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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】電圧生成装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20250417BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250417BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H01M10/48 P
H02J7/00 302C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021050771
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148908
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100194858
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久子
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】西島 克俊
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6842213(JP,B1)
【文献】特開2017-116518(JP,A)
【文献】特開2018-084549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得部と、
前記バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいて前記残容量を算出する容量値算出部と、
前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出部と、
前記電圧値算出部によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成部と、
を備え、
前記電圧値算出部は、前記容量値算出部で算出された残容量に対応する端子間電圧値を算出し、
前記負荷電流値は、前記バッテリセルに接続される負荷に流れる充放電電流値と、他のバッテリセルとの間で前記端子間電圧値を均一化するために入出力される電流であるセルバランシング電流値との和である、
電圧生成装置。
【請求項2】
請求項記載の電圧生成装置であって、
外部と接続され、前記電圧生成部によって生成された電圧を前記外部に出力する外部端子と、前記外部端子に流れる電流を測定する電流測定部と、を更に有し、
前記容量値算出部は、前記電流測定部によって測定された電流値を前記セルバランシング電流値とする、
電圧生成装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の電圧生成装置であって、
前記関係式取得部において取得される前記関係式は、2つの前記測定値ペアの間を線形補間した関数に基づく式である、
電圧生成装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項記載の電圧生成装置であって、
前記関係式取得部において取得される前記関係式は多項式である、
電圧生成装置。
【請求項5】
請求項記載の電圧生成装置であって、
前記関係式取得部は、前記測定値ペアの入力を受け付ける入力部と、前記入力された複数の測定値ペアに基づいて前記関係式を生成する関係式生成部とを有する、
電圧生成装置。
【請求項6】
請求項記載の電圧生成装置と、コンピュータとを備えた電圧生成システムであって、
前記コンピュータは、前記測定値ペアの入力を受け付ける入力部と、前記入力された複数の前記測定値ペアに基づいて前記関係式を生成する関係式生成部とを有し、
前記関係式取得部は、前記コンピュータで生成された前記関係式を取得する、
電圧生成システム。
【請求項7】
バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得機能と、
前記バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいて前記バッテリセルの残容量を算出する容量値算出機能と、
前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出機能と、
前記電圧値算出機能によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成機能と、をコンピュータに実現させるための、電圧生成プログラムであって、
前記電圧値算出機能は、前記容量値算出機能により算出された残容量に対応する端子間電圧値を算出し、
前記負荷電流値は、前記バッテリセルに接続される負荷に流れる充放電電流値と、他のバッテリセルとの間で前記端子間電圧値を均一化するために入出力される電流であるセルバランシング電流値との和である、
電圧生成プログラム。
【請求項8】
バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得工程と、
前記バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいて前記バッテリセルの残容量を算出する容量値算出工程と、
前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出工程と、
前記電圧値算出工程によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成工程と、
を含
前記電圧値算出工程では、前記容量値算出工程において算出された残容量に対応する端子間電圧値を算出し、
前記負荷電流値は、前記バッテリセルに接続される負荷に流れる充放電電流値と、他のバッテリセルとの間で前記端子間電圧値を均一化するために入出力される電流であるセルバランシング電流値との和である、
電圧生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧生成装置に関し、例えば、バッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる電圧生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バッテリは、単一セルから構成されているバッテリセル、複数のバッテリセルを直列および/または並列に接続したバッテリモジュール、および複数のバッテリモジュールを1つの容器に収容したバッテリパックからなる。
