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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-16
(45)【発行日】2025-04-24
(54)【発明の名称】チェーンスプロケット
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/30 20060101AFI20250417BHJP
   B62M 9/00 20060101ALI20250417BHJP
【FI】
F16H55/30 Z
B62M9/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023170710
(22)【出願日】2023-09-29
(65)【公開番号】P2025060158
(43)【公開日】2025-04-10
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 洋平
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0196711(US,A1)
【文献】特開2021-175902(JP,A)
【文献】特開2002-362468(JP,A)
【文献】中国実用新案第212297498(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/30
B62M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(10)を駆動する駆動源(12)の駆動力を車輪(15)に伝達するチェーンスプロケットにおいて、
前記チェーンスプロケットには、外縁(81)と、前記外縁(81)よりも短い内縁(82)と、前記外縁(81)の端と前記内縁(82)の端とを繋ぐ2本の側縁(83)と、から成る肉抜き孔(74)が設けられ、
前記外縁(81)は、前記チェーンスプロケット(133)の中心(P0)を中心とする所定の曲率半径(R1)を有する第一円弧部(81A)と、前記第一円弧部(81A)の周方向両端にそれぞれ接続され、所定の曲率半径(R2)を有する第二円弧部(81B)と、によって成り、
前記第二円弧部(81B)は、前記内縁(82)上に中心(P1)を有し、前記第一円弧部(81A)と滑らかに接続される
ことを特徴とするチェーンスプロケット。
【請求項2】
前記外縁(81)は、一対の前記第二円弧部(81B)の周方向端部と、前記側縁(83)に滑らかに接続される外側円弧部(83B)をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンスプロケット。
【請求項3】
前記外縁(81)が、二つの曲率半径(R1、R2)の円弧(81A、81B)で形成されるとき、前記二つの曲率半径(R1、R2)のうち、小さい方の曲率半径(R2)は大きい方の曲率半径(R1)の1/2よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンスプロケット。
【請求項4】
前記外縁(81)が、二つの曲率半径(R1、R2)の円弧(81A、81B)で形成されるとき、前記二つの曲率半径(R1、R2)のうち、小さい方の曲率半径(R2)は大きい方の曲率半径(R1)の1/2よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンスプロケット。
【請求項5】
前記外縁(81)が、二つの曲率半径(R1、R2)の円弧(81A、81B)で形成されるとき、前記二つの曲率半径(R1、R2)のうち、小さい方の曲率半径(R2)は大きい方の曲率半径(R1)の1/2である
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンスプロケット。
【請求項6】
前記チェーンスプロケットには、前記肉抜き孔(74)とは異なる第二の孔(75)が設けられ、
前記第二の孔(75)は、前記外縁(81)よりも径方向内側に設けられ、
