(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】乗物用ルーフ
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20250417BHJP
B60J 3/04 20060101ALI20250417BHJP
B60J 7/00 20060101ALI20250417BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20250417BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20250417BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20250417BHJP
【FI】
B62D25/06 C
B60J3/04
B60J7/00 P
B60R11/02 C
G02F1/13 505
G02F1/15 502
(21)【出願番号】P 2021132665
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 忠祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 茂樹
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-544133(JP,A)
【文献】特開2008-064889(JP,A)
【文献】特開昭63-078816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0272623(US,A1)
【文献】特開2017-024597(JP,A)
【文献】特開2018-144622(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112904635(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
B60J 3/04
B60J 7/00
B60R 11/02
G02F 1/13
G02F 1/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用ルーフであって、
乗物の室内に映像を表示する表示装置と、
前記表示装置の下方に配置される光透過性の内側パネルと、
前記表示装置の上方に配置される外側パネルとを備え、
前記内側パネルには、可視光の透過率を変更できる目隠し用調光シートが取り付けられており、
前記目隠し用調光シートの前記透過率が低い状態であり、前記表示装置を室内側から見え難くした遮蔽状態と、前記目隠し用調光シートの前記透過率の高い状態であり、前記内側パネルを介して前記表示装置の映像を室内側に表示するための表示状態とを切り替え可能であることを特徴とする乗物用ルーフ。
【請求項2】
前記外側パネルは、光透過性のパネルであり、
前記外側パネルには、可視光の透過率を変更できる採光用調光シートが取り付けられており、
前記採光用調光シートの前記透過率が低い状態であり、室内に入射する外光を遮る遮光状態と、前記採光用調光シートの前記透過率が高い状態であり、室内に外光を入射させる採光状態とを切り替え可能である請求項1に記載の乗物用ルーフ。
【請求項3】
前記内側パネルは、前記目隠し用調光シートにより前記遮蔽状態とされているときに、前記外側パネルを通過した外光を室内に入射させる採光領域を有している請求項2に記載の乗物用ルーフ。
【請求項4】
前記内側パネルに取り付けられるオーバーヘッドコンソールを備え、
前記外側パネルと前記内側パネルとの間には、前記オーバーヘッドコンソールに接続されるコンソールモジュールが配置され、
前記目隠し用調光シートは、前記遮蔽状態にあるとき、前記表示装置及び前記コンソールモジュールを室内側から見え難くするように隠す請求項1~3のいずれか一項に記載の乗物用ルーフ。
【請求項5】
前記外側パネルと前記内側パネルとの間には、前記コンソールモジュールを収容するコンソールハウジングが設けられ、
前記表示装置は、前記コンソールハウジングに収容されている請求項4に記載の乗物用ルーフ。
【請求項6】
前記内側パネル及び前記外側パネルの一方又は両方は、透明基材層と、前記透明基材層に積層された光学薄膜層とを備える請求項1~5のいずれか一項に記載の乗物用ルーフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用ルーフに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、乗物用ルーフには、通常、ボディと同様の鋼板が用いられているが、採光、開放感などの利点を活用すべく、ムーンルーフと称して、ガラスや透明樹脂で覆うグレードも存在する。特許文献1は、室内に入射する太陽光などの外光の強さを調節できる車両のルーフウインドウを開示する。特許文献1のルーフウインドウは、調光フィルムと、調光フィルムを挟んで重ねられた二枚の板ガラスとから構成されている。調光フィルムは、二枚の直線偏光板により液晶セルを挟持する構造の部材であり、液晶に印加する電界に応じて液晶の配向が変化することにより透過率が変化する。