【0003】
バッテリ管理システム(BMS:Battery Management System)は、バッテリモジュールや、バッテリパックに搭載された複数のバッテリセルそれぞれの電圧状態を監視し、一部のバッテリセルが過充電や過放電となることを防止することにより、バッテリセルの発火回避、バッテリパックの長寿命化を実現している。
【0004】
バッテリ管理システムは、バッテリパックと、このバッテリパックに対して1つのバッテリ管理システム基板(BMS基板)とにより構成されているワンボックス構成、バッテリモジュール毎のBMS基板とそれらを統括するコントロール制御基板とからなるモジュール構成などがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、各バッテリセルに個別的に設けられたスイッチを介して当該バッテリセルが適正な電圧になるようにセルバランシングを行うことができるセルバランシングシステムがバッテリ管理システムの例として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-503640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バッテリを長く安全に使用するためには、バッテリ管理システムが正常に動作することが重要である。
【0008】
従来、バッテリ管理システムが正常に動作することを確認するために、バッテリパックやバッテリモジュール内の各バッテリセルの電圧に相当する電圧を生成し、バッテリ管理システムに対して入力される電流・電圧を観察する手法がとられていた。
【0009】
しかしながら、従来のバッテリ管理システムを検査する手法で用いられる検査装置は、操作者によって設定されたバッテリセルの電圧に相当する電圧値に基づいて、検査装置が電圧を生成するだけのものであった。すなわち従来の検査装置では、検査装置自体でバッテリセルの電圧挙動を模擬して電圧の生成を行うことはできなかった。特に、従来の検査装置は、バッテリパックやバッテリモジュールに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬することができなかった。
【0010】
本発明は上記従来の問題に鑑みなされたものであって、本発明の課題は、バッテリパックに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる電圧生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な実施形態に係る電圧生成装置は、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得部と、前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出部と、前記電圧値算出部によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成部と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電圧生成装置によれば、バッテリパックに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る電圧生成装置200を備えた電圧生成システム1の概略構成を示す図である。
図2】電圧生成装置200の具体的な構成例を示す図である。
図3】バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を説明する図である。
図4】負荷電流値と充放電電流値およびセルバランシング電流との関係を説明するための図である。
図5】電圧生成システム1におけるコンピュータ100と電圧生成装置200との間の処理の流れを示すシーケンス図である。
図6】電圧生成処理の詳細な処理流れを示すフロー図である。
図7】第2の実施形態にかかる電圧生成装置200におけるデータ処理制御部のMCU212の概略構成を示す図である。
図8】バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を説明する図である。
図9】電圧生成システム1におけるコンピュータ100と電圧生成装置200との間の処理の流れを示すシーケンス図である。
図10】電圧生成処理の詳細な処理流れを示すフロー図である。
図11】充電の場合と放電の場合とで異なる関係式となることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0015】
〔1〕代表的な実施の形態に係る電圧生成装置(200)は、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得部(213)と、前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出部(219)と、前記電圧値算出部によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成部(222)と、を備えている。
【0016】
この態様によれば、測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式とに基づいて端子間電圧値を算出するので、算出される端子間電圧値は、実際のバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示すものとなる。算出された端子間電圧値に応じた電圧を生成することにより、バッテリパックに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる。
【0017】
〔2〕上記〔1〕記載の電圧生成装置において、前記バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいて前記残容量を算出する容量値算出部を有し、
前記電圧値算出部は、前記容量値算出部で算出された残容量に対応する端子間電圧値を算出してもよい。
【0018】
この態様によれば、バッテリセルの電圧挙動の経時的変化を模擬した電圧を生成することができる。
【0019】
