(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】硬質炭素被膜成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20250418BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
C23C14/06 F
C23C14/32 D
(21)【出願番号】P 2020186197
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム)、「同軸型アークプラズマ堆積法を利用したウルトラナノ微結晶ダイヤモンド被膜工具の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】村澤 功基
(72)【発明者】
【氏名】吉武 剛
(72)【発明者】
【氏名】アリ モハメド アリ エブラヒム アブデルガワド
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173129(JP,A)
【文献】特開2019-063958(JP,A)
【文献】特開平11-242944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
C23C 14/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスアーク放電でターゲットのグラファイトをイオン化し、筒状のアノード電極の先端開口から高エネルギの正電荷のグラファイト粒子を、繰り返し負電位の基材に向って飛散させて前記基材に被着させて硬質炭素被膜を前記基材上に成膜する同軸型アークプラズマガンと、成膜中の前記基材に対して負バイアスを付与するバイアス装置とを、備える硬質炭素被膜成膜装置であって、
前記バイアス装置は、成膜中の前記基材へ前記同軸型アークプラズマガンからの瞬間的な正イオンの供給に際して、前記基材の極性の反転を抑制する極性反転抑制装置を、含み、
前記極性反転抑制装置は、
前記同軸型アークプラズマガンからの成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に応答して、成膜中の前記基材が負の帯電から正の帯電へ変化しようとすると、前記基材の電位を接地電位へ切り換えることで、成膜中の前記基材の極性の反転を抑制
し、
前記バイアス装置は、成膜中の前記基材に対して負バイアスを付与する負バイアス電源装置を、含み、
前記負バイアス電源装置は、前記同軸型アークプラズマガンからの成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に応答して、成膜中の前記基材の正帯電を抑制して負バイアスを維持するための負バイアス専用コンデンサを、備える
ことを特徴とする硬質炭素被膜成膜装置。
【請求項2】
前記バイアス装置は、前記同軸型アークプラズマガンの放電時期に同期したタイミング信号を出力する同期信号供給装置を、含み、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間で前記負バイアス電源装置から前記基材に負バイアスを付与する
ことを特徴とする請求項
1の硬質炭素被膜成膜装置。
【請求項3】
前記同期信号供給装置は、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間を手動調節する手動調節器を備える
ことを特徴とする請求項
2の硬質炭素被膜成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質炭素被膜を対象物である基材に被着させる硬質炭素被膜成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドリルやエンドミル、フライス、バイト等の切削工具、盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具などの種々の加工工具、或いは耐摩耗性が要求される摩擦部品などにおいて、超硬合金製或いは高速度工具鋼(HSS)製の基材の表面に、硬質炭素被膜をコーティングすることにより、耐摩耗性や耐久性を向上させることが提案されている。硬質炭素被膜は、ダイヤモンドを含む緻密なアモルファス構造を有する被膜であって、TiAlN、CrN等の化合物被膜に比較して高い硬度を有している。
【0003】
このような硬質炭素被膜をコーティングするために、たとえば特許文献1に記載された同軸型アークプラズマガンを用いた硬質炭素被膜成膜装置が提案されている。この同軸型アークプラズマガンは、10-5Paよりも真空度が高い超高真空の真空チャンパ内において電子の発生にガスを用いていないので、運動エネルギの高い炭素粒子を緻密に被着させることができ、密着性が高く且つ純度の高い硬質炭素被膜が成膜されるようになっている。
【0004】
