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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】ポリオール組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20250417BHJP
   C08G 63/66 20060101ALI20250417BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
C08L67/00
C08G63/66
C08G63/78
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024195661
(22)【出願日】2024-11-08
【審査請求日】2024-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2024079266
(32)【優先日】2024-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000118556
【氏名又は名称】伊藤製油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】川岸 謙太
(72)【発明者】
【氏名】飯場 雅実
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-252039(JP,A)
【文献】特表2014-520909(JP,A)
【文献】特表2005-535744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08G 63/66
C08G 63/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるポリアルキレンエーテルグリコールと、
HO-[C2m-O]-H (1)
(式中、mは3又は4であり、nは8~60の整数である。)
(B)脂肪族ジカルボン酸と、
(C)ヒマシ油又は脂肪族トリオール(但し、前記ヒマシ油は除く)
を全て含む原料をエステル化反応に供する工程を備え、
前記原料(C)が前記ヒマシ油の場合、前記原料(A)、前記原料(B)及び前記原料(C)の使用量の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、40~70質量%、5~15質量%及び25~45質量%であり、
前記原料(C)が前記脂肪族トリオールの場合、前記原料(A)、前記原料(B)及び前記原料(C)の使用量の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、70~95質量%、3~20質量%及び2~20質量%であるポリオール組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料(A)がポリトリメチレンエーテルグリコールを含む請求項1に記載のポリオール組成物の製造方法。
【請求項3】
前記原料(B)が下記一般式(2)で表される請求項1に記載のポリオール組成物の製造方法。
HOOC-R-COOH (2)
(式中、Rは、炭素原子数が2~8の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項4】
前記脂肪族トリオールがトリメチロールプロパンを含む請求項1に記載のポリオール組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により得られたポリオール組成物。
【請求項6】
水酸基価が25~130mgKOH/gである請求項5に記載のポリオール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォームの製造原料として好適なポリオール組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用部品、建築土木用部品、住宅設備用品、生活用品、スポーツ用品、レジャー用品等に、ポリウレタン樹脂からなる発泡体、即ち、ポリウレタンフォームが広く用いられている。このようなポリウレタンフォームは、通常、ポリオール成分、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等を含むポリウレタンフォーム製造用組成物を用いて製造される。
【0003】
近年、中実体の成形品の製造に用いるポリウレタン樹脂を製造するための原料として、ポリアルキレンエーテルグリコールが使用可能であることが知られている(特許文献1参照)。例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコールは、植物由来の原料により製造できることから、地球環境負荷低減に有用なポリオールであるともいわれている。
【0004】
また、ポリアルキレンエーテルグリコールを含む原料を用いてポリウレタンフォームを製造する技術が、下記文献に記載されている。
特許文献2には、軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分であって、ポリオール成分中に下記ポリオール(Z)を含有する軟質ポリウレタンフォーム製造用ポリオール成分が開示されている。