〔3〕上記〔2〕記載の電圧生成装置において、前記負荷電流値は、前記バッテリセルに接続される負荷に流れる充放電電流値と、他のバッテリセルとの間で前記端子間電圧値を均一化するために入出力される電流であるセルバランシング電流値との和であってもよい。
【0020】
この態様によれば、模擬するバッテリセルの電圧挙動がバッテリに接続される負荷に流れる充放電電流とセルバランシング電流との両方による影響を反映させたものとすることができる。
【0021】
〔4〕上記〔3〕記載の電圧生成装置において、外部と接続され、前記電圧生成部によって生成された電圧を前記外部に出力する外部端子と、前記外部端子に流れる電流を測定する電流測定部と、を更に有し、前記容量値算出部は、前記電流測定部によって測定した電流値を前記セルバランシング電流値としてもよい。
【0022】
この態様によれば、実際に測定したセルバランシング電流値を用いることができるので、BMSのセルバランシング機能による動作の影響を、模擬するバッテリセルの電圧挙動に反映させることができる。
【0023】
〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれか1つ記載の電圧生成装置において、前記関係式取得部において取得される前記関係式は、2つの前記測定値ペアの間を線形補間した関数に基づく式であってもよい。
【0024】
この態様によれば、局所的に適切な関係式を簡易に生成することができる。
【0025】
〔6〕上記〔1〕から〔4〕のいずれか1つ記載の電圧生成装置において、前記関係式取得部において取得される前記関係式は多項式であってもよい。
【0026】
この態様によれば、電圧値算出の度に関係式を生成する必要をなくすことができる。
【0027】
〔7〕上記〔5〕記載の電圧生成装置において、前記関係式取得部は、前記測定値ペアの入力を受け付ける入力部と、前記入力された複数の測定値ペアに基づいて前記関係式を生成する関係式生成部とを有していてもよい。
【0028】
この態様によれば、関係式取得部が測定値ペアに基づいた関係式を生成するので、関係式の生成から電圧の生成まですべて電圧生成装置で処理できる。
【0029】
〔8〕代表的な実施の形態に係る電圧生成システム(1)は、上記〔6〕記載の電圧生成装置と、コンピュータとを備えた電圧生成システムであって、前記コンピュータは、前記測定値ペアの入力を受け付ける入力部と、前記入力された複数の前記測定値ペアに基づいて前記関係式を生成する関係式生成部とを有し、前記関係式取得部は、前記コンピュータで生成された前記関係式を取得する。
【0030】
この態様によれば、関係式取得部は、コンピュータで生成された関係式を取得するので、関係式を生成する構成のない電圧生成装置で処理できる。
【0031】
〔9〕代表的な実施の形態に係る電圧生成プログラムは、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得機能と、前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出機能と、前記電圧値算出機能によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成機能と、をコンピュータに実現させるための、電圧生成プログラムである。
【0032】
この態様によれば、測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式とに基づいて端子間電圧値を算出するので、算出される端子間電圧値は、実際のバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示すものとなる。算出された端子間電圧値に応じた電圧を生成することにより、バッテリパックに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる。
【0033】
〔10〕代表的な実施の形態に係る電圧生成方法は、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する関係式取得工程と、前記関係式に基づいて、入力されたバッテリセルの残容量に対応する前記端子間電圧値を算出する電圧値算出工程と、前記電圧値算出工程によって算出された前記端子間電圧値に応じた電圧を生成する電圧生成工程と、を含む。
【0034】
この態様によれば、測定値ペアに基づいて生成されたバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式とに基づいて端子間電圧値を算出するので、算出される端子間電圧値は、実際のバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示すものとなる。算出された端子間電圧値に応じた電圧を生成することにより、バッテリパックに対する負荷に応じたバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することができる。
【0035】
2.実施形態の具体例
以下、本発明の実施形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。
【0036】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電圧生成装置200を備えた電圧生成システム1の概略構成を示す図である。
【0037】
図1に示される電圧生成システム1は、例えば、バッテリ管理システム(以下、単に「BMS」ともいう。)の検査を実施するために用いることができる。ここで、BMSは、例えば、上述したように、バッテリパックに搭載された複数のバッテリセルそれぞれの電圧状態を監視し、一部のバッテリセルが過充電や過放電となることを防止する装置である。
【0038】
電圧生成システム1を構成する電圧生成装置200は、バッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成する(シミュレーションする)。特に、電圧生成装置200は、定常状態におけるバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することが可能になっている。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の電圧生成システム1は、コンピュータ(情報処理装置)100と、コンピュータ100に接続された電圧生成装置200とを備えている。電圧生成システム1は、電圧生成装置200をBMS300と接続した状態でBMS300の検査を行う。
