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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 59/14 20060101AFI20250417BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20250417BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20250417BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
F16H59/14
F16H59/42
F16H59/40
F16H59/44
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021203482
(22)【出願日】2021-12-15
(65)【公開番号】P2023088632
(43)【公開日】2023-06-27
【審査請求日】2024-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝哉
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167201(WO,A1)
【文献】特開2014-168966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力変化指令に対する出力応答性が互いに異なる第1原動機および第2原動機と、
前記第1原動機の駆動力および前記第2原動機の駆動力が伝達される入力軸、出力軸、複数の変速ギヤ、並びに、前記入力軸および出力軸に対して移動し、前記複数の変速ギヤのうちの1つの変速ギヤと選択的に係合するドグ、を有するギヤ変速機と、を備えるシステムにおいて、前記第1原動機および第2原動機を制御する変速制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
第1変速段から第2変速段にシフトするためのシフト指令に応じて、前記第2変速段における前記ドグの回転数と前記第2変速段における前記変速ギヤの回転数の一方を他方に近づける同期制御のための前記第1原動機の目標回転数および前記第2原動機の目標回転数を算出し、
前記第2原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第2タイミングが、前記第1原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第1タイミングよりも後になるように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、変速制御装置。
【請求項2】
前記第1タイミングまたは前記第2タイミングは、予め定められた設定条件に応じて変更される可変タイミングである、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記処理回路は、
前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、
前記第2原動機の前記同期制御を開始してから、前記第2原動機の目標回転数に達するまでに前記第2原動機の出力トルクが最大となる第2時点までの第2遅延時間を算出し、
算出した前記第1遅延時間および前記第2遅延時間に基づき、前記第1時点と前記第2時点との時間差が所定時間以下となるように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、請求項1または2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記処理回路は、前記第1時点と前記第2時点とが一致するように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、請求項3に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記システムは、前記変速制御装置により制御され、前記ドグを移動させる動力を発生させるシフトアクチュエータを更に備え、
前記処理回路は、決定した前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに基づき、前記ドグを移動させるための制御を開始するタイミングである第3タイミングを決定する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記処理回路は、
前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、
前記第1タイミングよりも後であって且つ前記第1時点より前となるように前記第3タイミングを決定する、請求項5に記載の変速制御装置。
【請求項7】
前記処理回路は、
前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、
前記第2原動機の前記同期制御を開始してから、前記第2原動機の目標回転数に達するまでに前記第2原動機の出力トルクが最大となる第2時点までの第2遅延時間を算出し、
前記第1時点および前記第2時点における前記ドグが、前記複数の変速ギヤのいずれとも係合していない非係合状態となるように、前記第3タイミングを決定する、請求項5または6に記載の変速制御装置。
【請求項8】
前記処理回路により決定された前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに基づいた前記同期制御を行った場合における前記ドグの挙動を示す挙動パラメータを、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに関するタイミング情報と対応付けて、過去データとして記憶するメモリを更に備え、
前記処理回路は、次回以降に前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する際に、前記過去データを加味して、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項9】
前記処理回路は、
前記第1原動機または前記第2原動機の出力応答性またはトルク特性に影響を及ぼす環境パラメータを取得し、
前記環境パラメータに基づき、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項10】
前記処理回路は、前記第1変速段におけるギヤ比、前記第1変速段における前記入力軸の回転数、前記第1変速段における前記出力軸の回転数、前記第2変速段におけるギヤ比、前記第2変速段における前記入力軸の回転数、前記第2変速段における前記出力軸の回転数、前記第1原動機の出力トルクおよび前記第2原動機の出力トルクの少なくとも1つに応じて、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項11】
前記第1原動機は、内燃機関であり、前記第2原動機は、電動モータである、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドッグクラッチ式のギヤ変速機では、現在の変速段から次の変速段にシフトする際、ドグを、ある減速比のギヤ対から離脱させた後、当該ギヤ変速機の入力軸または出力軸に沿って移動させ、別の減速比のギヤ対に係合させる。こうして、原動機の駆動力を入力軸から出力軸に伝達するギヤ対が切り替わる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-264519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドッグクラッチ式のギヤ変速機では、ドグの移動の際に、次の変速段における変速ギヤに対してドグが円滑に係合されることが望まれる。
【0005】
