(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】S-ピンドロールの有機酸付加塩
(51)【国際特許分類】
C07D 209/32 20060101AFI20250417BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20250417BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20250417BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250417BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250417BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20250417BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250417BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250417BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20250417BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
C07D209/32 CSP
A61K31/404
A61P7/00
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/12
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/22
A61P27/06
(21)【出願番号】P 2022561648
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 GB2021050799
(87)【国際公開番号】W WO2021205144
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2024-03-18
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】522394465
【氏名又は名称】アクティメッド・セラピューティクス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ACTIMED THERAPEUTICS LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】バッタチャルジー,ロビン チャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】コーツ,アンドリュー ジャスティン ステュワート
(72)【発明者】
【氏名】モーテン,エレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス,ロニー マクスウェル
(72)【発明者】
【氏名】レイバーン,ジャクリン
(72)【発明者】
【氏名】ロバト,キアラ マリッサ
(72)【発明者】
【氏名】ラフリー,ジョナサン ジェームズ
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-511685(JP,A)
【文献】米国特許第03471515(US,A)
【文献】特開昭62-155238(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01418288(GB,A)
【文献】米国特許第03260729(US,A)
【文献】米国特許第02808414(US,A)
【文献】米国特許第02866788(US,A)
【文献】PIETILAINEN, Hannna et al.,Synthesis and Physical Studies of the Organic Salts of Pindolol: Pindolol Benzoate and Pindolol 2-Methoxyphenylacetate,Drug Development and Industrial Pharmacy ,1996年,vol.22, no.11,pp.1063-1073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 209/32
A61K 31/404
A61P 7/00
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 9/12
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/22
A61P 27/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)S-ピンドロール;および
(ii)
安息香酸
の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項2】
医薬的に許容される酸付加塩が、結晶である、請求項
1に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項3】
医薬的に許容される酸塩が、溶媒和物の形態である、請求項
1または2に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項4】
塩が、S-ピンドロール安息香酸塩である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項5】
S-ピンドロール安息香酸塩が、S-ピンドロールモノ安息香酸塩である、請求項
4に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項6】
S-ピンドロール安息香酸塩が、8.1°、11.4°および17.0°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折パターンを有するS-ピンドロール安息香酸塩結晶多形パターン1の形態である、請求項
4または5に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項7】
X線粉末回折パターンが、5.7°、12.5°および18.4°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む、請求項
6に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項8】
S-ピンドロール安息香酸塩が、16.9°、18.9°および20.1°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折パターンを有するS-ピンドロール安息香酸塩結晶多形パターン2の形態である、請求項
4または5に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項9】
X線粉末回折パターンが、9.2°、13.9°および20.7°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む、請求項
8に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
【請求項10】
組成物の総重量に対して、少なくとも60重量%の請求項1~
9のいずれか一項に記載の医薬的に許容される酸付加塩を含む組成物。
【請求項11】
組成物の総重量に対して、30重量%以下のR-ピンドロールまたはその塩を含む、請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
(i)請求項1~
9のいずれか一項に記載の医薬的に許容される酸付加塩および(ii)医薬的に許容される添加剤、担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物が、錠剤である、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
組成物が、R-ピンドロールまたはその塩を実質的に含まない、請求項
12または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
カヘキシー、サルコペニア、神経筋障害、筋力低下、高血圧、心不全、心房細動、心臓発作、狭心症、緑内障および不安より選択される疾患または状態の処置または予防のための、請求項
12~14のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項16】
疾患または状態が、カヘキシーまたは筋力低下である、請求項
15に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S-ピンドロールの塩およびその塩を含む医薬組成物に関する。当該塩の医学的使用も記載する。
【背景技術】
【0002】
S-ピンドロールは、β-アドレナリン受容体アンタゴニストであり、(-)-ピンドロールとしても知られている。S-ピンドロールの体系名は、(2S)-1-(1H-インドール-4-イルオキシ)-3-(プロパン-2-イルアミノ)プロパン-2-オールであり、この化合物の構造を以下に示す。
【化1】
【0003】
S-ピンドロールは、βアドレナリン受容体および5-HT1a受容体の両方に親和性を有し、多くの障害を処置するのに有用である。WO2008/068477A1は、S-ピンドロールでのカヘキシーの処置を記載している。
【0004】