【0040】
コンピュータ100は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)である。なお、コンピュータ100は、電圧生成装置200との間でデータ通信を行うことができればよく、例えば、タブレット端末等の携帯情報処理装置であってもよい。
【0041】
例えば、ユーザがコンピュータ100に必要な情報を入力すると、コンピュータ100に入力された情報に応じて電圧生成装置200が後述する制御を実行することにより、電圧生成装置200がバッテリセルを模擬した電圧を生成する。このバッテリセルを模擬した電圧は、接続先のBMS300に印加され、BMS300は、印加された電圧に応じて所定の動作を行う。ユーザは、バッテリセルを模擬した電圧が印加されたときのBMS300の挙動を観察することにより、BMS300の検査をすることができる。
【0042】
図2は、電圧生成装置200の具体的な構成例を示す図である。
【0043】
図2に基づいて、電圧生成システム1の具体的な構成について説明する。
【0044】
コンピュータ100は、図2に示すように、表示部101と、処理部102と、入出力部103とを備えている。
【0045】
コンピュータ100は、入出力部103においてユーザからの所定の入力を受け付けると、電圧生成装置200に対して、所定の入力を行う。具体的には、コンピュータ100の入出力部103は、電圧生成に際して、予め充放電試験器により測定した測定値ペアや充放電電流値の入力を受け付けると、これらの値を電圧生成装置200に送信する。
【0046】
測定値ペアとは、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値の測定値とを一組とする値の組み合わせである。この測定値ペアは、一例では、ユーザが予め充放電試験器により測定したものが入力されるが、測定値ペアの測定法はこれに限らない。測定値ペアは、端子間電圧値の変化が大きいところでは細かく測定し、変化が小さいところでは大きな間隔で測定したものを用いるようにしてもよい。また、測定値ペアは、測定したものに限らず、複数の測定値ペアのセットをコンピュータ100内の図示しない記憶部にあらかじめ保存しておき、ユーザが模擬に使用する測定値ペアのセットを選択するようにしてもよい。コンピュータ100の記憶部には、必要な測定値ペアの組み合わせの数があらかじめ設定されており、処理部102は、設定された数の入力を促すようにしてもよい。この場合、内部メモリ容量の制限に適合するように、測定値ペアの数に上限を設けてもよい。
【0047】
また、コンピュータ100において、処理部102が電圧生成装置200から受け取ったデータを処理して、表示部101に表示することもできる。表示部101は、例えば、液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置である。例えば、処理部102は、後述する電流測定部223で測定された電流値の経時変化や電圧測定部224で測定された電圧値の経時変化などの測定データを受け取り、受け取った測定データに基づいて表示データを生成して表示部101に出力する。これにより、電圧の経時変化や電流の経時変化を示すグラフを表示部101に表示することができる。ユーザは表示部101に表示されたグラフを観察することにより、電圧生成システムの出力を確認することができる。
【0048】
電圧生成装置200は、BMS300の複数のチャネルのそれぞれに接続される複数のセル電圧生成部220_1~220_nと、複数のセル電圧生成部220_1~220_nのそれぞれに接続されたデータ処理制御部210とを備えている。なお、以下の説明において、セル電圧生成部220_1~220_nのそれぞれを区別しない場合には、単に「セル電圧生成部220」と表記する場合がある。
【0049】
データ処理制御部210は、コンピュータ100から受け取った値や指示を用いて各セル電圧生成部220で生成すべき電圧値を算出し、複数のセル電圧生成部220のそれぞれに出力する。
【0050】
複数のセル電圧生成部220は、接続先のBMS300の各チャネルに対して、データ処理制御部210から受け取った電圧値に応じた電圧を生成して出力する。
【0051】
複数のセル電圧生成部220_1~220_nは、それぞれ、BMS300と接続するための接続端子25_1~225_nが設けられている。
【0052】
セル電圧生成部220_1~220_nは、電圧生成部222_1~222_nと、電流測定部223_1~223_nと、電圧測定部224_1~224_nと、接続端子225_1~225_nを備えている。なお、以下の説明において、電圧生成部222_1~222_n、電流測定部223_1~223_n、電圧測定部224_1~224_nおよび接続端子225_1~225_nのそれぞれを区別しない場合には、単に「通信部221」、「電圧生成部222」、「電流測定部223」、「電圧測定部224」および「接続端子225」と表記する場合がある。電圧生成部222は、例えばD/A変換器やアンプなどの公知の電圧生成手段を用いて構成することができ、その構成は特に限定されない。電流測定部223は、例えばA/D変換器や抵抗などの公知の電流測定手段を用いて構成することができ、その構成は特に限定されない。電圧測定部224は、例えばA/D変換器や抵抗などの公知の電圧測定手段を用いて構成することができ、その構成は特に限定されない。
【0053】
データ処理制御部210で算出された電圧値は、電圧生成部222に入力される。一方、電流測定部223と電圧測定部224とで測定された電流と電圧(電流値の経時変化および電圧値の経時変化)は、データ処理制御部210の出力部226に渡される。
【0054】
データ処理制御部210は、LANインタフェース(Local Area Networkインタフェース)と、プログラム処理装置211とを有する。プログラム処理装置211は、例えば、CPU等のプロセッサ、ROMやRAM等の各種メモリ、タイマ(カウンタ)、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたマイクロコントローラ(MCU)である。以下、プログラム処理装置211をMCU211ともいう。
【0055】