ポリオール(Z):植物由来組成物にプロピレンオキサイドを付加したポリオールであって末端水酸基の1級水酸基率が30~100%のポリオール(Z1)、植物由来組成物及び/又は(Z1)と2価のカルボン酸とをポリエステル化したポリオール(Z2)、(Z2)にプロピレンオキサイドを付加したポリオールであって末端水酸基の1級水酸基率が30~100%のポリオール(Z3)並びに(Z1)~(Z3)にエチレンオキサイドを付加したポリオール(Z4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオールであって、平均官能基数が2~6であり、水酸基価が15~180mgKOH/gであるポリオール。
特許文献3には、少なくとも、(a)80モル%以上のテレフタル酸を含む芳香族成分と、(b)公称官能価が2であり、分子量が150~1,000であり、ポリオキシエチレン含量がポリエーテルポリオールの少なくとも70重量%である、少なくとも1種のポリエーテルポリオールと、(c)(b)とは異なり、公称官能価が2であり、分子量が60~250である、少なくとも1種のグリコールと、(d)分子量が60~250であり、公称官能価が少なくとも3である、少なくとも1種のポリオールとの反応物であるポリエステルであって、a、b、cおよびdは、反応中に、重量%を基準として、(a)が20~60重量%、(b)が20~50重量%、(c)が10~30重量%および(d)が5~20重量%存在する、硬質フォーム用のポリエステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2016/098771号
【文献】特開2011-252039号
【文献】特表2014-520909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2において、植物由来組成物にプロピレンオキサイドを付加したポリオール(Z1)と、2価のカルボン酸とをポリエステル化させてなる上記ポリオール(Z2)に相当する化合物は、具体的には、植物由来組成物(ヒマシ油)にプロピレンオキサイドを反応させてポリオール中間体とし、次いで、このポリオール中間体と、ジカルボン酸(無水フタル酸)とを反応させて得られたエステル化物(多段階反応生成物)である(製造例4参照)。
【0007】
本発明の目的は、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用して、成形性が良好なポリウレタンフォームの製造に用いるポリウレタンフォーム製造用組成物を与えるポリオール組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリトリメチレンエーテルグリコール等のポリアルキレンエーテルグリコールと、脂肪族ジカルボン酸と、2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素及びヒマシ油から選ばれた少なくとも1種とを、全て、特定の割合で用いてエステル化反応に供して得られたポリオール組成物を、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用すると、成形性が良好なポリウレタンフォームを製造可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の通りである。
1.(A)下記一般式(1)で表されるポリアルキレンエーテルグリコールと、
HO-[C2m-O]-H (1)
(式中、mは3又は4であり、nは8~60の整数である。)
(B)脂肪族ジカルボン酸と、
(C)2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素及びヒマシ油から選ばれた少なくとも1種と
を全て含む原料をエステル化反応に供する工程を備え、
上記原料(C)が2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素の場合、上記原料(A)、(B)及び(C)の使用量の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、70~95質量%、3~20質量%及び2~20質量%であり、
上記原料(C)がヒマシ油の場合、上記原料(A)、(B)及び(C)の使用量の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、40~70質量%、5~15質量%及び25~45質量%であるポリオール組成物の製造方法。
2.上記原料(A)がポリトリメチレンエーテルグリコールを含む上記項1に記載のポリオール組成物の製造方法。
3.上記原料(B)が下記一般式(2)で表される上記項1又は2に記載のポリオール組成物の製造方法。
HOOC-R-COOH (2)
(式中、Rは、炭素原子数が2~8の脂肪族炭化水素基である。)
4.2つ以上のヒドロキシ基を有する前記脂肪族炭化水素が脂肪族トリオールを含む上記項1から3のいずれか一項に記載のポリオール組成物の製造方法。
5.上記項1から4のいずれか一項に記載の方法により得られたポリオール組成物。
6.水酸基価が25~130mgKOH/gである上記項5に記載のポリオール組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られたポリオール組成物を、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用すると、成形性が良好なポリウレタンフォームを製造することができる。また、原料(A)がポリトリメチレンエーテルグリコールを含む場合、ポリウレタンフォーム製造用組成物を効率よく調製するために扱いやすい粘度、例えば、JIS Z 8803に準じて測定される粘度が6000mPa・s未満のポリオール組成物を製造することができる。