ピンドロールは、ラセミ体の形態で特定の状態の処置に認可されている。S-ピンドロールは、より薬理学的に活性なエナンチオマーであることがわかっている。S-ピンドロールが、錠剤などの経口薬剤として製剤化することを困難にし得る特性を有することが、本発明の発見である。特に、S-ピンドロールは、場合によっては、特定の条件下で、保存中に分解および変色し得る。
【0005】
臨床状況で用いるのによく適した固体形態のS-ピンドロールを開発することが必要とされている。特に、結晶性で安定であり、医薬用途に適した色を有する固体を開発することが望ましい。
【0006】
S-ピンドロール酒石酸塩が、Kaumann et al, British Journal of Pharmacology 1986 89 (1) 207-218に記載されている。S-ピンドロール塩酸塩が、日本国特許出願JPH01287064(A)に記載されている。ピンドロールのラセミ安息香酸塩が、Pietilainen et al, Drug Development and Industrial Pharmacy, 22(11), 1063-1073 (1996)に記載されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、少なくとも2.5のpKaを有する有機モノ-およびジ-カルボン酸と形成したS-ピンドロールの塩が、医薬製剤によく適していることを見出した。特に、これらの塩は、安定で結晶性であり、S-ピンドロール遊離塩基と比較して融点が高いことが判明した。S-ピンドロール塩のいくつかはまた、固体形態の臨床使用に望ましい純粋な白色を有する。
【0008】
本発明は、(i)S-ピンドロール;および(ii)有機酸の医薬的に許容される酸付加塩であって、有機酸は、2.5以上のpKa1およびCxHy(CO2H)zで示される化学式を有し、式中、xは1~10、yは2~20、zは1または2である、医薬的に許容される酸付加塩に関する。
【0009】
本発明はまた、少なくとも60重量%の医薬的に許容される酸付加塩を含む組成物を提供する。
【0010】
さらに本発明は、(i)医薬的に許容される酸付加塩および(ii)医薬的に許容される添加剤、担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
また本発明は、ヒトまたは動物の身体の処置における使用のための医薬的に許容される酸付加塩を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、S-ピンドロール遊離塩基パターン1のXRPD2θディフラクトグラムを示す。
【
図2】
図2は、S-ピンドロールのフマル酸での処理から得られた固体のXRPD2θディフラクトグラムを示す。
【
図3】
図3は、S-ピンドロールヘミフマル酸塩パターン1のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図4】
図4は、S-ピンドロールヘミフマル酸塩パターン2のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図5】
図5は、S-ピンドロールヘミフマル酸塩パターン3のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図6】
図6は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のXRPD2θディフラクトグラムを示す。
【
図7】
図7は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のFT-IRスペクトルを示す。
【
図8】
図8は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図9】
図9は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のDSCサーモグラム(第1加熱サイクル)を示す。
【
図10】
図10は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のDSCサーモグラム(第2加熱サイクル)を示す。
【
図11】
図11は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPD2θディフラクトグラムを示す。
【
図12】
図12は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のFT-IRスペクトルを示す。
【
図13】
図13は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図14】
図14は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のDSCサーモグラム(第1加熱サイクル)を示す。
【
図15】
図15は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のDSCサーモグラム(第2加熱サイクル)を示す。
【
図16】
図16は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のXRPD2θディフラクトグラムを示す。
【
図17】
図17は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のFT-IRスペクトルを示す。
【
図18】
図18は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のTG/DSCサーモグラムを示す。
【
図19】
図19は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のDSCサーモグラム(第1加熱サイクル)を示す。
【
図20】
図20は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のDSCサーモグラム(第2加熱サイクル)を示す。
【
図21】
図21は、メチルエチルケトンから得られたS-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPDディフラクトグラムを示す。
【
図22】
図22は、競合スラリー実験から得られたS-ピンドロール安息香酸塩の試料のXRPDディフラクトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
有機酸は、2.5以上のpKa1を有する。すなわち、有機酸は比較的弱い酸である。有機酸は、好ましくはpKa1が3.0~5.0を有する。例えば、有機酸のpKa1は4.0から4.5であり得る。pKa1は、酸から解離する最初のプロトンの酸解離定数である。モノカルボン酸の場合、pKa1は酸解離定数pKaに単純に対応する。本明細書で用いるpKa1値は、25℃で測定したものである。有機酸のpKa値およびpKa1値は、当業者に容易に入手可能である。
【0014】
有機酸は、CxHy(CO2H)zで示される化学式を有し、式中、xは1~10、yは2~20、zは1または2である。したがって、有機酸は、ヒドロカルビル部分(CxHy、水素と炭素からなる)および1つまたは2つのカルボン酸基(CO2H)を含む。典型的には、xは2~7、Hは2~6である。CxHy基は、アレニル基、アルキル基またはアルケニル基であり得る。例えば、CxHy基は、2価のC2-7アルキル基、2価のC2-7アルケニル基、または1つまたは2つのメチル基で置換されていてもよい2価のフェニル基であり得る。
【0015】
有機酸は、例えば、安息香酸、コハク酸、フマル酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、グルタル酸、アジピン酸、フェニル酢酸、フルイル酸(o-、m-およびp-フルイル酸を含む)およびナフトエ酸(1-および2-ナフトエ酸を含む)であり得る。
【0016】
これらの酸のpK
a1を下記表に示す。酸がモノカルボン酸であるとき、記載のpK
a1はその酸のpK
aである。
【表1】
【0017】
安息香酸、コハク酸およびフマル酸の構造は下記のとおりである。
【化2】
【0018】
典型的には、有機酸は安息香酸またはコハク酸である。好ましくは、有機酸は安息香酸である。
【0019】
医薬的に許容される酸付加塩は、S-ピンドロールの塩であり、したがって、S-ピンドロールから形成されるカチオンを含む。S-ピンドロールから形成されるカチオンは、典型的には下記構造を有する:
【化3】
【0020】
医薬的に許容される塩におけるピンドロールのカチオンのS-エナンチオマーのエナンチオマー過剰率は、典型的には少なくとも80%である。したがって、塩中のカチオンのうち、少なくとも90モル%は、典型的にはS配置である。エナンチオマー過剰率は、典型的には少なくとも95%である。医薬的に許容される酸付加塩中のS-ピンドロールのカチオンは、典型的には、実質的にS配置であり、したがって、少なくとも99%のエナンチオマー過剰率を有し得る。エナンチオマー過剰率は、任意の標準的技術により、例えば旋光度により、またはキラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し得る。
【0021】
したがって、医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には、ピンドロールのR-エナンチオマーまたはプロトン化R-ピンドロール分子であるカチオンを含む塩を10モル%より多く含まない。例えば、医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には、ピンドロールのR-エナンチオマーまたはプロトン化されたR-ピンドロール分子であるカチオンを含む塩を実質的に含まない。