図2に示すように、MCU211は、バッテリセルを模擬した電圧値を算出するための機能部として、関係式生成部215および測定値ペア入力部214を有する関係式取得部213と、充放電電流値入力部217と、容量値算出部218と、電圧値算出部219、出力部226とを備えている。これらの各機能部は、例えば、MCU211のプロセッサがメモリ等に記憶されたプログラムに従って各種演算を行うとともにA/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって実現することができる。
【0056】
関係式取得部213は、測定値ペア入力部214と関係式生成部215とを有しており、測定値ペアに基づいてバッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を取得する。測定値ペア入力部214は、LANを介してコンピュータ100からの測定値ペアの入力を受け付けて、関係式生成部215と容量値算出部218とに与える。
【0057】
関係式生成部215は、測定値ペア入力部214から受け取った測定値ペアに基づいて、バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を生成する。この関係式について、図3に基づいて説明する。
【0058】
図3は、バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を説明する図である。
【0059】
図3には、バッテリセルの残容量が横軸に示され、端子間電圧値が縦軸に示されており、これらの縦軸および横軸にしたがって、複数の測定値ペアがプロットされている。さらに、図3の測定値ペアの隣接するプロット間は、線形補間されている。本実施形態の関係式生成部215で生成する関係式は、隣接するプロット間を線形補間する関数で表した式である。
【0060】
関係式生成部215は、例えば、2つのプロット間を直線で接続し、その直線の傾きをaとし、切片をbとした関数y=ax+bで示される関数を生成することにより線形補間する。なお、この関数においてxはバッテリセルの残容量を示し、yは端子間電圧値を示す。
【0061】
関係式取得部213は、生成した関係式を電圧値算出部219に与える。
【0062】
充放電電流値入力部217は、LANを介してコンピュータ100からの充放電電流値の入力を受け付けて、容量値算出部218に与える。
【0063】
容量値算出部218は、バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいてバッテリセルの残容量の増減量を算出する。この負荷電流値は、バッテリに接続される負荷に流れる充放電電流値と、他のバッテリセルとの間で端子間電圧を均一化するために入出力される電流であるセルバランシング電流値との和である。ここでセルバランシング電流値について説明する。
【0064】
図4は、負荷電流値と充放電電流値およびセルバランシング電流との関係を説明するための図である。
【0065】
図4は、複数のバッテリセル10~1012(以下、単に「バッテリセル10」ともいう。)とBMS300とを備えたバッテリ管理システムの使用状態の例を示している。使用状態では、負荷400とBMS300とが並列に、バッテリセル10に対して接続されており、負荷400とBMS300とのそれぞれに対して電流が入出力される。
【0066】
各バッテリセル10は、負荷400を作動させるために負荷400に対して放電(充放電電流が-IL)したり、負荷400から回生電力を受け取って充電(充放電電流がIL)したりすることにより、バッテリセル10は負荷400に対して電流を入出力する。
【0067】
複数のバッテリセル10~1012は、各バッテリセル10同士で端子間電圧を均一化するために、端子間電圧の高いバッテリセル10から端子間電圧の低いバッテリセル10に電流を流している。この端子間電圧を均一化するための電流は、BMS300を介して流れる。各バッテリセル10は、他のバッテリセルに対して放電する場合、セルバランシング電流-IBがBMS300に流れ、他のバッテリセルから充電される場合、セルバランシング電流IBがBMS300に流れる。
【0068】
図4にも示すように、バッテリセル10から出力される電流の値である負荷電流値をIoと表すと、Io=IL+IBの関係があることが判る。
【0069】
図2に戻って、容量値算出部218は、具体的には、充放電電流値入力部217から与えられた充放電電流値および後述する電流測定部223で測定された電流値と経過時間とに基づいてバッテリセルの残容量の増減量を算出する。容量値算出部218は、さらに、最初のバッテリセルの残容量から算出したバッテリセルの残容量の増減量を加減算することによって、経過時間ごとのバッテリセルの残容量を算出する。最初のバッテリセルの残容量は、測定値ペアの最初のプロットに対応する電圧値であるといえる。
【0070】
容量値算出部218は、バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とを乗算することにより、負荷電流の積算値である電流積算値を算出する。充電をシミュレーションする場合は、最初のバッテリセルの残容量は空であるので、この積算値が残容量となる。放電をシミュレーションする場合は、満充電時の容量からこの電流積算値を差し引くことによって残容量を算出することができる。
【0071】
本実施形態の電圧生成システム1の容量値算出部218においてバッテリセルの残容量の算出は、電源周波数の1周期に相当する時間(1PLC:Power Line Cycle)ごとに実行することができるがこれに限定されない。容量値算出部244において1PLC間隔で算出を実行する場合、例えば、50Hzの電源であれば、1PLCは20msとなるので、経過時間を20msとしてバッテリセルの残容量の算出をすることができる。
【0072】
容量値算出部218は、算出した経過時間ごとのバッテリセルの残容量を電圧値算出部219に与える。
【0073】
電圧値算出部219は、関係式取得部213から与えられた関係式に基づいて、容量値算出部218から与えられたバッテリセルの残容量に対応するバッテリセルの端子間電圧値を算出してセル電圧生成部220の電圧生成部222に与える。電圧値算出部219は、シミュレーションの開始時には、測定値ペアの最初のプロットに対応する電圧値をバッテリセルの端子間電圧値としてセル電圧生成部220の電圧生成部222に与える。
【0074】
セル電圧生成部220において、電圧生成部222は、電圧値算出部219から受け取った電圧値に応じた電圧を生成する。電圧生成部222は、BMS300と接続するための接続端子225に接続されており、電圧生成部222で生成された電圧は、BMS300に出力される。
