,200mg~10,000mg、又は2,400mg~8,000mgであることがより好ましい。当該投与量は、投与対象の健康状態、投与方法、有効成分の種類及び他の剤との組み合わせなどの因子に応じて、適宜増減することができる。
【0051】
有効成分が、10-ヒドロキシ-2-デセン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩である場合、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の投与量は、例えば、体重60kgの成人に一日当たり、乾燥固形分換算で有効成分の合計量として1mg~200mgであることが好ましく、10mg~100mgであることがより好ましい。また、有効成分が、2-デセン二酸若しくはその誘導体又はそれらの塩とである場合、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の投与量は、例えば、体重60kgの成人に一日当たり、乾燥固形分換算で有効成分の合計量として0.1mg~30mgであることが好ましく、1mg~15mgであることがより好ましい。当該投与量は、投与対象の健康状態、投与方法、有効成分の種類及び他の剤との組み合わせなどの因子に応じて、適宜増減することができる。
【0052】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、一日当たりの有効投与量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回など、複数回に分けて投与されてもよい。本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、継続的又は断続的に投与することが好ましく、例えば、1週間~4週間又は1か月以上、6か月以上、1年以上の継続的な投与がより好ましい。
【0053】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物が非経口投与される場合の投与量は、有効成分、適用する部位及び適用範囲によって異なり得るが、例えば、有効成分がローヤルゼリーである場合は、皮膚への適用量が、有効成分の量として0.01mg~50mgであることが好ましく、0.02mg~40mgであることがより好ましく、0.02mg~35mg、又は、0.025mg~30mgであることがさらに好ましい。
【0054】
有効成分が、10-ヒドロキシ-2-デセン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩である場合、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の投与量は、例えば、皮膚への適用量が、有効成分の合計量として0.001mg~0.3mgであることが好ましく、0.01mg~0.1mgであることがより好ましい。また、有効成分が2-デセン二酸若しくはその誘導体又はそれらの塩である場合、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の投与量は、例えば、皮膚への適用量が、有効成分の合計量として0.0001mg~0.05mgであることが好ましく、0.001mg~0.04mgであることがより好ましい。
【0055】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、有効成分に加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分は、本発明の課題解決を妨げるものでなければ特に限定されないが、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水、防腐剤(エチルパラベン、ブチルパラベンなど)、消炎剤(グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントインなど)、美白剤(胎盤抽出物、ユキノシタ抽出物、アルブチン)、各種抽出物(オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻など)、賦活剤(感光素、コレステロール誘導体など)、血行促進剤(ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β-ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、タンニン酸、α-ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ-オリザノールなど)、抗脂漏剤(硫黄、チアントール)、抗炎症剤(トラネキサム酸、チオタウリン、ヒポタウリン)、養蜂産品(プロポリス、蜂蜜、ハチノコ、ミツロウ、花粉荷、蜂毒など)などが挙げられる。
【0056】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、有効成分と、1種又は2種以上のその他の成分とを混合して、所望の形態になるように常法により製造することができる。本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物の形態は、有効成分による、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用が発揮される形態であれば特に限定されないが、例えば、固形状、液状、ゲル状、懸濁液状、クリーム状、シート状、スティック状、粉状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、ペースト状、カプセル状、カプレット状、エアゾール状、フォーム状などが挙げられる。
【0057】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物は、シーリング可能な気密容器又は密封容器に充填した容器詰組成物であってもよい。容器は、気密容器又は密封容器であれば特に限定されないが、例えば、アルミ、スチールなどの金属、紙、PETなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、成形容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。容器詰組成物は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。なお、家庭内で食品を保存する目的で使用される蓋付き容器は密閉容器であり、気密容器及び密封容器、特に密封容器とは厳に区別される。
【0058】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物が有する毛包幹細胞の活性化作用は、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制を確認することにより確認できる。そこで、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物が有する毛包幹細胞の活性化作用は、例えば、同一条件下で有効成分を含まないもの(コントロール)と比べて、毛包幹細胞においてwnt3遺伝子の発現が抑制されている、及び毛包幹細胞においてbmp4遺伝子の発現が抑制されている程度であればよい。
【0059】
[毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物]
本発明の一態様の毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物は、有効成分を含むことにより、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現を抑制することができる。本発明の一態様の毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、有効成分を含むことにより、毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現を抑制することができる。
【0060】
本発明の一態様の毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び本発明の一態様の毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物について、有効成分の種類及び量、投与の方法及び量、含有成分、形状、製造方法などについては、上記[毛包幹細胞の活性化用組成物]の項目を参照すればよい。