前記第二の孔(75)の中心が径方向で占める位置は、前記肉抜き孔(74)が径方向で占める位置と重なる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のチェーンスプロケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンスプロケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンスプロケットに関して、軽量化を図る技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、肉抜き孔が周方向に複数形成されたカムシャフトスプロケットにおいて、各歯の裏側を略歯形に沿って肉抜きして軽量化を図っている。特許文献1のカムシャフトスプロケットでは、肉抜き孔の外縁は、単一の曲率半径の円弧により形成されていると認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平1-58856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では応力集中に関して改善の余地がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、肉抜き孔の外縁の応力集中を低減しながら軽量化にも貢献できるチェーンスプロケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
チェーンスプロケットは、車両を駆動する駆動源の駆動力を車輪に伝達するチェーンスプロケットにおいて、前記チェーンスプロケットには、外縁と、前記外縁よりも短い内縁と、前記外縁の端と前記内縁の端とを繋ぐ2本の側縁と、から成る肉抜き孔が設けられ、前記外縁は、前記チェーンスプロケットの中心を中心とする所定の曲率半径を有する第一円弧部と、前記第一円弧部の周方向両端にそれぞれ接続され、所定の曲率半径を有する第二円弧部と、によって成り、前記第二円弧部は、前記内縁上に中心を有し、前記第一円弧部と滑らかに接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
肉抜き孔の外縁の応力集中を低減しながら軽量化にも貢献できるチェーンスプロケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両の側面図である。
図2】スイングアームを左後方側から見た斜視図である。
図3】第1の実施の形態に係るドリブンスプロケットを示す図である。
図4】従来形状のドリブンスプロケットを示す図である。
図5】第1の実施の形態に係るドリブンスプロケットの応力の分布に関する解析結果を示す図である。
図6】第1の比較例に係るドリブンスプロケットの応力の分布に関する解析結果を示す図である。
図7】第2の比較例に係るドリブンスプロケットの応力の分布に関する解析結果を示す図である。
図8】第2の実施の形態に係るドリブンスプロケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0009】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両10の側面図である。
鞍乗り型車両10は、車体フレーム11と、車体フレーム11に支持されるパワーユニット12と、前輪13を操舵自在に支持するフロントフォーク14と、後輪15を支持するスイングアーム16と、乗員用のシート17とを備える車両である。
鞍乗り型車両10は、乗員がシート17に跨るようにして着座する車両である。シート17は、車体フレーム11の後部の上方に設けられる。
【0010】
車体フレーム11は、車体フレーム11の前端部に設けられるヘッドパイプ18と、ヘッドパイプ18の後方に位置するフロントフレーム19と、フロントフレーム19の後方に位置するリアフレーム20とを備える。フロントフレーム19の前端部は、ヘッドパイプ18に接続される。
シート17は、リアフレーム20に支持される。
【0011】
フロントフォーク14は、ヘッドパイプ18によって左右に操舵自在に支持される。前輪13は、フロントフォーク14の下端部に設けられる車軸13aに支持される。乗員が把持する操舵用のハンドル21は、フロントフォーク14の上端部に取り付けられる。
【0012】
スイングアーム16は、車体フレーム11に支持されるピボット軸22に支持される。ピボット軸22は、車幅方向に水平に延びる軸である。スイングアーム16の前端部には、ピボット軸22が挿通される。スイングアーム16は、ピボット軸22を中心に上下に揺動する。
後輪15は、スイングアーム16の後端部に設けられる車軸15aに支持される。
【0013】
パワーユニット12は、前輪13と後輪15との間に配置され、車体フレーム11に支持される。
パワーユニット12は、内燃機関である。パワーユニット12は、クランクケース23と、往復運動するピストンを収容するシリンダー部24とを備える。シリンダー部24の排気ポートには、排気装置25が接続される。