具体的には、上記硬質炭素被膜成膜装置は、基材を収容する真空チャンバと、同軸型アークプラズマガンと、同軸型アークプラズマガンを駆動するアーク電源ユニットとを備えている。同軸型アークプラズマガンは、グラファイトから成る円柱状のカソード電極と、その外輪を保持する絶縁体である筒状碍子と、筒状碍子の先端部に装着されたトリガ電極と、トリガ電極が筒状碍子の外周に装着され且つカソード電極が筒状碍子内に挿通させられてそれらトリガ電極、筒状碍子、およびカソード電極が同心に組み立てられた内側電極組立体を同心に収容する、大径の筒状のアノード電極とを備えている。アーク電源ユニットは、カソード電極とアースとの間に配置されたアーク電源と、カソード電極とトリガ電極との間に配置されたトリガ電源と、カソード電極とアースとの間に配置されたコンデンサとを備えている。
【0005】
これにより、上記同軸型アークプラズマガンでは、所定の周期でトリガ電極から沿面放電により電子を発生させてトリガをかけ、コンデンサに充電された正電荷を一気にカソード電極へ放電させてカソード電極を構成するターゲット材であるグラファイトをプラズマ(正イオン)化し、すなわちパルスアーク放電でターゲットをイオン化し、次いで、筒状のアノード電極の先端開口から高エネルギの正電荷のグラファイト粒子を、接地電位の基材に向って飛散させて基材に被着させるサイクルを繰り返すことで、硬質炭素被膜が基材の表面に成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような従来の硬質炭素被膜成膜装置では、工業的な要請から成膜速度を高めようとして多量のイオン電流を供給すると、必ずしも意図どおりの硬質炭素被膜の硬さ、付着力、および成膜速度が得られない場合があった。
【0008】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、硬質炭素被膜の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる硬質炭素被膜成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は以上の事情を背景として種々研究を重ねた結果、1サイクル当たりにコンデンサから放電される電荷量が多くなって多量の正電荷のグラファイト粒子が一気に基材へ向って飛散されたとき、接地された基材ではイオン化された正電荷のグラファイト粒子を引き込むエネルギが不足し、充分な付着量および付着速度が得られないことが原因であると推定した。この原因を解消するために、接地電位よりも低い負電圧を基材に印加する負バイアス電源を設けて成膜を行なったところ、単に負電圧を基材に印加するだけでは、繰り返し発生する瞬間的な正イオンの供給に対して負バイアス電源の容量が不足して基材の極性が正電位へ反転することが避けられず、基材へ固着する被膜の硬さ、付着力、および成膜速度は逆に低下した。これに対して、さらに研究を重ねた結果、瞬間的な正イオンの供給に応答して、基材の電位上昇を抑制するように、積極的に基材の正電荷を接地へ逃がすようにすると、瞬間的な正イオンの供給に対して基材の極性の反転を効果的に抑制することができることを見出した。本発明は、斯かる知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、パルスアーク放電でターゲットのグラファイトをイオン化し、筒状のアノード電極の先端開口から高エネルギの正電荷のグラファイト粒子を、繰り返し負電位の基材に向って飛散させて前記基材に被着させて硬質炭素被膜を前記基材上に成膜する同軸型アークプラズマガンと、成膜中の前記基材に対して負バイアスを付与するバイアス装置とを、備える硬質炭素被膜成膜装置であって、前記バイアス装置は、成膜中の前記基材へ前記同軸型アークプラズマガンからの瞬間的な正イオンの供給に際して、前記基材の極性の反転を抑制する極性反転抑制装置を、含み、前記極性反転抑制装置は、前記同軸型アークプラズマガンからの成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に応答して、成膜中の前記基材が負の帯電から正の帯電へ変化しようとすると、前記基材の電位を接地電位へ切り換えることで、成膜中の前記基材の極性の反転を抑制し、前記バイアス装置は、成膜中の前記基材に対して負バイアスを付与する負バイアス電源装置を、含み、前記負バイアス電源装置は、前記同軸型アークプラズマガンからの成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に応答して、成膜中の前記基材の正帯電を抑制して負バイアスを維持するための負バイアス専用コンデンサを、備えることにある。