【0075】
また、BMS300と接続された接続端子225には電流測定部223も接続されているので、電流測定部223により接続端子225における電流を測定することができる。電流測定部223により測定された電流の情報は、データ処理制御部210の容量値算出部218と出力部226に送信される。
【0076】
さらに、BMS300と接続された接続端子225には電圧測定部224も接続されているので、電圧測定部224により接続端子225における電圧を測定することができる。電圧測定部224により測定された電圧の情報は、データ処理制御部210の出力部226に送信される。
【0077】
出力部226に送信された測定された電流および電圧の情報(電流値の経時変化および電圧値の経時変化)は、測定データとしてコンピュータ100の処理部102に送信される。
【0078】
次に、電圧生成システム1の動作について説明する。
【0079】
図5は、電圧生成システム1におけるコンピュータ100と電圧生成装置200との間の処理の流れを示すシーケンス図である。
【0080】
まず、コンピュータ100において、ユーザから入出力部103を介して入力された測定値ペアを、処理部102が受け付ける(ステップS101)。測定値ペアは、ユーザが予め充放電試験器により測定したものが入力される。処理部102は、受け付けた測定値ペアを、電圧生成装置200に与える。
【0081】
同様に、コンピュータ100において、入出力部103を介して、処理部102が、ユーザからの充放電電流値の入力を受け付ける(ステップS102)。処理部102は、受け付けた充放電電流値を、電圧生成装置200に与える。処理部102は、受け付けた充放電電流値を電圧生成装置200に与える。また、電圧の生成を指示する実行指示の入力を受け付ける(ステップS103)。
【0082】
電圧生成装置200は、ステップS103の実行指示に応じて、コンピュータ100から受け取った、測定値ペアおよび充放電電流値に基づいて電圧生成処理を実行する(ステップS200)。以下、電圧生成処理の流れについて詳細に説明する。
【0083】
図6は、電圧生成処理の詳細な処理流れを示すフロー図である。(シミュレーション開始)
【0084】
電圧生成装置200において容量値算出部218は、先ず、電圧生成処理を開始すると、容量値算出部218は、測定値ペアの最初のプロットに対応する電圧値を初期値として設定する(ステップS201)。この際、電圧値算出部219も測定値ペアの最初のプロットに対応する電圧値をバッテリセルの端子間電圧値としてセル電圧生成部220の電圧生成部222に与えることにより、最初のプロットに対応する電圧が接続端子225から出力される。関係式生成部215は、初期値と次のプロットとを結んで1次式を算出する(ステップS202)。
【0085】
次に、電流測定部223は、電流測定を行い、測定した電流値(セルバランシング電流値)を容量値算出部218に与える(ステップS203)。
【0086】
容量値算出部218は、充放電電流値とセルバランシング電流値の和と経過時間とを乗算して、電池の電流容量を算出して、現在の残容量の値を算出し、算出した残容量値を電圧値算出部219に与える(ステップS204)。
【0087】
電圧値算出部219は、受け取った残容量を関係式に代入して、端子間電圧値(以下、単に「電圧値」ともいう。)を算出する(ステップS205)。
【0088】
電圧値算出部219は、今回算出した出力電圧が前回算出した電圧値と等しいか否かを判断し(ステップS206)、等しくないと判断した場合(ステップS206:No)は、電圧生成部222に与える電圧値を算出した電圧値に変更する(ステップS208)。電圧生成部222に与える電圧値を変更すると、電圧生成部222が生成する電圧が変化する。
【0089】
容量値算出部218は、ステップS204で算出した残容量の値が、次のプロットの残容量よりも小さいか否かを判定する(ステップS209)。ステップS204で算出した残容量の値が次のプロットの残容量よりも小さければ(ステップS209:Yes)、関係式を変更する必要がないので、容量値算出部218は、再びステップS203の電流測定に戻って、残容量の算出を行う。
【0090】
一方、ステップS204で算出した残容量の値が次のプロットの残容量よりも小さくなければ(ステップS208:No)、関係式を変更する必要があるので、容量値算出部218は、次のプロットの測定値ペアがあるか否かを判断し(ステップS209)、次のプロットの測定値ペアがなければ(ステップS209:No)、電圧生成処理を終了する。次のプロットの測定値ペアがあれば(ステップS209:Yes)、容量値算出部218は、関係式取得部213にその旨を通知する。通知を受けた関係式取得部213において、関係式生成部215は、現在の1次式における次のプロットをその次のプロットと結んで1次式を算出する(ステップS210)。
【0091】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の電圧生成システム1では、測定値ペアを線形補間して得られた関数を関係式として用いて電圧値を算出していたが、本実施形態の電圧生成システム1では、測定値ペアを多項式で表した関数を関係式として用いて電圧値を算出する。また、第1の実施形態では、電圧生成装置200においてデータ処理制御部210はMCU211で関係式を算出していたが、本実施形態では、電圧生成装置200においてデータ処理制御部210は、コンピュータ100で算出した関係式を取得する。したがって、関係式を生成する構成と取得した関係式で電圧値を算出する構成が異なる。具体的には、主にPCで生成するデータとデータ処理制御部210におけるMCU212(図7参照)の機能構成が異なるが、それ以外の構成は共通であるので、共通する部分の構成についての説明は省略する。
【0092】
図7は、第2の実施形態にかかる電圧生成装置200におけるデータ処理制御部のMCU212の概略構成を示す図である。
【0093】
本実施形態では、コンピュータ100は、図2と同様に、表示部101と、処理部102と、入出力部103とを備えているが、これらの構成が協働して、測定値ペア入力部110と関係式生成部120として機能するよう構成されている。
【0094】