車両の搭乗者は、操作パネルに対する操作を通じて調光フィルムの透過率を変化させることにより、ルーフウインドウを透過する外光の強さを調節できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規な付加価値を有する乗物用ルーフを提供することにある。すなわち、本発明は、ムーンルーフなどの乗物用ルーフに関し、今まで積極的に利用されていなかった天井スペース、オーバーヘッドコンソールに対して、太陽光の利活用を含め、新たな利用価値を付与する。そして、乗物用ルーフに対する新たな価値観を創造する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する乗物用ルーフは、乗物の室内に映像を表示する表示装置と、前記表示装置の下方に配置される光透過性の内側パネルと、前記表示装置の上方に配置される外側パネルとを備え、前記内側パネルには、可視光の透過率を変更できる目隠し用調光シートが取り付けられており、前記目隠し用調光シートの前記透過率が低い状態であり、前記表示装置を室内側から見え難くした遮蔽状態と、前記目隠し用調光シートの前記透過率の高い状態であり、前記内側パネルを介して前記表示装置の映像を室内側に表示するための表示状態とを切り替え可能である。
【0006】
上記構成によれば、乗物の室内に映像を表示する表示部としての機能を有する新規な乗物用ルーフが提供される。上記構成の乗物用ルーフは、目隠し用調光シートの可視光の透過率を高めて内側パネルを表示状態としたときには、室内の乗員は、内側パネルを介して表示装置に基づく映像を見ることができる。この場合の乗物用ルーフは、表示装置の表示面として機能する。一方、目隠し用調光シートの可視光の透過率を低くして内側パネルを遮蔽状態としたときには、乗物用ルーフは、目隠し用調光シート及び内側パネルの各色に基づく色調の天井となる。そのため、遮蔽状態では、乗物用ルーフを室内の内装と調和した色調の天井とすることも可能であり、表示装置を備える乗物用ルーフとしたことによる意匠性の低下を抑制できる。したがって、上記構成によれば、意匠性の自由度の高い構成でありながらも、映像を表示するという新しい機能が付与された乗物用ルーフとなる。
【0007】
上記乗物用ルーフにおいて、前記外側パネルは、光透過性のパネルであり、前記外側パネルには、可視光の透過率を変更できる採光用調光シートが取り付けられており、前記採光用調光シートの前記透過率が低い状態であり、室内に入射する外光を遮る遮光状態と、前記採光用調光シートの前記透過率が高い状態であり、室内に外光を入射させる採光状態とを切り替え可能であることが好ましい。
【0008】
上記構成とした場合には、乗物用ルーフに対して、室内に外光を取り込む機能、所謂、ムーンルーフとしての機能を更に付与することができる。したがって、より多機能な乗物用ルーフとなる。
【0009】
上記乗物用ルーフにおいて、前記内側パネルは、前記目隠し用調光シートにより前記遮蔽状態とされているときに、前記外側パネルを通過した外光を室内に入射させる採光領域を有していることが好ましい。
【0010】
上記構成とした場合には、外側パネルを採光状態とすることにより外側パネルを通過した外光を、内側パネルの採光領域を通じて室内に入射させることができる。これにより、内側パネルを室内側から表示装置を見え難くした遮蔽状態としつつも、室内に外光を取り込むことができる。
【0011】
上記乗物用ルーフにおいて、前記内側パネルに取り付けられるオーバーヘッドコンソールを備え、前記外側パネルと前記内側パネルとの間には、前記オーバーヘッドコンソールに接続されるコンソールモジュールが配置され、前記目隠し用調光シートは、前記遮蔽状態にあるとき、前記表示装置及び前記コンソールモジュールを室内側から見え難くするように隠すことが好ましい。
【0012】
上記構成とした場合には、オーバーヘッドコンソールを備える乗物用ルーフにおいて、意匠性の自由度の高い構成でありながらも、映像を表示するという新しい機能を付与することができる。換言すると、乗物用ルーフに対して、意匠性の自由度の高い特性を維持しつつ、オーバーヘッドコンソールに基づく機能を更に付与することができる。
【0013】
上記乗物用ルーフにおいて、前記外側パネルと前記内側パネルとの間には、前記コンソールモジュールを収容するコンソールハウジングが設けられ、前記表示装置は、前記コンソールハウジングに収容されている。
【0014】
上記構成とした場合には、表示装置及びコンソールモジュールを一箇所にまとめて配置することにより、目隠し用調光シートによって表示装置及びコンソールモジュールを隠す範囲を小さくできる。
【0015】
上記乗物用ルーフにおいて、前記内側パネル及び前記外側パネルの一方又は両方は、透明基材層と、前記透明基材層に積層された光学薄膜層とを備えることが好ましい。