【0013】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記バイアス装置は、前記同軸型アークプラズマガンの放電時期に同期したタイミング信号を出力する同期信号供給装置を、含み、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間で前記負バイアス電源装置から前記基材に負バイアスを付与することにある。
【0014】
第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記同期信号供給装置は、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間を手動調節する手動調節器を備えることにある。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の硬質炭素被膜成膜装置によれば、極性反転抑制装置がバイアス装置に備えられており、成膜中の前記基材への前記同軸型アークプラズマガンからの瞬間的な正イオンの供給に際して、極性反転抑制装置によって、前記基材の極性の反転が抑制される。これにより、正イオンの供給に拘わらず成膜中の基材の極性の反転が抑制されるので、基材上に成膜される硬質炭素被膜の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。また、極性反転抑制装置は、成膜中の前記基材が負の帯電から正の帯電へ変化しようとすると、前記基材の電位を接地電位へ切り換えることで、成膜中の前記基材の極性の反転を抑制し、前記バイアス装置は、成膜中の前記基材に対して負バイアスを付与する負バイアス電源装置を、含み、前記負バイアス電源装置は、前記同軸型アークプラズマガンからの成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に応答して、成膜中の前記基材の正帯電を抑制して負バイアスを維持するための負バイアス専用コンデンサを、備える。これにより、成膜中の前記基材への瞬間的な正イオンの供給に際して、正イオンの供給に拘わらず成膜中の基材の極性の反転が抑制されるので、負バイアス電源装置の規模を大きくすることなく、成膜中の基材の極性の反転が抑制されて、基材上に成膜される硬質炭素被膜の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0019】
第2発明の硬質炭素被膜成膜装置によれば、前記バイアス装置は、前記同軸型アークプラズマガンの放電時期に同期したタイミング信号を出力する同期信号供給装置を、含み、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間で前記負バイアス電源装置から前記基材に対して負バイアスを付与する。これにより、前記同軸型アークプラズマガンの放電時期に同期した適切な時間帯に負バイアスが行なわれるので、基材上に成膜される硬質炭素被膜の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0020】
第3発明の硬質炭素被膜成膜装置によれば、前記同期信号供給装置は、前記タイミング信号が表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間を手動調節する手動調節器を備えるので、前記同軸型アークプラズマガンの放電時期に同期したタイミング信号を材質に応じて適切に調節できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施例のバイアス装置を備える硬質炭素被膜成膜装置により硬質炭素被膜が切削部の表面に被着された切削工具例であるドリルを示す正面図である。
【
図2】
図1のドリルを説明するためにその先端側から示す拡大底面図である。
【
図3】
図1のドリル用の工具母材上に成膜する場合の、本発明の一実施例の硬質炭素被膜成膜装置の構成を説明する概略図である。
【
図4】
図3の硬質炭素被膜成膜装置に用いられる同軸型アークプラズマガンの構成を説明する概略図である。
【
図5】
図3の硬質炭素被膜成膜装置において、成膜中の工具母材にバイアス電位を付与するバイアス装置の構成および作動を説明する模式図であって、バイアス装置に備えられた極性判定抑制装置が工具母材の接地接続を行っていない状態を示す図である。
【
図6】
図3の硬質炭素被膜成膜装置において、成膜中の工具母材にバイアス電位を付与するバイアス装置の構成および作動を説明する模式図であって、バイアス装置に備えられた極性反転抑制装置が工具母材の接地接続を行っている状態を示す図である。
【
図7】
図5および
図6の負バイアス電源装置の作動を説明するタイムチャートである。
【
図8】本発明者等が被膜特性評価のために用意した複数の試料について、それら試料の成膜条件と被膜特性とをそれぞれ示す図表である。
【
図9】本発明者等が組成評価のために用意した2種類の試料について、それら試料の成膜条件を示す図表である。
【
図10】
図9の2つの試料のうち従来の硬質炭素被膜成膜装置により得られた試料のラマン分光分析結果を示すグラフである。
【
図11】
