(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-17
(45)【発行日】2025-04-25
(54)【発明の名称】水中航走体の自己位置推定誤差補正方法及び水中航走体の自己位置推定誤差補正システム
(51)【国際特許分類】
B63B 49/00 20060101AFI20250418BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20250418BHJP
B63C 11/48 20060101ALI20250418BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20250418BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
B63B49/00 B
B63C11/00 B
B63C11/48 D
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2020012296
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠野 雅彦
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-224312(JP,A)
【文献】特開2018-130998(JP,A)
【文献】特開2006-313087(JP,A)
【文献】特開2019-166959(JP,A)
【文献】特開2011-163930(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0085509(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
B63C 11/00
B63C 11/48
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体に目標物の位置を設定して航走させて前記目標物に接近させ、
前記検知手段で前記目標物の位置を確認できる検知データを取得し、
前記検知データを監視手段に無線通信を利用して伝送し、
前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置
に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合に、管理者による操作手段を用いた前記水中航走体の
自己位置を修正する操作
との連係
による誤差修正情報の生成処理、又は
、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理
、により
、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記位置の誤差を
小さくするように前記水中航走体を移動させて修正することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、
前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者によって監視し
ながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段の操作によ
り前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動
させることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段の操作により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動
させることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記管理者は、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段の操作により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動
させることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記検知データを水中有線通信により水面に臨んだブイ手段に伝え、さらに前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信として電波を利用して前記検知データを伝送することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記検知手段を複数設け
て前記目標物の位置を取得することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記水中航走体にウェイポイントを設定し、前記自己位置推定手段を使用して前記ウェイポイントに向けて前記水中航走体を航走させることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正方法であって、
前記監視手段に設けた測位手段によって前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を測位し、前記測位の結果に応じ
て前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正方法。
【請求項9】
水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体と、
前記水中航走体に目標物の位置を設定する位置設定手段と、
前記水中航走体を操作するための操作手段を有した監視手段と、
前記検知手段で
検知した前記目標物の位置を確認できる検知データを前記監視手段に伝える無線通信手段と、
前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置
に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合
に、管理者による
前記操作手段を用いた前記水中航走体の
自己位置を修正する操作
との連係
による誤差修正情報の生成処理、又は
、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理
、により
、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記水中航走体の前記位置の誤差を
小さくするように前記水中航走体を移動させて修正することを可能にする連係手段を備えることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項10】
請求項
9に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、