上記構成とした場合には、光学薄膜層によって任意の波長の光の反射率又は透過率を調整することによって、室内から内側パネルを見た場合、又は乗物の外側から外側パネルを見た場合に、光学薄膜層に基づく色又は模様を有する有色透明の内側パネル又は外側パネルとなる。これにより、内側パネル及び外側パネルの意匠性が向上する。また、内側パネルが有色透明であることにより、遮蔽状態において室内側から表示装置を見え難くする効果が高められる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規な付加価値を有する乗物用ルーフを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の乗物用ルーフを自動車のルーフに具体化した一実施形態について説明する。なお、以下に記載する透過率及び光透過性はそれぞれ、可視光の透過率及び可視光の光透過性を意味する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、自動車10の内部には、運転席等の各種座席が配置される車室11内が設けられている。自動車10の車体フレーム12における車室11の上方に位置する部分には、上面視矩形状の開口部13が設けられている。車体フレーム12の開口部13には、開口部13を塞ぐルーフ20が取り付けられている。以下、ルーフ20の構造について説明する。
【0020】
[ルーフの構造]
図2及び
図3に示すように、ルーフ20は、車室11の天井を構成する内側パネル21と、自動車10の上部外壁を構成する外側パネル22とを備えている。内側パネル21及び外側パネル22は、その上面視形状が開口部13の内周形状と同形状の板状部材であり、上下方向に間隔をあけて対向するように配置されている。したがって、ルーフ20は、上下方向に間隔をあけて配置される内側パネル21と外側パネル22とによる二重壁構造を有し、二重壁構造をなす内側パネル21と外側パネル22との間には、収容室Sが形成されている。内側パネル21と外側パネル22との間隔Hは、例えば、10mm以上200mm以下である。
【0021】
内側パネル21と外側パネル22との間における両パネルの周縁部には、スペーサ23が配置されている。スペーサ23は、内側パネル21と外側パネル22との間隔を保持する部材である。内側パネル21、外側パネル22、及びスペーサ23は、図示しない固定部材によって取り外し可能に一体に固定されている。固定部材としては、例えば、内側パネル21、外側パネル22、及びスペーサ23を上下方向に挟み込む挟持部材が挙げられる。
【0022】
内側パネル21における前方側の左右方向の中央部には、オーバーヘッドコンソール24が取り付けられている。また、内側パネル21と外側パネル22との間の収容室Sには、左右方向の中央部において前後方向に延びるコンソールハウジング25が配置されている。コンソールハウジング25には、オーバーヘッドコンソール24に接続されるコンソールモジュール26が収容されている。
【0023】
また、コンソールハウジング25には、車室11内に映像を表示する表示装置27が収容されている。表示装置27としては、例えば、TFT画面やLCD画面等の映像を表示する画面を備える表示装置、車室11内に浮遊立体映像を結像させる立体映像映写機が挙げられる。コンソールハウジング25には、表示装置27に基づく映像を車室11内に表示するための窓部25aが設けられている。
【0024】
図4に示すように、内側パネル21は、光透過性を有する有色透明のパネルであり、透明基材層21aと、透明基材層21aの内側の表面及び外側の表面の一方又は両方に積層された光学薄膜層21bとを備えている。
図4では、一例として、透明基材層21aの内側の表面のみに光学薄膜層21bが積層されている場合を図示している。
【0025】
透明基材層21aは、無色透明又は有色透明の層である。透明基材層21aを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート樹脂等の透明樹脂、ガラスが挙げられる。軽量化の観点においては、透明樹脂を用いることが好ましい。強度向上の観点においては、ガラスを用いることが好ましい。透明基材層21aの厚さは、特に限定されるものでなく、所望の強度及び所望の透明度が確保される厚さに適宜、設定される。なお、透明基材層21aの厚さの一例は、0.1mm以上30mm以下である。
【0026】
光学薄膜層21bは、内側パネル21に対して、特定の色調や模様を付与するための構成である。光学薄膜層21bとしては、例えば、屈折率の異なる複数種類の層が積層された誘電体多層膜が挙げられる。誘電体多層膜の各層を構成する材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素が挙げられる。誘電体多層膜を構成する層の種類は、例えば、2層以上であり、誘電体多層膜の層数は、例えば、5層以上である。
【0027】
誘電体多層膜を構成する各層の膜厚及び材質、並びに誘電体層の層数は、誘電体多層膜の光学特性に応じて設計される。誘電体多層膜の光学特性としては、例えば、光の干渉により構造色を生じさせる特性、特定の波長の光の透過率又は反射率を相対的に高めることにより、特定の波長の光に基づく色を内側パネル21に付与する特性、内側パネル21をハーフミラーとして機能させる特性が挙げられる。
【0028】
図2及び