図9の2つの試料のうち、極性反転抑制装置、負バイアス電源装置、および負バイアス専用コンデンサを備えた硬質炭素被膜成膜装置により得られた試料のラマン分光分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は発明に関連する要部を説明するものであり、寸法及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0024】
図1および
図2は、本発明の一実施例の硬質炭素被膜成膜装置30により硬質炭素被膜が被覆される部品の一例であるドリル10を示す図である。
図1は軸心Oと直角な方向から見た正面図、
図2は切れ刃12が設けられた先端側から見た拡大底面図である。ドリル10は、超硬合金製或いは高速度工具鋼(HSS)製の基材である工具母材22から構成されている。このドリル10は、2枚刃のツイストドリルで、シャンク14およびボデー16を軸方向に一体に備えており、ボデー16には軸心Oの右まわりにねじれた一対の溝18が形成されている。ボデー16の先端には、溝18に対応して一対の切れ刃12が設けられており、シャンク14側から見て軸心Oの右まわりに回転駆動されることにより切れ刃12によって穴を切削加工するとともに、切屑が溝18を通ってシャンク14側へ排出される。
図1において、斜線部分は、硬質炭素被膜24がコーティング(被着)された部分を示している。
【0025】
図3は、ドリル10の製造に用いられる硬質炭素被膜成膜装置30すなわち同軸型真空アーク蒸着を説明する概略構成図(模式図)である。硬質炭素被膜成膜装置30は、複数のワークすなわち硬質炭素被膜24が被覆される前の基材である工具母材22を保持している金属製のワーク保持具32、そのワーク保持具32を略垂直な回転中心まわりに回転駆動する回転駆動装置34、工具母材22などを内部に収容している処理容器としての真空チャンバ36、真空チャンバ36内の気体を真空ポンプなどで排出して10
-5Pa程度より低い超高真空に減圧する排気装置38、同軸型アークプラズマガン40、アーク電源装置42、バイアス装置44等を、備えている。
【0026】
アーク電源装置42は、同軸型アークプラズマガン40を駆動してアークプラズマを先端部から放出させる。バイアス装置44は、工具母材22にワーク保持具32および回転駆動装置34を介してバイアス電圧を付与する。ワーク保持具32は、先端が外側へ突き出す姿勢で工具母材22を保持している。シーズヒータHは、ワーク保持具32に保持された成膜中の工具母材22を加熱する。
【0027】
図4に示すように、同軸型アークプラズマガン40は、グラファイトから成る固体ターゲットである円柱状のカソード電極KEと、その外側を保持する絶縁体である筒状碍子CEと、筒状碍子CEの先端部に装着された円筒状のトリガ電極TEと、トリガ電極TEが筒状碍子CEの外周に装着され且つカソード電極KEが筒状碍子CE内に挿通されてそれらトリガ電極TE、筒状碍子CEおよびカソード電極KEが同心に組立てられた内側電極組立体が、それらよりも大径の筒状のアノード電極AE内に、同心に配置されることで、構成されている。
【0028】
アーク電源装置42は、カソード電極KEとアースEとの間に接続されたアーク電源ASと、カソード電極KEとトリガ電極TEとの間に接続されたトリガ電源TSと、カソード電極KEとアースEとの間に接続されたコンデンサCとを備えている。
【0029】
このように構成された同軸型アークプラズマガン40では、所定の周波数たとえば100Hzの周期でトリガ電極TEより沿面放電により電子を発生させてトリガがかけられ、コンデンサCに充電された電荷が一気にカソード電極KEに放電させられて、カソード電極KEを構成する固体ターゲットであるグラファイトが液化および気化を経てプラズマ化され、筒状のアノード電極AEの先端開口から高エネルギのプラズマ化されたグラファイトであるイオン粒子Pが工具母材22に向かって飛散させられるパルスアーク放電により、工具母材22に硬質炭素被膜24が被着される。
【0030】
硬質炭素被膜成膜装置30では、その成膜動作はアーク電源装置42内のコンデンサCの充放電の繰り返しに同期して周期的に行なわれるので、カソードシャッタや基板シャッタを用いることなく、コンデンサCの充放電回数を設定することにより工具母材22に被着させられる炭素被膜の膜厚を所望の値に制御できる。また、上記硬質炭素被膜成膜装置30では、電子の発生にガスを用いていないので、10-5Pa程度より圧力が低い超高真空下において純度の高い硬質炭素被膜24を成膜できるとともに、プラズマのイオン化率が80%程度と高く、粒子の運動エネルギが高いため、緻密で密着性のよい硬質炭素被膜24を形成することができる。
【0031】
図5および
図6は、
図3のバイアス装置44の構成および作動を説明する模式図であって、
図5はバイアス装置44による工具母材22の非接地状態を示し、
図6はバイアス装置44による工具母材22の接地接続状態を示している。