前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者が監視し
ながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段によ
り前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動
させることを可能にすることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項11】
請求項
10に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消す
るように前記水中航走体を移動
させることを
可能にすることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項12】
請求項
11に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記管理者が、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動
させることを可能にすることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項13】
請求項
9~12のいずれか1項に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
水面に臨ませるブイ手段と、前記水中航走体と前記ブイ手段とを結ぶ信号ケーブルとをさらに備え、前記検知データを前記信号ケーブルを介した水中有線通信により前記ブイ手段に伝え、前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信手段で電波を利用して前記検知データを伝送することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項14】
請求項
9に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記検知手段を複数設け
て前記目標物の位置を取得することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項15】
請求項
9~14のいずれか1項に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記位置設定手段で予め設定されたウェイポイントを記憶する記憶手段を前記水中航走体に設け、記憶された前記ウェイポイントに従って前記自己位置推定手段を使用して前記目標物に向け前記水中航走体を航走させることを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項16】
請求項
15に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記監視手段に前記水中航走体の位置を測位する測位手段を設け、前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を前記測位手段で測位し、前記測位の結果に応じ
て前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【請求項17】
請求項
9~15のいずれか1項に記載の水中航走体の自己位置推定誤差補正システムであって、
前記自己位置推定手段は、慣性航法装置、ドップラー速度計及び深度計の少なくとも1つを有することを特徴とする水中航走体の自己位置推定誤差補正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体の自己位置推定誤差補正方法及び水中航走体の自己位置推定誤差補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉱物資源をはじめとするあらゆる資源の供給源として海底等の水底が注目を集めている。それに伴って、水底調査の必要性も高まりつつある。水底の調査には、音波、レーザ、可視光線等の信号を媒介とするリモートセンシングの手法が一般に用いられるが、こうした信号には伝搬損失が発生するため、できるだけ水底に近い位置で用いることにより高解像度及び高精度の情報が得られる。そこで、水底付近を所望する軌道や姿勢で水中航走体(例えば潜水艇)を航走させる技術が必要とされている。
【0003】
水中探査潜水ロボットに接続されたブイを水面に浮かせ、ブイの位置に基づいて水探査潜水ロボットを航走制御する技術が開示されている(特許文献1)。水中を走行する水中ロボットに接続された水面ロボットを水面に浮かせ、水面ロボットを介して水中ロボットの位置を制御する技術が開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、水中を航走する水中ロボットと、水中ロボットと交信する水面に浮かぶ通信ブイを複数備えた水中ロボット制御システムであって、3つ以上の通信ブイとの交信によって水中ロボットの水中での位置を算出する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/181750号
【文献】特表2018-514433号公報
【文献】特開2018-203192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水中走行体が自律航走を行うためには、水中での自己位置推定が重要である。しかしながら、慣性航法装置等の水中航走体の内部装置によって自己位置推定を行う場合、航走に伴い自己位置推定値に誤差が蓄積されることが多く、自律航走における高精度の位置制御の障害となる。
【0007】
本発明は、水中航走体によって取得された情報を用いて自己位置推定の誤差補正を行うことによって高精度な位置制御の自律航走を実現する水中航走体の自己位置推定誤差補正方法及び水中航走体の自己位置推定誤差補正システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に対応した水中航走体の自己位置推定誤差補正方法は、目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体に目標物の位置を設定して航走させて前記目標物に接近させ、前記検知手段で前記目標物の位置を確認できる検知データを取得し、前記検知データを監視手段に無線通信を利用して伝送し、前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合に、管理者による操作手段を用いた前記水中航走体の自己位置を修正する操作との連係による誤差修正情報の生成処理、又は、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理、により、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記位置の誤差を小さくするように前記水中航走体を移動させて修正する。