そこで、本開示は、ギヤに対するドグの円滑な係合を実現できる変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る変速制御装置は、出力変化指令に対する出力応答性が互いに異なる第1原動機および第2原動機と、前記第1原動機の駆動力および前記第2原動機の駆動力が伝達される入力軸、出力軸、複数の変速ギヤ、並びに、前記入力軸および出力軸に対して移動し、前記複数の変速ギヤのうちの1つの変速ギヤと選択的に係合するドグ、を有するギヤ変速機と、を備えるシステムにおいて、前記第1原動機および第2原動機を制御する変速制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、第1変速段から第2変速段にシフトするためのシフト指令に応じて、第2変速段における前記ドグの回転数と第2変速段における前記変速ギヤの回転数の一方を他方に近づける同期制御のための前記第1原動機の目標回転数および前記第2原動機の目標回転数を算出し、前記第2原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第2タイミングが、前記第1原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第1タイミングよりも後になるように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ギヤに対するドグの円滑な係合を実現できる変速制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る変速制御装置を備えた自動二輪車の左側面図である。
図2図2は、図1の自動二輪車の動力システムの模式図である。
図3図3は、シフト動作前の変速ギヤとドグとの係合状態の一例を示す拡大模式図である。
図4図4は、ドグの非係合状態の一例を示す拡大模式図である。
図5図5は、シフト動作後の変速ギヤとドグとの係合状態の一例を示す拡大模式図である。
図6図6は、変速制御装置およびその入出力を示すブロック図である。
図7図7は、図1の自動二輪車の走行中における変速制御装置による制御の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、シフトダウン時におけるエンジン回転数の変化、モータ回転数の変化、総出力トルクの変化の一例を示すグラフである。
図9図9は、シフトアップ時におけるエンジン回転数の変化、モータ回転数の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0010】
図1は、一実施形態に係る変速制御装置40を備えた自動二輪車1の左側面図である。自動二輪車1は、ライダーが跨って乗る鞍乗車両の一例であり、ハイブリッド車両である。以下の説明における方向は、自動二輪車1の運転手から見た方向を基準とし、前後方向は車長方向と対応し、左右方向は車幅方向と対応する。
【0011】
自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4と、前輪2を車体フレーム4の前部に接続する前サスペンション5と、後輪3を車体フレーム4の後部に接続する後サスペンション6とを備える。前サスペンション5は、上下方向に間隔をあけて配置されるブラケット7に連結されている。ブラケット7に接続される操舵軸が車体フレーム4の一部であるヘッドパイプ4aに角変位可能に支持されている。当該操舵軸には、運転者が手で握るハンドル8が設けられる。ハンドル8の後側には、燃料タンク9が設けられ、燃料タンク9の後側に運転者が着座するシート10が設けられる。
【0012】
車体フレーム4には、後輪3を支持して前後方向に延びるスイングアーム15が角変位可能に支持されている。また、車体フレーム4には、前輪2と後輪3と間においてパワーユニット11が搭載されている。パワーユニット11は、2つの走行駆動源である第1原動機および第2原動機を備える。第1原動機は、内燃機関であるエンジン12である。第2原動機は、電動モータである駆動モータ13である。
【0013】
エンジン12は、気筒12aと、気筒内のピストンに連結されたクランク軸12bとを含む。エンジン12のクランク軸12bは、クランクケース14に収容されている。また、エンジン12の後側には、ギヤ変速機20が配置されている。ギヤ変速機20は、クランクケース14に収容されている。ハンドル8の左のグリップには、ギヤ変速機20のシフト位置である変速段を変更するためのシフトスイッチ17が設けられている。シート10の下方には、変速制御装置40が配置されている。変速制御装置40は、エンジン12、駆動モータ13、後述のクラッチアクチュエータ19およびシフトアクチュエータ30を制御する。
【0014】
図2は、図1の自動二輪車1の動力システムの模式図である。ギヤ変速機20は、入力軸21と、出力軸22と、複数組の変速ギヤ対23とを有する。
【0015】
入力軸21には、第1原動機および第2原動機の少なくとも一方の駆動力が伝達可能である。具体的には、エンジン12のクランク軸12bとギヤ変速機20の入力軸21との間の動力伝達経路には、メインクラッチ18が介設されている。例えばメインクラッチ18は、多板クラッチである。エンジン12のクランク軸12bの回転動力は、メインクラッチ18を介して入力軸21に入力される。メインクラッチ18は、クラッチアクチュエータ19によって駆動されて、クランク軸12bから入力軸21への動力伝達経路を切断したり接続したりする。また、駆動モータ13の回転軸の回転動力は、入力軸21に入力される。入力軸21には、第1原動機であるエンジン12および第2原動機である駆動モータ13の双方から同時に動力伝達可能となっている。
【0016】
出力軸22は、入力軸21に平行に配置されている。以下、入力軸21および出力軸22に平行な方向を、「軸方向」と称する。複数組の変速ギヤ対23は、軸方向に並んでいる。複数組の変速ギヤ対23は、互いに減速比が異なる。減速比は、ギヤ比または変速比とも称し得る。各変速ギヤ対23は、入力軸21に同軸に設けられた1つの変速ギヤ23と、出力軸22に同軸に設けられた1つの変速ギヤ23とを含む。
【0017】
各変速ギヤ対23が含む2つの変速ギヤ23のうち、一方の変速ギヤ23は、そのギヤと同軸である入力軸21または出力軸22と一体的に回転するギヤ(以下、「共回転ギヤ」と称する)23aである。例えば、共回転ギヤ23aは、入力軸21または出力軸22にスプライン嵌合により組付けられている。各変速ギヤ対23が含む2つの変速ギヤ23のうち、他方の変速ギヤ23は、そのギヤと同軸である入力軸21または出力軸22に対して相対回転可能であるギヤ(以下、「空転ギヤ」と称する)23bである。
【0018】
各変速ギヤ対23における共回転ギヤ23aと空転ギヤ23bとは常時噛み合っている。本実施形態では、入力軸21に、共回転ギヤ23aと空転ギヤ23bとが軸方向に交互に並んでいる。同様に、出力軸22には、空転ギヤ23bと共回転ギヤ23aとが軸方向に交互に並んでいる。なお、図2において、煩雑になるのを避けるために、一部の共回転ギヤと空転ギヤにのみ符号を付し、それ以外は省略する。
【0019】
ギヤ変速機20は、ドッグクラッチ式の変速機である。ギヤ変速機20は、複数の変速段にそれぞれ対応する複数のドグ24と、シフト機構26とを備える。
【0020】
ドグ24は、シフト機構26により、入力軸21および出力軸22に対して軸方向に移動可能となっている。複数のドグ24のいずれかが、シフト機構26により軸方向に移動して、複数組の変速ギヤ対23のいずれかと選択的に係合する。これにより、ドグ24と係合した1つの変速ギヤ対23は、入力軸21から出力軸22に駆動力を伝達可能な状態となる。すなわち、入力軸21に伝達された駆動力は、ドグ24と係合した変速ギヤ対23を介して出力軸22に伝達される。出力軸22の回転動力は、出力伝達部材16を介して、駆動輪である後輪3に伝達される。出力伝達部材16は、例えば、チェーン、ベルト等である。
【0021】
シフト機構26は、シフトフォーク27a,27b,27cと、支軸28と、シフトドラム29とを備える。シフトフォーク27a,27b,27cは、入力軸21および出力軸22に平行に設けられた支軸28に、スライド自在に支持されている。後述するように、本実施形態では、一部の共回転ギヤ23aがドグ24と一体となっている。シフトフォーク27aの一端部が、入力軸21に外装された、ドグ24と一体的に移動する共回転ギヤ23aに対して接続されている。また、シフトフォーク27b,27cの一端部が、出力軸22に外装された、ドグ24と一体的に移動する共回転ギヤ23aに対して接続されている。
【0022】