また、得られたポリオール組成物を、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用すると、軟質ポリウレタンフォームを製造することができ、特に、生活用品、スポーツ用品、レジャー用品等としての利用に期待される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリオール組成物製造方法は、原料(A)として特定のポリアルキレンエーテルグリコールと、原料(B)として特定の二塩基酸と、原料(C)としての、2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素及びヒマシ油から選ばれた少なくとも1種とを、全て、特定の割合で含む原料(以下、「ポリオール製造用原料」という)をエステル化反応に供する工程(以下、「エステル化反応工程」という)を備える。このエステル化反応は、少なくとも、原料(B)のカルボキシ基と、原料(A)及び(C)のヒドロキシ基との反応を含む。
本発明のポリオール組成物製造方法は、エステル化反応工程の後、必要に応じて、他の工程(後述)を備えることができる。
【0012】
エステル化反応工程で用いるポリオール製造用原料は、原料(A)、(B)及び(C)を必須とするものであるが、必要に応じて、原料(A)、(B)及び(C)の少なくとも1つと反応する他の原料(後述)を含んでもよい。
【0013】
本発明に係る原料(A)であるポリアルキレンエーテルグリコールは、下記一般式(1)で表される化合物である。
HO-[C2m-O]-H (1)
(式中、mは3又は4であり、nは8~60の整数である。)
【0014】
上記一般式(1)において、nは、好ましくは10~50である。
【0015】
本発明において、原料(A)として用いるポリアルキレンエーテルグリコールは、1種のみでも2種以上でもよい。
【0016】
上記一般式(1)において、C2mは直鎖構造及び分岐構造のいずれでもよいが、C2mが直鎖構造であるポリトリメチレンエーテルグリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールは、植物由来の原料により製造できることから、地球環境負荷低減に貢献し、ポリウレタンフォームの製造に有用なポリオール組成物の製造原料である。ポリトリメチレンエーテルグリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールのいずれを用いても成形性が良好なポリウレタンフォームの製造に好適なポリオール組成物が得られるが、特に、ポリトリメチレンエーテルグリコールを含む原料(A)を用いて得られたポリオール組成物は、ポリトリメチレンエーテルグリコールを含まずポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む原料(A)を用いて得られたポリオール組成物に比べて、ポリウレタンフォーム製造用組成物を効率よく調製するために扱いやすい粘度を有するものとなる。具体的には、JIS Z 8803に準じて測定される粘度が6000mPa・s未満のポリオール組成物を製造することができる。
【0017】
上記ポリトリメチレンエーテルグリコールは、上記一般式(1)においてm=3でありC2mが直鎖構造の化合物であり、下記一般式(1´)で表される。式中のnは、好ましくは10~50、より好ましくは12~40である。
HO-[(CH-O]-H (1´)
【0018】
ポリトリメチレンエーテルグリコールを含む原料(A)を用いて得られるポリオール組成物を含有するポリウレタンフォーム製造用組成物により成形性の良好なポリウレタンフォームの製造を行う場合、原料(A)に含まれるポリトリメチレンエーテルグリコールの含有割合の下限は、好ましくは8質量%、より好ましくは10質量%である。原料(A)は、ポリトリメチレンエーテルグリコールのみからなるものであってよいが、他のポリアルキレンエーテルグリコールと併用する場合、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール又はポリプロピレンエーテルグリコールである。
【0019】
本発明に係る原料(B)は脂肪族ジカルボン酸であり、好ましくは、下記一般式(2)で表される化合物である。
HOOC-R-COOH (2)
(式中、Rは、脂肪族炭化水素基である)
【0020】
上記一般式(2)におけるRは、直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基のいずれでもよい。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、1,12-ドデカン二酸、ウンデカンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられるが、上記一般式(2)におけるRの炭素原子数が2~8である脂肪族ジカルボン酸が好ましい。本発明に係る脂肪族ジカルボン酸は、好ましくはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸であり、特に好ましくはセバシン酸である。このセバシン酸は、ヒマシ油を苛性アルカリにより開裂させて得ることができるため、この工程により得られたセバシン酸を用いることにより、ポリトリメチレンエーテルグリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールと同様に、地球環境負荷低減に貢献する。
【0022】
本発明において、原料(B)として用いる二塩基酸は、1種のみでも2種以上でもよい。