【0009】
ここで、前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者によって監視しながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段の操作により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることが好適である。
【0010】
また、前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段の操作により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることが好適である。
【0011】
また、前記管理者は、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段の操作により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることが好適である。
【0012】
また、前記検知データを水中有線通信により水面に臨んだブイ手段に伝え、さらに前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信として電波を利用して前記検知データを伝送することが好適である。
【0014】
また、前記検知手段を複数設けて前記目標物の位置を取得することが好適である。
【0015】
また、前記水中航走体にウェイポイントを設定し、前記自己位置推定手段を使用して前記ウェイポイントに向けて前記水中航走体を航走させることが好適である。
【0016】
また、前記監視手段に設けた測位手段によって前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を測位し、前記測位の結果に応じて前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することが好適である。
【0018】
請求項9に対応する水中航走体の自己位置推定誤差補正システムは、目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体と、前記水中航走体に目標物の位置を設定する位置設定手段と、前記水中航走体を操作するための操作手段を有した監視手段と、前記検知手段で検知した前記目標物の位置を確認できる検知データを前記監視手段に伝える無線通信手段と、前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合に、管理者による前記操作手段を用いた前記水中航走体の自己位置を修正する操作との連係による誤差修正情報の生成処理、又は、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理、により、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記水中航走体の前記位置の誤差を小さくするように前記水中航走体を移動させて修正することを可能にする連係手段を備える。
【0019】
ここで、前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者が監視しながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることが好適である。
【0020】
また、前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることが好適である。
【0021】
また、前記管理者が、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることが好適である。
【0022】
また、水面に臨ませるブイ手段と、前記水中航走体と前記ブイ手段とを結ぶ信号ケーブルとをさらに備え、前記信号ケーブルを介した水中有線通信により前記検知データを前記ブイ手段に伝え、前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信手段で電波を利用して前記検知データを伝送することが好適である。
【0024】
また、前記検知手段を複数設けて前記目標物の位置を取得することが好適である。
【0025】
また、前記位置設定手段で予め設定されたウェイポイントを記憶する記憶手段を前記水中航走体に設け、記憶された前記ウェイポイントに従って前記自己位置推定手段を使用して前記目標物に向け前記水中航走体を航走させることが好適である。
【0026】
また、前記監視手段に前記水中航走体の位置を測位する測位手段を設け、前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を前記測位手段で測位し、前記測位の結果に応じて前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することが好適である。
【0028】
また、前記自己位置推定手段は、慣性航法装置、ドップラー速度計及び深度計の少なくとも1つを有することが好適である。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に対応した水中航走体の自己位置推定誤差補正方法によれば、目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体に目標物の位置を設定して航走させて前記目標物に接近させ、前記検知手段で前記目標物の位置を確認できる検知データを取得し、前記検知データを監視手段に無線通信を利用して伝送し、前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合に、管理者による操作手段を用いた前記水中航走体の自己位置を修正する操作との連係による誤差修正情報の生成処理、又は、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理、により、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記位置の誤差を小さくするように前記水中航走体を移動させて修正することによって、水中航走体の自律走行における自己位置の推定の誤差を位置的誤差を監視しつつ操作手段により解消し、監視の精度や効率を上げることができる。また、水中航走体から監視手段に検知データを無線で伝送できるため、水中航走体が自由に航走でき広域に亘って作業効率の良い監視が可能となる。
【0030】