また、シフトフォーク27a,27b,27cの他端部が、シフトドラム29の案内溝Gに嵌合している。シフトドラム29が回転すると、その案内溝Gにより案内されたシフトフォーク27a,27b,27cが対応するドグ24を軸方向に移動させる。ドグ24が、空転ギヤ23bが有する後述の収容空間Sに入り込むことで、ドグ24が空転ギヤ23bと遊びをもって係合する。また、ドグ24が、空転ギヤ23bが有する後述の収容空間Sから抜け出ることで、ドグ24が空転ギヤ23bから離脱する。
【0023】
ドグ24と変速ギヤ対23との係合について、図2および図3乃至5を適宜参照して、より詳細に説明する。
【0024】
図3乃至5は、入力軸21に同軸に設けられたいくつかの変速ギヤ23を、軸方向に直交する方向に見た拡大図である。図3乃至5は、現在の変速段から次の変速段にシフトする際のドグ24の移動の一例を時系列順に示したものである。図3は、シフト動作前の変速ギヤ23(より詳しくは、空転ギヤ23b)とドグ24との係合状態の一例を示す拡大模式図である。図4は、ドグ24の非係合状態の一例を示す拡大模式図である。図5は、シフト動作後の変速ギヤ23(より詳しくは、空転ギヤ23b)とドグ24との係合状態の一例を示す拡大模式図である。
【0025】
以下、便宜上、現在の変速段を、第1変速段と称し、第1変速段に対応する変速ギヤ対23のうちドグ24が係合可能なギヤ23を、第1ギヤ(あるいは、現ギヤまたはプレ変速ギヤ)23b1と称する。また、シフト指令に基づき現在の変速段からドグ24がシフト動作した後の次の変速段を、第2変速段と称し、第2変速段に対応する変速ギヤ対23のうちドグ24が係合可能なギヤ23を、第2ギヤ(あるいは、次ギヤまたはポスト変速ギヤ)23b2と称することとする。
【0026】
図3に示すように、本実施形態では、いくつかの共回転ギヤ23aが、ドグ24と一体型となっており、ドグ24とともに入力軸21または出力軸22に対して軸方向に移動可能となっている。具体的には、ドグ24は、共回転ギヤ23aの軸方向端面から軸方向に突出するように設けられている。ドグ24は、共回転ギヤ23aの端面において、共回転ギヤ23aの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されている。
【0027】
ドグ24および共回転ギヤ23aに軸方向に対向する空転ギヤ23bが、ドグ24が入り込むことが可能な収容空間Sを有する。収容空間Sは、移動するドグ24が入り込めるよう、軸方向におけるドグ24が配置された側に開口している。本実施形態では、収容空間Sは、空転ギヤ23bの軸方向端面において、空転ギヤ23bの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されている。すなわち、収容空間Sは、空転ギヤ23bの端面において空転ギヤ23bの周方向に隣接する突起の間に形成される空間である。なお、収容空間Sは、空転ギヤ23bの軸方向端面に形成された穴であってもよい。すなわち、収容空間Sは、空転ギヤ23bの径方向に開口していてもよいし、開口していなくてもよい。
【0028】
図3に示すように、収容空間Sを有する変速ギヤ23は、当該変速ギヤ23の周方向に収容空間Sを画定する第1面25aおよび第2面25bを有している。第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、出力軸22に所定の正方向にトルクを伝達する際に当接する面である。第2面25bは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、出力軸22に正方向と反対の負方向にトルクを伝達する際に当接する面である。
【0029】
なお、図3乃至5において、軸方向と正方向とが矢印で示されている。本明細書において、正方向とは、乗物(本例では自動二輪車1)が前進する際に出力軸22を加速させる方向の入力軸21および出力軸22のトルクの発生方向を意味する。すなわち、第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、出力軸22の回転を加速させる際に当接する面であり、第2面25bは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、出力軸22の回転を減速させる際に当接する面である。特に本例では、第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、乗物(本例では自動二輪車1)が前方に加速中に当接している面であり、第2面25bは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、乗物(本例では自動二輪車1)の減速中に当接している面である。
【0030】
図3に示すように、ドグ24が、第1ギヤ23b1の第1面25aに当接することで、第1ギヤ23b1が、ドグ24とともに回転する。こうして、ドグ24が係合した変速ギヤ対23は、入力軸21のトルクを出力軸22に伝達するようになる。
【0031】
ドグ24と一体となった共回転ギヤ23aは、当該共回転ギヤ23aと同軸の入力軸21または出力軸22に対してスライド自在となっている。共回転ギヤ23aは、シフト機構26により動かされる。
【0032】
図4に示すように、ドグ24と一体的に回転する共回転ギヤ23aが、第1ギヤ23b1から離れる方向に移動することで、ドグ24が第1ギヤ23b1の収容空間Sの外部へと出て、係合が解除される。ギヤ変速機20のいずれの変速ギヤ対23もドグ24と係合していない状態、すなわち非係合状態となると、入力軸21と出力軸22との間でトルクの伝達が遮断される。
【0033】
図5に示すように、共回転ギヤ23aから突出するドグ24が、第2ギヤ23b2の収容空間Sに入り込み、ドグ24が第2ギヤ23b2の第1面25aに当接すると、第2ギヤ23b2が共回転ギヤ23aとともに回転するようになる。こうして、第2ギヤ23b2である空転ギヤ23bと、当該空転ギヤ23bと噛み合っている共回転ギヤ23aとを含む第2変速段の変速ギヤ対23が、入力軸21から出力軸22に駆動力を伝達するようになる。
【0034】
図6は、変速制御装置40およびその入出力を示すブロック図である。変速制御装置40は、エンジン12、駆動モータ13、クラッチアクチュエータ19、シフトアクチュエータ30を制御する。図6に示すように、変速制御装置40には、アクセル操作量センサ32、シフトスイッチ17、ギヤポジションセンサ31、エンジン回転数センサ33、モータ回転数センサ34、出力軸回転数センサ35、冷却液温度センサ36などからの検出信号が入力される。変速制御装置40は、スロットル装置12c、点火装置12d、燃料供給装置12e、駆動モータ13、クラッチアクチュエータ19およびシフトアクチュエータ30に対し、制御信号を出力する。
【0035】
アクセル操作量センサ32は、運転者のアクセル操作量(加速要求量)を検出する。
【0036】
シフトスイッチ17は、運転者の手動操作に応じシフト指令を変速制御装置40に送る。例えばシフト指令は、シフトアップ指令またはシフトダウン指令である。シフトアップ指令は、ギヤ変速機20の変速段を増加させる指令である。より詳しくは、シフトアップ指令は、入力軸21に対する出力軸22の減速比を大きくする指令である。シフトダウン指令は、ギヤ変速機20の変速段を減少させる指令である。より詳しくは、シフトダウン指令は、入力軸21に対する出力軸22の減速比を小さくする指令である。
【0037】
ギヤポジションセンサ31は、シフトドラム29の回転角を検出する。シフトドラム29の回転角により、ギヤ変速機20の複数の変速ギヤ対23のうちのいずれが選択された状態にあるか、つまりどの変速段にあるかを検出可能である。
【0038】
エンジン回転数センサ33は、エンジン12の出力軸の回転数(以下、「エンジン回転数」ともいう)を検出する。モータ回転数センサ34は、駆動モータ13の出力軸の回転数(以下、「モータ回転数」ともいう)を検出する。
【0039】
出力軸回転数センサ35は、出力軸22の回転数を検出する。出力軸回転数センサ35は、出力軸22に設けられて、出力軸22の回転数を直接的に検出するものであってもよい。あるいは、出力軸回転数センサ35は、別のパラメータを検出することにより、出力軸22の回転数を間接的に検出するものであってもよい。例えば出力軸回転数センサ35は、駆動輪である後輪3の回転数を検出する車輪回転数センサでもよい(図2参照)。