パワーユニット12の出力は、パワーユニット12と後輪15とを接続する駆動力伝達部材によって後輪15に伝達される。
【0014】
また、鞍乗り型車両10は、前輪13を上方から覆うフロントフェンダー26と、後輪15を上方から覆うリアフェンダー27と、乗員が足を載せるステップ28と、パワーユニット12が使用する燃料を蓄える燃料タンク29とを備える。
フロントフェンダー26は、フロントフォーク14に取り付けられる。リアフェンダー27及びステップ28は、シート17よりも下方に設けられる。燃料タンク29は、車体フレーム11に支持される。
【0015】
パワーユニット12の出力軸には、ドライブスプロケット31が固定される。ドライブスプロケット31には、無端状のドライブチェーン32が掛け回される。ドライブチェーン32は、後輪15に向けて延び、後輪15に設けられたドリブンスプロケット33に掛け回される。パワーユニット12によりドライブスプロケット31が回転すると、ドライブチェーン32を介してドリブンスプロケット33が回転し、後輪15に駆動力としての回転力が伝達される。
後輪15は、車軸15aに回転可能に支持されるホイール35と、ホイール35に支持されたタイヤ36と、を備える。ホイール35には、ドリブンスプロケット33が支持される。
【0016】
鞍乗り型車両10は、リアクッション38を備える。リアクッション38は、上下方向に延在する。リアクッション38の上端部は、車体フレーム11に接続される。リアクッション38の下端部は、リンク機構39を介して、スイングアーム16に接続される。リンク機構39は、フロントフレーム19の後端部下部に揺動可能に支持される。
【0017】
図2は、スイングアーム16を左後方側から見た斜視図である。
スイングアーム16は、車幅方向に延びる円筒状のピボット部41を備える。ピボット部41には、ピボット軸22(図1参照)が挿通される。ピボット部41の左部(車幅方向一側部)には、後方に延びる左側のアーム部42が形成されている。ピボット部41の右部(車幅方向他側部)には、左側のアーム部42に対向して後方に延びる右側のアーム部43が形成されている。左側のアーム部42と右側のアーム部43との間には、アーム部42、43間を車幅方向に接続するクロスメンバ部44が形成されている。
【0018】
ピボット部41と、左右のアーム部42、43と、クロスメンバ部44との囲み形状により、上下方向に貫通する開口状のクッション挿通部16Aが形成される。クッション挿通部16Aには、リアクッション38が上下方向に挿通した状態で配置される。クロスメンバ部44の下部には、クッション受け部44Aが形成されている。クッション受け部44Aには、リアクッション38の下端がリンク機構39を介して連結される。
ピボット部41、アーム部42、43、および、クロスメンバ部44は、一体である。
【0019】
アーム部42、43は中空状に形成される。アーム部42、43の後端部には、エンドピース60L、60Rが後方から装着された状態で固定される。エンドピース60L、60Rには、前後方向に延びる図2では図示しない長孔が形成されている。この長孔には後輪15の車軸15aが挿通される。エンドピース60L、60Rは、車幅方向外面が車幅方向内側に凹んだ形状の配置部45を有する。配置部45には、ドライブチェーン32の張りを調整するアジャスター機構50が配置される。アジャスター機構50は、車軸15aが挿通されるアジャスタープレート51と、アジャスタープレート51の位置決めをする調整用ボルト52と、調整用ボルト52に締結されたロックナット53と、を有する。
【0020】
配置部45の前部には、前後方向に延びるボルト孔部98が形成されている。ボルト孔部98には、調整用ボルト52が、ロックナット53が締結された状態で締結される。調整用ボルト52のボルト孔部98に対する締結量により、調整用ボルト52の前後方向の位置が調節される。よって、調整用ボルト52に当接するアジャスタープレート51の前後方向の位置が調整され、車軸15aに支持されるドリブンスプロケット33の位置が調整される。これにより、ドライブスプロケット31とドリブンスプロケット33の間隔が調整され、ドライブチェーン32の張りが調整される。
【0021】