ここで、前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者によって監視しながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段の操作により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることによって、実際に撮像された画像の撮像データに基づいて水中航走体を正しい位置に高精度に移動させることができる。
【0031】
また、前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段の操作により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることによって、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体を高精度に移動させ、正しい位置に臨ませることができる。
【0032】
また、前記管理者は、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段の操作により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることによって、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体をリアルタイムに高精度に移動させることができる。
【0033】
また、前記検知データを水中有線通信により水面に臨んだブイ手段に伝え、さらに前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信として電波を利用して前記検知データを伝送することによって、有線通信により水中での通信を高速化、高容量化すると共に、無線通信により空中での通信範囲が限定されることを防ぎ、水中航走体の自由度を増すことができる。
【0035】
また、前記検知手段を複数設けて前記目標物の位置を取得することによって、ステレオ視画像等を用いて水中航走体と目標物との実測された相対的な距離に応じて水中航走体の移動制御を行うことが、簡単な構成でできる。
【0036】
また、前記水中航走体にウェイポイントを設定し、前記自己位置推定手段を使用して前記ウェイポイントに向けて前記水中航走体を航走させることによって、ウェイポイントに沿って自律航走させ目標物に接近させると共に、それに起因する位置の誤差を修正しつつ水中航走体を航走させることができる。
【0037】
また、前記監視手段に設けた測位手段によって前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を測位し、前記測位の結果に応じて前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することによって、監視手段による位置の測位に基づいて水中航走体の位置の誤差を低減するように航走させることができる。
【0039】
請求項9に対応する水中航走体の自己位置推定誤差補正システムによれば、目標物を検知する検知手段と自己位置推定手段を搭載した前記水中航走体と、前記水中航走体に目標物の位置を設定する位置設定手段と、前記水中航走体を操作するための操作手段を有した監視手段と、前記検知手段で検知した前記目標物の位置を確認できる検知データを前記監視手段に伝える無線通信手段と、前記自己位置推定手段によって推定された前記水中航走体の自己位置に基づいて前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に向けて前記水中航走体を航走させ到達したと推定したときに、前記水中航走体に設定された前記目標物の位置に前記自己位置推定手段において生じた推定誤差が加わった前記水中航走体の自己位置と、当該自己位置において前記検知手段によって前記検知データとして取得された前記目標物の位置との間に位置の誤差がある場合に、管理者による前記操作手段を用いた前記水中航走体の自己位置を修正する操作との連係による誤差修正情報の生成処理、又は、前記監視手段に設けたプログラム可能なマイクロコンピュータによる自動的な誤差修正情報の生成処理、により、前記自己位置推定手段における自己位置の推定の誤差に起因する前記水中航走体の前記位置の誤差を小さくするように前記水中航走体を移動させて修正することを可能にする連係手段を備えることによって、連携手段により水中航走体の自律走行における自己位置の推定の誤差を監視しつつ操作手段の操作により解消し、監視の精度や効率を上げることができる。また、水中航走体から監視手段に検知データを無線で伝送できるため、水中航走体が自由に航走でき広域に亘って作業効率の良い監視が可能となる。
【0040】
ここで、前記検知手段は、画像を撮像した撮像データを前記検知データとして取得する撮像手段であり、前記監視手段に設けた画像表示手段に表示される前記撮像データに基づいた画像を前記管理者が監視しながら、前記位置の誤差がある場合に前記管理者によって前記操作手段により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることによって、実際に撮像された画像の撮像データに基づいて水中航走体を正しい位置に高精度に移動させることができる。
【0041】
また、前記目標物が前記画像表示手段の画面内に入っている場合に、前記管理者によって前記操作手段により前記画面を監視しながら前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることによって、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体を高精度に移動させることができる。
【0042】
また、前記管理者が、前記目標物と前記水中航走体との距離と方向をリアルタイムで認識し、前記操作手段により前記位置の誤差を解消するように前記水中航走体を移動させることを可能にすることによって、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体をリアルタイムに高精度に移動させることができる。
【0043】
また、水面に臨ませるブイ手段と、前記水中航走体と前記ブイ手段とを結ぶ信号ケーブルとをさらに備え、前記信号ケーブルを介した水中有線通信により前記検知データを前記ブイ手段に伝え、前記ブイ手段から前記監視手段に前記無線通信手段で電波を利用して前記検知データを伝送することによって、有線通信により水中での通信を高速化、高容量化すると共に、無線通信により空中での通信範囲が限定されることを防ぎ、水中航走体の自由度を増すことができる。
【0045】
また、前記検知手段を複数設けて前記目標物の位置を取得することによって、ステレオ視画像等を用いて水中航走体と目標物との実測された相対的な距離に応じて水中航走体の移動制御を行うことが、簡単な構成でできる。
【0046】
また、前記位置設定手段で予め設定されたウェイポイントを記憶する記憶手段を前記水中航走体に設け、記憶された前記ウェイポイントに従って前記自己位置推定手段を使用して前記目標物に向け前記水中航走体を航走させることによって、ウェイポイントに沿って自律航走させ目標物に接近させると共に、それに起因する位置の誤差を修正しつつ水中航走体を航走させることができる。