【0040】
冷却液温度センサ36は、エンジン12を冷却する冷却液の温度を検出する。
【0041】
スロットル装置12cは、エンジン12の吸気量を調節する。例えば、スロットル装置12cは、スロットル弁をモータにより開閉動作させる電子制御スロットル装置である。点火装置12dは、エンジン12の燃焼室内の混合気に点火する。点火装置12dは、例えば点火プラグである。燃料供給装置12eは、エンジン12に燃料を供給する。
【0042】
シフトアクチュエータ30は、ドグ24を移動させる動力を発生させる。具体的には、シフトアクチュエータ30は、変速制御装置40により制御されて、シフト機構26のシフトドラム29を回転駆動させる。変速制御装置40は、シフトスイッチ17に対する運転者の操作に応じて、シフトアクチュエータ30を制御する。シフトアクチュエータ30は、例えば電動モータである。
【0043】
変速制御装置40は、ハードウェア面において、1以上のプロセッサ41を含む。プロセッサ41は、演算装置、揮発性メモリ、不揮発性メモリを含む。プロセッサ41は、処理回路の一例である。プロセッサ41は、演算装置が不揮発性メモリに保存されたプログラムに従って、揮発性メモリを用いて演算処理し、変速制御装置40に入力された検出信号に応じた制御信号を出力する。変速制御装置40は、ソフトウェア面において、モード切替部41a、エンジン制御部41b、モータ制御部41c、クラッチ制御部41d、シフト制御部41e、目標決定部41f、タイミング決定部41gを含む。なお、図6では、1以上のプロセッサ41を1つのブロックで示し、その中に機能ブロック41a,41b,41c,41d,41e,41f,41gをまとめて示す。また、変速制御装置40は、メモリ42を含む。メモリ42は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリを含む。
【0044】
モード切替部41aは、EGVモード、EVモード、およびHEVモードを含む複数の走行モードから1つのモードを選択する。
【0045】
EGVモードは、駆動モータ13を駆動させずにエンジン12を駆動し、エンジン12のみの回転動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。EGVモードでは、エンジン12の回転動力がギヤ変速機20を介して駆動輪である後輪3に伝達されるように、クラッチアクチュエータ19によってメインクラッチ18が接続状態とされる。
【0046】
EVモードは、エンジン12を停止し、駆動モータ13が発生する動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。EVモードでは、駆動モータ13の駆動時にエンジン12が抵抗にならないように、クラッチアクチュエータ19によってメインクラッチ18が切断状態とされる。
【0047】
HEVモードは、駆動モータ13およびエンジン12が発生する動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。HEVモードでは、エンジン12の回転動力がギヤ変速機20を介して後輪3に伝達されるように、クラッチアクチュエータ19によってメインクラッチ18が接続状態とされる。
【0048】
エンジン制御部41bは、スロットル装置12c、点火装置(点火プラグ)12d、燃料供給装置12eを制御して、エンジン12の出力を調節する。例えば、エンジン制御部41bは、エンジン12の出力トルクが、運転者のアクセル操作量に応じた値になるようトルク制御を行う。モータ制御部41cは、駆動モータ13を制御して、駆動モータ13の出力を調節する。例えば、モータ制御部41cは、駆動モータ13の出力トルクが、運転者のアクセル操作量に応じた値になるようトルク制御を行う。エンジン制御部41bおよびモータ制御部41cは、モード切替部41aにより選択された走行モードに応じた制御を行う。
【0049】
クラッチ制御部41dは、クラッチアクチュエータ19を制御して、メインクラッチ18の状態を切り替える。例えばクラッチ制御部41dは、モード切替部41aによりEVモードが選択されたときは、メインクラッチ18を切断状態にし、モード切替部41aによりEGVモードまたはHEVモードが選択されたときは、メインクラッチ18を接続状態にする。
【0050】
シフト制御部41e、目標決定部41fおよびタイミング決定部41gは、シフト指令が発生した場合、すなわちシフトスイッチ17からシフト指令を受信した場合に実行される変速処理に関連する。シフト制御部41eは、取得したシフト指令に応じて、シフトアクチュエータ30を制御する。目標決定部41fは、ドグ24をシフト動作させる際の目標エンジン回転数、目標モータ回転数、および目標ドラム角度などを決定する。タイミング決定部41gは、エンジン12の上記同期制御を開始するタイミング、駆動モータ13の上記同期制御を開始するタイミング、および、ドグ24を移動させるための制御を開始するタイミングを決定する。
【0051】
<変速処理>
変速処理の一例について、図7を参照して説明する。図7は、自動二輪車1がHEVモードで走行しているときの変速制御装置40による制御の流れを示すフローチャートである。
【0052】
HEVモードでの走行中、基本的に、エンジン制御部41bおよびモータ制御部41cは、上記したトルク制御を行っている(ステップS1)。トルク制御中、シフト制御部41eは、シフト指令(すなわち、シフトアップ指令またはシフトダウン指令)があるか否かを判定する(ステップS2)。シフト指令がないと判定された場合(ステップS2:No)、エンジン制御部41bおよびモータ制御部41cの各々によるトルク制御が継続される。
【0053】
(目標値の決定)
シフト指令があると判定された場合(ステップS2:Yes)、目標決定部41fは、各種目標値を決定する(ステップS3)。具体的には、目標決定部41fは、目標エンジン回転数、目標モータ回転数、および目標ドラム角度を決定する。目標エンジン回転数および目標モータ回転数は、第2変速段に対応した回転数である。より詳しくは、目標エンジン回転数および目標モータ回転数は、第2変速段におけるドグ24の回転数と第2変速段における変速ギヤの回転数との一方を他方に近づける同期制御のためのエンジン回転数およびモータ回転数である。
【0054】
ここで、「第2変速段におけるドグ24の回転数と第2変速段における変速ギヤの回転数の一方を他方に近づける同期制御」とは、ドグ24および第2ギヤ23b2のうちの入力側を出力側に合わせにいく制御である。例えば、入力軸21と一体回転するドグ24を、入力軸21に外装された第2ギヤ23b2に係合する場合には、上記同期制御は、当該第2ギヤ23b2の回転数にドグ24の回転数を近づける制御を意味する。また、例えば、出力軸22と一体回転するドグ24を、出力軸22に外装された第2ギヤ23b2に係合する場合には、上記同期制御は、ドグ24の回転数に第2ギヤ23b2の回転数を近づける制御を意味する。第2ギヤ23b2の収容空間Sにドグ24を入れる前に、同期制御を行うことで、ドグ24が第2ギヤ23b2に円滑に係合される。
【0055】
本実施形態では、ステップS3において、まずシフト制御部41eは、ギヤポジションセンサ31の検出角度信号から、ギヤ変速機20の現在の変速段である第1変速段を判定する。また、シフト制御部41eは、シフト指令がシフトアップ指令であるかシフトダウン指令であるかに応じて、次の変速段である第2変速段を決定する。目標決定部41fは、第2変速段の減速比および出力軸22の現在の回転数から、第2変速段におけるドグ24の回転数および第2ギヤ23b2の回転数の一方を他方に合わせるように、目標エンジン回転数および目標モータ回転数を算出する。なお、目標エンジン回転数R1に対応する入力軸21の回転数と、目標モータ回転数R2に対応する入力軸21の回転数とは、同じ値である。
【0056】
(タイミングの決定)
ステップS3の後、タイミング決定部41gは、エンジン12の上記同期制御を開始するタイミングである第1タイミングTs1、駆動モータ13の上記同期制御を開始するタイミングである第2タイミングTs2、および、ドグ24を移動させるための制御を開始するタイミングである第3タイミングを決定する(ステップS4)。