【0023】
本発明に係る原料(C)は、2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素(以下、「ポリヒドロキシ化合物」という)及びヒマシ油から選ばれた少なくとも1種である。本発明において、原料(C)として、ポリヒドロキシ化合物及びヒマシ油のいずれか一方又は両方を用いることができる。
【0024】
ポリヒドロキシ化合物に含まれるヒドロキシ基の数は、好ましくは2~10、より好ましくは2~8である。従って、ポリヒドロキシ化合物は、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール、ヘキサオール等とすることができる。原料(C)として用いるポリヒドロキシ化合物は、1種のみでも2種以上でもよい。原料(C)は、トリオール、即ち、脂肪族トリオールを含むことが好ましい。
【0025】
ポリヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0026】
また、ヒマシ油としては、ひま(トウゴマ)の種子から搾油したもの、又は、その精製物を用いることができる。
【0027】
本発明に係るポリオール製造用原料に含まれる原料(A)、(B)及び(C)の割合は、成形性が良好なポリウレタンフォームを与えるポリウレタンフォーム製造用組成物に好適なポリオール組成物が確実に得られることから、原料(C)の種類別に、以下のような特定の割合で用いる。
【0028】
原料(C)がポリヒドロキシ化合物である場合、本発明に係るポリオール製造用原料に含まれる原料(A)、(B)及び(C)の割合は、それぞれ、70~95質量%、3~20質量%及び2~20質量%であり、好ましくは72~93質量%、4~18質量%及び3~18質量%、更に好ましくは76~92質量%、5~16質量%及び3~15質量%である。
また、原料(C)がヒマシ油である場合、本発明に係るポリオール製造用原料に含まれる原料(A)、(B)及び(C)の割合は、それぞれ、40~70質量%、5~15質量%及び25~45質量%であり、好ましくは41~68質量%、6~14質量%及び26~44質量%、更に好ましくは43~65質量%、7~14質量%及び27~44質量%である。
【0029】
上記のように、ポリオール製造用原料は、必要に応じて、原料(A)、(B)及び(C)以外に、原料(A)、(B)及び(C)の少なくとも1つと反応する他の原料を含有することができる。他の原料としては、上記ポリヒドロキシ化合物以外のポリオール、ヒドロキシ基及びカルボキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0030】
ポリオール製造用原料が他の原料を含む場合、その含有割合の上限は、ポリオール製造用原料の全量を100質量%とすると、好ましくは50質量%、より好ましくは20質量%である。
【0031】
本発明に係るエステル化反応工程は、無溶媒で行うことができるが、反応溶媒の存在下で行ってもよい。その場合、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等を用いることができる。
【0032】
エステル化反応は、ポリオール製造用原料を加熱しながら行うことが好ましい。反応温度の下限は、好ましくは150℃、より好ましくは160℃であり、上限は、好ましくは250℃、より好ましくは200℃である。尚、反応系の雰囲気は、特に限定されず、大気及び不活性ガスのいずれでもよい。不活性ガスを用いる場合、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができる。
【0033】
本発明において、エステル化反応を行うと、反応系には、反応生成物であるポリオール組成物と、副生した水とが含まれるので、水を除去することにより、所望のポリオール組成物を得ることができる。
【0034】
エステル化反応を行うときの反応系の圧力は特に限定されず、常圧及び減圧のいずれでもよい。反応系を減圧条件とした場合には、エステル化反応を行いながら、副生する水を除去することができる。また、反応系を常圧条件とした場合には、エステル化反応を完了した後、必要に応じて、反応系を減圧条件として脱水を行えばよい。
【0035】
本発明のポリオール組成物製造方法は、エステル化反応工程の後に、上記の脱水工程を除く他の工程を更に備えることができる。例えば、反応液から未反応原料又は反応溶媒(エステル化反応で使用した場合)を除去する工程、中和塩を除去する工程等が挙げられる。
【0036】
本発明により得られるポリオール組成物は、例えば、最初に、特定の原料を反応させ、次いで、残りの原料を反応させるといった、多段階のエステル化反応を行うことにより得られたものとは組成が異なり、原料(A)、(B)及び(C)の全てを反応(1段階反応)させて得られたものであって、本発明者らは、複数の反応生成物(エステル化物)からなる組成物である、即ち、全ての原料(A)、(B)及び(C)を併存させてエステル化反応を行うこと、並びに、原料(B)の使用量が、原料(A)の使用量より少ないことから、原料(B)のカルボキシ基に対して、原料(A)及び/又は(C)がエステル化した複数種のポリオールを含むポリオール組成物が合成されたものと推測している。本発明のポリオール組成物は、通常、液状であり、その粘度(JIS Z 8803に準じ、B型粘度計を用いて、25℃で測定)は、通常、7000mPa・s未満である。このようなポリオール組成物を、触媒、ポリイソシアネート等とともに併用すると、ポリウレタンフォームの製造に用いるポリウレタンフォーム製造用組成物を効率よく調製することができる。