【0022】
医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には結晶性である。したがって、塩は、反復単位セルを含む三次元結晶構造を有し得る。医薬的に許容される酸付加塩は、固体形態、例えば、医薬的に許容される酸付加塩の結晶(crystal)または微結晶(crystallite)を含む固体形態であり得る。
【0023】
医薬的に許容される酸塩は、溶媒和物の形態であり得る。塩の溶媒和物は、溶媒分子を含む塩の固体形態である。例えば、塩は水和物であり得る。典型的には、塩は溶媒和物ではない。例えば、医薬的に許容される酸付加塩は無水であり得る。
【0024】
医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には、S-ピンドロール遊離塩基の融点より高い融点を有する。塩は、100℃以上、例えば110℃~170℃の融点を有し得る。典型的には、塩の融点は130℃~160℃である。融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)を用いて決定し得る。
【0025】
医薬的に許容される酸付加塩は、任意の適切な方法によって形成し得る。典型的には、S-ピンドロール遊離塩基は、溶媒中で有機酸で処理される。溶媒は、水、アルコール(例えばエタノールまたは2-プロパノール)、エステル(例えば酢酸エチル)、ケトン(例えばアセトン)またはエーテル(例えばテトラヒドロフラン(THF)またはエチルエーテル)であり得る。生成した医薬的に許容される酸付加塩は、溶媒に溶解してもよく、または溶液から沈殿してもよい。医薬的に許容される酸付加塩は、適切な方法、例えばろ過または溶媒蒸発により単離し得る。
【0026】
医薬的に許容される酸付加塩は、S-ピンドロール安息香酸塩であり得る。したがって、塩は、S-ピンドロール由来のカチオンおよび安息香酸アニオンを含み得る。カチオンとアニオンの化学量論は、典型的には、約1:1、例えば0.9:1.0~1.1:1.0であり得る(すなわち1モルのアニオンに対して、0.9~1.1モルのカチオンが存在し得る)。好ましくは、S-ピンドロール安息香酸塩は、S-ピンドロールモノ安息香酸塩である。したがって、塩は、式[C14H21N2O2]+[C6H6COO]-で示され得る。
【0027】
医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には結晶性である。本明細書に記載する°2θの値は、CuKα1放射線(λ=1.54060Å)のX線波長を用いて測定される。X線粉末回折パターンがピークを含む場合、そのピークの相対強度は、典型的には、少なくとも5%または少なくとも10%である。°2θの値の誤差範囲は、典型的には±0.2°2θであるが、代わりに誤差範囲は、±0.1°2θであってもよい。
【0028】
S-ピンドロール安息香酸塩は、パターン1と表すS-ピンドロール安息香酸塩の結晶多形の形態であり得る。S-ピンドロール安息香酸塩パターン1は、典型的には、8.1°、11.4°および17.0°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折(XRPD)パターンを有する。
【0029】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のXRPDパターンは、典型的には、5.7°、12.5°および18.4°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む。
【0030】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のXRPDパターンは、5.7°、8.1°、11.4°、12.5°、12.8°、15.4°、16.2°、17.0°、18.4°、20.2°、23.0°、23.8°、24.0°および25.1°±0.2°2θより選択される5つ以上のピークを含み得る。XRPDパターンは、これらのピークすべてを含み得る。S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のXRPDパターンは、下記ピークを含み得る。
【表2】
【0031】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のXRPDパターンは、実質的に
図6に示すとおりであり得る。
【0032】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の赤外線スペクトルは、典型的には、1638~1648cm-1、2964~2974cm-1、3022~3032cm-1および3250~3260cm-1の範囲に1つ以上のピークを含む。例えば、赤外線スペクトルは、約1643cm-1、2969cm-1、3027cm-1および3255cm-1におけるピークを含み得る。
【0033】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の融点は、典型的には、130~140℃の範囲、例えば約135℃である。
【0034】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1は、1-ブタノール、1-プロパノール、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、2-メチルTHF、2-メチル-1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、メタノール、メチルイソブチルケトンおよび2-エトキシエタノールである溶媒から、S-ピンドロール安息香酸塩を再結晶化させることを含むプロセスにより、製造し得る。
【0035】
S-ピンドロール安息香酸塩は、パターン2と表すS-ピンドロール安息香酸塩の結晶多形の形態であり得る。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、典型的には、9.2°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折(XRPD)を有する。
【0036】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、典型的には、16.9°、18.9°および20.1°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折(XRPD)パターンを有する。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPDパターンは、典型的には、9.2°、13.9°および20.7°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む。
【0037】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPDパターンは、8.3°、9.2°、12.4°、13.0°、13.9°、16.9°、18.5°、18.9°、19.1°、20.1°、20.7°、21.3°、23.4°、24.8°、26.3°、29.4°±0.2°2θより選択される5つ以上のピークを含み得る。XRPDパターンは、これらのピークすべてを含み得る。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPDパターンは、下記ピークを含み得る。
【表3】
【0038】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のXRPDパターンは、実質的に
図11または
図21に示すとおりであり得る。
【0039】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の赤外線スペクトルは、典型的には、1630~1640cm-1、2924~2934cm-1、3093~3103cm-1および3214~3224cm-1の範囲に1つ以上のピークを含む。例えば、赤外線スペクトルは、約1635cm-1、2929cm-1、3098cm-1および3219cm-1におけるピークを含み得る。
【0040】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の融点は、典型的には、153~163℃の範囲、例えば約158℃である。
【0041】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、エタノール、メタノール:水(例えば95:5%v/v)、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランおよび水である溶媒から、S-ピンドロール安息香酸塩を再結晶化させることを含むプロセスにより、製造し得る。例えば、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、メチルエチルケトンからS-ピンドロール安息香酸塩を再結晶化させることにより得ることができる。
【0042】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2が、S-ピンドロール安息香酸塩の熱力学的に安定な形態であることが見出された。したがって、S-ピンドロール安息香酸塩は、好ましくはS-ピンドロール安息香酸塩パターン2の形態である。
【0043】