測定値ペア入力部110は、第1の実施形態と同様に、一例では、ユーザが予め充放電試験器により測定したものが入力されるが、測定値ペアの測定法はこれに限らない。測定値ペアは、端子間電圧値の変化が大きいところでは細かく測定し、変化が小さいところでは大きな間隔で測定したものを用いるようにしてもよい。また、測定値ペアは、測定したものに限らず、複数の測定値ペアのセットを図示しない記憶部にあらかじめ保存しておき、模擬に使用する測定値ペアのセットをユーザに選択させるようにしてもよい。測定値ペア入力部110には、必要な測定値ペアの組み合わせの数があらかじめ設定されており、設定された数の入力を促すようにしてもよい。この場合、内部のメモリ容量に制限に適合するように、測定値ペアの数に上限を設けてもよい。
【0095】
関係式生成部120は、測定値ペア入力部110から受け取った測定値ペアに基づいて、バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を生成する。この関係式について、図8に基づいて説明する。
【0096】
図8は、バッテリセルの残容量と前記端子間電圧値との関係を示す関係式を説明する図である。
【0097】
図8には、バッテリセルの残容量が横軸に示され、端子間電圧値が縦軸に示されており、複数の測定値ペアがプロットされている。本実施形態において測定値ペアのプロットは、図8に示すように、多項式で近似されている。
【0098】
関係式生成部120は、最小2情報、特異点分解アルゴリズムなどにより、例えば、y=C+C+・・・CI+C10で示される多項式を関係式として生成することができる。なお、この多項式において、C・・・C10は任意の係数であり、Iはバッテリセルの残容量であり、yは端子間電圧値である。
【0099】
関係式生成部120は、図8に示すような多項式に限らず、その他のアルゴリズムで近似してもよい。例えば、y=C(x)+C(x)+・・・Cn-1n-1(x)において、F(x)=sinx、F(x)=cosx、Fn-1(x)=1/(x+1)などと定義したn次元線形曲線なども用いることができる。関係式生成部120は、生成した関係式を関係式取得部241に与える。
【0100】
図7に戻って、データ処理制御部210のMCU211は、バッテリセルを模擬した電圧値を算出するための機能部として、関係式取得部241と、充放電電流値入力部243と、容量値算出部244と、電圧値算出部245とを備えている。これらの各機能部は、例えば、MCU211のプロセッサがメモリ等に記憶されたプログラムに従って各種演算を行うとともにA/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって実現することができる。
【0101】
関係式取得部241は、コンピュータ100で生成した関係式を取得し、電圧値算出部245に与える。
【0102】
充放電電流値入力部243は、LANを介してコンピュータ100からの充放電電流値の入力を受け付けて、容量値算出部244に与える。
【0103】
容量値算出部244は、シミュレーションの開始時には、充放電電流値入力部243から与えられた充放電電流値に基づいて最初のバッテリセルの残容量を特定する。例えば、充放電電流値が充電を示す場合は、最初のバッテリセルの残容量は空と特定し、充放電電流値が放電を示す場合は、最初のバッテリセルの残容量は満充電と特定する。容量値算出部244は、シミュレーションの途中では、バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とに基づいてバッテリセルの残容量の増減量を算出する。負荷電流は、充放電電流値入力部243から与えられた充放電電流値と、電流測定部223で測定された接続端子225における電流とに基づいて決定される。
【0104】
容量値算出部244は、バッテリセルから出力される電流の値である負荷電流値と経過時間とを乗算することにより、負荷電流の積算値である電流積算値を算出する。充電をシミュレーションする場合は、最初のバッテリセルの残容量は空であるので、この積算値が残容量となる。放電をシミュレーションする場合は、満充電時の容量からこの電流積算値を差し引くことによって残容量を算出することができる。
【0105】
本実施形態の電圧生成システム1の容量値算出部244においてバッテリセルの残容量の算出は、電源周波数の1周期に相当する時間(1PLC:Power Line Cycle)ごとに実行することができるがこれに限定されない。容量値算出部244において1PLC間隔で算出を実行する場合、例えば、50Hzの電源であれば、1PLCは20msとなるので、経過時間を20msとしてバッテリセルの残容量の算出をすることができる。
【0106】
電圧値算出部245は、関係式取得部241から与えられた関係式に基づいて、容量値算出部244から与えられたバッテリセルの残容量に対応するバッテリセルの端子間電圧値を算出してセル電圧生成部220の電圧生成部222に与える。
【0107】
次に、第2の実施形態の電圧生成システム1の動作について説明する。
【0108】
図9は、電圧生成システム1におけるコンピュータ100と電圧生成装置200との間の処理の流れを示すシーケンス図である。
【0109】
まず、コンピュータ100において、測定値ペア入力部110が、ユーザからの測定値ペアの入力を受け付ける(ステップS301)。具体的には、入出力部103を介して、処理部102が入力を受け付ける処理をする。測定値ペアは、ユーザが予め充放電試験器により測定したものが入力される。
【0110】
測定値ペアの入力を受け付けると、関係式生成部120は、関係式を生成する(ステップS302)。関係式は、例えば、最小2乗法、特異点分解アルゴリズムなどにより、入力された測定値ペアを近似する多項式を算出する。算出した多項式は、実測値との残差が所定値未満であるか否かによって適切か否かを判断し、不適切なら再度近似方法を変えて算出する。
【0111】
コンピュータ100において、入出力部103を介して、処理部102が、ユーザからの充放電電流値の入力を受け付ける(ステップS303)。処理部102は、受け付けた充放電電流値を、電圧生成装置200の充放電電流値入力部243に与える。
【0112】
処理部102は、電圧の生成を指示する実行指示の入力を受け付ける(ステップS304)と、その旨の指示を電圧生成装置200に出力する。
【0113】
電圧生成装置200は、ステップS304の実行指示に応じて、コンピュータ100から受け取った、測定値ペアおよび充放電電流値に基づいて電圧生成処理を実行する(ステップS400)。以下、電圧生成処理の流れについて詳細に説明する。
【0114】