図3に示すように、内側パネル21の内側の表面(以下、内面と記載する。)には、目隠し用調光シート30及び内側採光用調光シート31が取り付けられている。目隠し用調光シート30は、上下方向において、内側パネル21におけるコンソールハウジング25に重なる範囲を含むように、内側パネル21における左右方向の中央部の内面に取り付けられている。
【0029】
内側採光用調光シート31は、内側パネル21の内面における目隠し用調光シート30が取り付けられていない範囲である、左側部分の内面及び右側部分の内面に取り付けられている。本実施形態においては、内側パネル21における内側採光用調光シート31が取り付けられている範囲が採光領域となる。目隠し用調光シート30及び内側採光用調光シート31の詳細については、後述する。
【0030】
図5に示すように、外側パネル22は、光透過性を有する有色透明のパネルであり、透明基材層22aと、透明基材層22aの内側の表面及び外側の表面の一方又は両方に積層された光学薄膜層22bとを備えている。
図5では、一例として、透明基材層22aの外側の表面のみに光学薄膜層22bが積層されている場合を図示している。
【0031】
透明基材層22aに関する構成は、透明基材層21aと同様である。透明基材層22aは、透明基材層21aと同じであってもよいし、異なっていてもよい。光学薄膜層22bは、外側パネル22に対して、特定の色調や模様を付与するための構成である。光学薄膜層22bに関する構成は、光学薄膜層21bと同様である。光学薄膜層22bは、光学薄膜層21bと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
図3に示すように、外側パネル22の外側の表面(以下、外面と記載する。)には、外側採光用調光シート32が取り付けられている。外側採光用調光シート32は、外側パネル22の外面のほぼ全面に取り付けられている。外側採光用調光シート32の詳細については、後述する。
【0033】
[目隠し用調光シート、内側採光用調光シート、及び外側採光用調光シート]
目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32は、透過率を変更可能に構成されている調光シートである。
【0034】
調光シートが有する透過率の変更は、調光シートに印加される駆動電圧の変更によって行われる。調光シートの種類は、液晶調光シートの他に、エレクトロクロミックシートを含む。液晶調光シートは、駆動電圧の印加による液晶分子の配向制御によって透過率が制御される。エレクトロクロミックシートは、駆動電圧の印加によるエレクトロクロミック材料の電荷制御によって透過率が制御される。高透過率を有した状態での調光シートの色は、無色透明、又は有色透明である。低透過率を有した状態での調光シートの色は、無彩色、又は有彩色である。
【0035】
調光シートの型式は、ノーマル型又はリバース型である。ノーマル型の調光シートは、調光シートの通電時に、相対的に高い透過率を有する一方で、調光シートの非通電時に、相対的に低い透過率を有する。リバース型の調光シートは、調光シートの通電時に、相対的に低い透過率を有する一方で、調光シートの非通電時に、相対的に高い透過率を有する。
【0036】
調光シートは、調光シートの面方向に広がる第1透明電極、第2透明電極、及び調光層を備える。調光シートは、第1透明電極、調光層、第2透明電極の順に積層されており、調光層は、第1透明電極と第2透明電極とに挟まれている。
【0037】
第1透明電極と第2透明電極とは、光透過性を有する。第1透明電極の光透過性は、調光シートを通した物体の視覚認識を可能にする。第2透明電極の光透過性もまた、調光シートを通した物体の視覚認識を可能にする。各透明電極を構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか一種が挙げられる。
【0038】
液晶調光シートが備える調光層は、液晶組成物を含む。液晶組成物に含まれる液晶分子としては、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。液晶組成物の保持型式は、高分子分散型やカプセル型などである。高分子分散型は、高分子層のなかに分散している多数の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備える高分子ネットワーク型を含む。高分子ネットワーク型は、網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0039】
リバース型の液晶調光シートは、調光層と第1透明電極との間、及び調光層と第2透明電極との間に配向膜をさらに備える。配向膜を構成する材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコーン、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどの無機化合物、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