【0057】
ステップS4において、まずタイミング決定部41gは、第2タイミングTs2が第1タイミングTs1よりも後になるように、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。
【0058】
具体的には、タイミング決定部41gは、エンジン12の上記同期制御を開始した時点から第1時点Tm1までの第1遅延時間D1を算出する。第1時点Tm1は、エンジン12の目標回転数に達するまでにエンジン12の出力トルクが最大となる時点である。また、タイミング決定部41gは、駆動モータ13の上記同期制御を開始してから第2時点Tm2までの第2遅延時間D2を算出する。第2時点Tm2は、駆動モータ13の目標回転数に達するまでに駆動モータ13の出力トルクが最大となる時点である。第1遅延時間D1は第2遅延時間D2より長い。
【0059】
タイミング決定部41gは、算出した第1遅延時間D1および第2遅延時間D2に基づき、第1時点Tm1と第2時点Tm2との時間差が所定時間以下となるように、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。例えば、タイミング決定部41gは、第1時点Tm1と第2時点Tm2が一致するように、すなわち、第1時点Tm1と第2時点Tm2との時間差がゼロとなるように、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。
【0060】
さらに、タイミング決定部41gは、決定した第1タイミングTs1または第2タイミングTs2に基づき、第1ギヤ23b1から第1変速段のドグ24を離脱させ且つ第2ギヤ23b2に向けて第2変速段のドグ24を移動させるための制御を開始するタイミングである第3タイミングTs3を決定する。具体的には、タイミング決定部41gは、第1タイミングTs1よりも後であって且つ第1時点Tm1より前となるように第3タイミングTs3を決定する。また、タイミング決定部41gは、第1時点Tm1および第2時点Tm2におけるドグ24が、複数の変速ギヤ対23のいずれとも係合していない非係合状態となるように、第3タイミングTs3を決定する。
【0061】
(同期制御)
ステップS4で第1タイミングTs1、第2タイミングTs2、第3タイミングTs3が決定されると、決定された各タイミングに従って、上記の同期制御(ステップS5)とシフトアクチュエータ30の制御(ステップS6)が行われる。
【0062】
具体的には、エンジン制御部41bは、上記同期制御を第1タイミングTs1で開始するようエンジン12を制御する。エンジン制御部41bは、エンジン12の回転数がステップS3で決定された目標エンジン回転数R1に近づくように、エンジン12、つまりスロットル装置12c、点火装置12d、燃料供給装置12eなどをフィードバック制御する。
【0063】
また、モータ制御部41cは、上記同期制御を第2タイミングTs2で開始するよう駆動モータ13を制御する。モータ制御部41cは、駆動モータ13の回転数がステップS3で決定された目標モータ回転数R2に近づくように、駆動モータ13をフィードバック制御する。
【0064】
また、シフト制御部41eは、ドグ24を移動させるための制御を第3タイミングTs3で開始するようシフトアクチュエータ30を制御する。
【0065】
シフト制御部41eは、シフト指令に対応するシフト動作が完了したか否かを判定する(ステップS7)。具体的には、シフト制御部41eは、第2ギヤ23b2にドグ24が係合した状態にあるか否かを判定する。例えば、シフト制御部41eは、ギヤポジションセンサ31により検出されたドラム角が、ステップS3で決定された目標ドラム角度であるか否かを判定する。
【0066】
シフト制御部41eによりシフト指令に対応するシフト動作が完了したと判定されない間は(ステップS7:No)、上記の同期制御、つまり回転数のフィードバック制御を継続する。また、シフト制御部41eによりシフト指令に対応するシフト動作が完了したと判定された場合(ステップS7:Yes)、ステップS1のトルク制御に戻る。
【0067】
次に、本実施形態に係る変速制御装置40の作用効果について、図8を参照して説明する。図8は、HEVモード走行中にシフトスイッチ17に対してシフトダウン操作が行われたときのエンジン回転数の変化、モータ回転数の変化、総出力トルクの変化の一例を示すグラフである。図8において、エンジン回転数、モータ回転数、総出力トルクの3つのグラフは、時間軸が一致するように上下方向に並べた状態で示されている。総出力トルクは、各時点におけるエンジン12の出力トルクと駆動モータ13の出力トルクとを合算した値である。
【0068】
図8の一番上のグラフは、エンジン回転数の変化を示す。このグラフにおいて、一点鎖線は、指令値、つまりエンジン回転数のフィードバック制御を行うための指令回転数であり、実線は、指令値に基づきエンジン12を制御したときのエンジン12の実回転数である。このグラフに示すように、エンジン制御部41bによりエンジン12の同期制御をし始めた第1タイミングTs1から、エンジン12の実回転数は徐々に増加していく。第1タイミングTs1から時間D1経過した第1時点Tm1で、エンジン12の実回転数のグラフの傾きは最大となる。つまり、エンジン12の出力トルク、言い換えればエンジン12の回転加速度が最大となる。その後、エンジン12の出力トルクは減少していき、エンジン12の回転数は目標回転数R1に到達し維持される。
【0069】
図8の真ん中のグラフは、モータ回転数の変化を示す。このグラフにおいて、一点鎖線は、指令値、つまりモータ回転数のフィードバック制御を行うための指令回転数であり、実線は、指令値に基づき駆動モータ13を制御したときの駆動モータ13の実回転数である。このグラフに示すように、同期制御を開始するよう駆動モータ13を制御し始めた第2タイミングTs2は、第1タイミングTs1よりも時間的に後である。
【0070】
エンジン12の実回転数とは異なり、モータ制御部41cにより駆動モータ13の同期制御をし始めた第2タイミングTs2から若干時間が経過したときに、駆動モータ13の実回転数は、急激に増加する。これは、出力変化指令に対する駆動モータ13の出力応答性が、出力変化指令に対するエンジン12の出力応答性よりも高いためである。第2タイミングTs2から時間D2経過した第2時点Tm2で、駆動モータ13の実回転数のグラフの傾きは最大となる。つまり、駆動モータ13の出力トルク、言い換えれば駆動モータ13の回転加速度が最大となる。その後、駆動モータ13の出力トルクは減少していき、駆動モータ13の回転数は目標回転数R2に到達し維持される。
【0071】
このように、第2タイミングTs2を第1タイミングTs1よりも後にすることで、エンジン12の目標回転数R1に達するまでにエンジン12の出力トルクが最大となる第1時点Tm1と、駆動モータ13の目標回転数R2に達するまでに駆動モータ13の出力トルクが最大となる第2時点Tm2とを近づけることになる。なお、図8において、第1時点Tm1と第2時点Tm2とは時間的に一致するように示されている。
【0072】
図8の一番下のグラフは、エンジン12と駆動モータ13との総出力トルクの変化を実線で示したものである。総出力トルクは、第1時点Tm1と第2時点Tm2に対応する時点で最大となる。
【0073】
また、図8の一番下のグラフには、比較例に係るエンジン12と駆動モータ13との総出力トルクの変化を二点鎖線で示す。比較例は、エンジン12の同期制御を開始する第1タイミングTs1で駆動モータ13の同期制御を開始した場合の総出力トルクである。言い換えれば、二点鎖線で示した総出力トルクは、エンジン12の同期制御と駆動モータ13の同期制御を同時に開始した場合の総出力トルクである。
【0074】
比較例の総出力トルクは、本実施形態の総出力トルクと比べて、エンジン12の同期制御を始めた時点から比較的早く増加する。これは、駆動モータ13の出力応答性の高さに起因する。すなわち、エンジン12と駆動モータ13とを同じタイミングで同期制御を開始させた場合、入力軸21に対して付与されるトルクにおいて、最初は駆動モータ13から付与されるトルクが支配的であり、その後はエンジン12から付与されるトルクが支配的となる。従って、比較例では、エンジン12の出力トルクが最大となる時点と駆動モータ13の出力トルクが最大となる時点が比較的離れているため、総出力トルクあるいは入力軸21の回転数は、全体として緩やかに変化する。