医薬的に許容される酸付加塩は、S-ピンドロールコハク酸塩であり得る。したがって、塩は、S-ピンドロール由来のカチオンおよびコハク酸アニオンを含み得る。カチオンとアニオンの化学量論は、典型的には、約1:1または約2:1、例えば0.9:1.0~1.1:1.0または1.9:1.0~2.1:1.0であり得る。したがって、S-ピンドロールコハク酸塩は、S-ピンドロールヘミコハク酸塩またはS-ピンドロールモノコハク酸塩であり得る。好ましくは、S-ピンドロールコハク酸塩は、S-ピンドロールモノコハク酸塩である。したがって、塩は、式[C14H21N2O2]+[HOOC(C2H4)COO]-または([C14H21N2O2]+)2[OOC(C2H4)COO]2-で示され得る。
【0044】
S-ピンドロールコハク酸塩は、パターン1と表すS-ピンドロールコハク酸塩の結晶多形の形態であり得る。S-ピンドロールコハク酸塩パターン1は、典型的には、13.3°、16.7°および19.5°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折(XRPD)パターンを有する。
【0045】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のXRPDパターンは、典型的には、8.3°、12.2°および12.8°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む。ピーク位置の誤差範囲は、±0.1°2θであり得る。
【0046】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のXRPDパターンは、8.3°、12.2°、12.8°、13.3°、16.7°、16.9°、19.5°、21.5°、22.0°、22.7°、24.1°、24.3°、25.0°±0.2°2θより選択される5つ以上のピークを含み得る。S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のXRPDパターンは、下記ピークを含み得る。
【表4】
【0047】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のXRPDパターンは、実質的に
図16に示すとおりであり得る。
【0048】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の赤外線スペクトルは、典型的には、1685~1695cm-1、2965~2975cm-1、3148~3158cm-1および3384~3394cm-1の範囲に1つ以上のピークを含む。例えば、赤外線スペクトルは、約1690cm-1、2970cm-1、3153cm-1および3389cm-1におけるピークを含み得る。
【0049】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の融点は、典型的には、110~120℃の範囲、例えば約115℃である。
【0050】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1は、(i)S-ピンドロール遊離塩基およびコハク酸を準備する工程;(ii)THFをS-ピンドロール遊離塩基およびコハク酸に加えて、混合物を得る工程;(iii)混合物の温度を3~5時間続くサイクルで15℃~30℃の低温から35℃~50℃の高温にし、再び戻る、合計60~120時間のサイクルを実施する工程;(iv)生成した塩をろ過する工程;(v)塩を35~50℃で18~48時間乾燥させる工程を含むプロセスにより、製造し得る。
【0051】
医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には、約90%以上、約95%以上または約97%以上の純度を有する。パーセント純度は、HPLC分離に基づく面積%として計算し得る。
【0052】
組成物
本発明の組成物は、少なくとも60重量%の医薬的に許容される酸付加塩を含む。組成物は、組成物の総重量に対して、少なくとも80重量%または少なくとも95重量%の医薬的に許容される酸付加塩を含み得る。組成物は、医薬的に許容される酸付加塩から本質的になり得る。組成物は、医薬的に許容される酸付加塩からなり得る。
【0053】
したがって、組成物は、典型的には、組成物の総重量に対して、30重量%以下のR-ピンドロールまたはその塩を含む。例えば、組成物は、組成物の総重量に対して、10重量%以下または1重量%以下のR-ピンドロールまたはその塩を含み得る。
【0054】
本発明の医薬組成物は、(i)医薬的に許容される酸付加塩および(ii)医薬的に許容される添加剤、担体または希釈剤を含む。医薬組成物は、例えば、経口投与用の錠剤、カプセル剤、散剤、液剤または懸濁剤;注射用の液剤または懸濁剤;または吸入用の液剤、懸濁剤または散剤であり得る。医薬組成物は、典型的には錠剤である。
【0055】
医薬的に許容される添加剤、担体および希釈剤は、当業者によく知られている。
【0056】
希釈剤は、あらゆる医薬的に許容される希釈剤であり得る。希釈剤は、典型的には、非経腸投与または経口投与に適する。適切な液体希釈剤の例は、水、エタノールおよびグリセロールを含む。あるいは、希釈剤は、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチおよびポテトスターチなどの固体希釈剤より選択され得る。希釈剤は、pHを制御するための緩衝成分を含み得る。緩衝液は、リン酸塩、クエン酸塩または酢酸塩に由来し得る。希釈剤はまた、塩化ナトリウムを含み得る。
【0057】
医薬組成物は、滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコール;結合剤、例えばデンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン;脱凝集剤(disaggregating agent)、例えばデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩またはデンプングリコール酸ナトリウム;発泡性混合物;染料;甘味剤;湿潤剤、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩;および医薬製剤で使用される一般的で無毒で薬理学的に不活性な物質より選択される添加剤を含み得る。このような医薬製剤は、公知の方法で、例えば、混合、造粒、打錠、糖コーティングまたはフィルムコーティングプロセスにより製造し得る。
【0058】
医薬組成物は、例えば、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状シリカ、結晶セルロース、ステアリルフマル酸塩およびデンプンより選択される1つ以上の添加剤を含む錠剤であり得る。
【0059】
経口投与用の分散液である組成物は、シロップ剤、乳剤および懸濁剤であり得る。シロップ剤は、担体として、例えば、サッカロース、グリセリン、マンニトールまたはソルビトールを含み得る。
【0060】
懸濁剤または乳剤である組成物は、担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを含み得る。筋肉内注射用の懸濁剤または液剤は、医薬的に許容される酸付加塩と共に、医薬的に許容される担体、例えば滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えばプロピレングリコール、および必要に応じて適切な量のリドカイン塩酸塩を含み得る。
【0061】
注射もしくは点滴用または吸入用の液剤は、担体として、例えば滅菌水を含み得て、または滅菌等張食塩水の形態であり得る。
【0062】
医薬組成物は、0.1~1000mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する量の医薬的に許容される酸付加塩を含み得る。例えば、医薬組成物は、80~160mgまたは2.5~50mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する量の医薬的に許容される酸付加塩を含み得る。医薬組成物は、2.5~15mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する量の塩を含み得る。例えば、3.7mgのS-ピンドロール安息香酸塩(分子量370.4g/mol)は、2.5mgのS-ピンドロール遊離塩基(分子量248.3g/mol)に相当する。
【0063】
医薬組成物は、典型的には、R-ピンドロールまたはその塩を実質的に含まない。例えば、医薬組成物は、1.0重量%未満または0.5重量%未満のR-ピンドロールまたはその塩を含み得る。
【0064】
医薬用途
医薬的に許容される酸付加塩は、カヘキシー、サルコペニア、神経筋障害、筋力低下、高血圧、心不全、心房細動、心臓発作、狭心症、緑内障および不安より選択される疾患または状態の処置または予防に有用である。典型的には、疾患または状態は、カヘキシーおよび筋力低下より選択される。
【0065】
カヘキシーは、基礎疾患により引き起こされ得る。例えば、カヘキシーは、癌、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝不全、腎不全、脳卒中、リウマチ性関節炎、重度の熱傷、またはHIV/AIDSにより引き起こされ得る。筋力低下は、基礎疾患により引き起こされ得る。例えば、筋力低下は、外傷、筋骨格損傷、手術または不動化により引き起こされ得る。筋力低下は、集中治療室獲得性筋力低下(ICUAW)であり得る。神経筋障害は、例えば筋萎縮性側索硬化症であり得る。
【0066】
本発明はまた、カヘキシー、サルコペニア、神経筋障害、筋力低下、高血圧、心不全、心房細動、心臓発作、狭心症、緑内障および不安より選択される疾患または状態を個体で処置または予防する方法であって、治療有効量の医薬的に許容される酸付加塩を個体に投与することを含む、方法を提供する。