【0047】
また、前記監視手段に前記水中航走体の位置を測位する測位手段を設け、前記ウェイポイントに到達したと推定される前記水中航走体の位置を前記測位手段で測位し、前記測位の結果に応じて前記水中航走体の前記ウェイポイントにおける位置を修正することによって、監視手段による位置の測位に基づいて水中航走体の位置の誤差を低減するように航走させることができる。
【0049】
また、前記自己位置推定手段は、慣性航法装置、ドップラー速度計及び深度計の少なくとも1つを有することによって、これらの装置を用いて水中航走体の自己位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明の実施の形態における水中航走体の自己位置推定誤差補正システムの構成概念図である。
【
図2】本発明の実施の形態における水中航走体による目標物の検査の方法を説明する概念図である。
【
図3】本発明の実施の形態における水中航走体の構成ブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態における中継ブイの構成ブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態における基地船の構成ブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態における撮像画像に基づく水中航走体の移動制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
<水中航走体の自己位置推定誤差補正システム>
本発明の実施の形態における水中航走体の自己位置推定誤差補正システムは、
図1に示すように、水中航走体100、中継ブイ200及び基地船300を含んで構成される。
【0052】
水中航走体100は、
図2に示すように、水中を自律航走して、目標物である海底ケーブル等の検査対象物を検査するために使用される。水中航走体100の利用範囲は、海中に限定されず、河川、湖、池、沼等や人工のプール等で利用してもよい。中継ブイ200は、水中航走体100と基地船300との間の通信を中継するために使用される。基地船300は、水中航走体100から検査に関する情報を受信すると共に、水中航走体100に対して自律航走のための情報を提供し位置的誤差を解消するための監視手段を備えて使用される。
【0053】
なお、本実施の形態では、基地船300としたが、特に船舶に限定されるものではなく、陸上に配置された基地局であってもよいし、水中に配置した水中母艦であってもよいし、
空中を飛行する飛行体としてもよい。特に、水中に配置した水中母艦の場合、例えば、水面近傍に水中母艦を配置し空中に臨ませたアンテナにより電波を利用して中継ブイ200と通信をすることや、完全に水中に配置し光通信を利用して中継ブイ200や水中航走体100と直接通信することにより、画像や動画に関する情報(撮像データ)を取得することも可能である。
【0054】
<水中航走体の構成>
本発明の実施の形態における水中航走体100は、
図3の構成概念図に示すように、艇体10、航走手段12、検査手段14、撮像手段16、自己位置推定手段18、誤差修正手段20、記憶手段22、位置設定手段24及び通信手段26を含んで構成される。水中航走体100は、例えば、自律型無人潜水機(AUV)であるが、これに限定されるものではない。
【0055】
艇体10は、艇室等の空間を構成する密閉可能な構造体である。艇体10は、金属や強化プラスチック等により構成され、水中航走体100の構成要素を機械的に支持する役割も果たす。
【0056】
航走手段12は、艇体10を推進させるための駆動力を発生させ、艇体10を上下左右方向に旋回(回頭)させるための構成要素である。航走手段12は、例えば、駆動力発生のための機構として主推進器駆動モータ、プロペラ、回転軸等を含んで構成される。主推進器駆動モータは、艇体10に対して駆動力を与えるためのモータである。主推進器駆動モータは、電池からの電力によって駆動制御信号に応じた回転数及びトルクで航走手段12の回転軸を回転駆動させる。これにより、駆動軸に接続されたプロペラが回転されて艇体10に推進力が与えられる。
【0057】
また、航走手段12は、例えば、艇体10を上下左右方向に旋回(回頭)させるための舵を含む。垂直舵を艇体10に対して右又は左に傾けることによって、艇体10を左又は右に回頭させることができる。垂直舵は、垂直舵駆動モータによって回転させることができる。垂直舵駆動モータは、垂直舵制御信号に応じた角度になるように垂直舵を回転駆動させる。水平舵を艇体10に対して上又は下に傾けることによって、艇体10を頭下げ(ピッチダウン)又は頭上げ(ピッチアップ)させることができる。水平舵は、水平舵駆動モータによって駆動することができる。水平舵駆動モータは、水平舵制御信号に応じた角度になるように水平舵を回転駆動させる。なお、左右にそれぞれ個別の航走手段12を設けておき、垂直舵に依らず、左右の航走手段12の推力のバランスを調整することにより艇体10を左右方向に旋回(回頭)させる構成としてもよい。
【0058】
検査手段14は、水中航走体100の目標物を検査するための構成要素を含んで構成される。検査手段14は、目標物の検査するためのセンサを含んで構成される。例えば、目標物が海底ケーブルである場合、検査手段14は、ケーブルの破損を検出するための超音波センサ等を含むことができる。ただし、検査手段14は、これに限定されるものでなく、水中航走体100の目標物を検査するための構成であればよい。検査手段14で得られた検査結果に関する情報は通信手段26へ送られる。
【0059】
また、検査手段14に代えて、又は、検査手段14に加えて、目標物を監視する監視手段や目標物を修繕する修繕手段を備えるようにしてもよい。
【0060】
撮像手段16は、艇体10の外部を撮像するための構成要素を含んで構成される。撮像手段16は、例えば、静止画像を撮像するためのカメラ、動画を撮像するためのビデオ等とすることができる。撮像手段16で得られた画像や動画に関する情報(撮像データ)は通信手段26へ送られる。
【0061】
なお、
図3に示すように、撮像手段16を複数設けて、ステレオ視に基づいて艇体10と目標物との相対的な位置を取得できるようにしてもよい。当該相対的位置情報は、後述する自己位置推定における誤差修正に利用することができる。
【0062】
また、本実施の形態として撮像手段16を使用したが、基地船300において水中航走体100の艇体10と目標物を検知し、目標物との相対的な位置を確認できる情報を検知データとして検知できる検知手段であればよい。例えば、艇体10から音波を送出し、目標物や水底からの音波の反射を検出して艇体10と目標物との相対的な位置を確認できるソナーを用いてもよい。
【0063】