【0075】
また、本実施形態の総出力トルクは、比較例の総出力トルクと比べて、ピーク値が高い。これは、エンジン12の出力トルクが最大となる時点と駆動モータ13の出力トルクが最大となる時点とが比較的近いまたは同じであるためである。これにより、エンジン12により入力軸21に伝達されるトルクが最大となる時点付近において、入力軸21の回転数を短時間で大幅に変化させることができる。このため、ドグ24と第2ギヤ23b2との回転数合わせを行いやすくなり、その結果、ドグ24の第2ギヤ23b2に対する円滑な係合を実現できる。
【0076】
また、本実施形態では、第1時点Tm1と第2時点Tm2との時間差、つまり、エンジン12が入力軸21に伝達するトルクが最大となる時点と、駆動モータ13が入力軸21に伝達するトルクが最大となる時点との時間差を所定時間以下にする。これにより、エンジン12が入力軸21に伝達するトルクが最大となる時点付近で、入力軸21の回転数を急速に変化させやすくする。
【0077】
また、本実施形態では、プロセッサ41は、第1時点Tm1と第2時点Tm2とが一致するように、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。これにより、エンジン12が入力軸21に伝達するトルクが最大となる時点付近で、入力軸21の回転数を急速に変化させる制御を、よりシンプルな方法で実現できる。
【0078】
また、本実施形態では、決定した第1タイミングTs1または第2タイミングTs2に基づき、シフトアクチュエータ30の制御開始タイミングも決定する。このため、ドグ24の移動の際に円滑な係合を行う制御を一層行いやすくなる。
【0079】
また、本実施形態では、プロセッサ41は、第1タイミングTs1よりも後であって且つ第1時点Tm1より前となるように第3タイミングTs3を決定する。エンジン12が入力軸21に伝達するトルクが最大となる時点よりも前にドグ24の移動を開始できる。このため、ドグ24が移動し始めてから第1ギヤ23b1から完全に離脱する前に、ドグ24または第1ギヤ23b1の回転数差が急激に増大することを抑制でき、ひいては、第1ギヤ23b1の第2面25bがドグ24に衝突することを抑制できる。
【0080】
また、本実施形態では、第1時点Tm1および第2時点Tm2におけるドグ24が、複数の変速ギヤ対23のいずれとも係合していない非係合状態となるように、第3タイミングTs3を決定する。このため、ドグ24が移動し始めてから第1ギヤ23b1から完全に離脱する前に、ドグ24または第1ギヤ23b1の回転数差が急激に増大することを、より抑制できる。
【0081】
図9に、シフトアップ時におけるエンジン回転数の変化、モータ回転数の変化の一例を示すグラフを示す。図8とともにシフトダウンのシフト指令があった場合のエンジン回転数の変化、モータ回転数の変化、総出力トルクの変化が示されたが、変速制御装置40は、シフトダウン指令があった場合だけでなく、シフトアップ指令があった場合でも、同様の効果を奏する。図8図9とは、回転数を上昇させるか減少させるかの違いであるため、図9についての説明は省略する。
【0082】
<変形例1>
同じ種類の原動機であっても、トルク特性や出力応答性などに原動機の個体差がある可能性がある。このような個体差がある場合、ある原動機で円滑なドグの係合および離脱を実現できる同期制御の開始タイミングの決定方法を別の原動機に適用した場合に、当該別の原動機では、円滑なドグの係合および離脱を実現できない可能性がある。本変形例1では、このような問題を解消する。
【0083】
すなわち、変形例1に係る変速制御装置40では、プロセッサ41(より詳しくはタイミング決定部41g)により決定された第1タイミングTs1または第2タイミングTs2に基づいた同期制御が行われた場合におけるドグ24の挙動を示す挙動パラメータが、当該第1タイミングTs1または第2タイミングTs2に関するタイミング情報と対応付けて、過去データとしてメモリ42に記憶される。
【0084】
過去データは、挙動パラメータと、第1タイミングTs1、第2タイミングTs2、第3タイミングTs3の少なくとも1つに関するタイミング情報とを含んでもよい。タイミング情報は、第1タイミングTs1、第2タイミングTs2、第3タイミングTs3の少なくとも1つを決定するための方法、例えば第1遅延時間の算出方法、第2遅延時間の算出方法、第1タイミングTs1(または第2タイミングTs2)と第3タイミングとの時間間隔などに関し得る。例えば、メモリ42には、過去データが蓄積されていってもよい。タイミング決定部41gは、複数の過去データの挙動パラメータを加味してもよい。
【0085】
挙動パラメータは、ドグ24の挙動を直接または間接的に示すパラメータであればよい。挙動パラメータとしては、ギヤポジションセンサ31により検出されるシフトドラム29の回転角が例示される。シフトドラム29の回転角により、ドグ24と変速ギヤ対23との衝突の有無および衝突の大きさが把握可能であるためである。挙動パラメータは、第1変速段における変速ギヤ23に対してドグ24が円滑に離脱できたか、または、第2変速段における変速ギヤ23に対してドグ24が円滑に係合できたかを把握できるものであることが望ましい。
【0086】
プロセッサ41は、次回以降に第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する際に、メモリ42に記憶された過去データの挙動パラメータを加味して、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。プロセッサ41は、次回以降に第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する際に、メモリ42に記憶された過去データの挙動パラメータを加味して、第1タイミングTs1、第2タイミングTs2、第3タイミングTs3の少なくとも1つを決定してもよい。
【0087】
過去データを加味したタイミングの決定方法は、特に制限されない。例えば、プロセッサ41は、メモリ42に記憶された所定の判定プログラムを実行することにより、メモリ42に記憶された過去データが、ドグ24の円滑な係合または離脱の成功に関する成功データか、失敗に関する失敗データかを判別してもよい。この場合、プロセッサ41は、過去データが成功データである場合、次回以降も前回と同様の方法で第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定してもよい。プロセッサ41は、過去データが失敗データである場合、次回以降のタイミング決定において、失敗データに対応する方法で算出した第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を所定の補正方法で補正してもよい。補正方法は、遅延時間の算出方法を変えたり、第3タイミングTs3と第1タイミングTs1との時間間隔を変更したりすることが考えられる。
【0088】
本変形例1によれば、原動機に個体差がある場合でも、各原動機に対応する過去データを加味して、各種タイミングが決定される。このため、ドグ24の円滑な係合または離脱が実現されるように、原動機ごとの特性のばらつきを補償できる。
【0089】
<変形例2>
同じ原動機であっても、トルク特性や出力応答性などが環境要因に応じて変化する可能性がある。例えば、エンジンを冷却する冷却液(例えば油)の温度の上昇によって冷却液の粘度が低下すると、エンジンのメカニカルロスにつながり、エンジン特性に影響を与え得る。このため、ある原動機に関して、ある状況では円滑なドグの係合および離脱を実現できても、別の状況では、円滑なドグの係合および離脱を実現できない可能性がある。本変形例2では、このような問題を解消する。
【0090】
すなわち、変形例2に係る変速制御装置40では、プロセッサ41は、エンジン12または駆動モータ13の出力応答性またはトルク特性に影響を及ぼす環境パラメータを取得する。環境パラメータとしては、冷却液温度センサ36によりエンジン12を冷却する冷却液の温度が例示される。冷却液の温度の上昇に伴って低下する冷却液の粘度が、エンジン12のトルク特性や出力応答性に影響を与え得るためである。プロセッサ41は、複数種類の環境パラメータを取得してもよい。
【0091】