【0032】
バイアス装置44は、極性反転抑制装置46と、同期信号供給装置48と、負バイアス電源装置54と、を備え、工具母材22に成膜される硬質炭素被膜24の硬さおよび付着力と成膜速度を得るために、同軸型アークプラズマガン40から工具母材22への瞬間的な多量の正イオンの周期的な供給に拘わらず、成膜中の工具母材22の極性を可及的に負側に維持して、工具母材22が負電位から正電位へ極性反転することを抑制する。
図5および
図6において、極性反転抑制装置46および負バイアス電源装置54を示すブロック内に表示されている回路記号は、それらの機能を簡略して示すものであり、実際にはその機能が得られるように作動する電気回路から構成されている。
【0033】
極性反転抑制装置46は、工具母材22と接地ラインELとの間に設けられ、同軸型アークプラズマガン40により成膜中の工具母材22が負バイアス電源装置54から付与された負バイアス電位から正電位へ極性反転しようとすると、工具母材22を接地ラインELに接続して工具母材22の電位を接地電位へ切り換え、工具母材22の極性の反転を抑制する。
【0034】
より詳細には、極性反転抑制装置46は、同軸型アークプラズマガン40により成膜中の工具母材22の接地ラインELに対する電位を検出する基材電位検出回路部と、その基材電位検出回路部により検出された工具母材22の電位およびその電位の変化速度(たとえば電位の微分値)に基づいて成膜中の工具母材22が負バイアス電源装置54から付与された負バイアス電位から正電位へ極性反転しようとすると判定する極性反転判定回路部と、この極性反転判定回路部により、成膜中の工具母材22が負バイアス電源装置54から付与された負バイアス電位から正電位へ極性反転しようとすると判定されると、工具母材22を接地ラインELに接続し基材の極性の反転を抑制する接地ライン接続回路部とを、含む。
【0035】
同期信号供給装置48は、負バイアス電源装置54による負バイアスの付与開始時間および負バイアスの付与時間をそれぞれ調節する負バイアス付与開始タイミング調整器50および負バイアス付与時間調整器52を備え、たとえば同軸型アークプラズマガン40のカソード電極KEの電位に基づいて、同軸型アークプラズマガン40のパルスアーク放電の開始時点を基準とした負バイアスの付与開始時間および負バイアスの付与時間を表すタイミング信号STを負バイアス電源装置54に供給する。負バイアス付与開始タイミング調整器50および負バイアス付与時間調整器52は、タイミング信号STが表わす、同軸型アークプラズマガン40の照射開始時点を基準とした負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間を、手動操作に従って調節する手動調節器である。
【0036】
負バイアス電源装置54は、アース電位に対して負の一定電位たとえば-100V且つ100kHzの直流パルス状の負バイアスを発生させる負バイアス電源回路56と、負バイアス電源回路56により充電され、同軸型アークプラズマガン40から工具母材22への瞬間的な多量の正イオン流の供給に際して、工具母材22の極性が負に維持されるように負電荷を工具母材22対して負電荷を供給する負バイアス専用コンデンサ58とを備え、タイミング信号STが表す負バイアスの付与開始時間および負バイアスの付与時間に従って、工具母材22に負バイアスを付与して工具母材22の極性の反転を抑制する。負バイアス専用コンデンサ58は、負バイアス電源装置54の工具母材22に対する負バイアス非付与期間内において負バイアス電源回路56により充電される。
【0037】
図7は、負バイアス電源装置54による工具母材22に対する負バイアス印加作動を、周期的に変化する同軸型アークプラズマガン40からの正イオン電流(上段に示す)と共に説明するタイムチャートである。
図7において、照射周期の開始点を示すt1時点は、同軸型アークプラズマガン40による正イオンの照射区間の開始点すなわち負バイアス印加開始点である。t2時点は、負バイアス印加終了点であり、t3時点は、その正イオンの照射区間の終了点であり、t4時点は、この照射周期の終了点を示している。負バイアス付与区間(時間)(t1~t2)は、好適には、所定の周期で繰り返される正イオン照射区間(t1~t3)の前半部において正イオン照射区間(時間)の50%程度に設定される。
【0038】
以下に、本発明者等が行なった、成膜条件が異なる7種類の試料No.1-1~No.1-7を基材(試料サイズ:直径10mm×厚さ5mm)上に成膜したときの成膜条件と、各基材に成膜された被膜特性の評価結果を、
図8を用いて説明する。試料No.1-1~試料No.1-7は、硬質炭素被膜成膜装置30を用いて、ターゲット材料、導入ガス、基材の材質、基材温度、処理圧力、同軸型アークプラズマガン40の出力、アーク放電周波数が共通である成膜条件で作成されたものであるが、成膜中の基材に対するバイアス条件が相互に相違している。
【0039】