【0061】
本発明の一態様の毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物が有する毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用は、同一条件下で有効成分を含まないもの(コントロール)と比べて、毛包幹細胞においてwnt3遺伝子の発現が抑制されている程度であればよい。同様に、本発明の一態様の毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物が有する毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制作用は、同一条件下で有効成分を含まないもの(コントロール)と比べて、毛包幹細胞においてbmp4遺伝子の発現が抑制されている程度であればよい。
【0062】
毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。例えば、本発明の一態様の毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物は、後述する実施例に記載の方法により、有効成分の代わりにDMSOを使用したコントロールに対して、wnt3遺伝子の発現量が90%以下になるような毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用を有することが好ましく、wnt3遺伝子の発現量が85%以下になるような毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用を有することがより好ましい。
【0063】
毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。例えば、本発明の一態様の毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、後述する実施例に記載の方法により、有効成分の代わりにDMSOを使用したコントロールに対して、bmp4遺伝子の発現量が90%以下になるような毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制作用を有することが好ましく、bmp4遺伝子の発現量が80%以下になるような毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制作用を有することがより好ましく、bmp4遺伝子の発現量が75%以下になるような毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制作用を有することがさらに好ましい。
【0064】
[飲食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品]
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、飲食品(特に、保健、健康維持、増進などを目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養組成物(nutritional composition)、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品))、化粧品、医薬部外品、医薬品などとして使用することができる。したがって、本発明の別の一側面は、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物を含む、又はそれら自体である、飲食品、化粧品、医薬部外品又は医薬品である。
【0065】
本発明の一態様の飲食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品における有効成分の含有量は特に限定されず、毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物の経口投与又は非経口投与の投与量を達成できる有効量であればよい。
【0066】
本発明の一態様の飲食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品は、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物を一成分として含む場合、例えば、これら製品の製造工程における中間製品に、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物を添加することにより製造することができる。
【0067】
本発明の一態様の化粧品は、有効成分に加えて、通常化粧品に用いられる成分、例えば、殺菌剤、保存剤、界面活性剤、アルコール類、水性成分、水、着色剤、pH調整剤、溶解補助剤、研磨剤、発泡剤、酵素、香味剤、キレート剤、賦形剤、増粘剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤、油剤、清掃剤(乳酸菌)、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粉末成分、色材、各種皮膚栄養剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0068】
化粧品原料としては、固体、液体、ペーストなどのいずれの形状であってもよい。化粧品は薬用化粧品(すなわち、医薬部外品)であってよい。化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇などの部位に適用され得る、あらゆる化粧品が含まれる。
【0069】
化粧品の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系など、幅広い剤型を採り得る。
【0070】
化粧品の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、ミスト、UV予防化粧品などが挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどが挙げられ、ネイル化粧料であれば、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液などが挙げられ、その他、洗顔料、(練又は液体)歯磨剤、マウスリンス、口腔化粧品、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアリキッド、ヘアジェル、ヘアスプレー、ハンドクリーム、ハンドソープ、育毛剤、制汗剤、入浴剤などが挙げられる。
【0071】
本発明の一態様の飲食品は、有効成分に加えて、通常飲食品に用いられる成分、例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定剤、ゲル化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤などを配合することができる。
【0072】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルトなど);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒など);スプレッド類(カスタードクリームなど);ペースト類(フルーツペーストなど);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリンなど);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹など);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベットなど);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャムなど);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素など)などが挙げられる。
【0073】
飲食品の製法は特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0074】