配向膜は、例えば、垂直配向膜、水平配向膜である。垂直配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、及び第2透明電極と接する面とは反対側の面に対して垂直になるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。水平配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、及び第2透明電極と接する面とは反対側の面に対してほぼ平行となるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。
【0041】
エレクトロクロミックシートが備える調光層は、エレクトロクロミック材料と電解質とを含む。エレクトロクロミック材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ビオロゲン、金属フタロシアニン、フェナントロリン錯体などの有機化合物、三酸化タングステンや二酸化インジウムなどの無機化合物から選択される一種が挙げられる。電解質としては、例えば、リチウム塩やカリウム塩などの液体電解質、高分子固体電解質が挙げられる。
【0042】
目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32には、同じ調光シートを用いてもよいし、それぞれ異なる調光シートを用いてもよい。また、目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32は、それぞれ独立して透過率を変更可能である。
【0043】
[調光制御部]
図1に示すように、自動車10は、目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32の各透過率を制御する調光制御部28を備えている。調光制御部28は、目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32の各第1透明電極及び各第2透明電極に電気的に接続されている。
【0044】
調光制御部28は、オーバーヘッドコンソール24などの自動車10が備える操作部に対する乗員の操作に基づいて、各調光シートの透過率を変更することにより、ルーフ20が取り得るモードの切り替えを行う。本実施形態のルーフ20が取り得るモードは、基本モード、採光モード、及び表示モードであり、各調光シートの駆動モードがそれぞれ異なっている。
【0045】
基本モードは、ルーフ20を不透明の状態として、表示装置27などの収容室Sに配置される部品を見え難くする形態である。基本モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部28は、目隠し用調光シート30、内側採光用調光シート31、及び外側採光用調光シート32に対して、それぞれ相対的に低い透過率となる電圧である不透過電圧を印加する。
【0046】
基本モードにおいては、内側パネル21における目隠し用調光シート30が取り付けられている範囲は、透過率の低い遮蔽状態になり、内側パネル21における内側採光用調光シート31が取り付けられている範囲は、透過率の低い遮光状態になる。そのため、内側パネル21は、車室11内から見て、内側パネル21、目隠し用調光シート30、及び内側採光用調光シート31の各色に基づく色調の車室天井に見える。また、基本モードにおいては、内側パネル21における目隠し用調光シート30が取り付けられている範囲によって、コンソールハウジング25、並びにコンソールハウジング25に収容されるコンソールモジュール26及び表示装置27が目隠しされる。これにより、車室11内からコンソールハウジング25、並びにコンソールハウジング25に収容されるコンソールモジュール26及び表示装置27が見え難くなる。
【0047】
基本モードにおける内側パネル21の色調は特に限定されるものではないが、車室11の意匠に調和した統一感のある色調とすることが好ましい。また、基本モードにおける内側パネル21の色調をグレイ、スモーク色、シルバーなどの色とした場合には、収容室Sに配置される部品を見え難くする効果がより顕著に得られる。また、基本モードにおける内側パネル21の色調は、グロス調であってもよいし、マット調であってもよい。
【0048】
基本モードにおいては、外側パネル22における外側採光用調光シート32が取り付けられている範囲は、透過率の低い遮光状態になる。そのため、外側パネル22は、自動車10の外側から見て、外側パネル22、及び外側採光用調光シート32の各色に基づく色調の車両外面に見える。なお、基本モードにおける外側パネル22の色調は特に限定されるものではないが、自動車10の外装の意匠に調和した統一感のある色調とすることが好ましい。また、基本モードにおける外側パネル22の色調は、グロス調であってもよいし、マット調であってもよい。
【0049】
採光モードは、車室11内に外光を取り込む形態である。採光モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部28は、内側採光用調光シート31及び外側採光用調光シート32に対して、それぞれ相対的に高い透過率となる電圧である透過電圧を印加する。また、調光制御部28は、目隠し用調光シート30に対して、相対的に低い透過率となる電圧である不透過電圧を印加する。
【0050】