車軸15aには、後輪15(図1参照)が回転可能に支持される。車軸15aの軸方向において、後輪15のホイール35の左側(車幅方向一側)には、ハブダンパー34が支持される。ハブダンパー34は、外観略円筒状である。ハブダンパー34は、車軸15aに挿通されて車軸15aに対して相対回転可能に構成される。ハブダンパー34は、複数のダンパー34Aと、複数のダンパー34Aを収容するケーシング34Bとを有する。ハブダンパー34は、ホイール35にダンパー34Aを介して接続される。ハブダンパー34は、ダンパー34Aによりホイール35と一体的に回転可能である。
【0022】
ハブダンパー34のケーシング34Bには、ドリブンスプロケット33が固定される。よって、パワーユニット12によりドライブスプロケット31が回転すると、ドライブチェーン32を介してドリブンスプロケット33に回転力が伝達され、ハブダンパー34を介して後輪15のホイール35に回転力が伝達される。このとき、ドリブンスプロケット33がダンパー34Aを介してホイール35に接続されるため、加減速に伴うトルクショックが低減され易くなっている。
【0023】
後輪15を挟んで、ドリブンスプロケット33の反対側には、後輪ブレーキ装置55が設けられる。本実施の形態の後輪ブレーキ装置55は、ディスクブレーキである。後輪ブレーキ装置55は、円板状のブレーキディスク56と、ブレーキディスク56を挟持して制動するブレーキキャリパ57と、ブレーキキャリパ57を支持するキャリパステー58と、を有する。
【0024】
ブレーキディスク56は、ホイール35の右側面(車幅方向他側面)に複数のボルト56Aにより固定される。よって、ブレーキディスク56は、後輪15と一体に回転する。一方、ブレーキキャリパ57は、キャリパステー58を介してスイングアーム16に固定される。
【0025】
キャリパステー58は、車軸15aが挿通される円筒状のスペーサ部58Aを有する。スペーサ部58Aにより車軸15aに対する軸方向の位置決めがされる。スペーサ部58Aには、径方向において前側に延びる支持部58Bが形成される。支持部58Bには、ブレーキキャリパ57が支持される。支持部58Bは、右側のアーム部43の内面から突出するブレーキ回り止め部43Aに接続される。ブレーキ回り止め部43Aにより、ブレーキキャリパ57がブレーキディスク56を挟持した際に、ブレーキディスク56の回転に追従することが規制される。
【0026】
車軸15aは、ボルト状である。車軸15aの一端部にはナット部59が締結される。ナット部59が締結され、アーム部42、43を締め付けられることにより、車軸15a上のハブダンパー34、後輪15のホイール35、後輪ブレーキ装置55のキャリパステー58などが軸方向において位置決めされる。
【0027】
図3は、第1の実施の形態に係るドリブンスプロケット33を示す図である。
ドリブンスプロケット(チェーンスプロケット)33は、位置P0を中心とする円板状の円板部71と、円板部71の外周部に設けられた歯部72と、を有する。歯部72は、円環状に形成される。歯部72は、円板部71に比べて厚み(軸方向の大きさ)が大きく形成される。すなわち、歯部72は、円板部71に対して軸方向両側に食み出すように形成される。歯部72には、周方向に複数のスプロケット歯72Aが形成される。スプロケット歯72Aには、ドライブチェーン32が噛み合う。
【0028】
円板部71には、円板部71を厚み方向に貫通する中心孔73が形成される。中心孔73は、円板部71の中心の位置P0と同心状の円形孔である。中心孔73の径方向外側には、肉抜き孔74が形成される。肉抜き孔74は、外縁81と、外縁81に対向して形成された内縁82と、外縁81と内縁82とを両側でそれぞれの端を接続する一対の側縁83と、を有する。外縁81は内縁82よりも長い。側縁83は直線部分を有する。外縁81と、内縁82と、一対の側縁83との囲み形状により肉抜き孔74が形成される。本実施の形態の肉抜き孔74は、扇状形状である。ここで、肉抜き孔74が扇状形状とは、肉抜き孔74が外縁81、内縁82、側縁83で構成される場合に、側縁83が直線部分を有し、一対の側縁83が径方向外側に進むに連れて同一の径方向の位置が互いに離間する形状を言うものとする。
【0029】
肉抜き孔74は、周方向に等間隔に形成される。本実施の形態では、5つの肉抜き孔74が形成される。隣合う肉抜き孔74と肉抜き孔74との間には、円板部71を厚み方向に貫通するボルト孔(第二の孔)75が設けられる。ボルト孔75は、円形状の孔である。ボルト孔75は外縁81よりも径方向内側に形成される。ボルト孔75は、隣合う肉抜き孔74と肉抜き孔74とのすべての間にそれぞれ設けられる。ボルト孔75は、円板部71の中心の位置P0側に設けられる。ボルト孔75は、径方向の位置が肉抜き孔74と重複する。より詳細には、ボルト孔75の中心が径方向で占める位置は、肉抜き孔74が径方向で占める位置と重なる。換言すれば、ボルト孔75の中心を通る仮想円C1を想定する場合に、仮想円C1が肉抜き孔74を通過する。よって、仮想円C1の内側に、肉抜き孔74の内縁82が位置する。肉抜き孔74は、内縁82が仮想円C1の内側に位置する程度に大きな孔である。