また、ポリオール組成物の水酸基価は、好ましくは25~130mgKOH/g、より好ましくは30~125mgKOH/gである。
【0037】
本発明のポリオール組成物を用いてポリウレタンフォーム製造用組成物を製造する場合、ポリオール組成物、触媒及びポリイソシアネートが接触した時点でウレタン化反応が進行するため、ポリオール組成物及びポリイソシアネートはできるだけ最後に接触するように配合される。このようにしてウレタンフォーム製造用組成物を製造する具体的な方法としては、ポリオール組成物と、ポリイソシアネートを除く原料成分(触媒、発泡剤、整泡剤等)とを混合し、その後、得られた混合物(以下、「第1混合物」という)と、ポリイソシアネートとを混合する製造方法とすることができる。
【0038】
以下、上記のポリオール組成物と併用して第1混合物を調製する際に、好適に併用される触媒、発泡剤、整泡剤等について説明する。
【0039】
触媒としては、アミン化合物、遷移金属化合物等から選ばれた1種のみ又は2種以上を用いることができる。
【0040】
アミン化合物としては、第三級アミン、イミダゾール化合物、アンモニウム塩等が挙げられる。
遷移金属化合物としては、スズ化合物、ビスマス化合物、鉛化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物等が挙げられる。
【0041】
触媒の使用量は、ポリオール組成物100質量部に対して、好ましくは0.01~0.05質量部である。
【0042】
発泡剤としては、水、イソシアネートと反応すると二酸化炭素を発生する有機酸又はそのエステル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
発泡剤の使用量は、ポリオール組成物100質量部に対して、好ましくは0.5~5.0質量部である。
【0044】
整泡剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0045】
整泡剤の使用量は、ポリオール組成物100質量部に対して、好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0046】
第1混合物を製造する際には、更に、他のポリオール、粘度調整剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤等を用いることができる。
【0047】
次に、第1混合物と併用してポリウレタンフォーム製造用組成物を製造する際に、好適に併用されるポリイソシアネートについて説明する。
【0048】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、これらの変性体等から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
ポリウレタンフォーム製造用組成物におけるイソシアネートインデックスは、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.9~1.1である。
【0050】
本発明のポリオール組成物を含むポリウレタンフォーム製造用組成物を用いると、軟質のポリウレタンフォームを製造することができる。このようなポリウレタンフォームを製造する方法は特に限定されないが、例えば、ポリウレタンフォーム製造用組成物を、成形用の型又は容器に供給した後、発泡させる方法、基体等に噴霧して塗膜を形成した後、発泡させる方法等を適用することができる。ポリウレタンフォームの製造温度は特に限定されず、好ましくは15℃~80℃である。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例において、「部」は特に断らない限り質量基準である。
【0052】
1.ポリオール組成物の製造及び評価
ポリオール組成物の製造原料は以下の通りである。
(1)ポリトリメチレンエーテルグリコール
SKケミカル社製「H-1000」及び「H-2000」(いずれも商品名)を用いた。平均分子量はそれぞれ、1000及び2000である。
(2)ポリテトラメチレンエーテルグリコール
三菱ケミカル社製「bioPTMG650」及び「bioPTMG1000」(いずれも商品名)を用いた。平均分子量はそれぞれ、650及び1000である。
(3)ポリプロピレンエーテルグリコール
ADEKA社製「P1000」及び「P2000」(いずれも商品名)を用いた。平均分子量はそれぞれ、1000及び2000である。
(4)セバシン酸
伊藤製油社製「セバシン酸TA」(商品名)を用いた。この製品は、ヒマシ油を苛性アルカリにより開裂させる工程を経て得られたセバシン酸である。
(5)コハク酸
ロケット社製「バイオサクシニウム」(商品名)を用いた。
(6)ヒマシ油
伊藤製油社製「URIC H-30」(商品名)を用いた。
(7)トリメチロールプロパン
南通百川社製「Trimethylolpropane」(商品名)を用いた。
【0053】
実施例1
撹拌機及び温度計を備える反応器に、44部のポリトリメチレンエーテルグリコール「H-1000」、12部のセバシン酸及び44部のヒマシ油を仕込み、昇温した。大気雰囲気中、撹拌下、混合物の温度を180℃~200℃に保持しつつエステル化反応を行った。反応開始と同時に、生成した水の留出を行った。5時間後、反応系を30mmHgに減圧し、反応液を上記温度に保持しつつ更に3時間反応させた。その後、反応系を10mmHgに減圧し、反応液を上記温度に保持しつつ更に7時間反応させた。