試料No.1-1は、基材のバイアス電圧が0Vに接地されている状態で成膜されている。試料No.1-2は、負バイアス電源装置54から基材に-100V且つ100kHzのバイアス電圧が連続的に印加された状態で成膜されている。試料No.1-3は、負バイアス電源装置54から基材に-100V且つ100kHzのバイアス電圧が連続印加されるとともに、極性反転抑制装置46により基材のバイアス電圧が反転しようとすると接地により反転が抑制された状態で成膜されている。
【0040】
試料No.1-4は、試料No.1-3の成膜条件においてバイアス電圧の反転を抑制するように用いられていた極性反転抑制装置46が除去され且つ負バイアス専用コンデンサ58が設けられた状態で成膜されている。試料No.1-5は、試料No.1-3の負バイアス電源装置54において、負バイアス専用コンデンサ58が設けられた状態で成膜されている。
【0041】
試料No.1-6は、試料No.1-5の負バイアス電源装置54をオンオフ制御するための同期信号供給装置48が設けられている。試料No.1-7は、試料No.1-6の負バイアス電源装置54から負バイアス専用コンデンサ58が除去された状態で成膜されている。
【0042】
各試料No.1-1~試料No.1-7の被膜特性の評価は、被膜硬さ(GPa)、剥離臨界荷重(N)、被膜厚さ(μm)について、以下の測定条件で行なわれた。
(被膜硬さ)
ISO14577-4:2016に準拠する薄膜硬度計を用いて、ISO14577-4:2016に規定されるナノインデンテーション法により以下の測定条件下で、基材上の硬質炭素被膜24の被膜硬さHIT(GPa)を測定した。
・試験荷重 : 5mN
・荷重到達時間:10秒
・荷重保持時間: 5秒
・荷重除去時間:10秒
・試験箇所 :10ポイント
【0043】
(薄膜臨界荷重)
スクラッチ試験器を用いて、以下の測定条件下で、基材上の硬質炭素被膜24の薄膜臨界荷重を測定した。
・圧子 :120° 0.2の先端形状を有するダイヤモンド圧子
・荷重スピード :200N/min
・スクラッチスピード:10mm/min
【0044】
(被膜厚さ)
走査型電子顕微鏡を用いて観察された基材上の硬質炭素被膜24の被膜断面の二次電子画像からスケールを用いて測定した。アーク放電回数等が同じ成膜条件下で得られた被膜厚さが大きいほど、高い成膜速度が得られたことを示している。
【0045】
試料No.1-2は、負バイアス電源回路56により-100V且つ100kHzの負バイアス電圧が基材に印加されているにも拘わらず、基材が接地されている試料No.1-1に対して、被膜硬さおよび成膜速度(被膜厚さ)が低下している。基材がプラスに帯電することが原因であると考えられる。試料No.1-3は、試料No.1-2に対して、極性反転抑制装置46による基材の正電荷の帯電が抑制されることにより、被膜硬さおよび成膜速度(被膜厚さ)の向上が認められた。
【0046】
試料No.1-4は、試料No.1-2に対して、負バイアス電源装置54に負バイアス専用コンデンサ58が用いられており、ある程度の負バイアスの維持が可能となったが、正電荷の帯電は完全に抑制できていないので、被膜硬さが改善されているものの、剥離臨界荷重が低下している。試料No.1-5は、試料No.1-2に対して、基材の正電荷の帯電を抑制する極性反転抑制装置46が設けられるとともに、負バイアス電源装置54に負バイアス専用コンデンサ58が加えられているため、効果的に負バイアスが基材に印加され、被膜硬さおよび成膜速度(被膜厚さ)がさらに向上している。
【0047】
試料No.1-6は、試料No.1-5に対して、同軸型アークプラズマガン40による正イオンの照射に同期したタイミング信号STを供給する同期信号供給装置48が設けられ、同軸型アークプラズマガン40から照射される正イオンのうち、イオン密度が高いタイミングのみに負バイアス電源装置54から負バイアスを基材に印加するので、膜密度が大きく異なる多層構造となり、内部応力の緩和による付着力(剥離臨界荷重)の向上が認められた。試料No.1-7は、試料No.1-3に対して、同軸型アークプラズマガン40による正イオンの照射に同期したタイミング信号STを供給する同期信号供給装置48が設けられているので、試料No.1-6と同様に、付着力(剥離臨界荷重)の向上が認められた。
【0048】
試料No.1-1~No.1-7のうち、被膜硬さが51GPa以上、剥離臨界荷重が31N以上、被膜厚さが3.3μm以上である合格基準を満足したものが、合格と判定された。不合格品である試料No.1-1は、基材のバイアス電圧が0Vに接地されている状態で成膜されたものであるから、従来品に相当する。これに対して、不合格品である試料No.1-2の成膜条件は、試料No.1-1に対して、基材に負バイアスを付与する負バイアス電源装置54が加えられており、また、不合格品である試料No.1-4の成膜条件は、試料No.1-1に対して、負バイアス電源装置54、および負バイアス専用コンデンサ58が加えられているが、被膜硬さおよび被膜厚さが試料No.1-1に及ばない。