【0030】
円板部71は、中心孔73や、肉抜き孔74、ボルト孔75で切除された形状により、その外観形状を構成する。換言すれば、円板部71は、中心孔73が形成された円環状の基部76と、基部76から径方向外側に延出する複数の延出部77と、延出部77の径方向外端に支持される円環状の外周部78と、を有する。延出部77は、径方向外側に進むに連れて周方向の幅が狭まる。外周部78の外周面には、歯部72が形成される。延出部77の基部76側に、ボルト孔75が形成される。
【0031】
本実施の形態では、肉抜き孔74は、径方向に延びる所定の線L1に対して線対称に形成される。
ここで、肉抜き孔74の外縁81は、第1円弧部(円弧)81Aと、第1円弧部81Aの両端からそれぞれ延びる第2円弧部(円弧)81Bと、を有する。第1円弧部81Aは、中心の位置P0を中心とする所定の曲率半径R1の円弧である。第2円弧部81Bは、内縁82上の位置P1を中心とする所定の曲率半径R2の円弧である。第2円弧部81Bの曲率半径R2は、第1円弧部81Aの曲率半径R1よりも小さい。本実施の形態では、曲率半径R2は、曲率半径R1の1/2よりも小さい。すなわち、曲率半径R2は、曲率半径R1の半分よりも小さい。
【0032】
内縁82は、中心の位置P0を中心とする所定の曲率半径R3の円弧である。
【0033】
側縁83は、直線状に延びる直線部83Aと、直線部83Aの径方向外端から延びて外縁81に接続される外側円弧部83Bと、直線部83Aの径方向内端から延びて内縁82に接続される内側円弧部83Cと、により構成される。外側円弧部83Bは、直線部83Aから滑らかに延びて外縁81の第2円弧部81Bに滑らかに接続される。外側円弧部83Bは、所定の曲率半径R4を有する円弧により形成される。内側円弧部83Cは、直線部83Aから滑らかに延びて内縁82に滑らかに接続される。内側円弧部83Cは、所定の曲率半径R5を有する円弧により形成される。よって、側縁83には、3つ以上の円弧部は含まれないものとする。
【0034】
外縁81、内縁82、側縁83の接続部(切り替え部)は、曲率半径R2、R3、R4、R5が切り替わる位置である。
【0035】
図4は、従来形状のドリブンスプロケット133を示す図である。
従来形状のドリブンスプロケット133では、ドリブンスプロケット33に対応する部分は、ドリブンスプロケット33の符号の数字部分に100を加えて示す。例えば、ドリブンスプロケット133には、肉抜き孔74に対応して、肉抜き孔174が形成される。
【0036】
従来形状のドリブンスプロケット133では、肉抜き孔174の外縁181が単一の円弧で形成されていた。すなわち、外縁181は、基部171の位置P100を中心とする所定の曲率半径R101の円弧である。また、ボルト孔175の中心を通る仮想円C101を想定する場合に、仮想円C101が肉抜き孔174を通過しない。すなわち、肉抜き孔174が、仮想円C101が通過しない程度に小さい。
【0037】
図5は、第1の実施の形態に係るドリブンスプロケット33の応力の分布に関する解析結果を示す図である。図6は、第1の比較例に係るドリブンスプロケット233の応力の分布に関する解析結果を示す図である。図7は、第2の比較例に係るドリブンスプロケット333の応力の分布に関する解析結果を示す図である。
図5図7では、歯部72、272、372にドライブチェーン32を介して最大張力を作用させた場合にドリブンスプロケット33、233、333の各部に生じる応力を求めた。図5図7において、点が密集して濃いほど応力が大きいことを示す。
【0038】
図5において、第1の実施の形態に係るドリブンスプロケット33では、回転方向Aの下流側の側縁83付近に応力集中が発生していることが確認される。また、回転方向Aの上流側の肉抜き孔74の外縁81と側縁83との接続部付近に応力集中が確認される。一方で内縁82では、大きな応力集中は確認されない。
【0039】
図6において、第1の比較例に係るドリブンスプロケット233では、肉抜き孔274の外縁81が単一の円弧で構成される。第1の比較例のドリブンスプロケット233では、応力の分布は図5とほぼ同様の状態が観測される。しかしながら、外周部278や基部276が、第1の実施の形態のドリブンスプロケット33に比べて径方向に大きくなっている。すなわち、第1の比較例の構成では、軽量化し難いことが理解される。なお、図6においては、ドリブンスプロケット233について、ドリブンスプロケット33に対応する部分は、ドリブンスプロケット33の部分の符号の数字部分に200を加えて示している。