次に、得られた反応液を冷却して100℃とし、夾雑物を除くための濾過を行って濾液を回収し、これをポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物(X1)」という)とした。以下の方法でこのポリオール組成物(X1)の水酸基価及び粘度を測定した。また、ポリオール中のバイオマス原料比率に準じて、バイオマス度を算出した。これらの値を表1に示す。
【0054】
水酸基価は、JIS K 1557-1に準ずる方法により測定した。
粘度は、JIS Z 8803に準ずる方法により、東機産業社製B型粘度計「TVB-10」(型式名)を用いて25℃で測定した。
【0055】
実施例2~9及び12
反応器に仕込む原料を、表1に示すものとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物(X2)~(X9)及び(X12)」という)を得た(表1参照)。尚、実施例4、8及び12により得られたポリオール組成物の粘度測定は未実施であり、表1において、「-」と表記した。以下、他の実施例についても同様である。
【0056】
実施例10
撹拌機及び温度計を備える反応器に、80部のポリトリメチレンエーテルグリコール「H-1000」、16部のセバシン酸及び4部のトリメチロールプロパンを仕込み、昇温した。大気雰囲気中、撹拌下、液温を180℃~240℃に保持しつつエステル化反応を行った。5時間後、反応系を50mmHgに減圧し、反応液を上記温度に保持しつつ更に5時間反応させた。その後、反応系を30mmHgに減圧し、反応液を上記温度に保持しつつ更に3時間反応させた。
次に、得られた反応液を冷却して100℃とし、夾雑物を除くための濾過を行って濾液を回収し、これをポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物(X10)」という)を得た(表1参照)。
【0057】
実施例11及び13~16
反応器に仕込む原料を、表1に示すものとした以外は、実施例10と同様の操作を行い、ポリオール組成物(以下、「ポリオール組成物(X11)及び(X13)~(X16)」という)を得た(表1参照)。
【0058】
【表1】
【0059】
2.ポリウレタンフォーム製造用組成物の調製及び発泡体の製造
上記の実施例1~16で得られた各ポリオール組成物と、下記成分とを用いて、ポリウレタンフォーム製造用組成物を調製し、得られたポリウレタンフォーム製造用組成物を用いて、発泡体を製造した。
【0060】
(1)発泡剤
【0061】
(2)整泡剤
・整泡剤1:ダウ東レ社製「SRX280A」(商品名)
・整泡剤2:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「NIAX SILICONE L-670」(商品名)
・整泡剤3:ダウ東レ社製「SZ-1142」(商品名)
【0062】
(3)触媒
・アミン触媒:東ソー社製トリエチレンジアミン「TEDA L-33」(商品名)
・スズ触媒:日東化成社製「ネオスタン U-28」(商品名)
【0063】
(4)ポリイソシアネート
東ソー社製TDI「コロネート T-80」(商品名)
【0064】
実験例1
100部のポリオール組成物(X1)に対して、3.5部の発泡剤(水)と、1.5部の整泡剤1と、0.2部のアミン触媒と、0.34部のスズ触媒と、42.7部のポリイソシアネートとを用いてポリウレタンフォーム製造用組成物を調製した。具体的には、ポリオール組成物(X1)と、発泡剤と、整泡剤と、アミン触媒とを、20秒間撹拌混合し、次いで、得られた混合物にスズ触媒を添加して更に5秒間撹拌混合した。その後、ポリイソシアネートを添加して6秒間撹拌混合し、ポリウレタンフォーム製造用組成物を得た。そして、直ちに、このポリウレタンフォーム製造用組成物を発泡容器(250mm×250mm×250mm)に入れ、ウレタン化反応及び発泡硬化を進めて軟質のポリウレタンフォームを得ることができた(表2参照)。
【0065】
実験例2~16
製造原料を、表2に示すものとした以外は、実験例1と同様の操作を行い、ポリウレタンフォーム製造用組成物を得た。これらの組成物を用いて軟質のポリウレタンフォームを得ることができた(表2参照)。
【0066】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により得られるポリオール組成物を、発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用すると、成形性が良好なポリウレタンフォームを製造することができる。得られるポリウレタンフォームは軟質であることから、特に、生活用品、スポーツ用品、レジャー用品に、更には、車両用部品、建築土木用部品、住宅設備用品、農林業用資材、漁業用資材等としての利用に期待される。
【要約】
【課題】発泡剤、触媒、ポリイソシアネート等と併用して、成形性が良好なポリウレタンフォームの製造に用いるポリウレタンフォーム製造用組成物を与えるポリオール組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、特定の割合で、(A)下記一般式(1)で表されるポリアルキレンエーテルグリコールと、(B)脂肪族ジカルボン酸と、(C)2つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素及びヒマシ油から選ばれた少なくとも1種とを全て含む原料をエステル化反応に供する工程を備えるポリオール組成物の製造方法である。
HO-[C2m-O]-H (1)
(式中、mは3又は4であり、nは8~60の整数である。)
【選択図】なし