【0067】
医薬的に許容される酸付加塩は、典型的には経口または非経腸投与される。
【0068】
単回投与のための医薬的に許容される酸付加塩の有効量は、典型的には、0.1~1000mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する量である。例えば、医薬的に許容される酸付加塩の単回用量は、2.5~50mgまたは80~160mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する用量であり得る。単回用量は、2.5~15mgのS-ピンドロール遊離塩基に相当する塩の量であり得る。用量を1日1回、2回または3回投与し得る。
【0069】
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] (i)S-ピンドロール;および(ii)有機酸の医薬的に許容される酸化付加塩であって、有機酸は、2.5以上のpK
a1
およびC
x
H
y
(CO
2
H)
z
で示される化学式を有し、式中、xは1~10、yは2~20、zは1または2である、医薬的に許容される酸付加塩。
[2] 有機酸が、安息香酸、コハク酸、フマル酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、酢酸、プロピオン酸、フェニル酢酸、フルイル酸またはナフトエ酸である、[1]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[3] 医薬的に許容される酸付加塩が、結晶である、[1]または[2]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[4] 医薬的に許容される酸塩が、溶媒和物の形態である、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[5] 有機酸が、安息香酸またはコハク酸である、[1]~[4]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[6] 有機酸が、安息香酸である、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[7] 塩が、S-ピンドロール安息香酸塩である、[1]~[6]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[8] S-ピンドロール安息香酸塩が、S-ピンドロールモノ安息香酸塩である、[7]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[9] S-ピンドロール安息香酸塩が、8.1°、11.4°および17.0°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折パターンを有するS-ピンドロール安息香酸塩結晶多形パターン1の形態である、[7]または[8]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[10] X線粉末回折パターンが、5.7°、12.5°および18.4°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む、[9]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[11] S-ピンドロール安息香酸塩が、16.9°、18.9°および20.1°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折パターンを有するS-ピンドロール安息香酸塩結晶多形パターン2の形態である、[7]または[8]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[12] X線粉末回折パターンが、9.2°、13.9°および20.7°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む、[11]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[13] 塩が、S-ピンドロールコハク酸塩である、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[14] S-ピンドロールコハク酸塩が、S-ピンドロールモノコハク酸塩である、[13]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[15] S-ピンドロールコハク酸塩が、13.3°、16.7°および19.5°±0.2°2θにおけるピークを含むX線粉末回折パターンを有するS-ピンドロールコハク酸塩結晶多形パターン1の形態である、[13]または[14]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[16] X線粉末回折パターンが、8.3°、12.2°および12.8°±0.2°2θにおけるピークをさらに含む、[15]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[17] 組成物の総重量に対して、少なくとも60重量%の[1]~[16]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩を含む組成物。
[18] 組成物の総重量に対して、30重量%以下のR-ピンドロールまたはその塩を含む、[17]に記載の組成物。
[19] (i)[1]~[16]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩および(ii)医薬的に許容される添加剤、担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
[20] 医薬組成物が、錠剤である、[19]に記載の医薬組成物。
[21] 組成物が、R-ピンドロールまたはその塩を実質的に含まない、[19]または[20]に記載の医薬組成物。
[22] ヒトまたは動物の身体の処置における使用のための、[1]~[16]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[23] カヘキシー、サルコペニア、神経筋障害、筋力低下、高血圧、心不全、心房細動、心臓発作、狭心症、緑内障および不安より選択される疾患または状態の処置または予防における使用のための、[1]~[16]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[24] 疾患または状態が、カヘキシーまたは筋力低下である、[23]に記載の医薬的に許容される酸付加塩。
[25] カヘキシー、サルコペニア、神経筋障害、筋力低下、高血圧、心不全、心房細動、心臓発作、狭心症、緑内障および不安より選択される疾患または状態を個体で処置または予防する方法であって、治療有効量の[1]~[16]のいずれかに記載の医薬的に許容される酸付加塩を個体に投与することを含む、方法。
以下の実施例は、本発明を説明する。
【実施例】
【0070】
実施例1:S-ピンドロールの塩
【0071】
(分析方法)
X線粉末回折(XRPD)
XRPD分析を、PIXcel検出器(128チャネル)を備えたPANalytical X'pert proで実施し、3~35°2θで試料をスキャンした。物質を穏やかに砕き、塊を崩し、試料を支持するためにマイラーポリマーフィルムを備えたマルチウェルプレートに載せた。その後、マルチウェルプレートを回折計に入れ、40kV/40mAの発生器設定を用いて透過モード(ステップサイズ0.0130°2θ、ステップ時間18.87秒)で実施するCuK放射線(α1λ=1.54060Å;α2=1.54443Å;β=1.39225Å;α1:α2比=0.5)を用いて分析した。データを視覚化し、HighScore Plus 4.7 desktop application(PANalytical, 2017)を用いて画像を生成した。
【0072】
熱重量/示差走査熱量測定(TG/DSC)
約5~10mgの物質を、予め風袋を測定した開放型アルミニウムパンに加え、TA Instruments Discovery SDT 650 Auto-Simultaneous DSCに入れ、室温で保持した。その後、試料を10℃/分の速度で30℃から400℃に加熱し、その間の試料重量の変化を熱流応答(DSC)と共に記録した。パージガスとして窒素を300cm3/分の流速で用いた。
【0073】
示差走査熱量測定(DSC)
約5mgの物質をアルミニウムDSCパン上で秤取し、アルミニウムの蓋で非気密的に密閉した。その後、サンプルパンをTA Instruments Discovery DSC 2500(RC90冷却器を備えた)に入れ、20℃で保持した。安定した熱流応答が得られたら、試料およびリファレンスを180℃まで10℃/分のスキャン速度にて加熱し、得られた熱流応答をモニターした。パージガスとして窒素を50cm3/分の流速で用いた。
【0074】
赤外分光法(IR)
赤外分光法をBruker ALPHA P分光計で実施した。十分な物質を分光計のプレートの中央に置き、以下のパラメーターを用いてスペクトルを得た。
・分解能:4cm-1
・バックグラウンドスキャン時間:16スキャン
・試料スキャン時間:16スキャン
・データ収集:4000~400cm-1
・結果スペクトル:透過率
・ソフトウェア:OPUSバージョン6
【0075】
核磁気共鳴(NMR)
NMR実験を、プロトンについて500.12MHzにて動作するDCH凍結器を備えたBruker AVIIIHD分光計で実施した。実験を、重水素化されたDMSOまたはメタノール中で実施し、各試料を約10mM濃度に調製した。