【0049】
これに対して、合格品である試料No.1-3の成膜条件、試料No.1-5の成膜条件、および試料No.1-6の成膜条件は、いずれも極性反転抑制装置46が含まれたものである。試料No.1-3の成膜条件に同期信号供給装置48が加えられた試料No.1-7の成膜条件によれば、剥離臨界荷重が向上した。試料No.1-3の成膜条件に負バイアス専用コンデンサ58が加えられた試料No.1-5の成膜条件によれば、被膜硬さ、剥離臨界荷重、および被膜厚さが大幅に向上した。試料No.1-3の成膜条件に同期信号供給装置48および負バイアス専用コンデンサ58が加えられた試料No.1-6の成膜条件によれば、被膜硬さ、剥離臨界荷重、および被膜厚さが大幅に向上した。
【0050】
次に、本発明者等が行なった、成膜条件が異なる2種類の試料No.2-1~No.2-2を基材(試料サイズ:直径10mm×厚さ5mm)上に成膜したときの成膜条件と、各基材に成膜された被膜特性の評価結果を、
図9、
図10、
図11を用いて説明する。
【0051】
試料No.2-1およびNo.2-2は、硬質炭素被膜成膜装置30を用いて、ターゲット材料、導入ガス、基材の材質、基材温度、処理圧力、同軸型アークプラズマガン40の出力、アーク放電周波数が共通である成膜条件で作成されたものであるが、成膜中の基材に対するバイアス条件が相互に相違している。すなわち、試料No.2-1は、基材のバイアス電圧が0Vに接地されている状態で成膜されている。試料No.2-2は、負バイアス電源装置54から基材に-100V且つ100kHzの負バイアス電圧が連続印加されるとともに、極性反転抑制装置46により基材のバイアス電圧が反転しようとすると接地により反転が抑制され、負バイアス電源装置54に負バイアス専用コンデンサ58が設けられた状態で成膜されている。
【0052】
各試料No.2-1~No.2-2の被膜特性を、ラマン分光分析を以下の条件で行なわれた。
(ラマン分光分析)
・レーザ波長 : 532nm
・レーザ出力 : 0.5mW
【0053】
図10は、基材に対して負バイアスが行なわれない状態で成膜された試料No.2-1のラマン分光分析結果であるラマンスペクトルを示している。
図11は、基材に対して負バイアス電源装置54から負バイアスが行なわれ、極性反転抑制装置46により基材のバイアス電圧が反転しようとすると接地により反転が抑制され、負バイアス電源装置54に負バイアス専用コンデンサ58が設けられた状態で成膜されたNo.2-2のラマン分光分析結果であるラマンスペクトルを示している。
【0054】
図10および
図11のラマンスペクトルにおいて、ダイヤモンドに起因する1333cm
-1のピークが、試料No.2-1よりも、試料No.2-2のラマンスペクトルの方が、鋭く且つ強いものであるため、試料No.2-2の硬質炭素被膜24におけるダイヤモンドの結晶性が高いことが観察された。
【0055】
上述のように、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、パルスアーク放電でターゲット(カソード電極KE)のグラファイトをイオン化し、筒状のアノード電極AEの先端開口から高エネルギの正電荷のグラファイト粒子(イオン粒子P)を、繰り返し接地電位の工具母材(基材)22に向って飛散させて工具母材22に被着させて硬質炭素被膜24を工具母材22上に成膜する同軸型アークプラズマガン40と、成膜中の工具母材22に対して負バイアスを与えるバイアス装置44とを、備える硬質炭素被膜成膜装置30であって、バイアス装置44は、成膜中の工具母材22へ同軸型アークプラズマガン40からの瞬間的な正イオンの供給に際して、工具母材22の極性の反転を抑制する極性反転抑制装置46を、含む。
【0056】
これにより、極性反転抑制装置46がバイアス装置44に備えられており、成膜中の工具母材22への同軸型アークプラズマガン40からの瞬間的な正イオンの供給に際して、極性反転抑制装置46によって、成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制される。従って、正イオンの供給に拘わらず成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制されるので、工具母材22上に成膜される硬質炭素被膜24の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0057】
また、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、極性反転抑制装置46は、成膜中の工具母材(基材)22が負の帯電から正の帯電へ変化しようとすると、工具母材22の電位を接地電位へ切り換えるので、成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制される。これにより、正イオンの供給に拘わらず成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制されるので、工具母材22上に成膜される硬質炭素被膜24の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0058】