プロセッサ41は、取得した環境パラメータに基づき、第1タイミングTs1または第2タイミングTs2を決定する。プロセッサ41は、環境パラメータに基づき、第1タイミングTs1、第2タイミングTs2、第3タイミングTs3の少なくとも1つを決定してもよい。例えば、環境パラメータの値と第1遅延時間D1との対応関係や環境パラメータの値と第2遅延時間D2との対応関係を示す対応関係情報が、メモリ42に記憶されていてもよい。この場合、プロセッサ41は、取得した環境パラメータと、メモリ42に記憶された当該対応関係を示す情報に基づいて、第1遅延時間D1および第2遅延時間D2のうちの少なくとも1つを決定してもよい。
【0092】
本変形例2によれば、使用する環境や状況に応じて、適切にタイミングの決定を行うことができる。
【0093】
ただし、環境パラメータは、冷却液温度に限定されない。例えば自動二輪車1が、自動二輪車1が存在するロケーションにおける大気圧を検出する大気圧センサを備えてもよく、環境パラメータは、大気圧センサにより検出された大気圧を含んでもよい。
【0094】
<その他の実施形態>
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0095】
例えば、上記実施形態では、ドグ24が共回転ギヤ23aと一体型であったが、ドグ24が共回転ギヤ23aとは別体であってもよい。例えば、共回転ギヤ23aを、入力軸21または出力軸22に対しスライド自在にする代わりに、ドグ24を有するドッグリングを、入力軸21または出力軸22に対しスライド自在に設けてもよい。また、ドグが、入力軸21および出力軸22の双方の周りに配置されなくてもよく、全ての変速段のドグが、入力軸21および出力軸22のいずれか一方の周りにのみ配置されてもよい。
【0096】
図3乃至5では、現在の変速段である第1変速段のドグ24と、次の変速段である第2変速段のドグ24の双方を備える変速ギヤ23が示されたが、ギヤ変速機が、このような変速ギヤを備えなくてもよい。すなわち、第1変速段のドグ24と、次の変速段である第2変速段のドグ24とは、別々の変速ギヤ23に設けられてもよいし、あるいは別々のドッグリングに設けられてもよい。
【0097】
第1タイミングまたは第2タイミングは、予め定められた設定条件に応じて変更される可変タイミングであってもよい。タイミング決定部は、第1変速段におけるギヤ比、第1変速段における入力軸の回転数、第1変速段における出力軸の回転数、第2変速段におけるギヤ比(すなわち減速比)、第2変速段における入力軸の回転数、第2変速段における出力軸の回転数、エンジン12の出力トルクおよび駆動モータ13の出力トルクの少なくとも1つに応じて、第1タイミングまたは第2タイミングを決定してもよい。例えば、タイミング決定部41gは、エンジン回転数、変速比、加減速の有無、変速アップ/ダウン、車速、インテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ(ISG ;Integrated Starter Generator)の充放電状態、トルクマップ、吸気量、空燃比に基づいて、第1遅延時間D1を変化させてもよい。また、タイミング決定部41gは、バッテリ温度、モータ温度、バッテリの放電許容量、トルクマップ、変速比、加減速の有無、変速アップ/ダウン、車速に基づいて、第2遅延時間D2を変化させてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、第1原動機が内燃機関であり、第2原動機が電動モータである例が説明されたが、第1原動機および第2原動機の種類はこれに限定されない。例えば、第1原動機または第2原動機は、内燃機関、外燃機関、電動モータ、流体機械などであり得る。エンジンの種類も特に限定されず、例えばエンジンは、レシプロエンジンでもよいし、ロータリーエンジンでもよい。例えばエンジンは、ガソリンエンジンでもよいし、ディーゼルエンジンでもよい。例えばエンジンは、2ストロークエンジンでもよいし、4ストロークエンジンでもよい。第1原動機と第2原動機とが、双方とも同じ種類の原動機でもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、第1原動機が内燃機関であり、第2原動機が電動モータであるため、内燃機関の出力応答性よりも電動モータの出力応答性が常に高かった。しかし、原動機の種類によっては、2つの原動機のうちの一方の出力応答性が、他方の出力応答性に比べて、各原動機の温度や出力トルクなどの状況によって、高くなったり低くなったりする場合がある。このような場合、処理回路は、シフト指令を取得した状況に基づき、2つの原動機のうちどちらの出力応答性が高いかを判定してもよい。そして、出力応答性が高い原動機を、第2原動機とし、出力応答性が低い原動機を、第1原動機としてもよい。なお、この種の判定は、一方の出力応答性が他方の出力応答性に比べて常に高い2つの原動機を用いる場合には不要である。
【0100】
このように、第1原動機と第2原動機とは、第1原動機の駆動力および第2原動機の駆動力をともにギヤ変速機の入力軸に伝達するものであって、且つ、第2原動機の出力変化指令に対する出力応答性が第1原動機の出力変化指令に対する出力応答性よりも高い、または、高い場合があり得るという関係にあるものであればよい。
【0101】
第1タイミングと第2タイミングの決定方法は、上記実施形態で説明されたものに限定されない。例えば上記実施形態では、エンジン同期制御の開始時点からエンジン出力トルクが最大となる第1時点と、モータ同期制御の開始時点からモータ出力トルクが最大となる第2時点とが一致するように、第1タイミングまたは第2タイミングを決定したが、第1時点に対して第2時点が所定時間だけ遅くなるように第1タイミングまたは第2タイミングを決定してもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、第1タイミングと第2タイミングの決定を、第1時点までの第1遅延時間と、第2時点までの第2遅延時間とに基づき行ったが、第1タイミングと第2タイミングの決定方法は、これに限定されない。例えば、第1タイミングおよび第2タイミングのうちの一方のみを第1遅延時間と第2遅延時間とに基づき決定してもよい。例えば、第2タイミングのみを第1遅延時間と第2遅延時間とに基づき決定し、第1タイミングについては、第2タイミングが決定した後に開始するものとして決定してもよい。第1遅延時間と第2遅延時間の一方のみに基づき、第1タイミングおよび第2タイミングの一方または双方を決定してもよい。
【0103】
また、ドグを移動させるための制御を開始するタイミングである第3タイミングの決定方法は、上記実施形態で説明されたものに限定されない。
【0104】
例えば上記実施形態では、第1タイミングまたは第2タイミングに基づき第3タイミングを決定したが、第1タイミングおよび第2タイミングのいずれとも関係なく第3タイミングを決定してもよい。
【0105】
例えば上記実施形態では、第1時点および第2時点におけるドグが、複数の変速ギヤ対のいずれとも係合していない非係合状態となるように、第3タイミングを決定したが、第1時点および第2時点におけるドグが、第1変速段の変速ギヤ対の収容空間内に入り込んだ状態にあるように第3タイミングが決定されてもよい。
【0106】
例えば上記実施形態では、第1タイミングよりも後であって且つ第1時点より前となるように第3タイミングを決定したが、第3タイミングは、第1タイミングよりも前としてもよいし、第1時点より後としてもよい。
【0107】
シフト指令は、シフトスイッチの代わりに別の装置から指令を送信できてもよい。また、変速制御装置が、自動的にシフト指令を生成してもよい。例えば変速制御装置は、車速、エンジン回転数およびスロットル開度と変速タイミングとの関係を規定する変速マップを記憶していてもよく、変速マップに基づいて自動的にシフト指令を生成してもよい。
【0108】
乗物は、自動二輪車に限定されない。例えば、乗物は、例えば、自動三輪車や自動四輪車であってもよい。上記実施形態では、自動二輪車1の動力システムのための変速制御装置40が説明されたが、変速制御装置は、自動三輪車や自動四輪車など、別の種類の乗物の動力システムにも適用可能である。
【0109】
また、変速制御装置は、工作機械など、乗物の動力システム以外のシステムにおけるシフト動作にも適用可能である。