【0040】
図7において、第2の比較例に係るドリブンスプロケット333では、肉抜き孔374の外縁381が単一の円弧で構成されると共に、外周部378や基部376が、第1の比較例に比べて径方向に小さくなっている。すなわち、肉抜き孔374が第1の比較例の肉抜き孔274よりも大きくなっている。第2の比較例のドリブンスプロケット333では、回転方向Aの下流側の側縁83付近に第1の比較例に比べて大きな応力集中が発生していることが確認されると共に、回転方向Aの上流側の肉抜き孔74の外縁81と側縁83との接続部付近に第1の比較例に比べて大きな応力集中が確認される。すなわち、肉抜き孔374が大きいと、単一の円弧の外縁381では、応力集中が発生し易いことが理解される。なお、図7においては、ドリブンスプロケット333について、ドリブンスプロケット33に対応する部分は、ドリブンスプロケット33の部分の符号の数字部分に300を加えて示している。
【0041】
図6図7で示すように、単一の円弧で外縁281、381が構成される場合には、応力の集中を抑制しようとすると、肉抜き孔274、374を大きくすることができず、重量化し易くなることが理解される。これに対して、図5で示すように、本実施の形態に係るドリブンスプロケット133では、外縁81と側縁83との接続部までに、外縁81に形状変化点を複数設け易くでき、これにより、応力集中が軽減されると理解される。よって、応力集中を緩和しながら、肉抜き孔74の外縁81をドリブンスプロケット33の歯部72に寄せ易い。したがって、肉抜き孔74を大きくし易く、軽量化にも貢献できる。
【0042】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、鞍乗り型車両(車両)10を駆動するパワーユニット(駆動源)12の駆動力を後輪15に伝達するドリブンスプロケット33において、チェーンスプロケット33には、外縁81と、外縁81よりも短い内縁82と、外縁81の端と内縁82の端とを繋ぐ2本の側縁83と、から成る肉抜き孔74が設けられ、外縁81は、複数の曲率半径R1、R2の円弧部81A、81Bにより形成される。
この構成によれば、外縁81から側縁83の切り替わりまでに形状変化点が複数設けられるため、肉抜き孔74の外縁81において局所的な形状変化点の変化具合を小さくすることができて、肉抜き孔74の外縁81の応力集中を低減しながら外縁81をドリブンスプロケット33の外周側に近づけることができる為、軽量化にも貢献できる。
【0043】
本実施の形態では、外縁81が、二つの曲率半径R1、R2の円弧部81A、81Bで形成されるとき、二つの曲率半径R1、R2のうち、小さい方の曲率半径R2は大きい方の曲率半径R1の1/2よりも小さい。
この構成によれば、外縁81と側縁83との接続部が極端に変化することを抑制でき、応力集中をより軽減できる。
【0044】
また、本実施の形態では、ドリブンスプロケット33には、肉抜き孔74とは異なるボルト孔75が設けられ、ボルト孔75は、外縁81よりも径方向内側に設けられ、ボルト孔75の中心が径方向で占める位置は、肉抜き孔74が径方向で占める位置と重なる。
この構成によれば、内縁82はドライブチェーン32から離れているため、チェーンスプロケットの外縁81に力が加わった際に、応力が集中し難い。その内縁82と径方向で重なる位置に別のボルト孔75を設けることで応力集中を軽減しながら軽量化をすることができる。
【0045】
[第2の実施の形態]
本発明を適用した第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0046】
図8は、第2の実施の形態に係るドリブンスプロケット433を示す図である。
第2の実施の形態に係るドリブンスプロケット433は、肉抜き孔474の形状が、第1の実施の形態のドリブンスプロケット33の肉抜き孔74とは異なる。すなわち、肉抜き孔474の外縁481と側縁483とが、第1の実施の形態の外縁81と側縁83とは異なる。
【0047】
第2の実施の形態では、肉抜き孔474の外縁481は、周方向に延びる線部481Aと、線部481Aの両端からそれぞれ延びる円弧部481Bと、を有する。線部481Aは、本実施の形態では、直線である。円弧部481Bは、所定の曲率半径R402の円弧である。円弧部481Bは、所定の位置P401を中心とする円弧である。なお、所定の位置P402は、内縁82上にあってもよいし、なくてもよい。