採光モードにおいては、外側パネル22における外側採光用調光シート32が取り付けられている範囲、及び内側パネル21における内側採光用調光シート31が取り付けられている範囲が透過率の高い採光状態になる。そのため、外側パネル22及び内側パネル21の上記各範囲を通じて車室11内に外光を取り込むことができる。
【0051】
このとき、内側パネル21における目隠し用調光シート30が取り付けられている範囲は、透過率の低い遮蔽状態になる。そのため、基本モードと同様に、内側パネル21の上記範囲によって、コンソールハウジング25、並びにコンソールハウジング25に収容されるコンソールモジュール26及び表示装置27が目隠しされる。
【0052】
表示モードは、表示装置27による映像を車室11内に表示するための形態である。表示モードを選択する操作がなされた場合又は表示装置27による映像の表示を実行する操作がなされたとする。この場合、調光制御部28は、内側採光用調光シート31及び外側採光用調光シート32に対して、それぞれ相対的に低い透過率となる電圧である不透過電圧を印加する。また、調光制御部28は、目隠し用調光シート30に対して、相対的に高い透過率となる電圧である透過電圧を印加する。
【0053】
表示モードにおいては、内側パネル21における目隠し用調光シート30が取り付けられている範囲は、透過率の高い表示状態になる。そのため、内側パネル21の上記範囲を介して、表示装置27による映像を車室11内に表示することができる。このとき、外側パネル22における外側採光用調光シート32が取り付けられている範囲、及び内側パネル21における内側採光用調光シート31が取り付けられている範囲が透過率の低い遮光状態になる。これにより、車室11内は、ルーフ20を通じて外光が入射しない暗い状態になり、表示装置27による映像が見やすくなる。
【0054】
次に、本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)ルーフ20は、自動車10の車室11内に映像を表示する表示装置27と、表示装置27の下方に配置される光透過性の内側パネル21と、表示装置27の上方に配置される外側パネル22とを備えている。内側パネル21には、透過率を変更できる目隠し用調光シート30が取り付けられている。ルーフ20は、内側パネル21の状態を、遮蔽状態と表示状態とに切り替え可能である。遮蔽状態は、目隠し用調光シート30の透過率が低い状態であり、表示装置27を車室11内側から見え難くした状態である。表示状態は、目隠し用調光シート30の透過率の高い状態であり、内側パネル21を介して表示装置27の映像を車室11内側に表示するための状態である。
【0055】
上記構成によれば、自動車10の車室11内に映像を表示する表示部としての機能を有する新規なルーフ20が提供される。上記構成のルーフ20は、目隠し用調光シート30の透過率を高めて内側パネル21を表示状態とすることにより、車室11内の乗員は、内側パネル21を介して表示装置27に基づく映像を見ることができる。この場合のルーフ20は、表示装置27の表示面として機能する。
【0056】
一方、目隠し用調光シート30の透過率を低くして内側パネル21を遮蔽状態としたときには、ルーフ20は、目隠し用調光シート30及び内側パネル21の各色に基づく色調の天井となる。そのため、遮蔽状態では、ルーフ20を車室11内の内装と調和した色調の天井とすることも可能であり、表示装置27を備えるルーフ20としたことによる意匠性の低下を抑制できる。したがって、上記構成によれば、意匠性の自由度の高い構成でありながらも、映像を表示するという新しい機能が付与されたルーフ20となる。
【0057】
(2)外側パネル22は、光透過性のパネルである。外側パネル22には、可視光の透過率を変更できる外側採光用調光シート32が取り付けられている。ルーフ20は、内側パネル21及び外側パネル22の状態を、遮光状態と採光状態とに切り替え可能である。遮光状態は、外側採光用調光シート32の透過率が低い状態であり、車室11内に入射する外光を遮る状態である。採光状態は、車室11内に外光を入射させる状態である。
【0058】
上記構成によれば、ルーフ20に対して、車室11内に外光を取り込む機能、所謂、ムーンルーフとしての機能を更に付与することができる。したがって、より多機能なルーフ20となる。
【0059】
(3)内側パネル21は、目隠し用調光シート30により遮蔽状態とされているときに、外側パネル22を通過した外光を車室11内に入射させる採光領域を有している。
上記構成によれば、外側パネル22を採光状態とすることにより外側パネル22を通過した外光を、内側パネル21の採光領域を通じて車室11内に入射させることができる。これにより、内側パネル21を車室11内側から表示装置27を見え難くした遮蔽状態としつつも、車室11内に外光を取り込むことができる。
【0060】
(4)ルーフ20は、内側パネル21に取り付けられるオーバーヘッドコンソール24を備えている。外側パネル22と内側パネル21との間には、オーバーヘッドコンソール24に接続されるコンソールモジュール26が配置されている。目隠し用調光シート30は、遮蔽状態にあるとき、表示装置27及びコンソールモジュール26を車室11内側から見え難くするように隠す。
【0061】