自己位置推定手段18は、水中における艇体10の現在位置を自己位置として推定するため構成要素を含んで構成される。自己位置推定手段18は、例えば、プログラム可能なマイクロコンピュータによって実現することができる。自己位置推定手段18は、記憶手段22及び位置設定手段24にアクセス可能である。
【0064】
記憶手段22には、自己位置推定手段18で使用されるデータ及び自己位置推定手段18で推定された艇体10の水中での推定自己位置情報が記憶される。位置設定手段24には、艇体10が水中を航走する際の初期位置及び航走の経路を示すウェイポイント(潜航点)が設定及び記憶される。ウェイポイントは、艇体10が航走する目標となる水中の経路を離散的な座標点で順に表した情報である。初期位置及びウェイポイントは、例えば、緯度・経度及び水面からの深度の組み合わせで表すことができる。また、深度の代わりに水底からの高さを用いてもよい。位置設定手段24への艇体10の初期位置及びウェイポイントの設定は基地船300によって行うことができる。例えば、艇体10の初期位置は、基地船300にある艇体10のGPS計測位置を入力することによって設定することができる。位置設定手段24への入力は、艇体10に設けた位置設定手段24の一部を構成する入力手段を用いてもよいし、基地船300側に入力手段を設けて位置設定手段24に繋いで入力してもよい。
【0065】
自己位置推定手段18は、慣性航法装置として機能する。自己位置推定手段18は、艇体10に設けられた加速度センサによって得られた艇体10の加速度の2階の時間積分やドップラー速度計によって得られた艇体10の速度の1階の時間積分を累積し、その累積値を位置設定手段24に記憶されている艇体10の初期位置に加算することによって艇体10の現在の自己位置を推定する。また、艇体10の深度については深度計を用いて推定するようにしてもよい。自己位置推定手段18において推定された現在の自己位置の推定値は推定自己位置情報として記憶手段22に記憶される。
【0066】
自己位置推定手段18で推定された推定自己位置情報に基づいて艇体10の航走制御が行われる。位置設定手段24に予め設定されたウェイポイントを順に読み出し、当該ウェイポイントと自己位置推定手段18で推定された艇体10の自己位置との差が小さくなるように航走手段12を制御する。
【0067】
航走手段12の制御は、艇体運動モデルに基づいて行ってもよい。艇体運動モデルは、AUVダイナミクスとも呼ばれ、水中における艇体10の運動性能を表す運動方程式からなる。具体的には、航走手段12における主推進器駆動モータ、垂直舵、水平舵等の応答特性や艇体10の移動特性等に基づいて主推進器駆動モータ、垂直舵、水平舵等の制御を行うようにしてもよい。
【0068】
なお、艇体10の初期位置としてGPS計測位置を用いた場合には数m程度の位置誤差が含まれる可能性がある。また、自己位置推定手段18による艇体10の自己位置の推定では数m程度の位置誤差が累積される。
【0069】
誤差修正手段20は、自己位置推定手段18で推定された艇体10の推定自己位置情報の誤差を修正する構成要素を含んで構成される。誤差修正手段20は、例えば、プログラム可能なマイクロコンピュータによって実現することができる。マイクロコンピュータは、自己位置推定手段18と共通としてもよい。誤差修正手段20は、記憶手段22にアクセス可能である。
【0070】
誤差修正手段20は、撮像手段16によって得られた撮像画像に基づいて基地船300から送信された誤差修正情報に応じて自己位置推定手段18での艇体10の自己位置の推定の誤差に起因する位置誤差(位置的誤差)を修正して解消する処理を行う。すなわち、基地船300から誤差修正情報を受信すると、誤差修正手段20は当該誤差修正情報で示される誤差分だけ艇体10の自己位置の位置誤差を修正する。これによって、航走手段12は修正された推定自己位置情報に応じて制御されることになり、艇体10の初期位置の設定に基づく位置誤差や自己位置推定手段18における自己位置の推定における位置誤差を補償することができる。
【0071】
なお、誤差修正手段20において誤差修正情報に基づいて推定自己位置情報を修正した場合、その後の自己位置推定手段18における自己位置の推定処理において当該修正における修正量を続けて適用するようにしてもよい。これによって、誤差修正情報に基づいて推定自己位置情報が一旦修正されて誤差が解消されると、その後の自己位置の推定において解消結果である当該修正がそのまま適用され、水中航走体の自己位置推定手段の精度を上げて自己位置の推定をより正しく行うことが可能になる。
【0072】
通信手段26は、水中航走体100と外部装置との情報の通信をするための構成要素を含んで構成される。本実施の形態では、通信手段26は中継ブイ200との間の通信を行う手段として利用される。水中の艇体10と中継ブイ200との間の通信方法としては、信号ケーブル28を通じた水中有線通信や音響信号を用いた水中無線通信等が挙げられる。
【0073】
本実施の形態では、水中航走体100は、中継ブイ200を介して、撮像手段16において撮像された水中の撮像画像を基地船300へ送信する。さらに、水中航走体100は、基地船300から当該撮像画像に基づいて生成された誤差修正情報を受信して、当該誤差修正情報に応じて艇体10の移動を制御する。したがって、水中航走体100と中継ブイ200との間の通信は高速であることが望ましく、音響信号を用いた水中無線通信でなく、信号ケーブル28による電気信号を用いた水中有線通信を用いることが好適である。ただし、艇体10の速度が遅い等の条件下において十分な通信時間を確保できる場合には音響信号を用いた水中無線通信を適用してもよい。
【0074】
<中継ブイの構成>
本発明の実施の形態における中継ブイ200は、
図4の構成概念図に示すように、ブイ本体30及び通信手段32を含んで構成される。
【0075】
ブイ本体30は、中継ブイ200の空間を構成する構造体である。ブイ本体30は、金属や強化プラスチック等により構成され、中継ブイ200の構成要素を機械的に支持する役割も果たす。ブイ本体30は、中継ブイ200を水面に浮かべるための浮力を生じさせる機能も有する。
【0076】
通信手段32は、中継ブイ200と外部装置との情報の通信をするための構成要素を含んで構成される。本実施の形態では、通信手段32は水中航走体100及び基地船300との間の通信を行う通信手段として利用される。
【0077】
水中を航走する艇体10と水面に浮かぶ中継ブイ200との間の通信方法としては、信号ケーブル28を通じた水中有線通信や音響信号を用いた水中無線通信等が挙げられる。上記のように、本実施の形態では、信号ケーブル28による電気信号を用いた水中有線通信を用いることが好適である。有線通信により水中での通信を高速化、高容量化することができる。
【0078】