【0048】
本実施の形態でも、外縁481には、外縁481と内縁482との接続部に向けて形状変化点を設け易くできる。よって、外縁481と内縁482との接続部の応力集中を緩和し易くできる。また、外縁481を歯部72に近づけ易く、軽量化が好ましい状況になっている。
【0049】
以上説明したように、本発明を適用した第2の実施の形態によれば、鞍乗り型車両10を駆動するパワーユニット12の駆動力に伴い回転するドライブチェーン32の回転を受けて後輪15に回転動力を伝達するドリブンスプロケット433において、ドリブンスプロケット433には、外縁481と、外縁481よりも短い内縁82と、外縁481の端と内縁82の端とを繋ぐ2本の側縁483と、から成る肉抜き孔474が設けられ、外縁481は、少なくとも一つの曲率半径R401の一対の円弧部481Bと一対の円弧部481Bを繋ぐ線部481Aとから形成される。
この構成によれば、外縁481から側縁483の切り替わりまでに形状変化点が複数設けられるため、肉抜き孔474の外縁481において局所的な形状変化点の変化具合を小さくすることができて、肉抜き孔474の外縁481の応力集中を低減しながら外縁481をドリブンスプロケット433の外周側に近づけることができる為、軽量化にも貢献できる。
【0050】
[他の実施の形態]
上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
【0051】
上記第1の実施の形態では、外縁81が二つの曲率半径R1、R2の第1円弧部81A、第2円弧部81Bで形成される構成を説明し、二つの曲率半径R1、R2のうち、小さい方の曲率半径R2は大きい方の曲率半径R1の1/2よりも小さい構成を説明した。しかしながら、二つの曲率半径R1、R2の大小関係は、これに限定されない。
すなわち、外縁81が、二つの曲率半径R1、R2の円弧部81A、81Bで形成されるとき、二つの曲率半径R1、R2のうち、小さい方の曲率半径R2は大きい方の曲率半径R1の1/2よりも大きくてもよい。この構成によれば、外縁81と側縁83との接続部に対して形状変化点がドリブンスプロケット33の外周側に近づくため、肉抜き孔74の形状を大きくし易くでき、軽量化できる。
【0052】
上記第1の実施の形態では、外縁81が二つの曲率半径R1、R2の第1円弧部81A、第2円弧部81Bで形成される構成を説明し、二つの曲率半径R1、R2のうち、小さい方の曲率半径R2は大きい方の曲率半径R1の1/2よりも小さい構成を説明した。しかしながら、二つの曲率半径R1、R2の大小関係は、これに限定されない。
すなわち、外縁81が、二つの曲率半径R1、R2の円弧部81A、81Bで形成されるとき、二つの曲率半径R1、R2のうち、小さい方の曲率半径R2は大きい方の曲率半径R1の1/2であってもよい。この構成によれば、外縁81と側縁83との接続部が極端に変化することを抑制できて応力集中をより軽減できるとともに、接続部に対して形状変化点がドリブンスプロケット33の外周側に近づくため、肉抜き孔74の形状を大きくし易くでき、軽量化できる。
【0053】
上記第2の実施の形態では、線部481Aが直線状の構成を説明したが、線部481Aは、直線に代えて、単一の円弧でもよい。このとき、単一の円弧は、径方向外側に凸の円弧に代えて、径方向内側に凸の円弧でもよい。さらに、線部481Aは、複数の円弧でもよい。線部481Aが複数の円弧で構成される場合には側縁483に近づくに連れて円弧の曲率半径は小さくなる。
【0054】
上記第1、第2の実施の形態では、第2の孔の一例としてボルト孔75、475を例示したが、ボルト孔75、475に代えて、第2の孔は肉抜き孔でもよい。第2の孔が肉抜き孔の場合には、例えば、四角孔や互角孔など、任意の形状の孔でもよい。ここで、第2の孔の中心は、第2の孔の形状に対応する平板を想定した場合に、その平板の重心の位置に対応するものとする。
【0055】
上記実施の形態では、鞍乗り型車両10として、内燃機関としてのパワーユニット12を有する鞍乗り型車両10を例示したが、これに限定されない。例えば、鞍乗り型車両10としては、内燃機関としてのパワーユニット12を有しない車両、すなわち、電動車両でもよい。よって、上記実施の形態では、車体を駆動するパワーユニットとしてパワーユニット12を例示したが、パワーユニットとしては、駆動用の電動モータを備えるパワーユニットでもよい。