図10は、電圧生成処理の詳細な処理流れを示すフロー図である。(シミュレーション開始)
【0115】
電圧生成装置200において容量値算出部244は、先ず、電圧生成処理を開始し、充放電電流値入力部243により入力された充放電電流値に基づいて、これから充電と放電とのどちらのシミュレーションを実行するかを判断する(ステップS401)。なお、ステップS401においては、入力された充放電電流値に基づいて、最初の状態が充電と放電なのかを決定するだけである。シミュレーションを開始した後、後述するセルバランシング電流などの変動に応じて現在の状態が充電と放電のどちらなのかを判断して最初に決定した充電と放電とは逆のシミュレーションを実行してもよい。
【0116】
ステップS401で充電であると判断した場合は、最初に用いる残容量を測定値プロットの最小容量(空)とする(ステップS403)。一方、ステップS401で放電であると判断した場合は、最初に用いる残容量を測定値プロットの最大容量(満充電)とする(ステップS402)。
【0117】
次に、電流測定部223は、電流測定を行い、測定した電流値(セルバランシング電流値)を容量値算出部244に与える(ステップS404)。
【0118】
容量値算出部244は、充放電電流値ILとセルバランシング電流値IBの和である負荷電流値Ioを算出し(ステップS405)、現在のシミュレーションが充電か放電かを判断する(ステップS406)。例えば、バッテリセルから流れ出る電流が正となる負荷電流値Ioが算出された場合は、現在のシミュレーションが放電であると判断することができる。一方、バッテリセルから流れ出る電流が負となる負荷電流値Ioが算出された場合は、現在のシミュレーションが充電であると判断することができる。
【0119】
ステップS406において、容量値算出部244は、放電と判断した場合は、負荷電流値Ioと経過時間とを乗算することにより電池に流れる電流容量を特定して、それを残容量から減算して現在の残容量の値を算出する(ステップS407)。さらに容量値算出部244は、現在の残容量が最小電流容量に達したか否かを判断する(ステップS408)。ステップS408において現在の残容量が最小電流容量に達したと判断された場合は、電圧生成処理を終了する。
【0120】
ステップS406において、容量値算出部244は、充電と判断した場合は、負荷電流値Ioと経過時間とを乗算することにより電池に流れる電流容量を特定して、それを残容量に加算して現在の残容量の値を算出する(ステップS409)。さらに容量値算出部244は、現在の残容量が最大電流容量に達したか否かを判断する(ステップS410)。ステップS410において現在の残容量が最大電流容量に達したと判断された場合は、電圧生成処理を終了する。
【0121】
ステップS408、S410において、電圧生成処理終了の判断がされなかった場合は、容量値算出部244は、算出した残容量値を電圧値算出部245に与え、電圧値算出部245は、受け取った残容量を関係式に代入して、電圧値を算出する(ステップS411)。
【0122】
電圧値算出部245は、今回算出した出力電圧が前回算出した電圧値と等しいか否かを判断する(ステップS412)。電圧値算出部245は、等しくないと判断した場合(ステップS412:No)、さらに、算出した電圧値が最小電圧値より小さいか、最大電圧値より大きいか否かを判断する(ステップS413)。電圧値算出部245は、算出した電圧値が最小電圧値より小さいか、最大電圧値より大きい場合は、電圧生成処理を終了する。
【0123】
電圧値算出部245は、算出した電圧値が最小電圧値より大きく、かつ最大電圧値より大きくない場合は、電圧生成部222に与える電圧値を算出した電圧値に変更する(ステップS414)し、再びステップS404の電流測定に戻って、残容量の算出を行う。
【0124】
以上、本実施形態に係る電圧生成装置200によれば、バッテリの負荷が変化したときのバッテリセルの電圧挙動を模擬した電圧を生成することが可能となる。
【0125】
(実施形態の変形例)
以上の実施形態の電圧生成システム1について具体的な例を挙げて説明したが、これに限定されず、様々な変形形態を採用することができる。
【0126】
例えば、以上の実施形態では、バッテリセルの残容量と端子間電圧値との関係式が、充電と放電の場合で特に異ならない場合を例に挙げて説明した。しかしながら、図11に示すように、関係式取得部213の関係式生成部215は、充電の場合と放電の場合とで異なる関係式を生成してもよい。この場合、電圧値算出部219は、算出に用いる関係式として、充電の場合と放電の場合で、異なる測定値ペアに基づいて生成した関係式を用いて端子間電圧を求めることができる。
【0127】
以上の実施形態では、セルバランシング電流について、アクティブセルバランシング動作により生じる場合について例を挙げて説明したが、これに限定されない。パッシブセルバランシング動作により生じるセルバランシング電流であってもよい。
【0128】
以上の実施形態では、測定値ペアを、バッテリセルの残容量とその残容量における前記バッテリセルの端子間電圧値とを一組とする値の組み合わせとした場合について説明したが、これに限定されない。測定値ペアとしてバッテリセルの残容量の代わりに、電流積算値を用いた一組の組み合わせとしてもよい。この場合、放電(充電)開始時の放電(充電)電流をx[A]としてt[sec]流した場合、xt/3600[Ah]を電流積算値とし、その時間におけるバッテリセルの端子間電圧値を測定値ペアとして得ることができる。
【符号の説明】
【0129】
1・・・電圧生成システム、100・・・コンピュータ(PC)、101・・・表示部、102・・・処理部、103・・・入出力部、110・・・測定値ペア入力部、120・・・関係式生成部、200・・・電圧生成装置、210・・・データ処理制御部、211、212・・・MCU、213・・・関係式取得部、214・・・測定値ペア入力部、215・・・関係式生成部、217、243・・・充放電電流値入力部、218、244・・・容量値算出部、219、245・・・電圧値算出部、220_1~220_n(220)・・・セル電圧生成部、222_1~222_n(222)・・・電圧生成部、223_1~223_n(223)・・・電流測定部、224_1~224_n(224)・・・電圧測定部、225_1~225_n(225)・・・接続端子、226、出力部、300・・・BMS
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11