基地船300と中継ブイ200との間の通信方法としては、電波等の通信方法を用いた無線通信が挙げられる。具体的には、例えば、WiFi通信、UHF通信、VHF通信、光通信、衛星通信等の無線通信が上げられる。水中航走体100の移動範囲ができるだけ制限されないようにするためには無線通信を適用することが好ましい。無線通信により空中での通信範囲が限定されることを防ぎ、水中航走体100の自由度を増すことができる。すなわち、水中航走体100が自由に航走でき広域に亘って作業効率の良い監視が可能となる。ただし、移動範囲が限られている等の条件が満たされる場合には信号ケーブルによる有線通信を適用してもよい。
【0079】
なお、中継ブイ200は、水中航走体100の移動に連れて移動する構成とすることが好適である。中継ブイ200と水中航走体100とが信号ケーブル28によって有線接続されている場合、水中航走体100が移動すると信号ケーブル28によって中継ブイ200が引っ張られることによって中継ブイ200を水中航走体100に連動させることができる。また、中継ブイ200と水中航走体100とが無線通信で接続されている場合、水中航走体100が移動すると水中航走体100に連れて中継ブイ200が自走できる構成を備えるようにすることが好適である。
【0080】
<基地船の構成>
本発明の実施の形態における基地船300は、水中航走体100の母船となる船舶である。基地船300は、
図5の構成概念図に示すように、艇体40、測位手段42、位置設定手段44、画像表示手段46、連係手段50、操作手段48及び通信手段52を含んで構成される。
【0081】
艇体40は、基地船300の空間を構成する構造体である。艇体40は、金属や強化プラスチック等により構成され、基地船300の構成要素を機械的に支持する役割も果たす。また、艇体40には基地船300を移動させるための航走手段を設けてもよい。なお、基地船300の代わりに陸上に配置された基地局とする場合、艇体40を設ける必要はない。また、基地船300の代わりに空中を飛行する飛行体とする場合、艇体40の代わりに飛行体の機体としてもよい。
【0082】
測位手段42は、基地船300の現在位置を取得するための装置を含んで構成される。測位手段42は、例えば、GPS(Global Positioning System)等の測位手段とすることができる。ただし、これに限定されるものではなく、陸上に配置されている基準点からの距離及び方位に応じて基地船300の位置を測位できる構成としてもよい。
【0083】
位置設定手段44は、測位手段42による測位の情報を水中航走体100に設定するための手段である。位置設定手段44は、測位手段42によって得られた基地船300の測位の情報を水中航走体100の位置設定手段24に初期位置の情報として設定する。すなわち、基地船300に水中航走体100が搭載されている状態において、測位手段42による測位位置の情報を位置設定手段24に水中航走体100の初期位置として設定する。また、位置設定手段44は、水中航走体100の位置設定手段24にウェイポイントを設定するためにも使用される。
【0084】
画像表示手段46、操作手段48及び連係手段50は、基地船300における監視手段302を構成する。監視手段302は、目標物に対する水中航走体100の位置を修正するための誤差修正情報を生成するために用いられる。
【0085】
画像表示手段46は、水中航走体100の撮像手段16において撮像された画像を表示する装置を含む。画像表示手段46は、例えば、ディスプレイを含むことができる。画像表示手段46は、
図6に例示するように、後述する通信手段52を介して水中航走体100から取得された画像情報に基づいて、水中航走体100の撮像手段16において撮像された水中の画像を表示する。基地船300の搭乗者は、画像表示手段46に表示された画像を観ることによって、水中航走体100が目標物に対してどのような位置にあるかを確認することができる。
【0086】
図6は、左側に水中航走体100と目標物400との実際の状況を示し、右側のその状況において画像表示手段46に表示される撮像画像の例を示している。
図6(a)は、水中航走体100の撮像手段16による撮像範囲(カメラ視野)102内の左側に目標物400が僅かに含まれている状況を示している。この場合、画像表示手段46に表示された撮像画像の左隅に目標物400の画像である目標物領域402が表示される。
【0087】
操作手段48は、水中航走体100の位置を修正する操作を行う手段である。操作手段48は、例えば、ジョイスティックやマウス等のポインティングデバイスを含んで構成することができる。基地船300に搭乗している管理者は、画像表示手段46に表示された画像を確認したうえで、操作手段48を操作することによって連係手段50において水中航走体100を移動させるための誤差修正情報が生成される。
【0088】
連係手段50は、画像表示手段46に表示されている画像と操作手段48によって操作される水中航走体100に対する誤差修正情報とを連係させるための手段である。連係手段50は、例えば、プログラム可能なマイクロコンピュータによって実現することができる。マイクロコンピュータは、画像表示手段46及び操作手段48を制御するための制御装置と共通としてもよい。連係手段50は、操作手段48の操作量に応じて水中航走体100の自己位置推定手段18で推定された推定自己位置情報を修正するための誤差修正情報を生成する。連係手段50は、操作手段48の操作量が大きい程、推定自己位置情報の修正量が大きくなるような誤差修正情報を生成する。
【0089】
例えば、操作手段48がジョイスティックやマウス等のポインティングデバイスである場合、その操作量と方向に基づいて当該方向に向けて当該操作量に対応する距離だけ水中航走体100を移動させるように推定自己位置情報を修正する誤差修正情報を生成する。また、例えば、操作手段48が画像表示手段46と一体化されたタッチパネルである場合、画像表示手段46に表示された目標物領域402を画面内で移動(スワイプ)させた操作量と方向に基づいて水中航走体100を当該方向と反対の方向(目標物400が撮像画像内で移動させた方向に移動する方向)に向けて当該操作量に対応する距離だけ水中航走体100を移動させるように推定自己位置情報を修正する誤差修正情報を生成する。操作量に対する水中航走体100の移動距離の修正量の関係は予め設定しておけばよい。
【0090】
これによって、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体を高精度に移動させ、正しい位置に臨ませることができる。また、画面内に表示されている目標物に対して水中航走体をリアルタイムに高精度に移動させることができる。
【0091】
なお、撮像画像内に目標物400が写し出されていない場合、画像表示手段46に表示された画像によらず、操作手段48の操作のみに基づいて誤差修正情報を生成するようにしてもよい。例えば、管理者が操作手段48を操作しないことによって、誤差修正情報を生成しない、又は、推定自己位置情報の修正量が実質的に0になるような誤差修正情報を生成するような処理としもよい。また、目標物400上のウェイポイントに艇体10が到達した状態において画像表示手段46に表示された撮像画像に目標物400が写し出されていない場合、管理者が操作手段48を操作することによって艇体10の位置を修正できるようにしてもよい。