また、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、バイアス装置44は、成膜中の工具母材(基材)22に対して負バイアスを付与する負バイアス電源装置54を、含む。これにより、硬質炭素被膜24の成膜中において、負バイアス電源装置54により、工具母材22の極性が負電圧とされる。これにより、正イオンの供給に拘わらず成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制されるので、工具母材22に成膜される硬質炭素被膜24の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0059】
また、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、バイアス装置44は、同軸型アークプラズマガン40の放電時期に同期したタイミング信号STを出力する同期信号供給装置48を、含み、タイミング信号STが表す負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間で負バイアス電源装置54から工具母材(基材)22に負バイアスを付与する。これにより、同軸型アークプラズマガン40の放電時期に同期した適切な時間帯に負バイアスが行なわれるので、工具母材22上に成膜される硬質炭素被膜24の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0060】
また、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、同期信号供給装置48は、タイミング信号STが表わす負バイアス付与開始時期および負バイアス付与時間を手動調節する手動調節器(負バイアス付与開始タイミング調整器50、負バイアス付与時間調整器52)を備えるので、同軸型アークプラズマガン40の放電時期に同期したタイミング信号STを工具母材(基材)22の材質や同軸型アークプラズマガン40の放電周波数等に応じて適切に調節できる利点がある。
【0061】
また、本実施例の硬質炭素被膜成膜装置30によれば、負バイアス電源装置54は、同軸型アークプラズマガン40からの成膜中の工具母材(基材)22への瞬間的な正イオンの供給に応答して工具母材22へ負電荷を供給することで工具母材22の正帯電を抑制して負バイアスを維持する負バイアス専用コンデンサ58を備える。これにより、工具母材(基材)22への瞬間的な正イオンの供給に応答して、負バイアス専用コンデンサ58から負電荷が工具母材22へ供給されることから、負バイアスが維持され成膜中の工具母材22への瞬間的な正イオンの供給に際して、工具母材22の極性の反転が抑制されるので、負バイアス電源装置54の容量規模を大きくすることなく、成膜中の工具母材22の極性の反転が抑制されて、工具母材22上に成膜される硬質炭素被膜24の充分な硬さ、付着力、および成膜速度が得られる。
【0062】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても実施される。
【0063】
たとえば、前述の実施例では、ドリル10の工具母材22が硬質炭素被膜24が成膜される基材として説明されていたが、ドリルやエンドミル、フライス、バイト等の切削工具、盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具などの種々の加工工具、或いは耐摩耗性が要求される摩擦部品などの種々の工具母材が、基材として用いられてもよい。
【0064】
また、前述の実施例において、工具母材22は、超硬合金製或いは高速度工具鋼製であったが、他の金属材料製であってもよい。
【0065】
また、前述の実施例では、硬質炭素被膜24は工具母材22に直接成膜されていたが、他の膜を介して間接的に工具母材22に成膜されていてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
22:工具母材(基材)
24:硬質炭素被膜
30:硬質炭素被膜成膜装置
40:同軸型アークプラズマガン
42:アーク電源装置
44:バイアス装置
46:極性反転抑制装置
48:同期信号供給装置
50:負バイアス付与開始タイミング調整器(手動調節器)
52:負バイアス付与時間調整器(手動調節器)
54:負バイアス電源装置
58:負バイアス専用コンデンサ
AE:アノード電極
P :イオン粒子(グラファイト粒子)
KE:カソード電極(ターゲット)
ST:タイミング信号