【0110】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの任意の組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0111】
本開示の一態様に係る変速制御装置は、出力変化指令に対する出力応答性が互いに異なる第1原動機および第2原動機と、前記第1原動機の駆動力および前記第2原動機の駆動力が伝達される入力軸、出力軸、複数の変速ギヤ、並びに、前記入力軸および出力軸に対して移動し、前記複数の変速ギヤのうちの1つの変速ギヤと選択的に係合するドグ、を有するギヤ変速機と、を備えるシステムにおいて、前記第1原動機および第2原動機を制御する変速制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、第1変速段から第2変速段にシフトするためのシフト指令に応じて、第2変速段における前記ドグの回転数と第2変速段における前記変速ギヤの回転数の一方を他方に近づける同期制御のための前記第1原動機の目標回転数および前記第2原動機の目標回転数を算出し、前記第2原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第2タイミングが、前記第1原動機の前記同期制御を開始するタイミングである第1タイミングよりも後になるように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する、変速制御装置である。
【0112】
上記の構成によれば、第2原動機の出力応答性が第1原動機の出力応答性よりも高い場合には、第2タイミングを第1タイミングよりも後にすることで、第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点と、第2原動機の出力トルクが最大となる第2時点とを近づけることになる。これにより、第1原動機と第2原動機とにより入力軸に伝達されるトルクが最大となる時点付近において、入力軸の回転数を短時間で大幅に変化させることができる。このため、シフト動作時にドグと変速ギヤとの回転数合わせを行いやすくなり、その結果、変速ギヤに対するドグの円滑な係合を実現できる。
【0113】
前記第1タイミングまたは前記第2タイミングは、予め定められた設定条件に応じて変更される可変タイミングであってもよい。
【0114】
前記処理回路は、前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、前記第2原動機の前記同期制御を開始してから、前記第2原動機の目標回転数に達するまでに前記第2原動機の出力トルクが最大となる第2時点までの第2遅延時間を算出し、算出した前記第1遅延時間および前記第2遅延時間に基づき、前記第1時点と前記第2時点との時間差が所定時間以下となるように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定してもよい。この構成によれば、第1原動機が入力軸に伝達するトルクが最大となる時点付近で、入力軸の回転数を急速に変化させやすくする。
【0115】
前記処理回路は、前記第1時点と前記第2時点とが一致するように、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定してもよい。これにより、第1原動機が入力軸に伝達するトルクが最大となる時点付近で、入力軸の回転数を急速に変化させる制御を、よりシンプルな方法で実現できる。
【0116】
前記システムは、前記変速制御装置により制御され、前記ドグを移動させる動力を発生させるシフトアクチュエータを更に備え、前記処理回路は、決定した前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに基づき、前記ドグを移動させるための制御を開始するタイミングである第3タイミングを決定してもよい。この構成によれば、決定した前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに基づき、シフトアクチュエータの制御開始タイミングも決定する。このため、ドグの移動の際に円滑な離脱および係合を行う制御を一層行いやすくなる。
【0117】
前記処理回路は、前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、前記第1タイミングよりも後であって且つ前記第1時点より前となるように前記第3タイミングを決定してもよい。これにより、第1原動機が入力軸に伝達するトルクが最大となる時点よりも前にドグの移動を開始できる。このため、第1変速段におけるドグが移動し始めてから第1変速段の変速ギヤから完全に離脱する前に、第1変速段におけるドグまたは第1変速段におけるギヤ対の回転数差が急激に増大することを抑制でき、ひいては、前の変速段におけるギヤ対とドグとが互いに衝突することを抑制できる。
【0118】
前記処理回路は、前記第1原動機の前記同期制御を開始してから、前記第1原動機の目標回転数に達するまでに前記第1原動機の出力トルクが最大となる第1時点までの第1遅延時間を算出し、前記第2原動機の前記同期制御を開始してから、前記第2原動機の目標回転数に達するまでに前記第2原動機の出力トルクが最大となる第2時点までの第2遅延時間を算出し、前記第1時点および前記第2時点における前記ドグが、前記複数の変速ギヤのいずれとも係合していない非係合状態となるように、前記第3タイミングを決定してもよい。これにより、ドグまたは前の変速段におけるギヤ対の回転数差が急激に増大することを、より抑制できる。
【0119】
前記処理回路により決定された前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに基づいた前記同期制御を行った場合における前記ドグの挙動を示す挙動パラメータを、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングに関するタイミング情報と対応付けて、過去データとして記憶するメモリを更に備え、前記処理回路は、次回以降に前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定する際に、前記過去データを加味して、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定してもよい。これにより、原動機に個体差がある場合でも、各原動機に対応する過去データを加味して、ドグの円滑な係合または離脱が実現されるように、原動機ごとの特性のばらつきを補償できる。
【0120】
前記処理回路は、前記第1原動機または前記第2原動機の出力応答性またはトルク特性に影響を及ぼす環境パラメータを取得し、前記環境パラメータに基づき、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定してもよい。これにより、使用する環境や状況に応じて、適切にタイミングの決定を行うことができる。
【0121】
前記処理回路は、第1変速段におけるギヤ比、第1変速段における前記入力軸の回転数、第1変速段における前記出力軸の回転数、前記第2変速段におけるギヤ比、前記第2変速段における前記入力軸の回転数、前記第2変速段における前記出力軸の回転数、前記第1原動機の出力トルクおよび前記第2原動機の出力トルクの少なくとも1つに応じて、前記第1タイミングまたは前記第2タイミングを決定してもよい。
【0122】
前記第1原動機は、内燃機関であり、前記第2原動機は、電動モータである。例えばハイブリッド車両に搭載される変速制御装置に適用できる。
【符号の説明】
【0123】
1 :自動二輪車
11 :パワーユニット
12 :エンジン
13 :駆動モータ
17 :シフトスイッチ
20 :ギヤ変速機
21 :入力軸
22 :出力軸
23 :変速ギヤ対
24 :ドグ
30 :シフトアクチュエータ
31 :ギヤポジションセンサ
32 :アクセル操作量センサ
33 :エンジン回転数センサ
34 :モータ回転数センサ
35 :出力軸回転数センサ
36 :冷却液温度センサ
40 :変速制御装置
41 :プロセッサ
42 :メモリ
図1
図2
図3
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図9