【0092】
通信手段52は、水中航走体100から基地船300へ送信されてくる情報を受信したり、基地船300から水中航走体100へ情報を送信したりするための装置を含んで構成される。本実施の形態では、中継ブイ200を介して水中航走体100と基地船300との間の通信が行われるので、基地船300は中継ブイ200の通信を行う無線通信手段として利用される。中継ブイ200の通信が無線で行われる場合、通信手段52は、電波等の通信方法を用いた無線通信のための装置を含む。具体的には、例えば、WiFi通信、UHF通信、衛星通信等の無線通信装置を含めばよい。
【0093】
なお、本実施の形態では、管理者による操作手段48の操作に基づいて連係手段50にて誤差修正情報を生成する態様としたが、管理者の操作に依らず連係手段50(又は操作手段48)において自動的に誤差修正情報を生成するようにしてもよい。
【0094】
例えば、水中航走体100から送信されてきた撮像画像を画像処理して、目標物400の特徴(形状、色等)から画像内において目標物400が表示されている目標物領域402を特定し、当該目標物領域402が撮像画像の中心に位置するように水中航走体100を移動させるための誤差修正情報を生成するようにしてもよい。すなわち、画像内において画像の中心位置から現在の目標物領域402の位置のずれの方向及び大きさに基づいて当該方向に向けて当該ずれ量に対応する距離だけ水中航走体100を移動させるように推定自己位置情報を修正する誤差修正情報を生成してもよい。
【0095】
このとき、撮像画像内における目標物領域402の大きさに基づいて水中航走体100の艇体10と目標物400との距離を求め、当該距離に応じて誤差修正情報によって推定自己位置情報を修正する量を調整するようにしてもよい。すなわち、艇体10と目標物400との距離が大きいほど、画像内における画像の中心位置から目標物領域402の位置のずれ量に対する艇体10の移動修正量が大きくなるように設定すればよい。
【0096】
なお、水中航走体100が位置計測手段を搭載している場合、位置計測手段によって水中航走体100の艇体10と目標物400との相対的距離を測定してもよい。中継ブイ200を介して、水中航走体100から基地船300へ当該測定値を送信することで、水中航走体100の艇体10と目標物400との相対的距離に応じて誤差修正情報を生成してもよい。
【0097】
また、ウェイポイント上に到達した際に撮像手段16によって撮像された海底画像及び水中航走体100の艇体10の深度(高度)や姿勢情報から水中航走体100と目標物400との位置のずれ量を計算し、当該ずれ量に基づいて誤差修正情報を生成してもよい。
【0098】
また、水中航走体100に撮像手段16を複数設けてステレオ視画像を撮像できる場合、当該ステレオ視画像に基づいて艇体10と目標物400との相対的な位置を算出してもよい。中継ブイ200を介して、水中航走体100から基地船300へ複数の撮像手段16による撮像画像を送信することで、当該撮像画像に基づいてステレオ視画像を生成し、当該ステレオ視画像に基づいて水中航走体100の艇体10と目標物400との相対的距離を求める。そして、水中航走体100の艇体10と目標物400との相対的距離に応じて誤差修正情報を生成してもよい。ステレオ視画像等を用いて水中航走体と目標物との実測された相対的な距離に応じて水中航走体の移動制御を行うことが、簡単な構成でできる。
【0099】
これによって、
図6(b)に示すように、ウェイポイントに沿って自律航走させ目標物に接近させると共に、それに起因する位置の誤差を修正しつつ、撮像手段16によって撮像される撮像範囲102の中心に目標物400が位置するように水中航走体100の艇体10を移動させることができる。したがって、水中航走体100による目標物400の検査、監視、修繕等の精度や効率を上げて適切に行うことが可能になる。
【0100】
また、例えば、水中航走体100において撮像を連続して撮像できる場合、水中航走体100が航走中であっても、自己位置推定手段18における推定自己位置と撮像画像の連結画像(モザイク画像)による自己位置推定値の差から水中航走体100の位置のずれを計算するようにしてもよい。この場合、当該ずれに応じて推定自己位置情報を修正するための誤差修正情報を生成すればよい。すなわち、ずれの方向及び大きさに基づいて当該方向に向けて当該ずれ量に対応する距離だけ水中航走体100を移動させるように推定自己位置情報を修正する誤差修正情報を生成してもよい。
【0101】
これによって、水中航走体100の位置のずれに応じて水中航走体100の艇体10の移動を修正することができる。
【0102】
なお、連係手段50(又は操作手段48)において自動的に誤差修正情報を生成する場合、画像表示手段46に撮像画像を表示させることによって管理者に状況を把握させる必要がないので、画像表示手段46に実態としての画像を表示しないようにしてもよい。
【0103】
以上のように、本実施の形態によれば、水中航走体100の自律走行における自己位置の推定の誤差を低減することができる。これによって、水中航走体による水中の目標物の検査、監視、修繕等において、自己位置の推定誤差を修正することで作業効率を高めることができる。
【0104】
ここで、水中航走体100と中継ブイ200との間を有線通信とすることで、水中を音響信号で伝達する方法に比べて高速で通信を行うことができる。これによって、撮像画像を基地船300に伝達し、当該撮像画像に基づいて基地船300から水中航走体100の位置の修正を高い反応速度でほぼリアルタイムに行うことができる。なお、基地船300と中継ブイ200との間を無線通信とすることで、有線通信を適用した場合に比べて水中航走体100の移動可能範囲を拡げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、自律型水中航走体における高精度の航走制御や目標物の監視等に適用することができる。例えば、水中航走体による水中の目標物の検査、監視、修繕等において、自己位置の推定誤差を修正することで作業効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0106】
10 艇体、12 航走手段、14 検査手段、16 撮像手段(検知手段)、18 自己位置推定手段、20 誤差修正手段、22 記憶手段、24 位置設定手段、26 通信手段、28 信号ケーブル、30 ブイ本体、32 通信手段、40 艇体、42 測位手段、44 位置設定手段、46 画像表示手段、48 操作手段、50 連係手段、52 通信手段、100 水中航走体、102 撮像範囲(カメラ視野)、200 中継ブイ(ブイ手段)、300 基地船、302 監視手段、400 目標物、402 目標物領域。