【0076】
動的蒸気収着(DVS)
約10~20mgの試料をメッシュの蒸気収着バランスパンに入れ、Surface Measurement Systemsによる固有動的蒸気収着バランスに載せた。試料を、安定した重量が達成されるまで(dm/dt0.004%、最小ステップ長30分、最大ステップ長500分)25℃にて各ステップで試料を維持しながら、40%から90%の相対湿度(RH)まで10%ずつ増加する傾斜プロファイルに供した。収着サイクルの完了後、同じ手順を用いて試料を0%RHまで乾燥させ、その後2回目の収着サイクルで40%RHまで戻した。2サイクルを実施した。収着/脱着サイクル中の重量変化をプロットし、試料の吸湿性を決定した。その後、保持された固体についてXRPD分析を行った。
【0077】
温度可変X線粉末回折(VT-XRPD)
VT-XRPD分析を、温度チャンバーを備えたPhilips X'Pert Pro Multipurpose 回折計で実施した。40kV/40mAの発生器設定を用いてブラッグブレンターノジオメトリ(ステップサイズ0.008°2θ)で実施するCuK放射線(α1λ=1.54060Å;α2=1.54443Å;β=1.39225Å;α1:α2比=0.5)を用いて、4~35.99°2θで試料をスキャンした。実験パラメーターを下記のとおり実施した:30℃にてスキャン;75℃まで10℃/分にて加熱;5分間保持;75℃にてスキャン;87℃まで2℃/分にて加熱;5分間保持;87℃にてスキャン;105℃まで2℃/分にて加熱;5分間保持;105℃にてスキャン;115℃まで2℃/分にて加熱;5分間保持;115℃にてスキャン;30℃まで10℃/分にて冷却;30℃にてスキャン。
【0078】
高速液体クロマトグラフィー-紫外検出(HPLC-UV)
・計器:Dionex Ultimate 3000
・カラム:Agilent Zorbax、SB-C18、150mm×4.6mm、3.5μm
・カラム 温度:25℃
・オートサンプラー温度:周囲温度
・UV波長:254nm
・注入量:3μl
・流速:1.0ml/分
・移動相A:1.36gのリン酸二水素カリウム+1000mLの水
pHをリン酸で4.0±0.05に調節する。0.45μm膜でろ過しおよび脱気する。
・移動相B:アセトニトリル:メタノール(95:5v/v)
・希釈剤:水:アセトニトリル(20:80v/v)
・グラジェントプログラム:
【表5】
【0079】
(S-ピンドロール遊離塩基の特性評価)
S-ピンドロール遊離塩基の試料を特性評価した。
【0080】
XRPD分析は、S-ピンドロール遊離塩基が高結晶性であることを示した。S-ピンドロール遊離塩基(遊離塩基パターン1)のXRPDは、
図1に示す。
【0081】
TG/DSC分析では、約200℃から分解するまでTGによる質量損失は見られなかった。これは、物質が無水であり溶媒和でないことを示していた。DSCでは開始が82℃でピークが84℃である吸熱事象が観察され、これは固体-固体転移によるものである。融解による、開始が93℃でピークが95℃であるより大きな吸熱事象が観察された。
【0082】
DVS分析は、物質が90%RHにて0.36重量%(0.05当量の水)の吸着量を有するわずかに吸湿性であることを決定した。DVS後のXRPD分析は、物質が変化しないままであることを示した。
【0083】
(1次塩調査)
40mgのACM-001遊離塩基の72個の試料を、2mLバイアルに秤取した。0.5mLの適切な溶媒を各バイアルに加え、続いて1.1当量の適切なカウンターイオンを加えた。
【0084】
用いたカウンターイオンは次の酸に由来するものであった:塩酸(pKa1が-6)、硫酸(pKa1が-3)、p-トルエンスルホン酸.H2O(pKa1が-1.34)、メタンスルホン酸(pKa1が-1.2)、マレイン酸(pKa1が1.92)、リン酸(pKa1が1.96)、L-酒石酸(pKa1が3.02)、フマル酸(pKa1が3.03)、クエン酸(pKa1が3.13)、S-(+)-マンデル酸(pKa1が3.37)、安息香酸(pKa1が4.19)およびコハク酸(pKa1が4.21)。
【0085】
用いた溶媒は、水、エタノール、2-プロパノール、酢酸エチル、アセトンおよびテトラヒドロフラン(THF)であった。
【0086】
試料に周囲温度と40℃の間で4時間サイクルで約72時間温度サイクルを実施した。すべての形成した固体を、XRPDによる分析前に遠心分離により単離した。
【0087】
最初の温度サイクル後に得られたいくつかの固体は有色であることが分かった。特に、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リン酸、L-酒石酸、フマル酸およびクエン酸を用いて形成した生成物は、特定の溶媒を用いたとき、有色であった。
【0088】
その後、0.5mLの逆溶媒を、XRPD分析には不十分な固体を含むバイアルに加えた(水中での実験にはアセトンを用い、他のすべてのサンプルにはヘプタンを用いた)。その後、これらの試料に更なる24時間の前記温度サイクルを実施した。この段階で生成した更なる個体を遠心分離により単離し、XRPDにより分析した。固体のない試料を冷蔵庫(2~8℃)に72時間入れた。固体を得られなかったため、試料の蓋を外し、最大1週間蒸発させた。得られた固体およびゲルをXRPDにより分析した。
【0089】
7日後に溶液中に残った試料、ならびに温度サイクル、逆溶媒添加および周囲温度での蒸発により得られたすべての試料を、40℃のオーブンに72時間入れて、乾燥させ、その後XRPDにより分析した。表1は、乾燥後に行った観察を示し、「s」は固体の形成を示し、「gm」はガムの形成を示し、「cryst」は大きな結晶の形成を示す。
【表6】
【0090】
硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、リン酸、L-酒石酸、クエン酸およびL-マンデル酸を用いて得られた生成物は、大部分が非晶質であることが分かった。これらの生成物の多くはまた、濃い色であった。
【0091】
塩酸を用いて形成された生成物のXRPDは、S-ピンドロール遊離塩基のXRPDに対応することがわかった。
【0092】
S-ピンドロールを酒石酸で処理したとき、多くの溶媒からガムが形成された。酢酸エチルを溶媒として用いたとき、固体生成物が形成された。しかしながら、XRPD分析後、酢酸エチルおよび酒石酸からの固体生成物は、S-ピンドロール遊離塩基であることが分かった。したがって、S-ピンドロールと酒石酸との結晶塩を生成することはできなかった。
【0093】
フマル酸、安息香酸およびコハク酸で形成された塩は、S-ピンドロール遊離塩基のものと異なるXRPDパターンを有する結晶であることが分かった。フマル酸塩は、水、エタノール、2-プロパノールおよびアセトンから形成されるとき有色であり、酢酸エチルおよびTHFから形成されるとき白色であった。コハク酸塩は、水から形成されるとき有色であるが、その他のとき白色であった。安息香酸塩は、いずれの溶媒から形成されるときも白色であった。
【0094】
したがって、1次塩スクリーニングにより、固体の塩結晶形態はフマル酸、安息香酸およびコハク酸から形成できることが分かった。これらの3つの酸で形成した塩は、さらに特性評価した。
【0095】
(フマル酸塩の特性評価)
エタノール、2-プロパノール、アセトンおよびTHF中でのフマル酸実験から回収した固体は、
図2に示すように、結晶であり、遊離塩基パターン1と一致しなかった。フマル酸塩のパターン1はエタノールから得られ、パターン2は2-プロパノールおよびTHFから得られ、パターン3はアセトンから得られた。
【0096】
パターン1および2は類似するが、10°2θ未満のピークはパターン1に存在しなかった。したがって、パターン2はパターン1を含む混合物であり得る。
【0097】
パターン1、2および3を下記のとおり特性評価した。
【0098】
ヘミフマル酸塩パターン1
TG分析中に、200℃~280℃の間で22.8%の重量損失(0.40当量フマル酸)が観察され、これは分解による可能性がある。分解は200℃超で生じた。DSCトレースにおいて、開始が181℃でピークが188℃である、融解に関連する吸熱事象が観察された。他の2つのヘミフマル酸塩の形態より高い157℃で小さな吸熱事象が認められた。TGおよびDSCトレースを
図3に示す。
【0099】
DMSO-d6中の1H NMRスペクトルにおいて半分の当量のフマル酸が認められた。エタノールは存在しなかった。S-ピンドロール遊離塩基と比較したピークシフトおよび水のブロードピークが観察され、これは塩形成が生じたことを示す。
【0100】
ヘミフマル酸塩パターン2
TG分析中に、180℃~280℃の間で21.9%の重量損失(潜在的に0.39当量のフマル酸)が観察され、これは分解による可能性がある。分解は200℃超で生じた。DSCトレースにおいて、152℃および184℃にピークがある2つの浅い吸熱事象が観察された。2番目の事象は、分解の開始に関連していた。TGおよびDSCトレースを
図4に示す。
【0101】
DMSO-d6中の1H NMRにおいて、試料中に約0.5当量のフマル酸が存在することが決定された。1.08重量%(0.04当量)のTHFが存在した。S-ピンドロール遊離塩基と比較したピークシフトおよび水のブロードピークが観察され、これは塩形成が生じたことを示す。
【0102】
ヘミフマル酸塩パターン3
TGトレース中に、200℃~約270℃の間で18.6%の重量損失(潜在的に0.34当量のフマル酸)が観察された。分解は200℃超で生じた。DSCトレースにおいて、ピークが150℃である、融解による1つの浅い吸熱事象が観察された。TGおよびDSCトレースを
図5に示す。