飲食品の具体例はサプリメントである。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、チュアブル、トローチなどの錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、シロップ、ペースト、ドリンク、グミなどが挙げられる。
【0075】
本発明の一態様の医薬品は、有効成分に加えて、例えば、ビタミン、生薬などの日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することができる。
【0076】
本発明の一態様の医薬品は、有効成分を、医薬品において許容される成分とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液や電解質輸液などの輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。
【0077】
医薬品の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に限定されず、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内若しくは動脈内への投与、経皮的投与などが挙げられる。
【0078】
本発明の一態様の医薬品は、有効成分に加えて、通常医薬品に使用される成分、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、懸濁化剤、増粘剤、抗酸化剤、吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、安定剤、界面活性剤、甘味剤、矯味剤、香料などの薬学的に許容される成分を適宜配合することができる。
【0079】
本発明の一態様の化粧品及び医薬品は、医薬部外品を包含する。
【0080】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、飲食品、化粧品、医薬品及び医薬部外品に適用されるように、ヒトを含む哺乳動物(好ましくはヒト)に対して適用されるものである。このように、本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、従来から食品素材として用いられてきたローヤルゼリーといった天然由来の成分を有効成分とすることから、安全性が高い。
【0081】
[本発明の別の態様]
本発明の別の一側面は、有効成分を対象に適用して該対象の毛包幹細胞を活性化することを含む毛包幹細胞の活性化方法である。
本発明の別の一側面は、有効成分を対象に適用して該対象の毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現を抑制することを含む毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制方法である。
本発明の別の一側面は、有効成分を対象に適用して該対象の毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現を抑制することを含む毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制方法である。
本発明の別の一側面は、毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物又は毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物を製造するための、有効成分の使用方法である。
【0082】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0083】
頬髭組織のオルガノイド培養系を用いて、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸について、72時間後の毛包幹細胞の活性化に関わる遺伝子の発現量を評価した。その結果、毛包幹細胞の幹細胞性の活性化に関与するWnt3タンパク質及びBmp4タンパク質をコードする遺伝子の発現量は10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸によって有意に減少した。これらの結果から、10-ヒドロキシ-2-デセン酸及び2-デセン二酸は、wnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の発現量抑制作用を通じて、毛包幹細胞の分化促進、毛包幹細胞の増殖促進、休止期にある毛包幹細胞の成長期誘導といった毛包幹細胞の活性化を担うことがわかった。
【0084】
[1.被験試料]
ローヤルゼリーに含まれる脂肪酸4種類を用いた。用いた脂肪酸は、10-ヒドロキシデカン酸(Combi-Blocks社製;「デカン酸」ともよぶ。)、10-ヒドロキシ-2-デセン酸(Hangzhou Eastbiopharm社製;「デセン酸」ともよぶ。)、2-デセン二酸(Sundia Meditech社製;「デセン二酸」ともよぶ。)及びセバシン酸(Sigma-Aldrich社製)であった。
【0085】
[2.評価方法]
以下の方法により、毛包幹細胞の分化マーカーに対する影響評価として、頬髭組織のオルガノイド培養系への脂肪酸類添加による遺伝子発現量変化を解析した。
【0086】
手術用ハサミを用いて採取したマウスの頬髭毛包及びその周辺組織(オルガノイド)を、96wellプレートに37℃、5%CO2環境下で静置した。静置24時間後に、脂肪酸(100μM)、抗生物質(ペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシン;PSA)、HEPES(10mM)及びグルタミン(2mM)を含むDMEM/10%FBS培地(150μl)でwellを充填した。プレートを37℃、5%CO2環境下でインキュベートし、48時間後に組織片を回収した。
【0087】
遺伝子発現解析用の全RNAは、NucleoSpin(登録商標) RNA Plus XS(TakaraBio. シャープU0990C)のマニュアルに従い、回収した組織片から抽出した。抽出した前RNAをPrimeScripttm RT Master Mix(TakaraBio. シャープRR036B)にて逆転写し、cDNAを調製した。cDNA中の各遺伝子発現量は表1に示したプライマーでTHUNDERBIRD(登録商標) Next SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO. シャープQPX-201)を用いて、qPCR法より定量した。この試験のリファレンス遺伝子にはbeta-actinを用いた。
【0088】
【0089】
全ての結果は平均±標準偏差で示した。各脂肪酸の遺伝子発現量はDunnett’s testを用いて、DMSO群をコントロール群として比較評価した。
【0090】
[3.評価結果]
Wnt3の遺伝子
の発現量の定量結果を
図1に示し、Bmp4の遺伝子
の発現量の定量結果を
図2に示す(n=3又は4、*p<0.05;vs control)。
【0091】
図1及び
図2が示すとおり、デセン酸又はデセン二酸を添加した場合の頬髭組織のオルガノイドの遺伝子発現量を、コントロールのものと比較したところ、デセン酸及びデセン二酸の添加によりWnt3タンパク質及びBmp4タンパク質の遺伝子の発現量が低下することがわかった。特に、デセン酸の添加によりWnt3タンパク質及びBmp4タンパク質の遺伝子の発現量が有意に低下し、デセン二酸の添加によりBmp4タンパク質の遺伝子の発現量が有意に低下することがわかった。
【0092】
これらの結果より、デセン酸及びデセン二酸の組み合わせは、wnt3遺伝子及びbmp4遺伝子の発現量抑制作用を通じて、毛包幹細胞の分化促進、毛包幹細胞の増殖促進、休止期にある毛包幹細胞の成長期誘導といった毛包幹細胞の活性化を担うことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の一態様の毛包幹細胞の活性化用組成物、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制用組成物及び毛包幹細胞におけるbmp4遺伝子の発現抑制用組成物は、天然由来であり、安全性が認められる有効成分により、毛包幹細胞におけるwnt3遺伝子の発現抑制作用及びbmp4遺伝子の発現抑制作用を通じて、毛包幹細胞を活性化することができるものとして、飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品などの様々な形態で利用できる。
【配列表】