上記構成によれば、オーバーヘッドコンソール24を備えるルーフ20において、意匠性の自由度の高い構成でありながらも、映像を表示するという新しい機能を付与することができる。換言すると、ルーフ20に対して、意匠性の自由度の高い特性を維持しつつ、オーバーヘッドコンソール24に基づく機能を更に付与することができる。
【0062】
(5)外側パネル22と内側パネル21との間には、コンソールモジュール26を収容するコンソールハウジング25が設けられている。表示装置27は、コンソールハウジング25に収容されている。
【0063】
上記構成によれば、表示装置27及びコンソールモジュール26を一箇所にまとめて配置することにより、目隠し用調光シート30によって表示装置27及びコンソールモジュール26を隠す範囲を小さくできる。その結果、内側パネル21における目隠し用調光シート30が取り付けられていない範囲が広くすることができ、内側パネル21の意匠を設計する際の自由度が向上する。
【0064】
(6)内側パネル21及び外側パネル22は、透明基材層21a,22aと、透明基材層21a,22aに積層された光学薄膜層21b,22bを備えている。
上記構成によれば、車室11内から内側パネル21を見た場合に、光学薄膜層21bに基づく色又は模様を有する有色透明の内側パネル21となる。同様に、自動車10の外側から外側パネル22を見た場合に、光学薄膜層22bに基づく色又は模様を有する有色透明の外側パネル22となる。これにより、内側パネル21及び外側パネル22の意匠性が向上する。また、内側パネル21が有色透明であることにより、遮蔽状態において車室11内側から表示装置27を見え難くする効果が高められる。
【0065】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・目隠し用調光シート30は、内側パネル21の外側の表面に取り付けられていてもよいし、内側パネル21の内側の表面及び外側の表面の両方に取り付けられていてもよい。内側採光用調光シート31についても同様である。また、外側採光用調光シート32は、外側パネル22の内側の表面に取り付けられていてもよいし、外側パネル22の内側の表面及び外側の表面の両方に取り付けられていてもよい。
【0066】
・光学薄膜層21b,22bに代えて、有色透明の樹脂シートを積層してなる層、又は透明基材層21a,22aの表面にキャスト法により成形された有色透明の樹脂層を設けてもよい。また、透明基材層21a,22aのみからなる内側パネル21及び外側パネル22としてもよい。
【0067】
・内側採光用調光シート31を省略してもよい。この場合には、例えば、外側採光用調光シート32の透過率を変更することにより、採光モードと他のモードとを切り替える構成とする。外側採光用調光シート32を省略してもよい。この場合には、例えば、内側採光用調光シート31の透過率を変更することにより、採光モードと他のモードとを切り替える構成とする。
【0068】
・ルーフ20が取り得るモードは、上記実施形態に記載したモードに限定されない。その他のモードとしては、例えば、太陽光電池を充電するための充電モードが挙げられる。この場合、内側パネル21と外側パネル22との間の収容室Sに太陽光電池パネルが設置された構成のルーフ20とする。
【0069】
充電モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部28は、外側採光用調光シート32に対して透過電圧を印加する。これにより、外側パネル22における外側採光用調光シート32が取り付けられている範囲が透過率の高い採光状態となり、収容室Sに設置されている太陽光電池パネルに外光が照射される。なお、収容室Sに太陽光電池パネルを設置した場合には、上下方向において、内側パネル21における太陽光電池パネルに重なる範囲も含むように目隠し用調光シート30を取り付けることが好ましい。これより、太陽光電池パネルについても、表示装置27と同様に車室11側から見え難くすることができる。
【0070】
・ルーフ20に設定されているモードのうち採光モードを省略してもよい。この場合、不透明の部材により外側パネル22を形成することができる。また、内側採光用調光シート31及び外側採光用調光シート32を省略できる。
【0071】
・内側パネル21と外側パネル22との間の収容室Sにおいて、コンソールハウジング25及びコンソールモジュール26とは異なる位置に表示装置27を配置してもよい。
・コンソールハウジング25を省略してもよい。また、ルーフ20は、オーバーヘッドコンソール24が省略された構成であってもよい。
【0072】
・車体フレーム12に対して内側パネル21及び外側パネル22を固定する構成としてもよい。この場合、スペーサ23を省略できる。
・上記実施形態のルーフ20の構成は、自動車10に適用する場合に限定されるものではなく、列車などの自動車以外の車両のルーフに適用してもよいし、船舶や飛行機などの車両以外の乗物のルーフに適用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
20…ルーフ
21…内側パネル
22…外側パネル
27…表示装置
30…目隠し用調光シート
31…内側採光用調光シート
32…外側採光用調光シート