【0103】
DMSO-d6中の1H NMRにおいて、6.35ppmにて約0.5当量のフマル酸に対応するブロードピークが見られた。2.09ppmにてアセトンの可能性があるピークが観察された(7.09重量%または0.3当量)。しかしながら、その位置の遊離塩基NMRスペクトルでピークが観察されたため、多少の重複があり得る。ACM-001遊離塩基と比較したピークシフトおよび水のブロードピークが観察され、これは塩形成が生じたことを示す。
【0104】
フマル酸塩形態の安定性試験
S-ピンドロールヘミフマル酸塩パターン2の試料を60℃(密閉バイアル)または40℃/75%RH(開放バイアル)にて7日間保存した。60℃で保存した試料は、パターン1に変換した。40℃/75%RHで保存した試料は、別の形態であるパターン4に変換した。
【0105】
(S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の製造および特性評価)
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の製造
271.69mg(1.1当量)の安息香酸を、シンチレーションバイアルにおいて約500mgのS-ピンドロール遊離塩基に加えた。酸を含むサンプルバイアルを、1mLの酢酸エチルですすぎ、洗浄液をシンチレーションバイアルに加えた。さらに1mLの酢酸エチルを加え、溶解していない少量の安息香酸を含むベージュ色の溶液が認められた。
【0106】
シンチレーションバイアルに蓋をし、パラフィルムで密封し、その後、周囲温度と40℃の間で4時間サイクルで約72時間温度サイクルを実施した。
【0107】
72時間後、サブサンプルをXRPDで分析した。試料は安息香酸塩パターン1と一致したため、試料をブフナー漏斗でろ過し、予め重さを量ったサンプルバイアルに入れた。固体を40℃で約21時間乾燥した。
【0108】
安息香酸塩を、XRPD、1H NMR、TG/DSC、DSCおよびFT-IRにより特性評価した。
【0109】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の特性評価
XRPD分析は、S-ピンドロール安息香酸塩が高結晶性であることを示した。パターン(
図6に示す)は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1と表す。S-ピンドロール安息香酸塩パターン1についての2θおよびピーク強度は、下記表2に示す。
【表7】
【0110】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1の単結晶パラメーターを特定した。収集した構造の単位セルの寸法は、次のとおりであることが分かった:
・単斜晶P21
・a=8.4937(5)Åα=90°
・b=15.2956(9)Åβ=98.981(2)°
・c=15.5169(9)Åγ=90°
・体積=1991.2(2)Å3
・Z=4、Z'=2
【0111】
最終の正確なパラメーターは次のとおりであった:
・R1[I>2σ(I)]=2.99%
・GooF(適合度)=1.058
・wR2(全データ)=8.28%
・Rint=3.15%
・Flack=-0.03(4)
【0112】
1H NMRにより、1:1の比の安息香酸とS-ピンドロールが観察され、水のブロードピークが存在し、これは塩を形成できたことを示している。0.69重量%(0.03当量)の酢酸エチルの存在が観察された。
【0113】
FT-IRスペクトルは提供された構造と一致した。
図7参照。次のピークが観察され、割り当てられた:
・ブロードO-Hストレッチ約3255~2447cm
-1
・N-Hストレッチ約3255cm
-1
・芳香族C-Hストレッチ約3027cm
-1
・脂肪族C-Hストレッチ約2969cm
-1
・アルケンC=C約1643cm
-1
【0114】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1のTGおよびDSCスキャンを
図8~10に示す。TG/DSC分析では、150℃~250℃でTGによる40%の質量損失とそれに続く分解が見られた。この重量損失は分解による可能性があるが、2当量の安息香酸にも相当する。DSCでは、開始が130℃でピークが135℃である吸熱事象が観察された。
【0115】
DSC分析では、開始が130℃でピークが135℃である鋭い吸熱事象が見られた。これは融解に対応し、TG/DSCデータと一致する。冷却サイクルでは事象は観察されなかった。2回目の加熱サイクルにおいて、中心点が44℃であるガラス転移および開始が133℃でピークが136℃である吸熱事象が観察された。
【0116】
(S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の製造および特性評価)
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の製造
約5gのS-ピンドロール遊離塩基を約2.7gの安息香酸と併せた。安息香酸のサンプルバイアルを2mLの酢酸エチルですすいだ。洗浄液およびさらに16mLの酢酸エチルを、併せた試料に加えて、白色のスラリーを形成させた。
【0117】
試料に周囲温度と40℃の間で4時間サイクルで約24時間温度サイクルを実施した。
【0118】
物質をブフナー漏斗でろ過し、ろ紙上で約5分間乾燥させた。その後、物質をサンプルバイアルに戻し、真空下で40℃で約6時間乾燥した。
【0119】
安息香酸塩を、XRPD、1H NMR、TG/DSC、DSCおよびFT-IRにより特性評価した。
【0120】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の特性評価
XRPD分析は、S-ピンドロール安息香酸塩が高結晶性であることを示した。パターン(
図11に示す)は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2と表す。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2についての2θおよびピーク強度は、下記表3に示す。
【表8】
【0121】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の単結晶パラメーターを特定した。収集した構造の単位セルの寸法は、次のとおりであることが分かった:
・単斜晶P21
・a=9.9330(2)Åα=90°
・b=9.5832(2)Åβ=107.2020(10)°
・c=10.9875(3)Åγ=90°
・体積=999.11(4)Å3
・Z=2、Z'=1
【0122】
最終の正確なパラメーターは次のとおりであった:
・R1 [I>2σ(I)]=2.58%
・GooF(適合度)=1.040
・wR2(全データ)=6.73%
・Rint=2.86%
・Flack=0.01(7)
【0123】
1H NMRにより、1:1の比の安息香酸とS-ピンドロールが観察された。0.25重量%(0.01当量)の酢酸エチルがスペクトルにおいてみられた。水のブロードピークおよびピークシフトは、塩を形成できたことを示す。
【0124】
FT-IRスペクトルは提供された構造と一致した。
図12参照。次のピークが観察され、割り当てられた:
・ブロードO-Hストレッチ約3219~2377cm
-1
・N-Hストレッチ約3219cm
-1
・芳香族C-Hストレッチ約3098cm
-1
・脂肪族C-Hストレッチ約2929cm
-1
・アルケンC=C約1635cm
-1
【0125】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2のTGおよびDSCスキャンを
図13~15に示す。TG/DSC分析では、TGトレースにおいて42.8重量%の質量損失が見られた。これは分解によるものと考えられる。DSCトレースにおいて、開始が156℃でピークが158℃である、融解に関連した鋭い吸熱事象が観察された。
【0126】
DSC分析では、開始が157℃でピークが159℃である鋭い吸熱事象が見られた。これは融解に対応し、TG/DSCデータと一致する。冷却サイクルでは事象は観察されなかった。2回目の加熱サイクルにおいて、中心点が27℃であるガラス転移の可能性が観察された。
【0127】
(S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の製造および特性評価)
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の製造
264.68mg(1.1当量)のコハク酸を、シンチレーションバイアルにおいて約500mgのS-ピンドロール遊離塩基に加えた。酸を含むサンプルバイアルを、1mLのTHFですすぎ、洗浄液をシンチレーションバイアルに加えた。さらに2mLを加え、ベージュ色のスラリーが認められた。シンチレーションバイアルに蓋をし、パラフィルムで密封し、その後、周囲温度と40℃の間で4時間サイクルで約72時間温度サイクルを実施した。72時間後、試料をブフナー漏斗でろ過し、ろ紙上で約5分間乾燥させた。その後、物質を、予め重さを量ったサンプルバイアルに入れ、40℃で約21時間乾燥した。
【0128】
コハク酸塩を、XRPD、1H NMR、TG/DSC、DSCおよびFT-IRにより特性評価した。
【0129】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の特性評価
XRPD分析は、S-ピンドロールコハク酸塩が高結晶性であることを示した。パターン(
図16に示す)は、S-ピンドロールコハク酸塩パターン1と表す。S-ピンドロールコハク酸塩パターン1についての2θおよびピーク強度は、下記表4に示す。