【0056】
上記第1、第2の実施の形態では、鞍乗り型車両10を駆動するパワーユニット12の駆動力が伝達される車輪として、後輪15を例示したが、車輪としては、前輪13でもよい。すなわち、前輪13にパワーユニット12の駆動力が伝達される構成として、その構成に本願発明の構成を適用してもよい。
【0057】
上記第1、第2の実施の形態では、チェーンスプロケットとして、ドリブンスプロケット33、433を例示したが、チェーンスプロケットとしてはドライブスプロケット31でもよい。すなわち、車両を駆動する駆動源の駆動力を車輪に伝達するチェーンスプロケットであれば、駆動側のチェーンスプロケットでもよい。
【0058】
上記実施の形態では、鞍乗り型車両10として前輪13と後輪15とを有する自動二輪車を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、前輪または後輪を2つ備えた3輪の鞍乗り型車両や4輪以上を備えた鞍乗り型車両に適用可能である。
【0059】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0060】
(構成1)車両を駆動する駆動源の駆動力を車輪に伝達するチェーンスプロケットにおいて、前記チェーンスプロケットには、外縁と、前記外縁よりも短い内縁と、前記外縁の端と前記内縁の端とを繋ぐ2本の側縁と、から成る肉抜き孔が設けられ、前記外縁は、複数の曲率半径の円弧により形成され、又は、少なくとも一つの曲率半径の一対の円弧と前記一対の円弧を繋ぐ線とから形成されることを特徴とするチェーンスプロケット。
この構成によれば、外縁から側縁の切り替わりまでに形状変化点が複数設けられるため、肉抜き孔の外縁において局所的な形状変化点の変化具合を小さくすることができて、肉抜き孔の外縁の応力集中を低減しながら外縁をチェーンスプロケットの外周側に近づけることができる為、軽量化にも貢献できる。
【0061】
(構成2)前記外縁が、二つの曲率半径の円弧で形成されるとき、前記二つの曲率半径のうち、小さい方の曲率半径は大きい方の曲率半径の1/2よりも小さいことを特徴とする構成1に記載のチェーンスプロケット。
この構成によれば、外縁と側縁との接続部が極端に変化することを抑制でき、応力集中をより軽減できる。
【0062】
(構成3)前記外縁が、二つの曲率半径の円弧で形成されるとき、前記二つの曲率半径のうち、小さい方の曲率半径は大きい方の曲率半径の1/2よりも大きいことを特徴とする構成1に記載のチェーンスプロケット。
この構成によれば、外縁と側縁との接続部に対して形状変化点がチェーンスプロケットの外周側に近づくため、肉抜き孔の形状を大きくし易くでき、軽量化できる。
【0063】
(構成4)前記外縁が、二つの曲率半径の円弧で形成されるとき、前記二つの曲率半径のうち、小さい方の曲率半径は大きい方の曲率半径の1/2であることを特徴とする構成1に記載のチェーンスプロケット。
この構成によれば、外縁と側縁との接続部が極端に変化することを抑制できて応力集中をより軽減できるとともに、接続部に対して形状変化点がチェーンスプロケットの外周側に近づくため、肉抜き孔の形状を大きくし易くでき、軽量化できる。
【0064】
(構成5)前記チェーンスプロケットには、前記肉抜き孔とは異なる第二の孔が設けられ、前記第二の孔は、前記外縁よりも径方向内側に設けられ、前記第二の孔の中心が径方向で占める位置は、前記肉抜き孔が径方向で占める位置と重なることを特徴とする構成1から4に記載のチェーンスプロケット。
この構成によれば、内縁はチェーンから離れているため、チェーンスプロケットの外縁に力が加わった際に、応力集中し難い。その内縁と径方向で重なる位置に別の第二の孔を設けることで応力集中を軽減しながら軽量化をすることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 鞍乗り型車両(車両)
12 パワーユニット(駆動源)
15 後輪(車輪)
33 ドリブンスプロケット(チェーンスプロケット)
74 肉抜き孔
75 ボルト孔(第二の孔)
81 外縁
81A 第1円弧部(円弧)
81B 第2円弧部(円弧)
82 内縁
83 側縁
433 ドリブンスプロケット(チェーンスプロケット)
474 肉抜き孔
475 ボルト孔(第二の孔)
481 外縁
481A 線部(線)
481B 円弧部(円弧)
483 側縁
R1 曲率半径
R2 曲率半径
R401 曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8