【表9】
【0130】
1H NMRでは、1:1の比のACM-001とコハク酸および0.04当量のTHFが見られた。
【0131】
FT-IRスペクトルは提供された構造と一致した。
図17参照。次のピークが観察され、割り当てられた:
・ブロードO-Hストレッチ約3389~2676cm
-1
・N-Hストレッチ約3389cm
-1
・芳香族C-Hストレッチ約3153cm
-1
・脂肪族C-Hストレッチ約2970cm
-1
・アルケンC=C約1690cm
-1
【0132】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1のTGおよびDSCスキャンを
図18~20に示す。TG/DSC分析では、160℃~250℃でTGによる12%の質量損失とそれに続く分解が見られた。この重量損失は分解による可能性があるが、0.42当量コハク酸にも相当する。DSCでは、開始が111℃でピークが115℃である吸熱事象が観察された。
【0133】
DSC分析では、開始が110℃でピークが114℃である鋭い吸熱事象が見られた。これは融解に対応し、TG/DSCデータと一致する。冷却サイクルでは事象は観察されなかった。2回目の加熱サイクルにおいて、中心点が39℃であるガラス転移が観察された。
【0134】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1の安定性を評価した。コハク酸塩パターン1を、60℃および40℃/75%RHにて7日間保存後にその形態を維持した。すべての条件下で4週間保存した後、色の変化は観察されず、純度を維持し、コハク酸塩パターン1の固体形態の変化はなかった。
【0135】
コハク酸塩もまたDVSで分析した。DVS分析中に、コハク酸塩パターン1を、90%RHにて0.70重量%(0.14当量)の水の吸着量を有して保持した。
【0136】
(塩の特性の要約)
S-ピンドロール遊離塩基パターン1、S-ピンドロール安息香酸塩パターン1、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2およびS-ピンドロールコハク酸塩パターン1の特性の要約を、下記表5に示す。
【表10】
【0137】
(実施例1の結論)
S-ピンドロール遊離塩基は、形態が不明確な結晶であることが分かった。熱特性は、200℃後の分解;83℃にて固体-固体転移;および93℃にて融解であることが分かった。遊離塩基はわずかに吸湿性であり、90%RHまでに0.05当量の水を取り込んだ。
【0138】
S-ピンドロールについて塩スクリーニングの実施に成功した。多くのカウンターイオンで、アモルファス生成物またはガムのみが特定された。塩結晶形態は、フマル酸、安息香酸およびコハク酸を用いて特定された。
【0139】
これらの塩結晶形態はすべて、遊離塩基より高い融点を有し、TG/DSC分析から無水であると考えられた。これらの試料の1H NMR分析では、カウンターイオンの化学量論量、および遊離塩基スペクトルと比較したピークシフトが見られ、これは塩を形成できたことを示す。
【0140】
ヘミフマル酸塩は、安定性試験中に異なる多形形態間で相互変換することわかり、あまり望ましくない塩形態と見なした。また、フマル酸塩生成物は有色である傾向があった。
【0141】
安息香酸塩およびコハク酸塩を、2次塩スクリーニングのためにスケールアップすることに成功した。S-ピンドロール安息香酸塩の2つの多形形態(パターン1およびパターン2)を特定した。S-ピンドロールコハク酸塩の1つの多形形態(パターン1)を特定した。
【0142】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1は、遊離塩基より高い融点を有する結晶性白色固体であることが分かった(130℃で開始、約150℃で分解開始)。
【0143】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、遊離塩基より高い融点を有する結晶性白色固体であることが分かった(同時分解に伴う156℃での融点開始)。
【0144】
S-ピンドロールコハク酸塩パターン1は、遊離塩基より高い融点を有する結晶性オフホワイト固体であることが分かった(111℃で開始、約160℃で分解開始)。
【0145】
S-ピンドロール安息香酸塩およびS-ピンドロールコハク酸塩の化学的および物理的特性は、医薬品用途の極めて有利であり、開発に適している。S-ピンドロール安息香酸塩について決定された純粋な白色、より良好な形態、より高い融点、より低い吸湿性および安定性は、この塩が特に好ましいことを意味する。
【0146】
実施例2:S-ピンドロール安息香酸塩の多形
【0147】
(多形のスクリーニング)
200μLアリコートの適切な溶媒を、約36mgのアモルファスS-ピンドロール安息香酸塩試料に加えて、スラリーを得た。試料に蓋をし、パラフィルムで密封し、インキュベーター振とう機に入れて、周囲温度と40℃の間で4時間サイクルで約72時間温度サイクルを実施した(撹拌しながら)。
【0148】
72時間後に観察し、フィルターを含むチューブ内で試料を遠心分離して、固体と飽和溶液を単離した。次いで、得られた固体を約1時間乾燥させた。40℃で24時間、XRPDで再分析して、得られた多形体を決定する。多形スクリーニングの結果を表6に示す。その後、得られた固体を40℃にて約24時間乾燥し、XRPDにより再分析して、アモルファスが得られたことを決定した。アモルファススクリーニングの結果を表6に示す。
【表11】
【0149】
大部分の溶媒はパターン1に戻った。パターン2は、メチルエチルケトン、エタノール、THFおよび水などの溶媒から得られた。メチルエチルケトンから得られたパターン2のXRPDパターンを
図1に示す。
【0150】
(競合スラリー)
10mgの安息香酸塩パターン1および10mgの安息香酸塩パターン2を含む4つの試料を調製した。2-プロパノール400μLを、これらの試料のうち2つにピペットで入れ、水400μLを、他の2つにピペットで入れた。白色のスラリーが得られた。各溶媒系の1つのスラリーを60℃のインキュベーター振とう機に入れ、各溶媒系の2つ目のスラリーを周囲温度条件の振とう機に入れた。24時間後、固体を遠心分離により単離し、XRPDにより分析した。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2が、4つすべての競合スラリー実験から得られ(
図22に示す)、これはパターン2が熱力学的に安定な形態であることを示す。
【0151】
(S-ピンドロール安息香酸塩パターン1および2の特性の要約)
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1およびS-ピンドロール安息香酸塩パターン2の特性の要約を下記表7および表8に示し、表8は、安定性および溶解性の実験結果を含む。
【表12】
【表13】
【0152】
(実施例2の結論)
大部分の溶媒系でS-ピンドロール安息香酸塩パターン1が得られた。しかしながら、異なるパターンであるパターン2が、エタノール、メタノール/水混合物、メチルエチルケトン、THFおよび水から回収された。パターン1と2の混合物が、アニソール、酢酸ブチルおよびトルエンから観察された。
【0153】
安息香酸塩パターン1が大部分の溶媒溶解性スクリーニング試料から戻ったにもかかわらず、安息香酸塩パターン2が、結晶性物質を得たすべての多形スクリーニング実験から得られ、競合スラリー実験およびパターン1と比較してより高い融点開始に基づき熱力学的形態であると考えられた。
【0154】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、形態が不明確で、サイズが約10μmである複屈折結晶を有する結晶性白色固体であることが分かった。パターン2は、無水モノ安息香酸塩であった。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の熱特性は、パターン1で改善され、これはパターン2が熱力学的形態であるという理論を支持している。パターン1の130℃と比較して156℃で開始するより高い融点が得られた。パターン2の分解は、融解開始と同じ温度で生じた。また、2回目の加熱サイクルにおいて、中心点が27℃であるガラス転移が観察された。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は非吸湿性であり、90%RHにて0.045重量%(0.01当量)の水を取り込んだ。HPLC分析では、物質が相対面積で99.9%の純度およびキラルHPLSにより99.4%eeであることが分かった。
【0155】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン2の7および14日間の安定性試験では、パターン2が、すべての安定性条件でそのXRPDパターンおよび高い化学的純度(相対面積で99.8%を超える)を保持することが分かった。パターン2は、すべての安定性条件で7日間、および60℃高湿度で14日間その白色を保持した。
【0156】
熱力学的溶解性実験は、S-ピンドロール安息香酸塩パターン2が、それぞれpH1.2、4.5、6.8の緩衝液および非緩衝水において観察して極めて高い溶解性を示すことを決定した(離塩基濃度が3.5mg/mL、17.6mg/mL、9.9mg/mLおよび10.3mg/mL)。S-ピンドロール安息香酸塩パターン2は、1.8mg/mLである遊離塩基の非緩衝水中の溶解性を改善した。
【0157】
S-ピンドロール安息香酸塩パターン1および2は、化学的および物理的特性からいずれも開発可能な塩形態である。しかしながら、その熱力学的形態からS-ピンドロール安息香酸塩パターン2が好ましい塩形態であった。